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タイトル:公開特許公報(A)_クロストリジウム属微生物を利用したセルロース分解酵素の生産方法及びクロストリジウム属微生物の培養増殖方法。
出願番号:2009277079
年次:2011
IPC分類:C12N 9/42,C12N 1/20,C12N 15/09,C12R 1/145


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小杉 昭彦 森 ▲隆▼ JP 2011115110 公開特許公報(A) 20110616 2009277079 20091204 クロストリジウム属微生物を利用したセルロース分解酵素の生産方法及びクロストリジウム属微生物の培養増殖方法。 独立行政法人国際農林水産業研究センター 501174550 平山 一幸 100082876 篠田 哲也 100109807 小杉 昭彦 森 ▲隆▼ C12N 9/42 20060101AFI20110520BHJP C12N 1/20 20060101ALI20110520BHJP C12N 15/09 20060101ALN20110520BHJP C12R 1/145 20060101ALN20110520BHJP JPC12N9/42C12N1/20 AC12N15/00 AC12N1/20 AC12R1:145 12 OL 20 4B024 4B050 4B065 4B024AA03 4B024AA17 4B024BA12 4B024CA02 4B024DA05 4B050CC03 4B050DD02 4B050LL05 4B065AA23X 4B065AB01 4B065AC14 4B065BA01 4B065BB18 4B065CA20 4B065CA55 本発明は、クロストリジウム属微生物を利用したセルロース分解酵素の生産方法及びクロストリジウム属微生物の培養増殖方法に関する。 バガス、稲わら、籾殻、キノコ廃床、堆肥、木材チップ等のセルロース系バイオマスが食糧生産を圧迫しないエネルギーや化学工業の原料資源として注目されている。特に、セルロース系バイオマスの燃料エタノールや発酵原料である糖への変換において、効率の良い糖化技術が切望されている。 しかし、セルロース系バイオマスはでん粉に比べて糖化技術の難易度が高い。これは、セルロース系バイオマスの構成主体であるセルロースが堅固な結晶構造を持つ難分解性の高分子多糖であることによる。 セルロース系バイオマスの糖化方法には、物理的糖化、化学的糖化及び酵素糖化の3つの方法がある。 物理的糖化処理はボールミルや振動ミル又は蒸煮爆砕や加圧熱水処理など物理的に糖化を施す処理があるが、物理的な処理は多大なエネルギーを必要とするため、化学的糖化や酵素糖化の前処理として併用されることが多い。 化学的糖化処理は、アルカリ、酸を利用するものがあるが、古くより酸糖化がよく用いられている。酸糖化には濃硫酸糖化法と希硫酸二段糖化法とがあるが、硫酸を用いるため、廃棄物処理や環境負荷の低減を必要とし、低コスト化及びエネルギー変換効率に限界があるといわれている。 酵素糖化は、酸糖化に比べ、廃液回収や処理の負担が軽く、耐薬設備等の設備コストを低減できること、過分解が起こらずに糖の収率が高い等の利点があるため、澱粉質を多く含むバイオマスの酵素糖化で実用化されている。ところが、セルロース系バイオマスは、前述したように、セルロースが結晶構造を有していること及び結晶性セルロースをヘミセルロースやリグニンが取り囲んだ複雑な構造を有しているため、でん粉系に比べ、酵素糖化がきわめて困難である。したがって、酵素による糖化処理前に、物理的あるいは化学的前処理による結晶構造の破壊等の前処理や大量のヘミセルラーゼやセルラーゼを併用しているのが現状である。 ヘミセルラーゼやセルラーゼに関しては好気性糸状菌トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)由来の糖化酵素が工業的に使用されているため、セルロース系バイオマスの糖化においても、トリコデルマ属菌の研究が活発に行われてきた(特許文献1参照)。 近年、ある種の嫌気性微生物がセルロースを効率よく分解できる酵素複合体セルロソーム(Cellulosome)を生産することが明らかとなった。 セルロソームは、骨格となるタンパク質をベースに多数の高分子多糖分解酵素が結合した構造を有し、これらの複数の酵素が共同してセルロースに作用することで、非常に高い高分子多糖の分解活性を示すことが解明されている(非特許文献1)。 セルロソームを産生する嫌気性微生物として、クロストリジウム属(Clostridium)微生物が報告されている(非特許文献1〜6)。特開2007−319040号公報Microbiol Mol Biol Rev. 2005 Mar;69(1):124−54Current Microbiology 1983 9:195−200Appl Environ Microbiol. 1980 Sept;40 vol. 3:571−577Appl Environ Microbiol. 1990 Jan;54 vol. 1:37−42Appl Environ Microbiol. 1988 Jan;54 vol. 1:204−211Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Oct 31;103(44):16165−16169 セルロソームを生産するクロストリジウム属微生物として、具体的にはクロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)やクロストリジウム・セルロボランス(Clostridium cellulovorans)に属する菌が知られている。しかし、これらの微生物は嫌気性であるためエネルギーの獲得効率が悪く、かつセルロソームを含むセルロース分解酵素の産生能力が低いため、効率的に大量のセルロソームを含むセルロース分解酵素を生産する技術の確立が求められている。 本発明は、セルロース資化能を有し、セルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物を培養して、菌体密度を高め、大量にセルロース分解酵素を生産させる方法を提供することを目的とする。 本発明者らがセルロース資化能を有するクロストリジウム属微生物を用いたセルロース分解酵素の生産方法を検討したところ、培地中の炭素源濃度を高めた場合、セルロース分解酵素の生産量は増加せず、むしろ抑制されることを発見した。本発明者らはさらに研究を進めたところ、培地に小刻みに炭素源を添加することにより菌体密度及びセルロース分解酵素の生産量が向上し、培地中に蓄積されることを発見し、本発明を完成するに至った。 本発明のセルロース分解酵素生産方法は、セルロース資化能を有し、セルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物を培養してセルロース分解酵素を生産させる方法であって、クロストリジウム属微生物が資化可能な炭素源を消化した後、炭素源を添加する操作を繰り返し、培地中にセルロース分解酵素を蓄積させることを特徴とする。 本発明の別のセルロース分解酵素生産方法は、セルロース資化能を有し、セルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物を培養してセルロース分解酵素を生産させる方法であって、クロストリジウム属微生物が資化可能な炭素源を消化した後、炭素源を添加する操作を繰り返すことを特徴とする。 本発明のセルロース資化能を有するクロストリジウム属微生物の培養増殖方法は、培養中にクロストリジウム属微生物が資化可能な炭素源を消化した後、炭素源を添加する操作を繰り返すことを特徴とする。 本発明のセルロース分解酵素の生産方法では、セルロース資化能を有しセルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物の培養中にクロストリジウム属微生物が資化可能な炭素源を消化した後、炭素源を添加する操作を繰り返すことを特徴とする。この操作により、培地中の菌体密度を高めることができるだけでなく、セルロースに吸着しているセルロソーム及び/又はセルロース分解酵素を培養液中に放出させることができる。この結果、セルロソーム及び/又はセルロース分解酵素を大量に生産することが可能になる。 また、本発明のセルロース分解酵素生産方法は、菌増殖や菌体内代謝を維持できるので、培養液中の残存しているセロオリゴ糖などのオリゴ糖類、グルコースなどの単糖類を消費させ続けることができる。したがって、セルロソーム及び/又はセルロース分解酵素の生産性を維持できるだけでなく、代謝活動の副産物として生産される有機酸やエタノールなどの低分子の生産性を向上させることが可能である。その場合、低分子化合物は培養液から回収することが可能である。本発明の実施例1において、クロストリジウム・サーモセラム培養液1ml中の総タンパク量の変化を示す図である。実施例1において、クロストリジウム・サーモセラムを一定期間培養した培養液1ml中の総タンパク量を示す図である。本発明の実施例2において、クロストリジウム・サーモセラム培養液の酵素活性の経日的変化を示す図で、(A)はアビセラーゼ活性、(B)はエンドグルカナーゼ活性、(C)はキシラナーゼ活性を表す。実施例2において、クロストリジウム・サーモセラムを一定期間培養した培養液の酵素活性を示した図で、(A)はアビセラーゼ活性、(B)はエンドグルカナーゼ活性、(C)はキシラナーゼ活性を表す。本発明の実施例3において、クロストリジウム・サーモセラムのセルロソームのSDS−PAGEの像を示す図である。本発明の実施例4において、クロストリジウム・サーモセラム培養法における菌体増殖の経日変化を示した図で、(A)はクロストリジウム・サーモセラムATCC27405の変化、(B)はクロストリジウム・サーモセラムJK−S14の変化を示す。本発明の実施例6において、クロストリジウム・サーモセラム培養液中の総タンパク量の変化を示した図である。実施例6のクロストリジウム・サーモセラムのセルロソームのSDS−PAGEの像を示す図である。JK−S14株とATCC27405株のDNA配列のアライメントを示す図である。JK−N44株とATCC27405株のDNA配列のアライメントを示す図である。JK−S14株の遺伝子配列を示す図である。JK−N44株の遺伝子配列を示す図である。 以下、本発明を幾つかの実施の形態並びに実施例に基づいて詳細に説明する。[実施形態1] 本発明の実施形態1は、セルロース資化能を有し、セルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物を培養してセルロース分解酵素を生産させる方法であって、クロストリジウム属微生物が資化可能な炭素源を消化した後、炭素源を添加する操作を繰り返し、培地中にセルロース分解酵素を蓄積させるセルロース分解酵素の生産方法である。 セルロース資化能を有し、セルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物とは、好ましくはセルロース資化能を有し、セルロース分解酵素であるセルロソームを分泌するクロストリジウム属微生物である。セルロース資化能を有し、セルロソームを分泌するクロストリジウム属微生物とは具体的には、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)又はクロストリジウム・セルロボランス(Clostridium cellulovorans)に属する微生物であり、好ましくはクロストリジウム・サーモセラムである。クロストリジウム・サーモセラムの菌株としてATCC27405株、ATCC31549株、クロストリジウム・サーモセラムJK−S14(NITE P−627)株又はクロストリジウム・サーモセラムJK−N44(NITE P−628)株を具体的に挙げることができる。クロストリジウム・サーモセラムJK−S14(NITE P−627)株及びクロストリジウム・サーモセラムJK−N44(NITE P−628)株は本発明者らによって分離された菌株であり、独立行政法人製品評価技術基盤機構 微生物寄託センターから入手が可能である。 