タイトル: | 公開特許公報(A)_甘味受容体発現コンストラクト、これを発現させた細胞体、及びその利用 |
出願番号: | 2009274976 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C12N 15/09,C12N 5/10,C12Q 1/02 |
阿部 啓子 三坂 巧 今田 隆将 藤原 聡 JP 2011115088 公開特許公報(A) 20110616 2009274976 20091202 甘味受容体発現コンストラクト、これを発現させた細胞体、及びその利用 国立大学法人 東京大学 504137912 長谷川香料株式会社 000214537 嶋崎 英一郎 100108143 河野 尚孝 100105429 荒井 鐘司 100093735 石井 あき子 100153109 阿部 啓子 三坂 巧 今田 隆将 藤原 聡 C12N 15/09 20060101AFI20110520BHJP C12N 5/10 20060101ALI20110520BHJP C12Q 1/02 20060101ALI20110520BHJP JPC12N15/00 AC12N5/00 102C12Q1/02 15 OL 39 4B024 4B063 4B065 4B024AA05 4B024CA04 4B024CA20 4B024DA03 4B024EA04 4B024GA11 4B063QA01 4B063QQ08 4B063QR51 4B063QS36 4B063QX02 4B065AA93X 4B065AB01 4B065AC20 4B065BA02 4B065CA41 本発明は、甘味受容体発現コンストラクト、これを発現させた細胞体、及びその利用に関し、詳しくは、甘味受容体(T1R2+T1R3)とGタンパク質を共に機能的に安定に発現させて、所望する甘味受容体発現細胞を生産させるのに有用な甘味受容体発現コンストラクト、これを発現させた細胞体、及びその利用に関する。 味覚は、物質を口にした時に、特に舌の表面に存在する特異的な受容体と物質が結合することによって生じる感覚である。哺乳類の味覚は、5つの基本味、すなわち、塩味、酸味、甘味、うま味、苦味で構成されており、これらの基本味が統合することによって形成されると考えられている。現在のところ、塩味、酸味は、舌の表面の味蕾に存在する味細胞の近位側の細胞膜上に発現するいくつかのイオンチャネル型受容体を介して感知されると言われており、特に酸味については、TRPチャネルファミリーであるPKD2L1+PKD1L3からなるイオンチャネル型受容体が機能していると考えられている。 一方、甘味、うま味、苦味については、味細胞に存在する膜タンパク質であるGタンパク質共役受容体(G protein coupled receptor(GPCR))と、それに共役するGタンパク質を介したシグナル伝達によって感知されると考えられており、具体的には、甘味はT1R2+T1R3のヘテロダイマー(甘味受容体)、うま味はT1R1+T1R3のヘテロダイマー(うま味受容体)で受容され、苦味はT2Rファミリーと命名された約30種類の分子(苦味受容体)で受容されることが明らかにされている。 上記Gタンパク質は、α、β、γの3つのサブユニットで構成されている。α、β、γのサブユニットが結合した状態は不活性型であり、味物質がGタンパク質共役受容体に結合すると、αサブユニットに結合していたGDP(グアノシン5’二リン酸)がGTPに置換されて、GTP-αサブユニットとβ-γサブユニットの結合体に解離した活性型になる。 味覚情報の伝達機構のしくみについては、完全に解明されたわけではないが、一般には以下のように理解されている。すなわち、まず、味物質が味細胞の受容体に結合すると、細胞内のセカンドメッセンジャー(IP3、DAG)などを介する情報伝達過程を経て、細胞内のカルシウム濃度が上昇し、次いで、細胞内に供給されたカルシウムイオンは、神経伝達物質をシナプスに放出させて神経細胞に活動電位を発生させ、その結果、受容体を起点とした味覚シグナルが味神経から脳に伝達されて味覚情報が識別、判断される、というのが通説である。また、最近、カルシウムイオンがTRPM5という新規な陽イオンチャネルを開口させ、一価陽イオンが細胞内に流入することで脱分極するという説も認められつつある。 上述した、塩味、酸味、甘味、うま味、苦味からなる5つの基本味のうち、特に甘味は、血液中の糖分が減少したときに、非常に美味しく感じる味であり、また、糖を含むエネルギー源としてのイメージをヒトに与え、さらには、他の基本味に比べて強い満足感、幸福感を引き起こし、ヒトの情動と深く関係していることから、飲食品などの嗜好性を決定する上で中心となる味である。 しかしながら、甘味は、他の基本味に比べて最小感度(閾値)が高く、少量では感知しにくいという特性がある。他方、甘味が強すぎると、ハイカロリー、肥満などの健康的でないイメージを誘起することになる。そのため、甘味を付与した飲食品などを製造する場合、ヒトが感知できる甘味であって、かつ、好ましく受け入れられる甘味になるように、甘味の強度を調節することが重要である。 ヒトが飲食品などを口中に含んだ時に感知する甘味の強度は、従来、主として、ヒトの官能評価によって検証されている。しかし、官能評価では、味覚と嗅覚から感知される情報を統合的に評価することになるため、物質が味覚に対してどの程度作用しているのかを検証することは困難である。特に、閾値以下の甘味を有する物質については、閾値以下のレベルの甘味をヒトは感知できないことから、甘味の程度を検証することは非常に困難である。さらに、物質間における甘味強度の違いを客観的に評価することも非常に困難である。また、官能評価あるいは官能検査では、良く訓練された評価者(パネル又はパネラーと呼ばれる)間の評価のバラツキも無視することはできない。 そこで、ヒトによる官能評価に代えて、舌の表面の味蕾に存在する味細胞を単離し、これを用いて甘味強度を評価することも考えられる。しかし、舌の表面の味蕾に存在する味細胞を単離したものは、培養プレートへの接着が非常に弱く、すぐに死んでしまうため、時間を要する評価には使用することができない。 前述したように、甘味は、飲食品などの嗜好性を決定する上で中心となる味であることから、例えば、甘味受容体に作用して甘味を増強する物質を同定することができれば、同定された該物質を使用して、飲食品、医薬品などの味の改善、甘味料の使用量の削減、摂取カロリーの低下などの有益な効果を達成することができる。そのため、飲食品、フレーバーなどの産業界からは、そのような甘味増強物質に対して多大な関心が寄せられている。 そこで、官能評価に代わる新たな甘味強度の評価方法として、甘味受容体を実際に発現させた細胞系を用いて、物質の甘味強度を客観的に測定、評価する方法が報告されている。 具体的には、例えば、特許文献1の実施例11において、Gα15発現細胞株(Aurora BioscienceのHEK-293細胞株)に、hT1R2の発現コンストラクト(プラスミドSAV2486)を含む線状化したpEAK10由来(Edge Biosystems)ベクターと、hT1R3の発現コンストラクト(プラスミドSXV550)を含むpCDNA3.1/ZEO由来(Invitrogen)ベクターとを、トランスフェクトすることにより、hT1R2/hT1R3を共発現させて生成した細胞株が報告されている。 また、特許文献2の実施例6には、hT1R2のcDNAを含むベクター、hT1R3のcDNAを含むベクター、キメラGαタンパク質をコードする遺伝子を含むベクター、及びトランスフェクション効率のマーカーpDsRed2−N1(タカラバイオ社)を、DNA導入比率が重量比(4:4:1:0.2)、導入量4.6〜5.5μgとなるようにして、Lipofectamine 2000 reagent(Invitrogen)を用いてHEK-293T細胞に導入して、hT1R2−hT1R3、及びキメラGαタンパク質をHEK-293T細胞に共発現させたシグナリング系が開示されている。 また、特許文献3の実施例7には、hT1R3をコードするcDNAを含む線状pIRES2-Puroベクター(Clontech)を、Gα16gust44を発現する細胞にトランスフェクトし、次いで、hT1R2をコードするcDNA含む線状pcDNA4-TOベクター(Invitrogen)をトランスフェクトすることにより、hT1R2/hT1R3を共発現させて生成した細胞株が記載されている。特開2008−13570号公報特開2008−228690号公報WO2007−121604号公報 従来の甘味受容体を発現させた細胞系は、いずれも所定のGタンパク質を発現する細胞を事前に作製あるいは入手しておき、これにT1R2をコードする遺伝子を含むベクター、及びT1R3をコードする遺伝子を含むベクターをそれぞれトランスフェクトすることによって作製されている。 しかしながら、そのような方法によって細胞系を作製すると、各ベクターの細胞への導入効率が同一ではなく、いずれかが優位に導入されることがあり、また、導入した目的遺伝子が細胞のゲノム中にランダムに挿入され、極端な場合には、導入した目的遺伝子がゲノム中の転写されない不活性部分に挿入されることがある。 そのため、得られた細胞系には、以下の問題点があった。(1)従来の細胞系の中には、T1R2及びT1R3のいずれか一方又は両方が発現されておらず、中には、細胞内の一連のシグナル伝達機構を実質的に備えていないものがあった。すなわち、従来の細胞系は、甘味の受容・伝達機構を備えた機能的に優れたモデルであるとは言えなかった。(2)Gタンパク質は細胞間で一定量が発現されるものの、T1R2、T1R3の発現量及び発現比率が細胞間で異なり、バラツキが大きかった。そのため、甘味に関する評価結果について、細胞間での直接比較、特に各種点変異体コンストラクトを用いて発現させた細胞間での直接比較は困難であった。(3)細胞の継代に伴い、導入されたT1R2、T1R3をコードする遺伝子が排除されることが高頻度で起こり、したがって、連続して継代的に甘味受容体を安定的に発現できる細胞系ではなかった。(4)細胞系のGタンパク質を変更する場合には、所望するGタンパク質を発現する細胞を新たに作製、入手しておく必要があった。(5)スクロース等の閾値が高い甘味物質に対しては、細胞の応答性が実用上必ずしも十分とは言えなかった。 そこで、本発明は、上記問題点を解決することができる発現コンストラクト、及び該発現コンストラクトを発現させた安定発現細胞体を提供することにある。 本発明者らは、上記問題点を解決するために検討を重ねた結果、Flpリコンビナーゼの特異的認識部位であるFRT部位を含み、かつ、T1R2、T1R3、Gタンパク質をコードする各遺伝子を同一のプラスミドに挿入した発現コンストラクトを作製し、これを所定の細胞に導入してT1R2、T1R3、Gタンパク質を発現させることによって、甘味受容体(T1R2+T1R3)とGタンパク質αサブユニットを共に高い発現効率で機能的に安定して発現させることができることを見出し、かかる知見に基づいて、本発明を完成するに至った。 かくして、本発明は、甘味受容体サブユニットT1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットをコードする各遺伝子を同一のプラスミドに挿入してなる甘味受容体発現コンストラクトを提供するものである。 また、本発明は、ゲノム中にFRT(Flippase Recognition Target)配列を1か所組み込まれた293細胞に、請求項1〜12のいずれか1項に記載の甘味受容体発現コンストラクトを遺伝子導入して甘味受容体サブユニットT1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットを同時に発現させた細胞株を提供するものである。 また、本発明は、甘味物質に対する生理的応答を測定するための上記細胞株の使用である。 また、本発明は、上記細胞株を使用した、甘味物質に対する生理的応答の測定により同定された、特定の甘味物質に対する甘味増強物質を、該甘味物質の生理的応答を測定する際に添加することにより、該甘味物質の甘味の閾値以下の濃度で該甘味物質の生理的応答を測定する方法である。 本発明によって、以下に示す効果が得られる。(1)本発明の甘味受容体発現コンストラクトは、甘味受容体刺激による細胞内シグナル伝達が生じるように、T1R2、T1R3、及びそれらに共役するGタンパク質を機能的に発現することができる。したがって、上記コンストラクトを発現させた細胞株は、実際の甘味受容によって生じる甘味の知覚を、in vivoで客観的に評価することができる最適なモデルとなり、また、甘味物質、甘味調節物質などを同定、選択する味覚センサーとして使用することができ、特に高スループットスクリーニングアッセイにおいて極めて有用である。なお、甘味調節物質とは、甘味受容体(T1R2+T1R3)に作用することによって、甘味物質単独で得られる甘味受容体からの生理的応答、すなわち、甘味の強度を改変させる物質を意味する。(2)本発明の甘味受容体発現コンストラクトは、T1R2、T1R3、及びそれらに共役するGタンパク質を同等の比率で機能的に発現することができる。したがって、本発明の細胞株によれば、異なる点変異体を導入した甘味受容体、あるいは種々のGタンパク質を発現させた複数の安定発現株について、直接比較による比較実験を行うことができる。(3)本発明の細胞株は、長期にわたってT1R2、T1R3、及びそれらに共役するGタンパク質を発現することができ、安定性が高い。継代数にかかわらず、T1R2、T1R3、及びそれらに共役するGタンパク質の発現量の変化が小さいため、長期間継代して利用することができる。(4)本発明の細胞株を作製する場合、従来のように、所望するGタンパク質を発現する細胞を作製、入手しておく必要がない。(5)本発明の細胞株は、甘味物質に対して高い応答性を示すため、甘味の強度が閾値以下にある物質であっても、甘味の強度を評価することができる。pcDNA5/FRT(Invitrogen)の構造を示す図である。本発明の甘味受容体発現コンストラクトにおいて、第一の好適な具体的態様である甘味受容体発現コンストラクト(A)、第二の好適な具体的態様である甘味受容体発現コンストラクト(B)、第三の好適な具体的態様である甘味受容体発現コンストラクト(C)の構造の一部を示す図である。甘味受容体発現コンストラクト(A)の作製工程(a)で得られる生成物を示す図である。甘味受容体発現コンストラクト(A)の作製工程(b)で得られる生成物を示す図である。甘味受容体発現コンストラクト(A)の作製工程(c)で得られる生成物を示す図である。