生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_微生物のフィード培養による目的物質の製造法
出願番号:2009223630
年次:2011
IPC分類:C12P 13/22,C12N 1/20


特許情報キャッシュ

山下 穣 JP 2011072191 公開特許公報(A) 20110414 2009223630 20090929 微生物のフィード培養による目的物質の製造法 味の素株式会社 000000066 川口 嘉之 100100549 松倉 秀実 100090516 遠山 勉 100089244 佐貫 伸一 100126505 丹羽 武司 100131392 山下 穣 C12P 13/22 20060101AFI20110318BHJP C12N 1/20 20060101ALN20110318BHJP JPC12P13/22 CC12N1/20 A 3 1 OL 13 4B064 4B065 4B064AE29 4B064CA02 4B064CC03 4B064CD09 4B065AA26X 4B065AC14 4B065BB15 4B065BB16 4B065CA17 本発明は、微生物を用いた目的物質の製造方法に関し、特に、培養器に糖粉末をフィードしながら培養を行う方法に関する。 L−アミノ酸や核酸などの物質は、微生物を用いた発酵法により製造されている。発酵法においては、目的物質の収量はグルコースやスクロース等の炭素源の量に依存するが、培地中の糖濃度が高すぎると微生物の生育が悪くなったり、目的物質の生産性が低くなるため、培地中の糖の消費に応じて糖液をフィードしながら培養を行われることが多い。 糖液は通常、糖液を発酵槽に送液するためのフィード管を通してフィードされるが、糖濃度が高いとフィード管中で糖が固結することがあるため、従来、糖濃度は高くても750g/L程度である。しかしながら、糖液をフィードすることによって発酵槽中の培地の液量が増加するため、フィードできる糖液の量に限界があり、培地成分が希釈されるなどの問題がある。 また、発酵に用いる培地の炭素源として、複数の糖の混合物、例えばグルコースとフルクトースの混合物(特許文献1)、グルコースとスクロースの混合物(特許文献2)が開示されている。 しかしながら、フィード糖として、糖の物理的形態や組成について検討を行ったとの報告は知られていない。欧州特許出願公開第1225230号特開2006−204132 本発明は、フィード培養において、糖液をフィードすると発酵槽等の培養器中の培地の液量が増加すること、及び、糖液の濃度を高くするとフィード管中で糖が固結するといった問題を回避するための技術を提供することを課題とする。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、粉末状の糖を培養器にフィードすることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち本発明は、以下のとおりである(1)目的物質生産能を有する微生物を培養器中の液体培地で培養し、同培地から目的物質を回収する、目的物質の製造方法であって、 前記培養器にはスクロース、又はスクロース及びグルコースを含む糖の粉末を連続的又は間歇的にフィードすることを特徴とする方法。(2)前記糖が、95重量%以上のスクロースと、5重量%以下のグルコースからなる混合物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。(3)前記糖が、140℃以上、かつ、175℃以下で乾熱殺菌されたものである、請求項1又は2に記載の方法。 本発明により、フィード培養において、従来よりも培養器中の培地の液量の増加を低減することができる。また、本発明の方法では、フィード液中での糖の固結及び結晶化という従来技術の問題点を克服することができる。本発明の方法に用いる発酵装置の一形態を示す図。 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明は、目的物質生産能を有する微生物を培養器中の液体培地で培養し、同培地から目的物質を回収する、目的物質の製造方法であって、前記培養器にはスクロース、又はスクロース及びグルコースを含む糖の粉末を連続的又は間歇的にフィードすることを特徴とする方法である。