タイトル: | 特許公報(B2)_抗酸化剤 |
出願番号: | 2009531101 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C09K 15/06,C11B 5/00,C09K 15/08,C09K 15/34,A23D 9/00,A23L 3/3463,A61K 8/37,A61K 47/14 |
後藤 直宏 和田 俊 市岡 建司 永井 利治 JP 5610187 特許公報(B2) 20140912 2009531101 20080827 抗酸化剤 国立大学法人東京海洋大学 504196300 月島食品工業株式会社 000165284 廣田 雅紀 100107984 小澤 誠次 100102255 後藤 直宏 和田 俊 市岡 建司 永井 利治 JP 2007229366 20070904 20141022 C09K 15/06 20060101AFI20141002BHJP C11B 5/00 20060101ALI20141002BHJP C09K 15/08 20060101ALI20141002BHJP C09K 15/34 20060101ALI20141002BHJP A23D 9/00 20060101ALI20141002BHJP A23L 3/3463 20060101ALI20141002BHJP A61K 8/37 20060101ALI20141002BHJP A61K 47/14 20060101ALI20141002BHJP JPC09K15/06C11B5/00C09K15/08C09K15/34A23D9/00A23L3/3463A61K8/37A61K47/14 C09K 15/06 A23D 9/00 A23L 3/3463 A61K 8/37 A61K 47/14 C09K 15/08 C09K 15/34 C11B 5/00 特開平07−227227(JP,A) 特開平03−047038(JP,A) 特表2005−529728(JP,A) 食品の酸化とその防止,(株)光琳書院,1968年,再版,p.4-5 8 JP2008002315 20080827 WO2009031275 20090312 17 20110811 ▲吉▼澤 英一 本発明は、α−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)のような2以上のビスアリル位水素を有する天然の高度多価不飽和脂肪酸(HUFA)のエステルを抗酸化活性成分として含有する不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂、もしくは易酸化性の不飽和結合を有する物質用の抗酸化剤に関する。 油脂類は、飲食品、医薬品、化粧品、或いは飼料等の各種の製品の成分として用いられ、また該製品の成分として含有されているが、油脂類、特に不飽和結合を有した油脂類、すなわち、不飽和脂肪酸を含有する油脂類は、酸化に対して不安定であり、保存中に酸化を受けて、品質の劣化を招くという問題がある。このため従来より、この油脂の自動酸化を抑止するために、抗酸化剤の使用が行なわれている。一般的に用いられる抗酸化剤としては、天然由来のものとして、トコフェロール類やL−アスコルビン酸、合成品としてBHA(ブチルヒドロキシアニソール)、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)等が知られているが、近年、BHAやBHTのような化学合成品は、その安全性等の問題から食品等への使用が制限され、替わって、油脂の酸化防止剤として、トコフェロール類やL−アスコルビン酸のような天然由来のものが使用されている。しかしながら、トコフェロール類は、多価不飽和脂肪酸(PUFA)のような不安定な油脂に対する酸化防止効果が必ずしも十分でなく、また、L−アスコルビン酸は、熱やアルカリに弱い等の問題があったりして、十分満足のいける状況とはなっていない。 そこで、従来より、油脂類に対する抗酸化剤として、安全性が高く、かつ、安定した酸化防止効果を有することを目標として、各種の天然物由来の抗酸化剤が開発され、開示されている。例えば、大豆や大豆タンパク質由来の油脂用抗酸化剤(特開平6−287554号公報、特開平9−157292号公報、特開2000−204369号公報)が、イバラノリ属(Hypnea)属や、ソゾ(Laurencia)属、ウミウチワ属(Padina)に属する海藻の抽出物を有効成分とする油脂類用の抗酸化剤(特開平7−82554号公報、特開平7−82555号公報、特開平7−247479号公報)が、シラン抽出物を有効成分とする油脂類用の抗酸化剤(特開平7−26259号公報)が、糖アルコールを有効成分とする乳化油脂用酸化安定剤(特開平8−259944号公報)が、紅木紫檀の木部より抽出物を有効成分とする油脂類用の抗酸化剤(特開平9−104864号公報)が、イカ由来脂質からなる油脂類の安定化剤(特開2002−121582号公報)等が開示されている。