生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_グアイアコール産生菌の検出法および検出キット
出願番号:2009222796
年次:2011
IPC分類:C12Q 1/02,C12N 1/00


特許情報キャッシュ

村上 弘晃 高瀬 雅典 JP 2011019506 公開特許公報(A) 20110203 2009222796 20090928 グアイアコール産生菌の検出法および検出キット カルピス株式会社 000104353 大野 聖二 230104019 森田 耕司 100106840 田中 玲子 100105991 北野 健 100114465 村上 弘晃 高瀬 雅典 JP 2009142242 20090615 C12Q 1/02 20060101AFI20110107BHJP C12N 1/00 20060101ALI20110107BHJP JPC12Q1/02C12N1/00 F 20 OL 13 4B063 4B065 4B063QA01 4B063QA18 4B063QQ06 4B063QR41 4B063QX01 4B065AA01X 4B065BB01 4B065BB04 4B065BC31 4B065BC38 4B065CA41 本発明は果汁原料中のグアイアコール産生菌の検出法および検出キットに関する。 果汁飲料や果汁加工食品の原料となる果汁には、通常の酸性飲料や食品の加熱殺菌条件下でも生存しうる耐熱性好酸性菌(TAB)が含まれることが知られている。代表的な耐熱性好酸性菌であるAlicyclobacillus属の細菌のうち、Alicyclobacillus acidoterrestris(AAT)およびAlicyclobacillus acidiphilus(AAP)は、グアイアコール産生菌であることが知られている(以下、グアイアコール産生菌という)。特に、AATは、バニリンおよびバニリン酸を経てグアイアコールを産生する菌であることが報告されている。(果汁協会報2005年12月号、p.1-15;非特許文献2)。グアイアコールは、毒性はないが異臭を有しているため、製品中にグアイアコール産生菌が含まれると、飲料の風味が著しく悪化する。特に、原料果汁中のAATが問題になることが多くみられた。したがって、原料果汁や果汁飲料製品中のグアイアコール産生菌の存在を検査することは、原料および製品の品質管理において非常に重要である。 AATの検出方法としては、バニリンを添加した液体培地に果汁飲料を添加して培養し、グアイアコールの臭気を官能検査で確認する方法(特開平7−123998;特許文献1)、検体を含む培養液をバニリン酸の存在下でインキュベーションし、生成するグアイアコールを、さらにペルオキシダーゼ法による処理により呈色させて、定性または特別な装置を用いた分光定量分析によりグアイアコール産生菌の存在を確認する方法(特開2004−201668;特許文献2)、グアイアコール生成酵素遺伝子に特異的なプライマーを用いてPCRにより検出する方法(特開2003−000259;特許文献3)等が知られている。 現在広く用いられているAATの検出方法は、上記の特許文献2の技術を基にするもので、検体をバニリン酸を含む液体培地で培養して、生成したグアイアコールを検出することにより、間接的にAATの有無を判別するペルオキシターゼ法である。 しかしながら、ペルオキシターゼ法では、液体培地中でAATを増殖させるために、適切な前培養が必要となるため、作業が煩雑になり、結果を得るまでに時間を要することになる。例えば、検体のAATを定量的に検出するために、まず平板培地でコロニーを形成させ、複数のコロニーを釣菌し、それぞれのコロニーをさらに液体培地で培養するという、煩雑な作業と4〜6日間の期間が必要となる。 さらに、ペルオキシダーゼ法によりAATの有無を判別する場合には、ペルオキシダーゼの作用によりグアイアコールがテトラグアイアコールに変換され、褐色に着色することで判別するため、検体がこの色調に近いオレンジ果汁などの原料や培地である場合には判別が難しくなる。原料のロットや培地のオートクレーブ条件などによる影響も合わせると、目視で比色判定するためには、判定者に相当の熟練が必要である。また、正確な判定のためには、検体ごとおよび培地ごとに検量線を作成したうえで、分光光度計で分析するか、GC−MSで分析する必要があり、高価な分析機器や煩雑な作業がさらに必要となる。 一方、固体培地を用いる方法として知られている、30℃培養法の原理は、培養温度によりグアイアコール産生菌とグアイアコール非産生菌との選別を行うことにある。例えば、AATの生育至適温度(40〜50℃)より低い30℃で培養を行いコロニーの有無を確認する。しかし、30℃培養では、AATの生育も低下するため、AATの検出感度が低下するばかりか、生育温度域の低い対象外のグアイアコール非産生菌が検出されることがある。このため、30℃培養法を行う場合、前培養を行いAATの検出感度を上げているが、この場合、全工程で8〜10日という時間を要するばかりか、選択性も十分とは言えない。さらに、前培養を行うため定量性が得られないという問題がある。 さらに、柑橘系の果物やぶどうに含まれるポリフェノール類等の成分がAATの増殖を阻害することが知られている。このため、100%果汁などの果汁濃度の高い原料を検査する場合には、検体を適切に希釈して試験する必要がある。例えば、オレンジ果汁では1%に希釈してから試験するが、果汁の種類や産地によって希釈率を検討することが必要となり、上記の各試験の操作をさらに複雑にしている。 したがって、複雑な操作や高価な機器や作業者の熟練を必要とせずに、原料果汁にグアイアコール産生菌が存在するか否かを短時間で正確に判断する方法が求められている。さらに、果実生産地や果汁原料製造施設でも検査できる簡便な方法が求められている。特開平7−123998特開2004−201668特開2003−000259「耐熱性好酸性細菌統一検査法ハンドブック」、社団法人日本果汁協会、2005年 P.25果汁協会報2005年12月号 p.1−15 本発明の目的は、果汁原料などの検体中に存在するグアイアコール産生菌を検出するための、迅速かつ簡便な方法を提供することである。 本発明者らは、メトキシフェノール骨格を有する化合物を特定の濃度範囲で含む固体培地を用いることにより、培地上でグアイアコール産生菌のみが選択的に増殖してコロニーを形成しうることを見いだした。固体培地上のコロニー形成を検出することにより、被検サンプル中に存在するグアイアコール産生菌の有無を簡便に検出することができ、さらに、コロニーを計数することにより、被検サンプル中に存在するグアイアコール産生菌の数を簡便に測定することができる。 本発明は、次式:[式中、Rは、-H、-OH、-C(O)H、-C(O)CH3、-COOH、C1-C3のアルキル基またはC1-C3のアルケニル基であり、該アルキル基およびアルケニル基は、-OH、-C(O)Hまたは-COOHで置換されていてもよい]で表される化合物の1種またはそれ以上を含む好酸性菌用固体培地上で検体もしくはその希釈物を培養し、形成されたコロニーを検出することを特徴とする、検体中のグアイアコール産生菌の検出方法を提供する。具体的には、従来の方法で必要とされていた前培養や定性分析のために必要な処理(ペルオキシターゼ法による呈色)を要せず、直接検出でき、かつ直接定量できる方法を提供する。