甘味受容体発現コンストラクト(A)の作製工程(d)で得られる生成物を示す図である。甘味受容体発現コンストラクト(A)の作製工程(e)で得られる生成物を示す図である。甘味受容体発現コンストラクト(A)の作製工程(f)で得られる生成物を示す図である。甘味受容体発現コンストラクト(A)の作製工程(g)で得られる生成物を示す図である。実施例5において、比較として使用した発現コンストラクトの構造の一部を示す図である。アスパルテーム刺激に対する応答細胞数の結果を示す図である。培養細胞株(A)にアスパルテームを投与した際の蛍光イメージ画像を示す図である。培養細胞株(A)にスクロースを投与した際の蛍光イメージ画像を示す図である。培養細胞株(A)にスクロースとラクチゾールを投与した際の蛍光イメージ画像を示す図である。培養細胞株(A)にスクロースを投与した際のスクロース濃度-応答曲線である。培養細胞株(A)にD-フェニルアラニンを投与した際のD-フェニルアラニン濃度-応答曲線である。培養細胞株(A)にアスパルテームを投与した際のアスパルテーム濃度-応答曲線である。培養細胞株(A)にサッカリンを投与した際のサッカリン濃度-応答曲線である。培養細胞株(A)にステビアを投与した際のステビア濃度-応答曲線である。培養細胞株(A)にネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NHDC)を投与した際のネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NHDC)濃度-応答曲線である。培養細胞株(A)にシクラメートを投与した際のシクラメート濃度-応答曲線である。 以下、本発明について更に詳細に説明する。 本発明において、発現コンストラクトとは、所望のコード配列及び該コード配列を発現させるために必要なプロモーター、ターミネーター、マーカー遺伝子、FRT部位をコードする遺伝子などの適切な核酸配列を連結したDNA断片を細胞に移動させる核酸分子の意味であり、発現ベクターと同様の意味である。 転写開始シグナルとして機能するプロモーターは、細胞に導入する遺伝子を発現する機能を有するものであれば限定されず、例えば、CMV(サイトメガロウイルス)、EF−1α、SRα、CAGなどが例示される。 転写を終結させる核酸配列であるターミネーターとしては、SV40 pAが例示される。SV40 pAは、237bpのBamHI/BcII制限酵素断片上に含まれ、終結及びポリアデニル化の両方をもたらし、ウシ成長ホルモン(BGH)由来するものが多く利用されている。 目的とする遺伝子が導入されたことを確認するための目印として導入される遺伝子であるマーカー遺伝子としては、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子などが例示される。 FRT部位をコードする遺伝子は、pFRTβGAL(STRATAGE、protocol、SEQUENCE AND SITES、Catalog#218403、May 28、1991)に開示される2087−2147の塩基配列が該当する。 甘味受容体とは、前述したように、T1R2とT1R3の2つのサブユニットを組み合わせることによって構成されるヘテロオリゴマー受容体である。本発明において、甘味受容体サブユニットT1R2及びT1R3には、ヒトの甘味受容体サブユニット(hT1R2、hT1R3)だけでなく、ラット、マウス、ブタ、イヌなど、他の動物種(哺乳類、魚類、爬虫類、両生類、鳥類など)の甘味受容体サブユニットも含まれる。 また、甘味受容体サブユニットT1R2及びT1R3には、各サブユニットの全ての部分、すなわち、7つの膜貫通領域及び対応する細胞質及び細胞外のループからなる膜貫通ドメイン、ビーナス・フライ・トラップドメイン、高システインドメイン及びC末端ドメインの全ての領域が含まれる。 また、甘味受容体サブユニットT1R2及びT1R3には、T1R2及びT1R3の点変異体、キメラも含む。 Gタンパク質αサブユニットは、ヒト、ラット、マウスなど、各種動物(哺乳類、魚類、爬虫類、両生類、鳥類など)のGタンパク質αサブユニットを含み、具体的には、G15、hG16、あるいはそれらの配列の一部を改変した変異体(hG16gust44、hG16gust25、G15Gi3)などが挙げられる。Gタンパク質αサブユニットは、選択された甘味受容体サブユニットT1R2及びT1R3の種類などに応じて適宜決定すればよいが、ヒト甘味受容体を発現させる場合には、細胞内のエフェクター(effector)との間の情報伝達を効率的に担うことができる点から、hG16gust44が好ましい。なお、hG16gust44は、hGα16のC末端部分44アミノ酸残基をGgustに入れ替えたキメラGタンパク質である。 T1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットをコードする各cDNAは、いかなる方法で入手されるものでもよく、例えば、該タンパク質をコードするmRNAからcDNAをクローン化する方法、既知の塩基配列情報に基づく化学合成、ゲノムDNAを単離してスプライシングする方法など、公知の方法で入手することができる。各種DNAの塩基配列情報は、NCBIなどのデータベースを利用して取得できる。本発明で用いられる他の各種遺伝子も同様にして得られる。なお、cDNAは、相補的DNAを意味し、mRNA転写産物の逆転写反応産物である。 ところで、本発明においては、特に断りがない限り、核酸の塩基配列には、本明細書に記載される特定の配列に加えて、適宜置換、欠失、挿入又は付加変異を導入したものも含み、例えば、縮重コドンを有する相同的配列なども含む。 上記のcDNAを挿入する同一のプラスミドとしては、特に制限されず、具体的には、pFRT/lacZeo、pUC12、pUC13、pUC19、pBR322、pBR325、pSH15、pSH19、pUB110、pC194などが例示される。ゲノムDNA中にFRT部位が1か所組み込まれた293細胞内で、T1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットを発現することができるプラスミドであれば、効率良く甘味受容体発現細胞を得ることができる点で好ましい。したがって、本発明では、上記の各cDNAを挿入する同一のプラスミドとして、市販されているpcDNA5/FRT(Invitrogen)を用いるのが好適である。 Flp-Inシステム(Invitrogen)を用いて、安定的にT1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットを発現する培養細胞株を迅速かつ効果的に得ることができる。図1に、pcDNA5/FRT(Invitrogen)の構造を示す。 本発明の甘味受容体発現コンストラクトの特徴は、甘味受容体サブユニットT1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットをコードする全ての遺伝子を同一のプラスミドに挿入してなるという点にある。前述したように、従来の甘味受容体を発現させた細胞系は、いずれも所定のGタンパク質を発現する細胞を事前に作製あるいは入手しておき、T1R2をコードする遺伝子を含むベクター、及びT1R3をコードする遺伝子を含むベクターをそれぞれ別個に上記細胞にトランスフェクションすることによって作製されていた。その結果、T1R2、T1R3の発現量及び発現比率が細胞株間で大きく異なるなどの問題点があった。 それに対し、本発明の甘味受容体発現コンストラクトは、上記特徴を有することにより、甘味受容体サブユニットT1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットをコードする各遺伝子を迅速かつ同時に発現することができる。これら3つの遺伝子は、1つもしくは2つのmRNAに転写された後、3つのタンパク質、すなわち、T1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットに翻訳されて、各遺伝子を同時に発現させるため、上記のような問題点は生じない。 本発明の甘味受容体発現コンストラクトは、T1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットの発現効率を高めるため、甘味受容体サブユニットT1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットをコードする各遺伝子を転写方向が同じ向きになるように、同一のプラスミドに挿入してなるものが好ましい。 また、本発明の甘味受容体発現コンストラクトには、甘味受容体サブユニットT1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットのすべて、あるいはそれらのうち2者をコードする各遺伝子を、IRES配列を介して連結してなる遺伝子断片を含み、かつ、上記各遺伝子を転写方向が同じ向きになるように、同一のプラスミドに挿入してなるものが含まれる。 また、本発明の甘味受容体発現コンストラクトには、甘味受容体サブユニットT1R2をコードする遺伝子の直後に、IRES配列を介して、Gタンパク質αサブユニットをコードする遺伝子を連結し、さらに、その下流に存在する甘味受容体サブユニットT1R3をコードする遺伝子の直後に、IRES配列を介して、Gタンパク質αサブユニットをコードする遺伝子を連結してなるものが含まれる。上記各遺伝子は転写方向が同じ向きになるように配向させるのが好ましい。 また、本発明の甘味受容体発現コンストラクトには、甘味受容体サブユニットT1R2をコードする遺伝子の下流に、甘味受容体サブユニットT1R3をコードする遺伝子を連結し、その直後にさらに、IRES配列を介して、Gタンパク質αサブユニットをコードする遺伝子を連結してなるものが含まれる。上記各遺伝子は転写方向が同じ向きになるように配向させるのが好ましい。 また、本発明の甘味受容体発現コンストラクトには、甘味受容体サブユニットT1R3をコードする遺伝子の直後に、IRES配列を介して、甘味受容体サブユニットT1R2をコードする遺伝子を連結し、その直後にさらに、IRES配列を介して、Gタンパク質αサブユニットをコードする遺伝子を連結してなるものが含まれる。上記各遺伝子は転写方向が同じ向きになるように配向させるのが好ましい。 本発明の甘味受容体発現コンストラクトにおいて、第一の好適な具体的態様としては、EF-1αプロモーターの下流に、hT1R2をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結した配列を有し、かつ、この配列の下流にあるCMVプロモーターの下流に、hT1R3をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結した配列を有する発現コンストラクトを挙げることができる。上記各遺伝子は転写方向が同じ向きになるように配向させるのが好ましい。図2(A)にその構造の一部を示す。 本発明の甘味受容体発現コンストラクトにおいて、第二の好適な具体的態様としては、EF-1αプロモーターの下流に、hT1R2をコードするcDNAの配列を有し、かつ、この配列の下流にあるCMVプロモーターの下流に、hT1R3をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結した配列を有する甘味受容体発現コンストラクトを挙げることができる。上記各遺伝子は転写方向が同じ向きになるように配向させるのが好ましい。図2(B)にその構造の一部を示す。 本発明の甘味受容体発現コンストラクトにおいて、第三の好適な具体的態様としては、CMVプロモーターの下流に、hT1R3をコードするcDNAとhT1R2をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結してなり、かつ、該hT1R2をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結した配列を有する甘味受容体発現コンストラクトを挙げることができる。上記各遺伝子は転写方向が同じ向きになるように配向させるのが好ましい。図2(C)にその構造の一部を示す。 上述した第一の好適な具体的態様の甘味受容体発現コンストラクト(図2(A)参照)は、例えば、以下の工程(a)〜(g)に従って作製することができる。(a) pcDNA5/FRT(Invitrogen)のマルチクローニングサイト(塩基番号895−1010)以外の場所に6塩基の置換を行い、制限酵素EcoRVの認識配列(5’-GATATC-3’)を新たに作製する(図3参照)。 この工程(a)の好適な態様の1つとして、pcDNA5/FRT(Invitrogen)の制限酵素Bgl IIの認識配列(塩基番号12―17)の直下(塩基番号18―23)にEcoRVの認識配列を導入する態様が挙げられる。この態様は、例えば、以下のサブ工程(a1)〜(a5)に従うことにより、実施することができる。(a1) 5’末端にBgl IIの認識配列(5’-AGATCT-3’)、その直下にEcoRVの認識配列を持つセンスプライマーを設計、作製する。一方、BGH pA配列中の配列を持つアンチセンスプライマーを設計、作製する。(a2)(a1)で作製したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、pcDNA5/FRT(Invitrogen)をテンプレートとして、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、Bgl IIとEcoRVの各認識配列が連結した配列を含むDNA断片を増幅する。なお、PCRとは、センスプライマー及びアンチセンスプライマーの間のDNA配列を増幅する技術であり、増幅とは、遺伝子配列のコピー数を増加させることをいう。 PCRについては、適宜最適化された条件で行えばよいが、具体例として、98℃で30秒間×1サイクル、(98℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で55秒間)×30サイクル、72℃で10分間×1サイクル、その後、4℃に冷却する条件が例示される。(a3) (a2)で増幅したDNA断片を、Bgl II及びNot Iで消化する。(a4) pcDNA5/FRT(Invitrogen)を、Bgl II及びNot Iで消化する。(a5) (a3)で得られたDNA断片と、(a4)で得られたpcDNA5/FRT(Invitrogen)とを、ライゲーション反応によって結合させることにより、pcDNA5/FRT(Invitrogen)のBgl IIの認識配列の直下にEcoRVの認識配列を持つベクターを作製する。 