生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_腸管出血性大腸菌O157、O26、O111選択分離培地
出願番号:2009168354
年次:2011
IPC分類:C12Q 1/04,C12N 1/20


特許情報キャッシュ

小松 理 JP 2011019462 公開特許公報(A) 20110203 2009168354 20090717 腸管出血性大腸菌O157、O26、O111選択分離培地 栄研化学株式会社 000120456 小松 理 C12Q 1/04 20060101AFI20110107BHJP C12N 1/20 20060101ALI20110107BHJP JPC12Q1/04C12N1/20 A 9 OL 15 4B063 4B065 4B063QA18 4B063QA19 4B063QQ06 4B063QQ68 4B063QR44 4B063QR75 4B063QX01 4B065AA26X 4B065AC20 4B065BB02 4B065BB15 4B065CA46 本発明は、食中毒菌である腸管出血性大腸菌血清型O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地に関するものである。また、本発明は、前記培地を用いた、被検試料からの血清型O157、O26、およびO111の大腸菌の検出方法、ならびに他の腸内細菌から識別するための識別方法、および単離するための単離方法に関する。 近年、腸管出血性大腸菌による食中毒が世界各国で報告されており、国内においても腸管出血性大腸菌による食中毒の発生が認められた。そのため、腸管出血性大腸菌による食中毒は大きな社会問題となってきており、その原因究明と予防対策の確立が急務となっている。 この食中毒の原因菌となる腸管出血性大腸菌の多くは、血清型O157、O26、またはO111に属しており、食中毒患者から得られた被検試料中からの血清型O157、O26、またはO111の大腸菌の検出の有無で、腸管出血性大腸菌による食中毒かどうかの判断が可能であるといえる。 血清型O157の大腸菌の選択分離培地としては、選択剤としてノボビオシン、亜テルル酸塩、およびラウリル硫酸塩、ならびに鑑別剤として5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−β−D―ガラクトピラノシド、4−メチルウムベリフェリル−β−D−グルクロニド、ソルビトール等の糖アルコール、およびセロビオース等の二糖類の糖を含有している培地が提案されている(特許文献1)。 本培地は、前記選択剤により大腸菌以外の腸内グラム陰性桿菌の発育を抑制する。前記鑑別剤では、血清型O157の大腸菌はソルビトール、セロビオースを分解できずに酵素基質である5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−β−D―ガラクトピラノシドを分解して濃い青緑色のコロニーを形成する。一方、一般的な大腸菌ではソルビトールを分解し、一般的な大腸菌群はセロビオースを分解するため、上記酵素基質の分解は遅延する。蛍光基質である4−メチルウムベリフェリル−β−D−グルクロニドに関しては、血清型O157の大腸菌がβ−グルクロニダーゼを産生しないため、紫外線照射によりその他の大腸菌と鑑別できる。 また、血清型O26の大腸菌の選択分離培地としては、選択剤としてセフィキシム、亜テルル酸塩、およびラウリル硫酸塩、ならびに鑑別剤としてグルコピラノシド誘導体またはガラクトピラノシド誘導体の酵素発色基質、pH指示薬、およびラムノースを含有している培地が提案されている(特許文献2)。 本培地は、前記選択剤によりバチラス等のグラム陽性菌、血清型O26以外の大腸菌、プロテウス属菌等の発育を抑制する。前記鑑別剤では、血清型O26の大腸菌はラムノースを分解できずに酵素発色基質であるグルコピラノシド誘導体およびガラクトピラノシド誘導体を分解できることを利用し、ラムノースの分解の有無によるpH変化の有無をpH指示薬による培地の変色の有無で確認して、その他の大腸菌と鑑別する。 さらに、血清型O111の大腸菌の選択分離培地としては、選択剤としてセフィキシム、テルライト、および胆汁酸、ならびに鑑別剤としてpH指示薬およびL−ソルボースを含有している培地が提案されている(非特許文献1)。 本培地は、前記選択剤により血清型O111以外の細菌の発育を抑制する。前記鑑別剤では、血清型O111の大腸菌はL−ソルボースを分解できないためpH変化が生じず、pH指示薬による変色は生じない。 すなわち、腸管出血性大腸菌が原因である食中毒か否かを判断する場合、例えば、前記した三種類の選択分離培地を用意し、それらの培地上で被検試料を培養して増殖の有無を確認する必要がある。特開2000−342249号公報特開2001−8679号公報田中 博ら、日本臨床微生物学雑誌、1999年、9巻、p.48−50 食中毒が、腸管出血性大腸菌に起因しているかどうかを判断するためには、各々血清型O157、O26、およびO111の大腸菌に対する選択分離培地を用意する必要があり、多大な手間と費用を要する。そこで、一種類の選択分離培地を用いることにより、血清型O157、O26、およびO111の大腸菌を識別して選択、分離培養することが期待される。 細菌を鑑別する際に、その糖代謝能を利用することが一般的に知られている。血清型O157、O26、およびO111の大腸菌に関しても例に漏れず、各々、ソルビトール、ラムノース、およびソルボースの代謝能を指標として鑑別している。 この糖代謝能に着目して血清型O157、O26、およびO111、ならびにその他の大腸菌を詳細に検討した。その結果、血清型O26の大腸菌のみが非分解で、その他の大腸菌が分解できると知られているラムノースの添加量を調節することにより、血清型O157の大腸菌はラムノース非分解と同等の性状を示すことがわかった。 さらに、種々の酵素発色基質を検討したところ、グルクロニド誘導体を用いた場合、血清型O157の大腸菌はその代謝酵素を産生せず、血清型O111の大腸菌の代謝酵素の産生量は、血清型O26およびその他の大腸菌の産生量に比べて低いということがわかった。 これらの検討によって得られた知見より、ラムノースおよびグルクロニド誘導体の酵素発色基質の培地への添加量を調節することにより、単独の培地を用いて血清型O157、O26、およびO111、ならびにその他の大腸菌を識別することが可能になるとわかった。 すなわち、本発明は以下の構成からなる。(1)ラムノース、pH指示薬、酵素発色基質、亜テルル酸塩およびセフィキシムを含有する培地であって、酵素発色基質がグルクロニド誘導体であることを特徴とする、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。(2)さらに、胆汁酸塩および/またはラウリル硫酸ナトリウムを含有することを特徴とする、(1)記載の腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。