特に、クロストリジウム・サーモセラムJK−S14(NITE P−627)株は、これまでに知られているクロストリジウム・サーモセラムに属する微生物よりも培地へのセルロソーム等のセルロース分解酵素の分泌と蓄積量が多く、好ましい例である。 なお、セルロース資化能を有し、セルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物を以下、本明細書中で「クロストリジウム属菌」という。 クロストリジウム・サーモセラムJK−S14(NITE P−627)株の特徴を以下に示す。 桿菌(約1.6〜3.0μm)、胞子形成能あり 好熱性菌 生育温度:50℃〜65℃、至適生育温度60℃ 生育pH:6.0〜9.0、至適pH7.0 偏性嫌気性菌 ガスN2及びCO2に生育(CO2の場合、培地に炭酸ナトリウムを0.4%程度加える) 培地上の特徴:酸素が入っている培地では生育不可。生育pH7.0で良好。セルロース、セロビオースに生育する。セルロースを含む培地ではセルロースがクリーム色になり分解する。 糖の資化性:セルロース、マンナン、キトサン、セロビオース、フラクトース及びソルビトール資化能を有する。 コロニー形態:セルロースを含む寒天培地ではハローを形成、コロニーは白く小さい。培養日数が経過するとコロニーの周囲に白い粘性を帯びた輪を形成することもある。胞子を形成。−80℃にて保存可能である。 16srRNA(16リボソームRNAコード配列):クロストリジウム・サーモセラムATCC27405株との間で99%の相同性を示す。 クロストリジウム・サーモセラムJK−N44菌株の菌学的性質を以下に記述する。 桿菌(約1.6〜3.0μm)、胞子形成能あり 好熱性菌 生育温度:55℃〜65℃、至適生育温度60℃ 生育pH:6.0〜9.0、至適pH7.0 偏性嫌気性菌 ガスN2及びCO2に生育(CO2の場合、培地に炭酸ナトリウムを0.4%程度加える) 培地上の特徴:酸素が入っている培地では生育不可。生育pH7.0で良好。セルロース、セロビオースに生育する。セルロース含有培地ではセルロースがクリーム色になり分解する。 糖の資化性:セルロース、マンナン、キトサン、セロビオース、フラクトース及びソルビトール資化能を有する。 コロニー形態:セルロース含有寒天培地ではハローを形成、コロニーは白く小さい。培養日数が経過するとコロニーの周囲に白い粘性を帯びた輪を形成することもある。胞子を形成。−80℃にて保存可能である。 16srRNA(16リボソームRNAコード配列):クロストリジウム・サーモセラムATCC27405株との間で99%の相同性を示す。 JK−S14株のDNA塩基配列を図11に、JK−N44株のDNA塩基配列を図12に示す。また、図9にJK−S14株とATCC27405株のDNA配列のアライメントを、図10にJK−N44株とATCC27405株のDNA配列のアライメントを示す。 クロストリジウム属微生物が資化可能な炭素源(以下、本明細書中において単に「炭素源」という。)はセルロース性物質を含み、さらに、マンナン、キトサン、セロビオース、フラクトース又はソルビトールが混合されていてもよい。 セルロース性物質は、市販されているセルロース性物質を利用することができる。具体的には、シグマセルやアビセルはもとより、ワットマンろ紙、クロマトグラフィー用セルロース粉末、綿、バクテリアセルロース等を利用することができる。また、前述のセルロース性物質を酸で膨潤したセルロースやボールミルや粉砕機により結晶性を低下させたもの、再生紙、古紙や新聞紙、オフィス廃棄裁断紙やトイレットペーパーも利用することができる。さらには、物理的、化学的な前処理を行った稲わら、麦わら、バガス、木材パルプ、芋パルプ、古紙、紙屑、綿屑等、セルロースを含んでいるものならいずれも炭素源として利用することができる。 培地中に含まれる炭素源の量は、セルロソームの生産量やクロストリジウム菌の増殖に影響を及ぼす。培養初期濃度及び炭素源供給後の炭素源濃度は0.01〜5%以下、好ましくは0.2〜2%未満の範囲にコントロールすることが望ましい。なお、炭素源濃度とは培地容量に対する炭素源の重量割合である。培養初期濃度及び炭素源供給後の濃度が0.01%以下であると、消費速度が速すぎ、セルロソームの生産性を誘導する時間が十分でないため、生産収率が低下し好ましくない。培養初期濃度及び炭素源供給後の濃度が5%を超えると、クロストリジウム属菌の増殖が緩慢となり、培地中の菌体密度の向上効率が低くなるので好ましくない。これは、クロストリジウム属菌による炭素源の資化速度より、セルロソームによる炭素源の分解反応の速度が速いため反応生成物が過剰蓄積するためと考えられる。 培地中の炭素源濃度を0.01〜5%以下、好ましくは0.2〜2%未満で培養することにより、培養液中に残存しているセロビオースなどのオリゴ糖類、グルコースなどの単糖類を消費させることになり、その結果、反応生成物の過剰蓄積が抑制されると考えられる。また、クロストリジウム属菌のセルロソーム及び/又はセルロース分解酵素の生産性を維持できるだけでなく、セルロースに吸着しているセルロソーム及び/又はセルロース分解酵素を培養液中に放出させることができる。 培地に供給する炭素源の量は、炭素源を供給する時期及び前述した炭素供給後の培地中の炭素濃度を考慮して定められるものである。培地に炭素源を供給する時期は、クロストリジウム属菌が炭素源をほぼ消費したタイミング、言い換えれば培地中の炭素源濃度がほぼゼロになった時点が好ましく、この時期に、1回当たりの培地に対する重量/容量割合で0.1〜5%未満、好ましくは、0.1%〜1.5%、さらに好ましくは0.2〜1%の炭素源を供給する。具体的なセルロースを供給するタイミングは、例えば、不溶性であるセルロースが見えなくなった時点でよく、培養液の観察により判断することができる。なお、正確にタイミングを計るのであれば、よく攪拌した培養液中から、一部採取しフィルター濾過を行い、セルロースや不溶性基質の残存量を測定することが可能である。また遠心分離により沈殿量を確認することでセルロース及び不溶性基質の消費量を確認することが可能である。さらにそのようなことが確認できない場合、クロストリジウム属菌の増殖状態、すなわちガスの発生が止まった時点で、セルロース消費を確認することができるので、その時点で新しい基質を添加する判断を行ってもよい。一回当たりの炭素源供給量を0.1〜2%未満とした場合の炭素源の供給間隔は0.5〜10日であり、0.2〜1%の炭素源を供給する場合には2〜8日である。 クロストリジウム属菌が炭素源をほぼ消費したタイミングで、炭素源を供給することにより、炭素源濃度の減少と共に低下し始めたセルロース分解酵素の生産性が回復する。これは、炭素源の供給がクロストリジウム属菌のタンパク質発現の刺激となっていると考えることもできる。 炭素源の供給回数は限定されるものではないが、例えば、1回〜5回である。また、供給回数と一回当たりの炭素源供給量を乗じた炭素供給総量が0.2〜5%程度となるように設定するのが好ましい。 炭素源は、単独で培地に供給してもよいが、後述する培地組成あるいは培地成分の一部とともに供給してもよい。 炭素源以外の培地組成は、たとえば、BM7CL培地組成とすれば良く、さらにクロストリジウム属菌の増殖促進のために上記培地成分以外に、ビタミンの混合液や微量金属混合液などを適当量添加してもよい。例えば、イノシトール、パントテン酸、ナイアシン、ビタミンB6、ビタミンB1、アミノ安息香酸、リボフラビン、ビオチン、葉酸等の混合液を適量添加してもよい。また鉄、ナトリウム、ヒ素、モリブデン、カリウム、マンガン、亜鉛、ヨウ素、ニッケル、銅、コバルト等の元素混合液を添加することもできる。さらに酵母エキス、ペプトンなどのアミノ酸やタンパク質加水分解物を豊富に含む窒素又は栄養源を上記培地の濃度以上に添加しても良いが、これら以外にも、例えば、硫酸アンモニウム、コーンスチープリカー、肉エキス、又はグルタミン酸やグリシンなどのアミノ酸であっても構わない。 また、増殖によるpH低下を抑えるために、リン酸塩やクエン酸塩といった無機塩類、さらにはHEPES(2−[4−(2−ハイドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタネスルフォニック酸:2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl] ethanesulfonic acid)、MOPS(3−モーフォリノプロパネスルフォン酸:3-Morpholinopropanesulfonic acid)等の緩衝剤を添加してもよい。 培養条件は、嫌気条件下、クロストリジウム属菌の至適温度、至適pHに応じて設定すればよい。嫌気性条件下は、例えば、培地の気相を炭酸ガスや窒素ガスで置換すればよい。なお、ATCC27405菌株、SK−S14菌株又はJK−N44菌株は、至適pHが中性付近であるので、炭酸ガスを用いる場合、上記培地にさらに薄い濃度の炭酸ナトリウム(例えば、0.4%程度)を加え、pHを中性付近に保つことが望ましい。 本実施形態において、培地への炭素源の供給は、セミバッチ培養法によって行う。炭素源の供給時には培地を抜き取る等の培地交換の必要はなく単に炭素源を加えるだけでも構わない。セミバッチ培養法とすることで、培地中に産生されたセルロソームが蓄積され、単位量当たりの酵素活性を高くすることが可能となる。 以上述べたように、クロストリジウム属菌が炭素源をほぼ消費した後、少量の炭素源を数回に分けて供給する操作を繰り返すセミバッチ培養法により、培地中の炭素源濃度をコントロールできる。そして、この操作により、クロストリジウム属菌は増殖が阻害されることなく培地中の菌体密度が向上し代謝活性も維持する。この結果、大量にセルロソームを産生することができる。しかも、セルロソームが培地中に蓄積されるので、得られたセルロソームは培養液の単位量当たりの酵素活性が高いものとなる。特に、クロストリジウム・サーモセラムJK−S14(NITE P−627)株は、セミバッチ培養により、培地へのセルロソーム等のセルロース分解酵素の分泌量と蓄積量が多くなる。 培地からセルロソーム及び/又はセルロース分解酵素を回収するには、限外濾過膜等で直接培養液を濃縮してもよく、また硫酸アンモニウム等を加えることによる塩析効果を用いてタンパク質を沈殿させ回収してもよい。 また、菌増殖や菌体内代謝を維持できるので、培養液中の残存しているセロオリゴ糖などのオリゴ糖類、グルコースなどの単糖類を消費させ続けることで、代謝活動の副産物として生産される有機酸やエタノールなどの低分子の生産性を向上させることが可能である。その場合、低分子化合物は培養液から回収することが可能である。[実施形態2] 本発明の実施形態2は、セルロース資化能を有し、セルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物を培養してセルロース分解酵素を生産させる方法であって、上記クロストリジウム属微生物が資化可能な炭素源を消化した後、炭素源を添加する操作を繰り返すセルロース分解酵素の生産方法である。 実施形態1のセミバッチ培養法に代えて、炭素源の供給時に培地交換を行う連続培養法を採用する点で異なる。 連続培養法はフレッシュな培養液を培養系に供給し、同時に同量の培養液を抜き取る培養方法であり、培養液中に分泌された有効成分を回収したり、有害成分を除去するのに適した方法である。しかし、セルロソームは炭素源に結合するため、新たな培養液を供給するとセルロソーム−炭素源結合体が形成されてしまう。このセルロソーム−炭素源結合体からセルロソームを単離回収する操作を避けるため、新たな培養液を培養系に供給する前にある程度の量のセルロソームを含有する培養液を抜き取り、抜き取った量と同量の培養液を供給する等の処理を行えばよい。 抜き取った培養液からセルロソーム及び/又はセルロース分解酵素を回収するには、限外濾過膜等で直接培養液を濃縮してもよく、また硫酸アンモニウム等を加えることによる塩析効果を用いてタンパク質を沈殿させ回収してもよい。なお、再度、吸着可能なセルロース性担体を用いて吸着させ、そのまま適当な温度により分解させてしまうか、または純水などで吸着担体から分離溶出を行い回収することも可能である。[実施形態3] 本発明の実施形態3は、クロストリジウム属微生物を培養して増殖させる方法であって、クロストリジウム属微生物が資化可能な炭素源を消化した後、炭素源を添加する操作を繰り返すクロストリジウム属微生物の培養増殖方法である。 培養は、実施形態1及び2と同じ条件、方法で行えばよく、培養液から常法によりクロストリジウム属菌を分離すればよい。 