生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_ネコ伝染性腹膜炎の治療および予防するための医薬組成物およびその使用
出願番号:2009178743
年次:2011
IPC分類:A61K 38/00,A61P 29/00,A61P 31/12,A61P 43/00,A61P 37/02,A61P 37/06,A61P 37/08,A61P 27/02,A61P 31/18,A61P 31/22,A61P 31/14


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田中 良和 JP 2011032192 公開特許公報(A) 20110217 2009178743 20090731 ネコ伝染性腹膜炎の治療および予防するための医薬組成物およびその使用 学校法人日本医科大学 500557048 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 田中 夏夫 100111741 田中 良和 A61K 38/00 20060101AFI20110121BHJP A61P 29/00 20060101ALI20110121BHJP A61P 31/12 20060101ALI20110121BHJP A61P 43/00 20060101ALI20110121BHJP A61P 37/02 20060101ALI20110121BHJP A61P 37/06 20060101ALI20110121BHJP A61P 37/08 20060101ALI20110121BHJP A61P 27/02 20060101ALI20110121BHJP A61P 31/18 20060101ALI20110121BHJP A61P 31/22 20060101ALI20110121BHJP A61P 31/14 20060101ALI20110121BHJP JPA61K37/02A61P29/00A61P31/12 171A61P43/00 111A61P37/02A61P37/06A61P37/08A61P27/02A61P31/18A61P31/22A61P31/14 5 OL 12 4C084 4C084AA02 4C084BA03 4C084BA44 4C084CA05 4C084DA11 4C084NA14 4C084ZA332 4C084ZB072 4C084ZB082 4C084ZB112 4C084ZB132 4C084ZB332 4C084ZC022 4C084ZC552 4C084ZC612 本発明は、ネコ伝染性腹膜炎を治療および予防するための、シクロスポリンを有効成分とする医薬組成物に関する。また本発明は、シクロスポリン製剤を投与することによるFIPVの治療法および予防法に関する。 ネコ伝染性腹膜炎(Feline Infectious Peritonitis:以後、FIPと記載)は、コロナウイルスがネコ体内で突然変異したネコ伝染性腹膜炎ウイルス(以後、FIPVと記載)によって起こる病気で、発症すると非治療時の致死率はほぼ100%と非常に高い恐ろしい疾患である。 FIPVは、コロナウイルス(SARSウイルスも属する)に属し、ウイルスゲノムとして1本鎖のプラス鎖RNAを有する。 FIPVはネコ腸コロナウイルス(以後、FCoVと記載)と遺伝子相同性が90%以上であり、抗原性もほとんど同じである。このため、市販の血清診断キットでは両ウイルスの識別は不可能である。現在、遺伝子的に両者を識別することができないため、FIPVはFCoVの変異株であると考えられており、その病原性における違いによって両者が区別されているにすぎない。 FIPの臨床症状として、伝染性の漿膜炎、大網炎、ブドウ膜炎、ならびに腎臓、腸間膜リンパ節、肝臓、脾臓、および中枢神経系などの実質臓器の肉芽腫性病変が挙げられる。FIPの特徴的な臨床像として炎症性滲出が認められる滲出型(ウエットタイプ)と非滲出型(ドライタイプ)二つの型がある。症例の多い「ウエットタイプ」は、発熱や下痢、貧血などとともに腹部や胸部に重篤な血管炎を起こし、腹水や胸水がたまって腹部が膨れたり、呼吸困難がみられる。「ドライタイプ」は、腹部にリンパ腫のような、大きなしこりができる。さらにこのタイプは脳内に炎症を起こして、麻痺や痙攣などの神経症状を引き起こすこともある。 現在のところ、FIPの根治療法は存在せず、いったんFIPが発症すると、インターフェロンやステロイド剤を投与して症状を緩和する対症療法しか方法はなく、ほとんどの場合助からない。また、有効なワクチンも存在しないため、十分な治療効果を得ることは難しい(非特許文献1)。 マクロファージはFIPVのレゼルボアとなることが知られている。FIPVは、マクロファージにおいて、FCoVと比べて100倍以上ウイルス増殖効率が高い(非特許文献2)。しかし、FIPVがマクロファージ内において、どのような機構により複製効率を高めているのかは明らかではない。 シクロスポリンは、真菌が産生する環状ポリペプチド抗生物質の一つであり、Tリンパ球によるインターロイキンの産生と遊離を抑制する機能を有する。今日、臓器移植による拒絶反応の抑制や自己免疫疾患の治療において、免疫抑制剤として一般的に使用されている。その作用機序は、直接的な細胞障害性によるものではなく、リンパ球に対し特異的かつ可逆的に作用し、強力な免疫抑制作用を示すことが知られている。また、動物薬としても販売されており、アトピー性皮膚炎やアレルギー、乾燥性角結膜炎などの免疫関連の疾患に用いられている。ウイルス分野においては、シクロスポリンは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)、サイトメガロウイルス(CMV)およびC型肝炎ウイルス(HCV)に対して、増殖抑制効果が示すことが報告されている(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。しかしながら、FIPVに対するシクロスポリンの効果は明らかにされていない。Niels C. Pedersen, Feline Infectious Disease, American Veterinary Publications, Inc.Dewerchin HLら、 Replication of feline coronaviruses in peripheral blood monocytes. Arch Virol. 2005 Dec;150(12):2483-500. Epub 2005 Aug 1.Wainberg MAら、 The effect of cyclosporine A on infection of susceptible cells by human immunodeficiency virus type 1. Blood. 