(3)前記pH指示薬が、フェノールレッド、ニュートラルレッド、ブロモクレゾールパープル、ブロモチモールブルー、ブロモフェノールレッド、クロロフェノールレッドより選ばれるpH指示薬である、(1)または(2)記載の腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。(4)前記pH指示薬が、ニュートラルレッドである、(1)または(2)記載の腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。(5)前記グルクロニド誘導体が、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド、3−インドリル−β−D−グルクロニド、4−メチル−ウムベリフェリル−β−D−グルクロニド、p−ニトロフェニル−β−D−グルクロニド、6−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド、5−ブロモ−6−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドより選ばれる酵素発色基質である、(1)〜(4)のいずれかに記載の腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。(6)前記グルクロニド誘導体が、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドである、(1)〜(4)のいずれかに記載の腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。(7)培地1,000mLあたり、ペプトン5−15g、酵母エキス2−5g、塩化ナトリウム0.1−10g、胆汁酸塩0.1−2g、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド0.05−0.5g、ラムノース0.1−8g、亜テルル酸カリウム1−5mg、セフィキシム0.005−0.1mg、ニュートラルレッド0.001−0.01g、寒天10−20gを含有する、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。(8)腸内細菌から腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別する方法において、(1)〜(7)のいずれかに記載の選択分離培地を用いて試料を培養する工程を少なくとも含む、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111の識別方法。(9)腸内細菌から腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を単離・同定する方法において、(1)〜(7)のいずれかに記載の選択分離培地を用いて試料を培養する工程を少なくとも含む、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111の単離・同定方法。 本発明を、一例としてpH指示薬にニュートラルレッドを、グルクロニド誘導体に5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドを用いて説明するが、本例に限定されることはない。 腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を発育させる、基礎となる培地の組成は、培地1Lあたり、ペプトン10g、酵母エキス3g、塩化ナトリウム5g、寒天15gを含有し、pHが7.2±0.2に調製されている。 この基礎培地に添加するラムノース量は1Lあたり0.1〜8gが適当であり、ニュートラルレッド量は1Lあたり0.001〜0.01gが適当である。また、培地に添加する5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド量は1Lあたり0.05〜0.5gが適量である。 さらに、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111以外の大腸菌を抑制するために添加する亜テルル酸カリウム量は1Lあたり1〜5mg、腸内細菌であるプロテウス属菌を抑制するために添加するセフィキシム量は1Lあたり0.005〜0.1mg、グラム陽性菌を抑制するために添加する胆汁酸塩は1Lあたり0.1〜2gが適当である。 培地のpHは中性付近に調製してあり、ニュートラルレッドの添加量は微量であるため、培地の色は極わずかに褐色がかかった透明である。ラムノース分解菌は培地中のラムノースを分解して酸を産生し、pHを低下させることにより、コロニーは桃色を呈する。一方、ラムノース非分解菌は酸を産生しないためpHは中性付近にとどまり、コロニーは呈色しない。 また、大腸菌はグルクロニダーゼを産生することが知られており、グルクロニド誘導体の酵素活性基質を分解して発色させる。グルクロニド誘導体として5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドを用いた本例では、コロニーは緑色を呈する。しかし、血清型O157の大腸菌は例外的にグルクロニダーゼを産生せず、コロニーは呈色しない。 なお、前記したように、血清型O111の大腸菌はグルクロニダーゼの産生量が少なく、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドを分解して発色するものの弱い反応のためコロニーは薄い緑色を呈する。 本例に示した、ラムノースおよびニュートラルレッドならびに5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドを組み合わせて培地に添加したときの大腸菌のコロニーの色を以下に示す。 血清型O157の大腸菌は、ラムノースの添加量を調節することによりラムノース非分解菌と同等の挙動を示し、グルクロニダーゼを産生しないため、コロニーは無色である。 血清型O26の大腸菌は、ラムノース非分解菌で、グルクロニダーゼを産生するため、コロニーは緑色を呈する。 血清型O111の大腸菌は、ラムノース分解菌で、グルクロニダーゼの産生が少なく弱い反応を示すため、コロニーはエンジ〜赤色を呈する。 これら以外の大腸菌の多くは亜テルル酸塩を添加することにより発育が抑制されるが、たとえ発育したとしてもラムノース分解菌で、グルクロニダーゼを産生するため、コロニーは紫色を呈する。 大腸菌以外の菌の多くは、亜テルル酸塩、セフィキシム、ならびに胆汁酸塩および/またはラウリル硫酸塩を添加することにより発育が抑制されるが、たとえ発育したとしてもコロニーは小さい。なお、発育する菌はグルクロニダーゼを産生しないため、ラムノース分解能の有無によってコロニーは無色もしくは桃色を呈する。 