生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_不飽和脂肪酸類の製造方法
出願番号:2009231378
年次:2011
IPC分類:C12P 7/64,C11C 1/06,C11B 7/00,C11C 1/10,A23D 9/02


特許情報キャッシュ

加瀬 実 小松 利照 JP 2011078328 公開特許公報(A) 20110421 2009231378 20091005 不飽和脂肪酸類の製造方法 花王株式会社 000000918 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 有賀 三幸 100068700 高野 登志雄 100077562 中嶋 俊夫 100096736 村田 正樹 100117156 山本 博人 100111028 加瀬 実 小松 利照 C12P 7/64 20060101AFI20110325BHJP C11C 1/06 20060101ALI20110325BHJP C11B 7/00 20060101ALI20110325BHJP C11C 1/10 20060101ALI20110325BHJP A23D 9/02 20060101ALI20110325BHJP JPC12P7/64C11C1/06C11B7/00C11C1/10A23D9/02 5 OL 13 4B026 4B064 4H059 4B026DC02 4B026DL09 4B026DP10 4B064AD88 4B064CA31 4B064CB03 4B064CC06 4B064CC30 4B064CE01 4B064CE03 4B064DA10 4H059BA26 4H059BA30 4H059BB03 4H059BC03 4H059BC13 4H059CA05 4H059CA06 4H059CA19 4H059CA38 4H059EA17 本発明は、不飽和脂肪酸類の製造方法に関する。 脂肪酸類は、モノアシルグリセロール、ジアシルグリセロール等の食品の中間原料や、その他各種の工業製品の添加剤、中間原料として広く利用されている。かかる脂肪酸類は、一般に、菜種油、大豆油等の植物油や牛脂等の動物油を加水分解することにより製造されている。 ところが、上記のように動植物油を単に加水分解して製造された脂肪酸類は、そのままの脂肪酸組成では産業上の素原料として必ずしも好適なものではない。すなわち、利用の目的によって、低トランス不飽和脂肪酸、あるいは所望の色相、脂肪酸組成にすることが必要となる。 油脂を加水分解する方法は、高温高圧分解法(特許文献1)と酵素分解法(特許文献2)が行われている。前者は、高温及び高圧条件下で行うもので、生産性が高いという利点を有するが、原料に不飽和脂肪酸の多いものを使用すると、条件によってはトランス不飽和脂肪酸を多く生成する場合がある。一方、後者はリパーゼ等の酵素を触媒とし、反応は0〜70℃という低温で行われるため、トランス不飽和脂肪酸を生成することはないが、高温高圧分解法に比べて生産性が低い。 更に、所望の脂肪酸組成、すなわち低トランス不飽和脂肪酸含有量及び低飽和脂肪酸含有量を得るために分別による調整が行われている。例えば、特許文献3では、酵素分解法と自然分別法(無溶剤法)を組み合わせた技術が開示されており、特許文献4では高温高圧分解法と分別法を組み合わせた技術が開示されている。更に、特許文献5では、酵素分解法と高温高圧分解法とを併用した上で分別を行っている。特開2003−113395号公報特開2000−160188号公報特開平11−106782号公報特表2006−502224号公報特開2008−253196号公報 近年、世界的に食用油について、健康面に及ぼす影響が着目されており、トランス不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸は、LDL(悪玉)コレステロール値を上昇させ、冠状動脈性心臓疾患のリスクを増大させるという報告がなされている。アメリカでは、約1300万人が冠状動脈性心臓疾患にかかっており、毎年、50万人以上が冠状動脈性心臓疾患関連で死亡している。このような状況下で、米国では“Nutrition Facts”(栄養表示)に、従来の脂質、飽和脂肪酸、コレステロールに加え、トランス不飽和脂肪酸含量の表示を義務化することとなった。