1988 Dec;72(6):1904-10.Watashi Kら、 Cyclosporin A suppresses replication of hepatitis C virus genome in cultured hepatocytes. Hepatology. 2003 Nov;38(5):1282-8.Kawasaki Hら、 Cyclosporine inhibits mouse cytomegalovirus infection via a cyclophilin-dependent pathway specifically in neural stem/progenitor cells. J Virol. 2007 Sep;81(17):9013-23. Epub 2007 Jun 6. 従来法では、FIPを十分に予防および/または治療することができなかったため、FIPを有効に予防および/または治療することができる新たな方法が望まれていた。 そこで、本発明では、FIPVの増殖を効率的に阻害することが可能な医薬組成物および当該医薬組成物を用いたFIPの治療法を提供する。 そこで、本願発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、シクロスポリンが効率的にFIPVの細胞内増殖を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は以下のとおりである。[1] シクロスポリンを有効成分として含有する、FIPを治療および/または予防するための医薬組成物。[2] FIPVの増殖を抑制する、[1]の医薬組成物。[3] シクロスポリンがシクロスポリンAである、[1]または[2]の医薬組成物。[4] [1]〜[3]のいずれかの医薬組成物を、FIPを罹患する、または罹患する恐れのあるネコに投与する工程、を包含するFIPを治療および/または予防するための方法。[5] シクロスポリン製剤を、FIPを罹患する、または罹患する恐れのあるネコに投与する工程、を包含するFIPを治療および/または予防するための方法。 シクロスポリンを有効成分とする医薬組成物を用いて、FIPVの細胞内増殖を有意に抑制することができる。また、シクロスポリン製剤を投与することによって、FIPを効率的に予防または治療することができる。図1は、FIPV感染前に各濃度のシクロスポリンAで処理した細胞におけるFIPVのコピー数を示すグラフ図である。図2は、FIPV感染前に各濃度のシクロスポリンAで処理した細胞の写真図である。(A)Mock細胞、(B)対照(ジメチルスルホキシド投与処理)細胞、(C)シクロスポリンA0.025 mg/ml処理細胞、(D)シクロスポリンA 0.0125 mg/ml処理細胞、(E)シクロスポリンA 0.00625 mg/ml処理細胞。図3は、FIPV感染後に各濃度のシクロスポリンAで処理した細胞におけるFIPVのコピー数を示すグラフ図である。図4は、FIPV感染後に各濃度のシクロスポリンAで処理した細胞の写真図である。(A)Mock細胞、(B)対照(ジメチルスルホキシド投与処理)細胞、(C)シクロスポリンA0.025 mg/ml処理細胞、(D)シクロスポリンA 0.0125 mg/ml処理細胞、(E)シクロスポリンA 0.00625 mg/ml処理細胞。図5は、FIPV感染前に各濃度のFK506で処理した細胞におけるFIPVのコピー数を示すグラフ図である。図6は、FIPV感染前に各濃度のFK506で処理した細胞の写真図である。(A)Mock細胞、(B)対照(ジメチルスルホキシド投与処理)細胞、(C)FK506 1μM 処理細胞、(D)FK506 0.5μM 処理細胞、(E)FK506 0.25μM処理細胞。 本発明の医薬組成物において有効成分として含まれるシクロスポリンは公知の化合物であり、シクロスポリンA、シクロスポリンB、シクロスポリンC、シクロスポリンD、シクロスポリンH等、現在A〜Zタイプが知られている。本発明においては、いずれのタイプのシクロスポリンも用いることが可能であるが、特にシクロスポリンAが好ましい。 また、本発明において「シクロスポリン」には、上記A〜Zタイプのシクロスポリンに限定されるものではなく、これらのシクロスポリン類の構造類似体、誘導体、塩等が含まれる。 シクロスポリンは、当業者に公知の種々の方法により得ることが可能であり、例えば発酵、生体内変換、誘導体化、および部分もしくは全合成等が挙げられる。また、シクロスポリンは、薬品メーカー、例えばノバルティス社などから購入することができる。 本発明の医薬組成物は、経口投与または非経口投与(例えば、静脈内投与、動脈内投与、注射による局所投与、腹腔または胸腔への投与、皮下投与、筋肉内投与、舌下投与、経皮吸収または直腸内投与など)によって、投与することができる。 本発明の医薬組成物は、投与経路に応じて適当な剤形とすることができる。具体的には注射剤、懸濁剤、乳化剤、軟膏剤、クリーム剤錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、細粒剤、トローチ錠、直腸投与剤、油脂性坐剤、水溶性坐剤等の各種製剤形態に調製することができる。 これらの各種製剤は、通常用いられている賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を用いて常法により製造することができる。 賦形剤としては、例えば、乳糖、ショ糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、マルトース、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、イノシトール、デキストラン、ソルビトール、アルブミン、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、メチルセルロース、グリセリン、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴムおよびこれらの混合物等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールおよびこれらの混合物等が挙げられる。結合剤としては、例えば、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、エチルセルロース、水、エタノール、リン酸カリウムおよびこれらの混合物等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖およびこれらの混合物等が挙げられる。希釈剤としては、例えば、水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類およびこれらの混合物等が挙げられる。安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、チオグリコール酸、チオ乳酸およびこれらの混合物等が挙げられる。