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タイトル:公開特許公報(A)_生乾き臭判定用指標物質
出願番号:2009226617
年次:2011
IPC分類:G01N 33/36


特許情報キャッシュ

竹内 浩平 長谷川 義博 JP 2011075385 公開特許公報(A) 20110414 2009226617 20090930 生乾き臭判定用指標物質 花王株式会社 000000918 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 有賀 三幸 100068700 高野 登志雄 100077562 中嶋 俊夫 100096736 村田 正樹 100117156 山本 博人 100111028 竹内 浩平 長谷川 義博 G01N 33/36 20060101AFI20110318BHJP JPG01N33/36 A 6 OL 16 本発明は、部屋干し等によって衣類等の繊維製品から発生する生乾き臭の判定に用いる指標物質、及び、それを用いた生乾き臭の評価方法、並びに擬似生乾き臭組成物に関する。 衣類、タオル、寝具等の繊維製品から生じる「生乾き臭」とは、これら繊維製品を洗濯後に乾燥させたとき、特に、梅雨時における乾燥、又は閉め切った室内での乾燥等、洗濯後の繊維製品を、その乾燥が不十分な状態で長時間放置したときに発生しやすい不快なニオイである。近年、共働き家庭の増加や家屋の高気密化等、ライフスタイルの変化から、繊維製品の生乾き臭は発生しやすい環境になってきていると考えられる。 従来、繊維製品の生乾き臭の判定方法及び生乾き臭の発生を防止する繊維製品用処理剤の有効性評価としては、実際に衣類のニオイを嗅いで判断する官能評価試験に依存していた。 この生乾き臭(部屋干し臭)は、中鎖アルデヒド、中鎖アルコール、ケトンなどの「黴様のニオイ」、短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸などの「酸っぱいニオイ」、窒素化合物などの「生臭いニオイ」及び硫黄化合物から構成される複合臭であり、特に中鎖脂肪酸の寄与度が大きいことが報告されている(非特許文献1)。埴原,園田,「部屋干し臭を抑制する洗剤について」,香料,平成16年9月,No.223,p.109-116 非特許文献1では、生乾き臭のキー成分を「炭素数7〜9の分岐・不飽和を含む脂肪酸の混合物」であると推定し、これらは汗等の臭気にも含まれるものとしている。すなわち、非特許文献1では、生乾き臭特有の成分の存在については、何ら示唆していない。 また、前述したような実際に衣類のニオイを嗅いで判断する官能評価試験では、評価者の主観的判断が入る余地が大きいため定量的判定が難しく、かつ、客観性に欠けるという問題があった。 本発明の課題は、生乾き臭を客観的かつ定量的に判定することを可能とする指標物質、及びこれを用いた生乾き臭判定方法、並びに生乾き臭マスキング効果等の評価に適した擬似生乾き臭組成物を提供することにある。 本発明者らは、強い生乾き臭を有する衣類の原因成分について研究を行ったところ、特定構造の3種のメチルヘキセン酸が、生乾き臭に対する寄与度が非常に大きく、かつ定量し得る濃度で衣類中に存在することを見出し、かつこれらの化合物に構造の近い一群の化合物が、生乾き臭の程度を定量的に判定する客観的な指標として利用できることを見出した。 本発明は、一般式(1)で表されるカルボン酸及び当該カルボン酸のカルボキシ基に原子又は原子団を導入してなるカルボン酸誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する生乾き臭判定用指標物質を提供するものである。〔式中、R1及びR2はそれぞれ水素原子又はメチル基を示し、破線は二重結合であってもよいことを示し、そのうち少なくとも1箇所は二重結合である。〕 また本発明は、上記カルボン酸又はその誘導体を指標とする生乾き臭判定方法を提供するものである。 また本発明は、前記カルボン酸を含有する擬似生乾き臭組成物を提供するものである。 更に本発明は、前記の指標物質を用いる繊維製品用処理剤の生乾き臭に対する有効性判定方法を提供するものである。 一般式(1)で表されるカルボン酸(以下、カルボン酸(1)と称する)は、生乾きの繊維製品のニオイに極めて近い臭気を有しており、生乾き臭判定用指標物質として有用である。従って、当該化合物の存在量を基にして、生乾き臭の強さを客観的かつ定量的に評価することができる。生乾き臭を発するジーンズから得られたニオイ濃縮物についてのガスクロマトグラフィー−質量分析結果を示す図である。官能強度と4-メチル-3-ヘキセン酸の検出量の関係を示す図である。●生乾き臭判定用指標物質〔カルボン酸(1)〕 本発明の生乾き臭判定用指標物質は、カルボン酸(1)及びそのカルボキシ基に原子又は原子団を導入してなるカルボン酸誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。 本発明者らが見出した生乾き臭の原因物質は、カルボン酸(1)に包含される化合物のうち、下記式(1a)で表される5-メチル-2-ヘキセン酸、下記式(1b)で表される5-メチル-4-ヘキセン酸、及び下記式(1c1)又は(1c2)で表される4-メチル-3-ヘキセン酸であり、いずれも生乾き臭に極めて近いニオイを持つ。 5-メチル-2-ヘキセン酸(1a)は、タバコに含まれる化合物として知られており〔Phytochemistry, 12(4), 835-47 (1973)〕、5-メチル-4-ヘキセン酸(1b)は、医薬品の中間体等として用いられている化合物である〔Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters , 15(23), 5284-5287, (2005)〕。また、4-メチル-3-ヘキセン酸(1c1)及び(1c2)は、ホップの香気成分から検出されている〔Journal of agricultural and food chemistry, 26(6), 1426-1430, (1978)〕。しかし、いずれも、生乾き臭の構成成分として報告されたことはない。 5-メチル-2-ヘキセン酸(1a)、5-メチル-4-ヘキセン酸(1b)、4-メチル-3-ヘキセン酸(1c1)又は(1c2)はいずれも、従来生乾き臭の原因物質として知られていたイソ吉草酸とニオイの質は異なるが、遜色ない、又はそれ以上に生乾き臭に近いニオイを有している。また、5-メチル-2-ヘキセン酸(1a)、5-メチル-4-ヘキセン酸(1b)、4-メチル-3-ヘキセン酸(1c1)又は(1c2)はニオイの強さの点でもイソ吉草酸と遜色ない、又はそれ以上の強度を有している。 特に4-メチル-3-ヘキセン酸(1c1)及び(1c2)は、極めて少量でも強いニオイを放ち、10gの布地中に1ng含まれれば生乾き臭を感じ、10gの布地中に1μg含まれれば誰もが生乾き臭を感じる程、強いニオイを有している。更にニオイの質も他の化合物に比べ、実際の生乾き臭に極めて近い。なお、4-メチル-3-ヘキセン酸は、式(1c1)のシス体でも式(1c2)のトランス体でも同様のニオイを有する。以下、シス体、トランス体を区別せず4-メチル-3-ヘキセン酸として扱う。 5-メチル-2-ヘキセン酸、5-メチル-4-ヘキセン酸、4-メチル-3-ヘキセン酸は、以下のような特徴を有することから、生乾き臭を有する衣類における存在量と存在状態が、生乾き臭の程度を示すものと考えられる。(イ)5-メチル-2-ヘキセン酸、5-メチル-4-ヘキセン酸、4-メチル-3-ヘキセン酸のいずれも検出されない衣類は、生乾き臭を発生しておらず、衣類から5-メチル-2-ヘキセン酸、5-メチル-4-ヘキセン酸、4-メチル-3-ヘキセン酸のいずれか1以上の化合物が検出される衣類は、生乾き臭が明らかに発生している。すなわち、以上の3化合物は、生乾き臭に特異的に存在するものである。(ロ)衣類に含まれる5-メチル-2-ヘキセン酸、5-メチル-4-ヘキセン酸及び4-メチル-3-ヘキセン酸の量が多い衣類ほど、生乾き臭が強い。 以上のことから、カルボン酸(1)の中でも、5-メチル-2-ヘキセン酸、5-メチル-4-ヘキセン酸、及び4-メチル-3-ヘキセン酸は、生乾き臭判定用指標物質として特に好適である。 これらのカルボン酸(1)を指標物質として使用する場合、単体であっても、複数のカルボン酸からなる混合物であってもよい。また、その純度は高いほど好ましいが、臭気に影響を与えない限り夾雑物を含んでいてもよい。