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タイトル:公開特許公報(A)_浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法
出願番号:2009237669
年次:2011
IPC分類:G01N 33/20,C21D 1/55,C21D 1/06


特許情報キャッシュ

久松 喜丈 岩田 広明 花谷 卓司 JP 2011085457 公開特許公報(A) 20110428 2009237669 20091014 浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法 トヨタ自動車株式会社 000003207 矢野 寿一郎 100080621 正津 秀明 100124730 久松 喜丈 岩田 広明 花谷 卓司 G01N 33/20 20060101AFI20110401BHJP C21D 1/55 20060101ALI20110401BHJP C21D 1/06 20060101ALN20110401BHJP JPG01N33/20 ZC21D1/55C21D1/06 A 4 1 OL 20 2G055 2G055AA02 2G055BA20 2G055CA22 2G055EA04 2G055EA08 本発明は、浸炭焼入れシミュレーション結果に基づく浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法の技術に関する。 従来、浸炭焼入れを施す部品(以下、浸炭焼入れ部品と呼ぶ)について、浸炭焼入れ部品の硬度分布が、浸炭焼入れ条件に応じてどのように変化するかを浸炭焼入れ部品の設計段階で解析(シミュレーション)して、解析結果に基づいて浸炭焼入れ条件を決定することによって、浸炭焼入れ後の浸炭焼入れ部品の硬度を確実に確保するようにしている。 浸炭焼入れ部品の硬度分布を解析するための方法としては、例えば、市販の解析ソフトウェアを用いた浸炭焼入れ部品に対する熱処理シミュレーション(以下、浸炭焼入れシミュレーションと呼ぶ)が行われている。このような浸炭焼入れシミュレーションでは、浸炭焼入れ(熱処理)過程において浸炭焼入れ部品に生じる温度変化、炭素の拡散、組織の変化、力学的挙動等の相互作用を伴う複雑な現象を再現することができる。 そして、浸炭焼入れシミュレーションによる解析結果から、浸炭焼入れ条件に応じた炭素濃度(以下、C%と記載する)およびマルテンサイト体積分率(以下、M%と記載する)を算出するとともに、C%とM%の相関を表す式(相関式)から、浸炭焼入れ条件に応じた浸炭焼入れ部品の硬度(硬度分布)を算出する硬度算出方法が、本出願と同一の出願人により出願され提案されている。 しかしながら、C%とM%の相関式を用いた硬度算出方法により算出した硬度分布は、実測値と一致しない場合が多かった。このため従来は、計算値と実測値が一致するように、解析条件(浸炭焼入れ条件)の変更・調整を行って最終的な硬度分布を算出する必要があり、実測値の計測作業や浸炭焼入れ条件の変更・調整作業に時間を要していた。 ここで、硬度分布の計算値と実測値が一致しない要因は、従来用いていたC%とM%の相関式では、浸炭焼入れ部品の素材における焼入れ性が添加元素の含有量に応じて変化することが考慮されていないことに起因していた。つまり、従来の硬度算出方法による算出結果では、浸炭焼入れ部品に所望する硬度が確保できるか否かについて、素材(金属材料)における添加元素がばらついた場合には精度良く判断することができなかった。 素材(金属材料)の焼入れ性は、所謂ジョミニー試験(「鋼の焼入性試験方法(一端焼入方法)」(JISG0561))により求められるジョミニー曲線で表されることが知られている。ここでいう、ジョミニー曲線とは、焼入れ端からの距離と硬度との関係を表した曲線であり、任意の焼入れ端からの距離におけるジョミニー曲線上の値(硬度)をジョミニー値と呼ぶ。また、ジョミニー曲線は、実験式を用いる実験式法や、その他にも加算法、理想臨界直径法等の手法によって算出することも可能である。 ジョミニー曲線を活用した従来技術としては、鋼の溶製技術において、所望する焼入れ性を有する鋼を得るために、精練後の溶鋼をとりべから採取し、出鋼前の溶鋼の成分分析を行うことによってジョミニー曲線を予測する技術が提案されており、例えば、以下に示す特許文献1にその技術が開示され公知となっている。特開2004−294246号公報 特許文献1に開示されている従来技術によれば、ジョミニー曲線が規格範囲内である鋼を容易に得ることができるとともに、分析のための無駄な出鋼を抑えて、歩留まり向上を図ることができる。 しかしながら、特許文献1に開示されている従来技術では、浸炭焼入れ後の硬度分布を算出するための方法については何ら示されておらず、浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果に焼入れ性の概念を導入することによって、精度良く浸炭焼入れ部品の硬度分布を算出する方法は未だ確立されていない状況であった。 本発明は、係る現状の課題を鑑みてなされたものであり、硬度分布の実測作業や実測値に対する浸炭焼入れ条件の合わせ込み作業を省略して、浸炭焼入れ部品の硬度分布の算出に要する時間を短縮するとともに、浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果に焼入れ性を考慮することによって、素材における添加元素の含有量がばらついた場合でも、容易に精度良く浸炭焼入れ部品の硬度分布を算出できる浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法を提供することを目的としている。 本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。 即ち、請求項1においては、浸炭焼入れ部品を形成する金属素材における添加元素の成分割合から理論上求められる前記浸炭焼入れ部品に対するジョミニー曲線である理論ジョミニー曲線を、所定の炭素濃度において算出する工程と、前記所定の炭素濃度において算出した前記理論ジョミニー曲線を補正した補正ジョミニー曲線を算出する工程と、前記所定の炭素濃度において算出した前記補正ジョミニー曲線と、前記浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果により求めた浸炭焼入れ後における前記浸炭焼入れ部品の炭素濃度分布と冷却時間に基づいて、前記浸炭焼入れ部品の浸炭焼入れ後の硬度分布を算出する工程と、を備えるものである。 請求項2においては、前記理論ジョミニー曲線を算出する工程は、前記浸炭焼入れ部品の炭素濃度が0.6%以下の範囲における前記理論ジョミニー曲線を、実験式法により算出し、かつ、前記浸炭焼入れ部品の炭素濃度が0.6%を越える範囲における前記理論ジョミニー曲線を、炭素濃度が0.6%以下の範囲における前記実験式法による算出結果を外挿して算出するものである。 請求項3においては、前記補正ジョミニー曲線を算出する工程は、前記所定の炭素濃度における前記理論ジョミニー曲線の焼入れ端におけるジョミニー値が現実的なジョミニー値となるような差分値を設定するとともに、各炭素濃度における前記差分値の相関を表す補正式を算出し、前記補正式に基づいて、前記所定の炭素濃度における前記理論ジョミニー曲線を補正するものである。 請求項4においては、前記浸炭焼入れ部品を形成する金属素材の添加元素の成分割合の上限許容値から理論上求められるジョミニー曲線である前記浸炭焼入れ部品に対する上限理論ジョミニー曲線を、前記所定の炭素濃度において算出する工程と、前記浸炭焼入れ部品を形成する金属素材の添加元素の成分割合の下限許容値から理論上求められるジョミニー曲線である前記浸炭焼入れ部品に対する下限理論ジョミニー曲線を、前記所定の炭素濃度において算出する工程と、前記所定の炭素濃度において算出した前記上限理論ジョミニー曲線を補正して、補正した前記上限理論ジョミニー曲線である上限補正ジョミニー曲線を算出する工程と、前記所定の炭素濃度において算出した前記下限理論ジョミニー曲線を補正して、補正した前記下限理論ジョミニー曲線である下限補正ジョミニー曲線を算出する工程と、前記所定の炭素濃度において算出した前記上限補正ジョミニー曲線と、前記浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果により求めた浸炭焼入れ後における前記浸炭焼入れ部品の炭素濃度分布と冷却時間に基づいて、前記浸炭焼入れ部品の浸炭焼入れ後の硬度分布の上限を示す上限硬度分布を算出する工程と、前記所定の炭素濃度において算出した前記下限補正ジョミニー曲線と、前記浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果により求めた浸炭焼入れ後における前記浸炭焼入れ部品の炭素濃度分布と冷却時間に基づいて、前記浸炭焼入れ部品の浸炭焼入れ後の硬度分布の下限を示す下限硬度分布を算出する工程と、をさらに備えるものである。 本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。 請求項1においては、素材の焼入れ性を考慮して、容易に短時間で精度の良い硬度分布を算出することができる。 請求項2においては、実測値に良く適合する硬度分布を容易に短時間で算出することができる。 請求項3においては、実測値に良く適合する硬度分布を容易に短時間で算出することができる。 請求項4においては、素材の焼入れ性を考慮して、より精度良く硬度分布の良否を判断することができる。またこれにより、より精度良く浸炭焼入れ条件の採用可否を判断することができる。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法の全体的な流れを示すフロー図。一般的な浸炭焼入れの流れを示す模式図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法における浸炭焼入れ部品の解析結果を示す図、(a)炭素濃度分布の解析結果を示す図、(b)冷却時間の解析結果を示す図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法における硬度分布曲線の生成方法の流れを示すフロー図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法における実験式法により求めた炭素濃度が0.6%以下の理論ジョミニー曲線を示す図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法における実験式法により求めた理論ジョミニー曲線を補完して求めた炭素濃度が0.6%を越える理論ジョミニー曲線を示す図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法における理論ジョミニー曲線に対する補正式の算出方法を示す図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法における補正式による補正後の補正ジョミニー曲線を示す図。