さらに、実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。 培養中のセルロース濃度が培養液中の総タンパク質濃度に変化があるかどうかを確認するため、バッチ培養法およびセミバッチ培養法を用い、それぞれのタンパク質濃度の測定を行った。 好熱嫌気性細菌クロストリジウム・サーモセラムATCC27405 (アメリカンタイプカルチャーコレクション)は基準株として、また試験株としてクロストリジウム・サーモセラムJK−S14(NITE P−627)を用いた。これらのクロストリジウム・サーモセラムの培養は、バッチ培養法の場合、微結晶性セルロース(シグマセルタイプ20・シグマ・アルドリッチ社製)を2重量%、セミバッチ培養法の場合、0.5重量%をそれぞれ含むBM7CO培地を高純度炭酸ガスにて気相を置換した後、60℃にて培養を行った。 培地はBM7CO培地組成とした。具体的には、リン酸二水素カリウム1.5g/L, リン酸水素二カリウム2.9g/L, 尿素2.1g/L, 酵母エキス 4.5g/L, 炭酸ナトリウム4g/L,システイン塩酸塩0.05g/L、0.2 mlミネラル溶液(MgCl2. 6H2O:5g,CaCl2. 2H2O:0.75g,FeSO4. 6H2O: 0.0063gを水4mlに溶解)として調製した。最終的な培地のpHは7.0前後に調製した。 セミバッチ培養法では初発セルロース濃度を0.5%とし、培養液中のセルロースの懸濁度がなくなり、ほぼセルロースが消費されたと判断された時点(およそ、2日間)を目安に再度10%セルロースを含む上記BM7CO培地を最終濃度0.5%となるように添加した。この添加操作を計3回繰り返し、消費濃度の合計値を2重量%とした。またセミバッチ培養法では培養液量を一定に保つため、10%セルロースを含む上記BM7CO培地を添加する前に一定量培養液のサンプリングを行ったのち添加を行った。サンプリングの培養液はのちの分析に用いた。一方、バッチ培養法においても同じ培養日数においてサンプリングを行い、あとの分析に用いた。 サンプリングした培養液は15,000回転、4℃で5分間、遠心分離を行い、沈殿と培養液の分離を行った。培養液上清や残存沈殿は−20℃にて保存した。この培養液上清は総タンパク量を測定するために、必要に応じて蒸留水で希釈後、ブラッドフォード・タンパク測定キット(サーモサイエンティフィック社)により測定を行った。タンパク質の検量線はウシ血清アルブミンを使用し作成した。その結果を図1及び図2に示した。 図1にはクロストリジウム・サーモセラムATCC27405およびクロストリジウム・サーモセラムJK−S14を用いたバッチ培養法およびセミバッチ培養法における培養液1ml中の総タンパク量の比較を示した。黒塗りの三角形(▲)はバッチ培養法におけるクロストリジウム・サーモセラムATCC27405、黒塗りの丸印(●)はバッチ培養法におけるJK−S14をそれぞれ示し、白抜きの三角形(△)はセミバッチ培養法におけるクロストリジウム・サーモセラムATCC27405、白抜きの丸印(○)はセミバッチ培養法におけるクロストリジウム・サーモセラムJK−S14の培養液1ml中の総タンパク量をそれぞれ示している。図中の矢印はセミバッチ培養法において0.5%セルロース消費後、濃度が0.5%となるようにセルロースの投入を行った培養日を示している。 バッチ培養法およびセミバッチ培養法においてクロストリジウム・サーモセラムATCC27405およびJK−S14ともに、セルロース1%を消費する4日目まで、培養液中の総タンパク量にそれほど大きな変化はなかった。しかし、4日目以降、セミバッチ培養法において総タンパク量の上昇が認められた。すなわち、バッチ培養では、分泌されたタンパク質が培地中に蓄積されにくいのに対し、セミバッチ培養法を行うことにより培地に蓄積されることがわかる。特にクロストリジウム・サーモセラムJK−S14では、クロストリジウム・サーモセラムATCC27405に比較し、培地中の総タンパク量の大幅な増加が認められた。クロストリジウム・サーモセラムJK−S14はセミバッチ培養によってタンパク質の分泌量と培地への蓄積量が多くなっており、クロストリジウム・サーモセラムATCC27405の2倍以上の量が蓄積されていることがわかる。 一方、バッチ培養法の場合、どちらの菌株も培養4日目以降、培地中のタンパク生産量の増加は認められなかった。これらの傾向は両菌株に認められたことから菌株に依存した現象でないことを示していた。ところが、2%セルロースを消費した時点でのバッチ培養法およびセミバッチ培養法における両菌株の培養液1ml中の最終の総タンパク量は異なっていた。バッチ培養法の場合、クロストリジウム・サーモセラムATCC27405は0.27mg/ml、JK−S14は0.39mg/mlであったが、セミバッチ培養法の場合、それぞれ0.58mg/mlおよび1.07mg/mlであった。すなわち、セミバッチ培養法は、バッチ培養法に比べ、約2倍から3倍、タンパク質生産性を上昇させることができた。 図2はクロストリジウム・サーモセラムATCC27405およびJK−S14のバッチ培養法およびセミバッチ培養法における最終的な総タンパク量の比較を示している。それぞれの培養において9日目にサンプリングを行った培養液1ml中の総タンパク量を示している。黒塗りのバーがセミバッチ培養法、白抜きのバーがバッチ培養法である。 クロストリジウム・サーモセラムATCC27405、JK−S14を用いたバッチ培養法に比較し、セルロースを消費させた後に、再度セルロースを分割投入したセミバッチ培養法により、培養液中の総タンパク量の増加が認められた。 バッチ培養法及びセミバッチ培養法における培養液の微結晶セルロース分解活性(アビセラーゼ活性)、エンドグルカナーゼ活性、およびキシラナーゼ活性の測定を行った。 アビセラーゼ活性は、60℃で1時間、1%微結晶性セルロース粉末(シグマセルタイプ20 シグマ・アルドリッチ社)および5mM塩化カルシウムを含む50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)において酵素溶液を反応させ、遊離してきた還元糖量をソモジ・ネルソン法(澱粉・関連糖質酵素実験法 1998 生物化学実験法19:41−42学会出版センター)により測定を行なった。1分間に1μモルのグルコースを遊離する酵素の量を1ユニットと定義とした。 エンドグルカナーゼ活性は、基質としてセルロース粉末の代わりに1%カルボキシメチルセルロース(シグマ・アルドリッチ社)を用い、アビセラーゼ活性と同様に遊離してくる還元糖量をソモジ・ネルソン法により測定を行なった。またエンドグルカナーゼ活性のユニットは1分間に1μモルのグルコースを遊離する酵素の量を1ユニットと定義とした。 ヘミセルラーゼ活性としてキシラナーゼ活性を測定した。基質としてセルロース粉末の代わりに1%キシラン(オートスペルトキシラン;シグマ・アルドリッチ社)、遊離してくる還元糖量をソモジ・ネルソン法により測定を行なった。キシラナーゼユニットは、上記同様に1分間に1μモルのグルコースを遊離する酵素の量を1ユニットと定義とした。 図3の(A)〜(C)にセミバッチ培養法におけるクロストリジウム・サーモセラムATCC27405およびJK−S14の経日的な上記各酵素活性を示した。縦軸が酵素活性、横軸は培養日数を示す。 図3の(A)は、アビセラーゼ活性、図3の(B)はエンドグルカナーゼ活性、図3の(C)はキシラナーゼ活性を示す。白抜き三角形(△)はクロストリジウム・サーモセラムATCC27405、白抜き丸印(○)はJK−S14の培養液1ml中の酵素活性を示す。図中の矢印はセミバッチ培養法におけるセルロース消費を確認後、セルロース添加を行った培養日を示している。 クロストリジウム・サーモセラムATCC27405及びJK−S14はセミバッチ培養法によるセルロース消費後のセルロース添加により、アビセラーゼ、エンドグルカナーゼ及びキシラナーゼ活性の劇的な上昇が認められた。 図4の(A)〜(C)にバッチ培養法又はセミバッチ培養法によるクロストリジウム・サーモセラムATCC27405及びJK−S14の培養液1ml中の培養9日目の酵素活性をそれぞれ示した。図4の(A)は、アビセラーゼ活性、図4の(B)はエンドグルカナーゼ活性、図4の(C)はキシラナーゼ活性を示す。黒塗りのバーがセミバッチ培養法、白抜きのバーがバッチ培養法である。 培養9日目の酵素活性でもバッチ培養法の各酵素活性に比較し、セミバッチ培養法の酵素活性が高いことが明らかとなった。従って、セミバッチ培養法での培養液中のタンパク量増加とともにセルロソームやその他分解酵素生産性も上昇しているものと考えられた。すなわち、セミバッチ培養法により、分泌されたセルロース分解酵素を培地中に蓄積することが可能であることがわかる。 サンプリングした培養液中のセルロソームの確認を行った。培養液中にリン酸膨潤セルロースを加え、一晩4℃でインキュベートした後、14,000回転、4℃で5分間遠心分離を行い、セルロソームが吸着したリン酸膨潤セルロース(セルロソーム・リン酸膨潤セルロース画分)を回収した。このセルロソーム・リン酸膨潤セルロース画分を50mMトリス-塩酸緩衝液(pH8.0)で洗浄した。さらにセルロソーム・リン酸膨潤セルロース画分に変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)サンプル緩衝液を加え、懸濁後、沸騰水浴場で5分間加熱した。この操作により、上清中にセルロソーム画分が溶出される。 加熱した溶液を14,000回転、4℃で5分間、遠心分離し、不溶性セルロースとセルロソーム画分とに分離し、上清のセルロソーム画分を定法通り、変性ポリアクリルアミド電気泳動(SDS−PAGE)に供した。SDS−PAGEは4%〜20%グラジエント市販ポリアクリルアミドゲル(アトー社)を用いた。 図5にクロストリジウム・サーモセラムJK−S14のバッチ培養法およびセミバッチ培養法における培養液1ml中から調製したセルロソーム画分の電気泳動像を示す。 図中、Mはタンパク質マーカーを示し、左数字はタンパク質マーカーの分子量をキロダルトンで示している。レーン1はバッチ培養法2日目の培養液1mlから調製したセルロソーム画分、レーン2はバッチ培養法4日目の培養液1mlから調製したセルロソーム画分、レーン3はバッチ培養法6日目の培養液1mlから調製したセルロソーム画分、レーン4はバッチ培養法9日目の培養液1mlから調製したセルロソーム画分である。またレーン5はセミバッチ培養法2日目の培養液1mlから調製したセルロソーム画分、レーン6はセミバッチ培養法4日目の培養液1mlから調製したセルロソーム画分、レーン7はセミバッチ培養法6日目の培養液1mlから調製したセルロソーム画分、レーン8はセミバッチ培養法9日目の培養液1mlから調製したセルロソーム画分である。 SDS−PAGE像の矢印はクロストリジウム・サーモセラムのセルロソーム構成タンパク質として知られている骨格タンパク質CipAと主要な酵素サブユニットCel48Sのタンパク質バンドの予想位置を示している。 クロストリジウム・サーモセラムのセルロソーム構成タンパク質は、骨格タンパク質CipAと複数の酵素サブユニットで構成されている。 酵素サブユニットCel48Sは、主要な酵素サブユニットであり、比較的多く発現していることが知られている。従ってクロストリジウム・サーモセラムJK−S14においてもこれらのタンパク質は分子量や発現量の比較により明瞭に確認することができる。 バッチ培養法のセルロソーム画分サンプルでは、4日目以降、CipAやCel48Sと同定されるタンパク質の顕著な増加は認められない。一方、セミバッチ培養法のセルロソーム画分では、セルロース基質添加により2日目から4日目にかけて、それぞれのタンパク質バンドが緩やかに増加してゆくことが認められた。特に、セミバッチ培養法4日目以降、上記セルロソーム構成タンパク質の発現量が急激に増加していることが認められた。これらの結果は、先の培養液中の総タンパク量の増加や酵素活性上昇に一致している現象であり、増加した総タンパク質の多くはセルロソームに由来するタンパク質であることが示唆された。 セルロースを消費後、セルロースを分割して添加する操作を繰り返すセミバッチ培養方法は、特に培養液中のセルロソーム生産性を上昇させる培養方法として効果的であることが明らかとなった。 菌濃度や培養液中の生成物の挙動を確認するため、セミバッチ培養法における菌濃度や培養液中の生成物濃度の測定を行った。 