タイトル: | 公開特許公報(A)_せん断粘度推算方法および流動曲線の作成方法 |
出願番号: | 2009221873 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | G01N 11/00 |
福場 芳則 佐伯 隆 菊池 早織 JP 2011069754 公開特許公報(A) 20110407 2009221873 20090928 せん断粘度推算方法および流動曲線の作成方法 三菱レイヨン株式会社 000006035 国立大学法人山口大学 304020177 志賀 正武 100064908 高橋 詔男 100108578 渡邊 隆 100089037 鈴木 三義 100094400 西 和哉 100107836 村山 靖彦 100108453 福場 芳則 佐伯 隆 菊池 早織 G01N 11/00 20060101AFI20110311BHJP JPG01N11/00 AG01N11/00 C 6 9 OL 15 本発明は、溶媒にポリマーが溶解した非ニュートン性の高分子溶液についてのせん断粘度推算方法、およびせん断速度とせん断粘度との関係を示す流動曲線を作成する方法に関する。 高分子材料であるポリマーは、繊維、成形材料、シート、フィルムなど、様々な用途に応じて賦形される。このようにポリマーを賦形する方法としては、ポリマーを水や有機溶媒などの溶媒に溶解して高分子溶液とし、これを賦形する方法があり、例えば、繊維の湿式紡糸、溶剤キャストフィルムや塗膜の形成などがその例である。 このような高分子溶液を用いた賦形においては、高分子溶液の流動特性が製品の生産性や性能に影響を及ぼす場合も多い。 高分子溶液が賦形される過程では、高分子溶液は広いせん断速度域の流動を受けることが多い。例えば湿式紡糸の場合は、高分子溶液がノズルまで供給される際の配管内での流動は、比較的低せん断速度であるのに対し、ノズルから高分子溶液が押し出される際のノズル内での流動は、非常に高せん断速度となる。一概には言えないが、このような場合の低せん断速度と高せん断速度とは、少なくとも2桁以上、場合によっては5桁以上異なることもある。 したがって、生産性よく、性能のよい製品を生産するためには、このような広いせん断速度域での高分子溶液の流動特性を事前に把握しておくことが極めて重要である。 高分子溶液の流動特性を測定する方法としては、落球粘度計、回転粘度計、毛管粘度計(細管粘度計)などの粘度計を用いて、粘度を実測する方法がある(例えば非特許文献1参照。)。特に、粘度のせん断速度依存性を測定するには、回転粘度計や細管粘度計が好ましく、これらの粘度計は数多く市販されている。 ところが、例えば繊維の湿式紡糸などに使用される高分子溶液は、溶液中の高分子鎖の絡み合いなどに起因する非ニュートン流体であることが多い(非特許文献2参照。)。非特許文献2にも記載されているように、このような高分子溶液は、図10に示すように、低せん断速度域では一定の粘度を示し(第1ニュートン領域)、その後、高せん断速度域になると粘度が低下し(べき乗則(power lowあるいは指数則とも言う)領域)、その後、さらに高せん断速度域では粘度が一定値になる(第2ニュートン領域)。 そのため、非ニュートン流体である高分子溶液について、限られた狭い範囲のせん断速度域での粘度を測定しても、そのデータから、広いせん断速度域にわたる流動特性を把握することは困難である。 そこで、非ニュートン性の高分子溶液について、広いせん断速度域にわたる流動特性を把握するためには、上述したような粘度計を用いて、広いせん断速度域にわたるせん断粘度を実測することが有効と考えられる。 一般に、比較的せん断速度が低い領域での粘度測定には回転粘度計が好ましく、せん断速度が高い領域での粘度測定には細管粘度計が好ましいことが知られている。例えば、溶融樹脂の流動特性においては、細管粘度計を用いて1000000(/sec)程度の高せん断速度域でまで測定されている例もある(特許文献1参照。)。 そこで、第1ニュートン領域からべき乗則領域までのような、比較的低せん断速度域においては、回転粘度計を用い、べき乗則領域よりも高せん断速度域においては、細管粘度計を用いることで、広いせん断速度域にわたるせん断粘度を実測できるとも考えられる(非特許文献3参照。)。 しかしながら、例えば、高分子溶液を湿式紡糸する際において、高分子溶液がノズルから押し出される際には、高分子溶液の流動状態は、べき乗則領域よりもさらに高せん断速度域である第2ニュートン領域となっている可能性がある。