タイトル: | 特許公報(B2)_急性腎障害及び予後推定用バイオマーカー並びにその用途 |
出願番号: | 2009518665 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | G01N 33/53 |
門松 健治 湯澤 由紀夫 林 宏樹 松尾 清一 池松 真也 JP 4423375 特許公報(B2) 20091218 2009518665 20090226 急性腎障害及び予後推定用バイオマーカー並びにその用途 国立大学法人名古屋大学 504139662 萩野 幹治 100114362 門松 健治 湯澤 由紀夫 林 宏樹 松尾 清一 池松 真也 JP 2008048954 20080229 JP 2008302443 20081127 JP 2008302444 20081127 20100303 G01N 33/53 20060101AFI20100210BHJP JPG01N33/53 D G01N 33/53 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開2000−266750(JP,A) 松尾清一,腎疾患治療の新しい展開,日本透析医会雑誌,2003年,Vol.18,No.2,Page.187-191 Waichi Sato, Kenji Kadomatsu, Yukio Yuzawa, Hisako Muramatsu, Nigishi Hotta, Seiichi Matsuo, and Tak,Midkine is involved in neutrophil infiltration into the tubulointerstitium in ischemic renal injury,J Immunol,2001年,Vol.167,No,6,Page.3463-3469 Yasuo Adachi, Hideo Takamatsu, Hiroyuki Noguchi, Hiroyuki Tahara, Takahiko Fukushige, Takashi Takasa,A Malignant Rhabdoid Tumor of the Kidney Occurring Concurrently with a Brain Tumor. Report of a Case,Surg Today,2000年,Vol.30,No.3,Page.298-301 小杉智規, 加藤規利, 保浦晃徳, 丸山彰一, 湯澤由紀夫, 門松健治, 松尾清一,糖尿病性腎症進行における成長因子ミッドカインの関与,糖尿病合併症,2006年,Vol.20,No.Supplement 1,Page.73 Shinya Ikematsu, Kohji Okamoto, Yoshihiro Yoshida, Munehiro Oda, Hitomi Sugano-Nagano, Kinya Ashida,,High levels of urinary midkine in various cancer patients,Biochem Biophys Res Commun,2003年,Vol.306,No.2,Page.329-332 湯澤由紀夫,急性腎障害(AKI)の新たなバイオマーカー,生物試料分析,2009年 1月25日,Vol.32,No.1,Page.30 林宏樹, 湯澤由紀夫, 丸山彰一, 保浦晃徳, 池松真也, 門松健治, 松尾清一,尿中midkineは鋭敏な急性尿細管障害マーカーである,日本腎臓学会誌,2008年 4月25日,Vol.50,No.3,Page.258 O-043 29 JP2009000863 20090226 WO2009107384 20090903 28 20090428 三木 隆 本発明は急性腎障害の検査、腎機能に関する予後推定、及び急性腎障害の鑑別に有用な新規バイオマーカー並びにその用途に関する。 急性腎障害(Acute kidney injury。以下、「AKI」とも称する)の診断は、尿量、血清クレアチニン(Cr)値、血清尿素窒素、尿中NAG、β2-ミクログロブリン値などを指標としているが、どの指標も急性期の病態を鋭敏に診断できるまでの診断感度はなく、検査所見・臨床所見から総合的に診断しているのが実情である。このため、有効な治療を開始するまでに時間がかかりすぎ、治療成績が不良であるのが現状である。 診断・治療の急速な進歩にもかかわらず、集中治療領域(ICU)における重症急性腎不全患者の死亡率は過去50年間大きな進歩がなく50%前後であり、依然として克服しなければならない課題である。AKIを呈する疾患は開心術・大動脈置換術後、敗血症、臓器移植後など術後ICU管理の必要な疾患が多く、発症後、時間単位での病態の把握が必要となり、AKIの早期診断・早期治療介入なくしては生命予後の改善はないのが現状である。これに対処するために、急速に腎機能が低下する病態をAKIとして捉え、AKIをステージ分類してより早期から診断し、治療介入を行う必要性が近年、特に強調されている。 現状では、AKIの診断は通常、血清Cr上昇を指標に行われている。しかしながら、実際に腎障害が発生してから血清Crが上昇するまでには2〜3日を要することから、AKI診断時点ですでに治療介入のタイミングを逸していることが多い。従って、血清CrはAKIの診断マーカーとしては不十分であり、早期バイオマーカーの確立が急務である。 これまで、AKI治療のために抗アポトーシス/抗壊死剤、抗炎症剤、抗敗血症剤、各種成長因子、血管拡張剤など新規治療薬の臨床試験が行われてきたが、芳しい結果は得られていない。この理由として、複雑な患者背景や多様性に富むAKIの病因もさることながら、AKI診断の適切な早期バイオマーカーを欠くために早期に介入できない事が挙げられる。 最近、AKIの新規尿中バイオマーカーとして、好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL:neutrophil gelatinase-associated lipocaline、非特許文献1)、インターロイキン18(IL-18:Interleukin 18、非特許文献2)、腎障害分子-1(KIM-1: kidney injury molecule-1、非特許文献3)、肝型脂肪酸結合蛋白(L-FABP: liver type fatty acid-binding protein、非特許文献4、5)などの有用性が報告されている(非特許文献6)。Mishra J, et al., Lancet. 2005 Apr 2-8;365(9466):1231-8.Prikh CR et al., Kidney Int. 2006 Jul;70(1):199-203. Epub 2006 May 17.Han WK et al., Kidney Int. 2002 Jul;62(1):237-44.Nakamura T. et al., American journal of Kidney Diseases, Vol 47, No 3(March), 2006:pp439-444Yamamoto T. et al., J Am Soc Nephrol 18:2894-2902, 2007Coca SG. et al., Kidney Int 19:Dec Review, 2007 以上の背景の下で本発明は、AKIの発症可能性を早期に把握するためのバイオマーカーを提供することを課題とする。また、AKIの検査法など、当該バイオマーカーの用途を提供することも課題とする。更には、腎機能に関する予後を把握するために有用なバイオマーカー及びその用途を提供することも課題とする。加えて、AKIの鑑別診断に有効なバイオマーカーを提供することも課題とする。また、AKIの鑑別法など、当該バイオマーカーの用途を提供することも課題とする。 上記課題に鑑み、本発明者らはミッドカイン(「MK」とも称する)に注目し、そのバイオマーカーとしての可能性を検討した。まず、各種腎疾患における尿中MK濃度を調べた結果、狭義のAKIである急性尿細管壊死(ATN)の患者において尿中ミッドカイン濃度の上昇を認めた。一方、腹部大動脈瘤術後のAKIと尿中MK濃度との関連性を検討した結果、術中に尿中MK濃度が上昇する症例は術後AKIを呈した。即ち、AKIを将来、発症する患者では、極めて早い段階で尿中MK濃度が上昇するという、驚くべき知見が得られた。このように、術中という極めて早期の段階からAKIの発症予測が可能であることが示された。また、腎移植後の移植腎の腎機能と尿中MK濃度との関係、造影剤による腎障害と尿中MK濃度との関係、腎部分切除施行例と尿中MK濃度との関係、更には微小変化群の尿中MK濃度を調べた結果、AKIの発症を早期に予測する指標として尿中MK濃度が極めて有効であることが示された。他のAKI症例においても同様の結果が示された。このように、本発明者らの鋭意検討の結果、AKIの発症可能性を把握するために尿中MKが有用な指標(バイオマーカー)になることが明らかとなった。 一方、腎部分切除術施行例と尿中MK濃度との関係を検討した実験の結果より、尿中MK濃度が予後推定の指標として有効であることが判明した。また、化学療法後やネフローゼ症候群で進行する急性腎障害と尿中MK濃度との関係を検討した結果、腎部分切除術に限らず、広範な症例に関し、予後を推定する指標として尿中MK濃度が有効であることが明らかとなった。 また一方で、急性尿細管壊死(ATN)との組織診が得られた患者において尿中MK濃度が著しく高いことが判明した。