〔カルボン酸(1)の合成方法〕 カルボン酸(1)は、公知の方法で合成可能であり、一定品質の合成品を安定供給することで、時と場所を選ばずに生乾き臭を客観的に評価、判定できる点でも、指標物質として適している。 例えば、カルボン酸(1)のうち、5-メチル-2-ヘキセン酸に代表される2-エン型化合物は、下記反応式A(R1及びR2は前記に同じ)に示すようにHorner-Wadsworth-Emmons反応により合成することができる〔D. J. Schauer, P, Helquist; Synthesis, 21, 3654-3660, (2006)〕。 また、カルボン酸(1)のうち、5-メチル-4-ヘキセン酸に代表される4-エン型化合物は、反応式B(R1及びR2は前記に同じ)に示すようにジョンソン−クライゼン転位により合成することができる〔S. Menon, D. Sinha-Mahapatra, and J. W. Herndon; Tetrahedron, 63, 8788-8793 (2007)〕。 また、4-メチル-3-ヘキセン酸は、反応式Cに示すように2-メチルブチルアルデヒドとマロン酸の反応により合成することができる。〔カルボン酸(1)の誘導体〕 カルボン酸(1)は、指標化合物としての検出機能を失わない限り、化学的修飾を施して、すなわちカルボキシ基に原子又は原子団を導入して用いてもよい。例えば、機器分析における分析感度を向上させるために、カルボキシ基をアシル化、エステル化、トリメチルシリル化、アミド化、カルボン酸塩化したり、指標物質を目視化できるようにするために、カルボキシ基に発色団を導入したりすることもできる。 誘導体化試薬としては、O-(p-ニトロベンジル)-N,N'-ジイソプロピルイソウレア(PNBDI)や、p-ブロモフェナシルブロミド(PBPB)などのUV試薬、4-ブロモメチル-7-メトキシクマリン(Br-MmC)などの蛍光試薬、N-トリメチルシリルイミダゾール(TMSI)やN,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド(BSA)などのシリル化剤、無水トリフルオロ酢酸やトリフルオロアセチルイミダゾールなどのアシル化剤などを用いることができる。 また、カルボン酸(1)の標識化合物として、可視領域の発色団を用いる場合には、標識化合物の濃度−発色標準サンプルを調製し、サンプルから採取したニオイ抽出物を同じ試薬で発色させたものと比較して、目視で生乾き臭の程度を判断することも可能である。 呈色反応を利用してカルボン酸(1)の有無や存在量を判定する方法としては、 i)カルボン酸(1)のカルボキシ基に直接発色団を導入する方法 ii)カルボン酸(1)を誘導体に変換した後、誘導体に発色団を導入する方法 iii)カルボン酸(1)を分解した後、分解物に発色団を導入する方法等が挙げられる。 i)のカルボン酸(1)のカルボキシ基に直接発色団を導入する方法に用いられる呈色試薬としては、カルボン酸を縮合剤の存在下、発色性の酸ヒドラジドに導いて呈色させる試薬、カルボン酸を発色性のエステルに導いて呈色させる試薬、カルボン酸を発色性のアミドに導いて呈色させる試薬等がある。 カルボン酸を発色性の酸ヒドラジドに導いて呈色させる試薬としては、2-ニトロフェニルヒドラジン、6,7-ジメトキシ-1-メチル-2(1H)-キノキサリノン-3-プロピオニルカルボン酸ヒドラジド(DMEQ-H)、p-(4,5-ジフェニル-1H-イミダゾール-2-イル)-ベンゾヒドラジド、p-(1-メチル-1H-フェナントロ-[9,10-イミダゾール-2-イル)-ベンゾヒドラジド、p-(5,6-ジメトキシ-2-ベンゾチアゾイル)-ベンゾヒドラジド等が挙げられる。 カルボン酸を発色性のエステルに導いて呈色させる試薬としては、9-アンスリルジアゾメタン、1-ナフチルジアゾメタン、1-(2-ナフチル)ジアゾエタン、1-ピレニルジアゾメタン、4-ジアゾメチル-7-メトキシクマリン、4-ブロモメチル-7-メトキシクマリン、3-ブロモメチル-6,7-ジメトキシ-1-メチル-2(1H)-キノキザリノン、9-ブロモメチルアクリジン、4-ブロモメチル-6,7-メチレンジオキシクマリン、N-(9-アクリジニル)-ブロモアセトアミド、2-(2,3-ナフチルイミノ)エチルトリフルオロメタンスルホネート、2-(フタルイミノ)エチルトリフルオロメタンスルホネート、N-クロロメチルフタルイミド、N-クロロメチル-4-ニトロフタルイミド、N-クロロメチルイサチン、O-(p-ニトロベンジル)-N,N'-ジイソプロピルイソウレア等が挙げられる。 カルボン酸を発色性のアミドに導いて呈色させる試薬としては、モノダンシルカダベリン、2-(p-アミノメチルフェニル)-N,N'-ジメチル-2H-ベンゾトリアゾール-5-アミン等が挙げられる。 ii)のカルボン酸を誘導体に変換した後、誘導体に発色団を導入する方法において、呈色反応に利用できるカルボン酸の誘導体としては、無機塩、酸クロライド等が挙げられる。 カルボン酸の無機塩は芳香族ハロゲンと反応させて発色性のエステルに、酸クロライドは発色性のアミドに、それぞれ誘導することができる。 カルボン酸を無機塩に変換する方法としては、カルボン酸を炭酸水素ナトリウム溶液、炭酸ナトリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液等のアルカリ性物質と混合して中和する方法が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸の無機塩と反応し、発色性のエステルに誘導できる芳香族ハロゲンとしては、p-ニトロベンジルブロミド、フェナシルブロミド、p-クロロフェナシルブロミド、p-ブロモフェナシルブロミド、p-ヨードフェナシルブロミド、p-ニトロフェナシルブロミド、p-フェニルフェナシルブロミド、p-フェニルアゾフェナシルブロミド、N,N'-ジメチル-p-アミノベンゼンアゾフェナシルクロライド等が挙げられる。 カルボン酸を酸クロライドに変換する方法としては、カルボン酸をオキザリルクロライドと反応させる方法等が挙げられる。酸クロライドを発色性のアミドに導く方法としては、トリエチルアミンの存在下、9-アミノフェナントレンと反応させる方法等が挙げられる。 iii)のカルボン酸を分解した後、その分解物に対して発色団を導入する方法としては、カルボン酸にアデノシン三リン酸(ATP)と補酵素CoAの存在のもとで、アシル-CoAシンテターゼを作用させて、アシル-CoAを生成せしめ、次にアシル-CoAオキシダーゼで処理して、エノイル-CoAと過酸化水素を生成せしめ、更に過酸化水素をカタラーゼで処理してホルムアルデヒドにし、これに呈色試薬である4-アミノ-3-ヒドラジノ-5-メルカプト-1,2,3-トリアゾール(AHMT)を反応させて、生じる紫色を比色する方法が挙げられる。 このように、本発明において、カルボン酸の呈色反応に用いられる試薬は、カルボン酸、カルボン酸誘導体、カルボン酸分解物のいずれかと反応して発色するものであれば特に限定されない。 カルボン酸(1)を呈色化する生乾き臭判定試薬は、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の高価な分析機器を用いることなく、生乾きのニオイの程度を確実で迅速かつ簡単に判定することが可能であるので、特別な分析機器が無い環境において判定する場合に利用することができる。●生乾き臭判定方法 本願発明によればこれらの指標物質を用いて生乾き臭の程度について定量的に判定することが可能となる。 カルボン酸(1)又はその誘導体を生乾き臭判定用指標物質として使用する方法は特に制限されず、公知の様々な評価方式に適合させて用いればよい。 例えば、生乾き臭を有する衣類に含まれるカルボン酸(1)の含有量をGC-MSで測定する場合には、カルボン酸(1)又はその誘導体を標準物質(スタンダード)として用い、検量線を作成する。この検量線を使用して、採取した衣類に含まれるカルボン酸(1)のピークを同定し、その量を測定すればよい。 また、官能評価を行う場合には、カルボン酸(1)を数段階に希釈し、各濃度のニオイ標準サンプルを調製する。そして、生乾き臭を有する衣類から調製した評価サンプルのニオイを標準サンプルと照合し、衣類に含まれるカルボン酸(1)の量を官能評価により判定すればよい。 また、衣類においてカルボン酸(1)の生成量が多いにもかかわらず、それが塩等のニオイが無い又は弱い誘導体に変化している場合には、生乾き臭の潜在状態が存在していることになるが、このような場合に官能評価を行っても、生乾き臭の潜在状態を正確に評価できない場合もある。