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タイトル:公開特許公報(A)_キャピラリー電気泳動による核酸−タンパク質結合解析法
出願番号:2009207005
年次:2011
IPC分類:C12Q 1/68,C12Q 1/48


特許情報キャッシュ

杉浦 麗子 多賀 淳 石渡 俊二 佐藤 亮介 JP 2011055741 公開特許公報(A) 20110324 2009207005 20090908 キャピラリー電気泳動による核酸−タンパク質結合解析法 学校法人近畿大学 000125347 田村 恭生 100068526 鮫島 睦 100100158 新田 昌宏 100138900 杉浦 麗子 多賀 淳 石渡 俊二 佐藤 亮介 C12Q 1/68 20060101AFI20110301BHJP C12Q 1/48 20060101ALI20110301BHJP JPC12Q1/68 ZC12Q1/48 Z 8 OL 13 特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年3月11日、アメリカン・ソサエティ・フォア・セル・バイオロジーのホームページ(http://www.molbiolcell.org/cgi/doi/10.1091/mbc.E08−09−0893)で発表、刊行物名:モレキュラー・バイオロジー・オブ・ザ・セル、第20巻、第9号、2473頁、2009年 4B063 4B063QA18 4B063QQ26 4B063QQ42 4B063QQ53 4B063QQ79 4B063QR06 4B063QR32 4B063QR36 4B063QR48 4B063QR66 4B063QS16 4B063QS32 4B063QS39 4B063QX02 この出願の発明は、核酸とタンパク質間の相互作用を検出し、解析する方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、融合タンパク質の標識部における紫外部吸収あるいは蛍光を利用して検出を行い、キャピラリー電気泳動におけるタンパク質の移動時間から、核酸とタンパク質間の相互作用を迅速かつ簡便に検出し、定量的に解析する方法に関するものである。 近年の研究成果により、癌をはじめとする疾病の発生には、メッセンジャーRNA(mRNA)の量的および質的な変化が重要な役割をすることが明らかになっている。さらに、RNAとある種のタンパク質が相互作用することにより、RNAやタンパク質の機能が変化することがわかってきた。発明者を中心としたグループは、RNAに結合するタンパク質が、癌化に対して抑制的な役割をすることを世界で初めて報告した(非特許文献4)。これらの先駆的な研究成果に基づき、RNAを標的とした抗がん薬の創製・開発にむけて世界中の製薬会社の研究に拍車がかかるなど、医学・創薬の観点からも、RNAとタンパク質の相互作用(結合)の検出および/または解析法に対するニーズは高く、その重要性は生物学的にも医学的にも極めて高い。 これまで、核酸とタンパク質の相互作用(結合)の検出には、RI標識したタンパク質を用いて例えばゲルシフト法などにより相互作用が検出されてきたが、これには非常に煩雑な操作が必用であり、行程に長時間を要する。この方法では特に放射性同位体の使用が避けられないため、これらを実施するにあたり、1)放射性同位体を維持管理する特別な施設ならびに2)廃棄に際しての多額の費用と手間を必要とする、3)人体や環境に与える影響が完全には解明されていない等の問題点も有する。また、これらの方法により相互作用の有無を判定することはできるが、相互作用(結合)の程度、すなわち親和性を定量的に解析することは非常に困難である。 一方、タンパク質とそのリガンドとの相互作用解析においては、実際の細胞内の状況を試験系においてどのように再現するかがひとつの大きな問題である。特許文献1はキャピラリー電気泳動を利用して膜タンパク質とリガンドとの相互作用を解析する方法を開示しているが、生体内の状況を模倣するため膜タンパク質を脂質二重膜(リポソーム)上に再構築する工夫を施している。しかしながら、この手法は専ら膜タンパク質とリガンドの相互作用解析に限られている。 