以下、このようにフィード糖のフィードを伴う培養を、「フィード培養(fed-batch culture)」ということがある。また、フィードされる糖の粉末を「フィード糖」ということがある。 本発明においては、フィード糖は、スクロース、又はスクロース及びグルコースを含む。スクロース、又はスクロース及びグルコースを「含む」とは、スクロース、又はスクロース及びグルコースのみを含んでいてもよく、スクロース及びグルコース以外の糖を、微量含んでいてもよいことも意味する。スクロース及びグルコース以外の糖としては、フルクトースが挙げられる。このようなスクロース及びグルコース以外の糖は、フィード糖全量に対して、50重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは2重量%以下であることが好ましい。 フィード糖中のスクロースとグルコースの量比は、フィード糖の各成分が融解及び潮解せず、かつ、微生物の生育又は目的物質産生のための炭素源として利用され得る限り特に制限されない。スクロースの融点は186℃であり、α−D−グルコースの融点は146℃、β−D−グルコースの融点は150℃であるので、スクロースとグルコースの量比は、殺菌温度に応じて適宜設定することができる。あるいは、スクロースとグルコースの量比に応じて殺菌温度を設定してもよい。殺菌温度に応じたスクロースとグルコースの好適な量比は、実施例に記載した方法に準じて適宜設定することができる。例えば、殺菌温度が175℃の場合は、スクロースはスクロースとグルコースの合計量に対して95重量%以上であることが好ましく、99重量%以上であることがより好ましい。また、グルコースはスクロースとグルコースの合計量に対して5重量%以下であることが好ましく、1重量%以下であることがより好ましい。殺菌温度がこれよりも低い場合は、グルコースの量は上記範囲を超えてもよい。 フィード糖は、スクロース粉末及びグルコース粉末を所定量混合することによって調製することができる。フィード糖が、スクロースのみからなる場合は、スクロース粉末をそのまま使用することができる。また、フィード糖がスクロース及びグルコース以外の糖を含む場合は、当該糖の粉末を、スクロース粉末、又はスクロース粉末及びグルコース粉末と混合すればよい。粉末の大きさ(粒径)は特に制限されないが、好ましくは0.01mm〜2mm、より好ましくは0.01mm〜0.5mm、さらに好ましくは0.01mm〜0.05mmである。尚、固体状の各々の糖を混合した後、粉砕し、必要に応じて整粒してもよい。 フィード糖は、培養器に投入される前に殺菌される。フィード糖を調製した後に殺菌してもよく、殺菌した各々の成分を混合してフィード糖を調製してもよい。好ましくは、各々の成分を混合してから殺菌される。 殺菌の方法は、フィード糖の各成分が融解及び潮解せず、かつ、微生物の生育又は目的物質産生のための炭素源としての性質が維持されるものであれば特に制限されないが、乾熱処理(dry heat)、赤外線照射、紫外線又はエックス線もしくはガンマ線等の放射線照射等が挙げられる。 尚、殺菌処理等によって、フィード糖中のスクロースがグルコースとフルクトースに分解し、糖組成が変化することがある。このように糖組成が変化しても、フィード糖が微生物の生育又は目的物質産生のための炭素源として利用され得る限り、そのようなフィード糖は本発明の範囲に含まれる。 これまで、スクロースやグルコース等の糖、特に固体状の糖を高温に置いたときに、物性がどのように変化するのか詳細は知られていなかった。また、変化が生じた場合に、糖微生物による資化性にどのような影響があるのかも知られていなかった。本発明により、好適な条件で殺菌した糖粉末は、微生物の生育又は有用物質産生のための炭素源として好適であることが示された。 フィード糖の殺菌温度は、140℃以上、かつ、スクロースの融点である186℃よりも低いことが好ましい。また、175℃以下であることがより好ましい。フィード糖におけるグルコースの割合によっては、より低い温度が好ましい。 殺菌時間は、温度によっても異なり得るが、通常15分以上、又は30分以上で目的を達成することができる。また、殺菌時間は90分以下であることが好ましいが、本発明の目的を達成し得る限り、それより長くてもよい。殺菌方法によっては、フィード糖自体の温度上昇に時間がかかる場合があるが、そのような場合は、フィード糖の温度が140℃に達してから、前記時間殺菌することが好ましい。 