しかも、受診者動作特性曲線(receiver operating characteristic curve: ROC曲線)解析の結果、極めて高い感度及び特異度を示した。さらに、既存のバイオマーカーであるβ-N-アセチル-D-グルコミニダーゼ(NAG)、尿中好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)、尿中インターロイキン18(IL-18)との比較検討を行った結果、これら既存のバイオマーカーに比べ尿中MKのAUC(area under the curve:ROC曲線の下の面積)は有意に高く、AKI鑑別用のバイオマーカーとして尿中MKが最も優れていることが判明した。以上のように、本発明者らの鋭意検討の結果、AKI鑑別用のバイオマーカーとして尿中MKが極めて優れたものであるとの知見が得られた。 本願では、主として以上の知見に基づき完成された以下の発明が提供される。 [1]ミッドカインからなる、急性腎障害早期検出用バイオマーカー。 [2]尿中ミッドカイン量を指標とした急性腎障害の検査法。 [3]以下のステップ(1)及び(2)を含む、[2]に記載の検査法: (1)尿中ミッドカインを検出するステップ; (2)検出結果に基づき、急性腎障害の発症可能性を判定するステップ。 [4]急性腎障害が急性尿細管壊死である、[2]又は[3]に記載の検査法。 [5]急性腎障害が虚血性急性腎障害、中毒性急性腎障害又は敗血症性急性腎障害である、[2]又は[3]に記載の検査法。 [6]虚血性急性腎障害が、術後の虚血性急性腎障害である、[5]に記載の検査法。 [7]虚血状態を引き起こす施術時から術後1日までの間に採取した尿を用いてステップ(1)を実施する、[6]に記載の検査法。 [8]虚血状態を引き起こす施術開始から3時間以内に採取した尿を用いてステップ(1)を実施する、[6]に記載の検査法。 [9] 手術が、大血管手術、人工心肺装置を用いる開心術、臓器移植術又は腎腫瘍部分腎切除術である、[6]〜[8]のいずれか一項に記載の検査法。 [10]ステップ(1)に加えて以下のステップ(1’)も実施し、ステップ(2)ではステップ(1)とステップ(1’)の検出結果に基づき、急性腎障害の発症可能性を判定する、[3]〜[9]のいずれか一項に記載の検査法: (1’)尿中好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)、尿中インターロイキン18(IL-18)、尿中腎障害分子-1(KIM-1)、β-N-アセチル-D-グルコミニダーゼ(NAG)及び尿中肝型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)からなる群より選択される一以上のバイオマーカーを検出するステップ。 [11]ステップ(1)において、微小変化群の患者の尿を検体として尿中ミッドカインを検出する、[3]に記載の検査法。 [12]抗ミッドカイン抗体からなる急性腎障害検査用試薬。 [13][12]に記載の試薬を含む、急性腎障害検査用キット。 [14]ミッドカインからなる、腎機能に関する予後推定用バイオマーカー。 [15]尿中ミッドカイン量を指標とした、腎機能に関する予後推定法。 [16]虚血性急性腎障害、中毒性急性腎障害又は敗血症性急性腎障害の予後を推定する方法である、[15]に記載の予後推定法。 [17]腎移植後又は腎部分切除術後に尿中ミッドカインを検出し、以下の基準に従って予後を推定する、[15]に記載の予後推定法、 術後6時間から48時間の間に認められる尿中ミッドカイン量の上昇が一過性であれば予後は良好であり、術後6時間から48時間の間に認められる尿中ミッドカイン量の上昇が一過性ではなく、高値が遷延ないし持続すれば予後は不良である。 [18]病側腎由来の尿、及び/又は健側腎由来の尿を検体として尿中ミッドカインを検出する、[17]に記載の予後推定法。 [19]抗ミッドカイン抗体からなる、腎機能に関する予後推定用試薬。 [20][19]に記載の試薬を含む、腎機能に関する予後推定用キット。 [21]ミッドカインからなる、急性腎障害鑑別用バイオマーカー。 [22]尿中ミッドカイン量を指標とした急性腎障害の鑑別法。 [23]以下のステップ(1)及び(2)を含む、[22]に記載の鑑別法: (1)尿中ミッドカインを検出するステップ; (2)検出結果に基づき、急性腎障害の原因が急性の尿細管障害によるか否かを判定するステップ。 [24]急性腎障害が急性尿細管壊死である、[22]又は[23]に記載の鑑別法。 [25]急性腎障害が虚血性急性腎障害である、[22]又は[23]に記載の鑑別法。 [26]虚血性急性腎障害が、術後の虚血性急性腎障害である、[25]に記載の鑑別法。 [27]ステップ(1)に加えて以下のステップ(1’)も実施し、ステップ(2)ではステップ(1)とステップ(1’)の検出結果に基づき、急性腎障害の原因が急性の尿細管障害によるか否かを判定する、[23]〜[26]のいずれか一項に記載の鑑別法: (1’)尿中好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)、尿中インターロイキン18(IL-18)、尿中腎障害分子-1(KIM-1)、β-N-アセチル-D-グルコミニダーゼ(NAG)及び尿中肝型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)からなる群より選択される一以上のバイオマーカーを検出するステップ。 [28]抗ミッドカイン抗体からなる急性腎障害鑑別用試薬。 [29][28]に記載の試薬を含む、急性腎障害鑑別用キット。各腎疾患患者の尿中MK濃度。横軸は左から順に、急性糸球体腎炎(AGN)患者(5名)、ANCA関連糸球体腎炎(anti‐neutrophil cytoplasmic antibody related GN)患者(41名)、急性尿細管壊死(ATN)患者(33名)、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)患者(29名)、紫斑病性腎炎(HSPN)患者(10名)、IgA腎症(IgAN)患者(124名)、微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)患者(50名)、膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)患者(9名)、血栓性微小血管症(TMA)患者(8名)、パラプロテイン血症(paraproteinemia)関連腎症患者(15名)、ループス腎炎(Lupus GN)患者(42名)、腎硬化症(nephrosclerosis)患者(15名)、常染色体優性多発性嚢胞腎症(ADPKD)患者(8名)、糖尿病性腎症(Diabetic N)患者(35名)、尿細管間質性腎炎(TIN)患者(15名)、膜性腎症(Membranous GN)患者(74名)、その他腎炎(miscellaneous)患者(37名)、健常者ボランティア(control)(33名)である。縦軸は尿中MK濃度(pg/ml)である。尿中MK濃度のROC(receiver-operating characteristic curve)曲線解析の結果。横軸は(1−特異度)、縦軸は感度である。ROC曲線の下側の面積は0.965、カットオフ値を70pg/mlに設定したときの診断感度及び特異度はそれぞれ97.0%及び90.3%である。尿中MK及び既存の尿中バイオマーカー(NAG、NGAL、IL-18)の比較。全583症例をATN(急性尿細管壊死)、コントロール(健常者)、他の腎疾患の3群に分け、各尿中バイオマーカーの濃度を箱ヒゲ図で示した。各種尿中バイオマーカーのROC曲線の比較。各尿中バイオマーカーの実測値(尿中Cr濃度補正をしていない)を用いて、ATN群とそれ以外の群(但し、健常者を除く)の鑑別を行った。AUCは尿中MKで最も高い値が得られている。各種尿中バイオマーカーのROC曲線の比較。尿中Cr濃度補正後の値を用いて、ATN群とそれ以外の群(但し、健常者を除く)の鑑別を行った。実測値を用いた場合と同様に、AUCは尿中MKで最も高い。各種尿中バイオマーカーのAUCの比較。尿中MKのAUCと既存の尿中バイオマーカーのAUCを比較した。上段は実測値での比較であり、下段は尿中Cr濃度補正後の値での比較である。実測値、尿中Cr補正後の値のいずれにおいても、尿中MKが他のバイオマーカーよりも優れていることが証明された。尚、SEは標準誤差である。複数のバイオマーカーを組み合わせた場合の感度及び特異度の比較。記号「+」で組合せを表現したものでは、当該組合せに含まれる全てのバイオマーカーが陽性(カットオフ値以上)の場合を陽性と判定する。記号「/」で組合せを表現したものでは、当該組合せに含まれるバイオマーカーの一つでも陽性(カットオフ値以上)の場合を陽性と判定する。腹部大動脈瘤置換術を受けた患者の背景。腹部大動脈瘤置換術を受けた患者の術前検査所見。腹部大動脈瘤置換術の経過と尿中MK濃度の測定時期。経時的に採尿し(矢印で示す各時点)、尿中MK濃度をELISAで測定した。尿中MK濃度(U-MK)と尿中クレアチニン(Cr)量の変動(ΔCr)。●;AKI群の尿中MK濃度、○;non-AKI群の尿中MK濃度。◆;AKI群の尿中Crの変動量(%)、◇;non-AKI群の尿中Crの変動量(%)。尿中β2ミクログロブリン濃度の変動。