タイトル: | 特許公報(B2)_結晶性微粉化粒子 |
出願番号: | 2009515238 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | A61K 31/485,A61K 9/14,A61P 13/10,A61P 17/04,A61P 25/04,C07D 489/08 |
秋元 雅裕 駒形 俊和 白木 元明 安藤 晃裕 JP 5564943 特許公報(B2) 20140627 2009515238 20080520 結晶性微粉化粒子 東レ株式会社 000003159 特許業務法人谷川国際特許事務所 110001656 秋元 雅裕 駒形 俊和 白木 元明 安藤 晃裕 JP 2007133691 20070521 20140806 A61K 31/485 20060101AFI20140717BHJP A61K 9/14 20060101ALI20140717BHJP A61P 13/10 20060101ALI20140717BHJP A61P 17/04 20060101ALI20140717BHJP A61P 25/04 20060101ALI20140717BHJP C07D 489/08 20060101ALN20140717BHJP JPA61K31/485A61K9/14A61P13/10A61P17/04A61P25/04C07D489/08 A61K 31/485 A61K 9/00− 9/72 A61K 47/00−47/48 国際公開第2006/049248(WO,A1) 国際公開第2005/094826(WO,A1) 国際公開第2007/055184(WO,A1) 国際公開第2000/000492(WO,A1) 特開2003−073274(JP,A) 特表2006−520765(JP,A) 特表2004−511439(JP,A) 佐川良寿,医薬品製剤技術,株式会社シーエムシー出版,2002年 7月25日,p.5−10,25-34 5 JP2008059194 20080520 WO2008143239 20081127 15 20110510 高橋 樹理 本発明は、医薬として有用なN-(17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3,14-ジヒドロキシ-モルヒナン-6β-イル)-フタルイミド(以下、「本化合物」と表記することもある)の微粉化された結晶性粒子、および特定の微粉化法によって得られた当該結晶性微粉化粒子に関する。 本化合物は、その合成法と共にすでに開示されており(非特許文献1)、さらにその頻尿もしくは尿失禁の治療または予防用途、止痒用途、鎮痛用途、過敏性腸症候群などの機能性腸障害治療または予防用途、あるいは鎮咳用途もすでに開示されている(特許文献1ないし5。ただし鎮咳用途は本願優先日より後の公開である。)。 上記文献記載の本化合物を医薬品原薬とし、医薬品の投与形態を注射剤または溶液製剤等の剤形とした場合、本化合物は溶液状態では光・熱・酸素の影響を受けやすいことから、保存安定性の低下が懸念される。一方で、溶解速度を高める一般的方法としては凍結乾燥操作により非晶質粉末とすることが挙げられるが、結晶化度が高い粉末に比して吸湿性および比表面積が増加することから、やはり保存安定性の低下が懸念される。 これらの理由から、本化合物の高い保存安定性に基づく医薬品の取扱い容易性または患者の利便性を考慮すれば、公知の医薬用途においては、剤形を経口固形製剤とすることが望ましい。 しかしながら、本化合物を医薬品原薬として経口固形製剤とした場合、本化合物の水に対する溶解速度が低いことから、十分な経口吸収性が得られないことが懸念される。 したがって、本化合物の保存安定性を確保すると同時に、その溶解速度を高める何らかの処置が必要と考えられていた。 水に対する溶解速度の低い結晶性粉末を医薬品原薬とする場合、医薬品原薬の溶解速度を高め、経口吸収性、ひいては生物学的利用能等を高めるためには、当該医薬品原薬を粉砕により微粉化する方法がとられる場合がある。しかしながら、これらの方法により、結晶性粉末を微粉化したときに結晶構造が失われ非晶質化し、保存安定性が低下する可能性が高く、微粉化する方法の選択が重要である。 微粉化法としては、ボールミルなどの媒体式粉砕機(Tumbler Mills)による方法、ジェットミルなどの気流体式粉砕機(Fluid Energy Mills)による方法、ハンマーミル、ピンミルなどの高速回転衝撃式粉砕機(Impact Mills)による方法などが知られているが、化合物の物理化学的特性と粉砕方法の組み合わせによって、粉砕後に得られる粉末の特性は一定ではない。 