本発明の一実施例に係る浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法における硬度の算出方法を示す図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法における実験式法により求めた炭素濃度が0.2%の場合の上限理論ジョミニー曲線および下限理論ジョミニー曲線を示す図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法における実験式法により求めた炭素濃度が0.2%の場合の上限補正ジョミニー曲線および下限補正ジョミニー曲線を示す図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法により生成する硬度分布曲線(第1水準の場合)を示す図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法により生成する硬度分布曲線(第2水準の場合)を示す図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法により生成する硬度分布曲線(第3水準の場合)を示す図。 次に、発明の実施の形態を説明する。 まず始めに、本発明の一実施例に係る浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法の一連の流れについて、図1および図2を用いて説明をする。 図1に示す如く、本発明の一実施例に係る浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法においては、まず、浸炭焼入れシミュレーションにおける解析条件(浸炭焼入れ条件)の入力が行われる(ステップS100)。つまり、浸炭焼入れシミュレーションの初期条件の入力が行われる。 図2に示す如く、実際の浸炭焼入れにおいては、まず、浸炭焼入れの対象部品(以下「ワーク」という。)に対して浸炭処理(S1)が行われる。浸炭処理においては、例えば、ワークが配置された処理室内に、所定の炭素濃度に調整された浸炭ガス(例えば一酸化炭素(CO)ガスを主成分とするもの)が所定の圧力に制御されて供給されるとともに、処理室内が所定の浸炭温度(例えば900℃程度)まで加熱されることで、ワークに対してワークの表面から炭素を侵入させる。 その後、所定のガス圧・温度・炭素濃度に制御された状態の処理室内にワークが所定時間の間置かれることで、拡散処理(S2)が行われる。このような拡散処理により、ワークの表面から侵入する炭素を内部にまで拡散させる。そして、拡散処理の後、焼入れ処理(S3)が行われる。つまり、浸炭処理を受けたワークが、所定の温度の油等によって急冷されることによって、硬度が高められる。 したがって、浸炭焼入れシミュレーションにおいて入力される解析条件(浸炭焼入れ条件)としては、前述したような浸炭焼入れが実際に行われる場合に採用される焼入れ条件が用いられる。浸炭焼入れシミュレーションにおいて入力される浸炭焼入れ条件には、浸炭処理におけるワークの加熱温度と炭素濃度、焼入れ処理におけるワークの温度(焼入れ温度)と炭素濃度(焼入れ炭素濃度)、各処理についての処理時間等が含まれる。なお、図2における矢印Aは、浸炭焼入れの一連の処理におけるワークの温度およびワーク周辺の炭素濃度の変化を模式的に表すものである。 このような浸炭焼入れシミュレーションは、有限要素法(FEM;Finite Element Method)を用いたシミュレーションを行うための市販の解析ソフトウェアが用いられて行われる。本実施例では、市販の解析ソフトウェアとして、例えばDEFORM−HT(米国SFTC社製)が用いられ、浸炭焼入れシミュレーションが行われる。 具体的には、浸炭焼入れシミュレーションは、必要なデータを入力するための入力装置(例えばキーボード等)と、入力されたデータの演算処理・加工等を行うコンピュータと、コンピュータによる処理結果等を外部へ出力するための出力装置(例えば、ディスプレイ等)とを備える一般的なコンピュータシステムが用いられて行われる。 かかるシステムに備えられるコンピュータに、解析ソフトウェアがインストールされることで、コンピュータが有するシミュレーション演算機能により、浸炭焼入れシミュレーションが実行される(ステップS200)。 そして、浸炭焼入れシミュレーションにおいては、システムに備えられる入力装置により、前述したような浸炭焼入れ条件が入力される。 図1に戻り、本実施例の硬度分布算出方法においては、次に、炭素濃度の解析結果が出力される(ステップS300)。即ち、浸炭焼入れシミュレーションによる解析結果として、浸炭焼入れ部品の各部における炭素濃度(%)と冷却時間が出力される。尚、浸炭焼入れシミュレーションによる解析結果としては、その他にもマルテンサイト体積分率(%)等が出力される。こうした浸炭焼入れシミュレーションによる解析結果の出力は、前記のとおりシステムに備えられる出力装置によって行われる。 図3(a)(b)に、本実施例に係る浸炭焼入れシミュレーションによる解析結果としての出力の一例を示す。 図3(a)に示すグラフにおいて、横軸は浸炭焼入れ品における表面からの距離(mm)を表し、縦軸は炭素濃度(%)を表しており、図3(b)に示すグラフにおいて、横軸は浸炭焼入れ品における表面からの距離(mm)を表し、縦軸は冷却時間(sec)を表している。 図3(a)において、実線で示すグラフG1が、浸炭焼入れシミュレーションの解析結果としての、表面からの距離との関係における炭素濃度(計算値)である。また、図3(a)に示すグラフにおける計測点群は、実際に浸炭焼入れが施された浸炭焼入れ品についての炭素濃度(%)の測定結果(実測値)である。 図3(a)に示すグラフG1からわかるように、浸炭焼入れシミュレーションの解析結果としての炭素濃度(計算値)は、図3のグラフにおいて計測点群により表される炭素濃度(実測値)との比較において、若干の誤差を含んでほぼ一致している。 また、図3(b)において、実線で示すグラフG2が、浸炭焼入れシミュレーションの解析結果としての、表面からの距離との関係における冷却時間(計算値)である。 本実施例における冷却時間は、浸炭焼入れ部品を800℃(浸炭温度)まで昇温して浸炭・拡散処理を行って、その後冷却して焼入れ処理を行う場合であって、800℃から500℃に温度が低下するまでの所用時間を「冷却時間」として規定している。 尚、本実施例に示す冷却時間の規定方法は例示であって、本発明に係る浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法における冷却時間の規定方法を、これに限定するものではない。 再び図1に戻り、本実施例に係る硬度分布算出方法においては、続いて、浸炭焼入れシミュレーション解析結果である炭素濃度(計算値)と冷却時間(計算値)に基づいて、浸炭焼入れ部品の硬度分布を算出する(ステップS400)。 具体的には、浸炭焼入れシミュレーションの解析結果として得られた炭素濃度および冷却時間と、以下に説明する方法で求めるジョミニー曲線(詳しくは、補正ジョミニー曲線)と、を用いて浸炭焼入れ部品の硬度分布が算出される。 ここで、浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法(ステップS400)の具体的な内容について、さらに説明をする。 まず、理論上のジョミニー曲線を生成する工程について、図4および図5を用いて説明をする。尚、本実施例では、浸炭焼入れ部品を形成する素材(材質)が肌焼鋼SCr420であって、理論上のジョミニー曲線(以下、理論ジョミニー曲線と呼ぶ)を実験式法により求める場合を例示して説明をする。 一般的に、SCr420における各添加元素の含有割合の規格平均値は、C=0.2%、Cr=1.05%、Mn=0.725%、Ni=0.125%、Mo=0.02%、Si=0.25%、として考えることができる。 そして、図4に示す如く、この規格平均値を以下の数式1に適用することによって、各添加元素の含有割合が規格平均値である平均的なSCr420における理論ジョミニー曲線Jaを生成する(ステップS400−1)。 本実施例で採用している実験式法は、以下に示す数式1により求められるジョミニー値に基づいて理論ジョミニー曲線Jaを生成する方法である(焼入性(大和久重雄著、日刊工業新聞社刊(1979))p70より引用)。尚、数式1は、炭素濃度が0.6%以下の部位にのみ適用できることが知られている。 ここで、数式1におけるJ0は焼入れ端(表面)におけるジョミニー値、J1は表面から1/16インチ(1.5875mm)の距離におけるジョミニー値、J6は表面から6/16インチ(9.525mm)の距離におけるジョミニー値、J22は表面から22/16インチ(34.925mm)の距離におけるジョミニー値、J4〜25は表面から4/16インチ(6.35mm)から25/16インチ(39.6875mm)の間の任意の距離におけるジョミニー値、をそれぞれ示している。 また、各数式中のC・Ni・Cr・Mn・Mo・Si・Vは、各元素の含有割合(%)を示し、Eは表面からの距離(インチ)をそれぞれ示している。 そして、数式1により、炭素濃度が0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%の場合において、各距離における理論ジョミニー値を算出する。そして、算出した理論ジョミニー値に基づいて近似を行い、理論ジョミニー曲線Jaを生成すると、図5に示すような曲線群となる。 本実施例では、数式1で算出されるジョミニー値は、単位がロックウェル硬さCスケール(HRC)となるが、以下の説明では、便宜上硬度の単位をビッカース硬さ(Hv)に統一している。このため、数式1で算出されたジョミニー値は、換算表を用いて、ロックウェル硬さCスケール(HRC)をビッカース硬さ(Hv)に換算して使用している。 また、表面からの距離の単位は、グラフ上に表す場合等には、便宜上インチをミリメートルに換算(1インチ=25.4mm)して表している(以下同様)。 尚、本発明に係る硬度分布算出方法において扱う硬度の単位は、必ずしもビッカース硬さ(Hv)に統一する必要はなく、ロックウェル硬さCスケール(HRC)に統一する態様であってもよい。 次に、炭素濃度が0.6%を越える範囲について、理論ジョミニー曲線Jaを生成する工程について、図4および図6を用いて説明をする。 前述した通り、数式1は、炭素濃度が0.6%以下の範囲でのみ適用することができる。 そこで、図4に示す如く、本発明に係る硬度分布算出方法では、数式1で算出した実験式法による炭素濃度が0.2〜0.6%の範囲における理論ジョミニー曲線Jaの算出結果を外挿して近似式(数式2参照)を求めて、当該近似式により炭素濃度が0.6%を越える範囲におけるジョミニー値を算出する。そして、算出した理論ジョミニー値に基づいて近似を行い、理論ジョミニー曲線Jaを生成する(ステップS400−2)。 本実施例では、浸炭焼入れ部品の材質がSCr420であるため、炭素濃度が0.6%を越える範囲における浸炭焼入れ部品に対するジョミニー値を算出するための近似式は、以下に示す数式2のように表される。この数式2は、材質がSCr420である浸炭焼入れ部品に対して数式1を適用した場合の実験式法による炭素濃度が0.2〜0.6%の範囲における理論ジョミニー曲線Jaの算出結果を外挿することによって求めたものである。 尚、本実施例では、炭素濃度が0.2〜0.6%の範囲で実験式法により理論ジョミニー曲線を算出し、炭素濃度が0.6%を越える範囲の理論ジョミニー曲線を、実験式法による炭素濃度が0.2〜0.6%の範囲における理論ジョミニー曲線の算出結果に基づいて、外挿して算出する場合を例示しているが、実験式法が適用可能な炭素濃度の範囲について必ず実験式法を適用しなければならないのではなく、例えば、炭素濃度が0.2〜0.5%の範囲で実験式法を適用し、0.5%を越える範囲の理論ジョミニー曲線を、実験式法による炭素濃度が0.2〜0.5%の範囲における理論ジョミニー曲線の算出結果に基づいて、外挿して算出することも可能である。 