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タイトル:公開特許公報(A)_ボツリヌス毒素の精製方法
出願番号:2009228199
年次:2011
IPC分類:C07K 14/33,A61K 38/00


特許情報キャッシュ

永野 礼隆 中平 伸二 鳥居 恭司 板井 志保 原田 香織 大山 裕介 銀永 明弘 小崎 俊司 JP 2011074025 公開特許公報(A) 20110414 2009228199 20090930 ボツリヌス毒素の精製方法 一般財団法人化学及血清療法研究所 000173555 永野 礼隆 中平 伸二 鳥居 恭司 板井 志保 原田 香織 大山 裕介 銀永 明弘 小崎 俊司 C07K 14/33 20060101AFI20110318BHJP A61K 38/00 20060101ALI20110318BHJP JPC07K14/33A61K37/02 23 OL 15 4C084 4H045 4C084AA01 4C084AA06 4C084AA07 4C084CA04 4C084DA33 4H045AA10 4H045AA20 4H045BA10 4H045CA11 4H045DA83 4H045EA20 4H045FA71 4H045GA10 4H045GA23 本発明は、ボツリヌス毒素の精製方法に関する。詳細には、沈殿法・遠心分離を行うことなく、膜ろ過法とクロマトグラフィー法を組み合わせることを特徴とするボツリヌス毒素の精製方法に関する。 嫌気性のグラム陽性菌であるクロストリジウム・ボツリナム(Clostridium botulinum)が産生するボツリヌス毒素は地球上で最も致死性の高い毒素であり、これまでに血清型A、B、C、D、E、F及びGの7種のボツリヌス菌由来の毒素とその特性が明らかにされている。これらは、それぞれ血清型に特異的な中和抗体で識別される。更に同じ血清型のボツリヌス毒素の中でも、毒素遺伝子の構造の違いによりいくつかの亜型に分類される。ボツリヌス毒素の活性中心蛋白質は、既知のボツリヌス毒素血清型の7種すべてにおいて、分子量約150 KDaのボツリヌス神経毒素(NTX)である。 すべてのボツリヌス毒素はボツリヌス菌から産生される場合、分子量約150 KDaのNTXに分子量の異なる無毒成分が結合した複合体の形で産生される。複合体毒素は分子量の違いにより、LL毒素(900 KDa)、L毒素(500 KDa)、またはM毒素(300 KDa)の分子形態に分けられる。LL毒素及びL毒素は、NTX、HA蛋白質及びNTNH(無毒非HA蛋白質である蛋白質)より成り、M毒素はこれらのうちHA蛋白質を欠く。LL毒素、L毒素及びM毒素は、ボツリヌス毒素複合体あるいはプロジェニター毒素などと呼ばれている。 A型ボツリヌス菌は、A1型〜A5型の亜型に分類される。例えば、A1型ボツリヌス菌は、LL毒素、L毒素及びM毒素を産生するが、A2型ボツリヌス菌は、M毒素しか産生しない。A1型ボツリヌス菌としては、Hall、62A、97A、NCTC887、NCTC7272、NCTC2916及びNCTC11199株等がある。A2型ボツリヌス菌は、1986年に日本で最初に乳児ボツリヌス症に関する患者から同定されている(Sakaguchi G., et al., Int. J. Food Microbiol.,11: 231-242,1990:非特許文献1)。A2型ボツリヌス菌の臨床分離株は、Kyoto-F、Chiba-H、Y-8036、7I03-H、7I05-H及びKZ1828である。その他、A3型ボツリヌス菌としてはLoch Maree株、A4型ボツリヌス菌としては657Ba株、A5型ボツリヌス菌としてはH0 4244 0055、H0 4402 065、H0 4464 107及びH0 4068 0341株が知られている。 その他のボツリヌス菌では、B型、C型及びD型ボツリヌス菌はLL毒素及びM毒素を産生する。E型及びF型ボツリヌス菌はM毒素のみ、G型ボツリヌス菌はL毒素のみを産生する。 ボツリヌス毒素複合体は、アルカリ条件下で、NTX(S毒素とも呼ばれる。)とNTNHとが解離するため、この性質を利用することで、150 KDaのNTXのみを単離することができる。 従来、ボツリヌス毒素の精製方法は、培養液中のボツリヌス毒素複合体及びボツリヌス菌体を沈殿する酸沈殿、共存するDNAやRNA等を除去するプロタミン沈殿、粗精製を行う硫酸アンモニウム塩析等のいくつかの沈殿法を行った後に、イオン交換、金属あるいはゲルろ過等のクロマトグラフィー法を組み合わせる煩雑な方法であった。 例えばNTXの精製方法としては、培養液を硫酸、プロタミン及び硫酸アンモニウムで順次沈殿・抽出した後、遠心分離により得られた沈殿物を溶解し、SP Sephadex C-50(pH3.8)、Sephadex G-200(pH3.8)、DEAE Sephadex(pH8.0)で次々にカラムクロマトグラフィーを実施する阪口らの方法(Infect.Immun.12(6),1262-1270,1975:非特許文献2)がある。阪口らの方法では、A、B、C、D、E、F及びG型ボツリヌス菌由来のLL毒素、L毒素、M毒素あるいはNTXが精製できることが報告されている(Pharmac.Ther.19,165-194,1983:非特許文献3)。 