その他、キャピラリー電気泳動を用いたタンパク質とリガンドとの相互作用の解析としては、例えばRNAとファージ関連ペプチドとの相互作用の解析例(非特許文献1)や糖と血清タンパクとの相互作用の解析例(非特許文献2)等が報告されている。しかしながら、これらはそれぞれ、単体であるタンパク質(またはペプチド)と複合体である核酸-タンパク質(またはペプチド)の分離を行って、複合体の割合を求める方法であり、また紫外領域の吸光度を検出に利用していてその感度において改良の余地があった。 なお、本発明者らは非特許文献3において本発明に係る核酸とタンパク質の結合解析法を公表済みである。特開2005−043284号公報A.Taga et al., Electrophoresis, 25, 876-881(2004)P.Mucha et al., RNA, 8, 698-704(2002)R. Sato et al., Mol Biol Cell 20, 2473-85 (2009)R. Sugiura et al., Nature, 424, 961-5(2003) 本発明は、上に述べた状況に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解決し、自由溶液中(天然に近い状態)で、核酸とタンパク質の相互作用を、特段の誘導体化操作を用いずに、迅速かつ高感度、高精度で解析するための簡便で汎用性の高い方法を提供することを目的としている。 本発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、核酸とタンパク質間の相互作用を検出、解析する方法であって、核酸を含有する泳動液をキャピラリーに充填し、標識融合タンパク質を導入するか、またはタンパク質を含有する泳動液をキャピラリーに充填し、標識化した核酸を導入してキャピラリー電気泳動を行うことを特徴とする核酸−タンパク質相互作用解析法を提供する。 本発明は、第2には、核酸を含有する泳動液をキャピラリーに充填し、当該タンパク質を標識融合タンパク質として導入しキャピラリー電気泳動を行うことを特徴とする核酸−タンパク質相互作用解析法を提供する。 本発明は、第3には、タンパク質を含有する泳動液をキャピラリーに充填し、核酸を標識化して導入しキャピラリー電気泳動を行うことを特徴とする核酸−タンパク質相互作用解析法を提供する。 本発明は、第4には、タンパク質をグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、GFP変異体またはヒスチジンタグとの融合タンパク質とすることで標識化を行った後、キャピラリー電気泳動を行うことを特徴とする核酸−タンパク質相互作用解析法を提供する。 本発明は、第5には、RNAとRNA結合タンパク質の相互作用を解析するための方法であって、RNAを含有する泳動液をキャピラリーに充填し、当該結合タンパク質をGSTタグまたはGFPタグで標識化してキャピラリーに導入し、キャピラリー電気泳動を行うことを特徴とする核酸−タンパク質相互作用解析法を提供する。 さらに本発明は、第6として、泳動液をpHが5〜9の緩衝液とすることで生理的条件に近い条件下での解析を行う核酸−タンパク質相互作用解析法を、また、第7として、高速分析が可能なタンパク質分析用キャピラリー、好ましくはカルボキシル基により内面修飾したキャピラリー(例えばジーエルサイエンス社製FunCap-CE(商標)/Type C)を用いることにより、自由溶液の中性条件下において、高い精度で分析が可能なキャピラリー電気泳動による核酸−タンパク質相互作用解析法を提供する。 また本発明は、第8として、タンパク質を含有する泳動液をキャピラリーに充填し、核酸を標識化して導入しキャピラリー電気泳動において、泳動液のpHが5〜9であり、ポリアクリルアミドやジオールにより修飾して内壁を親水性で電気的に中性にしたキャピラリーを用いることを特徴とする核酸−タンパク質相互作用解析法を提供する。 本発明によれば、自由溶液中で、しかも生体条件に近い塩類組成ならびにpHを選択できる泳動液中で、タンパク質と核酸との相互作用を高い精度で解析するための、迅速かつ簡便で汎用性の高い方法が提供される。Pmp1 RNA添加濃度の逆数[Pmp1]−1に対して、GST-Rnc1タンパク質の移動時間変化量の逆数[t−t1]−1をプロットした図である。