また、デンマークでは、2004年より食用油のトランス不飽和脂肪酸濃度を2.0質量%以下とすることを法制化した。このように、食用油のトランス不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸の低減が世界的に望まれている。 脱臭工程を省略した未脱臭の原料油脂は、構成脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量が通常1.5質量%以下であり、これを酵素分解法により加水分解を行えば、トランス不飽和脂肪酸の含量が上昇することはない。しかし、原料由来の色がそのまま残るため、得られる脂肪酸類としては外観が悪い。 また、得られた脂肪酸類を自然分別すると、飽和脂肪酸が除去され、液体部の不飽和脂肪酸の濃度が高まる。しかし、酵素分解法のみによる加水分解では、炭素数18以下のパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの脂肪酸は加水分解され易いが、炭素数20以上のアラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の長鎖脂肪酸は加水分解され難く、グリセリドとして残存するため、自然分別を行っても液体部中に飽和脂肪酸であるアラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸を含有したグリセリドが多く残り、飽和脂肪酸含量の低減には限界があった。 一方、高温高圧分解法のみにより加水分解して得た脂肪酸類は、着色成分が分解されることにより良好な外観となり、また、酵素分解法ほど脂肪酸に対する基質選択性はなく、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等が万遍なく加水分解されるため、自然分別を行うことにより液体部中のアラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸は減少する。しかし、構成脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量が高くなる。 また、特許文献4に開示されているように、飽和脂肪酸を低減するためには自然分別に先立ち分別蒸留により初留カット及び残油カットを行う必要があり、歩留まりが低くなってしまう。 従って、本発明の課題は、トランス不飽和脂肪酸含量及び飽和脂肪酸含量が低く、且つ脂肪酸純度が高く、色相に優れる不飽和脂肪酸類を製造する方法を提供することにある。 本発明者らは、酵素分解法では長鎖脂肪酸グリセリドが加水分解され難いことを逆に利用し、酵素分解法を採用し、未反応の長鎖脂肪酸グリセリドを蒸留残渣として分離する蒸留工程を分別工程と組み合わせることにより、トランス不飽和脂肪酸含量を低く抑えつつ飽和脂肪酸含量も低減でき、且つ着色成分が除去されて、脂肪酸純度が高く色相が良好な不飽和脂肪酸類を得ることができることを見出した。 すなわち、本発明は、次の工程(A)〜(C):(A)油脂加水分解酵素を用いて、油脂を加水分解する工程、(B)加水分解反応物から分別により固体酸を除く工程、及び(C)加水分解反応物から蒸留によりグリセリドを除去する工程、を含む、不飽和脂肪酸類の製造方法を提供するものである。 本発明の方法によれば、トランス不飽和脂肪酸含量及び飽和脂肪酸含量が共に低く、且つ脂肪酸純度が高く、色相に優れる不飽和脂肪酸類を得ることができる。 工程(A)は、油脂加水分解酵素を用いて、油脂を加水分解する工程である。 本発明において加水分解の対象となる油脂は、植物性油脂、動物性油脂のいずれでもよい。具体的な原料としては、菜種油、ひまわり油、とうもろこし油、大豆油、あまに油、米油、紅花油、綿実油、牛脂、魚油等を挙げることができる。また、これらの油脂を分別、混合したもの、水素添加や、エステル交換反応などにより脂肪酸組成を調整したものも原料として利用できるが、水素添加していないものであることが、加水分解後のトランス不飽和脂肪酸含量を低減させる点から好ましい。なお、本発明において、トランス不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸の量は、特に断らない限り、構成脂肪酸中の含有量である。 