好ましくは、化合物は、バニリン、バニリン酸、フェルラ酸、グアイアコール、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルアクリルアルデヒド、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルプロピオン酸、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルメチルアルコール、メトキシハイドロキノン、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルアセトアルデヒドおよび4-ビニルグアイアコールからなる群より選択される。さらに好ましくは、化合物は、バニリン、バニリン酸またはフェルラ酸である。 特に好ましくは、好酸性菌用固体培地は、50ppm以上のバニリン酸、500ppm以上のバニリン、または25ppm以上のフェルラ酸を含有する。より好ましくは、好酸性菌用固体培地は50ppm以上225ppm以下、さらに好ましくは50ppm以上75ppm以下のバニリン酸を含有する。好ましくは、平板培養は20℃〜55℃、より好ましくは、30℃〜45℃、特に好ましくは、30℃(27℃〜33℃)で行われる。本発明においては、±10%程度の温度のずれであれば同様の効果が期待できる。 別の観点においては、本発明は、検体中のグアイアコール産生菌を検出するためのキットであって、メトキシフェノール骨格を有する化合物、特にバニリン、バニリン酸またはフェルラ酸のいずれかを含有する滅菌された好酸性菌用固体培地を含むグアイアコール産生菌検出キットを提供する。 さらに別の観点においては、本発明は、メトキシフェノール骨格を有する化合物、特にバニリン、バニリン酸またはフェルラ酸のいずれかを含有する好酸性菌用固体培地からなる、グアイアコール産生菌選択培地を提供する。 本発明の方法を用いることにより、果汁原料などの検体中に存在するグアイアコール産生菌を迅速かつ簡便に検出することができる。 本発明のグアイアコール産生菌検出方法は、メトキシフェノール骨格を有する化合物、特にバニリン、バニリン酸またはフェルラ酸のいずれかを含有する好酸性菌用固体培地上で検体もしくはその希釈物を平板培養し、形成されたコロニーを検出することを特徴とする。グアイアコール産生菌は、バニリンおよびバニリン酸を経てグアイアコールを産生する。フェルラ酸はバニリンの関連物質であるが、AATによるグアイアコール産生には直接関与しないことが報告されている。本発明は、バニリン酸がグアイアコール産生菌の増殖を阻害しないが、グアイアコールを産生しないAlicyclobacillus 属の細菌の増殖を阻害するという発見に基づくものである。これまで、AATがバニリン酸を含む培地中でグアイアコールを生成しうることは知られていたが、バニリン酸を含む固体培地中で、グアイアコール産生菌とグアイアコール非産生菌との増殖速度が異なることは、本発明において初めて見いだされたものである。本発明の方法にしたがえば、グアイアコール非産生菌の増殖が抑制されることにより、グアイアコール産生菌が優先的に増殖するので、グアイアコール産生菌を選択的に検出することができる。 本発明の方法によって検査すべき検体は、飲食品の原料、半加工品および製品であって、耐熱性好酸性菌を含むことが疑われる検体である。具体的には、酸性果汁原料であるオレンジ果汁、りんご果汁、みかん果汁等、これらの半加工品、これらの濃縮果汁、ならびにこれらの果汁原料を用いて製造される飲料および食品が挙げられる。また、耐熱性好酸性菌は飲食品の殺菌のために通常用いられる加熱処理条件では完全に死滅しないこと、阻害物質の存在のために濃い果汁中では増殖しないが希釈果汁を含む製品中で増殖する場合もあることから、原料および製品の性質および流通の形態に応じて、品質管理に必要と考えられる任意の試料を検体とすることができる。本発明の方法によれば、従来の方法で必要とされていた、前培養や確認の為の処理(ペルオキシターゼ法による呈色)を要せず、グアイアコール産生菌を直接検出でき、かつ培地中のコロニーの数を計測することにより、直接定量することが可能である。 さらに、本発明の方法に基づくグアイアコール産生菌培地や、それを利用するグアイアコール産生菌検出キットは、前培養や確認の為の処理に用いる器具や試薬を要しないので、迅速かつ簡便なうえ、コンパクトなものとすることができる。 本発明の方法において検出すべきグアイアコール産生菌は、主として、これまでに同定されているAlicyclobacillus acidoterrestris(AAT)およびAlicyclobacillus acidiphilus(AAP)である。これらのうちAATは果汁原料からしばしば検出されるが、AAPはまれである。このことから、品質管理上は基本的にAATを検出できれば十分と言えるが、本発明の方法は、下記に説明されるように、培地中のバニリン酸の含有量を変えることにより、AATのみを検出できる条件で実施することも、AATとAAPの両方を検出できる条件で実施することもできる。本発明の方法は、グアイアコールを産生しうる他のAlicyclobacillus 属の細菌の検出にも用いることができる。このような細菌については、いくつかの報告があるが、まだ詳細には調べられていない。一方、グアイアコールを産生しないAlicyclobacillus 属の細菌としては、Alicyclobacillus acidocaldarius、Alicyclobacillus pomorum、などが知られている。 本発明の方法においては、グアイアコール産生菌のみが選択的にコロニーを形成する選択培地として、次式:[式中、Rは、-H、-OH、-C(O)H、-C(O)CH3、-COOH、C1-C3のアルキル基またはC1-C3のアルケニル基であり、該アルキル基およびアルケニル基は、-OH、-C(O)Hまたは-COOHで置換されていてもよい]で表される、メトキシフェノール骨格を有する化合物の1種またはそれ以上を含有する好酸性菌用固体培地を用いる。 メトキシフェノール骨格を有する化合物として好ましいものは、バニリン(R=C(O)H)、バニリン酸(R=COOH)、フェルラ酸(R=CH=CH-COOH)、グアイアコール(R=H)、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルアクリルアルデヒド(R=CH=CH-C(O)H)、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルプロピオン酸(R=CH2CH2COOH)、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルメチルアルコール(R=CH2OH)、メトキシハイドロキノン(R=OH)、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルアセトアルデヒド(R=C(O)CH3)、および4-ビニルグアイアコール(R=CH2=CH2)である。これらの化合物はすべて、フェルラ酸の代謝産物として微生物により生産されることが報告されている。 特に好ましくは、メトキシフェノール骨格を有する化合物として、バニリン、バニリン酸またはフェルラ酸のいずれかを用いる。