タイトル: | 特許公報(B2)_ハードバターの製造方法 |
出願番号: | 2009531303 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | A23D 9/00,C12P 7/64 |
有本 真 上原 秀隆 菅沼 智巳 土屋 欣也 根岸 聡 JP 5186505 特許公報(B2) 20130125 2009531303 20080908 ハードバターの製造方法 日清オイリオグループ株式会社 000227009 辻居 幸一 100092093 熊倉 禎男 100082005 小川 信夫 100084009 箱田 篤 100084663 浅井 賢治 100093300 山崎 一夫 100119013 有本 真 上原 秀隆 菅沼 智巳 土屋 欣也 根岸 聡 JP 2007232566 20070907 JP 2008061052 20080311 20130417 A23D 9/00 20060101AFI20130328BHJP C12P 7/64 20060101ALN20130328BHJP JPA23D9/00 500C12P7/64 A23D 7/00-9/06 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) CAplus(STN) 特開昭62−061589(JP,A) 特開平11−246893(JP,A) 10 JP2008066172 20080908 WO2009031679 20090312 20 20110413 渡邉 潤也 本発明は、1,3位に炭素数16〜22の飽和脂肪酸残基、2位にオレオイル基を有するトリグリセリド(FMSOFMS)の製造方法、特にカカオ脂の代用脂(CBE)として優れるハードバターの製造方法に関するものである。本発明は、又、1,3位に炭素数16〜22の飽和脂肪酸残基、2位にリノロイル基(リノール酸残基)を有するトリグリセリド(FMSLFMS)の製造方法、特にチョコレートの硬度調整剤として優れるハードバターの製造方法に関するものである。(発明の背景) カカオ脂をはじめとするハードバターは、チョコレートを主とした製菓、製パンなどの食品および医薬品、化粧品などに広く用いられている。これらのハードバターは、1,3−ジパルミトイル−2−オレオイルグリセリン(POP)、2位にオレオイル基を有しパルミトイル基とステアロイル基を各1基づつ有するトリグリセリド(POS)及び1,3−ジステアロイル−2−オレオイルグリセリン(SOS)などの分子内に1つの不飽和結合を有するトリグリセリド類(FMSOFMS)を主成分としている。又、チョコレートの硬度調整剤として優れる1,3−ジステアロイル−2−リノロイルグリセリン(SLS)などの分子内に2つの不飽和結合を有するトリグリセリド類も知られている。 一般的に、このようなトリグリセリドは、この成分を含む天然の油脂、例えばパーム油、シア脂、サル脂、イリッペ脂などの油脂またはその分画油として得ることができる。これらのうち、POPに富む油脂としてはパーム油が、POSに富む油脂としてはイリッペ脂が、SOSに富む油脂としてはシア脂、サル脂などが用いられる。カカオ脂代用脂などのハードバターとしてはこれらをそのままもしくは適宜配合して用いられるのが一般的である。しかしながら、シア脂、サル脂、イリッペ脂などは野生種であるため、天候などによって、その収穫量や価格が大きく変動し、最悪の場合には必要量が確保できないとの問題がある。 そこで、上記トリグリセドを、パーム油、シア脂、サル脂、イリッペ脂などの油脂の分画油としてではなくて、特定の油脂に1,3選択性リパーゼを作用させ、エステル交換反応を利用して製造する方法が提案されている(特許文献1〜5)。これらの文献には、1,3選択性リパーゼとして、リゾプス系リパーゼ、アスペルギルス系リパーゼ、ムコール系リパーゼ、パンクレアチックリパーゼ、米ヌカリパーゼを用いることが記載されている。 また、一般的に上記のようなエステル交換反応の場合、反応後の脂肪酸を回収して、水素添加して再利用される。この場合、POSのような1,3位が異なるトリグリセリドを製造する目的で複数種類の脂肪酸を原料に使用する場合、回収した脂肪酸原料の組成をリバランスするために、回収脂肪酸原料を分析し、不足する脂肪酸原料を加える工程が必要となる。 しかしながら、より効率的で、より工業的に適したカカオ脂代用ハードバターの製造方法が望まれている。特開昭55−071797特公平03−069516特公平06−009465WO96/10643WO03/000832 本発明は、カカオ脂の代用脂として優れた特性を有するハードバターの工業的に適した製造方法を提供することを目的とする。 本発明は、カカオ脂の代用脂として優れた特性を有するハードバターの工業的に適した製造方法を提供するに当り、さらに、反応の選択性と反応効率が向上した製造方法を提供することを目的とする。 本発明は、又、カカオ脂の代用脂として優れた特性を有するハードバターの工業的に適した製造方法であって、脂肪酸原料のリバランスを行わない簡便な製造方法を提供することを目的とする。 本発明は、炭素数16〜22の直鎖飽和脂肪酸及びその低級アルコールエステルから選ばれる1種以上と2位にオレオイル基及び/又はリノロイル基を有するトリグリセリドを、特定のリパーゼを蛋白質を含有する特定の材料で造粒してなる造粒粉末リパーゼの作用を利用してエステル交換反応に供すると、上記課題を解決できるとの知見に基づいてなされたのである。 すなわち、本発明は、炭素数16〜22の直鎖飽和脂肪酸及びその低級アルコールエステルから選ばれる1種以上と2位にオレオイル基及び/又はリノロイル基を有するトリグリセリドに、Rhizopus oryzae由来及び/又はRhizopus delemar由来のリパーゼと大豆粉末とを含有する造粒粉末リパーゼを作用させてエステル交換反応を行い、反応後、粉末リパーゼを除去することを特徴とするハードバターの製造方法を提供する。 本発明は、又、1位と3位が異なる直鎖飽和脂肪酸であるトリグリセリドの製造方法を提供する。また、その製造方法において、直鎖飽和脂肪酸及びその低級アルコールエステルの炭素数16、18、20,22の脂肪酸毎の質量百分率の値と2位にオレオイル基及び/又はリノロイル基を有するトリグリセリドの1及び3位の炭素数16、18、20、22の脂肪酸残基毎の質量百分率の値の乖離が10%以内であることで、回収して使用する原料脂肪酸及びその低級アルコールエステルのリバランスを不要とする製造方法を提供する。 