本発明の態様において、油脂は、それぞれの原料となる植物、又は動物から搾油後、油分以外の固形分を濾過や遠心分離等により除去するのが好ましい。次いで、水、場合によっては更に酸を添加混合した後、遠心分離等によってガム分を分離することにより脱ガムすることが好ましい。また、油脂は、アルカリを添加混合した後、水洗し脱水することにより脱酸を行うことが好ましい。更に、油脂は、活性白土等の吸着剤と接触させた後、吸着剤を濾過等により分離することにより脱色を行うことが好ましい。これらの処理は、以上の順序で行うことが好ましいが、順序を変更しても良い。また、この他に、原料油脂は、ろう分の除去のために、低温で固形分を分離するウインタリングを行っても良い。 本発明においては、油脂は、トランス不飽和脂肪酸含量が1.5質量%(以下、単に「%」と記する)以下、より好ましくは1%以下、更に0.5%以下、特に0.4%以下、殊更0.3%以下のものを用いることが、加水分解後のトランス不飽和脂肪酸含量を低減させる点から好ましい。例えば、油脂は、原料の全部又は一部に、未脱臭油脂を使用するのが、加水分解後のトランス不飽和脂肪酸含量を低減できるので好ましい。ここで、トランス不飽和脂肪酸含量は、油脂を2種以上使用する場合は、それらの合計量中の含有量である。また、未脱臭油脂とは、油脂の精製処理において脱臭を行っていない油脂をいう。 本発明において使用する油脂加水分解酵素としては、リパーゼが好ましい。リパーゼは、動物由来、植物由来のものはもとより、微生物由来の市販リパーゼを使用することもできる。例えば、微生物由来リパーゼとしては、リゾプス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ジオトリケム(Geotrichum)属、ペニシリウム(Penicillium)属、キャンディダ(Candida)属等の起源のものが挙げられる。 更に、油脂加水分解酵素を担体に固定化した固定化油脂加水分解酵素を用いることが酵素活性を有効利用できる点から好ましい。また、固定化酵素を用いることは、加水分解反応物と酵素の分離が簡便である点からも好ましい。 油脂加水分解酵素の加水分解活性は20U/g以上、更に100〜10000U/g、特に500〜5000U/gの範囲であることが好ましい。ここで酵素の1Uは、40℃において、油脂:水=100:25(質量比)の混合液を攪拌混合しながら30分間加水分解をさせたとき、1分間に1μmolの遊離脂肪酸を生成する酵素の分解能を示す。 本発明において、油脂の加水分解は、回分式、連続式、又は半連続式で行うことができる。油脂加水分解酵素は充填塔に充填した状態での使用や攪拌槽での使用のどちらでもよいが、酵素の破砕抑制の点から充填塔に充填した状態で使用することが好ましい。油脂と水の装置内への供給は、並流式、向流式どちらでもよい。加水分解反応装置に供給される油脂及び水は、予め脱気又は脱酸素を行うことが脂肪酸類の酸化抑制の点から好ましい。 油脂の加水分解反応に用いる酵素量(乾燥質量)は、酵素の活性を考慮して適宜決定することができるが、分解する油脂100質量部(以下、単に「部」と記する)に対して0.01〜30部、更に0.1〜20部、特に1〜10部が好ましい。また、水の量は、分解する油脂100部に対して10〜200部、更に20〜100部、特に30〜80部が好ましい。水は、蒸留水、イオン交換水、脱気水、水道水、井戸水等いずれのものでも構わない。グリセリン等その他の水溶性成分が混合されていても良い。必要に応じて、酵素の安定性が維持できるようにpH3〜9の緩衝液を用いてもよい。 反応温度は、酵素の活性をより有効に引き出し、分解により生じた遊離脂肪酸が結晶とならない温度である0〜70℃、更に20〜50℃とすることが好ましい。また反応は、空気との接触が出来るだけ回避されるように、窒素等の不活性ガス存在下で行うことが好ましい。 油脂の加水分解反応は脂肪酸濃度によって管理し、所定の脂肪酸濃度に到達した時点で終了すればよい。本発明における「脂肪酸濃度」は、後述の〔分析方法〕(iii)に記載した方法に従って求めた値をいう。 脂肪酸濃度は、工業的生産性、良好な外観、トランス不飽和脂肪酸の生成を抑制する点から50〜100%、更に70〜99%、特に80〜98%となるまで行うことが好ましい。