タイトル: | 公開特許公報(A)_甘味物質に対するヒト甘味受容体作用性甘味調節物質 |
出願番号: | 2009274977 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C07K 14/47,C12N 15/09,A23L 1/22 |
阿部 啓子 三坂 巧 藤原 聡 JP 2011116693 公開特許公報(A) 20110616 2009274977 20091202 甘味物質に対するヒト甘味受容体作用性甘味調節物質 国立大学法人 東京大学 504137912 長谷川香料株式会社 000214537 嶋崎 英一郎 100108143 河野 尚孝 100105429 荒井 鐘司 100093735 石井 あき子 100153109 阿部 啓子 三坂 巧 藤原 聡 C07K 14/47 20060101AFI20110520BHJP C12N 15/09 20060101ALI20110520BHJP A23L 1/22 20060101ALI20110520BHJP JPC07K14/47C12N15/00 AA23L1/22 Z 10 OL 36 4B024 4B047 4H045 4B024AA05 4B024BA80 4B024CA01 4B024CA04 4B024CA09 4B024CA11 4B024CA20 4B024DA02 4B024EA04 4B024GA11 4B024HA01 4B024HA11 4B047LB08 4B047LF10 4B047LG18 4B047LP20 4H045AA10 4H045AA30 4H045BA10 4H045CA40 4H045EA02 4H045FA74 本発明は、甘味物質に対するヒト甘味受容体作用性甘味調節物質に関し、詳しくは、ヒト甘味受容体(hT1R2+hT1R3)とGタンパク質αサブユニットを共に機能的に安定して発現させた培養細胞株を用いて、甘味強度を客観的に評価することによって得られた、甘味物質に対するヒト甘味受容体作用性甘味調節物質に関する。 味覚は、物質を口にした時に、特に舌の表面に存在する特異的な受容体と物質が結合することによって生じる感覚である。哺乳類の味覚は、5つの基本味、すなわち、塩味、酸味、甘味、うま味、苦味で構成されており、これらの基本味が統合することによって形成されると考えられている。現在のところ、塩味、酸味は、舌の表面の味蕾に存在する味細胞の近位側の細胞膜上に発現するいくつかのイオンチャネル型受容体を介して感知されると言われており、特に酸味については、TRPチャネルファミリーであるPKD2L1+PKD1L3からなるイオンチャネル型受容体が機能していると考えられている。 一方、甘味、うま味、苦味については、味細胞に存在する膜タンパク質であるGタンパク質共役受容体(G protein coupled receptor(GPCR))と、それに共役するGタンパク質を介したシグナル伝達によって感知されると考えられており、具体的には、甘味はT1R2+T1R3のヘテロダイマー(甘味受容体)、うま味はT1R1+T1R3のヘテロダイマー(うま味受容体)で受容され、苦味はT2Rファミリーと命名された約30種類の分子(苦味受容体)で受容されることが明らかにされている。 上記Gタンパク質は、α、β、γの3つのサブユニットで構成されている。α、β、γの3つのサブユニットが結合した状態は不活性型であり、味物質がGタンパク質共役受容体に結合すると、αサブユニットに結合していたGDP(グアノシン5’二リン酸)がGTPに置換されて、GTP-αサブユニットとβ-γサブユニットの結合体に解離した活性型になる。 味覚情報の伝達機構のしくみについては、完全に解明されたわけではないが、一般には以下のように理解されている。すなわち、まず、味物質が味細胞の受容体に結合すると、細胞内のセカンドメッセンジャー(IP3、DAG)などを介する情報伝達過程を経て、細胞内のカルシウム濃度が上昇し、次いで、細胞内に供給されたカルシウムイオンは、神経伝達物質をシナプスに放出させて神経細胞に活動電位を発生させ、その結果、受容体を起点とした味覚シグナルが味神経から脳に伝達されて味覚情報が識別、判断される、というのが通説である。また、最近、カルシウムイオンがTRPM5という新規な陽イオンチャネルを開口させ、一価陽イオンが細胞内に流入することで脱分極するという説も認められつつある。 上述した、塩味、酸味、甘味、うま味、苦味からなる5つの基本味のうち、特に甘味は、血液中の糖分が減少したときに、非常に美味しく感じる味であり、また、糖を含むエネルギー源としてのイメージをヒトに与え、さらには、他の基本味に比べて強い満足感、幸福感を引き起こし、ヒトの情動と深く関係していることから、飲食品などの嗜好性を決定する上で中心となる味である。 しかしながら、甘味は、他の基本味に比べて最小感度(閾値)が高く、少量では感知しにくいという特性がある。他方、甘味が強すぎると、ハイカロリー、肥満などの健康的でないイメージを誘起することになる。そのため、甘味を付与した飲食品などを製造する場合、ヒトが感知できる甘味であって、かつ、好ましく受け入れられる甘味になるように、甘味の強度を調節することが重要である。 ところで、従来、飲食品などの風味を改善するために、食品香料(フレーバー)が使用されている。風味は、味覚、嗅覚などから感知される知覚心理学的な感覚である。フレーバーは、甘味の強度を増強する場合にも使用されており、実際に甘味の増強効果が確認されているフレーバーとしては、例えば、エチルブチレート、エチルバニリン、セダネノライド、アラピリダインなどがある。 一般的に、フレーバーによる風味改善効果は、フレーバーが有する香気による嗅覚を介した作用であると考えられている。フレーバーの風味改善効果は、従来、主として、ヒトの官能評価によって検証されている。しかし、官能評価では、味覚と嗅覚から感知される情報を統合的に評価することになるため、フレーバーが味覚に作用して風味改善効果をもたらすのかどうかを検証することは困難である。特に、複数のフレーバー間において、味覚を介した風味改善の程度の違いを客観的に評価することは非常に困難である。また、官能評価あるいは官能検査では、良く訓練された評価者(パネル又はパネラーと呼ばれる)間の評価のバラツキも無視することはできない。 ヒトによる官能評価に代えて、舌の表面の味蕾に存在する味細胞を単離し、これを用いて風味改善効果を評価することも考えられる。しかし、舌の表面の味蕾に存在する味細胞を単離したものは、培養プレートへの接着が非常に弱く、すぐに死んでしまうため、時間を要する評価には使用することができない。 前述したように、甘味は、飲食品などの嗜好性を決定する上で中心となる味であることから、甘味受容体に作用して甘味を増強する物質を同定することができれば、同定された該物質を使用して、飲食品、医薬品などの味の改善、甘味料の使用量の削減、摂取カロリーの低下などの有益な効果を達成することができる。そのため、飲食品、フレーバーなどの産業界からは、そのような甘味増強物質に対して多大な関心が寄せられている。 そこで、産業界からのそうした関心に応えるべく、甘味調節物質を客観的に同定する方法として、T1R2+T1R3のヘテロダイマーである甘味受容体を発現させた細胞系を用いるアッセイが報告されている。 具体的には、例えば、特許文献1の実施例11において、Gα15発現細胞株(Aurora BioscienceのHEK-293細胞株)に、hT1R2の発現コンストラクト(プラスミドSAV2486)を含む線状化したpEAK10(Edge Biosystems)由来ベクターと、hT1R3の発現コンストラクト(プラスミドSXV550)を含むpCDNA3.1/ZEO由来(Invitrogen)ベクターとを、トランスフェクションすることにより、hT1R2/hT1R3を共発現させて生成した細胞株を用いて、甘味の調節化合物を同定することが報告されている。 また、特許文献2には、hT1R2N−末端細胞外ドメインとhT1R1C−末端7回膜貫通ドメインからなるhT1R2−1と名づけられたドメイン、hT1R3、及びキメラGタンパク質G16−t25を発現する安定なHEK-293細胞、及びhT1R1細胞外ドメインとhT1R2C−末端7回膜貫通ドメインからなるhT1R1−2と名づけられたドメイン、hT1R3、及びキメラGタンパク質G16g44を安定に発現する安定なHEK-293細胞が、甘味の味覚改変物質を同定するアッセイにおいて有用であることが記載されている。 また、特許文献3には、ヒト受容体タンパク質T1R2−TMD又はCSR:T1Rキメラ受容体をコードするcDNAを含む線状化pcDNA4−T0ベクターを、Gα16gust44を発現するHEK-293T細胞にトランスフェクションした細胞系を用いて、甘味の増強物質を同定するアッセイが記載されている。特開2008−13570号公報特表2009−517003号公報WO2007−121604号公報 従来の甘味受容体を発現させた細胞系は、いずれも所定のGタンパク質を発現する細胞を事前に作製、入手しておき、これにT1R2をコードする遺伝子を含むベクター、及びT1R3をコードする遺伝子を含むベクターをそれぞれトランスフェクションすることによって作製されている。 しかしながら、そのような方法によって細胞系を作製すると、各ベクターの細胞への導入効率が同一ではなく、いずれかが優位に導入されることがあり、また、導入した目的遺伝子が細胞のゲノム中にランダムに挿入され、極端な場合には、導入した目的遺伝子がゲノム中の転写されない不活性部分に挿入されることがある。 そのため、従来の細胞系では、Gタンパク質に関しては一定量が発現されており、その発現量は細胞間でさほど差は認められないものの、hT1R2、hT1R3の発現量及び発現比率に関しては、細胞間で大きなバラツキが認められた。 また、従来の細胞系の中には、hT1R2及びhT1R3のいずれか一方又は両方が発現されておらず、中には、細胞内の一連のシグナル伝達機構を実質的に備えていないものもあり、機能的な細胞系とは言えなかった。 このように、従来の甘味受容体の発現細胞系は、ヒトの甘味受容応答機構を反映しておらず、甘味受容体に作用する甘味調節物質をスクリーニングする上で、適切なモデルではなかった。 したがって、従来方法で作製された甘味受容体の発現細胞系を用いて、甘味調節物質の候補物質をスクリーニングしても、選択された物質が実際にヒト甘味受容体に作用して、甘味の調節効果を発揮することが検証された物質であるとは言えなかった。 そこで、こうした状況に鑑み、本発明は、hT1R2とhT1R3を同等に高発現する安定培養細胞を用いたアッセイによって、味覚を介する甘味調節効果が客観的に確認された、甘味物質に対するヒト甘味受容体作用性甘味調節物質の提供を課題とする。 本発明者らは、上記課題を解決するために検討を重ねた結果、hT1R2、hT1R3を同等に高発現する安定培養細胞、具体的には、hT1R2及びhT1R3、並びにGタンパク質αサブユニットをコードするcDNAを同一のプラスミドに挿入した発現コンストラクトを所定の細胞に遺伝子導入して発現させた培養細胞を用いたin vitroの実験系が、甘味を感じる味細胞に近い受容システムを備えており、ヒト甘味受容体に作用する甘味調節物質を選択するのに非常に適したモデルであることを見出し、かかる知見に基づき、本発明を完成するに至った。 