等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ホウ酸、ブドウ糖、グリセリンおよびこれらの混合物等が挙げられる。pH調整剤および緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムおよびこれらの混合物等が挙げられる。 本発明は、シクロスポリンを投与することによる、FIPの治療および予防方法に関する。 当該方法においてシクロスポリンは、上記シクロスポリンを有効成分とする医薬組成物であっても良いし、あるいは、上記医薬組成物に代えておよび/または加えて、ヒトおよび動物用として公知のシクロスポリン製剤を投与しても良い。本発明に用いることができる公知のシクロスポリン製剤として例えば、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない: シクロスポリンの投与量は、投与対象の年齢、体重、疾患の重篤度などの要因によって変化し得るが、1日あたり、1mg〜100mg/kg、好ましくは2mg〜50mg/kg、さらに好ましくは5〜20mg/kgの範囲から適宜選択することができる。場合によっては、これ以下でも足りるし、また逆にこれ以上の用量を必要とすることもある。また1日2〜3回に分割して投与することもできる。 シクロスポリンの投与は、FIPを罹患する恐れのあるネコもしくはFIPVに感染しかつFIPを発症していないネコまたはFIPVに未感染のネコに予防的に投与することもできるし、FIPを罹患しているネコに治療的に投与することもできる。「予防的」とは、シクロスポリンの投与に起因して、投与対象におけるFIPの症状の再発、発症、または発現を防止することを指す。「治療的」とは、シクロスポリンの投与に起因して、投与対象におけるFIPの症状を完治または寛解することを指す。 シクロスポリンを予防的に投与することによって、投与対象においてFIPV感染後のFIPV増殖を有意に抑制することができる。また、シクロスポリンを治療的に投与することによって、投与後のFIPVの増殖を、有意に抑制することができる。 シクロスポリンは、他の予防剤および/または治療剤と組み合わせて投与しても良い。「組み合わせて」とは、1つ以上の予防剤および/または治療剤との併用を意味する。「組み合わせて」という用語の使用は、投与対象にシクロスポリン、ならびに予防剤および/または治療剤が投与される順序を限定しない。第1の薬剤を、投与対象に第2の薬剤を投与する前(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、または12週間前)、投与と同時、または投与後(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、または12週間後)に投与することができる。 組み合わせて投与することができる他の予防剤および/または治療剤としては、FIPの治療および予防に使用することが公知である薬剤、例えばステロイド剤、抗生物質、インターフェロン、ビタミン剤、栄養剤などが挙げられるがこれらに限定されない。さらに、他の予防剤および/または治療剤として、FIPVの特定の遺伝子(例えば、マトリックス遺伝子と3CLpro遺伝子)のmRNAを標的とするRNAi分子等が挙げられる(特願2008-1382号および特願2008-1419号)。 シクロスポリン投与の効果は、FIPの症状(患部の重篤度、範囲など)がシクロスポリンを投与していない個体、または投与前と比較して緩和していることを指標にして評価することが可能である。また、シクロスポリン投与の効果は、投与対象におけるFIPVのコピー数(FIPVのコピー数を示すFIPVの総mRNAまたは特定遺伝子(マーカー遺伝子)のmRNAもしくはタンパク質の発現量)が、シクロスポリンを投与していない個体、または投与前のものと比較して低下していることを指標にして評価することが可能である。測定対象がmRNAである場合には、ノザンハイブリダイゼーション、RT-PCR、in situ hybridizationなどによって測定することができる。また、測定対象がタンパク質である場合には、ウエスタンブロッティング、ELISA、抗体を結合させたプロテインチップを用いた測定、タンパク質の活性測定などによって測定することができる。 本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。(実施例1)シクロスポリンAのFIPウイルス感染前投与によるウイルス増殖抑制効果 FIPVが感染・複製可能なネコ全胎児由来細胞株fcwf-4(ATCC CRL-2787)を10% ウシ胎児血清含有D-MEMを用いて5% CO2 存在下で培養した。具体的には、当該細胞を24ウェルプレートに撒き(2 x 105細胞/ウェル)、翌日、シクロスポリンA(Sigma-Aldlich Japan)を0.025 mg/ml、0.0125 mg/mlまたは0.00625 mg/mlの終濃度になるようにジメチルスルホキシドで希釈し、FIPV感染の2時間前に各ウェルに添加した。対照群ウェルにおいてはジメチルスルホキシドのみを添加した。その後、各ウェルの細胞にFIPV(終濃度104 copies/ml)を感染させた。シクロスポリンAを添加24時間後、Axiovert 200M/ApoTome (Carl Zeiss)にて細胞の画像を撮影した後、各ウェルより細胞を回収し、Isogen(ニッポンジーン)を用いて製造元の推奨プロトコールに従い総RNAを抽出した。 得られた総RNA(0.8 μg)を、サンプル毎にPrimeScript cDNA合成キット(タカラバイオ)を用いてcDNAに合成した。cDNA合成は25℃ 10分,50℃ 30分,85℃ 5秒の条件で行った。 得られたcDNAを用いて、Premix EXTaq(タカラバイオ)によるリアルタイムPCRを製造元の推奨プロトコールに従い行った。リアルタイムPCRの条件は、95℃にて10秒の加熱後、95℃5秒および60℃36秒を40サイクル行った。上記一連の実験を3回以上繰り返し行った。 リアルタイムPCRの結果を図1に示す。図1のグラフは各濃度のシクロスポリンAで処理した細胞におけるFIPVのコピー数を示す。 シクロスポリンA 0.025 mg/ml処理細胞、0.0125 mg/ml処理細胞および0.00625 mg/ml処理細胞にてそれぞれ、5.05 x 107コピー、3.41 x 108コピーおよび1.04 x 109コピーのFIPVが検出された。これに対し、シクロスポリンA非投与の対照群では、2.30 x 109コピーのFIPVが検出された。 以上より、ウイルス感染前に、シクロスポリンAを投与することによってFIPV増殖を容量依存的に抑制できることが明らかとなった。 また、シクロスポリンA添加24時間後の細胞の画像を図2に示す。