以下に示す特許文献あるいは非特許文献には、本化合物またはその用途が開示されているものの、本化合物を適切な結晶性微粉化粒子とするための方法論については一切開示されていない。したがってこれら文献は、本化合物に対して特定の粉砕方法を用いることにより、その保存安定性を確保すると同時に医薬品原薬の溶解速度を高め著しく高い生物学的利用能をもつ結晶性微粉化粒子とすれば、より有用な医薬品原薬となりうることを何ら示唆してはいない。国際公開 第 2004/033457号パンフレット国際公開 第 2005/094826号パンフレット国際公開 第 2006/049248号パンフレット国際公開 第2007/055184号パンフレット国際公開 第 2007/072749号パンフレットSimon C. et.al., Tetrahedron, 50, 9757, 1994. 微粉化操作を施していない本化合物は、水に対する溶解速度が低いことから、医薬品原薬としての生物学的利用能が低いという懸念があった。したがって、本化合物の保存安定性を確保しつつ、溶解速度および生物学的利用能を高めた適切な結晶性微粉化粒子を得ることが求められていた。 上記課題を解決するため、予備検討した結果、ボールミルや乳鉢によって微粉化することを試みたが、この場合本化合物では結晶化度が著しく低下し、医薬品原薬としての保存安定性が低下することが確認された。そこで鋭意検討した結果、気流体式粉砕機あるいは高速回転衝撃式粉砕機で微粉化することによって、結晶化度を著しく低下させずに微粉化できること、また、本化合物の保存安定性を確保でき、かつ、医薬品原薬としての溶解速度および生物学的利用能を高めるために適切な粒子径分布を有する結晶性微粉化粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。 すなわち本発明は、粒子径が小さい方の粒子から累積して体積が50%となるところの、即ち、体積分布の累積頻度が50%に達する点の粒子径(D50)が3〜15μmの範囲内であり、粒子径が小さい方の粒子から累積して体積が90%となるところの、即ち、体積分布の累積頻度が90%に達する点の粒子径(D90)が50μm以下の粒子径分布をもち、結晶化度が85%以上であるN-(17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3,14-ジヒドロキシ-モルヒナン-6β-イル)-フタルイミドの結晶性粒子を提供する。また、本発明は、体積基準粒子径15μm以下の粒子が占める体積分布の累積頻度が50%以上含まれる粒子径分布をもち、結晶化度が85%以上であるN-(17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3,14-ジヒドロキシ-モルヒナン-6β-イル)-フタルイミドの結晶性粒子を提供する。 また、本発明は、本化合物を、気流体式の粉砕機により、供給圧力0.3〜0.8 Mpaで微粉砕することによって得られる上記結晶性粒子を提供する。 さらに、本発明は、N-(17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3,14-ジヒドロキシ-モルヒナン-6β-イル)-フタルイミドを、気流体式の粉砕機により、供給圧力0.3〜0.8 Mpaで粉砕することを含む、N-(17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3,14-ジヒドロキシ-モルヒナン-6β-イル)-フタルイミドの結晶性粒子の製造方法を提供する。 本発明になる本化合物の結晶性微粉化粒子は、医薬品原薬の水に対する溶解速度および生物学的利用能が高く、かつ保存安定性を確保した医薬品原薬となり得る。また、溶出性および安定性の優れた医薬組成物の提供が期待できる。図1は、実施例2に係る粉末X線回折パターンを表す。図中、上段は粉砕後の粉末X線回折パターンを、下段は粉砕前の粉末X線回折パターンを、それぞれ表す。横軸は回折角2θ(deg)、縦軸は強度(Counts)を示す。図2は、比較例3に係る粉末X線回折パターンを表す。図中、最下段は粉砕前の粉末X線回折パターンを、下段から2番目は粉砕1時間後の粉末X線回折パターンを、上段から2番目は粉砕3時間後の粉末X線回折パターンを、最上段は粉砕8時間後の粉末X線回折パターンを、それぞれ表す。横軸は回折角2θ(deg)、縦軸は強度(Counts)を示す。図3は、評価例5の溶解速度評価に係わる溶出グラフを表す。