かくして、本発明は、hT1R2及びhT1R3並びにGタンパク質αサブユニットをコードする各cDNAを同一のプラスミドに挿入して得られた発現コンストラクトを、ゲノムDNA中にFRT(Flippase Recognition Target)部位が1か所組み込まれた293細胞に導入して発現させた培養細胞株を用いた、甘味物質による生理的応答の測定によって同定された、甘味物質に対するヒト甘味受容体作用性甘味調節物質を提供するものである。 本発明は、ヒト甘味受容体を介する甘味調節効果が客観的に確認されたヒト甘味受容体作用性甘味調節物質を提供することができ、種々の飲食品に適用することにより、味の改善、甘味料の節約、低カロリー化、低う蝕性などの有益な効果を得ることができる。pcDNA5/FRT(Invitrogen)の構造を示す。EF-1αプロモーターの下流に、hT1R2をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結した配列を有し、かつ、この配列の下流にあるCMVプロモーターの下流に、hT1R3をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結した配列が導入されたpcDNA5/FRT(Invitrogen)の構造を示す。スクロースに対して、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、シクラメート、p−メトキシシンナミックアルデヒド、シクロテンをそれぞれ所定の濃度で、hT1R2及びhT1R3並びにhG16gust44の発現させた細胞に投与した際のスクロース濃度-応答曲線である。スクロースに対して、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、シクラメート、p−メトキシシンナミックアルデヒド、シクロテンをそれぞれ所定の濃度で、hT1R2及びhT1R3並びにhG16gust44を発現させた細胞に投与した際の蛍光イメージ画像を示す図である。アスパルテームに対して、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを所定の濃度で、hT1R2及びhT1R3並びにhG16gust44を発現させた細胞に投与した際のアスパルテーム濃度-応答曲線である。ステビアに対して、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを所定の濃度で、hT1R2及びhT1R3並びにhG16gust44を発現させた細胞に投与した際のステビア濃度-応答曲線である。サッカリンに対して、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを所定の濃度で、hT1R2及びhT1R3並びにhG16gust44を発現させた細胞に投与した際のサッカリン濃度-応答曲線である。スクロースに対して、エチルバニリン又はマルトールをそれぞれ所定の濃度で、hT1R2及びhT1R3並びにhG16gust44を発現させた細胞に投与した際の蛍光イメージ画像を示す図である。 以下、本発明について更に詳細に説明する。本発明において、甘味物質に対するヒト甘味受容体作用性甘味調節物質とは、ある特定の甘味物質と共存させた場合に、ヒト甘味受容体(hT1R2+hT1R3)に作用することによって、該甘味物質単独で得られるヒト甘味受容体からの生理的応答、すなわち、甘味の強度を改変させる物質を意味する。具体的には、甘味物質によるヒト甘味受容体からの生理的応答を増大させて、甘味の強度を増大させるヒト甘味受容体作用性甘味増強物質、生理的応答を減少させて、甘味の強度を減少させるヒト甘味受容体作用性甘味阻害物質などが挙げられる。上記ヒト甘味受容体作用性甘味調節物質の中には、それ自体、甘味物質であるものも含まれる。 本発明のヒト甘味受容体作用性甘味調節物質による甘味調節の対象となる甘味物質は、ヒトが感知できる甘味を呈することができる物質であれば特に限定されず、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ラフィノース、キシロース、スクロース、マルトース、乳糖、水飴、異性化糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、乳果オリゴ糖、大豆オリゴ糖、トレハロース、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、イソマルトール、還元水飴、還元パラチノース、和三盆、黒糖、三温糖、蜂蜜、糖蜜、甘草抽出物及びメープルシロップなどの糖質系甘味料、及び、アスパルテーム、サッカリン、ズルチン、ステビオシド、ステビア抽出物、グリチルリチン、アセスルファム−K、スクラロース(登録商標;三栄源エフ・エフ・アイ)、シクラメート、アリテーム、ネオテーム、ペリラルチン、モネリン、クルクリン(登録商標;ADEKA)などの非糖質系甘味料が広く含まれる。 ヒト甘味受容体とは、前述したように、hT1R2とhT1R3の2つのサブユニットを組み合わせることによって構成されるヘテロオリゴマー受容体であり、各サブユニットの全ての部分、すなわち、7つの膜貫通領域及び対応する細胞質及び細胞外のループからなる膜貫通ドメイン、ビーナス・フライ・トラップドメイン、高システインドメイン及びC末端ドメインの全ての領域が含まれる。 本発明のヒト甘味受容体作用性甘味増強物質としては、具体的には、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NHDC)(化1)、シクラメート(化2)、p−メトキシシンナミックアルデヒド(化3)、シクロテン(化4)が例示される。各物質の化学構造を以下に示す。 本発明のヒト甘味受容体作用性甘味抑制物質としては、具体的には、ラクチゾール(化5)、バニリン(化6)、エチルバニリン(化7)、クレオソール(化8)、マルトール(化9)が例示される。各物質の化学構造を以下に示す。 本発明のヒト甘味受容体作用性甘味増強剤は、本発明のヒト甘味受容体作用性甘味増強物質を有効成分とする製剤であり、該増強物質をそのまま直接使用してもよいし、必要に応じて、適当な液体に溶解するか、又は粉末と混合して使用してもよく、必要な場合には、乳化剤、懸濁剤、安定剤などを適宜加えて使用される。上記有効成分の濃度は、所望する甘味の程度などを考慮して適宜決定すればよい。 本発明のヒト甘味受容体作用性甘味抑制剤は、本発明のヒト甘味受容体作用性甘味抑制物質を有効成分とする製剤であり、該増強物質をそのまま直接使用してもよいし、必要に応じて、適当な液体に溶解するか、又は粉末と混合して使用してもよく、必要な場合には、乳化剤、懸濁剤、安定剤などを適宜加えて使用される。上記有効成分の濃度は、所望する甘味の程度などを考慮して適宜決定すればよい。 本発明のヒト甘味受容体作用性甘味調節物質は、hT1R2及びhT1R3並びにGタンパク質αサブユニットをコードする各cDNAを同一のプラスミドに挿入して得られた発現コンストラクトを、ゲノムDNA中にFRT(Flippase Recognition Target)部位が1か所組み込まれた293細胞に導入して発現させた培養細胞株を用いて、(i)ある特定の甘味物質を上記培養細胞株に接触させて、発生した生理的応答を測定し、(ii)該甘味物質にヒト甘味受容体作用性甘味調節物質の候補物質を添加したものを上記培養細胞株に接触させて、発生した生理的応答を測定し、(iii)工程(i)、(ii)のそれぞれで得られた生理的応答の測定結果を比較することによって同定されたものである。 hT1R2及びhT1R3並びにGタンパク質αサブユニットをコードする各cDNAは、いかなる方法で入手されるものでもよく、例えば、該タンパク質をコードするmRNAからcDNAをクローン化する方法、既知の塩基配列情報に基づく化学合成、ゲノムDNAを単離してスプライシングする方法など、公知の方法で入手することができる。本発明で用いられる他の各種遺伝子も同様にして得られる。cDNAは、相補的DNAを意味し、mRNA転写産物の逆転写反応産物である。 また、Gタンパク質αサブユニットをコードするcDNAとしては、G15、hG16、あるいはそれらの配列の一部を改変した変異体をコードするcDNAが挙げられる。特に、ヒト甘味受容体を発現させる場合には、細胞内のエフェクター(effector)との間の情報伝達を効率的に担うことができる点から、hG16gust44をコードするcDNAが好ましい。hG16gust44は、ヒトGα16のC末端部分44アミノ酸残基をGgustに入れ替えたキメラGタンパク質である。 本発明において、発現コンストラクトとは、所望のコード配列及び該コード配列を発現させるために必要なプロモーター、ターミネーター、マーカー遺伝子、FRT部位をコードする遺伝子などの適切な核酸配列を連結したDNA断片を、ゲノムDNA中にFRT部位が1か所組み込まれた293細胞に移動させる核酸分子の意味であり、発現ベクターと同様の意味である。 転写開始シグナルとして機能するプロモーターは、該293細胞で導入する遺伝子を発現する機能を有するものであれば限定されず、例えば、CMV(サイトメガロウイルス)、EF−1α、SRα、CAGなどが例示される。 また、転写を終結させる核酸配列であるターミネーターとしては、SV40 pAが例示される。SV40 pAは、237bpのBamHI/BcII制限酵素断片上に含まれ、終結及びポリアデニル化の両方をもたらし、ウシ成長ホルモン(BGH)由来するものが多く利用されている。 また、目的とする遺伝子が導入されたことを確認するための目印として導入される遺伝子であるマーカー遺伝子としては、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子などが例示される。 また、FRT部位をコードする遺伝子は、pFRTβGAL(STRATAGE、protocol、SEQUENCE AND SITES、Catalog#218403、May 28、1991)に開示される2087−2147の塩基配列が該当する。 上述した各cDNAを挿入する同一のプラスミドとしては、ゲノムDNA中にFRT部位が1か所組み込まれた293細胞内で、hT1R2及びhT1R3並びにGタンパク質αサブユニットを発現することができるのであれば、特に制限されない。具体的には、pFRT/lacZeo、pUC12、pUC13、pUC19、pBR322、pBR325、pSH15、pSH19、pUB110、pC194などが例示される。 本発明においては、上記プラスミドとして、FRT部位をコードする遺伝子の片端にハイグロマイシンB耐性遺伝子が配置されたpcDNA5/FRT(5070bp、Invitrogen)が好適に使用される。pcDNA5/FRT(Invitrogen)は、ハイグロマイシンB耐性遺伝子を持ち、FRT部位を有する宿主細胞のFRT部位で組換えを生じた場合には、ハイグロマイシンB耐性かつゼオシン感受性となり、一方、FRT部位には組み込まれずに別の部位に組み込まれた場合には、ハイグロマイシンB感受性となるため、目的遺伝子がFRT部位に組み込まれたか否かを容易に区別することができる。pcDNA5/FRT(5070bp、Invitrogen)の構造を図1に示す。 