以上、本例の培地を使用することにより、血清型O157、O26、O111、およびそれ以外の大腸菌、ならびにその他の菌を一種類の培地を用いて識別することが可能となる。 本発明を実施することにより、被検試料中に含まれる、食中毒菌として重要な腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を、一種類の培地を用いて識別する選択、分離培養が可能となる。 細菌の増殖を支持するための栄養素および塩濃度、ならびに平板培地とするためのゲル化剤を含む基礎培地に、細菌を鑑別するためのラムノースおよびpH指示薬、ならびに酵素発色基質のグルクロニド誘導体、検出対象外の細菌の増殖を抑制する亜テルル酸塩、セフィキシム、ならびに胆汁酸塩および/またはラウリル硫酸ナトリウムを加えることにより、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別して選択、分離培養することが出来る。 対象細菌を鑑別するための薬剤の濃度の確認 1.ラムノースの濃度の違いによる発育コロニーの呈色 ラムノースの濃度の違いによるラムノースの分解性の違いを調べるために、以下の組成の培地にラムノースを添加し、ラムノースの濃度が0.1、4、8、および15g/Lとなるように培地を調製した。試験菌として血清型O157、O26、O111、およびその他の大腸菌の各々1株を用い、ハートインヒュージョンブイヨン培地で1夜培養してその1白金耳を各培地に塗抹接種し、37℃18時間培養した後のコロニーの桃色の呈色を確認した。 培地の組成(培地1Lあたり) ペプトン 10g 塩化ナトリウム 5g ニュートラルレッド 0.03g 寒天 15g pH 7.2±0.2 ラムノース分解性を有さない血清型O26の大腸菌はいずれの濃度でも桃色の呈色を示さなかった。一方、血清型O26以外の大腸菌はラムノース分解性を有すると知られており、血清型O111およびその他の大腸菌はいずれの濃度でも桃色の呈色を示した。しかし、血清型O157の大腸菌は、15g/Lでは桃色の呈色を示したものの、8g/Lでは薄い桃色を呈しており、0.1および4g/Lでは桃色の呈色を示さなかった。 この結果から、培地中のラムノース濃度を8g/L以下にすることにより、ラムノース分解性を有すると知られている、血清型O157の大腸菌と、血清型O111およびその他の大腸菌を、そのコロニーの呈色により識別できることがわかった。 2.5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドの濃度の違いによるグルクロニダーゼ活性 酵素発色基質として知られているグルクロニド誘導体の5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドの濃度の違いによるグルクロニダーゼ活性の違いを調べるために、ハートインフュージョンブイヨン培地に5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドを添加し、12.5および50mg/Lとなるように培地を調製し、マイクロプレートに100μLずつ分注する。この培地に、血清型O157、O26、O111、およびその他の大腸菌の、各々1株をハートインヒュージョンブイヨン培地で1夜培養して、マクファーランド標準濁度液No.1に調製したものを0.00015mL接種し、37℃18時間培養した後に緑色の発色を確認した。 血清型O157の大腸菌では両濃度とも発色は見られなかった。血清型O26の大腸菌では両濃度で発色が見られた。血清型O111の大腸菌では50mg/Lで発色が見られ、12.5mg/Lでは発色は見られなかった。その他の大腸菌では両濃度で発色が見られた。 この結果から、血清型O157の大腸菌はグルクロニダーゼを産生せず、血清型O111の大腸菌はグルクロニダーゼを産生しているものの、血清型O26およびその他の大腸菌のグルクロニダーゼの産生量より低いと判断された。このことより、グルクロニダーゼの酵素発色基質であるグルクロニド誘導体の発色を指標として、血清型O157、O26、およびO111を識別できることがわかった。 pH指示薬と酵素発色基質であるグルクロニド誘導体の組合せ 種々のpH指示薬とグルクロニド誘導体の組合わせで腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111の識別が可能か調べるため、以下の組成の培地に0.005g/LのpH指示薬および0.1g/Lのグルクロニド誘導体を添加して培地を調整した。試験菌として血清型O157、O26、O111、およびその他の大腸菌の各々1株を用い、ハートインヒュージョンブイヨン培地で1夜培養してその1白金耳を各培地に塗抹接種し、37℃18時間培養した後のコロニーの呈色を確認した。 なお、pH指示薬としてはフェノールレッド(PR)、ブロモクレゾールパープル(BCP)、ブロモチモールブルー(BTB)、ブロモフェノールレッド(BPR)、およびクロロフェノールレッド(CPR)を用い、グルクロニド誘導体としては5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド(X−Gluc)、3−インドリル−β−D−グルクロニド(Y−Gluc)、4−メチル−ウムベリフェリル−β−D−グルクロニド(MU−Gluc)、p−ニトロフェニル−β−D−グルクロニド(PNP−Gluc)、6−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド(salmon−Gluc)、および5−ブロモ−6−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド(magenta−Gluc)を用いた。 培地の組成(培地1Lあたり) ペプトン 10g 酵母エキス 3g 塩化ナトリウム 5g 胆汁酸塩 1.2g ラムノース 7g 寒天 15g pH 7.2±0.2 pH指示薬およびグルクロニド誘導体の各々の組合わせの培地における血清型O157、O26、O111、およびその他の大腸菌のコロニーの呈色を表1に示し、各々の組合わせによる識別の可否を表2にまとめた。3種類の組合わせ(BCPとPNP−Gluc、BTBとsalmon−Gluc、およびBTBとmagenta−Gluc)でやや識別性が劣るものの識別が可能であった他は、容易に識別が可能であった。 pH指示薬としてニュートラルレッド、グルクロニド誘導体として5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドを用いたときの細菌の検出 以下の組成の培地に試験菌として血清型O157、O26、O111、その他の大腸菌、およびその他の細菌の、各々10株、12株、9株、6株、および42株用い、ハートインヒュージョンブイヨン培地で1夜培養してその1白金耳を各培地に塗抹接種し、37℃18時間培養した後の発育の有無とコロニーの呈色を調べた。 