本発明において、グルコース及びスクロースは、精製されたものであっても、粗精製物であってもよい。グルコースとしてはタピオカ糖、精製グルコース等が挙げられ、スクロースとしては粗糖(サトウキビ由来)、精製スクロース等が挙げられる。 本発明においてフィード糖は、本発明の効果を損わない限り、スクロース、又はスクロース及びグルコース、並びに許容範囲内で含まれ得るこれらの分解物の他に、他の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、リン酸、リン酸カリウム、硫安、消泡剤、マグネシウム、要求性アミノ酸、培地成分が挙げられる。また、本発明のフィード糖の他に、必要に応じて、培地成分等を含む他のフィード液をフィードしてもよい。 糖のフィードの方法は特に制限されず、粉体を供給する種々の手段を採用することができる。例えばフィード糖を、フィード糖を収容する貯槽と培養器を連通する管に投入し、空気等の気体によってフィード糖を培養器に圧送する方法が挙げられる。管と培養器との間には、ホッパー、スクリューフィーダー等の粉体供給装置を介在させてもよい。また、糖のフィード量は、センサー、弁等を用いて調節することができる。 殺菌装置は特に制限されず、例えば電気オーブンや放射線発生装置等が挙げられる。培養装置において殺菌装置を設ける位置は特に制限されず、例えば、フィード糖を収容するフィード糖貯槽と培養器の間に設けることができる。 微生物の培養は、所定のフィード糖粉末を、培養器に連続的又は間歇的にフィードする以外は、通常の発酵と同様にして行うことができる。培養器としては、発酵槽又はファーメンター等の、通常の培養器を用いることができる。本発明に用いられる培養装置の一例については後述する。 本発明において生産される目的物質は、グルコース及びスクロースを炭素源として微生物により製造され得るものであれば特に制限されず、アミノ酸、核酸、ビタミン、抗生物質、成長因子、生理活性物質、タンパク質などが挙げられる。これらの目的物質は、塩であってもよい。 アミノ酸としては、L−グルタミン酸、L−グルタミン、L−リジン、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−バリン、L−トリプトファン、L−フェニルアラニン、L−チロシン、L−スレオニン、L−メチオニン、L−システイン、L−シスチン、L−アルギニン、L−セリン、L−プロリン、L−アスパラギン酸、L−アスパラギン、L−ヒスチジン、グリシン、及びL−アラニン等が挙げられる。アミノ酸は、フリー体のアミノ酸であってもよく、硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の塩であってもよい。 核酸としては、イノシン、グアノシン、キサントシン、アデノシン、イノシン酸、グアニル酸、キサンチル酸、アデニル酸等が挙げられる。核酸は、フリー体の核酸であってもよく、ナトリウム塩、カリウム塩等の塩であってもよい。 本発明に用いる微生物としては、スクロース、又はスクロース及びグルコースを炭素源として目的物質を生産し得るものであれば特に制限されず、エシェリヒア(Escherichia)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、パントエア(Pantoea)、クレブシエラ(Klebsiella)属、ラウルテラ(Raoultella)属、セラチア(Serratia)属、エルビニア(Erwinia)属、サルモネラ(Salmonella)属、モルガネラ(Morganella)属などのγ−プロテオバクテリアに属する腸内細菌や、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属、ミクロバクテリウム属に属するいわゆるコリネ型細菌、アリサイクロバチルス(Alicyclobacillus)属、バチルス(Bacillus)属などの細菌、サッカロマイセス(Saccharomyces)属やキャンディダ(Candida)等に属する酵母などが挙げられる。 L−アミノ酸生産菌もしくは核酸生産菌又はその育種に用いられる微生物、及びL−アミノ酸生産能及び核酸生産能の付与及び増強の方法については、WO2007/125954、WO2005/095627、米国特許公開公報2004-0166575号等に詳述されている。 