hT1R2及びhT1R3並びにGタンパク質αサブユニットをコードする各cDNAを同一のプラスミドに挿入して得られる発現コンストラクトとしては、EF-1αプロモーターの下流に、hT1R2をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結した配列を有し、かつ、この配列の下流にあるCMVプロモーターの下流に、hT1R3をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結した配列が導入されたpcDNA5/FRT(Invitrogen)が好適である(図2)。その理由は、該発現コンストラクトを用いることにより、hT1R2、hT1R3、hG16gust44を同時に発現させることができ、甘味受容体に作用するリガンドに対して非常に感度が良い培養細胞株を得ることができるからである。 本発明において規定されるhT1R2及びhT1R3並びにGタンパク質αサブユニットをコードする各cDNAを同一のプラスミドに挿入して得られる発現コンストラクトは、例えば、以下の工程(a)〜(g)に従って調製することができる。(a) pcDNA5/FRT(Invitrogen)のマルチクローニングサイト(塩基番号895−1010)以外の場所に6塩基の置換を行い、制限酵素EcoRVの認識配列(5’-GATATC-3’)を新たに作製する。 この工程(a)の好適な態様の1つとして、pcDNA5/FRT(Invitrogen)の制限酵素Bgl IIの認識配列(塩基番号12―17)の直下(塩基番号18―23)にEcoRVの認識配列を導入する態様が挙げられる。この態様は、例えば、以下のサブ工程(a1)〜(a5)に従うことにより、実施することができる。(a1) 5’末端にBgl IIの認識配列(5’-AGATCT-3’)、その直下にEcoRVの認識配列を持つセンスプライマーを設計、作製する。一方、BGH pA配列中の配列を持つアンチセンスプライマーを設計、作製する。(a2) (a1)で作製したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、pcDNA5/FRT(Invitrogen)をテンプレートとして、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、Bgl IIとEcoRVの各認識配列が連結した配列を含むDNA断片を増幅する。(a3) (a2)で増幅したDNA断片を、Bgl II及びNot Iで消化する。(a4) pcDNA5/FRT(Invitrogen)を、Bgl II及びNot Iで消化する。(a5) (a3)で得られたDNA断片と、(a4)で得られたpcDNA5/FRT(Invitrogen)とを、ライゲーション反応によって結合させることにより、pcDNA5/FRT(Invitrogen)のBgl IIの認識配列の直下にEcoRVの認識配列を持つベクターを作製する。ライゲーション反応は、通常のT4 DNAリガーゼを用いて行えばよいが、迅速かつ簡便に処理を行うために、1液タイプのDNAライゲーション試薬であるLigation high Ver.2(TOYOBO)を用いることが好ましい。(b) 工程(a)で作製したベクターのマルチクローニングサイト(塩基番号895−1010)に、hT1R3をコードするcDNAを挿入する。この工程(b)は、例えば、以下のサブ工程(b1)〜(b8)に従うことにより、実施することができる。(b1) hT1R3のコード領域の直前及び直後に、それぞれAsc Iの認識配列(5’-GGCGCGCC-3’)及びNot Iの認識配列(5’-GCGGCCGC-3’)を持つようなセンスプライマー、アンチセンスプライマーを設計、作製する。(b2) (b1)で作製したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、hT1R3をコードするcDNA配列を含む配列をテンプレートとしてPCRを行い、hT1R3をコードするcDNAを増幅する。(b3) (b2)で得られたhT1R3をコードするcDNA断片を、制限酵素Asc I及びNot Iで消化する。 (b4) pEAK10(Edge Biosystems)を、制限酵素Asc I及びNot Iで消化する。(b5) (b3)で得られたhT1R3をコードするcDNA断片と、(b4)で得られたpEAK10(Edge Biosystems)とを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させて、pEAK10(Edge Biosystems)に、hT1R3をコードするcDNAを挿入する。(b6) (b5)で得られたpEAK10(Edge Biosystems)を、制限酵素Hind III及びNot Iで消化し、アガロース電気泳動により、DNA断片を分離して、hT1R3のcDNA断片を精製する。(b7) (a5)で作製したベクターを、Hind III及びNot Iで消化する。(b8) (b6)で得られたhT1R3をコードするcDNA断片と、(b7)で得られたベクターとを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させることにより、(a5)で作製したベクターのマルチクローニングサイトに、hT1R3をコードするcDNAを挿入する。(c) pBluescript II SK(-)に、IRES配列と、hG16gust44をコードするcDNAとを挿入し、これらが連結された配列(IRES2-hG16gust44配列)を有するベクター(IRES2-hG16gust44/pBluescript II SK(-))を作製する。IRES配列とは、内部リボソーム侵入部位(internal ribosome entry site)をコードする配列を意味する。 この工程(c)は、例えば、以下のサブ工程(c1)〜(c11)に従うことにより、実施することができる。(c1) IRES配列の直前にEco52Iの認識配列(5’-CGGCCG-3’)を持つようなセンスプライマーを設計、作製する。一方、IRES配列の終了する部分に相当するアンチセンスプライマーを設計、作製する。(c2) (c1)で作製したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、pIRES2-EGFP(Clontech)をテンプレートとしてPCRを行い、IRES配列を増幅する。なお、EGFPは、Enhansed Green Fluorescence Proteinの略である。(c3) hG16gust44のコード領域の直前及び直後に、Not Iの認識配列(5’-GCGGCCGC-3’)を持つようなセンスプライマー、アンチセンスプライマーを設計、作製し、hG16gust44をコードするcDNA配列を含む配列をテンプレートとしてPCRを行い、hG16gust44をコードするcDNAを増幅する。増幅断片を、Not Iで消化する。(c4) pEAK10(Edge Biosystems)を、Not Iで消化する。(c5) (c3)で得られたhG16gust44をコードするcDNA断片と、(c4)で得られたpEAK10(Edge Biosystems)とを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させて、pEAK10(Edge Biosystems)に、hG16gust44をコードするcDNAを挿入したベクター(hG16gust44/pEAK10)を作製する。(c6) hG16gust44の開始コドンを含む18塩基のセンスプライマーを設計、作製する。一方、hGH pA配列中の配列を持つアンチセンスプライマーを設計、作製する。 (c7) (c5)で得られたhG16gust44/pEAK10をテンプレートとして、(c6)で作製したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いてPCRを行い、hG16gust44をコードするcDNAを増幅する。(c8) (c2)で得られたIRES配列を、Eco52Iで消化する。(c9) (c7)で得られたhG16gust44をコードするcDNAを、Not Iで消化する。(c10) pBluescript II SK(-)を、Not Iで消化する。(c11) (c8)で得られたIRES配列と、(c9)で得られたhG16gust44をコードするcDNA断片と、(c10)で得られたpBluescript II SK(-)とを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させて、IRES2-hG16gust44/pBluescript II SK(-)を作製する。(d) 工程(b)で作製したベクターのhT1R3をコードするDNA配列の直後に、IRES配列とhG16gust44をコードするcDNAを連結した配列(IRES2-hG16gust44配列)を挿入する。 この工程(d)は、例えば、以下のサブ工程(d1)〜(d3)に従うことにより、実施することができる。(d1) (c11)で作製したIRES2-hG16gust44/pBluescript II SK(-)を、Eco52Iで消化し、アガロース電気泳動により、cDNA断片を分離して、IRES2-hG16gust44配列を精製する。(d2) (b8)で作製したベクターをNot Iで消化し、該ベクター中のhT1R3をコードするDNA配列の直後に存在する部分を切断する。(d3) (d1)で得られたIRES2-hG16gust44配列と、(d2)で得られたベクターとを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させて、(b8)で作製したベクターのhT1R3をコードするDNA配列の直後に、IRES2-hG16gust44配列を挿入する。この結果、hT1R3-IRES2-hG16gust44配列を含むpcDNA5/FRTが得られる。(e) pEAK10(Edge Biosystems)に、hT1R2をコードするcDNAを挿入する。 この工程は、例えば、以下のサブ工程(e1)〜(e5)に従うことにより、実施することができる。(e1) hT1R2のコード領域の直前及び直後に、それぞれAsc Iの認識配列(5’-GGCGCGCC-3’)及びNot Iの認識配列(5’-GCGGCCGC-3’)を持つようなセンスプライマー、アンチセンスプライマーを設計、作製する。(e2) (e1)で作製したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、hT1R2をコードするDNA配列を含む配列をテンプレートとしてPCRを行い、hT1R2をコードするcDNAを増幅する。(e3) (e2)で得られたhT1R2をコードするcDNAを、Asc I及びNot Iで消化する。(e4) pEAK10(Edge Biosystems)を、Asc I及びNot Iで消化する。(e5) (e3)で得られたhT1R2をコードするcDNA断片と、(e4)で得られたpEAK10(Edge Biosystems)とを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させて、pEAK10(Edge Biosystems)に、hT1R2をコードするcDNAを挿入する。(f) 工程(e)で作製したベクターのhT1R2をコードするDNA配列の直後に、IRES2-hG16gust44配列を挿入する。