本発明によれば、ステアリン酸又は、ステアリン酸の低級アルコールエステルを用いると、簡易にかつ効率的に、SOS及び/又はSLSに富む油脂を得ることができる。また、ベヘン酸又は、ベヘン酸の低級アルコールエステルを用いると、1,3−ベヘニル−2−オレオイルグリセリン(BOB)及び/又は1,3−ベヘニル−2−リノロイルグリセリン(BLB)に富んだ油脂を得ることができる。同様に、ステアリン酸とパルミチン酸の混合物又は、ステアリン酸の低級アルコールエステルとパルミチン酸の低級アルコールエステルの混合物を用いると、製造が困難なPOS及び/又はPLSに富む油脂を得ることができる。又、パルミチン酸の低級アルコールエステルを用いるとPOP及び/又はPLPに富む油脂を得ることができるので、これらのようにして得られた、SOSに富む油脂、BOBに富む油脂、POSに富む油脂、POPに富む油脂、SLSに富む油脂、BLBに富む油脂、PLSに富む油脂、及びPLPに富む油脂をそれぞれ単独で、又は所望の比率で混合して、カカオ脂に近い性能のカカオ脂代用ハードバターを得ることや、カカオ脂とは違った新しい特性のカカオ脂代用ハードバターを得ることができる。このようなハードバターは、特に、カカオ脂及び甘味料と組み合わせることによって、優れたチョコレート製品を提供することができる。 本発明によれば、1位と3位が異なる直鎖飽和脂肪酸基であるトリグリセリドを製造する場合、回収して使用する原料脂肪酸及びその低級アルコールエステルのリバランスを不要とすることができ、簡便な製造方法となり、また、回収した脂肪酸及びその低級アルコールエステル中の特定の脂肪酸が過剰とならないため、回収した脂肪酸及びその低級アルコールエステルの一部を廃棄せずに使用することができるために原料効率のよい製造方法を提供することができる。 本発明でハードバターを製造するために用いる原料油脂としては、2位にオレオイル基及び/又はリノロイル基を有するトリグリセリド又はこれに富む油脂が好ましいものとしてあげられる。特に、SOOやPOOのように1位及び3位に導入する飽和脂肪酸基を1位又は3位のいずれか1方にあらかじめ有するトリグリセリドを一定量(好ましくは1〜70質量%)含む油脂が、後述する飽和脂肪酸又は飽和脂肪酸の低級アルコールエステルの必要量が少なくてすむため好ましい。具体的に、2位にオレオイル基を有するトリグリセリド又は油脂として、1,3−ジラウロイル−2−オレオイルグリセリン、1,3−ジミリストイル−2−オレオイルグリセリン、トリオレオイルグリセリン、シア脂低融点部分(例えば、ヨウ素価70〜80)、ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイック紅花油、ハイオレイックローリノレン菜種油、パーム油、パーム分画油、これらの混合油などがあげられる。また、2位にリノロイル基を有する油脂としてハイリノールサフラワー油、大豆油、グレープシードオイルなどがあげられる。 これらのうち、上記シア脂低融点部分、ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイックローリノレン菜種油、パーム油、パーム分画油が好ましい。特に、SOSに富んだハードバターを製造するには、シア脂低融点部分やハイオレイックヒマワリ油を用いるのが好ましく、POSに富んだハードバターを製造するには、パーム分画油、特にパーム油を2回分画して得たPOP及びPOOの合計含有量が40質量%以上(好ましくは95質量%以下)であるパーム分画油を用いるのが好ましい。また、PLPに富んだハードバターやSLSに富んだハードバターを製造するには、ハイリノールサフラワー油が好ましい。 炭素数16から22の飽和脂肪酸としては、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘン酸が好ましい。 炭素数16から22の飽和脂肪酸の低級アルコールエステルにおける低級アルコールとしては、炭素数1〜6のアルコールであるのが好ましく、特に、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールが好ましく、このなかでもエタノールが好ましい。 2位にオレオイル基を有するトリグリセリド対炭素数16から22の飽和脂肪酸及び/又はその低級アルコールエステルの使用比率(モル比)は、1/2以下であるのが好ましく、特に、1/2〜1/30であるのが好ましい。 本発明では、炭素数16〜22の直鎖飽和脂肪酸及びその低級アルコールエステルから選ばれる1種以上のものとして、ステアリン酸及び/又はその低級アルコールエステルを用いて、1,3−ジステアロイル−2−オレオイルグリセリン(SOS)及び/又は1,3−ジステアロイル−2−リノロイルグリセリン(SLS)に富んだハードバターを製造するのが好ましい。又、ステアリン酸及び/又はその低級アルコールエステルの代わりに、パルミチン酸又はその低級アルコールエステルを用いて、1,3−ジパルミトイル−2−オレオイルグリセリン(POP)及び/又は1,3−ジパルミトイル−2−リノロイルグリセリン(PLP)に富んだハードバターを製造するのも好ましい。又、ベヘン酸又はその低級アルコールエステルを用いて、1,3−ジベヘニル−2−オレオイルグリセリン(BOB)及び/又は1,3−ジベヘニル−2−リノロイルグリセリン(BLB)に富んだハードバターを製造するのも好ましい。 本発明では、さらに、炭素数16〜22の直鎖飽和脂肪酸及びその低級アルコールエステルから選ばれる1種以上のものとして、パルミチン酸又はその低級アルコールエステルとステアリン酸又はその低級アルコールエステルとの混合物を用い、2位にオレオイル基及び/又はリノロイル基を有しパルミトイル基とステアロイル基を各1基づつ有するトリグリセリド(POS及び/又はPLS)に富んだハードバターを製造するのが好ましい。 本発明では、同様に、炭素数16〜22の直鎖飽和脂肪酸及びその低級アルコールエステルから選ばれる1種以上のものとして、ベヘン酸又はその低級アルコールエステルとパルミチン酸又はその低級アルコールエステルとの混合物を用い、2位にオレオイル基及び/又はリノロイル基を有しベヘニル基とパルミトイル基を各1基づつ有するトリグリセリド(BOP及び/又はBLP)に富んだハードバターを製造するのが好ましい。 