加水分解の結果、トランス不飽和脂肪酸含量は0〜1.5%、更に0〜1%、特に0〜0.7%であることが好ましい。加水分解反応物は、色相を良好とする点から、加水分解反応物中の全窒素量は低いほうが好ましく、2ppm以下、更に1.5ppm以下、特に0.1〜1.5ppmであることが好ましい。 この加水分解反応物としては、パルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸(炭素数12〜22)の含量が、4〜30%、特に6〜20%のものが好ましい。 油脂の加水分解後、得られた加水分解反応物から分別により固体酸を除く工程(B)と、加水分解反応物から蒸留によりグリセリドを除去する工程(C)を行う。工程(B)と(C)の順序は問わず、工程(B)の後に工程(C)を行ってもよく、工程(C)の後に工程(B)を行っても良い。飽和脂肪酸の含有量をより低減できる観点、色相がより良好である観点、及びグリセリドを除去し易いという観点より、工程(B)の後に工程(C)を行うことが好ましい。 工程(B)における「分別」とは、処理対象の加水分解反応物を、必要に応じ撹拌しながら冷却し、析出した固体成分を濾過、遠心分離、沈降分離等することにより固−液分離を行うことをいう。 本発明における分別は、湿潤剤分別、溶剤分別、自然分別のいずれでもよいが、自然分別が好ましい。自然分別とは分相する量の水を含まず、活用剤を使用しない分別法をいい、無溶媒法、又はドライ分別とも呼ばれる。自然分別の場合、加水分解反応物に対し、結晶の析出前に結晶調整剤を添加して行うことが好ましい。結晶調整剤としては、特に限定されないが、多価アルコール脂肪酸エステルが好ましく、食品添加物であるショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられ、なかでもポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましい。 ポリグリセリン脂肪酸エステルの酸価は、0〜40mg−KOH/gが好ましく、特に1〜20mg−KOH/gが好ましい。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルの水酸基価は、0〜100mg−KOH/gが好ましく、特に1〜50mg−KOH/gが好ましい。ここで、酸価は日本油化学会編「基準油脂分析試験法2003年版」中の「酸価(2.3.1−1996)」、水酸基価は日本油化学会編「基準油脂分析試験法2003年版」中の「ヒドロキシル価(ピリジン−無水酢酸法 2.3.6.2−1996)」により測定した値をいう。 ポリグリセリン脂肪酸エステルにおけるグリセリンの平均重合度は、濾過容易な結晶状態を得る点から5以上、特に8〜30が好ましい。また、ポリグリセリン脂肪酸エステルにおける脂肪酸は、ポリグリセリン脂肪酸エステルの透明融点調整の点から、炭素数10〜22、特に炭素数12〜18の飽和又は不飽和の脂肪酸から構成されることが好ましい。当該脂肪酸は、単一脂肪酸で構成されてもよいが、混合脂肪酸で構成されているものが、特に濾過容易な結晶状態を得る点から好ましい。ポリグリセリン脂肪酸エステルは市販品を用いることができ、また、ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化反応で合成してもよい。ポリグリセリンと脂肪酸とのエステル化反応は、これらの混合物に水酸化ナトリウム等のアルカリ触媒を添加し、窒素等の不活性ガス気流下、200〜260℃で直接エステル化させる方法、酵素を使用する方法等のいずれの方法によってもよい。 結晶調整剤は2種以上を併用してもよく、またその添加量は、加水分解反応物に対して0.01〜5%、特に0.02〜3%程度が好ましい。 結晶調整剤としてポリグリセリン脂肪酸エステルを用いる場合は、加水分解反応物に完全に溶解できるように、ポリグリセリン脂肪酸エステルの透明融点より高い温度で混合溶解することが好ましい。 冷却時間及び冷却温度、保持時間は、原料の量、冷却能力などによって異なり、加水分解反応物の組成により適宜選択すればよい。例えば、菜種油の加水分解反応物の場合、2℃までの冷却時間は1〜30時間、好ましくは3〜20時間程度、保持時間は0〜24時間、好ましくは1〜15時間程度である。