Pmp1 RNAまたはPmp1アンチセンスRNA添加濃度に対して、GST-Rnc1タンパク質の移動時間をプロットした図である。■はPmp1 RNA、●はPmp1アンチセンスRNAを示す。Pmp1 RNA添加濃度に対して、GFP-Rnc1タンパク質の移動時間をプロットした図である。Pmp1 RNA添加濃度の逆数[Pmp1]−1に対して、GFP-Rnc1タンパク質の移動時間変化量の逆数[t−t1]−1をプロットした図である。 キャピラリー電気泳動は、中空のキャピラリー中に満たした電解質溶液に電位差を与えて生じる電気浸透流と試料物質の正味電荷とサイズの比に依存する電気泳動速度の和である移動速度の違いに基づき、試料の分離、分析を可能にする方法であり、イオン性物質に対しては、理論的かつ高い分離性能を示すことが知られている。中空キャピラリーを使用するキャピラリー電気泳動では、分子の固定化、純化を行うことなく選択的に分子間相互作用を観測できることから、他法に比べて優位性は高い。 生体内で高い活性を示すタンパク質のうち、多くのものにおいて、その等電点は、弱酸性−弱塩基性であり、活性の至適pHおよび生理条件もほぼ中性である場合が多いため、イオン性に乏しく、電気泳動による移動速度は小さい場合が多い。これに対して、核酸は強い酸性基であるリン酸基を多くもつため、弱酸性−アルカリ性条件下で強い負電荷を有する。従って、これらのタンパク質と核酸が複合体を形成した場合には、大きな電気泳動速度の変化が観測されるため、高い精度で両者間の相互作用の度合いを見積もることが期待できる。 また、融合タンパク質を試料とする場合、標的タンパク質自体の芳香族アミノ酸含量が少ない場合でも標識部分のモル吸光係数および蛍光量子収率が高い場合、紫外可視吸光光度計または蛍光光度計を検出器として、高感度での検出が可能となり、生体成分のような微量しか入手できない試料においても、精度の高い検出が期待できる。 本発明者らは、このようなキャピラリー電気泳動の特徴を活かし、生理条件に近い環境での核酸とタンパク質の相互作用を精度高く、しかも微量で解析する方法を構築すべく鋭意研究を行った。そして、核酸を含有する泳動液をキャピラリーに充填し、融合タンパク質をキャピラリーに導入してキャピラリー電気泳動を行うことにより、特段のタンパク質試料の化学修飾を伴わずに高感度、高精度で核酸と融合タンパク質の相互作用の有無を検出し、両者間の結合の強さを測定できることを見いだし、この出願の発明に至ったものである。 通常、細胞内におけるタンパク質とそのリガンドの相互作用は可逆的であるが、従来の解析法は、タンパク質単体と核酸-タンパク質複合体との分離を行って、複合体の割合を求めるものであった。本発明では、キャピラリーに充填したリガンド、即ち核酸を含む泳動液中でタンパク質を分離することにより、結合の動的状態を観察することが可能である。 本発明の核酸−タンパク質結合解析法では、まず、泳動液に核酸を添加し、これをキャピラリーに充填する。このときのpHは、生理条件に近い条件に保つために適当な値に調整されており、泳動中に該pHが変化しない程度の緩衝能を有していればよく、特に限定されない。通常、pHとしては5〜9の範囲が好ましく、特に6〜8の範囲が好適である。 泳動液として具体的には、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、リン酸−ホウ酸緩衝液、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、トリス(Tris)緩衝液、MES(2−モルホリノエタンスルホン酸)やMOPS(3−モルホリノプロパンスルホン酸)などの有機系の緩衝液など一般に入手や扱いが容易なものが例示される。本発明の核酸−タンパク質結合解析法では、細胞内における生理条件に近い中性領域での緩衝能が高いもののうち、泳動液中の核酸および試料であるタンパク質と強固な水素結合、イオン相互作用、錯体形成などの相互作用を示さない成分からなる緩衝液が望ましい。したがって、上に例示した各種の緩衝液の中でも、泳動液にはリン酸緩衝液が好ましい。 また、泳動液中の核酸濃度は、特に限定されない。特定の構造の核酸が各種のタンパク質に対してどのように相互作用するかについて検討する場合には、一定濃度の核酸溶液を用いればよく、特定の核酸とタンパク質の結合定数を解析する場合には、各濃度(例えば0−200 μg/mL)の核酸含有泳動液を準備し、各濃度におけるキャピラリー電気泳動を行えばよい。 