ライゲーション反応は、通常のT4 DNAリガーゼを用いて行えばよいが、迅速かつ簡便に処理を行うために、1液タイプのDNAライゲーション試薬であるLigation high Ver.2(TOYOBO)を用いることが好ましい。(b) 工程(a)で作製したベクターのマルチクローニングサイト(塩基番号895−1010)に、hT1R3をコードするcDNAを挿入する(図4参照)。 この工程(b)は、例えば、以下のサブ工程(b1)〜(b8)に従うことにより、実施することができる。(b1) hT1R3のコード領域の直前及び直後に、それぞれAsc Iの認識配列(5’-GGCGCGCC-3’)及びNot Iの認識配列(5’-GCGGCCGC-3’)を持つようなセンスプライマー、アンチセンスプライマーを設計、作製する。(b2) (b1)で作製したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、hT1R3をコードするcDNA配列を含む配列をテンプレートとしてPCRを行い、hT1R3をコードするcDNAを増幅する。(b3) (b2)で得られたhT1R3をコードするcDNA断片を、制限酵素Asc I及びNot Iで消化する。 (b4) pEAK10(Edge Biosystems)を、制限酵素Asc I及びNot Iで消化する。(b5) (b3)で得られたhT1R3をコードするcDNA断片と、(b4)で得られたpEAK10(Edge Biosystems)とを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させて、pEAK10(Edge Biosystems)に、hT1R3をコードするcDNAを挿入する。(b6) (b5)で得られたpEAK10(Edge Biosystems)を、制限酵素Hind III及びNot Iで消化し、アガロース電気泳動により、DNA断片を分離して、hT1R3のcDNA断片を精製する。(b7) (a5)で作製したベクターを、Hind III及びNot Iで消化する。(b8) (b6)で得られたhT1R3をコードするcDNA断片と、(b7)で得られたベクターとを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させることにより、(a5)で作製したベクターのマルチクローニングサイトに、hT1R3をコードするcDNAを挿入する。(c) pBluescript II SK(-)に、IRES配列と、hG16gust44をコードするcDNAとを挿入し、これらが連結された配列(IRES2-hG16gust44配列)を有するベクター(IRES2-hG16gust44/pBluescript II SK(-))を作製する(図5参照)。IRES配列とは、内部リボソーム侵入部位(internal ribosome entry site)をコードする配列を意味する。 この工程(c)は、例えば、以下のサブ工程(c1)〜(c11)に従うことにより、実施することができる。(c1) IRES配列の直前にEco52Iの認識配列(5’-CGGCCG-3’)を持つようなセンスプライマーを設計、作製する。一方、IRES配列の終了する部分に相当するアンチセンスプライマーを設計、作製する。(c2) (c1)で作製したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、pIRES2-EGFP(Clontech)をテンプレートとしてPCRを行い、IRES配列を増幅する。なお、EGFPは、Enhansed Green Fluorescence Proteinの略である。(c3) hG16gust44のコード領域の直前及び直後に、Not Iの認識配列(5’-GCGGCCGC-3’)を持つようなセンスプライマー、アンチセンスプライマーを設計、作製し、hG16gust44をコードするcDNA配列を含む配列をテンプレートとしてPCRを行い、hG16gust44をコードするcDNAを増幅する。増幅断片を、Not Iで消化する。(c4) pEAK10(Edge Biosystems)を、Not Iで消化する。(c5) (c3)で得られたhG16gust44をコードするcDNA断片と、(c4)で得られたpEAK10(Edge Biosystems)とを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させて、pEAK10(Edge Biosystems)に、hG16gust44をコードするcDNAを挿入したベクター(hG16gust44/pEAK10)を作製する。(c6) hG16gust44の開始コドンを含む18塩基のセンスプライマーを設計、作製する。一方、hGH pA配列中の配列を持つアンチセンスプライマーを設計、作製する。 なお、pA配列(ポリアデニル化配列)は、組換え転写産物を安定化するために、RNA転写産物の終結及びポリアデニル化を指示するDNA配列である。pA配列以外にも、種々の終結配列が公知であり、本発明の甘味受容体発現コンストラクトに使用しうる。pA配列は、プラスミドに存在する内在性のものでもよい。通常使用されるpA配列は、SV40のポリA配列であり、このポリA配列は237bpの制限酵素BamHI/BcII断片に含まれる。また、通常使用されるpA配列は、ウシ成長ホルモン(BGH:Bovine Growth Hormone)遺伝子に由来する。(c7) (c5)で得られたhG16gust44/pEAK10をテンプレートとして、(c6)で作製したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いてPCRを行い、hG16gust44をコードするcDNAを増幅する。(c8) (c2)で得られたIRES配列を、Eco52Iで消化する。(c9) (c7)で得られたhG16gust44をコードするcDNAを、Not Iで消化する。(c10) pBluescript II SK(-)を、Not Iで消化する。(c11) (c8)で得られたIRES配列と、(c9)で得られたhG16gust44をコードするcDNA断片と、(c10)で得られたpBluescript II SK(-)とを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させて、IRES2-hG16gust44/pBluescript II SK(-)を作製する。(d) 工程(b)で作製したベクターのhT1R3をコードするDNA配列の直後に、IRES配列とhG16gust44をコードするcDNAを連結した配列(IRES2-hG16gust44配列)を挿入する(図6参照)。この工程(d)は、例えば、以下のサブ工程(d1)〜(d3)に従うことにより、実施することができる。(d1) (c11)で作製したIRES2-hG16gust44/pBluescript II SK(-)を、Eco52Iで消化し、アガロース電気泳動により、cDNA断片を分離して、IRES2-hG16gust44配列を精製する。(d2) (b8)で作製したベクターのhT1R3をコードするDNA配列の直後に存在する部位をNot Iで消化する。(d3) (d1)で得られたIRES2-hG16gust44配列と、(d2)で得られたベクターとを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させて、(b8)で作製したベクターのhT1R3をコードするDNA配列の直後に、IRES2-hG16gust44配列を挿入する。この結果、hT1R3-IRES2-hG16gust44配列を含むpcDNA5/FRTが得られる。(e) pEAK10(Edge Biosystems)に、hT1R2をコードするcDNAを挿入する(図7参照)。この工程は、例えば、以下のサブ工程(e1)〜(e5)に従うことにより、実施することができる。(e1) hT1R2のコード領域の直前及び直後に、それぞれAsc Iの認識配列(5’-GGCGCGCC-3’)及びNot Iの認識配列(5’-GCGGCCGC-3’)を持つようなセンスプライマー、アンチセンスプライマーを設計、作製する。(e2) (e1)で作製したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、hT1R2をコードするDNA配列を含む配列をテンプレートとしてPCRを行い、hT1R2をコードするcDNAを増幅する。(e3) (e2)で得られたhT1R2をコードするcDNAを、Asc I及びNot Iで消化する。(e4) pEAK10(Edge Biosystems)を、Asc I及びNot Iで消化する。(e5) (e3)で得られたhT1R2をコードするcDNA断片と、(e4)で得られたpEAK10(Edge Biosystems)とを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させて、pEAK10(Edge Biosystems)に、hT1R2をコードするcDNAを挿入する。(f) 工程(e)で作製したベクターのhT1R2をコードするDNA配列の直後に、IRES2-hG16gust44配列を挿入する(図8参照)。 この工程は、例えば、以下のサブ工程(f1)〜(f3)に従うことにより、実施することができる。(f1) (c11)で作製したIRES2-hG16gust44/pBluescript II SK(-)を、Eco52Iで消化し、アガロース電気泳動により、cDNA断片を分離して、IRES2-hG16gust44配列を精製する。(f2) (e5)で得られたベクターのhT1R2をコードするcDNAの直後に存在する部位をNot Iで消化する。(f3) (f1)で得られたIRES2-hG16gust44配列と、(f2)で得られたベクターとを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させて、(e5)で得られたベクターのhT1R2をコードするcDNAの直後に、IRES2-hG16gust44配列を挿入する。この結果、hT1R2-IRES2-hG16gust44配列を含むpEAK10(Edge Biosystems)が得られる。(g) 工程(d)で得られたベクターを、EcoRVで切断し、hT1R3-IRES2-hG16gust44配列の上流に、工程(f)で得られたhT1R2-IRES2-hG16gust44配列を挿入して、前述した第一の好適な具体的態様の発現コンストラクトを得る(図9参照)。この工程(g)は、例えば、以下のサブ工程(g1)〜(g3)に従うことにより、実施することができる。(g1) In-Fusion反応を行うためのプライマーを設計、作製し、これを用いて、(f3)で作製したベクターをテンプレートとして、EF-1αプロモーター-hT1R2-IRES2-hG16gust44-hGH pAの領域をPCRによって増幅する。上記プライマーは、(d3)で得られたベクターを制限酵素で線状化したものの末端と相同な約15塩基を、上記領域のDNA断片に付加するようにして設計する。(g2) (d3)で得られたベクターを、EcoRVで消化する。(g3) (g1)で得られたEF-1αプロモーター-hT1R2-IRES2-hG16gust44-hGH pA配列断片と、(g2)で得られたベクターとを、In-Fusion Advantage PCR Cloning Kit(Clontech)を用いて結合させて、(d3)で得られたベクターのhT1R3-IRES2-hG16gust44配列の上流に、(f3)で作製したベクターのhT1R2-IRES2-hG16gust44配列を挿入した第一の具体的な態様の甘味受容体発現コンストラクトを作製する。In-Fusion Advantage PCR Cloning Kit(Clontech)による結合は、(g1)で得られたEF-1αプロモーター-hT1R2-IRES2-hG16gust44-hGH pA配列断片と、(g2)で得られたベクターを混合し、In-Fusion酵素と所定のバッファーを加えて、通常、37℃で15分、次いで、50℃で15分反応を行う。In-Fusion Advantage PCR Cloning Kit(Clontech)によれば、制限酵素サイトの制約を受けることなく、また、長鎖DNA断片でも、目的DNA断片のクローニングが可能である。 次に、上述した第二の好適な態様である甘味受容体発現コンストラクト(図2(B)参照)の作製について述べる。 まず、第一の好適な具体的態様の発現コンストラクトの作製で述べた工程(a)〜(e)を同様にして行う。その後、In-Fusion反応を行うためのプライマーを設計、作製し、これを用いて、工程(e)で作製したベクターをテンプレートとして、EF-1αプロモーター-hT1R2-hGH pAの領域をPCRによって増幅する。そして、得られたEF-1αプロモーター-hT1R2-hGH pA配列断片と、 EcoRVで消化した工程(d)で得られたベクターとを、In-Fusion Advantage PCR Cloning Kit(Clontech)を用いて結合させることにより、工程(d)で得られたベクターのhT1R3-IRES2-hG16gust44配列の上流に、上記PCR産物であるEF-1αプロモーター-hT1R2-hGH pAの配列を挿入して、上述した第二の好適な具体的態様の甘味受容体発現コンストラクトを作製する。 次に、上述した第三の好適な具体的態様である甘味受容体発現コンストラクト(図2(c)参照)は、例えば、以下の工程(a’)〜(g’)に従って作製することができる。(a’) pcDNA5/FRT(Invitrogen)のマルチクローニングサイト(塩基番号895−1010)に、hT1R3をコードするcDNAを挿入する。 この工程(a’)は、例えば、以下のサブ工程(a’1)〜(a’8)に従うことにより、実施することができる。(a’1) hT1R3のコード領域の直前及び直後に、それぞれAsc Iの認識配列(5’-GGCGCGCC-3’)及びNot Iの認識配列(5’-GCGGCCGC-3’)を持つようなセンスプライマー、アンチセンスプライマーを設計、作製する。(a’2) (a’1)で作製したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、hT1R3をコードするcDNA配列を含む配列をテンプレートとしてPCRを行い、hT1R3をコードするcDNAを増幅する。