そのため、このように湿式紡糸の際の高分子溶液の流動特性を把握するためには、べき乗則領域〜第2ニュートン領域までの広いせん断速度域において粘度測定が可能な、極めてレンジの広い細管粘度計を用いて測定することが必要となる。ところが、第2ニュートン領域のような極めて高いせん断速度域での粘度測定が可能な細管粘度計は、実質的には存在しない。そのため、このような極めて高いせん断速度域での粘度測定は困難である(非特許文献4参照。)。 また、高分子溶液は溶融樹脂と比較して粘度が低いために、細管粘度計にサンプルを充填する際に、毛管(オリフィス)からサンプルが流れ出すなどして測定が難しいという問題もある。さらに、高分子溶液が賦形される際の温度は、ほとんどの場合室温以上であるために、細管粘度計での測定時にもサンプルを加熱する必要がある。そのため、溶媒として有機溶媒を含有し、加熱に際しては安全性や環境面での配慮が必要となるような場合であっても、高分子溶液の粘度測定を問題なく行えるような特殊な細管粘度計が必要となる。 また、特許文献2には、石炭スラリー調製例として、第2ニュートン領域のせん断速度で石炭スラリーを調製する方法が開示されているが、石炭スラリーの第2ニュートン領域でのせん断速度は、4〜6(/sec)とされており、比較的低せん断速度である。よって、第2ニュートン領域でのせん断速度が非常に大きな高分子溶液には、特許文献2の技術を適用することはできない。 このように非ニュートン流体である高分子溶液について、粘度計を用いて、広いせん断速度域にわたるせん断粘度を実測することは困難である。 そこで、限られた範囲のせん断速度域での粘度を実測し、その測定値から、その他のせん断速度での粘度を推算する方法により、広いせん断速度域にわたる流動特性を把握する方法が考えられる。 例えば、非特許文献4には、非ニュートン性を有する高分子溶液の粘度を回転粘度計により測定し、これにべき乗則を適用して粘度を推算する方法が記載されている。化学者のためのレオロジー(p22〜33)、化学同人、1982年発行レオロジーの世界(p57〜58)、工業調査会、2004年発行レオロジーデータの測定・解釈と新しい粘度調整技術(p53)、技術情報協会、2005年発行講座・レオロジー(p64)、高分子刊行会、1992年発行特開2003−262579号公報特開平6−287571号公報 しかしながら、この方法で推算すると、べき乗則領域までの粘度を推算することはできるものの、それ以降の第2ニュートン領域においても、せん断速度の増加に伴って粘度が無限に低下していく結果となるため、粘度が一定になるはずの第2ニュートン領域での粘度を推算することはできなかった。 本発明の目的は、第2ニュートン領域での粘度を推算する方法を提供し、さらに、このような方法を用いることで、第1ニュートン領域から第2ニュートン領域までの広いせん断速度範囲における高分子溶液の流動曲線を作成する方法を提供することである。 本発明者が鋭意検討した結果、詳しくは後述するように、高分子の絡み合いに注目し、高分子濃度の低い低濃度高分子溶液の粘度測定結果を基に、高分子濃度と粘度の関係を求め、これを高濃度に外挿して第2ニュートン領域における粘度に見立てることによって、第2ニュートン領域におけるせん断粘度(第2ニュートン粘度)を適切に算出できることを見出し、本発明を完成するに至った。 本発明の流動曲線の作成方法は、溶媒にポリマーが溶解した非ニュートン性の高分子溶液について、せん断速度とせん断粘度との関係を示す流動曲線を作成する方法であって、 前記高分子溶液と同種の溶媒およびポリマーからなり、前記高分子溶液よりも高分子濃度が低く、かつ、互いに高分子濃度が異なる複数種の低濃度高分子溶液について、せん断速度依存性がない領域におけるせん断粘度をそれぞれ実測して、高分子濃度とせん断粘度との関係を示す線形近似式を求め、該線形近似式に前記高分子溶液の高分子濃度を代入する方法により、該高分子溶液の第2ニュートン領域におけるせん断粘度を求める、第2ニュートン領域粘度算出工程を有することを特徴とする。 本発明の流動曲線の作成方法は、さらに、せん断速度を変化させ、その際のせん断粘度を実測する方法により、前記高分子溶液の第1ニュートン領域におけるせん断速度とせん断粘度との関係を求める、第1ニュートン領域粘度実測工程と、 該第1ニュートン領域粘度実測工程で実測されたせん断粘度とその際のせん断速度とを式(I)に代入して、式(I)中の係数aと指数nとを算出した後、該式(I)を用いて、前記高分子溶液のべき乗則領域におけるせん断速度とせん断粘度との関係を求める、べき乗則領域粘度算出工程とを有することが好ましい。