図中、一番上から実施例2、実施例3、実施例4、比較例1、および比較例2のグラフを、それぞれ表す。横軸は時間(分)、縦軸は溶出率(%)を示す。 本発明において、D50、およびD90とは、粒子径分布(particle diameter distribution)を規定するための指標である。粒子径分布は、一般には粒度分布と呼ばれる。 粒子径分布は、粉粒体の粒径を適当な粒子間隔をえらんで、これらの間隔に属する重量(体積)あるいは個数を計測し、その結果得られる粒子数(頻度)を縦軸、横軸に粒子径をとり、ヒストグラム、頻度曲線、累積曲線などにより表したものである。本発明では、体積基準により頻度を求めた。このように求められた粒子径分布において、D50とは、粒子が小さい方から累積して体積が50%となるところの、即ち、体積分布の累積頻度が50%に達する点の粒子径(particle diameter)と定義される。D90とは、粒子が小さい方から累積して体積が90%となるところの、即ち、体積分布の累積頻度が90%に達する点の粒子径と定義される。また、このような分布図から、特定の粒子径よりも小さな径を有する粒子の累積頻度(%)を求めることもできる。 本発明の結晶性微粉化粒子の粒子径分布の測定は、Mie理論に基づくレーザー回折・散乱法に基づき、市販の装置を用いて行うことができる。例えば、Malvern(登録商標)Mastersizerレーザー回折装置(Malvern Instruments Ltd)等の市販の装置を用いて測定する。この装置は、ヘリウム-ネオンレーザービームおよび青色発光ダイオードを粒子に照射すると散乱が起こりディテクターに光散乱パターンが現れ、この光散乱パターンをMie理論にしたがって解析することによって粒子径分布を求めるものである。測定法は乾式および湿式法のどちらでも可能であるが、評価例1には乾式法を用いて測定した結果を示した。測定条件としては、以下に本発明の評価例1で実施した条件を例示する。測定条件装置: レーザー回折式粒度分布測定装置 Mastersizer 2000 (Malvern) 乾式ユニット Scircco 2000サンプル屈折率 :実数部;1.810、虚数部;0サンプル測定時間:1秒バックグラウンド測定時間:5秒圧力 :2.0バールフィードレート :40%解析モデル :単一ナローモードCalculation sensitivity:EnhancedParticle shape :Irregular解析範囲 :0.020〜2000μm粒度分布測定基準:体積基準 本発明の結晶性微粉化粒子の結晶化度は、粉末X線回折測定により得られたX線回折パターンを結晶ピークと非晶質ハローに分離して、その積分強度比から算出する。 粉末X線回折測定法は、粉末試料にX線を照射し、その物質中の電子を強制振動させることにより生じる干渉性散乱X線により、回折強度を、各回折角について測定する方法である。測定データは、各回折角に対する回折強度としてX線回折パターンで示され、結晶性物質のX線回折パターンは各化合物の各結晶形に固有且つ特徴的な三角形の鋭いピークを示す。一方、非晶質は明確な構造の規則性を持たず、ランダムな分子配列のため、干渉性散乱X線強度が小さく、そのX線回折パターンは散漫性の極大を持つ、なだらかなハローを示すため、X線回折パターンや、X線回折パターンに基づき算出される結晶化度などにより結晶性物質と判別が可能である。 粉末X線回折測定は、例えば本発明の評価例2記載のリガク製粉末X線回折装置(2200/RINT Ultima+PC)などを用いて測定することが可能である。測定試料の作成は、試料100mgを非破壊状態でガラス試料板(深さ0.2mm)に充填し、ガラス板を用いて試料表面を平らにならして試料サンプルとする。測定条件は、以下に本発明で実施した条件を例示する。測定条件 X線源 :CuKa線 湾曲結晶モノクロメータ(グラファイト)使用 出力 :40 kV / 50 mA 発散スリット :1/2 deg 発散縦制限スリット:10 mm 散乱スリット :1/2 deg 受光スリット :0.15 mm 検出器 :シンチレーションカウンタ スキャン方式 :2θ/θスキャン、連続スキャン 測定範囲(2θ) :2 deg〜90 deg スキャン速度(2θ):2 deg/ min 計数ステップ(2θ):0.02 deg 結晶化度は、試料サンプルの回折パターンと試料板単独(試料サンプル無し)の回折パターンと差のパターンを用いた公知の解析方法にて算出することができる。例えば、市販の解析ソフトである、MDI社の粉末X線回折パターンの解析ソフトJADE5.0を使用して次のようにして算出することができる。