タイトル: | 特許公報(B2)_体液試料における、低分子量タンパク質及びペプチドの濃縮方法 |
出願番号: | 2009526346 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | G01N 33/48,G01N 33/68,G01N 1/28,G01N 1/34,C07K 1/36 |
小寺 義男 前田 忠計 川島 祐介 JP 4571228 特許公報(B2) 20100820 2009526346 20080808 体液試料における、低分子量タンパク質及びペプチドの濃縮方法 学校法人北里研究所 598041566 石川 徹 100097456 小寺 義男 前田 忠計 川島 祐介 JP 2007206602 20070808 20101027 G01N 33/48 20060101AFI20101007BHJP G01N 33/68 20060101ALI20101007BHJP G01N 1/28 20060101ALI20101007BHJP G01N 1/34 20060101ALI20101007BHJP C07K 1/36 20060101ALI20101007BHJP JPG01N33/48 AG01N33/68G01N1/28 JG01N1/34C07K1/36 G01N 33/48 C07K 1/36 G01N 1/28 G01N 1/34 G01N 33/68 特開昭62−065695(JP,A) Jiye A. ,Extraction and GC/MS Analysis of the Human Blood Plasma Metabolome,Anal. Chem.,2005年,Vol. 77,p8086-8094 大草洋 他,P-227 尿蛋白プロテオーム解析のための新たな戦略,日本腎臓学会誌,日本,2006年,第48巻第3号,280ページ 26 JP2008002168 20080808 WO2009019889 20090212 21 20090910 淺野 美奈 本発明は、ヒトを含む哺乳動物の体液試料、特に血清又は血漿中における低分子量タンパク質、及びペプチドの濃縮方法、及び該濃縮方法に用いるキットに関するものである。 近年、ポストゲノム研究として、プロテオーム的手法を用いた研究が盛んに行われるようになってきた。これは、遺伝子産物であるタンパク質が遺伝子よりも疾患の病態に直接関連していると考えられるので、プロテオーム解析は、ゲノム解析では発見できなかった病因タンパク質や疾患関連因子を多く発見できると期待されているからである。例えば、該プロテオーム解析により、特定の疾患によって誘導あるいは消失するバイオマーカタンパク質の発見が容易になり、該バイオマーカは、病態に関連して挙動するため、診断のマーカ、及び創薬ターゲットとなる可能性が高い。さらに、該バイオマーカは、薬剤応答性評価や副作用発現予測という患者の直接的な利益につながる。 最近になり、質量分析装置(mass spectrometer:MS)の性能が向上し、MALDI-飛行時間型質量分析計(Matrix assisted laser desorption ionization time-of-flight massspectrometry(MALDI-TOF-MS))、MS/MS質量分析計(タンデム質量分析計:Tandem mass spectrometer)、液体クロマトグラフ質量分析計(LC―MS質量分析計)などが実用化されている。これに伴い、プロテオーム解析は、タンパク質等の高速構造分析とともに、ポリペプチドのハイスループット超微量分析、従来、検出出来なかった極微量タンパク質の同定が可能となり、疾患関連因子の探索に強力なツールとなってきている。 しかし、体液試料、特に血清ならびに血漿のプロテオーム解析は臨床的に大きな利点があるにもかかわらず、生体組織を対象としたプロテオーム解析に比べて遅れている。この理由は、例えば、アルブミン、グロブリンなどの主要なタンパク質の存在量が血清ならびに血漿中の全タンパク質の約99%を越えており(非特許文献1)、これらタンパク質の除去に伴い、低分子量タンパク質、及びペプチド成分が大きく損失するためである。 これまで、血清ならびに血漿中の主要タンパク質を除去する前処理技術が開発されてきた。例えば、微量成分の検出に対し妨害となる過剰なタンパク質を除去した溶液を得る方法(特許文献1及び2)、タンパク質の分画処理された溶液を複数の電極を用いて濃縮する方法(特許文献3)、有機溶媒を使用して大きなタンパク質を沈殿させ、小分子タンパク質を解離させる、血清の主要タンパク質の除去方法(非特許文献2)がある。 しかし、主要タンパク質の除去に伴いそれらのタンパク質に相互作用している低分子量タンパク質、ペプチドも損失してしまうため、依然、タンパク質の影響を受けず、高効率で再現性良く、体液試料、特に血清ならびに血漿中の低分子量タンパク質及びペプチドを濃縮する方法の開発が求められていた。特開2005−126376特開2005−156249特開2007−139759Tirumalai et.al., Mol. Cell. Proteomics 2.10, 1096-1103, 2003Merrell. et.al., Journal of Biomolecular Techniques 15: 238-248,2004 本発明は、存在量の多いタンパク質の影響を受けず、高効率で再現性が良く、体液試料、特に血清ならびに血漿中の低分子量タンパク質及びペプチドを濃縮する方法、及び該方法に使用するキットの提供を目的とする。 本発明者らは、疾患関連ペプチドの探索法の開発を行い、組織中のペプチド成分を高効率で再現性よく濃縮する方法を確立した。この方法は2段階の行程からなり、正常組織と疾病組織中に含まれる300〜500種類の主要ペプチドを抽出し、2次元HPLCで分離して定量的に比較することを可能にした。これによって糖尿病モデルマウスの腎皮質中に存在する糖尿病特異的なペプチドを単離、同定することに成功した。しかし、ヒト疾患への応用を考えた場合、組織を対象とし、例え組織中の診断マーカが発見できたとしても、検査における患者の苦痛や負担が大きく、実際の応用は困難である。これに対して、体液試料、特に血清ならびに血漿中の診断マーカを発見すれば、採血するだけで、ほとんど苦痛を伴わず診断ができ、さらに、健康診断への応用が可能でとなり、その結果、疾患の早期発見につながる可能性が高い。 そこで前記組織ペプチド分析法の確立によって得たノウハウをもとに、血清を対象とした低分子量タンパク質ならびにペプチド濃縮法の開発を行った。該方法の開発において最も大きな問題点は、タンパク質の除去に伴い、低分子量タンパク質やペプチド成分も大きく損失する点である。これは低分子量タンパク質等が血清中の主要成分であるアルブミン、グロブリンなどのキャリアタンパク質と結合しているためと考えられる。そこで発明者らは様々な条件検討の結果、キャリアタンパク質の影響を受けずに高効率で再現性が良く、血清ならびに血漿中の低分子量タンパク質等を濃縮する方法の開発に成功した。 