(a’3) (a’2)で得られたhT1R3をコードするcDNA断片を、制限酵素Asc I及びNot Iで消化する。 (a’4) pEAK10(Edge Biosystems)を、制限酵素Asc I及びNot Iで消化する。(a’5) (a’3)で得られたhT1R3をコードするcDNA断片と、(a’4)で得られたpEAK10(Edge Biosystems)とを、Ligationhigh Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させて、pEAK10(Edge Biosystems)に、hT1R3をコードするcDNAを挿入する。(a’6) (a’5)で得られたpEAK10(Edge Biosystems)を、制限酵素Hind III及びNot Iで消化し、アガロース電気泳動により、DNA断片を分離して、hT1R3のcDNA断片を精製する。(a’7) pcDNA5/FRT(Invitrogen)を、Hind III及びNot Iで消化する。(a’8) (a’6)で得られたhT1R3をコードするcDNA断片と、(a’7)で得られたベクターとを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させることにより、pcDNA5/FRT(Invitrogen)のマルチクローニングサイトに、hT1R3をコードするcDNAを挿入する。(b’) pBluescript II SK(-)に、IRES配列と、hT1R2をコードするcDNAとを挿入し、これらが連結された配列(IRES2-hT1R2配列)を有するベクター(IRES2-hT1R2/pBluescript II SK(-))を作製する。 この工程(b’)は、例えば、以下のサブ工程(b’1)〜(b’16)に従うことにより、実施することができる。(b’1) IRES配列の直前にEco52Iの認識配列(5’-CGGCCG-3’)を持つようなセンスプライマーを設計、作製する。一方、IRES配列の終了する部分に相当するアンチセンスプライマーを設計、作製する。(b’2) (b’1)で作製したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、pIRES2-EGFP(Clontech)をテンプレートとしてPCRを行い、IRES配列を増幅する。(b’3) hT1R2のコード領域の直前及び直後に、それぞれAsc Iの認識配列(5’-GGCGCGCC-3’)及びNot Iの認識配列(5’-GCGGCCGC-3’)を持つようなセンスプライマー、アンチセンスプライマーを設計、作製する。(b’4) これらのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、hT1R2をコードするDNA配列を含む配列をテンプレートとしてPCRを行い、hT1R2をコードするcDNAを増幅する。(b’5) (b’4)で得られたhT1R2をコードするcDNAを、Asc I及びNot Iで消化する。(b’6) pEAK10(Edge Biosystems)を、Asc I及びNot Iで消化する。(b’7) (b’5)で得られたhT1R2をコードするcDNA断片と、(b’6)で得られたpEAK10(Edge Biosystems)とを、Ligationhigh Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させて、pEAK10(Edge Biosystems)に、hT1R2をコードするcDNAを挿入する。(b’8) hT1R2の開始コドンを含む18塩基のセンスプライマーを設計、作製する。一方、hGH pA配列中の配列を持つアンチセンスプライマーを設計、作製する。(b’9) (b’7)で得られたhT1R2/pEAK10をテンプレートとして、(b’8)で作製したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いてPCRを行い、hT1R2をコードするcDNAを増幅する。(b’10) (b’2)で得られたIRES配列を、Eco52Iで消化する。(b’11) (b’9)で得られたhT1R2をコードするcDNAを、Not Iで消化する。(b’12) pBluescript II SK(-)を、Not Iで消化する。(b’13) (b’10)で得られたIRES配列と、(b’11)で得られたhT1R2をコードするcDNA断片と、(b’12)で得られたpBluescript II SK(-)とを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させて、IRES2-hT1R2/pBluescript II SK(-)を作製する。(c’) 工程(a’)で作製したベクターのhT1R3をコードするDNA配列の直後に、IRES配列とhT1R2をコードするcDNAを連結した配列(IRES2-hT1R2配列)を挿入する。 この工程(c’)は、例えば、以下のサブ工程(c’1)〜(c’3)に従うことにより、実施することができる。(c’1) (b’13)で作製したIRES2-hT1R2/pBluescript II SK(-)を、Eco52Iで消化し、アガロース電気泳動により、cDNA断片を分離して、IRES2-hT1R2配列を精製する。(c’2) (a’8)で作製したベクターのhT1R3をコードするDNA配列の直後に存在する部位をNot Iで消化する。(c’3) (c’1)で得られたIRES2-hT1R2配列と、(c’2)で得られたベクターとを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させて、(a’8)で作製したベクターのhT1R3をコードするDNA配列の直後に、IRES2-hT1R2配列を挿入する。この結果、hT1R3-IRES2-hT1R2配列を含むpcDNA5/FRTが得られる。(d’) pBluescript II SK(-)に、IRES配列と、hG16gust44をコードするcDNAとを挿入し、これらが連結された配列(IRES2-hG16gust44配列)を有するベクター(IRES2-hG16gust44/pBluescript II SK(-))を作製する この工程(d’)は、例えば、以下のサブ工程(d’1)〜(d’11)に従うことにより、実施することができる。(d’1) IRES配列の直前にEco52Iの認識配列(5’-CGGCCG-3’)を持つようなセンスプライマーを設計、作製する。一方、IRES配列の終了する部分に相当するアンチセンスプライマーを設計、作製する。(d’2) (d’1)で作製したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、pIRES2-EGFP(Clontech)をテンプレートとしてPCRを行い、IRES配列を増幅する。(d’3) hG16gust44のコード領域の直前及び直後に、Not Iの認識配列(5’-GCGGCCGC-3’)を持つようなセンスプライマー、アンチセンスプライマーを設計、作製し、hG16gust44をコードするcDNA配列を含む配列をテンプレートとしてPCRを行い、hG16gust44をコードするcDNAを増幅する。増幅断片を、Not Iで消化する。(d’4) pEAK10(Edge Biosystems)を、Not Iで消化する。(d’5) (d’3)で得られたhG16gust44をコードするcDNA断片と、(d’4)で得られたpEAK10(Edge Biosystems)とを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させて、pEAK10(Edge Biosystems)に、hG16gust44をコードするcDNAを挿入したベクター(hG16gust44/pEAK10)を作製する。(d’6) hG16gust44の開始コドンを含む18塩基のセンスプライマーを設計、作製する。一方、hGH pA配列中の配列を持つアンチセンスプライマーを設計、作製する。 (d’7) (d’5)で得られたhG16gust44/pEAK10をテンプレートとして、(d’6)で作製したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いてPCRを行い、hG16gust44をコードするcDNAを増幅する。(d’8) (d’2)で得られたIRES配列を、Eco52Iで消化する。(d’9) (d’7)で得られたhG16gust44をコードするcDNAを、Not Iで消化する。(d’10) pBluescript II SK(-)を、Not Iで消化する。(d’11) (d’8)で得られたIRES配列と、(d’9)で得られたhG16gust44をコードするcDNA断片と、(d’10)で得られたpBluescript II SK(-)とを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させて、IRES2-hG16gust44/pBluescript II SK(-)を作製する。(e’) 工程(c’)で作製したベクターのhT1R3-IRES2-hT1R2をコードするDNA配列の直後に、IRES2-hG16gust44配列を挿入する。この工程は、例えば、以下のサブ工程(e’1)〜(e’3)に従うことにより、実施することができる。(e’1) (d’11)で作製したIRES2-hG16gust44/pBluescript II SK(-)を、Eco52Iで消化し、アガロース電気泳動により、cDNA断片を分離して、IRES2-hG16gust44配列を精製する。(e’2) (c’3)で得られたベクターのhT1R2をコードするcDNAの直後に存在する部位をNot Iで消化する。(e’3) (e’1)で得られたIRES2-hG16gust44配列と、(e’2)で得られたベクターとを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)などによるライゲーション反応によって結合させて、(c’3)で得られたベクターのhT1R2をコードするcDNAの直後に、IRES2-hG16gust44配列を挿入する。これにより、上述した第三の好適な具体的態様の甘味受容体発現コンストラクトが得られる。 得られた本発明の甘味受容体発現コンストラクトは、宿主細胞にトランスフェクションするために使用されるが、その宿主細胞としては、293細胞、CHO細胞、32D細胞、HeLa細胞、COS細胞、BHK細胞などの真核細胞が挙げられる。本発明の細胞株を作製する場合、ゲノム中にFRT(Flippase Recognition Target)配列を1か所組み込まれた293細胞が好適である。この細胞株の作製方法について説明する。 該培養細胞株の作製は、Flp-Inシステム(Invitrogen)を用いて、ゲノムDNA中にFRT部位が1か所組み込まれた293細胞に、上記甘味受容体発現コンストラクトと、Flpリコンビナーゼ発現ベクターであるpOG44をコトランスフェクションすることによって行われる。Flp-Inシステム(Invitrogen)によれば、トランジエントに発現したFlpリコンビナーゼにより、293細胞のゲノムDNA中に保持されたFRT部位が開裂して、その部分に外来遺伝子が導入され、該遺伝子が発現する。すなわち、T1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットをコードする各遺伝子は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)由来のFlpリコンビナーゼと、Flpリコンビナーゼの標的部位であるFRT部位を利用した部位特異的組換えにより、293細胞の染色体のFRT部位に挿入され、その結果、安定的にT1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットを発現する培養細胞株が迅速かつ効果的に得られる。この培養細胞株は、T1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットをコードする各遺伝子は、1つあるいは2つのmRNAに転写された後、3つのタンパク質、すなわち、T1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットに翻訳される。このように、本発明の甘味受容体発現コンストラクトを宿主細胞にトランスフェクションする場合、部位特異的にDNAを切断かつ再結合する酵素を使用することが好ましく、Flpリコンビナーゼのほか、λインテグラーゼ、Kwリコンビナーゼなどが挙げられる。 ゲノムDNA中にFRT部位が1か所組み込まれた293細胞は、例えば、以下のようにして作製することができる。 まず、宿主細胞である293細胞に、FRT部位を導入するためのベクターであるpFRT/lacZeoを遺伝子導入し、導入された細胞をゼオシン(Zeocin、登録商標)で選択する。pFRT/lacZeoは、lacZとゼオシン耐性遺伝子の融合遺伝子を持つため、pFRT/lacZeoがゲノムに導入された細胞は、β-ガラクトシダーゼを発現し、ゼオシン耐性となる。ゼオシン感受性の程度をβ-ガラクトシダーゼアッセイにより確認することができる。 次いで、lacZ遺伝子に対してのサザンブロット法を行う。これにより、ゲノム中の転写されうる位置の1か所だけにFRT部位が組み込まれていることが確認される。ゲノムDNA中にFRT部位が1か所組み込まれた293細胞として、市販されているFlp-In-293細胞(Invitrogen)を用いるのが簡便である。 本発明の培養細胞株の作製は、FRT部位が1か所組み込まれた293細胞に、上記発現コンストラクト及びFlpリコンビナーゼの発現ベクターであるpOG44をコトランスフェクションし、ハイグロマイシンBを含む選択培地にて、ハイグロマイシンB耐性の細胞株を選択することによって行うことができる。 Flpリコンビナーゼ(Flippase)は、部位特異的な組換え反応を行う酵素の一種であり、該酵素の発現ベクターであるpOG44が公知である。上記発現コンストラクト及びpOG44をコトランスフェクションすると、発現したFlpリコンビナーゼにより、上記発現コンストラクトは上記293細胞のFRT部位に挿入されて、293細胞はハイグロマイシンB耐性、ゼオシン感受性に変化するので、これらの薬剤耐性を指標とすることによって目的の遺伝子が挿入されたか否かを容易に判定することができる。 