シクロスポリンA0.025 mg/mlで処理した感染細胞においては、細胞融合現象を主徴とする細胞変性等の影響はほとんど観察されず、細胞変性の抑制効果が顕著に認められた(図2(C))。0.0125 mg/ml 投与、および0.00625 mg/ml 投与とシクロスポリンAの濃度が減少していくにつれて、当該抑制効果も減弱した(図2(D)および(E))。この結果は、細胞変性の抑制効果がシクロスポリンAの濃度依存的であることを示し、FIPV増殖量を示す上記のリアルタイムPCRの結果と相関する。(実施例2)シクロスポリンAのFIPウイルス感染後投与によるウイルス増殖抑制効果 上記細胞株fcwf-4(2 x 105細胞/ウェル)を10% ウシ胎児血清含有D-MEMを用いて24ウェルプレートに撒き5% CO2 存在下で一晩培養した。その後、各ウェルの細胞にFIPV(104 copies/ml)を感染させた。FIPV感染の2時間後に、シクロスポリンAを0.025 mg/ml、0.0125 mg/mlまたは0.00625 mg/mlの終濃度となるように各ウェルに添加した。対照群ウェルにおいてはジメチルスルホキシドのみを添加した。シクロスポリンAを添加24時間後にAxiovert 200M/ApoTome (Carl Zeiss)にて細胞の画像を撮影した後、各ウェルより細胞を回収し、上記と同様に総RNAを抽出した。 得られた総RNAを用いて上記と同じくcDNA合成を行い、当該cDNAを用いて上記条件によるリアルタイムPCRを行った。上記一連の実験を3回以上繰り返し行った。 リアルタイムPCRの結果を図3に示す。図3のグラフは各濃度のシクロスポリンAで処理した細胞におけるFIPVのコピー数を示す。 シクロスポリンA 0.025 mg/ml処理細胞、0.0125 mg/ml処理細胞および0.00625 mg/ml処理細胞にてそれぞれ、1.98 x 107コピー、1.25 x 108コピーおよび1.94 x 109コピーのFIPVが検出された。これに対し、シクロスポリンA非投与の対照群では、2.31 x 109コピーのFIPVが検出された。 以上より、ウイルス感染後に、シクロスポリンAを投与することによってFIPV増殖を容量依存的に抑制できることが明らかとなった。 また、シクロスポリンA添加24時間後の細胞の画像を図4に示す。シクロスポリンA0.025 mg/mlで処理した感染細胞においては、細胞融合現象を主徴とする細胞変性等の影響はほとんど観察されず、細胞変性の抑制効果が顕著に認められた(図4(C))。0.0125 mg/ml 投与、および0.00625 mg/ml 投与とシクロスポリンAの濃度が減少していくにつれて、当該抑制効果も減弱した(図4(D)および(E))。この結果は、細胞変性の抑制効果がシクロスポリンAの濃度依存的であることを示し、FIPV増殖量を示す上記のリアルタイムPCRの結果と相関する。(実施例3)FK506によるFIPV増殖抑制効果の検討 FIPVが感染・複製可能なネコ全胎児由来細胞株fcwf-4(ATCC CRL-2787)を10% ウシ胎児血清入りD-MEMを用いて5% CO2 存在下で培養した。具体的には当該細胞を24ウェルプレートに撒き(2 x 105細胞/ウェル)、翌日、シクロスポリンAと同じく免疫抑制剤として一般に使用されるFK506(Sigma-Aldlich Japan)を終濃度1μM、0.5μMまたは0.25μMになるようにジメチルスルホキシドで希釈し、FIPV感染の2時間前に各ウェルに添加した。対照群ウェルにおいてはジメチルスルホキシドを添加した。その後、各ウェルの細胞にFIPV(終濃度104 copies/ml)を感染させた。FK506を添加24時間後、Axiovert 200M/ApoTome (Carl Zeiss)にて細胞の画像を撮影した後、各ウェルより細胞を回収し、Isogen(ニッポンジーン)を用いて製造元の推奨プロトコールに従い総RNAを抽出した。 得られた総RNA(0.8 μg)を、サンプル毎にPrimeScript cDNA合成キット(タカラバイオ)を用いてcDNAに合成した。cDNA合成は25℃ 10分,50℃ 30分,85℃ 5秒の条件で行った。 得られたcDNAを用いて、Premix EXTaq(タカラバイオ)によるリアルタイムPCRを製造元の推奨プロトコールに従い行った。リアルタイムPCRの条件は、95℃にて10秒の加熱後、95℃5秒および60℃36秒を40サイクル行った。上記一連の実験を3回以上繰り返し行った。 リアルタイムPCRの結果を図5に示す。図5のグラフは各濃度のFK506で処理した細胞におけるFIPVのコピー数を示す。 FK506 1μM 処理細胞、0.5μM処理細胞および0.25μM処理細胞にてそれぞれ、7.55 x 108コピー、1.09 x 109コピーおよび1.20 x 109コピーのFIPVが検出された。これに対し、FK506非投与の対照群では、2.36 x 108コピーのFIPVが検出された。 以上より、結果としてFK506によるFIPVのウイルス増殖抑制効果は認められなかった。 また、FK506添加24時間後の細胞の画像を図6に示す。FK506処理した感染細胞において、細胞融合現象を主徴とする細胞変性等の抑制効果は認められなかった(図6(C)−(E))。この結果は、FIPV増殖量を示す上記のリアルタイムPCRの結果と相関する。 上記の結果より、FIPV感染前または感染後に、シクロスポリンAで感染細胞を処理することによってFIPV増殖を有意に抑制できることが明らかとなった。このとき、細胞に対するシクロスポリンAによる毒性効果は認められず、シクロスポリンAがウイルス特異的に増殖抑制効果を示すこと認められた。また、当該増殖抑制効果は、容量依存性であり、終濃度0.025 mg/mlのシクロスポリンAを用いることによって、FIPVによる細胞変性効果である細胞融合現象をほぼ100%抑え込むことができることが明らかとなった。一方、FK506で処理した感染細胞では上記の効果は得られず、この効果がシクロスポリンA特異的であることが明らかとなった。 シクロスポリンをFIPVの感染前または感染後に投与することによって、FIPVの増殖を有意に抑制することが可能であり、FIPの予防および/または治療に貢献することが期待される。 シクロスポリンを有効成分として含有する、ネコ伝染性腹膜炎を治療および/または予防するための医薬組成物。 ネコ伝染性腹膜炎ウイルスの増殖を抑制する、請求項1記載の医薬組成物。 シクロスポリンがシクロスポリンAである、請求項1または2記載の医薬組成物。 請求項1〜3のいずれか1項記載の医薬組成物を、ネコ伝染性腹膜炎を罹患する、または罹患する恐れのあるネコに投与する工程、を包含するネコ伝染性腹膜炎を治療および/または予防するための方法。 シクロスポリン製剤を、ネコ伝染性腹膜炎を罹患する、または罹患する恐れのあるネコに投与する工程、を包含するネコ伝染性腹膜炎を治療および/または予防するための方法。 【課題】ネコ伝染性腹膜炎(FIP)を治療および予防するための医薬組成物および方法の提供。【解決手段】シクロスポリンを有効成分とする医薬組成物およびシクロスポリンを投与することを含むFIPの治療および予防方法。【選択図】なし