本出願の核酸−タンパク質結合解析法において、タンパク質試料として使用する融合タンパク質は、GST(グルタチオン−S-トランスフェラーゼ)などのアフィニティータグを結合させた状態で産生させた融合タンパク質、または、GFP(緑色蛍光タンパク質)などの蛍光タグを結合させた状態で産生させた融合タンパク質を用いる。また、GFP変異体として知られているCFP(シアン蛍光タンパク質:Cyan fluorescence protein)、YFP(黄色蛍光タンパク質:Yellow fluorescence protein)あるいはフルーツ蛍光タンパク質(例:mCherry)やDsRed(discosoma種・赤色蛍光タンパク質)など各種の蛍光タグ等も同様に使用することができる。いずれにおいても、これらのタグを融合した目的タンパク質を細胞中で産生させたのち、特段の検出や分離のための化学修飾を必要としないことを特徴とする。 尚、これら蛍光タグを使用した場合、その蛍光タグ自体と核酸との非特異的相互作用により目的とする核酸−タンパク質結合解析が阻害される懸念がある。しかしながら、本法によれば蛍光タグ単体と核酸との相互作用解析を予備的に実施して、そのような非特異的相互作用が実質上無視できる程度か確認し、あるいはその非特異的相互作用の結合定数を求めることにより、解析しようとする核酸−タンパク質間の特異的相互作用と容易に識別することが可能である(後記実施例参照)。 例えば、GST融合タンパク質の場合、グルタチオンに特異的かつ強固に結合するため、細胞を破砕させたのち、容易に目的タンパク質を単離でき、GST部分には240 nm付近を極大とする強い紫外部吸収を有し、また自然蛍光も発するため、目的タンパク質が吸光または蛍光を有さない場合であっても、この部分の光学的性質を利用して高感度かつ特異的な検出を行うことができる。 一方、GFP融合タンパク質の場合、480nm付近の可視光を励起光として強い蛍光を発するため、この蛍光を利用して検出を行えば、通常の細胞中に含まれるほぼすべての共存物は検出されない。したがって、目的タンパク質を単離する必要がない上、レーザー励起蛍光(LIF)検出器を用いれば、高感度検出が可能である。 これらのことから、融合タンパク質をタンパク質試料として使用すれば、標識タグをもたないタンパク質を使用する場合に比べて、非常に低濃度でキャピラリー電気泳動を行うことができるため、通常タンパク質の分析時に問題となる、キャピラリー内壁への吸着やピーク形状の悪化、高粘度溶液であるが故の試料導入量の低再現性など、多くの問題点を解決でき、高精度な結合解析が可能になる。 上記のとおり、本発明では通常使用されるキャピラリーであれば特に問題なく使用できるが、特に、キャピラリー内壁をカルボキシル基により修飾したものが好適に使用される。この種のキャピラリーとしては、例えば市販されているジーエルサイエンス社製FunCap-CE(商標)/Type Cを利用することも可能である。 本願発明においては、タンパク質含有泳動液を用い、核酸を分析することによっても同様の解析が可能である。ただし、タンパク質を高濃度で含有する泳動液を用い、負電荷の強い核酸を試料として分析する系においては、ポリアクリルアミドやジオールにより修飾してキャピラリー内壁を親水性で電気的にほぼ中性にしたキャピラリーを用いることによりタンパク質の内壁への吸着を防ぐと同時に電気浸透流をほぼ消失させて分析を行うことが望ましい。 内壁を中性にしたキャピラリーを使用する場合、核酸はその強い負電荷により陰極から陽極に向かって移動する。タンパク質はその等電点と泳動液のpHにより移動方向ならびに移動速度が決定するが、核酸の負電荷による電気泳動速度に比べて非常に遅い移動速度を取る。したがって、核酸試料を陰極より導入し、陽極側で検出することにより、泳動液へのタンパク質添加に伴う核酸の移動時間の遅延が観察され、その移動時間変化量から、同様の解析法により、核酸−タンパク質間相互作用の解析が可能である。 