これに対して、本発明では、必要な化学処理によって分析可能なカルボン酸(1)あるいはそれらの誘導体を測定することによって、評価サンプルが生乾き臭を発生させる可能性のあるサンプルかどうか、すなわち、ポテンシャル評価を行うことができる。 本発明の指標物質は、前述したように化学分析、機器分析又は官能評価等のいずれにも利用され客観性の高い定量的判定が可能となるが、特に、化学分析や機器分析等により、測定値をカルボン酸(1)の存在量で表現することで、判定結果から主観性を排除することが可能である。 更に本発明においては、生乾き臭をターゲットとする繊維製品用処理剤の有効性を、カルボン酸(1)又はその誘導体を含有する指標物質を用い、客観的かつ定量的に判定することができる。 繊維製品用処理剤の有効性を判定する方法においては、前記指標物質を単体として使用してもよく、他の成分、例えば溶解又は希釈のための溶剤や、安定剤、抗菌剤、抗菌剤、界面活性剤、酸化防止剤、香料、植物抽出物等の添加剤を配合し、保存や判定試験での使用等の実用に即した組成物に調製して用いてもよい。 生乾き臭をターゲットとする繊維製品用処理剤は、衣類に付着した菌を殺菌して、衣類に残存した汗、皮脂などの分解を予防するタイプ、ニオイ成分をにおわない誘導体に分解又は変化させるタイプ、或いは、ニオイをマスキングするタイプ等の如何なるタイプの作用機序であってもよい。カルボン酸(1)又はその誘導体を繊維製品用処理剤の有効性判定用指標物質として使用する方法は特に制限されず、繊維製品用処理剤の作用機序及び評価方式に適合させて用いればよい。 例えば、有効成分としてカルボン酸(1)又はその誘導体、好ましくは5-メチル-2-ヘキセン酸、5-メチル-4-ヘキセン酸、4-メチル-3-ヘキセン酸又はそれらの誘導体を所定濃度で含有する指標物質を衣類等の繊維に付着させ、所定量の繊維製品用処理剤サンプルを添加し、指標物質の変化状態を適切な方法で定量することで、繊維製品用処理剤サンプルの有効性を客観的かつ定量的に判定できる。 指標物質の変化状態を定量する方法としては、繊維製品用処理剤サンプルがカルボン酸(1)を分解又は別の化合物に誘導して、ニオイを減じるタイプである場合には、指標物質の検量線を予め作成しておき、この検量線を用いて機器分析を行ってもよいし、指標物質の変化体又は未変化体を滴定又は抽出等の化学分析により定量してもよい。繊維製品用処理剤サンプルが生乾き臭をマスキングするタイプである場合には、指標物質を数段階に希釈して各濃度のニオイ標準サンプルを調製し、繊維製品用処理剤サンプルを添加した指標物質のニオイを標準サンプルと照合し、マスキング効果を官能評価により判定すればよい。●擬似生乾き臭組成物 更に本発明は、カルボン酸(1)を含有し、生乾き臭の消臭やマスキング効果の評価に使用できる擬似生乾き臭組成物を提供するものである。この擬似生乾き臭組成物を使用することにより、消臭基剤のスクリーニングや、消臭剤組成物の生乾き臭の消臭効果を正確にかつ再現性よく評価することができる。 官能評価などにおける生乾き臭判定のためにこのカルボン酸(1)を用いる場合には、既知の生乾き臭構成成分を適当な比率で混合させて、更に実場面に近い生乾き臭を再現し、擬似生乾き臭組成物として用いることも可能である。 すなわち、本発明の擬似生乾き臭組成物は、様々なニオイを含む複合臭である生乾き臭をより正確に再現する点からカルボン酸(1)を成分(A)として含有し、これに以下に示される成分(B)、(C)、(D)の化合物を適宜含有させることが好ましい。 成分(B)は、炭素鎖数2〜5の低級脂肪酸であり、これらの化合物を組成物に加えることは、複合臭たる生乾き臭のうち汗様の酸っぱいニオイを再現する点で好ましい。成分(B)としては、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、イソ吉草酸が挙げられ、特にイソ吉草酸が好ましい。これらは、いずれかを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。 本発明において、成分(A)に対する成分(B)の割合(質量比)は、(B)/(A)が0.01から10000の範囲が好ましく、更に好ましくは(B)/(A)が0.1から1000の範囲、特に好ましくは(B)/(A)が1〜100の範囲である。 成分(C)は、炭素鎖6〜14の飽和及び不飽和直鎖アルデヒドであり、これらの化合物を組成物に加えることは、複合臭たる生乾き臭のうち繊維製品独特のほこりっぽさや着古した古着様の青臭いニオイを再現する点で好ましい。成分(C)としては、例えばヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、トリデカナール、テトラデカナール、2-へキセナール、2-ヘプテナール、2-オクテナール、2-ノネナール、2-デセナール、2-ウンデセナール、2-ドデセナール等が挙げられ、いずれかを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。 本発明において、成分(A)に対する成分(C)の割合(質量比)は、(C)/(A)が0.001から100の範囲が好ましく、更に好ましくは(C)/(A)が0.01から10の範囲である。 成分(D)は、ヒト皮脂や汗から検出される炭素鎖6〜12の飽和脂肪酸であり、これらの化合物を組成物に加えることは、複合臭たる生乾き臭のうちヒト由来のニオイ特有の甘さやこもったような酸臭を再現する点で好ましい。成分(D)としては、例えばヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸等が挙げられ、いずれかを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。 本発明において、成分(A)に対する成分(D)の割合(質量比)は、(D)/(A)が0.01から1000の範囲が好ましく、更に好ましくは(D)/(A)が0.1から100の範囲である。 擬似生乾き臭組成物としてはこれら(A)〜(D)以外の化合物を用いてもよく、例えばピラジン類、ピリジン類、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィド等のカビ臭由来の化合物、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトイル酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等の高級脂肪酸を加えると、実際の生乾き臭により近づけることができる。 また、本発明の擬似生乾き臭組成物には、必要に応じて、水、ジエチルフタレート、ジプロピレングルコール、プロピレングルコール、トリエチルシトレート、ブチルジグリコール等の希釈剤やエタノールなどの溶剤を含有させることができる。その量は、本発明の組成物の使用対象、使用目的等に応じて適宜決定することができる。 これらの組成物は、混合臭の消臭をターゲットとするデオドランド剤、介護臭の消臭用、室内消臭剤、衣料用洗浄剤、衣料用消臭剤、住居用洗浄剤等の洗浄剤などの開発に応用してもよい。実施例1 強く生乾き臭(部屋干し臭)を発するジーンズ100gを裁断し、ジクロロメタンによりニオイ成分を抽出、濃縮した。更に、常法に従って酸性成分のみ選択的に抽出、濃縮し、また必要に応じてGerstel社製Preparative Fraction Collector(PFC)装置を用いてニオイ成分を濃縮した。得られたニオイ濃縮物をガスクロマトグラフィー−質量分析計(GC-MS)を用いて分析した。生乾きのニオイを発生させる重要な成分は、ニオイ嗅ぎガスクロマトグラフィー(sniffing GC)により特定した。 生乾き臭を有する衣類から抽出されたにおい成分を種々検討したところ、GC-MS分析(図1)では、従来確認されている飽和脂肪酸と共に、今までの知見にはない化合物ピークが確認された。この溶出成分はにおい嗅ぎガスクロマトグラフィーにおいて生乾き臭に極めて良く似た強いにおいを持つ4-メチル-3-ヘキセン酸、5-メチル-2-ヘキセン酸、5-メチル-4-ヘキセン酸であることがわかった。 これらの脂肪酸は、衣類のニオイの構成成分としては今まで報告されたことがないが、今回検出したサンプル衣類からは各部位で検出された。実施例2 一般家庭にて生乾き臭が発生してしまった衣類9点を回収し、それらの官能強度の評価と機器分析を行い官能強度と4-メチル-3-ヘキセン酸の関係を調べた。(官能強度評価) 室温(25℃)、湿度65%の環境に保たれた室内にて、専門パネラー5名が上記衣類のニオイを嗅ぎ、それらのニオイ強度について、5名の協議により以下の6段階で判定した。 