また、炭素数16〜22の直鎖飽和脂肪酸及びその低級アルコールエステルから選ばれる1種以上のものとして、ベヘン酸又はその低級アルコールエステルとステアリン酸又はその低級アルコールエステルとの混合物を用い、2位にオレオイル基及び/又はリノロイル基を有しベヘニル基とステアロイル基を各1基づつ有するトリグリセリド(BOS及び/又はBLS)に富んだハードバターを製造するのが好ましい。 ここで、「SOS及び/又はSLSに富んだハードバター」とは、ハードバターを構成する全トリグリセド種中で、1,3−ジステアロイル−2−オレオイルグリセリン及び/又は1,3−ジステアロイル−2−リノロイルグリセリンを10質量%以上含むことをいい、好ましくは一番多い量のトリグリセド種がSOS及び/又はSLSにであることをいう。ここで上限は、90質量%であるのが好ましい。「POS及び/又はPLSに富んだ」とは、ハードバターを構成する全トリグリセド種中で、POS及び/又はPLSを10質量%以上含むことをいい、好ましくは一番多い量のトリグリセド種が、POS及び/又はPLSであることをいう。ここで上限は、90質量%であるのが好ましい。 本発明では、炭素数16〜22の直鎖飽和脂肪酸及びその低級アルコールエステルが炭素数が異なる2種類以上の脂肪酸を使用するエステル交換において、その比率を変えることでPOP及び/又はPLPのような対称型の2位にオレオイル基及び/又はリノロイル基を有するトリグリセリドとPOS及び/又はPLSのような非対称型の2位にオレオイル基及び/又はリノロイル基を有するトリグリセリドの割合を変化させることができる。一方、本発明では、エステル交換後に反応系中に残存する脂肪酸及びその低級アルコールエステルを必要に応じて水素添加して再利用できる。 再利用する場合、再利用する脂肪酸およびその低級アルコールエステルの脂肪酸組成と2位にオレオイル基を有するトリグリセリドの1,3位の脂肪酸組成が同じであると脂肪酸のリバランスが不要になる利点がある。直鎖飽和脂肪酸及びその低級アルコールエステルの炭素数16、18、20,22の脂肪酸毎の質量百分率の値と2位にオレオイル基を有するトリグリセリドの1及び3位の炭素数16、18、20、22の脂肪酸残基毎の質量百分率の値の乖離が10%以内であることが好ましい。さらに、乖離が5%以内であることがより好ましく、乖離が3%以内が最も好ましい。例えば、1位及び3位の炭素数16の脂肪酸が50質量%で炭素数18の脂肪酸が50質量%のパーム分別油とパルミチン酸エチルエステル、ステアリン酸エチルエステルをエステル交換する場合は、使用するパルミチン酸エチルエステル35〜65質量%とステアリン酸エチルエステル65〜35質量%の混合物を用いるのが好ましい。 本発明で用いるリパーゼとしては、リゾプス属のリゾプス デレマー(Rhizopus delemar)及びリゾプス オリザエ(Rhizopus oryzae)が使用できる。1,3-特異性リパーゼであるのが好ましい。 これらのリパーゼとしては、ロビン社の商品:ピカンターゼR8000や、天野エンザイム社の商品:リパーゼF−AP15等が挙げられるが、最も適したリパーゼとしては Rhizopus oryzae由来、天野エンザイム社の商品:リパーゼDF“Amano”15−K(リパーゼDともいう)が挙げられる。このものは粉末リパーゼである。なお、このリパーゼDF“Amano”15−Kについては、従来Rhizopus delemar由来の表記であった。 本発明で使用するリパーゼとしては、リパーゼの培地成分等を含有したリパーゼ含有水溶液を乾燥して得られたものでもよい。本発明では、粉末リパーゼとしては、球状で、水分含量が10質量%以下であるものを用いるのが好ましい。特に、リパーゼ粉末の90質量%以上が粒径1〜100μmであるのが好ましい。又、pHが6〜7.5に調整されてなるリパーゼ含有水溶液を噴霧乾燥して製造されるものが好ましい。 本発明では、大豆粉末を用いて上記リパーゼを造粒し、粉末化した造粒粉末リパーゼ(粉末リパーゼともいう)を用いる。 ここで、大豆粉末としては、脂肪含有量が5質量%以上である大豆粉末を用いるのが好ましい。脂肪含有量が5質量%以上である大豆粉末としては、脂肪含有量が10質量%以上であるのが好ましく、さらに15質量%以上であるのが好ましく、一方、25質量%以下であるのが好ましい。特に脂肪含有量が18〜23質量%である大豆粉末が好ましい。 ここで、脂肪としては脂肪酸トリグリセリド及びその類縁体があげられる。大豆の脂肪含量は、ソックスレー抽出法などの方法により容易に測定することができる。 本発明では、このような大豆粉末として、全脂大豆粉を用いることができる。また大豆粉末の原料として豆乳を用いることもできる。大豆粉末は、大豆を常法により粉砕して製造することができ、その粒径は0.1〜600μm程度であるのが好ましい。粒径は、粉末リパーゼの粒径の測定方法と同様の方法により測定することができる。 リパーゼに対する大豆粉末の使用量は、質量基準で0.1〜200倍の量であるのが好ましく、0.1〜20倍の量であるのがより好ましく、0.1〜10倍の量が最も好ましい。 本発明で用いる粉末リパーゼは、水分含量が10質量%以下であるのが好ましく、特に、1〜8質量%であるのが好ましい。 本発明で用いる粉末リパーゼの粒径は任意とすることができるが、粉末リパーゼの90質量%以上が粒径1〜100μmであるのが好ましい。平均粒径は10〜80μmが好ましい。又、粉末リパーゼの形状は球状であるのが好ましい。 粉末リパーゼの粒径は、例えば、HORIBA社の粒度分布測定装置(LA−500)を用いて測定することができる。 本発明で用いる粉末リパーゼは、リパーゼ及び大豆粉末を溶解・分散させた水溶液を、スプレードライ、フリーズドライ、及び溶剤沈澱・乾燥の中から選ばれるいずれか1種の乾燥方法で乾燥し、製造することができる。 ここで、リパーゼ及び大豆粉末を溶解・分散させた水溶液は、リパーゼ粉末と大豆粉末を水に溶解・分散させたり、大豆粉末が溶解・分散した水溶液にリパーゼ粉末を混合したり、又は、後に説明するリパーゼ含有水溶液に大豆粉末を混合することにより得ることができる。 リパーゼ及び大豆粉末を溶解・分散させた水溶液を乾燥させる過程では、リパーゼ及び/又は大豆粉末の粒子が凝集して、リパーゼ及び大豆粉末を含有する造粒物が形成される。この造粒物は、リパーゼの培地成分を含んでいてもよい。 このようにして調製した粉末リパーゼは、そのままエステル交換に使用することができる。 リパーゼ及び大豆粉末を溶解・分散させた水溶液中の水の量は、リパーゼ及び大豆粉末との合計質量に対して水の質量を調整する。