あるいは、バニリン、バニリン酸およびフェルラ酸の2種または3種を混合して用いてもよい。好酸性菌用培地としては、好酸性菌用に一般的に用いられる培地であればいずれのものを用いてもよい。好ましくは、入手が容易であり、研究の蓄積のあるYSG培地(酵母エキス、可溶性デンプン、グルコースを含む、pH3.0〜4.0)を用いる。バニリン、バニリン酸またはフェルラ酸はいずれも市販されている。培地に添加すべきバニリン、バニリン酸またはフェルラ酸の濃度は、AATとAAPの両方を検出すべきか、またはAATのみでよいかによって、以下のように選択することができる。 AATが検出できればよい場合には、50ppm以上のバニリン酸を用いることができる。好ましくは、バニリン酸の濃度は50〜225ppmであり、より好ましくは75〜200ppmであり、さらに好ましくは100〜200ppmである。バニリンを用いる場合には、500ppm以上であればよく、好ましくは900〜1000ppmである。フェルラ酸を用いる場合には、25ppm〜50ppmの濃度であり、好ましくは約50ppmである。 AATとAAPの両方を検出したい場合には、50ppm〜75ppmのバニリン酸を用いることができる。従来の方法は、主としてグアイアコール産生菌の中でも特に汚染の可能性の高いAATについてのみ検査するために用いられているが、本発明の方法では、バニリン酸の添加量を適宜選択することにより、AAPなどの他のグアイアコール産生菌も検出することができる。 バニリン、バニリン酸またはフェルラ酸以外の、メトキシフェノール骨格を有する化合物についても、下記の実施例と同様にして、最適な濃度を求めることができる。 固体培地は、定法にしたがって、YSG培地に寒天および所定量のメトキシフェノール骨格を有する化合物の1種またはそれ以上を加えて、滅菌した後、寒天を固化させることにより製造することができる。培地のpHが低いため、培地と寒天を一緒にオートクレーブ処理すると良好に固化しない場合があるので、寒天量を適宜調節するか、培地と寒天を別々に滅菌した後に混合するか、あるいは中性付近のpHの培地と寒天を滅菌した後に酸を加えてpHを調節することが好ましい。固体培地は塗抹用にシャーレ中に作成してもよく、混釈用にフラスコ、ボトルなどの中に作成してもよい。 本発明の方法においては、検体をそのままで、あるいは適宜希釈して、固体培地に加えて平板培養する。コロニーの計数を容易にするために、検体は、段階希釈(1,1/10,1/100など)して用いても良い。また、Alicyclobacillus 属の細菌は芽胞を形成するため、検体を培地に加える前に70℃で20分間程度熱処理してヒートショックを与え、菌体を活性化することが好ましい。混釈法により検出する場合には、寒天培地を融解して検体を加え、混和した後にシャーレに移して固化させる。塗抹法により検出する場合には、シャーレ中の固体培地上に検体を塗抹すればよい。メンブレンフィルター法により検出する場合には、検体をメンブレンフィルターを通して濾過した後、このフィルターをシャーレ中の固体培地上に置く。 培養は、グアイアコール産生菌の生育温度域(20℃〜55℃)であればいずれの温度で行ってもよいが、グアイアコール非産生菌からの選択性を高めるためには、50℃以下、より好ましくは45℃以下、さらに好ましくは40℃以下、特に好ましくは30℃(27℃〜33℃)で行う。なお、本発明においては、±10%程度の温度のずれであれば同様の効果が期待できる。本発明においては、驚くべきことに、バニリン酸を固体培地に添加することにより、グアイアコール産生菌の検出感度が非常に向上することが見いだされた。例えば、75ppmのバニリン酸を含む固体培地で、AATを30℃で5日間培養すると、同じ培地で45℃、3日間培養したときと同じ数のコロニーが形成されることが確認された。このことは、AATの生育温度域において、正確に定量できることを示している。すなわち、本発明の方法は、検出感度を著しく高めることから、前培養が不要であるだけではなく、より正確な定量が迅速かつ簡便に行える画期的な方法である。さらに、低温とバニリン酸の影響から、対象外の菌が検出されることもない。また、バニリン酸の代わりにバニリンまたはフェルラ酸を用いた場合にも、同様の傾向が認められた。 培養を所定時間、例えば3〜5日間行った後に、目視でコロニーの有無を調べることにより、検体中にグアイアコール産生菌が存在するか否かを判定することができる。また、コロニーの数を計測することにより、検体の希釈率から容易に検体中の菌体の数を求めることができる。本発明の方法にしたがえば、特別な装置や熟練を必要とせずに、簡便に正確な定量的データを得ることができる。 別の観点においては、本発明は、検体中のグアイアコール産生菌を検出するためのキットを提供する。このキットは、少なくとも、次式:[式中、Rは、-H、-OH、-C(O)H、-C(O)CH3、-COOH、C1-C3のアルキル基またはC1-C3のアルケニル基であり、該アルキル基およびアルケニル基は、-OH、-C(O)Hまたは-COOHで置換されていてもよい]で表される、メトキシフェノール骨格を有する化合物の1種またはそれ以上を含有する好酸性菌用固体培地を含む。好酸性菌用固体培地は、滅菌されシャーレ中に作成された形で提供してもよく、混釈用にフラスコ、ボトルなどの中に作成された形で提供してもよい。メンブレンフィルター法用のキットは、メンブレンフィルターおよび濾過装置をさらに含んでいてもよい。キットはさらに、希釈列作成用のプレート、陽性対照用のグアイアコール産生菌および使用説明書を含むことができる。 以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。実施例1 バニリン、バニリン酸またはフェルラ酸を添加したYSG寒天培地を用いて、耐熱性好酸性菌(TAB)がコロニーを形成しうるか否かを調べた。使用した菌株は、A.acidoterrestris ATCC49025、A.acidiphilus JCM21417、A.acidocaldarius ATCC27009、A.pomorum JCM21459の4菌株である。このうち、A.acidoterrestris ATCC49025、A.acidiphilus JCM21417は、グアイアコールを産生する菌株として報告されている。 YSG培地(メルク(株)、YGS Agar)20.0gとバニリン酸(和光純薬工業(株))(0〜250mg)を水1000gに加温溶解し、高圧蒸気滅菌(121℃、15分間)を実施した。約50℃に冷却後、10%硫酸にてpHを3.7に調製し、平板培地を作製した。 各菌株の菌液に、70℃、20分間のヒートショックを実施した。菌液をリン酸緩衝生理食塩水にて段階希釈して、103CFU/mLとして、100μLずつを平板培地に塗沫して培養した。45℃で3日間培養後、形成したコロニーを目視にて確認した。 バニリン酸を75ppm添加した場合には、グアイアコール産生菌2菌種は無添加培地と同等レベル以上検出したが、その他の2菌種はコロニーを1つも検出しなかった。バニリン酸を100ppm添加した場合には、A.acidoterrestris ATCC49025は無添加培地と同等レベル以上検出したが、その他の3菌種はコロニーを1つも検出しなかった。さらに、バニリン酸を150ppm、200ppm添加した水準においても、A.acidoterrestris ATCC49025は無添加培地と同等レベルの検出性を示した。