5:非常に強く臭う 4:強く臭う 3:はっきり臭う 2:やや臭う 1:わずかに臭う 0:臭わない(機器分析) 実施例1と同様な方法でニオイ成分を抽出し、濃縮、GC-MS分析を行い、衣類に含まれる4-メチル-3-ヘキセン酸の存在量を調べた。 官能強度評価及び機器分析の結果について、表1及び図2に示す。これらの結果より、官能強度と4-メチル-3-ヘキセン酸の検出量とは相関関係にあり、ニオイの強い衣料ほどこれらの脂肪酸検出量が多い傾向にあった。製造例1 4-メチル-3-ヘキセン酸の合成 50mLナスフラスコに、2-メチルブチルアルデヒド(東京化成工業)2.68mL、マロン酸(和光純薬工業)2.86g及びトリエチルアミン(和光純薬工業)3.84mLを加え、90℃で7時間加熱撹拌した。反応終了後、1N硫酸を適量加え、ジクロロメタンにて抽出した。抽出された有機層を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後減圧濃縮にて粗生成物を2.3g得た。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーにて精製し、目的物である4-メチル-3-ヘキセン酸を1.5g(収率47%)得た。得られた4-メチル-3-ヘキセン酸の幾何異性体比はE:Z=63:37であった。製造例2 5-メチル-2-ヘキセン酸の合成 D. J. Schauer, Paul Helquist; Synthesis, 21, 3654-3660, (2006)に記載された方法に準じ、5-メチル-2-ヘキセン酸を合成した。 窒素雰囲気下、3口フラスコにトリフルオロメタンスルホン酸亜鉛(和光純薬工業)2.4g、(ジエトキシホスフィノイル)酢酸(和光純薬工業)0.48mL、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン(和光純薬工業)0.5mL、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)(和光純薬工業)1.79mL及び無水THF(和光純薬)25mLを加えた。その後、イソバレルアルデヒド(東京化成工業)0.35mLを滴下しながら加え、20時間攪拌した。その後1N塩酸で反応を終了させ、ジクロロメタン50mL×2で抽出し、水50mL×2で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶剤を留去し、5-メチル-2-ヘキセン酸0.42g(収率99%)を得た。製造例3 5-メチル-4-ヘキセン酸の合成 S. Menon et al, Tetrahedron, 63, 8788-8793, (2007)に記載された方法に準じ、5-メチル-4-ヘキセン酸を合成した。 ナスフラスコに冷却管を取り付け、そこに2-メチル-3-ブテン-2-オール(和光純薬工業)1.82mL、トリエチルオルト酢酸(Aldrich)29.8mL及び2-ニトロフェノール(東京化成工業)0.16gを加え、36時間加熱還流した。室温に戻した後、メタノール:水=1:1の混合液25mLを加え、5N塩酸で酸性にした。その後ジエチルエーテル100mLで抽出し、水100mLで洗浄後、有機層溶液を減圧濃縮した。 次に、濃縮した有機層を、冷却管を取り付けたナスフラスコに移し、水酸化ナトリウム1.25g、エタノール30mL及び水5.5mLを加え、24時間加熱還流した。得られた溶液を室温に戻し、5N塩酸で酸性にした後、ジエチルエーテル100mLで抽出し、水100mLで洗浄した後、硫酸マグネシウムにて乾燥を行った。溶液を減圧留去し、5-メチル-4-ヘキセン酸を1.67g(収率67%)得た。実施例3 合成した中鎖脂肪酸(カルボン酸(1)及びイソ吉草酸)の嗅覚閾値を測定し、それらのニオイ強度を客観的に評価した。(閾値測定方法) H. Boelensらの方法(H. Boelens et al; Perfumer & Flavoerist, 8 (1983), 71-74)に従い、溶液中濃度のヘッドスペースの閾値を測定した。 具体的には、3つのグラスに特定の濃度のサンプルを250mLずつ入れ、これを複数人の専門パネラーが嗅ぐことでニオイの有無を判定する。いくつかの濃度のサンプルで専門パネラーが臭いの判定を行い、ニオイがあると判定するパネラーの割合と濃度の関係を測定する。この際、半数以上がニオイがあると判定する濃度を閾値として決定した。 その結果、表2に示すように、カルボン酸(1)は、比較対照としたイソ吉草酸と同等、もしくはそれ以上の低いニオイ閾値を有し、低濃度においても強くニオイを感じられることが分かった。実施例4 カルボン酸(1)が、実際に衣類にどの程度付着した際に、どの程度ニオイとして認識されるかを確認するため、次のような実験を行った。 10gのタオル片に一定濃度の中鎖脂肪酸(カルボン酸(1)又はイソ吉草酸)のアセトン希釈溶液1mLを供与し、その後アセトンのみを乾燥させるため10分間室温にて乾燥させた。その後、これら中鎖脂肪酸含浸タオルについて、専門パネラー3名が官能評価によりニオイ強度を判定した。官能評価は以下の6段階で行い、その平均値を表3に示す。 5:非常に強く臭う 4:強く臭う 3:はっきり臭う 2:やや臭う 1:わずかに臭う 0:臭わない 評価の結果、最もニオイ強度の強い4-メチル-3-ヘキセン酸は、100ppt(タオル中濃度)以上でニオイとして認識可能であり、1ppb程度では非常に強いニオイを感じた。実施例5 カルボン酸(1)のニオイの質がどの程度生乾き臭を連想させるのかを評価するため、布中に10ppm中鎖脂肪酸(カルボン酸(1)又はイソ吉草酸)を含むタオルを調製し、官能評価した。中鎖脂肪酸含浸タオルの作製は、実施例4に準じて行った(10gタオル片に中鎖脂肪酸の100ppmアセトン溶液を1mL含浸、アセトン揮散のため10分室温で乾燥)。その後タオル片を専門パネラー3名が官能評価した。官能評価は以下の6段階で行い、その平均値を取った。また、同時にニオイの質についても評価した。これらの結果を表4に示す。 5:非常に強く生乾き臭を感じる 4:生乾き臭を強く感じる 3:生乾き臭をはっきり感じる 2:生乾き臭をやや感じる 1:生乾き臭をわずかに感じる 0:生乾き臭としては感じない 評価の結果、単品化合物で本発明品はそれぞれは生乾き臭を連想させ、4-メチル-3-ヘキセン酸が最も強く生乾き臭のニオイを有していた。また、4-メチル-3-ヘキセン酸はイソ吉草酸と等量混合することによって、更に生乾き臭のニオイとして認知されるようになった。実施例6〜9及び比較例1 表5に示す擬似生乾き臭(部屋干し臭)組成物を調製し、下記の評価方法に基づいて官能評価を行った。表5中の各成分の含有量は質量%である。(評価方法) 室温(25℃)、湿度65%の環境に保たれた室内にて、5×5cmの未使用のタオル(木綿製)に、各擬似生乾き臭組成物をイオン交換水にて1000倍に希釈したものを0.1mL塗布した。このタオルのニオイがどの程度生乾き臭に近いかについて、4人の専門評価者によって、10段階の官能評価(10:非常に生乾き的なニオイ〜1:生乾きのニオイではない)を行い、その平均値を表5に示した。 一般式(1)で表されるカルボン酸及び当該カルボン酸のカルボキシ基に原子又は原子団を導入してなるカルボン酸誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する生乾き臭判定用指標物質。〔式中、R1及びR2はそれぞれ水素原子又はメチル基を示し、破線は二重結合であってもよいことを示し、そのうち少なくとも1箇所は二重結合である。〕 請求項1記載のカルボン酸又はその誘導体を指標とする生乾き臭判定方法。 繊維製品から生乾き臭成分を抽出し、抽出液に含まれる請求項1記載のカルボン酸又はその誘導体の量を分析する請求項2記載の生乾き臭判定方法。 (A)請求項1記載のカルボン酸を含有する擬似生乾き臭組成物。 更に、(B)炭素数2〜5の低級脂肪酸を含有する請求項4記載の擬似生乾き臭組成物。 請求項1記載の指標物質を用いる繊維製品用処理剤の生乾き臭に対する有効性判定方法。 【課題】生乾き臭を客観的かつ定量的に判定することを可能とする指標物質、及び、それを用いた生乾き臭判定方法及び生乾き臭マスキング効果等の評価に適した擬似生乾き臭組成物の提供。【解決手段】一般式(1)で表されるカルボン酸及び当該カルボン酸のカルボキシ基に原子又は原子団を導入してなるカルボン酸誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する生乾き臭判定用指標物質。当該カルボン酸又はその誘導体を指標とする生乾き臭判定方法。当該カルボン酸を含有する擬似生乾き臭組成物。前記指標物質を用いる繊維製品用処理剤の生乾き臭に対する有効性判定方法。〔R1及びR2はそれぞれ水素原子又はメチル基を示し、破線は二重結合であってもよいことを示し、そのうち少なくとも1箇所は二重結合である。〕【選択図】なし