具体的には、リパーゼ及び大豆粉末との合計質量に対する水の質量が、0.5〜1,000倍であるのが好ましく、1.0〜500倍であるのがより好ましく、3.0〜100倍が最も好ましい。 特に、スプレードライにより粉末リパーゼを製造する場合は、装置の特性からリパーゼ及び大豆粉末との合計質量に対する水の質量が、2.0〜1,000倍であるのが好ましく、2.0〜500倍であるのがより好ましく、3.0〜100倍が最も好ましい。 なお、リパーゼ含有水溶液を原料として使用する場合で、リパーゼ含有水溶液中のリパーゼ含量が不明な時は、フリーズドライ、その他の減圧乾燥によりリパーゼ含有水溶液を粉末化してリパーゼ含量を求め、リパーゼ質量を算出することができる。 ここで、リパーゼ含有水溶液としては、菌体を除去したリパーゼ培養液、精製培養液、これらから得たリパーゼを再度水に溶解・分散させたもの、市販の粉末リパーゼを再度水に溶解・分散させたもの、市販の液状リパーゼ等が挙げられる。さらに、リパーゼ活性をより高めるために塩類等の低分子成分を除去したものがより好ましく、また、粉末性状をより高めるために糖等の低分子成分を除去したものがより好ましい。 リパーゼ培養液としては、例えば、大豆粉、ペプトン、コーン・ステープ・リカー、K2HPO4、(NH4)2SO4、MgSO4・7H2O等含有する水溶液があげられる。これらの濃度としては、大豆粉0.1〜20質量%、好ましくは1.0〜10質量%、ペプトン0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜10質量%、コーン・ステープ・リカー0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜10質量%、K2HPO4 0.01〜20質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。又、(NH4)2SO4は0.01〜20質量%、好ましくは0.05〜5質量%、MgSO4・7H2Oは0.01〜20質量%、好ましくは0.05〜5質量%である。培養条件は、培養温度は10〜40℃、好ましくは20〜35℃、通気量は0.1〜2.0VVM、好ましくは0.1〜1.5VVM、攪拌回転数は100〜800rpm、好ましくは200〜400rpm、pHは3.0〜10.0、好ましくは4.0〜9.5に制御するのがよい。 菌体の分離は、遠心分離、膜濾過などで行うのが好ましい。また、塩類や糖等の低分子成分の除去は、UF膜処理により行うことができる。具体的には、UF膜処理を行い、リパーゼを含有する水溶液を1/2量の体積に濃縮後、濃縮液と同量のリン酸バッファーを添加するという操作を1〜5回繰り返すことにより、低分子成分を除去したリパーゼ含有水溶液を得ることができる。 遠心分離は200〜20,000×g、膜濾過はMF膜、フィルタープレスなどで圧力を3.0kg/m2以下にコントロールするのが好ましい。菌体内酵素の場合は、ホモジナイザー、ワーリングブレンダー、超音波破砕、フレンチプレス、ボールミル等で細胞破砕し、遠心分離、膜濾過などで細胞残さを除去することが好ましい。ホモジナイザーの攪拌回転数は500〜30,000rpm、好ましくは1,000〜15,000rpm、ワーリングブレンダーの回転数は500〜10,000rpm、好ましくは1,000〜5,000rpmである。攪拌時間は0.5〜10分、好ましくは1〜5分がよい。超音波破砕は1〜50kHz、好ましくは10〜20kHzの条件で行うのが良い。ボールミルは直径0.1〜0.5mm程度のガラス製小球を用いるのがよい。 乾燥工程前の途中の工程において、リパーゼ含有水溶液を濃縮してもよい。濃縮方法は、特に限定されるものではないが、エバポレーター、フラッシュエバポレーター、UF膜濃縮、MF膜濃縮、無機塩類による塩析、溶剤による沈殿法、イオン交換セルロース等による吸着法、吸水性ゲルによる吸水法等があげられる。好ましくはUF膜濃縮、エバポレーターがよい。UF膜濃縮用モジュールとしては、分画分子量3,000〜100,000、好ましくは6,000〜50,000の平膜または中空糸膜、材質はポリアクリルニトリル系、ポリスルフォン系などが好ましい。 次に、リパーゼ及び大豆粉末を溶解・分散させた水溶液を乾燥する方法であるスプレードライ、フリーズドライ、又は溶剤沈澱・乾燥について説明する。 スプレードライは、例えば、ノズル向流式、デイスク向流式、ノズル並流式、デイスク並流式等の噴霧乾燥機を用いて行うのがよい。好ましくはデイスク並流式が良く、アトマイザー回転数は4,000〜20,000rpm、加熱は入口温度100〜200℃、出口温度40〜100℃で制御してスプレードライするのが好ましい。特に、リパーゼと大豆粉末を含有する水溶液の温度を20〜40℃に調整し、次いで70℃〜130℃の乾燥雰囲気内に噴霧するのが好ましい。又、乾燥前に水溶液のpHを7.5〜8.5に調整しておくのが好ましい。 フリーズドライ(凍結乾燥)は、例えば、ラボサイズの少量用凍結乾燥機、棚段式凍結乾燥により行うのが好ましい。さらに、減圧乾燥により調製することもできる。 溶剤沈殿・乾燥は、リパーゼ及び大豆粉末を溶解・分散させた水溶液を、使用する溶剤に徐々に添加して沈殿物を生成させ、得られた沈殿物を遠心分離機を用いて遠心分離を行って沈殿を回収した後、減圧乾燥する。一連の操作は、粉末リパーゼの変性・劣化を防止するために、室温以下の低温条件下で行うのが好ましい。 溶剤沈澱で用いる溶剤として、例えば、エタノール、アセトン、メタノール、イソプロピルアルコール、及びヘキサン等の水溶性溶剤又は親水性溶剤が挙げられ、これらの混合溶剤も使用することができる。その中でも粉末リパーゼの活性をより高めるために、エタノール又はアセトンを用いることが好ましい。 使用する溶剤の量は特に限定されないが、リパーゼ及び大豆粉末を溶解・分散させた水溶液の体積に対し、1〜100倍の体積の溶剤を使用するのが好ましく、2〜10倍の体積の溶剤を使用するのがより好ましい。 また、溶剤沈澱した後、沈殿物は静置後に濾過により得ることができるが、1,000〜3,000×g程度の軽度な遠心分離により得ることもできる。得られた沈殿物の乾燥は、例えば、減圧乾燥により行うことができる。 本発明では、粉末リパーゼを製造する過程で、脂肪酸エステル及び/又は脂肪酸をさらに添加してもよい。