培地の組成(培地1Lあたり) ペプトン 10g 酵母エキス 3g 塩化ナトリウム 5g 胆汁酸塩 1.2g 5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド 0.2g ラムノース 7g 亜テルル酸カリウム 0.002g セフィキシム 0.05mg ニュートラルレッド 0.005g 寒天 15g pH 7.2±0.2 結果を表3に示すが、血清型O157、O26、およびO111の大腸菌は全例で発育が認められ、コロニーの色は血清型によって異なり、各々無色、緑色、およびエンジ色であった。一方、その他の大腸菌では6株中2株で発育が認められ、コロニーの色は紫色であった。また、その他の細菌では42株中8株で発育が認められ、コロニーの色は無色が4株、桃色が4株であり、無色の4株はコロニーの大きさが約0.1mmと微小であった。 この結果から、血清型O157、O26、およびO111の大腸菌は、本願発明の培地上で良好な発育を示し、そのコロニーは各々無色、緑色、およびエンジ色を呈することにより、識別した検出が可能である。一方、その他の大腸菌やその他の細菌では本願発明の培地で良好な発育を示す例も少なく、たとえ発育したとしても微小かコロニーの呈色が異なることからも、血清型O157、O26、およびO111の大腸菌を識別した検出が可能である。 本願発明と従来技術の比較 本願発明の培地と従来使用している培地の発育コロニーの呈色を比較した。本願発明の培地組成は(実施例3)に記載のものとした。比較する培地としては、デソキシコレート寒天培地(DESO)、ソルビトール加マッコンキー寒天培地(S−MAC)、ラムノース加マッコンキー寒天培地(R−MAC)、およびソルボース加マッコンキー寒天培地(SB−MAC)とし、各々の組成を以下に示す。 なお、試験菌として血清型O157、O26、O111、その他の大腸菌、およびその他の腸内細菌の、各々15株、15株、9株、10株、および9株を用い、ハートインヒュージョンブイヨン培地で1夜培養してその1白金耳を各培地に塗抹接種し、37℃18時間培養した後の発育の有無とコロニーの呈色を調べた。 DESOの組成(培地1Lあたり) ペプトン 10g 乳糖 10g デソキシコール酸ナトリウム 1g 塩化ナトリウム 5g リン酸2カリウム 2g クエン酸鉄アンモニウム 2g ニュートラルレッド 0.033g 寒天 15g pH 7.2±0.2 S−MACの組成(培地1Lあたり) ペプトン 20g ソルビトール 10g 胆汁酸塩No2 1.5g 塩化ナトリウム 5g ニュートラルレッド 0.03g クリスタルバイオレット 0.001g 寒天 15g pH 7.2±0.2 R−MACの組成(培地1Lあたり) ペプトン 20g ラムノース 10g 胆汁酸塩No2 1.5g 塩化ナトリウム 5g ニュートラルレッド 0.03g クリスタルバイオレット 0.001g 寒天 15g pH 7.2±0.2 SB−MACの組成(培地1Lあたり) ペプトン 20g ソルボース 10g 胆汁酸塩No2 1.5g 塩化ナトリウム 5g ニュートラルレッド 0.03g クリスタルバイオレット 0.001g 寒天 15g pH 7.2±0.2 結果を表4に示すが、本願発明の培地では、血清型O157、O26、およびO111の大腸菌は全て発育し、そのコロニーは、各々無色、緑色、およびエンジ色を呈したが、その他の大腸菌およびその他の細菌では発育した例も少なく、発育したコロニーは紫色または桃色を呈していた。 デソキシコレート寒天培地では、全例で発育が認められ、一部のその他の細菌のコロニーが無色であった以外は、赤色を呈した。 ソルビトール加マッコンキー寒天培地では、全例で発育が認められ、血清型O157の大腸菌のコロニーは無色を呈した反面、それ以外では、一部のその他の細菌のコロニーが無色であった以外は、赤色を呈した。 ラムノース加マッコンキー寒天培地では、全例で発育が認められ、血清型O26の大腸菌のコロニーは無色を呈した反面、それ以外では、一部のその他の細菌のコロニーが無色であった以外は、赤色を呈した。 ソルボース加マッコンキー寒天培地では、全例で発育が認められ、血清型O111の大腸菌のコロニーは無色を呈した反面、それ以外では、一部のその他の細菌のコロニーが無色であった以外は、赤色を呈した。 この結果から、従来の培地を単独で用いた場合には、一種類の血清型の腸管出血性大腸菌のみしか識別検出できない上、一部のその他の細菌との識別が困難となっているが、本願発明の培地を単独で用いることで、血清型O157、O26、およびO111の三種類の腸管出血性大腸菌を識別して検出することが可能である。 従来、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111の検出には、O157はソルビトール加マッコンキー寒天培地、O26はラムノース加マッコンキー寒天培地、およびO111はソルボース加マッコンキー寒天培地と各々の血清型用の分離培地の3枚の平板培地が必要であった。 しかし、本願発明の培地では、1回の選択分離培養により腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を別々の色で発色させることができ、被験試料中の腸管出血性大腸菌O157、O26、またはO111の存在を容易に判断できる。 それゆえ、食品工業分野においては、原材料や製品中の腸管出血性大腸菌の有無を検証するための工程を短縮化でき、汚染品の排除や製品の出荷を速やかに行うことが可能となり、食品流通の経済性に大きく貢献できる。 また、医療分野においては、糞便や嘔吐物を被検試料として用いることにより、腸管出血性大腸菌O157、O26、またはO111による食中毒患者の早期診断が可能となり、早い段階より有効な治療法の選択に寄与できる。 ラムノース、pH指示薬、酵素発色基質、亜テルル酸塩およびセフィキシムを含有する培地であって、酵素発色基質がグルクロニド誘導体であることを特徴とする、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。 さらに、胆汁酸塩および/またはラウリル硫酸ナトリウムを含有することを特徴とする、請求項1記載の腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。 前記pH指示薬が、フェノールレッド、ニュートラルレッド、ブロモクレゾールパープル、ブロモチモールブルー、ブロモフェノールレッド、クロロフェノールレッドより選ばれるpH指示薬である、請求項1または2記載の腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。 前記pH指示薬が、ニュートラルレッドである、請求項1または2記載の腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。 