したがって、本発明は、下記工程(a)〜(f)を含む、体液試料中に含まれる、低分子量タンパク質及びペプチドの濃縮方法を提供する。(a) 該体液試料に、尿素及びチオ尿素を含む試薬1、及び還元剤を含む試薬2を加えて混合し、ついで有機溶媒90%以上含む試薬3に滴下して、混合する工程;(b) 工程(a)で得られた混合溶液を低温下で攪拌する工程;(c) 工程(b)で得られた攪拌溶液を低温下で遠心分離し、上清を除去する工程;(d) (c)で得られた沈降物に有機溶媒及び酸を含む試薬4を加えて混和する工程;(e) 工程(d)で得られた混合溶液を低温下で攪拌する工程;及び(f) 工程(e)で得られた攪拌溶液を低温下で遠心分離し、上清を回収する工程である。 本発明は、さらに、(g) 工程(f)で回収した上清を凍結乾燥する工程を含む、体液試料中に含まれる、低分子量タンパク質及びペプチドの前記濃縮方法を提供する。 また、本発明は、前記濃縮方法で得られた凍結乾燥物に、TFA、塩酸, ギ酸、酢酸、及びTCAからなる群から選ばれた成分を含有する試薬5を加えることを含む、体液試料中に含まれる、低分子量タンパク質及びペプチドの分析試料の作成方法を提供する。 さらに、本発明は、尿素及びチオ尿素を含む試薬1、還元剤を含む試薬2、有機溶媒90%以上含む試薬3、及び有機溶媒及び酸を含む試薬4を含む、体液試料中に含まれる、低分子量タンパク質及びペプチドの濃縮用キットを提供する。(定義) 本明細書中において、「低分子量タンパク質」とは、分子量30,000以下、好ましくは分子量20,000以下のタンパク質をいう。また、特に断らない限り「低分子量タンパク質等」とは、低分子量タンパク質、及びペプチドの双方を意味する。例を挙げると、極微量存在するペプチドホルモン、インターロイキン、サイトカイン等の生理活性タンパク質、特に機能がない極微量のバイオマーカタンパク質、及びペプチドなどがある。これらは腎臓を通過して尿中に一部排泄されるため、血液のみならず尿を検体として測定することも可能な場合もある。 本明細書中において、「血漿」とは、EDTA又はヘパリンなどを加えて遠心分離した血液凝固系が作用し難い、又は作用しない上清をいう。 本明細書中において「血清」とは、血液から凝固成分をとり除いた部分である。新鮮な血液を放置すると血液凝固がおこり、ついで血球ならびにフィブリンは塊状に収縮し、透明な琥珀色の血清を遊離する。その成分はほぼ血漿からフィブリノゲンを除いたものにあたる。 本明細書中において、血清等の「主要タンパク質」及び「キャリアタンパク質」とは、血清中の比較的分子量の大きいタンパク質をいう。例を挙げると、アルブミン(分子量66kDa)、免疫グロブリン(150〜190kDa)、トランスフェリン(80kDa)、ハプトグロビン(>85kDa)、リポタンパク質(数100kDa)などがある。 本明細書中において、「SDS」とは、ドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate)を意味する。 本明細書中において、「PAGE」とは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(polyacrylamide gel electrophoresis)を意味する。 本発明は、体液試料、特に血清及び血漿に含まれる、比較的分子量の大きいタンパク質を除去し、低分子量タンパク質、及びペプチドを効率的、かつ再現性良く濃縮することができる。さらに、本発明は、試薬1〜4では除去されない中分子量から高分子量(分子量20,000〜100,000以上)のタンパク質を、アルブミン等の高含量主要タンパク質から分離し、電気泳動、プロテオーム解析などにより検出可能、及び/又は定量可能な形態にすることができる。 本発明における体液試料とは、哺乳動物の血清、血漿、尿、唾液、涙液、脳脊髄液、腹水、胸水、及び各種細胞から得られる溶液等であって、低分子量タンパク質及び/又はペプチドを含む溶液をいい、特に血清、及び血漿が好ましい。 本発明の工程(a)は、前記体液試料に、尿素及びチオ尿素を含む試薬1、及び還元剤を含む試薬2を加えて混合し、ついで有機溶媒90%以上含む試薬3に滴下して、混合する工程である。 該試薬1における濃度は、尿素が1〜8モル/リットル(以下、Mと略す。)、好ましくは3〜8M、チオ尿素が0.5〜3M、好ましくは1〜3Mである。また、該試薬2における還元剤の濃度は、体液試料、試薬1、及び試薬2の混合物中1mM〜20mMとなる濃度とするのが好ましい。したがって、試薬2における還元剤の濃度は、少なくとも該混合物中の濃度の10倍〜100倍に、例えば、該還元剤濃度を10mM〜200mM、10mM〜1M、10mM〜2M、又は10mM〜10Mとするのが好ましい。 なお、 該試薬2の還元剤は、通常、タンパク質等生体物質の還元に用いるものであれば特に制限なく使用することができる。例を挙げると、ジチオスレイトール(Dithiothreitol:DTT)、ジチオエリスリトール (Dithiothreitol:DTE)、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩 (Tris(2-carboxyethyl)phosphineHCl:TCEP HCl)、トリ-n-ブチルホスフィン(Tri-n-butylphosphine:TBP)、2−メルカプトエタノール(2-Mercaptoethanol:2-ME)及びこれらの混合物からなる群から選ばれたものがある。 該試薬2における還元剤がジチオスレイトール(DTT)、ジチオエリスリトール(DTE)、 2-メルカプトエタノール(2-ME)又は2-メルカプトエタノールアミン(2-MEA)である場合は、体液試料、試薬1、及び試薬2の混合物中で5mM〜20mMとなる濃度とするのが好ましい。したがって、該試薬2における該還元剤の濃度は50mM〜10M、好ましくは50mM〜1M、より好ましくは50mM〜100mMである。該試薬2における還元剤がトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩 (TCEP HCl)又はトリ-n-ブチルホスフィン (TBP)である場合には、体液試料、試薬1、及び試薬2の混合物中で1mM〜10mMとなる濃度とするのが好ましい。したがって、該試薬2における該還元剤の濃度は10mM〜10M、好ましくは10mM〜1M、より好ましくは10mM〜200mMである。 試薬3は、アセトン、エタノール、メタノール、2−プロパノール、アセトニトリル、及びこれらの混合物からなる群から選ばれた有機溶媒、好ましくはアセトンを含む溶液である。該有機溶媒の濃度は、通常90%以上、好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上である。 滴下する試薬3の容量は、体液試料と試薬1及び2の混合溶液の少なくとも10倍以上、好ましくは20倍以上、特に好ましくは30倍以上である。 該工程(a)では、試薬1及び2を加えて液体試料中のタンパク質及びペプチドを処理した後、従来のアセトン法等におけるアセトンの濃度50〜70%より、かなり高い90%以上の有機溶媒を含む試薬3に滴下する。