また、大豆油の加水分解反応物の場合、−3℃までの冷却時間は1〜30時間、好ましくは3〜20時間程度、保持時間は0〜24時間、好ましくは1〜10時間程度である。 冷却は、回分式処理でも連続式でもよい。冷却操作は、析出する結晶の平均粒径が50μm以上、特に100μm以上となるような条件で行うことが好ましい。 生成した結晶の分離法としては、濾過方式、遠心分離方式、沈降分離方式等が適用でき、回分式処理でも連続式処理でもよい。 分別により除去される固体酸としては、直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪酸が挙げられ、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸等の炭素数12〜22の直鎖又は分岐鎖の飽和脂肪酸が挙げられる。 工程(C)における「蒸留」とは、処理対象の加水分解反応物を加熱することにより蒸発部と残渣部に分離する操作をいう。これにより、加水分解反応物から未反応のグリセリドが除去される。グリセリドとしては、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリドが挙げられる。 蒸留の条件は、圧力は0.1〜300Paであることが好ましく、更に0.5〜200Pa、特に1〜100Paであることが、設備コストや運転コストを小さくする点、蒸留能力を上げる点、蒸留温度を最適に選定できる点、熱履歴によるトランス不飽和脂肪酸の増加や熱劣化を抑制する点から好ましい。温度は180〜280℃、更に190〜260℃、特に200〜250℃であることが、トランス不飽和脂肪酸の増加を抑制する点から好ましい。滞留時間は0.05〜30分、更に0.1〜15分、特に0.2〜5分であることが、トランス不飽和脂肪酸の増加を抑制する点から好ましい。ここで、滞留時間とは、処理対象の加水分解反応物が設定された蒸留温度に達している時間をいう。 圧力、温度を上記範囲に調節する手段としては、フィード流量や、薄膜式蒸発装置を使用する場合には液膜厚み等が挙げられる。 本発明においては、上記蒸留操作を安定化させる等の目的で、上記蒸留に先立ち、反応油を低真空度及び/又は低温で、前蒸留しても良い。また、反応油中にグリセリン量が多く、2液相に分離する場合は、上記蒸留に先立ち、液分離操作によりグリセリン相を分離することが好ましい。 蒸留条件は、各成分の蒸気圧曲線をもとに設定することができる。ここで蒸気圧曲線とは、物質の各温度での蒸気圧を示す曲線である。また、各成分の蒸気圧曲線及び気液平衡関係推算式を用いて使用する蒸留装置の形式に応じた蒸留計算を行い、蒸留条件を設定することもできる。 本発明において使用する蒸留装置は、バッチ単蒸留装置、バッチ精留装置、連続精留装置、フラッシュ蒸発装置、薄膜式蒸発装置等が挙げられる。なかでも、熱履歴によるトランス不飽和脂肪酸の増加や熱劣化を抑制する点から、薄膜式蒸発装置が好ましい。 薄膜式蒸発装置とは、蒸留原料を薄膜状にして加熱し、留分を蒸発させる形式の蒸発装置である。薄膜式蒸発装置としては、薄膜を形成する方法によって、遠心式薄膜蒸留装置、流下膜式蒸留装置、ワイプトフィルム蒸発装置(Wiped film distillation)等が挙げられる。この中でも、局部的な過熱を防ぎ油脂の熱劣化等をさけるために、ワイプトフィルム蒸発装置を用いることが好ましい。ワイプトフィルム蒸発装置とは、筒状の蒸発面の内側に蒸留原料を薄膜状に流し、ワイパーで薄膜攪拌を行い、外部から加熱し、留分を蒸発させる装置である。ワイプトフィルム蒸発装置は、内部凝縮器にて留分の凝縮を行う形式のものが、排気抵抗を下げ真空装置のコストを下げられる点、蒸発能力が大きい点から好ましい。ワイプトフィルム蒸発装置としては、UIC GmbH社製「短行程蒸留(Short path distillation)装置」、神鋼パンテック社製「ワイプレン」、日立製作所製「コントロ」などが挙げられる。 蒸留装置への原料供給速度は、蒸留温度、装置内圧、装置のサイズや仕様等を考慮して適宜調整することができる。例えば、薄膜式蒸発装置((株)神鋼環境ソルーション 2−03型、内径5cm、伝熱面積0.03m2)を用いる場合、10〜300g/hが好ましく、特に50〜200g/hが好ましい。 蒸留後に必要に応じて、更に吸着剤処理、ろ過等を行うこともできる。 