前記グルクロニド誘導体が、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド、3−インドリル−β−D−グルクロニド、4−メチル−ウムベリフェリル−β−D−グルクロニド、p−ニトロフェニル−β−D−グルクロニド、6−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド、5−ブロモ−6−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドより選ばれる酵素発色基質である、請求項1〜4のいずれかに記載の腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。 前記グルクロニド誘導体が、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドである、請求項1〜4のいずれかに記載の腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。 培地1,000mLあたり、ペプトン5−15g、酵母エキス2−5g、塩化ナトリウム0.1−10g、胆汁酸塩0.1−2g、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド0.05−0.5g、ラムノース0.1−8g、亜テルル酸カリウム1−5mg、セフィキシム0.005−0.1mg、ニュートラルレッド0.001−0.01g、寒天10−20gを含有する、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。 腸内細菌から腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別する方法において、請求項1〜7のいずれかに記載の選択分離培地を用いて試料を培養する工程を少なくとも含む、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111の識別方法。 腸内細菌から腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を単離・同定する方法において、請求項1〜7のいずれかに記載の選択分離培地を用いて試料を培養する工程を少なくとも含む、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111の単離・同定方法。 【課題】被験試料中の腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別して選択、分離培養することができる選択分離培地を提供する。【解決手段】本発明に係る腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別する選択分離培地は、大腸菌を検出するための基礎培地に、鑑別剤としてラムノースとpH指示薬およびグルクロニド誘導体の酵素発色基質を添加し、選択剤として亜テルル酸塩、セフィキシムならびに胆汁酸塩および/またはラウリル硫酸塩を加えたものである。【選択図】なし


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る

特許公報(B2)_腸管出血性大腸菌O157、O26、O111選択分離培地

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_腸管出血性大腸菌O157、O26、O111選択分離培地
出願番号:2009168354
年次:2015
IPC分類:C12Q 1/04,C12N 1/20


特許情報キャッシュ

小松 理 JP 5751658 特許公報(B2) 20150529 2009168354 20090717 腸管出血性大腸菌O157、O26、O111選択分離培地 栄研化学株式会社 000120456 小松 理 20150722 C12Q 1/04 20060101AFI20150702BHJP C12N 1/20 20060101ALI20150702BHJP JPC12Q1/04C12N1/20 A C12Q 1/00−3/00 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) PubMed CiNii 特開2001−008679(JP,A) 特開2000−210076(JP,A) 特表2000−508176(JP,A) 特開2003−284588(JP,A) 感染症学雑誌,2001年,vol.75 no.4,pp.291-299 日本臨床微生物学雑誌,1999年,vol.9 no.1,pp.48-50 課題番号31065 食中毒細菌の検出方法の開発と評価,平成12年度創薬等ヒューマンサイエンス研究重点研究報告書 第3分野医薬品等の評価・試験方法の開発に関する研究,2001年,pp.29-38 課題番号31065食中毒細菌の検出方法の開発と評価,平成11年度創薬等ヒューマンサイエンス総合研究事業重点研究報告 第3分野医薬品等の評価・試験方法の開発に関する研究,2000年,pp.24-31 9 2011019462 20110203 16 20120706 白井 美香保 本発明は、食中毒菌である腸管出血性大腸菌血清型O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地に関するものである。また、本発明は、前記培地を用いた、被検試料からの血清型O157、O26、およびO111の大腸菌の検出方法、ならびに他の腸内細菌から識別するための識別方法、および単離するための単離方法に関する。 近年、腸管出血性大腸菌による食中毒が世界各国で報告されており、国内においても腸管出血性大腸菌による食中毒の発生が認められた。そのため、腸管出血性大腸菌による食中毒は大きな社会問題となってきており、その原因究明と予防対策の確立が急務となっている。 この食中毒の原因菌となる腸管出血性大腸菌の多くは、血清型O157、O26、またはO111に属しており、食中毒患者から得られた被検試料中からの血清型O157、O26、またはO111の大腸菌の検出の有無で、腸管出血性大腸菌による食中毒かどうかの判断が可能であるといえる。 血清型O157の大腸菌の選択分離培地としては、選択剤としてノボビオシン、亜テルル酸塩、およびラウリル硫酸塩、ならびに鑑別剤として5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−β−D―ガラクトピラノシド、4−メチルウムベリフェリル−β−D−グルクロニド、ソルビトール等の糖アルコール、およびセロビオース等の二糖類の糖を含有している培地が提案されている(特許文献1)。 本培地は、前記選択剤により大腸菌以外の腸内グラム陰性桿菌の発育を抑制する。前記鑑別剤では、血清型O157の大腸菌はソルビトール、セロビオースを分解できずに酵素基質である5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−β−D―ガラクトピラノシドを分解して濃い青緑色のコロニーを形成する。