これにより、体液試料中の主要タンパク質は変性し、従来の構造が壊れる。一方、有機溶媒90%以上の試薬3であっても、低分子量タンパク質及びペプチドは変性がないか、又は変性の度合いが小さい。これにより、低分子量タンパク質等と主要な高分子タンパク質が解離しやすい状態で沈殿するものと考えられる。 本発明の工程(b)は、工程(a)で得られた混合溶液を低温下で攪拌する工程である。 該工程(b)における低温とは、試料中のタンパク質等の成分が安定であれば特に制限はないが、例えば−20℃〜10℃、好ましくは0℃〜5℃である。また該攪拌は、1分以上、好ましくは60分〜120分間、さらに好ましくは60分〜90分間行う。また、攪拌は各種ボルッテックスミキサー及びスタラー等の攪拌機を用いて行うことができる。 本発明の工程(c)とは、工程(b)で得られた攪拌溶液を低温下で遠心分離し、上清を除去する工程である。 該工程(c)における低温とは、試料中のタンパク質等の成分が安定であれば特に制限はないが、例えば0℃〜10℃、好ましくは0℃〜5℃である。該遠心分離は、体液試料中のタンパク質、及びペプチドを沈降させ得る条件、例えば、3000×g〜30000×g、好ましくは10000×g〜25000×gで、1分間以上、好ましくは5分間〜30分間行う。 本発明の工程(d)は、工程(c)で得られた沈降物に有機溶媒及び酸を含む試薬4を加えて混和する工程である。 該試薬4の有機溶媒は、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びこれらの混合物からなる群から選ばれたもの、好ましくはアセトニトリルである。該有機溶媒の濃度は、50〜99%、好ましくは60〜80%である。また、該酸は、塩酸、TFA、ギ酸、酢酸、及びTCAからなる群から選ばれたものであり、好ましくは塩酸である。また、該酸の濃度は、前記主要タンパク質を酸変性させ溶け難くさせる濃度である。例えば、塩酸を用いる場合、その濃度は、通常1mM以上、好ましくは1mM〜300mM、好ましくは5mM〜500mM、さらに好ましくは5mM〜25mMである。また、ここで前記体液試料1容量部に対し、試薬4を0.1〜500容量部、好ましくは1〜200容量部、さらに好ましくは10〜100容量部加えることができる。 本発明の工程(e)は、工程(d)で得られた混合溶液を低温下で攪拌する工程である。 該工程(e)における低温とは、試料中のタンパク質等の成分が安定であれば特に制限はないが、例えば−20℃〜10℃、好ましくは0℃〜5℃である。また該攪拌は、1分以上、好ましくは60分〜120分間、さらに好ましくは60分〜90分間行う。また、攪拌は各種ボルッテックスミキサー及びスタラー等の攪拌機を用いて行うことができる。 工程(d)で試薬4を加え、工程(e)で攪拌することにより、低分子量タンパク質及びペプチドは溶解するが、体液試料、特に血清および血漿などの高含量タンパク質は溶解しない。これは、先に述べたように、工程(a)で有機溶媒90%以上の試薬3により、主要タンパク質は変性し、従来の構造が壊れ、一方、低分子量タンパク質及びペプチドは変性がないか、又は変性の度合いが小さいため、双方が解離しやすい状態になるものと考えられる。ここで試薬4を加え処理することで、主要タンパク質は溶解せず、低分子量タンパク質等は溶解して、双方を分離することが可能になる。なお、工程(a)及び(d)の試薬1〜4で不溶化しない中高分子〜高分子タンパク質も、高含量の主要タンパク質から解離されるので、解析することが可能になる。 本発明の工程(f)とは、工程(e)で得られた攪拌溶液を低温下で遠心分離し、上清を回収する工程である。 該工程(f)における低温とは、試料中のタンパク質等の成分が安定であれば特に制限はないが、例えば0℃〜10℃、好ましくは0℃〜5℃である。該遠心分離は、体液試料中のタンパク質、及びペプチドを沈降させ得る条件、例えば、3000×g以上、好ましくは10000×g〜25000×gで、1分間以上、好ましくは5分間〜30分間行うことができる。 該工程(f)で得られた上清が、本発明の方法で得られた体液試料の低分子量タンパク質等の濃縮物であり、このままプロテオーム解析等に用いることができる。 本発明の工程(g)は、付加的な工程であって、工程(f)で回収した上清を凍結乾燥する工程である。該凍結乾燥を行うことにより、体液試料の低分子量タンパク質等を安定的に保存できるとともに、分析方法に応じて所望の溶媒に、所望の濃度で溶かして解析を行うことができる。なお、該凍結乾燥は、本発明で濃縮する低分子量タンパク質等を壊さないものであれば、特に制限なく使用することができる。 本発明は、さらに前記方法で得られた凍結乾燥物に、TFA、塩酸、ギ酸、酢酸、及びTCAからなる群から選ばれた成分を含有する試薬5を加えることを含む、体液試料中に含まれる、低分子量タンパク質及びペプチドの分析試料の作成方法を提供する。好ましくは、試薬5は、TFAを0.1〜20%含む。好ましくは、試薬5は、ギ酸、酢酸、TCA、又はこれらの混合物を0.1〜20%含む。試薬5は、水、エタノール、メタノール、アセトニトリル、プロパノール、アセトン、又はこれらの混合物を含む種々の溶媒とすることができる。該作成方法では、前記体液試料1容量部に対し、試薬5を0.01〜100容量部、好ましくは0.1〜100容量部、さらに好ましくは5〜100容量部加えることができる。 さらに、本発明は、体液試料中に含まれる、低分子量タンパク質及びペプチドの濃縮用キットを提供する。該キットは、尿素及びチオ尿素を含む試薬1、還元剤を含む試薬2、有機溶媒90%以上含む試薬3、及び有機溶媒及び酸を含む試薬4を含む。該キットで用いる試薬は、これまで説明した本発明の方法で用いる試薬1〜4と同じである。 すなわち、本発明のキットは、濃度が尿素1〜8M、かつチオ尿素0.5〜3Mの試薬1、還元剤を先に記載した濃度で含む試薬2であり、アセトン、エタノール、メタノール、2プロパノール、アセトニトリル、及びこれらの混合物からなる群から選ばれた有機溶媒を90%以上、好ましくは95%以上含む試薬3、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びこれらの混合物からなる群から選ばれた有機溶媒50〜99%、及塩酸、TFA、ギ酸、酢酸、及びTCAからなる群から選ばれた酸を含む試薬4を含むものである。 さらに、本発明のキットは、濃度が尿素3〜8M、かつチオ尿素1〜3Mの試薬1、還元剤の濃度が10〜300mMの試薬2、有機溶媒がアセトンであって、その濃度が98%以上である試薬3、有機溶媒がアセトニトリルであり、かつその濃度が60〜80%である試薬4を含むものである。hosi さらに、本発明は、前記試薬1〜4、及び試薬5、すなわち濃縮された低分子量タンパク質等の凍結乾燥物に加える、TFA、塩酸、ギ酸、酢酸、及びTCAからなる群から選ばれた成分を含有する試薬5を含む、体液試料中に含まれる、低分子量タンパク質及びペプチドの分析試料作成用キットを提供するものである。 次に、実施例に基づき本発明を詳細、かつ具体的に説明する。