(式(I)において、ηはせん断粘度[Pa・s]、γはせん断速度[/sec]である。) 前記第1ニュートン領域粘度実測工程では、前記せん断速度を低速度側から高速度側に変化させ、各せん断速度でのせん断粘度を実測するとともに、各せん断速度でのせん断応力も実測し、前記せん断速度を低速度側から高速度側に変化させても、前記せん断応力が増加しなくなるせん断速度γiを求め、 前記べき乗則領域粘度算出工程では、前記せん断速度γiよりも低速度側に隣接する2点のせん断速度γi−1およびγi−2と、これらに対応するせん断粘度ηi−1およびηi−2とを前記式(I)に代入することが好ましい。 前記せん断粘度を回転粘度計により実測することが好ましい。 また、前記回転粘度計は、コーンプレート型であることが好ましい。 本発明のせん断粘度推算方法は、溶媒にポリマーが溶解した非ニュートン性の高分子溶液について、第2ニュートン領域でのせん断粘度を求めるせん断粘度推算方法であって、 前記高分子溶液と同種の溶媒およびポリマーからなり、前記高分子溶液よりも高分子濃度が低く、かつ、互いに高分子濃度が異なる複数種の低濃度高分子溶液について、せん断速度依存性がない領域におけるせん断粘度をそれぞれ実測して、高分子濃度とせん断粘度との関係を示す線形近似式を求め、該線形近似式に前記高分子溶液の高分子濃度を代入する方法により、該高分子溶液の第2ニュートン領域におけるせん断粘度を求めることを特徴とする。 本発明によれば、第2ニュートン領域での粘度を推算する方法を提供でき、さらに、このような方法を用いることで、第1ニュートン領域から第2ニュートン領域までの広いせん断速度範囲における高分子溶液の流動曲線を作成する方法を提供することができる。第1ニュートン領域粘度実測工程において実測された、せん断粘度およびせん断応力を模式的に示すグラフである。第2ニュートン領域粘度算出工程において実測された、5種の低濃度高分子溶液についてのせん断粘度を模式的に示すグラフである。第2ニュートン領域粘度算出工程で作成された低濃度高分子溶液の高分子濃度−せん断粘度の関係を模式的に示すグラフである。第1ニュートン領域粘度実測工程、べき乗則領域粘度算出工程、第2ニュートン領域粘度算出工程で求められたせん断速度−せん断粘度を合成した流動曲線を模式的に示すグラフである。実施例の第1ニュートン領域粘度実測工程において実測された、せん断粘度およびせん断応力を示すグラフである。図5のせん断粘度のうち、高せん断速度側のデータを削除したグラフである。実施例の第2ニュートン領域粘度算出工程において実測された、7種の低濃度高分子溶液についてのせん断粘度を示すグラフである。実施例の第2ニュートン領域粘度算出工程で作成された低濃度高分子溶液の高分子濃度−せん断粘度の関係を示すグラフである。実施例の第1ニュートン領域粘度実測工程、べき乗則領域粘度算出工程、第2ニュートン領域粘度算出工程で求められたせん断速度−せん断粘度を合成した流動曲線を示すグラフである。非ニュートン性の高分子溶液についての流動曲線を模式的に示すグラフである。 以下、本発明について、詳細に説明する。 本発明では、水、有機溶媒などの溶媒に、例えばポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、酢酸セルロースなどの高分子(ポリマー)が溶解した、非ニュートン性である高分子溶液を対象とし、この高分子溶液について、せん断速度とせん断粘度との関係を明らかにし、これらの関係を示す流動曲線を作成する。 非ニュートン性を示す非ニュートン流体は、せん断速度とせん断粘度との関係が線形ではなく、図10に示したように、低せん断速度域において一定のせん断粘度を示す第1ニュートン領域と、その後、高せん断速度域になるとせん断粘度が低下するべき乗則領域と、その後、さらに高せん断速度域では再度せん断粘度が一定値になる第2ニュートン領域とを有するものである。 以下、非ニュートン流体である高分子溶液について、第1ニュートン領域から第2ニュートン領域までの広いせん断速度範囲における流動曲線(せん断速度−せん断粘度)を作成する方法について、具体的に説明する。 なお、対象とする高分子溶液中のポリマーおよび溶媒は、それぞれ1種であっても、複数種であってもよい。