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特許公報(B2)_ネコ伝染性腹膜炎の治療および予防するための医薬組成物およびその使用

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タイトル:特許公報(B2)_ネコ伝染性腹膜炎の治療および予防するための医薬組成物およびその使用
出願番号:2009178743
年次:2014
IPC分類:A61K 38/00,A61P 31/14


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田中 良和 JP 5610257 特許公報(B2) 20140912 2009178743 20090731 ネコ伝染性腹膜炎の治療および予防するための医薬組成物およびその使用 学校法人日本医科大学 500557048 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 田中 夏夫 100111741 田中 良和 20141022 A61K 38/00 20060101AFI20141002BHJP A61P 31/14 20060101ALI20141002BHJP JPA61K37/02A61P31/14 A61K38/00−38/58 CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) Vetarinary Record,1994年,Vol.85,No.8,p.177-179 Veterinary Immunology and Immunopathology,2008年,Vol.123,p.172-175 井上和明 他,C型肝炎ウイルスとシクロスポリンA,医学のあゆみ,2000年,Vol.193, No.12,p.951-954 6 2011032192 20110217 12 20120731 ▲高▼岡 裕美 本発明は、ネコ伝染性腹膜炎を治療および予防するための、シクロスポリンを有効成分とする医薬組成物に関する。また本発明は、シクロスポリン製剤を投与することによるFIPVの治療法および予防法に関する。 ネコ伝染性腹膜炎(Feline Infectious Peritonitis:以後、FIPと記載)は、コロナウイルスがネコ体内で突然変異したネコ伝染性腹膜炎ウイルス(以後、FIPVと記載)によって起こる病気で、発症すると非治療時の致死率はほぼ100%と非常に高い恐ろしい疾患である。 FIPVは、コロナウイルス(SARSウイルスも属する)に属し、ウイルスゲノムとして1本鎖のプラス鎖RNAを有する。 FIPVはネコ腸コロナウイルス(以後、FCoVと記載)と遺伝子相同性が90%以上であり、抗原性もほとんど同じである。このため、市販の血清診断キットでは両ウイルスの識別は不可能である。現在、遺伝子的に両者を識別することができないため、FIPVはFCoVの変異株であると考えられており、その病原性における違いによって両者が区別されているにすぎない。 FIPの臨床症状として、伝染性の漿膜炎、大網炎、ブドウ膜炎、ならびに腎臓、腸間膜リンパ節、肝臓、脾臓、および中枢神経系などの実質臓器の肉芽腫性病変が挙げられる。FIPの特徴的な臨床像として炎症性滲出が認められる滲出型(ウエットタイプ)と非滲出型(ドライタイプ)二つの型がある。症例の多い「ウエットタイプ」は、発熱や下痢、貧血などとともに腹部や胸部に重篤な血管炎を起こし、腹水や胸水がたまって腹部が膨れたり、呼吸困難がみられる。「ドライタイプ」は、腹部にリンパ腫のような、大きなしこりができる。さらにこのタイプは脳内に炎症を起こして、麻痺や痙攣などの神経症状を引き起こすこともある。 現在のところ、FIPの根治療法は存在せず、いったんFIPが発症すると、インターフェロンやステロイド剤を投与して症状を緩和する対症療法しか方法はなく、ほとんどの場合助からない。また、有効なワクチンも存在しないため、十分な治療効果を得ることは難しい(非特許文献1)。 マクロファージはFIPVのレゼルボアとなることが知られている。FIPVは、マクロファージにおいて、FCoVと比べて100倍以上ウイルス増殖効率が高い(非特許文献2)。しかし、FIPVがマクロファージ内において、どのような機構により複製効率を高めているのかは明らかではない。 シクロスポリンは、真菌が産生する環状ポリペプチド抗生物質の一つであり、Tリンパ球によるインターロイキンの産生と遊離を抑制する機能を有する。今日、臓器移植による拒絶反応の抑制や自己免疫疾患の治療において、免疫抑制剤として一般的に使用されている。その作用機序は、直接的な細胞障害性によるものではなく、リンパ球に対し特異的かつ可逆的に作用し、強力な免疫抑制作用を示すことが知られている。また、動物薬としても販売されており、アトピー性皮膚炎やアレルギー、乾燥性角結膜炎などの免疫関連の疾患に用いられている。ウイルス分野においては、シクロスポリンは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)、サイトメガロウイルス(CMV)およびC型肝炎ウイルス(HCV)に対して、増殖抑制効果が示すことが報告されている(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。しかしながら、FIPVに対するシクロスポリンの効果は明らかにされていない。Niels C. Pedersen, Feline Infectious Disease, American Veterinary Publications, Inc.Dewerchin HLら、 Replication of feline coronaviruses in peripheral blood monocytes. Arch Virol. 2005 Dec;150(12):2483-500. Epub 2005 Aug 1.Wainberg MAら、 The effect of cyclosporine A on infection of susceptible cells by human immunodeficiency virus type 1. Blood. 1988 Dec;72(6):1904-10.Watashi Kら、 Cyclosporin A suppresses replication of hepatitis C virus genome in cultured hepatocytes. Hepatology. 