解析方法 (1) 試料サンプルの回折パターンと試料板単独の回折パターンの差のパターンを平滑化する(Savitzky-Gorayフィルター:ポイント数19) (2) 差のパターンの表示領域として、x軸:回折角(2θ)を2 deg〜90 deg、y軸:回折強度(Counts)を0〜500に設定する (3) 回折角:0、65、90 degにポインティングし、x軸と平行で、かつ65 deg〜90 degの差の回折パターンに接するように直線を引き、直線下をバックグラウンドとする (4) バックグラウンドを除去する (5) 4 deg〜60 degの積分強度を算出する(結晶ピークおよび非晶質ハローの積分強度の和に相当:Sc + Sa) (6) 回折角:2、7、18、26、30、35、59、65、90 degにポインティングする。2、65、90 degでは回折強度を0とし、7、18、26、30、35、59 degではバックグランドを除去した差のパターンに接するように三次式近似し、非晶質ハローを推定する (7) 非晶質ハローを削除する (8) 4 deg〜60 degの積分強度を算出する(結晶ピークの積分強度に相当:Sc) (9) 下式に従って、結晶化度を算出する式: Xc = ( Sc / (Sc + Sa) ) × 100 Xc :結晶化度(%) Sc :結晶ピークの積分強度(Integrated intensity of the crystalline peaks) Sa :非晶質ハローの積分強度(Integrated intensity of the amorphous halo) 本発明になるN-(17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3,14-ジヒドロキシ-モルヒナン-6β-イル)-フタルイミドの結晶性微粉化粒子は、D50が3〜15μmの範囲内であって、D90が50μm以下の粒子径分布を有する。その中でも、D50が3μm〜10μmの範囲内であって、D90が30μm以下の粒子径分布をもつものが好ましい。また体積基準粒子径15μm以下の粒子が占める体積分布の累積頻度が50%以上含まれる粒子径分布を有する。また結晶化度としては85%以上、好ましくは90%以上である。 本発明の微粉化に用いる通常の気流式乾式粉砕法で得られる有機化合物の粒子はD50が1μm以上である。なお、さらなる微粉化の方法としてナノマイザーのような特殊な湿式粉砕法を用いるとD50がナノオーダーに至るまで微粉化が可能となるが、粉砕時に使用するメディア(媒体)との分離が必要となる。 本発明の微粉化方法としては、本化合物の結晶化度を維持したまま微粉化粒子を得る方法であり、ジェットミルなどの気流体式粉砕機を用いる。中でも特にジェットミルが好ましい。 なお、上記方法により得られる本化合物等の粉砕物の特性は、本化合物等を物理的・機械的摩擦を利用した媒体式粉砕方法により得られる粉砕物と明確に区別できる。本化合物等を媒体式粉砕機のボールミルを用いて微粉化したところ、粒子の結晶化度が80%未満となって結晶化度を維持することができず、本化合物等の粉砕には、媒体式粉砕機の微粉化方法は適用できないことが判明した。 気流体式では、圧縮空気などの流体エネルギーを利用して、高圧、高速で噴出する音速域のジェット噴流に化合物を巻き込み、化合物相互の衝突によって化合物が粉砕される。空気としては、室温の空気の他に加熱した高温の空気、液体窒素などで冷やした低温の空気なども使用することが可能である。一般的に高速回転衝撃式に比べてより大きな粉砕能力を有しているために、D50が数μmの非常に細かい粒子まで得ることが可能である。ジェット粉砕機の具体例としては、例えば、SK-ジェット・オー・ミル[JOM-0101, JOM-0202](セイシン企業製)、シングルトラックジェットミル[FS-4](セイシン企業製)、Co-Jet(セイシン企業製)、カウンタージェットミルAFG型(ホソカワミクロン社製)、またはスパイラルジェットミルAS型(ホソカワミクロン社製)などが挙げられる。 高速回転衝撃式は、回転円板型、スクリーンミル、遠心分離型ミルの3つに大別される。一般的にこれらの方法で得られる粒子はD50が数十μmであることが多い。回転円板型は、ロータが回転円板で円板板にピンやエッジが備わっており、このロータが高速回転することで、試料との衝突時に切断、剪断、打砕により粉砕がおこなわれる。スクリーンミルは、高速回転するハンマーと試料との切断、剪断により粉砕が行われる。