タイトル: | 特許公報(B2)_タマビジンを利用したタンパク質を担体に結合する方法 |
出願番号: | 2009530184 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | C07K 17/00,C07K 19/00,C12N 15/09,C07K 14/375 |
高倉 由光 市川 雅子 宇佐美 悟 山本 岳 塚本 浩史 梶原 ひとみ 岡 直美 JP 5443987 特許公報(B2) 20131227 2009530184 20080828 タマビジンを利用したタンパク質を担体に結合する方法 日本たばこ産業株式会社 000004569 小野 新次郎 100140109 社本 一夫 100089705 小林 泰 100075270 千葉 昭男 100080137 富田 博行 100096013 泉谷 玲子 100107386 高倉 由光 市川 雅子 宇佐美 悟 山本 岳 塚本 浩史 梶原 ひとみ 岡 直美 JP 2007220921 20070828 20140319 C07K 17/00 20060101AFI20140227BHJP C07K 19/00 20060101ALI20140227BHJP C12N 15/09 20060101ALN20140227BHJP C07K 14/375 20060101ALN20140227BHJP JPC07K17/00C07K19/00C12N15/00 AC07K14/375 C07K 17/00 C07K 19/00 C07K 14/375 C12N 15/09 CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) WPI 国際公開第02/072817(WO,A1) J. Immunol. Method., 178[2](1995) p.201 - 209 11 JP2008065448 20080828 WO2009028625 20090305 50 20110802 鶴 剛史 本出願は、2007年8月28日に出願された日本国特許出願2007−220921に基づく優先権を主張する。 本発明は、タマビジンを利用した、タンパク質を担体に結合する方法に関する。 従来、タンパク質をマイクロプレートや微小ビーズ、あるいはセンサーチップなどの担体に結合させる汎用的な方法として、疎水結合、共有結合などが知られている。疎水結合は、担体の疎水性表面とタンパク質の疎水性部分の相互作用で、特別な試薬を必要としない点で簡便であるが、概して結合力は弱く、ELISA(Enzyme linked immunosorbent assay)等に用いる場合、結合後の洗浄操作等で、タンパク質が担体から離れてしまうことが多い。また、疎水結合によりタンパク質と担体を結合させた場合、タンパク質の多くが、その機能を完全に、あるいは部分的に失うことが知られている。一方、共有結合は、タンパク質中の官能基(例えばアミノ基)と担体表面に配置された官能基(例えばカルボキシル基)の相互作用のため、結合力は強い。しかし、共有結合によりタンパク質と担体と結合させた場合、疎水結合の場合と同様に、多くのタンパク質において、その機能は完全に、あるいは部分的に失われてしまう。 疎水結合や共有結合の他にも、複数のヒスチジンをタンパク質の末端に融合させ、このヒスチジンタグをもつ融合タンパク質を、表面にニッケルが配置された、例えばプロテインチップ等の基板などに結合させる方法が知られている。しかしながら、ヒスチジンタグとニッケルイオンの相互作用はあまり強くなく、さらにニッケルイオンには、様々な生体分子との非特異的な結合が知られており、必ずしも万能ではない。 アビジンは、卵白由来の糖タンパク質でビオチン(ビタミンH)に極めて強く結合する。アビジンとビオチンの相互作用は最も強い非共有結合の一つである(Green (1975) Adv Protein Chem 29: 85-133)。ストレプトアビジンは放線菌由来のアビジン様タンパク質で、やはりビオチンと強く結合する。これまでに(ストレプト)アビジン-ビオチンの相互作用は、その作用力の強さから、例えば、抗原や抗体の検出など分子生物学や生化学の分野で、広範に用いられている(Green (1990) Methods Enzymol 184: 51-67)。 このアビジンやストレプトアビジンのビオチン結合性を利用して、タンパク質を担体に結合する方法が考案されている。例えば(ストレプト)アビジンを共有結合や疎水結合によりマイクロプレートなどのような基板に固定化し、ビオチン化したタンパク質と結合させることにより固定化させる方法である。しかし、この方法では、アビジンそのものの活性が部分的に失われるばかりでなく、ビオチンを介して結合させたタンパク質の比活性が低下し、十分な作用効率が得られているとはいえなかった。 一方、ビオチンを結合させた基板に、まずアビジンタンパク質を、アビジン−ビオチン結合によって結合させ、ここへビオチン化した所望のタンパク質を結合させ、アビジンの別のビオチンポケットに結合させることで、基板−ビオチン−アビジン−ビオチン−所望のタンパク質という順序で固定させる技術が報告されている(特開平4−236353)。しかし、この方法では、所望のタンパク質をビオチン化するステップが入り、余分な労力が必要な上に、ビオチン標識の効率も考慮に入れなければならないという問題があった。 これまで、タンパク質の標識、診断マーカーや細胞特異的標的化因子としての使用を目的に、アビジンまたはストレプトアビジンを用いた融合タンパク質が作成されてきた(Airenne et al. (1999) Biomol Eng 16: 87-92)。これらのうち特にアビジンまたはストレプトアビジンと、scFvやFab断片、IgGのような抗体との融合タンパク質は、ガン細胞等への薬剤の特異的標的への応用研究が進んでいる。また、ストレプトアビジンとscFvとの融合タンパク質を用いて、scFvをアビジン−ビオチン結合を介して固定化したカラムの発想が記載されている(Kiprivanov et al. (1995) Hum Antib Hybrid 6: 93-101、Dubel et al. (1995) J Immunol Methods 178: 201-209)。しかし、アビジン、ストレプトアビジンは大腸菌において、可溶性に大量に発現させることが難しいばかりでなく、アビジン融合タンパク質やストレプトアビジン融合タンパク質をビオチン化担体と結合させることにより固定化し、従来の結合法と比較してタンパク質の活性を向上させるといった報告はない。それどころか、ストレプトアビジンとβ−ガラクトシダーゼとの融合タンパク質をビオチン化ビーズに結合させた場合において、β−ガラクトシダーゼの比活性がおよそ50%に低下したとの報告がなされている(Huang et al(1996) Enzyme and Microbial technology)。特開平4−236353WO02/072817PCT/JP2006/326260PCT/JP2006/304993Green (1975) Adv Protein Chem 29: 85-133Green (1990) Methods Enzymol 184: 51-67Airenne et al. (1999) Biomol Eng 16: 87-92Kiprivanov et al. (1995) Hum Antib Hybrid 6: 93-101Dubel et al. (1995) J Immunol Methods 178: 201-209Huang et al(1996) Enzyme and Microbial technologyHofmann et al. (1980) Proc Natl Acad Sci USA 77: 4666-4668Iba et al. (1997) Gene 194: 35-46Ideno et al. (2004) Appl Microbiol Biotechnol 64: 99-105Kada et al. (1999) Biochim. Biophys. Acta., 1427: 33-43 本発明は、タンパク質を担体に結合するにあたり、当該タンパク質を直接結合する場合よりも、当該タンパク質が効率良く作用する、担体との結合方法を提供することを目的とする。タンパク質を担体に直接結合させる従来の方法では、結合させたタンパク質の活性が低下することが問題になっていた。本発明は、従来のタンパク質固定化法における上記問題を解決することを目的とする。 本発明者らは、鋭意研究に努めた結果、タマビジンと所望のタンパク質を融合させたタンパク質を作製し、この融合タンパク質を、その表面にビオチンを固定化させた担体に結合することにより、所望のタンパク質を従来の方法で担体に固定した場合と比べ、当該タンパク質の機能を損なうことなく、遥かに効率良く作用させることができることを見出した。 すなわち、本発明者らは、酵素とタマビジンとの融合タンパク質を用いて、例えば、ビオチン化磁性ビーズにタマビジン−ビオチン結合を用いて結合させると、酵素タンパク質を共有結合によって磁性ビーズに結合させる場合と比べて、酵素活性が10倍以上と大幅に上昇することを見出した。また、抗体断片とタマビジンとの融合タンパク質をビオチン化マイクロプレートに結合させると、当該抗体断片を疎水結合によってマイクロプレートに結合させた場合に比べて、抗原結合活性が高いことを見出した。さらに、プロテインAとタマビジンとの融合タンパク質をビオチン化マイクロプレートに結合させ、これに抗体を結合させると、抗体を疎水結合によって直接マイクロプレートに結合させた場合に比べて、約2倍〜4倍検出感度が向上することを見出した。 本発明は、以上の知見に基づきタンパク質を、そのタンパク質の活性を損なわず、担体に結合させる新規な結合方法を提供するものである。 [本発明を実施するための形態] 本発明は、好ましくは以下の態様を含む。 態様(1) タンパク質を担体に結合する方法であって、 ビオチンを結合させた担体を準備し; タマビジンに上記タンパク質を結合させた融合タンパク質を準備し;そして タマビジン−ビオチン結合を介して、上記担体に上記タンパク質を結合させることを含む、前記方法。 態様(2) タマビジンが、 (a)配列番号2又は配列番号4において1又はそれより多くのアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ビオチン結合活性を有するタンパク質;又は (b)配列番号2又は配列番号4と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつ、ビオチン結合活性を有するタンパク質;又は (c)配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列からなるタンパク質;又は (d)配列番号1又は3の塩基配列の相補鎖に、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によってコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、ビオチン結合活性を有するタンパク質から選択される、態様1に記載の方法。 態様(3) タンパク質が、抗体若しくはその断片、抗原タンパク質、酵素、レクチン、ペプチド、プロテインA、プロテインG及びプロテインLからなる群から選択される、態様1ないし2のいずれか1項に記載の方法。 態様(4) 担体が、ビーズ、磁性ビーズ、薄膜、微細管、フィルター、プレート、マイクロプレート、カーボンナノチューブ及びセンサーチップからなる群から選択される、態様1ないし3のいずれか1項に記載の方法。 態様(5) タマビジンとタンパク質がリンカーを介して結合して融合タンパク質を構成している、態様1ないし4のいずれか1項に記載の方法。 態様(6) タマビジンとタンパク質が6個以上のアミノ酸からなるリンカーを介して結合して融合タンパク質を構成している、態様1ないし4のいずれか1項に記載の方法。 態様(7) 前記融合タンパク質に、さらにリーダー配列が結合している態様1ないし6のいずれか1項に記載の方法。 態様(8) ビオチンと担体が、長さが13.5Åより長いリンカーを介して結合している、態様1ないし7のいずれか1項に記載の方法。 態様(9) ビオチンを結合させた担体に、タマビジンにタンパク質を結合させた融合タンパク質をタマビジン−ビオチン結合を介して結合させた、タマビジン融合タンパク質結合担体。 態様(10) タマビジンとタンパク質がリンカーを介して結合している融合タンパク質をコードする核酸を含む、タマビジン融合タンパク質を発現するための、発現ベクター。 以下、本発明を実施するための好ましい形態について説明する。 タマビジン タマビジンは、食用キノコである担子菌タモギタケ(Pleurotus conucopiae)から発見された新規ビオチン結合タンパク質である(WO02/072817)。当該文献には、 −タマビジン1とタマビジン2の相互のアミノ酸相同性は65.5%で、ビオチンと強く結合する; −タマビジン2は、大腸菌で可溶性画分に高発現する;そして −タマビジン2を大腸菌で発現させた場合、4.5時間の培養で、50mlの培養当たり約1mgの純度の高い精製組換えタンパク質が得られた。これはビオチン結合性タンパク質として知られているアビジンやストレプトアビジンと比較しても、非常に高い値である;ことが記載されている。 さらに本発明者らは、タマビジンについて研究を進め、以下のことを見出した: −タマビジン1も、大腸菌で可溶性画分に高発現する;そして、 −タマビジン1についても大腸菌で発現させた場合、4.5時間の培養で、50mlの培養当たり約1mgの純度の高い精製組換えタンパク質が得られた。 本発明のタマビジンの融合タンパク質を用いた結合方法により、酵素や抗体のタンパク質を結合させた担体について、従来の疎水結合あるいは共有結合で結合させた担体に比べ、その活性を大幅に上昇させることに成功した。即ち、所望のタンパク質をタマビジンとの融合タンパク質として発現させ、ビオチン結合担体に結合させることで、他の方法で結合させた場合と比べ、所望のタンパク質の活性を大幅に向上させることができた。理論に縛られるわけではないが、この理由は、タンパク質の配向化による効果ではないかと推測される。またこの方法で結合させる場合、タンパク質の精製と担体への結合を同時に行うことができるため、製造工程の簡略化により労力とコストの大幅な削減が実現できた。また、所望のタンパク質としてレクチンを選択した場合において、従来レクチンは担体の固定化が難しいとされていたが、本方法によりレクチン活性を阻害することなく固定化することができる。このように、担体の固定化が難しいタンパク質についても、本方法により問題なく固定化することができる。さらに、ビオチン結合タンパク質としてタマビジンを使用した結合担体は、従来のアビジンに比較して非特異結合が少なく、また、ストレプトアビジンと比較して、耐熱性が上昇すると考えられる。さらにまた、タマビジンを用いた場合、タマビジン自体が、アビジンやストレプトアビジンと異なり、大腸菌で可溶性高発現することから、融合させる相手である所望のタンパク質が大腸菌で可溶性発現する場合には、この融合タンパク質も大腸菌で可溶性発現すると考えられるため、このようなタマビジン融合タンパク質とその結合担体は、その作製にかかる労力やコストを大幅に削減することが可能となる。 タマビジンとビオチンとの結合力は、例えば上述のヒスチジンタグとニッケルとの結合よりも強いため、融合タンパク質を所望のビオチン化担体に結合させた後に、例えば、界面活性剤や高濃度の塩などを用いた強い洗浄を行うことが可能となり、融合タンパク質以外の生体物質が、担体に結合する非特異結合を、極力減らすことができる。さらに、ビオチンは、ニッケルに比べ生体分子との非特異結合がほとんど生じない。これらのことは、最終的に作成するELISAプレートや磁性ビーズ、あるいはセンサーチップにおけるノイズの減少と、検出感度の上昇に繋がる。 本発明における「タマビジン」は、タマビジン1、タマビジン2、またはそれらの変異体を意味する。具体的には、本発明のタマビジンは典型的には、配列番号2もしくは配列番号4のアミノ酸配列を含んでなるタンパク質、または、配列番号1もしくは配列番号3の塩基配列を含んでなる核酸によってコードされるタンパク質、であってよい。あるいは、本発明のタマビジンは、配列番号2もしくは配列番号4のアミノ酸配列を含んでなるタンパク質、または、配列番号1もしくは配列番号3の塩基配列を含んでなる核酸によってコードされるタンパク質、の変異体であって、タマビジン1または2と同様のビオチン結合活性を有するタンパク質であってよい。本明細書において、タマビジン1、タマビジン2、およびそれらの変異体を総称して、単にタマビジンと呼ぶことがある。 タマビジン1または2の変異体は、配列番号2または4のアミノ酸配列において、1または複数のアミノ酸の欠失、置換、挿入および/または付加を含むアミノ酸配列を含んでなるタンパク質であって、タマビジン1または2と同様のビオチン結合活性を有するタンパク質であってもよい。置換は、保存的置換であってもよく、これは、特定のアミノ酸残基を類似の物理化学的特徴を有する残基で置き換えることである。保存的置換の非限定的な例には、Ile、Val、LeuまたはAla相互の置換のような脂肪族基含有アミノ酸残基の間の置換、LysおよびArg、GluおよびAsp、GlnおよびAsn相互の置換のような極性残基の間での置換などが含まれる。 アミノ酸の欠失、置換、挿入および/または付加による変異体は、野生型タンパク質をコードするDNAに、例えば周知技術である部位特異的変異誘発(例えば、Nucleic Acid Research, Vol.10, No. 20, p.6487-6500, 1982参照、引用によりその全体を本明細書に援用する)を施すことにより作成することができる。本明細書において、「1または複数のアミノ酸」とは、部位特異的変異誘発法により欠失、置換、挿入および/または付加できる程度のアミノ酸を意味する。また、本明細書において「1または複数のアミノ酸」とは、場合により、1または数個のアミノ酸を意味してもよい。 部位特異的変異誘発法は、例えば、所望の変異である特定の不一致の他は、変異を受けるべき一本鎖ファージDNAに相補的な合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いて次のように行うことができる。即ち、プライマーとして上記合成オリゴヌクレオチドを用いてファージに相補的な鎖を合成させ、得られた二重鎖DNAで宿主細胞を形質転換する。形質転換された細菌の培養物を寒天にプレーティングし、ファージを含有する単一細胞からプラークを形成させる。そうすると、理論的には50%の新コロニーが一本鎖として変異を有するファージを含有し、残りの50%が元の配列を有する。上記所望の変異を有するDNAと完全に一致するものとはハイブリダイズするが、元の鎖を有するものとはハイブリダイズしない温度において、得られたプラークをキナーゼ処理により標識した合成プローブとハイブリダイズさせる。次に該プローブとハイブリダイズするプラークを拾い、培養してDNAを回収する。 なお、生物活性ペプチドのアミノ酸配列にその活性を保持しつつ1または複数のアミノ酸の欠失、置換、挿入および/または付加を施す方法としては、上記の部位特異的変異誘発の他にも、遺伝子を変異源で処理する方法、および遺伝子を選択的に開裂し、次に選択されたヌクレオチドを除去、置換、挿入または付加し、次いで連結する方法もある。より好ましくは、本発明におけるタマビジンは、配列番号2又は配列番号4において1ないしは10個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、ビオチン活性を有するタンパク質である。 