なお、下記実施例は本発明の説明を意図するものであって、いかなる意味においても本発明の保護範囲を制限するものではない。本発明の保護範囲は、本件出願の特許請求の範囲の記載により限定されるものである。(実施例1) 低分子量タンパク質等の濃縮 本実施例では、ヒト血清を用いて本発明の低分子量タンパク質等の濃縮を行った。図1に、本実施例の実施手順のフローチャートを示す。なお、ここに記載された「低分子量タンパク質等」とは、分子量2万以下のタンパク質、ペプチド、及び本発明の方法では除去されない中分子量〜高分子量タンパク質を意味し、血清中におけるアルブミン等の主要高分子タンパク質のほとんど含まない。 本実施例では、体液試料として血清20μlを用い、試薬1(7M尿素, 2Mチオ尿素) 36μlと 試薬 (200mM DTT) 4μl /を加え、Vortexで混和した。その際、該血清、試薬1、及び試薬2は全て4℃に冷やして使用した。ついで該混合溶液に、4℃に冷却した高純度アセトンからなる1.8 mlの試薬3に滴下し、該滴下後すぐにvortexを用いて混和し、ついで4℃の環境で1時間撹拌した。該攪拌後、該混合溶液を冷却遠心機により4℃で15分間遠心分離し(19,000×g)、得られた上清を完全に除去した。ついで、残留沈殿物に4℃の試薬4 (アセトニトリル70%, 塩酸12 mM、残部水) 400μlを加え、4℃で1時間撹拌したのち、該混合溶液を冷却遠心機を用いて4℃で15分間遠心分離し(19,000×g)、得られた上清を低分子量タンパク質等の濃縮溶液として回収した。 次いで、該濃縮を凍結乾燥し、得られた凍結乾燥物に試薬5 (99.9% H2O, 0.1% TFA) 80μlを加えて溶解した。 同様の方法で、血清 5μl と SPM 4μg の混合物、血清10μl、及び血清 5μlを処理して解析用サンプルを得た。なお、処理する血清量を変えたので、血清量20μlの場合と溶媒1〜溶媒5の量が同じ比になるように変化させた。例えば、血清量が10μlの場合の試薬1〜試薬5の量は、試薬1を18μl, 試薬2を2μl, 試薬3を0.9ml, 試薬4を200μl, かつ試薬5を80μlとした。(実施例2) Tricine-SDS-PAGEによる本発明の評価 実施例1で得られた濃縮溶液の試料として評価を、低分子用電気泳動(Tricine-SDS-PAGE)で分離し、クーマシー染色することで行った。 使用したサンプルは、実施例1の方法で得られた血清濃縮溶液、未処理の血清、標準ペプチド混合物(SPM)、未処理血清とSPMの混合液である。ここで用いたSPMは、馬心臓グロブリンの臭化シアンによる分解物であって、分子量16,949、14,404、10,700、8,159、6,214、及び2,512の6種類のペプチド断片を含む混合物である。電気泳動における分子量マーカとして用いられる、GEヘルスケアバイオサイエンス社製の試薬である。 前記Tricine-SDS-PAGEで用いたゲルの組成は下記表1に記載したとおりである。 また、該Tricine-SDS-PAGEは次の条件でおこなった(参考文献7)。 次いで、サンプルを展開したゲルを取りだし、クーマシー染色を行った。クーマシー染色の試薬ならびに方法は以下の通りである。試薬1(染色液:30%メタノール, 10%酢酸, 0.1% [w/v] Coomassie R-350, 残部水)試薬2(脱色液: 30%メタノール, 10%酢酸,残部水) 染色手順は、電気泳動後にゲル板からゲルを外し、表面が平滑で清浄な容器に移した。次いで、ゲルが浸る程度に試薬1を加え、20分間振とうし、振とう後の試薬1を除去した。その後、試薬2をゲルが浸る程度加え、適度にバックグランドが薄くなるまで振とうした。 得られた結果を図2に示す。レーン(a)はSPM 4μg、レーン(b)は未処理血清 0.5μl、レーン(c)は血清 5μlとSPM 4μg の混合物を実施例1の方法で処理したもの、レーン(d) は血清5μlを実施例1の方法で処理したもの、レーン(e)は血清10μlを実施例1の方法で処理した結果である。電気泳動パターンの上の表に血清量、SPM量、実施例1の処理をしたか否かを示している。 レーン(d) はレーン(b) の10倍量の血清5μlを分析しているが、本発明の方法で処理しているため、タンパク質成分がほとんど除去されていることがわかる。また、レーン(d) はレーン(b) と比較して低分子量タンパク質等の成分が濃く検出され、レーン(d)の2倍量の血清を本発明の方法で処理したレーン(e)の結果では低分子量タンパク質等の成分がレーン(d)の約2倍の濃さで検出された。レーン(c)はレーン(a) と等量のSPM 4μgと血清5μlの混合物を実施例1により濃縮した結果である。レーン(c)とレーン(a)のSPMのバンドを比較して、すべてのバンドがほぼ同じ濃さで検出された。このことより、低分子量タンパク質等の濃縮効率がほぼ100%に近いことが確認できた。かかる結果から、本発明の方法はSPMを効率よく回収でき、高効率に血清中の低分子量タンパク質等を濃縮することができた。また、濃縮する血清量を2倍することで、低分子量タンパク質等の成分も約2倍に濃縮できたことから、試料中のペプチドの量的な情報を維持したま濃縮できていると考えられる。従って、本発明の方法はキャリアタンパク質の影響を受けず、量的な情報を維持したまま高効率で低分子量タンパク質等を濃縮できる方法であることが判る。(実施例3) 逆相HPLCによる本発明の評価 実施例1の方法により濃縮した低分子量タンパク質等のサンプルを逆相 HPLCで分析した結果を図3に示す。(A)は溶出時間 20〜70 分の分析結果、(B) は (A) の溶出時間 30〜40 分のクロマト強度を5 倍に拡大した結果である。また、黒色のクロマトは未処理血清0.5μl、灰色のクロマトは血清5μlを実施例1の方法で処理したサンプルを分析したものである。該逆相HPLCでは、溶出時間が早い方(40分以前)に低分子量タンパク質等が濃縮され、溶出時間の遅い方(40分以降)に分子量の高いタンパク質等が濃縮される傾向がある。 灰色のクロマトは黒色のクロマトの10倍量の血清5μlを実施例1の方法により低分子量タンパク質等を濃縮した結果である。(A)の灰色と黒色のクロマトを比較して、灰色のクロマトは溶出時間40分以降のピークがほとんどなくなっている。この結果から、アルブミン等の主要高分子タンパク質等がほとんど除去されたことがわかる。また、(B) では黒色のクロマトではほとんどピークが検出できていないが、灰色のクロマトでは沢山のピークが検出できている。この結果から血清中の低分子量タンパク質等が濃縮されていることがわかる。(実施例4) 本発明の方法の再現性の確認 本発明の方法による低分子量タンパク質等の濃縮再現性を確認するために、同一血清各10μlを実施例1の手順で独立して6回濃縮し、それぞれTricine-SDS- PAGEで分析した。その結果を図4に示す。図4からわかるように、すべてのレーンで共通のバンドが確認でき、個々のバンドがほぼ同じ濃さならびに太さで検出された。この結果から、本発明の方法は高い再現性で低分子量タンパク質等を濃縮できることが確認できた。