ここで、数式2におけるH0は焼入れ端(表面)におけるジョミニー値、H1は表面から1/16インチ(1.5875mm)の距離におけるジョミニー値、H5は表面から5/16インチ(7.9375mm)の距離におけるジョミニー値、H6は表面から6/16インチ(9.525mm)の距離におけるジョミニー値、H8は表面から8/16インチ(12.7mm)の距離におけるジョミニー値、H12は表面から12/16インチ(19.05mm)の距離におけるジョミニー値、H16は表面から16/16(=1)インチ(25.4mm)の距離におけるジョミニー値、H20は表面から20/16インチ(31.75mm)の距離におけるジョミニー値、をそれぞれ示している。 また、数式2中のCは、炭素濃度(%)を示している。そして、本実施例で示す数式2で算出される各距離におけるジョミニー値は、単位がビッカース硬さ(Hv)で算出される。 そして、数式2により、炭素濃度が0.7%、0.8%の場合において、各距離における理論ジョミニー値を算出する。そして、算出した理論ジョミニー値に基づいて近似を行い、各炭素濃度における理論ジョミニー曲線Jaを生成する。そして、生成した炭素濃度が0.6%を越える場合の理論ジョミニー曲線Jaを図5に追加すると、図6に示すような曲線群となる。 尚、本実施例では、炭素濃度が0.2〜0.8%の場合における理論ジョミニー曲線Jaは、炭素濃度を0.1%ピッチでずらして生成する場合を例示しているが、理論ジョミニー曲線Jaを算出するものとして選択する炭素濃度の組合せをこれに限定するものではなく、さらに細かいピッチ(例えば、0.05%ピッチ等)で理論ジョミニー曲線Jaを生成する態様としてもよい。 また、本実施例では、浸炭焼入れ部品の材質がSCr420である場合を例示しているが、本発明に係る硬度分布算出方法を適用できる浸炭焼入れ部品の材質をこれに限定するものではなく、その他の材質(例えば、SCM、SNCM、SMn等)であってもよい。 尚、補正式は材質ごとに異なってくるため、硬度分布の算出を予定している浸炭焼入れ部品の材質が複数種類存在している場合には、それぞれの材質について、補正式を準備しておく必要がある。 さらに、本実施例では、実験式法を用いて理論ジョミニー曲線Jaを生成する場合を例示しているが、本発明に係る硬度分布算出方法において、理論ジョミニー曲線Jaの生成に用いる手法はこれに限定するものではなく、例えば、加算法や理想臨界直径法等のその他の手法により理論ジョミニー曲線Jaを生成する硬度分布算出方法であってもよい。 ここで、加算法(CraftsおよびLamont法ともいう)は、金属材料のロックウェル硬さCスケール(HRC)が、炭素濃度、含有元素、結晶粒度によって異なるものであり、ジョミニー曲線が硬さの単位として、ロックウェル硬さCスケール(HRC)で表されることを利用してジョミニー曲線を求めるものである。 また、理想臨界直径法は、理想臨界直径を基準として算出する方法である。 ここで、理想臨界直径とは、理想焼入れをしたときの臨界直径のことであり、理想焼入れとは、焼入れした瞬間に試験片の表面が液温になるような焼入れをいい、臨界直径とは、焼入れによって中心が50%マルテンサイトになるような直径をいう。 これら加算法および理想臨界直径法により、計算によってジョミニー曲線を求める具体的な方法の詳細は、焼入性(大和久重雄著、日刊工業新聞社刊(1979))等の文献に示されている。 尚、理論ジョミニー曲線Jaを生成するための各手法(即ち、実験式法、加算法、理想臨界直径法等)には、それぞれ一長一短があるため、ターゲットとする深さ(表面からの距離)等に応じて各手法を使い分けることができる。 次に、理論ジョミニー曲線Jaを補正するための補正式を算出する工程について、図4および図6、図7を用いて説明をする。 図6に示す理論ジョミニー曲線Jaは、実測値から大きく外れた値を示しているため、これを実測値に適合するように補正をする必要がある。 本実施例では、図6中に示す炭素濃度が0.8%の場合における、焼入れ端(即ち、表面からの距離が0)の硬度は実測値ではありえない大きな値を示しており、これを現実的な(即ち、実測値に適合する)値に補正するための硬度補正値がa8である(即ち、理論ジョミニー曲線Jaからa8だけ減算する必要がある)ものと仮定する。 そして、この硬度補正値a8を図7に示すグラフ上にプロットする。図7は縦軸が硬度補正値(Hv)を示し、横軸が炭素濃度(%)を示している。 同様に、炭素濃度が0.2〜0.7%である場合に必要な各硬度補正値a2〜a7を求め、図7のグラフ上にプロットする。尚、硬度補正値a2〜a8の各値は負の値である。 そして、このようにしてプロットした硬度補正値a2〜a8の各値から、これらの値の相関を表す補正式を算出する(ステップS400−3)。 例えば、本実施例のように材質がSCr420である場合の硬度補正値ΔHを算出するための補正式は、以下に示す数式3となる。ここで、Cは炭素濃度(%)を示している。 尚、本実施例では、硬度補正値ΔHを算出するための補正式を3次式で近似して求める態様を例示しているが、本発明に係る硬度分布算出方法において、硬度補正値ΔHを算出するための補正式を算出する近似方法をこれに限定するものではなく、硬度補正値ΔHを算出するための補正式の次元数は問わない。 次に、補正ジョミニー曲線を生成する工程について、図4、図6および図8を用いて説明をする。 図4に示す如く、補正式の算出が完了すると、次に算出した補正式によって、理論ジョミニー曲線の補正を行う(ステップS400−4)。 図6に示す理論ジョミニー曲線を数式3で補正すると、図8に示すような補正後の理論ジョミニー曲線である補正ジョミニー曲線Jcを生成することができる。このようにして生成する補正ジョミニー曲線Jcは、現実的な値を示すようになっている。 そして、この算出結果として取得する補正ジョミニー曲線Jcと、解析結果として取得する炭素濃度分布(図3(a)参照)と冷却時間(図3(b)参照)を用いて、材質がSCr420である場合の浸炭焼入れ部品の硬度分布曲線を生成することができる。 次に、硬度分布を算出する工程について、図3、図4、図8および図9を用いて説明をする。 図8に示す補正ジョミニー曲線Jcは「ジョミニー距離」と「硬度」の相関を表す曲線群であり、また、浸炭焼入れ部品の硬度分布は、「表面からの距離」と「硬度」の相関で表されるものである。 ここで、「表面からの距離」と「ジョミニー距離」は概念が異なる距離であるため、図8から直接的に浸炭焼入れ部品の硬度分布を算出することは出来ない。 そこで、図3(b)に示す「表面からの距離」と「冷却時間」との相関を表すグラフと図8に示すグラフを用いるとともに、さらにその他に、「冷却時間」と「ジョミニー距離」の相関を取得することによって、「表面からの距離」と「硬度」の相関を取得することが可能になる。 この「冷却時間」と「ジョミニー距離」との相関は、金属材料(例えば、本実施例ではSCr420)に対するジョミニー試験(JISG0561)を行うことによって求められる。また計算によって算出することも可能である。 このため、本発明に係る浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法では、「冷却時間」と「ジョミニー距離」との相関を生成するようにしている(ステップS400−5)。 そして、例えば浸炭焼入れ部品の材質がSCr420である場合における、「冷却時間」と「ジョミニー距離」との相関を求めると、図9中の領域(I)に示すようなグラフとなる。そして、この領域(I)に示す相関(グラフ)を介して、図3(b)および図8を関連付けると、図9に示すようなグラフとして表される。 ここで、図9中に示す領域(I)では、「ジョミニー距離(縦軸)」と「冷却時間(横軸)」の相関を表しており、領域(II)では、「表面からの距離(縦軸)」と「冷却時間(横軸)」の相関(図3(b)に相当)を表している。そして、領域(III)では、「ジョミニー距離(縦軸)」と「硬度(横軸)」の相関(図8に相当)を表している。 次に、浸炭焼入れ部品に対する硬度の算出方法について、図3(a)(b)、図8および図9を用いて説明をする。尚ここでは、浸炭焼入れ部品の「表面からの距離」がX1である部位の硬度の算出方法を例示する。 本実施例で例示する浸炭焼入れ部品の「表面からの距離」がX1である部位は、図3(a)に示す解析結果によると、炭素濃度が約0.7%であることが判る。 次に、図9中に示す領域(II)のグラフ(図3(b)に相当)において、「表面からの距離」X1における「冷却時間」TX1を求める。 次に、図9中における領域(I)のグラフにおいて、「冷却時間」がTX1となる「ジョミニー距離」JX1を求める。 ここで、「表面からの距離」がX1である部位は、炭素濃度が約0.7%であることが既知であるため、図9中に示す領域(III)のグラフ(図8に相当)において、炭素濃度が0.7%である場合の補正ジョミニー曲線Jcを適用して、「ジョミニー距離」JX1における「硬度」HX1を求める。 このようにして、図9を用いることによって、浸炭焼入れ部品の焼入れ性を考慮しつつ、「表面からの距離」X1における「硬度」HX1を算出することができる。 そして同様に、「表面からの距離」のうちの必要な範囲(浸炭範囲)において、さらに多くの点についての「硬度」を算出することによって、硬度分布曲線(例えば、後述する硬度分布曲線Ca)を生成することができる(ステップS400−6)。 このように、本実施例に係る硬度分布算出方法では、炭素濃度分布(図3(a))および冷却時間(図3(b))の解析結果と、補正ジョミニー曲線の算出結果(図8)と、を組合せる(即ち、図9)ことによって、焼入れ性を考慮しつつ、浸炭焼入れ部品の硬度分布を算出することができる。 即ち、本発明の一実施例に係る浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法は、浸炭焼入れ部品を形成する金属素材(本実施例では、SCr420)における添加元素(C、Cr、Ni、Mn、Mo、Si、V等)の成分割合から理論上(本実施例では、実験式法およびその近似式により)求められる浸炭焼入れ部品に対するジョミニー曲線である理論ジョミニー曲線Jaを、所定の炭素濃度(本実施例では、0.2〜0.8%)において算出する工程と、炭素濃度0.2〜0.8%において算出した理論ジョミニー曲線Jaを補正した補正ジョミニー曲線Jcを算出する工程と、炭素濃度0.2〜0.8%において算出した補正ジョミニー曲線Jc(図8)と、浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果により求めた浸炭焼入れ後における浸炭焼入れ部品の炭素濃度分布(図3(a))と冷却時間(図3(b))に基づいて、浸炭焼入れ部品の浸炭焼入れ後の硬度分布を算出する工程と、を備えるものである。 これにより、素材の焼入れ性を考慮して、容易に短時間で精度の良い硬度分布(即ち、硬度分布曲線Ca(図10〜図12参照))を算出(生成)することができる。 ここで、上限補正ジョミニー曲線および下限補正ジョミニー曲線の生成方法について、図10および図11を用いて説明をする。 素材(材料金属)における添加元素の含有割合は常に一定ではなく、ばらつきがあるため、実際に使用する素材の理論ジョミニー曲線Jaが、必ず図8に一致するとは限らない。 一般的に、素材(材料金属)における添加元素の含有割合のばらつきをどの程度まで許容するかは、浸炭焼入れ部品の用途等に応じてユーザーがその許容値(上限および下限)を決定している。 このため、図10に示す如く、既述した理論ジョミニー曲線Jaの生成方法と同じ方法で、素材(材料金属)における添加元素の含有割合が上限許容値である場合の理論ジョミニー曲線(以下、上限理論ジョミニー曲線JHと呼ぶ)と、下限許容値である場合の理論ジョミニー曲線(以下、下限理論ジョミニー曲線JLと呼ぶ)を、それぞれ別途生成することができる。 そして、上限理論ジョミニー曲線JHと下限理論ジョミニー曲線JLに補正式を適用することによって、図11に示すような上限補正ジョミニー曲線JHcおよび下限補正ジョミニー曲線JLcを生成することができる。 