この工程は、例えば、以下のサブ工程(f1)〜(f3)に従うことにより、実施することができる。(f1) (c11)で作製したIRES2-hG16gust44/pBluescript II SK(-)を、Eco52Iで消化し、アガロース電気泳動により、cDNA断片を分離して、IRES2-hG16gust44配列を精製する。(f2) (e5)で得られたベクターを、Not Iで消化し、該ベクター中のhT1R2をコードするcDNAの直後に存在する部分を切断する。(f3) (f1)で得られたIRES2-hG16gust44配列と、(f2)で得られたベクターとを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させて、(e5)で得られたベクターのhT1R2をコードするcDNAの直後に、IRES2-hG16gust44配列を挿入する。この結果、hT1R2-IRES2-hG16gust44配列を含むpEAK10(Edge Biosystems)が得られる。(g) 工程(d)で得られたベクターを、EcoRVで切断し、hT1R3-IRES2-hG16gust44配列の上流に、工程(f)で得られたhT1R2-IRES2-hG16gust44配列を挿入して、hT1R2及びhT1R3並びにGタンパク質αサブユニットをコードする各cDNAを同一のプラスミドに挿入した発現コンストラクトを得る。 該発現コンストラクトの好適な例は、(d3)で作製したベクターのhT1R3-IRES2-hG16gust44配列の上流に、(f3)で作製したベクターのEF-1αプロモーター-hT1R2-IRES2-hG16gust44-hGH pA配列を挿入した発現コンストラクト、すなわち、EF-1αプロモーターの下流に、hT1R2をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結した配列を有し、かつ、この配列の下流にあるCMVプロモーターの下流に、hT1R3をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結した配列が導入されたpcDNA5/FRTからなる発現コンストラクトである。 この工程(g)は、例えば、以下のサブ工程(g1)〜(g3)に従うことにより、実施することができる。(g1) In-Fusion反応を行うためのプライマーを設計、作製し、これを用いて、(f3)で作製したベクターをテンプレートとして、EF-1αプロモーター-hT1R2-IRES2-hG16gust44-hGH pAの領域をPCRによって増幅する。上記プライマーは、(d3)で得られたベクターを制限酵素で線状化したものの末端と相同な約15塩基を、上記領域のDNA断片に付加するようにして設計する。(g2) (d3)で得られたベクターを、EcoRVで消化する。(g3) (g1)で得られたEF-1αプロモーター-hT1R2-IRES2-hG16gust44-hGH pA配列断片と、(g2)で得られたベクターとを、In-Fusion Advantage PCR Cloning Kit(Clontech)を用いて結合させて、(d3)で得られたベクターのhT1R3-IRES2-hG16gust44配列の上流に、(f3)で作製したベクターのhT1R2-IRES2-hG16gust44配列を挿入した発現コンストラクトを作製する。In-Fusion Advantage PCR Cloning Kit(Clontech)による結合は、(g1)で得られたEF-1αプロモーター-hT1R2-IRES2-hG16gust44-hGH pA配列断片と、(g2)で得られたベクターを混合し、In-Fusion酵素と所定のバッファーを加えて、通常、37℃で15分、次いで、50℃で15分反応を行う。In-Fusion Advantage PCR Cloning Kit(Clontech)によれば、制限酵素サイトの制約を受けることなく、また、長鎖DNA断片でも、目的DNA断片のクローニングが可能である。 以上の方法によって、本発明のヒト甘味受容体作用性甘味調節物質を同定する際に使用する培養細胞株を得るために必要な発現コンストラクトが得られる。 次に、本発明のヒト甘味受容体作用性甘味調節物質を同定するために使用する培養細胞株の作製方法について説明する。 該培養細胞株の作製は、Flp-Inシステム(Invitrogen)を用いて、ゲノムDNA中にFRT部位が1か所組み込まれた293細胞に、上記発現コンストラクトと、Flpリコンビナーゼ発現ベクターであるpOG44をコトランスフェクションすることによって行われる。Flp-Inシステム(Invitrogen)によれば、トランジエントに発現したFlpリコンビナーゼにより、293細胞のゲノムDNA中に保持されたFRT部位が開裂して、その部分に外来遺伝子が導入され、該遺伝子が発現する。すなわち、hT1R2及びhT1R3並びにhG16gust44をコードする各遺伝子は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のFlpリコンビナーゼと、Flpリコンビナーゼの標的部位であるFRT部位を利用した部位特異的組換えにより、293細胞の染色体のFRT部位に挿入され、その結果、安定的にhT1R2及びhT1R3並びにhG16gust44を発現する培養細胞株が迅速かつ効果的に得られる。この培養細胞株において、hT1R2及びhT1R3並びにhG16gust44をコードする各遺伝子は、2つのmRNAに転写された後、3つのタンパク質、すなわち、hT1R2及びhT1R3並びにhG16gust44に翻訳される。 ゲノムDNA中にFRT部位が1か所組み込まれた293細胞は、例えば、以下のようにして作製することができる。 まず、宿主細胞である293細胞に、FRT部位を導入するためのベクターであるpFRT/lacZeoを遺伝子導入し、導入された細胞をゼオシン(Zeocin)で選択する。pFRT/lacZeoは、lacZとゼオシン耐性遺伝子の融合遺伝子を持つため、pFRT/lacZeoがゲノムに導入された細胞は、β-ガラクトシダーゼを発現し、ゼオシン耐性となる。ゼオシン感受性の程度をβ-ガラクトシダーゼアッセイにより確認することができる。 次いで、lacZ遺伝子に対してのサザンブロット法を行う。これにより、ゲノム中の転写されうる位置の1か所だけにFRT部位が組み込まれていることが確認される。ゲノムDNA中にFRT部位が1か所組み込まれた293細胞として、市販されているFlp-In-293細胞(Invitrogen)を用いるのが簡便である。 本発明のヒト甘味受容体作用性甘味調節物質を同定するのに使用する培養細胞株の作製は、FRT部位が1か所組み込まれた293細胞に、上記発現コンストラクト及びFlpリコンビナーゼの発現ベクターであるpOG44をコトランスフェクションし、ハイグロマイシンBを含む選択培地にて、ハイグロマイシンB耐性の細胞株を選択することによって行うことができる。 Flpリコンビナーゼは、部位特異的な組換え反応を行う酵素の一種であり、該酵素の発現ベクターであるpOG44が公知である。上記発現コンストラクト及びpOG44をコトランスフェクションすると、発現したFlpリコンビナーゼにより、上記発現コンストラクトは上記293細胞のFRT部位に挿入されて、293細胞はハイグロマイシンB耐性、ゼオシン感受性に変化するので、これらの薬剤耐性を指標とすることによって目的の遺伝子が挿入されたか否かを容易に判定することができる。 コトランスフェクションする方法としては、公知の方法、例えば、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム-DNA沈殿法、塩化カルシウム法、塩化カルシウム/塩化ルビジウム法、リポソーム法、DEAE-デキストラン法、マイクロインジェクション法など、適宜選択することができる。 こうして、ゲノム中の同じ位置に発現コンストラクトが入り、hT1R2及びhT1R3並びにhG16gust44が同時に発現された培養細胞株を得ることができる。hT1R2及びhT1R3並びにhG16gust44の発現は、培養細胞株からタンパク質を抽出し、hT1R2抗体、hT1R3抗体、及びキメラタンパク質hG16gust44を認識可能な抗体を用いたウェスタンブロット法により確認することができる。 上記安定発現細胞は、栄養培地で培養することにより、増殖及び/又は維持される。該安定発現細胞の増殖及び/又は維持の具体的方法に関しては適宜決定すればよいが、グルコースによる脱感作を最小限にするため、例えば、L-グルタミンを4mMになるよう補足された低グルコース(1,000mg/ml)ダルベッコ改変イーグル(DMEM)培地(Virology、Vol.8、p.396、1959)に、10%HI-FBS(Heat Inactivated Fetal Bovine Serum)及び100μg/mlのハイグロマイシンB(Invitrogen)を加えたものを用いて、37℃で増殖及び/又は維持を行うことが好ましい。 本発明のヒト甘味受容体作用性甘味調節物質は、上記安定培養細胞株を利用して、ある特定の甘味物質を該培養細胞株に接触させて、それによって発生した生理的応答を測定し、次いで、該甘味物質にヒト甘味受容体作用性甘味調節物質の候補物質を添加したものを上記養細胞株に接触させて、それによって発生した生理的応答を測定し、両方の測定結果を比較することによって同定される。 本発明のヒト甘味受容体作用性甘味調節物質を同定するために、ヒト甘味受容体作用性甘味調節物質の候補物質をスクリーニングするには、例えば、以下のようにして行う。 まず、前述したように、上記発現コンストラクトを発現させた培養細胞株を取得し、次いで、該培養細胞の所定の数を多数のウェル(24穴、48穴、96穴、384穴など)を有するマイクロプレートの各ウェルに撒き(例えば、1万〜50万個/ウェル)、所定の培地(例えば、DMEM培地)中で1日培養する。 その後、特定の甘味物質又は甘味物質とヒト甘味受容体作用性甘味調節物質の候補物質とを添加した各場合において、上記安定培養細胞株に発生した生理的応答を測定し、甘味物質が単独の場合の測定値と、候補物質を添加した場合の測定値とを比較し、その差異の程度に基づいて、甘味物質に対するヒト甘味受容体作用性甘味調節物質を同定する。該候補物質には、自然界に存在する物質のほか、人工的に調製された任意の物質が含まれる。 培養細胞株に発生した生理的応答を測定する場合、生理的応答としては、甘味受容体の活性化に伴って変化する事象が適宜選択される。甘味受容体が活性化されると、その後、細胞内で種々の現象が開始される。味物質が受容体に結合すると、細胞内のセカンドメッセンジャー(IP3(イノシトール三リン酸)、DAG)などを介する情報伝達過程を経て、細胞内のカルシウム濃度が上昇する。したがって、測定対象とする生理的応答としては、甘味受容体の活性化に伴って変化する細胞内のセカンドメッセンジャーの変化、細胞内のカルシウム濃度の変化などが挙げられる。 本発明においては、甘味物質に対する生理的応答の測定は、甘味刺激によって惹起される細胞内のカルシウム濃度の変化を、蛍光カルシウム指示薬を用いることにより細胞外から観察するカルシウムイメージング法で行うのが好適である。これにより、従来の官能評価とは異なり、受容体レベルでの甘味増強効果又は抑制効果の客観的な評価が可能となる。