遠心分離型ミルは、気流に乗って軸方向に移動した試料が、高速回転する衝撃板との衝撃により粉砕がおこなわれる。高速回転衝撃式の粉砕機の具体例としては、例えば、ハンマーミル[TASM-1]、ファインインパクトミルUPZ(ピンプレートビータ:ホソカワミクロン社製)、アトマイザー(不二パウダル社製)などが挙げられる。 粉砕機を使用する条件としては、SK-ジェットミル・オー・ミル[JOM-0101]の場合、用いる機種や医薬品原薬ロット等によって異なるが、空気圧力は、未粉砕原薬の粉砕系内への供給圧力(以降 単に供給圧力と記載)として0.3〜0.8 Mpa(G)の範囲で粉砕する。二つの粉砕空気供給(G)ノズル(便宜上G1ノズルおよびG2ノズルと区別する)の圧力としては、場合によっては止めることもあるため、通常は0.2〜0.8 Mpa(G)の範囲が好ましく、中でも0.3〜0.7 Mpa(G)の範囲で粉砕するのが好ましい。G1ノズルおよびG2ノズルのノズル径は、処理スケールにより適宜選択できるが、1.0〜3.0 mmφが好ましく、中でも1.2〜2.5mmφを使用して粉砕処理することが好ましい。未粉砕品医薬品原薬の供給速度は、粉砕物の系外排出を閉塞させない範囲で処理スケールに応じて任意に設定できる。ただし、Gノズルの圧力に関しては、機械的強度や作業安全性等確保できる場合、上記の範囲に限らず任意に設定できる。 生物学的利用能(バイオアベイラビリティ、Bioavailability、BA)とは、日本薬学会の薬学用語解説によれば、投与された薬物(製剤)がどれだけ全身循環血中に到達し作用するかの指標で、生物学的利用率(体循環液中に到達した割合、extent of bioavailability)と生物学的利用速度(rate of bioavailability)で表される。また21 CFR 320.1(Code of Federal Regulations)によれば、「製剤から吸収された活性成分あるいは活性体が作用部位に到達する速度および量」と定義されている。その概念は、「薬理作用は作用部位における活性成分の濃度推移で評価できる」という考えから作られた。しかし作用部位における薬物濃度を測定することは、通常、困難である。そこで、体循環血流を介して作用部位に到達する薬物では、体循環血流に達する薬物の速度および量が、作用部位に到達する薬物の速度および量と強い関係があるので、BAを作用部位での濃度推移の代用として血中濃度推移を用いて評価している。速度と量は、体循環血でのCmax(最高血中濃度)とAUC(Area Under the Curve、血中濃度曲線下面積)で評価される。 一般に、薬物の溶解性と生物学的利用能に関して、日本薬局法あるいは米国薬局法、欧州薬局方収載の溶出試験パドル法等による溶解性評価において15−30分で表示含量の85%以上の溶出が得られるような高い溶解性を示す原薬の即放性固形製剤であるとき、製剤の生物学的利用能のヒトでの著しい非同等性のリスクは低いと考えることができる場合がある(参考文献;Guidance for Industry Waiver of In Vivo Bioavailability and Bioequivalence Studies for Immediate-Release Solid Oral Dosage Forms Based on a Biopharmaceutics Classification System U.S. FDA(CDER) August 2000)。この考え方を参考に、固形製剤の代表的な添加剤として挙げられる乳糖とステアリン酸マグネシウムを用いた試験錠剤で、日本薬局法パドル法(回転数50rpm)を用いて溶解速度を評価したとき、15−30分で表示含量の85%以上の溶出率を示すことを、一定の薬効の発現が期待できる溶解性の指標とした。 なお、本化合物N-(17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3,14-ジヒドロキシ-モルヒナン-6β-イル)-フタルイミド自体は、上述した通りその合成法と共にすでに開示されており(非特許文献1)、公知の方法に従って容易に合成することができるが、これに限られたものではない。他には、例えば下記比較例2に記載される方法で本化合物等の未粉砕医薬品原薬を得ることができ、これを用いて本発明の結晶性微粉化粒子を製造することができる。