コトランスフェクションする方法としては、公知の方法、例えば、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム-DNA沈殿法、塩化カルシウム法、塩化カルシウム/塩化ルビジウム法、リポソーム法、DEAE-デキストラン法、マイクロインジェクション法など、適宜選択することができる。 こうして、ゲノム中の同じ位置に甘味受容体発現コンストラクトが入り、T1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットが同時に発現された培養細胞株を得ることができる。T1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットの発現は、培養細胞株からタンパク質を抽出し、T1R2抗体、T1R3抗体、及びGタンパク質αサブユニットを認識可能な抗体を用いたウェスタンブロット法により確認することができる。 上記安定発現細胞は、栄養培地で培養することにより、増殖及び/又は維持される。該安定発現細胞の増殖及び/又は維持の具体的方法に関しては適宜決定すればよいが、グルコースによる脱感作を最小限にするため、例えば、L-グルタミンを4mMになるよう補足された低グルコース(1,000mg/ml)ダルベッコ改変イーグル(DMEM)培地(Virology、Vol.8、p.396、1959)に、10%HI-FBS(Heat Inactivated Fetal Bovine Serum)及び100μg/mlのハイグロマイシンB(Invitrogen)を加えたものを用いて、37℃で増殖及び/又は維持を行うことが好ましい。 本発明の培養細胞株は、T1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットが機能的に発現されているため、実際の甘味受容によって生じる甘味の知覚を、in vivoで客観的に評価することができる最適なモデルとなり、甘味物質を選択する味覚センサーとして使用することができる。すなわち、本発明の培養細胞株を用いて、例えば、ある特定の甘味物質を該培養細胞株に接触させて、それによって発生した生理的応答を測定することにより、該甘味物質の甘味を評価することができる。 本発明の培養細胞株を用いて生理的応答を測定する対象となる甘味物質は、ヒトが感知できる甘味を呈することができる物質であれば特に限定されず、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、ラフィノース、キシロース、スクロース、マルトース、乳糖、水飴、異性化糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、乳果オリゴ糖、大豆オリゴ糖、トレハロース、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、イソマルトール、還元水飴、還元パラチノース、和三盆、黒糖、三温糖、蜂蜜、糖蜜、甘草抽出物及びメープルシロップなどの糖質系甘味料、及び、アスパルテーム、サッカリン、ズルチン、ステビオシド、ステビア抽出物、グリチルリチン、アセスルファム−K、スクラロース(登録商標;三栄源エフ・エフ・アイ)、シクラメート、アリテーム、ネオテーム、ペリラルチン、モネリン、クルクリン(登録商標;ADEKA)などの非糖質系甘味料が広く含まれる。 本発明の培養細胞株を用いてある特定の甘味物質の甘味を評価するには、例えば、以下のようにして行う。 まず、前述したように、上記甘味受容体発現コンストラクトを発現させた培養細胞株を取得し、次いで、該培養細胞の所定の数を多数のウェル(24穴、48穴、96穴、384穴など)を有するマイクロプレートの各ウェルに撒き(例えば、1万〜50万個/ウェル)、所定の培地(例えば、DMEM培地)中で培養する。 その後、特定の甘味物質を添加した場合において、上記安定培養細胞株に発生した生理的応答を測定し、その測定結果に基づいて甘味物質の甘味を評価する。 培養細胞株に発生した生理的応答を測定する場合、生理的応答としては、甘味受容体の活性化に伴って変化する事象が適宜選択される。甘味受容体が活性化されると、その後、細胞内で種々の現象が開始される。味物質が受容体に結合すると、細胞内のセカンドメッセンジャー(IP3(イノシトール三リン酸)、DAG)などを介する情報伝達過程を経て、細胞内のカルシウム濃度が上昇する。したがって、測定対象とする生理的応答としては、甘味受容体の活性化に伴って変化する細胞内のセカンドメッセンジャーの変化、細胞内のカルシウム濃度の変化などが挙げられる。 本発明においては、甘味物質に対する生理的応答の測定は、甘味刺激によって惹起される細胞内のカルシウム濃度の変化を、蛍光カルシウム指示薬を用いることにより細胞外から観察するカルシウムイメージング法で行うのが好適である。これにより、従来の官能評価とは異なり、受容体レベルでの甘味の客観的な評価が可能となる。また、甘味の程度を数値化することにより、各種物質の甘味の強度を相互に比較することができる。 蛍光カルシウム指示薬には、生理的に変化し得るカルシウム濃度において蛍光特性が変化すること、及びそのときの変化がカルシウム特異的に誘導されること、が要求されるため、現在、錯形成部位と蛍光発色団が結合した構造を有する化合物が蛍光指示薬として汎用されている。本発明では、そのような蛍光カルシウム指示薬であるFluo-4 AM、Fura-2 AMを使用することが好適である。 甘味物質に対する生理的応答を測定する場合、カルシウムイメージング法を用いて、甘味物質に対する生理的応答を数値化及び可視化することが好ましい。例えば、マルチプレートリーダーによる同時アッセイにより、細胞応答の数値化を行い、さらに、顕微鏡を用いたイメージングにより、細胞内のカルシウム濃度の変化を画像化して、各細胞が応答しているかを観察する。マルチプレートリーダーによる同時アッセイに使用した蛍光指示薬とは異なる蛍光指示薬を使用した顕微鏡観察を行うことにより、細胞応答がアーティファクトによるものでないことを確認できる。 マルチプレートリーダーによる同時アッセイは、公知の方法に従って適宜行えばよいが、FlexStation 3(Molecular Devices)を用いて、自動化蛍光カルシウムイメージングを行うのが簡便かつ迅速であり、ハイスループットアッセイが可能となる。FlexStation 3は、SpectraMax M5e(Molecular Devices)の性能と、8チャンネルピペッターを融合させたマルチプレートリーダーである。 FlexStation 3(Molecular Devices)を用いた自動化蛍光イメージングは、例えば、以下の手順に従って行うことができる。まず、ハイグロマイシンBを除いた低グルコース(1,000mg/ml)DMEM培地で細胞を懸濁し、96ウェルプレート(Corning、CellBIND Surface)の各ウェル上に、7〜8万個ずつ撒く。 次いで、37℃で24時間培養した後、培地を除去し、適当量のHEPES(2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸)バッファーで置換し、蛍光カルシウム指示薬(Molecular Devices、FLIPR Ca 4 Assay Kitに付属のFluo-4 AM)を含むHEPESバッファーをさらに添加する。蛍光指示薬Fluo-4(励起波長:495nm、蛍光波長:518nm)は、細胞内への移行を容易にするため、脂溶性のアセトキシメチル基が導入されており、培地中に添加されると容易に細胞内に取り込まれ、細胞内のエステラーゼにより加水分解される。加水分解されたFluo-4は、細胞膜を透過しにくくなり、細胞内に拡散してカルシウムと錯形成し、強い蛍光を発する。蛍光観察用の96ウェルプレートには、プラスチック底とフィルム底があり、プラスチック底のプレートは細胞の接着性及び成長が良いので、ウェル全体を観察するマルチプレートリーダーを用いた同時アッセイ時に使用されるが、このプラスチック底のプレートは、UV波長の透過性が悪く、Fura-2の励起光の透過を阻害するため、Fluo-4を用いる。 次いで、27〜37℃で30〜60分間インキュベートした後、これに特定濃度の甘味物質又は甘味物質と試験する物質の溶液を添加することにより、27〜37℃で味刺激を行う。 甘味物質又は甘味物質と試験する物質の添加直後から60〜120秒後にかけての蛍光反応(485nm励起で525nm蛍光)を測定することにより、甘味刺激に対する甘味受容体発現細胞の応答を定量することができる。 蛍光顕微鏡を用いた蛍光カルシウムイメージングは、以下の手順に従って行うことができる。 まず、ハイグロマイシンBを除いた低グルコース(1,000mg/ml)DMEM培地で細胞を懸濁し、96ウェルプレート(Greiner、Lumox)の各ウェル上に4〜8万個ずつ撒く。 次いで、37℃で24〜48時間培養した後、培地を除去し、適当量のHEPESバッファーで置換し、蛍光カルシウム指示薬(Fura-2 AM)を含むHEPESバッファーをさらに添加する。 次いで、27〜37℃で30〜60分間インキュベートした後、細胞外の蛍光指示薬を除去し、最終的に適当量のHEPESバッファーで置換し、10〜20分間室温にて静置する。これに特定濃度の甘味物質又は甘味物質と試験する物質の溶液を適当量添加することにより室温で味刺激を行う。蛍光指示薬Fura-2(励起波長:340nm/380nm、蛍光波長:510nm)は、カルシウムイオン濃度が高くなると340nm励起の蛍光強度が上昇し、380nm励起の蛍光強度が低下する。 次いで、甘味物質又は甘味物質と試験する物質の溶液の添加直後から60〜300秒後にかけて、顕微鏡視野中の蛍光像(340nm,380nm励起で510nm蛍光)を取り込み、2波長励起蛍光の比率を擬似カラーで表示することにより、甘味刺激に対する甘味受容体発現細胞の応答を観察することができる。 以上のようにして、本発明では、生理的応答を測定する際に、カルシウムイメージング法において、蛍光特性の異なる2種類の上記蛍光指示薬を併用することにより、観察系によらない普遍的な現象を観察することができる。 以上のように、本発明の細胞株を使用して、甘味物質に対する生理的応答を測定することができる。また、本発明の細胞株を使用した、甘味物質に対する生理的応答の測定を用いて同定された、特定の甘味物質に対する甘味増強物質を、該甘味物質の生理的応答を測定する際に添加することにより、該甘味物質の甘味の閾値以下の濃度で生理的応答を測定することもできる。 以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。(実施例1) 甘味受容体発現コンストラクト(A)の作製 EF-1αプロモーターの下流に、hT1R2をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結した配列を有し、かつ、この配列の下流にあるCMVプロモーターの下流に、hT1R3をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結した配列を有する甘味受容体発現コンストラクト(A)(図2(A)参照)を、以下の手順に従って作製した。 5’末端にBgl IIの認識配列(5’-AGATCT-3’)、その直下にEcoRVの認識配列を持つセンスプライマー(配列番号1:TATAGATCTGATATCCCCCTATGGTGCACTCTC)及びBGH pA配列中の配列を持つアンチセンスプライマー(配列番号2:TAGAAGGCACAGTCGAGG)を設計、作製した。 そして、これらのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、pcDNA5/FRT(Invitrogen)をテンプレートとして、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、Bgl IIとEcoRVの各認識配列が連結した配列を含むDNA断片を増幅した。PCRは、後述する実施例も含め、全て、98℃で30秒間×1サイクル、(98℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で55秒間)×30サイクル、72℃で10分間×1サイクル、その後、4℃に冷却する条件で行った。 次いで、この増幅したDNA断片を、Bgl II及びNot Iで消化し、また、pcDNA5/FRT(Invitrogen)を、Bgl II及びNot Iで消化した。これらの制限酵素消化産物をLigation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させることにより、pcDNA5/FRT(Invitrogen)のBgl IIの認識配列の直下にEcoRVの認識配列を持つベクターを作製した。 次いで、hT1R3のコード領域の直前及び直後に、それぞれAsc Iの認識配列(5’-GGCGCGCC-3’)及びNot Iの認識配列(5’-GCGGCCGC-3’)を持つようなセンスプライマー(配列番号3:GATCGGCGCGCCGCCATGCTGGGCCCTGCTGTC)及びアンチセンスプライマー(配列番号4:TAGAAGGCACAGTCGAGG)を設計、作製した。 そして、これらのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、hT1R3をコードするcDNA配列を含む配列をテンプレートとしてPCRを行い、hT1R3をコードするcDNAを増幅した。 増幅したT1R3をコードするcDNA断片を、Asc I及びNot Iで消化し、また、pEAK10(Edge Biosystems)を、Asc I及びNot Iで消化した。そして、これらの制限酵素消化産物をLigation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させて、pEAK10(Edge Biosystems)に、hT1R3をコードするcDNAを挿入した。次いで、これをHind III及びNot Iで消化し、アガロース電気泳動により、DNA断片を分離して、hT1R3のcDNA断片を精製した。 このhT1R3のcDNA断片と、Hind III及びNot Iで消化した、pcDNA5/FRT(Invitrogen)のBgl IIの認識配列の直下にEcoRVの認識配列を持つベクターとを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させることにより、該ベクターのマルチクローニングサイトに、hT1R3をコードするcDNAを挿入した。 