その他、培養液を硫酸、硫酸プロトアミン、硫酸アンモニウムで順次沈殿した後、遠心分離により得られた沈殿物を溶解し、DEAE Sephadex(pH6)、DEAE Sephadex(pH7.9)、SP Sephadex(pH7)で次々にカラムクロマトグラフィーを実施するピガルケ・ハンスらの方法(特表2003-505343:特許文献1)、あるいはボツリヌス毒素複合体をDEAE Sephadex A-50(pH5.5)のカラムから回収し、硫酸アンモニウム塩析の沈殿物を溶解後、DEAE Sephadex A-50(pH7.9)、SP Sephadex C-50(pH7.0)等で次々にカラムクロマトグラフィーを実施するジョンソンらの方法(特表平11-507072:特許文献2)が知られている。これらのいずれの方法もクロマトグラフィーの前処理として、沈殿法・遠心分離を実施する煩雑な方法である。 工業規模で沈殿法を行う場合、1)操作が煩雑である、2)分離が鋭敏でなく低分離性能である、3)工程管理が難しく、少しの条件の違いが分離度に大きく影響する、4)生産規模の変更(スケールアップまたはスケールダウン)が難しい、5)生産性が低い、等の問題がある。 先に示した従来技術での問題点を具体的に述べると、1)酸沈殿によりボツリヌス菌体を全て破壊/除去したことを保証することが難しい、2)核酸除去を主目的とするプロタミン処理では、反応条件の設定が困難なため再現性の良い効率的な核酸の除去ができない、3)残存した核酸がクロマトグラフィー工程の分離度に大きく影響する、4)複数の種類の沈殿法を組み合わせるため製造期間が長い、等の問題がある。 また、沈殿法に伴い実施する遠心分離では、1)投資コスト、2)せん断力による毒素回収率の低下、3)処理時間、4)遠心分離における高速回転によりボツリヌス毒素を含むエアロゾルの発生、5)沈殿物回収作業における作業者の毒素に対する安全性確保、6)完全自動化設備・完全インライン化設備を提供し難い、等の問題がある(Handbook of Process Chromatography Development, Manufacturing, Validation and Economics., Hagel, Elsevier Science & Technology, 2008:非特許文献4)。特表2003-505343号公報特表平11-507072号公報Sakaguchi G., et al., Int. J. Food Microbiol.,11: 231-242,1990.Sakaguchi G., et al., Infect.Immun.12(6),1262-1270,1975.Sakaguchi G., Pharmac.Ther.19,165-194,1983Handbook of Process Chromatography Development, Manufacturing, Validation and Economics., Hagel, Elsevier Science & Technology, 2008. このような状況下、本発明の課題は、従来技術と比較して沈殿・遠心工程を代替する分離技術を見出すことで工程数を短縮した、より簡便なボツリヌス毒素の工業規模での精製方法を提供することにある。 そこで、本発明者等は上述の諸問題に鑑み鋭意検討した結果、沈殿法・遠心分離を代替する分離技術として、膜ろ過法に着目し、ボツリヌス毒素の精製方法を新たに見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、ボツリヌス毒素複合体を含有するボツリヌス菌培養液から膜ろ過法とクロマトグラフィー法を組み合わせたことを特徴とするボツリヌス毒素の精製方法を提供するものである。本発明の精製方法を適用した場合、従来技術に比べて極めて簡便に、短期間にかつ効果的に安定性の高いボツリヌス毒素を大量調製することができる。以下に、本発明をさらに詳細に説明する。(1)膜ろ過法と陰イオン交換クロマトグラフィーと陽イオン交換クロマトグラフィーを組み合わせることを特徴とするボツリヌス毒素の精製方法。(2)以下の工程を含む、上記(1)に記載の精製方法。(a) 膜ろ過法により、ボツリヌス菌培養液からボツリヌス菌体を除去する工程、(b) 前記(a)工程においてボツリヌス菌体が除去されたボツリヌス毒素溶液を陰イオン交換クロマトグラフィーカラムに展開する工程、(c) ボツリヌス毒素成分がカラムに吸着するような条件下で、前記(b)工程において得られる陰イオン交換クロマトグラフィーカラムの回収画分を陽イオン交換クロマトグラフィーカラムに展開する工程、及び(d) 前記陽イオン交換クロマトグラフィーから不純物を洗い流し、次いでボツリヌス毒素を溶出する工程。(3)前記膜ろ過法が、精密膜ろ過法である上記(1)または(2)に記載の精製方法。(4)前記精密膜ろ過法に用いる膜の孔径が0.22μm以下である上記(3)に記載の精製方法。(5)前記膜ろ過法において、前記精密膜ろ過を行う前に、前記精密膜ろ過に用いる膜よりも大きな孔径を有する膜で粗膜ろ過を行う工程をさらに含む上記(2)に記載の精製方法。(6)前記陰イオン交換クロマトグラフィーカラム内の緩衝液のpHが4.5から6.8である、上記(1)または(2)に記載の精製方法。(7)前記陰イオン交換クロマトグラフィーカラム内の緩衝液の塩濃度が0から0.3 mol/Lである、上記(1)または(2)に記載の精製方法。(8)前記陰イオン交換クロマトグラフィーにおいて、ボツリヌス毒素成分をカラムに吸着させる場合、当該カラムに吸着したボツリヌス毒素を塩濃度が0から2.0 mol/Lの勾配で溶出する、上記(1)または(2)に記載の精製方法。(9)前記(b)工程を行う前に、前記(a)工程においてボツリヌス菌体が除去されたボツリヌス毒素溶液を、当該陰イオン交換クロマトグラフィーの塩濃度及びpHの条件に調整する工程をさらに含む上記(2)に記載の精製方法。