タマビジン1または2の変異体はさらに、配列番号2または4のアミノ酸配列と少なくとも60%以上、好ましくは65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上、より好ましくは99.3%以上のアミノ酸同一性を有するアミノ酸配列を含んでなるタンパク質であって、タマビジン1または2と同様のビオチン結合活性を有するタンパク質であってもよい。 2つのアミノ酸配列の同一性%は、視覚的検査および数学的計算によって決定してもよい。あるいは、2つのタンパク質配列の同一性パーセントは、Needleman, S. B. 及びWunsch, C. D. (J. Mol. Biol., 48: 443-453, 1970)のアルゴリズムに基づき、そしてウィスコンシン大学遺伝学コンピューターグループ(UWGCG)より入手可能なGAPコンピュータープログラムを用い配列情報を比較することにより、決定してもよい。GAPプログラムの好ましいデフォルトパラメーターには:(1)Henikoff, S. 及びHenikoff, J. G. (Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 10915-10919, 1992)に記載されるような、スコアリング・マトリックス、blosum62;(2)12のギャップ加重;(3)4のギャップ長加重;及び(4)末端ギャップに対するペナルティなし、が含まれる。 当業者に用いられる、配列比較の他のプログラムもまた、用いてもよい。同一性のパーセントは、例えばAltschulら(Nucl. Acids. Res., 25, p.3389-3402, 1997)に記載されているBLASTプログラムを用いて配列情報と比較し決定することが可能である。当該プログラムは、インターネット上でNational Center for Biotechnology Information(NCBI)、あるいはDNA Data Bank of Japan(DDBJ)のウェブサイトから利用することが可能である。BLASTプログラムによる同一性検索の各種条件(パラメーター)は同サイトに詳しく記載されており、一部の設定を適宜変更することが可能であるが、検索は通常デフォルト値を用いて行う。または、2つのアミノ酸配列の同一性%は、遺伝情報処理ソフトウエアGENETYX Ver.7(ゼネティックス製)などのプログラム、または、FASTAアルゴリズムなどを用いて決定してもよい。その際、検索はデフォルト値を用いてよい。 2つの核酸配列の同一性%は、視覚的検査と数学的計算により決定可能であるか、またはより好ましくは、この比較はコンピュータ・プログラムを使用して配列情報を比較することによってなされる。代表的な、好ましいコンピュータ・プログラムは、遺伝学コンピュータ・グループ(GCG;ウィスコンシン州マディソン)のウィスコンシン・パッケージ、バージョン10.0プログラム「GAP」である(Devereux, et al., 1984, Nucl. Acids Res., 12: 387)。この「GAP」プログラムの使用により、2つの核酸配列の比較の他に、2つのアミノ酸配列の比較、核酸配列とアミノ酸配列との比較を行うことができる。ここで、「GAP」プログラムの好ましいデフォルトパラメーターには:(1)ヌクレオチドについての(同一物について1、および非同一物について0の値を含む)一元(unary)比較マトリックスのGCG実行と、SchwartzおよびDayhoff監修「ポリペプチドの配列および構造のアトラス(Atlas of Polypeptide Sequence and Structure)」国立バイオ医学研究財団、353−358頁、1979により記載されるような、GribskovおよびBurgess, Nucl. Acids Res., 14: 6745, 1986の加重アミノ酸比較マトリックス;または他の比較可能な比較マトリックス;(2)アミノ酸の各ギャップについて30のペナルティと各ギャップ中の各記号について追加の1のペナルティ;またはヌクレオチド配列の各ギャップについて50のペナルティと各ギャップ中の各記号について追加の3のペナルティ;(3)エンドギャップへのノーペナルティ:および(4)長いギャップへは最大ペナルティなし、が含まれる。当業者により使用される他の配列比較プログラムでは、例えば、米国国立医学ライブラリーのウェブサイト:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/bls.htmlにより使用が利用可能なBLASTNプログラム、バージョン2.2.7、またはUW−BLAST2.0アルゴリズムが使用可能である。UW−BLAST2.0についての標準的なデフォルトパラメーターの設定は、以下のインターネットサイト:http://blast.wustl.eduに記載されている。さらに、BLASTアルゴリズムは、BLOSUM62アミノ酸スコア付けマトリックスを使用し、使用可能である選択パラメーターは以下の通りである:(A)低い組成複雑性を有するクエリー配列のセグメント(WoottonおよびFederhenのSEGプログラム(Computers and Chemistry, 1993)により決定される;WoottonおよびFederhen, 1996「配列データベースにおける組成編重領域の解析(Analysis of compositionally biased regions in sequence databases)」Methods Enzymol., 266: 544-71も参照されたい)、または、短周期性の内部リピートからなるセグメント(ClaverieおよびStates(Computers and Chemistry, 1993)のXNUプログラムにより決定される)をマスクするためのフィルターを含むこと、および(B)データベース配列に対する適合を報告するための統計学的有意性の閾値、またはE−スコア(KarlinおよびAltschul, 1990)の統計学的モデルにしたがって、単に偶然により見出される適合の期待確率;ある適合に起因する統計学的有意差がE−スコア閾値より大きい場合、この適合は報告されない);好ましいE−スコア閾値の数値は0.5であるか、または好ましさが増える順に、0.25、0.1、0.05、0.01、0.001、0.0001、1e−5、1e−10、1e−15、1e−20、1e−25、1e−30、1e−40、1e−50、1e−75、または1e−100である。 タマビジンの変異体については、ビオチン結合能に影響を及ぼさないことが求められる。ところで、ビオチン結合タンパク質の一つであるストレプトアビジンのビオチンポケットについては既に解明が進んでいる。このストレプトアビジンとタマビジン2のアミノ酸配列のホモロジーは50%程度に過ぎないが、発明者らは、タマビジン2のビオチンポケットについての知見を得るべく、タマビジン2とストレプトアビジンのアミノ酸配列を並列させて比較した。すると、ストレプトアビジンのビオチンポケットを形成するアミノ酸の中で、ビオチンと直接相互作用する残基N23、S27、Y43、S45、N49、W79、S88、T90、W92、W108、W120、D128(Weber et al. (1989)Science 243: 85−88、Livnah et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90: 5076−5080)は、TM2では各々、N14、S18、Y34、S36、D40、W69、S76、T78、W80、W96、W108、D116に該当し、非常によく保存されていることが見出された。 特に4つのトリプトファン残基(W69、W80、W96、W108)はビオチンポケットの構造に重要な役割を果たしていると考えられるため、改変されないことが望ましい。一方、ビオチンとの結合に関与すると考えられるその他のアミノ酸すなわち、TM2においては、ビオチンと直接相互作用すると考えられるアミノ酸残基(N14、S18、Y34、S36、S76、T78、D116)についても改変されないことが望ましい。あるいは、これらを改変する場合にはビオチンとの結合を維持できるよう、性質あるいは構造が類似したアミノ酸に改変することが望ましく、例えばアスパラギン(N14)の場合は、グルタミン(Q)やアスパラギン酸(D)へ、好ましくはアスパラギン酸へ、アスパラギン酸(D40)の場合は、アスパラギン(N)へ、セリン(S18、S36、S76)の場合は、スレオニン(T)あるいはチロシン(Y)へ、好ましくはスレオニンへ、チロシン(Y34)の場合は、セリン(S)やスレオニン(T)あるいはフェニルアラニン(F)へ、好ましくはフェニルアラニンへ、スレオニン(T78)の場合は、セリン(S)やチロシン(Y)へ、好ましくはセリンへ、アスパラギン酸(D116)の場合は、グルタミン酸(E)やアスパラギン(N)へ、好ましくはアスパラギンへ、それぞれ改変した変異体が望ましい。 タマビジン1または2の変異体はまた、配列番号1または3の塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件でハイブリダイズする塩基配列を含んでなる核酸によってコードされるタンパク質であって、タマビジン1または2と同様のビオチン結合活性を有するタンパク質であってもよい。 ここで、「ストリンジェントな条件下」とは、中程度または高程度にストリンジェントな条件においてハイブリダイズすることを意味する。具体的には、中程度にストリンジェントな条件は、例えば、DNAの長さに基づき、一般の技術を有する当業者によって、容易に決定することが可能である。基本的な条件は、Sambrookら,Molecular Cloning: A Laboratory Manual,第3版,第6章,Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001に示され、例えば5×SSC、0.5% SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の前洗浄溶液、約42℃での、約50%ホルムアミド、2×SSC−6×SSC、好ましくは5−6×SSC、0.5% SDS(または約42℃での約50%ホルムアミド中の、スターク溶液(Stark’s solution)などの他の同様のハイブリダイゼーション溶液)のハイブリダイゼーション条件、及び例えば、約50℃−68℃、0.1−6×SSC、0.1% SDSの洗浄条件の使用が含まれる。好ましくは中程度にストリンジェントな条件は、約50℃、6×SSC、0.5% SDSのハイブリダイゼーション条件(及び洗浄条件)を含む。高ストリンジェントな条件もまた、例えばDNAの長さに基づき、当業者によって、容易に決定することが可能である。 一般に、こうした条件は、中程度にストリンジェントな条件よりも高い温度及び/又は低い塩濃度でのハイブリダイゼーション(例えば、0.5%程度のSDSを含み、約65℃、6×SSCないし0.2×SSC、好ましくは6×SSC、より好ましくは2×SSC、より好ましくは0.2×SSC、あるいは0.1×SSCのハイブリダイゼーション)及び/又は洗浄を含み、例えば上記のようなハイブリダイゼーション条件、及びおよそ65℃−68℃、0.2ないし0.1×SSC、0.1% SDSの洗浄を伴うと定義される。ハイブリダイゼーションおよび洗浄の緩衝液では、SSC(1×SSCは、0.15M NaClおよび15mM クエン酸ナトリウムである)にSSPE(1×SSPEは、0.15M NaCl、10mM NaH2PO4、および1.25mM EDTA、pH7.4である)を代用することが可能であり、洗浄はハイブリダイゼーションが完了した後で15分間ないし1時間程度行う。 また、プローブに放射性物質を使用しない市販のハイブリダイゼーションキットを使用することもできる。具体的には、ECL direct labeling & detection system(Amersham社製)を使用したハイブリダイゼーション等が挙げられる。ストリンジェントなハイブリダイゼーションとしては、例えば、キット中のhybridization bufferにBlocking試薬を5%(w/v)、NaClを0.5Mになるように加え、42℃で4時間行い、洗浄は、0.4% SDS、0.5xSSC中で、55℃で20分を2回、2xSSC中で室温、5分を一回行う、という条件が挙げられる。 タマビジン1または2の変異体のビオチン結合活性は、公知の手法のいずれかにより測定することが可能である。例えば、Kadaら(Biochim. Biophys. Acta., 1427: 33-43 (1999))に記載されるように蛍光ビオチンを用いる方法により測定してもよい。この方法は、ビオチン結合タンパク質のビオチン結合サイトに蛍光ビオチンが結合すると、蛍光ビオチンの蛍光強度が消失する性質を利用したアッセイ系である。あるいは、表面プラズモン共鳴を原理としたバイオセンサーなど、タンパク質とビオチンの結合を測定することが可能なセンサーを用いて、変異体タンパク質のビオチン結合活性を評価することもできる。 本発明の好ましい態様において、タマビジンは、 (a)配列番号2又は配列番号4において1又はそれより多くのアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ビオチン結合活性を有するタンパク質;又は (b)配列番号2又は配列番号4と同一性が60%以上のアミノ酸配列からなり、かつ、ビオチン結合活性を有するタンパク質;又は (c)配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列からなるタンパク質;又は (d)配列番号1又は3の塩基配列の相補鎖に、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によってコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、ビオチン結合活性を有するタンパク質から選択される。 タンパク質 タマビジンの相手として融合させるタンパク質は、特に限定されないが、例えば、抗体、抗原タンパク質、各種酵素、レクチン、ペプチド、あるいはプロテインA、プロテインG、プロテインLなどが挙げられる。抗体としては、IgGの他、scFvやFab等の抗原結合部位を含む抗体断片が、抗原タンパク質としては、B型・C型肝炎ウイルス、HIV、インフルエンザ等のウイルス由来のタンパク質や、ヘリコバクター・ピロリ等の細菌由来のタンパク質、あるいはCEA、PSA等の腫瘍マーカー、性ホルモンなどが挙げられる。また、酵素としては、ペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、ピラノースオキシダーゼ、シトクロムP−450、カタラーゼ等の酸化還元酵素、アルカリフォスファターゼ等の脱リン酸化酵素、PPDK等のリン酸化酵素、シアル酸転移酵素などの糖転移酵素、CMP−シアル酸合成酵素などの糖ヌクレオチド合成酵素、アシル基転移酵素、アミノ基転移酵素、パパインやトロンビンなどのタンパク質分解酵素、制限酵素などのヌクレアーゼ、PLD等の脂質分解酵素、アミラーゼ,リゾチーム,β‐ガラクトシダーゼ等の糖質分解酵素、ホスホグリセリン酸ホスホムターゼ、グルコース6−リン酸イソメラーゼ等の異性化酵素、ルシフェラーゼ、DNA/RNAポリメラーゼ、ATP合成・加水分解酵素などが挙げられる。レクチンは、糖結合性タンパク質であり、マンノース特異的レクチン、GalNAc特異的レクチン、GlcNAc特異的レクチン、フコース特異的レクチン、シアル酸特異的レクチンなどの単糖特異的レクチン、オリゴ糖特異的レクチンなどが挙げられる。更にペプチドとしては、2〜100アミノ酸からなるもの、好ましくは2〜50アミノ酸からなるもの、より好ましくは2〜30アミノ酸からなるものが、例として挙げられるが、これらに限定されるものではない。 タマビジン融合タンパク質 タマビジン融合タンパク質は、タマビジンと上記のタンパク質との融合タンパク質を意味する。タマビジン融合タンパク質の準備の方法は特に限定されず、例えば公知の遺伝子工学的手法を用いて発現させてもよい。例えば、タマビジンと所望のタンパク質との融合タンパク質をコードする遺伝子を、大腸菌等の発現システムを用いて発現することによって取得することができる。 タマビジン融合タンパク質において、タマビジンとタンパク質は直接結合していてもよく、あるいはリンカーを介して結合していてもよいが、アミノ酸のリンカーを介した結合が好ましい。このリンカーの長さは、少なくとも1アミノ酸以上であればよいが、好ましくは5アミノ酸以上、さらに好ましくは6アミノ酸以上である。また、担体と結合しているビオチンとタマビジンとの結合力を一層向上させるためには、好ましくは10アミノ酸以上、より好ましくは12アミノ酸以上、15アミノ酸以上、18アミノ酸以上、更に好ましくは25アミノ酸以上である。また、このようなリンカーはタマビジン融合タンパク質の活性をも向上させると推測される。このリンカーを構成するアミノ酸は特に限定されないが、好ましくは、グリシン、セリン、あるいはアラニンのような中性アミノ酸の繰り返しからなる。例えば、これらに限定されないが、GGGGS、GGSGG、GASAG、GSGAA、GSGSA、GGGGSG、GGGSGGS、GGSGGGGS、AAAAGSGAA、GGGGSGGGGSGGGGS、GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号52−62)などが挙げられる。 またタマビジンは、所望のタンパク質のN末端側、もしくはC末端側のどちらに結合させても良い。また所望のタンパク質を発現させるにあたり、例えば大腸菌の細胞質よりもペリプラズム空間の方が適する場合には、ペリプラズムに標的するためのリーダー配列を用いても良い。このようなリーダー配列として、PelB(Lei et al. (1987) J Bacteriol 169: 4379-4383)やOmpA(Gentry-Weeks et al. (1992) J Bacteriol 174: 7729-7742)等があるが、これらに限定されるものではない。 また、融合タンパク質の例えばC末端に、後の精製や検出用のタグを付加しても良い。このようなタグとして例えば、c-mycエピトープタグ(Munro and Pelham (1986) Cell 46: 291-300)やヒスチジンタグ(Hochuli et al (1988) Bio/Technol 6: 1321-1325、Smith et al. (1988) J Biol Chem 263: 7211-7215)等があるが、これらに限定されるものではない。 タマビジン融合タンパク質が可溶性画分から得られる場合は、粗タンパク抽出液を後述のビオチン化担体と接触させ、融合タンパク質をビオチン化担体に結合させてもよい。これをその後十分に洗浄することで、融合タンパク質の精製と担体への固定化が一度でできる。あるいはイミノビオチン等(Hofmann et al. (1980) Proc Natl Acad Sci USA 77: 4666-4668)のビオチン類縁体の結合したカラムを用いて精製してから、ビオチン化担体に結合させることもできる。 融合タンパク質が不溶性画分から得られる場合は、例えば尿素や塩酸グアニジンのようなカオトロピック塩を用いて、一度タンパク質を可溶化し、その後透析等を用いて、カオトロピック塩を徐々に抜きながら、タンパク質のリフォルディング(refolding)を促す、公知の方法が取られる(Sano and Cantor (1991) Bio/Technology 9: 1378-1381、Sano et al. (1992) Proc Natl Acad Sci USA 89: 1534-1538)。 