また、ポリマーは共重合体であっても構わない。(第1ニュートン領域粘度実測工程) 第1ニュートン領域粘度実測工程(以下、工程(1)という場合もある。)では、高分子溶液に与えるせん断速度を変化させ、その際のせん断粘度を実測する方法により、高分子溶液の第1ニュートン領域(低せん断速度領域)におけるせん断速度とせん断粘度との関係を求める。 具体的には、細管粘度計、回転粘度計のように、せん断速度に対するせん断粘度の測定が可能な粘度計を用いて、高分子溶液にせん断速度を与え、その際のせん断粘度を実測する。ついで、高分子溶液に与えるせん断速度を他の値に変化させ、その際のせん断粘度を実測する。この際、好ましくは、せん断速度を低速度側から高速度側に変化させていく。このような手順を繰り返すことにより、多数の(せん断速度,せん断粘度)のデータを採取し、その結果、第1ニュートン領域におけるせん断速度とせん断粘度との関係を求めることができる。そして、これらデータについて、通常、横軸をせん断速度、縦軸をせん断粘度としてグラフ化すれば、第1ニュートン領域における目的の流動曲線を得ることができる。 工程(1)においては、このようにせん断速度を変化させてせん断粘度を実測するが、データの取得に当たっては、その際のせん断応力も確認することが好ましい。これは精度のよい流動曲線を得る観点から重要である。 すなわち、せん断速度を低速度側から高速度側に変化させていくと、それに伴って、せん断応力は通常増加していく。しかしながら、より高速度側になると、実験精度が低下するために、図1のグラフに示すように、測定されるせん断応力がばらつくようになったり、せん断速度の増加に伴って増加するはずのせん断応力が低下したりする。このような実験精度の低下は、例えば粘度計が回転粘度計の場合には、遠心力によってサンプルが測定部から飛び出してしまったり、サンプル内で流れの乱れが生じることに起因して測定状態が不安定になり、定常値が得られにくくなったりするなどの理由によるものである。このような高速度側での精度の低い実測データは削除して、流動曲線には採用しないことが好ましい。 そこで、せん断速度を低速度側から高速度側に変化させても、せん断応力が増加しなくなった時点のせん断速度γiを求め、このせん断速度γiよりも低速度側のせん断速度でのデータのみを採用し、せん断速度γi以上の高速度側のデータは採用しないようにすることが好ましい。 このようにせん断速度を変化させた際にせん断応力をも実測し、その挙動を判断基準とすることによって、精度の良いデータのみを採用することができる。 なお、せん断粘度の実測法としては、せん断速度を変化させてせん断応力を測定し、せん断応力をせん断速度で除することで、せん断粘度を求める方法が一般的である。工程(1)では、そのような方法を採用してせん断粘度を求めてよい。 工程(1)において実測する(せん断速度,せん断粘度)のデータ数(測定点数)としては、せん断速度一桁あたり、3以上10以下の範囲が好ましい。このような範囲であると、なめらかな流動曲線を作成できる。また、次の工程(べき乗則領域粘度算出工程)では、この(せん断速度,せん断粘度)のデータを用いて、べき乗則領域のせん断粘度を算出するが、その際の算出精度を良好にすることができる。特に、データ数がせん断速度一桁あたり10を超えると、次の工程(べき乗則領域粘度算出工程)において、後述するように、せん断速度γiよりも低速度側のデータのうち最も高速度側の2点のデータを採用した場合に、ごく狭い範囲のせん断速度範囲のデータを用いてべき乗則領域のせん断粘度を算出することになる。その結果、僅かなデータの振れが、特に高せん断速度側の粘度の推算に大きな影響を及ぼす可能性がある。 なお、実測するデータ数の好適な範囲について、せん断速度一桁あたりの数で特定している理由は、一般に、せん断速度とせん断粘度との関係を示す流動曲線では、通常は横軸のせん断速度を対数スケールとすることが多いためである。(べき乗則領域粘度算出工程) 次に、べき乗則領域粘度算出工程(以下、工程(2)という場合もある。)では、まず、上述した工程(1)で実測されたせん断粘度とその際のせん断速度とを下記の式(I)に代入して、式(I)中の係数aと指数nとを算出する。 こうして係数aと指数nとが決定された式(I)は、高分子溶液のべき乗則領域におけるせん断速度とせん断粘度との関係式となる。 式(I)において、ηはせん断粘度[Pa・s]、γはせん断速度[/sec]である。 