しかしながら、これらの天然物由来の抗酸化剤も、その酸化防止効果等の観点からは、必ずしも満足のいけるものではない。 一方で、近年、エイコペンタエン酸(EPA)や、ドコサヘキサエン酸(DHA)などの高度多価不飽和脂肪酸類(HUFA)は、血栓形成抑制作用や高血圧の予防作用、血中コレステロール低下作用・高脂血症予防作用、脳機能改善作用、抗アレルギー作用、皮膚の老化防止作用等、種々の生理活性や健康増進作用が報告されており、健康食品素材や医薬品或いは飼料への利用が図られ、注目されている。しかし、これらのHUFAは、多数の不飽和結合を有するため、酸化に対して極めて弱いという問題がある。このため、従来、HUFAの利用に際しては、種々の酸化防止策が講じられている。例えば、トコフェノールやカテキン等の抗酸化剤を用いる方法、ゼラチン等でカプセル化する方法、不活性ガスで封入する方法等が用いられている。 HUFAの酸化防止策としては、これまでに各種の方法が開発され、開示されている。例えば、特開平5−86395号公報には、魚介類エキスからなる水相と動物油或いは植物油からなる油相とから、ポリグリセリン脂肪酸エステル等の乳化剤を用いて調製したW/O型エマルションの水相又は油相にトコフェロール、リン脂質、ビタミンC等の抗酸化剤を含有させ、EPA或いはDHA含有油脂に添加して、安定したEPA、DHA含有油脂を得る方法が、特開平6−298642号公報には、HUFA又はその誘導体を含む油成分を分散相とするO/W型乳剤において、分散媒としての水中に、アスコルビン酸、エリソルビン酸等の水溶性抗酸化剤を、分散相としての油成分中にビタミンE、ビタミンE誘導体、ビタミンCエステル、ゴマ油、綿実油等の油溶性抗酸化剤を含有させ、極めて長時間にわたり酸化が抑制されたHUFAを調製する方法が開示されている。 更に、特開平7−227227号公報には、EPA或いはDHA又はそれらを含有する天然油と、HLB10以上のポリグリセリン脂肪酸エステル或いはこれと蔗糖脂肪酸エステル又はレシチンからなる乳化剤、多価アルコールのような親水性媒体、及びアスコルビン酸、カテキン類のような酸化防止剤とから、酸化に対して安定なEPA或いはDHA含有乳化組成物を調製する方法について、特開2006−305569号公報には、HUFAのような油成分、乳化剤、キサンタンガム、アルギナート、ジェランガムなどのエマルション安定化剤及び水から、高せん断混合等により混合して酸化に対して安定なエマルションを調製する方法について開示されている。 また、特開平6−49479号公報には、EPAや、DHAなどのようなω−3不飽和脂肪酸又はその誘導体を、Tween 20 、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルのような乳化剤を用い、ω−3不飽和脂肪酸又はその誘導体を、水溶液中に分散させ、該油脂の安定化を図る方法が、特開平6−172782号公報には、PUFA−MGを含む油脂をリン脂質、トコフェロール等の抗酸化剤と混合した後に、カゼインや大豆タンパク等のタンパク質、それらの分解物等に乳化・分散させたものを乾燥し、酸化安定性に優れたPUFA含有粉末を得ることが、特開平7−39302号公報には、構成油脂として、HUFAのモノグリセリド(HUFA−MG)を含有するHUFAを、必要に応じて抗酸化剤を添加して、水分含量が少なくても30重量%以上であるような水系食品に添加して、乳化・分散状態とすることにより、乳化・分散状態が安定で、かつ、酸化安定性の高い油脂組成物添加食品を得る方法が開示されている。 更に、WO2004/048496号公報には、HUFAのような酸化し易い二重結合を有する油脂に対する抗酸化剤として、ゴマの抗酸化成分とアスコルビン酸又はアスコルビン酸エステルを添加した抗酸化剤が開示されている。以上のようなHUFAの酸化防止策は、いずれもEPAやDHAのようなHUFA自身の酸化を防止する策であり、これまで、EPAやDHAのようなHUFAを乳化分散した際に発揮する抗酸化機能については、全く知られないできた。HUFAの酸化についての一般的知見としては、DHA、EPAなどのHUFAは、バルク系ではリノール酸などのPUFAより酸化安定性に劣るが、ミセルやエマルション中ではリノール酸などのPUFAより酸化されにくいこと、及び、リノール酸や、DHA、EPAのモノアシルグリセロールを水溶液中に分散した場合、DHAがもっとも酸化されにくく、このような結果はエチルエステル、ジアシルグリセロール、トリアシルグリセロールでも確認されていること(日本水産学会誌、Vol.72,N0.4, P636-639, 2006.)、DHA含有魚油乳化物は安定であること(日本栄養・食糧学会講演要旨集、Vol.56,P44, 2006.)等がある。