(10)前記陽イオン交換クロマトグラフィーカラム内の緩衝液のpHが4.0から4.5である、上記(1)または(2)に記載の精製方法。(11)前記陽イオン交換クロマトグラフィーカラム内の緩衝液の塩濃度が0から0.2 mol/Lである、上記(1)または(2)に記載の精製方法。(12)前記(c)工程を行う前に、前記(b)工程において得られる陰イオン交換クロマトグラフィーカラムの回収画分を、当該陽イオン交換クロマトグラフィーの塩濃度及びpHの条件に調整する工程をさらに含む上記(2)に記載の精製方法。(13)前記(d)工程において、陽イオン交換クロマトグラフィーに吸着したボツリヌス毒素を塩濃度が0.2から0.7 mol/Lの勾配で溶出する、上記(1)または(2)に記載の精製方法。(14)(d)工程で溶出されるボツリヌス毒素がL毒素、LL毒素またはM毒素である上記(2)に記載の精製方法。(15)前記(a)〜(d)の工程の後にさらに以下の工程を含む、上記(1)または(2)に記載のボツリヌス毒素の精製方法。(e) ボツリヌス毒素成分がカラムに吸着し、かつ、ボツリヌス神経毒素(NTX)と無毒非HAタンパク質(NTNH)が解離するような条件下で、前記(d)工程で得られた陽イオン交換クロマトグラフィーの溶出画分を、第二陰イオン交換クロマトグラフィーカラムに展開する工程、及び(f) 前記第二陰イオン交換クロマトグラフィーから不純物を洗い流し、次いでボツリヌス神経毒素(NTX)を溶出する工程。(16)前記第二陰イオン交換クロマトグラフィーカラム内の緩衝液のpHが6.8から8.0である、上記(1)、(2)または(15)のいずれかに記載の精製方法。(17)前記第二陰イオン交換クロマトグラフィーカラム内の緩衝液の塩濃度が0から0.1 mol/Lである、上記(1)、(2)または(15)のいずれかに記載の精製方法。(18)前記(f)工程において、第二陰イオン交換クロマトグラフィーに吸着したNTXを塩濃度が0から0.3mol/Lの勾配で溶出する、上記(1)、(2)または(15)のいずれかに記載の精製方法。(19)前記(e)工程を行う前に、前記(d)工程において得られる陽イオン交換クロマトグラフィーの溶出画分を、当該第二陰イオン交換クロマトグラフィーの塩濃度及びpHの条件に調整する工程をさらに含む上記(15)に記載の精製方法。(20)当該ボツリヌス毒素がA型、B型、C型、D型、E型、F型及びG型ボツリヌス菌由来のボツリヌス毒素である上記(1)から(19)のいずれかに記載の精製方法。(21)上記(1)から(20)のいずれかに記載の精製方法により精製されたボツリヌス毒素。(22)当該ボツリヌス毒素が、LL毒素、L毒素、M毒素、またはNTXのいずれかである上記(21)に記載のボツリヌス毒素。(23)上記(21)または(22)に記載のボツリヌス毒素を有効成分として含有する薬剤。 本発明によれば、沈殿法・遠心分離を伴う従来技術と比較して、膜ろ過法とクロマトグラフィー法を組み合わせることによりボツリヌス菌培養液から極めて簡便に、短期間にかつ効果的に安定性の高いボツリヌス毒素を大量調製することが可能となった。また、沈殿法・遠心分離における沈殿物の回収作業を排除したことで、製造ラインの完全自動化設備・インライン化設備の提供が可能となった。さらに、作業員の介在がなくなるともに、毒素溶液が環境に曝露されることがないため、作業者の労働安全衛生環境及びGMP準拠並びに無菌性確保を向上することを可能にした。 本発明の方法が適用されるボツリヌス菌は、A〜G型菌である。 本発明の膜ろ過法と陰イオン交換クロマトグラフィーと陽イオン交換クロマトグラフィーを組み合わせたボツリヌス毒素の精製方法は、具体的には以下の工程を含む。(a) 膜ろ過法により、ボツリヌス菌培養液からボツリヌス菌体を除去する工程、(b) 前記(a)工程においてボツリヌス菌体が除去されたボツリヌス毒素溶液を陰イオン交換クロマトグラフィーカラムに展開する工程、(c) ボツリヌス毒素成分がカラムに吸着するような条件下で、前記(b)工程において得られる陰イオン交換クロマトグラフィーカラムの回収画分を陽イオン交換クロマトグラフィーカラムに展開する工程、及び(d) 前記陽イオン交換クロマトグラフィーから不純物を洗い流し、次いでボツリヌス毒素を溶出する工程。 ボツリヌス菌体、ボツリヌス毒素複合体及びその他の夾雑物を含むボツリヌス菌培養液は、例えば、阪口らの培養方法(Biochemical aspects of botulism: Purification and oral toxicities of Clostridium botulinum progenitor toxins.,21-34,Lewis GE.,1981, Academic Press,New York)に従って調製される。その一例としては、PYG培地で30℃、4日間培養する方法により得られるが、使用される培地、培養条件は目的により適宜選択される。別の培養方法として、Siegel, L.S.ら(Appl.Microbiol.Vol.38, No.4:606-611.,1979)の変法で調製した培養液を使用することもできる。 本発明の精製方法によれば、まず、(a)工程として、得られたボツリヌス菌培養液を精密ろ過用フィルターでろ過することにより、ボツリヌス菌体を除去する。ろ過の様態に特別な制限はなく、例えばデェッドエンドろ過法、タンジェンシャルフロー法等が採用され得る。精密ろ過膜は蛋白低吸着性のもので、例えば、酢酸セルロース、親水性ポリエーテルスルホン、親水性ポリフッ化ビニリデンン(PVDF)等の市販のろ過膜を使用することができる。