具体的には、まず、工程(1)で実測された多数の(せん断速度,せん断粘度)のデータのうち、2点を式(I)に代入して、式(I)中の係数aと指数nとを算出する。 ここで、代入する2点のデータとしては、図1に示すように、工程(1)において決定されたせん断速度γiよりも低速度側のデータであることが、データの精度の点で好ましい。さらには、せん断速度γiに隣接する2点のデータ、すなわち、(せん断速度γn−1,せん断粘度ηn−1)と、(せん断速度γn−2,せん断粘度ηn−2)のデータを採用することが好ましい。このようにせん断速度γiよりも低速度側のデータのうち、最も高速度側の2点のデータを採用することにより、適切な係数aと指数nとを算出することができる。 なお、非特許文献2に記載されているように、高分子溶液においては、指数nの値はほぼ0.8以下になることが知られている。そのため、2点のデータを代入して上述のようにして算出された指数nが仮に0.8を超えた場合には、式(I)に代入した2点のデータが適切なデータではなかった可能性がある。その際には、再度、工程(1)での実測データを見直したり、せん断速度γiの決定が適切であったかを見直したりし、再検討する必要がある。 こうして係数aと指数nとが決定した式(I)により、べき乗則領域でのせん断速度とせん断粘度との関係を明らかにすることができる。そして、この式(I)により求められるせん断速度とせん断粘度のデータについて、通常、横軸をせん断速度、縦軸をせん断粘度としてグラフ化すれば、べき乗則領域における目的の流動曲線を得ることができる。(第2ニュートン領域粘度算出工程) 次に第2ニュートン領域粘度算出工程(以下、工程(3)という場合もある。)においては、第2ニュートン領域におけるせん断粘度を算出する。 第2ニュートン領域では、高分子溶液中の高分子鎖は、せん断によって絡み合いがほぐれた状態、あるいは絡み合いが極めて少ない状態にあると考えられる。一方、高分子溶液は、その高分子濃度が低いほど、高分子鎖の絡み合いが少ない。 そこで、高分子濃度の低い高分子溶液を第2ニュートン領域における高分子溶液に見立てて、本工程(3)では以下のようにして第2ニュートン領域におけるせん断粘度(第2ニュートン粘度)を求める。 まず、せん断粘度を算出したい目的の高分子溶液と同種の溶媒およびポリマーからなり、目的の高分子溶液よりも高分子濃度が低く、かつ、互いに高分子濃度が異なる複数種の低濃度高分子溶液を用意する。 例えば、図2に示すように、高分子濃度が異なる5種類の低濃度高分子溶液A、B、C、D、Eを用意し、これらについて、例えば工程(1)での実測方法と同様にして、せん断速度を変化させてせん断粘度を実測する。 すると、図2においては、溶液Dおよび溶液Eに認められるように、せん断速度が大きくなると、せん断粘度が低下し始める。そこで、各低濃度高分子溶液A〜Eについて、このような低下が認められるせん断速度よりも低速度側の低せん断速度でのせん断粘度、すなわち、せん断速度依存性がない領域のせん断粘度の値(図2のa値、b値、c値、d値、e値)を求める。 なお、ここで用いる低濃度高分子溶液とは、溶媒の種類、ポリマーの種類が目的の高分子溶液と同じであり、高分子濃度のみが目的の高分子溶液とは異なる溶液である。また、例えば、ポリマーが複数のポリマーの混合物である場合には、複数のポリマーの比率は目的の高分子溶液と同じにする。また、溶媒についても、複数の溶媒の混合物である場合には、その比率は目的の高分子溶液と同じにする。 ついで、これら低濃度高分子溶液A、B、C、D、Eの各濃度と、これらについて、せん断速度依存性がない領域のせん断粘度(a値、b値、c値、d値、e値)とをプロットして、図3に示すように、高分子溶液の高分子濃度−せん断粘度のグラフを作成する。すると、低濃度側では、高分子濃度に対して直線的にせん断粘度が増加するが、ある濃度以上になると急激な粘度増加が見られる。この急激な粘度増加は、濃度が高くなるにつれて現れた高分子鎖の絡み合いの寄与と考えられる。 したがって、このような絡み合いの寄与がない部分、すなわち、直線的にせん断粘度が増加する部分のデータのみを用いて、高分子溶液の高分子濃度−せん断粘度の線形近似式を求める。 そして、得られた線形近似式に、目的とする高分子溶液の高分子濃度を代入することにより、せん断速度に依存しない一定値である第2ニュートン粘度を算出することができる。 