2003 Nov;38(5):1282-8.Kawasaki Hら、 Cyclosporine inhibits mouse cytomegalovirus infection via a cyclophilin-dependent pathway specifically in neural stem/progenitor cells. J Virol. 2007 Sep;81(17):9013-23. Epub 2007 Jun 6. 従来法では、FIPを十分に予防および/または治療することができなかったため、FIPを有効に予防および/または治療することができる新たな方法が望まれていた。 そこで、本発明では、FIPVの増殖を効率的に阻害することが可能な医薬組成物および当該医薬組成物を用いたFIPの治療法を提供する。 そこで、本願発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、シクロスポリンが効率的にFIPVの細胞内増殖を抑制できることを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は以下のとおりである。[1] シクロスポリンを有効成分として含有する、FIPを治療および/または予防するための医薬組成物。[2] FIPVの増殖を抑制する、[1]の医薬組成物。[3] シクロスポリンがシクロスポリンAである、[1]または[2]の医薬組成物。[4] [1]〜[3]のいずれかの医薬組成物を、FIPを罹患する、または罹患する恐れのあるネコに投与する工程、を包含するFIPを治療および/または予防するための方法。[5] シクロスポリン製剤を、FIPを罹患する、または罹患する恐れのあるネコに投与する工程、を包含するFIPを治療および/または予防するための方法。 シクロスポリンを有効成分とする医薬組成物を用いて、FIPVの細胞内増殖を有意に抑制することができる。また、シクロスポリン製剤を投与することによって、FIPを効率的に予防または治療することができる。図1は、FIPV感染前に各濃度のシクロスポリンAで処理した細胞におけるFIPVのコピー数を示すグラフ図である。図2は、FIPV感染前に各濃度のシクロスポリンAで処理した細胞の写真図である。(A)Mock細胞、(B)対照(ジメチルスルホキシド投与処理)細胞、(C)シクロスポリンA0.025 mg/ml処理細胞、(D)シクロスポリンA 0.0125 mg/ml処理細胞、(E)シクロスポリンA 0.00625 mg/ml処理細胞。図3は、FIPV感染後に各濃度のシクロスポリンAで処理した細胞におけるFIPVのコピー数を示すグラフ図である。図4は、FIPV感染後に各濃度のシクロスポリンAで処理した細胞の写真図である。(A)Mock細胞、(B)対照(ジメチルスルホキシド投与処理)細胞、(C)シクロスポリンA0.025 mg/ml処理細胞、(D)シクロスポリンA 0.0125 mg/ml処理細胞、(E)シクロスポリンA 0.00625 mg/ml処理細胞。図5は、FIPV感染前に各濃度のFK506で処理した細胞におけるFIPVのコピー数を示すグラフ図である。図6は、FIPV感染前に各濃度のFK506で処理した細胞の写真図である。(A)Mock細胞、(B)対照(ジメチルスルホキシド投与処理)細胞、(C)FK506 1μM 処理細胞、(D)FK506 0.5μM 処理細胞、(E)FK506 0.25μM処理細胞。 本発明の医薬組成物において有効成分として含まれるシクロスポリンは公知の化合物であり、シクロスポリンA、シクロスポリンB、シクロスポリンC、シクロスポリンD、シクロスポリンH等、現在A〜Zタイプが知られている。本発明においては、いずれのタイプのシクロスポリンも用いることが可能であるが、特にシクロスポリンAが好ましい。 また、本発明において「シクロスポリン」には、上記A〜Zタイプのシクロスポリンに限定されるものではなく、これらのシクロスポリン類の構造類似体、誘導体、塩等が含まれる。 シクロスポリンは、当業者に公知の種々の方法により得ることが可能であり、例えば発酵、生体内変換、誘導体化、および部分もしくは全合成等が挙げられる。また、シクロスポリンは、薬品メーカー、例えばノバルティス社などから購入することができる。 本発明の医薬組成物は、経口投与または非経口投与(例えば、静脈内投与、動脈内投与、注射による局所投与、腹腔または胸腔への投与、皮下投与、筋肉内投与、舌下投与、経皮吸収または直腸内投与など)によって、投与することができる。 本発明の医薬組成物は、投与経路に応じて適当な剤形とすることができる。具体的には注射剤、懸濁剤、乳化剤、軟膏剤、クリーム剤錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、丸剤、細粒剤、トローチ錠、直腸投与剤、油脂性坐剤、水溶性坐剤等の各種製剤形態に調製することができる。 これらの各種製剤は、通常用いられている賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を用いて常法により製造することができる。 賦形剤としては、例えば、乳糖、ショ糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、マルトース、マンニトール、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、イノシトール、デキストラン、ソルビトール、アルブミン、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸、メチルセルロース、グリセリン、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴムおよびこれらの混合物等が挙げられる。滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールおよびこれらの混合物等が挙げられる。結合剤としては、例えば、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン溶液、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、セラック、メチルセルロース、エチルセルロース、水、エタノール、リン酸カリウムおよびこれらの混合物等が挙げられる。崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖およびこれらの混合物等が挙げられる。希釈剤としては、例えば、水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類およびこれらの混合物等が挙げられる。安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸、チオグリコール酸、チオ乳酸およびこれらの混合物等が挙げられる。等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ホウ酸、ブドウ糖、グリセリンおよびこれらの混合物等が挙げられる。