一方、一般的な大腸菌ではソルビトールを分解し、一般的な大腸菌群はセロビオースを分解するため、上記酵素基質の分解は遅延する。蛍光基質である4−メチルウムベリフェリル−β−D−グルクロニドに関しては、血清型O157の大腸菌がβ−グルクロニダーゼを産生しないため、紫外線照射によりその他の大腸菌と鑑別できる。 また、血清型O26の大腸菌の選択分離培地としては、選択剤としてセフィキシム、亜テルル酸塩、およびラウリル硫酸塩、ならびに鑑別剤としてグルコピラノシド誘導体またはガラクトピラノシド誘導体の酵素発色基質、pH指示薬、およびラムノースを含有している培地が提案されている(特許文献2)。 本培地は、前記選択剤によりバチラス等のグラム陽性菌、血清型O26以外の大腸菌、プロテウス属菌等の発育を抑制する。前記鑑別剤では、血清型O26の大腸菌はラムノースを分解できずに酵素発色基質であるグルコピラノシド誘導体およびガラクトピラノシド誘導体を分解できることを利用し、ラムノースの分解の有無によるpH変化の有無をpH指示薬による培地の変色の有無で確認して、その他の大腸菌と鑑別する。 さらに、血清型O111の大腸菌の選択分離培地としては、選択剤としてセフィキシム、テルライト、および胆汁酸、ならびに鑑別剤としてpH指示薬およびL−ソルボースを含有している培地が提案されている(非特許文献1)。 本培地は、前記選択剤により血清型O111以外の細菌の発育を抑制する。前記鑑別剤では、血清型O111の大腸菌はL−ソルボースを分解できないためpH変化が生じず、pH指示薬による変色は生じない。 すなわち、腸管出血性大腸菌が原因である食中毒か否かを判断する場合、例えば、前記した三種類の選択分離培地を用意し、それらの培地上で被検試料を培養して増殖の有無を確認する必要がある。特開2000−342249号公報特開2001−8679号公報田中 博ら、日本臨床微生物学雑誌、1999年、9巻、p.48−50 食中毒が、腸管出血性大腸菌に起因しているかどうかを判断するためには、各々血清型O157、O26、およびO111の大腸菌に対する選択分離培地を用意する必要があり、多大な手間と費用を要する。そこで、一種類の選択分離培地を用いることにより、血清型O157、O26、およびO111の大腸菌を識別して選択、分離培養することが期待される。 細菌を鑑別する際に、その糖代謝能を利用することが一般的に知られている。血清型O157、O26、およびO111の大腸菌に関しても例に漏れず、各々、ソルビトール、ラムノース、およびソルボースの代謝能を指標として鑑別している。 この糖代謝能に着目して血清型O157、O26、およびO111、ならびにその他の大腸菌を詳細に検討した。その結果、血清型O26の大腸菌のみが非分解で、その他の大腸菌が分解できると知られているラムノースの添加量を調節することにより、血清型O157の大腸菌はラムノース非分解と同等の性状を示すことがわかった。 さらに、種々の酵素発色基質を検討したところ、グルクロニド誘導体を用いた場合、血清型O157の大腸菌はその代謝酵素を産生せず、血清型O111の大腸菌の代謝酵素の産生量は、血清型O26およびその他の大腸菌の産生量に比べて低いということがわかった。 これらの検討によって得られた知見より、ラムノースおよびグルクロニド誘導体の酵素発色基質の培地への添加量を調節することにより、単独の培地を用いて血清型O157、O26、およびO111、ならびにその他の大腸菌を識別することが可能になるとわかった。 すなわち、本発明は以下の構成からなる。(1)ラムノース、pH指示薬、酵素発色基質、亜テルル酸塩およびセフィキシムを含有する培地であって、酵素発色基質がグルクロニド誘導体であることを特徴とする、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。(2)さらに、胆汁酸塩および/またはラウリル硫酸ナトリウムを含有することを特徴とする、(1)記載の腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。(3)前記pH指示薬が、フェノールレッド、ニュートラルレッド、ブロモクレゾールパープル、ブロモチモールブルー、ブロモフェノールレッド、クロロフェノールレッドより選ばれるpH指示薬である、(1)または(2)記載の腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。(4)前記pH指示薬が、ニュートラルレッドである、(1)または(2)記載の腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。(5)前記グルクロニド誘導体が、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド、3−インドリル−β−D−グルクロニド、4−メチル−ウムベリフェリル−β−D−グルクロニド、p−ニトロフェニル−β−D−グルクロニド、6−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド、5−ブロモ−6−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドより選ばれる酵素発色基質である、(1)〜(4)のいずれかに記載の腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。(6)前記グルクロニド誘導体が、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドである、(1)〜(4)のいずれかに記載の腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。(7)培地1,000mLあたり、ペプトン5−15g、酵母エキス2−5g、塩化ナトリウム0.1−10g、胆汁酸塩0.1−2g、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド0.05−0.5g、ラムノース0.1−8g、亜テルル酸カリウム1−5mg、セフィキシム0.005−0.1mg、ニュートラルレッド0.001−0.01g、寒天10−20gを含有する、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別できる選択分離培地。(8)腸内細菌から腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別する方法において、(1)〜(7)のいずれかに記載の選択分離培地を用いて試料を培養する工程を少なくとも含む、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111の識別方法。