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特許公報(B2)_生乾き臭判定用指標物質

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_生乾き臭判定用指標物質
出願番号:2009226617
年次:2014
IPC分類:G01N 33/36


特許情報キャッシュ

竹内 浩平 長谷川 義博 JP 5517540 特許公報(B2) 20140411 2009226617 20090930 生乾き臭判定用指標物質 花王株式会社 000000918 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 有賀 三幸 100068700 高野 登志雄 100077562 中嶋 俊夫 100096736 村田 正樹 100117156 山本 博人 100111028 竹内 浩平 長谷川 義博 20140611 G01N 33/36 20060101AFI20140522BHJP JPG01N33/36 A G01N 31/00−33/98 特開2004−263102(JP,A) 特開2004−262900(JP,A) 松永聡,日常生活における洗濯衣料の部屋干し臭とその抑制,におい・かおり環境学会誌,2005年 3月25日,Vol.36,No.2,P.82-89 2 2011075385 20110414 16 20120626 渡邊 吉喜 本発明は、部屋干し等によって衣類等の繊維製品から発生する生乾き臭の判定に用いる指標物質、及び、それを用いた生乾き臭の評価方法、並びに擬似生乾き臭組成物に関する。 衣類、タオル、寝具等の繊維製品から生じる「生乾き臭」とは、これら繊維製品を洗濯後に乾燥させたとき、特に、梅雨時における乾燥、又は閉め切った室内での乾燥等、洗濯後の繊維製品を、その乾燥が不十分な状態で長時間放置したときに発生しやすい不快なニオイである。近年、共働き家庭の増加や家屋の高気密化等、ライフスタイルの変化から、繊維製品の生乾き臭は発生しやすい環境になってきていると考えられる。 従来、繊維製品の生乾き臭の判定方法及び生乾き臭の発生を防止する繊維製品用処理剤の有効性評価としては、実際に衣類のニオイを嗅いで判断する官能評価試験に依存していた。 この生乾き臭(部屋干し臭)は、中鎖アルデヒド、中鎖アルコール、ケトンなどの「黴様のニオイ」、短鎖脂肪酸、中鎖脂肪酸などの「酸っぱいニオイ」、窒素化合物などの「生臭いニオイ」及び硫黄化合物から構成される複合臭であり、特に中鎖脂肪酸の寄与度が大きいことが報告されている(非特許文献1)。埴原,園田,「部屋干し臭を抑制する洗剤について」,香料,平成16年9月,No.223,p.109-116 非特許文献1では、生乾き臭のキー成分を「炭素数7〜9の分岐・不飽和を含む脂肪酸の混合物」であると推定し、これらは汗等の臭気にも含まれるものとしている。すなわち、非特許文献1では、生乾き臭特有の成分の存在については、何ら示唆していない。 また、前述したような実際に衣類のニオイを嗅いで判断する官能評価試験では、評価者の主観的判断が入る余地が大きいため定量的判定が難しく、かつ、客観性に欠けるという問題があった。 本発明の課題は、生乾き臭を客観的かつ定量的に判定することを可能とする指標物質、及びこれを用いた生乾き臭判定方法、並びに生乾き臭マスキング効果等の評価に適した擬似生乾き臭組成物を提供することにある。 本発明者らは、強い生乾き臭を有する衣類の原因成分について研究を行ったところ、特定構造の3種のメチルヘキセン酸が、生乾き臭に対する寄与度が非常に大きく、かつ定量し得る濃度で衣類中に存在することを見出し、かつこれらの化合物に構造の近い一群の化合物が、生乾き臭の程度を定量的に判定する客観的な指標として利用できることを見出した。 本発明は、一般式(1)で表されるカルボン酸及び当該カルボン酸のカルボキシ基に原子又は原子団を導入してなるカルボン酸誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する生乾き臭判定用指標物質を提供するものである。〔式中、R1及びR2はそれぞれ水素原子又はメチル基を示し、破線は二重結合であってもよいことを示し、そのうち少なくとも1箇所は二重結合である。〕 また本発明は、上記カルボン酸又はその誘導体を指標とする生乾き臭判定方法を提供するものである。 また本発明は、前記カルボン酸を含有する擬似生乾き臭組成物を提供するものである。 更に本発明は、前記の指標物質を用いる繊維製品用処理剤の生乾き臭に対する有効性判定方法を提供するものである。 一般式(1)で表されるカルボン酸(以下、カルボン酸(1)と称する)は、生乾きの繊維製品のニオイに極めて近い臭気を有しており、生乾き臭判定用指標物質として有用である。従って、当該化合物の存在量を基にして、生乾き臭の強さを客観的かつ定量的に評価することができる。生乾き臭を発するジーンズから得られたニオイ濃縮物についてのガスクロマトグラフィー−質量分析結果を示す図である。官能強度と4-メチル-3-ヘキセン酸の検出量の関係を示す図である。●生乾き臭判定用指標物質〔カルボン酸(1)〕 本発明の生乾き臭判定用指標物質は、カルボン酸(1)及びそのカルボキシ基に原子又は原子団を導入してなるカルボン酸誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。 本発明者らが見出した生乾き臭の原因物質は、カルボン酸(1)に包含される化合物のうち、下記式(1a)で表される5-メチル-2-ヘキセン酸、下記式(1b)で表される5-メチル-4-ヘキセン酸、及び下記式(1c1)又は(1c2)で表される4-メチル-3-ヘキセン酸であり、いずれも生乾き臭に極めて近いニオイを持つ。 5-メチル-2-ヘキセン酸(1a)は、タバコに含まれる化合物として知られており〔Phytochemistry, 12(4), 835-47 (1973)〕、5-メチル-4-ヘキセン酸(1b)は、医薬品の中間体等として用いられている化合物である〔Bioorganic & Medicinal Chemistry Letters , 15(23), 5284-5287, (2005)〕。また、4-メチル-3-ヘキセン酸(1c1)及び(1c2)は、ホップの香気成分から検出されている〔Journal of agricultural and food chemistry, 26(6), 1426-1430, (1978)〕。しかし、いずれも、生乾き臭の構成成分として報告されたことはない。 5-メチル-2-ヘキセン酸(1a)、5-メチル-4-ヘキセン酸(1b)、4-メチル-3-ヘキセン酸(1c1)又は(1c2)はいずれも、従来生乾き臭の原因物質として知られていたイソ吉草酸とニオイの質は異なるが、遜色ない、又はそれ以上に生乾き臭に近いニオイを有している。また、5-メチル-2-ヘキセン酸(1a)、5-メチル-4-ヘキセン酸(1b)、4-メチル-3-ヘキセン酸(1c1)又は(1c2)はニオイの強さの点でもイソ吉草酸と遜色ない、又はそれ以上の強度を有している。 特に4-メチル-3-ヘキセン酸(1c1)及び(1c2)は、極めて少量でも強いニオイを放ち、10gの布地中に1ng含まれれば生乾き臭を感じ、10gの布地中に1μg含まれれば誰もが生乾き臭を感じる程、強いニオイを有している。更にニオイの質も他の化合物に比べ、実際の生乾き臭に極めて近い。なお、4-メチル-3-ヘキセン酸は、式(1c1)のシス体でも式(1c2)のトランス体でも同様のニオイを有する。以下、シス体、トランス体を区別せず4-メチル-3-ヘキセン酸として扱う。 5-メチル-2-ヘキセン酸、5-メチル-4-ヘキセン酸、4-メチル-3-ヘキセン酸は、以下のような特徴を有することから、生乾き臭を有する衣類における存在量と存在状態が、生乾き臭の程度を示すものと考えられる。(イ)5-メチル-2-ヘキセン酸、5-メチル-4-ヘキセン酸、4-メチル-3-ヘキセン酸のいずれも検出されない衣類は、生乾き臭を発生しておらず、衣類から5-メチル-2-ヘキセン酸、5-メチル-4-ヘキセン酸、4-メチル-3-ヘキセン酸のいずれか1以上の化合物が検出される衣類は、生乾き臭が明らかに発生している。すなわち、以上の3化合物は、生乾き臭に特異的に存在するものである。(ロ)衣類に含まれる5-メチル-2-ヘキセン酸、5-メチル-4-ヘキセン酸及び4-メチル-3-ヘキセン酸の量が多い衣類ほど、生乾き臭が強い。 