尚、ここで示した図10および図11では、炭素濃度0.2%の場合の添加元素の上限値および下限値から上限理論ジョミニー曲線JHと下限理論ジョミニー曲線JLを生成し、さらに最終的に上限補正ジョミニー曲線JHcと下限補正ジョミニー曲線JLcを生成する場合についてのみ例示しているが、その他の各炭素濃度の場合においても、同様に添加元素の上限値および下限値からそれぞれの上限補正ジョミニー曲線JHcと下限補正ジョミニー曲線JLcを生成することができる。 次に、本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法により生成した硬度分布曲線の具体例を、図12〜図14に示す。 本実施例に示す硬度分布曲線Caは、材質がSCr420である浸炭焼入れ部品の場合であって、図12は浸炭時間を180分とした場合(以後、第1水準と呼ぶ)、図13は浸炭時間を200分とした場合(以後、第2水準と呼ぶ)、図14は浸炭時間を430分とした場合(以後、第3水準と呼ぶ)をそれぞれ例示している。即ち、各水準の各浸炭焼入れ部品では、浸炭時間が異なっているため、炭素濃度が相異している。 例えば、第1水準の場合の硬度分布曲線Ca(計算値)は、図12のように表すことができる。 第1水準に対する解析結果を用いた計算上の硬度分布曲線Ca(計算値)は、図12のグラフにおいて表される硬度分布曲線Cb(実測値)との比較において、若干の誤差を含んでいるものの良く一致していることが確認できる。 ここで、上限硬度分布曲線および下限硬度分布曲線の生成方法について、図12〜図14を用いて説明をする。 図12〜図14に示す如く、既述した硬度分布曲線Caの生成方法と同じ方法で、上限補正ジョミニー曲線JHcと下限補正ジョミニー曲線JLcのそれぞれに基づいて、硬度分布曲線を別途生成することができる。 そして、硬度分布曲線Caに、上限硬度分布曲線CHと下限硬度分布曲線CLを書き添えることによって、硬度分布曲線Caが変動する可能性のある範囲(以下、変動幅と呼ぶ)を提示することができる。つまり、硬度分布曲線Caと上限硬度分布曲線CHおよび下限硬度分布曲線CLを合わせて判断に用いることによって、添加元素の含有割合がユーザーの設定した許容値の範囲で変化したとしても、所望する硬度が達成できるか否かを判断することが可能になる。 図12に示す如く、第1水準の場合における上限硬度分布曲線CHと下限硬度分布曲線CLを硬度分布曲線Caに並べて表すと、硬度分布曲線Caは上限硬度分布曲線CHと下限硬度分布曲線CLで挟まれる範囲が、硬度分布曲線Caの変動幅となることが容易に確認できる。 そして、硬度分布曲線Caの変動幅を考慮して硬度分布の良否(即ち、浸炭焼入れ解析条件の採用可否)を判定することができる。 また、第2水準および第3水準の場合の硬度分布曲線Ca(計算値)は、図13および図14のように表すことができる。 第2水準および第3水準に対する解析結果を用いた計算上の硬度分布曲線Ca(計算値)は、図13・14のグラフにおいて表される硬度分布曲線Cb(実測値)との比較において、若干の誤差を含んでいるものの良く一致していることが確認できる。 つまり、第2水準および第3水準の場合のように、素材における各元素の成分割合が変化して、焼入れ性が変化したような場合であっても、本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法で求めた硬度分布曲線Ca(計算値)は、硬度分布曲線Cb(実測値)と良く一致することが確認できる。 即ち、本発明の一実施例に係る浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法は、金属素材(本実施例では、SCr420)における添加元素(C、Cr、Ni、Mn、Mo、Si、V等)の成分割合の上限許容値から理論上(本実施例では、実験式法およびその近似式により)求められるジョミニー曲線である浸炭焼入れ部品に対する上限理論ジョミニー曲線JHを、炭素濃度0.2〜0.8%において算出する工程と、金属素材(本実施例では、SCr420)における添加元素(C、Cr、Ni、Mn、Mo、Si、V等)の成分割合の下限許容値から理論上(本実施例では、実験式法およびその近似式により)求められるジョミニー曲線である浸炭焼入れ部品に対する下限理論ジョミニー曲線JLを、炭素濃度0.2〜0.8%において算出する工程と、炭素濃度0.2〜0.8%において算出した上限理論ジョミニー曲線JHを補正した上限補正ジョミニー曲線JHcを算出する工程と、炭素濃度0.2〜0.8%において算出した下限理論ジョミニー曲線JLを補正した下限補正ジョミニー曲線JLcを算出する工程と、炭素濃度0.2〜0.8%において算出した上限補正ジョミニー曲線JHcと、浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果により求めた浸炭焼入れ後における浸炭焼入れ部品の炭素濃度分布(図3(a))と冷却時間(図3(b))に基づいて、浸炭焼入れ部品の浸炭焼入れ後の硬度分布の上限を示す上限硬度分布(即ち、上限硬度分布曲線CH)を算出する工程と、炭素濃度0.2〜0.8%において算出した下限補正ジョミニー曲線JLcと、浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果により求めた浸炭焼入れ後における浸炭焼入れ部品の炭素濃度分布(図3(a))と冷却時間(図3(b))に基づいて、浸炭焼入れ部品の浸炭焼入れ後の硬度分布の下限を示す下限硬度分布(即ち、下限硬度分布曲線CL)を算出する工程と、をさらに備えるものである。 これにより、素材の焼入れ性を考慮して、より精度良く硬度分布(即ち、硬度分布曲線Ca)の良否を判断することができる。またこれにより、より精度良く浸炭焼入れ条件の採用可否を判断することができる。 また、本発明の一実施例に係る浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法は、理論ジョミニー曲線Jaを算出する工程は、浸炭焼入れ部品の炭素濃度が0.6%以下の範囲における理論ジョミニー曲線Jaを、実験式法により算出し、かつ、浸炭焼入れ部品の炭素濃度が0.6%を越える範囲における理論ジョミニー曲線Jaを、炭素濃度が0.6%以下の範囲における実験式法による算出結果を外挿して算出するものである。 さらに、本発明の一実施例に係る浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法は、補正ジョミニー曲線Jcを算出する工程は、所定の炭素濃度(本実施例では、0.2〜0.8%)における理論ジョミニー曲線Jaの焼入れ端(即ち、「表面からの距離」が0である部位)におけるジョミニー値J0・H0が現実的なジョミニー値となるような差分値である硬度補正値a2〜a8を設定するとともに、各炭素濃度(本実施例では、0.2〜0.8%)における硬度補正値a2〜a8の相関を表す補正式を算出し、前記補正式に基づいて、炭素濃度が0.2〜0.8%における理論ジョミニー曲線Jaを補正するものである。 これにより、実測値に良く適合する硬度分布(即ち、硬度分布曲線Ca)を容易に短時間で算出(生成)することができる。 Ja 理論ジョミニー曲線 Jc 補正ジョミニー曲線 JH 上限理論ジョミニー曲線 JL 下限理論ジョミニー曲線 Ca 硬度分布曲線(計算値) Cb 硬度分布曲線(実測値) CH 上限硬度分布曲線 CL 下限硬度分布曲線 浸炭焼入れ部品を形成する金属素材における添加元素の成分割合から理論上求められる前記浸炭焼入れ部品に対するジョミニー曲線である理論ジョミニー曲線を、所定の炭素濃度において算出する工程と、 前記所定の炭素濃度において算出した前記理論ジョミニー曲線を補正した補正ジョミニー曲線を算出する工程と、 前記所定の炭素濃度において算出した前記補正ジョミニー曲線と、 前記浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果により求めた浸炭焼入れ後における前記浸炭焼入れ部品の炭素濃度分布と冷却時間に基づいて、前記浸炭焼入れ部品の浸炭焼入れ後の硬度分布を算出する工程と、 を備える、 ことを特徴とする浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法。 前記理論ジョミニー曲線を算出する工程は、 前記浸炭焼入れ部品の炭素濃度が0.6%以下の範囲における前記理論ジョミニー曲線を、実験式法により算出し、かつ、 前記浸炭焼入れ部品の炭素濃度が0.6%を越える範囲における前記理論ジョミニー曲線を、炭素濃度が0.6%以下の範囲における前記実験式法による算出結果を外挿して算出する、 ことを特徴とする請求項1に記載の浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法。 前記補正ジョミニー曲線を算出する工程は、 前記所定の炭素濃度における前記理論ジョミニー曲線の焼入れ端におけるジョミニー値が現実的なジョミニー値となるような差分値を設定するとともに、 各炭素濃度における前記差分値の相関を表す補正式を算出し、 前記補正式に基づいて、前記所定の炭素濃度における前記理論ジョミニー曲線を補正する、 ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法。 前記浸炭焼入れ部品を形成する金属素材の添加元素の成分割合の上限許容値から理論上求められるジョミニー曲線である前記浸炭焼入れ部品に対する上限理論ジョミニー曲線を、前記所定の炭素濃度において算出する工程と、 前記浸炭焼入れ部品を形成する金属素材の添加元素の成分割合の下限許容値から理論上求められるジョミニー曲線である前記浸炭焼入れ部品に対する下限理論ジョミニー曲線を、前記所定の炭素濃度において算出する工程と、 前記所定の炭素濃度において算出した前記上限理論ジョミニー曲線を補正して、補正した前記上限理論ジョミニー曲線である上限補正ジョミニー曲線を算出する工程と、 前記所定の炭素濃度において算出した前記下限理論ジョミニー曲線を補正して、補正した前記下限理論ジョミニー曲線である下限補正ジョミニー曲線を算出する工程と、 前記所定の炭素濃度において算出した前記上限補正ジョミニー曲線と、前記浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果により求めた浸炭焼入れ後における前記浸炭焼入れ部品の炭素濃度分布と冷却時間に基づいて、前記浸炭焼入れ部品の浸炭焼入れ後の硬度分布の上限を示す上限硬度分布を算出する工程と、 前記所定の炭素濃度において算出した前記下限補正ジョミニー曲線と、前記浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果により求めた浸炭焼入れ後における前記浸炭焼入れ部品の炭素濃度分布と冷却時間に基づいて、前記浸炭焼入れ部品の浸炭焼入れ後の硬度分布の下限を示す下限硬度分布を算出する工程と、 をさらに備える、 ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法。 【課題】硬度分布の実測作業や実測値に対する浸炭焼入れ条件の合わせ込み作業を省略して、浸炭焼入れ部品の硬度分布の算出に要する時間を短縮するとともに、浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果に焼入れ性を考慮することによって、素材における添加元素の含有量がばらついた場合でも、容易に精度良く浸炭焼入れ部品の硬度分布を算出できる浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法を提供する。【解決手段】理論上求められる浸炭焼入れ部品に対する理論ジョミニー曲線Jaを、所定の炭素濃度において算出する工程と、理論ジョミニー曲線Jaを補正した補正ジョミニー曲線Jcを算出する工程と、補正ジョミニー曲線Jcと浸炭焼入れシミュレーションの解析結果により求めた炭素濃度分布と冷却時間に基づいて、浸炭焼入れ後の硬度分布(硬度分布曲線Ca)を算出(生成)する工程と、を備える、浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法。【選択図】図1