また、薬剤的に許容される塩の好ましい例としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、乳酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、グルタル酸塩、リンゴ酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、マンデル酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、フタル酸塩等の有機カルボン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、カンファ−スルホン酸塩等の有機スルホン酸塩等があげられ、中でも、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩等が好ましく用いられるが、これもまたこれらに限られるものではない。 本発明の結晶性微粉化粒子および当該粒子を有効成分とする医薬組成物は、医薬として使用することができ、例えば、頻尿、尿意切迫もしくは尿失禁の治療または予防剤、止痒剤、鎮痛剤、過敏性腸症候群などの機能性腸障害治療または予防剤、あるいは鎮咳剤などとして使用することができる。 本発明の粒子を臨床で薬剤として使用する際には、該薬剤は本発明の粒子のみから成るものでもよく、また賦形剤、安定化剤、保存剤、緩衝剤、溶解補助剤、乳化剤、希釈剤、等張化剤などの添加剤が適宜混合されていてもよい。また、当該薬剤は、これらの薬剤用担体を適宜用いて通常の方法によって製造することができる。投与形態としては、錠剤・カプセル剤・顆粒剤・散剤・シロップ剤などによる経口剤、注射剤・座剤・液剤などによる非経口剤、あるいは軟膏剤・クリーム剤・貼付剤などによる局所投与等を挙げることができる。これらの組成物は通常使用される方法にしたがって製造することができる。 本発明の粒子を有効成分とする医薬組成物は、本発明の粒子を0.00001〜90重量%、より好ましくは0.0001〜70重量%含有することが望ましい。その使用量は症状、年齢、体重、投与方法等に応じて適宜選択されるが、成人に対して、注射剤の場合、有効成分量として1日0.1μg〜1g、経口剤の場合1μg〜10gであり、それぞれ1回または数回に分けて投与することができる。 以下、実施例、比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、以下の実施例及び比較例で用いられている「未粉砕医薬品原薬」とは、比較例2で得られたN-(17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3,14-ジヒドロキシ-モルヒナン-6β-イル)-フタルイミド(化合物1)の未粉砕医薬品原薬である。実施例1〜5および比較例1:気流体式粉砕機を用いた粉砕処理(1) SK-ジェット・オー・ミル(JOM-0101:セイシン企業製)を用いて粉砕処理をおこなった。粉砕条件としては空気圧力、およびノズル径を表1の通り各種設定して粉砕を実施し、未粉砕医薬品原薬の供給量および得られた粉砕医薬品原薬量も含めて表1に示した。実施例6:気流体式粉砕機を用いた粉砕処理(2) Co-jetジェットミル粉砕機(α−mkII:セイシン企業製)を用いて粉砕処理をおこなった。粉砕条件としてはノズル圧力を0.5MPaに設定し、未粉砕医薬品原薬10gを2分間かけてジェットミル内に投入し粉砕を実施した。実施例7:気流体式粉砕機を用いた粉砕処理(3) シングルトラック・ジェットミル(FS-4:セイシン企業製)を用いて粉砕処理をおこなった。粉砕条件としては空気圧力を表2の通り設定して粉砕を実施し、未粉砕医薬品原薬の供給量および得られた粉砕医薬品原薬量も含めて表2に示した。実施例8〜9:高速回転衝撃式粉砕機を用いた粉砕処理 ハンマーミル(TASM-1)を用いて粉砕処理をおこなった。粉砕条件としてはメッシュサイズ、および回転数を表3の通り各種設定して粉砕を実施し、未粉砕医薬品原薬の供給量および得られた粉砕医薬品原薬量も含めて表3に示した。比較例2 N-(17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3,14-ジヒドロキシ-モルヒナン-6β-イル)-フタルイミド(化合物1)の未粉砕医薬品原薬の製造化合物1(1) 粗結晶の製造 6β−ナルトレキサミン3.52 kg、酢酸20.1 kgに対して、フタル酸無水物1.68 kgを加えた後、内温85-90 ℃にて窒素雰囲気下4時間攪拌した。反応溶液を25 ℃まで冷却し、反応溶液にTHF 81.3 kg、炭酸ナトリウム水溶液(炭酸ナトリウム21.2 kgを水85.0 kgに溶解した溶液)を加えて1時間攪拌して中和した。