菌濃度に関してはセルロースと共存した場合、セルロースの濁度が測定に干渉するために菌濃度が正確に測定できず、分光高度計の使用は不適と考えられた。そこで菌体濃度上昇に伴う菌体タンパク質濃度を直接測定する方法で比較を行った。 先に培養液上清と分離するために遠心分離した沈殿画分、すなわち菌体および残存セルロース画分を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で数度洗浄し、適当量の同緩衝液に懸濁した。さらに同量の溶菌液(0.5M 水酸化ナトリウム・0.5%ラウリル硫酸ナトリウム)を加え、よく懸濁後、沸騰水浴上で10分間加熱し菌体を破壊、菌体タンパク質を抽出した。この菌体破壊液の一部を用い、BCAタンパク質測定キット(サーモサイエンティフィック社)を用いて測定を行った。タンパク質濃度の算出はウシ血清アルブミンを用い、上記同様に溶菌液と煮沸したものをスタンダードとして使用した。 図6にバッチ培養法およびセミバッチ培養法における菌体濃度の変化を示した。 図6の(A)はクロストリジウム・サーモセラムATCC27405の菌体濃度の変化を示している。黒塗りの三角形(▲)はバッチ培養法による菌体濃度の変化、白抜きの三角形(△)はセミバッチ培養用による菌体濃度の変化を示す。 図6の(B)はクロストリジウム・サーモセラムJK−S14の変化を示している。黒塗りの丸印(●)はバッチ培養法による菌体濃度の変化、白抜きの丸印(○)はセミバッチ培養用による菌体濃度の変化を示す。 図6の(A)及び(B)の菌体タンパク量は、培養液1ml中の菌体タンパク量を示している。図中の矢印はセミバッチ培養法におけるセルロース消費を確認後、再度セルロース添加を行った培養日を示している。 クロストリジウム・サーモセラムATCC27405およびJK−S14におけるバッチ培養法およびセミバッチ培養法とも4日目まで細胞濃度に大きな変化はなく、初発セルロース濃度の違い(バッチ培養法では2%、セミバッチ培養法では0.5%)による増殖初期の菌濃度に大きな差異は認められなかった。しかし、セミバッチ培養法において2回目のセルロース添加、すなわち4日目以降から菌体濃度の上昇が認められた。またこの現象は両菌株において同様な増殖上昇傾向を示した。 これらの結果はセミバッチ培養法により、単にセルロソーム構成タンパク質を含む総タンパク質の生産性が向上しただけでなく、菌体濃度増加も一因であることが示唆された。 それぞれの培養法により培養液中の生成物及び生成量に違いがあるかを検討するために培養液中の遊離糖、有機酸、エタノール成分量を比較した。 使用した培養液はバッチ培養法およびセミバッチ培養法ともに培養9日目の培養液を使用した。培養液は14,000回転、4℃、5分間で遠心分離した後、上清を適当な濃度に蒸留水で希釈し測定に供した。 培養液に含まれる遊離糖の測定には、アミネックスHPX−87Pカラム(バイオラッド)による示差屈折検出器を備えた高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製、Prominence)を用いた。 培養液の有機酸の測定には、ポストカラムpH緩衝化電気伝導度検出法を用いた高速液体クロマトグラフィー有機酸分析システム(島津製作所製、Prominence)を用いた。 培養液中のエタノールの測定は、エタノール濃度はガスクロマトグラフィー(島津製作所製、モデルBC−2014)を用いた。 結果を表1に示す。遊離糖としてセロビオース、グルコース、有機酸として乳酸、酢酸、およびエタノール濃度をそれぞれ示す。 クロストリジウム・サーモセラムATCC27405およびJK−S14においてバッチ培養法を行った培養液中には、セミバッチ培養法に比較してセロビオースやグルコース、乳酸の顕著な蓄積が認められた。特にセルロソーム関連酵素や糖代謝酵素の発現に影響のありそうなセロビオースやグルコースの培養液中の濃度はセミバッチ培養法に比べ、セロビオースで約2倍から3倍高く、またグルコースでは約5から7倍高く蓄積されていることが示された。 生育に影響を与えると考えられる有機酸濃度は、酢酸においては同程度の蓄積であった。しかし、乳酸ではクロストリジウム・サーモセラムATCC27405では約3倍、クロストリジウム・サーモセラムJK−S14では10倍、バッチ培養法のほうが高濃度蓄積しており、増殖に影響しているものと考えられた。 一方、セミバッチ培養法ではバッチ培養法に比較し生成エタノール濃度が約2倍増加している。セミバッチ培養法では、バッチ培養法のようにセロビオース、グルコースや乳酸が蓄積せずに、これらの生成物は代謝しエタノールへ変換し、セルロース基質添加後も増殖や代謝活性が継続、持続していると推察された。 クロストリジウム属微生物が資化可能な炭素源を消化した後、炭素源を添加する操作を繰り返すセミバッチ培養法では、セロビオースやグルコース、乳酸の蓄積が回避されると考えられる。さらに実施例1〜5の結果から、セミバッチ培養法ではセルロース関連遺伝子の発現を刺激し持続するとともに、菌増殖が維持されてセルロソーム生産性を維持していることが考えられる。 一般に、微生物の培養において、有機酸、特に乳酸、の生成量が多くなると微生物の増殖が抑制されることが知られている。実施例1〜5の結果からバッチ培養では乳酸の生成量が大きくなり菌増殖が抑制されていることが分かる。バッチ培養において、培地中のセロオリゴ糖などのオリゴ糖類、グルコースなどの単糖類の可溶性糖濃度が高くなると代謝系がエタノール生成系から乳酸生成系へシフトする現象が観察されている。したがって、バッチ培養は、セルロース分解酵素生産方法としては適していないことが分かった。 投入する炭素源や栄養源の量を減少させることは培養コストやハンドリングにおいて有効であり、実用上有利となる。そこで、セミバッチ培養法において一回に添加するセルロース量を低くした場合でもセルロソーム生産量の増加効果は見られるかを検討した。初発セルロース濃度や添加セルロース濃度を0.2%とし、計4回のセルロース投入を行い、最終的に1%セルロースを消費した場合の培養液中の総タンパク量とセルロソーム生産性をバッチ培養法と比較した。 図7にクロストリジウム・サーモセラムJK−S14を用いたバッチ培養法およびセミバッチ培養法における培養液1ml中の総タンパク量の比較を示した。 黒塗りの丸印(●)はセルロース濃度1%のバッチ培養法における培養液1ml中の総タンパク量を示し、白抜きの丸印(○)は初発セルロース濃度0.2%及び一回当たりの添加セルロース濃度を0.2%にし、4回投入を繰り返した際のセミバッチ培養法における培養液1ml中の総タンパク量を示している。図中の矢印はセミバッチ培養法における0.2%セルロースを消費後、再度0.2%セルロース添加を行った培養時期を示している。 セルロース培養液1ml中の総タンパク量はブラッドフォード・タンパク質測定キットにより、ウシ血清アルブミンをスタンダードに用い測定を行った。 バッチ培養法においては培養液中に蓄積したタンパク質は最大0.28mg/mlのタンパク質生産量であった。一方、セミバッチ培養法において1回から2回のセルロース添加によりバッチ培養法とセミバッチ培養法との培養液中のタンパク量の変化はそれほど認められず、計0.6%セルロース濃度でバッチ培養法の1%セルロース濃度と同等なタンパク量を生産可能であった。さらにセミバッチ培養法においては3回目のセルロース投入以降も培養液中のタンパク濃度は上昇し、最終的には最大0.42mg/mlとバッチ培養法のそれに比較し、約2倍の生産量増加を示した。 図8に上記クロストリジウム・サーモセラムJK−S14を用いたセミバッチ培養法によって培養液中のセルロソーム生産性を確認したSDS−PAGEを示す。 Mはタンパク質分子量マーカーを、縦軸はタンパク質マーカーの分子量をキロダルトンで示している。レーン1〜3はバッチ培養法によるSDS−PAGE、レーン4〜6はセミバッチ培養法によるSDS−PAGEである。レーン1は、バッチ培養法2日目の培養液中のセルロソーム画分、レーン2はバッチ培養法4日目の培養液中のセルロソーム画分、レーン3はバッチ培養法7日目の培養液中のセルロソーム画分である。レーン4はセミバッチ培養法7日目にセルロース基質添加した際にサンプリングした培養液中のセルロソーム画分、レーン5はセミバッチ培養法9日目にセルロース基質添加した際にサンプリングした培養液中のセルロソーム画分、レーン6はセミバッチ培養法14日目にセルロース基質添加した際にサンプリングした培養液中のセルロソーム画分を示す。電気泳動写真の右に示した矢印はクロストリジウム・サーモセラムのセルロソーム構成タンパク質として知られている骨格タンパク質CipAと主要な酵素サブユニットCel48Sのタンパク質バンドを示している。 クロストリジウム・サーモセラムJK−S14のバッチ培養法の培養液中のセルロソームの濃度は、培養2日目から4日目へかけて増加が認められた。しかし、それ以降、培養日数を経過させても増加は認められずに図6に示した総タンパク量測定の傾向と一致した結果となった。一方、セミバッチ培養法において、培養7日目以降、3回目のセルロース投入時の培養液中、セルロソーム濃度の上昇が認められ、最後のセルロース投入以降までセルロソームの増加が認められた。従って一回に投入するセルロースを低下させても、セルロソーム生産増加の効果が得られることが明らかとなった。 実施例1〜6の結果から、クロストリジウム・サーモセラムの培養において、供給する炭素源量を分割して繰り返して供給する培養法はバッチ培養法より、セルロソームを約2倍から3倍以上の増加させることが可能であることが分かる。 また、クロストリジウム・サーモセラムの培養において、供給する炭素源量を分割して繰り返して供給する培養法はバッチ培養法より、菌体量を増加させることが可能であることが分かる。 NITE P−627 NITE P−628 セルロース資化能を有し、セルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物を培養してセルロース分解酵素を生産させる方法であって、上記クロストリジウム属微生物が資化可能な炭素源を消化した後、該炭素源を添加する操作を繰り返し、培地中にセルロース分解酵素を蓄積させる、セルロース分解酵素の生産方法。セルロース資化能を有し、セルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物を培養してセルロース分解酵素を生産させる方法であって、クロストリジウム属微生物が資化可能な炭素源を消化した後、該炭素源を添加する操作を繰り返す、セルロース分解酵素の生産方法。前記培地に含有される炭素源濃度が0.2〜5%以下の範囲である、請求項1又は2記載のセルロース分解酵素の生産方法。前記クロストリジウム属微生物の資化可能な炭素源がセルロース性物質である、請求項1〜3のいずれかに記載のセルロース分解酵素の生産方法。前記セルロース分解酵素がセルロソームを含有する酵素である、請求項4記載のセルロース分解酵素の生産方法。前記セルロース資化能を有し、セルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物がクロストリジウム・サーモセラムである、請求項5記載のセルロース分解酵素の生産方法。前記セルロース資化能を有し、セルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物がクロストリジウム・サーモセラムJK−S14である、請求項1記載のセルロース分解酵素の生産方法。クロストリジウム属微生物を培養して増殖させる方法であって、クロストリジウム属微生物が資化可能な炭素源を消化した後、該炭素源を添加する操作を繰り返す、クロストリジウム属微生物の培養増殖方法。炭素源供給後の培地に含有される炭素源の濃度が0.2〜5%以下の範囲である、請求項8記載のクロストリジウム属微生物の培養増殖方法。前記炭素源がセルロース性物質である、請求項8〜9のいずれかに記載のクロストリジウム属微生物の培養増殖方法。前記クロストリジウム属微生物がクロストリジウム・サーモセラムである、請求項10記載のクロストリジウム属微生物の培養増殖方法。前記クロストリジウム・サーモセラム微生物がクロストリジウム・サーモセラムJK−S14である、請求項11記載のクロストリジウム属微生物の培養増殖方法。 【課題】セルロース資化能を有するクロストリジウム属微生物を培養して菌体密度を高め、大量にセルロース分解酵素を生産させる方法を提供する。【解決手段】セルロース資化能を有するクロストリジウム属微生物、特にClostridium thermocellumを培養してセルロース分解酵素を生産させる方法であって、クロストリジウム属微生物が資化可能な炭素源を消費させたのち、同炭素源を添加、消費を一定期間ごとに繰り返し、培地中にセルロース分解酵素を蓄積させる。【選択図】なし