また、精密ろ過膜への負荷を軽減する目的から、精密ろ過の前に比較的膜孔径の大きな膜でろ過してもよい。膜孔径は、特に限定されるものではないが、最終ろ過膜の膜孔径は0.1〜0.22 μm、好ましくは、0.2μmであり、フィルターの完全性試験によりボツリヌス菌体の除去を保証できるものでなければならない。 (a)工程で得られたボツリヌス菌体を除去した夾雑物を含むボツリヌス毒素複合体溶液を(b)工程の陰イオン交換クロマトグラフィーカラムに展開する前に、当該ボツリヌス毒素複合体溶液を(b)工程における陰イオン交換クロマトグラフィーの塩濃度、pHの条件に調整する。本調整は、例えば、工業用タンジェンシャルフロー式限外ろ過装置で濃縮及びバッファー交換を行い、蛋白濃度、塩濃度及びpHを調整する。限外ろ過膜の膜孔径としては、10〜100 KDaであればよい。 次に(b)工程として、調製したボツリヌス毒素複合体溶液を、緩衝液等で平衡化した陰イオン交換樹脂に展開し、核酸やその他の不純物を吸着除去する。当該緩衝液としては、塩濃度が0.3 mol/L以下で、pHが4.5〜6.8の範囲、好適には塩類濃度が0.1mol/LでpHが6.0であれば特に限定されないが、例えばクエン酸またはクエン酸・リン酸混合緩衝液は好適な一例である。また、核酸が吸着除去できれば、ボツリヌス毒素複合体は吸着・非吸着のいずれでもよい。好適には、核酸は吸着除去し、ボツリヌス毒素複合体は非吸着にする。ボツリヌス毒素複合体をカラムに吸着させる場合は、0から2.0mol/Lの勾配の塩濃度の同じ緩衝液で溶出させる。使用する陰イオン交換樹脂は、DEAE Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア)、Q Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア)、CAPTO-Q(GEヘルスケア)、DEAEトヨパール(東ソー)、QAEトヨパール(東ソー)等の市販の陰イオン交換樹脂を使用することができる。塩の種類は限定されず、イオン強度が上記濃度の塩化ナトリウムに相当する濃度で使用すればよい。 (b)工程で得られたボツリヌス毒素複合体溶液を(c)工程の陽イオン交換クロマトグラフィーに展開する前に、当該ボツリヌス毒素複合体溶液を当該陽イオン交換クロマトグラフィーの塩濃度、pHの条件に調整する。本調整は、例えば、工業用タンジェンシャルフロー式限外ろ過装置で濃縮及びバッファー交換を行い、蛋白濃度、塩濃度及びpHを調整する。 次に(c)工程として、(b)工程で得られたボツリヌス毒素複合体溶液を陽イオン交換樹脂に展開し、ボツリヌス毒素複合体を吸着させる。当該陽イオン交換樹脂は予め塩濃度が0.2 mol/L以下でpHが4.0〜4.5の範囲、好適には塩濃度が0.2 mol/LでpHが4.2の酢酸緩衝液等の緩衝液で平衡化しておく。使用する緩衝液は、塩濃度が0.2 mol/L以下でかつpHが4.0〜4.5の範囲であればよく、特に酢酸緩衝液に限定されるものではない。ボツリヌス毒素複合体が吸着できれば、夾雑する蛋白質は吸着・非吸着のいずれでもよい。好適には、ボツリヌス毒素複合体を吸着し、夾雑する蛋白質は非吸着にする。前記緩衝液で洗浄後、塩濃度が0.2〜0.7 mol/Lの勾配の同じ緩衝液でリニアグラジェントによりボツリヌス毒素複合体を溶出し分画する。使用する陽イオン交換樹脂は、SP Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア)、CM Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア)、S Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア)、SP トヨパール(東ソー)等の市販の陽イオン交換樹脂を使用することができる。塩の種類は限定されず、イオン強度が上記濃度の塩化ナトリウムに相当する濃度で使用すればよい。 以上の方法により、夾雑する蛋白質が除去され、高度に精製されたボツリヌス毒素複合体(L毒素、LL毒素、M毒素)が得られる。さらに、より純度の高いボツリヌス毒素複合体が要求される場合は、更なるクロマトグラフィー、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の方法、あるいはそれらを組み合わせることにより高度に精製することができる。 得られたボツリヌス毒素複合体溶液からNTXを得るためには、さらに、以下の工程を行い、当該ボツリヌス毒素複合体から無毒性非HA蛋白(NTNH)を解離・除去しなければならない。(e) ボツリヌス毒素成分がカラムに吸着し、かつ、ボツリヌス神経毒素(NTX)と無毒非HAタンパク質(NTNH)が解離するような条件下で、前記(d)工程で得られた陽イオン交換クロマトグラフィーの溶出画分を、第二陰イオン交換クロマトグラフィーカラムに展開する工程、及び(f) 前記第二陰イオン交換クロマトグラフィーから不純物を洗い流し、次いでボツリヌス神経毒素(NTX)を溶出する工程。 (e)工程として、ボツリヌス毒素複合体溶液を陰イオン交換樹脂に展開し、NTXを吸着させる。当該陰イオン交換樹脂は、予め塩濃度が0.1 mol/L以下でpHが6.8〜8.0の範囲、好適には塩濃度が0 mol/LでpHが7.5のリン酸またはトリス緩衝液等の緩衝液で平衡化しておく。使用する緩衝液は、塩濃度が0.1 mol/L以下でかつpHが6.8〜8.0の範囲であればよく、特にリン酸またはトリス緩衝液に限定されるものではない。