尿中β2ミクログロブリンでは、術後発症する急性腎障害(AKI)を手術中に予測することはできなかった。尿中NAG濃度の変動。尿中NAGでは、術後発症する急性腎障害(AKI)を手術中に予測することはできなかった。尿中シスタチンC濃度の変動。尿中シスタチンCでは、術後発症する急性腎障害(AKI)を手術中に予測することはできなかった。各種バイオマーカーの濃度の変動。尿中MK(U-MK)と既知のバイオマーカーの濃度の変動を比較した。尿中MK濃度(U-MK)は、尿中IL-18濃度(U-IL18)及び尿中NGAL濃度(U-NGAL)に比べて格段に早い時期で上昇する。人工心肺を用いた心臓弁置換術を施行した症例の尿中ミッドカイン(MK)濃度の推移を示す表。実験(腎移植後の移植腎の腎機能と尿中ミッドカイン(MK)濃度の関係)のプロトコール。腎移植後の血清クレアチニン濃度と尿中ミッドカイン(MK)濃度の測定結果を示す表。上段の表に血清クレアチニン量の推移と初尿中のMK濃度を示す。下段の表には移植術後の尿中MK濃度の推移が示される。PGF: prompt graft function,DGF: delayed graft function.実験プロトコール(造影剤による腎障害と尿中ミッドカイン(MK)濃度の関係)の概略。実験プロトコール(表在性の早期腎臓癌に対する腎部分切除術施行例と尿中ミッドカイン(MK)濃度との関係)の概略。実験プロトコール(表在性の早期腎臓癌に対する腎部分切除術施行例と尿中ミッドカイン(MK)濃度との関係)の概略。AKIでない患者の病側腎由来尿(腎盂尿)のMK濃度変化(左)と膀胱尿のMK濃度変化(右)を示すグラフ。AKI患者の病側腎由来尿(腎盂尿)のMK濃度変化(左)と膀胱尿のMK濃度変化(右)を示すグラフ。AKI患者の病側腎由来尿(腎盂尿)のMK濃度変化(左)と膀胱尿のMK濃度変化(右)を示すグラフ。重症例の尿中MK濃度変化を示す表。MTXによる化学療法後の腎障害患者の尿中MK濃度変化を示す表。急性尿細管壊死患者(ATN)を合併した微小変化型ネフローゼ症候群患者(MCNS)と、合併しない微小変化型ネフローゼ症候群患者(MCNS)の尿中MK濃度の比較。尿中MK濃度と血漿中MK濃度の関係を示すグラフ。ATN群とそれ以外の腎疾患群515例について尿中MK濃度と血漿中MK濃度を測定し、プロットした。ピアソンの積率相関係数は0.23(95%信頼区間は0.15〜0.31、p<0.001)。尿中MK濃度と血漿中MK濃度の関係を示すグラフ。腹部大動脈瘤置換術を受けた患者の尿中MK濃度と血漿中MK濃度を測定し、プロットした。MKアフィニティークロマトグラフィーの原理(左)と結果(右)。MK結合蛋白と予想されるバンドをXで示した。X'はXのフラグメントと予想される。アミロイド腎を合併した慢性関節リウマチ患者にヘパリンを投与した際の尿中MK濃度と血漿中MK濃度の比較。ヘパリン投与で血漿中MK濃度は上昇するが、その結果尿中MK濃度が上昇することはない。血漿中MK濃度が高値であることと、尿中MK濃度が無関係であることを示す症例提示。症例1(コントロール)、選択性の異なるネフローゼ症候群を呈する症例2-5では、血漿中MK濃度が高値であるが尿中MK濃度は測定感度以下である。逆に症例6-9のATNでは、血漿中MK濃度の如何に関わらず尿中MK濃度が高い。1.急性腎障害(AKI)の早期検出 本発明の第1の局面は急性腎障害の早期検出に関する。この局面では、急性腎障害早期検出用のバイオマーカー及びその用途が提供される。1−1.急性腎障害早期検出用のバイオマーカー 本明細書において「急性腎障害(以下、「AKI」とも称する」)早期検出用のバイオマーカー」とは、AKIの発症可能性の指標となる生体分子のことをいう。「AKI」とは、急速に腎機能が低下する病態の総称である。従って「AKI」には、腎前性腎障害、腎性腎障害(急性尿細管壊死(ATN)、尿細管間質性腎炎、糸球体腎炎など)、及び腎後性腎障害が含まれる。糸球体疾患や尿路感性症については、続発性に急性尿細管障害を来さない限り「AKI」に含まれないものとする。従って、続発性に急性尿細管障害を来す場合には、糸球体疾患や尿路感染症も本発明の適用対象となる。 狭義のAKIは、腎前性腎障害、即ち一次性に急性尿細管障害を来す病態であるATNを指す。本発明は、狭義のAKIの早期検出に特に有用である。ATNには虚血性AKI、中毒性AKI又は敗血症性AKIが含まれる。虚血性AKIの例としては、腹部大動脈瘤置換術などの大血管手術、心臓弁置換術など人工心肺装置を用いる開心術、臓器移植術、又は腎腫瘍部分腎切除術等の術後に生ずるもの、うっ血性心不全、造影剤投与(例えば狭心症や心筋梗塞等を対象とした造影剤検査の際)、肝腎症候群又は血栓性微小血管障害に伴い生ずるもの、カルシニューリン阻害薬、アンギオテンシン変換酵素阻害薬・アンギオテンシンII受容体拮抗薬・非ステロイド性消炎鎮痛剤などの薬剤によるものが挙げられるが、これに限られない。他方、中毒性AKIの例としては、外因性因子として抗菌薬、抗癌剤などの薬剤、内因性因子としてヘム色素(ヘモグロビン尿・ミオグロビン尿)、多発性骨髄腫などの異常蛋白、尿酸・メソトレキセートといった結晶成分などに起因するものが含まれる。 本発明のバイオマーカーはミッドカイン(MK)からなる。MKは、レチノイン酸応答遺伝子の産物として発見された増殖分化因子であり、塩基性アミノ酸とシステインに富む分子量13kDaのポリペプチドからなる(Kadomatsu, K. et al. :Biochem. Biophys. Res. Commun., 151:1312-1318; Tomomura, M. et al. :J. Biol. Chem., 265: 10765-10770, 1990)。MKは細胞増殖、細胞遊走、血管新生、炎症の誘導、線維素溶解など多面的活性を有する。また、血清MKレベルが腫瘍マーカーとして有望であることが示唆されている(Ikematsu.S et al., Br.J.Cancer. 2000;83:701-706.)。 公共のデータベースに登録されている、MKのアミノ酸配列(GenBank, ACCESSION:NP_001012333, DEFINITION: midkine [Homo sapiens])を配列表の配列番号1に示す。尚、生体中に存在するMKではなく、生体から採取された(即ち分離された)検体中のMKが本発明のバイオマーカーとして利用される。1−2.急性腎障害(AKI)の検査法 本発明はまた、本発明のバイオマーカーの用途の一つとして、AKIの検査法を提供する。本発明の検査法は、AKIの発症可能性の判定(発症の早期予測)に利用される。好ましくは狭義のAKI、即ち急性尿細管壊死(ATN)の発症可能性の判定に利用される。本発明の検査法は、虚血性AKI、中毒性AKI及び敗血症性AKIの発症可能性の判定に有用である。 本発明の検査法を入院時や集中治療室(ICU)入室時に実施することにしてもよい。微小変化群(minimal change)がAKIに進展するか否かを判定するために本発明の検査法を行うことも可能である。尚、ネフローゼ症候群の最も頻度の多い原因である「微小変化群(minimal change)」はその1〜2割に乏尿性急性腎不全を呈する事が知られている。 本発明の検査法では尿中MK量を判定指標に用いる。具体的には、本発明の検査法では次のステップ(1)及び(2)を実施する。 (1)尿中MKを検出するステップ; (2)検出結果に基づき、AKIの発症可能性を判定するステップ。 ステップ(1) ステップ(1)では、被検者から採取された尿検体を用意し、その中に存在するMK(尿中MK)を検出する。本明細書において「尿中MKを検出する」とは、尿中MK量を測定することと同義である。厳密な定量は必須ではなく、半定量的に尿中MK量を測定することにしてもよい。例えば、尿中MK量が所定の基準量を超えるか否かが判別可能なように検出を行う。 尿中MKの検出方法は特に限定されないが、好ましくは免疫学的手法を利用する。免疫学的手法によれば迅速に且つ感度よく尿中MK濃度を測定できる。また、操作も簡便である。免疫学的手法による尿中MK濃度の測定ではMKに特異的結合性を有する物質が使用される。当該物質としては通常は抗MK抗体が用いられるが、MKに特異的結合性を有し、その結合量を測定可能な物質であれば抗MK抗体に限らず使用することができる。 測定法として、ラテックス凝集法、蛍光免疫測定法(FIA法)、酵素免疫測定法(EIA法)、放射免疫測定法(RIA法)、ウエスタンブロット法を例示することができる。好ましい測定法としては、FIA法及びEIA法(ELISA法を含む)を挙げることができる。これらの方法によれば高感度、迅速且つ簡便に検出可能である。FIA法では蛍光標識した抗体を用い、蛍光をシグナルとして抗原抗体複合体(免疫複合体)を検出する。一方、EIA法では酵素標識した抗体を用い、酵素反応に基づく発色ないし発光をシグナルとして免疫複合体を検出する。 MKの測定に関しては優れたEIA法(特開平10−160735号公報を参照)及びELISA法(S. Ikematsu, et al.Br. J. Cancer 2000;83)が開発されており、当該方法又は当該方法に準じた方法で測定することにしてもよい。当業者であれば、検出目的に合わせて、条件や手順の一部を改良することは容易である。ELISA法は検出感度が高いことや特異性が高いこと、定量性に優れること、操作が簡便であること、多検体の同時処理に適することなど、多くの利点を有する。ELISA法を利用する場合の具体的な操作法の一例を以下に示す。