特開平5−86395号公報特開平6−49479号公報特開平6−172782号公報特開平6−287554号公報特開平6−298642号公報特開平7−26259号公報特開平7−39302号公報特開平7−82554号公報特開平7−82555号公報特開平7−227227号公報特開平7−247479号公報特開平8−259944号公報特開平9−104864号公報特開平9−157292号公報特開2000−204369号公報特開2002−121582号公報特開2006−305569号公報WO2004/048496号公報日本水産学会誌、Vol.72,N0.4, P636-639, 2006.日本栄養・食糧学会講演要旨集、Vol.56,P44, 2006. 本発明の課題は、飲食品、医薬品、化粧品、或いは飼料等の各種の製品の成分として用いられ、また該製品の成分として含有されている不飽和脂肪酸を含有する油脂類、又は易酸化性の不飽和結合を有する物質の酸化に対して、該油脂類若しくは該物質に親和性を有し、安全性が高く、かつ、安定した酸化防止効果を有する天然物由来の抗酸化剤を提供することにある。 本発明者は、近年、種々の生理活性や健康増進作用の機能から注目されている、α−リノレン酸、エイコペンタエン酸(EPA)や、ドコサヘキサエン酸(DHA)などのHUFAの酸化安定性について鋭意研究する中で、α−リノレン酸やEPA或いはDHAのように2以上のビスアリル位水素(不飽和結合が3つ以上)を有する天然のHUFAのエステルが、不飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸含有油脂類に対して、抗酸化作用を有することを見い出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、2以上のビスアリル位水素を有する天然のHUFAのエステルを抗酸化活性成分として含有する不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂、又は易酸化性の不飽和結合を有する物質用抗酸化剤を提供することからなる。 不飽和脂肪酸の化学構造は、図1に示されるような構造を有するが、不飽和結合を2以上含有する不飽和脂肪酸においては、−CH=CH−CH2−CH=CH−なる構造の2つの不飽和結合に挟まれた炭素に結合する水素、すなわち、ビスアリル位水素が存在する。このビスアリル位水素は、リノール酸においては1個、α−リノレン酸については2個、アラキドン酸については3個、EPAやドコサペンタエン酸(DPA)については4個、DHAについては5個存在する。これらのビスアリル位水素を有する不飽和脂肪酸においては、その酸化メカニズムとして、不飽和脂肪酸のビスアリル位水素が、空気中の酸素の攻撃を受けて、過酸化され、この過酸化物のラジカル連鎖反応により、酸化が進んで、油脂の酸化が起こると考えられている。 そこで、EPAやDHAのように、複数のビスアリル位水素を有するHUFAが、いかなるメカニズムで、不飽和脂肪酸の酸化に対して、抗酸化作用を有するかということについては、まだ、完全に解明できていない。しかしながら、以下に説明するように、不飽和脂肪酸の不飽和結合の数によって、不飽和脂肪酸の立体構造が変化し、その立体構造によって、O/W型エマルションとした場合のミセル界面のラジカルの状況により、ラジカル連鎖反応が進みにくくなるためと考えられる。すなわち、脂肪酸は、図2、(a)〜(e)に示されるように、その不飽和(二重結合)によって、不飽和結合が1つ増えるごとに分子に折れ曲がりが生じて丸みを帯びてくる。 このような構造の相違が、不飽和脂肪酸のエマルション系における酸化挙動を大きく左右するものと考えられる。そして、EPAやDHAのような、複数のビスアリル位水素を有するHUFAの抗酸化作用については、該脂肪酸と不飽和脂肪酸との構造的な相互作用により、O/W型エマルションとした場合のミセル界面のラジカルの状況により、過酸化された過酸化物のラジカル連鎖反応が起こりにくい構造になって、作用するものと推測される。本発明において、実施例に示されるように、PUFAのリノール酸が、HUFAであるDHAの存在により酸化安定化され、また、リノール酸が、DHAやEPA或いはα―リノレン酸の添加により、その酸化が抑制されることを見出した。 本発明において、不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂、若しくは易酸化性の不飽和結合を有する物質用抗酸化剤の抗酸化に用いられる活性成分は、2以上のビスアリル位水素(不飽和結合3以上)を有する天然のHUFAのエステルであり、該高度多価脂肪酸としては、α−リノレン酸(ビスアリル位水素2)、アラキドン酸(ビスアリル位水素3)、エイコサペンタエン酸(EPA)(ビスアリル位水素4)、ドコサペンタエン酸(ビスアリル位水素4)、又はドコサヘキサエン酸(DHA)(ビスアリル位水素5)等を挙げることができ、該HUFAのエステルとしては、グリセリド或いはエチルエステルを挙げることができる。 