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特許公報(B2)_浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法
出願番号:2009237669
年次:2014
IPC分類:G01N 33/20,C21D 1/55,C21D 1/06


特許情報キャッシュ

久松 喜丈 岩田 広明 花谷 卓司 JP 5597964 特許公報(B2) 20140822 2009237669 20091014 浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法 トヨタ自動車株式会社 000003207 矢野 寿一郎 100080621 正津 秀明 100124730 久松 喜丈 岩田 広明 花谷 卓司 20141001 G01N 33/20 20060101AFI20140911BHJP C21D 1/55 20060101ALI20140911BHJP C21D 1/06 20060101ALN20140911BHJP JPG01N33/20 ZC21D1/55C21D1/06 A G01N 33/20 C21D 1/55 C21D 1/06 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) CAplus(STN) 特開2004−294246(JP,A) 七野勇人ほか,コンピュータシミュレーションによる鋼の浸炭焼入時の硬度分布予測 ,日本熱処理技術協会講演大会講演概要集 ,1991年12月,Vol.33rd ,P.23-24 3 2011085457 20110428 19 20111222 海野 佳子 本発明は、浸炭焼入れシミュレーション結果に基づく浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法の技術に関する。 従来、浸炭焼入れを施す部品(以下、浸炭焼入れ部品と呼ぶ)について、浸炭焼入れ部品の硬度分布が、浸炭焼入れ条件に応じてどのように変化するかを浸炭焼入れ部品の設計段階で解析(シミュレーション)して、解析結果に基づいて浸炭焼入れ条件を決定することによって、浸炭焼入れ後の浸炭焼入れ部品の硬度を確実に確保するようにしている。 浸炭焼入れ部品の硬度分布を解析するための方法としては、例えば、市販の解析ソフトウェアを用いた浸炭焼入れ部品に対する熱処理シミュレーション(以下、浸炭焼入れシミュレーションと呼ぶ)が行われている。このような浸炭焼入れシミュレーションでは、浸炭焼入れ(熱処理)過程において浸炭焼入れ部品に生じる温度変化、炭素の拡散、組織の変化、力学的挙動等の相互作用を伴う複雑な現象を再現することができる。 そして、浸炭焼入れシミュレーションによる解析結果から、浸炭焼入れ条件に応じた炭素濃度(以下、C%と記載する)およびマルテンサイト体積分率(以下、M%と記載する)を算出するとともに、C%とM%の相関を表す式(相関式)から、浸炭焼入れ条件に応じた浸炭焼入れ部品の硬度(硬度分布)を算出する硬度算出方法が、本出願と同一の出願人により出願され提案されている。 しかしながら、C%とM%の相関式を用いた硬度算出方法により算出した硬度分布は、実測値と一致しない場合が多かった。このため従来は、計算値と実測値が一致するように、解析条件(浸炭焼入れ条件)の変更・調整を行って最終的な硬度分布を算出する必要があり、実測値の計測作業や浸炭焼入れ条件の変更・調整作業に時間を要していた。 ここで、硬度分布の計算値と実測値が一致しない要因は、従来用いていたC%とM%の相関式では、浸炭焼入れ部品の素材における焼入れ性が添加元素の含有量に応じて変化することが考慮されていないことに起因していた。つまり、従来の硬度算出方法による算出結果では、浸炭焼入れ部品に所望する硬度が確保できるか否かについて、素材(金属材料)における添加元素がばらついた場合には精度良く判断することができなかった。 素材(金属材料)の焼入れ性は、所謂ジョミニー試験(「鋼の焼入性試験方法(一端焼入方法)」(JISG0561))により求められるジョミニー曲線で表されることが知られている。ここでいう、ジョミニー曲線とは、焼入れ端からの距離と硬度との関係を表した曲線であり、任意の焼入れ端からの距離におけるジョミニー曲線上の値(硬度)をジョミニー値と呼ぶ。また、ジョミニー曲線は、実験式を用いる実験式法や、その他にも加算法、理想臨界直径法等の手法によって算出することも可能である。 ジョミニー曲線を活用した従来技術としては、鋼の溶製技術において、所望する焼入れ性を有する鋼を得るために、精練後の溶鋼をとりべから採取し、出鋼前の溶鋼の成分分析を行うことによってジョミニー曲線を予測する技術が提案されており、例えば、以下に示す特許文献1にその技術が開示され公知となっている。特開2004−294246号公報 特許文献1に開示されている従来技術によれば、ジョミニー曲線が規格範囲内である鋼を容易に得ることができるとともに、分析のための無駄な出鋼を抑えて、歩留まり向上を図ることができる。 しかしながら、特許文献1に開示されている従来技術では、浸炭焼入れ後の硬度分布を算出するための方法については何ら示されておらず、浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果に焼入れ性の概念を導入することによって、精度良く浸炭焼入れ部品の硬度分布を算出する方法は未だ確立されていない状況であった。 本発明は、係る現状の課題を鑑みてなされたものであり、硬度分布の実測作業や実測値に対する浸炭焼入れ条件の合わせ込み作業を省略して、浸炭焼入れ部品の硬度分布の算出に要する時間を短縮するとともに、浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果に焼入れ性を考慮することによって、素材における添加元素の含有量がばらついた場合でも、容易に精度良く浸炭焼入れ部品の硬度分布を算出できる浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法を提供することを目的としている。 本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。 即ち、請求項1においては、浸炭焼入れ部品を形成する金属素材における添加元素の成分割合から理論上求められる前記浸炭焼入れ部品に対するジョミニー曲線である理論ジョミニー曲線を、所定の炭素濃度において算出する工程と、前記所定の炭素濃度において算出した前記理論ジョミニー曲線を補正した補正ジョミニー曲線を算出する工程と、前記所定の炭素濃度において算出した前記補正ジョミニー曲線と、前記浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果により求めた浸炭焼入れ後における前記浸炭焼入れ部品の炭素濃度分布と冷却時間に基づいて、前記浸炭焼入れ部品の浸炭焼入れ後の硬度分布を算出する工程と、を備え、前記補正ジョミニー曲線を算出する工程は、前記所定の炭素濃度における前記理論ジョミニー曲線の焼入れ端におけるジョミニー値が現実的なジョミニー値となるような差分値を設定するとともに、各炭素濃度における前記差分値の相関を表す補正式を算出し、前記補正式に基づいて、前記所定の炭素濃度における前記理論ジョミニー曲線を補正するものである。 請求項2においては、前記理論ジョミニー曲線を算出する工程は、前記浸炭焼入れ部品の炭素濃度が0.6%以下の範囲における前記理論ジョミニー曲線を、実験式法により算出し、かつ、前記浸炭焼入れ部品の炭素濃度が0.6%を越える範囲における前記理論ジョミニー曲線を、炭素濃度が0.6%以下の範囲における前記実験式法による算出結果を外挿して算出するものである。 請求項3においては、前記浸炭焼入れ部品を形成する金属素材の添加元素の成分割合の上限許容値から理論上求められるジョミニー曲線である前記浸炭焼入れ部品に対する上限理論ジョミニー曲線を、前記所定の炭素濃度において算出する工程と、前記浸炭焼入れ部品を形成する金属素材の添加元素の成分割合の下限許容値から理論上求められるジョミニー曲線である前記浸炭焼入れ部品に対する下限理論ジョミニー曲線を、前記所定の炭素濃度において算出する工程と、前記所定の炭素濃度において算出した前記上限理論ジョミニー曲線を補正して、補正した前記上限理論ジョミニー曲線である上限補正ジョミニー曲線を算出する工程と、前記所定の炭素濃度において算出した前記下限理論ジョミニー曲線を補正して、補正した前記下限理論ジョミニー曲線である下限補正ジョミニー曲線を算出する工程と、前記所定の炭素濃度において算出した前記上限補正ジョミニー曲線と、前記浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果により求めた浸炭焼入れ後における前記浸炭焼入れ部品の炭素濃度分布と冷却時間に基づいて、前記浸炭焼入れ部品の浸炭焼入れ後の硬度分布の上限を示す上限硬度分布を算出する工程と、前記所定の炭素濃度において算出した前記下限補正ジョミニー曲線と、前記浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果により求めた浸炭焼入れ後における前記浸炭焼入れ部品の炭素濃度分布と冷却時間に基づいて、前記浸炭焼入れ部品の浸炭焼入れ後の硬度分布の下限を示す下限硬度分布を算出する工程と、をさらに備えるものである。 本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。 請求項1においては、素材の焼入れ性を考慮して、実測値に良く適合する硬度分布を容易に短時間で精度の良い硬度分布を算出することができる。 請求項2においては、実測値に良く適合する硬度分布を容易に短時間で算出することができる。 請求項3においては、素材の焼入れ性を考慮して、より精度良く硬度分布の良否を判断することができる。またこれにより、より精度良く浸炭焼入れ条件の採用可否を判断することができる。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法の全体的な流れを示すフロー図。一般的な浸炭焼入れの流れを示す模式図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法における浸炭焼入れ部品の解析結果を示す図、(a)炭素濃度分布の解析結果を示す図、(b)冷却時間の解析結果を示す図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法における硬度分布曲線の生成方法の流れを示すフロー図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法における実験式法により求めた炭素濃度が0.6%以下の理論ジョミニー曲線を示す図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法における実験式法により求めた理論ジョミニー曲線を補完して求めた炭素濃度が0.6%を越える理論ジョミニー曲線を示す図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法における理論ジョミニー曲線に対する補正式の算出方法を示す図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法における補正式による補正後の補正ジョミニー曲線を示す図。