NTX及びNTNHが吸着できれば、夾雑する蛋白質は吸着・非吸着のいずれでもよい。好適には、NTX及びNTNHを吸着し、夾雑する蛋白質は非吸着する。 次に(f)工程として、NTX及びNTNHが吸着されたカラムを前記緩衝液で洗浄後、塩濃度が0〜0.3 mol/Lの勾配の同じ緩衝液でリニアグラジェントにより高度精製NTXを溶出し分画する。使用する陰イオン交換樹脂は、DEAE Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア)、Q Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア)、Capto-Q(GEヘルスケア)、DEAE トヨパール(東ソー)、QAE トヨパール(東ソー)等の市販の陰イオン交換樹脂を使用することができる。塩の種類は限定されず、イオン強度が上記濃度の塩化ナトリウムに相当する濃度で使用すればよい。 また、上記(e)工程において、陰イオン交換樹脂に展開する前に、予めNTXとNTNHを解離させても良い。例えば、M毒素から成るボツリヌス毒素複合体溶液を、限外ろ過法により、塩濃度が0〜0.1 mol/LでpHが6.8〜8.0の範囲、好適には塩濃度が0 mol/LでpH7.5のリン酸またはトリス緩衝液等でバッファー交換することで、NTXとNTNHを解離させる。本限外ろ過工程は、工業用タンジェンシャルフロー式限外ろ過装置等を用いて行うことができる。本工程に使用する限外ろ過膜は特に限定するものではなく、ハイドロザルト、親水性ポリエーテルスルホン等の市販の限外ろ過膜を使用することができる。膜孔径は、10〜30 KDaであればよい。 上記の工程により得られた高度精製ボツリヌス毒素を医薬品として使用する場合、薬学的に使用可能な添加剤を使用する。例えば、安定剤としては、アルブミン、アミノ酸、糖類、界面活性剤等を使用することでき、好適なアミノ酸はアルギニン一塩酸塩である。また、当該高度精製ボツリヌス毒素を長期保存する際は、凍結保存することができる。 以下に実施例において本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例の記載に何ら限定されるものではない。高度精製A2型NTXの液状保存における活性残存率を示す図。《試験例:試験及び方法》(1)SDS-PAGE試験 本法では高度精製NTX溶液またはボツリヌス毒素複合体溶液の純度を調べる。Laemmliらの方法(Nature 227:680-685)を一部改変してSDS-PAGE試験を実施した。マーカーはプレシジョンplusブルーステインド(Bio-Rad Laboratories, Inc.)を使用した。毒素溶液をDTT(ナカライテスク)で還元処理した後、10%単一濃度または5%〜20%のリニアグラジエントゲル(ATTO)で電気泳動した。電気泳動後は、クマシーブリリアントブルーR250(ナカライ)で染色した。(2)マウス腹腔内投与LD50試験(i.p.法) 本法ではボツリヌス毒素溶液の毒素活性を調べる。ボツリヌス毒素をマウス腹腔内に投与し、その後4日間の累積致死率から50%致死量(LD50)を推定した。毒素溶液を希釈し、マウス一匹あたり希釈検体0.5mLを投与した。Probit法によりLD50を算出した。(3)マウス尾静脈投与試験 本法はボツリヌス毒素の毒素活性測定法として一般的に使用されるマウス腹腔内投与LD50試験(i.p.法)あるいはラットCMAP法(WO 2007/125604 A1)を代替する簡便法である。高濃度の毒素をマウス尾静脈に投与し生存時間を調べ、事前に作成した生存時間(分)と毒素活性濃度(LD50/mL)との回帰直線から、検体の毒素活性濃度を算出した。(4)蛋白濃度試験(ローリー法) 本法ではボツリヌス毒素溶液の蛋白濃度を調べる。DCプロテインアッセイキット(BIO-RAD)を用いた。検量線用溶液にはウシ血清アルブミン(PIERCE)を用いた。(5)サイズ排除HPLC分析(SEC-HPLC) 本法では高度精製NTX溶液の純度を調べる。TSK-GEL G3000SWXL (7.8 mm×300 mm、東ソー)を0.2 mol/L塩化ナトリウム及び0.05w/v%アジ化ナトリウムを含む50 mmol/Lリン酸ナトリウム、pH 5.8で平衡化し、流速0.25 mL/minで分析した。全エリア面積に占めるNTXのエリア面積の割合(%)を純度として算出した。(6)核酸含量試験 本法では高度精製NTX溶液に含まれる核酸の濃度を調べる。CyQUANT Cell Proliferation Assay Kit(Molecular Probes)を用いた。(7)エンドトキシン試験 本法では高度精製NTX溶液に含まれるエンドトキシンの濃度を調べる。日本薬局方15改正 エンドトキシン試験に準じて試験した。《比較例1:従来技術によるA2型M毒素の分離・精製》 A2型ボツリヌス菌Chiba-H株を阪口らの方法(Biochemical aspects of botulism: Purification and oral toxicities of Clostridium botulinum progenitor toxins.,21-34,Lewis GE.,1981, Academic Press,New York)で培養した。96時間後の培養液30 LにpH3.5になるまで3 N硫酸を添加し、室温で一晩静置した。沈殿物を0.2 mol/Lリン酸緩衝液、pH6.0に溶解し、37℃で1時間抽出処理した。抽出液に硫酸アンモニウムを添加し、4℃で一晩静置した。遠心分離により回収した沈殿を50 mmol/L酢酸緩衝液、pH4.2で溶解した。