本発明の抗酸化剤は、不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂、若しくは易酸化性の不飽和結合を有する物質に添加して、乳化状態となして使用することができ、該乳化状態としては、水中油(O/W)型であることが好ましい。かかる乳化に際しては、本発明の抗酸化活性成分に、乳化剤を添加して用いることができる。本発明の抗酸化剤は、不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂含有物質、不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂含有組成物、或いは易酸化性の不飽和結合を有する物質用の抗酸化剤として用いることができ、かかる成分からなる飲食品、医薬、化粧品及び飼料等の抗酸化剤として用いることができる。 すなわち本発明は、(1)2以上のビスアリル位水素を有する天然の高度多価不飽和脂肪酸のエステルの乳化物を抗酸化活性成分として含有することを特徴とする乳化状態の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂用抗酸化剤や、(2)2以上のビスアリル位水素を有する天然の高度多価不飽和脂肪酸が、α−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)又はドコサヘキサエン酸(DHA)であることを特徴とする上記(1)に記載の乳化状態の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂用抗酸化剤や、(3)2以上のビスアリル位水素を有する天然の高度多価不飽和脂肪酸のエステルが、α−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)又はドコサヘキサエン酸(DHA)のグリセリド或いはエチルエステルであることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の乳化状態の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂用抗酸化剤や、(4)抗酸化活性成分として、α−リノレン酸グリセリド、アラキドン酸グリセリド、エイコサペンタエン酸(EPA)グリセリド、ドコサペンタエン酸(DPA)グリセリド、ドコサヘキサエン酸(DHA)グリセリド、α−リノレン酸エチルエステル、アラキドン酸エチルエステル、エイコサペンタエン酸(EPA)エチルエステル、ドコサペンタエン酸(DPA)エチルエステル、及びドコサヘキサエン酸(DHA)エチルエステルの1又は2以上の天然の高度多価不飽和脂肪酸のエステルを含有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の乳化状態の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂用抗酸化剤からなる。 また本発明は、(5)高度多価不飽和脂肪酸エステルからなる抗酸化活性成分と不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂の乳化状態が、水中油(O/W)型であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の乳化状態の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂用抗酸化剤や、(6)2以上のビスアリル位水素を有する天然の高度多価不飽和脂肪酸のエステルの乳化物が、該高度多価不飽和脂肪酸のエステルからなる抗酸化活性成分に、乳化剤を添加したことを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の乳化状態の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂用抗酸化剤や、(7)2以上のビスアリル位水素を有する天然の高度多価不飽和脂肪酸のエステルからなる抗酸化活性成分に、トコフェロール類、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸エステル、ローズマリー抽出物、茶抽出物、ヒマワリ抽出物、及びコーヒー豆抽出物から選択される1又は2以上の酸化防止剤を添加したことを特徴とす上記(1)〜(6)のいずれかに記載の乳化状態の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂用抗酸化剤や、(8)抗酸化活性成分として、α−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)又はドコサヘキサエン酸(DHA)のグリセリド及びエチルエステルからなる天然の高度多価不飽和脂肪酸のエステルの1又は2以上に、乳化剤を添加して調製した2以上のビスアリル位水素を有する天然の高度多価不飽和脂肪酸のエステルの乳化物を、不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂に添加して、水中油(O/W)型の乳化状態として調製することを特徴とする、乳化状態の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂の抗酸化安定化方法からなる。