まず、抗MK抗体を不溶性支持体に固定化する。具体的には例えばマイクロプレートの表面を抗MK抗体で感作する(コートする)。このように固相化した抗体に対して尿検体を接触させる。この操作の結果、固相化した抗MK抗体に対する抗原(MK)が尿検体中に存在していれば免疫複合体が形成される。洗浄操作によって非特異的結合成分を除去した後、酵素を結合させた抗体を添加することで免疫複合体を標識し、次いで酵素の基質を反応させて発色させる。そして、発色量を指標として免疫複合体を検出する。尚、ELISA法の詳細については数多くの成書や論文に記載されており、各方法の実験手順や実験条件を設定する際にはそれらを参考にできる。尚、非競合法に限らず、競合法(検体とともに抗原を添加して競合させる方法)を用いることにしてもよい。 検体中のMKを標識化抗体で直接検出する方法を採用しても、或いはサンドイッチ法を採用してもよい。サンドイッチ法では、エピトープの異なる2種類の抗体(捕捉用抗体及び検出用抗体)が用いられる。 尿検体を採取する時期(タイミング)は特に限定されないが、AKIを発症する患者では術後の極めて早い段階で尿中MK量が上昇した事実に鑑みれば、腹部大動脈瘤置換術、心臓弁置換術、臓器移植術、又は腎腫瘍部分腎切除術等の術後に生じ得る虚血性AKIの発症可能性を判定する場合、好ましくは、虚血状態を引き起こす施術時から術後1日までの間に採取した尿を検体としてステップ(1)を実施し、さらに好ましくは、虚血状態を引き起こす施術時から手術終了時までの間に採取した尿を検体としてステップ(1)を実施し、最も好ましくは、虚血状態を引き起こす施術開始から3時間以内(術中、術後のいずれでもよい)に採取した尿を用いてステップ(1)を実施する。このように早い段階で採取した尿検体を用いることにより、AKIの発症を早期に予測できる。ここでの「虚血状態を引き起こす施術」とは、血管のクランプや人工心肺操作等が該当する。具体例を示すと、腹部大動脈瘤術の場合は大動脈遮断が「虚血状態を引き起こす施術」に該当する。また、「手術終了時」とは、縫合・閉腹が行われる時をいう。 狭心症や心筋梗塞等を対象とした造影剤検査後のAKIの発症可能性を判定する場合については、例えば造影剤検査後4時間以内(造影剤注入時を基準(0時)とする)、好ましくは造影剤検査後2時間以内に採取した尿を検体する。また、薬剤投与後に生ずるAKIの発症可能性を判定する場合は、例えば薬剤投与後4時間以内、好ましくは薬剤投与後2時間以内に採取した尿を検体とする。腎障害の患者(例えば微小変化群の患者)を対象とした場合においては、例えば外来受診時、入院時、腎生検時などに採取した尿を検体とする。 本発明の一態様では、尿中MKだけでなく、AKIの指標となる他のバイオマーカーも検出し、両者の検出結果をAKIの発症可能性の判定に用いる。即ち、この態様ではステップ(1)に加えて以下のステップ(1’)も実施し、ステップ(2)ではステップ(1)とステップ(1’)の検出結果に基づき、AKIの発症可能性を判定する。 (1’)尿中NGAL、尿中IL-18、尿中KIM-1、NAG及び尿中L-FABPからなる群より選択される一以上のバイオマーカーを検出するステップ。 この態様によれば、異なる二以上の指標に基づき判定するため、的中率及び/又は信頼性のより高い検査結果が得られる。各バイオマーカー(MKを含む)の変動にはそれぞれ固有の特性があり、複数のバイオマーカーを組み合わせることによって、AKIの発症可能性の的中率や信頼性を高めることが可能となる。また、予後推定、急性尿細管壊死(ATN)と腎炎・腎症との鑑別などに有益な情報も得られる。 的中率及び/又は信頼性を高めるという観点からは、原則として、ステップ(1’)における検出対象のバイオマーカーの数は多いほどよい。そこで、好ましくはステップ(1’)において二つ以上のバイオマーカーを検出対象(例えば、NGAL及びIL-18の二つ)とする。 ステップ(1’)における各バイオマーカーの測定方法は特に限定されない。例えば、MKの測定の場合と同様、免疫学的測定法を採用することができる。各バイオマーカーの測定は標準的方法又は既報の方法に準ずればよい。例えば、非特許文献1にはNGALの測定法(ウエスタンブロット法及びELISA法)の説明がある。非特許文献2にはNGALの測定法(ELISA法)及びIL-18の測定法(ELISA法)の説明がある。非特許文献3にはKIM-1の測定法(ウエスタンブロット法及びELISA法)の説明がある。非特許文献4、5にはL-FABPの測定法(ELISA法)の説明がある。 これらのバイオマーカーを測定する場合の尿検体を採取する時期(タイミング)は特に限定されない。過去の報告を考慮して、或いは予備実験の結果に従い、尿検体の採取する時期を適宜設定すればよい。 ステップ(2) ステップ(2)では、ステップ(1)の検出結果(ステップ(1’)も実施する場合にはステップ(1)及び(1’)の検出結果)に基づき、AKIの発症可能性を判定する。発症可能性の判定は定性的、定量的のいずれであってもよい。定性的判定と定量的判定の例を以下に示す。尚、ここでの判定は、その判定基準から明らかな通り、医師や検査技師など専門知識を有する者の判断によらずとも自動的/機械的に行うことができる。(定性的判定の例1) 基準値よりも測定値(MK量)が高いときに「発症可能性が高い」と判定し、基準値よりも測定値が低いときに「発症可能性が低い」と判定する。(定性的判定の例2) 反応性が認められた(陽性の)ときに「発症可能性が高い」と判定し、反応性が認められない(陰性の)ときに「発症可能性が低い」と判定する。(定量的判定の例) 以下に示すように測定値の範囲毎に発症可能性(%)を予め設定しておき、測定値から発症可能性(%)を判定する。 測定値a〜b:発症可能性は10%以下 測定値b〜c:発症可能性は10%〜30% 測定値c〜d:発症可能性は30%〜50% 測定値d〜e:発症可能性は50%〜70% 測定値e〜f:発症可能性は70%〜90% MKに加えて他のバイオマーカー(尿中NGAL、尿中IL-18、尿中KIM-1、尿中NAG及び尿中L-FABPからなる群より選択される一以上のバイオマーカーからなる群より選択される一以上のバイオマーカー)も利用する場合の判定手法の一例を示すと、まずMKの検出結果に基づき発症可能性を判定し、発症可能性が高いとの判定結果が出れば他のバイオマーカーの検出を追加で実施し、そして他のバイオマーカーの検出結果に基づき発症可能性の最終的な判定を下す。この例では、MKの検出結果を一次的な判定に利用し、他のバイオマーカーの検出結果を最終判定に利用するという判定手法を採用する。これとは逆に、他のバイオマーカーの検出結果を一次的な判定に利用し、MKの検出結果を最終判定に利用することにしてもよい。1−3.急性腎障害(AKI)検査用試薬及びキット 本発明はさらにAKI検査用試薬及びキットも提供する。本発明の試薬は抗MK抗体からなる。抗MK抗体は、MKに対する特異的結合性を有する限り、その種類や由来などは特に限定されない。また、ポリクローナル抗体、オリゴクローナル抗体(数種〜数十種の抗体の混合物)、及びモノクローナル抗体のいずれでもよい。ポリクローナル抗体又はオリゴクローナル抗体としては、動物免疫して得た抗血清由来のIgG画分のほか、抗原によるアフィニティー精製抗体を使用できる。抗MK抗体が、Fab、Fab'、F(ab')2、scFv、dsFv抗体などの抗体断片であってもよい。 抗MK抗体は、免疫学的手法、ファージディスプレイ法、リボソームディスプレイ法などを利用して調製することができる。免疫学的手法によるポリクローナル抗体の調製は次の手順で行うことができる。抗原(MK又はその一部)を調製し、これを用いてウサギ等の動物に免疫を施す。生体試料を精製することにより抗原を得ることができる。また、組換え型抗原を用いることもできる。組換え型MKは、例えば、MKをコードする遺伝子(遺伝子の一部であってもよい)を、ベクターを用いて適当な宿主に導入し、得られた組換え細胞内で発現させることにより調製することができる。 免疫惹起作用を増強するために、キャリアタンパク質を結合させた抗原を用いてもよい。キャリアタンパク質としてはKLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)、BSA(Bovine Serum Albumin)、OVA(Ovalbumin)などが使用される。キャリアタンパク質の結合にはカルボジイミド法、グルタルアルデヒド法、ジアゾ縮合法、MBS(マレイミドベンゾイルオキシコハク酸イミド)法などを使用できる。一方、CD46(又はその一部)を、GST、βガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク、又はヒスチジン(His)タグ等との融合タンパク質として発現させた抗原を用いることもできる。このような融合タンパク質は、汎用的な方法により簡便に精製することができる。 必要に応じて免疫を繰り返し、十分に抗体価が上昇した時点で採血し、遠心処理などによって血清を得る。得られた抗血清をアフィニティー精製し、ポリクローナル抗体とする。 一方、モノクローナル抗体については次の手順で調製することができる。まず、上記と同様の手順で免疫操作を実施する。必要に応じて免疫を繰り返し、十分に抗体価が上昇した時点で免疫動物から抗体産生細胞を摘出する。次に、得られた抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合してハイブリドーマを得る。