また、甘味増強又は抑制の程度を数値化することにより、各種物質の甘味増強効果又は抑制効果を相互に比較することができる。 甘味物質が単独の場合の測定結果と、ヒト甘味受容体作用性甘味調節物質の候補物質を添加した場合の測定結果とを比較し、その差異の程度に基づいて、甘味物質に対するヒト甘味受容体作用性甘味調節物質を同定するが、どの程度の差異があることをもって、本発明のヒト甘味受容体作用性甘味調節物質とするかについては、例えば、カルシウムイメージング法による場合、測定された細胞応答に統計学的に有意な差が認められる場合には、本発明のヒト甘味受容体作用性甘味調節物質であると判断できる。 蛍光カルシウム指示薬には、生理的に変化し得るカルシウム濃度において蛍光特性が変化すること、及びそのときの変化がカルシウム特異的に誘導されること、が要求されるため、現在、錯形成部位と蛍光発色団が結合した構造を有する化合物が蛍光指示薬として汎用されている。本発明では、そのような蛍光カルシウム指示薬であるFluo-4 AM、Fura-2 AMを使用することが好適である。 本発明においては、カルシウムイメージング法を用いて、甘味物質に対する生理的応答を数値化及び可視化することにより、ヒト甘味受容体のレベルで実際に甘味調節作用が起きているのかどうかを検証することが好ましい。そのために、例えば、マルチプレートリーダーによる同時アッセイにより、細胞応答の数値化を行い、さらに、顕微鏡を用いたイメージングにより、細胞内のカルシウム濃度の変化を画像化して、各細胞が応答しているかを観察する。マルチプレートリーダーによる同時アッセイに使用した蛍光指示薬とは異なる蛍光指示薬を使用した顕微鏡観察を行うことにより、細胞応答がアーティファクトによるものでないことを確認できる。 マルチプレートリーダーによる同時アッセイは、公知の方法に従って適宜行えばよいが、FlexStation 3(Molecular Devices)を用いて、自動化蛍光カルシウムイメージングを行うのが簡便かつ迅速であり、ハイスループットアッセイが可能となる。FlexStation 3は、SpectraMax M5e(Molecular Devices)の性能と、8チャンネルピペッターを融合させたマルチプレートリーダーである。 FlexStation 3(Molecular Devices)を用いた自動化蛍光イメージングは、例えば、以下の手順に従って行うことができる。 まず、ハイグロマイシンBを除いた低グルコース(1,000mg/ml)DMEM培地で細胞を懸濁し、96ウェルプレート(Corning、CellBIND Surface)の各ウェル上に、7〜8万個ずつ撒く。 次いで、37℃で24時間培養した後、培地を除去し、適当量のHEPES(2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸)バッファーで置換し、蛍光カルシウム指示薬(Molecular Devices、FLIPR Ca 4 Assay Kitに付属のFluo-4 AM)を含むHEPESバッファーをさらに添加する。蛍光指示薬Fluo-4(励起波長:495nm、蛍光波長:518nm)は、細胞内への移行を容易にするため、脂溶性のアセトキシメチル基が導入されており、培地中に添加されると容易に細胞内に取り込まれ、細胞内のエステラーゼにより加水分解される。加水分解されたFluo-4は、細胞膜を透過しにくくなり、細胞内に拡散してカルシウムと錯形成し、強い蛍光を発する。蛍光観察用の96ウェルプレートには、プラスチック底とフィルム底があり、プラスチック底のプレートは細胞の接着性及び成長が良いので、ウェル全体を観察するマルチプレートリーダーを用いた同時アッセイ時に使用されるが、このプラスチック底のプレートは、UV波長の透過性が悪く、Fura-2の励起光の透過を阻害するため、Fluo-4を用いる。 次いで、27〜37℃で30〜60分間インキュベートした後、これに特定濃度の甘味物質又は甘味物質と試験する物質の溶液を添加することにより、27〜37℃で味刺激を行う。 甘味物質又は甘味物質と試験する物質の添加直後から60〜120秒後にかけての蛍光反応(485nm励起で525nm蛍光)を測定することにより、甘味刺激に対する甘味受容体発現細胞の応答を定量することができる。 蛍光顕微鏡を用いた蛍光カルシウムイメージングは、以下の手順に従って行うことができる。 まず、ハイグロマイシンBを除いた低グルコース(1,000mg/ml)DMEM培地で細胞を懸濁し、96ウェルプレート(Greiner、Lumox)の各ウェル上に4〜8万個ずつ撒く。 次いで、37℃で24〜48時間培養した後、培地を除去し、適当量のHEPESバッファーで置換し、蛍光カルシウム指示薬(Fura-2 AM)を含むHEPESバッファーをさらに添加する。 次いで、27〜37℃で30〜60分間インキュベートした後、細胞外の蛍光指示薬を除去し、最終的に適当量のHEPESバッファーで置換し、10〜20分間室温にて静置する。これに特定濃度の甘味物質又は甘味物質と試験する物質の溶液を適当量添加することにより室温で味刺激を行う。蛍光指示薬Fura-2(励起波長:340nm/380nm、蛍光波長:510nm)は、カルシウムイオン濃度が高くなると340nm励起の蛍光強度が上昇し、380nm励起の蛍光強度が低下する。 次いで、甘味物質又は甘味物質と試験する物質の溶液の添加直後から60〜300秒後にかけて、顕微鏡視野中の蛍光像(340nm,380nm励起で510nm蛍光)を取り込み、2波長励起蛍光の比率を擬似カラーで表示することにより、甘味刺激に対する甘味受容体発現細胞の応答を観察することができる。 以上のようにして、本発明では、生理的応答を測定する際に、カルシウムイメージング法において、蛍光特性の異なる2種類の上記蛍光指示薬を併用することにより、観察系によらない普遍的な現象を観察することができる。 以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。(実施例1) ヒト甘味受容体(hT1R2+hT1R3)とキメラGタンパク質(hG16gust44)を共に機能的に安定して発現させた培養細胞株の調製 まず、発現コンストラクトとして、EF-1αプロモーターの下流に、hT1R2をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結した配列を有し、かつ、この配列の下流にあるCMVプロモーターの下流に、hT1R3をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結した配列を有するpcDNA5/FRT(Invitrogen)(図2)を、以下の手順に従って作製した。 5’末端にBgl IIの認識配列(5’-AGATCT-3’)、その直下にEcoRVの認識配列を持つセンスプライマー(配列番号1:TATAGATCTGATATCCCCCTATGGTGCACTCTC)及びBGHpA配列中の配列を持つアンチセンスプライマー(配列番号2:TAGAAGGCACAGTCGAGG)を設計、作製した。 そして、これらのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、pcDNA5/FRT(Invitrogen)をテンプレートとして、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、Bgl IIとEcoRVの各認識配列が連結した配列を含むDNA断片を増幅した。 次いで、この増幅したDNA断片を、Bgl II及びNot Iで消化し、pcDNA5/FRT(Invitrogen)を、Bgl II及びNot Iで消化した。これらをLigation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させることにより、pcDNA5/FRT(Invitrogen)のBgl IIの認識配列の直下にEcoRVの認識配列を持つベクターを作製した。 次いで、hT1R3のコード領域の直前及び直後に、それぞれAsc Iの認識配列(5’-GGCGCGCC-3’)及びNot Iの認識配列(5’-GCGGCCGC-3’)を持つようなセンスプライマー(配列番号3:GATCGGCGCGCCGCCATGCTGGGCCCTGCTGTC)及びアンチセンスプライマー(配列番号4:GATCGCGGCCGCTCACTCATGTTTCCCCTG)を設計、作製した。 そして、これらのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、hT1R3をコードするcDNA配列を含む配列をテンプレートとしてPCRを行い、hT1R3をコードするcDNAを増幅した。 増幅したT1R3をコードするcDNA断片を、Asc I及びNot Iで消化し、pEAK10(Edge Biosystems)を、Asc I及びNot Iで消化した。 そして、これらをLigation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させて、pEAK10(Edge Biosystems)に、hT1R3をコードするcDNAを挿入した。次いで、これをHind III及びNot Iで消化し、アガロース電気泳動により、DNA断片を分離して、hT1R3のcDNA断片を精製した。 このcDNA断片と、Hind III及びNot Iで消化した、pcDNA5/FRT(Invitrogen)のBgl IIの認識配列の直下にEcoRVの認識配列を持つベクターとを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させることにより、該ベクターのマルチクローニングサイトに、hT1R3をコードするcDNAを挿入した。 次いで、IRES配列の直前にEco52Iの認識配列(5’-CGGCCG-3’)を持つようなセンスプライマー(配列番号5:GATCCGGCCGGCCCCTCTCCCTCCCCCC)及びIRES配列の終了する部分に相当するアンチセンスプライマー(配列番号6:GGTTGTGGCCATATTATC)を設計、作製した。 そして、これらのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、pIRES2-EGFP(Clontech)をテンプレートとしてPCRを行い、IRES配列を増幅した。 hG16gust44のコード領域の直前及び直後に、Not Iの認識配列(5’-GCGGCCGC-3’)を持つようなセンスプライマー(配列番号7:GATCGCGGCCGCATGGCCCGCTCGCTGACC)、アンチセンスプライマー(配列番号8:GATCGCGGCCGCGAATTCACTAGTGATTT A)を設計、作製した。hG16gust44をコードするcDNA配列を含む配列をテンプレートとしてPCRを行い、hG16gust44をコードするcDNAを増幅した。増幅断片をNot Iで消化し、pEAK10(Edge Biosystems)をNot Iで消化して、これらをLigation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させて、pEAK10(Edge Biosystems)に、hG16gust44をコードするcDNAを挿入したベクター(hG16gust44/pEAK10)を作製した。 