一方、芳香族アミノ酸を含有しない、例えばメタロチオネインなどのタンパク質、あるいは紫外部吸収の弱いタンパク質を泳動液に添加する場合には、核酸の254 nm付近の紫外部吸収を利用して検出することが可能であるが、多くのタンパク質は紫外部吸収および/または蛍光を有するものが多いため、紫外部吸収または蛍光を利用して検出を行う場合、バックグランドが高くなることが想定される。このような場合、検出の選択性ならびに感度を向上させるため標識化した核酸を試料として用いることが望ましい。例えば、核酸標識化にはフルオレセイン、Cy3蛍光色素、Cy5蛍光色素などが用いられ、常法により標識化することができる。 なお、以上のとおりの核酸−タンパク質結合解析法において、電気泳動の結果からタンパク質と核酸の結合定数を算出する方法は、核酸含有泳動液を用いてタンパク質を分析する手法の場合、以下の通りである。 タンパク質とリガンドの結合が可逆的な相互作用である場合、結合定数(Ka)および、結合型タンパク質のモル分率(α)は、それぞれ次のように示される。Ka = [PL][P]-1[L]-1α = [PL]([P] + [PL])-1(ただし、[P]、[L]および[PL]は、それぞれ、遊離型タンパク質濃度、リガンド濃度および結合型タンパク質濃度を表す) キャピラリー電気泳動において、正極から負極へ向かう電気浸透流が流れる条件下では、タンパク質試料の移動速度(VP)は、試料固有の電荷とサイズに応じた静電的引力による移動速度(vP, ただし、泳動方向が電気浸透流と逆向きの場合-vP)と電気浸透流の流速(veo)の総和として表すことができ、試料の電荷が負電荷で、正極へ電気泳動を受ける場合、次のような式で示される。VP = veo - vP また、リガンドとして泳動液に核酸を添加した場合のタンパク質の移動速度(VPL)は、次式で示される。VPL = veo - [αvPL + (1 - α)vP](ただし、vPLは複合体の電気泳動速度) 泳動液にリガンドを添加していない場合のタンパク質の移動速度と特定濃度([L] mol/L )で泳動液にリガンドを添加した場合のタンパク質の移動速度とリガンド無添加時のタンパク質の移動速度の差は次のように示される。VP - VPL = α(vPL - vP) この式を、Kaおよびαを示す式から得られるKa-1[L]-1 + 1 = α-1に代入すると、次式が得られる。Ka-1[L]-1 + 1 = (vPL - vP)(VP - VPL)-1 ここで、リガンドを添加しない場合のタンパク質の移動時間をt1、種々の濃度でリガンドとして核酸を泳動液に添加した場合の移動時間をt、キャピラリー有効長をlとすると、VPL = lt-1VP = lt1-1であるから、Ka-1[L]-1 + 1 = (vPL - vP)(lt1 - lt)-1 = (vPL - vP) t1t (tl - t1l)-1となり、整理すると、(t - t1)-1 = l{(vPL - vP)t12Ka[L]}-1 + l[(vPL - vP)t12]-1 - t1-1となる。また、複合体の移動時間をt2とすると、(vPL - vP) = l(t2 - t1)t1-1t2-1である。したがって、これらをまとめると次式が得られる。(t - t1)-1 = t2t1-1(t2 - t1) Ka-1[L]-1 + (t2 - t1)-1 ここで、t1、t2およびKaは、それぞれ定数であるから、(t - t1)-1と[L]-1の間には直線関係が成り立つことになる。この直線の傾き(A)から、Ka = t2t1-1(t2 - t1)A-1によりKaを求めることができる。しかし、この場合、複合体の移動時間(t2)を実測する必要がある。実際には、十分高い濃度でリガンドを添加した泳動液中でタンパク質を分析すれば、ほぼ全タンパク質が複合体を形成するため、t2を実測できる。しかし、その場合、結合の強さにより移動時間変化のプラトーに達するリガンド濃度を予め求める必要があり、あまり実用的ではない。 そこで、直線の切片(B)を用いれば、Ka = (Bt1 + 1)(At1)-1によってKaを算出でき、t2を実測することなく、核酸−タンパク質間のKaを測定できる。 タンパク質含有泳動液を用い、核酸を分析する手法の場合は上記において核酸とタンパク質を入れ替え、種々の濃度でタンパク質を泳動液に添加することで同様に測定できる。