培地は、通常の微生物を用いた目的物質の製造に用いる培地、具体的には炭素源、窒素源、無機塩類、その他必要に応じてアミノ酸、ビタミン等の有機微量栄養素を含有する培地を用いることができる。合成培地または天然培地のいずれも使用可能である。 初発培地に含まれる炭素源は、スクロース及び/又はグルコースであってもよく、他の炭素源、又はそれらの混合物であってもよい。他の炭素源としては、グリセロール、フルクトース、マルトース、マンノース、ガラクトース、澱粉加水分解物、糖蜜等の糖類、及び、酢酸、クエン酸等の有機酸、エタノール等のアルコール類が挙げられる。 窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等のアンモニウム塩または硝酸塩等が使用することができる。 有機微量栄養素としては、アミノ酸、ビタミン、脂肪酸、核酸、更にこれらのものを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆たん白分解物等が使用でき、生育にアミノ酸などを要求する栄養要求性変異株を使用する場合には要求される栄養素を補添することが好ましい。 無機塩類としてはリン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等が使用できる。 培養条件は、使用する微生物に応じて、適宜設定すればよい。 フィード培養を行う培地には、寒天培地等の固体培地で斜面培養した微生物を直接接種してもよいが、微生物を予め液体培地で培養(種培養又は前培養)したものを接種するのが好ましい。種培養又は前培養は、通常の方法で行うことができる。 フィード糖のフィード量、及びフィードのタイミングは、従来の糖液を用いたフィード培養に準じて、微生物による培地中の糖消費等に応じて適宜設定することができる。例えば、培地中の糖濃度を測定し、糖が枯渇した時点、又は糖濃度が所定値以下になったときにフィードする方法が挙げられる。また、フィードは、連続的に行ってもよく、間歇的に行ってもよい。 培養終了後の培養液から目的物質を採取する方法は、目的物質の種類に応じて公知の回収方法に従って行えばよい。例えば、目的物質がアミノ酸であれば、培養液から菌体を除去した後に濃縮晶析する方法あるいはイオン交換クロマトグラフィー等によって採取される。培養終了後の培地液からの目的物質の採取は、本願発明において特別な方法は必要ない。本発明において採取される目的物質は、目的物質以外に微生物菌体、培地成分、水分、及び微生物の代謝副産物を含んでいてもよい。 以下に、本発明を実施するための培養装置の一例を、図1に基づいて説明するが、本発明はこの培養装置の使用に限定されない。 培養装置は、培養器1と、この培養器1にフィードされるフィード糖を収容するフィード糖貯槽18と、フィード糖貯槽からフィード糖を培養器1に供給するためのフィード糖移送管17を供えている。培養器1は、培地を攪拌する攪拌翼5と、この攪拌翼5を回転させるための撹拌モーター6を備えている。フィード糖貯槽18に収容されたフィード糖は、フィード糖移送管17に送り込まれる。フィード糖の量は、第1のフィード量調節弁19で調節される。フィード糖移送管17に投入されたフィード糖は、フィード糖移送管17に供給される空気によって、定量フィーダー13に圧送される。定量フィーダー13でフィード量を調節されながらフィード糖は、コンベア21によって殺菌室22に移送され、加熱器12で殺菌される。殺菌されたフィード糖は、ホッパー10によって、ホッパ10の排出口に垂設されたスクリューフィーダー9に流下され、培養器1にフィードされる。ホッパー10にはレベル計11が設置され、所定量を超えるフィード糖がホッパー10に供給されないように、フィード糖添加コントローラー15及び第2のフィード量調節弁14によって調節される。培養器1にフィードされるフィード糖は、スクリューフィーダー9と培養器1の間に設けられた第3のフィード量調節弁によっても調節される。培養器1には、図示されない糖濃度測定装置を設け、培地中の糖濃度を測定し、測定値に応じてフィード量を調節してもよい。また、培養器1に投入されるフィード糖の量を、経時的に又は累積的に計量、記録する手段を培養装置に設けてもよい。計量値は、例えば定量フィーダー13及びフィード糖添加コントローラー15の動作の指標として用いられる。 