次いで、hG16gust44の開始コドンを含む18塩基のセンスプライマー(配列番号9: ATGGCCCGCTCGCTGACC)及びhGH pA配列中の配列を持つアンチセンスプライマー(配列番号10:CTGGATGCAGGCTACTCTA)を設計、作製した。 そして、これらのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、hG16gust44/pEAK10をテンプレートとして、PCRを行い、hG16gust44をコードするcDNAを増幅した。 次いで、Eco52Iで消化した上記IRES配列と、Not Iで消化した上記hG16gust44をコードするcDNAと、Not Iで消化したpBluescript II SK(-)とを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させて、IRES2-hG16gust44/pBluescript II SK(-)を作製した。 次いで、前述したIRES2-hG16gust44/pBluescript II SK(-)を、Eco52Iで消化し、アガロース電気泳動により、DNA断片を分離して、IRES2-hG16gust44配列を精製した。 そして、マルチクローニングサイトにhT1R3をコードするcDNAを挿入した上記pcDNA5/FRT(Invitrogen)をNot Iで消化し、該ベクター中のhT1R3をコードするDNA配列の直後に存在する部分を切断した。このベクターと上記のIRES2-hG16gust44配列とを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させて、hT1R3をコードするDNA配列の直後に、IRES2-hG16gust44配列を挿入してなる、hT1R3-IRES2-hG16gust44配列を含むpcDNA5/FRTを得た。 次いで、hT1R2のコード領域の直前及び直後に、それぞれAsc Iの認識配列(5’-GGCGCGCC-3’)及びNot Iの認識配列(5’-GCGGCCGC-3’)を持つようなセンスプライマー(配列番号11:GATCGGCGCGCCGCCATGGGGCCCAGGGCAAAG)及びアンチセンスプライマー(配列番号12:GATCGCGGCCGCCTAGTCCCTCCTCATGGT)を設計、作製した。 そして、これらのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、hT1R2をコードするDNA配列を含む配列をテンプレートとしてPCRを行い、hT1R2をコードするcDNAを増幅した。得られたhT1R2をコードするcDNAを、Asc I及びNot Iで消化し、pEAK10(Edge Biosystems)を、Asc I及びNot Iで消化して、これらをLigation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させて、pEAK10(Edge Biosystems)に、hT1R2をコードするcDNAを挿入した。 次いで、前述したIRES2-hG16gust44/pBluescript II SK(-)を、Eco52Iで消化し、アガロース電気泳動により、cDNA断片を分離して、IRES2-hG16gust44配列を精製した。 そして、hT1R2をコードするcDNAを挿入したpEAK10(Edge Biosystems)をNot Iで消化し、該ベクター中のhT1R2をコードするcDNAの直後に存在する部分を切断した。このベクターと上記IRES2-hG16gust44配列とを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させて、hT1R2をコードするcDNAの直後に、IRES2-hG16gust44配列を挿入し、hT1R2-IRES2-hG16gust44配列を含むpEAK10(Edge Biosystems)を得た。 次いで、In-Fusion反応を行うためのプライマー(配列番号13:ATCGGGAGATCTGATGCATAACTAGTGAGGCTC及び配列番号14:GCACCATAGGGGGATAGCGGATCCAGACATGAT)を設計、作製し、これを用いて、上記のhT1R2-IRES2-hG16gust44配列を含むpEAK10(Edge Biosystems)をテンプレートとして、EF-1αプロモーター-hT1R2-IRES2-hG16gust44-hGH pAの領域をPCRによって増幅した。 そして、このEF-1αプロモーター-hT1R2-IRES2-hG16gust44-hGH pA配列断片と、EcoRVで消化したhT1R3-IRES2-hG16gust44配列を含むpcDNA5/FRTとを、In-Fusion Advantage PCR Cloning Kit(Clontech)を用いて結合させて、hT1R3-IRES2-hG16gust44配列の上流に、hT1R2-IRES2-hG16gust44配列を挿入した発現コンストラクトを作製した。 次いで、上記発現コンストラクト0.8μgと、pOG44 7.2μgとをリポフェクション法で、200万個のFlp-In-293細胞(Invitrogen)にトランスフェクションした。トランスフェクション2日後より、100μg/mlのハイグロマイシンB(Invitrogen)を含む培地によりハイグロマイシン耐性の細胞を選択した。同様の培地を用いて培養を続けることで、以下の実施例においてヒト甘味受容体作用性甘味調節物質の同定に使用するヒト甘味受容体(hT1R2+hT1R3)とGタンパク質αサブユニットを共に機能的に安定して発現する培養細胞株を樹立した。 その後、この培養細胞株を10%HI-FBS(Heat Inactivated Fetal Bovine Serum)、100μg/mlのハイグロマイシンB(Invitrogen)、L-グルタミン4mMを含む低グルコース(1,000mg/ml)ダルベッコ改変イーグル(DMEM)培地で、37℃で増殖、維持した。(実施例2) スクロース刺激に対して、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NHDC)を添加した 場合の甘味受容体発現細胞の生理的応答スクロースによる甘味受容体発現細胞の生理的応答が、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを添加することにより、どのように変化するかについて、自動化蛍光イメージングにより解析した。 実施例1で得た甘味受容体発現細胞をトリプシナイズし、該DMEM培地に懸濁して細胞密度を計測し、96ウェルプレート(Corning、CellBIND Surface)の各ウェル上に、約8万個ずつ撒いた。 そして、37℃で24時間培養した後、培地を除去し、50μlのHEPESバッファーで置換し、蛍光カルシウム指示薬(Molecular Devices、FLIPR Ca 4 Assay Kitに付属のFluo-4 AM)を含むHEPESバッファーをさらに50μl添加した。次いで、27℃で45分間インキュベートして、自動化蛍光イメージングに供する細胞を調製した。 次いで、この細胞に、スクロースの終濃度が表1に記載された濃度となるように、スクロースを含むHEPESバッファーを添加して、27℃でスクロース刺激を行った。 そして、スクロースを含むHEPESバッファーの添加直後から100秒後にかけての蛍光反応(485nm励起で525nm蛍光)を、FlexStation 3(Molecular Devices)を用いて測定し、スクロース刺激に対する甘味受容体発現細胞の応答を自動化蛍光イメージングにより定量した。結果を表1及び図3に示す。 上記と同様にして、自動化蛍光イメージングに供する細胞に、スクロースの終濃度が表2に記載された濃度となるように、スクロースを含むHEPESバッファーを添加し、さらに、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの終濃度が2v/v%となるように、conc.ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを含むHEPESバッファーを添加して27℃で刺激を行い、該溶液の添加直後から100秒後にかけての蛍光反応(485nm励起で525nm蛍光)を、FlexStation 3(Molecular Devices)を用いて測定し、スクロースにネオヘスペリジンジヒドロカルコンを添加した場合の甘味受容体発現細胞の応答を定量した。結果を表2及び図3に示す。図3の縦軸は、刺激直後と刺激後100秒後の間における蛍光強度の変化量の最大値(ΔF)、すなわち、細胞の応答強度であり、横軸は、対数表示のスクロース濃度(mM)を示す。 得られた結果から、ヒト甘味受容体(hT1R2+hT1R3)とキメラGタンパク質(hG16gust44)を共に機能的に安定して発現させた培養細胞株において、スクロースによる生理的応答がネオヘスペリジンジヒドロカルコンを添加することにより相乗的に上昇することが認められた。(実施例3) スクロース刺激に対して、シクラメートを添加した場合の甘味受容体発現細胞の生理的応答 スクロースによる甘味受容体発現細胞の生理的応答が、シクラメートを添加することにより、どのように変化するかについて、自動化蛍光イメージングにより解析した。実施例2と同様にして、自動化蛍光イメージングに供する細胞に、スクロースの終濃度が表3に記載された濃度となるように、スクロースを含むHEPESバッファーを添加し、さらに、シクラメートの終濃度が1mMとなるように、シクラメートを含むHEPESバッファーを添加して27℃で刺激を行い、該溶液の添加直後から100秒後にかけての蛍光反応(485nm励起で525nm蛍光)を、FlexStation 3(Molecular Devices)を用いて測定し、スクロースにシクラメートを添加した場合の甘味受容体発現細胞の応答を定量した。結果を表3及び図3に示す。 得られた結果から、ヒト甘味受容体(hT1R2+hT1R3)とキメラGタンパク質(hG16gust44)を共に機能的に安定して発現させた培養細胞株において、スクロースによる生理的応答がシクラメートを添加することにより相乗的に上昇することが認められた。(実施例4) スクロース刺激に対して、p−メトキシシンナミックアルデヒドを添加した場合の甘味受容体発現細胞の生理的応答 スクロースによる甘味受容体発現細胞の生理的応答が、p−メトキシシンナミックアルデヒドを添加することにより、どのように変化するかについて、自動化蛍光イメージングにより解析した。 実施例2と同様にして、自動化蛍光イメージングに供する細胞に、スクロースの終濃度が表4に記載された濃度となるように、スクロースを含むHEPESバッファーを添加し、さらに、p−メトキシシンナミックアルデヒドの終濃度が0.25v/v%となるように、conc.p−メトキシシンナミックアルデヒドを含むHEPESバッファーを添加して27℃で刺激を行い、該溶液の添加直後から100秒後にかけての蛍光反応(485nm励起で525nm蛍光)を、FlexStation 3(Molecular Devices)を用いて測定し、スクロースにp−メトキシシンナミックアルデヒドを添加した場合の甘味受容体発現細胞の応答を定量した。結果を表4及び図3に示す。 