あるいはまた、所望のタンパク質が大腸菌内で不溶性画分に発現する場合、例えば、マルトース結合タンパク質(Bach et al. (2001) J Mol Biol 312: 79-93)や、チオレドキシン(Jurado et al. (2006) J Mol Biol 357: 49-61)、グルタチオンSトランスフェラーゼ(Tudyka and Skerra (1997) Protein Sci 6: 2180-2187)、あるいはIdeno et al (2004) Appl Microbiol Biotechnol 64: 99-105に記載されているようなシャペロン類を共発現させるか、もしくは融合タンパク質にさらにシャペロンを融合させた3連融合タンパク質を作製してもよい。 なお、融合タンパク質の発現システムとして、昆虫細胞や植物細胞、哺乳類細胞、酵母細胞、無細胞発現系など、他の公知の発現系で発現させてもよい。特に融合相手のタンパク質が植物細胞で発現する場合は、当該融合タンパク質も植物細胞の発現系で発現させることが好ましい。当業者は、融合相手のタンパク質の性質を考慮し適切な発現系を選択することが可能である。 ビオチンを結合させた担体 「ビオチン」とは、D−[(+)−cis−ヘキサヒドロ−2−オキソ−1H−チエノ−(3,4)−イミダゾール−4−吉草酸]の一般名称である。ビタミンB群に分類される水溶性ビタミンの一種で、Vitamin B7(ビタミンB7)とも呼ばれる、あるいは、ビタミンH、補酵素Rとも言われることもある。ビオチンは卵白中に含まれる糖タンパク質の一種、アビジンと非常に強く結合し、その吸収が阻害される。そのため、生卵白の大量摂取によってビオチン欠乏症を生じることがある。 本明細書中において「ビオチン」とは、上記ビオチンの他、イミノビオチン(iminobiotin)(Hofmann et al. (1980) Proc Natl Acad Sci USA 77:4666−4668)や、デスチオビオチン(desthiobiotin)(Hirsch et al. (2002) Anal Biochem 308: 343−357)、あるいはビオシチン(biocytin)やBiotin sulfoxide等のビオチン類縁体も含む。 ビオチン−アビジン複合体を用いたシステムは、組織免疫学やDNA分析、臨床検査などの分野で広く利用されている。本発明のタンパク質を担体に結合する方法は、タマビジンに所期のタンパク質を結合させた融合タンパク質を、ビオチン−タマビジン結合を利用して、担体に結合させるものである。本発明の方法では、従来のビオチン−アビジン結合を利用した結合と比較して、タンパク質の機能を損なうことなく、遥かに効率良く作用させることが可能になる。 固体担体を構成する材料は、セルロース、テフロン、ニトロセルロース、アガロース、デキストラン、キトサン、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリプロピレン、ナイロン、ポリジビニリデンジフルオライド、ラテックス、シリカ、ガラス、ガラス繊維、金、白金、銀、銅、鉄、ステンレススチール、フェライト、シリコンウエハ、ポリエチレン、ポリエチレンイミン、ポリ乳酸、樹脂、多糖類、タンパク(アルブミン等)、炭素またはそれらの組合せ、などを含むがこれらに限定されない。また、一定の強度を有し、組成が安定し、かつ非特異結合が少ないものが好ましい。 固体担体の形状は、ビーズ、磁性ビーズ、薄膜、微細管、フィルター、プレート、マイクロプレート、カーボンナノチューブ、センサーチップなどを含むがこれらに限定されない。薄膜やプレートなどの平坦な固体担体は、当該技術分野で知られているように、ピット、溝、フィルター底部などを設けてもよい。 発明の一態様において、ビーズは、約25nm〜約1mmの範囲の球体直径を有しうる。好ましい態様では、ビーズは約50nm〜約10μmの範囲の直径を有する。ビーズのサイズは特定の適用に応じて選択されうる。いくらかの細菌スポアは約1μmのオーダーのサイズを有するので、かかるスポアを捕捉するための好ましいビーズは1μmよりも大きい直径を有する。 ビオチン化されたマイクロプレートとしては、例えば、Reacti-BindTM Biotin Coated Polystyrene Plates(PIERCE社製)を利用できるが、これに限定されるものではない。ビオチン化された微小ビーズとしては、例えば、磁性ビーズとして、BioMag Biotin(Polysciences社製)が、ナノ磁性ビーズとして、コアフロント社製のnanomag(登録商標)-D biotin、nanomag(登録商標)-silica biotinが、ポリスチレン製マイクロビーズとして、Beadlyte(登録商標) Biotin Beads(Upstate社製)が、アガロースとしてSigma社製の、Biotin Agarose、2-iminobiotin-Agaroseが、高架橋アガロースとして、Biotin-Sepharose(バイオリサーチテクノロジー社製)を利用できるが、これらに限定されるものではない。 ビオチン化試薬として例えば、PIERCE社製の(カッコ内は順にリンカー長、反応基) EZ-Link(登録商標) Sulfo-NHS-Biotin(13.5Å、1級アミン)、EZ-Link(登録商標) Sulfo-NHS-LC-Biotin(22.4Å、1級アミン)、EZ-Link(登録商標) Sulfo-NHS-LCLC-Biotin(30.5Å、1級アミン)、EZ-Link(登録商標) PFP-Biotin(9.6Å、アミン)、EZ-Link(登録商標) Maleimide-PEO2-Biotin(29.1Å、チオール基)、EZ-Link(登録商標) Biotin-PEO2 Amine(20.4Å、カルボキシル基)、EZ-Link(登録商標) Biotin-PEO3-LC Amine(22.9Å、カルボキシル基)、EZ-Link(登録商標) Biotin-Hydrazide(15.7Å、アルデヒド基)、EZ-Link(登録商標) Biotin-LC-Hydrazide(24.7Å、アルデヒド基)、EZ-Link(登録商標) NHS-Iminobiotin(13.5Å、1級アミン)などを利用できるが、これらに限定されるものではない。 上記ビオチン化試薬を用いて、マイクロプレート、微小ビーズ、あるいはセンサーチップなど所望の担体に、公知の方法を使用してビオチンを結合させることができる。例えば、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、トシル基、エポキシ基、マレイミド基、活性化エステルなど種々の官能基を持つ担体(例えば磁性ビーズ、セファロースビーズ、アガロースビーズ、ラテックスビーズ、マイクロタイタープレートなど)を用いる方法がある。この場合例えば、NHSエステルを含むビオチン化試薬を用いる場合は、DMSO(demethylsulfoxide)のような有機溶媒か、pH7−9のリン酸緩衝液で溶解し、アミノ基を持つ固定化担体に添加することによってビオチンを結合させることができる。また、例えばアミノ基を含むビオチン化試薬を用いる場合は、EDC(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride)のようなカルボジイミドを用いて固定化担体のカルボキシル基を活性化エステルに変換させた後、pH5付近の緩衝液で溶解したビオチン化試薬を添加して、ビオチンを結合させてもよい。なお、ビオチン化した固定化担体は、好ましくは未反応の官能基を不活性化した後、BSAなどでブロッキングする。 後述の実施例3では、リンカー長が13.5Åの磁性ビーズにはHEL scFv-TM2は全く結合しなかったが、22.4Åの磁性ビーズには72%のHEL scFv-TM2が結合し、30.5Åの磁性ビーズには77%のHEL scFv-TM2が結合した。また、実施例4ではタマビジン2とシアル酸転移酵素の融合タンパク質について、リンカーの長さが30.5Åの場合は、融合タンパク質は、ビオチンとの特異的な結合を示した。よって、担体とビオチンと繋ぐリンカーの長さは、少なくとも13.5Åより長いことが好ましく、より好ましくは15Å以上、15.7Å以上、17Å以上、20Å以上、20.4Å以上、22.4Å以上、22.5Å以上、さらにより好ましくは30.5Å以上である。 タンパク質を担体に結合させる方法 本発明の方法は、ビオチンを結合させた担体とタマビジン融合タンパク質を準備し、両者を接触させ、タマビジン−ビオチン結合を介して担体にタンパク質を結合させることを含むものである。 結合担体 本発明はさらに、上述した本発明の「タンパク質を担体に結合させる方法」によって得られるタマビジン融合タンパク質結合担体も提供する。即ち、本発明によって提供される担体は、ビオチンを結合させた担体に、タマビジンにタンパク質を結合させた融合タンパク質をタマビジン−ビオチン結合を介して結合させた、タマビジン融合タンパク質結合担体である。 発現ベクター タマビジン融合タンパク質を発現させるための発現ベクターは、本発明のタマビジンをコードする核酸を含む。本発明のタマビジンをコードする核酸は、「タマビジン」の項目で上述したタマビジンタンパク質をコードする核酸であれば、特に限定されない。例えば、配列番号1または3の塩基配列からなる核酸、またはそれらの相補鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつビオチン結合活性を有するタンパク質をコードする核酸(以下すべてを合わせて「タマビジン遺伝子」という。)を含む。さらに、その片側もしくは両端に、タマビジンと融合させる所望のタンパク質をコードする遺伝子を挿入するための配列、例えば制限酵素認識部位や、あるいはaatB1、 aatB2,、aatB3などのGatewayシステム(Invitrogen社)で用いられる配列などを有し、さらにタマビジン遺伝子と、所望のタンパク質をコードする遺伝子を挿入するための配列からなるユニット(例えば、制限酵素認識部位配列-タマビジン遺伝子配列、という並びのユニット)の上流には所望の宿主で機能するプロモーターが、またそのユニットの下流にはターミネーターが配置されることを特徴とする。なお、制限酵素認識部位の種類は特に限定されないが、発現ベクターにおいては、それが唯一の認識部位であることが好ましい。認識部位の数も特に限定されないが、1または2個以上であり、好ましくは10個以下である。 なお、制限酵素部位やaatB配列とタマビジン遺伝子配列の間には、1アミノ酸以上、好ましくは5アミノ酸以上、更に好ましくは10アミノ酸以上、更に好ましくは25アミノ酸以上であり、50アミノ酸以下のリンカーアミノ酸配列(特に限定されないが、グリシンやセリンを多く含む配列など、当業者が通常使用する配列でよい)をコードする核酸配列を配置してもよく、また特に限定されないが、例えばFactor Xa等のようなプロテアーゼの認識部位をコードする配列を配置してもよい。また、例えばscFvやFab等の抗体遺伝子を本発現ベクターに挿入する場合において、融合タンパク質の発現に細胞質内部のような還元条件が適さないときには、プロモーターと、タマビジン遺伝子及び所望タンパク質遺伝子を挿入するための配列からなるユニットとの間に、シグナルペプチドや分泌シグナルなどのような、リーダーペプチドをコードする核酸配列を含んでもよい。 本発現ベクターは、このような発現ユニットの他に、所望の宿主で複製できるためのユニット、例えば複製開始点を有し、また所望の宿主細胞を選抜するための、薬剤抵抗性マーカー遺伝子を有してもよい。宿主は特に限定されないが、好ましくは大腸菌である。また、本発現ベクターに、例えば、大腸菌におけるラクトースリプレッサー系のような適当な発現制御系を組み込んでもよい。 タンパク質の精製方法 上記の発現ベクターを用いて、タンパク質を簡便に精製することができる。まず、所望のタンパク質をコードする遺伝子を、上記ベクターに常法のクローニング技術によって組み込み、所望の宿主に発現させる。宿主は、所望のタンパク質が発現する宿主が好ましい。発現は例えば、宿主が大腸菌、昆虫細胞、哺乳類細胞、植物細胞、酵母細胞の場合は、培養によって行ってもよく、また例えば宿主が植物の場合には、植物体中に融合タンパク質を発現、蓄積させてもよい。 次に、融合タンパク質が発現した細胞や生体組織を適当な緩衝液中で破砕し、タンパク質を抽出する。得られたタンパク質抽出液へビオチン化した担体を接触させ、融合タンパク質中のタマビジンとビオチンとの強い結合を利用して、担体−ビオチン−タマビジン−所望のタンパク質、という複合体を形成させる。その後、担体の性質を利用して、例えば磁性ビーズであれば磁石、そうでなければ例えば遠心によって、上記複合体を回収し、上清に存在するビオチン化担体と結合しなかった画分を廃棄する。さらに、上記複合体を適当な緩衝液(例えば0.5M〜2M程度の濃度のNaClなどを含んでもよい)で数回洗浄する。最後に、ビオチン溶液、低pH(pH1.5〜4程度)の緩衝液、あるいは熱処理(85℃〜95℃程度が好ましい)によって、ビオチン−タマビジン結合を解離させ、所望のタンパク質を精製する。 以上のようにして、タマビジンの例えば大腸菌における高い発現性を利用して、宿主細胞の中で効率的に融合タンパク質を合成することができ、かつタマビジンとビオチンの強い結合を利用することで、比較的厳しい条件での洗浄操作が可能となり、タマビジン融合タンパク質をワンステップで精製することが可能となる。なお、タマビジンと所望のタンパク質の間にプロテアーゼ認識配列を配置した場合には、融合タンパク質をそのプロテアーゼで処理することにより、タマビジンを切り離し、所望のタンパク質だけを得ることができる。この場合、上記複合体を洗浄した後に、プロテアーゼ処理を行って、担体を回収することで、タンパク質精製をより効率的に行うことができる。また、イミノビオチン等のビオチン類縁体が結合した担体を使用しても、上記と同様にタマビジン融合によるタンパク質精製に使用することが可能である。 以上のようにして、タマビジン融合遺伝子を構築し、適当な発現系を用いて同融合タンパク質を発現させ、発現タンパク質を、表面にビオチンを結合させた担体を用いて精製・固定化を同時におこなうことにより、タマビジンを含む融合タンパク質を結合させた担体を製造することができる。あるいは発現タンパク質を、ビオチン類縁体を用いて精製した後に、表面にビオチンを結合させた担体に固定化し、タマビジンを含む融合タンパク質を結合させた担体を製造することができる。これらの担体は、タンパク質を従来の方法で固定化した場合と比べ、強固な力で固定でき、かつ当該タンパク質の機能を損なうことなく、効率的に作用させることができる。図1は、タマビジン2と抗体scFv断片との融合タンパク質の発現を示す。PelB-HELscFv-TM2/pTrc99A、あるいはPelB-HELscFv-myc/pTrc99Aが組み込まれた大腸菌を発現誘導し、粗タンパク質液を調製し、ウェスタンブロット分析を行った。 AはHELscFv-TM2、BはHELscFv-mycの結果を示す。Sは可溶性画分、ISは不溶性画分を示す。1次抗体として、HELscFv-TM2には抗TM2抗体を、HELscFv-mycには抗c-mycエピトープ抗体を用い、2次抗体としてアルカリフォスファターゼ標識抗体を用いた。発現ベクターpTrc99Aのみを持つ大腸菌から、同様に調製した画分を対照とした。図2は、タマビジン2とシアル酸転移酵素との融合タンパク質の発現を示す。ISH224-2,6ST-linkTM2/pTrc99Aが組み込まれた大腸菌を発現誘導し、粗タンパク質液を調製、SDS-PAGE後にCBB染色(A)、並びにウェスタンブロット分析(B)を行った(レーン2と4)。1次抗体として抗TM2抗体を、2次抗体としてアルカリフォスファターゼ標識抗体を用いた。発現ベクターpTrc99Aのみを持つ大腸菌から同様に調製した画分を対照とした(レーン1と3)。発現したISH224-2,6ST-linkTM2タンパク質のバンドを矢印で示した。図3は、タマビジン2との融合によるシアル酸転移酵素の簡易精製と固定化を示す。ISH224-2,6ST-TM2融合タンパク質をビオチン化磁性ビーズと反応させ、精製と固定を同時に行った。精製度を調べるため、融合タンパク質を熱処理(Boil)、またはビオチン処理(Biotin)により、ビーズから解離させた。AはSDS-PAGE後のCBB染色、Bはウェスタンブロット分析の結果を示す。pTrcは発現ベクターのみの大腸菌由来サンプル、SはISH224-2,6ST-linkTM2のビーズへの結合前サンプル、Nは非結合画分、Wは洗浄画分、TM2は精製タマビジン2を示す。X1、X5はそれぞれ、1倍、5倍濃縮を示す。融合タンパク質の位置を矢印で示した。図4はタマビジン2とレクチン(SBA)との融合タンパク質のSBA活性を示す。SBA-1xlink-TM2を導入したタバコ培養細胞BY2から粗タンパク質液を調製し、粗精製した画分の赤血球凝集活性を測定した。対照(control)としてpSB24を導入したBY2細胞の粗精製画分を用いた。図5は、タマビジン2とレクチン(SBA)の融合タンパク質の簡易精製を示す。レクチン-TM2融合タンパク質をD-GalNAc agaroseと反応させ、精製を行った。AはSDS-PAGE後のCBB染色、Bはウェスタンブロット分析の結果を示す。ControlはpSB24ベクターを用いて形質転換を行ったBY2細胞のサンプルを示す。融合タンパク質の位置を矢印で示した。図6は、タマビジン2とプロテインAとの融合タンパク質の簡易精製を示す。spa-TM2融合タンパク質をIgG sepharoseTM 6 Fast Flow (GE Healthcare社製)と反応させ、精製を行った。AはSDS-PAGE後のCBB染色、Bはアルカリフォスファターゼ標識ウサギIgG抗体を用いたウェスタンブロット分析の結果を示す。Controlは発現ベクターのみの大腸菌由来サンプル、SA-7はspa(SA)ΔC-1xlink-TM2、MW-9はspa(SA)ΔC-1xlink-TM2を示す。融合タンパク質の位置を矢印で示した。図7は、TM2-1xlink-EK-MCS-His/pTrc99Aのプラスミドマップを示す。図8は、TM2-3xlink-EK-MCS-His/pTrc99Aのプラスミドマップを示す。図9は、TM2-5xlink-EK-MCS-His/pTrc99Aのプラスミドマップを示す。図10は、His-MCS-EK-1xlink-TM2/pTrc99Aのプラスミドマップを示す。図11は、His-MCS-EK-3xlink-TM2/pTrc99Aのプラスミドマップを示す。図12は、His-MCS-EK-5xlink-TM2/pTrc99Aのプラスミドマップを示す。 以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の技術的範囲を限定するためのものではない。当業者は本明細書の記載に基づいて容易に本発明に修飾・変更を加えることができ、それらは本発明の技術的範囲に含まれる。 実施例1.タマビジンと抗体との融合タンパク質 本実施例では、タマビジン2と抗体(HEL抗体scFv断片)との融合タンパク質を大腸菌で発現させ、担体としてのプレートに、タマビジン−ビオチン結合により固定化させた。また、抗体の抗原との結合活性を調べた。対照として、抗体を疎水結合により直接プレートに固定化させた。以下、具体的に説明する。 1−1.HEL抗体scFv断片 タマビジン2(TM2)とマウス抗ニワトリ卵白リゾチーム(HEL)抗体(D1.3)のscFv断片を用いてタマビジンと抗体との融合タンパク質を作製した。HEL(D1.3)scFv抗体断片の遺伝子(Iba et al. (1997) Gene 194: 35-46、Ideno et al. (2004) Appl Microbiol Biotechnol 64: 99-105)は積水化学工業(株)井手野晃氏から譲り受けた。 