本発明の説明のための不飽和脂肪酸の化学構造について示す図である。本発明の説明のための不飽和脂肪酸の立体化学構造について示す図である。本発明の実施例における乳化系における代表的不飽和脂肪酸単独の酸化安定性分析の結果について示す図である。本発明の実施例における乳化系における不飽和脂肪酸の酸化安定性分析の結果について示す図である。本発明の実施例における不飽和脂肪酸の混合による酸化安定性分析の結果について示す図である。本発明の実施例におけるDHA添加による不飽和脂肪酸の酸化安定性分析の結果について示す図である。本発明の実施例におけるEPA添加による不飽和脂肪酸の酸化安定性分析の結果について示す図である。本発明の実施例における魚油乳化物の魚粉酸化に対する抗酸化能評価試験の結果について示す図である。 本発明は、2以上のビスアリル位水素を有する天然のHUFAのエステルを抗酸化活性成分として含有する不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂、又は易酸化性の不飽和結合を有する物質用抗酸化剤からなる。本発明において、2以上のビスアリル位水素を有する天然の高度多価脂肪酸としては、α−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)、又はドコサヘキサエン酸(DHA)等を挙げることができ、該HUFAのエステルとしては、該脂肪酸のグリセリド或いはエチルエステルを挙げることができる。本発明の抗酸化剤においては、抗酸化活性成分として、α−リノレン酸グリセリド、アラキドン酸グリセリド、エイコサペンタエン酸(EPA)グリセリド、ドコサペンタエン酸(DPA)グリセリド、ドコサヘキサエン酸(DHA)グリセリド、α−リノレン酸エチルエステル、アラキドン酸エチルエステル、エイコサペンタエン酸(EPA)エチルエステル、ドコサペンタエン酸(DPA)エチルエステル、及びドコサヘキサエン酸(DHA)エチルエステル等の1又は2以上の天然のHUFAのエステルを含有することができる。 本発明の抗酸化活性成分は、該油脂を含有する天然の原料油脂から公知の方法で調製することができる。該原料油脂としては、フラックス油、シソ実油、エゴマ油等の植物油、イワシ油、タラ肝油、ニシン油、イカ油、マグロ油等の魚油、クジラ、アザラシ、オットセイ等の海産動物を起源とする圧搾或いは抽出油、クロレラ、スピルリナ等に由来する微細藻類抽出油等を挙げることができ、該油脂を、脂質分解酵素やエステル化反応、エステル交換反応等を用いて、適宜改質することもできる。 本発明の抗酸化剤を適用する不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂としては、不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸を含む油脂であれば特に限定されず、各種植物由来、動物由来、水産動物由来、微生物由来の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂に対して、適用することができる。更に、不飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸含有油脂類を含有する各種の飲食品、健康食品素材、医薬品、化粧品、或いは飼料用等の酸化防止のために適用することができる。また抗酸化剤を適用する易酸化性の不飽和結合を有する物質としては、カロチノイド類、ビタミンA類、その他色素類などがあり、飲食品、健康食品素材、医薬品、化粧品、或いは飼料用等に含まれるこれら成分の酸化防止にも適用することが出来る。 本発明の抗酸化剤の適用方法は、特に、限定されないが、不飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸含有油脂類、或いは該脂肪酸、油脂類、易酸化性の不飽和結合を有する物質を含有する素材や製品に対して、所定量の抗酸化剤を混合することにより適用することができる。本発明の抗酸化剤の抗酸化作用の観点からは、抗酸化剤を不飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸含有油脂、又は易酸化性の不飽和結合を有する物質に添加して、乳化状態となして使用することが好ましく、かかる場合の乳化状態としては、水中油(O/W)型であることが好ましい。本発明の抗酸化剤は、抗酸化活性成分に乳化剤を添加し、或いは、更に乳化状態となし、必要により、他の酸化防止剤を添加して、製品化することができる。