得られた結果から、ヒト甘味受容体(hT1R2+hT1R3)とキメラGタンパク質(hG16gust44)を共に機能的に安定して発現させた培養細胞株において、スクロースによる生理的応答がp−メトキシシンナミックアルデヒドを添加することにより相乗的に上昇することが認められた。(実施例5) スクロース刺激に対して、シクロテンを添加した場合の甘味受容体発現細胞の生理的応答 スクロースによる甘味受容体発現細胞の生理的応答が、シクロテンを添加することにより、どのように変化するかについて、自動化蛍光イメージングにより解析した。 実施例2と同様にして、自動化蛍光イメージングに供する細胞に、スクロースの終濃度が表5に記載された濃度となるように、スクロースを含むHEPESバッファーを添加し、さらに、シクロテンの終濃度が0.25mMとなるように、シクロテンを含むHEPESバッファーを添加して27℃で刺激を行い、該溶液の添加直後から100秒後にかけての蛍光反応(485nm励起で525nm蛍光)を、FlexStation 3(Molecular Devices)を用いて測定し、スクロースにシクロテンを添加した場合の甘味受容体発現細胞の応答を定量した。結果を表5及び図3に示す。 この結果から、ヒト甘味受容体(hT1R2+hT1R3)とキメラGタンパク質(hG16gust44)を共に機能的に安定して発現させた培養細胞株において、スクロースによる生理的応答がシクロテンを添加することにより相乗的に上昇することが認められた。 実施例2〜5で試験された各物質の濃度は、いずれも該物質を単独で投与した際に細胞応答が観察される濃度以下であるが、スクロースに対する細胞応答の感度を相乗的に上昇させることができた。 なお、スクロースは甘味の程度が弱いため、50mM程度の濃度で添加しないと甘味受容体細胞の応答は観察されない。しかし、逆に200mMを超える濃度のスクロース溶液を添加すると、細胞が浸透圧の影響を受けるため、正常な細胞応答を測定することが困難になる。したがって、通常、細胞を用いた甘味アッセイ系でスクロースの甘味度を数値化できるのは約50から200mMという狭い範囲に限定されるが、上記細胞系及び当該ヒト甘味受容体作用性甘味増強物質を利用すれば、この限界値の下限を更に低くすることが可能になる。(実施例6) スクロース刺激に対して、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを添加した場合の甘味受容体発現細胞の生理的応答 スクロースによる甘味受容体発現細胞の生理的応答が、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを添加することにより、どのように変化するかについて、蛍光顕微鏡を用いた蛍光カルシウムイメージングにより解析した。 まず、ハイグロマイシンBを除いた低グルコース(1,000mg/ml)DMEM培地で、実施例1で得た甘味受容体発現細胞を懸濁し、96ウェルプレート(Greiner、Lumox)の各ウェル上に約8万個ずつ撒いた。 そして、37℃で24時間培養した後、培地を除去し、50μlのHEPESバッファーで置換し、蛍光カルシウム指示薬(Fura-2 AM)を含むHEPESバッファーをさらに50μl添加した。 次いで、27℃で30分間インキュベートした後、細胞外の蛍光指示薬を除去し、最終的に100μlのHEPESバッファーで置換し、15分間室温にて静置して、蛍光顕微鏡を用いた蛍光カルシウムイメージングに供する細胞を調製した。 この細胞に、スクロースの終濃度が100mMとなるように、スクロースを含むHEPESバッファーを添加することにより室温でスクロース刺激を行った。 そして、該スクロース溶液を添加してから30秒後の顕微鏡視野中の蛍光像(340nm、380nm励起で510nm蛍光)を取り込み、2波長励起蛍光の比率を擬似カラーで表示し、スクロースによる細胞応答を観察した。結果を図4に示す。 上記と同様にして、蛍光カルシウムイメージングに供する細胞に、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの終濃度が5v/v%となるように、conc.ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを含むHEPESバッファーを添加することにより室温で刺激を行い、細胞の状態を蛍光画像で観察した。結果を図4に示す。 上記と同様にして、蛍光カルシウムイメージングに供する細胞に、スクロースの終濃度が100mMとなるように、スクロースを含むHEPESバッファーを添加し、さらに、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの終濃度が5v/v%となるように、conc.ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを含むHEPESバッファーを添加することにより室温で刺激を行い、細胞の状態を蛍光画像で観察した。結果を図4に示す。 得られた結果から、ヒト甘味受容体(hT1R2+hT1R3)とキメラGタンパク質(hG16gust44)を共に機能的に安定して発現させた培養細胞株において、スクロースによる生理的応答がネオヘスペリジンジヒドロカルコンを添加することにより増大することが視覚的に確認できた。(実施例7) スクロース刺激に対して、シクラメートを添加した場合の甘味受容体発現細胞の生理的応答 スクロースによる甘味受容体発現細胞の生理的応答が、シクラメートを添加することにより、どのように変化するかについて、蛍光顕微鏡を用いた蛍光カルシウムイメージングにより解析した。 実施例6と同様にして、蛍光カルシウムイメージングに供する細胞に、スクロースの終濃度が100mMとなるように、スクロースを含むHEPESバッファーを添加することにより室温でスクロース刺激を行い、スクロース溶液を添加してから30秒後の顕微鏡視野中の蛍光像(340nm、380nm励起で510nm蛍光)を取り込み、2波長励起蛍光の比率を擬似カラーで表示し、スクロースによる細胞応答を観察した。結果を図4に示す。 実施例6と同様にして、蛍光カルシウムイメージングに供する細胞に、シクラメートの終濃度が0.5mMとなるように、シクラメートを含むHEPESバッファーを添加することにより室温で刺激を行い、細胞の状態を蛍光画像で観察した。結果を図4に示す。 実施例6と同様にして、蛍光カルシウムイメージングに供する細胞に、スクロースの終濃度が100mMとなるように、スクロースを含むHEPESバッファーを添加し、さらに、シクラメートの終濃度が0.5mMとなるように、シクラメートを含むHEPESバッファーを添加することにより室温で刺激を行い、細胞の状態を蛍光画像で観察した。結果を図4に示す。 得られた結果から、ヒト甘味受容体(hT1R2+hT1R3)とキメラGタンパク質(hG16gust44)を共に機能的に安定して発現させた培養細胞株において、スクロースによる生理的応答がシクラメートを添加することにより増大することが視覚的に確認できた。(実施例8) スクロース刺激に対して、p−メトキシシンナミックアルデヒドを添加した場合の甘味受容体発現細胞の生理的応答 スクロースによる甘味受容体発現細胞の生理的応答が、p−メトキシシンナミックアルデヒドを添加することにより、どのように変化するかについて、蛍光顕微鏡を用いた蛍光カルシウムイメージングにより解析した。 実施例6と同様にして、蛍光カルシウムイメージングに供する細胞に、スクロースの終濃度が100mMとなるように、スクロースを含むHEPESバッファーを添加することにより室温でスクロース刺激を行い、スクロース溶液を添加してから30秒後の顕微鏡視野中の蛍光像(340nm、380nm励起で510nm蛍光)を取り込み、2波長励起蛍光の比率を擬似カラーで表示し、スクロースによる細胞応答を観察した。結果を図4に示す。 実施例6と同様にして、蛍光カルシウムイメージングに供する細胞に、p−メトキシシンナミックアルデヒドの終濃度が5v/v%となるように、conc.p−メトキシシンナミックアルデヒドを含むHEPESバッファーを添加することにより室温で刺激を行い、細胞の状態を蛍光画像で観察した。結果を図4に示す。 実施例6と同様にして、蛍光カルシウムイメージングに供する細胞に、スクロースの終濃度が100mMとなるように、スクロースを含むHEPESバッファーを添加し、さらに、p−メトキシシンナミックアルデヒドの終濃度が5v/v%となるように、conc.p−メトキシシンナミックアルデヒドを含むHEPESバッファーを添加することにより室温で刺激を行い、細胞の状態を蛍光画像で観察した。結果を図4に示す。 得られた結果から、ヒト甘味受容体(hT1R2+hT1R3)とキメラGタンパク質(hG16gust44)を共に機能的に安定して発現させた培養細胞株において、スクロースによる生理的応答がp−メトキシシンナミックアルデヒドを添加することにより増大することが視覚的に確認できた。(実施例9) スクロース刺激に対して、シクロテンを添加した場合の甘味受容体発現細胞の生理的応答 スクロースによる甘味受容体発現細胞の生理的応答が、シクロテンを添加することにより、どのように変化するかについて、蛍光顕微鏡を用いた蛍光カルシウムイメージングにより解析した。 実施例6と同様にして、蛍光カルシウムイメージングに供する細胞に、スクロースの終濃度が100mMとなるように、スクロースを含むHEPESバッファーを添加することにより室温でスクロース刺激を行い、スクロース溶液を添加してから30秒後の顕微鏡視野中の蛍光像(340nm、380nm励起で510nm蛍光)を取り込み、2波長励起蛍光の比率を擬似カラーで表示し、スクロースによる細胞応答を観察した。結果を図4に示す。 実施例6と同様にして、蛍光カルシウムイメージングに供する細胞に、シクロテンの終濃度が0.5mMとなるように、シクロテンを含むHEPESバッファーを添加することにより室温で刺激を行い、細胞の状態を蛍光画像で観察した。結果を図4に示す。 実施例6と同様にして、蛍光カルシウムイメージングに供する細胞に、スクロースの終濃度が100mMとなるように、スクロースを含むHEPESバッファーを添加し、さらに、シクロテンの終濃度が0.5mMとなるように、シクロテンを含むHEPESバッファーを添加することにより室温で刺激を行い、細胞の状態を蛍光画像で観察した。結果を図4に示す。 得られた結果から、ヒト甘味受容体(hT1R2+hT1R3)とキメラGタンパク質(hG16gust44)を共に機能的に安定して発現させた培養細胞株において、スクロースによる生理的応答がシクロテンを添加することにより増大することが視覚的に確認できた。(実施例10) アスパルテーム刺激に対して、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを添加した場合の甘味受容体発現細胞の生理的応答 アスパルテームによる甘味受容体発現細胞の生理的応答が、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを添加することにより、どのように変化するかについて、自動化蛍光イメージングにより解析した。 実施例2と同様に調製した自動化蛍光イメージングに供する細胞に、アスパルテームの終濃度が表6に記載された濃度となるように、アスパルテームを含むHEPESバッファーを添加して、27℃でアスパルテーム刺激を行った。 