続いて、このハイブリドーマをモノクローナル化した後、目的タンパク質に対して高い特異性を有する抗体を産生するクローンを選択する。選択されたクローンの培養液を精製することによって目的の抗体が得られる。一方、ハイブリドーマを所望数以上に増殖させた後、これを動物(例えばマウス)の腹腔内に移植し、腹水内で増殖させて腹水を精製することにより目的の抗体を取得することもできる。上記培養液の精製又は腹水の精製には、プロテインG、プロテインA等を用いたアフィニティークロマトグラフィーが好適に用いられる。また、抗原を固相化したアフィニティークロマトグラフィーを用いることもできる。更には、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、硫安分画、及び遠心分離等の方法を用いることもできる。これらの方法は単独ないし任意に組み合わされて用いられる。 MKへの特異的結合性を保持することを条件として、得られた抗体に種々の改変を施すことができる。このような改変抗体を本発明の試薬としてもよい。 抗MK抗体として標識化抗体を使用すれば、標識量を指標に結合抗体量を直接検出することが可能である。従って、より簡便な検査法を構築できる。その反面、標識物質を結合させた抗MK抗体を用意する必要があることに加えて、検出感度が一般に低くなるという問題点がある。そこで、標識物質を結合させた二次抗体を利用する方法、二次抗体と標識物質を結合させたポリマーを利用する方法など、間接的検出方法を利用することが好ましい。ここでの二次抗体とは、抗MK抗体に特異的結合性を有する抗体であって例えばウサギ抗体として抗MK抗体を調製した場合には抗ウサギIgG抗体を使用できる。ウサギやヤギ、マウスなど様々な種の抗体に対して使用可能な標識二次抗体が市販されており(例えばフナコシ株式会社やコスモ・バイオ株式会社など)、本発明の試薬に応じて適切なものを適宜選択して使用することができる。 標識物質の例は、ペルオキシダーゼ、マイクロペルオキシダーゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ及びグルコース−6−リン酸脱水素酵素などの酵素、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)及びユーロピウムなどの蛍光物質、ルミノール、イソルミノール及びアクリジニウム誘導体などの化学発光物質、NADなどの補酵素、ビオチン、並びに131I及び125Iなどの放射性物質である。 一態様では、本発明の試薬はその用途に合わせて固相化されている。固相化に用いる不溶性支持体は特に限定されない。例えばポリスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコン樹脂、ナイロン樹脂等の樹脂や、ガラス等の水に不溶性の物質からなる不溶性支持体を用いることができる。不溶性支持体への抗体の担持は物理吸着又は化学吸着によって行うことができる。 本発明のキットは主要構成要素として本発明の試薬を含む。検査法を実施する際に使用するその他の試薬(緩衝液、ブロッキング用試薬、酵素の基質、発色試薬など)及び/又は装置ないし器具(容器、反応装置、蛍光リーダーなど)をキットに含めてもよい。また、標準試料としてMKをキットに含めることが好ましい。さらには、MK以外のバイオマーカー(尿中NGAL、尿中IL-18、尿中KIM-1、尿中NAG及び尿中L-FABPからなる群より選択される一以上のバイオマーカー)を検出するための試薬や当該試薬を使用する際に必要な他の試薬、器具などをキットに含めることも可能である。尚、通常、本発明のキットには取り扱い説明書が添付される。2.腎機能に関する予後推定 本発明の第2の局面は腎機能に関する予後推定に関する。この局面では、腎機能に関する予後推定用のバイオマーカー及びその用途が提供される。以下、この局面の詳細について説明するが、第1の局面と共通する事項については、第1の局面での説明を援用することにする。2−1.腎機能に関する予後推定用のバイオマーカー 本明細書において「腎機能に関する予後推定用のバイオマーカー」とは、腎機能に関する予後の推定の指標となる生体分子のことをいう。「腎機能に関する予後」とは腎機能の将来の状態をいい、腎機能障害を引き起こしうるイベントを受けた患者の将来の腎機能の状態と、腎機能障害を罹患した患者の将来の腎機能の状態を包括する。「腎機能障害を引き起こしうるイベント」には、虚血性AKI、中毒性AKI及び敗血症性AKIのすべてが包含される。虚血性AKIの例としては、腹部大動脈瘤置換術などの大血管手術、心臓弁置換術など人工心肺装置を用いる開心術、臓器移植術、又は腎腫瘍部分腎切除術等の術後に生ずるもの、うっ血性心不全、造影剤投与(例えば狭心症や心筋梗塞等を対象とした造影剤検査の際)、肝腎症候群又は血栓性微小血管障害に伴い生ずるもの、カルシニューリン阻害薬、アンギオテンシン変換酵素阻害薬・アンギオテンシンII受容体拮抗薬・非ステロイド性消炎鎮痛剤などの薬剤によるものが挙げられるが、これに限られない。他方、中毒性AKIの例としては、外因性因子として抗菌薬、抗癌剤などの薬剤、内因性因子としてヘム色素(ヘモグロビン尿・ミオグロビン尿)、多発性骨髄腫などの異常蛋白、尿酸・メソトレキセートといった結晶成分などに起因するものが含まれる。2−2.腎機能に関する予後推定法 本発明はまた、本発明のバイオマーカーの用途の一つとして、腎機能に関する予後推定法を提供する。本発明の予後推定法では尿中MK量を判定指標に用い、尿中MKを検出するステップ(ステップ(1))及び、検出結果に基づき予後を推定するステップ(ステップ(2))を実施する。ステップ(1)は第1の局面のステップ(1)と同様であるのでその説明を省略する。尚、病側腎由来の尿及び/又は健側腎由来の尿が検体として用いられる。 続くステップ(2)では、尿中MK量を指標として予後の推定を行い。例えば、腹部大動脈瘤置換術などの大血管手術、心臓弁置換術など人工心肺装置を用いる開心術、臓器移植術、又は腎腫瘍部分腎切除術等の術後の予後を推定する場合、以下の基準に従って予後を推定することができる。(判定基準) 術後6時間から48時間の間に認められる尿中ミッドカイン量の上昇が一過性であれば予後は良好であり、術後6時間から48時間の間に認められる尿中ミッドカイン量の上昇が一過性ではなく、高値が遷延ないし持続すれば予後は不良である。 尚、本発明における予後の推定は、その判定基準から明らかな通り、医師や検査技師など専門知識を有する者の判断によらずとも自動的/機械的に行うことができる。2−3.腎機能に関する予後推定用試薬及びキット 本発明は更に、腎機能に関する予後推定用の試薬及びキットを提供する。本発明の試薬は抗MK抗体からなる。抗MK抗体については、第1の局面の試薬の場合と同様であるのでその説明を省略する。本発明のキットは主要構成要素として本発明の試薬を含む。予後推定法を実施する際に使用するその他の試薬(緩衝液、ブロッキング用試薬、酵素の基質、発色試薬など)及び/又は装置ないし器具(容器、反応装置、蛍光リーダーなど)をキットに含めてもよい。また、標準試料としてMKをキットに含めることが好ましい。尚、通常、本発明のキットには取り扱い説明書が添付される。3.急性腎障害(AKI)の鑑別診断 本発明の第3の局面はAKIの鑑別診断に関する。この局面では、急性腎障害腎鑑別用のバイオマーカー及びその用途が提供される。以下、この局面の詳細について説明するが、第1の局面と共通する事項については、第1の局面での説明を援用することにする。3−1.急性腎障害腎鑑別用のバイオマーカー 本明細書において「急性腎障害(AKI)」)鑑別用のバイオマーカー」とは、AKIの鑑別(AKIの原因が急性尿細管壊死(ATN)に代表される急性の尿細管障害によるか否かの判定)の指標となる生体分子のことをいう。3−2.急性腎障害(AKI)の鑑別法 本発明また、本発明のバイオマーカーの用途の一つとして、AKIの鑑別法を提供する。本発明の鑑別法によれば、AKIの原因が急性尿細管壊死(ATN)に代表される急性の尿細管障害によるか否かの判定が可能となる。典型的には、AKIの原因に関して、「ATNである」又は「ATN以外の腎障害である」との判定結果が得られる。 本発明の鑑別法では尿中MK量を判定指標に用いる。具体的には、本発明の鑑別法では次のステップ(1)及び(2)を実施する。 (1)尿中MKを検出するステップ; (2)検出結果に基づき、急性腎障害の原因が急性の尿細管障害によるか否かを判定するステップ。 ステップ(1)は第1の局面のステップ(1)と同様であるのでその説明を省略する。 本発明の一態様では、尿中MKだけでなく、AKIの指標となる他のバイオマーカーも検出し、両者の検出結果をAKIの鑑別に用いる。即ち、この態様ではステップ(1)に加えて以下のステップ(1’)も実施し、ステップ(2)ではステップ(1)とステップ(1’)の検出結果に基づき、AKIの原因が急性の尿細管障害によるか否かを判定する。 (1’)尿中NGAL、尿中IL-18、尿中KIM-1、NAG及び尿中L-FABPからなる群より選択される一以上のバイオマーカーを検出するステップ。 この態様によれば、異なる二以上の指標に基づき判定するため、的中率及び/又は信頼性のより高い鑑別結果が得られる。各バイオマーカー(MKを含む)の変動にはそれぞれ固有の特性があり、複数のバイオマーカーを組み合わせることによって、鑑別結果の的中率や信頼性を高めることが可能となる。