実施例1 GST融合タンパク質の解析例 以下の実施例では、RNA結合タンパク質として既に報告しているRnc1のGST融合タンパク質としてプルダウンして調製したものをタンパク質試料(GST-Rnc1)とし、これと結合するmRNAであるPmp1 RNAを核酸(リガンド)として用いた。 〔機器〕 以下の実施例においては、次の機器を使用した。 UV検出用キャピラリー電気泳動装置:Photal CAPI-3100(大塚電子) キャピラリー:長さ62 cm、有効長50 cm、内径 50 μmのFunCap-CE(商標)/Type C(ジーエルサイエンス) LIF検出用キャピラリー電気泳動装置 検出器:LIF276(ジーエルサイエンス) 高電圧電源:HER-30PI(松定プレシジョン) キャピラリー:長さ68.5 cm、有効長35 cm、内径 50 μmのFunCap-CE(商標)/Type C(ジーエルサイエンス) 超純水製造装置:MILLIPORE Simpli Lab(日本ミリポア) pH測定器:Navi F-52(堀場製作所) 〔試薬〕 また、試薬は次のものを使用した。 リン酸水素二ナトリウム12水和物:(ナカライテスク) リン酸二水素ナトリウム2水和物:(ナカライテスク) 塩化ナトリウム:(ナカライテスク)(緩衝液の調製) リン酸水素二ナトリウム12水和物およびリン酸二水素ナトリウム2水和物をそれぞれ50 mMになるように精製水に溶かし、pHメーターを使ってpH 6.8になるようにこれらの水溶液を混合し、0.45 μmのメンブレンフィルターでろ過してリン酸緩衝液(50 mM, pH 6.8)を調製した。また、洗浄用1M NaClには、塩化ナトリウムを1M濃度で精製水に溶かし、0.45 μmのメンブレンフィルターでろ過したものを使用した。 リン酸緩衝液(50 mM, pH 6.8)に、得られたmRNAを200 μg/mLになるように溶解し0.45 μmのメンブレンフィルターでろ過後、これを同一の緩衝液で順次希釈することにより核酸含有泳動液を調製した。 0.6 mLのサンプルチューブに種々の濃度で核酸を含有するリン酸緩衝液(50 mM, pH 6.8)を入れ、泳動液とした。同様に洗浄用1M NaClを用意した。また、0.6 mLサンプルチューブおよび15 mLガラスバイアルに核酸を含まないリン酸緩衝液(50 mM, pH 6.8)を入れ、それぞれ陽極および陰極の電極液とした。(電気泳動) 泳動条件は次の通りとした。 1 M NaClによる洗浄:吸引法(1 min) 泳動液の充填およびキャピラリー内の平衡化:吸引法(5 min) 試料導入:落差法(2.5 cm x 30 sec) 印加電圧:20 kV キャピラリー温度:25℃ 検出波長:225 nm 結果を表1に示した。 表1より、泳動液中に添加したPmp1 RNA濃度に依存してRnc1の移動時間が遅くなることが確認された。そこで、両者間の結合定数を求めるために、Pmp1 RNA添加濃度の逆数に対して、Rnc1の移動時間変化量の逆数をプロットしたところ、図1に示すような結果が得られた。これより、直線の傾き(A)および切片(B)はそれぞれ、1.087 x 10-7および0.9072となり、Pmp1 RNAとRnc1の結合定数Ka = 9.65 x 106 (M-1) が得られた。比較例1 ここで得られた結果が、Pmp1 RNAとRnc1の間の特異的な相互作用によるものであることを確かめるため、リガンドのPmp1 RNAの塩基配列に対して相補的な塩基配列のPmp1アンチセンスRNAを調製し同様の検討を行った。 結果を表2に示した。また、表1と表2の結果の比較を図2に示した。 表2および図2より、Pmp1アンチセンスRNAの添加により若干の移動時間シフトは観察されるものの、表1の結果と比較すると極めて小さい変化であることから、Pmp1アンチセンスRNAとRnc1の相互作用は皆無ではないが事実上無視できるものであり、少なくともPmp1 RNAとRnc1の結合実験の結果は特異的相互作用によるものであることが確認できた。実施例2 GFP融合タンパク質の解析例 目的タンパク質を細胞に生成させ、細胞破砕後の精製操作を省き結合実験の工程を大幅に簡略化させる目的で、緑色蛍光タンパク質(GFP)とRnc1との融合タンパク質(GFP-Rnc1)を用いて同様の結合実験を行った。 実施例1および比較例1と同様にして核酸含有泳動液を調製した。