具体的には、リパーゼ及び大豆粉末を溶解・分散させた水溶液に、脂肪酸エステル及び/又は脂肪酸を接触させた後、乾燥することにより得ることができる。 このような脂肪酸エステル及び/又は脂肪酸の接触を行うことにより、リパーゼ活性及び安定性をより向上させることができる。 使用する脂肪酸エステルとしては、モノアルコール又は多価アルコールと脂肪酸との脂肪酸エステルが挙げられる。多価アルコールの脂肪酸エステルは、部分エステルでも良く、フルエステルでも良い。 ここで、モノアルコールとしてはアルキルモノアルコール、フィトステロール等のステロール類が挙げられる。アルキルモノアルコールを構成するアルキル部分は、炭素数が6〜12の中鎖アルキル又は炭素数が13〜22の長鎖アルキルであるのが好ましく、飽和でも不飽和でもよく、直鎖でも分岐鎖でもよい。フィトステロールとしては、例えばシトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、フコステロール、スピナステロール、ブラシカステロール等が好ましい。また、多価アルコールとしては、グリセリン、ジグリセリンやデカグリセリン等のグリセリン縮合物、プロピレングリコール等のグリコール類、ソルビトール等が挙げられる。 使用する脂肪酸エステルの構成脂肪酸、及び使用する脂肪酸は、特に限定されないが、油脂由来の脂肪酸であることが好ましい。例えば、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ウンデカン酸等の炭素数が6〜12の中鎖脂肪酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、エルシン酸等の炭素数が13〜22の長鎖不飽和脂肪酸が挙げられる。 その他、テトラデカン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、エイコサン酸、ドコサン酸等の長鎖飽和脂肪酸も挙げられる。 使用する脂肪酸エステルとしては、油脂、油脂由来の脂肪酸を構成成分とするジグリセリド、モノグリセリドから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。また、脂肪酸エステルの一部を加水分解することにより得られる、部分エステルと脂肪酸の混合物を使用することもできる。 なお、粉末リパーゼに使用する脂肪酸エステル及び脂肪酸は、粉末リパーゼを用いて行うエステル交換やエステル化に使用する原料と同じものを選択するのが好ましい。 ここで、脂肪酸エステルとして使用する油脂は、特に限定されないが、加水分解反応及びエステル化反応を行うことで粉末リパーゼを製造する場合は、反応温度において液体の油脂を使用することが好ましい。 油脂として、例えば、菜種油、ひまわり油、オリーブ油、コーン油、ヤシ油、ゴマ油、紅花油、大豆油、それらのハイオレイン品種の油脂、綿実油、米油、アマニ油、パーム油、パーム油の分別油、パーム核油、つばき油、カカオ脂、シア脂、シア脂の分別脂、サル脂、サル脂の分別脂、及びイリッペ脂等などの植物性油脂、トリオレイン(トリオレイン酸グリセリド)、トリカプリリン(トリオクタン酸グリセリド)、トリアセチン(トリ酢酸グリセリド)、トリブチリン(トリブタン酸グリセリド)などのトリグリセリド(合成油脂)、魚油、牛脂、ラード等の動物性油脂といった油脂の1種又は2種以上の混合物があげられる。これらの中でも植物性油脂が好ましい。 脂肪酸エステル、又は脂肪酸エステルと脂肪酸を原料として使用する場合、リパーゼ及び大豆粉末を溶解・分散させた水溶液に、脂肪酸エステル、又は脂肪酸エステルと脂肪酸を添加して接触させ、スターラーやスリーワンモーター等で均一に攪拌して加水分解及び/又は乳化・分散させた後に、スプレードライ、フリーズドライ又は溶剤沈殿・乾燥から選ばれる1種の乾燥方法で乾燥することで、粉末リパーゼを製造することができる。 ここで、乾燥を、エステル化反応を伴う脱水により行うこともできる。すなわち、加水分解及び/又は乳化・分散させた後、続いて脱水しながらエステル化反応を行い、必要に応じて未反応物等の油分を濾過することにより、粉末リパーゼを製造することができる。 粉末リパーゼの製造に使用する脂肪酸エステル及び/又は脂肪酸の添加量は、リパーゼ及び大豆粉末の合計質量に対して0.1〜500倍の質量であるのが好ましく、0.2〜100倍の質量であるのがより好ましく、0.3〜50倍の質量が最も好ましい。 ただし、スプレードライを使って粉末リパーゼを製造する場合、使用する脂肪酸エステル及び/又は脂肪酸の添加量は、リパーゼ及び大豆粉末の合計質量に対して0.1〜10倍の質量であるのが好ましく、0.2〜10倍の質量であるのがより好ましく、0.3〜10倍の質量が最も好ましい。 スプレードライを使用する場合、脂肪酸エステル及び/又は脂肪酸の添加量が多くなると、水分の蒸発が不完全になったり、得られる粉末リパーゼが過剰な脂肪酸エステル及び/又は脂肪酸により回収しにくくなる等の問題が発生するからである。 スプレードライの装置の改良や回収形態の変更により、使用する脂肪酸エステル及び/又は脂肪酸の添加量の上限値を高くすることもできるが、必要以上に脂肪酸エステル及び/又は脂肪酸を含有すると濾過等の工程が必要となる。 脂肪酸エステル及び/又は脂肪酸を含有する粉末リパーゼを、溶剤沈殿を用いて製造する場合、使用する溶剤の量は、脂肪酸エステル及び/又は脂肪酸と、リパーゼ及び大豆粉末を溶解・分散させた水溶液とを合計した全質量の値に対し、1〜100倍の値の体積の溶剤を使用するのが好ましく、2〜10倍の体積の溶剤を使用するのがより好ましい。 溶剤沈殿を行う前に、後に説明する濾過助剤を添加した場合には、更に濾過助剤を加えた質量を全質量として、溶剤を使用する。 粉末リパーゼの製造工程には、更に、濾過助剤を添加する工程を含むことができる。 使用できる濾過助剤としては、シリカゲル、セライト、セルロース、でんぷん、デキストリン、活性炭、活性白土、カオリン、ベントナイト、タルク、砂等があげられる。このうち、シリカゲル、セライト、セルロースが好ましい。濾過助剤の粒径は任意でよいが、1〜100μmが好ましく、5〜50μmが特に好ましい。 エステル交換反応前後又は反応中に使用できる濾過助剤は、リパーゼ及び大豆粉末の合計質量に対し1〜500質量%の量を添加することが好ましく、10〜200質量%の量を添加することがさらに好ましい。この範囲の量を使用すると、濾過時の負担がより小さくなり、大規模な濾過設備や高度な遠心分離等の濾過前処理を必要としないからである。 