また、予後推定などに有益な情報も得られる。 的中率及び/又は信頼性を高めるという観点からは、原則として、ステップ(1’)における検出対象のバイオマーカーの数は多いほどよい。そこで、好ましくはステップ(1’)において二つ以上のバイオマーカーを検出対象(例えば、NGAL及びIL-18の二つ)とする。 ステップ(1’)における各バイオマーカーの測定方法は特に限定されない。各バイオマーカーの標準的方法や既報の方法等は第1の局面の欄に説明した通りである。 ステップ(2) ステップ(2)では、ステップ(1)の検出結果(ステップ(1’)も実施する場合にはステップ(1)及び(1’)の検出結果)に基づき、AKIの原因が急性の尿細管障害によるか否かを判定する。ここでの判定は定性的、定量的のいずれであってもよい。定性的判定と定量的判定の例を以下に示す。尚、ここでの判定は、その判定基準から明らかな通り、医師や検査技師など専門知識を有する者の判断によらずとも自動的/機械的に行うことができる。(定性的判定の例1) 基準値よりも測定値(MK量)が高いときに「ATNである」又は「ATNである可能性が高い」と判定し、基準値よりも測定値が低いときに「ATNでない」又は「ATNでない可能性が高い」と判定する。基準値よりも測定値が低いときに「ATN以外の腎障害である」又は「ATN以外の腎障害である可能性が高い」との判定を行うこともできる。(定性的判定の例2) 反応性が認められた(陽性の)ときに「ATNである」又は「ATNである可能性が高い」と判定し、反応性が認められない(陰性の)ときに「ATNでない」又は「ATNでない可能性が高い」或いは「ATN以外の腎障害である」又は「ATN以外の腎障害である可能性が高い」と判定する。(定量的判定の例) 以下に示すように測定値の範囲毎に「ATNである可能性(%)」を予め設定しておき、測定値から「ATNである可能性(%)」を判定する。 測定値a〜b:ATNである可能性は10%以下 測定値b〜c:ATNである可能性は10%〜30% 測定値c〜d:ATNである可能性は30%〜50% 測定値d〜e:ATNである可能性は50%〜70% 測定値e〜f:ATNである可能性は70%〜90% MKに加えて他のバイオマーカー(尿中NGAL、尿中IL-18、尿中KIM-1、尿中NAG及び尿中L-FABPからなる群より選択される一以上のバイオマーカー)も利用する場合の判定手法の一例を示すと、まずMKの検出結果に基づきATNである可能性を判定し、ATNである可能性が高いとの判定結果が出れば他のバイオマーカーの検出を追加で実施し、そして他のバイオマーカーの検出結果に基づき、ATNである可能性の最終的な判定を下す。この例では、MKの検出結果を一次的な鑑別に利用し、他のバイオマーカーの検出結果を最終鑑別に利用するという判定手法を採用する。これとは逆に、他のバイオマーカーの検出結果を一次的な鑑別に利用し、MKの検出結果を最終鑑別に利用することにしてもよい。 二つ以上のバイオマーカーを組み合わせて用いる場合には、以下の(1)又は(2)の判定手法を採用してもよい。 (1)組合せに含まれるバイオマーカーの全てに関して陽性(カットオフ値以上)である場合を陽性と判定し、それ以外の場合を陰性と判定する。 (2)組合せに含まれるバイオマーカーの一つでも陽性(カットオフ値以上)の場合を陽性と判定し、それ以外の場合を陰性と判定する。 本発明者らの検討の結果、組み合わせるバイオマーカーの種類及び数によって診断感度及び診断特異度が異なることが示された(後述の実施例)。従って、目的に合わせて最適なバイオマーカーの組合せを選択するとよい。例えば、診断感度の高い組合せはスクリーニング的な検査に適する。これとは対照的に、診断特異度の高い組み合わせは、より信頼性の高い判定が必要な検査(例えば2次検査や3次検査)に適する。 診断感度及び診断特異度のバランスの異なる判定法を組み合わせることによって、効率化や確度ないし信頼性の向上を図ることが可能である。例えば、高い診断感度を与えるバイオマーカーの組合せを用いて陽性対象を絞り込んだ後(一次検査、スクリーニング検査)、高い診断特異度を与えるバイオマーカーの組合せを用いて最終的な判定を行う(2次検査)。このような2段階の判定に限らず、3段階以上の判定を行うことも可能である。 バイオマーカーの組合せの例を示すと、MKとNAGの併用、MKとIL-18の併用、MKとNGALの併用、MKとNAGとIL-18の併用、MKとNAGとNGALの併用、MKとIL-18とNGALの併用、及びMKとNAGとIL-18とNGALの併用である。後述の実施例に示す通り、MKとNGALの併用(この場合には感度と特異度のバランスのよい結果が得られている)を除き、これらの併用によれば診断特異度の向上が期待できる。3−3.急性腎障害(AKI)鑑別用試薬及びキット 本発明は更にAKI鑑別用試薬及びキットを提供する。本発明の試薬は抗MK抗体からなる。抗MK抗体については、第1の局面の試薬の場合と同様であるのでその説明を省略する。本発明のキットは主要構成要素として本発明の試薬を含む。鑑別法を実施する際に使用するその他の試薬(緩衝液、ブロッキング用試薬、酵素の基質、発色試薬など)及び/又は装置ないし器具(容器、反応装置、蛍光リーダーなど)をキットに含めてもよい。また、標準試料としてMKをキットに含めることが好ましい。尚、通常、本発明のキットには取り扱い説明書が添付される。1.各種腎疾患における尿中ミッドカイン(MK)濃度(1)対象 MKはヘパリン結合性成長因子であり、虚血障害時に近位尿細管で発現が増強する(Sato W. et al., J Immunol. 2001 Sep 15;167(6):3463-9.)。583例を対象として尿中MK濃度とAKIとの関連について検討した。583例の内訳は、AKIの主たる原因である急性尿細管壊死(ATN)患者33名、ATN以外の腎障害患者517名、健常者ボランティア33名である。(2)方法 書面による同意を得た後、各対象の尿を採取し、尿中MK濃度を測定した。具体的には、尿検体0.01mlを用い、2種類のポリクローナル抗MK抗体(ニワトリ抗体、ウサギ抗体)によるサンドイッチELISAにより、尿中MK濃度を測定した。(3)結果 尿中MK濃度の測定結果(実測値)を図1に示す。また、ROC曲線(receiver-operating characteristic curve)解析の結果を図2に示す。コントロール群やAKI以外の腎障害患者の尿中MK濃度に比較して、AKIの主たる原因である急性尿細管壊死(ATN)の患者において、尿中MK濃度の有意な上昇が認められた(図1)。バイオマーカーの感度・特異度の指標である、ROC曲線のAUC(area under the curve)は0.965と単一のバイオマーカーとしては類をみない素晴らしい結果が得られた(図2)。既存の尿中バイオマーカー(β-N-アセチル-D-グルコミニダーゼ(NAG)、尿中好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)、尿中インターロイキン18(IL-18))では、尿中MKのようなAKI特異的な濃度変化は認められない(図3)。尚、図4(実測値での比較)、図5(尿中クレアチニン(Cr)補正をした値での比較)及び図6(比較のまとめ)に示す通り、尿中MK濃度のAUCは、尿中NAG、尿中IL-18、尿中NGALに比べ有意に高い。尿中MK濃度のカットオフ値を70 pg/mlに設定すると、尿中MK濃度を用いたATN診断の感度は97.0%、特異度は90.3%と既存の尿中バイオマーカー(NAG、NGAL、IL-18)を凌駕した。 以上のように、尿中MK濃度がAKIの鋭敏なバイオマーカーであり、しかも既存のバイオマーカーを超える有用性を発揮することが判明した。即ち、AKIの鑑別診断において尿中MK濃度が最も優れたバイオマーカーといえる。 ところで、急性腎障害の症例の多くは虚血性AKIであるが、その他に敗血症性AKI(septic AKI)や、抗がん剤投与に伴う中毒性AKI(toxic AKI)、造影剤腎症(radiocontrast nephropathy)(虚血性AKIに含まれることもある)というカテゴリーがある。以下に示す通り、これらの急性腎障害でも尿中MK濃度の上昇が確認された。 敗血症性AKI:710pg/ml(38歳女性)、750 pg/ml(75歳男性)、502 pg/ml(74歳男性) 中毒性AKI:141 pg/ml(13歳女性) 造影剤腎症:272 pg/ml(41歳男性)2.複数のバイオマーカーを組合せたAKI診断 尿中MK濃度と他のバイオマーカーを組合せてAKI診断を行った場合の感度及び特異度を算出した。各バイオマーカーの値としてCr補正後の値(図5に示したROC曲線に対応する)を使用した。また、ROC曲線解析により、各バイオマーカーのカットオフ値を次の通り設定した。 尿中MK濃度のカットオフ値: 75.1pg/mgCr 尿中NAG濃度のカットオフ値: 31.0U/gCr 尿中IL-18濃度のカットオフ値: 173.6pg/mgCr 尿中NGAL濃度のカットオフ値: 26.7ng/mgCr 各種組み合わせについて統計処理を行い、感度及び特異度を比較した(図7の表)。記号「+」で組合せを表現したものでは、当該組合せに含まれる全てのバイオマーカーが陽性(カットオフ値以上)の場合を陽性と判定し、感度及び特異度を算出した。