発現は大腸菌で行い、発現ベクターはタグなしのベクターpTrc99A(Pharmacia社製)を用いた。HELscFvの単独発現には、HELscFvのC末にc-mycエピトープタグ(アミノ酸配列:EQKLISEEDL、Munro and Pelham (1986) Cell 46: 291-300)を導入した。融合タンパク質はHELscFvのC末側にTM2が来るように設計した。この時、TM2とHELscFvの間のリンカー(アミノ酸配列:GGGGSG)を挿入した。また、HELscFv-myc融合タンパク質及びHELscFv-TM2融合タンパク質を、ペリプラズム空間へ標的するために、PelBリーダーペプチド(Lei et al. (1987) J Bacteriol 169: 4379-4383)をそれらのN末端に組み込んだ。 1−1−1.タマビジン2とHELscFvの融合タンパク質発現用ベクター及びHELscFv発現用ベクターの構築 HEL抗体(D1.3)scFv断片の遺伝子の構造は、5’側にVH遺伝子断片、3’側にVL遺伝子断片が配置され、それらはGly-Gly-Gly-Gly-Serの3反復からなるリンカーをコードするDNAによって連結されている。PCRを用いて、TM2の配列をscFv抗体のC末に接続させた融合タンパク質(PelB-HELscFv-TM2)(配列番号10)と、c-mycエピトープタグをscFv抗体のC末に接続させたタンパク質(PelB-HELscFv-myc)(配列番号9)をコードする遺伝子を構築した。 プライマーの設計 PelB-HELscFv-TM2融合遺伝子の構築のために、まず、HELscFv、TM2両遺伝子をリンカー(GGGGSG)を介し結合させるためのプライマーを設計した。即ち5’側にHELscFv部分、中央にリンカー、3’側にTM2部分からなるプライマーHELscFvlinkTM2 RV、 5’側にリンカー、3’側にHELscFv部分を逆向きにコードするDNA配列からなるプライマーHELscFvlinkFWを設計した。 次にHELscFv遺伝子の5’部分と、その上流にBspH I制限酵素切断部位(TCATGA)とPelBリーダーペプチド部分をコードする配列とからなるプライマーPelB-HELscFv-VH-F 、また、TM2遺伝子の3’部分と、その下流にBamH I制限酵素切断部位(GGATCC)をコードする配列とからなるプライマーTM2-3’Bamを設計した。また、PelB-HELscFv-myc遺伝子の構築用には、上記PelB-HELscFv-VH-Fと、HELscFv遺伝子の3’部分と、その下流にc-mycエピトープタグとBamH I制限酵素切断部位(GGATCC)をコードする配列とからなるプライマーHELscFv-VL-myc-Rを設計し、使用した。タマビジンとHELscFv抗体との融合タンパク質構築用プライマーを表1にまとめた。 PCR PelB-HELscFv-TM2遺伝子の遺伝子を構築するために、2段階のPCRを行った。1段階目のPCRは、HEL(D1.3)scFv抗体断片の遺伝子がベクターpT7に組み込まれたプラスミドを鋳型にして、プライマー PelB-HELscFv-VH-FとHELscFvlinkFWを用いてHELscFv部の増幅を、また、TM2遺伝子がベクターpTrc99Aに組み込まれたプラスミド(WO02/072817)を鋳型にしてプライマーHELscFvlinkTM2 RVとTM2 3’Bamを用いて、TM2部の増幅を、それぞれ行った。PCR反応条件は、50 μLの反応液中に鋳型DNAを500 ng、2×GC bufferII(Takara社)を25 μL、2.5 mM dNTPを4 μL、プライマーを各25 pmoles、5 U/μL Pyrobest DNA polymerase(Takara社製)を 0.5 μL添加し、プログラムテンプコントロールシステムPC-700(ASTEK)を用いて、96℃ 3分を1回、96℃ 1分、55℃ 1分、72℃ 2分を30回、72℃ 6分を1回とした。その結果、HELscFv部分においては860 bp、TM2部分においては450 bpのPCR産物が得られた。これらのPCR産物を、低融点アガロース(SeaPlaqueGTG)を用いてTAE緩衝液中でアガロース電気泳動を行った。各DNA断片をゲルごと切り出し、ゲルと等量の200 mM NaClを加え、70℃で10分間処理し、ゲルを融解した。得られたサンプルについて、フェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出、クロロホルム抽出を各1回行い、エタノール沈殿によってHELscFv部分とTM2部分のDNA断片を回収した。 これら2つの断片を鋳型にして、プライマーPelB-HELscFv-VH-FとTM2 3’Bamを用いて、2段階目のPCRを行った。反応条件は1段階目と同様とした。その結果、約1300 bpのPCR産物(PelB-HELscFv-TM2遺伝子断片)(配列番号7)が得られた。次に、PelB-HELscFv-myc遺伝子を構築するために、HEL(D1.3)scFv抗体断片の遺伝子がベクターpT7に組み込まれたプラスミドを鋳型にして、プライマー PelB-HELscFv-VH-FとHELscFv-VL-myc-Rを用いて、上記と同じ条件でPCRを行った。その結果、約880 bpのPCR産物(PelB-HELscFv-myc遺伝子断片)(配列番号6)が得られた。 クローニング PCRによって得られたPelB-HELscFv-TM2遺伝子断片及びPelB-HELscFv-myc遺伝子断片をベクターpCR4 Blunt TOPO(Invitrogen社製)にクローニングした。ライゲーション反応はベクターキット添付の説明書きに従った。大腸菌TB1にエレクトロポレーション法を用いてDNAを導入し、常法(Sambrook et al. 1989, Molecular Cloning, A laboratory manual, 2nd edition)に従ってプラスミドDNAを抽出した。インサートが確認されたクローンに関して、M13プライマー(Takara社)を用いて、ABI PRISM蛍光シークエンサー(Model 310 Genetic Analyzer, Perkin Elmer社)でPCR産物の塩基配列をその両端から決定し、もとの遺伝子と比較して変異がないことを確認した。これらの遺伝子が組み込まれたプラスミドをBspH IとBamH Iで二重消化し、前述の方法でゲル精製を行い、DNA断片を回収した。この断片を、あらかじめNcoIとBamH Iで消化しておいた大腸菌発現用ベクターpTrc99Aに、Ligation kit(Takara社製)を用いてライゲーションした。ライゲーション産物を大腸菌TB1に形質転換し、常法に従いプラスミドDNAを抽出、制限酵素分析を行い、挿入遺伝子の有無を確認して、タマビジン2とHELscFvの融合タンパク質発現用のベクターPelB-HELscFv-TM2/pTrc99AとHELscFv発現用のベクターPelB-HELscFv-myc/pTrc99Aを完成させた。 1−1−2.タマビジン2とHELscFvの融合タンパク質、及びHELscFvの発現と粗精製 タマビジン2との融合によるscFv抗体の基板への固定化の効果を調べるため、まずタマビジン2とHELscFvの融合タンパク質およびHELscFvを大腸菌で発現させ、粗精製した。 大腸菌発現 PelB-HELscFv-TM2/pTrc99AとPelB-HELscFv-myc/pTrc99Aについて、それぞれを形質転換した大腸菌 TB1を、抗生物質アンピシリン(最終濃度 100 μg/mL)を含むLB培地6 mLに接種し、OD600における吸光度が0.5に達するまで37℃で振とう培養した。その後、1mM IPTGを添加し、さらに37℃で一晩振とう培養した。培養液1mLから遠心にて大腸菌を集菌し、20 mM リン酸緩衝液(pH7)400 μL中に懸濁後、菌体を超音波により破砕した。破砕液を遠心(15000rpm)し、その上清を可溶性画分とした。さらに、沈殿物を8 M 尿素を含む20 mM リン酸緩衝液(pH7) 400 μLで懸濁後、再び超音波破砕し、これを不溶性画分とした。 HELscFv-TM2およびHELscFv-mycの可溶性画分と不溶性画分についてウエスタンブロッティング解析を行った。1次抗体としてHELscFv-TM2にはウサギ抗TM2抗体(後述の「ウサギ抗TM2抗体の精製」を参照)を、HELscFv-mycにはウサギ抗c-mycエピトープ抗体(BETHYL社製)を用いた。さらに、2次抗体としてアルカリフォスファターゼ標識抗ウサギ IgG抗体(BIO-RAD社製)を用いた。結果を図1に示す。HELscFv-TM2発現大腸菌からは、40 kDa付近にバンドが検出され、HELscFv-myc 発現大腸菌からは27 kDa付近にバンドが検出された。これらのサイズは、HELscFv-TM2、HELscFv-mycのアミノ酸配列から予測される分子量(それぞれ、43kDa、29kDa)とほぼ一致した。また、大腸菌で発現しているHELscFv-TM2およびHELscFv-mycのうち、可溶化しているタンパク質の割合はおよそ40%であり、培養液1L当たりの可溶性タンパク質の発現量は、HELscFv-TM2が120μg、HELscFv-mycが128μgであった。HELscFv-TM2、HELscFv-mycのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号10、9で示す。 ウサギ抗TM2抗体の精製 大腸菌で発現させたタマビジン2(TM2)タンパク質をイミノビオチンカラムで精製したもの(タマビジン2は四量体)、及び、これをさらにSDS−PAGE電気泳動後、ゲルから切り出し精製したもの(タマビジン2は単量体)を抗原に用い、ウサギに免疫することで二種類の抗体を作成した。アルカリフォスファターゼ標識抗IgG抗体を用いたウェスタン法による検出限界は、両抗体ともに、精製組換えタマビジン2標品に対して、およそ0.5ngであった。この結果から特異性及びタイターともに高い抗体が完成したと結論した。なお抗タマビジン2抗体−タマビジン1の交差反応は、低いものの検出された(本来の抗原に対して1/20程度)。 抗TM2抗体(イミノビオチンカラム精製のみを行った抗原から作成した抗体)は、さらに以下のようにして精製した。TM2 40μgを15%アクリルアミドゲル 2枚を用いてSDS−PAGEによって分離し、タンパク質をニトロセルロース膜(BIO−RAD)2枚に転写した。膜を3% BSAを含むTBS緩衝液にて室温で1時間振とうさせることによりブロッキングを行った。続いて、室温で一晩、抗TM2抗体(イミノビオチンカラム精製のみを行った抗原から作成した抗体、1000倍希釈)と反応させた後、TM2が転写されている部位を切り取り、溶出緩衝液(0.2M グリシン、 1mM EDTA pH2.8)中で室温20分間振とうさせ、抗体を膜から溶出した。精製抗体は、溶出緩衝液の1/10容量の1M Tris溶液で中和後、同量の10×TBS緩衝液を加え4℃で保存した。 発現タンパク質の抗原結合活性 大腸菌で発現させたHELscFv-TM2とHELscFv-mycについて、ニワトリ卵白リゾチーム(HEL)に対する抗体価を以下のように確認した。50μg/mLのニワトリ卵白リゾチーム(生化学工業社製)を、100μlずつマイクロプレートに加え、4℃で一晩静置することにより固相化した。ウエルを0.1% Tween 20を含むTBS緩衝液(10mM Tris(pH 7.4)、150mM NaCl)(TTBS) 250μlで3回洗浄後、0.5% BSA含有TTBSを250μl加え、室温で1時間静置することによりブロッキングし、再度、TTBS 250μlで3回洗浄した。一方、HELscFv-TM2またはHELscFv-mycが発現した大腸菌の菌体から、浸透圧ショックプロトコール(Ausubel et al, 1989)に従って、ペリプラズム画分を調製した。この10倍希釈液を、HELが固定化された上記プレートに添加し、室温で3時間反応させた。なお対照試験として、ベクターpTrc99Aのみを組み込んだ大腸菌から調製したペリプラズム画分も準備した。 各ペリプラズム画分を加えた後、TTBS 250μlで3回洗浄し、それぞれ、HELscFv-TM2にはウサギ抗TM2抗体を、HELscFv-mycにはウサギ抗c-mycエピトープ抗体(BETHYL社製)を、0.5% BSA含有TTBSで1000倍希釈した抗体溶液を、100μl添加し、室温で1時間静置し反応させた。さらに、TTBS 250μlで3回洗浄後、0.5% BSA含有TTBSで1000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗ウサギ IgG抗体(BIO-RAD社製)を100μl添加し、1時間、室温で反応させた。TTBS 250μlで3回洗浄後、1-StepTM PNPP(PIERCE社製)を100 μL添加し、室温で30分間発色させた。2 N NaOHを100 μL加えて反応を停止させ、405 nmにおける吸光度をプレートリーダーInfinite M200(TECAN社製)によって測定した。 その結果、ベクターpTrc99Aのみを組み込んだ大腸菌抽出液と比較して、100から103倍希釈したHELscFv-TM2を含む画分及びHELscFv-mycを含む画分に、顕著な抗体価の上昇が認められた。 粗精製 次に、300mLの培養液から得られた可溶性画分より、HEL scFv-TM2とHEL scFv-mycを、カラムクロマトグラフィーにより粗精製した。300 mLの培養液から得られた菌体を、50mM NaClを含む5 0mM Tris緩衝液(pH 8)18 mL中に懸濁後、超音波によって破砕した。破砕液を遠心(9000rpm)し、その上清に75%飽和硫酸アンモニウムを添加し、生じた沈殿を5 0mM NaClを含む5 0mM Tris緩衝液(pH 9)中で一晩透析し、粗タンパク質サンプルとした。このサンプルを、イオン交換カラムMonoQ HR10/10(アマシャムファルマシア社製)に供した。50 mM NaClを含む50 mM Tris緩衝液(pH9)でカラムを平衡化した後、サンプルを打ち、溶出は500 mM NaCl を含む50 mM Tris緩衝液(pH 9)を用いた。流速は3 mL/minとし、1 mLずつタンパク質を回収した。精製タンパク質は、上記と同様にウエスタンブロッティング解析により確認した。HELscFv-TM2またはHELscFv-mycのバンドが検出された6画分それぞれを回収し、75%飽和硫酸アンモニウムを添加してタンパク質の沈殿を得た。この沈殿を20mM リン酸緩衝液(pH7) 500 μLに再懸濁して、同緩衝液で一晩透析を行った。この一連の操作により、1.5 μgのHELscFv-TM2、6.3 μgのHELscFv-mycが回収された。回収率はHELscFv-TM2は4%、HELscFv-mycは16%であり、HELscFv-TM2およびHELscFv-mycの精製度は共に10%程度であった。 なお、後のELISA分析のための対照として、ベクターpTrc99Aのみを組み込んだ大腸菌を、上記と同様にして発現誘導をかけて調製した可溶性画分に対し、MonoQによる精製を行い、HELscFv-TM2、並びにHELscFv-mycが溶出されてくる時間と同じ画分(それぞれの6画分)を回収し、上記と同様に、硫安沈殿、透析したサンプルも調製した。 1−1−3.タマビジン2とHELscFvの融合タンパク質及びHELscFvの固定化と、ELISAによるそれらの活性比較解析 タマビジン2との融合によるscFv抗体の基板への固定化の効果を調べるため、1−1−2で調製したタマビジン2とHELscFvとの融合タンパク質(HELscFv-TM2)及び対照のHELscFv-mycをマイクロプレートに固定化し、卵白リゾチームの検出感度を指標としたELISA分析を行った。 抗体の精製 ELISA分析に先立ち、まず、分析に用いる抗リゾチーム抗体の精製をおこなった。卵白リゾチーム 40 μgを15% ポリアクリルアミドゲル 2枚を用いてSDS-PAGEによって分離し、タンパク質をニトロセルロース膜(BIO-RAD社製) 2枚に転写した。この膜を3% BSA含有TBS緩衝液(10 mM Tris (pH 7.4)、150 mM NaCl)中で、室温で1時間ブロッキングを行った。続いて、室温で一晩、3% BSA含有TBS緩衝液で1000倍希釈したウサギ抗ニワトリ卵白リゾチーム抗体(Rockland社製)と反応させた後、卵白リゾチームが転写されている部位を切り取り、溶出緩衝液(0.2 M グリシン、 1 mM EDTA pH2.8)中で、室温で20分間振とうし溶出させた。溶出緩衝液の1/10容量の1 M Tris溶液で中和後、同量の10×TBS緩衝液を加え、4℃で保存した。 ELISA分析 続いて、ELISA分析を行った。粗精製したHELscFv-TM2とHELscFv-mycを3 μg/mLになるように20mM リン酸緩衝液(pH 7)でそれぞれ調製し、これを96穴マイクロプレートに50 μLずつ添加した。HELscFv-TM2にはビオチン化プレート(型番15151、PIERCE社製)、HELscFv-mycには 疎水性プレート(型番2592、Corning社製)を用い、一晩室温で静置して、前者はタマビジン-ビオチン結合により、後者は疎水結合により、それぞれタンパク質を固定化した。その後、プレートの各ウェルを0.1% Tween 20を含むTBS緩衝液(TTBS)で3回洗浄後、0.5% BSA含有TTBSを300μL加え、室温で1時間静置し、ブロッキングを行った。再度、TTBSで3回洗浄後、TTBSで50 ng/μLから5 pg/ μLまで段階的に希釈したリゾチーム溶液を50 μLずつ添加した。室温で1時間静置し、プレートに固定化されたHELscFv-TM2あるいはHELscFv-mycと反応させた後、TTBSで3回洗浄した。 次に、リゾチームを検出するために、前述の通りに精製したウサギ抗ニワトリ卵白リゾチーム抗体 960 μLに0.5% BSA含有TTBS 5040 μLを添加した溶液を50μL加えて、室温で1時間反応させた後、TTBSで3回洗浄し、続いて0.5% BSA含有TTBSで1000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗ウサギ抗体(BIO-RAD社製)を室温で1時間反応させた。TTBSで3回洗浄後、1-StepTM PNPP(PIERCE社製)を50 μL添加し、発色が認められたところで2 N NaOHを50 μL加えて反応を停止させ、405 nmにおける吸光度をプレートリーダーInfinite M200(TECAN社製)によって測定した。なおデータ値としては、HELscFv-TM2とHELscFv-mycの各濃度区それぞれにおいて、HELscFv-TM2、HELscFv-mycそれぞれの対照サンプル(空の発現ベクターを持つ大腸菌から調製したMonoQ画分、上述)の各濃度の測定も併せて行い、HELscFv-TM2、HELscFv-mycの各濃度区の吸光度から、その対照の吸光度の値を差し引いたものを用いた。 その結果、リゾチームの検出感度は、疎水結合によりHELscFv-mycを固相化したプレートよりも、タマビジン-ビオチン結合を介してHELscFv-TM2を固定化したプレートの方が高かった。即ち、抗体scFvを基板に固定化する際、疎水結合によって固定化するよりも、scFvとタマビジンの融合タンパク質を作成し、ビオチン化された基板に結合させた方が、検出感度が高くなることが分かった。 