また、粉末リパーゼ中に濾過助剤を含有させることもできる。スプレードライ又はフリーズドライにより乾燥を行って粉末リパーゼを得る場合には、乾燥の前又は後のどちらで濾過助剤を添加してもよい。 溶剤沈殿後に乾燥させる方法によって乾燥を行う場合には、乾燥して得られた粉末リパーゼへ濾過助剤を添加するのが好ましい。 得られた粉末リパーゼに含有させる濾過助剤の量は、リパーゼと大豆粉末の合計質量を基準として1〜500質量%とすることができ、10〜200質量%であることがさらに好ましい。 本発明では、2位にオレオイル基を有するトリグリセリドと炭素数16から22の飽和脂肪酸及び/又はその低級アルコールエステルを含有する原料に、上記粉末リパーゼを添加して、常法でエステル交換反応を行う。この場合、原料100質量部当り、粉末リパーゼを0.01〜10質量部(好ましくは0.01〜2質量部、より好ましくは0.1〜1.5質量部)添加し、30〜100℃の温度(好ましくは35〜80℃、より好ましくは40〜60℃)で、0.1〜50時間(好ましくは0.5〜30時間、より好ましくは1〜20時間)エステル交換反応を行うのが好ましい。反応はバッチ式で行うのが好ましい。反応温度は反応基質である油脂が溶解する温度で酵素活性を有する温度であれば何度でもかまわない。最適な反応時間は、酵素添加量、反応温度などにより変化する。 エステル交換反応後、脂肪酸及び/又はその低級アルコールエステルを除去するのが好ましい。除去の方法はどんな方法を用いてもかまわないが、蒸留法を用いるのが好ましい。 エステル交換反応後、または脂肪酸及び/又はその低級アルコールエステル除去後、通常の分別工程を行うのが好ましい。分別には、溶剤をもちいても用いなくてもかまわない。溶剤分別で使用する溶剤としては、アセトン、ヘキサン、エタノール、含水エタノールなどが上げられるが、アセトン、ヘキサンが好ましい。ここで、エステル交換反応物100質量部当り、溶剤を50〜1000質量部添加し、分別を行なうのが好ましい。 このようにハードバターが得られるが、必要に応じて、脱溶剤、脂肪酸除去、脂肪酸低級アルコールエステル除去、脱色、脱臭等の通常の油脂の精製を行ってもよい。 チョコレート製品は、上記のハードバターとカカオ脂とを混合した油脂成分および糖成分とからなる。上記ハードバターは油脂成分中に10質量%以上、好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上含まれていることが好ましい。糖は通常チョコレートに使用されるものであれば何でもかまわない。例えば、ショ糖、果糖、あるいはこれらの混合物をあげることができる。ソルビトールなどの糖アルコールを用いても良い。また、通常のチョコレート製品に含まれる任意の成分についても含ませることができる。これらの例としては、乳化剤(通常レシチン)、香料、脱脂粉乳、全脂粉乳などがあげられる。 次に本発明を実施例により詳細に説明する。製造例1(粉末リパーゼ組成物1の調製) 天野エンザイム社の商品:リパーゼDF“Amano”15−K(リパーゼDともいう)の酵素溶液(150000U/ml)に、予めオートクレーブ滅菌(121℃、15分)を行い、室温程度に冷やした脱臭全脂大豆粉末(脂肪含有量が23質量%、商品名:アルファプラスHS-600、日清コスモフーズ(株)社製)10%水溶液を攪拌しながら3倍量加え、0.5N NaOH溶液でph7.8に調整後、噴霧乾燥(東京理科器械(株)社、SD-1000型)を行い、粉末リパーゼ組成物1(90質量%以上が粒径1〜100μmである)を得た。実施例1 シア脂低融点部分(商品名:Lipex205、Aarhuskarlsham社製)10g、ステアリン酸エチルエステル(商品名:エチルステアレート、(株)井上香料製造所製)10gを混合し、粉末リパーゼ組成物1を0.5質量%添加し、60℃で4時間攪拌反応した。ろ過処理により酵素粉末を除去し、反応物1を18.0g得た。比較例1 シア脂低融点部分(商品名:Lipex205、Aarhuskarlsham社製)10g、ステアリン酸エチルエステル(商品名:エチルステアレート、(株)井上香料製造所製)10gを混合し、ノボザイムズA/S社製リポザイムRM-IM(ムコール・ミーハイ由来の固定化リパーゼ)を15.0質量%添加し、60℃で4時間攪拌反応した。ろ過処理により固定化酵素を除去し、反応物2を18.0g得た。 反応物1及び2のTAG組成を、GLC法により分析した(以下、同じ)。またXOX/(XXO+OXX)は銀の付いた陽イオン交換基を結合したカラムを使用したHPLC法により分析した。結果を表1に示す。表1 TAG組成注1)TAG組成は、全トリグリセリド中の各トリグリセリドの組成を示す。XOX/(XXO+OXX)は、2つの飽和脂肪酸残基および1つのオレオイル基を有するトリグリセリドの内、1位及び3位に飽和脂肪酸残基を有するトリグリセリドと2位に飽和脂肪酸残基を有するトリグリセリドの比である。P:パルミチン酸残基、S:ステアリン酸残基、O:オレイン酸残基、L:リノール酸残基、tr:微量(trace) この結果から、本発明によればXOX/(XXO+OXX)がシア脂低融点部分以上であり、また、一般的な固定化酵素であるリポザイムRM-IM(比較例1)と比較して粉末リパーゼ組成物1は、反応の選択性と反応効率が向上することがわかる。実施例2 ハイオレイックヒマワリ油(商品名:オレインリッチ、昭和産業(株)製)8g、ステアリン酸エチルエステル(商品名:エチルステアレート、(株)井上香料製造所製)12gを混合し、粉末リパーゼ組成物1を0.5質量%添加し、40℃で7時間攪拌反応した。ろ過処理により酵素粉末を除去し、反応物3を19g得た。比較例2 ハイオレイックヒマワリ油(商品名:オレインリッチ、昭和産業(株)製)8g、ステアリン酸エチルエステル(商品名:エチルステアレート、(株)井上香料製造所製)12gを混合し、ノボザイムA/S社製リポザイムRM−IM(ムコール・ミーヘイ由来の固定化リパーゼ)を15.0質量%添加し、40℃で7時間攪拌反応した。ろ過処理により酵素粉末を除去し、反応物4を19g得た。表2 TAG組成結果注1)TAG組成は、全トリグリセリド中の各トリグリセリドの組成を示す。XOX/(XXO+OXX)は、2つの飽和脂肪酸残基および1つのオレオイル基を有するトリグリセリドの内、1位及び3位に飽和脂肪酸残基を有するトリグリセリドと2位に飽和脂肪酸残基を有するトリグリセリドの比である。