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特許公報(B2)_クロストリジウム属微生物を利用したセルロース分解酵素の生産方法及びクロストリジウム属微生物の培養増殖方法。

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_クロストリジウム属微生物を利用したセルロース分解酵素の生産方法及びクロストリジウム属微生物の培養増殖方法。
出願番号:2009277079
年次:2013
IPC分類:C12N 9/42,C12N 1/20,C12R 1/145


特許情報キャッシュ

小杉 昭彦 森 ▲隆▼ JP 5352882 特許公報(B2) 20130906 2009277079 20091204 クロストリジウム属微生物を利用したセルロース分解酵素の生産方法及びクロストリジウム属微生物の培養増殖方法。 独立行政法人国際農林水産業研究センター 501174550 平山 一幸 100082876 篠田 哲也 100109807 小杉 昭彦 森 ▲隆▼ 20131127 C12N 9/42 20060101AFI20131107BHJP C12N 1/20 20060101ALI20131107BHJP C12R 1/145 20060101ALN20131107BHJP JPC12N9/42C12N1/20 AC12N1/20 AC12R1:145 C12N 9/00 C12N 1/00 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/WPIX(STN) 特表2009−535067(JP,A) Proc Natl Acad Sci USA,2006年,Vol.103,p.16165-16169 Journal of Bacteriology,2005年,Vol.187,p.99-106 Applied and Environmental Microbiology,1989年,Vol.55,p.3131-3139 Biomass and Bioenergy,1992年,Vol.3,p.393-402 Bioresource Technology,2008年,Vol.99,p.5270-5295 9 NPMD NITE P-627 NPMD NITE P-628 2011115110 20110616 20 20121116 飯室 里美 本発明は、クロストリジウム属微生物を利用したセルロース分解酵素の生産方法及びクロストリジウム属微生物の培養増殖方法に関する。 バガス、稲わら、籾殻、キノコ廃床、堆肥、木材チップ等のセルロース系バイオマスが食糧生産を圧迫しないエネルギーや化学工業の原料資源として注目されている。特に、セルロース系バイオマスの燃料エタノールや発酵原料である糖への変換において、効率の良い糖化技術が切望されている。 しかし、セルロース系バイオマスはでん粉に比べて糖化技術の難易度が高い。これは、セルロース系バイオマスの構成主体であるセルロースが堅固な結晶構造を持つ難分解性の高分子多糖であることによる。 セルロース系バイオマスの糖化方法には、物理的糖化、化学的糖化及び酵素糖化の3つの方法がある。 物理的糖化処理はボールミルや振動ミル又は蒸煮爆砕や加圧熱水処理など物理的に糖化を施す処理があるが、物理的な処理は多大なエネルギーを必要とするため、化学的糖化や酵素糖化の前処理として併用されることが多い。 化学的糖化処理は、アルカリ、酸を利用するものがあるが、古くより酸糖化がよく用いられている。酸糖化には濃硫酸糖化法と希硫酸二段糖化法とがあるが、硫酸を用いるため、廃棄物処理や環境負荷の低減を必要とし、低コスト化及びエネルギー変換効率に限界があるといわれている。 酵素糖化は、酸糖化に比べ、廃液回収や処理の負担が軽く、耐薬設備等の設備コストを低減できること、過分解が起こらずに糖の収率が高い等の利点があるため、澱粉質を多く含むバイオマスの酵素糖化で実用化されている。ところが、セルロース系バイオマスは、前述したように、セルロースが結晶構造を有していること及び結晶性セルロースをヘミセルロースやリグニンが取り囲んだ複雑な構造を有しているため、でん粉系に比べ、酵素糖化がきわめて困難である。したがって、酵素による糖化処理前に、物理的あるいは化学的前処理による結晶構造の破壊等の前処理や大量のヘミセルラーゼやセルラーゼを併用しているのが現状である。 ヘミセルラーゼやセルラーゼに関しては好気性糸状菌トリコデルマ・リーセイ(Trichoderma reesei)由来の糖化酵素が工業的に使用されているため、セルロース系バイオマスの糖化においても、トリコデルマ属菌の研究が活発に行われてきた(特許文献1参照)。 近年、ある種の嫌気性微生物がセルロースを効率よく分解できる酵素複合体セルロソーム(Cellulosome)を生産することが明らかとなった。 セルロソームは、骨格となるタンパク質をベースに多数の高分子多糖分解酵素が結合した構造を有し、これらの複数の酵素が共同してセルロースに作用することで、非常に高い高分子多糖の分解活性を示すことが解明されている(非特許文献1)。 セルロソームを産生する嫌気性微生物として、クロストリジウム属(Clostridium)微生物が報告されている(非特許文献1〜6)。特開2007−319040号公報Microbiol Mol Biol Rev. 2005 Mar;69(1):124−54Current Microbiology 1983 9:195−200Appl Environ Microbiol. 1980 Sept;40 vol. 3:571−577Appl Environ Microbiol. 1990 Jan;54 vol. 1:37−42Appl Environ Microbiol. 1988 Jan;54 vol. 1:204−211Proc Natl Acad Sci U S A. 2006 Oct 31;103(44):16165−16169 セルロソームを生産するクロストリジウム属微生物として、具体的にはクロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)やクロストリジウム・セルロボランス(Clostridium cellulovorans)に属する菌が知られている。しかし、これらの微生物は嫌気性であるためエネルギーの獲得効率が悪く、かつセルロソームを含むセルロース分解酵素の産生能力が低いため、効率的に大量のセルロソームを含むセルロース分解酵素を生産する技術の確立が求められている。 本発明は、セルロース資化能を有し、セルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物を培養して、菌体密度を高め、大量にセルロース分解酵素を生産させる方法を提供することを目的とする。 本発明者らがセルロース資化能を有するクロストリジウム属微生物を用いたセルロース分解酵素の生産方法を検討したところ、培地中の炭素源濃度を高めた場合、セルロース分解酵素の生産量は増加せず、むしろ抑制されることを発見した。本発明者らはさらに研究を進めたところ、培地に小刻みに炭素源を添加することにより菌体密度及びセルロース分解酵素の生産量が向上し、培地中に蓄積されることを発見し、本発明を完成するに至った。 本発明のセルロース分解酵素の生産方法は、セルロース資化能を有し、セルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物を培養してセルロース分解酵素を生産させる方法であって、クロストリジウム属微生物がセルロース性物質を消化した後、セミバッチ培養により、セルロース性物質を添加する操作を繰り返し、培地中にセルロース分解酵素を蓄積させることを特徴とする。 本発明のセルロース資化能を有するクロストリジウム属微生物の培養増殖方法は、培養中にクロストリジウム属微生物がセルロース性物質を消化した後、セミバッチ培養法により、セルロース性物質を添加する操作を繰り返すことを特徴とする。 本発明のセルロース分解酵素の生産方法では、セルロース資化能を有しセルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物の培養中にクロストリジウム属微生物が資化可能な炭素源を消化した後、炭素源を添加する操作を繰り返すことを特徴とする。この操作により、培地中の菌体密度を高めることができるだけでなく、セルロースに吸着しているセルロソーム及び/又はセルロース分解酵素を培養液中に放出させることができる。この結果、セルロソーム及び/又はセルロース分解酵素を大量に生産することが可能になる。 また、本発明のセルロース分解酵素生産方法は、菌増殖や菌体内代謝を維持できるので、培養液中の残存しているセロオリゴ糖などのオリゴ糖類、グルコースなどの単糖類を消費させ続けることができる。したがって、セルロソーム及び/又はセルロース分解酵素の生産性を維持できるだけでなく、代謝活動の副産物として生産される有機酸やエタノールなどの低分子の生産性を向上させることが可能である。その場合、低分子化合物は培養液から回収することが可能である。本発明の実施例1において、クロストリジウム・サーモセラム培養液1ml中の総タンパク量の変化を示す図である。実施例1において、クロストリジウム・サーモセラムを一定期間培養した培養液1ml中の総タンパク量を示す図である。本発明の実施例2において、クロストリジウム・サーモセラム培養液の酵素活性の経日的変化を示す図で、(A)はアビセラーゼ活性、(B)はエンドグルカナーゼ活性、(C)はキシラナーゼ活性を表す。実施例2において、クロストリジウム・サーモセラムを一定期間培養した培養液の酵素活性を示した図で、(A)はアビセラーゼ活性、(B)はエンドグルカナーゼ活性、(C)はキシラナーゼ活性を表す。本発明の実施例3において、クロストリジウム・サーモセラムのセルロソームのSDS−PAGEの像を示す図である。本発明の実施例4において、クロストリジウム・サーモセラム培養法における菌体増殖の経日変化を示した図で、(A)はクロストリジウム・サーモセラムATCC27405の変化、(B)はクロストリジウム・サーモセラムJK−S14の変化を示す。本発明の実施例6において、クロストリジウム・サーモセラム培養液中の総タンパク量の変化を示した図である。実施例6のクロストリジウム・サーモセラムのセルロソームのSDS−PAGEの像を示す図である。JK−S14株とATCC27405株のDNA配列のアライメントを示す図である。JK−N44株とATCC27405株のDNA配列のアライメントを示す図である。JK−S14株の遺伝子配列を示す図である。JK−N44株の遺伝子配列を示す図である。 以下、本発明を幾つかの実施の形態並びに実施例に基づいて詳細に説明する。[実施形態1] 本発明の実施形態1は、セルロース資化能を有し、セルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物を培養してセルロース分解酵素を生産させる方法であって、クロストリジウム属微生物が資化可能な炭素源を消化した後、炭素源を添加する操作を繰り返し、培地中にセルロース分解酵素を蓄積させるセルロース分解酵素の生産方法である。 セルロース資化能を有し、セルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物とは、好ましくはセルロース資化能を有し、セルロース分解酵素であるセルロソームを分泌するクロストリジウム属微生物である。セルロース資化能を有し、セルロソームを分泌するクロストリジウム属微生物とは具体的には、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)又はクロストリジウム・セルロボランス(Clostridium cellulovorans)に属する微生物であり、好ましくはクロストリジウム・サーモセラムである。