タマビジン2とHELscFvとの融合タンパク質のビオチン結合活性の定量分析 Biacore 3000(BIACORE社製)を用いて、HELscFv-TM2融合タンパク質のビオチン結合能を分析した。培養液の培地中に分泌されているHELscFv-TM2をカラムクロマトグラフィーにより粗精製した画分を、解析サンプルとした。即ちPelB-HELscFv-TM2/pTrc99Aで大腸菌株TB1を形質転換し、タンパク質を発現させ、培地中に含まれるタンパク質を75%飽和硫酸アンモニウムにより沈殿させた。 得られた沈殿物を50mM NaClを含む50mM Tris緩衝液(pH 9)中で一晩透析後、イオン交換カラムMonoQ HR5/5(アマシャムファルマシア社製)に供した。平衡化緩衝液には50 mM NaClを含む50 mM Tris緩衝液(pH9)、溶出緩衝液には500 mM NaCl を含む50 mM Tris緩衝液(pH 9)を用い、1 mL/minの流速で0.5mLずつタンパク質を回収した。溶出画分をSDS-PAGE後、抗TM2抗体を用いたウエスタンブロッティングに供し、融合タンパク質が含まれる画分を検出し、さらに融合タンパク質由来のシグナル量から、HELscFv-TM2量を算出後、Biacore解析に用いた。精製度はおよそ20%であった。センサーチップCM5(Biacore社製)上に、EZ-Link (登録商標)NHS-LCLC-Biotin(30.5Å)(PIERCE社製、括弧内はビオチンとNHSとの間のリンカーの長さを表す)でビオチン化したウシ血清アルブミン(BSA)をアミンカップリング法により固定した。ランニング緩衝液にはHBS-EP(Biacore社製)を使用し、HELscFv-TM2を温度25℃、流速20μl/minで40μl(2分間)ずつインジェクションした。得られたセンサーグラムから解析ソフトウェア Biaevaluation version 4.1を用いて結合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)、解離定数(KD)を算出した。 この結果を表2に示す。HELscFv-TM2 はビオチンと特異的に相互作用し、KDは10-8オーダーと低く、ビオチンと強く結合することが分かった。 実施例2.タマビジンと酵素との融合タンパク質 本実施例では、タマビジン2と酵素(α2,6シアル酸転移酵素)との融合タンパク質を大腸菌で発現させ、担体としての磁性ビーズに、タマビジン-ビオチン結合により固定化させた。また、融合タンパク質の酵素活性を調べた。対照として、酵素を共有結合によりビーズに固定化させた。以下、具体的に説明する。 2−1.糖転移酵素との融合タンパク質 タマビジンと酵素との融合タンパク質の例として、タマビジン2(TM2)と糖転移酵素の一種であるシアル酸転移酵素を採用した。シアル酸転移酵素としては、Photobacterium属細菌に由来するβ-ガラクトシド-α2,6-シアル酸転移酵素(PCT/JP2006/304993)を使用した。なおシアル酸転移酵素遺伝子としては、シグナルペプチド部分のアミノ酸が除かれたタイプのタンパク質をコードする遺伝子(ISH224-2,6ST N1C0、PCT/JP2006/304993)を用いた。 2−1−1.タマビジン2とシアル酸転移酵素の融合タンパク質発現用ベクターの構築 プライマーの設計 タマビジン2とISH224-2,6ST N1C0とをリンカー(GGGGSG)を介して融合させたタンパク質をコードする核酸(ISH224-2,6ST-linkTM2)、GGGGSの3反復からなる15アミノ酸のリンカーで結合させたタンパク質をコードする核酸(ISH224−2,6ST3XlinkTM2)、及びGGGGSの5反復からなる25アミノ酸のリンカーで融合させたタンパク質をコードする核酸(ISH224-2,6ST-5XlinkTM2)をPCRを用いて構築するために、ISH224-2,6ST、TM2の両遺伝子を、GGGGSGを介し結合させるためのプライマー、GGGGSの3反復からなる15アミノ酸を介し結合させるためのプライマー、及びGGGGSの5反復からなる25アミノ酸を介し結合させるためのプライマーを設計した。即ち5’側にISH224-2,6ST部分、中央にリンカー、3’側にTM2部分からなるプライマー224-26ST-linkTM2RV、224-26ST-3XlinkTM2RV 、224-26ST-5XlinkTM2RV、ならびに5’側にリンカー、3’側にISH224-2,6ST部分を逆向きにコードするDNA配列からなるプライマー224-26ST-linkFWを設計した。なお、ISH224-2,6ST 部分のクローニングのために、同遺伝子のシグナルペプチドを除いたN末部分をコードする部分と、その上流に制限酵素PciI認識部位をコードする配列を有するプライマー224-26ST-N1-PciI(PCT/JP2006/304993)を使用した。タマビジンとシアル酸転移酵素との融合タンパク質構築用プライマーを表3にまとめた。 PCR ISH224-2,6ST-TM2融合タンパク質をコードする核酸(以下「ISH224-2,6ST-TM2融合遺伝子」。)を構築するために、2段階のPCRを行った。1段階目のPCRは、ISH224-2,6ST N1C0の遺伝子がベクターpTrc99Aに組み込まれたプラスミド(PCT/JP2006/304993)を鋳型にして、プライマー224-26ST-N1-PciIと224-26ST-linkFWを用いてISH224-2,6ST部の増幅を、また、TM2遺伝子がベクターpTrc99Aに組み込まれたプラスミド(WO 02/072817)を鋳型にしてプライマー224-26ST-linkTM2RVとTM2 3’Bam(上述)、224-26ST-3XlinkTM2RVとTM2 3’ Bam、さらに224-26ST-5XlinkTM2RVとTM2 3’ Bamを用いてTM2部の増幅を、それぞれ行った。 PCR反応条件は、50 μLの反応液中に鋳型DNAを500 ng、10X Pyrobest buffer II (Takara)を5μL、2.5 mM dNTPを4 μL、プライマーを各50 pmoles、5 U/μL Pyrobest DNA polymerase(Takara社製)を 0.5 μL添加し、プログラムテンプコントロールシステムPC-700(ASTEK)を用いて、96℃ 3分を1回、96℃ 1分、55℃ 1分、72℃ 2分を10回、72℃ 6分を1回とした。その結果、ISH224-2,6ST部分においては1530 bp、TM2部分においては420 bpのPCR産物が得られた。これらのPCR産物について、低融点アガロース(SeaPlaqueGTG)を用いてTAE緩衝液中でアガロース電気泳動を行った。 各DNA断片をゲルごと切り出し、ゲルと等量の200mM NaClを加え、70℃で10分間処理し、ゲルを融解した。このサンプルをフェノール抽出、フェノール・クロロホルム抽出、クロロホルム抽出を各1回行い、エタノール沈殿によってscFv部分とTM2部分のDNA断片を回収した。これら2つの断片を鋳型にして、プライマー224-26ST-N1-PciIとTM2 3’Bamを用いて、2段階目のPCRを行った。反応条件は1段階目と同様とした。その結果、約1950 bpのPCR産物(ISH224-2,6ST-linkTM2)(配列番号5)、約1970bpのPCR産物(ISH224-2,6ST-3XlinkTM2)(配列番号24)、さらに約1990bpのPCR産物(ISH224-2,6ST-5XlinkTM2)(配列番号19)が得られた。配列番号5の第1番目−第1494番目の塩基がISH224-2,6STに、第1513番目−第1935番目の塩基がTM2に相当する。また、配列番号24の第1番目-第1494番目の塩基がISH224-2,6STに、第1540番目-第1962番目の塩基がTM2に相当する。さらに、配列番号19の第1番目-第1494番目の塩基がISH224-2,6STに、第1570番目-第1992番目の塩基がTM2に相当する。 クローニング PCRによって得られたISH224-2,6ST-TM2融合遺伝子をベクターpCR4 Blunt TOPO(Invitrogen社製)にクローニングした。ライゲーション反応はベクターキット添付の説明書きに従った。大腸菌TB1にエレクトロポレーション法を用いてDNAを導入し、常法(Sambrook et al. 1989, Molecular Cloning, A laboratory manual, 2nd edition)に従ってプラスミドDNAを抽出した。インサートが確認されたクローンに関して、M13プライマー(Takara社)、シークエンス用プライマー(5’-TTT TTT GGA TCC CTA GAC TGC AAT ACA AAC ACC -3’)、シークエンス用プライマー2(5’- GCC CAT ACA GTC GTA CCT GTA A -3’)を用いて、ABI PRISM蛍光シークエンサー(Model 310 Genetic Analyzer, Perkin Elmer社)で、PCR産物の塩基配列をその両端から決定し、もとの遺伝子と比較して変異がないことを確認した。これらの遺伝子が組み込まれたプラスミドをPciIとBamH Iで二重消化し、前述の方法でゲル精製を行い、DNA断片を回収した。この断片を、あらかじめNcoIとBamH Iで消化しておいた大腸菌発現用ベクターpTrc99Aに、Ligation kit(Takara社製)を用いてライゲーションした。ライゲーション産物を大腸菌TB1に形質転換し、常法に従いプラスミドDNAを抽出、制限酵素分析を行い、挿入遺伝子の有無を確認し、タマビジン2とシアル酸転移酵素の融合タンパク発現用のベクターISH224-2,6ST-linkTM2/pTrc99A、ISH224-2,6ST-3XlinkTM2/pTrc99A、及びISH224-2,6ST-5XlinkTM2/pTrc99Aを完成させた。 2−1−2.タマビジン2と糖転移酵素との融合タンパク質の大腸菌発現 タマビジン2との融合による糖転移酵素の基板への固定化及び配向化による感度上昇を調べるため、まずタマビジン2と糖転移酵素の融合タンパク質を大腸菌で発現させた。 大腸菌発現 ISH224-2,6ST -linkTM2/pTrc99A、ISH224-2,6ST-3XlinkTM2/pTrc99A、及びISH224-2,6ST-5XlinkTM2/pTrc99Aのそれぞれを形質転換した大腸菌株TB1を、抗生物質アンピシリン(最終濃度 100 μg/ml)を含むLuria broth(LB)培地に接種し、A600=0.5に達するまで30℃で振とう培養した。さらにその後、1 mM isoproryl-1-thio-b-D-galactopyranoside(IPTG)を添加し、30℃で一晩振とう培養した。培養液1 mlから遠心にて大腸菌を集菌し、20 mM BisTris緩衝液(pH 6.0) 400 μl中に懸濁後、超音波破砕した。破砕液を遠心(15000 rpm)し、その上清を粗抽出液とした。 これらの粗抽出液についてSDS-ポリアクリルアミド電気泳動(SDS-PAGE)を行い、クマジーブリリアントブルー(CBB)染色を行った。その結果、両方の粗抽出液において約70 kDaの位置に、pTrc99Aだけを形質転換した大腸菌には見出されないバンドが検出された。ISH224-2,6ST-linkTM2の結果を図2Aに示す。ISH224-2,6ST-TM2融合タンパク質の分子量は、ISH224-2,6ST N1C0の分子量が約55 kDa、タマビジン2は約15 kDaであることから、約70 kDaと考えられるので、ほぼ理論値通りのサイズであるが、ウェスタンブロッティング解析により確認を行ったところ、このバンドは抗TM2抗体(上述)で特異的に検出された。ISH224-2,6ST-linkTM2の結果を図2Bに示す。融合タンパク質の発現量は、約80mg/ L培養と見積もられた。このことから、ISH224-2,6ST-TM2融合タンパク質が大腸菌内で高発現していることが確認された。このタンパク質のアミノ酸配列を配列番号8に示す。 上記タンパク質粗抽出液のシアル酸転移活性を、Yamamoto et al. (1996) J. Biochem 120: 104-110に記載されている方法に準じて測定したところ、ISH224-2,6ST-linkTM2融合タンパク質のシアル酸転移の比活性は9.8U/mgタンパク質と算出された。 一方、対照として用いるISH224-2,6ST N1C0タンパク質は、特許(PCT/JP2006/304993)に記載の方法で発現、精製を行った。ただし、精製した酵素は、最終的に50 mM MES緩衝液(pH 5.0)に4℃で一晩透析した。シアル酸転移酵素活性を測定したところ、9.3 U/mgタンパク質であった。 さらに、ISH224-2,6ST-TM2、ISH224-2,6ST-3XlinkTM2、及びISH224-2,6ST-5XlinkTM2のタンパク粗抽出液の蛍光ビオチン結合活性を、以下のような方法により測定し、本融合タンパク質のビオチン結合活性を確認した。 具体的には、ビオチン結合活性の測定を、Kadaら(Biochim. Biophys. Acta., 1427: 33-43, (1999))の方法に従って行った。200μLアッセイバッファー(50mM NaH2PO4、100mM NaCl、1mM EDTA(pH7.5))中に、ISH224-2,6ST-TM2、ISH224-2,6ST-3XlinkTM2、またはISH224-2,6ST-5XlinkTM2のタンパク粗抽出液が段階的に含まれるように調整をした。この溶液に20pmol/μL蛍光ビオチン溶液(biotin-4-fluorescein: Molecular Probe)50μL(1nmol)を混和し、室温で10分間放置後、プレートリーダーInfinite M200(TECAN社製)を用いて蛍光強度を測定した。その結果、ISH224-2,6ST-TM2、ISH224-2,6ST-3Xlink TM2、及びISH224-2,6ST-5XlinkTM2のタンパク粗抽出液中には高い蛍光ビオチン結合活性があることが分かった。 一方、対照として用いた、pTrc99Aのみを有する大腸菌から調製したタンパク質粗抽出液には、ビオチン結合活性は検出されなかった。以上のことから、ISH224-2,6ST -TM2融合タンパク質は、ビオチン結合活性と、シアル酸転移酵素活性の両方を有することが明らかとなった。 2−1−3.タマビジン2と糖転移酵素との融合タンパク質のビオチン固相化担体による簡易精製と担体への固定化 次に、タマビジン2との融合を利用したタンパク質の基板への固定化の効果を調べるため、タマビジン2と糖転移酵素との融合タンパク質の、ビオチン固相化担体による簡易精製と固定化を行った。 ISH224-2,6ST-TM2融合タンパク質の磁性ビーズへの結合 ビオチン化磁性ビーズ(BioMag Biotin, Polyscicences, Inc.社製、ビオチンと磁性ビーズとの間のリンカーの長さは22.4Å) 400 μlを20 mM BisTris緩衝液(pH 6.0) 400 μlで2回洗浄した。ビオチン化磁性ビーズにISH224-2,6ST-linkTM2融合遺伝子を形質転換した大腸菌抽出液(上述)を添加し、4℃で2時間振とうさせながらインキュベートすることによりISH224-2,6ST-linkTM2をタマビジン−ビオチン結合によって磁性ビーズと結合させた。磁石(Adem-Mag SV、Ademtech SA社製)で磁性ビーズを回収し、上清(非結合画分)を除去後、1 M塩化ナトリウムを含む20 mMTris緩衝液(pH 6.0) 400 μlで磁性ビーズを2回洗浄した。その後、20 mM Tris緩衝液(pH6.0) 400 μlで磁性ビーズを懸濁し、タマビジン-ビオチン結合を介して融合タンパク質を磁性ビーズに結合させたISH224 2,6ST-TM2磁性ビーズを完成した。 ISH224 2,6ST N1C0の磁性ビーズへの結合 カルボキシル基で表面をコートされた磁性ビーズ(Dynabeads M-270 Carboxylic Acid, Dynal社製) 200 μlを、0.01 N 水酸化ナトリウム 200 μlで10分間洗浄後、さらにMilliQ水(Millipore社製)200 μlで10分間3回洗浄した。洗浄済みの磁性ビーズに、MilliQ水で溶解した1-Ethyl-3-(3-Dimethylaminopropyl)carbodiimide Hydrochloride(EDC)(PIERCE社製)を、最終濃度0.2 Mになるように添加し、30分間、室温で振とうさせながらインキュベートした。その後、冷MilliQ水 400 μl、さらに50 mM MES緩衝液(pH 5.0) 400 μlで磁性ビーズを洗浄した。精製ISH224- 2,6ST N1C0タンパク質(PCT/JP2006/304993)を 50mM MES緩衝液(pH 5.0)中に0.6 mg/mlの濃度になるように調製した。このタンパク質液 400μl(精製酵素で240μg)に、上記磁性ビーズを添加した。これを4℃で2時間振とうし、共有結合によってISH224 2,6ST N1C0と磁性ビーズを結合させた。磁石で磁性ビーズを回収し、上清(非結合画分)を除去した。次に、50 mM Tris緩衝液(pH 7.0) 200μlをビーズに加え、未反応のカルボキシル基を不活化した後、0.5% BSA、0.1% Tween 20を含むPBS緩衝液(10mM リン酸ナトリウム、150mM NaCl) 200μlで、磁性ビーズをブロッキングした。PBS緩衝液 200 μlで再度磁性ビーズを懸濁し、酵素上のアミノ基と磁性ビーズのカルボキシル基との共有結合を介して酵素を結合させたISH224-2,6ST磁性ビーズを完成した。 磁性ビーズに結合したISH224-2,6ST-linkTM2およびISH224-2,6STの結合量と精製度の測定 磁性ビーズに結合したISH224-2,6ST-linkTM2の量、同ISH224 2,6ST量は、磁性ビーズに結合させる前のタンパク量から、非結合分のタンパク量の差として計算した。ビーズ結合前画分および非結合画分のタンパク質をSDS-PAGEにより分画し、CBB染色によって検出した。ISH224-2,6ST-linkTM2のバンドは70kDa付近に、またISH224 2,6STのバンドは55kDa付近に検出された。イメージアナライザーLas3000(Fuji Film社製)を用いて、予めタンパク質量が分かっている分子量マーカー(LMW マーカーキット:Pharmacia社製)のバンドの濃度から検量線を作成し、結合前画分と非結合画分のバンドを定量化した。 次にISH224 2,6ST-linkTM2の精製度を確認した。まず、磁性ビーズに結合しているタンパク質の熱による解離を行った。即ち、ISH224 2,6ST-linkTM2を結合させた磁性ビーズを、PBSで洗浄後、等量の2×SDS sample buffer(100 mM Tris-HCl pH 6.8, 12% 2-mercaptoethanol, 2% SDS, 20% glycerol)に懸濁し、95℃で40分間加熱処理を行った。磁石で磁性ビーズを回収し、その上清についてSDS-PAGEを行い、CBB染色、並びにウェスタンブロッティング分析を行った。1次抗体には抗TM2抗体、2次抗体にはアルカリフォスファターゼ標識抗ウサギIgG抗体を用いた。 次に、ISH224-26ST-linkTM2を、ビオチンを用いて磁性ビーズから解離させる試験を行った。ISH224-26ST-linkTM2を結合させた磁性ビーズ 200μLに、16 nmoles D-biotin(Sigma社製)を添加し、室温で2時間転倒混和した。このビオチン量は、融合タンパク質の発現量から換算されるビオチンポケット数の500倍過剰量である。