溶解液を透析チューブに入れ、前記緩衝液に4℃で2日間透析した。遠心分離により回収した沈殿を0.5 mol/L塩化ナトリウムを含む50 mmol/L酢酸緩衝液、pH4.2で溶解した。この溶解液に等量の0.5 mol/L塩化ナトリウムを含む50 mmol/Lクエン酸緩衝液、pH4.2を加えた後、プロタミン処理した。遠心分離により沈殿(核酸)を除去した上清を、予め0.2 mol/Lを含む50 mmol/L酢酸緩衝液、pH4.2で平衡化したSP Sepharose Fast Flowへ展開し吸着させた。前記緩衝液で洗浄後、0.7 mol/L塩化ナトリウムを含む同じ酢酸緩衝液でリニアグラジエントにより溶出した。溶出画分の第一ピークを分画し、回収した溶液を撹拌式限外ろ過装置(アミコン、YM-30)で濃縮した。この濃縮液を予め0.2 mol/L塩化ナトリウムを含む50 mmol/L酢酸バッファー、pH6.0で平衡化したSephadex G-200へ展開した。溶出第二ピークを分画し、A2型M毒素を回収した。回収したA2型M毒素溶液を撹拌式限外ろ過装置(アミコン、YM-30)で濃縮した。《比較例2:従来技術によるA2型NTXの分離・精製》比較例1にて濃縮したA2型M毒素溶液を透析チューブに入れ、10 mmol/Lリン酸緩衝液、pH7.5で4℃、一晩透析した。透析後液を予め10 mmol/Lリン酸緩衝液、pH7.5で平衡化したDEAE Sepharose Fast Flowに展開し吸着させた。前記緩衝液で洗浄後、0.3 mol/L塩化ナトリウムを含む同じ酢酸緩衝液でリニアグラジエントにより溶出した。溶出画分の第一ピークを分画し、回収した溶液を撹拌式限外ろ過装置(アミコン、YM-10)で濃縮した後、10 mmol/Lリン酸緩衝液、pH7.5でバッファー交換した。これを高度精製A2型NTX溶液とした。培養液から高度精製A2型NTX溶液を精製するまでの製造期間は7日間であった。本試験より得られた結果を表2に示す。《実施例1:0.2 μmフィルターによるボツリヌス菌培養液の除菌ろ過》 A2型ボツリヌス菌培養液30 Lを6,700×g、4℃、20分間で遠心分離し、遠心上清を回収した。この培養上清液をタンジェンシャルフロー式ろ過装置(ザルトリウス)を用いて膜孔径0.2 μmのハイドロザルト(ザルトリウス)で除菌ろ過した。ろ過処理量は、25 L/m2/hrであった。《実施例2:粗ろ過及び除菌ろ過に関する検討》 除菌ろ過の処理量を高めることを目的として、事前に比較的膜孔径の大きい膜でろ過する粗ろ過工程の導入について検討した。粗ろ過用膜として、ゼータプラス(CUN0)及びゼータカーボンR53SLP(CUNO)を使用した。ゼータプラスではろ過精度の異なる4種類の膜を使用した。ろ過精度は90LA、60LA、30LA及び05SPの順で高い。また、除菌ろ過用膜として、0.65 μmザルトクリーンCA(ザルトリウス)及び0.2 μmザルトポア2(ザルトリウス)を連結したフィルターを使用した。A2型ボツリヌス菌Chiba-H株の培養液30 Lを各粗ろ過用膜及び除菌濾過用膜で定圧ろ過(0.03 MPa)し、ろ過量を調べた。本試験で得られた結果を表1に示す。粗ろ過フィルターを導入することで、0.2 μmフィルターによる除菌ろ過の処理量は、実施例1(25 L/m2/hr)に比べて40倍になった。《実施例3:本発明によるA2型M毒素の分離・精製》 A2型ボツリヌス菌Chiba-H株をSiegel, L.S.ら(Appl.Microbiol.Vol.38, No.4:606-611.,1979)の方法を一部改変して培養した。48時間後の培養液 30 Lをゼータプラスフィルター(05SP)とゼータプラスフィルターマキシマイザー(30LA+60LA)を連結したフィルターで0.03 MPaの圧力で粗ろ過した。このろ過液を0.65 μmザルトクリーンCA及び0.2 μmザルトポア2を連結したフィルターで0.03 MPaの圧力で除菌ろ過した。ろ過後に0.2 μmフィルターが完全性試験に適合することを確認した。ボツリヌス菌体を除去したろ過液をタンジェンシャルフロー式限外ろ過装置(ザルトリウス、30 KDa)で濃縮した後、0.1 mol/L塩化ナトリウムを含む20 mmol/Lクエン酸・リン酸混合緩衝液、pH6.0でバッファー交換した。この濃縮液を、予め0.1 mol/L塩化ナトリウムを含む20 mmol/Lクエン酸・リン酸混合緩衝液、pH6.0で平衡化したQ Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア)に展開し、さらに使用したカラムクロマトグラフィーのゲル量(CV)の約7倍量(7CV)の前記緩衝液で洗浄し、非吸着画分を集めた。本工程で核酸を効果的に除去すると同時に粗精製を達成することができた。集めた非吸着画分をタンジェンシャルフロー式限外ろ過装置(ザルトリウス、30 KDa)で濃縮した後、0.2 mol/L塩化ナトリウムを含む50 mmol/L酢酸緩衝液、pH4.2でバッファー交換した。この濃縮液を、予め0.2 mol/L塩化ナトリウムを含む50 mmol/L酢酸緩衝液、pH4.2で平衡化したSP Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア)に展開し吸着させた。次に、約10CVの前記緩衝液で洗浄後、0.7 mol/L塩化ナトリウムを含む同じ酢酸緩衝液でリニアグラジエントにより溶出した。溶出画分の第一ピークを分画し、A2型M毒素を回収した。