クロストリジウム・サーモセラムの菌株としてATCC27405株、ATCC31549株、クロストリジウム・サーモセラムJK−S14(NITE P−627)株又はクロストリジウム・サーモセラムJK−N44(NITE P−628)株を具体的に挙げることができる。クロストリジウム・サーモセラムJK−S14(NITE P−627)株及びクロストリジウム・サーモセラムJK−N44(NITE P−628)株は本発明者らによって分離された菌株であり、独立行政法人製品評価技術基盤機構 微生物寄託センターから入手が可能である。 特に、クロストリジウム・サーモセラムJK−S14(NITE P−627)株は、これまでに知られているクロストリジウム・サーモセラムに属する微生物よりも培地へのセルロソーム等のセルロース分解酵素の分泌と蓄積量が多く、好ましい例である。 なお、セルロース資化能を有し、セルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物を以下、本明細書中で「クロストリジウム属菌」という。 クロストリジウム・サーモセラムJK−S14(NITE P−627)株の特徴を以下に示す。 桿菌(約1.6〜3.0μm)、胞子形成能あり 好熱性菌 生育温度:50℃〜65℃、至適生育温度60℃ 生育pH:6.0〜9.0、至適pH7.0 偏性嫌気性菌 ガスN2及びCO2に生育(CO2の場合、培地に炭酸ナトリウムを0.4%程度加える) 培地上の特徴:酸素が入っている培地では生育不可。生育pH7.0で良好。セルロース、セロビオースに生育する。セルロースを含む培地ではセルロースがクリーム色になり分解する。 糖の資化性:セルロース、マンナン、キトサン、セロビオース、フラクトース及びソルビトール資化能を有する。 コロニー形態:セルロースを含む寒天培地ではハローを形成、コロニーは白く小さい。培養日数が経過するとコロニーの周囲に白い粘性を帯びた輪を形成することもある。胞子を形成。−80℃にて保存可能である。 16srRNA(16リボソームRNAコード配列):クロストリジウム・サーモセラムATCC27405株との間で99%の相同性を示す。 クロストリジウム・サーモセラムJK−N44菌株の菌学的性質を以下に記述する。 桿菌(約1.6〜3.0μm)、胞子形成能あり 好熱性菌 生育温度:55℃〜65℃、至適生育温度60℃ 生育pH:6.0〜9.0、至適pH7.0 偏性嫌気性菌 ガスN2及びCO2に生育(CO2の場合、培地に炭酸ナトリウムを0.4%程度加える) 培地上の特徴:酸素が入っている培地では生育不可。生育pH7.0で良好。セルロース、セロビオースに生育する。セルロース含有培地ではセルロースがクリーム色になり分解する。 糖の資化性:セルロース、マンナン、キトサン、セロビオース、フラクトース及びソルビトール資化能を有する。 コロニー形態:セルロース含有寒天培地ではハローを形成、コロニーは白く小さい。培養日数が経過するとコロニーの周囲に白い粘性を帯びた輪を形成することもある。胞子を形成。−80℃にて保存可能である。 16srRNA(16リボソームRNAコード配列):クロストリジウム・サーモセラムATCC27405株との間で99%の相同性を示す。 JK−S14株のDNA塩基配列を図11に、JK−N44株のDNA塩基配列を図12に示す。また、図9にJK−S14株とATCC27405株のDNA配列のアライメントを、図10にJK−N44株とATCC27405株のDNA配列のアライメントを示す。 クロストリジウム属微生物が資化可能な炭素源(以下、本明細書中において単に「炭素源」という。)はセルロース性物質を含み、さらに、マンナン、キトサン、セロビオース、フラクトース又はソルビトールが混合されていてもよい。 セルロース性物質は、市販されているセルロース性物質を利用することができる。具体的には、シグマセルやアビセルはもとより、ワットマンろ紙、クロマトグラフィー用セルロース粉末、綿、バクテリアセルロース等を利用することができる。また、前述のセルロース性物質を酸で膨潤したセルロースやボールミルや粉砕機により結晶性を低下させたもの、再生紙、古紙や新聞紙、オフィス廃棄裁断紙やトイレットペーパーも利用することができる。さらには、物理的、化学的な前処理を行った稲わら、麦わら、バガス、木材パルプ、芋パルプ、古紙、紙屑、綿屑等、セルロースを含んでいるものならいずれも炭素源として利用することができる。 培地中に含まれる炭素源の量は、セルロソームの生産量やクロストリジウム菌の増殖に影響を及ぼす。培養初期濃度及び炭素源供給後の炭素源濃度は0.01〜5%以下、好ましくは0.2〜2%未満の範囲にコントロールすることが望ましい。なお、炭素源濃度とは培地容量に対する炭素源の重量割合である。培養初期濃度及び炭素源供給後の濃度が0.01%以下であると、消費速度が速すぎ、セルロソームの生産性を誘導する時間が十分でないため、生産収率が低下し好ましくない。培養初期濃度及び炭素源供給後の濃度が5%を超えると、クロストリジウム属菌の増殖が緩慢となり、培地中の菌体密度の向上効率が低くなるので好ましくない。これは、クロストリジウム属菌による炭素源の資化速度より、セルロソームによる炭素源の分解反応の速度が速いため反応生成物が過剰蓄積するためと考えられる。 培地中の炭素源濃度を0.01〜5%以下、好ましくは0.2〜2%未満で培養することにより、培養液中に残存しているセロビオースなどのオリゴ糖類、グルコースなどの単糖類を消費させることになり、その結果、反応生成物の過剰蓄積が抑制されると考えられる。また、クロストリジウム属菌のセルロソーム及び/又はセルロース分解酵素の生産性を維持できるだけでなく、セルロースに吸着しているセルロソーム及び/又はセルロース分解酵素を培養液中に放出させることができる。 培地に供給する炭素源の量は、炭素源を供給する時期及び前述した炭素供給後の培地中の炭素濃度を考慮して定められるものである。培地に炭素源を供給する時期は、クロストリジウム属菌が炭素源をほぼ消費したタイミング、言い換えれば培地中の炭素源濃度がほぼゼロになった時点が好ましく、この時期に、1回当たりの培地に対する重量/容量割合で0.1〜5%未満、好ましくは、0.1%〜1.5%、さらに好ましくは0.2〜1%の炭素源を供給する。具体的なセルロースを供給するタイミングは、例えば、不溶性であるセルロースが見えなくなった時点でよく、培養液の観察により判断することができる。なお、正確にタイミングを計るのであれば、よく攪拌した培養液中から、一部採取しフィルター濾過を行い、セルロースや不溶性基質の残存量を測定することが可能である。また遠心分離により沈殿量を確認することでセルロース及び不溶性基質の消費量を確認することが可能である。さらにそのようなことが確認できない場合、クロストリジウム属菌の増殖状態、すなわちガスの発生が止まった時点で、セルロース消費を確認することができるので、その時点で新しい基質を添加する判断を行ってもよい。一回当たりの炭素源供給量を0.1〜2%未満とした場合の炭素源の供給間隔は0.5〜10日であり、0.2〜1%の炭素源を供給する場合には2〜8日である。 クロストリジウム属菌が炭素源をほぼ消費したタイミングで、炭素源を供給することにより、炭素源濃度の減少と共に低下し始めたセルロース分解酵素の生産性が回復する。これは、炭素源の供給がクロストリジウム属菌のタンパク質発現の刺激となっていると考えることもできる。 炭素源の供給回数は限定されるものではないが、例えば、1回〜5回である。また、供給回数と一回当たりの炭素源供給量を乗じた炭素供給総量が0.2〜5%程度となるように設定するのが好ましい。 炭素源は、単独で培地に供給してもよいが、後述する培地組成あるいは培地成分の一部とともに供給してもよい。 炭素源以外の培地組成は、たとえば、BM7CL培地組成とすれば良く、さらにクロストリジウム属菌の増殖促進のために上記培地成分以外に、ビタミンの混合液や微量金属混合液などを適当量添加してもよい。例えば、イノシトール、パントテン酸、ナイアシン、ビタミンB6、ビタミンB1、アミノ安息香酸、リボフラビン、ビオチン、葉酸等の混合液を適量添加してもよい。また鉄、ナトリウム、ヒ素、モリブデン、カリウム、マンガン、亜鉛、ヨウ素、ニッケル、銅、コバルト等の元素混合液を添加することもできる。さらに酵母エキス、ペプトンなどのアミノ酸やタンパク質加水分解物を豊富に含む窒素又は栄養源を上記培地の濃度以上に添加しても良いが、これら以外にも、例えば、硫酸アンモニウム、コーンスチープリカー、肉エキス、又はグルタミン酸やグリシンなどのアミノ酸であっても構わない。 また、増殖によるpH低下を抑えるために、リン酸塩やクエン酸塩といった無機塩類、さらにはHEPES(2−[4−(2−ハイドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタネスルフォニック酸:2-[4-(2-Hydroxyethyl)-1-piperazinyl] ethanesulfonic acid)、MOPS(3−モーフォリノプロパネスルフォン酸:3-Morpholinopropanesulfonic acid)等の緩衝剤を添加してもよい。 培養条件は、嫌気条件下、クロストリジウム属菌の至適温度、至適pHに応じて設定すればよい。嫌気性条件下は、例えば、培地の気相を炭酸ガスや窒素ガスで置換すればよい。なお、ATCC27405菌株、SK−S14菌株又はJK−N44菌株は、至適pHが中性付近であるので、炭酸ガスを用いる場合、上記培地にさらに薄い濃度の炭酸ナトリウム(例えば、0.4%程度)を加え、pHを中性付近に保つことが望ましい。 本実施形態において、培地への炭素源の供給は、セミバッチ培養法によって行う。炭素源の供給時には培地を抜き取る等の培地交換の必要はなく単に炭素源を加えるだけでも構わない。セミバッチ培養法とすることで、培地中に産生されたセルロソームが蓄積され、単位量当たりの酵素活性を高くすることが可能となる。 以上述べたように、クロストリジウム属菌が炭素源をほぼ消費した後、少量の炭素源を数回に分けて供給する操作を繰り返すセミバッチ培養法により、培地中の炭素源濃度をコントロールできる。そして、この操作により、クロストリジウム属菌は増殖が阻害されることなく培地中の菌体密度が向上し代謝活性も維持する。この結果、大量にセルロソームを産生することができる。しかも、セルロソームが培地中に蓄積されるので、得られたセルロソームは培養液の単位量当たりの酵素活性が高いものとなる。特に、クロストリジウム・サーモセラムJK−S14(NITE P−627)株は、セミバッチ培養により、培地へのセルロソーム等のセルロース分解酵素の分泌量と蓄積量が多くなる。 培地からセルロソーム及び/又はセルロース分解酵素を回収するには、限外濾過膜等で直接培養液を濃縮してもよく、また硫酸アンモニウム等を加えることによる塩析効果を用いてタンパク質を沈殿させ回収してもよい。 また、菌増殖や菌体内代謝を維持できるので、培養液中の残存しているセロオリゴ糖などのオリゴ糖類、グルコースなどの単糖類を消費させ続けることで、代謝活動の副産物として生産される有機酸やエタノールなどの低分子の生産性を向上させることが可能である。その場合、低分子化合物は培養液から回収することが可能である。[実施形態2] 本発明の実施形態2は、セルロース資化能を有し、セルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物を培養してセルロース分解酵素を生産させる方法であって、上記クロストリジウム属微生物が資化可能な炭素源を消化した後、炭素源を添加する操作を繰り返すセルロース分解酵素の生産方法である。 実施形態1のセミバッチ培養法に代えて、炭素源の供給時に培地交換を行う連続培養法を採用する点で異なる。 連続培養法はフレッシュな培養液を培養系に供給し、同時に同量の培養液を抜き取る培養方法であり、培養液中に分泌された有効成分を回収したり、有害成分を除去するのに適した方法である。しかし、セルロソームは炭素源に結合するため、新たな培養液を供給するとセルロソーム−炭素源結合体が形成されてしまう。このセルロソーム−炭素源結合体からセルロソームを単離回収する操作を避けるため、新たな培養液を培養系に供給する前にある程度の量のセルロソームを含有する培養液を抜き取り、抜き取った量と同量の培養液を供給する等の処理を行えばよい。 抜き取った培養液からセルロソーム及び/又はセルロース分解酵素を回収するには、限外濾過膜等で直接培養液を濃縮してもよく、また硫酸アンモニウム等を加えることによる塩析効果を用いてタンパク質を沈殿させ回収してもよい。