pH調整剤および緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムおよびこれらの混合物等が挙げられる。 本発明は、シクロスポリンを投与することによる、FIPの治療および予防方法に関する。 当該方法においてシクロスポリンは、上記シクロスポリンを有効成分とする医薬組成物であっても良いし、あるいは、上記医薬組成物に代えておよび/または加えて、ヒトおよび動物用として公知のシクロスポリン製剤を投与しても良い。本発明に用いることができる公知のシクロスポリン製剤として例えば、以下のものが挙げられるが、これらに限定されない: シクロスポリンの投与量は、投与対象の年齢、体重、疾患の重篤度などの要因によって変化し得るが、1日あたり、1mg〜100mg/kg、好ましくは2mg〜50mg/kg、さらに好ましくは5〜20mg/kgの範囲から適宜選択することができる。場合によっては、これ以下でも足りるし、また逆にこれ以上の用量を必要とすることもある。また1日2〜3回に分割して投与することもできる。 シクロスポリンの投与は、FIPを罹患する恐れのあるネコもしくはFIPVに感染しかつFIPを発症していないネコまたはFIPVに未感染のネコに予防的に投与することもできるし、FIPを罹患しているネコに治療的に投与することもできる。「予防的」とは、シクロスポリンの投与に起因して、投与対象におけるFIPの症状の再発、発症、または発現を防止することを指す。「治療的」とは、シクロスポリンの投与に起因して、投与対象におけるFIPの症状を完治または寛解することを指す。 シクロスポリンを予防的に投与することによって、投与対象においてFIPV感染後のFIPV増殖を有意に抑制することができる。また、シクロスポリンを治療的に投与することによって、投与後のFIPVの増殖を、有意に抑制することができる。 シクロスポリンは、他の予防剤および/または治療剤と組み合わせて投与しても良い。「組み合わせて」とは、1つ以上の予防剤および/または治療剤との併用を意味する。「組み合わせて」という用語の使用は、投与対象にシクロスポリン、ならびに予防剤および/または治療剤が投与される順序を限定しない。第1の薬剤を、投与対象に第2の薬剤を投与する前(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、または12週間前)、投与と同時、または投与後(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、または12週間後)に投与することができる。 組み合わせて投与することができる他の予防剤および/または治療剤としては、FIPの治療および予防に使用することが公知である薬剤、例えばステロイド剤、抗生物質、インターフェロン、ビタミン剤、栄養剤などが挙げられるがこれらに限定されない。さらに、他の予防剤および/または治療剤として、FIPVの特定の遺伝子(例えば、マトリックス遺伝子と3CLpro遺伝子)のmRNAを標的とするRNAi分子等が挙げられる(特願2008-1382号および特願2008-1419号)。 シクロスポリン投与の効果は、FIPの症状(患部の重篤度、範囲など)がシクロスポリンを投与していない個体、または投与前と比較して緩和していることを指標にして評価することが可能である。また、シクロスポリン投与の効果は、投与対象におけるFIPVのコピー数(FIPVのコピー数を示すFIPVの総mRNAまたは特定遺伝子(マーカー遺伝子)のmRNAもしくはタンパク質の発現量)が、シクロスポリンを投与していない個体、または投与前のものと比較して低下していることを指標にして評価することが可能である。測定対象がmRNAである場合には、ノザンハイブリダイゼーション、RT-PCR、in situ hybridizationなどによって測定することができる。また、測定対象がタンパク質である場合には、ウエスタンブロッティング、ELISA、抗体を結合させたプロテインチップを用いた測定、タンパク質の活性測定などによって測定することができる。 本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。(実施例1)シクロスポリンAのFIPウイルス感染前投与によるウイルス増殖抑制効果 FIPVが感染・複製可能なネコ全胎児由来細胞株fcwf-4(ATCC CRL-2787)を10% ウシ胎児血清含有D-MEMを用いて5% CO2 存在下で培養した。具体的には、当該細胞を24ウェルプレートに撒き(2 x 105細胞/ウェル)、翌日、シクロスポリンA(Sigma-Aldlich Japan)を0.025 mg/ml、0.0125 mg/mlまたは0.00625 mg/mlの終濃度になるようにジメチルスルホキシドで希釈し、FIPV感染の2時間前に各ウェルに添加した。対照群ウェルにおいてはジメチルスルホキシドのみを添加した。その後、各ウェルの細胞にFIPV(終濃度104 copies/ml)を感染させた。シクロスポリンAを添加24時間後、Axiovert 200M/ApoTome (Carl Zeiss)にて細胞の画像を撮影した後、各ウェルより細胞を回収し、Isogen(ニッポンジーン)を用いて製造元の推奨プロトコールに従い総RNAを抽出した。 得られた総RNA(0.8 μg)を、サンプル毎にPrimeScript cDNA合成キット(タカラバイオ)を用いてcDNAに合成した。cDNA合成は25℃ 10分,50℃ 30分,85℃ 5秒の条件で行った。 得られたcDNAを用いて、Premix EXTaq(タカラバイオ)によるリアルタイムPCRを製造元の推奨プロトコールに従い行った。リアルタイムPCRの条件は、95℃にて10秒の加熱後、95℃5秒および60℃36秒を40サイクル行った。上記一連の実験を3回以上繰り返し行った。 リアルタイムPCRの結果を図1に示す。図1のグラフは各濃度のシクロスポリンAで処理した細胞におけるFIPVのコピー数を示す。 シクロスポリンA 0.025 mg/ml処理細胞、0.0125 mg/ml処理細胞および0.00625 mg/ml処理細胞にてそれぞれ、5.05 x 107コピー、3.41 x 108コピーおよび1.04 x 109コピーのFIPVが検出された。これに対し、シクロスポリンA非投与の対照群では、2.30 x 109コピーのFIPVが検出された。 以上より、ウイルス感染前に、シクロスポリンAを投与することによってFIPV増殖を容量依存的に抑制できることが明らかとなった。 また、シクロスポリンA添加24時間後の細胞の画像を図2に示す。シクロスポリンA0.025 mg/mlで処理した感染細胞においては、細胞融合現象を主徴とする細胞変性等の影響はほとんど観察されず、細胞変性の抑制効果が顕著に認められた(図2(C))。