ここで線形近似式を求める際には、汎用的な表計算ソフトウェア(例えばマイクロソフト社の表計算ソフトウェア「エクセル(登録商標)」など)を使用してもよい。例えば、エクセル(登録商標)を利用した場合、線形近似式の信頼性の参考値となるR2乗値が0.8以上になるように近似式を求めることが好ましい。R2乗値が0.8未満の場合は、経験的に、線形近似が不適切となり、第2ニュートン粘度の値を大きめに見積もる可能性があることがわかっている。また、得られた近似式によっては、切片がマイナスの値になる場合がある。高分子溶液の濃度が0%の際のせん断粘度は、溶媒のせん断粘度に相当するが、溶媒のせん断粘度がマイナス値になることはないので、この場合は原点を通る近似式としてもよい。高分子溶液の濃度が0%のせん断粘度は、溶媒の粘度を測定した値とするのが好ましいものの、溶媒の粘度は非常に小さく、測定が困難な場合もある。原点を通るということは、溶媒の粘度が0ということになるが、高分子の存在に起因する粘度に比べ、溶媒自身の粘度は非常に小さいので、一次関数で近似する場合は原点を通る近似式としても、その影響は小さい。従って、本発明においては、原点を通る近似式を用いてもよいものとする。 なお、原点を通る近似式とした場合のR2乗値の検証(0.8未満か否かの判断)は、原点を通る近似式のR2乗値で行う。 以上のようにして、工程(1)〜工程(3)を行うことによって、第1ニュートン領域、べき乗則領域、第2ニュートン領域のそれぞれの領域でのせん断速度−せん断粘度の関係を明らかにすることができる。 したがって、各工程で得られた各領域でのせん断速度−せん断粘度の関係を合成してつなげ、1つのグラフとして表すことによって、図4に示すように、第1ニュートン領域から第2ニュートン領域に及ぶ広いせん断速度に対して、せん断粘度が示された流動曲線を作成することができる。 なお、このように各領域でのせん断速度−せん断粘度の関係を合成するにあたっては、工程(2)で決定された式(I)に、工程(3)で算出された第2ニュートン粘度を代入することによって、べき乗則領域と第2ニュートン領域の境界のせん断速度を決定することができる。 本発明において、せん断粘度の測定には、上述のとおり、細管粘度計を使用しても回転粘度計を使用しても構わないが、せん断応力が小さい低せん断速度域での測定精度の観点からは、回転粘度計を用いることが好ましい。さらに、測定温度が室温より高い場合や、溶媒が有機溶媒の場合のデータ精度が向上の観点からは、溶剤蒸発防止のための機構(例えば、溶媒の蒸発をできるだけ抑制するため、回転粘度計の測定部を覆う部材の使用など。)を採用することが好ましい。 また、回転粘度計の中でも、せん断速度の均一性や、サンプル使用量の少なさなどの点から、コーンプレート型の回転粘度計が好ましい。できるだけ高せん断速度側までデータを取得するためには、用いるコーンのコーン角は2度以下が好ましく、1度以下がより好ましい。低コーン角側の限度は測定の容易さの点から、一般に0.2度以上である。コーンの直径は、測定する高分子溶液の粘度にもよるが、一般に10mm〜60mm程度である。 なお、上述の工程(1)でのせん断粘度の測定と、工程(3)でのせん断粘度の測定では、必ずしも同じコーンを用いる必要はない。例えば、工程(1)での測定よりも工程(3)での測定の方が粘度の低い高分子溶液を測定するので、より大きな直径のコーンを使用して測定することにより、検出されるトルク値が大きくなり、データの精度を高めることができる。同様な理由で、工程(1)での測定よりも工程(3)での測定のコーン角を小さくすることも可能である。 以上説明したように、このような方法では、工程(3)において、第2ニュートン領域における高分子溶液を濃度の低い高分子溶液に見立てることにより、従来、実測も推算も困難であった第2ニュートン粘度を適切に算出することができる。そして、このように算出された第2ニュートン粘度と、工程(1)での実測データおよび工程(2)での算出データとを組み合わせることによって、広いせん断速度に対してせん断粘度が示された流動曲線を作成することができる。 よって、このような流動曲線を用いることによって、広いせん断速度での高分子溶液の流動特性を把握でき、例えば、繊維の湿式紡糸、溶剤キャストフィルムや塗膜の形成など、高分子溶液の賦形を経て製造される製品の製造において、生産性を向上させ、製品の性能を改善することも可能となる。また、高分子溶液の流動に関わる材料設計を定量的に行うこともできる。