なお、再度、吸着可能なセルロース性担体を用いて吸着させ、そのまま適当な温度により分解させてしまうか、または純水などで吸着担体から分離溶出を行い回収することも可能である。[実施形態3] 本発明の実施形態3は、クロストリジウム属微生物を培養して増殖させる方法であって、クロストリジウム属微生物が資化可能な炭素源を消化した後、炭素源を添加する操作を繰り返すクロストリジウム属微生物の培養増殖方法である。 培養は、実施形態1及び2と同じ条件、方法で行えばよく、培養液から常法によりクロストリジウム属菌を分離すればよい。 さらに、実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。 培養中のセルロース濃度が培養液中の総タンパク質濃度に変化があるかどうかを確認するため、バッチ培養法およびセミバッチ培養法を用い、それぞれのタンパク質濃度の測定を行った。 好熱嫌気性細菌クロストリジウム・サーモセラムATCC27405 (アメリカンタイプカルチャーコレクション)は基準株として、また試験株としてクロストリジウム・サーモセラムJK−S14(NITE P−627)を用いた。これらのクロストリジウム・サーモセラムの培養は、バッチ培養法の場合、微結晶性セルロース(シグマセルタイプ20・シグマ・アルドリッチ社製)を2重量%、セミバッチ培養法の場合、0.5重量%をそれぞれ含むBM7CO培地を高純度炭酸ガスにて気相を置換した後、60℃にて培養を行った。 培地はBM7CO培地組成とした。具体的には、リン酸二水素カリウム1.5g/L, リン酸水素二カリウム2.9g/L, 尿素2.1g/L, 酵母エキス 4.5g/L, 炭酸ナトリウム4g/L,システイン塩酸塩0.05g/L、0.2 mlミネラル溶液(MgCl2. 6H2O:5g,CaCl2. 2H2O:0.75g,FeSO4. 6H2O: 0.0063gを水4mlに溶解)として調製した。最終的な培地のpHは7.0前後に調製した。 セミバッチ培養法では初発セルロース濃度を0.5%とし、培養液中のセルロースの懸濁度がなくなり、ほぼセルロースが消費されたと判断された時点(およそ、2日間)を目安に再度10%セルロースを含む上記BM7CO培地を最終濃度0.5%となるように添加した。この添加操作を計3回繰り返し、消費濃度の合計値を2重量%とした。またセミバッチ培養法では培養液量を一定に保つため、10%セルロースを含む上記BM7CO培地を添加する前に一定量培養液のサンプリングを行ったのち添加を行った。サンプリングの培養液はのちの分析に用いた。一方、バッチ培養法においても同じ培養日数においてサンプリングを行い、あとの分析に用いた。 サンプリングした培養液は15,000回転、4℃で5分間、遠心分離を行い、沈殿と培養液の分離を行った。培養液上清や残存沈殿は−20℃にて保存した。この培養液上清は総タンパク量を測定するために、必要に応じて蒸留水で希釈後、ブラッドフォード・タンパク測定キット(サーモサイエンティフィック社)により測定を行った。タンパク質の検量線はウシ血清アルブミンを使用し作成した。その結果を図1及び図2に示した。 図1にはクロストリジウム・サーモセラムATCC27405およびクロストリジウム・サーモセラムJK−S14を用いたバッチ培養法およびセミバッチ培養法における培養液1ml中の総タンパク量の比較を示した。黒塗りの三角形(▲)はバッチ培養法におけるクロストリジウム・サーモセラムATCC27405、黒塗りの丸印(●)はバッチ培養法におけるJK−S14をそれぞれ示し、白抜きの三角形(△)はセミバッチ培養法におけるクロストリジウム・サーモセラムATCC27405、白抜きの丸印(○)はセミバッチ培養法におけるクロストリジウム・サーモセラムJK−S14の培養液1ml中の総タンパク量をそれぞれ示している。図中の矢印はセミバッチ培養法において0.5%セルロース消費後、濃度が0.5%となるようにセルロースの投入を行った培養日を示している。 バッチ培養法およびセミバッチ培養法においてクロストリジウム・サーモセラムATCC27405およびJK−S14ともに、セルロース1%を消費する4日目まで、培養液中の総タンパク量にそれほど大きな変化はなかった。しかし、4日目以降、セミバッチ培養法において総タンパク量の上昇が認められた。すなわち、バッチ培養では、分泌されたタンパク質が培地中に蓄積されにくいのに対し、セミバッチ培養法を行うことにより培地に蓄積されることがわかる。特にクロストリジウム・サーモセラムJK−S14では、クロストリジウム・サーモセラムATCC27405に比較し、培地中の総タンパク量の大幅な増加が認められた。クロストリジウム・サーモセラムJK−S14はセミバッチ培養によってタンパク質の分泌量と培地への蓄積量が多くなっており、クロストリジウム・サーモセラムATCC27405の2倍以上の量が蓄積されていることがわかる。 一方、バッチ培養法の場合、どちらの菌株も培養4日目以降、培地中のタンパク生産量の増加は認められなかった。これらの傾向は両菌株に認められたことから菌株に依存した現象でないことを示していた。ところが、2%セルロースを消費した時点でのバッチ培養法およびセミバッチ培養法における両菌株の培養液1ml中の最終の総タンパク量は異なっていた。バッチ培養法の場合、クロストリジウム・サーモセラムATCC27405は0.27mg/ml、JK−S14は0.39mg/mlであったが、セミバッチ培養法の場合、それぞれ0.58mg/mlおよび1.07mg/mlであった。すなわち、セミバッチ培養法は、バッチ培養法に比べ、約2倍から3倍、タンパク質生産性を上昇させることができた。 図2はクロストリジウム・サーモセラムATCC27405およびJK−S14のバッチ培養法およびセミバッチ培養法における最終的な総タンパク量の比較を示している。それぞれの培養において9日目にサンプリングを行った培養液1ml中の総タンパク量を示している。黒塗りのバーがセミバッチ培養法、白抜きのバーがバッチ培養法である。 クロストリジウム・サーモセラムATCC27405、JK−S14を用いたバッチ培養法に比較し、セルロースを消費させた後に、再度セルロースを分割投入したセミバッチ培養法により、培養液中の総タンパク量の増加が認められた。 バッチ培養法及びセミバッチ培養法における培養液の微結晶セルロース分解活性(アビセラーゼ活性)、エンドグルカナーゼ活性、およびキシラナーゼ活性の測定を行った。 アビセラーゼ活性は、60℃で1時間、1%微結晶性セルロース粉末(シグマセルタイプ20 シグマ・アルドリッチ社)および5mM塩化カルシウムを含む50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)において酵素溶液を反応させ、遊離してきた還元糖量をソモジ・ネルソン法(澱粉・関連糖質酵素実験法 1998 生物化学実験法19:41−42学会出版センター)により測定を行なった。1分間に1μモルのグルコースを遊離する酵素の量を1ユニットと定義とした。 エンドグルカナーゼ活性は、基質としてセルロース粉末の代わりに1%カルボキシメチルセルロース(シグマ・アルドリッチ社)を用い、アビセラーゼ活性と同様に遊離してくる還元糖量をソモジ・ネルソン法により測定を行なった。またエンドグルカナーゼ活性のユニットは1分間に1μモルのグルコースを遊離する酵素の量を1ユニットと定義とした。 ヘミセルラーゼ活性としてキシラナーゼ活性を測定した。基質としてセルロース粉末の代わりに1%キシラン(オートスペルトキシラン;シグマ・アルドリッチ社)、遊離してくる還元糖量をソモジ・ネルソン法により測定を行なった。キシラナーゼユニットは、上記同様に1分間に1μモルのグルコースを遊離する酵素の量を1ユニットと定義とした。 図3の(A)〜(C)にセミバッチ培養法におけるクロストリジウム・サーモセラムATCC27405およびJK−S14の経日的な上記各酵素活性を示した。縦軸が酵素活性、横軸は培養日数を示す。 図3の(A)は、アビセラーゼ活性、図3の(B)はエンドグルカナーゼ活性、図3の(C)はキシラナーゼ活性を示す。白抜き三角形(△)はクロストリジウム・サーモセラムATCC27405、白抜き丸印(○)はJK−S14の培養液1ml中の酵素活性を示す。図中の矢印はセミバッチ培養法におけるセルロース消費を確認後、セルロース添加を行った培養日を示している。 クロストリジウム・サーモセラムATCC27405及びJK−S14はセミバッチ培養法によるセルロース消費後のセルロース添加により、アビセラーゼ、エンドグルカナーゼ及びキシラナーゼ活性の劇的な上昇が認められた。 図4の(A)〜(C)にバッチ培養法又はセミバッチ培養法によるクロストリジウム・サーモセラムATCC27405及びJK−S14の培養液1ml中の培養9日目の酵素活性をそれぞれ示した。図4の(A)は、アビセラーゼ活性、図4の(B)はエンドグルカナーゼ活性、図4の(C)はキシラナーゼ活性を示す。黒塗りのバーがセミバッチ培養法、白抜きのバーがバッチ培養法である。 培養9日目の酵素活性でもバッチ培養法の各酵素活性に比較し、セミバッチ培養法の酵素活性が高いことが明らかとなった。従って、セミバッチ培養法での培養液中のタンパク量増加とともにセルロソームやその他分解酵素生産性も上昇しているものと考えられた。すなわち、セミバッチ培養法により、分泌されたセルロース分解酵素を培地中に蓄積することが可能であることがわかる。 サンプリングした培養液中のセルロソームの確認を行った。培養液中にリン酸膨潤セルロースを加え、一晩4℃でインキュベートした後、14,000回転、4℃で5分間遠心分離を行い、セルロソームが吸着したリン酸膨潤セルロース(セルロソーム・リン酸膨潤セルロース画分)を回収した。このセルロソーム・リン酸膨潤セルロース画分を50mMトリス-塩酸緩衝液(pH8.0)で洗浄した。さらにセルロソーム・リン酸膨潤セルロース画分に変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)サンプル緩衝液を加え、懸濁後、沸騰水浴場で5分間加熱した。この操作により、上清中にセルロソーム画分が溶出される。 加熱した溶液を14,000回転、4℃で5分間、遠心分離し、不溶性セルロースとセルロソーム画分とに分離し、上清のセルロソーム画分を定法通り、変性ポリアクリルアミド電気泳動(SDS−PAGE)に供した。SDS−PAGEは4%〜20%グラジエント市販ポリアクリルアミドゲル(アトー社)を用いた。 図5にクロストリジウム・サーモセラムJK−S14のバッチ培養法およびセミバッチ培養法における培養液1ml中から調製したセルロソーム画分の電気泳動像を示す。 図中、Mはタンパク質マーカーを示し、左数字はタンパク質マーカーの分子量をキロダルトンで示している。レーン1はバッチ培養法2日目の培養液1mlから調製したセルロソーム画分、レーン2はバッチ培養法4日目の培養液1mlから調製したセルロソーム画分、レーン3はバッチ培養法6日目の培養液1mlから調製したセルロソーム画分、レーン4はバッチ培養法9日目の培養液1mlから調製したセルロソーム画分である。またレーン5はセミバッチ培養法2日目の培養液1mlから調製したセルロソーム画分、レーン6はセミバッチ培養法4日目の培養液1mlから調製したセルロソーム画分、レーン7はセミバッチ培養法6日目の培養液1mlから調製したセルロソーム画分、レーン8はセミバッチ培養法9日目の培養液1mlから調製したセルロソーム画分である。 SDS−PAGE像の矢印はクロストリジウム・サーモセラムのセルロソーム構成タンパク質として知られている骨格タンパク質CipAと主要な酵素サブユニットCel48Sのタンパク質バンドの予想位置を示している。 クロストリジウム・サーモセラムのセルロソーム構成タンパク質は、骨格タンパク質CipAと複数の酵素サブユニットで構成されている。 酵素サブユニットCel48Sは、主要な酵素サブユニットであり、比較的多く発現していることが知られている。従ってクロストリジウム・サーモセラムJK−S14においてもこれらのタンパク質は分子量や発現量の比較により明瞭に確認することができる。 バッチ培養法のセルロソーム画分サンプルでは、4日目以降、CipAやCel48Sと同定されるタンパク質の顕著な増加は認められない。一方、セミバッチ培養法のセルロソーム画分では、セルロース基質添加により2日目から4日目にかけて、それぞれのタンパク質バンドが緩やかに増加してゆくことが認められた。