以上のことから、カルボン酸(1)の中でも、5-メチル-2-ヘキセン酸、5-メチル-4-ヘキセン酸、及び4-メチル-3-ヘキセン酸は、生乾き臭判定用指標物質として特に好適である。 これらのカルボン酸(1)を指標物質として使用する場合、単体であっても、複数のカルボン酸からなる混合物であってもよい。また、その純度は高いほど好ましいが、臭気に影響を与えない限り夾雑物を含んでいてもよい。〔カルボン酸(1)の合成方法〕 カルボン酸(1)は、公知の方法で合成可能であり、一定品質の合成品を安定供給することで、時と場所を選ばずに生乾き臭を客観的に評価、判定できる点でも、指標物質として適している。 例えば、カルボン酸(1)のうち、5-メチル-2-ヘキセン酸に代表される2-エン型化合物は、下記反応式A(R1及びR2は前記に同じ)に示すようにHorner-Wadsworth-Emmons反応により合成することができる〔D. J. Schauer, P, Helquist; Synthesis, 21, 3654-3660, (2006)〕。 また、カルボン酸(1)のうち、5-メチル-4-ヘキセン酸に代表される4-エン型化合物は、反応式B(R1及びR2は前記に同じ)に示すようにジョンソン−クライゼン転位により合成することができる〔S. Menon, D. Sinha-Mahapatra, and J. W. Herndon; Tetrahedron, 63, 8788-8793 (2007)〕。 また、4-メチル-3-ヘキセン酸は、反応式Cに示すように2-メチルブチルアルデヒドとマロン酸の反応により合成することができる。〔カルボン酸(1)の誘導体〕 カルボン酸(1)は、指標化合物としての検出機能を失わない限り、化学的修飾を施して、すなわちカルボキシ基に原子又は原子団を導入して用いてもよい。例えば、機器分析における分析感度を向上させるために、カルボキシ基をアシル化、エステル化、トリメチルシリル化、アミド化、カルボン酸塩化したり、指標物質を目視化できるようにするために、カルボキシ基に発色団を導入したりすることもできる。 誘導体化試薬としては、O-(p-ニトロベンジル)-N,N'-ジイソプロピルイソウレア(PNBDI)や、p-ブロモフェナシルブロミド(PBPB)などのUV試薬、4-ブロモメチル-7-メトキシクマリン(Br-MmC)などの蛍光試薬、N-トリメチルシリルイミダゾール(TMSI)やN,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド(BSA)などのシリル化剤、無水トリフルオロ酢酸やトリフルオロアセチルイミダゾールなどのアシル化剤などを用いることができる。 また、カルボン酸(1)の標識化合物として、可視領域の発色団を用いる場合には、標識化合物の濃度−発色標準サンプルを調製し、サンプルから採取したニオイ抽出物を同じ試薬で発色させたものと比較して、目視で生乾き臭の程度を判断することも可能である。 呈色反応を利用してカルボン酸(1)の有無や存在量を判定する方法としては、 i)カルボン酸(1)のカルボキシ基に直接発色団を導入する方法 ii)カルボン酸(1)を誘導体に変換した後、誘導体に発色団を導入する方法 iii)カルボン酸(1)を分解した後、分解物に発色団を導入する方法等が挙げられる。 i)のカルボン酸(1)のカルボキシ基に直接発色団を導入する方法に用いられる呈色試薬としては、カルボン酸を縮合剤の存在下、発色性の酸ヒドラジドに導いて呈色させる試薬、カルボン酸を発色性のエステルに導いて呈色させる試薬、カルボン酸を発色性のアミドに導いて呈色させる試薬等がある。 カルボン酸を発色性の酸ヒドラジドに導いて呈色させる試薬としては、2-ニトロフェニルヒドラジン、6,7-ジメトキシ-1-メチル-2(1H)-キノキサリノン-3-プロピオニルカルボン酸ヒドラジド(DMEQ-H)、p-(4,5-ジフェニル-1H-イミダゾール-2-イル)-ベンゾヒドラジド、p-(1-メチル-1H-フェナントロ-[9,10-イミダゾール-2-イル)-ベンゾヒドラジド、p-(5,6-ジメトキシ-2-ベンゾチアゾイル)-ベンゾヒドラジド等が挙げられる。 カルボン酸を発色性のエステルに導いて呈色させる試薬としては、9-アンスリルジアゾメタン、1-ナフチルジアゾメタン、1-(2-ナフチル)ジアゾエタン、1-ピレニルジアゾメタン、4-ジアゾメチル-7-メトキシクマリン、4-ブロモメチル-7-メトキシクマリン、3-ブロモメチル-6,7-ジメトキシ-1-メチル-2(1H)-キノキザリノン、9-ブロモメチルアクリジン、4-ブロモメチル-6,7-メチレンジオキシクマリン、N-(9-アクリジニル)-ブロモアセトアミド、2-(2,3-ナフチルイミノ)エチルトリフルオロメタンスルホネート、2-(フタルイミノ)エチルトリフルオロメタンスルホネート、N-クロロメチルフタルイミド、N-クロロメチル-4-ニトロフタルイミド、N-クロロメチルイサチン、O-(p-ニトロベンジル)-N,N'-ジイソプロピルイソウレア等が挙げられる。 カルボン酸を発色性のアミドに導いて呈色させる試薬としては、モノダンシルカダベリン、2-(p-アミノメチルフェニル)-N,N'-ジメチル-2H-ベンゾトリアゾール-5-アミン等が挙げられる。 ii)のカルボン酸を誘導体に変換した後、誘導体に発色団を導入する方法において、呈色反応に利用できるカルボン酸の誘導体としては、無機塩、酸クロライド等が挙げられる。 カルボン酸の無機塩は芳香族ハロゲンと反応させて発色性のエステルに、酸クロライドは発色性のアミドに、それぞれ誘導することができる。 カルボン酸を無機塩に変換する方法としては、カルボン酸を炭酸水素ナトリウム溶液、炭酸ナトリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液等のアルカリ性物質と混合して中和する方法が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸の無機塩と反応し、発色性のエステルに誘導できる芳香族ハロゲンとしては、p-ニトロベンジルブロミド、フェナシルブロミド、p-クロロフェナシルブロミド、p-ブロモフェナシルブロミド、p-ヨードフェナシルブロミド、p-ニトロフェナシルブロミド、p-フェニルフェナシルブロミド、p-フェニルアゾフェナシルブロミド、N,N'-ジメチル-p-アミノベンゼンアゾフェナシルクロライド等が挙げられる。 カルボン酸を酸クロライドに変換する方法としては、カルボン酸をオキザリルクロライドと反応させる方法等が挙げられる。酸クロライドを発色性のアミドに導く方法としては、トリエチルアミンの存在下、9-アミノフェナントレンと反応させる方法等が挙げられる。 iii)のカルボン酸を分解した後、その分解物に対して発色団を導入する方法としては、カルボン酸にアデノシン三リン酸(ATP)と補酵素CoAの存在のもとで、アシル-CoAシンテターゼを作用させて、アシル-CoAを生成せしめ、次にアシル-CoAオキシダーゼで処理して、エノイル-CoAと過酸化水素を生成せしめ、更に過酸化水素をカタラーゼで処理してホルムアルデヒドにし、これに呈色試薬である4-アミノ-3-ヒドラジノ-5-メルカプト-1,2,3-トリアゾール(AHMT)を反応させて、生じる紫色を比色する方法が挙げられる。 このように、本発明において、カルボン酸の呈色反応に用いられる試薬は、カルボン酸、カルボン酸誘導体、カルボン酸分解物のいずれかと反応して発色するものであれば特に限定されない。 カルボン酸(1)を呈色化する生乾き臭判定試薬は、ガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィー等の高価な分析機器を用いることなく、生乾きのニオイの程度を確実で迅速かつ簡単に判定することが可能であるので、特別な分析機器が無い環境において判定する場合に利用することができる。●生乾き臭判定方法 本願発明によればこれらの指標物質を用いて生乾き臭の程度について定量的に判定することが可能となる。 カルボン酸(1)又はその誘導体を生乾き臭判定用指標物質として使用する方法は特に制限されず、公知の様々な評価方式に適合させて用いればよい。 例えば、生乾き臭を有する衣類に含まれるカルボン酸(1)の含有量をGC-MSで測定する場合には、カルボン酸(1)又はその誘導体を標準物質(スタンダード)として用い、検量線を作成する。この検量線を使用して、採取した衣類に含まれるカルボン酸(1)のピークを同定し、その量を測定すればよい。 また、官能評価を行う場合には、カルボン酸(1)を数段階に希釈し、各濃度のニオイ標準サンプルを調製する。