(実施例5) 本発明の方法で濃縮された低分子量タンパク質等の同定 実施例1の方法で濃縮した低分子量タンパク質等をTricine-SDS-PAGEを用いて展開し、明確にバンドとして確認できる主要なペプチド、及び除去されなかったタンパク質の同定を行った。以下にその方法と結果を示す。(低分子量タンパク質等の分離) まず、サンプルとした血清10μlを実施例1の方法で処理して得た濃縮溶液をTricine-SDS-PAGEで分離し、クーマシー染色後、同定するバンドを切り出して複数のゲル片を得た。該ゲル片をアセトニトリル50%含有50mM重炭酸アンモニウム溶液で完全に脱色した。該ゲル片を蒸留水で洗浄後、100%アセトニトリル中にて15分脱水し、遠心エバポレーターで60分乾燥した。乾燥したゲル片に、25 mM Tris-HCl (pH 9.0)に溶かした0.5 ng/μlのトリプシン(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社) 10〜30μl を加えて氷中で45分吸収させた。その後、余分なトリプシン溶液を除去し、50mM Tris-HCl pH 9.0 をゲルが浸る程度まで加えて、37℃で18時間ゲル内消化を行った。酵素消化終了後、ゲル片のまわりの溶液を完全に回収し、氷中で一時保存した。さらに、まだゲル内に残っているペプチド断片を回収するために、50% アセトニトリル含有5%ギ酸溶液を該ゲルが浸る程度加え、室温で20分攪拌した。攪拌後、その上清を先に得て保存しておいた溶液に加えた。該溶液をLC-MS*装置で測定し、タンパク質同定用ソフトウェア(SEQUEST SEARCH: サーモフィッシャー株式会社)を用いてデータベース検索を行った。*LC-MS: Liquid Chromatography - Mass SpectrometryLiquid Chromatography : Nanospace SI-2 (株式会社資生堂)Mass Spectrometry : LCQ-DECA (サーモフィッシャー株式会社製)(解析の結果) 図5に、分離した低分子量タンパク質等のバンドを示し、表2に同定した結果を示す。図5の左側には各バンドの低分子量タンパク質等の分子量、右側に同定したバンド番号を示す。表2のバンド番号は図5のバンド番号と対応し、その分子量は同定されたタンパク質、及びペプチドのデータベース上の分子量を示し、タンパク質等の名称は同定されたタンパク質、及びペプチド名を示している。図5のTricine-SDS-PAGEの結果から判るように、分子量20,000以上のタンパク質と、分子量 20,000 以下の低分子量タンパク質等が同定されている。 なお、図5で一つのバンドとして示されているが、表2に記載されているように、切り出した各ゲル片中には、実際に同定された複数のタンパク質、及びペプチドが存在した。この結果、得られた濃縮物中には、数多くの低分子量タンパク質等が含まれていると考えられる。また、図5のバンド番号11は、右側の分子量から見積もると分子量約11,000である。しかし、同定された複数のタンパク質中に見積もりの分子量より明らかに大きい分子量47,000のタンパク質が含まれていた。これは、タンパク質の切れた断片が同定されたこと示している。この結果、低分子量タンパク質等の領域のほとんどのバンドにタンパク質の切れた断片が含まれていることがわかった。該タンパク質の断片には細胞の壊死、アポトーシスによって血流に放たれるものが含まれる(参考文献2)。そのため、生体内の様々な情報を反映していると考えられる。 図5の番号2のバンドは、該バンドの濃さから約2μgであり、含まれるタンパク質はアルブミンと同定された。該アルブミンは健常者の血清10μl中に約600μg存在する(参考文献2)。この結果、タンパク質の代表であるアルブミンの約99.7%が除去されたことがわかった。また、表2の低分子量タンパク質等の領域の番号13のバンドのアポリポタンパク質C-IIは健常者血清10μl中に約0.3μgしか存在しない(参考文献3)。従って、アポリポタンパク質C-IIは血清の主要成分ではない(図1参照)。該血清中のアルブミンとアポリポタンパク質C-IIの濃度を比較すると、アルブミンはアポリポタンパク質C-IIの約2,000倍濃度で存在する。本発明の方法を用いて濃縮を行った結果、濃度差が約2,000倍のアルブミンとアポリポタンパク質C-IIが電気泳動で同時に検出できた。このことは、アルブミンがほとんど除去され、アポリポタンパク質C-IIが効率よく濃縮されたことを示している。(比較例1) 従来法との比較・アセトン沈殿法 本発明の方法と比較して、従来の一般的なペプチド抽出法(濃縮法)である(1)アセトン沈殿法と(2)限外ろ過法のタンパク質の除去効率とペプチドの抽出効率の評価を行った。(アセトン沈殿法) アセトン沈殿法では、アセトンの溶媒和によってタンパク質分子表面の水和水を奪うため、結果としてタンパク質の溶解度が減少し、タンパク質同士が結合し沈殿する。タンパク質は溶媒との水和により安定な立体構造を形成しているため高濃度の有機溶媒により沈殿し易い。これに対してペプチドは一般的に立体構造を持たないで溶解しているため沈殿しにくい。アセトン沈殿法はこの有機溶媒存在下における溶解度の違いを利用し、ペプチドだけを可溶性画分として抽出する方法である。従って、血清をアセトン溶媒に滴下すると、タンパク質は沈殿し、ペプチドのみを可溶性画分として回収することができる。(アセトン沈殿法の手順) 本比較例において、アセトン沈殿法は松尾やChertovらの方法を参考にして行った(参考文献4及び5)。図6にアセトン沈殿法のフローチャートを示す。 サンプルとして、ペプチドの抽出効率を評価するためにSPMを混合した血清と混合していない血清を使用した。まず、血清と7M 尿素 / 2 Mチオ尿素を1:1で混合し血清を希釈した。該希釈血清10μlを4℃に冷やした75% アセトン90μlにゆっくり滴下し、4℃で1時間攪拌した。その後、19,000×g, 4℃で15分間遠心分離を行い、可溶性画分を回収し凍結乾燥した。該凍結乾燥物をPAGE用サンプル緩衝液20μlで溶解し、Tricine-SDS-PAGEで分解析した。なお、前記PAGE用サンプル緩衝液の組成は50mM Tris-HCl(pH6.8), 50mM DTT, 0.5% SDS, 10% グリセロールとした。 血清を7M 尿素 / 2Mチオ尿素で希釈することで、タンパク質が変性する。このことにより、プロテアーゼも失活し、その影響を軽減できる(参考文献5)。また、キャリアタンパク質も変性し、キャリアタンパク質と結合したペプチドを回収できると考えた。(結果と評価) アセトン沈殿法により血清から抽出したペプチドをTricine-SDS-PAGEで分離し、クーマシー染色した結果を図7に示す。レーン(a)はSPM 8μg、レーン(b)は未処理血清 0.5μl、レーン(c)は血清 5μlとSPM 8μg の混合物をアセトン沈殿法で処理したもの、レーン(d)は血清 5μl をアセトン沈殿法で処理したもの、レーン(e)はSPM 8μg をアセトン沈殿法で処理したものを分析した結果である。