次いで、IRES配列の直前にEco52Iの認識配列(5’-CGGCCG-3’)を持つようなセンスプライマー(配列番号5:GATCCGGCCGGCCCCTCTCCCTCCCCCC)及びIRES配列の終了する部分に相当するアンチセンスプライマー(配列番号6:GGTTGTGGCCATATTATC)を設計、作製した。 そして、これらのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、pIRES2-EGFP(Clontech)をテンプレートとしてPCRを行い、IRES配列を増幅した。 hG16gust44のコード領域の直前及び直後に、Not Iの認識配列(5’-GCGGCCGC-3’)を持つようなセンスプライマー(配列番号7:GATCGCGGCCGCATGGCCCGCTCGCTGACC)、アンチセンスプライマー(配列番号8:GATCGCGGCCGCGAATTCACTAGTGATTTA)を設計、作製した。hG16gust44をコードするcDNA配列を含む配列をテンプレートとしてPCRを行い、hG16gust44をコードするcDNAを増幅した。増幅断片をNot Iで消化し、pEAK10(Edge Biosystems)をNot Iで消化して、これらをLigation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させて、pEAK10(Edge Biosystems)に、hG16gust44をコードするcDNAを挿入したベクター(hG16gust44/pEAK10)を作製した。 次いで、hG16gust44の開始コドンを含む18塩基のセンスプライマー(配列番号9:ATGGCCCGCTCGCTGACC)及びhGH pA配列中の配列を持つアンチセンスプライマー(配列番号10:CTGGATGCAGGCTACTCTA)を設計、作製した。 そして、これらのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、hG16gust44/pEAK10をテンプレートとして、PCRを行い、hG16gust44をコードするcDNAを増幅した。 次いで、Eco52Iで消化した上記IRES配列と、Not Iで消化した上記hG16gust44をコードするcDNAと、Not Iで消化したpBluescript II SK(-)とを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させて、IRES2-hG16gust44/pBluescript II SK(-)を作製した。 次いで、前述したIRES2-hG16gust44/pBluescript II SK(-)を、Eco52Iで消化し、アガロース電気泳動により、DNA断片を分離して、IRES2-hG16gust44配列を精製した。 そして、マルチクローニングサイトにhT1R3をコードするcDNAを挿入した上記pcDNA5/FRT(Invitrogen)をNot Iで消化し、該ベクター中のhT1R3をコードするDNA配列の直後に存在する部分を切断した。このベクターと上記のIRES2-hG16gust44配列とを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させて、hT1R3をコードするDNA配列の直後に、IRES2-hG16gust44配列を挿入してなる、hT1R3-IRES2-hG16gust44配列を含むpcDNA5/FRTを得た。 次いで、hT1R2のコード領域の直前及び直後に、それぞれAsc Iの認識配列(5’-GGCGCGCC-3’)及びNot Iの認識配列(5’-GCGGCCGC-3’)を持つようなセンスプライマー(配列番号11:GATCGGCGCGCCGCCATGGGGCCCAGGGCAAAG)及びアンチセンスプライマー(配列番号12:GATCGCGGCCGCCTAGTCCCTCCTCATGGT)を設計、作製した。 そして、これらのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、hT1R2をコードするDNA配列を含む配列をテンプレートとしてPCRを行い、hT1R2をコードするcDNAを増幅した。得られたhT1R2をコードするcDNAを、Asc I及びNot Iで消化し、pEAK10(Edge Biosystems)を、Asc I及びNot Iで消化して、これらをLigation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させて、pEAK10(Edge Biosystems)に、hT1R2をコードするcDNAを挿入した。 次いで、前述したIRES2-hG16gust44/pBluescript II SK(-)を、Eco52Iで消化し、アガロース電気泳動により、cDNA断片を分離して、IRES2-hG16gust44配列を精製した。 そして、hT1R2をコードするcDNAを挿入したpEAK10(Edge Biosystems)をNot Iで消化し、該ベクター中のhT1R2をコードするcDNAの直後に存在する部分を切断した。このベクターと上記IRES2-hG16gust44配列とを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させて、hT1R2をコードするcDNAの直後に、IRES2-hG16gust44配列を挿入し、hT1R2-IRES2-hG16gust44配列を含むpEAK10(Edge Biosystems)を得た。 次いで、In-Fusion反応を行うためのプライマー(配列番号13:ATCGGGAGATCTGATGCATAACTAGTGAGGCTC及び配列番号14:GCACCATAGGGGGATAGCGGATCCAGACATGAT)を設計、作製し、これを用いて、上記のhT1R2-IRES2-hG16gust44配列を含むpEAK10(Edge Biosystems)をテンプレートとして、EF-1αプロモーター-hT1R2-IRES2-hG16gust44-hGH pAの領域をPCRによって増幅した。 そして、このEF-1αプロモーター-hT1R2-IRES2-hG16gust44-hGH pA配列断片と、EcoRVで消化したhT1R3-IRES2-hG16gust44配列を含むpcDNA5/FRTとを、In-Fusion Advantage PCR Cloning Kit(Clontech)を用いて結合させて、甘味受容体発現コンストラクト(A)を作製した。得られた甘味受容体発現コンストラクト(A)は、DNAシーケンシングにより、塩基配列に誤りがないことを確認した。(実施例2) 甘味受容体発現コンストラクト(B)の作製 EF-1αプロモーターの下流に、hT1R2をコードするcDNAの配列を有し、かつ、この配列の下流にあるCMVプロモーターの下流に、hT1R3をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結した配列を有する甘味受容体発現コンストラクト(B)(図2(B)参照)を、以下の手順に従って作製した。 まず、実施例1の甘味受容体発現コンストラクト(A)の作製で述べた工程に従って、pcDNA5/FRT(Invitrogen)のBgl IIの認識配列の直下にEcoRVの認識配列を持つベクターの作製から、pEAK10(Edge Biosystems)に、hT1R2をコードするcDNAを挿入するまでの工程を実施した。 その後、In-Fusion反応を行うためのプライマー(配列番号15:ATCGGGAGATCTGATGCATAACTAGTGAGGCTC及び配列番号16:GCACCATAGGGGGATAGCGGATCCAGACATGAT)を設計、作製し、これを用いて、hT1R2をコードするcDNAを挿入したpEAK10(Edge Biosystems)をテンプレートとして、EF-1αプロモーター-hT1R2-hGH pAの領域をPCRによって増幅した。そして、得られたEF-1αプロモーター-hT1R2-hGH pA配列断片と、 EcoRVで消化したhT1R3-IRES2-hG16gust44配列を含むpcDNA5/FRT(Invitrogen)とを、In-Fusion Advantage PCR Cloning Kit(Clontech)を用いて結合させて、甘味受容体発現コンストラクト(B)を作製した。得られた甘味受容体発現コンストラクト(B)は、DNAシーケンシングにより、塩基配列に誤りがないことを確認した。(実施例3) 甘味受容体発現コンストラクト(C)の作製 CMVプロモーターの下流に、hT1R3をコードするcDNAとhT1R2をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結してなり、かつ、該hT1R2をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結した配列を有する甘味受容体発現コンストラクト(C)(図2(C)参照)を、以下の手順に従って作製した。 hT1R3のコード領域の直前及び直後に、それぞれAsc Iの認識配列(5’-GGCGCGCC-3’)及びNot Iの認識配列(5’-GCGGCCGC-3’)を持つようなセンスプライマー(配列番号17:GATCGGCGCGCCGCCATGCTGGGCCCTGCTGTC)及びアンチセンスプライマー(配列番号18:GATCGCGGCCGCTCACTCATGTTTCCCCTG)を設計、作製した。 そして、これらのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、hT1R3をコードするcDNA配列を含む配列をテンプレートとしてPCRを行い、hT1R3をコードするcDNAを増幅した。 次いで、得られたhT1R3をコードするcDNA断片を、制限酵素Asc I及びNot Iで消化し、また、pEAK10(Edge Biosystems)を、制限酵素Asc I及びNot Iで消化した。これらの制限酵素消化産物を、Ligation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させて、hT1R3をコードするcDNAを持つpEAK10(Edge Biosystems)を得た。 そして、このpEAK10(Edge Biosystems)を、制限酵素Hind III及びNot Iで消化し、アガロース電気泳動により、DNA断片を分離して、hT1R3のcDNA断片を精製した。次いで、このhT1R3をコードするcDNA断片と、Hind III及びNot Iで消化したpcDNA5/FRT(Invitrogen)とを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させることにより、マルチクローニングサイトに、hT1R3をコードするcDNAを持つpcDNA5/FRT(Invitrogen)を作製した。 次いで、IRES配列の直前にEco52Iの認識配列(5’-CGGCCG-3’)を持つようなセンスプライマー(配列番号19:GATCCGGCCGGCCCCTCTCCCTCCCCCC)及びIRES配列の終了する部分に相当するアンチセンスプライマー(配列番号20:GGTTGTGGCCATATTATC)を設計、作製した。 そして、これらのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、pIRES2-EGFP(Clontech)をテンプレートとしてPCRを行い、IRES配列を増幅した。 次いで、hT1R2のコード領域の直前及び直後に、それぞれAsc Iの認識配列(5’-GGCGCGCC-3’)及びNot Iの認識配列(5’-GCGGCCGC-3’)を持つようなセンスプライマー(配列番号21:GATCGGCGCGCCGCCATGGGGCCCAGGGCAAAG)及びアンチセンスプライマー(配列番号22:GATCGCGGCCGCCTAGTCCCTCCTCATGGT)を設計、作製した。 そして、これらのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、hT1R2をコードするDNA配列を含む配列をテンプレートとしてPCRを行い、hT1R2をコードするcDNAを増幅した。得られたhT1R2をコードするcDNAを、Asc I及びNot Iで消化し、pEAK10(Edge Biosystems)を、Asc I及びNot Iで消化して、これらをLigation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させて、pEAK10(Edge Biosystems)に、hT1R2をコードするcDNAを挿入した。 次いで、hT1R2の開始コドンを含む18塩基のセンスプライマー(配列番号23: ATGGGGCCCAGGGCAAAG)及びhGH pA配列中の配列を持つアンチセンスプライマー(配列番号24:CTGGATGCAGGCTACTCTA)を設計、作製した。そして、これらのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、hT1R2/pEAK10をテンプレートとして、PCRを行い、hT1R2をコードするcDNAを増幅した。 次いで、前述したIRES配列を、Eco52Iで消化し、また、hT1R2をコードするcDNAを、Not Iで消化し、また、pBluescript II SK(-)を、Not Iで消化して、これらの制限酵素消化産物をLigation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させて、IRES2-hT1R2/pBluescript II SK(-)を作製した。 次いで、IRES2-hT1R2/pBluescript II SK(-)を、Eco52Iで消化し、アガロース電気泳動により、cDNA断片を分離して、IRES2-hT1R2配列を精製した。 そして、IRES2-hT1R2配列と、Not Iで消化したhT1R3をコードするcDNAを持つpcDNA5/FRT(Invitrogen)とを、Ligationhigh Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させて、hT1R3-IRES2-hT1R2配列を含むpcDNA5/FRTを得た。 次いで、IRES配列の直前にEco52Iの認識配列(5’-CGGCCG-3’)を持つようなセンスプライマー(配列番号25:GATCCGGCCGGCCCCTCTCCCTCCCCCC)及びIRES配列の終了する部分に相当するアンチセンスプライマー(配列番号26:GGTTGTGGCCATATTATC)を設計、作製した。