バニリン酸を225ppm添加するとAATの検出感度が低下し、250ppm以上では検出されなかった。 次に、バニリン酸の代わりに、バニリンまたはフェルラ酸を用いて、同様の実験を行ったが、培地が固化し難い場合には、適宜寒天量を調節した。実施例1の結果を下記の表にまとめて示す。実施例2 バニリン、バニリン酸またはフェルラ酸を添加したYSG寒天培地を用いて、培養温度によるA.acidoterrestris ATCC49025のコロニー検出率の相違を調べた。YSG培地にバニリン酸75ppmを加えて、実施例1と同様にして固体培地を作成し、同数のA.acidoterrestris ATCC49025を含む菌液を平板培地に塗沫して、45℃または30℃で培養した。対照として無添加のYSG培地を用いた。 45℃で3日間培養したときのコロニー数と、30℃で5日間培養したときのコロニー数を下記の表に示す。値は無添加YSG培地で45℃、3日間培養したときのコロニー数を100としたときの相対値である。 無添加YSG培地を用いて30℃で5日間培養すると、45℃で3日間培養したときに比べて十分なコロニーが検出できなかった。このことは、30℃培養法では、前培養が必須であることを裏付けている。 一方、バニリン酸75ppmを加えると、45℃では無添加の培地に比べて多くコロニーが検出された。このことは、バニリン酸の添加によりA.acidoterrestris ATCC49025のコロニー形成が促進され、検出感度が高まったことを示唆する。バニリン酸75ppmの代わりに、バニリン酸50ppm、バニリン750ppm、またはフェルラ酸25ppm用いた場合も、検出感度が高くなった。 さらに、バニリン酸75ppmを添加した場合には、30℃で5日間培養した場合でも、45℃3日間とほぼ同数のコロニーが検出された。バニリン酸の存在がグアイアコール非産生菌の増殖を抑制するという実施例1の結果と合わせると、検体をバニリン酸含有培地を用いて30℃で培養することにより、グアイアコール産生菌を高い感度と特異性をもって検出できることがわかる。 本発明の方法は、飲食品およびその製造原料の品質管理に有用である。本発明の方法は、従来の方法で必要とされていた、前培養や確認の為の処理(ぺルオキシターゼ法による呈色)を要せず、直接グアイアコール産生菌を検出でき、かつ直接定量できるので、品質に悪影響を与える菌の検出のための時間と費用を大幅に削減できる。さらに、本発明の方法に基づくグアイアコール産生菌検出キットは、前培養や確認の為の処理に用いる器具、試薬を要しない、コンパクトで簡便なものであり、迅速に検出できるので、産業上の有用性が高い。次式:[式中、Rは、-H、-OH、-C(O)H、-C(O)CH3、-COOH、C1-C3のアルキル基またはC1-C3のアルケニル基であり、該アルキル基およびアルケニル基は、-OH、-C(O)Hまたは-COOHで置換されていてもよい]で表される化合物の1種またはそれ以上を含む好酸性菌用固体培地上で検体もしくはその希釈物を培養し、形成されたコロニーを検出することを特徴とする、検体中のグアイアコール産生菌の検出方法。好酸性菌用固体培地が、バニリン、バニリン酸、フェルラ酸、グアイアコール、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルアクリルアルデヒド、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルプロピオン酸、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルメチルアルコール、メトキシハイドロキノン、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルアセトアルデヒドおよび4-ビニルグアイアコールからなる群より選択される化合物の1種またはそれ以上を含有する、請求項1記載の方法。好酸性菌用固体培地が、バニリン、バニリン酸またはフェルラ酸のいずれかを含有する、請求項1または2に記載の方法。好酸性菌用固体培地が50ppm以上のバニリン酸、500ppm以上のバニリン、または25ppm以上のフェルラ酸を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。好酸性菌用固体培地が50ppm以上225ppm以下のバニリン酸を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。好酸性菌用固体培地が50ppm以上75ppm以下のバニリン酸を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。培養が20℃〜55℃で行われる、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。培養が27℃〜33℃で行われる、請求項7記載の方法。検体中のグアイアコール産生菌を検出するためのキットであって、次式:[式中、Rは、-H、-OH、-C(O)H、-C(O)CH3、-COOH、C1-C3のアルキル基またはC1-C3のアルケニル基であり、該アルキル基およびアルケニル基は、-OH、-C(O)Hまたは-COOHで置換されていてもよい]で表される化合物の1種またはそれ以上を含有する滅菌された好酸性菌用固体培地を含むキット。好酸性菌用固体培地が、バニリン、バニリン酸、フェルラ酸、グアイアコール、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルアクリルアルデヒド、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルプロピオン酸、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルメチルアルコール、メトキシハイドロキノン、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルアセトアルデヒドおよび4-ビニルグアイアコールからなる群より選択される化合物の1種またはそれ以上を含有する、請求項9記載のキット。好酸性菌用固体培地が、バニリン、バニリン酸またはフェルラ酸のいずれかを含有する、請求項9または10に記載のキット。好酸性菌用固体培地が50ppm以上のバニリン酸、500ppm以上のバニリン、または25ppm以上のフェルラ酸を含有する、請求項9〜11のいずれかに記載のキット。好酸性菌用固体培地が50ppm以上225ppm以下のバニリン酸を含有する、請求項9〜11のいずれかに記載のキット。好酸性菌用固体培地が50ppm以上75ppm以下のバニリン酸を含有する、請求項9〜11のいずれかに記載のキット。次式:[式中、Rは、-H、-OH、-C(O)H、-C(O)CH3、-COOH、C1-C3のアルキル基またはC1-C3のアルケニル基であり、該アルキル基およびアルケニル基は、-OH、-C(O)Hまたは-COOHで置換されていてもよい]で表される化合物の1種またはそれ以上を含有する好酸性菌用固体培地からなる、グアイアコール産生菌検出培地。