電気泳動パターンの上に血清量、SPM量、アセトン沈殿法の処理をしたか否かを示した。 レーン(d) は レーン(b) の10倍量の血清5μlを分析した結果であるが、アセトン沈殿法で処理したため、タンパク質 (分子量 20,000以上) がほとんど除去されている。さらに、レーン(d) は レーン(b) と比較してペプチド成分(分子量 20,000以下) が濃く検出されたことからペプチド成分が濃縮されたことがわかる。しかし、一方ではレーン(b)で分子量14,000から17,000に観測されていた2本のバンドがアセトン沈殿により消失している。また、レーン(a)、レーン(c)、レーン(e)は等量のSPM 8μgを含み、レーン(c)のサンプルにのみ血清 5μlを加えた。SPMのみをアセトン沈殿法で処理したレーン(e)はSPMすべての成分が効率よく回収できた。しかし、SPMに血清を加えたレーン(c)はSPM中の分子量 6,000の成分以外がアセトン沈殿法により損失され検出されていない。このことから、7M 尿素 / 2M チオ尿素で血清を希釈しているにもかかわらず、SPMはキャリアタンパク質と結合して一緒に除去されたと考えられる。 以上、図5から明なように、アセトン沈殿法を用いてペプチド抽出すると、血清中の2種類のメジャーペプチド(分子量14,000、17,000)が損失し、かつあらかじめ血清に加えたSPMが損失したことから、キャリアタンパク質に結合しているペプチドの抽出はできないと考えられる。つまり、血清中に存在するペプチドの量的な情報を維持したままでペプチドを抽出することは困難であることがわかった。(比較例2) 従来法との比較・限外ろ過法 限外ろ過法とは、一定サイズ以下の分子を通し、それ以上のサイズの分子を通さない限外ろ過膜を用いてペプチドを抽出する方法である。血清を限外ろ過膜でろ過をすると、理想的にはタンパク質は、ろ過膜を通過できずに濃縮され、ペプチドだけが通過する。従って、ペプチド成分だけをろ液として分離することが可能である。限外ろ過法はハイスループットで簡便な方法であるため、血清ならびに血漿からペプチドを抽出するのに最も使用されている方法である。(限外ろ過法の手順) 本比較例において、限外ろ過法はTirumalaiらやHarperらの方法を参考にして行った(参考文献2及び6)。図8に限外ろ過法のフローチャートを示す。 限外ろ過膜は洗浄後に使用した。該洗浄は25mM 重炭酸アンモニウム / 20% アセトニトリルを、限外ろ過膜(MICROCON YM-30 , Millipore社製: 阻止分子量 30,000)にのせ、軽く攪拌した後、3,000×g で5分間遠心し、ろ液を除去することで行った。 サンプルとして、ペプチドの濃縮効率を評価するためにSPMを混合した血清と混合していない血清を使用した。該血清と25mM 重炭酸アンモニウム / 20% アセトニトリルを1:5で混ぜて血清を希釈した。該希釈血清を洗浄後の限外ろ過膜にのせ、3,000×g、4℃ で15分間遠心分離し、得られたろ液を回収して凍結乾燥した。該凍結乾燥物をPAGE用サンプル緩衝液20μlで溶解し、Tricine-SDS-PAGEで分析した。該PAGE用サンプル緩衝液の組成は50mM Tris-HCl(pH6.8), 50mM DTT, 0.5% SDS, 10% グリセロールとした。該血清を25mM 重炭酸アンモニウム / 20% アセトニトリルで希釈する理由は血清の粘性を下げて、ペプチドのろ過膜への吸着を軽減するためである(参考文献6)。(結果と評価) 前記限外ろ過法により、血清から抽出したペプチドをTricine-SDS-PAGEで分析した結果を図9に示す。(A)はクーマシー染色した結果、(B)は銀染色した結果である。該銀染色はクーマシー染色の20〜30倍の感度である。レーン(A1), 及びレーン(B1)は SPM 4μg、レーン(A2)及びレーン(B2)は 未処理血清 0.5μl、レーン(A3)は血清 5μl と SPM 4μg の混合物を限外ろ過法で処理したもの、レーン(A4) 及びレーン(B3)は血清 5μl を限外ろ過法で処理したもの、レーン(A5)及びレーン(B4)は血清 10μl を限外ろ過法で処理したもの、レーン(A6)及びレーン(B5)は血清 100μl を限外ろ過法で処理したサンプルを分析した結果である。該電気泳動パターンの上に血清量、SPM量、限外ろ過法の処理をしたか否かを示している。(A) クーマシー染色による評価 レーン(A3) は、レーン(A1)と等量のSPM 4μgとレーン(A2)の10倍量の血清5μlの混合物を限外ろ過で処理した結果である。タンパク質とSPMがともに検出されなかったことから、タンパク質が完全に除去されたと共にSPMも完全に除去されたことがわかる。また、レーン(A4)、レーン(A5)、及びレーン(A6)は、それぞれ5μl、10μl、100μlの血清を限外ろ過法で処理した結果である。レーン(A4)、レーン(A5)、及びレーン(A6)のすべてにタンパク質とペプチドの両方が検出されなかった。これらの結果から、限外ろ過法はタンパク質の除去効率が非常に高いが、ペプチドの抽出効率は非常に悪いことがわかった。(B) 銀染色による評価 レーン(B3)、レーン(B4)、及びレーン(B5)は、それぞれ5μl、10μl、100μlの血清を限外ろ過法で処理した結果である。レーン(B5)の血清100μlの処理物のみにペプチドが検出された。そのレーン(B5)と未処理血清0.5μlのレーン(B2)を比較すると、タンパク質が完全に除去されていることがわかる。また、ペプチド成分を比較すると血清の量が1 / 200のレーン(B2)の方が多くのバンドが検出され、ペプチドの抽出効率が0.5%以下であることがわかる。 上記(A)と(B)の結果から、限外ろ過法は、タンパク質の完全除去が可能であるが、ペプチドの抽出効率は0.5%以下で非常に悪いことがわかった。 従来から限外ろ過膜とタンパク質が吸着してタンパク質が損失することが知られている。このことから、限外ろ過法によるペプチドの抽出効率が悪い原因は、ろ過膜とペプチドの吸着、さらにはキャリアタンパク質に結合したペプチドがキャリアタンパク質と共に膜上で濃縮され、大部分のペプチドがろ過膜を通過できないためと考えられる。 考察 (本発明の方法、アセトン沈殿法、及び限外ろ過法の比較) 血清とSPMの混合物をペプチド抽出後にTricine-SDS PAGE で分析し、ペプチド抽出法のタンパク質の除去効率を調べるとともに、SPMの残量でペプチドの抽出効率を評価した。従来法のアセトン沈殿法と限外ろ過法は共にタンパク質の除去効率は高かったが、両方法共にSPMを大部分損失した(唯一、アセトン沈殿法でSPM中の分子量6,000のペプチドだけが抽出された)。SPMの損失の理由として、アセトン沈殿法ではキャリアタンパク質に吸着しているペプチドが回収できないこと、限外ろ過法はこれに加えてろ過膜によるペプチドの損失が大きいことが原因と考えられる。 これらの問題点を解決するために本発明の方法を開発し、(1) Tricine-SDS-PAGE, (2) 逆相 HPLC を用いてタンパク質の除去効率、ペプチドの抽出効率を評価した。