(9)腸内細菌から腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を単離・同定する方法において、(1)〜(7)のいずれかに記載の選択分離培地を用いて試料を培養する工程を少なくとも含む、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111の単離・同定方法。 本発明を、一例としてpH指示薬にニュートラルレッドを、グルクロニド誘導体に5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドを用いて説明するが、本例に限定されることはない。 腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を発育させる、基礎となる培地の組成は、培地1Lあたり、ペプトン10g、酵母エキス3g、塩化ナトリウム5g、寒天15gを含有し、pHが7.2±0.2に調製されている。 この基礎培地に添加するラムノース量は1Lあたり0.1〜8gが適当であり、ニュートラルレッド量は1Lあたり0.001〜0.01gが適当である。また、培地に添加する5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド量は1Lあたり0.05〜0.5gが適量である。 さらに、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111以外の大腸菌を抑制するために添加する亜テルル酸カリウム量は1Lあたり1〜5mg、腸内細菌であるプロテウス属菌を抑制するために添加するセフィキシム量は1Lあたり0.005〜0.1mg、グラム陽性菌を抑制するために添加する胆汁酸塩は1Lあたり0.1〜2gが適当である。 培地のpHは中性付近に調製してあり、ニュートラルレッドの添加量は微量であるため、培地の色は極わずかに褐色がかかった透明である。ラムノース分解菌は培地中のラムノースを分解して酸を産生し、pHを低下させることにより、コロニーは桃色を呈する。一方、ラムノース非分解菌は酸を産生しないためpHは中性付近にとどまり、コロニーは呈色しない。 また、大腸菌はグルクロニダーゼを産生することが知られており、グルクロニド誘導体の酵素活性基質を分解して発色させる。グルクロニド誘導体として5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドを用いた本例では、コロニーは緑色を呈する。しかし、血清型O157の大腸菌は例外的にグルクロニダーゼを産生せず、コロニーは呈色しない。 なお、前記したように、血清型O111の大腸菌はグルクロニダーゼの産生量が少なく、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドを分解して発色するものの弱い反応のためコロニーは薄い緑色を呈する。 本例に示した、ラムノースおよびニュートラルレッドならびに5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドを組み合わせて培地に添加したときの大腸菌のコロニーの色を以下に示す。 血清型O157の大腸菌は、ラムノースの添加量を調節することによりラムノース非分解菌と同等の挙動を示し、グルクロニダーゼを産生しないため、コロニーは無色である。 血清型O26の大腸菌は、ラムノース非分解菌で、グルクロニダーゼを産生するため、コロニーは緑色を呈する。 血清型O111の大腸菌は、ラムノース分解菌で、グルクロニダーゼの産生が少なく弱い反応を示すため、コロニーはエンジ〜赤色を呈する。 これら以外の大腸菌の多くは亜テルル酸塩を添加することにより発育が抑制されるが、たとえ発育したとしてもラムノース分解菌で、グルクロニダーゼを産生するため、コロニーは紫色を呈する。 大腸菌以外の菌の多くは、亜テルル酸塩、セフィキシム、ならびに胆汁酸塩および/またはラウリル硫酸塩を添加することにより発育が抑制されるが、たとえ発育したとしてもコロニーは小さい。なお、発育する菌はグルクロニダーゼを産生しないため、ラムノース分解能の有無によってコロニーは無色もしくは桃色を呈する。 以上、本例の培地を使用することにより、血清型O157、O26、O111、およびそれ以外の大腸菌、ならびにその他の菌を一種類の培地を用いて識別することが可能となる。 本発明を実施することにより、被検試料中に含まれる、食中毒菌として重要な腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を、一種類の培地を用いて識別する選択、分離培養が可能となる。 細菌の増殖を支持するための栄養素および塩濃度、ならびに平板培地とするためのゲル化剤を含む基礎培地に、細菌を鑑別するためのラムノースおよびpH指示薬、ならびに酵素発色基質のグルクロニド誘導体、検出対象外の細菌の増殖を抑制する亜テルル酸塩、セフィキシム、ならびに胆汁酸塩および/またはラウリル硫酸ナトリウムを加えることにより、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別して選択、分離培養することが出来る。 対象細菌を鑑別するための薬剤の濃度の確認 1.ラムノースの濃度の違いによる発育コロニーの呈色 ラムノースの濃度の違いによるラムノースの分解性の違いを調べるために、以下の組成の培地にラムノースを添加し、ラムノースの濃度が0.1、4、8、および15g/Lとなるように培地を調製した。試験菌として血清型O157、O26、O111、およびその他の大腸菌の各々1株を用い、ハートインヒュージョンブイヨン培地で1夜培養してその1白金耳を各培地に塗抹接種し、37℃18時間培養した後のコロニーの桃色の呈色を確認した。 培地の組成(培地1Lあたり) ペプトン 10g 塩化ナトリウム 5g ニュートラルレッド 0.03g 寒天 15g pH 7.2±0.2 ラムノース分解性を有さない血清型O26の大腸菌はいずれの濃度でも桃色の呈色を示さなかった。一方、血清型O26以外の大腸菌はラムノース分解性を有すると知られており、血清型O111およびその他の大腸菌はいずれの濃度でも桃色の呈色を示した。しかし、血清型O157の大腸菌は、15g/Lでは桃色の呈色を示したものの、8g/Lでは薄い桃色を呈しており、0.1および4g/Lでは桃色の呈色を示さなかった。 この結果から、培地中のラムノース濃度を8g/L以下にすることにより、ラムノース分解性を有すると知られている、血清型O157の大腸菌と、血清型O111およびその他の大腸菌を、そのコロニーの呈色により識別できることがわかった。 2.5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドの濃度の違いによるグルクロニダーゼ活性 酵素発色基質として知られているグルクロニド誘導体の5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドの濃度の違いによるグルクロニダーゼ活性の違いを調べるために、ハートインフュージョンブイヨン培地に5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドを添加し、12.5および50mg/Lとなるように培地を調製し、マイクロプレートに100μLずつ分注する。