例えばMK + IL-18 + NGALであれば、尿中MK濃度、尿中IL-18濃度及び尿中NGAL濃度の全てが陽性(カットオフ値以上)であった場合を陽性と判定し、それ以外の場合を陰性と判定したときの感度(48.5%)及び特異度(97.8%)が示される。他方、記号「/」で組合せを表現したものでは、当該組合せに含まれるバイオマーカーの一つでも陽性(カットオフ値以上)の場合を陽性と判定し、感度及び特異度を算出した。例えば、MK / IL-18 / NGALであれば、尿中MK濃度、尿中IL-18濃度及び尿中NGAL濃度の中の一つでも陽性(カットオフ値以上)であれば陽性と判定し、それ以外の場合を陰性と判定したとき感度(100%)及び特異度(53.2%)が示される。 図7の表に示す通り、組み合わせるバイオマーカーの種類及び数によって感度及び特異度のバランスが異なる。このことは、目的に合わせてバイオマーカーの組合せを選択することによって、目的に一層合致した診断が行えることを意味する。一般に、感度が高い組合せ(例えばMK / NGAL、MK / IL-18 / NGAL、MK / NAG / IL-18 / NGAL)はスクリーニング検査に適し、これとは対照的に特異度が高い組合せ(例えばMK + NAG、MK + IL-18、MK + NAG + IL-18、MK + NAG + NGAL、MK + IL-18 + NGAL、MK + NAG + IL-18 + NGAL)は二次検査や三次検査など、より信頼性の高い判定が必要な検査に適する。例えば、前者を用いた検査を行って陽性対象を絞り込んだ後、後者を用いた検査を行い最終的な判定をすることにすれば、効率的に且つ高い信頼度をもってAKI診断(AKIの鑑別)を行うことができる。3.腹部大動脈瘤術後の急性腎障害(AKI)と尿中ミッドカイン(MK)濃度(1)対象 2005年12月から2007年5月までに名古屋大学医学部附属病院で待機的腹部大動脈瘤術を施行し、文書による同意が得られた下記32例を対象として、尿中MK濃度と術後のAKIとの関連を調べた。尚、患者背景の詳細を図8に術前検査所見を図9にそれぞれ示す。 性別:男性29例、女性3例 年齢:72±8歳 病型:腎動脈上2例、腎動脈下30例 人工血管:I型11例、Y型21例 推算GFR:56.9±21.8 (ml/min/1.73m2)(2)方法 前向き観察試験を実施した。経時的に一般検査とともに尿中MK濃度をELISA(S. Ikematsu, et al.Br. J. Cancer 2000;83)で測定した(図10を参照)。AKI群(ΔCr≧50%で定義)とnon-AKI群の間で比較・評価した。(3)結果 試験結果を図11に示す。術後2日目(POD2)、3日目(POD3)をピークとしたCr上昇から5例(16%)をAKIと診断した。AKI群ではCrに先行して尿中MK濃度がリアルタイムに上昇し(Two-way ANOVA群間差 p=0.001)、大動脈遮断時から術後1日(POD1)にかけて高い値を示した。特に、大動脈遮断時から手術終了時(大動脈遮断時から約3時間後)にわたって非常に高い値を示した(ピークは大動脈遮断時から約1時間後の大動脈解放時)。 以上の結果より、術中に尿中MK濃度が上昇する症例は、術後AKIを呈する可能性が極めて高いことが明らかとなった。換言すれば、尿中MKをマーカーに利用すれば、術中という極めて早期にAKIの発症予測が可能であることが判明した。一方、既存のマーカーである尿中NAG、尿中β2ミクログロブリン(β2 MG)、尿中シスタチンC(Cys-C)と比較した結果、これらのマーカーでは早期の発症予測はできなかった(図12〜14)。また、急性腎障害の早期診断マーカーとして報告された尿中IL-18及び尿中NGALの濃度については、術後になって上昇が認められた(図15)。このように、既知のバイオマーカー(保険適用されているものを含む)では、尿中MK濃度を使用した場合のような早期の予測は不可能である。尚、尿中NAG、尿中β2ミクログロブリンについては外部機関で測定した。また、血清シスタチンC、尿中IL-18及び尿中NGALについては市販のELISA測定キット(尿中シスタチンCについてはメスコートGCシスタチンCキット(金コロイド凝集法、アルフレッサファーマ社製)、尿中NGALについてはNGAL ELISA Kit (CircuLex NGAL/Lipocalin-2 ELISA Kit/Cat#CY-8070/CircuLex)、尿中IL-18についてはHuman IL-18 ELISA Kit(CODE No 7620、MBL社製)により、尿検体0.01mlを用いて測定した。 尚、人工心肺を用いた心臓弁置換術を施行した後にAKIを呈した症例においても、術中に尿中MK濃度の顕著な上昇を認めた(図16)。このように、AKIの早期発症予測における尿中MKの有用性を支持する結果が得られた。4.腎移植後の移植腎の腎機能と尿中ミッドカイン(MK)濃度(1)対象及び方法 生体腎移植を施行した2症例に関して、図17のプロトコールに示すように移植片(graft)への血流再開(0時間)後、初尿、1時間後、2時間後、6時間後、8時間後と、その後数日間経時的に採尿し、血中クレアチニンと尿中MK濃度を測定した。(2)結果(図18) 症例1は、移植後生着は良好で翌日から血清クレアチニンは順調に回復した。この症例の移植直後から利尿開始後後8時間までの尿中MKは0 pg/mlであった。一方、症例2は、術後移植腎の生着が不良で、移植後4日目まで腎不全状態が遷延した。この患者の尿中MK濃度は、利尿開始直後のMK濃度は442 pg/mlと高値を示し、以後減少し4時間以降は感度以下となった。(3)考察 移植腎の生着が良好か不良かを、利尿開始直後の尿中MKの濃度測定により、予測可能となる(急性腎障害(AKI)の超早期診断薬)。特に海外においては、死体腎移植の症例が多く、術後生着不良が遷延する症例が多く、これらの症例において、術直後から生着不良を予想して、移植腎生着に対する治療を一般的なプロトコールからより積極的な治療方法に変更し、移植腎の生着率を上げることが可能である。5.造影剤による腎障害と尿中ミッドカイン(MK)濃度(1)対象及び方法 造影剤を用いた検査は、日常診療において広く用いられているが、造影剤による腎障害が臨床上大きな問題となっており、より早期に診断が可能なバイオマーカーの必要性が高まっている。中でも狭心症・心筋梗塞における冠動脈造影・冠動脈再建術は症例数が多い。図19のプロトコールに示すように、心臓カテーテル検査直前、直後、翌日に採血・採尿を行い、血清クレアチニン、尿中MK濃度、尿中IL-18濃度及び尿中NGAL濃度を測定した。(2)結果 慢性腎臓病患者に対する造影剤使用直後(血清クレアチニンが7.62 mg/dl)の初尿における尿中MK濃度、尿中IL-18濃度及び尿中NGAL濃度は、それぞれ272 pg/ml、18.69 pg/ml及び68.88 ng/mlと高値を示した。(3)考察 心臓カテーテル検査は、全世界で広く行われている診断的・治療的戦略である。検査直後の尿中MKを測定することにより、造影剤腎臓(toxic AKI)を予測可能となり、検査後の予後の改善が可能であること、即ち急性腎障害(AKI)の超早期診断マーカーとして尿中MK濃度が有用であることが示された。6.表在性の早期腎臓癌に対する腎部分切除術施行例と尿中ミッドカイン(MK)濃度(1)対象及び方法 表在性の早期腎臓癌に対する腎部分切除術では、腎癌部分を切除する間、病側の腎動脈を遮断し、切除後腎血流を再開する。この手術では、腫瘍を部分切除する間のおよそ30分間は腎動脈および腎静脈を完全に遮断するため、病側腎に虚血性腎障害が生じる。もともと腎臓は予備能が大きく、通常片腎を全摘出してももう片一方の腎臓が代償するためCr上昇は限定的であるが、一部の症例においては、この手術による腎障害が遷延する。この手術においては、術後出血の観察や尿量確認などのために病側の腎盂内にカテーテルを挿入して病側尿を採取し、一方膀胱内に留置したカテーテルから主に健側腎由来の尿を採取するのが、基本的な手術の処置となっている。図20及び21に示すプロトコールに従い、術前・術後の血液及び尿を採取し、尿中MK濃度を調べた。(2)結果 切除腎由来の尿は2相性の尿中MK濃度のピークを認め、手術開始後1時間以内の第1ピークと、術後6時間から48時間以内に第2ピークを認める。第2ピークは、病側腎と健側腎由来の尿からも認める。これは病側腎で発生した虚血障害が健側腎も含めた全身臓器に及び、両側の腎から新たにタンパク合成が亢進したMKを反映していると考えられる。したがって、腎機能が軽微にとどまる症例では、第1のピーク及び第2ピークともに一過性の上昇にとどまる(図22)。一方、腎予備能の低下している高齢者や、慢性腎臓病患者では腎機能障害が遷延する(図23、24)。この場合の尿中MK濃度の第2ピークは一過性の上昇にとどまらず、高値が遷延・持続する。これは、虚血によるストレスに反応してHIF-1という転写因子により新たにMK蛋白の産生・分泌が促された結果であると考えられ、この第2ピークが遷延するような症例(症例2及び3)はストレスが持続していること、すなわち腎障害が強いことを示している。このことから、第2ピークに注目すれば予後の推定が可能といえる。(3)考察 以上のように、この疾患群においても尿中MK濃度が早期の急性腎障害のマーカーとして有用であることが示された。さらに、急性腎障害の「早期診断用マーカー」のみならず、「予後予測因子としてのバイオマーカー」としても尿中MK濃度が有用であることが判明した。7.