また、(3) Tricine-SDS-PAGEを用いて再現性を評価した。さらに、(4)本発明の方法で濃縮された主要なペプチドの同定をした。(1) Tricine-SDS-PAGEの結果からタンパク質の除去効率は高く、従来法では回収できなかったSPMのすべてを回収できた。このことからキャリアタンパク質の影響を受けずに高効率にペプチドを濃縮できることがわかった。(2) 逆相HPLCの結果からも本発明の方法はタンパク質の除去効率は高く、多くのペプチドピークが検出でき効率よくペプチドが濃縮できることが確認できた。また、(3) Tricine-SDS-PAGEの結果から、本発明の方法は高い再現性でペプチドを抽出できていることがわかった。さらに(4) 本発明の方法で濃縮された主要なペプチドの同定の結果から、本発明の方法で得た濃縮物中には、主要成分だけでも多くのペプチドが存在し、その中に生体内の様々な情報を持つタンパク質の断片が含まれていることがわかった。さらに、血清タンパク質の主成分であるアルブミンの99.7%が除去でき、血清中にアルブミンの1 / 2,000量しか存在しないアポリポタンパク質C-IIを効率よく濃縮できていることがわかった。本方法は有機溶媒と酸を使っているため本方法によりタンパク質が切断されてその断片が人為的に生成されることも懸念されるが、SPMが非常に効率よく抽出できていることから考えるとその可能性は無い。また、試薬4の塩酸による影響が考えられるが塩酸濃度120mMでも切断は確認されなかった。 これらの結果から、本発明により、タンパク質の除去効率が高く、キャリアタンパク質に吸着しているペプチドも含めて、量的な情報を維持したまま高効率で再現性よくペプチドを濃縮できる方法が得られたと考えられる。 これらの結果を図10に要約した。レーン3、8、及び13の比較から明らかなように、本発明の方法では、SPMも効率よく回収されている。これに対し、アセトン沈殿法(A)、及び限外ろ過法(F)では、SPMはほとんど回収されていない。また、アセトン沈殿法、及び限外ろ過法では、血清中のキャリアタンパク質に吸着されたSPMが、キャリアタンパク質とともに除去されたものと考えられる。また、SPM以外の血清由来のペプチドも本発明の方法により最も多く濃縮されていることが分かる。また、レーン4、9、及び14の比較より、本発明の方法は、アセトン沈殿法、及び限外ろ過法に比べて血清由来のペプチドの回収率が非常に高いことが分かる。(参考文献)[1] Fukutomi et.al. "A simple methodfor peptide purification as a basis for peptidome analysis", (J.Electrophoresis 49:15, 2005)[2] Tirumalai RS, Chan KC, Prieto DA, IssaqHJ, Conrads TP, Veenstra TD. "Characterization of the Low Molecular WeightHuman Serum Proteome." (Mol. Cell. Proteomics 2003; 2:1096-103)[3] 古賀 俊逸 日本臨床 53−増−654 1995[4] 松尾寿之、西望 新生化学実験講座1 タンパク質I 分離・精製・性質 第3章 特殊なタンパク質の抽出法、第7章 分別沈殿[5] Chertov O, Biragyn A, Kwak LW, SimpsonJT, Boronina T, Hoang VM, Prieto DA, Conrads TP, Veenstra TD, Fisher RJ."Organic solvent extraction ofproteins and peptides from serum as an effective sample preparation fordetection and identification of biomarkers by mass spectrometry." (Proteomics2004; 4: 1195-203)[6] Harper RG, Workman SR, Schuetzner S,Timperman AT, Sutton JN."Low-molecular-weight human serum proteome using ultrafiltration, isoelectric focusing, and mass spectrometry."(Electrophoresis 2004;25:1299-306)[7] Schagger H, von Jagow, G."Tricine-sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresis for the separation of proteins in the range from 1 to 100 kDa". (Anal. Biochem. 1987; 166: 368-379) 本発明の方法により、濃縮することが困難なキャリアタンパク質に結合した低分子量タンパク質、及びペプチドを効率よく濃縮することが出来る。したがって、本発明の方法により、液体試料、特に血清及び血漿中の低分子量タンパク質などを、各種クロマトグラフィー、質量分析、電気泳動、NMR, ESR、各種分光法などにより分析することが可能になる。すなわち、本発明の方法は、血清ならびに血漿等の低分子量タンパク質などを対象とした診断、診断マーカのスクリーニング、医薬品開発などの医療分野で、幅広く応用することができる。また、本発明の方法は、自動化が容易であり、血液中の低分子量タンパク質等の自動分析装置の開発を可能にするものである。実施例1の実施手順を示すフローチャートである。実施例1で得られた濃縮溶液をTricine-SDS-PAGEで分離し、クーマシー染色を行った結果を示す写真である。実施例1の方法により濃縮したサンプルを逆相HPLCで分析した結果を示すデータである。本発明の方法の濃縮再現性を示す、Tricine-SDS-PAGEの結果を示す写真である。サンプル血清を実施例1の方法で処理して得た濃縮溶液を、Tricine-SDS-PAGEで分離し、クーマシー染色した写真である。それぞれのバンドについてペプチド等が同定された。比較例1で実施したアセトン沈殿法のフローチャートを示す。アセトン沈殿法により血清から抽出したペプチドをTricine-SDS-PAGEで分離し、クーマシー染色した結果を示す写真である。比較例2で実施した限外ろ過法のフローチャートを示す。限外ろ過法により、血清から抽出したペプチドをTricine-SDS-PAGEで分離し、クーマシー染色した結果を示す写真である。本発明の方法、アセトン沈殿法及び限外ろ過法の効果を、Tricine-SDS-PAGEの結果から比較したものである。 