好酸性菌用固体培地が、バニリン、バニリン酸、フェルラ酸、グアイアコール、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルアクリルアルデヒド、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルプロピオン酸、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルメチルアルコール、メトキシハイドロキノン、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルアセトアルデヒドおよび4-ビニルグアイアコールからなる群より選択される化合物の1種またはそれ以上を含有する、請求項15記載の培地。好酸性菌用固体培地が、バニリン、バニリン酸またはフェルラ酸のいずれかを含有する、請求項15または16に記載の培地。好酸性菌用固体培地が、50ppm以上のバニリン酸、500ppm以上のバニリン、または25ppm以上のフェルラ酸を含有する、請求項15〜17のいずれかに記載の培地。好酸性菌用固体培地が、50ppm以上225ppm以下のバニリン酸を含有する、請求項15〜17のいずれかに記載の培地。好酸性菌用固体培地が、50ppm以上75ppm以下のバニリン酸を含有する、請求項15〜17のいずれかに記載の培地。 【課題】果汁原料などの検体中に存在するグアイアコール産生菌を検出するための迅速かつ簡便な方法の提供。【解決手段】検体中のグアイアコール産生菌の検出方法であって、次式:[式中、Rは、-H、-OH、-C(O)H、-C(O)CH3、-COOH、C1-C3のアルキル基またはC1-C3のアルケニル基であり、該アルキル基およびアルケニル基は、-OH、-C(O)Hまたは-COOHで置換されていてもよい]で表される化合物の1種またはそれ以上を含有する好酸性菌用固体培地上で検体もしくはその希釈物を平板培養し、形成されたコロニーを検出することを特徴とする方法。【選択図】なし


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特許公報(B2)_グアイアコール産生菌の検出法および検出キット

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_グアイアコール産生菌の検出法および検出キット
出願番号:2009222796
年次:2012
IPC分類:C12Q 1/04,C12N 1/20


特許情報キャッシュ

村上 弘晃 高瀬 雅典 JP 5021705 特許公報(B2) 20120622 2009222796 20090928 グアイアコール産生菌の検出法および検出キット カルピス株式会社 000104353 大野 聖二 230104019 森田 耕司 100106840 田中 玲子 100105991 北野 健 100114465 村上 弘晃 高瀬 雅典 JP 2009142242 20090615 20120912 C12Q 1/04 20060101AFI20120823BHJP C12N 1/20 20060101ALI20120823BHJP JPC12Q1/04C12N1/20 A C12Q 1/04 PubMed CA/REGISTRY(STN) MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) SwissProt/PIR/GeneSeq GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq 特開2004−201668(JP,A) 特開2004−041104(JP,A) 特開平10−313892(JP,A) 藤田理英子、外3名, Alicyclobacillus属細菌検出用培地の評価, 果汁協会報, 2009, No.607, pages 1-7 後藤慶一, 高温性好酸性芽胞形成細菌:Alicyclobacillus属細菌, 防菌防黴, 2000, Vol.28, No.8, pages 15-24 新生化学実験講座17 微生物実験法, 東京化学同人, 1992.03.23, 第1版, pages 35 日本果汁協会果汁技術研究発表会特別講演要旨・研究発表要旨,2002年 9月13日,Vol.45,P.19-20 11 2011019506 20110203 11 20090928 清水 晋治 本発明は果汁原料中のグアイアコール産生菌の検出法および検出キットに関する。 果汁飲料や果汁加工食品の原料となる果汁には、通常の酸性飲料や食品の加熱殺菌条件下でも生存しうる耐熱性好酸性菌(TAB)が含まれることが知られている。代表的な耐熱性好酸性菌であるAlicyclobacillus属の細菌のうち、Alicyclobacillus acidoterrestris(AAT)およびAlicyclobacillus acidiphilus(AAP)は、グアイアコール産生菌であることが知られている(以下、グアイアコール産生菌という)。特に、AATは、バニリンおよびバニリン酸を経てグアイアコールを産生する菌であることが報告されている。(果汁協会報2005年12月号、p.1-15;非特許文献2)。グアイアコールは、毒性はないが異臭を有しているため、製品中にグアイアコール産生菌が含まれると、飲料の風味が著しく悪化する。特に、原料果汁中のAATが問題になることが多くみられた。したがって、原料果汁や果汁飲料製品中のグアイアコール産生菌の存在を検査することは、原料および製品の品質管理において非常に重要である。 AATの検出方法としては、バニリンを添加した液体培地に果汁飲料を添加して培養し、グアイアコールの臭気を官能検査で確認する方法(特開平7−123998;特許文献1)、検体を含む培養液をバニリン酸の存在下でインキュベーションし、生成するグアイアコールを、さらにペルオキシダーゼ法による処理により呈色させて、定性または特別な装置を用いた分光定量分析によりグアイアコール産生菌の存在を確認する方法(特開2004−201668;特許文献2)、グアイアコール生成酵素遺伝子に特異的なプライマーを用いてPCRにより検出する方法(特開2003−000259;特許文献3)等が知られている。 現在広く用いられているAATの検出方法は、上記の特許文献2の技術を基にするもので、検体をバニリン酸を含む液体培地で培養して、生成したグアイアコールを検出することにより、間接的にAATの有無を判別するペルオキシターゼ法である。 しかしながら、ペルオキシターゼ法では、液体培地中でAATを増殖させるために、適切な前培養が必要となるため、作業が煩雑になり、結果を得るまでに時間を要することになる。例えば、検体のAATを定量的に検出するために、まず平板培地でコロニーを形成させ、複数のコロニーを釣菌し、それぞれのコロニーをさらに液体培地で培養するという、煩雑な作業と4〜6日間の期間が必要となる。 さらに、ペルオキシダーゼ法によりAATの有無を判別する場合には、ペルオキシダーゼの作用によりグアイアコールがテトラグアイアコールに変換され、褐色に着色することで判別するため、検体がこの色調に近いオレンジ果汁などの原料や培地である場合には判別が難しくなる。原料のロットや培地のオートクレーブ条件などによる影響も合わせると、目視で比色判定するためには、判定者に相当の熟練が必要である。また、正確な判定のためには、検体ごとおよび培地ごとに検量線を作成したうえで、分光光度計で分析するか、GC−MSで分析する必要があり、高価な分析機器や煩雑な作業がさらに必要となる。 