そして、生乾き臭を有する衣類から調製した評価サンプルのニオイを標準サンプルと照合し、衣類に含まれるカルボン酸(1)の量を官能評価により判定すればよい。 また、衣類においてカルボン酸(1)の生成量が多いにもかかわらず、それが塩等のニオイが無い又は弱い誘導体に変化している場合には、生乾き臭の潜在状態が存在していることになるが、このような場合に官能評価を行っても、生乾き臭の潜在状態を正確に評価できない場合もある。これに対して、本発明では、必要な化学処理によって分析可能なカルボン酸(1)あるいはそれらの誘導体を測定することによって、評価サンプルが生乾き臭を発生させる可能性のあるサンプルかどうか、すなわち、ポテンシャル評価を行うことができる。 本発明の指標物質は、前述したように化学分析、機器分析又は官能評価等のいずれにも利用され客観性の高い定量的判定が可能となるが、特に、化学分析や機器分析等により、測定値をカルボン酸(1)の存在量で表現することで、判定結果から主観性を排除することが可能である。 更に本発明においては、生乾き臭をターゲットとする繊維製品用処理剤の有効性を、カルボン酸(1)又はその誘導体を含有する指標物質を用い、客観的かつ定量的に判定することができる。 繊維製品用処理剤の有効性を判定する方法においては、前記指標物質を単体として使用してもよく、他の成分、例えば溶解又は希釈のための溶剤や、安定剤、抗菌剤、抗菌剤、界面活性剤、酸化防止剤、香料、植物抽出物等の添加剤を配合し、保存や判定試験での使用等の実用に即した組成物に調製して用いてもよい。 生乾き臭をターゲットとする繊維製品用処理剤は、衣類に付着した菌を殺菌して、衣類に残存した汗、皮脂などの分解を予防するタイプ、ニオイ成分をにおわない誘導体に分解又は変化させるタイプ、或いは、ニオイをマスキングするタイプ等の如何なるタイプの作用機序であってもよい。カルボン酸(1)又はその誘導体を繊維製品用処理剤の有効性判定用指標物質として使用する方法は特に制限されず、繊維製品用処理剤の作用機序及び評価方式に適合させて用いればよい。 例えば、有効成分としてカルボン酸(1)又はその誘導体、好ましくは5-メチル-2-ヘキセン酸、5-メチル-4-ヘキセン酸、4-メチル-3-ヘキセン酸又はそれらの誘導体を所定濃度で含有する指標物質を衣類等の繊維に付着させ、所定量の繊維製品用処理剤サンプルを添加し、指標物質の変化状態を適切な方法で定量することで、繊維製品用処理剤サンプルの有効性を客観的かつ定量的に判定できる。 指標物質の変化状態を定量する方法としては、繊維製品用処理剤サンプルがカルボン酸(1)を分解又は別の化合物に誘導して、ニオイを減じるタイプである場合には、指標物質の検量線を予め作成しておき、この検量線を用いて機器分析を行ってもよいし、指標物質の変化体又は未変化体を滴定又は抽出等の化学分析により定量してもよい。繊維製品用処理剤サンプルが生乾き臭をマスキングするタイプである場合には、指標物質を数段階に希釈して各濃度のニオイ標準サンプルを調製し、繊維製品用処理剤サンプルを添加した指標物質のニオイを標準サンプルと照合し、マスキング効果を官能評価により判定すればよい。●擬似生乾き臭組成物 更に本発明は、カルボン酸(1)を含有し、生乾き臭の消臭やマスキング効果の評価に使用できる擬似生乾き臭組成物を提供するものである。この擬似生乾き臭組成物を使用することにより、消臭基剤のスクリーニングや、消臭剤組成物の生乾き臭の消臭効果を正確にかつ再現性よく評価することができる。 官能評価などにおける生乾き臭判定のためにこのカルボン酸(1)を用いる場合には、既知の生乾き臭構成成分を適当な比率で混合させて、更に実場面に近い生乾き臭を再現し、擬似生乾き臭組成物として用いることも可能である。 すなわち、本発明の擬似生乾き臭組成物は、様々なニオイを含む複合臭である生乾き臭をより正確に再現する点からカルボン酸(1)を成分(A)として含有し、これに以下に示される成分(B)、(C)、(D)の化合物を適宜含有させることが好ましい。 成分(B)は、炭素鎖数2〜5の低級脂肪酸であり、これらの化合物を組成物に加えることは、複合臭たる生乾き臭のうち汗様の酸っぱいニオイを再現する点で好ましい。成分(B)としては、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、イソ吉草酸が挙げられ、特にイソ吉草酸が好ましい。これらは、いずれかを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。 本発明において、成分(A)に対する成分(B)の割合(質量比)は、(B)/(A)が0.01から10000の範囲が好ましく、更に好ましくは(B)/(A)が0.1から1000の範囲、特に好ましくは(B)/(A)が1〜100の範囲である。 成分(C)は、炭素鎖6〜14の飽和及び不飽和直鎖アルデヒドであり、これらの化合物を組成物に加えることは、複合臭たる生乾き臭のうち繊維製品独特のほこりっぽさや着古した古着様の青臭いニオイを再現する点で好ましい。成分(C)としては、例えばヘキサナール、ヘプタナール、オクタナール、ノナナール、デカナール、ウンデカナール、ドデカナール、トリデカナール、テトラデカナール、2-へキセナール、2-ヘプテナール、2-オクテナール、2-ノネナール、2-デセナール、2-ウンデセナール、2-ドデセナール等が挙げられ、いずれかを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。 本発明において、成分(A)に対する成分(C)の割合(質量比)は、(C)/(A)が0.001から100の範囲が好ましく、更に好ましくは(C)/(A)が0.01から10の範囲である。 成分(D)は、ヒト皮脂や汗から検出される炭素鎖6〜12の飽和脂肪酸であり、これらの化合物を組成物に加えることは、複合臭たる生乾き臭のうちヒト由来のニオイ特有の甘さやこもったような酸臭を再現する点で好ましい。成分(D)としては、例えばヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸等が挙げられ、いずれかを単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。 本発明において、成分(A)に対する成分(D)の割合(質量比)は、(D)/(A)が0.01から1000の範囲が好ましく、更に好ましくは(D)/(A)が0.1から100の範囲である。 擬似生乾き臭組成物としてはこれら(A)〜(D)以外の化合物を用いてもよく、例えばピラジン類、ピリジン類、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィド等のカビ臭由来の化合物、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトイル酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸等の高級脂肪酸を加えると、実際の生乾き臭により近づけることができる。 また、本発明の擬似生乾き臭組成物には、必要に応じて、水、ジエチルフタレート、ジプロピレングルコール、プロピレングルコール、トリエチルシトレート、ブチルジグリコール等の希釈剤やエタノールなどの溶剤を含有させることができる。その量は、本発明の組成物の使用対象、使用目的等に応じて適宜決定することができる。 これらの組成物は、混合臭の消臭をターゲットとするデオドランド剤、介護臭の消臭用、室内消臭剤、衣料用洗浄剤、衣料用消臭剤、住居用洗浄剤等の洗浄剤などの開発に応用してもよい。実施例1 強く生乾き臭(部屋干し臭)を発するジーンズ100gを裁断し、ジクロロメタンによりニオイ成分を抽出、濃縮した。更に、常法に従って酸性成分のみ選択的に抽出、濃縮し、また必要に応じてGerstel社製Preparative Fraction Collector(PFC)装置を用いてニオイ成分を濃縮した。得られたニオイ濃縮物をガスクロマトグラフィー−質量分析計(GC-MS)を用いて分析した。生乾きのニオイを発生させる重要な成分は、ニオイ嗅ぎガスクロマトグラフィー(sniffing GC)により特定した。 生乾き臭を有する衣類から抽出されたにおい成分を種々検討したところ、GC-MS分析(図1)では、従来確認されている飽和脂肪酸と共に、今までの知見にはない化合物ピークが確認された。この溶出成分はにおい嗅ぎガスクロマトグラフィーにおいて生乾き臭に極めて良く似た強いにおいを持つ4-メチル-3-ヘキセン酸、5-メチル-2-ヘキセン酸、5-メチル-4-ヘキセン酸であることがわかった。 