回収したA2型M毒素溶液をタンジェンシャルフロー式限外ろ過装置(ザルトリウス、30 KDa)で濃縮した後、0.2 mol/L塩化ナトリウムを含む50 mmol/L酢酸緩衝液、pH6.0でバッファー交換した。得られたA2型M毒素溶液をSDS-PAGE試験した結果、M毒素以外のバンドを認めなかった。《実施例4:本発明によるA2型NTXの分離・精製》 更に、実施例3にて回収したA2型M毒素溶液をタンジェンシャルフロー式限外ろ過装置(ザルトリウス、30 KDa)で濃縮した後、10 mmol/Lリン酸緩衝液、pH7.5でバッファー交換した。この濃縮液を、予め10 mmol/Lリン酸緩衝液、pH7.5で平衡化したDEAE Sepharose Fast Flow(GEヘルスケア)に展開し、吸着させた。次に、約10CVの前記緩衝液で洗浄後、0.3 mol/L塩化ナトリウムを含む同じリン酸緩衝液でリニアグラジエントにより溶出した。溶出液の第一ピークを分画し、回収した。これを高度精製A2型NTX溶液とした。培養液から高度精製A2型NTX溶液を精製するまでの製造期間は3日間であった。本試験で得られた結果を表2に示す。その結果、従来技術と比較して、極めて少ない工程数で高純度・高比活性のNTXを大量調製できることが示された。作業者による沈殿物の回収作業を排除したことから、製造ラインを完全自動化設備及びインライン化設備の提供が可能であることが示された。作業者が高濃度のボツリヌス菌またはボツリヌス毒素に曝露する機会を排除・低減したことにより、作業者の労働安全性を著しく向上できること及びGMP準拠及び無菌性確保を向上できることが期待された。さらに、従来技術に比べて製造期間を著しく短縮し、効率的に工業規模で高度精製NTXを製造することが可能であることが示された。《実施例5:本発明によるA1型M毒素の分離・精製》 A1型ボツリヌス菌Hall株をSiegel, L.S.ら(Appl.Microbiol.Vol.38, No.4:606-611.,1979)の方法を一部改変して培養した。48時間後の培養液30 Lを実施例3と同様の方法で菌体除去、濃縮、バッファー交換、Q Sepharose Fast Flowクロマトグラフィー、SP Sepharose Fast Flowクロマトグラフィーの順で実施した。SP Sepharose Fast Flowクロマトグラフィーでは、溶出画分の第三ピークを分画し、A1型M毒素を回収した。回収したA1型M毒素溶液をタンジェンシャルフロー式限外ろ過装置(ザルトリウス、30 KDa)で濃縮した後、0.2 mol/L塩化ナトリウムを含む50 mmol/L酢酸緩衝液、pH6.0でバッファー交換した。得られたA1型M毒素をSDS-PAGE試験した結果、M毒素以外のバンドを認めなかった。《実施例6:本発明によるA1型NTXの分離・精製》 更に、実施例5にて回収したA1型M毒素溶液をタンジェンシャルフロー式限外ろ過装置(ザルトリウス、30 KDa)で濃縮した後、0.2 mol/L塩化ナトリウムを含む50mmol/L酢酸緩衝液、pH6.0でバッファー交換した。この濃縮液を予め0.2 mol/L塩化ナトリウムを含む50 mmol/L酢酸緩衝液、pH6.0で平衡化したSephacryl S-300 High Resolution(GEヘルスケア)へ展開し、ゲルろ過した。溶出された第一ピークを分画し回収した。以降の操作は、実施例4と同様に、濃縮、pH7.5緩衝液でのバッファー交換、DEAE Sepharose Fast Flowクロマトグラフィーの順で実施することにより、高度精製A1型NTX溶液を得た。培養液から高度精製A1型NTX溶液を精製するまでの製造期間は4日間であった。本試験で得られた結果を表2に示す。その結果、本発明により、高度精製A2型NTXと同様に高純度・高比活性のA1型NTXを精製することが可能であることが示された。このことから、本発明によれば、ボツリヌス毒素複合体の構成成分(LL毒素/L毒素/M毒素)が異なる菌株(B型〜G型)からでもNTXを高純度・高比活性で精製できることが期待できる。《実施例7:本発明によるA1型LL及びL毒素の分離・精製》 実施例5でのSP Sepharose Fast Flowクロマトグラフィーにおいて、溶出画分の第二ピークを分画し、LL毒素及びL毒素を回収した。回収したLL毒素及びL毒素混合溶液をタンジェンシャルフロー式限外ろ過装置(ザルトリウス、30 KDa)で濃縮した後、0.2 mol/L塩化ナトリウムを含む50 mmol/L酢酸緩衝液、pH6.0でバッファー交換した。得られたLL毒素及びL毒素混合溶液をSDS-PAGE試験した結果、LL毒素及びL毒素以外のバンドを認めなかった。《実施例8:高度精製A2型NTXの安定性の比較》 従来技術(比較例2)及び本発明(実施例4)で調製した高度精製A2型NTX溶液の23℃における安定性を比較した。活性残存率の結果を図1に示した。その結果、本発明で調製した高度精製A2型NTXは、従来技術で調製した毒素に比べて毒素活性の低下はなかった。また、SDS-PAGE試験においても本発明で調製した高度精製A2型NTXに分解物は認められなかった。この結果は、本発明で調製した高度精製A2型NTXは従来技術で調製した毒素に比べて安定性が高いことを示すものであった。 本発明によれば、従来技術と比較して、沈殿法・遠心分離を行わずに膜ろ過法とクロマトグラフィー法を組み合わせることによりボツリヌス菌培養液から極めて簡便に、短期間にかつ効果的に安定性の高いボツリヌス毒素を大量調製することが可能となった。また、沈殿法・遠心分離における沈殿物の回収作業を排除したことで、製造ラインの完全自動化設備・インライン化設備の提供が可能となった。