フィード糖移送管17の、フィード糖貯槽18との連結部の上流には、空気調節弁20が設けられている。定量フィーダー13は、バグフィルター16を介して外部と連通しており、定量フィーダー13に送られたフィード糖のうち微粉末はこのバグフィルター16により回収される。 殺菌室内でのフィード糖の殺菌は、加熱温度及び加熱時間により調節することができる。また、殺菌室22へのフィード糖の移送と殺菌は、連続的に行ってもよく、バッチ式で行ってもよい。さらに、殺菌室22と加熱器12は、例えば電気オーブンとして一体化されてもよい。その他、殺菌室及び加熱室の構成は、殺菌方法によって種々変更が可能である。 培養器1には、微生物の生育又は目的物質の産生を促進するために、気体供給管2より空気、又は酸素もしくは二酸化炭素等を含む気体を供給してもよい。培養器1には、気体を排出するための排気管が設けられており、供給された気体、及び発酵により生じた気体又はその一部は泡沫3となり、その後排気管4より外へ放出される。 以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。〔実施例1〕スクロース粉末の殺菌条件の検討(1) 試験管に、粗糖粉末(サトウキビ由来。粉末の大きさ 平均1.5mm、スクロースを99重量%含む。以下、「スクロース」と記載することがある。)を1gずつ入れ、乾熱滅菌器を用いて50℃、80℃、110℃、又は140℃で30分、60分、又は90分間、乾熱処理した。これらのスクロース粉末をLB培地(50mL)に投入し、24時間、48時間、又は72時間、振とう培養(37℃、115rpm)を行った。各々の培養液を適宜希釈し、0.5mLトリプトソーヤ寒天培地に植菌し、37℃で培養した。24時間後に、培地上のコロニーの有無を目視により判定した。結果を表1に示す。この結果から、スクロース粉末は、140℃、30分の乾熱処理により殺菌が可能であることが示された。〔実施例2〕スクロース粉末の殺菌条件の検討(2) スクロース(粉末の大きさ 平均1.5mm)1gを薄くアルミニウム箔の上に敷き、140℃の乾熱滅菌装置内に置いた。その後、1〜30分の各々の時間に試料を取り出し、フラスコ中の50mlのLB培地に各々加えて溶解させ、37℃で培養した。24時間、48時間、及び72時間後に、培地中の雑菌の繁殖の有無を目視により評価した。ポジティブコントロールとして、乾熱殺菌を施さないスクロースを用いて同様に培養を行ったところ、雑菌数は1×107個/mlであった。結果を表2に示す。いずれの培養時間でも同じ結果であった。140℃では15分の乾熱処理でも殺菌が可能であることが示された。〔実施例3〕スクロース及びグルコースの混合糖粉末の殺菌条件の検討 スクロース粉末(粉末の大きさ 平均0.5mm)、及びグルコース粉末(粉末の大きさ 平均0.5mm)の混合物(量比は表3に示す)を、175℃で、30分乾熱処理し、融解の有無を目視により判定した。結果を表3に示す。グルコースの割合が少なくとも5重量%以下であると、175℃の乾熱処理でも融解しないことが示された。〔実施例4〕乾熱殺菌スクロース粉末を用いたエシェリヒア・コリの培養 エシェリヒア・コリK12株から誘導されたL−フェニルアラニン生産菌を、1L培養器中の下記組成の培地300mlに接種し、35℃で振盪培養した(1000rpm)。培養J1では、スクロースは培地に溶解してからオートクレーブ殺菌した。培養J2では、乾熱殺菌(乾熱滅菌器中、140℃、30分)したスクロース粉末(粉末の大きさ 平均1.5mm)をオートクレーブした培地に溶解し、滅菌水で所定の液量(300ml)となるようにフィルアップした。培養21時間後の培養液中のL−フェニルアラニン濃度をアミノ酸アナライザーにより定量した。結果を表4に示す。L−フェニルアラニン濃度は、J1における値を1とする相対値で示した。また、培養21時間後の生育を濁度計にて測定した。結果を表4に示す。生育は、J1における値を1とする相対値で示した。〔培地組成〕スクロース 30g/LMgSO4・7H2O 1g/L大豆加水分解液 300mg/L(総窒素量として)H3PO4 0.7g/L(NH4)2SO4 1g/LビタミンB6 0.7mg/LビタミンB12 0.01mg/LFeSO4・7H2O 10mg/LMnSO4・5H2O 8mg/LKOH 1.7g/L消泡剤 0.05ml/LpH6.5 エシェリヒア・コリの生育はJ1及びJ2で同等であり、微生物に対する炭素源として、乾熱殺菌したスクロースはオートクレーブ殺菌したスクロースと同等であることが示された。