化学療法後やネフローゼ症候群で進行する腎障害と尿中ミッドカイン(MK)濃度(1)対象及び方法 メソトレキセート(MTX)などの化学療法後及びネフローゼ症候群治療経過中腎機能障害が進行・遷延する症例についての尿中MK濃度を測定した。(2)結果 ネフローゼ症候群の治療経過中、腎機能障害が遷延している期間は、尿中MK濃度は高値が持続する(腎生検後7日目〜9日目; 尿中MK 730-770 pg/ml)のに対して、腎機能の改善とともに尿中MK濃度は低下した(図25上段)。敗血症性AKIの患者においても同様の傾向を認める(同下段)。また、図26に示すように、MTXによる化学療法後の腎障害においても、腎機能障害が持続している間(2日目〜6日目)、尿中MK濃度は高値が持続した。(3)考察 前述の腎癌部分切除術に加えて、化学療法後のAKI・ネフローゼ症候群などの原発性・2次性糸球体腎炎に続発するAKIにおいても、「予後予測因子としてのバイオマーカー」として尿中MKが有用であることが示された。8.微小変化型ネフローゼ症候群と尿中ミッドカイン(MK)濃度 ネフローゼ症候群の最も頻度の多い原因である「微小変化群(minimal change)」は1〜2割に急性尿細管壊死(ATN)を呈する事が知られている。微小変化群の主に腎生検時に採取した尿サンプルのMK濃度を調べた結果、急性尿細管壊死(ATN)合併例で有意に高値であった(図27)。このように、微小変化群の中からATN(狭義のAKI)へ進展する症例の早期検出に尿中MK濃度が有用であることが示された。9.尿中MK濃度と血中MK濃度の関係1(1)対象及び方法 腎炎患者515症例について尿中MK濃度と血漿中MK濃度を測定した(クロスセクションスタディー)。また、腹部大動脈瘤置換術を受けた患者32例で複数回にわたり尿中MK濃度と血漿中MK濃度を測定した(ケースコントロールスタディー)。一方、MKのアフィニティーカラムを作製し、血清中のMKと結合するタンパク質の同定を試みた。(2)結果 尿中MK濃度と血中MK濃度の測定結果を図28及び29に示す。MKが糸球体ろ過を受けないことがわかる。一方、MKのアフィニティーカラムに結合した血清中の成分を電気泳動で調べた結果(図30)、分子量約250kDaの高分子量タンパク質(図中のXで示すバンド。図中温X'で示すバンドはXのフラグメントと予想された)がMKに結合すると予想された。当該タンパク質についてTOF-MASで分子の同定を行った。これらの結果から、血中のMKはほとんどが血管内皮細胞のへパラン鎖に結合しており、可溶性MKがあったとしても血中の250 kDaのタンパク質に結合して存在するため、ほとんど尿中には洩れてこないと考えられる(糸球体基底膜にはサイズ・バリア(コラーゲン線維の網目の小孔、半径約70Åといわれている)があり、250 kDaの分子量があれば濾過されない)。10.尿中MK濃度と血中MK濃度の関係2(1)対象及び方法 アミロイド腎を合併した慢性関節リウマチ患者に対するヘパリン投与の有無による尿中MK濃度と血漿中MK濃度を比較した。(2)結果 MK濃度は確かにヘパリン投与で上昇しているが(図31)、アミロイド腎によるネフローゼ状態(糸球体基底膜障害が強く、albのみならずIgGなど高分子蛋白が漏出する)においてもMKは尿中で検出されない。すなわち糸球体からのMKの漏出は基本的に無いと考えられる。 図32の症例1〜5は血漿中MK濃度が高いにもかかわらず、尿中でMKが検出されていない。特に症例2、3、5は蛋白選択性の低い疾患(即ち、糸球体基底膜のダメージが強く透過性が亢進し、高分子まで尿中に漏れてしまう代表的疾患)であり、注目に値する。症例6〜9は尿中MK濃度が高値のATN(狭義のAKI)症例であるが、血漿中MK濃度は低いものから高値まで様々である。AKIは基本的に全身にストレスのかかる基礎疾患から発生することが多く(たとえば敗血症や術後など)、当然血漿中MKも上昇する事が多い。以上の通り、MKが糸球体濾過を受けない事が裏付けられた。 本発明の検査法では尿中MK量を指標としてAKIの発症可能性を判定する。本発明の検査法によれば、既知のバイオマーカー(NGALやIL-18など)では実現できない、極めて早期の発症予測が可能になる。AKIの早期予測が可能になれば、早い段階で積極的に治療介入でき、予後の改善がもたらされる。尿中MK量は、腎機能に関する予後の推定にも有用である。尿中MK量を指標にすれば、AKIの発症可能性のみならず、腎機能に関する予後の推定も可能となる。尿中MKは、既知のバイオマーカーと応答性が異なる。この応答性の違いを利用し、尿中MKと既知バイオマーカーを併用することにすれば、より確度が高く且つ信頼性に優れた判定が可能である。 一方、本発明の鑑別法においても尿中MK量を指標としてAKIの鑑別をする。本発明の鑑別法によれば、極めて高い感度及び特異度をもってAKIを鑑別できる。尿中MKと既知バイオマーカーを併用し、確度ないし信頼性の向上を図ることも可能である。 この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。 本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。 ミッドカインからなる、急性腎障害早期検出用バイオマーカー。 尿中ミッドカイン量を指標とした急性腎障害の検査法。 以下のステップ(1)及び(2)を含む、請求項2に記載の検査法: (1)尿中ミッドカインを検出するステップ; (2)検出結果に基づき、急性腎障害の発症可能性を判定するステップ。 急性腎障害が急性尿細管壊死である、請求項2又は3に記載の検査法。 急性腎障害が虚血性急性腎障害、中毒性急性腎障害又は敗血症性急性腎障害である、請求項2又は3に記載の検査法。 虚血性急性腎障害が、術後の虚血性急性腎障害である、請求項5に記載の検査法。 虚血状態を引き起こす施術時から術後1日までの間に採取した尿を用いてステップ(1)を実施する、請求項6に記載の検査法。 虚血状態を引き起こす施術開始から3時間以内に採取した尿を用いてステップ(1)を実施する、請求項6に記載の検査法。 手術が、大血管手術、人工心肺装置を用いる開心術、臓器移植術又は腎腫瘍部分腎切除術である、請求項6〜8のいずれか一項に記載の検査法。 ステップ(1)に加えて以下のステップ(1’)も実施し、ステップ(2)ではステップ(1)とステップ(1’)の検出結果に基づき、急性腎障害の発症可能性を判定する、請求項3〜9のいずれか一項に記載の検査法: (1’)尿中好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)、尿中インターロイキン18(IL-18)、尿中腎障害分-1(KIM-1)、β-N-アセチル-D-グルコミニダーゼ(NAG)及び尿中肝型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)からなる群より選択される一以上のバイオマーカーを検出するステップ。 ステップ(1)において、微小変化群の患者の尿を検体として尿中ミッドカインを検出する、請求項3に記載の検査法。 抗ミッドカイン抗体からなる急性腎障害検査用試薬。 請求項12に記載の試薬を含む、急性腎障害検査用キット。 ミッドカインからなる、腎機能に関する予後推定用バイオマーカー。 尿中ミッドカイン量を指標とした、腎機能に関する予後推定法。 虚血性急性腎障害、中毒性急性腎障害又は敗血症性急性腎障害の予後を推定する方法である、請求項15に記載の予後推定法。 腎移植後又は腎部分切除術後に尿中ミッドカインを検出し、以下の基準に従って予後を推定する、請求項15に記載の予後推定法、 術後6時間から48時間の間に認められる尿中ミッドカイン量の上昇が一過性であれば予後は良好であり、術後6時間から48時間の間に認められる尿中ミッドカイン量の上昇が一過性ではなく、高値が遷延ないし持続すれば予後は不良である。 病側腎由来の尿、及び/又は健側腎由来の尿を検体として尿中ミッドカインを検出する、請求項17に記載の予後推定法。 抗ミッドカイン抗体からなる、腎機能に関する予後推定用試薬。 請求項19に記載の試薬を含む、腎機能に関する予後推定用キット。 ミッドカインからなる、急性腎障害鑑別用バイオマーカー。 尿中ミッドカイン量を指標とした急性腎障害の鑑別法。 以下のステップ(1)及び(2)を含む、請求項22に記載の鑑別法: (1)尿中ミッドカインを検出するステップ; (2)検出結果に基づき、急性腎障害の原因が急性の尿細管障害によるか否かを判定するステップ。 急性腎障害が急性尿細管壊死である、請求項22又は23に記載の鑑別法。 急性腎障害が虚血性急性腎障害である、請求項22又は23に記載の鑑別法。 虚血性急性腎障害が、術後の虚血性急性腎障害である、請求項25に記載の鑑別法。 ステップ(1)に加えて以下のステップ(1’)も実施し、ステップ(2)ではステップ(1)とステップ(1’)の検出結果に基づき、急性腎障害の原因が急性の尿細管障害によるか否かを判定する、請求項23〜26のいずれか一項に記載の鑑別法: (1’)尿中好中球ゼラチナーゼ結合性リポカリン(NGAL)、尿中インターロイキン18(IL-18)、尿中腎障害分子-1(KIM-1)、β-N-アセチル-D-グルコミニダーゼ(NAG)及び尿中肝型脂肪酸結合蛋白(L-FABP)からなる群より選択される一以上のバイオマーカーを検出するステップ。 抗ミッドカイン抗体からなる急性腎障害鑑別用試薬。 請求項28に記載の試薬を含む、急性腎障害鑑別用キット。配列表