磁石で磁性ビーズを回収し、その上清についてSDS-PAGEを行い、CBB染色を行った。上清のうち一部はトリクロロ酢酸沈殿法によって5倍に濃縮した。即ちビーズから解離したタンパクを含む上清 100μLに100% w/v トリクロロ酢酸 10μL添加し、氷上で20分間静置後、15000rpmで20分間4℃にて遠心した。上清を除去し、アセトン 500μLで沈殿物を洗浄後、再び15000rpmで20分間4℃にて遠心した。沈殿物を乾燥し、1×SDS sample bufferで溶解した。 ISH224-2,6ST-linkTM2をビオチン化磁性ビーズに結合させる前の画分、非結合画分、洗浄画分、並びに熱またはビオチン処理によって生じた解離画分についてのSDS-PAGE-CBB解析、並びにウェスタンブロッティング解析の結果を図3に示す。CBB染色では、ISH224-2,6ST-linkTM2発現大腸菌粗抽出タンパク質サンプルには、pTrc99A発現大腸菌には存在しない約70 kDaの太いバンドが見られ、このバンドは抗TM2抗体で特異的に検出されたことから、このバンドが、ISH224-2,6ST-linkTM2タンパク質に由来することが示された。この融合タンパク質のおよそ40%が、ビオチン化磁性ビーズに結合した。また、融合タンパク質はビオチン化磁性ビーズに一旦結合すると、その結合力は強く、1 M塩化ナトリウムでは全く解離せず、1% SDS存在下で95℃で40分処理しても、あるいは過剰量のビオチンを加えても10分の1程度しか解離しなかった。なお、熱処理を行うと、約70kDa以外に、CBB染色において、60kDa、40kDa、25kDa付近のバンドが見られるが、このうち60kDa、40kDaのバンドは、抗TM2抗体で認識された。従って、これらのバンドは、融合タンパク質から生じた分子であることが示唆された。25 kDa付近のバンドの由来は不明だが、これが融合タンパク質に由来するものではないと仮定すると、ビオチン化磁性ビーズに結合したISH224-2,6ST-linkTM2タンパクの精製度は、50%程度である。一方、過剰量のビオチンを添加すると、熱処理に比較して余分な分子種は生じず、70kDaのバンドのみが検出された。 以上のことから、ビオチン化磁性ビーズを用いて、タマビジン融合タンパク質の精製と、ビーズへの固定化を同時に行うことに成功したことが示された。 2−1−4.ビオチン固相化担体に固定化されたタマビジン2と糖転移酵素との融合タンパク質、及び共有結合で担体に固定化された糖転移酵素の活性比較解析 タマビジン2との融合を利用した糖転移酵素の固定化の効果を調べるため、ビオチン固定化担体に固定化されたタマビジン2と糖転移酵素との融合タンパク質の活性を分析した。 ISH224-2,6ST-linkTM2磁性ビーズ並びにISH224-2,6ST磁性ビーズの活性比較解析 ISH224-2,6ST-linkTM2をタマビジン2−ビオチンを介して結合させた磁性ビーズと、ISH224-2,6STをISH224-2,6ST自体のアミノ酸残基を介して共有結合させた磁性ビーズの酵素活性とを比較するため、結合前画分(磁性ビーズと反応させる前のISH224-2,6ST-linkTM2、またはISH224-2,6ST溶液)と、磁性ビーズ画分(ISH224-2,6ST-linkTM2、またはISH224- 2,6STが結合した磁性ビーズ)のシアル酸転移酵素を測定した。 シアル酸転移活性は、Yamamoto et al. (1996) J Biochem 120: 104-110に記載されている方法で測定した。糖供与体基質として70 nmol CMP-NeuAc(14CでNeuAcをラベルしたCMP-NeuAc約20000 cpmを含む。NeuAcはN-アセチルノイラミン酸を表す)、糖受容体基質として1.25μmol ラクトース、0.5M NaClに上記の画分を含む反応液 30μlを用いて酵素反応を行った。酵素反応は30 ℃で5分間行った。反応終了後、反応溶液に1.9mLの 5mM リン酸緩衝液(pH 6.8)を加え、この溶液をDowex1×8(PO43-フォーム、0.2× 2cm、BIO-RAD社)カラムに供した。このカラムの溶出液に含まれる反応生成物、すなわちシアリルラクトースに含まれる放射活性を測定することで酵素活性を算出した。酵素1単位(1 U)は、1分間に1μmolのシアル酸を転移する酵素量である。磁性ビーズに結合したISH224-2,6ST-linkTM2、およびISH224-2,6STタンパク1mg当りの酵素活性を算出し、結合様式の違いによる酵素活性の強弱を比較した。結果を表4に示す。 シアル酸転移酵素を磁性ビーズに結合させる際、ビーズの官能基と酵素内部の官能基を用いて共有結合によって結合させると、酵素の非活性がおよそ10分の1に落ちる。一方、シアル酸転移酵素をタマビジンと融合させ、タマビジン-ビオチン結合を介して磁性ビーズに結合させた場合、ビーズに結合する前の酵素活性がそのまま維持された。なお、ISH224-2,6ST-linkTM2で用いた磁性ビーズ(平均粒径1μm)と、ISH224-2,6STで用いた磁性ビーズ(平均粒径2.8μm)は異なるので、これらの平均粒径から表面積を求め、さらにビーズに結合しているタンパク量を得られた表面積で割り、ビーズ単位表面積当り酵素活性も求めた。この結果からも、タマビジン−ビオチンを介した基板への固定化は、共有結合による固定化の10倍以上の活性を示した。なお、ISH224-2,6STタンパク質の分子量が約55kDa、ISH224-2,6ST-TM2融合タンパク質(単量体)の分子量が約70kDaであることを考慮すると、実際のタンパク質1分子当たりの活性差はさらに大きいと予想される。 ISH224-2,6ST-TM2融合タンパク質が固定化された磁性ビーズを4 ℃で3週間、保存した後の酵素活性を測定したところ、活性の低下は殆ど無かった。従って、融合タンパク質のビオチンへの結合は非常に強く、また、固定化された酵素の活性も安定であった。 実施例3 HELscFv-TM2融合タンパク質の磁性ビーズへの結合 本実施例では、実施例1で作成したHEL scFv-TM2をビオチン化磁性ビーズに結合させ、磁性ビーズとビオチン間のリンカー長が、結合に影響を与えるか否かを調べた。 具体的には、Ez-Link (登録商標)NHS-Biotin(13.5Å)、Ez-Link (登録商標) NHS-LC-Biotin(22.4Å)、Ez-Link (登録商標) NHS-LCLC-Biotin(30.5Å)(いずれもPIERCE社製)をDMSO(dimethyl sulfoxide)で10mMに調整した。これらをDynabeads M-270 Amine(PIERCE社製) 200μLに200μL(2μm)添加し、室温で30分間反応させることによって、各ビオチン化試薬と磁性ビーズを結合させた。 続いて、0.1% BSA、0.01% Tween20を含むPBS緩衝液(10mM リン酸ナトリウム、150mM NaCl、pH7.4) 400μLで2回ビーズを洗浄すると同時にブロッキングを行った。最後に200μL PBS緩衝液でビーズを懸濁し、ビオチンと磁性ビーズ間のリンカー長が、13.5Å、22.4Å、30.5Åの各ビオチン化磁性ビーズを作製した。作製したビオチン化磁性ビーズはHABA:Avidin法によってビオチン化効率を測定し、ビオチン 200pmolで修飾された磁性ビーズをHEL scFv-TM2との結合に用いた。 大腸菌培養液中に分泌されているHEL scFv-TM2 100μgと、200pmol ビオチン化磁性ビーズを室温で1時間反応させた後、磁石で磁性ビーズを集め、その上清、つまりビオチンに結合していないHEL scFv-TM2画分(非結合画分)を回収した。ビーズと反応させる前の画分と非結合画分をウェスタンブロッティング解析し、各画分におけるHEL scFv-TM2量を測定することによって、ビオチン化磁性ビーズに結合したHEL scFv-TM2量を算出した。1次抗体としてマウス抗TM2抗体を、2次抗体としてアルカリホスファターゼ標識ヤギ抗マウスIgG抗体を使用した。 その結果、リンカー長が22.4Åの磁性ビーズには72%のHEL scFv-TM2が結合し、30.5Åのビオチン磁性ビーズには77%のHEL scFv-TM2が結合した。これに対し、リンカー長が13.5Åのビオチン磁性ビーズには、HEL scFv-TM2は全く結合しなかった。これらの事から、HEL scFv-TM2融合タンパク質とビオチンとの結合には、担体とビオチン間のリンカー長が影響することがあり、その長さは少なくとも13.5Åより長くなければならないことが明らかになった。 実施例4 タマビジン2とシアル酸転移酵素との融合タンパク質のビオチン結合活性の定量分析 本実施例では、Biacore 3000(BIACORE社製)を用いて、実施例2のISH224-2,6ST-TM2融合タンパク質のビオチン結合試験を実施し、タマビジンとタンパク質(この場合酵素)間のアミノ酸リンカー長が、結合に影響を与えるか否かを調べた。 ISH224-2,6ST融合TM2タンパク質として、ISH224-2,6ST-linkTM2、ISH224-2,6ST-3XlinkTM2及びISH224-2,6ST-5XlinkTM2を用いた。発現ベクターISH224-2,6ST-linkTM2/pTrc99A、ISH224-2,6ST-3XlinkTM2/pTrc99A、ISH224-2,6ST-5XlinkTM2/pTrc99Aをそれぞれ大腸菌株TB1に形質転換し、タンパク質発現を行った。菌体を50mM NaClを含む50mM Tris緩衝液(pH8)で懸濁後、超音波破砕によってタンパク質を抽出した。破砕液を遠心(15000rpm)し、その上清をイオン交換カラムQ-SepharoseもしくはMonoQ HR5/5(アマシャムファルマシア社製)に供した。平衡化緩衝液には50 mM NaClを含む50mM Tris緩衝液(pH8)、溶出緩衝液には500 mM NaCl を含む50 mM Tris緩衝液(pH 8)を用い、1 mL/minの流速で0.5mLずつタンパク質を回収した。溶出画分をSDS-PAGEし、ISH224-2,6ST-TM2融合タンパク量を検出・定量後、Biacore解析に用いた。いずれのタンパク質も精製度はおよそ50%であった。 センサーチップCM5(Biacore社製)上に、EZ-Link(登録商標) NHS-Biotin(13.5Å)、またはEZ-Link(登録商標) NHS-LCLC-Biotin(30.5Å)(いずれもPIERCE社製、括弧内はビオチンとNHSとの間のリンカーの長さを表す)でビオチン化したウシ血清アルブミン(BSA)を、アミンカップリング法を用いて固定した。ランニング緩衝液にはHBS-EP(Biacore社製)を使用し、ISH224-2,6ST-linkTM2、ISH224-2,6ST-3XlinkTM2、及びISH224-2,6ST-5XlinkTM2を25℃、流速20μl/minで40μl(2分間)ずつインジェクションした。得られたセンサーグラムから解析ソフトウェア BIAevaluation version 4.1を用いて結合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)、解離定数(KD)を算出した。この結果を表5−7に示す。また、()内の値はBiacore 3000の測定範囲外であることを示す。 ビオチンとBSAの間のリンカーの長さが、13.5Åの場合、融合タンパク質とビオチンとの結合は検出されなかったが、リンカーの長さが、22.4 Åの場合、3種類いずれの融合タンパク質も、ビオチンとの特異的な結合を示した(表6)。KDは10-8〜10-9と低く、ISH224-2,6ST-5XlinkTM2が最も低かった。リンカーの長さが30.5Åの場合も、いずれの融合タンパク質も、ビオチンとの特異的な結合を示した(表7)。ISH224-2,6ST-linkTM2においてもKDは10-8オーダーと低く、融合タンパク質とビオチンは強く結合していることが分かった。また、ISH224-2,6STとTM2とを、より長いリンカーで融合させたISH224-2,6ST-3XlinkTM2及びISH224-2,6ST-5XlinkTM2においては、結合はさらに強くなり、特に解離速度定数kdは、Biacore3000の検出限界(>5X10-6)以下にまで低くなり、10-6、10-7オーダーとなった。つまり、事実上ISH224-2,6ST-3XlinkTM2とISH224-2,6ST-5XlinkTM2は、ビオチンと一旦結合するとほとんど解離しないことが示された。また解離定数KDはそれぞれ10-10、10-11オーダーとなり、極めて低い値となった。 実施例5 タマビジンとレクチンとの融合タンパク質 本実施例ではタマビジン2とレクチンとの融合タンパク質をタバコ培養細胞BY2で発現させ、融合タンパク質のレクチン活性やビオチン結合活性を調べた。また固定化実験を行った。 レクチン遺伝子 タマビジンとレクチンとの融合タンパク質の例として、タマビジン2(以下、「TM2」と記載する場合がある)とレクチンの一種であるダイズレクチン(SBA)、小麦胚芽レクチン(WGA)を使用した。SBAはsoybean agglutininをコードする遺伝子(NCBI:K00821)を、WGAはwheat germ agglutinin isolectin A(WGA-A)(NCBI:M25536)とwheat germ agglutinin isolectin D(WGA-D)(NCBI:M25537)をコードする遺伝子を使用した。 融合タンパク質はレクチンのC末端にTM2が来るように設計した。このとき、レクチンとTM2の間にリンカー(アミノ酸配列1xlink: GGGGSG、または5xlink: GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS)を挿入した。またレクチン-TM2融合タンパク質を培地中へと分泌させるためのレクチンのシグナルペプチドは、元来レクチンが有するものをそのまま用いた。発現はタバコ培養細胞BY2で行い、発現ベクターはpSB24 (Komari et al. 1996)を用いた。 5−1.タマビジン2とレクチンの融合タンパク質発現用ベクターの構築 タマビジン2とSBAとをリンカー(GGGGSG)を介して融合させたタンパク質をコードする核酸(SBA-1xlink-TM2)、及びタマビジン2とWGAとを5×リンカー(GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS)を介して融合させたタンパク質をコードする核酸(WGA-A-5xlink-TM2, WGA-D-5xlink-TM2)の3種類を構築した(各々の塩基配列:配列番号63、65及び67;各々の塩基配列によってコードされるアミノ酸配列:配列番号64、66及び68)。プライマーの設計 レクチン-TM2融合遺伝子の構築のために、まず、レクチン, TM2両遺伝子をリンカー(1xlink: GGGGSG, 5xlink: GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS)を介し結合させるためのプライマーを設計した。即ち、5’側にレクチンC末端部位、中央にリンカー、3’側にTM2部分からなるプライマー(SBA-link-TM2-FW, WGA-A-5xlink-TM2-F, WGA-D-5xlink-TM2-F)、5’側にTM2N末端部位、リンカー、3’側にレクチンC末端部位を逆向きにコードするDNA配列からなるプライマー(SBA-link-TM2-RV, WGA-A-5xlink-TM2-R, WGA-D-5xlink-TM2-R))を設計した。 次に、レクチンのシグナル配列部位を含める5’部分と、その上流にXba I制限酵素切断部位(TCTAGA)をコードする配列からなるプライマー(SBA5’XbaI, WGA-A5’XbaI, WGA-D5’XbaI)、また、TM2遺伝子の3’部分とその下流にSac I制限酵素切断部位(GAGCTC)をコードする配列からなるプライマー(TM2CtermSacI)を設計した。タマビジンとレクチンとの融合タンパク質構築用プライマーを表8にまとめた。 PCR レクチン-TM2遺伝子を構築するために、二段階のPCRを行った。一段階目のPCRは、ダイズもしくは小麦のゲノムDNAを鋳型にしてプライマーSBA5’XbaIとSBA-link-TM2-RV、WGA-A5’XbaIとWGA-A-5xlink-TM2-R、WGA-D5’XbaIとWGA-D-5xlink-TM2-Rを用いてレクチン部位の増幅を、また、TM2遺伝子がベクターpTrc99Aに組み込まれたプラスミド(WO02/072817)を鋳型にしてプライマーSBA-link-TM2-FWとTM2CtermSac、WGA-A-5xlink-TM2-FとTM2CtermSac、WGA-D-5xlink-TM2-FとTM2CtermSacを用いてTM2部位の増幅をそれぞれ行った。 PCR反応条件は20ulの反応液中に鋳型DNAを500ng、1xlinkの場合10XExTaq buffer(TaKaRa社)を2ul、5xlinkの場合2X GC buffer(TaKaRa社)を10ul、2.5mM dNTPを1.6ul、プライマーを10pmoles、5U/ul Ex Taqを0.1ul(XX U)添加し、GeneAmp PCR System 9600(PERKIN ELMER)を用いて96℃ 3分を1回、95℃ 1分, 60℃ 1分, 72℃ 2分を25回、72℃ 6分を1回とした。その結果、レクチン部分においては、SBA-1xlink-TM2の場合900 bp、WGA-A-5xlink-TM2の場合663 bp、WGA-D-5xlink-TM2の場合666 bpのPCR産物が得られた。TM2部分においてはSBA-1xlink-TM2の場合468 bp、WGA-A-5xlink-TM2とWGA-D-5xlink-TM2の場合525 bpのPCR産物が得られた。 これらのPCR産物をTAE緩衝液中でアガロースゲル電気泳動で分画した。各DNA断片をゲルごと切り出し、QIAEX IIゲル抽出キット(QIAGEN)を用いてDNA断片を回収した。抽出方法はキット添付の説明書に従った。 上記断片を鋳型にして、SBA-1xlink-TM2の場合プライマーSBA5’XbaI とTM2CtermSac(鋳型は上記SBA-1xlink-TM2のSBA部分とTM2部分) 、WGA-A-5xlink-TM2の場合プライマーWGA-A5’XbaI とTM2CtermSac (鋳型は上記WGA-A-5xlink-TM2のWGA-A部分とTM2部分)、WGA-D-5xlink-TM2の場合プライマーWGA-D5’XbaI とTM2CtermSac(鋳型は上記WGA-D-5xlink-TM2のWGA-D部分とTM2部分)を用いて二段階目のPCRを行った。反応条件は一段階目と同様とした。その結果、SBA-1xlink-TM2の場合1314 bp、WGA-A-5xlink-TM2の場合1152 bp、WGA-D-5xlink-TM2の場合1155 bpのPCR産物が得られた。 クローニング PCRによって得られたレクチン-TM2遺伝子断片をベクターpCR4 TOPO(Invitrogen社製)にクローニングした。ライゲーション反応はベクターキット添付の説明書に従った。大腸菌TB1にエレクトロポレーション法を用いてDNAを導入し、常法(Sambrook et al. 1989, Molecular Cloning, A laboratory manual, 2nd edition)に従ってプラスミドDNAを抽出した。 