反応混合液に酢酸エチル44.0 kg、THF 23.6 kgを加えて抽出した。有機層を水31.0 kgにて洗浄した後、減圧濃縮して109 kgを留去した。残渣に酢酸エチル42.6 kgを加えて減圧濃縮するという操作を8回繰り返して共沸脱水をした。残渣にTHF 42.6 kgを加えて減圧濃縮するという操作を4回繰り返してTHF溶媒置換をした。残渣にTHF 50.7 kgを加えて内温50-60 ℃にて30分間攪拌した後、ろ紙にてろ過をして異物除去をした。残渣溶液に酢酸エチル49.3 kgを加えて、減圧濃縮して102 kgを留去した。残渣に酢酸エチル42.6 kgを加えて減圧濃縮するという操作を4回繰り返した。生じた結晶をろ取し、酢酸エチル7.7 kgにて洗浄した。真空乾燥して、化合物1 の粗結晶4.0 kgを得た。(2) 未粉砕医薬品原薬の製造 化合物1の粗結晶35.2 kgと2-ブタノール2347 kgの混合物を窒素雰囲気下で1時間加熱還流した後、加熱しながら常圧濃縮にて1802 kgの2-ブタノールを留去した。濃縮終了後、3時間かけて室温まで冷却し、冷却後に1時間攪拌した。生じた結晶をろ取し、2-ブタノール42.3 kgにて洗浄した。真空乾燥して、化合物1 の未粉砕医薬品原薬34.1kgを得た。比較例3:媒体式粉砕機を用いた粉砕処理(1) 未粉砕医薬品原薬22.4gを、媒体式粉砕機である卓上型ボールミル(V-2M型:入江商会製)を用いて粉砕処理をおこなった。粉砕1、3、8時間後にサンプリングして粉末X線回折測定を実施した結果を図2に示した。粉砕時間が増加すると共にシャープなX線回折ピークが消失し、粉砕時間8時間後ではX線回折ピークが見られずハローとして観察される非晶質に変化していた。比較例4、5、および6:媒体式粉砕機を用いた粉砕処理(2) 未粉砕医薬品原薬10gを、卓上型ボールミル(V-2M型:入江商会製)を用いて、粉砕3分(比較例4)、6分(比較例5)、および7分(比較例6)にて粉砕処理をおこなった。なお本例で得られた粉砕品原薬はミル内壁やボール表面上に付着したままの状態であり、粉砕処理の時間を経るごとに著しい凝集が見られた。比較例7 未粉砕医薬品原薬を、乳鉢を用いて粉砕処理をおこなった。評価例1:粒子径分布の測定 本化合物の粒子径分布の測定は、粒度分布測定装置(Malvern社製、Mastersizer2000)を用いて乾式法にて測定した。粒子径分布を表す指標として、D50およびD90を求めた。評価例2:結晶状態の確認および結晶化度の測定 本化合物の粒子の結晶状態の確認および結晶化度の測定は、リガク製粉末X線回折装置(2200/RINT Ultima+PC)を用いて粉末X線回折測定を実施しておこなった。 実施例1〜9にて得られた粉砕医薬品原薬について、粉末X線回折測定した結果、気流体式および高速回転衝撃式の粉砕機で粉砕した粉砕医薬品原薬はいずれもシャープなX線回折パターンを示し、結晶形が保持されていた。それらの中で、代表的なチャートとして、実施例2の粉末X線回折パターンを図1に示した。また、結晶化度を下記の表4に示した。粉砕医薬品原薬はいずれも結晶化度が85%以上であることが分かった。粒子径分布の測定結果についても表4に示した。その結果、実施例1〜9のいずれの粉砕処理を行った場合でも、得られた粉砕医薬品原薬はD50が3〜15μm、D90が50μm以下の範囲内であった。 比較例1〜7にて得られた医薬品原薬について、粒子径分布および結晶化度を表5に示した。評価例3:保存安定性(1) Co-jetジェットミル粉砕機(α−mkII:セイシン企業製)で粉砕した実施例6の粉砕医薬品原薬(結晶化度88%)と乳鉢粉砕の方法で粉砕した比較例7の粉砕医薬品原薬(結晶化度73%)について、60℃/75%RH開放の保存条件にて、0.5ヶ月および2ヶ月後の医薬品原薬含量をHPLC分析して、それぞれの保存安定性を比較した(表6)。その結果、結晶化度の低い比較例7の粉砕医薬品原薬の方が、実施例6の粉砕医薬品原薬に比べて、開始時に対する医薬品原薬含量の減少度が著しく大きく、保存安定性が大きく低下した。以上より、結晶化度73-88%の間を境として本化合物の結晶性微粉化粒子の安定性に大きな違いがあることが明らかとなった。評価例4:保存安定性(2) 卓上型ボールミル(V-2M型:入江商会製)で経時的に粉砕した比較例4(粉砕時間:3分)、比較例5(粉砕時間:6分)、および比較例6(粉砕時間:7分)の医薬品原薬について、60℃/75%RH開放の保存条件にて、0.5ヶ月および2ヶ月後の比較例4、比較例5および比較例6をHPLC分析して、それぞれの類縁物質総量を求めて保存安定性を比較した(表7)。