0.0125 mg/ml 投与、および0.00625 mg/ml 投与とシクロスポリンAの濃度が減少していくにつれて、当該抑制効果も減弱した(図2(D)および(E))。この結果は、細胞変性の抑制効果がシクロスポリンAの濃度依存的であることを示し、FIPV増殖量を示す上記のリアルタイムPCRの結果と相関する。(実施例2)シクロスポリンAのFIPウイルス感染後投与によるウイルス増殖抑制効果 上記細胞株fcwf-4(2 x 105細胞/ウェル)を10% ウシ胎児血清含有D-MEMを用いて24ウェルプレートに撒き5% CO2 存在下で一晩培養した。その後、各ウェルの細胞にFIPV(104 copies/ml)を感染させた。FIPV感染の2時間後に、シクロスポリンAを0.025 mg/ml、0.0125 mg/mlまたは0.00625 mg/mlの終濃度となるように各ウェルに添加した。対照群ウェルにおいてはジメチルスルホキシドのみを添加した。シクロスポリンAを添加24時間後にAxiovert 200M/ApoTome (Carl Zeiss)にて細胞の画像を撮影した後、各ウェルより細胞を回収し、上記と同様に総RNAを抽出した。 得られた総RNAを用いて上記と同じくcDNA合成を行い、当該cDNAを用いて上記条件によるリアルタイムPCRを行った。上記一連の実験を3回以上繰り返し行った。 リアルタイムPCRの結果を図3に示す。図3のグラフは各濃度のシクロスポリンAで処理した細胞におけるFIPVのコピー数を示す。 シクロスポリンA 0.025 mg/ml処理細胞、0.0125 mg/ml処理細胞および0.00625 mg/ml処理細胞にてそれぞれ、1.98 x 107コピー、1.25 x 108コピーおよび1.94 x 109コピーのFIPVが検出された。これに対し、シクロスポリンA非投与の対照群では、2.31 x 109コピーのFIPVが検出された。 以上より、ウイルス感染後に、シクロスポリンAを投与することによってFIPV増殖を容量依存的に抑制できることが明らかとなった。 また、シクロスポリンA添加24時間後の細胞の画像を図4に示す。シクロスポリンA0.025 mg/mlで処理した感染細胞においては、細胞融合現象を主徴とする細胞変性等の影響はほとんど観察されず、細胞変性の抑制効果が顕著に認められた(図4(C))。0.0125 mg/ml 投与、および0.00625 mg/ml 投与とシクロスポリンAの濃度が減少していくにつれて、当該抑制効果も減弱した(図4(D)および(E))。この結果は、細胞変性の抑制効果がシクロスポリンAの濃度依存的であることを示し、FIPV増殖量を示す上記のリアルタイムPCRの結果と相関する。(実施例3)FK506によるFIPV増殖抑制効果の検討 FIPVが感染・複製可能なネコ全胎児由来細胞株fcwf-4(ATCC CRL-2787)を10% ウシ胎児血清入りD-MEMを用いて5% CO2 存在下で培養した。具体的には当該細胞を24ウェルプレートに撒き(2 x 105細胞/ウェル)、翌日、シクロスポリンAと同じく免疫抑制剤として一般に使用されるFK506(Sigma-Aldlich Japan)を終濃度1μM、0.5μMまたは0.25μMになるようにジメチルスルホキシドで希釈し、FIPV感染の2時間前に各ウェルに添加した。対照群ウェルにおいてはジメチルスルホキシドを添加した。その後、各ウェルの細胞にFIPV(終濃度104 copies/ml)を感染させた。FK506を添加24時間後、Axiovert 200M/ApoTome (Carl Zeiss)にて細胞の画像を撮影した後、各ウェルより細胞を回収し、Isogen(ニッポンジーン)を用いて製造元の推奨プロトコールに従い総RNAを抽出した。 得られた総RNA(0.8 μg)を、サンプル毎にPrimeScript cDNA合成キット(タカラバイオ)を用いてcDNAに合成した。cDNA合成は25℃ 10分,50℃ 30分,85℃ 5秒の条件で行った。 得られたcDNAを用いて、Premix EXTaq(タカラバイオ)によるリアルタイムPCRを製造元の推奨プロトコールに従い行った。リアルタイムPCRの条件は、95℃にて10秒の加熱後、95℃5秒および60℃36秒を40サイクル行った。上記一連の実験を3回以上繰り返し行った。 リアルタイムPCRの結果を図5に示す。図5のグラフは各濃度のFK506で処理した細胞におけるFIPVのコピー数を示す。 FK506 1μM 処理細胞、0.5μM処理細胞および0.25μM処理細胞にてそれぞれ、7.55 x 108コピー、1.09 x 109コピーおよび1.20 x 109コピーのFIPVが検出された。これに対し、FK506非投与の対照群では、2.36 x 108コピーのFIPVが検出された。 以上より、結果としてFK506によるFIPVのウイルス増殖抑制効果は認められなかった。 また、FK506添加24時間後の細胞の画像を図6に示す。FK506処理した感染細胞において、細胞融合現象を主徴とする細胞変性等の抑制効果は認められなかった(図6(C)−(E))。この結果は、FIPV増殖量を示す上記のリアルタイムPCRの結果と相関する。 上記の結果より、FIPV感染前または感染後に、シクロスポリンAで感染細胞を処理することによってFIPV増殖を有意に抑制できることが明らかとなった。このとき、細胞に対するシクロスポリンAによる毒性効果は認められず、シクロスポリンAがウイルス特異的に増殖抑制効果を示すこと認められた。また、当該増殖抑制効果は、容量依存性であり、終濃度0.025 mg/mlのシクロスポリンAを用いることによって、FIPVによる細胞変性効果である細胞融合現象をほぼ100%抑え込むことができることが明らかとなった。一方、FK506で処理した感染細胞では上記の効果は得られず、この効果がシクロスポリンA特異的であることが明らかとなった。 シクロスポリンをFIPVの感染前または感染後に投与することによって、FIPVの増殖を有意に抑制することが可能であり、FIPの予防および/または治療に貢献することが期待される。 シクロスポリンを有効成分として含有する、ネコ伝染性腹膜炎を治療および/または予防するための医薬組成物。 ネコ伝染性腹膜炎ウイルスの増殖を抑制する、請求項1記載の医薬組成物。 シクロスポリンがシクロスポリンAである、請求項1または2記載の医薬組成物。 請求項1〜3のいずれか1項記載の医薬組成物を、ネコ伝染性腹膜炎を罹患する、または罹患する恐れのあるネコに投与する工程、を包含するネコ伝染性腹膜炎を治療および/または予防するための方法。 シクロスポリン製剤を、ネコ伝染性腹膜炎を罹患する、または罹患する恐れのあるネコに投与する工程、を包含するネコ伝染性腹膜炎を治療および/または予防するための方法。 シクロスポリンを有効成分として含有する、ネコ伝染性腹膜炎ウイルスの増殖を抑制するための医薬組成物。


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