インサートが確認されたクローンに関してM13プライマー(TaKaRa社)を用いてABI PRISM蛍光シークエンサー(Model 310 Genetic Analyzer, Perkin Elmer社)でPCR産物の塩基配列をその両端から決定し、もとの遺伝子と比較して変異がないことを確認した。これらの遺伝子が組み込まれたプラスミドをXba IとSac Iで二重消化し、前述の方法でゲル精製を行い、DNA断片を回収した。 この断片を予めXba IとSac Iで消化してGUS遺伝子を除去した植物用ベクターpSB24(Komari et al. 1996 Plant J)に、Ligation Kit(TaKaRa社製)を用いてライゲーションした。ライゲーション産物を大腸菌TB1に形質転換し、得られた大腸菌コロニーを鋳型にSBA-1xlink-TM2の場合プライマーSBA5’XbaI とTM2CtermSac 、WGA-A-5xlink-TM2の場合プライマーWGA-A5’XbaI とTM2CtermSac 、WGA-D-5xlink-TM2の場合プライマーWGA-D5’XbaI とTM2CtermSacを用いて前述の条件でPCRによる挿入遺伝子部位の増幅分析を行い、挿入遺伝子の有無を確認して、タマビジン2とレクチンの融合タンパク質発現用のベクターSBA-link-TM2/pSB24, WGA-A-5xlink-TM2/pSB24, WGA-D-5xlink-TM2/pSB24を完成させた。構築したベクターを用いてレクチン-TM2融合タンパク質遺伝子を、Horsch et al. (1985) Science 227:1229-1231の方法を用いてタバコ培養細胞BY2へと導入した。 5−2.タマビジン2とレクチンの融合タンパク質の発現と機能解析 タマビジン2との融合によるレクチンの活性を調べるため、まずタマビジン2とレクチンの融合タンパク質をタバコ培養細胞BY2で発現させ、粗精製した。 タバコ培養細胞BY2発現 SBA-1xlink-TM2を形質転換したタバコ培養細胞BY2の7日間培養した後、吸引濾過にて細胞画分と培地画分に分離した。回収した細胞3gに対して4mlの50mM HEPES/KOH(pH7.4)を添加し、乳鉢ですり潰した後、細胞を超音波により破砕した。破砕液を遠心(15,000rpm)し、その上清を可溶性画分とした。また、培地画分は70%飽和となるよう硫酸アンモニウムを添加し、4℃で一晩インキュベート後遠心(14,500rpm)することで培地中に含まれるタンパク質を沈殿させた。この沈殿物を50mM HEPES/KOH (pH7.4) 1mLで再懸濁し、100mLの0.1M HEPES/KOH (pH7.4)で透析後得られた画分を濃縮培地画分とした。 SBA-1xlink-TM2の可溶性画分と濃縮培地画分についてウェスタンブロッティング解析を行った。検出には一次抗体としてウサギ抗TM2抗体、二次抗体としてアルカリフォスファターゼ標識抗ウサギIgG抗体(BIO RAD社製)を用いた。その結果、SBA-1xlink-TM2導入BY2細胞からは可溶性画分にのみ45kDa付近にバンドが検出された。このサイズはSBA-1xlink-TM2からシグナルペプチドの切断後に得られる分子量(43kDa)とほぼ一致した。 融合タンパク質のレクチン活性の測定(赤血球凝集反応) タマビジン2-SBA融合タンパク質のレクチンの活性を調べるため、粗精製したSBA-1xlink-TM2を用いて赤血球凝集活性を検討した。 ウサギ保存血液(コスモバイオ)2mlに10mlのPBSを添加し、遠心後に上清を除去することで、赤血球画分を得た。得られた赤血球画分を10mlのPBS で3回洗浄後、赤血球画分と等量の5%トリプシン溶液を加えて37℃で一時間静かに振とうしながらインキュベートした。トリプシン処理した赤血球画分を再度10mlのPBS で3回洗浄後、PBSで希釈し、2%(v/v)赤血球浮遊液を調製した。 SBA-1xlink-TM2を発現するタバコ培養細胞からタンパク質を抽出し、イミノビオチンカラムで粗精製した。カラムへの結合バッファーは50 mM CAPS pH11, 50 mM NaCl、洗浄バッファーは50 mM CAPS pH11, 500 mM NaCl、溶出バッファーは50 mM NH4OAc pH4を用いた。また対照としてpSB24を有するタバコ培養細胞からタンパク質を抽出し、同様にイミノビオチンカラムで粗精製した。 次に活性を測定するために、96穴プレートに1ug/ul, 10ng/ul, 0.1ng/ulに希釈したSBA(Jオイルミルズ)溶液、TM2溶液、粗精製したSBA-1xlink-TM2溶液と、対照としてpSB24ベクター(GUS遺伝子を発現)を導入したBY2細胞の粗精製溶液を添加し、PBSで2倍ずつ段階希釈した。各希釈溶液に2%(v/v)赤血球浮遊液を同量添加し、室温で一時間インキュベート後に赤血球凝集の有無を判定した。 その結果、粗精製したSBA-1xlink-TM2でも赤血球凝集反応が見られたことから、タマビジン2融合SBAはレクチン(SBA)活性を保持していることが示された(図4)。 粗精製と発現タンパク質の糖結合活性 次に、SBA-1xlink-TM2を形質転換したタバコ培養細胞BY2の7日間培養細胞より、SBA-1xlink-TM2をカラムクロマトグラフィーにより粗精製した。15gの7日間培養細胞を用いて前述と同じ方法で調整した可溶性画分をそのまま粗タンパク質サンプルとした。これらのサンプルと50mM HEPES/KOH(pH7.4)で平衡化したD-GalNAc agarose (SIGMA社製)を混合し、室温で1時間インキュベートした後、オープンカラムを作製した。溶出には溶出バッファー(50mM HEPES/KOH(pH7.4), 0.1% Nonidet P40, 20mM GalNAc)を用いた。 精製タンパク質の検出は、SDS-PAGE後のCBB染色(図5A)、また上記と同様に一次抗体としてウサギ抗TM2抗体、二次抗体としてアルカリフォスファターゼ標識抗ウサギIgG抗体(BIO RAD社製)を用いたウェスタンブロッティング解析(図5B)により行った。その結果、溶出画分にSBA-1xlink-TM2が検出された(図5A、Bの矢印)。この様にSBA-1xlink-TM2は、D-GalNAc agaroseに結合することから、タマビジン2融合SBAは糖鎖結合活性を保持していることが示された。次にSBA-1xlink-TM2のバンドが検出された精製タンパク質溶液を50mM HEPES/KOH(pH7.4)中で透析した。この操作により7.5ugのSBA-1xlink-TM2が回収された。精製度は26%であった。 タマビジン2とレクチンの融合タンパク質のビオチン結合活性の定量分析 Biacore 3000(BIACORE社製)を用いて、SBA-1xlink-TM2融合タンパク質のビオチン結合能を分析した。SBA-1xlink-TM2を形質転換したタバコ培養細胞BY2の7日間培養細胞を用いて上述の方法で粗精製した画分を、解析サンプルとした。 センサーチップCM5(BIACORE社製)上に、EZ-LinkTMNHS-LCLC-Biotin(30.5Å)(PIERCE社製、括弧内はビオチンとNHSとの間のリンカーの長さを表記した)でビオチン化したウシ血清アルブミン(BSA)をアミンカップリング法により固定した。ランニング緩衝液にはHBS-EP(BIACORE社製)を使用し、SBA-1xlink-TM2を温度25℃、流速20ul/minで40ul(2分間)ずつインジェクションした。得られたセンサーグラムから解析ソフトウェアBiaevaluation version 4.1を用いて結合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)、解離定数(KD)を算出した。この結果を表9に示す。SBA-1xlink-TM2はビオチンと特異的に相互作用し、KDは10-9オーダーと低く、ビオチンと強く結合することが分かった。 以上のことから、レクチンとタマビジン2の融合タンパク質を、植物細胞において、レクチンの糖結合活性ならびにタマビジン2のビオチン結合活性の両方の活性を持ったまま、発現させることに成功した。 実施例6 タマビジンとプロテインAとの融合タンパク質 本実施例ではタマビジン2とプロテインAとの融合タンパク質を大腸菌で発現させ、精製後の融合タンパクを、ビオチン化プレートにタマビジン−ビオチン結合により固定化させた。こうして得られたプロテインAプレートにポリクローナル抗体を反応させ、プロテインAとのアフィニティを利用して固定化し、抗原との結合活性を調べた。対照として、ポリクローナル抗体を疎水結合により直接プレートに固定化させたものを用いた。以下、詳細に説明する。 プロテインA遺伝子と融合タンパク質の構造 プロテインAは、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)由来のプロテインAを用いた。Staphylococcus aureus proteinA (spa)遺伝子は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構の生物遺伝資源部門(NBRC)から譲り受けた。NBRCは黄色ブドウ球菌N315株とMW2株の二菌株由来のゲノムDNAクローンを分譲しており、これら二菌株のspa遺伝子NBRC G04-000-249 (ORF ID: SA0107), NBRC G05-000-311 (ORF ID: MW0084)を用いた。 融合タンパク質はspaのC末側にタマビジン2(以下「TM2」と記載する場合がある)が来るように設計した。この時、spaとTM2の間にリンカー(アミノ酸配列 1xlink: GGGGSG、または5xlink: GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS)を挿入した。またspa-TM2融合タンパク質を培地中へと分泌させるためにspaのシグナルペプチドはそのまま用いた。さらに、spaのC末に存在する細胞壁結合ドメイン(Uhlen et al. (1984) J. Biol. Chem. 259: 1695-1702)はこれを除去した。発現は大腸菌で行い、発現ベクターはタグなしのベクターpTrc99A (Pharmacia社製)を用いた。 6−1.タマビジン2とプロテインAの融合タンパク質発現用ベクターの構築 spaの遺伝子の構造は、N末側からシグナルペプチド、5つのIgG結合ドメイン、細胞壁結合ドメインから成る。PCRを用いてTM2の配列をspaのIgG結合ドメインのC末端側に接続させた融合タンパク質をコードする遺伝子を4種類構築した。 1. spa(SA)ΔC-1xlink-TM2 (塩基配列69、アミノ酸配列70) 2. spa(MW)ΔC-1xlink-TM2 (塩基配列71、アミノ酸配列72) 3. spa(SA)ΔC-5xlink-TM2 (塩基配列73、アミノ酸配列74) 4. spa(MW)ΔC-5xlink-TM2 (塩基配列75,アミノ酸配列76) プライマーの設計 spa-TM2融合遺伝子の構築のために、まず、spa, TM2両遺伝子をリンカー(1xlink: GGGGSG, 5xlink: GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS)を介し結合させるためのプライマーを設計した。即ち、5’側にspa IgG結合部位、中央にリンカー、3’側にTM2部分からなるプライマー(spaΔC-1xlink-TM2-F, spaΔC-5xlink-TM2-F)、5’側にTM2N末端部位、リンカー、3’側にspa IgG結合部位を逆向きにコードするDNA配列からなるプライマー(spaΔC-1xlink-TM2-R, spaΔC-5xlink-TM2-R)を設計した。 次に、spaのシグナル配列部位を含める5’部分と、その上流にNco I制限酵素切断部位(CCATGG)をコードする配列からなるプライマー(sp-spa 5’ NcoI-F)、また、TM2遺伝子の3’部分とその下流にBamH I制限酵素切断部位(GGATCC)をコードする配列からなるプライマー(TM2CtermBam)を設計した。タマビジンとspaとの融合タンパク質構築用プライマーを表10にまとめた。 PCR spa-TM2遺伝子を構築するために、二段階のPCRを行った。一段階目のPCRは、spaをコードするゲノム遺伝子がベクターpUC18に組み込まれたプラスミドを鋳型にしてプライマーsp-spa 5’ NcoI-FとspaΔC-1xlink-TM2-RもしくはspaΔC-5xlink-TM2-Rを用いてspa IgG結合部位の増幅を、また、TM2遺伝子がベクターpTrc99Aに組み込まれたプラスミド(WO02/072817)を鋳型にしてプライマーspaΔC-1xlink-TM2-FもしくはspaΔC-5xlink-TM2-FとTM2CtermBamを用いてTM2部位の増幅をそれぞれ行った。 PCR反応条件は20ulの反応液中に鋳型DNAを500ng、1xlinkの場合10XExTaq buffer(TaKaRa社)を2ul、5xlinkの場合2X GC buffer(TaKaRa社)を10ul、2.5mM dNTPを1.6ul、プライマーを10pmoles、5U/ul Ex Taqを0.1ul添加し、GeneAmp PCR System 9600(PERKIN ELMER)を用いて96℃ 3分を1回、95℃ 1分, 60℃ 1分, 72℃ 2分を25回、72℃ 6分を1回とした。その結果、spa部分においては、1xlinkの場合854 bp、5xlinkの場合912 bpのPCR産物が得られ、TM2部分においては1xlinkの場合468 bp、5xlinkの場合525 bpのPCR産物が得られた。 これらのPCR産物をTAE緩衝液中でアガロースゲル電気泳動により分画した。各DNA断片をゲルごと切り出し、QIAEX IIゲル抽出キット(QIAGEN)を用いてDNA断片を回収した。抽出方法はキット添付の説明書に従った。 上記断片を鋳型にして、1xlinkの場合、5xlinkの場合それぞれに関して、プライマーsp-spa 5’ NcoI-FとTM2CtermBamを用いて二段階目のPCRを行った。反応条件は一段階目と同様とした。その結果、1xlinkの場合1268 bp、5xlinkの場合1325 bpのPCR産物が得られた。 クローニング PCRによって得られたspa-TM2遺伝子断片をベクターpCR4 TOPO(Invitrogen社製)にクローニングした。ライゲーション反応はベクターキット添付の説明書に従った。大腸菌TB1にエレクトロポレーション法を用いてDNAを導入し、常法(Sambrook et al. 1989, Molecular Cloning, A laboratory manual, 2nd edition)に従ってプラスミドDNAを抽出した。インサートが確認されたクローンに関してM13プライマー(TaKaRa社)を用いてABI PRISM蛍光シークエンサー(Model 310 Genetic Analyzer, Perkin Elmer社)でPCR産物の塩基配列をその両端から決定し、もとの遺伝子と比較して変異がないことを確認した。これらの遺伝子が組み込まれたプラスミドをNco IとBamH Iで二重消化し、前述の方法でゲル精製を行い、DNA断片を回収した。この断片を予めNco IとBamH Iで消化しておいた大腸菌発現用ベクターpTrc99Aに、Ligation Kit(TaKaRa社製)を用いてライゲーションした。 ライゲーション産物を大腸菌BL21に形質転換し、得られた大腸菌コロニーを鋳型にsp-spa 5’ NcoI-FとTM2CtermBamを用いて前述の条件でPCRによる挿入遺伝子部位の増幅分析を行い、挿入遺伝子の有無を確認して、タマビジン2とspaの融合タンパク質発現用のベクターspa(SA)ΔC-1xlink-TM2/pTrc99A、spa(MW)ΔC-1xlink-TM2/pTrc99A、spa(SA)ΔC-5xlink-TM2/pTrc99A、spa(MW)ΔC-5xlink-TM2/pTrc99Aを完成させた。 6−2.タマビジン2とspaの融合タンパク質の発現と粗精製 タマビジン2との融合によるプロテインAの基板への固定化の効果を調べるため、まずタマビジン2とspaの融合タンパク質を大腸菌で発現させ、粗精製した。 大腸菌発現と発現タンパク質のIgG結合活性 spa(SA)ΔC-1xlink-TM2/pTrc99Aとspa(MW)ΔC-1xlink-TM2/pTrc99Aについて、それぞれを形質転換した大腸菌BL21を、抗生物質アンピシリン(最終濃度100ug/mL)を含むLB培地50mLに接種し、OD600における吸光度が0.5に達するまで30℃で振とう培養した。その後、1mM IPTGを添加し、さらに30℃で5時間振とう培養した。培養液50mLから遠心にて大腸菌画分と培地画分に分離した。大腸菌画分は0.1M HEPES/KOH(pH7.4)3mL中に懸濁後、菌体を超音波により破砕した。破砕液を遠心(15,000rpm)し、その上清を可溶性画分とした。さらに、沈殿物は8M尿素を含む0.1M HEPES/KOH (pH7.4)3mLに懸濁後、再び超音波破砕し、これを不溶性画分とした。また、培地画分は70%飽和となるよう硫酸アンモニウムを添加し、4℃で一晩インキュベート後遠心(14,500rpm)することで培地中に含まれるタンパク質を沈殿させた。この沈殿物を0.1M HEPES/KOH (pH7.4) 1mLで再懸濁し、100mLの0.1M HEPES/KOH (pH7.4)で透析後得られた画分を濃縮培地画分とした。 spa(SA)ΔC-1xlink-TM2およびspa(MW)ΔC-1xlink-TM2の可溶性画分と濃縮培地画分についてウェスタンブロッティング解析を行った。検出にはアルカリフォスファターゼ標識ウサギIgG抗体(BIO RAD社製)を用いた。その結果、spa(SA)ΔC-1xlink-TM2およびspa(MW)ΔC-1xlink-TM2発現大腸菌からは可溶性画分と濃縮培地画分の両方で40kDa付近にバンドが検出された。このサイズはspa(SA)ΔC-1xlink-TM2およびspa(MW)ΔC-1xlink-TM2からシグナルペプチドの切断後に得られる分子量(42kDa)とほぼ一致した。さらに通常二次抗体として用いるアルカリフォスファターゼ標識ウサギIgG抗体のみで検出できたことから、タマビジン2融合spaはIgG結合活性を保持していることが示された。 粗精製 次に、spa(SA)ΔC-1xlink-TM2/pTrc99Aおよびspa(MW)ΔC-1xlink-TM2/pTrc99Aを形質転換した大腸菌の培養液 50mLより、spa(SA)ΔC-1xlink-TM2とspa(MW)ΔC-1xlink-TM2をカラムクロマトグラフィーにより粗精製した。前述と同じ方法で発現誘導させた大腸菌の培地画分をそのまま粗タンパク質サンプルとした。これらのサンプルとTST溶液(50mM Tris緩衝液, 150mM NaCl, 0.05% Tween20, pH7.6)で平衡化したIgG sepharoseTM 6 Fast Flow (GE Healthcare社製)を混合し、室温で1時間インキュベートした後、オープンカラムを作製し、溶出には0.5M酢酸溶液(pH3.4)を用いた。 精製タンパク質は上記と同様に、SDS-PAGE-CBB染色(図6A)、またアルカリフォスファターゼ標識ウサギIgG抗体を用いたウェスタンブロッティング解析により確認した(図6B)。なお後者においてはタンパク質の会合状態を見るために、タンパク質サンプルを還元剤の入っていないSDSサンプルバッファーに添加後、加熱なしでSDS-PAGEに供試した。その結果、両融合タンパク質ともにIgG sepharoseにより精製されたことから、タマビジン2融合spaはIgG結合活性を保持していることが示された。