これらの脂肪酸は、衣類のニオイの構成成分としては今まで報告されたことがないが、今回検出したサンプル衣類からは各部位で検出された。実施例2 一般家庭にて生乾き臭が発生してしまった衣類9点を回収し、それらの官能強度の評価と機器分析を行い官能強度と4-メチル-3-ヘキセン酸の関係を調べた。(官能強度評価) 室温(25℃)、湿度65%の環境に保たれた室内にて、専門パネラー5名が上記衣類のニオイを嗅ぎ、それらのニオイ強度について、5名の協議により以下の6段階で判定した。 5:非常に強く臭う 4:強く臭う 3:はっきり臭う 2:やや臭う 1:わずかに臭う 0:臭わない(機器分析) 実施例1と同様な方法でニオイ成分を抽出し、濃縮、GC-MS分析を行い、衣類に含まれる4-メチル-3-ヘキセン酸の存在量を調べた。 官能強度評価及び機器分析の結果について、表1及び図2に示す。これらの結果より、官能強度と4-メチル-3-ヘキセン酸の検出量とは相関関係にあり、ニオイの強い衣料ほどこれらの脂肪酸検出量が多い傾向にあった。製造例1 4-メチル-3-ヘキセン酸の合成 50mLナスフラスコに、2-メチルブチルアルデヒド(東京化成工業)2.68mL、マロン酸(和光純薬工業)2.86g及びトリエチルアミン(和光純薬工業)3.84mLを加え、90℃で7時間加熱撹拌した。反応終了後、1N硫酸を適量加え、ジクロロメタンにて抽出した。抽出された有機層を水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥後減圧濃縮にて粗生成物を2.3g得た。得られた粗生成物をカラムクロマトグラフィーにて精製し、目的物である4-メチル-3-ヘキセン酸を1.5g(収率47%)得た。得られた4-メチル-3-ヘキセン酸の幾何異性体比はE:Z=63:37であった。製造例2 5-メチル-2-ヘキセン酸の合成 D. J. Schauer, Paul Helquist; Synthesis, 21, 3654-3660, (2006)に記載された方法に準じ、5-メチル-2-ヘキセン酸を合成した。 窒素雰囲気下、3口フラスコにトリフルオロメタンスルホン酸亜鉛(和光純薬工業)2.4g、(ジエトキシホスフィノイル)酢酸(和光純薬工業)0.48mL、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン(和光純薬工業)0.5mL、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)(和光純薬工業)1.79mL及び無水THF(和光純薬)25mLを加えた。その後、イソバレルアルデヒド(東京化成工業)0.35mLを滴下しながら加え、20時間攪拌した。その後1N塩酸で反応を終了させ、ジクロロメタン50mL×2で抽出し、水50mL×2で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶剤を留去し、5-メチル-2-ヘキセン酸0.42g(収率99%)を得た。製造例3 5-メチル-4-ヘキセン酸の合成 S. Menon et al, Tetrahedron, 63, 8788-8793, (2007)に記載された方法に準じ、5-メチル-4-ヘキセン酸を合成した。 ナスフラスコに冷却管を取り付け、そこに2-メチル-3-ブテン-2-オール(和光純薬工業)1.82mL、トリエチルオルト酢酸(Aldrich)29.8mL及び2-ニトロフェノール(東京化成工業)0.16gを加え、36時間加熱還流した。室温に戻した後、メタノール:水=1:1の混合液25mLを加え、5N塩酸で酸性にした。その後ジエチルエーテル100mLで抽出し、水100mLで洗浄後、有機層溶液を減圧濃縮した。 次に、濃縮した有機層を、冷却管を取り付けたナスフラスコに移し、水酸化ナトリウム1.25g、エタノール30mL及び水5.5mLを加え、24時間加熱還流した。得られた溶液を室温に戻し、5N塩酸で酸性にした後、ジエチルエーテル100mLで抽出し、水100mLで洗浄した後、硫酸マグネシウムにて乾燥を行った。溶液を減圧留去し、5-メチル-4-ヘキセン酸を1.67g(収率67%)得た。実施例3 合成した中鎖脂肪酸(カルボン酸(1)及びイソ吉草酸)の嗅覚閾値を測定し、それらのニオイ強度を客観的に評価した。(閾値測定方法) H. Boelensらの方法(H. Boelens et al; Perfumer & Flavoerist, 8 (1983), 71-74)に従い、溶液中濃度のヘッドスペースの閾値を測定した。 具体的には、3つのグラスに特定の濃度のサンプルを250mLずつ入れ、これを複数人の専門パネラーが嗅ぐことでニオイの有無を判定する。いくつかの濃度のサンプルで専門パネラーが臭いの判定を行い、ニオイがあると判定するパネラーの割合と濃度の関係を測定する。この際、半数以上がニオイがあると判定する濃度を閾値として決定した。 その結果、表2に示すように、カルボン酸(1)は、比較対照としたイソ吉草酸と同等、もしくはそれ以上の低いニオイ閾値を有し、低濃度においても強くニオイを感じられることが分かった。実施例4 カルボン酸(1)が、実際に衣類にどの程度付着した際に、どの程度ニオイとして認識されるかを確認するため、次のような実験を行った。 10gのタオル片に一定濃度の中鎖脂肪酸(カルボン酸(1)又はイソ吉草酸)のアセトン希釈溶液1mLを供与し、その後アセトンのみを乾燥させるため10分間室温にて乾燥させた。その後、これら中鎖脂肪酸含浸タオルについて、専門パネラー3名が官能評価によりニオイ強度を判定した。官能評価は以下の6段階で行い、その平均値を表3に示す。 5:非常に強く臭う 4:強く臭う 3:はっきり臭う 2:やや臭う 1:わずかに臭う 0:臭わない 評価の結果、最もニオイ強度の強い4-メチル-3-ヘキセン酸は、100ppt(タオル中濃度)以上でニオイとして認識可能であり、1ppb程度では非常に強いニオイを感じた。実施例5 カルボン酸(1)のニオイの質がどの程度生乾き臭を連想させるのかを評価するため、布中に10ppm中鎖脂肪酸(カルボン酸(1)又はイソ吉草酸)を含むタオルを調製し、官能評価した。中鎖脂肪酸含浸タオルの作製は、実施例4に準じて行った(10gタオル片に中鎖脂肪酸の100ppmアセトン溶液を1mL含浸、アセトン揮散のため10分室温で乾燥)。その後タオル片を専門パネラー3名が官能評価した。官能評価は以下の6段階で行い、その平均値を取った。また、同時にニオイの質についても評価した。これらの結果を表4に示す。 5:非常に強く生乾き臭を感じる 4:生乾き臭を強く感じる 3:生乾き臭をはっきり感じる 2:生乾き臭をやや感じる 1:生乾き臭をわずかに感じる 0:生乾き臭としては感じない 評価の結果、単品化合物で本発明品はそれぞれは生乾き臭を連想させ、4-メチル-3-ヘキセン酸が最も強く生乾き臭のニオイを有していた。また、4-メチル-3-ヘキセン酸はイソ吉草酸と等量混合することによって、更に生乾き臭のニオイとして認知されるようになった。実施例6〜9及び比較例1 表5に示す擬似生乾き臭(部屋干し臭)組成物を調製し、下記の評価方法に基づいて官能評価を行った。表5中の各成分の含有量は質量%である。(評価方法) 室温(25℃)、湿度65%の環境に保たれた室内にて、5×5cmの未使用のタオル(木綿製)に、各擬似生乾き臭組成物をイオン交換水にて1000倍に希釈したものを0.1mL塗布した。このタオルのニオイがどの程度生乾き臭に近いかについて、4人の専門評価者によって、10段階の官能評価(10:非常に生乾き的なニオイ〜1:生乾きのニオイではない)を行い、その平均値を表5に示した。 繊維製品から生乾き臭成分を抽出し、抽出液に含まれる下記一般式(1)で表されるカルボン酸及び当該カルボン酸のカルボキシ基に原子又は原子団を導入してなるカルボン酸誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種の量を分析する生乾き臭判定方法。〔式中、R1及びR2はそれぞれ水素原子又はメチル基を示し、破線は二重結合であってもよいことを示し、そのうち少なくとも1箇所は二重結合である。〕 下記一般式(1)で表されるカルボン酸及び当該カルボン酸のカルボキシ基に原子又は原子団を導入してなるカルボン酸誘導体よりなる群から選ばれる少なくとも1種を用いる、繊維製品用処理剤の生乾き臭に対する有効性判定方法。〔式中、R1及びR2はそれぞれ水素原子又はメチル基を示し、破線は二重結合であってもよいことを示し、そのうち少なくとも1箇所は二重結合である。〕


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