本発明の製造方法で得られる不飽和脂肪酸類は、炭素数8〜24の直鎖又は分岐鎖の、水酸基が置換していてもよい脂肪酸を含む組成物であり、特に炭素数12〜22の直鎖又は分岐鎖の、水酸基が置換していてもよい脂肪酸を含む組成物である。工程(B)により得られる液体部、或いは工程(C)により得られる蒸発部における脂肪酸の含有量は80〜100%が好ましく、90〜100%がより好ましく、95〜100%が更に好ましい。 本発明の不飽和脂肪酸類は、不飽和脂肪酸の含有量が高いものである。不飽和脂肪酸含量は好ましくは85%以上であり、より好ましくは90%以上であり、更に好ましくは95%以上である。不飽和脂肪酸とは二重結合を有する脂肪酸の総称であり、例えば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸等が挙げられる。 本発明の製造方法で得られる不飽和脂肪酸類は、トランス不飽和脂肪酸の含有量が低いものである。トランス不飽和脂肪酸とは、不飽和脂肪酸に含まれる少なくとも1つの二重結合がトランス型となっているものをいい、例えばエライジン酸が挙げられる。トランス不飽和脂肪酸含量は、好ましくは1.5%以下であり、より好ましくは1%以下であり、更に好ましくは0.5%以下であり、特に好ましくは0.4%以下であり、殊更好ましくは0.3%以下である。 本発明の不飽和脂肪酸類は、飽和脂肪酸の含有量が低いものである。飽和脂肪酸含量は、好ましくは5%以下であり、より好ましくは4.5%以下であり、更に好ましくは4%以下であり、特に好ましくは3.9%以下である。〔分析方法〕(i)グリセリド組成の測定 ガラス製サンプル瓶に、脱水したサンプルを約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で20分間加熱した。冷却後、これに水1.5mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、ヘキサン層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して、グリセリド組成の分析を行った。(ii)構成脂肪酸組成の測定 日本油化学会編「基準油脂分析試験法2003年版」中の「メチルエステル化法(三フッ化ホウ素メタノール法)(2.4.1.2−1996)」に従って脂肪酸メチルエステルを調製し、得られたサンプルを、ガスクロマトグラフィー(GLC)に供して、脂肪酸の分析を行った。(iii)脂肪酸濃度 脂肪酸類の酸価及び脂肪酸組成を測定し、「油脂製品の知識」(株式会社 幸書房)に従って、次式(2)で求めた値をいう。なお、酸価は日本油化学会編「基準油脂分析試験法2003年版」中の「酸価(2.3.1−1996)」に従って測定する。 脂肪酸濃度(質量%)=x×y/56.1/10 (2) (x=酸価[mgKOH/g]、y=脂肪酸組成から求めた平均分子量)(iv)色 脂肪酸類の色は、日本油化学会編「基準油脂分析試験法2003年版」中の「色(2.2.1−1996)」に従って、ロビボンド比色計を用い5.25インチセルにより測定し、次の式(3)で求めた値をいう。 色=10R+Y (3) (式中、R=Red値、Y=Yellow値)〔固定化リパーゼの調製〕 Duolite A−568(Rohm & Haas社製)500gを担体として、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液5000mL中で、1時間攪拌した。その後、5000mLの蒸留水で1時間洗浄し、500mMのリン酸緩衝液(pH7)5000mLで、2時間pHの平衡化を行った。その後50mMのリン酸緩衝液(pH7)5000mLで2時間ずつ2回、pHの平衡化を行った。この後、濾過を行い、担体を回収した後、エタノール2500mLでエタノール置換を30分間行った。濾過した後、大豆脂肪酸を500g含むエタノール2500mLを加え30分間、大豆脂肪酸を担体に吸着させた。この後濾過し、担体を回収した後、50mMのリン酸緩衝液(pH7)2500mLで4回洗浄し、エタノールを除去し、濾過して担体を回収した。その後、油脂に作用する市販のリパーゼ(リパーゼAY「アマノ」30G、天野エンザイム(株))の10%溶液10000mLと4時間接触させ、固定化を行った。更に、濾過し固定化リパーゼを回収して、50mMのリン酸緩衝液(pH7)2500mLで洗浄を行い、固定化していないリパーゼや蛋白を除去した。