一方、固体培地を用いる方法として知られている、30℃培養法の原理は、培養温度によりグアイアコール産生菌とグアイアコール非産生菌との選別を行うことにある。例えば、AATの生育至適温度(40〜50℃)より低い30℃で培養を行いコロニーの有無を確認する。しかし、30℃培養では、AATの生育も低下するため、AATの検出感度が低下するばかりか、生育温度域の低い対象外のグアイアコール非産生菌が検出されることがある。このため、30℃培養法を行う場合、前培養を行いAATの検出感度を上げているが、この場合、全工程で8〜10日という時間を要するばかりか、選択性も十分とは言えない。さらに、前培養を行うため定量性が得られないという問題がある。 さらに、柑橘系の果物やぶどうに含まれるポリフェノール類等の成分がAATの増殖を阻害することが知られている。このため、100%果汁などの果汁濃度の高い原料を検査する場合には、検体を適切に希釈して試験する必要がある。例えば、オレンジ果汁では1%に希釈してから試験するが、果汁の種類や産地によって希釈率を検討することが必要となり、上記の各試験の操作をさらに複雑にしている。 したがって、複雑な操作や高価な機器や作業者の熟練を必要とせずに、原料果汁にグアイアコール産生菌が存在するか否かを短時間で正確に判断する方法が求められている。さらに、果実生産地や果汁原料製造施設でも検査できる簡便な方法が求められている。特開平7−123998特開2004−201668特開2003−000259「耐熱性好酸性細菌統一検査法ハンドブック」、社団法人日本果汁協会、2005年 P.25果汁協会報2005年12月号 p.1−15 本発明の目的は、果汁原料などの検体中に存在するグアイアコール産生菌を検出するための、迅速かつ簡便な方法を提供することである。 本発明者らは、メトキシフェノール骨格を有する化合物を特定の濃度範囲で含む固体培地を用いることにより、培地上でグアイアコール産生菌のみが選択的に増殖してコロニーを形成しうることを見いだした。固体培地上のコロニー形成を検出することにより、被検サンプル中に存在するグアイアコール産生菌の有無を簡便に検出することができ、さらに、コロニーを計数することにより、被検サンプル中に存在するグアイアコール産生菌の数を簡便に測定することができる。 本発明は、次式:[式中、Rは、-H、-OH、-C(O)H、-C(O)CH3、-COOH、C1-C3のアルキル基またはC1-C3のアルケニル基であり、該アルキル基およびアルケニル基は、-OH、-C(O)Hまたは-COOHで置換されていてもよい]で表される化合物の1種またはそれ以上を含む好酸性菌用固体培地上で検体もしくはその希釈物を培養し、形成されたコロニーを検出することを特徴とする、検体中のグアイアコール産生菌の検出方法を提供する。具体的には、従来の方法で必要とされていた前培養や定性分析のために必要な処理(ペルオキシターゼ法による呈色)を要せず、直接検出でき、かつ直接定量できる方法を提供する。好ましくは、化合物は、バニリン、バニリン酸、フェルラ酸、グアイアコール、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルアクリルアルデヒド、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルプロピオン酸、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルメチルアルコール、メトキシハイドロキノン、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルアセトアルデヒドおよび4-ビニルグアイアコールからなる群より選択される。さらに好ましくは、化合物は、バニリン、バニリン酸またはフェルラ酸である。 特に好ましくは、好酸性菌用固体培地は、50ppm以上のバニリン酸、500ppm以上のバニリン、または25ppm以上のフェルラ酸を含有する。より好ましくは、好酸性菌用固体培地は50ppm以上225ppm以下、さらに好ましくは50ppm以上75ppm以下のバニリン酸を含有する。好ましくは、平板培養は20℃〜55℃、より好ましくは、30℃〜45℃、特に好ましくは、30℃(27℃〜33℃)で行われる。本発明においては、±10%程度の温度のずれであれば同様の効果が期待できる。 別の観点においては、本発明は、検体中のグアイアコール産生菌を検出するためのキットであって、メトキシフェノール骨格を有する化合物、特にバニリン、バニリン酸またはフェルラ酸のいずれかを含有する滅菌された好酸性菌用固体培地を含むグアイアコール産生菌検出キットを提供する。 さらに別の観点においては、本発明は、メトキシフェノール骨格を有する化合物、特にバニリン、バニリン酸またはフェルラ酸のいずれかを含有する好酸性菌用固体培地からなる、グアイアコール産生菌選択培地を提供する。 本発明の方法を用いることにより、果汁原料などの検体中に存在するグアイアコール産生菌を迅速かつ簡便に検出することができる。 本発明のグアイアコール産生菌検出方法は、メトキシフェノール骨格を有する化合物、特にバニリン、バニリン酸またはフェルラ酸のいずれかを含有する好酸性菌用固体培地上で検体もしくはその希釈物を平板培養し、形成されたコロニーを検出することを特徴とする。グアイアコール産生菌は、バニリンおよびバニリン酸を経てグアイアコールを産生する。フェルラ酸はバニリンの関連物質であるが、AATによるグアイアコール産生には直接関与しないことが報告されている。本発明は、バニリン酸がグアイアコール産生菌の増殖を阻害しないが、グアイアコールを産生しないAlicyclobacillus 属の細菌の増殖を阻害するという発見に基づくものである。これまで、AATがバニリン酸を含む培地中でグアイアコールを生成しうることは知られていたが、バニリン酸を含む固体培地中で、グアイアコール産生菌とグアイアコール非産生菌との増殖速度が異なることは、本発明において初めて見いだされたものである。本発明の方法にしたがえば、グアイアコール非産生菌の増殖が抑制されることにより、グアイアコール産生菌が優先的に増殖するので、グアイアコール産生菌を選択的に検出することができる。 本発明の方法によって検査すべき検体は、飲食品の原料、半加工品および製品であって、耐熱性好酸性菌を含むことが疑われる検体である。具体的には、酸性果汁原料であるオレンジ果汁、りんご果汁、みかん果汁等、これらの半加工品、これらの濃縮果汁、ならびにこれらの果汁原料を用いて製造される飲料および食品が挙げられる。また、耐熱性好酸性菌は飲食品の殺菌のために通常用いられる加熱処理条件では完全に死滅しないこと、阻害物質の存在のために濃い果汁中では増殖しないが希釈果汁を含む製品中で増殖する場合もあることから、原料および製品の性質および流通の形態に応じて、品質管理に必要と考えられる任意の試料を検体とすることができる。本発明の方法によれば、従来の方法で必要とされていた、前培養や確認の為の処理(ペルオキシターゼ法による呈色)を要せず、グアイアコール産生菌を直接検出でき、かつ培地中のコロニーの数を計測することにより、直接定量することが可能である。 さらに、本発明の方法に基づくグアイアコール産生菌培地や、それを利用するグアイアコール産生菌検出キットは、前培養や確認の為の処理に用いる器具や試薬を要しないので、迅速かつ簡便なうえ、コンパクトなものとすることができる。 