そして、これらのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、pIRES2-EGFP(Clontech)をテンプレートとしてPCRを行い、IRES配列を増幅した。 次いで、hG16gust44のコード領域の直前及び直後に、Not Iの認識配列(5’-GCGGCCGC-3’)を持つようなセンスプライマー(配列番号27:GATCGCGGCCGCATGGCCCGCTCGCTGACC)、アンチセンスプライマー(配列番号28:GATCGCGGCCGCGAATTCACTAGTGATTTA)を設計、作製した。hG16gust44をコードするcDNA配列を含む配列をテンプレートとしてPCRを行い、hG16gust44をコードするcDNAを増幅した。増幅断片をNot Iで消化し、pEAK10(Edge Biosystems)をNot Iで消化して、これらをLigation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させて、pEAK10(Edge Biosystems)に、hG16gust44をコードするcDNAを挿入したベクター(hG16gust44/pEAK10)を作製した。 次いで、hG16gust44の開始コドンを含む18塩基のセンスプライマー(配列番号29:ATGGCCCGCTCGCTGACC)及びhGH pA配列中の配列を持つアンチセンスプライマー(配列番号30:CTGGATGCAGGCTACTCTA)を設計、作製した。そして、これらのセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いて、上記hG16gust44/pEAK10をテンプレートとして、PCRを行い、hG16gust44をコードするcDNAを増幅した。 次いで、作製したIRES配列を、Eco52Iで消化し、また、hG16gust44をコードするcDNAを、Not Iで消化し、また、pBluescript II SK(-)を、Not Iで消化し、これらの制限酵素消化産物を、Ligation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させて、IRES2-hG16gust44配列を有するベクター(IRES2-hG16gust44/pBluescript II SK(-))を作製した。 次いで、このIRES2-hG16gust44/pBluescript II SK(-)を、Eco52Iで消化し、アガロース電気泳動により、cDNA断片を分離して、IRES2-hG16gust44配列を精製した。 そして、hT1R3-IRES2-hT1R2配列を含むpcDNA5/FRTのhT1R2をコードするcDNAの直後に存在する部位をNot Iで消化した。この制限酵素消化産物とIRES2-hG16gust44配列とを、Ligation high Ver.2(TOYOBO)を用いて、ライゲーション反応によって結合させて、hT1R3-IRES2-hT1R2配列を含むpcDNA5/FRTのhT1R2をコードするcDNAの直後に、IRES2-hG16gust44配列を挿入することにより、甘味受容体発現コンストラクト(C)を作製した。得られた甘味受容体発現コンストラクト(C)は、DNAシーケンシングにより、塩基配列に誤りがないことを確認した。(実施例4) ヒト甘味受容体(hT1R2+hT1R3)とhG16gust44を発現させた培養細胞株(A)〜(C)の作製 実施例1で作製した甘味受容体発現コンストラクト(A)0.8μgと、pOG44 7.2μgとをリポフェクション法で、200万個のFlp-In-293細胞(Invitrogen)にトランスフェクションして48時間経過後、ハイグロマイシンB添加(100μg/ml)培地でスクリーニングを行い、安定発現株である培養細胞株(A)を取得した。 次いで、ハイグロマイシンBに対して生存した細胞を増殖させ、その一部をゼオシン添加(100μg/ml)培地で培養して、ゼオシン(100μg/ml)によって細胞が死滅していたことから、培養細胞株(A)には、ヒト甘味受容体(hT1R2+hT1R3)及びhG16gust44の遺伝子がFRT部位に導入されていることを確認した。 また、培養細胞株(A)〜(C)について、RT-PCRを行い、アガロース電気泳動により、hT1R2断片、hT1R3断片及びhG16gust44断片のバンドが認められ、ヒト甘味受容体(hT1R2+hT1R3)及びhG16gust44が発現していることを確認した。 同様に、甘味受容体発現コンストラクト(A)の代わりに、実施例2で作製した甘味受容体発現コンストラクト(B)、(C)をそれぞれ用いて、培養細胞株(B)及び培養細胞株(C)を作製した。 その後、これらの培養細胞株(A)〜(C)を10%HI-FBS(Heat Inactivated Fetal Bovine Serum)、100μg/mlのハイグロマイシンB(Invitrogen)、L-グルタミン4mMを含む低グルコース(1,000mg/ml)ダルベッコ改変イーグル(DMEM)培地で、37℃で増殖、維持した。(実施例5) アスパルテーム刺激に対する、実施例4で作製した培養細胞株(A)〜(C)の生理的応答の比較 実施例4で作製した培養細胞株(A)〜(C)のそれぞれに、蛍光カルシウム指示薬Fura-2 AMを負荷して、細胞に取り込ませた。そして、Fura-2 AMを負荷した細胞を340nmと380nmで励起し、510nmにおいて観察される蛍光画像を蛍光顕微鏡ならびにCCDカメラを用いて取得した。画像取得中に細胞に終濃度10mMのアスパルテームを投与し、その後、継続して画像の取得を行った。取得した画像の視野中から細胞100個をランダムに選択し、応答細胞数を計測した。 また、比較として、CMVプロモーターの下流に、hT1R3をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結してなる配列を有するpcDNA5/FRTからなる発現コンストラクト(図10)を用いて、実施例4と同様に培養細胞株(D)を作製し、上記と同様に応答細胞数を計測に供した。 上記計測の結果を図11に示す。この結果からわかるように、培養細胞株(A)については、アスパルテーム投与により、非常に強い細胞応答が観察され、また、培養細胞株(B)、(C)については、培養細胞株(A)に比べて、弱い細胞応答が観察されたのに対し、培養細胞株(D)では、細胞応答が観察されなかった。したがって、培養細胞株(A)〜(C)は、ヒト甘味受容体が機能的に発現していることが確認された。(実施例6) アスパルテーム刺激に対する、培養細胞株(A)の生理的応答 実施例4で作製した培養細胞株(A)に、蛍光カルシウム指示薬Fura-2 AMを負荷して、細胞に取り込ませた。そして、Fura-2 AMを負荷した細胞を340nmと380nmで励起し、510nmにおいて観察される蛍光画像を蛍光顕微鏡ならびにCCDカメラを用いて取得した。画像取得中に細胞に終濃度0.1mM、0.5mM、1mM、2mM、5mMの各濃度のアスパルテームを投与し、その後、継続して画像の取得を行った。各濃度において最も強い応答が観察された時点の画像を図12に示した。結果からわかるように、投与する甘味料としてアスパルテームを用いた場合、0.1mMから5mMの範囲において濃度依存的な甘味応答が観察された。(実施例7) スクロース刺激に対する、培養細胞株(A)の生理的応答 実施例4で作製した培養細胞株(A)に、蛍光カルシウム指示薬Fura-2 AMを負荷して、細胞に取り込ませた。そして、Fura-2 AMを負荷した細胞を340nmと380nmで励起し、510nmにおいて観察される蛍光画像を蛍光顕微鏡ならびにCCDカメラを用いて取得した。画像取得中に細胞に終濃度20mM、50mM、100mM、200mM、500mM、1Mの各濃度のスクロースを投与し、その後、継続して画像の取得を行った。各濃度において最も強い応答が観察された時点の画像を図13に示した。 結果からわかるように、投与する甘味料としてスクロースを用いた場合、20mMから1Mの範囲において濃度依存的な甘味応答が観察された。(実施例8) スクロース刺激に対する、培養細胞株(A)の生理的応答 実施例4で作製した培養細胞株(A)に、蛍光カルシウム指示薬Fura-2 AMを負荷して、細胞に取り込ませた。そして、Fura-2 AMを負荷した細胞を340nmと380nmで励起し、510nmにおいて観察される蛍光画像を蛍光顕微鏡ならびにCCDカメラを用いて取得した。画像取得中に細胞に終濃度500mMのスクロースを投与し、その後、継続して画像の取得を行った。最も強い応答が観察された時点の画像を図14に示した。 また、終濃度が500mMのスクロースと1.25mMのラクチゾールを同時に細胞に投与し、上記と同様にして蛍光画像を取得し、最も強い応答が観察された時点の画像を図14に示した。 結果からわかるように、T1R3インヒビターとして知られるラクチゾールの添加により、細胞の応答が抑制されたことが確認できた。この結果より、スクロースに対する細胞応答は、T1R3サブユニットを介した応答であると推測された。(実施例9) スクロース刺激に対する、培養細胞株(A)の生理的応答 スクロース刺激に対して、培養細胞株(A)の生理的応答を、自動化蛍光イメージングにより解析した。 実施例4で作製した培養細胞株(A)をトリプシナイズし、該DMEM培地に懸濁して細胞密度を計測し、96ウェルプレート(Corning、CellBIND Surface)の各ウェル上に、約8万個ずつ撒いた。 そして、37℃で24時間培養した後、培地を除去し、50μlのHEPESバッファーで置換し、蛍光カルシウム指示薬(Molecular Devices、FLIPR Ca 4 Assay Kitに付属のFluo-4 AM)を含むHEPESバッファーをさらに50μl添加した。次いで、27℃で45分間インキュベートして、自動化蛍光イメージングに供する細胞を調製した。 次いで、この細胞に、スクロースの終濃度が表1に記載された濃度となるように、スクロースを含むHEPESバッファーを添加して、27℃でスクロース刺激を行った。そして、スクロースを含むHEPESバッファーの添加直後から100秒後にかけての蛍光反応(485nm励起で525nm蛍光)を、FlexStation 3(Molecular Devices)を用いて測定し、スクロース刺激に対する甘味受容体発現細胞の応答を自動化蛍光イメージングにより定量した。結果を表1及び図15に示す。図15の縦軸は、刺激直後と刺激後100秒後の間における蛍光強度の変化量の最大値(ΔF)、すなわち、細胞の応答強度であり、横軸は、対数表示のスクロース濃度(mM)を示す。 得られた結果から、本発明の培養細胞株(A)を用いて、スクロースの甘味を評価できることが確認できた。スクロースは甘味の程度が弱いため、50mM程度の濃度で添加しないと甘味受容体細胞の応答は観察されない。しかし、逆に200mMを超える濃度のスクロース溶液を添加すると、細胞が浸透圧の影響を受けるため、正常な細胞応答を測定することができなくなる。したがって、通常、細胞を用いた甘味アッセイ系でスクロースの甘味度を数値化できるのは約50から200mMという狭い範囲に限定されるが、上記細胞系を利用すれば、この限界値の下限を更に低くすることが可能になる。(実施例10) D-フェニルアラニン刺激に対する、培養細胞株(A)の生理的応答 D-フェニルアラニン刺激に対して、培養細胞株(A)の生理的応答を、自動化蛍光イメージングにより解析した。 実施例4で作製した培養細胞株(A)をトリプシナイズし、該DMEM培地に懸濁して細胞密度を計測し、96ウェルプレート(Corning、CellBIND Surface)の各ウェル上に、約8万個ずつ撒いた。 そして、37℃で24時間培養した後、培地を除去し、50μlのHEPESバッファーで置換し、蛍光カルシウム指示薬(Molecular Devices、FLIPR Ca 4 Assay Kitに付属のFluo-4 AM)を含むHEPESバッファーをさらに50μl添加した。次いで、27℃で45分間インキュベートして、自動化蛍光イメージングに供する細胞を調製した。 次いで、この細胞に、D-フェニルアラニンの終濃度が表2に記載された濃度となるように、D-フェニルアラニンを含むHEPESバッファーを添加して、27℃でD-フェニルアラニン刺激を行った。 そして、D-フェニルアラニンを含むHEPESバッファーの添加直後から100秒後にかけての蛍光反応(485nm励起で525nm蛍光)を、FlexStation 3(Molecular Devices)を用いて測定し、D-フェニルアラニン刺激に対する甘味受容体発現細胞の応答を自動化蛍光イメージングにより定量した。結果を表2及び図16に示す。図16の縦軸は、刺激直後と刺激後100秒後の間における蛍光強度の変化量の最大値(ΔF)、すなわち、細胞の応答強度であり、横軸は、対数表示のD-フェニルアラニン濃度(mM)を示す。 得られた結果から、本発明の培養細胞株(A)を用いて、D-フェニルアラニンの甘味を評価できることが確認できた。(実施例11) アスパルテーム刺激に対する、培養細胞株(A)の生理的応答 アスパルテーム刺激に対して、培養細胞株(A)の生理的応答を、自動化蛍光イメージングにより解析した。 実施例4で作製した培養細胞株(A)をトリプシナイズし、該DMEM培地に懸濁して細胞密度を計測し、96ウェルプレート(Corning、CellBIND Surface)の各ウェル上に、約8万個ずつ撒いた。 そして、37℃で24時間培養した後、培地を除去し、50μlのHEPESバッファーで置換し、蛍光カルシウム指示薬(Molecular Devices、FLIPR Ca 4 Assay Kitに付属のFluo-4 AM)を含むHEPESバッファーをさらに50μl添加した。次いで、27℃で45分間インキュベートして、自動化蛍光イメージングに供する細胞を調製した。 次いで、この細胞に、アスパルテームの終濃度が表3に記載された濃度となるように、アスパルテームを含むHEPESバッファーを添加して、27℃でアスパルテーム刺激を行った。 そして、アスパルテームを含むHEPESバッファーの添加直後から100秒後にかけての蛍光反応(485nm励起で525nm蛍光)を、FlexStation 3(Molecular Devices)を用いて測定し、アスパルテーム刺激に対する甘味受容体発現細胞の応答を自動化蛍光イメージングにより定量した。