タンパク質試料は細胞破砕後のライゼートをそのまま0.45 μmのメンブレンフィルターでろ過し、分析用試料とした。 試料導入は、落差法(5 cm x 10 sec)、分析温度は室温(24±1℃)とした。検出は473 nmの半導体レーザーを光源とし、500−600 nmの蛍光強度を測定することにより行った。その他の条件は実施例1および比較例1と同様にしてキャピラリー電気泳動を行った。 結果を表3に示す。 表3の結果から、移動時間を核酸濃度に対してプロットした結果を図3に示す。図3より、25 μg/mL付近に変曲点をもつ曲線となることがわかる。また、核酸濃度の逆数に対して移動時間変化の逆数をプロットした結果を図4に示す。図4より、本プロットより2本の直線が得られ、GFP-Rnc1またはPmp1 RNAのいずれかに結合能の異なる結合サイトが2箇所あることが示唆される。 得られた2本の直線の傾き(A)および切片(B)から、それぞれについて結合定数を算出したところ、GFP-Rnc1とPmp1の結合定数として、低濃度範囲の直線 (Y = 8.420 x 10-9X + 1.301, R = 0.987) からは1.646 x 108 (M-1)、高濃度範囲の直線 (Y = 6.201 x 10-8X + 0.4153, R = 0.968) からは、8.067 x 106 (M-1) が得られた。比較例2 目的タンパク質であるRnc1をもってないGFP単体をタンパク質試料としてPmp1RNAとの結合を解析した結果を表4に示す。 表4の結果より、核酸濃度の逆数に対してGFPの移動時間変化の逆数をプロットすると、直線 (Y = 7.203 x 10-8X + 0.4435, R = 0.969) が得られ、GFPとPmp1 RNAの結合定数は7.666 x 106 (M-1)となった。このことより、広くタンパク質の蛍光タグとして使用されているGFPは、そのもの自体がRNAと結合する場合があることがわかった。また、今回得られたGFP-Rnc1とPmp1 RNA間の2つの結合定数のうち高濃度範囲の結果から得られた結合定数は、GFP-Pmp1 RNAの結合定数と近似していることから、目的タンパク質であるRnc1自体がもつPmp1 RNAサイトに由来する結合の強さは、低濃度範囲の結果より得た結合定数1.646 x 108 (M-1)であることを強く後押しする結果が得られた。 GSTやGFPのようなタグでタンパク質を標識化した場合、これらタグ部分と核酸との相互作用により、目的とする核酸−タンパク質相互作用の測定が阻害される事態が懸念された。しかしながら、上記実施例に示すとおり、タグ部分と核酸との相互作用を予備的に測定してその相互作用を別途評価しておくことで、タグ部分と核酸の非特異的な相互作用は核酸とその結合タンパク質間における特異的相互作用とは結合定数の大きさが異なるので識別可能であることが示された。参考例1 GFP融合タンパク質の調製 GFP-Rnc1およびGFP発現ベクターの構築は、杉浦らが調製したものを用いた(非特許文献4)。すなわち、分裂酵母由来のゲノムDNAを鋳型として、PCR法によってRnc1遺伝子を増幅した。これを分裂酵母用遺伝子発現現ベクターであるpRep1-GFPベクターにクローニングした(pRep1-Rnc1-GFP)。なお、pRep1-GFPベクターには、予めGFPが融合タンパク質として発現されるようにGFP遺伝子がクローニングされている。 このようにして構築されたpRep1-Rnc1-GFPによって分裂酵母HM123を形質転換し、得られた酵母を、チアミンを含まないEMMプレート上で、27℃下、24時間培養した。培養終了後に細胞を回収し、50 mM リン酸緩衝液(pH 6.8)を加え、ミニビートビーター(Mini beat beater)(室温下・粉砕1分−氷冷下・1分のサイクルを10回繰り返し)により破砕した。この破砕液を15,000 rpm、15分、4℃下で遠心し、得られた上清をGFP-Rnc1を発現した細胞破砕液とした。なお、GFPを発現した細胞溶解液は、pRep1-GFPベクターを用いて同様な処理をすることによって調製した。参考例2 RNA(Pmp1のRNA)の調製 Pmp1 RNA1の構築は、杉浦らが調製したものを用いた(非特許文献4)。すなわち、分裂酵母由来のゲノムDNAを鋳型として、PCR法によってPmp1遺伝子を増幅した。