P:パルミチン酸残基、S:ステアリン酸残基、O:オレイン酸残基、L:リノール酸残基、tr:微量(trace) この結果から、本発明によれば反応物のXOX/(XXO+OXX)及び使用酵素量と反応時間から、反応の選択性と反応効率が向上することがわかる。実施例3 ハイオレイックヒマワリ油(商品名:オレインリッチ、昭和産業(株)製)1200g、ステアリン酸エチルエステル(商品名:エチルステアレート、(株)井上香料製造所製)1800gを混合し、粉末リパーゼ組成物1を0.5質量%添加し、40℃で7時間攪拌反応した。ろ過処理により酵素粉末を除去し、反応物5を2978g得た。得られた反応物5、2978gを薄膜蒸留し、蒸留温度140℃にて反応物から留分5(1700g)と蒸留残渣5を1270g得た。蒸留残渣5の乾式分別を行い、固形部5(600g)と液状部5(600g)を得た。また、留分5(1700g)を常法により完全水素添加処理を行い、水素添加物5を1600g得た。「サイクル1回目」 ハイオレイックヒマワリ油(商品名:オレインリッチ、昭和産業(株)製)600g、上記で得た液状部5(600g)、水素添加物5(1200g)を混合し、粉末リパーゼ組成物1を0.5質量%添加し、40℃で7時間攪拌反応した。ろ過処理により酵素粉末を除去し、反応物6を2376g得た。得られた反応物6(2376g)を薄膜蒸留し、蒸留温度140℃にて反応物から留分6(1150g)と蒸留残渣6(1150g)を得た。蒸留残渣6の乾式分別を行い、固形部6(570g)と液状部6(570g)を得た。また、留分6(1150g)を常法により完全水素添加処理を行い、水素添加物6(1100g)を得た。「サイクル2回目」 ハイオレイックヒマワリ油(商品名:オレインリッチ、昭和産業(株)製)550g、上記で得た液状部6(550g)、水素添加物6(1100g)を混合し、粉末リパーゼ組成物1を0.5質量%添加し、40℃で7時間攪拌反応した。ろ過処理により酵素粉末を除去し、反応物7(2178g)を得た。得られた反応物7(2376g)を薄膜蒸留し、蒸留温度140℃にて反応物から留分7(1080g)と蒸留残渣7(1080g)を得た。蒸留残渣7の乾式分別を行い、固形部7(535g)と液状部7(535g)を得た。また、留分7(1080g)を常法により完全水素添加処理を行い、水素添加物7(1000g)を得た。 表3 TAG組成結果注1)TAG組成は、全トリグリセリド中の各トリグリセリドの組成を示す。XOX/(XXO+OXX)は、2つの飽和脂肪酸残基および1つのオレオイル基を有するトリグリセリドの内、1位及び3位に飽和脂肪酸残基を有するトリグリセリドと2位に飽和脂肪酸残基を有するトリグリセリドの比である。P:パルミチン酸残基、S:ステアリン酸残基、O:オレイン酸残基、L:リノール酸残基、tr:微量(trace)実施例4 ハイオレイックヒマワリ油(商品名:オレインリッチ、昭和産業(株)製)1200gに、ステアリン酸エチルエステル(商品名:エチルステアレート、(株)井上香料製造所製)1800gを混合し、粉末リパーゼ組成物1を0.5質量%添加し、40℃で7時間攪拌反応させた。ろ過処理により酵素粉末を除去し、反応物8(2987g)を得た。得られた反応物8(2900g)を薄膜蒸留を行い、蒸留温度140℃にて反応物より脂肪酸エチルエステルを除去し、蒸留残渣8(1100g)を得た。得られた蒸留残渣8(1000g)にヘキサン2000gを加え溶解した後、−10℃に冷却して得られた固形部をろ別した後、定法によりヘキサン除去及び精製を行い、ハードバター1(450g)を得た。表4 TAG組成注1)TAG組成は、全トリグリセリド中の各トリグリセリドの組成を示す。XOX/(XXO+OXX)は、2つの飽和脂肪酸残基および1つのオレオイル基を有するトリグリセリドの内、1位及び3位に飽和脂肪酸残基を有するトリグリセリドと2位に飽和脂肪酸残基を有するトリグリセリドの比である。P:パルミチン酸残基、S:ステアリン酸残基、O:オレイン酸残基、L:リノール酸残基、tr:微量(trace)実施例5 PL65(ISF社製)1200gに、ステアリン酸エチルエステル(商品名:エチルステアレート、(株)井上香料製造所製)1400gと、パルミチン酸エチルエステル(商品名:エチルパルミテート、(株)井上香料製造所製)1400gを混合して原料9を調製した。調製した原料9に、粉末リパーゼ組成物1を0.3質量%添加し、40℃で16時間攪拌反応させた。ろ過処理により酵素粉末を除去し、反応物9を3999g得た。得られた反応物9(3993g)を薄膜蒸留にかけ、蒸留温度140℃にて脂肪酸エチルエステルを留去し、蒸留残渣9を1316gと留分9を2656g得た。 得られた蒸留残渣9から、アセトンを5倍量(wt/wt)用いた溶剤分別法により、冷却温度20℃で高融点部を、冷却温度10℃で低融点部を除去した後、定法により精製(脱色、脱臭)を行い、ハードバター2(HB2)を391g得た。 原料のPL65と反応物9、蒸留残渣9、ハードバター2のTAG組成を表5に、PL65の脂肪酸組成(全、2位、1,3位)を表6に、原料9、反応物9、および留分9に含まれる脂肪酸エチルエステルの組成を表7に示す。脂肪酸の組成はGLC法により分析した。また、2位脂肪酸組成は1,3位特異的な酵素による加水分解反応を利用したGLC法により分析した。1,3位脂肪酸組成は全および2位脂肪酸組成の結果から計算により求めた。 酵素反応の前後で、炭素数16(C16)と炭素数18(C18)の脂肪酸エチルエステルの比率にほとんど変化は見られなかった。脂肪酸エチルエステルを用いた反応では、脂肪酸エチルエステルが非常に高価なため、繰返し利用することが望まれる。そのためには、反応の前後でC16とC18の比率が変化しないことが望ましい。原料のPL65の1,3位脂肪酸組成を見ると、C16とC18がほぼ等量含まれており、この組成と反応時に仕込む原料の脂肪酸エチルエステル組成が等しいことが望ましい。なお、オレイン酸(18:1)およびその低級アルコールエステルは、水素添加反応により簡便にステアリン酸(18:0)およびその低級アルコールエステルにすることができる。表5 TAG組成分析結果注1)TAG組成は、全トリグリセリド中の各トリグリセリドの組成を示す。P:パルミチン酸残基、S:ステアリン酸残基、O:オレイン酸残基、L:リノール酸残基、tr:微量(trace) 表6 PL65の脂肪酸組成分析結果 表7 原料9、反応物9、および留分9の脂肪酸エチルエステル組成分析結果実施例6 実施例5で得られた留分9を2600g測りとり、そこにニッケル触媒(商品名:SO−850、堺化学工業株式会社製)を7.8g添加し、圧力容器にて水素ガスを吹き込みながら、180℃、3kg/cm2で、3時間反応した。