即ち、SDS-PAGE-CBB染色実験では、可溶性画分において40kDa付近に二本のバンドが検出された(図6A矢印)。これらのバンドはその分子量から、融合タンパク質であると考えられた。また、ウェスタン分析では、可溶性画分において融合タンパク質が単量体(モノマー)のもの(二本のバンド)と四量体(テトラマー)のもの(数本のバンド)の両方が検出された(図6B)。単量体のバンドは、先のSDS-PAGEで検出されたサイズと同じであった。また培地濃縮画分からは、単量体と四量体のサイズに、一本づつバンドが検出された(図6B)。なお、このウェスタン分析では上記と同様に、アルカリフォスファターゼ標識ウサギIgG抗体のみで検出できたことから、タマビジン2融合spaはIgG結合活性を保持していることが示された。 spa(SA)ΔC-1xlink-TM2およびspa(MW)ΔC-1xlink-TM2のバンドが検出された精製タンパク質溶液(図6BのSA-7、MW-9のmedium画分)は凍結乾燥させた。この一連の操作により10.8ugのspa(SA)ΔC-1xlink-TM2と12.6ugのspa(MW)ΔC-1xlink-TM2が回収された。 6−3.タマビジン2とspaの融合タンパク質及びspaの固定化と、ELISAによるそれらの活性比較解析 タマビジン2との融合によるspaプロテインAの基板への固定化の効果を調べるため、粗精製したspa(SA)ΔC-1xlink-TM2およびspa(MW)ΔC-1xlink-TM2をマイクロプレートに固定化し、さらにダイズレクチン抗体を固定化し、ダイズレクチンの検出感度を指標としたELISA分析を行った。 ELISA分析 粗精製したspa(SA)ΔC-1xlink-TM2とspa(MW)ΔC-1xlink-TM2を20ng/uLとなるようにPBS(137mM NaCl, 2.68mM KCl, 8.1mM Na2HPO4, 1.47mM KH2PO4)でそれぞれ調製し、これをビオチン化96穴マイクロプレート(型番15151, PIERCE社製)に100ulずつ添加した。室温で30分間静置することでタマビジン−ビオチン結合により融合タンパク質を固定化した。その後、プレートの各ウェルを0.1% Tween20を含むTBS緩衝液(TTBS)で3回洗浄した。次に抗体を固定化するために、ウサギ抗SBA抗体(EY LABORATORIES社製)をPBSで50ng/ulとなるように調製し、先ほど融合タンパク質を固定化したプレート、並びに対照として疎水性プレート(型番15031, PIERCE社製)及びプロテインAコーティングプレート(プロテインA(ナカライテスク)を5ng/ulとなるようにPBSで希釈し、これを疎水性プレート(型番15031, PIERCE社製)に50ulずつ添加し、一晩室温で静置した。その後、プレートの各ウェルを0.1% Tween20を含むTBS緩衝液(TTBS)で3回洗浄して作成した)に100ulずつ添加し、一晩室温で静置した。ビオチン化プレートとプロテインAコーティングプレートはプロテインA−IgG結合により、疎水性プレートは疎水結合により、それぞれプレートにウサギ抗SBA抗体を固定化した。 その後これらのプレートを、TTBSで3回洗浄後、0.5% BSA含有TTBSを300ul加え、室温で1時間静置し、ブロッキングを行った。再度、TTBSで3回洗浄後、TTBSで100ng/ulから0.1pg/ulまで段階的に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識SBA(J-オイルミルズ社製)溶液を100ulずつ添加した。なお対照として、ウサギ抗SBA抗体を固定化していないビオチン化プレートと疎水性プレートにも添加した。西洋ワサビペルオキシダーゼ標識SBAを添加後、室温で1時間静置し、プレートに固定化されたウサギ抗SBA抗体と反応させた。さらにTTBSで3回洗浄した後、各ウェルに結合した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識SBAを検出するために、1-StepTMUltra TMB-ELISAを100ul添加し、発色が認められたところで2M硫酸を100ul加えて反応を停止させ、450nmにおける吸光度をプレートリーダーInfinite M200(TECAN社製)によって測定した。 なお、データ値としては、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識SBAの各濃度区それぞれにおいて、各プレートの対照サンプル(固定化することなく、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識SBAのみを添加したもの)の各吸光度の測定も併せて行い、ウサギ抗SBA抗体を固定化した各濃度区の吸光度から、その対照の吸光度の値を差し引いたものを用いた。さらに、spa-TM2融合タンパク質を介して固定化した抗体量、疎水結合により直接固定化した抗体量、および疎水結合により固定化したプロテインAを介して固定化した抗体量は、アルカリフォスファターゼ標識ヤギ抗ウサギIgG抗体を用いて定量し、抗体の単位固定化量当たりの西洋ワサビペルオキシダーゼ標識SBA検出量を算出した。 次に、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識SBA(SBA-HRP)を用いたウサギ抗SBA抗体の検出感度を測定した。ウサギ抗SBA抗体1ngに結合するSBA-HRP量を計算したところ、抗体を疎水結合によりプレートに結合させた場合と比較して、ビオチン化プレートにタマビジンとプロテインA(spa)融合タンパク質を結合させた後に、抗体を結合させたほうが、抗原であるSBA-HRPは2.3倍から4.5倍多く結合した(表11)。このことから、ポリクローナル抗体(IgG抗体)を基板に固定化する際、疎水結合によって固定化するよりも、プロテインAとタマビジンの融合タンパク質を介して基板に固定化させた方が、検出感度がおよそ2−4倍高くなることが示された。さらに、プロテインAをそのまま疎水結合させたプレートに抗体を固定化するよりも、2倍から3倍程度、感度が高くなることが分かった(表11の添加SBA-HRP濃度10pg/μlと1pg/μlのデータ参照)。 6−4.タマビジン2とspaとの融合タンパク質のビオチン結合活性の定量分析 Biacore 3000(BIACORE社製)を用いて、spa-TM2融合タンパク質のビオチン結合能を分析した。培養液の培地中に分泌されているspa-TM2を上述の方法で粗精製した画分を、解析サンプルとした。 センサーチップCM5(BIACORE社製)上に、EZ-LinkTMNHS-LCLC-Biotin(30.5Å)(PIERCE社製、括弧内はビオチンとNHSとの間のリンカーの長さを表記した)でビオチン化したウシ血清アルブミン(BSA)をアミンカップリング法により固定した。ランニング緩衝液にはHBS-EP(BIACORE社製)を使用し、spa(SA)ΔC-1xlink-TM2およびspa(MW)ΔC-1xlink-TM2を温度25℃、流速20ul/minで40ul(2分間)ずつインジェクションした。得られたセンサーグラムから解析ソフトウェアBiaevaluation version 4.1を用いて結合速度定数(ka)、解離速度定数(kd)、解離定数(KD)を算出した。この結果を表12に示す。spa(SA)ΔC-1xlink-TM2とspa(MW)ΔC-1xlink-TM2はビオチンと特異的に相互作用し、KDは10-8オーダーと低く、ビオチンと強く結合することが分かった。 実施例7 タマビジン融合タンパク質発現ベクター 本実施例ではタマビジン2との融合タンパク質を大腸菌で発現させるための発現ベクターを構築した。発現ベクターは目的タンパク質のN末側にタマビジン2を融合させるベクターと、C末側にタマビジン2を融合させるベクターの両方を構築した。以下、具体的に説明する。 7−1.タマビジン2融合タンパク質発現用ベクターの構築 タマビジン2(以下、「TM2」と記載する場合がある)融合タンパク質発現用ベクターの構造は、pTrc99A(Pharmacia社製)を骨格とし、制限酵素Nco I認識部位とHind III認識部位の間にTM2、TM2と目的タンパク質を結合するリンカー部位、目的タンパク質をコードする遺伝子を組み込むためのマルチクローニングサイト(以下、「MCS」)部位、目的のタンパク質を発現させた後にTM2配列を除去するエンテロキナーゼ(以下、「EK」)認識部位の配列、His標識配列を以下の順に組み込んだ。 目的タンパク質のN末端側にタマビジン2を融合させるベクターの場合、pTrc99Aの制限酵素NcoI認識部位の下流にTM2遺伝子、リンカー(1xlink: GGGGSG, 3xlink: GGGGSGGGGSGGGGS, 5xlink: GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS)、EK認識部位の配列、制限酵素認識サイトがEcoR I, Sac I, Kpn I, Sma I, BamH I, Xho I, Not Iの順に並ぶMCS、6個のHisからなるHis標識配列を挿入した。詳細なベクター地図は図7−9に示した。目的タンパク質のC末端側にタマビジン2を融合させるベクターの場合、pTrc99AのNcoI認識部位の下流に6個のHisからなるHis標識配列、制限酵素認識サイトがEcoR I, Sac I, Kpn I, Sma I, BamH I, Xho I, Not Iの順に並ぶMCS、EK認識部位の配列、リンカー(1xlink: GGGGSG, 3xlink: GGGGSGGGGSGGGGS, 5xlink: GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGS)、TM2遺伝子を挿入した。詳細なベクター地図は図10−12に示した。 プライマーの設計 TM2融合タンパク質発現ベクター構築のために、まず、TM2遺伝子の上流もしくは下流にリンカー、EK認識配列、MCSサイト、His標識配列とNco I制限酵素切断部位(CCATGG)もしくはHind III制限酵素切断部位(AAGCTT)をコードする配列を結合させるためのプライマーを設計した。即ち、5’側にNco I制限酵素切断部位、His標識配列、MCSサイト、EK認識配列、リンカー、3’側にTM2 N末端部位からなるプライマー(His-MCS-EK-1xlink-TM2-F, His-MCS-EK-3xlink-TM2-F)、5’側にHind III制限酵素切断部位、His標識配列、MCSサイト、EK認識配列、リンカー、3’側にTM2 C末端部位を逆向きにコードするDNA配列からなるプライマー(TM2-1xlink-EK-MCS-His-R, TM2-3xlink-EK-MCS-His-R)を設計した。尚、リンカー配列が5xlinkの場合、プライマー長が180merと長すぎるため、5’側110merと3’側110merの二つのプライマー(His-MCS-EK-5xlink-TM2-F1, His-MCS-EK-5xlink-TM2-F2, TM2-5xlink-EK-MCS-His-R1, TM2-5xlink-EK-MCS-His-R1)をそれぞれ設計した。 次に、TM2の5’部分と、その上流にNco I制限酵素切断部位をコードする配列からなるプライマー(TM2NtermNcoI-F)、また、TM2の3’部分とその下流にHind III制限酵素切断部位を逆向きにコードする配列からなるプライマー(TM2CtermHindIII-R)を設計した。タマビジン融合タンパク質発現ベクター構築用プライマーを表13にまとめた。 PCR TM2融合タンパク質発現ベクターを構築するために、リンカー長が1xlink, 3xlinkの場合は一段階のPCRを、5xlinkの場合は二段階のPCRを行った。リンカー長が1xlink, 3xlinkの場合、TM2遺伝子がベクターpTrc99Aに組み込まれたプラスミド(WO02/072817)を鋳型にしてプライマーTM2NtermNotI-FとTM2-1xlink-EK-MCS-His-RもしくはTM2-3xlink-EK-MCS-His-R、プライマーHis-MCS-EK-1xlink-TM2-FもしくはHis-MCS-EK-3xlink-TM2-FとTM2CtermHindIII-Rを用いてTM2遺伝子の上流もしくは下流にリンカー、EK認識配列、MCSサイト、His標識配列を含む配列を増幅させた。リンカー長が5xlinkの場合、TM2遺伝子がベクターpTrc99Aに組み込まれたプラスミド(WO02/072817)を鋳型にしてプライマーTM2NtermNotI-FとTM2-5xlink-EK-MCS-His-R1、プライマーHis-MCS-EK-5xlink-TM2-F1とTM2CtermHindIII-Rを用いてTM2遺伝子の上流もしくは下流にリンカー、EK認識配列、MCSサイトの一部を含む配列を増幅させた。 PCR反応条件は20ulの反応液中に鋳型DNAを500ng、2X GC buffer(TaKaRa社)を10ul、2.5mM dNTPを1.6ul、プライマーを10pmoles、5U/ul Pyrobestを0.1ul添加し、GeneAmp PCR System 9600(PERKIN ELMER)を用いて96℃ 3分を1回、95℃ 1分, 60℃ 1分, 72℃ 2分を25回、72℃ 6分を1回とした。その結果、N末端にTM2を融合させる配列においては、1xlinkの場合546 bp、3xlinkの場合573 bp、5xlinkの場合523 bpのPCR産物が得られ、C末端にTM2を融合させる配列においては、1xlinkの場合538 bp、3xlinkの場合565 bp、5xlinkの場合525 bpのPCR産物が得られた。5xlinkの場合に得られたPCR産物をアガロース(Agarose Type II : SIGMA)を用いてTAE緩衝液中でアガロース電気泳動を行った。 各DNA断片をゲルごと切り出し、QIAEX IIゲル抽出キット(QIAGEN)を用いてDNA断片を回収した。抽出方法はキット添付の説明書に従った。得られた5xlinkの断片を鋳型にして、N末端にTM2を融合させる配列の場合はプライマーTM2NtermNotI-F とTM2-5xlink-EK-MCS-His-R2、C末端にTM2を融合させる配列の場合はプライマーHis-MCS-EK-5xlink-TM2-F2とTM2CtermHindIII-Rを用いて二段階目のPCRを行った。反応条件は一段階目と同様とした。その結果、N末端にTM2を融合させる配列の場合603 bp、C末端にTM2を融合させる配列の場合595 bpのPCR産物が得られた。 クローニング PCRによって得られたTM2遺伝子の上流もしくは下流にリンカー、EK認識配列、MCSサイト、His標識配列を含む断片をベクターpCR4blunt TOPO(Invitrogen社製)にクローニングした。ライゲーション反応はベクターキット添付の説明書に従った。大腸菌TB1にエレクトロポレーション法を用いてDNAを導入し、常法(Sambrook et al. 1989, Molecular Cloning, A laboratory manual, 2nd edition)に従ってプラスミドDNAを抽出した。インサートが確認されたクローンに関してM13プライマー(TaKaRa社)を用いてABI PRISM蛍光シークエンサー(Model 310 Genetic Analyzer, Perkin Elmer社)でPCR産物の塩基配列をその両端から決定し、もとの遺伝子と比較して変異がないことを確認した。これらの遺伝子が組み込まれたプラスミドをNco IとHind IIIで二重消化し、前述の方法でゲル精製を行い、DNA断片を回収した。この断片を予めNco IとHind IIIで消化しておいた大腸菌発現用ベクターpTrc99Aに、Ligation Kit(TaKaRa社製)を用いてライゲーションした。 ライゲーション産物を大腸菌TB1に形質転換し、常法に従いプラスミドDNAを抽出、制限酵素分析を行い、挿入遺伝子の有無を確認して、タマビジン2融合タンパク質発現用のベクターTM2-1xlink-EK-MCS-His/pTrc99A(図7)、TM2-3xlink-EK-MCS-His/pTrc99A(図8)、TM2-5xlink-EK-MCS-His/pTrc99A(図9)、His-MCS-EK-1xlink-TM2/pTrc99A(図10)、His-MCS-EK-3xlink-TM2/pTrc99A(図11)、His-MCS-EK-5xlink-TM2/pTrc99A(図12)を完成させた(配列番号77−82)。 タンパク質を担体に結合する方法において、結合によっても該タンパク質の機能を損なわない方法であって、ビオチンを結合させた担体を準備し;タマビジンに上記タンパク質を結合させた融合タンパク質を準備し;そしてタマビジン−ビオチン結合を介して、上記担体に上記タンパク質を結合させることを含む、前記方法。 タマビジンが、(a)配列番号2又は配列番号4と同一性が95%以上のアミノ酸配列からなり、かつ、ビオチン結合活性を有するタンパク質;又は(b)配列番号2又は配列番号4のアミノ酸配列からなるタンパク質;又は(c)配列番号1又は3の塩基配列の相補鎖に、ストリンジェントな条件下(ハイブリダイゼーション条件:65℃、0.2×SSC、0.5%SDS;洗浄条件:65℃、0.2×SSC、0.1%SDS)でハイブリダイズする核酸によってコードされるアミノ酸配列からなり、かつ、ビオチン結合活性を有するタンパク質から選択される、請求項1に記載の方法。 タンパク質が、抗体若しくはその断片、抗原タンパク質、酵素、レクチン、ペプチド、プロテインA、プロテインG及びプロテインLからなる群から選択される、請求項1ないし2のいずれか1項に記載の方法。 担体が、ビーズ、磁性ビーズ、薄膜、微細管、フィルター、プレート、マイクロプレート、カーボンナノチューブ及びセンサーチップからなる群から選択される、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。 タマビジンとタンパク質がリンカーを介して結合して融合タンパク質を構成している、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。 タマビジンとタンパク質が6個以上のアミノ酸からなるリンカーを介して結合して融合タンパク質を構成している、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。 前記融合タンパク質に、さらにリーダー配列が結合している請求項1ないし6のいずれか1項に記載の方法。 ビオチンと担体が、長さが13.5Åより長いリンカーを介して結合している、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の方法。 ビオチンを結合させた担体に、タマビジンにタンパク質を結合させた融合タンパク質をタマビジン−ビオチン結合を介して結合させた、タマビジン融合タンパク質結合担体であって、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法により得られる、タマビジン融合タンパク質結合担体。 タンパク質を担体に直接結合した場合と比較して10倍以上のタンパク質の活性が向上する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。 タンパク質を担体に直接結合した場合と比較して2〜4倍の検出感度が向上する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。配列表