特に、セミバッチ培養法4日目以降、上記セルロソーム構成タンパク質の発現量が急激に増加していることが認められた。これらの結果は、先の培養液中の総タンパク量の増加や酵素活性上昇に一致している現象であり、増加した総タンパク質の多くはセルロソームに由来するタンパク質であることが示唆された。 セルロースを消費後、セルロースを分割して添加する操作を繰り返すセミバッチ培養方法は、特に培養液中のセルロソーム生産性を上昇させる培養方法として効果的であることが明らかとなった。 菌濃度や培養液中の生成物の挙動を確認するため、セミバッチ培養法における菌濃度や培養液中の生成物濃度の測定を行った。 菌濃度に関してはセルロースと共存した場合、セルロースの濁度が測定に干渉するために菌濃度が正確に測定できず、分光高度計の使用は不適と考えられた。そこで菌体濃度上昇に伴う菌体タンパク質濃度を直接測定する方法で比較を行った。 先に培養液上清と分離するために遠心分離した沈殿画分、すなわち菌体および残存セルロース画分を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で数度洗浄し、適当量の同緩衝液に懸濁した。さらに同量の溶菌液(0.5M 水酸化ナトリウム・0.5%ラウリル硫酸ナトリウム)を加え、よく懸濁後、沸騰水浴上で10分間加熱し菌体を破壊、菌体タンパク質を抽出した。この菌体破壊液の一部を用い、BCAタンパク質測定キット(サーモサイエンティフィック社)を用いて測定を行った。タンパク質濃度の算出はウシ血清アルブミンを用い、上記同様に溶菌液と煮沸したものをスタンダードとして使用した。 図6にバッチ培養法およびセミバッチ培養法における菌体濃度の変化を示した。 図6の(A)はクロストリジウム・サーモセラムATCC27405の菌体濃度の変化を示している。黒塗りの三角形(▲)はバッチ培養法による菌体濃度の変化、白抜きの三角形(△)はセミバッチ培養用による菌体濃度の変化を示す。 図6の(B)はクロストリジウム・サーモセラムJK−S14の変化を示している。黒塗りの丸印(●)はバッチ培養法による菌体濃度の変化、白抜きの丸印(○)はセミバッチ培養用による菌体濃度の変化を示す。 図6の(A)及び(B)の菌体タンパク量は、培養液1ml中の菌体タンパク量を示している。図中の矢印はセミバッチ培養法におけるセルロース消費を確認後、再度セルロース添加を行った培養日を示している。 クロストリジウム・サーモセラムATCC27405およびJK−S14におけるバッチ培養法およびセミバッチ培養法とも4日目まで細胞濃度に大きな変化はなく、初発セルロース濃度の違い(バッチ培養法では2%、セミバッチ培養法では0.5%)による増殖初期の菌濃度に大きな差異は認められなかった。しかし、セミバッチ培養法において2回目のセルロース添加、すなわち4日目以降から菌体濃度の上昇が認められた。またこの現象は両菌株において同様な増殖上昇傾向を示した。 これらの結果はセミバッチ培養法により、単にセルロソーム構成タンパク質を含む総タンパク質の生産性が向上しただけでなく、菌体濃度増加も一因であることが示唆された。 それぞれの培養法により培養液中の生成物及び生成量に違いがあるかを検討するために培養液中の遊離糖、有機酸、エタノール成分量を比較した。 使用した培養液はバッチ培養法およびセミバッチ培養法ともに培養9日目の培養液を使用した。培養液は14,000回転、4℃、5分間で遠心分離した後、上清を適当な濃度に蒸留水で希釈し測定に供した。 培養液に含まれる遊離糖の測定には、アミネックスHPX−87Pカラム(バイオラッド)による示差屈折検出器を備えた高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製、Prominence)を用いた。 培養液の有機酸の測定には、ポストカラムpH緩衝化電気伝導度検出法を用いた高速液体クロマトグラフィー有機酸分析システム(島津製作所製、Prominence)を用いた。 培養液中のエタノールの測定は、エタノール濃度はガスクロマトグラフィー(島津製作所製、モデルBC−2014)を用いた。 結果を表1に示す。遊離糖としてセロビオース、グルコース、有機酸として乳酸、酢酸、およびエタノール濃度をそれぞれ示す。 クロストリジウム・サーモセラムATCC27405およびJK−S14においてバッチ培養法を行った培養液中には、セミバッチ培養法に比較してセロビオースやグルコース、乳酸の顕著な蓄積が認められた。特にセルロソーム関連酵素や糖代謝酵素の発現に影響のありそうなセロビオースやグルコースの培養液中の濃度はセミバッチ培養法に比べ、セロビオースで約2倍から3倍高く、またグルコースでは約5から7倍高く蓄積されていることが示された。 生育に影響を与えると考えられる有機酸濃度は、酢酸においては同程度の蓄積であった。しかし、乳酸ではクロストリジウム・サーモセラムATCC27405では約3倍、クロストリジウム・サーモセラムJK−S14では10倍、バッチ培養法のほうが高濃度蓄積しており、増殖に影響しているものと考えられた。 一方、セミバッチ培養法ではバッチ培養法に比較し生成エタノール濃度が約2倍増加している。セミバッチ培養法では、バッチ培養法のようにセロビオース、グルコースや乳酸が蓄積せずに、これらの生成物は代謝しエタノールへ変換し、セルロース基質添加後も増殖や代謝活性が継続、持続していると推察された。 クロストリジウム属微生物が資化可能な炭素源を消化した後、炭素源を添加する操作を繰り返すセミバッチ培養法では、セロビオースやグルコース、乳酸の蓄積が回避されると考えられる。さらに実施例1〜5の結果から、セミバッチ培養法ではセルロース関連遺伝子の発現を刺激し持続するとともに、菌増殖が維持されてセルロソーム生産性を維持していることが考えられる。 一般に、微生物の培養において、有機酸、特に乳酸、の生成量が多くなると微生物の増殖が抑制されることが知られている。実施例1〜5の結果からバッチ培養では乳酸の生成量が大きくなり菌増殖が抑制されていることが分かる。バッチ培養において、培地中のセロオリゴ糖などのオリゴ糖類、グルコースなどの単糖類の可溶性糖濃度が高くなると代謝系がエタノール生成系から乳酸生成系へシフトする現象が観察されている。したがって、バッチ培養は、セルロース分解酵素生産方法としては適していないことが分かった。 投入する炭素源や栄養源の量を減少させることは培養コストやハンドリングにおいて有効であり、実用上有利となる。そこで、セミバッチ培養法において一回に添加するセルロース量を低くした場合でもセルロソーム生産量の増加効果は見られるかを検討した。初発セルロース濃度や添加セルロース濃度を0.2%とし、計4回のセルロース投入を行い、最終的に1%セルロースを消費した場合の培養液中の総タンパク量とセルロソーム生産性をバッチ培養法と比較した。 図7にクロストリジウム・サーモセラムJK−S14を用いたバッチ培養法およびセミバッチ培養法における培養液1ml中の総タンパク量の比較を示した。 黒塗りの丸印(●)はセルロース濃度1%のバッチ培養法における培養液1ml中の総タンパク量を示し、白抜きの丸印(○)は初発セルロース濃度0.2%及び一回当たりの添加セルロース濃度を0.2%にし、4回投入を繰り返した際のセミバッチ培養法における培養液1ml中の総タンパク量を示している。図中の矢印はセミバッチ培養法における0.2%セルロースを消費後、再度0.2%セルロース添加を行った培養時期を示している。 セルロース培養液1ml中の総タンパク量はブラッドフォード・タンパク質測定キットにより、ウシ血清アルブミンをスタンダードに用い測定を行った。 バッチ培養法においては培養液中に蓄積したタンパク質は最大0.28mg/mlのタンパク質生産量であった。一方、セミバッチ培養法において1回から2回のセルロース添加によりバッチ培養法とセミバッチ培養法との培養液中のタンパク量の変化はそれほど認められず、計0.6%セルロース濃度でバッチ培養法の1%セルロース濃度と同等なタンパク量を生産可能であった。さらにセミバッチ培養法においては3回目のセルロース投入以降も培養液中のタンパク濃度は上昇し、最終的には最大0.42mg/mlとバッチ培養法のそれに比較し、約2倍の生産量増加を示した。 図8に上記クロストリジウム・サーモセラムJK−S14を用いたセミバッチ培養法によって培養液中のセルロソーム生産性を確認したSDS−PAGEを示す。 Mはタンパク質分子量マーカーを、縦軸はタンパク質マーカーの分子量をキロダルトンで示している。レーン1〜3はバッチ培養法によるSDS−PAGE、レーン4〜6はセミバッチ培養法によるSDS−PAGEである。レーン1は、バッチ培養法2日目の培養液中のセルロソーム画分、レーン2はバッチ培養法4日目の培養液中のセルロソーム画分、レーン3はバッチ培養法7日目の培養液中のセルロソーム画分である。レーン4はセミバッチ培養法7日目にセルロース基質添加した際にサンプリングした培養液中のセルロソーム画分、レーン5はセミバッチ培養法9日目にセルロース基質添加した際にサンプリングした培養液中のセルロソーム画分、レーン6はセミバッチ培養法14日目にセルロース基質添加した際にサンプリングした培養液中のセルロソーム画分を示す。電気泳動写真の右に示した矢印はクロストリジウム・サーモセラムのセルロソーム構成タンパク質として知られている骨格タンパク質CipAと主要な酵素サブユニットCel48Sのタンパク質バンドを示している。 クロストリジウム・サーモセラムJK−S14のバッチ培養法の培養液中のセルロソームの濃度は、培養2日目から4日目へかけて増加が認められた。しかし、それ以降、培養日数を経過させても増加は認められずに図6に示した総タンパク量測定の傾向と一致した結果となった。一方、セミバッチ培養法において、培養7日目以降、3回目のセルロース投入時の培養液中、セルロソーム濃度の上昇が認められ、最後のセルロース投入以降までセルロソームの増加が認められた。従って一回に投入するセルロースを低下させても、セルロソーム生産増加の効果が得られることが明らかとなった。 実施例1〜6の結果から、クロストリジウム・サーモセラムの培養において、供給する炭素源量を分割して繰り返して供給する培養法はバッチ培養法より、セルロソームを約2倍から3倍以上の増加させることが可能であることが分かる。 また、クロストリジウム・サーモセラムの培養において、供給する炭素源量を分割して繰り返して供給する培養法はバッチ培養法より、菌体量を増加させることが可能であることが分かる。 NITE P−627 NITE P−628 セルロース資化能を有し、セルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物を培養してセルロース分解酵素を生産させる方法であって、上記クロストリジウム属微生物がセルロース性物質を消化した後、セミバッチ培養法により、セルロース性物質を添加する操作を繰り返し、培地中にセルロース分解酵素を蓄積させる、セルロース分解酵素の生産方法。 前記培地に含有されるセルロース性物質の濃度が0.2〜5%以下の範囲である、請求項1記載のセルロース分解酵素の生産方法。 前記セルロース分解酵素がセルロソームを含有する酵素である、請求項2記載のセルロース分解酵素の生産方法。 前記セルロース資化能を有し、セルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物がクロストリジウム・サーモセラムである、請求項3記載のセルロース分解酵素の生産方法。 前記セルロース資化能を有し、セルロース分解酵素を分泌するクロストリジウム属微生物がクロストリジウム・サーモセラムJK−S14である、請求項1記載のセルロース分解酵素の生産方法。 クロストリジウム属微生物を培養して増殖させる方法であって、クロストリジウム属微生物がセルロース性物質を消化した後、セミバッチ培養法によりセルロース性物質を添加する操作を繰り返す、クロストリジウム属微生物の培養増殖方法。 炭素源供給後の培地に含有されるセルロース性物質の濃度が0.2〜5%以下の範囲である、請求項6記載のクロストリジウム属微生物の培養増殖方法。 前記クロストリジウム属微生物がクロストリジウム・サーモセラムである、請求項7記載のクロストリジウム属微生物の培養増殖方法。 前記クロストリジウム・サーモセラム微生物がクロストリジウム・サーモセラムJK−S14である、請求項8記載のクロストリジウム属微生物の培養増殖方法。


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