体液試料中に含まれる、低分子量タンパク質及びペプチドの濃縮方法であって: 下記工程、(a) 該体液試料に、尿素及びチオ尿素を含む試薬1、及び還元剤を含む試薬2を加えて混合し、ついで、アセトン、エタノール、メタノール、2-プロパノール、アセトニトリル、及びこれらの混合物からなる群から選ばれた有機溶媒を90%以上含む試薬3に滴下して、混合する工程;(b) 工程(a)で得られた混合溶液を低温下で攪拌する工程;(c) 工程(b)で得られた攪拌溶液を低温下で遠心分離し、上清を除去する工程;(d) (c)で得られた沈降物に、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びこれらの混合物からなる群から選ばれた有機溶媒、並びに酸を含む試薬4を加えて混和する工程;(e) 工程(d)で得られた混合溶液を低温下で攪拌する工程;及び(f) 工程(e)で得られた攪拌溶液を低温下で遠心分離し、上清を回収する工程、 を含む、前記方法。 さらに、(g) 工程(f)で回収した上清を凍結乾燥する工程を含む、請求項1記載の方法。 前記試薬2の還元剤が、ジチオスレイトール(DTT)、ジチオエリスリトール(DTE)、 トリスカルボキシルホスフィン(TCEP HCl)、トリブチルホスフィン(TBP)、2-メルカプトエタノール(2-ME)、2-メルカプトエタノールアミン(2-MEA)及びこれらの混合物からなる群から選ばれたものである、請求項1又は2記載の方法。 前記体液試料が、血清、又は血漿である請求項1又は2記載の方法。 試薬1における濃度が尿素1〜8M、かつチオ尿素0.5〜3Mであり、かつ試薬2における還元剤の濃度が、体液試料、試薬1、及び試薬2の混合物中1mM〜20mMとなる濃度である、請求項1、2又は3記載の方法。 試薬1における濃度が尿素3〜8M、かつチオ尿素1〜3Mである請求項5記載の方法。 試薬2における還元剤が、ジチオスレイトール(DTT)、ジチオエリスリトール(DTE)、 2-メルカプトエタノール (2-ME)又は2-メルカプトエタノールアミン(2-MEA)である場合には、試薬2における該還元剤の濃度が、体液試料、試薬1、及び試薬2の混合物中5mM〜20mMとなる濃度であり、該還元剤がトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩 (TCEP HCl)又はトリ-n-ブチルホスフィン(TBP)である場合には、試薬2における該還元剤の濃度が、体液試料、試薬1、及び試薬2の混合物中1mM〜10mMとなる濃度である、請求項5又は6記載の方法。 試薬3の有機溶媒がアセトンである、請求項1記載の方法。 試薬3の有機溶媒濃度が95%以上である、請求項1又は8記載の方法。 試薬3の有機溶媒濃度が98%以上である、請求項1又は8記載の方法。 前記試薬4の酸は、塩酸、トリフルオロ酢酸(TFA)、ギ酸、酢酸、及びトリクロロ酢酸(TCA)からなる群から選ばれたものであり、かつ前記試薬4の有機溶媒濃度が50〜99%である、請求項1記載の方法。 試薬4の有機溶媒が、アセトニトリルである、請求項1記載の方法。 試薬4の酸が、塩酸であり、その濃度が5mM〜500mMである、請求項11又は12記載の方法。 試薬4における有機溶媒の濃度が60〜80%である、請求項1、12又は13記載の方法。 試薬4における有機溶媒の濃度が65〜75%である、請求項1、12又は13記載の方法。 工程(b)において、工程(a)で得られた混合溶液を−20℃〜10℃の低温下で、1分以上攪拌する、請求項1記載の方法。 工程(b)において、工程(a)で得られた混合溶液を0℃〜5℃の低温下で、60分以上攪拌する、請求項16記載の方法。 工程(e)において、工程(d)で得られた混合溶液を−5℃〜20℃の低温下で1分以上攪拌する、請求項1記載の方法。 工程(e)において、工程(d)で得られた混合溶液を0℃〜5℃の低温下で60分以上攪拌する、請求項18記載の方法。 請求項2記載の方法で得られた凍結乾燥物に、TFA、塩酸、ギ酸、酢酸、及びTCAからなる群から選ばれた成分を含有する試薬5を加えることを含む、体液試料中に含まれる、低分子量タンパク質及びペプチドの分析試料の作成方法。 試薬5が、TFAを0.1〜20%含む、請求項20記載の方法。 試薬5が、ギ酸、酢酸、TCA、又はこれらの混合物を0.1〜20%含む、請求項20又は21記載の方法。 体液試料中に含まれる、低分子量タンパク質及びペプチドの濃縮用キットであって、尿素及びチオ尿素を含む試薬1、還元剤を含む試薬2、アセトン、エタノール、メタノール、2-プロパノール、アセトニトリル、及びこれらの混合物からなる群から選ばれた有機溶媒を90%以上含む試薬3、並びにアセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びこれらの混合物からなる群から選ばれた有機溶媒及び酸を含む試薬4を含む、前記キット。 試薬1における濃度が尿素1〜8M、かつチオ尿素0.5〜3Mであり、試薬2における還元剤の濃度が、体液試料、試薬1、及び試薬2の混合物中1mM〜20mMとなる濃度であり、試薬3の有機溶媒が、アセトン、エタノール、メタノール、2プロパノール、アセトニトリル、及びこれらの混合物からなる群から選ばれたものであり、試薬4の有機溶媒が、アセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びこれらの混合物からなる群から選ばれたものでその濃度が50〜99%であり、かつ前記酸は、塩酸、TFA、ギ酸、酢酸、及びTCAからなる群から選ばれたものである、請求項23記載のキット。 試薬1における濃度が尿素3〜8M、かつチオ尿素1〜3Mであり、試薬2における還元剤がジチオスレイトール(DTT)、ジチオエリスリトール(DTE)、 2-メルカプトエタノール (2-ME)又は2-メルカプトエタノールアミン(2-MEA)である場合は、試薬2における該還元剤の濃度が、体液試料、試薬1、及び試薬2の混合物中5mM〜20mMとなる濃度であり、該還元剤がトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩 (TCEP HCl)又はトリ-n-ブチルホスフィン(TBP)である場合には、試薬2における該還元剤の濃度が、体液試料、試薬1、及び試薬2の混合物中1mM〜10mMとなる濃度であり、試薬3の有機溶媒がアセトンであって、その濃度が98%以上であり、試薬4の有機溶媒が、アセトニトリルであり、かつその濃度が60〜80%である、請求項23記載のキット。 尿素及びチオ尿素を含む試薬1、還元剤を含む試薬2、アセトン、エタノール、メタノール、2-プロパノール、アセトニトリル、及びこれらの混合物からなる群から選ばれた有機溶媒を90%以上含む試薬3、並びにアセトニトリル、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びこれらの混合物からなる群から選ばれた有機溶媒及び酸を含む試薬4を含み、さらに請求項2記載の濃縮方法で得られた凍結乾燥物に加える、TFA、塩酸, ギ酸、酢酸、及びTCAからなる群から選ばれた成分を含有する試薬5を含む、体液試料中に含まれる、低分子量タンパク質及びペプチドの分析試料の作成用キット。