本発明の方法において検出すべきグアイアコール産生菌は、主として、これまでに同定されているAlicyclobacillus acidoterrestris(AAT)およびAlicyclobacillus acidiphilus(AAP)である。これらのうちAATは果汁原料からしばしば検出されるが、AAPはまれである。このことから、品質管理上は基本的にAATを検出できれば十分と言えるが、本発明の方法は、下記に説明されるように、培地中のバニリン酸の含有量を変えることにより、AATのみを検出できる条件で実施することも、AATとAAPの両方を検出できる条件で実施することもできる。本発明の方法は、グアイアコールを産生しうる他のAlicyclobacillus 属の細菌の検出にも用いることができる。このような細菌については、いくつかの報告があるが、まだ詳細には調べられていない。一方、グアイアコールを産生しないAlicyclobacillus 属の細菌としては、Alicyclobacillus acidocaldarius、Alicyclobacillus pomorum、などが知られている。 本発明の方法においては、グアイアコール産生菌のみが選択的にコロニーを形成する選択培地として、次式:[式中、Rは、-H、-OH、-C(O)H、-C(O)CH3、-COOH、C1-C3のアルキル基またはC1-C3のアルケニル基であり、該アルキル基およびアルケニル基は、-OH、-C(O)Hまたは-COOHで置換されていてもよい]で表される、メトキシフェノール骨格を有する化合物の1種またはそれ以上を含有する好酸性菌用固体培地を用いる。 メトキシフェノール骨格を有する化合物として好ましいものは、バニリン(R=C(O)H)、バニリン酸(R=COOH)、フェルラ酸(R=CH=CH-COOH)、グアイアコール(R=H)、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルアクリルアルデヒド(R=CH=CH-C(O)H)、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルプロピオン酸(R=CH2CH2COOH)、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルメチルアルコール(R=CH2OH)、メトキシハイドロキノン(R=OH)、4-ハイドロキシ-3-メトキシフェニルアセトアルデヒド(R=C(O)CH3)、および4-ビニルグアイアコール(R=CH2=CH2)である。これらの化合物はすべて、フェルラ酸の代謝産物として微生物により生産されることが報告されている。 特に好ましくは、メトキシフェノール骨格を有する化合物として、バニリン、バニリン酸またはフェルラ酸のいずれかを用いる。あるいは、バニリン、バニリン酸およびフェルラ酸の2種または3種を混合して用いてもよい。好酸性菌用培地としては、好酸性菌用に一般的に用いられる培地であればいずれのものを用いてもよい。好ましくは、入手が容易であり、研究の蓄積のあるYSG培地(酵母エキス、可溶性デンプン、グルコースを含む、pH3.0〜4.0)を用いる。バニリン、バニリン酸またはフェルラ酸はいずれも市販されている。培地に添加すべきバニリン、バニリン酸またはフェルラ酸の濃度は、AATとAAPの両方を検出すべきか、またはAATのみでよいかによって、以下のように選択することができる。 AATが検出できればよい場合には、50ppm以上のバニリン酸を用いることができる。好ましくは、バニリン酸の濃度は50〜225ppmであり、より好ましくは75〜200ppmであり、さらに好ましくは100〜200ppmである。バニリンを用いる場合には、500ppm以上であればよく、好ましくは900〜1000ppmである。フェルラ酸を用いる場合には、25ppm〜50ppmの濃度であり、好ましくは約50ppmである。 AATとAAPの両方を検出したい場合には、50ppm〜75ppmのバニリン酸を用いることができる。従来の方法は、主としてグアイアコール産生菌の中でも特に汚染の可能性の高いAATについてのみ検査するために用いられているが、本発明の方法では、バニリン酸の添加量を適宜選択することにより、AAPなどの他のグアイアコール産生菌も検出することができる。 バニリン、バニリン酸またはフェルラ酸以外の、メトキシフェノール骨格を有する化合物についても、下記の実施例と同様にして、最適な濃度を求めることができる。 固体培地は、定法にしたがって、YSG培地に寒天および所定量のメトキシフェノール骨格を有する化合物の1種またはそれ以上を加えて、滅菌した後、寒天を固化させることにより製造することができる。培地のpHが低いため、培地と寒天を一緒にオートクレーブ処理すると良好に固化しない場合があるので、寒天量を適宜調節するか、培地と寒天を別々に滅菌した後に混合するか、あるいは中性付近のpHの培地と寒天を滅菌した後に酸を加えてpHを調節することが好ましい。固体培地は塗抹用にシャーレ中に作成してもよく、混釈用にフラスコ、ボトルなどの中に作成してもよい。 本発明の方法においては、検体をそのままで、あるいは適宜希釈して、固体培地に加えて平板培養する。コロニーの計数を容易にするために、検体は、段階希釈(1,1/10,1/100など)して用いても良い。また、Alicyclobacillus 属の細菌は芽胞を形成するため、検体を培地に加える前に70℃で20分間程度熱処理してヒートショックを与え、菌体を活性化することが好ましい。混釈法により検出する場合には、寒天培地を融解して検体を加え、混和した後にシャーレに移して固化させる。塗抹法により検出する場合には、シャーレ中の固体培地上に検体を塗抹すればよい。メンブレンフィルター法により検出する場合には、検体をメンブレンフィルターを通して濾過した後、このフィルターをシャーレ中の固体培地上に置く。 培養は、グアイアコール産生菌の生育温度域(20℃〜55℃)であればいずれの温度で行ってもよいが、グアイアコール非産生菌からの選択性を高めるためには、50℃以下、より好ましくは45℃以下、さらに好ましくは40℃以下、特に好ましくは30℃(27℃〜33℃)で行う。なお、本発明においては、±10%程度の温度のずれであれば同様の効果が期待できる。本発明においては、驚くべきことに、バニリン酸を固体培地に添加することにより、グアイアコール産生菌の検出感度が非常に向上することが見いだされた。例えば、75ppmのバニリン酸を含む固体培地で、AATを30℃で5日間培養すると、同じ培地で45℃、3日間培養したときと同じ数のコロニーが形成されることが確認された。このことは、AATの生育温度域において、正確に定量できることを示している。すなわち、本発明の方法は、検出感度を著しく高めることから、前培養が不要であるだけではなく、より正確な定量が迅速かつ簡便に行える画期的な方法である。さらに、低温とバニリン酸の影響から、対象外の菌が検出されることもない。また、バニリン酸の代わりにバニリンまたはフェルラ酸を用いた場合にも、同様の傾向が認められた。 培養を所定時間、例えば3〜5日間行った後に、目視でコロニーの有無を調べることにより、検体中にグアイアコール産生菌が存在するか否かを判定することができる。また、コロニーの数を計測することにより、検体の希釈率から容易に検体中の菌体の数を求めることができる。