かかる場合の酸化防止剤としては、トコフェロール類、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸エステル、ローズマリー抽出物、茶抽出物、ヒマワリ抽出物、コーヒー豆抽出物等、一般に用いられている酸化防止剤を目的に応じて適宜使用することができる。 以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。 [乳化系における不飽和脂肪酸の酸化安定性分析]リノール酸トリグリセリド(LLL)及びDHAトリグリセリド(DDD)の、乳化系におけるリノール酸およびDHAの酸化安定性について試験した。 (試験方法)20mL容ネジ口瓶に、LLLもしくはDDDを最終濃度で5mMとなるように加え、これに0.5%のTriton-X100を含有した0.05Mリン酸緩衝溶液を加え、スターラーで攪拌し予備乳化した後、超音波ホモジナイザーにより乳化処理を行った。その後、水溶性の酸化開始剤である、AAPH(2,2'-Azobis(2-amidinonpropane) hydrochloride)を1mMになるように添加し、これを試験管に分注した。各試験管を遮光下25℃で酸化に供し、0時間、24時間、48時間、72時間、96時間でサンプリングした。サンプリングした乳化溶液中の脂肪酸は、三フッ化ホウ素メタノール法によりメチルエステル化し、GC−FIDに供してクロマトグラムのピークエリアより脂肪酸残存量を計算により求めた。なお、0時間に存在する脂肪酸の量を100として残存脂肪酸量を表した。 (結果)結果を、図3に示す。結果、乳化状態において、リノール酸はDHAと比較して、酸化時間と共に残存脂肪酸の減少が大きく、乳化状態における酸化安定性が低いことが示された。 [乳化系における不飽和脂肪酸の酸化安定性分析]リノール酸とDHAが分子内に2:1に比率で含まれるトリグリセリド(β−LDL)を用いて、乳化系におけるリノール酸とDHAの酸化安定性について試験した。 (試験方法)20mL容ネジ口瓶に、β-LDLを最終濃度で5mMとなるように加え、これに0.5%のTriton-X100を含有した0.05Mリン酸緩衝溶液を加え、スターラーで攪拌し予備乳化した後、超音波ホモジナイザーにより乳化処理を行った。その後、水溶性の酸化開始剤である、AAPHを1mMになるように添加し、これを試験管に分注した。各試験管を遮光下25℃で酸化に供し、0時間、24時間、48時間、72時間、96時間でサンプリングした。サンプリングした乳化溶液中の脂肪酸は、三フッ化ホウ素メタノール法によりメチルエステル化し、GC−FIDに供してクロマトグラムのピークエリアより脂肪酸残存量を計算により求めた。なお、0時間に存在する脂肪酸の量を100として残存脂肪酸量を表した。 (結果)結果を、図4に示す。結果、乳化状態において、リノール酸とDHAが同じ分子内に存在する場合、各々が単独で存在する場合と比較してその安定性は逆転し、リノール酸に比べてDHAは、酸化時間と共に残存脂肪酸の減少が大きく、酸化安定性が低くなることが示された。 [不飽和脂肪酸の混合による酸化安定性分析]リノール酸トリグリセリド(LLL)及びDHAトリグリセリド(DDD)混合物を用いて、乳化系におけるリノール酸とDHAの酸化安定性について試験した。 (試験方法)20mL容ネジ口瓶に、LLLとDDDを2:1混合物を最終濃度で5mMとなるように加え、これに0.5%のTriton-X100を含有した0.05Mリン酸緩衝溶液を加え、スターラーで攪拌し予備乳化した後、超音波ホモジナイザーにより乳化処理を行った。その後、水溶性の酸化開始剤である、AAPHを1mMになるように添加し、これを試験管に分注した。各試験管を遮光下25℃で酸化に供し、0時間、24時間、48時間、72時間、96時間でサンプリングした。サンプリングした乳化溶液中の脂肪酸は、三フッ化ホウ素メタノール法によりメチルエステル化し、GC−FIDに供してクロマトグラムのピークエリアより脂肪酸残存量を計算により求めた。なお、0時間に存在する脂肪酸の量を100として残存脂肪酸量を表した。 (結果)結果を、図5に示す。結果、LLL及びDDDの混合により、リノール酸トリグリセリドの酸化安定性が付与された。 [DHA添加による不飽和脂肪酸の酸化安定性分析]リノール酸トリグリセリド(LLL)を用いた酸化安定性試験の途中で、DHAトリグリセリド(DDD)を添加して、リノール酸の酸化に対するDHA(不飽和結合6;ビスアリル位水素5)の抗酸化作用について試験した。 (試験方法)20mL容ネジ口瓶に、LLLを最終濃度で2.5mMとなるように加え、これに0.5%のTriton-X100を含有した0.05Mリン酸緩衝溶液を加え、スターラーで攪拌し予備乳化した後、超音波ホモジナイザーにより乳化処理を行った。同様の処理を行い、DDD乳化物も得た。その後、水溶性の酸化開始剤である、AAPHを1mMになるように添加し、これを試験管に分注した(0時間、24時間、48時間、72時間、96時間サンプリング用)。