本発明の一実施例に係る浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法における硬度の算出方法を示す図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法における実験式法により求めた炭素濃度が0.2%の場合の上限理論ジョミニー曲線および下限理論ジョミニー曲線を示す図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法における実験式法により求めた炭素濃度が0.2%の場合の上限補正ジョミニー曲線および下限補正ジョミニー曲線を示す図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法により生成する硬度分布曲線(第1水準の場合)を示す図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法により生成する硬度分布曲線(第2水準の場合)を示す図。本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法により生成する硬度分布曲線(第3水準の場合)を示す図。 次に、発明の実施の形態を説明する。 まず始めに、本発明の一実施例に係る浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法の一連の流れについて、図1および図2を用いて説明をする。 図1に示す如く、本発明の一実施例に係る浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法においては、まず、浸炭焼入れシミュレーションにおける解析条件(浸炭焼入れ条件)の入力が行われる(ステップS100)。つまり、浸炭焼入れシミュレーションの初期条件の入力が行われる。 図2に示す如く、実際の浸炭焼入れにおいては、まず、浸炭焼入れの対象部品(以下「ワーク」という。)に対して浸炭処理(S1)が行われる。浸炭処理においては、例えば、ワークが配置された処理室内に、所定の炭素濃度に調整された浸炭ガス(例えば一酸化炭素(CO)ガスを主成分とするもの)が所定の圧力に制御されて供給されるとともに、処理室内が所定の浸炭温度(例えば900℃程度)まで加熱されることで、ワークに対してワークの表面から炭素を侵入させる。 その後、所定のガス圧・温度・炭素濃度に制御された状態の処理室内にワークが所定時間の間置かれることで、拡散処理(S2)が行われる。このような拡散処理により、ワークの表面から侵入する炭素を内部にまで拡散させる。そして、拡散処理の後、焼入れ処理(S3)が行われる。つまり、浸炭処理を受けたワークが、所定の温度の油等によって急冷されることによって、硬度が高められる。 したがって、浸炭焼入れシミュレーションにおいて入力される解析条件(浸炭焼入れ条件)としては、前述したような浸炭焼入れが実際に行われる場合に採用される焼入れ条件が用いられる。浸炭焼入れシミュレーションにおいて入力される浸炭焼入れ条件には、浸炭処理におけるワークの加熱温度と炭素濃度、焼入れ処理におけるワークの温度(焼入れ温度)と炭素濃度(焼入れ炭素濃度)、各処理についての処理時間等が含まれる。なお、図2における矢印Aは、浸炭焼入れの一連の処理におけるワークの温度およびワーク周辺の炭素濃度の変化を模式的に表すものである。 このような浸炭焼入れシミュレーションは、有限要素法(FEM;Finite Element Method)を用いたシミュレーションを行うための市販の解析ソフトウェアが用いられて行われる。本実施例では、市販の解析ソフトウェアとして、例えばDEFORM−HT(米国SFTC社製)が用いられ、浸炭焼入れシミュレーションが行われる。 具体的には、浸炭焼入れシミュレーションは、必要なデータを入力するための入力装置(例えばキーボード等)と、入力されたデータの演算処理・加工等を行うコンピュータと、コンピュータによる処理結果等を外部へ出力するための出力装置(例えば、ディスプレイ等)とを備える一般的なコンピュータシステムが用いられて行われる。 かかるシステムに備えられるコンピュータに、解析ソフトウェアがインストールされることで、コンピュータが有するシミュレーション演算機能により、浸炭焼入れシミュレーションが実行される(ステップS200)。 そして、浸炭焼入れシミュレーションにおいては、システムに備えられる入力装置により、前述したような浸炭焼入れ条件が入力される。 図1に戻り、本実施例の硬度分布算出方法においては、次に、炭素濃度の解析結果が出力される(ステップS300)。即ち、浸炭焼入れシミュレーションによる解析結果として、浸炭焼入れ部品の各部における炭素濃度(%)と冷却時間が出力される。尚、浸炭焼入れシミュレーションによる解析結果としては、その他にもマルテンサイト体積分率(%)等が出力される。こうした浸炭焼入れシミュレーションによる解析結果の出力は、前記のとおりシステムに備えられる出力装置によって行われる。 図3(a)(b)に、本実施例に係る浸炭焼入れシミュレーションによる解析結果としての出力の一例を示す。 図3(a)に示すグラフにおいて、横軸は浸炭焼入れ品における表面からの距離(mm)を表し、縦軸は炭素濃度(%)を表しており、図3(b)に示すグラフにおいて、横軸は浸炭焼入れ品における表面からの距離(mm)を表し、縦軸は冷却時間(sec)を表している。 図3(a)において、実線で示すグラフG1が、浸炭焼入れシミュレーションの解析結果としての、表面からの距離との関係における炭素濃度(計算値)である。また、図3(a)に示すグラフにおける計測点群は、実際に浸炭焼入れが施された浸炭焼入れ品についての炭素濃度(%)の測定結果(実測値)である。 図3(a)に示すグラフG1からわかるように、浸炭焼入れシミュレーションの解析結果としての炭素濃度(計算値)は、図3のグラフにおいて計測点群により表される炭素濃度(実測値)との比較において、若干の誤差を含んでほぼ一致している。 また、図3(b)において、実線で示すグラフG2が、浸炭焼入れシミュレーションの解析結果としての、表面からの距離との関係における冷却時間(計算値)である。 本実施例における冷却時間は、浸炭焼入れ部品を800℃(浸炭温度)まで昇温して浸炭・拡散処理を行って、その後冷却して焼入れ処理を行う場合であって、800℃から500℃に温度が低下するまでの所用時間を「冷却時間」として規定している。 尚、本実施例に示す冷却時間の規定方法は例示であって、本発明に係る浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法における冷却時間の規定方法を、これに限定するものではない。 再び図1に戻り、本実施例に係る硬度分布算出方法においては、続いて、浸炭焼入れシミュレーション解析結果である炭素濃度(計算値)と冷却時間(計算値)に基づいて、浸炭焼入れ部品の硬度分布を算出する(ステップS400)。 具体的には、浸炭焼入れシミュレーションの解析結果として得られた炭素濃度および冷却時間と、以下に説明する方法で求めるジョミニー曲線(詳しくは、補正ジョミニー曲線)と、を用いて浸炭焼入れ部品の硬度分布が算出される。 ここで、浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法(ステップS400)の具体的な内容について、さらに説明をする。 まず、理論上のジョミニー曲線を生成する工程について、図4および図5を用いて説明をする。尚、本実施例では、浸炭焼入れ部品を形成する素材(材質)が肌焼鋼SCr420であって、理論上のジョミニー曲線(以下、理論ジョミニー曲線と呼ぶ)を実験式法により求める場合を例示して説明をする。 一般的に、SCr420における各添加元素の含有割合の規格平均値は、C=0.2%、Cr=1.05%、Mn=0.725%、Ni=0.125%、Mo=0.02%、Si=0.25%、として考えることができる。 そして、図4に示す如く、この規格平均値を以下の数式1に適用することによって、各添加元素の含有割合が規格平均値である平均的なSCr420における理論ジョミニー曲線Jaを生成する(ステップS400−1)。 本実施例で採用している実験式法は、以下に示す数式1により求められるジョミニー値に基づいて理論ジョミニー曲線Jaを生成する方法である(焼入性(大和久重雄著、日刊工業新聞社刊(1979))p70より引用)。尚、数式1は、炭素濃度が0.6%以下の部位にのみ適用できることが知られている。 ここで、数式1におけるJ0は焼入れ端(表面)におけるジョミニー値、J1は表面から1/16インチ(1.5875mm)の距離におけるジョミニー値、J6は表面から6/16インチ(9.525mm)の距離におけるジョミニー値、J22は表面から22/16インチ(34.925mm)の距離におけるジョミニー値、J4〜25は表面から4/16インチ(6.35mm)から25/16インチ(39.6875mm)の間の任意の距離におけるジョミニー値、をそれぞれ示している。 また、各数式中のC・Ni・Cr・Mn・Mo・Si・Vは、各元素の含有割合(%)を示し、Eは表面からの距離(インチ)をそれぞれ示している。 そして、数式1により、炭素濃度が0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%の場合において、各距離における理論ジョミニー値を算出する。そして、算出した理論ジョミニー値に基づいて近似を行い、理論ジョミニー曲線Jaを生成すると、図5に示すような曲線群となる。 本実施例では、数式1で算出されるジョミニー値は、単位がロックウェル硬さCスケール(HRC)となるが、以下の説明では、便宜上硬度の単位をビッカース硬さ(Hv)に統一している。このため、数式1で算出されたジョミニー値は、換算表を用いて、ロックウェル硬さCスケール(HRC)をビッカース硬さ(Hv)に換算して使用している。 また、表面からの距離の単位は、グラフ上に表す場合等には、便宜上インチをミリメートルに換算(1インチ=25.4mm)して表している(以下同様)。 尚、本発明に係る硬度分布算出方法において扱う硬度の単位は、必ずしもビッカース硬さ(Hv)に統一する必要はなく、ロックウェル硬さCスケール(HRC)に統一する態様であってもよい。 次に、炭素濃度が0.6%を越える範囲について、理論ジョミニー曲線Jaを生成する工程について、図4および図6を用いて説明をする。 前述した通り、数式1は、炭素濃度が0.6%以下の範囲でのみ適用することができる。 そこで、図4に示す如く、本発明に係る硬度分布算出方法では、数式1で算出した実験式法による炭素濃度が0.2〜0.6%の範囲における理論ジョミニー曲線Jaの算出結果を外挿して近似式(数式2参照)を求めて、当該近似式により炭素濃度が0.6%を越える範囲におけるジョミニー値を算出する。そして、算出した理論ジョミニー値に基づいて近似を行い、理論ジョミニー曲線Jaを生成する(ステップS400−2)。 本実施例では、浸炭焼入れ部品の材質がSCr420であるため、炭素濃度が0.6%を越える範囲における浸炭焼入れ部品に対するジョミニー値を算出するための近似式は、以下に示す数式2のように表される。この数式2は、材質がSCr420である浸炭焼入れ部品に対して数式1を適用した場合の実験式法による炭素濃度が0.2〜0.6%の範囲における理論ジョミニー曲線Jaの算出結果を外挿することによって求めたものである。 