本発明の方法にしたがえば、特別な装置や熟練を必要とせずに、簡便に正確な定量的データを得ることができる。 別の観点においては、本発明は、検体中のグアイアコール産生菌を検出するためのキットを提供する。このキットは、少なくとも、次式:[式中、Rは、-H、-OH、-C(O)H、-C(O)CH3、-COOH、C1-C3のアルキル基またはC1-C3のアルケニル基であり、該アルキル基およびアルケニル基は、-OH、-C(O)Hまたは-COOHで置換されていてもよい]で表される、メトキシフェノール骨格を有する化合物の1種またはそれ以上を含有する好酸性菌用固体培地を含む。好酸性菌用固体培地は、滅菌されシャーレ中に作成された形で提供してもよく、混釈用にフラスコ、ボトルなどの中に作成された形で提供してもよい。メンブレンフィルター法用のキットは、メンブレンフィルターおよび濾過装置をさらに含んでいてもよい。キットはさらに、希釈列作成用のプレート、陽性対照用のグアイアコール産生菌および使用説明書を含むことができる。 以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。実施例1 バニリン、バニリン酸またはフェルラ酸を添加したYSG寒天培地を用いて、耐熱性好酸性菌(TAB)がコロニーを形成しうるか否かを調べた。使用した菌株は、A.acidoterrestris ATCC49025、A.acidiphilus JCM21417、A.acidocaldarius ATCC27009、A.pomorum JCM21459の4菌株である。このうち、A.acidoterrestris ATCC49025、A.acidiphilus JCM21417は、グアイアコールを産生する菌株として報告されている。 YSG培地(メルク(株)、YGS Agar)20.0gとバニリン酸(和光純薬工業(株))(0〜250mg)を水1000gに加温溶解し、高圧蒸気滅菌(121℃、15分間)を実施した。約50℃に冷却後、10%硫酸にてpHを3.7に調製し、平板培地を作製した。 各菌株の菌液に、70℃、20分間のヒートショックを実施した。菌液をリン酸緩衝生理食塩水にて段階希釈して、103CFU/mLとして、100μLずつを平板培地に塗沫して培養した。45℃で3日間培養後、形成したコロニーを目視にて確認した。 バニリン酸を75ppm添加した場合には、グアイアコール産生菌2菌種は無添加培地と同等レベル以上検出したが、その他の2菌種はコロニーを1つも検出しなかった。バニリン酸を100ppm添加した場合には、A.acidoterrestris ATCC49025は無添加培地と同等レベル以上検出したが、その他の3菌種はコロニーを1つも検出しなかった。さらに、バニリン酸を150ppm、200ppm添加した水準においても、A.acidoterrestris ATCC49025は無添加培地と同等レベルの検出性を示した。バニリン酸を225ppm添加するとAATの検出感度が低下し、250ppm以上では検出されなかった。 次に、バニリン酸の代わりに、バニリンまたはフェルラ酸を用いて、同様の実験を行ったが、培地が固化し難い場合には、適宜寒天量を調節した。実施例1の結果を下記の表にまとめて示す。実施例2 バニリン、バニリン酸またはフェルラ酸を添加したYSG寒天培地を用いて、培養温度によるA.acidoterrestris ATCC49025のコロニー検出率の相違を調べた。YSG培地にバニリン酸75ppmを加えて、実施例1と同様にして固体培地を作成し、同数のA.acidoterrestris ATCC49025を含む菌液を平板培地に塗沫して、45℃または30℃で培養した。対照として無添加のYSG培地を用いた。 45℃で3日間培養したときのコロニー数と、30℃で5日間培養したときのコロニー数を下記の表に示す。値は無添加YSG培地で45℃、3日間培養したときのコロニー数を100としたときの相対値である。 無添加YSG培地を用いて30℃で5日間培養すると、45℃で3日間培養したときに比べて十分なコロニーが検出できなかった。このことは、30℃培養法では、前培養が必須であることを裏付けている。 一方、バニリン酸75ppmを加えると、45℃では無添加の培地に比べて多くコロニーが検出された。このことは、バニリン酸の添加によりA.acidoterrestris ATCC49025のコロニー形成が促進され、検出感度が高まったことを示唆する。バニリン酸75ppmの代わりに、バニリン酸50ppm、バニリン750ppm、またはフェルラ酸25ppm用いた場合も、検出感度が高くなった。 さらに、バニリン酸75ppmを添加した場合には、30℃で5日間培養した場合でも、45℃3日間とほぼ同数のコロニーが検出された。バニリン酸の存在がグアイアコール非産生菌の増殖を抑制するという実施例1の結果と合わせると、検体をバニリン酸含有培地を用いて30℃で培養することにより、グアイアコール産生菌を高い感度と特異性をもって検出できることがわかる。 本発明の方法は、飲食品およびその製造原料の品質管理に有用である。本発明の方法は、従来の方法で必要とされていた、前培養や確認の為の処理(ぺルオキシターゼ法による呈色)を要せず、直接グアイアコール産生菌を検出でき、かつ直接定量できるので、品質に悪影響を与える菌の検出のための時間と費用を大幅に削減できる。さらに、本発明の方法に基づくグアイアコール産生菌検出キットは、前培養や確認の為の処理に用いる器具、試薬を要しない、コンパクトで簡便なものであり、迅速に検出できるので、産業上の有用性が高い。50ppm以上225ppm以下のバニリン酸、500ppm以上1000ppm以下のバニリン、または25ppm以上50ppm以下のフェルラ酸を含有する好酸性菌用固体培地上で検体もしくはその希釈物を培養し、形成されたコロニーを検出することを特徴とする、検体中のグアイアコール産生菌の検出方法。好酸性菌用固体培地が50ppm以上225ppm以下のバニリン酸を含有する、請求項1に記載の方法。好酸性菌用固体培地が50ppm以上75ppm以下のバニリン酸を含有する、請求項1に記載の方法。培養が20℃〜55℃で行われる、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。培養が27℃〜33℃で行われる、請求項4記載の方法。検体中のグアイアコール産生菌を検出するためのキットであって、50ppm以上225ppm以下のバニリン酸、500ppm以上1000ppm以下のバニリン、または25ppm以上50ppm以下のフェルラ酸を含有する滅菌された好酸性菌用固体培地を含むキット。好酸性菌用固体培地が50ppm以上225ppm以下のバニリン酸を含有する、請求項6に記載のキット。好酸性菌用固体培地が50ppm以上75ppm以下のバニリン酸を含有する、請求項6に記載のキット。50ppm以上225ppm以下のバニリン酸、500ppm以上1000ppm以下のバニリン、または25ppm以上50ppm以下のフェルラ酸を含有する好酸性菌用固体培地からなる、グアイアコール産生菌検出培地。好酸性菌用固体培地が、50ppm以上225ppm以下のバニリン酸を含有する、請求項9に記載の培地。好酸性菌用固体培地が、50ppm以上75ppm以下のバニリン酸を含有する、請求項9に記載の培地。


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