その結果、結晶化度の高い粉砕医薬品原薬の方が、0.5ヶ月および2ヶ月後の類縁物質総量が少なく保存安定性が良い。特に比較例4は、2ヶ月後の類縁物質総量が1.00%以下であり保存安定性が優れている。以上より、結晶化度71-82%の間を境として本化合物の結晶性微粉化粒子の安定性に大きな違いがあることが明らかとなった。評価例5:溶解速度評価 粒子径分布の異なる医薬品原薬(実施例2、実施例3、実施例4、比較例1、および比較例2)について、それらの試験錠剤を作成し溶出試験を実施して、医薬品原薬の溶解速度を評価した。溶出試験は、第14改正日本薬局方、溶出試験第2法パドル法に従い、試験液にpH6.0のリン酸緩衝液を用いて50rpmにて実施した。試験開始5、10、15、30分後における溶出率はHPLC法にて測定し算出した。時間経過と共に溶出率を表したグラフを図3に示した。その結果、実施例2、3および4の医薬品原薬は30分後の溶出率が80%以上であり、比較例1および比較例2の医薬品原薬に比べて、溶出率が高く医薬品原薬の溶解速度が高かった。 なお用いた医薬品原薬の粒子径分布のD50、D90、および体積基準粒子径15(μm)以下が占める体積分布の累積頻度(%)についても表8に示した。この結果、D50としては14.6μmと32.4μmの間、D90としては47.8μmと110μmの間を境として本化合物の結晶性微粉化粒子の溶解速度の差に大きな違いがあることが明らかとなった。体積基準粒子径15(μm)以下が占める体積分布の累積頻度(%)が23.3%と51.7%との間を境として本化合物の結晶性微粉化粒子の溶解速度の差に大きな違いがあることが明らかとなった。 なお試験錠剤の作成方法は、医薬品原薬10mg、乳糖119.35mg(DMV、Pharmatose200M)、ステアリン酸マグネシウム0.65mg(太平化学産業)を原薬の結晶を粉砕しない程度に緩やかにかき混ぜて物理混合物とした後、その物理混合物130mgを70kgf/cm2で15秒間圧縮成型して試験錠剤を得た。評価例6:イヌに経口投与した時の薬物の血漿中濃度 粒子径分布の異なる医薬品原薬(実施例2および比較例2)を雄性ビーグル犬3頭にそれぞれ経口投与(10 mg/kg)し経時的に採血して、血漿中の薬物濃度を測定した際の薬物動態学的パラメーターの比較結果を表9に示した。その結果、粒子径の大きい医薬品原薬(比較例2)が、粒子径の小さい医薬品原薬(実施例2)に比べてAUCおよびC maxの数値が低く、血漿中薬物濃度が低かった。なお用いた医薬品原薬の粒子径分布を、表9に示した。この結果、D50としては6.23μmと64.0μmの間、D90としては12.4μmと173μmの間で生物学的利用能の差が見られ、微粉化粒子ほど好ましいことが明らかとなった。 粒子径が小さい方の粒子から累積して体積分布の累積頻度が50%に達する点の粒子径(D50)が3〜15μmの範囲内であり、粒子径が小さい方の粒子から累積して体積分布の累積頻度が90%に達する点の粒子径(D90)が50μm以下の粒子径分布をもち、結晶化度が85%以上であるN-(17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3,14-ジヒドロキシ-モルヒナン-6β-イル)-フタルイミドの結晶性粒子。 D50が3〜10μmの範囲内であり、D90が30μm以下の粒子径分布をもつ請求項1記載の結晶性粒子。 体積基準粒子径15μm以下の粒子が占める体積分布の累積頻度が50%以上含まれる粒子径分布をもち、結晶化度が85%以上であるN-(17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3,14-ジヒドロキシ-モルヒナン-6β-イル)-フタルイミドの結晶性粒子。 結晶性N-(17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3,14-ジヒドロキシ-モルヒナン-6β-イル)-フタルイミドを、気流体式の粉砕機により、供給圧力0.3〜0.8 Mpaで微粉化することによって得られる請求項1から3のいずれか一項に記載の結晶性粒子。 N-(17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3,14-ジヒドロキシ-モルヒナン-6β-イル)-フタルイミドを、気流体式の粉砕機により、供給圧力0.3〜0.8 Mpaで粉砕することを含む、N-(17-シクロプロピルメチル-4,5α-エポキシ-3,14-ジヒドロキシ-モルヒナン-6β-イル)-フタルイミドの結晶性粒子の製造方法。