尚、本実施例では、炭素濃度が0.2〜0.6%の範囲で実験式法により理論ジョミニー曲線を算出し、炭素濃度が0.6%を越える範囲の理論ジョミニー曲線を、実験式法による炭素濃度が0.2〜0.6%の範囲における理論ジョミニー曲線の算出結果に基づいて、外挿して算出する場合を例示しているが、実験式法が適用可能な炭素濃度の範囲について必ず実験式法を適用しなければならないのではなく、例えば、炭素濃度が0.2〜0.5%の範囲で実験式法を適用し、0.5%を越える範囲の理論ジョミニー曲線を、実験式法による炭素濃度が0.2〜0.5%の範囲における理論ジョミニー曲線の算出結果に基づいて、外挿して算出することも可能である。 ここで、数式2におけるH0は焼入れ端(表面)におけるジョミニー値、H1は表面から1/16インチ(1.5875mm)の距離におけるジョミニー値、H5は表面から5/16インチ(7.9375mm)の距離におけるジョミニー値、H6は表面から6/16インチ(9.525mm)の距離におけるジョミニー値、H8は表面から8/16インチ(12.7mm)の距離におけるジョミニー値、H12は表面から12/16インチ(19.05mm)の距離におけるジョミニー値、H16は表面から16/16(=1)インチ(25.4mm)の距離におけるジョミニー値、H20は表面から20/16インチ(31.75mm)の距離におけるジョミニー値、をそれぞれ示している。 また、数式2中のCは、炭素濃度(%)を示している。そして、本実施例で示す数式2で算出される各距離におけるジョミニー値は、単位がビッカース硬さ(Hv)で算出される。 そして、数式2により、炭素濃度が0.7%、0.8%の場合において、各距離における理論ジョミニー値を算出する。そして、算出した理論ジョミニー値に基づいて近似を行い、各炭素濃度における理論ジョミニー曲線Jaを生成する。そして、生成した炭素濃度が0.6%を越える場合の理論ジョミニー曲線Jaを図5に追加すると、図6に示すような曲線群となる。 尚、本実施例では、炭素濃度が0.2〜0.8%の場合における理論ジョミニー曲線Jaは、炭素濃度を0.1%ピッチでずらして生成する場合を例示しているが、理論ジョミニー曲線Jaを算出するものとして選択する炭素濃度の組合せをこれに限定するものではなく、さらに細かいピッチ(例えば、0.05%ピッチ等)で理論ジョミニー曲線Jaを生成する態様としてもよい。 また、本実施例では、浸炭焼入れ部品の材質がSCr420である場合を例示しているが、本発明に係る硬度分布算出方法を適用できる浸炭焼入れ部品の材質をこれに限定するものではなく、その他の材質(例えば、SCM、SNCM、SMn等)であってもよい。 尚、補正式は材質ごとに異なってくるため、硬度分布の算出を予定している浸炭焼入れ部品の材質が複数種類存在している場合には、それぞれの材質について、補正式を準備しておく必要がある。 さらに、本実施例では、実験式法を用いて理論ジョミニー曲線Jaを生成する場合を例示しているが、本発明に係る硬度分布算出方法において、理論ジョミニー曲線Jaの生成に用いる手法はこれに限定するものではなく、例えば、加算法や理想臨界直径法等のその他の手法により理論ジョミニー曲線Jaを生成する硬度分布算出方法であってもよい。 ここで、加算法(CraftsおよびLamont法ともいう)は、金属材料のロックウェル硬さCスケール(HRC)が、炭素濃度、含有元素、結晶粒度によって異なるものであり、ジョミニー曲線が硬さの単位として、ロックウェル硬さCスケール(HRC)で表されることを利用してジョミニー曲線を求めるものである。 また、理想臨界直径法は、理想臨界直径を基準として算出する方法である。 ここで、理想臨界直径とは、理想焼入れをしたときの臨界直径のことであり、理想焼入れとは、焼入れした瞬間に試験片の表面が液温になるような焼入れをいい、臨界直径とは、焼入れによって中心が50%マルテンサイトになるような直径をいう。 これら加算法および理想臨界直径法により、計算によってジョミニー曲線を求める具体的な方法の詳細は、焼入性(大和久重雄著、日刊工業新聞社刊(1979))等の文献に示されている。 尚、理論ジョミニー曲線Jaを生成するための各手法(即ち、実験式法、加算法、理想臨界直径法等)には、それぞれ一長一短があるため、ターゲットとする深さ(表面からの距離)等に応じて各手法を使い分けることができる。 次に、理論ジョミニー曲線Jaを補正するための補正式を算出する工程について、図4および図6、図7を用いて説明をする。 図6に示す理論ジョミニー曲線Jaは、実測値から大きく外れた値を示しているため、これを実測値に適合するように補正をする必要がある。 本実施例では、図6中に示す炭素濃度が0.8%の場合における、焼入れ端(即ち、表面からの距離が0)の硬度は実測値ではありえない大きな値を示しており、これを現実的な(即ち、実測値に適合する)値に補正するための硬度補正値がa8である(即ち、理論ジョミニー曲線Jaからa8だけ減算する必要がある)ものと仮定する。 そして、この硬度補正値a8を図7に示すグラフ上にプロットする。図7は縦軸が硬度補正値(Hv)を示し、横軸が炭素濃度(%)を示している。 同様に、炭素濃度が0.2〜0.7%である場合に必要な各硬度補正値a2〜a7を求め、図7のグラフ上にプロットする。尚、硬度補正値a2〜a8の各値は負の値である。 そして、このようにしてプロットした硬度補正値a2〜a8の各値から、これらの値の相関を表す補正式を算出する(ステップS400−3)。 例えば、本実施例のように材質がSCr420である場合の硬度補正値ΔHを算出するための補正式は、以下に示す数式3となる。ここで、Cは炭素濃度(%)を示している。 尚、本実施例では、硬度補正値ΔHを算出するための補正式を3次式で近似して求める態様を例示しているが、本発明に係る硬度分布算出方法において、硬度補正値ΔHを算出するための補正式を算出する近似方法をこれに限定するものではなく、硬度補正値ΔHを算出するための補正式の次元数は問わない。 次に、補正ジョミニー曲線を生成する工程について、図4、図6および図8を用いて説明をする。 図4に示す如く、補正式の算出が完了すると、次に算出した補正式によって、理論ジョミニー曲線の補正を行う(ステップS400−4)。 図6に示す理論ジョミニー曲線を数式3で補正すると、図8に示すような補正後の理論ジョミニー曲線である補正ジョミニー曲線Jcを生成することができる。このようにして生成する補正ジョミニー曲線Jcは、現実的な値を示すようになっている。 そして、この算出結果として取得する補正ジョミニー曲線Jcと、解析結果として取得する炭素濃度分布(図3(a)参照)と冷却時間(図3(b)参照)を用いて、材質がSCr420である場合の浸炭焼入れ部品の硬度分布曲線を生成することができる。 次に、硬度分布を算出する工程について、図3、図4、図8および図9を用いて説明をする。 図8に示す補正ジョミニー曲線Jcは「ジョミニー距離」と「硬度」の相関を表す曲線群であり、また、浸炭焼入れ部品の硬度分布は、「表面からの距離」と「硬度」の相関で表されるものである。 ここで、「表面からの距離」と「ジョミニー距離」は概念が異なる距離であるため、図8から直接的に浸炭焼入れ部品の硬度分布を算出することは出来ない。 そこで、図3(b)に示す「表面からの距離」と「冷却時間」との相関を表すグラフと図8に示すグラフを用いるとともに、さらにその他に、「冷却時間」と「ジョミニー距離」の相関を取得することによって、「表面からの距離」と「硬度」の相関を取得することが可能になる。 この「冷却時間」と「ジョミニー距離」との相関は、金属材料(例えば、本実施例ではSCr420)に対するジョミニー試験(JISG0561)を行うことによって求められる。また計算によって算出することも可能である。 このため、本発明に係る浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法では、「冷却時間」と「ジョミニー距離」との相関を生成するようにしている(ステップS400−5)。 そして、例えば浸炭焼入れ部品の材質がSCr420である場合における、「冷却時間」と「ジョミニー距離」との相関を求めると、図9中の領域(■)に示すようなグラフとなる。そして、この領域(■)に示す相関(グラフ)を介して、図3(b)および図8を関連付けると、図9に示すようなグラフとして表される。 ここで、図9中に示す領域(■)では、「ジョミニー距離(縦軸)」と「冷却時間(横軸)」の相関を表しており、領域(II)では、「表面からの距離(縦軸)」と「冷却時間(横軸)」の相関(図3(b)に相当)を表している。そして、領域(III)では、「ジョミニー距離(縦軸)」と「硬度(横軸)」の相関(図8に相当)を表している。 次に、浸炭焼入れ部品に対する硬度の算出方法について、図3(a)(b)、図8および図9を用いて説明をする。尚ここでは、浸炭焼入れ部品の「表面からの距離」がX1である部位の硬度の算出方法を例示する。 本実施例で例示する浸炭焼入れ部品の「表面からの距離」がX1である部位は、図3(a)に示す解析結果によると、炭素濃度が約0.7%であることが判る。 次に、図9中に示す領域(II)のグラフ(図3(b)に相当)において、「表面からの距離」X1における「冷却時間」TX1を求める。 次に、図9中における領域(■)のグラフにおいて、「冷却時間」がTX1となる「ジョミニー距離」JX1を求める。 ここで、「表面からの距離」がX1である部位は、炭素濃度が約0.7%であることが既知であるため、図9中に示す領域(III)のグラフ(図8に相当)において、炭素濃度が0.7%である場合の補正ジョミニー曲線Jcを適用して、「ジョミニー距離」JX1における「硬度」HX1を求める。 このようにして、図9を用いることによって、浸炭焼入れ部品の焼入れ性を考慮しつつ、「表面からの距離」X1における「硬度」HX1を算出することができる。 そして同様に、「表面からの距離」のうちの必要な範囲(浸炭範囲)において、さらに多くの点についての「硬度」を算出することによって、硬度分布曲線(例えば、後述する硬度分布曲線Ca)を生成することができる(ステップS400−6)。 このように、本実施例に係る硬度分布算出方法では、炭素濃度分布(図3(a))および冷却時間(図3(b))の解析結果と、補正ジョミニー曲線の算出結果(図8)と、を組合せる(即ち、図9)ことによって、焼入れ性を考慮しつつ、浸炭焼入れ部品の硬度分布を算出することができる。 即ち、本発明の一実施例に係る浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法は、浸炭焼入れ部品を形成する金属素材(本実施例では、SCr420)における添加元素(C、Cr、Ni、Mn、Mo、Si、V等)の成分割合から理論上(本実施例では、実験式法およびその近似式により)求められる浸炭焼入れ部品に対するジョミニー曲線である理論ジョミニー曲線Jaを、所定の炭素濃度(本実施例では、0.2〜0.8%)において算出する工程と、炭素濃度0.2〜0.8%において算出した理論ジョミニー曲線Jaを補正した補正ジョミニー曲線Jcを算出する工程と、炭素濃度0.2〜0.8%において算出した補正ジョミニー曲線Jc(図8)と、浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果により求めた浸炭焼入れ後における浸炭焼入れ部品の炭素濃度分布(図3(a))と冷却時間(図3(b))に基づいて、浸炭焼入れ部品の浸炭焼入れ後の硬度分布を算出する工程と、を備えるものである。 これにより、素材の焼入れ性を考慮して、容易に短時間で精度の良い硬度分布(即ち、硬度分布曲線Ca(図10〜図12参照))を算出(生成)することができる。 ここで、上限補正ジョミニー曲線および下限補正ジョミニー曲線の生成方法について、図10および図11を用いて説明をする。 素材(材料金属)における添加元素の含有割合は常に一定ではなく、ばらつきがあるため、実際に使用する素材の理論ジョミニー曲線Jaが、必ず図8に一致するとは限らない。 