以上の操作はいずれも温度20℃で行った。その後、脱臭菜種油2000gを加え、温度40℃、10時間攪拌した後、脱臭菜種油を濾別して、固定化リパーゼを得た。加水分解活性は2500U/gであった。〔原料油脂〕 原料油脂として、未脱臭菜種油を用いた。トランス不飽和脂肪酸含量は0.1%、飽和脂肪酸含量は7.0%、色は43であった。製造例1〔固定化リパーゼを用いた酵素分解法による加水分解〕 未脱臭菜種油について、固定化リパーゼを用いた酵素分解法による加水分解反応を行った。加水分解反応は、固定化リパーゼを充填した酵素塔と基質攪拌槽との間で反応液を循環させる方法で行った。未脱臭菜種油で置換した固定化リパーゼを、ジャケット付きステンレス製酵素塔カラム(内径22mm、高さ145mm)に乾燥基準で20.0g充填した。固定化リパーゼの乾燥基準の質量は、ジャケット付きステンレス製酵素塔カラムに充填したものと同じ固定化リパーゼを、アセトン及びヘキサンを用いて、固定化リパーゼに付着している油分を除去し、更に減圧下で脱水して、本来の固定化リパーゼの質量を求めた。 未脱臭菜種油900gと蒸留水540gを、内径150mm、容量3Lのジャケット付き基質攪拌槽に投入した後、攪拌(半月翼Φ90mm×H25mm:600r/min)しながら、混合して40℃に昇温した。この間は、ジャケット付き基質循環槽内の気相部は窒素に置換し窒素雰囲気下とした。基質が40℃に昇温された後、ジャケット付き基質攪拌槽内の基質を、送液ポンプを用いて55mL/minの流量でジャケット付きステンレス製酵素塔カラムに上部から供給した。ジャケット付きステンレス製酵素塔カラムの下部から得られる反応液をジャケット付き基質攪拌槽に返送してバッチ循環反応を開始した。反応開始から24時間後に、反応液をジャケット付き基質攪拌槽から全量抜き出し、遠心分離(5,000×g,10分)し、水相を除去後、油相を温度70℃、真空度400Paで30分間、減圧で脱水した。 以上の操作を5バッチ行い、油相を混合し均一にして加水分解反応物(サンプルA)を得た。表1に加水分解反応物(サンプルA)の分析値を示した。実施例1〔加水分解反応物をドライ分別後に薄膜蒸留〕(1)表1に示す加水分解反応物(サンプルA)1500gに対して、表2に示すポリグリセリン脂肪酸エステルを1.5g加えて70℃で均一に溶解し30℃に冷却後、アンカー翼(100×100mm)を取り付けたジャケット冷却式の攪拌槽(内径130mm)に投入した。150r/minで撹拌しつつ、2℃/hで冷却し2℃で5時間保持した。その後、ナイロン製濾布NY1260NLK(中尾フィルター製)(濾過面積39cm2)を用い0.03MPaで加圧濾過して液体部脂肪酸(サンプルB:比較例1)を得た。歩留まりは、加水分解反応物(サンプルA)に対して92.8%であった。(2)液体部脂肪酸(サンプルB)を、ワイプトフィルム蒸発装置((株)神鋼環境ソルーション 2−03型、内径5cm、伝熱面積0.03m2)を用いて薄膜蒸留を行った。加熱ヒーター温度設定230℃、圧力1〜2Pa、流量150g/hの条件で操作し、薄膜蒸留脂肪酸(サンプルC:実施例1)を得た。この時、滞留時間は約0.3分であった。残渣部のDAGとTAGの合計は93%、C20以上の飽和脂肪酸は8.5%であった。また、最終の歩留まりは、加水分解反応物(サンプルA)に対して84.6%であった。 表1に実施例1及び比較例1の分析値を示した。実施例2〔加水分解反応物を蒸留後にドライ分別〕(1)表1に示す加水分解反応物(サンプルA)を、ワイプトフィルム蒸発装置((株)神鋼環境ソルーション 2−03型、内径5cm、伝熱面積0.03m2)を用いて薄膜蒸留を行った。加熱ヒーター温度設定230℃、圧力1〜2Pa、流量150g/hの条件で操作し、薄膜蒸留脂肪酸(サンプルD:比較例2)を得た。この時、滞留時間は約0.3分であった。残渣部のDAGとTAGの合計は87%、C20以上の飽和脂肪酸は9.5%であった。また、歩留まりは、加水分解反応物(サンプルA)に対して91.4%であった。(2)薄膜蒸留脂肪酸(サンプルD)1500gに対して、表2に示すポリグリセリン脂肪酸エステルを1.5g加えて70℃で均一に溶解し30℃に冷却後、アンカー翼(100×100mm)を取り付けたジャケット冷却式の攪拌槽(内径130mm)に投入した。