各試験管を遮光下25℃で酸化に供し、0時間、24時間、48時間でサンプリングした。48時間のサンプリングが終了したのち、72時間、96時間のサンプリング用サンプルに最終濃度で2.5mMになるようにDDD乳化物を添加し、72時間、96時間においてサンプリングした。サンプリングした乳化溶液中の脂肪酸は、三フッ化ホウ素メタノール法によりメチルエステル化し、GC−FIDに供してクロマトグラムのピークエリアより脂肪酸残存量を計算により求めた。なお、0時間に存在する脂肪酸の量を100として残存脂肪酸量を表した。 (結果)結果を、図6に示す。結果、DDDの添加により、LLLの酸化が抑制された。このことより、DDDが、LLLの酸化に対して、抗酸化作用を有することが確認された。 [EPA添加による不飽和脂肪酸の酸化安定性分析]リノール酸トリグリセリド(LLL)を用いた酸化安定性試験の途中で、EPAトリグリセリド(EEE)を添加して、リノール酸の酸化に対するEPA(不飽和結合5;ビスアリル位水素4)の抗酸化作用について試験した。 (試験方法)20mL容ネジ口瓶に、LLLを最終濃度で2.5mMとなるように加え、これに0.5%のTriton-X100を含有した0.05Mリン酸緩衝溶液を加え、スターラーで攪拌し予備乳化した後、超音波ホモジナイザーにより乳化処理を行った。同様の処理を行い、EEE乳化物も得た。その後、水溶性の酸化開始剤である、AAPHを1mMになるように添加し、これを試験管に分注した(0時間、24時間、48時間、72時間、96時間サンプリング用)。各試験管を遮光下25℃で酸化に供し、0時間、24時間、48時間でサンプリングした。48時間のサンプリングが終了したのち、72時間、96時間のサンプリング用サンプルをそれぞれ2つに分け、片方のサンプルには最終濃度で2.5mMになるようにEEE乳化物を添加し、72時間、96時間においてサンプリングした。一方のサンプルには何も添加せず、72時間、96時間でサンプリングした。サンプリングした乳化溶液中の脂肪酸は、三フッ化ホウ素メタノール法によりメチルエステル化し、GC−FIDに供してクロマトグラムのピークエリアより脂肪酸残存量を計算により求めた。なお、0時間に存在する脂肪酸の量を100として残存脂肪酸量を表した。 (結果)結果を、図7に示す。結果、EEEの添加により、LLLの酸化が抑制された。このことより、EEEが、LLLの酸化に対して、抗酸化作用を有することが確認された。α−リノレン酸(不飽和結合3;ビスアリル位水素2)トリグリセリドを用いた同様の酸化安定性分析でも、同じ結果が得られた。また、該脂肪酸グリセリドに代えて、脂肪酸エチルエステルを用いた酸化安定性分析でも、同じ結果が得られた。これらの結果から、2以上のビスアリル位水素(不飽和結合3以上)を有するHUFAのエステルが、不飽和脂肪酸の酸化に対して、抗酸化作用を有することが確認された。 [魚油乳化物の魚粉酸化に対する抗酸化能評価]魚油乳化物、および魚油とミックストコフェロール混合物の乳化物の魚粉に対する抗酸化作用について試験した。 (試験方法)300mL容ビーカー中で、イワシ油10gに対し、Tween85を1g添加し、これに水を89g添加した後、ホモジナイザーで予備乳化、続けて投げ込み型の超音波発生装置を用い乳化した。これを魚油乳剤とした。同様に、300mL容ビーカー中で、イワシ油5gに対し、ミックストコフェロールを5g、Tween85を1g添加し、これに水を89g添加した後、ホモジナイザーで予備乳化、続けて投げ込み型の超音波発生装置を用い乳化した。これを魚油VE乳剤とした。これら乳化剤を調理用の油噴霧器を用い、500gの魚粉に対し1.76g(魚油乳剤)及び1.70g(魚油乳剤)噴霧し、よくかき混ぜた後、100gのビーカーに50g移し、恒温器中40℃で1週間保存した。エトキシン(EQ)については、最終濃度が150ppmになるように、魚粉に噴霧した。またコントロールとして魚粉50gも同様に保存した。1週間保存したサンプルより、石油エーテルを用いて油脂を抽出し、過酸化物価を測定した。 (結果)結果を図8に示す。保存1週間後、コントロール魚粉の過酸化物価は30meq/kgほどまで上昇したが、エトキシン(EQ)、魚油乳剤および魚油VE乳剤添加魚粉中の過酸化物価は、15meq/kg以下であった。このことより、魚油を乳化したものは魚粉中に残存する油脂の抗酸化にも効果を持つことが確認された。 本発明は、不飽和脂肪酸を含有する油脂類、若しくは易酸化性の不飽和結合を有する物質に、特に適合した親和性を有し、安全性が高く、かつ、安定した酸化防止効果を有する天然物由来の不飽和脂肪酸を含有する油脂類、又は易酸化性の不飽和結合を有する物質用の抗酸化剤を提供する。本発明の抗酸化活性成分であるHUFAのエステルは、それ自体、種々の生理活性や健康増進作用により注目されている成分であり、抗酸化作用と同時に種々の生理活性や健康増進機能を付与する。