触媒をろ過により取り除き、水素添加脂肪酸エチルエステル(水素添加物9)を2525g得た。組成を表8に示す。 表8 水素添加脂肪酸エチルエステル(水素添加物9)の脂肪酸エチルエステル組成分析結果実施例7 PL65(ISF社製)900gに、実施例6で得られた水素添加脂肪酸エチルエステル9を2100gを添加して混合し原料10を調製した。調製した原料10に粉末リパーゼ組成物1を0.3質量%添加し、40℃で16時間攪拌反応させた。ろ過処理により酵素粉末を除去し、反応物10を2968g得た。 原料のPL65と反応物10のTAG組成を表9に、原料油(PL65)と反応油(反応物10)に含まれる、脂肪酸エチルエステルの組成を表10に示す。 水素添加脂肪酸エチルエステル9を用いて反応しても、パルミチン酸およびステアリン酸を用いた場合と同様に反応することができた。また、反応の前後で、炭素数16(C16)と炭素数18(C18)の脂肪酸エチルエステルの比率にほとんど変化は見られなかった。以上の結果から、脂肪酸エチルエステルは、蒸留と水素添加を行うことで、繰返し利用できることがわかった。表9 TAG組成分析結果注1)TAG組成は、全トリグリセリド中の各トリグリセリドの組成を示す。P:パルミチン酸残基、S:ステアリン酸残基、O:オレイン酸残基、L:リノール酸残基、tr:微量(trace) 表10 原料油(原料10)、反応油(反応物10)の脂肪酸エチルエステル組成分析結果実施例8 上記ハードバター(実施例4ハードバター1)を用い、表11の配合にてチョコレートの試作と評価を行った。製造時の粘度や型抜けなどに特に問題はなかった。得られたチョコレートは20℃にて1週間保存した後にスナップ性、艶、口溶けの評価を行った。その結果、ハードバター1を用いたチョコレート1は、口どけが良くかつスナップ性に優れており、代用脂を使用しない対照チョコレート1と同等の品質であった。表11 チョコレートの配合(質量%)(チョコレート評価結果) 上記方法で製造したチョコレートの型からの剥離性、スナップ性、艶、口溶けを評価した。評価結果を表12に示した。表12 板チョコレートの評価結果 10人のパネラーによる官能試験によって評価した。判定基準は以下のとおりである。<判定基準> スナップ性 ◎:きわめて良好なスナップ性を持つ ○:良好なスナップ性を持つ △:スナップ性に劣る 口溶け ◎:口どけがきわめて良好である ○:口どけが良好である △:口どけが悪い 艶 ◎:きわめて良好 ○:良好だが一部にくもりがみられる △:艶がない 剥離性 ◎:冷却後15分ではがれる ○:冷却後20分ではがれる △:はがれない実施例9 ハイリノールサフラワー油(日清オイリオグループ(株)製)1600gに、ステアリン酸エチルエステル(商品名:エチルステアレート、(株)井上香料製造所製)2400gを混合し、粉末リパーゼ組成物1を0.3質量%添加し、40℃で20時間攪拌反応させた。ろ過処理により酵素粉末を除去し、反応物11を3920g得た。得られた反応物11(3900g)を薄膜蒸留にかけ、蒸留温度140℃にて反応物11から脂肪酸エチルを除去し、脂肪酸エチル含量が3.7質量%である蒸留残渣11を1555g得た(表13)。表13 組成分析結果注1)TAG組成は、全トリグリセリド中の各トリグリセリドの組成を示す。 XOX/(XXO+OXX)は、2つの飽和脂肪酸残基および1つのオレオイル基を有するトリグリセリドの内、1位及び3位に飽和脂肪酸残基を有するトリグリセリドと2位に飽和脂肪酸残基を有するトリグリセリドの比である。 P:パルミチン酸残基、S:ステアリン酸残基、O:オレイン酸残基、L:リノール酸残基、tr:微量(trace) 炭素数16〜22の直鎖飽和脂肪酸及びその低級アルコールエステルから選ばれる1種以上と2位にオレオイル基及び/又はリノロイル基を有するトリグリセリドに、Rhizopus oryzae由来及び/又はRhizopus delemar由来のリパーゼと大豆粉末とを含有する造粒粉末リパーゼを作用させてエステル交換反応を行い、反応後、粉末リパーゼを除去することを特徴とするハードバターの製造方法。 炭素数16〜22の直鎖飽和脂肪酸及びその低級アルコールエステルから選ばれる1種以上のものとして、ステアリン酸及び/又はその低級アルコールエステルを用い、1,3−ジステアロイル−2−オレオイルグリセリン及び/又は1,3−ジステアロイル−2−リノロイルグリセリンに富んだハードバターを製造する請求項1記載の製造方法。 炭素数16〜22の直鎖飽和脂肪酸及びその低級アルコールエステルから選ばれる1種以上のものとして、パルミチン酸又はその低級アルコールエステルとステアリン酸又はその低級アルコールエステルとの混合物を用い、2位にオレオイル基及び/又はリノロイル基を有しパルミトイル基とステアロイル基を各1基づつ有するトリグリセリドに富んだハードバターを製造する請求項1記載の製造方法。 2位にオレオイル基を有するトリグリセリドが、シア脂低融点部分、ハイオレイックヒマワリ油、ハイオレイック紅花油、ハイオレイックローリノレン菜種油、パーム油又はパーム分別油から選ばれる1種以上である請求項1〜3のいずれか1項記載の製造方法。 大豆粉末が脂肪含有量5質量%以上のものである請求項1〜4のいずれか1項記載の製造方法。 大豆粉末の脂肪含有量が10〜25質量%である請求項5記載の製造方法。 大豆粉末が、全脂大豆粉である請求項1〜6のいずれか1項記載の製造方法。 粉末リパーゼの90質量%以上が粒径1〜100μmである請求項1〜7のいずれか1項記載の製造方法。 粉末リパーゼを除去した後、蒸留、分別及び精製を行う請求項1〜8のいずれか1項記載の製造方法。 炭素数16〜22の直鎖飽和脂肪酸及びその低級アルコールエステルが炭素数が異なる2種類以上の脂肪酸を使用するエステル交換において、直鎖飽和脂肪酸及びその低級アルコールエステルの炭素数16、18、20,22の脂肪酸毎の質量百分率の値と2位にオレオイル基及び/又はリノロイル基を有するトリグリセリドの1及び3位の炭素数16、18、20、22の脂肪酸残基毎の質量百分率の値の乖離が10%以内であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項記載の製造方法。