そして、アスパルテームを含むHEPESバッファーの添加直後から100秒後にかけての蛍光反応(485nm励起で525nm蛍光)を、FlexStation 3(Molecular Devices)を用いて測定し、アスパルテームによる甘味刺激に対する甘味受容体発現細胞の応答を自動化蛍光イメージングにより定量した。結果を表6及び図5に示す。 上記と同様にして、実施例2と同様に調製した自動化蛍光イメージングに供する細胞に、アスパルテームの終濃度が表7に記載された濃度となるように、アスパルテームを含むHEPESバッファーを添加し、さらに、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの終濃度が5v/v%となるように、conc.ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを含むHEPESバッファーを添加して27℃で刺激を行い、該溶液の添加直後から100秒後にかけての蛍光反応(485nm励起で525nm蛍光)を、FlexStation 3(Molecular Devices)を用いて測定し、アスパルテームにネオヘスペリジンジヒドロカルコンを添加した場合の甘味受容体発現細胞の応答を定量した。結果を表7及び図5に示す。図5の縦軸は、刺激直後と刺激後100秒後の間における蛍光強度の変化量の最大値(ΔF)、すなわち、細胞の応答強度であり、横軸は、対数表示のアスパルテーム濃度(mM)を示す。 得られた結果から、ヒト甘味受容体(hT1R2+hT1R3)とキメラGタンパク質(hG16gust44)を共に機能的に安定して発現させた培養細胞株において、アスパルテームによる生理的応答がネオヘスペリジンジヒドロカルコンを添加することにより相乗的に上昇することが認められた。(実施例10) ステビア刺激に対して、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを添加した場合の甘味受容体発現細胞の生理的応答 ステビアによる甘味受容体発現細胞の生理的応答が、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを添加することにより、どのように変化するかについて、自動化蛍光イメージングにより解析した。 実施例2と同様に調製した自動化蛍光イメージングに供する細胞に、ステビアの終濃度が表8に記載された濃度となるように、ステビアを含むHEPESバッファーを添加して、27℃でステビア刺激を行った。 そして、ステビアを含むHEPESバッファーの添加直後から40秒後にかけての蛍光反応(485nm励起で525nm蛍光)を、FlexStation 3(Molecular Devices)を用いて測定し、ステビアによる甘味刺激に対する甘味受容体発現細胞の応答を自動化蛍光イメージングにより定量した。結果を表8及び図6に示す。 上記と同様にして、実施例2と同様に調製した自動化蛍光イメージングに供する細胞に、ステビアの終濃度が表9に記載された濃度となるように、ステビアを含むHEPESバッファーを添加し、さらに、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの終濃度が5v/v%となるように、conc.ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを含むHEPESバッファーを添加して27℃で刺激を行い、該溶液の添加直後から100秒後にかけての蛍光反応(485nm励起で525nm蛍光)を、FlexStation 3(Molecular Devices)を用いて測定し、ステビアにネオヘスペリジンジヒドロカルコンを添加した場合の甘味受容体発現細胞の応答を定量した。結果を表9及び図6に示す。図6の縦軸は、刺激直後と刺激後100秒後の間における蛍光強度の変化量の最大値(ΔF)、すなわち、細胞の応答強度であり、横軸は、対数表示のステビア濃度(mg/ml)を示す。 得られた結果から、ヒト甘味受容体(hT1R2+hT1R3)とキメラGタンパク質(hG16gust44)を共に機能的に安定して発現させた培養細胞株において、ステビアによる生理的応答がネオヘスペリジンジヒドロカルコンを添加することにより相乗的に上昇することが認められた。(実施例10) サッカリン刺激に対して、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを添加した場合の甘味受容体発現細胞の生理的応答 サッカリンによる甘味受容体発現細胞の生理的応答が、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを添加することにより、どのように変化するかについて、自動化蛍光イメージングにより解析した。 実施例2と同様に調製した自動化蛍光イメージングに供する細胞に、サッカリンの終濃度が表10に記載された濃度となるように、サッカリンを含むHEPESバッファーを添加して、27℃でサッカリン刺激を行った。 そして、サッカリンを含むHEPESバッファーの添加直後から100秒後にかけての蛍光反応(485nm励起で525nm蛍光)を、FlexStation 3(Molecular Devices)を用いて測定し、サッカリンによる甘味刺激に対する甘味受容体発現細胞の応答を自動化蛍光イメージングにより定量した。結果を表10及び図7に示す。 上記と同様にして、実施例2と同様に調製した自動化蛍光イメージングに供する細胞に、サッカリンの終濃度が表11に記載された濃度となるように、サッカリンを含むHEPESバッファーを添加し、さらに、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの終濃度が5v/v%となるように、conc.ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを含むHEPESバッファーを添加して27℃で刺激を行い、該溶液の添加直後から40秒後にかけての蛍光反応(485nm励起で525nm蛍光)を、FlexStation 3(Molecular Devices)を用いて測定し、サッカリンにネオヘスペリジンジヒドロカルコンを添加した場合の甘味受容体発現細胞の応答を定量した。結果を表11及び図7に示す。図7の縦軸は、刺激直後と刺激後100秒後の間における蛍光強度の変化量の最大値(ΔF)、すなわち、細胞の応答強度であり、横軸は、対数表示のサッカリン濃度(mM)を示す。 得られた結果から、ヒト甘味受容体(hT1R2+hT1R3)とキメラGタンパク質(hG16gust44)を共に機能的に安定して発現させた培養細胞株において、サッカリンによる生理的応答がネオヘスペリジンジヒドロカルコンを添加することにより相乗的に上昇することが認められた。(実施例11) スクロース刺激に対して、エチルバニリン又はマルトールを添加した場合の甘味受容体発現細胞の生理的応答 スクロースによる甘味受容体発現細胞の生理的応答が、エチルバニリン又はマルトールを添加することにより、どのように変化するかについて、蛍光顕微鏡を用いた蛍光カルシウムイメージングにより解析した。 実施例2と同様にして、自動化蛍光イメージングに供する細胞に、スクロースの終濃度が200mMとなるように、スクロースを含むHEPESバッファーを添加することにより室温でスクロース刺激を行った。 そして、該スクロース溶液を添加してから30秒後の顕微鏡視野中の蛍光像(340nm、380nm励起で510nm蛍光)を取り込み、2波長励起蛍光の比率を擬似カラーで表示し、スクロースによる細胞応答を観察した。結果を図8に示す。 上記と同様にして、蛍光カルシウムイメージングに供する細胞に、スクロースの終濃度が200mMとなるように、スクロースを含むHEPESバッファーを添加し、さらに、エチルバニリンの終濃度が1mMとなるように、エチルバニリンを含むHEPESバッファーを添加することにより室温で刺激を行い、細胞の状態を蛍光画像で観察した。結果を図8に示す。 また、上記と同様にして、蛍光カルシウムイメージングに供する細胞に、スクロースの終濃度が200mMとなるように、スクロースを含むHEPESバッファーを添加し、さらに、マルトールの終濃度が1mMとなるように、マルトールを含むHEPESバッファーを添加することにより室温で刺激を行い、細胞の状態を蛍光画像で観察した。結果を図8に示す。 得られた結果から、ヒト甘味受容体(hT1R2+hT1R3)とキメラGタンパク質(hG16gust44)を共に機能的に安定して発現させた培養細胞株において、スクロースによる生理的応答がエチルバニリン又はマルトールを添加することにより抑制されることが視覚的に確認できた。 本発明によれば、ヒト甘味受容体を介する甘味調節効果が客観的に確認されたヒト甘味受容体作用性甘味調節物質を提供することができ、幅広い飲食品に適用することにより、味の改善、甘味料の節約、低カロリー化、低う蝕性などの有益な効果を得ることができる。 hT1R2及びhT1R3並びにGタンパク質αサブユニットをコードする各cDNAを同一のプラスミドに挿入して得られた発現コンストラクトを、ゲノムDNA中にFRT(Flippase Recognition Target)部位が1か所組み込まれた293細胞に導入して発現させた培養細胞株を用いた、甘味物質による生理的応答の測定によって同定された、甘味物質に対するヒト甘味受容体作用性甘味調節物質。 Gタンパク質αサブユニットが、hG16gust44である請求項1に記載のヒト甘味受容体作用性甘味調節物質。 甘味物質が、スクロースである請求項1又は2に記載のヒト甘味受容体作用性甘味調節物質。 甘味物質に対する生理的応答の測定が、カルシウムイメージングによる測定である請求項1〜3のいずれか1項に記載のヒト甘味受容体作用性甘味調節物質。 ヒト甘味受容体作用性甘味調節物質が、ヒト甘味受容体作用性甘味増強物質である請求項1〜4のいずれか1項に記載のヒト甘味受容体作用性甘味調節物質。 請求項5に記載のヒト甘味受容体作用性甘味調節物質を含むヒト甘味受容体作用性甘味増強剤。 ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NHDC)、シクラメート、p−メトキシシンナミックアルデヒド又はシクロテンを含む、甘味物質に対するヒト甘味受容体作用性甘味増強剤。 ヒト甘味受容体作用性甘味調節物質が、ヒト甘味受容体作用性甘味抑制物質である請求項1〜4のいずれか1項に記載のヒト甘味受容体作用性甘味調節物質。 請求項8に記載のヒト甘味受容体作用性甘味調節物質を含むヒト甘味受容体作用性甘味抑制剤。 ラクチゾール、バニリン、エチルバニリン、クレオソール、又はマルトールを含む、甘味物質に対するヒト甘味受容体作用性甘味抑制剤。 【課題】種々の飲食品に適用することにより、味の改善、甘味料の節約、低カロリー化、低う蝕性などの有益な効果を得ることができる甘味物質に対するヒト甘味受容体作用性甘味調節物質を提供する。【解決手段】本発明のヒト甘味受容体作用性甘味調節物質は、hT1R2及びhT1R3並びにGタンパク質αサブユニットをコードする各cDNAを同一のプラスミドに挿入して得られた発現コンストラクトを、ゲノムDNA中にFRT(Flippase Recognition Target)部位が1か所組み込まれた293細胞に導入して発現させた培養細胞株を用いた、甘味物質による生理的応答の測定によって同定される。【選択図】なし配列表