150r/minで撹拌しつつ、2℃/hで冷却し2℃で5時間保持した。その後、NY1260NLK(中尾フィルター製)(濾過面積39cm2)を用い0.03MPaで加圧濾過して液体部脂肪酸(サンプルE:実施例2)を得た。最終の歩留まりは、加水分解反応物(サンプルA)に対して85.4%であった。 表1に実施例2及び比較例2の分析値を示した。比較例3〔高圧分解脂肪酸をドライ分別〕 油水向流式の高圧熱水型分解装置に、未脱臭菜種油を装置の下側から、水を装置の上側からそれぞれ連続的に送液した。送液量は、原料油脂100部に対して水50部とした。この時、分解塔内の平均滞留時間(h)(塔容積(m3)/(原料油の流量(m3/hr)+水の流量(m3/h)))は約4hであった。装置の中で原料油脂は高圧熱水(5.0MPa、240℃)により加熱された。油水向流式の高圧熱水型分解装置上部から排出される反応液を採取し、窒素シール、遮光状態で25℃まで冷却した。その後、遠心分離(5,000×g,10分)し、水相を除去後、油相を温度70℃、真空度400Paで30分間、減圧で完全脱水して高圧分解脂肪酸(サンプルF)を得た。次いで、高圧分解脂肪酸(サンプルF)1500gに対して、表2に示すポリグリセリン脂肪酸エステルを1.5g加えて70℃で均一に溶解し30℃に冷却後、アンカー翼(100×100mm)を取り付けたジャケット冷却式の攪拌槽(内径130mm)に投入した。150r/minで撹拌しつつ、2℃/hで冷却し2℃で5時間保持した。その後、NY1260NLK(中尾フィルター製)(濾過面積39cm2)を用い0.03MPaで加圧濾過して液体部脂肪酸(サンプルG:比較例3)を得た。最終の歩留まりは、加水分解反応物(サンプルF)に対して92.9%であった。 表1に比較例3の分析値を示した。 表1より明らかなように、未脱臭油脂を、酵素分解法により加水分解して得られた加水分解反応物(サンプルA)を分別して得られた不飽和脂肪酸類(比較例1)は、炭素数20以上の飽和脂肪酸の低減が不十分で外観も悪かった。また、加水分解反応物(サンプルA)を薄膜蒸留して得られた不飽和脂肪酸類(比較例2)は、炭素数18以下及び炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が高く、飽和脂肪酸の低減ができないことがわかった。このように、飽和脂肪酸の低減と色相の両立はできなかった。 未脱臭油脂を、高温、高圧の条件下の加水分解で得た加水分解反応物(サンプルF)を分別して得られた不飽和脂肪酸類(比較例3)は、飽和脂肪酸の低減が十分でないうえ、トランス不飽和脂肪酸含量が高かった。 これに対し、未脱臭油脂を、固定化酵素と接触させながら加水分解し、その後、分別及び薄膜蒸留を組み合わせることにより、トランス不飽和脂肪酸含量並びに炭素数18以下及び炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が低く、且つ脂肪酸純度の高い、良好な外観の不飽和脂肪酸類が得られることがわかった(実施例1及び2)。 次の工程(A)〜(C):(A)油脂加水分解酵素を用いて、油脂を加水分解する工程、(B)加水分解反応物から分別により固体酸を除く工程、及び(C)加水分解反応物から蒸留によりグリセリドを除去する工程、を含む、不飽和脂肪酸類の製造方法。 油脂が未脱臭油脂である請求項1記載の不飽和脂肪酸類の製造方法。 油脂加水分解酵素が担体に固定化されたものである請求項1又は2記載の不飽和脂肪酸類の製造方法。 蒸留を薄膜式蒸発装置にて行う請求項1〜3のいずれか1項記載の不飽和脂肪酸類の製造方法。 (B)工程における分別が、加水分解反応物に結晶調整剤を添加混合するものである、請求項1〜3のいずれか1項記載の不飽和脂肪酸類の製造方法。 【課題】トランス不飽和脂肪酸含量及び飽和脂肪酸含量が低く、且つ脂肪酸純度が高く、色相に優れる不飽和脂肪酸類を製造する方法の提供。【解決手段】次の工程(A)〜(C):(A)油脂加水分解酵素を用いて、油脂を加水分解する工程、(B)加水分解反応物から分別により固体酸を除く工程、及び(C)加水分解反応物から蒸留によりグリセリドを除去する工程、を含む、不飽和脂肪酸類の製造方法。【選択図】なし


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