特に繊維の湿式紡糸では、上述したように、高分子溶液は広いせん断速度を受けるため、本発明の方法は特に有効である。 以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらに限定されるものではない。なお、実施例中で用いたサンプルおよび測定方法は、以下の通りである。<高分子(ポリマー)> 重量平均分子量(Mw)が約400000、アクリロニトリル含量が約96%のポリアクリロニトリル系重合体を用いた。<工程(1)でのせん断粘度の測定> 高分子溶液のせん断粘度測定には、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製のレオメーター(AR550)を用い、コーン角:0.5°、直径40mmのコーンにて測定を行った。なお、測定の際には、蒸発防止用の機構(測定部を覆うことのできる専用の市販品の使用。)を採用した。<工程(3)でのせん断粘度の測定> コーン角:2°、直径60mmのコーンを使用した以外は、工程(1)でのせん断粘度の測定と同様にして、第2ニュートン粘度決定のためのせん断粘度の測定を行った。なお、せん断速度依存性がない領域の粘度の線形近似式は、付属の解析ソフトを用いて、Newtonianでフィッティングすることにより求めた。[実施例]<高分子溶液の流動曲線の作成> ポリアクリロニトリル系重合体の高分子溶液の80℃での流動曲線取得例を示す。(工程(1)) ポリアクリロニトリル系重合体をN,N−ジメチルアセトアミドに21wt%になるように溶解して、得られた高分子溶液の80℃でのせん断粘度を低せん断速度域において測定した。 その結果を図5に示す。 この測定結果では、せん断速度が527.3(/sec)と575.4(/sec)の時のせん断応力が、いずれも3285(Pa)であった。よって、せん断速度575.4(/sec)をせん断速度γiと判定し、このせん断速度γi以上のデータを削除し、図6に示す曲線を得た。(工程(2)) 次に、べき乗則領域のせん断粘度を推算するため、工程(1)で実測され、採用されたデータのうち、表1に示す高せん断速度側の2点のデータを式(I)に代入したところ、a=579.2、n=0.7231となり、下記に示すべき乗則域の粘度式(II)を得た。 このように算出されたnの値は0.8以下であったので、式(I)に代入したデータおよびべき乗則域の粘度式(II)は、ともに問題ないと判断できた。(工程(3)) 続いて、第2ニュートン粘度を決定するため、ポリアクリロニトリル系重合体を1wt%、2.5wt%、5wt%、7.5wt%、10wt%、12.5wt%、15wt%になるようにN,N−ジメチルアセトアミドに溶解した低濃度高分子溶液を調製した(7種類)。そして、これらについて、取得する流動曲線の温度と同じ80℃において、せん断粘度の測定を行った。 測定結果を図7に示す。 図7に示すように、高分子濃度が高いものについては、高せん断速度側では、粘度が低下する様子が観測された。そのため、この領域のデータは除外して、すなわち、せん断速度依存性がない領域のせん断粘度を用いて、図8のように高分子濃度とせん断速度との関係を示すグラフを作成し、Newtonianにてフィッティングを行い、線形近似式を得た。 なお、表2に、フィッティングの際に採用したデータの高せん断速度側の上限と、フィッティングにより得られたせん断粘度を示す。 ここで、高分子溶液の濃度1wt%、2.5wt%、5wt%に対して、線形近似を行ったところ、y=0.0056x−0.0051であった。切片が負となったので、切片を0として改めて線形近似を行い、y=0.0043xを得た。この時のR2乗値は0.8873であった。なお、xは高分子溶液の濃度(wt%)、yはせん断粘度(Pa・s)である。 また、高分子溶液の濃度1wt%、2.5wt%、5wt%、7.5wt%に対して、線形近似を行ったところ、y=0.0132x−0.0222となった。切片が負となったので、切片を0として改めて線形近似を行い、y=0.0092xを得た。しかし、この時のR2乗値は0.7473であった。 先にも述べたように、R2乗値は0.8以上であることが経験的に好ましい。よって、低濃度高分子溶液の濃度として1wt%、2.5wt%、5wt%を採用して線形近似した、近似式y=0.0043xを採用した。 この近似式のxに目的とする高分子溶液濃度の21wt%を代入した結果、この21wt%ポリアクリロニトリル系重合体高分子溶液の80℃での第2ニュートン粘度は0.090(Pa・s)と算出された。 