さらに、作業員の介在がなくなるともに、毒素溶液が環境に曝露されることがないため、作業者の労働安全衛生環境及びGMP準拠並びに無菌性確保を向上することを可能にした。膜ろ過法と陰イオン交換クロマトグラフィーと陽イオン交換クロマトグラフィーを組み合わせることを特徴とするボツリヌス毒素の精製方法。以下の工程を含む、請求項1に記載の精製方法。(a) 膜ろ過法により、ボツリヌス菌培養液からボツリヌス菌体を除去する工程、(b) 前記(a)工程においてボツリヌス菌体が除去されたボツリヌス毒素溶液を陰イオン交換クロマトグラフィーカラムに展開する工程、(c) ボツリヌス毒素成分がカラムに吸着するような条件下で、前記(b)工程において得られる陰イオン交換クロマトグラフィーカラムの回収画分を陽イオン交換クロマトグラフィーカラムに展開する工程、及び(d) 前記陽イオン交換クロマトグラフィーから不純物を洗い流し、次いでボツリヌス毒素を溶出する工程。前記膜ろ過法が、精密膜ろ過法である請求項1または2に記載の精製方法。前記精密膜ろ過法に用いる膜の孔径が0.22μm以下である請求項3に記載の精製方法。前記膜ろ過法において、前記精密膜ろ過を行う前に、前記精密膜ろ過に用いる膜よりも大きな孔径を有する膜で粗膜ろ過を行う工程をさらに含む請求項2に記載の精製方法。前記陰イオン交換クロマトグラフィーカラム内の緩衝液のpHが4.5から6.8である、請求項1または2に記載の精製方法。前記陰イオン交換クロマトグラフィーカラム内の緩衝液の塩濃度が0から0.3 mol/Lである、請求項1または2に記載の精製方法。前記陰イオン交換クロマトグラフィーにおいて、ボツリヌス毒素成分をカラムに吸着させる場合、当該カラムに吸着したボツリヌス毒素を塩濃度が0から2.0 mol/Lの勾配で溶出する、請求項1または2に記載の精製方法。前記(b)工程を行う前に、前記(a)工程においてボツリヌス菌体が除去されたボツリヌス毒素溶液を、当該陰イオン交換クロマトグラフィーの塩濃度及びpHの条件に調整する工程をさらに含む請求項2に記載の精製方法。前記陽イオン交換クロマトグラフィーカラム内の緩衝液のpHが4.0から4.5である、請求項1または2に記載の精製方法。前記陽イオン交換クロマトグラフィーカラム内の緩衝液の塩濃度が0から0.2 mol/Lである、請求項1または2に記載の精製方法。前記(c)工程を行う前に、前記(b)工程において得られる陰イオン交換クロマトグラフィーカラムの回収画分を、当該陽イオン交換クロマトグラフィーの塩濃度及びpHの条件に調整する工程をさらに含む請求項2に記載の精製方法。前記(d)工程において、陽イオン交換クロマトグラフィーに吸着したボツリヌス毒素を塩濃度が0.2から0.7 mol/Lの勾配で溶出する、請求項1または2に記載の精製方法。(d)工程で溶出されるボツリヌス毒素がLL毒素、L毒素またはM毒素である請求項2に記載の精製方法。前記(a)〜(d)の工程の後にさらに以下の工程を含む、請求項1または2に記載のボツリヌス毒素の精製方法。(e) ボツリヌス毒素成分がカラムに吸着し、かつ、ボツリヌス神経毒素(NTX)と無毒非HAタンパク質(NTNH)が解離するような条件下で、前記(d)工程で得られた陽イオン交換クロマトグラフィーの溶出画分を、第二陰イオン交換クロマトグラフィーカラムに展開する工程、及び(f) 前記第二陰イオン交換クロマトグラフィーから不純物を洗い流し、次いでボツリヌス神経毒素(NTX)を溶出する工程。前記第二陰イオン交換クロマトグラフィーカラム内の緩衝液のpHが6.8から8.0である、請求項1、2または15のいずれかに記載の精製方法。前記第二陰イオン交換クロマトグラフィーカラム内の緩衝液の塩濃度が0から0.1 mol/Lである、請求項1、2または15のいずれかに記載の精製方法。前記(f)工程において、第二陰イオン交換クロマトグラフィーに吸着したNTXを塩濃度が0から0.3mol/Lの勾配で溶出する、請求項1、2または15のいずれかに記載の精製方法。前記(e)工程を行う前に、前記(d)工程において得られる陽イオン交換クロマトグラフィーの溶出画分を、当該第二陰イオン交換クロマトグラフィーの塩濃度及びpHの条件に調整する工程をさらに含む請求項15に記載の精製方法。当該ボツリヌス毒素がA型、B型、C型、D型、E型、F型及びG型ボツリヌス菌由来のボツリヌス毒素である請求項1から19のいずれかに記載の精製方法。請求項1から20のいずれかに記載の精製方法により精製されたボツリヌス毒素。当該ボツリヌス毒素が、LL毒素、L毒素、M毒素、またはNTXのいずれかである請求項21に記載のボツリヌス毒素。請求項21または22に記載のボツリヌス毒素を有効成分として含有する薬剤。 【課題】 沈殿・遠心工程を要さない、工業レベルの精製に適したより簡便なボツリヌス毒素の精製方法を提供する。【解決手段】 膜ろ過法と陰イオン交換クロマトグラフィー法と陽イオン交換クロマトグラフィー法を組み合わせたことを特徴とするボツリヌス毒素の精製方法。本発明の精製方法によれば、ボツリヌス菌培養液から極めて簡便に、短期間にかつ効果的に安定性の高いボツリヌス毒素を大量調製することが可能となる。また、沈殿法・遠心分離における沈殿物の回収作業を排除したことで、製造ラインの完全自動化設備・インライン化設備の提供が可能となる。さらに、作業員の介在がなくなるともに、毒素溶液が環境に曝露されることがないため、作業者の労働安全衛生環境及びGMP準拠並びに無菌性確保を向上することが可能となる。【選択図】 なし


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