これを大腸菌クローニングベクターであるブルースクリプト(pBluescript)にクローニングした(pBS-Pmp1)。なお、プラスミドの構造上、XhoI 処理したpBS-Pmp1からはPmp1 mRNAが得られ、NotI処理したpBS-Pmp1からはPmp1アンチセンスmRNA(Pmp1 mRNAと相補的な配列を持つRNA)が得られることになる。 pBS-Pmp1 20μlにXhoIあるいはNotIを1.5μLで加え、37℃下、一晩反応させることによってDNAを切断し、常法に従ってフェノール抽出およびクロロホルム抽出を行うことによって、DNAを精製した。得られたXhoI処理およびNotI処理DNAの260/280値は、それぞれ1.836、1.825であった。これらのDNA各2μgに、それぞれT7 RNAポリメラーゼ 2μLあるいはT3 RNAポリメラーゼ 4μLを加え、37℃下、3時間反応させた。さらに、80℃、10分加熱して酵素を失活させた後、RNase-free DNase 4μLを加えて37℃下、1時間インキュベートした。このRNAをエタノール沈殿によって精製し、50 mM リン酸緩衝液(pH6.8)20μLに溶解した。XhoI処理およびNotI処理RNAの260/280値は、それぞれ2.134、2.049であった。 ここで用いた試薬または器具は以下の通りである。 リン酸水素二ナトリウム:ナカライテスク リン酸二水素ナトリウム二水和物:ナカライテスク エタノール:和光純薬 ブルースクリプト(pBluescript):ストラタジーン(Stratagene) NotI:タカラ XhoI:タカラ T3RNAポリメラーゼ:プロメガ T7RNAポリメラーゼ:ロシュ RNase-free DNase:タカラ ミニビートビーター(Mini beat beater):トミー 本発明により、核酸とタンパク質の相互作用を解析するための簡便かつ汎用性の高い方法が提供される。かかる相互作用の解析は、各種疾患の発病機構の解明およびその予防薬若しくは治療薬の開発等に大きく寄与することが期待される。 核酸とタンパク質の相互作用を解析するための方法であって、1.核酸を含有する泳動液をキャピラリーに充填し、当該タンパク質を標識融合タンパク質としてキャピラリーに導入するか、または2.タンパク質を含有する泳動液をキャピラリーに充填し、当該核酸を標識化してキャピラリーに導入し、キャピラリー電気泳動を行うことを特徴とする核酸−タンパク質相互作用解析法。 核酸を含有する泳動液をキャピラリーに充填し、当該タンパク質を標識融合タンパク質としてキャピラリーに導入する、請求項1の解析法。 タンパク質を含有する泳動液をキャピラリーに充填し、当該核酸を標識化してキャピラリーに導入する、請求項1の解析法。 標識融合タンパク質がグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、緑色蛍光タンパク質(GFP)、GFP変異体またはヒスチジンタグとの融合タンパク質である、請求項1〜3のいずれかの解析法。 RNAとRNA結合タンパク質の相互作用を解析するための方法であって、RNAを含有する泳動液をキャピラリーに充填し、当該結合タンパク質をGSTタグまたはGFPタグで標識化してキャピラリーに導入し、キャピラリー電気泳動を行うことを特徴とする核酸−タンパク質相互作用解析法。 泳動液のpHが5〜9である、請求項1〜4のいずれかの解析法。 カルボキシル基により内面修飾したキャピラリーを用いる、請求項5または6の解析法。 泳動液のpHが5〜9であり、ポリアクリルアミドやジオールにより修飾してキャピラリー内壁を親水性で電気的に中性にしたキャピラリーを用いる、請求項3の解析法。 【課題】生体内に近い条件下で、核酸とタンパク質間の相互作用を微量試料で迅速且つ高精度に解析するための方法を提供する。【解決手段】核酸とタンパク質の相互作用を解析するための方法であって、核酸を含有する泳動液をキャピラリーに充填し、標識タンパク質をキャピラリーに導入し、またはタンパク質を含有する泳動液をキャピラリーに充填し、標識化した核酸をキャピラリーに導入し、キャピラリー電気泳動を行う。【選択図】なし


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