また、抗酸化剤自体がHUFAであることから、添加したHUFAを含有する油脂類自体の物性や、構成成分上も大きな変更を来たすことがない。したがって、本発明は、不飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸含有油脂類、又は易酸化性の不飽和結合を有する物質を含有する飲食品、健康食品素材、医薬品、化粧品、或いは飼料等用の酸化防止のために特に適合した特性を有する抗酸化剤を提供する。 2以上のビスアリル位水素を有する天然の高度多価不飽和脂肪酸のエステルの乳化物を抗酸化活性成分として含有することを特徴とする乳化状態の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂用抗酸化剤。 2以上のビスアリル位水素を有する天然の高度多価不飽和脂肪酸が、α−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)又はドコサヘキサエン酸(DHA)であることを特徴とする請求項1に記載の乳化状態の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂用抗酸化剤。 2以上のビスアリル位水素を有する天然の高度多価不飽和脂肪酸のエステルが、α−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)又はドコサヘキサエン酸(DHA)のグリセリド或いはエチルエステルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の乳化状態の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂用抗酸化剤。 抗酸化活性成分として、α−リノレン酸グリセリド、アラキドン酸グリセリド、エイコサペンタエン酸(EPA)グリセリド、ドコサペンタエン酸(DPA)グリセリド、ドコサヘキサエン酸(DHA)グリセリド、α−リノレン酸エチルエステル、アラキドン酸エチルエステル、エイコサペンタエン酸(EPA)エチルエステル、ドコサペンタエン酸(DPA)エチルエステル、及びドコサヘキサエン酸(DHA)エチルエステルの1又は2以上の天然の高度多価不飽和脂肪酸のエステルを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の乳化状態の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂用抗酸化剤。 高度多価不飽和脂肪酸エステルからなる抗酸化活性成分と不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂の乳化状態が、水中油(O/W)型であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の乳化状態の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂用抗酸化剤。 2以上のビスアリル位水素を有する天然の高度多価不飽和脂肪酸のエステルの乳化物が、該高度多価不飽和脂肪酸のエステルからなる抗酸化活性成分に、乳化剤を添加したことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の乳化状態の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂用抗酸化剤。 2以上のビスアリル位水素を有する天然の高度多価不飽和脂肪酸のエステルからなる抗酸化活性成分に、トコフェロール類、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸エステル、ローズマリー抽出物、茶抽出物、ヒマワリ抽出物、及びコーヒー豆抽出物から選択される1又は2以上の酸化防止剤を添加したことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の乳化状態の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂用抗酸化剤。 抗酸化活性成分として、α−リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサペンタエン酸(DPA)又はドコサヘキサエン酸(DHA)のグリセリド及びエチルエステルからなる天然の高度多価不飽和脂肪酸のエステルの1又は2以上に、乳化剤を添加して調製した2以上のビスアリル位水素を有する天然の高度多価不飽和脂肪酸のエステルの乳化物を、不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂に添加して、水中油(O/W)型の乳化状態として調製することを特徴とする、乳化状態の不飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸含有油脂の抗酸化安定化方法。