結果を表3及び図17に示す。図17の縦軸は、刺激直後と刺激後100秒後の間における蛍光強度の変化量の最大値(ΔF)、すなわち、細胞の応答強度であり、横軸は、対数表示のアスパルテーム濃度(mM)を示す。 得られた結果から、本発明の培養細胞株(A)を用いて、アスパルテームの甘味を評価できることが確認できた。(実施例12) サッカリン刺激に対する、培養細胞株(A)の生理的応答 サッカリン刺激に対して、培養細胞株(A)の生理的応答を、自動化蛍光イメージングにより解析した。 実施例4で作製した培養細胞株(A)をトリプシナイズし、該DMEM培地に懸濁して細胞密度を計測し、96ウェルプレート(Corning、CellBIND Surface)の各ウェル上に、約8万個ずつ撒いた。 そして、37℃で24時間培養した後、培地を除去し、50μlのHEPESバッファーで置換し、蛍光カルシウム指示薬(Molecular Devices、FLIPR Ca 4 Assay Kitに付属のFluo-4 AM)を含むHEPESバッファーをさらに50μl添加した。次いで、27℃で45分間インキュベートして、自動化蛍光イメージングに供する細胞を調製した。 次いで、この細胞に、サッカリンの終濃度が表4に記載された濃度となるように、サッカリンを含むHEPESバッファーを添加して、27℃でサッカリン刺激を行った。 そして、サッカリンを含むHEPESバッファーの添加直後から100秒後にかけての蛍光反応(485nm励起で525nm蛍光)を、FlexStation 3(Molecular Devices)を用いて測定し、サッカリン刺激に対する甘味受容体発現細胞の応答を自動化蛍光イメージングにより定量した。結果を表4及び図18に示す。図18の縦軸は、刺激直後と刺激後100秒後の間における蛍光強度の変化量の最大値(ΔF)、すなわち、細胞の応答強度であり、横軸は、対数表示のサッカリン濃度(mM)を示す。 得られた結果から、本発明の培養細胞株(A)を用いて、サッカリンの甘味を評価できることが確認できた。(実施例13) ステビア刺激に対する、培養細胞株(A)の生理的応答 ステビア刺激に対して、培養細胞株(A)の生理的応答を、自動化蛍光イメージングにより解析した。 実施例4で作製した培養細胞株(A)をトリプシナイズし、該DMEM培地に懸濁して細胞密度を計測し、96ウェルプレート(Corning、CellBIND Surface)の各ウェル上に、約8万個ずつ撒いた。 そして、37℃で24時間培養した後、培地を除去し、50μlのHEPESバッファーで置換し、蛍光カルシウム指示薬(Molecular Devices、FLIPR Ca 4 Assay Kitに付属のFluo-4 AM)を含むHEPESバッファーをさらに50μl添加した。次いで、27℃で45分間インキュベートして、自動化蛍光イメージングに供する細胞を調製した。 次いで、この細胞に、ステビアの終濃度が表5に記載された濃度となるように、ステビアを含むHEPESバッファーを添加して、27℃でステビア刺激を行った。 そして、ステビアを含むHEPESバッファーの添加直後から100秒後にかけての蛍光反応(485nm励起で525nm蛍光)を、FlexStation 3(Molecular Devices)を用いて測定し、ステビア刺激に対する甘味受容体発現細胞の応答を自動化蛍光イメージングにより定量した。結果を表5及び図19に示す。図19の縦軸は、刺激直後と刺激後100秒後の間における蛍光強度の変化量の最大値(ΔF)、すなわち、細胞の応答強度であり、横軸は、対数表示のステビア濃度(mg/ml)を示す。 得られた結果から、本発明の培養細胞株(A)を用いて、ステビアの甘味を評価できることが確認できた。(実施例14) ネオヘスペリジンジヒドロカルコン(NHDC)刺激に対する、培養細胞株(A)の生理的応答 ネオヘスペリジンジヒドロカルコン刺激に対して、培養細胞株(A)の生理的応答を、自動化蛍光イメージングにより解析した。実施例4で作製した培養細胞株(A)をトリプシナイズし、該DMEM培地に懸濁して細胞密度を計測し、96ウェルプレート(Corning、CellBIND Surface)の各ウェル上に、約8万個ずつ撒いた。 そして、37℃で24時間培養した後、培地を除去し、50μlのHEPESバッファーで置換し、蛍光カルシウム指示薬(Molecular Devices、FLIPR Ca 4 Assay Kitに付属のFluo-4 AM)を含むHEPESバッファーをさらに50μl添加した。次いで、27℃で45分間インキュベートして、自動化蛍光イメージングに供する細胞を調製した。 次いで、この細胞に、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの終濃度が表6に記載された濃度となるように、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを含むHEPESバッファーを添加して、27℃でネオヘスペリジンジヒドロカルコン刺激を行った。 そして、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンを含むHEPESバッファーの添加直後から100秒後にかけての蛍光反応(485nm励起で525nm蛍光)を、FlexStation 3(Molecular Devices)を用いて測定し、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン刺激に対する甘味受容体発現細胞の応答を自動化蛍光イメージングにより定量した。結果を表6及び図20に示す。図20の縦軸は、刺激直後と刺激後100秒後の間における蛍光強度の変化量の最大値(ΔF)、すなわち、細胞の応答強度であり、横軸は、対数表示のネオヘスペリジンジヒドロカルコン濃度(mM)を示す。 得られた結果から、本発明の培養細胞株(A)を用いて、ネオヘスペリジンジヒドロカルコンの甘味を評価できることが確認できた。(実施例15) シクラメート刺激に対する、培養細胞株(A)の生理的応答 シクラメート刺激に対して、培養細胞株(A)の生理的応答を、自動化蛍光イメージングにより解析した。 実施例4で作製した培養細胞株(A)をトリプシナイズし、該DMEM培地に懸濁して細胞密度を計測し、96ウェルプレート(Corning、CellBIND Surface)の各ウェル上に、約8万個ずつ撒いた。 そして、37℃で24時間培養した後、培地を除去し、50μlのHEPESバッファーで置換し、蛍光カルシウム指示薬(Molecular Devices、FLIPR Ca 4 Assay Kitに付属のFluo-4 AM)を含むHEPESバッファーをさらに50μl添加した。次いで、27℃で45分間インキュベートして、自動化蛍光イメージングに供する細胞を調製した。 次いで、この細胞に、シクラメートの終濃度が表7に記載された濃度となるように、シクラメートを含むHEPESバッファーを添加して、27℃でシクラメート刺激を行った。 そして、シクラメートを含むHEPESバッファーの添加直後から100秒後にかけての蛍光反応(485nm励起で525nm蛍光)を、FlexStation 3(Molecular Devices)を用いて測定し、シクラメート刺激に対する甘味受容体発現細胞の応答を自動化蛍光イメージングにより定量した。結果を表7及び図21に示す。図21の縦軸は、刺激直後と刺激後100秒後の間における蛍光強度の変化量の最大値(ΔF)、すなわち、細胞の応答強度であり、横軸は、対数表示のシクラメート濃度(mM)を示す。 得られた結果から、本発明の培養細胞株(A)を用いて、シクラメートの甘味を評価できることが確認できた。 本発明により、甘味受容体の安定な発現細胞を取得することができる。この発現細胞は種々の物質の甘味応答の解析に利用することができる。 味受容体サブユニットT1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットをコードする各遺伝子を同一のプラスミドに挿入してなる甘味受容体発現コンストラクト。 甘味受容体サブユニットT1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットをコードする各遺伝子を転写方向が同じ向きになるように、同一のプラスミドに挿入してなる甘味受容体発現コンストラクト。 甘味受容体サブユニットT1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットのすべて、あるいはそれらのうち2者をコードする各遺伝子を、IRES配列を介して連結してなる遺伝子断片を含み、かつ、上記各遺伝子を転写方向が同じ向きになるように、同一のプラスミドに挿入してなる甘味受容体発現コンストラクト。 プラスミドが、pcDNA5/FRT(Invitrogen)である請求項1〜3のいずれか1項に記載の甘味受容体発現コンストラクト。 Gタンパク質αサブユニットが、hG16gust44である請求項1〜4のいずれか1項に記載の甘味受容体発現コンストラクト。 甘味受容体サブユニットT1R2をコードする遺伝子の下流に、甘味受容体サブユニットT1R3をコードする遺伝子を連結し、その直後にさらに、IRES配列を介して、Gタンパク質αサブユニットをコードする遺伝子を連結してなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の甘味受容体発現コンストラクト。 甘味受容体サブユニットT1R2をコードする遺伝子の直後に、IRES配列を介して、Gタンパク質αサブユニットをコードする遺伝子を連結し、さらに、その下流に存在する甘味受容体サブユニットT1R3をコードする遺伝子の直後に、IRES配列を介して、Gタンパク質αサブユニットをコードする遺伝子を連結してなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の甘味受容体発現コンストラクト。 甘味受容体サブユニットT1R3をコードする遺伝子の直後に、IRES配列を介して、甘味受容体サブユニットT1R2をコードする遺伝子を連結し、その直後にさらに、IRES配列を介して、Gタンパク質αサブユニットをコードする遺伝子を連結してなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の甘味受容体発現コンストラクト。 EF-1αプロモーターの下流に、hT1R2をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結した配列を有し、かつ、この配列の下流にあるCMVプロモーターの下流に、hT1R3をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結した配列を有する甘味受容体発現コンストラクト。 EF-1αプロモーターの下流に、hT1R2をコードするcDNAの配列を有し、かつ、この配列の下流にあるCMVプロモーターの下流に、hT1R3をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結した配列を有する甘味受容体発現コンストラクト。 CMVプロモーターの下流に、hT1R3をコードするcDNAとhT1R2をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結してなり、かつ、該hT1R2をコードするcDNAとhG16gust44をコードするcDNAを、IRES配列を挿んで連結した配列を有する甘味受容体発現コンストラクト。 以下の(a)〜(g)の工程により作製される甘味受容体発現コンストラクト。(a) pcDNA5/FRT(Invitrogen)のマルチクローニングサイト以外の場所に6塩基の置換を行い、EcoRVの認識配列を新たに作製する工程、(b) 工程(a)で得られたベクターのマルチクローニングサイトにT1R3をコードする遺伝子を挿入する工程、(c) pIRES2−EGFP(Clontech)に由来するIRES配列とhG16gust44をコードする遺伝子を結合する工程、(d) 工程(b)で得られたベクターのT1R3をコードする遺伝子の直後に存在する部位をNot Iで切断し、工程(c)で得られたIRES配列とhG16gust44をコードする遺伝子を結合した配列を挿入する工程、(e) pEAK10(Edge Biosystems)にT1R2をコードする遺伝子を挿入する工程、(f) 工程(e)で得られたベクターのT1R2をコードする遺伝子の直後に存在する部位をNot Iで切断し、工程(c)で得られたIRES配列とhG16gust44をコードする遺伝子を結合した配列を挿入する工程、(g) 工程(d)で得られたベクターをEcoR Vで切断し、T1R3、IRES、hG16gust44をそれぞれコードする各遺伝子が連結した配列の上流に、工程(f)で得られたT1R2、IRES、hG16gust44をそれぞれコードする各遺伝子が連結した配列を挿入する工程。 ゲノム中にFRT(Flippase Recognition Target)配列を1か所組み込まれた293細胞に、請求項1〜12のいずれか1項に記載の甘味受容体発現コンストラクトを遺伝子導入して甘味受容体サブユニットT1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットを同時に発現させた細胞株。 甘味物質に対する生理的応答を測定するための請求項13に記載の細胞株の使用。 請求項13に記載の細胞株を使用した、甘味物質に対する生理的応答の測定により同定された、特定の甘味物質に対する甘味増強物質を、該甘味物質の生理的応答を測定する際に添加することにより、該甘味物質の甘味の閾値以下の濃度で該甘味物質の生理的応答を測定する方法。 【課題】甘味受容体(T1R2+T1R3)とGタンパク質αサブユニットを共に高い発現効率で機能的に安定して発現させることができる甘味受容体発現コンストラクト、及び該発現コンストラクトを発現させた安定発現細胞体を提供する。【解決手段】本発明の甘味受容体発現コンストラクトは、甘味受容体サブユニットT1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットをコードする各遺伝子を同一のプラスミドに挿入してなる。また、本発明の細胞体は、ゲノム中にFRT(Flippase Recognition Target)配列を1か所組み込まれた293細胞に、本発明の甘味受容体発現コンストラクトを遺伝子導入して甘味受容体サブユニットT1R2及びT1R3並びにGタンパク質αサブユニットを同時に発現させてなる。【選択図】なし配列表