一般的に、素材(材料金属)における添加元素の含有割合のばらつきをどの程度まで許容するかは、浸炭焼入れ部品の用途等に応じてユーザーがその許容値(上限および下限)を決定している。 このため、図10に示す如く、既述した理論ジョミニー曲線Jaの生成方法と同じ方法で、素材(材料金属)における添加元素の含有割合が上限許容値である場合の理論ジョミニー曲線(以下、上限理論ジョミニー曲線JHと呼ぶ)と、下限許容値である場合の理論ジョミニー曲線(以下、下限理論ジョミニー曲線JLと呼ぶ)を、それぞれ別途生成することができる。 そして、上限理論ジョミニー曲線JHと下限理論ジョミニー曲線JLに補正式を適用することによって、図11に示すような上限補正ジョミニー曲線JHcおよび下限補正ジョミニー曲線JLcを生成することができる。 尚、ここで示した図10および図11では、炭素濃度0.2%の場合の添加元素の上限値および下限値から上限理論ジョミニー曲線JHと下限理論ジョミニー曲線JLを生成し、さらに最終的に上限補正ジョミニー曲線JHcと下限補正ジョミニー曲線JLcを生成する場合についてのみ例示しているが、その他の各炭素濃度の場合においても、同様に添加元素の上限値および下限値からそれぞれの上限補正ジョミニー曲線JHcと下限補正ジョミニー曲線JLcを生成することができる。 次に、本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法により生成した硬度分布曲線の具体例を、図12〜図14に示す。 本実施例に示す硬度分布曲線Caは、材質がSCr420である浸炭焼入れ部品の場合であって、図12は浸炭時間を180分とした場合(以後、第1水準と呼ぶ)、図13は浸炭時間を200分とした場合(以後、第2水準と呼ぶ)、図14は浸炭時間を430分とした場合(以後、第3水準と呼ぶ)をそれぞれ例示している。即ち、各水準の各浸炭焼入れ部品では、浸炭時間が異なっているため、炭素濃度が相異している。 例えば、第1水準の場合の硬度分布曲線Ca(計算値)は、図12のように表すことができる。 第1水準に対する解析結果を用いた計算上の硬度分布曲線Ca(計算値)は、図12のグラフにおいて表される硬度分布曲線Cb(実測値)との比較において、若干の誤差を含んでいるものの良く一致していることが確認できる。 ここで、上限硬度分布曲線および下限硬度分布曲線の生成方法について、図12〜図14を用いて説明をする。 図12〜図14に示す如く、既述した硬度分布曲線Caの生成方法と同じ方法で、上限補正ジョミニー曲線JHcと下限補正ジョミニー曲線JLcのそれぞれに基づいて、硬度分布曲線を別途生成することができる。 そして、硬度分布曲線Caに、上限硬度分布曲線CHと下限硬度分布曲線CLを書き添えることによって、硬度分布曲線Caが変動する可能性のある範囲(以下、変動幅と呼ぶ)を提示することができる。つまり、硬度分布曲線Caと上限硬度分布曲線CHおよび下限硬度分布曲線CLを合わせて判断に用いることによって、添加元素の含有割合がユーザーの設定した許容値の範囲で変化したとしても、所望する硬度が達成できるか否かを判断することが可能になる。 図12に示す如く、第1水準の場合における上限硬度分布曲線CHと下限硬度分布曲線CLを硬度分布曲線Caに並べて表すと、硬度分布曲線Caは上限硬度分布曲線CHと下限硬度分布曲線CLで挟まれる範囲が、硬度分布曲線Caの変動幅となることが容易に確認できる。 そして、硬度分布曲線Caの変動幅を考慮して硬度分布の良否(即ち、浸炭焼入れ解析条件の採用可否)を判定することができる。 また、第2水準および第3水準の場合の硬度分布曲線Ca(計算値)は、図13および図14のように表すことができる。 第2水準および第3水準に対する解析結果を用いた計算上の硬度分布曲線Ca(計算値)は、図13・14のグラフにおいて表される硬度分布曲線Cb(実測値)との比較において、若干の誤差を含んでいるものの良く一致していることが確認できる。 つまり、第2水準および第3水準の場合のように、素材における各元素の成分割合が変化して、焼入れ性が変化したような場合であっても、本発明の一実施例に係る硬度分布算出方法で求めた硬度分布曲線Ca(計算値)は、硬度分布曲線Cb(実測値)と良く一致することが確認できる。 即ち、本発明の一実施例に係る浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法は、金属素材(本実施例では、SCr420)における添加元素(C、Cr、Ni、Mn、Mo、Si、V等)の成分割合の上限許容値から理論上(本実施例では、実験式法およびその近似式により)求められるジョミニー曲線である浸炭焼入れ部品に対する上限理論ジョミニー曲線JHを、炭素濃度0.2〜0.8%において算出する工程と、金属素材(本実施例では、SCr420)における添加元素(C、Cr、Ni、Mn、Mo、Si、V等)の成分割合の下限許容値から理論上(本実施例では、実験式法およびその近似式により)求められるジョミニー曲線である浸炭焼入れ部品に対する下限理論ジョミニー曲線JLを、炭素濃度0.2〜0.8%において算出する工程と、炭素濃度0.2〜0.8%において算出した上限理論ジョミニー曲線JHを補正した上限補正ジョミニー曲線JHcを算出する工程と、炭素濃度0.2〜0.8%において算出した下限理論ジョミニー曲線JLを補正した下限補正ジョミニー曲線JLcを算出する工程と、炭素濃度0.2〜0.8%において算出した上限補正ジョミニー曲線JHcと、浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果により求めた浸炭焼入れ後における浸炭焼入れ部品の炭素濃度分布(図3(a))と冷却時間(図3(b))に基づいて、浸炭焼入れ部品の浸炭焼入れ後の硬度分布の上限を示す上限硬度分布(即ち、上限硬度分布曲線CH)を算出する工程と、炭素濃度0.2〜0.8%において算出した下限補正ジョミニー曲線JLcと、浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果により求めた浸炭焼入れ後における浸炭焼入れ部品の炭素濃度分布(図3(a))と冷却時間(図3(b))に基づいて、浸炭焼入れ部品の浸炭焼入れ後の硬度分布の下限を示す下限硬度分布(即ち、下限硬度分布曲線CL)を算出する工程と、をさらに備えるものである。 これにより、素材の焼入れ性を考慮して、より精度良く硬度分布(即ち、硬度分布曲線Ca)の良否を判断することができる。またこれにより、より精度良く浸炭焼入れ条件の採用可否を判断することができる。 また、本発明の一実施例に係る浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法は、理論ジョミニー曲線Jaを算出する工程は、浸炭焼入れ部品の炭素濃度が0.6%以下の範囲における理論ジョミニー曲線Jaを、実験式法により算出し、かつ、浸炭焼入れ部品の炭素濃度が0.6%を越える範囲における理論ジョミニー曲線Jaを、炭素濃度が0.6%以下の範囲における実験式法による算出結果を外挿して算出するものである。 さらに、本発明の一実施例に係る浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法は、補正ジョミニー曲線Jcを算出する工程は、所定の炭素濃度(本実施例では、0.2〜0.8%)における理論ジョミニー曲線Jaの焼入れ端(即ち、「表面からの距離」が0である部位)におけるジョミニー値J0・H0が現実的なジョミニー値となるような差分値である硬度補正値a2〜a8を設定するとともに、各炭素濃度(本実施例では、0.2〜0.8%)における硬度補正値a2〜a8の相関を表す補正式を算出し、前記補正式に基づいて、炭素濃度が0.2〜0.8%における理論ジョミニー曲線Jaを補正するものである。 これにより、実測値に良く適合する硬度分布(即ち、硬度分布曲線Ca)を容易に短時間で算出(生成)することができる。 Ja 理論ジョミニー曲線 Jc 補正ジョミニー曲線 JH 上限理論ジョミニー曲線 JL 下限理論ジョミニー曲線 Ca 硬度分布曲線(計算値) Cb 硬度分布曲線(実測値) CH 上限硬度分布曲線 CL 下限硬度分布曲線 浸炭焼入れ部品を形成する金属素材における添加元素の成分割合から理論上求められる前記浸炭焼入れ部品に対するジョミニー曲線である理論ジョミニー曲線を、所定の炭素濃度において算出する工程と、 前記所定の炭素濃度において算出した前記理論ジョミニー曲線を補正した補正ジョミニー曲線を算出する工程と、 前記所定の炭素濃度において算出した前記補正ジョミニー曲線と、 前記浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果により求めた浸炭焼入れ後における前記浸炭焼入れ部品の炭素濃度分布と冷却時間に基づいて、前記浸炭焼入れ部品の浸炭焼入れ後の硬度分布を算出する工程と、 を備え、 前記補正ジョミニー曲線を算出する工程は、 前記所定の炭素濃度における前記理論ジョミニー曲線の焼入れ端におけるジョミニー値が現実的なジョミニー値となるような差分値を設定するとともに、 各炭素濃度における前記差分値の相関を表す補正式を算出し、 前記補正式に基づいて、前記所定の炭素濃度における前記理論ジョミニー曲線を補正する、 ことを特徴とする浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法。 前記理論ジョミニー曲線を算出する工程は、 前記浸炭焼入れ部品の炭素濃度が0.6%以下の範囲における前記理論ジョミニー曲線を、実験式法により算出し、かつ、 前記浸炭焼入れ部品の炭素濃度が0.6%を越える範囲における前記理論ジョミニー曲線を、炭素濃度が0.6%以下の範囲における前記実験式法による算出結果を外挿して算出する、 ことを特徴とする請求項1に記載の浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法。 前記浸炭焼入れ部品を形成する金属素材の添加元素の成分割合の上限許容値から理論上求められるジョミニー曲線である前記浸炭焼入れ部品に対する上限理論ジョミニー曲線を、前記所定の炭素濃度において算出する工程と、 前記浸炭焼入れ部品を形成する金属素材の添加元素の成分割合の下限許容値から理論上求められるジョミニー曲線である前記浸炭焼入れ部品に対する下限理論ジョミニー曲線を、前記所定の炭素濃度において算出する工程と、 前記所定の炭素濃度において算出した前記上限理論ジョミニー曲線を補正して、補正した前記上限理論ジョミニー曲線である上限補正ジョミニー曲線を算出する工程と、 前記所定の炭素濃度において算出した前記下限理論ジョミニー曲線を補正して、補正した前記下限理論ジョミニー曲線である下限補正ジョミニー曲線を算出する工程と、 前記所定の炭素濃度において算出した前記上限補正ジョミニー曲線と、前記浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果により求めた浸炭焼入れ後における前記浸炭焼入れ部品の炭素濃度分布と冷却時間に基づいて、前記浸炭焼入れ部品の浸炭焼入れ後の硬度分布の上限を示す上限硬度分布を算出する工程と、 前記所定の炭素濃度において算出した前記下限補正ジョミニー曲線と、前記浸炭焼入れ部品に対する浸炭焼入れシミュレーションの解析結果により求めた浸炭焼入れ後における前記浸炭焼入れ部品の炭素濃度分布と冷却時間に基づいて、前記浸炭焼入れ部品の浸炭焼入れ後の硬度分布の下限を示す下限硬度分布を算出する工程と、 をさらに備える、 ことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれか一項に記載の浸炭焼入れ部品の硬度分布算出方法。


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