以上工程(1)〜(3)により、各領域でのせん断速度とせん断粘度との関係を求めることができた。 なお、工程(3)で得られた第2ニュートン粘度を、式(II)に代入した結果、べき乗則領域と第2ニュートン領域との境界のせん断速度は184938(/sec)であることがわかった。 ついで、各領域でのせん断速度−せん断粘度の関係を合成してつなげ、1つのグラフとして表すことによって、図9に示すように、80℃でのポリアクリロニトリル系重合体の高分子溶液について、第1ニュートン領域から第2ニュートン領域に及ぶ広いせん断速度に対して、せん断粘度が示された流動曲線を作成することができた。 溶媒にポリマーが溶解した非ニュートン性の高分子溶液について、せん断速度とせん断粘度との関係を示す流動曲線を作成する方法であって、 前記高分子溶液と同種の溶媒およびポリマーからなり、前記高分子溶液よりも高分子濃度が低く、かつ、互いに高分子濃度が異なる複数種の低濃度高分子溶液について、せん断速度依存性がない領域におけるせん断粘度をそれぞれ実測して、高分子濃度とせん断粘度との関係を示す線形近似式を求め、該線形近似式に前記高分子溶液の高分子濃度を代入する方法により、該高分子溶液の第2ニュートン領域におけるせん断粘度を求める、第2ニュートン領域粘度算出工程を有することを特徴とする流動曲線の作成方法。 せん断速度を変化させ、その際のせん断粘度を実測する方法により、前記高分子溶液の第1ニュートン領域におけるせん断速度とせん断粘度との関係を求める、第1ニュートン領域粘度実測工程と、 該第1ニュートン領域粘度実測工程で実測されたせん断粘度とその際のせん断速度とを式(I)に代入して、式(I)中の係数aと指数nとを算出した後、該式(I)を用いて、前記高分子溶液のべき乗則領域におけるせん断速度とせん断粘度との関係を求める、べき乗則領域粘度算出工程とをさらに有することを特徴とする請求項1に記載の流動曲線の作成方法。(式(I)において、ηはせん断粘度[Pa・s]、γはせん断速度[/sec]である。) 前記第1ニュートン領域粘度実測工程では、前記せん断速度を低速度側から高速度側に変化させ、各せん断速度でのせん断粘度を実測するとともに、各せん断速度でのせん断応力も実測し、前記せん断速度を低速度側から高速度側に変化させても、前記せん断応力が増加しなくなるせん断速度γiを求め、 前記べき乗則領域粘度算出工程では、前記せん断速度γiよりも低速度側に隣接する2点のせん断速度γi−1およびγi−2と、これらに対応するせん断粘度ηi−1およびηi−2とを前記式(I)に代入することを特徴とする請求項2に記載の流動曲線の作成方法。 前記せん断粘度を回転粘度計により実測することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の流動曲線の作成方法。 前記回転粘度計が、コーンプレート型である請求項4に記載の流動曲線の作成方法。 溶媒にポリマーが溶解した非ニュートン性の高分子溶液について、第2ニュートン領域でのせん断粘度を求めるせん断粘度推算方法であって、 前記高分子溶液と同種の溶媒およびポリマーからなり、前記高分子溶液よりも高分子濃度が低く、かつ、互いに高分子濃度が異なる複数種の低濃度高分子溶液について、せん断速度依存性がない領域におけるせん断粘度をそれぞれ実測して、高分子濃度とせん断粘度との関係を示す線形近似式を求め、該線形近似式に前記高分子溶液の高分子濃度を代入する方法により、該高分子溶液の第2ニュートン領域におけるせん断粘度を求めることを特徴とするせん断粘度推算方法。 【課題】非ニュートン性の高分子溶液について、第2ニュートン領域での粘度を推算する方法を提供し、さらに、このような方法を用いることで、第1ニュートン領域から第2ニュートン領域までの広いせん断速度範囲における高分子溶液の流動曲線を作成する。【解決手段】まず、高分子溶液と同種の溶媒およびポリマーからなり、前記高分子溶液よりも高分子濃度が低く、かつ、互いに高分子濃度が異なる複数種の低濃度高分子溶液を用意し、これらについて、せん断速度依存性がない領域におけるせん断粘度をそれぞれ実測して、高分子濃度とせん断粘度との関係を示す線形近似式を求める。ついで、該線形近似式に前記高分子溶液の高分子濃度を代入する方法により、該高分子溶液の第2ニュートン領域におけるせん断粘度を求める。この第2ニュートン領域におけるせん断粘度を用いて、流動曲線を作成する。【選択図】図9