また、乾熱殺菌したスクロースは、L−フェニルアラニン生産の炭素源として好適に使用できることが示された。〔実施例5〕乾熱殺菌スクロース粉末を用いたL−フェニルアラニン生産培養 エシェリヒア・コリK12株から誘導されたL−フェニルアラニン生産菌を、実施例4と同様にして(スクロースはオートクレーブ殺菌)培養し、その培養液を5.0V/V%となるように、1L培養器中の下記組成の主発酵培地250mlに接種し、36℃で振盪培養した(1000rpm)。尚、前記培地において、スクロースとMgSO4・7H2Oは他の成分とは別にオートクレーブし、各成分を混合した後、最終的に滅菌水で所定の液量(250ml)となるようにフィルアップした。〔主発酵培地〕スクロース 40g/LMgSO4・7H2O 2g/L大豆加水分解液 100mg/L(総窒素量として)H3PO4 0.8g/L(NH4)2SO4 2g/LビタミンB6 0.7mg/LビタミンB12 0.004mg/LFeSO4・7H2O 20mg/LMnSO4・5H2O 20mg/LKOH 0.7g/L消泡剤 0.02ml/LpH 7 培養中、スクロースを表5に示すタイミング及び量でフィードした。糖は、培地中に残糖がないことを確認しながらフィードした。表5に記載されたスクロースの量は、累積量である。 培養J-1では、フィード糖として、オートクレーブ殺菌したスクロース溶液(600g/L)を用いた。 培養J-2では、140℃で乾熱殺菌(乾熱滅菌器中、30分)したスクロース粉末(粉末の大きさ 平均1.5mm)を用いた。 培養J-3では、200℃で乾熱殺菌(乾熱滅菌器中、30分)したスクロース粉末(粉末の大きさ 平均1.5mm)を用いた。この200℃で殺菌したスクロースは、全溶解しており、室温にて無菌的に固体化させた後、ハンマーにて細かく破砕し用いた(粉末の大きさ 平均1.5mm)。 培養35時間後、培地中のL−フェニルアラニン濃度を定量した。結果を表6に示す。L−フェニルアラニンの対糖収率、生産性(生産速度:単位時間当りの生産量)、収量(最終的な培地中のL−フェニルアラニン濃度)、及び最終液量は、各々J-1における値を1とする相対値で示した。 従来法(J-1)に比べて、本発明の方法(J-2)では、生産性及び収量が向上した。また、過剰殺菌したスクロースを用いた培養(J-3)では、対糖収率、生産性、及び収量のいずれも他の培養に比べて低かった。エシェリヒア・コリの生育は、J-1及びJ-2では同等であったが、J3では糖フィード後の生育がJ-1及びJ-2に比べて劣っていた。1 培養器2 気体供給管3 泡沫4 排気管5 攪拌翼6 攪拌モーター7 フィード量調節弁8 フィード糖添加コントローラー9 スクリューフィーダー10 ホッパー11 レベル計(粉面計)12 加熱器13 定量フィーダー14 フィード量調節弁15 フィード糖添加コントローラー16 バグフィルター17 フィード糖移送管18 フィード糖貯槽19 フィード量調節弁20 空気調節弁21 コンベア22 殺菌室 目的物質生産能を有する微生物を培養器中の液体培地で培養し、同培地から目的物質を回収する、目的物質の製造方法であって、 前記培養器にはスクロース、又はスクロース及びグルコースを含む糖の粉末を連続的又は間歇的にフィードすることを特徴とする方法。 前記糖が、90重量%以上のスクロースと、10重量%以下のグルコースからなる混合物であることを特徴とする請求項1に記載の方法。 前記糖が、140℃以上、かつ、175℃以下で乾熱殺菌されたものである、請求項1又は2に記載の方法。 【課題】フィード時に糖が溶解、固結することなく殺菌可能となる条件下、培養器に前記糖粉末をフィードし、それを用いた目的物質の製造法を提供する。【解決手段】目的物質生産能を有する微生物を培養器中の液体培地で培養し、同培地から目的物質を回収する、目的物質の製造方法において、前記培養器にはグルコース及びスクロースを含むフィード糖粉末を、フィード管を通して連続的又は間歇的にフィードし、高生産性を可能とする発酵プロセス法。【選択図】図1


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