この培地に、血清型O157、O26、O111、およびその他の大腸菌の、各々1株をハートインヒュージョンブイヨン培地で1夜培養して、マクファーランド標準濁度液No.1に調製したものを0.00015mL接種し、37℃18時間培養した後に緑色の発色を確認した。 血清型O157の大腸菌では両濃度とも発色は見られなかった。血清型O26の大腸菌では両濃度で発色が見られた。血清型O111の大腸菌では50mg/Lで発色が見られ、12.5mg/Lでは発色は見られなかった。その他の大腸菌では両濃度で発色が見られた。 この結果から、血清型O157の大腸菌はグルクロニダーゼを産生せず、血清型O111の大腸菌はグルクロニダーゼを産生しているものの、血清型O26およびその他の大腸菌のグルクロニダーゼの産生量より低いと判断された。このことより、グルクロニダーゼの酵素発色基質であるグルクロニド誘導体の発色を指標として、血清型O157、O26、およびO111を識別できることがわかった。 pH指示薬と酵素発色基質であるグルクロニド誘導体の組合せ 種々のpH指示薬とグルクロニド誘導体の組合わせで腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111の識別が可能か調べるため、以下の組成の培地に0.005g/LのpH指示薬および0.1g/Lのグルクロニド誘導体を添加して培地を調整した。試験菌として血清型O157、O26、O111、およびその他の大腸菌の各々1株を用い、ハートインヒュージョンブイヨン培地で1夜培養してその1白金耳を各培地に塗抹接種し、37℃18時間培養した後のコロニーの呈色を確認した。 なお、pH指示薬としてはフェノールレッド(PR)、ブロモクレゾールパープル(BCP)、ブロモチモールブルー(BTB)、ブロモフェノールレッド(BPR)、およびクロロフェノールレッド(CPR)を用い、グルクロニド誘導体としては5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド(X−Gluc)、3−インドリル−β−D−グルクロニド(Y−Gluc)、4−メチル−ウムベリフェリル−β−D−グルクロニド(MU−Gluc)、p−ニトロフェニル−β−D−グルクロニド(PNP−Gluc)、6−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド(salmon−Gluc)、および5−ブロモ−6−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド(magenta−Gluc)を用いた。 培地の組成(培地1Lあたり) ペプトン 10g 酵母エキス 3g 塩化ナトリウム 5g 胆汁酸塩 1.2g ラムノース 7g 寒天 15g pH 7.2±0.2 pH指示薬およびグルクロニド誘導体の各々の組合わせの培地における血清型O157、O26、O111、およびその他の大腸菌のコロニーの呈色を表1に示し、各々の組合わせによる識別の可否を表2にまとめた。3種類の組合わせ(BCPとPNP−Gluc、BTBとsalmon−Gluc、およびBTBとmagenta−Gluc)でやや識別性が劣るものの識別が可能であった他は、容易に識別が可能であった。 pH指示薬としてニュートラルレッド、グルクロニド誘導体として5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドを用いたときの細菌の検出 以下の組成の培地に試験菌として血清型O157、O26、O111、その他の大腸菌、およびその他の細菌の、各々10株、12株、9株、6株、および42株用い、ハートインヒュージョンブイヨン培地で1夜培養してその1白金耳を各培地に塗抹接種し、37℃18時間培養した後の発育の有無とコロニーの呈色を調べた。 培地の組成(培地1Lあたり) ペプトン 10g 酵母エキス 3g 塩化ナトリウム 5g 胆汁酸塩 1.2g 5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド 0.2g ラムノース 7g 亜テルル酸カリウム 0.002g セフィキシム 0.05mg ニュートラルレッド 0.005g 寒天 15g pH 7.2±0.2 結果を表3に示すが、血清型O157、O26、およびO111の大腸菌は全例で発育が認められ、コロニーの色は血清型によって異なり、各々無色、緑色、およびエンジ色であった。一方、その他の大腸菌では6株中2株で発育が認められ、コロニーの色は紫色であった。また、その他の細菌では42株中8株で発育が認められ、コロニーの色は無色が4株、桃色が4株であり、無色の4株はコロニーの大きさが約0.1mmと微小であった。 この結果から、血清型O157、O26、およびO111の大腸菌は、本願発明の培地上で良好な発育を示し、そのコロニーは各々無色、緑色、およびエンジ色を呈することにより、識別した検出が可能である。一方、その他の大腸菌やその他の細菌では本願発明の培地で良好な発育を示す例も少なく、たとえ発育したとしても微小かコロニーの呈色が異なることからも、血清型O157、O26、およびO111の大腸菌を識別した検出が可能である。 本願発明と従来技術の比較 本願発明の培地と従来使用している培地の発育コロニーの呈色を比較した。本願発明の培地組成は(実施例3)に記載のものとした。比較する培地としては、デソキシコレート寒天培地(DESO)、ソルビトール加マッコンキー寒天培地(S−MAC)、ラムノース加マッコンキー寒天培地(R−MAC)、およびソルボース加マッコンキー寒天培地(SB−MAC)とし、各々の組成を以下に示す。 なお、試験菌として血清型O157、O26、O111、その他の大腸菌、およびその他の腸内細菌の、各々15株、15株、9株、10株、および9株を用い、ハートインヒュージョンブイヨン培地で1夜培養してその1白金耳を各培地に塗抹接種し、37℃18時間培養した後の発育の有無とコロニーの呈色を調べた。 DESOの組成(培地1Lあたり) ペプトン 10g 乳糖 10g デソキシコール酸ナトリウム 1g 塩化ナトリウム 5g リン酸2カリウム 2g クエン酸鉄アンモニウム 2g ニュートラルレッド 0.033g 寒天 15g pH 7.2±0.2 S−MACの組成(培地1Lあたり) ペプトン 20g ソルビトール 10g 胆汁酸塩No2 1.5g 塩化ナトリウム 5g ニュートラルレッド 0.03g クリスタルバイオレット 0.001g 寒天 15g pH 7.2±0.2 R−MACの組成(培地1Lあたり) ペプトン 20g ラムノース 10g 胆汁酸塩No2 1.5g 塩化ナトリウム 5g ニュートラルレッド 0.03g クリスタルバイオレット 0.001g 寒天 15g pH 7.2±0.2 SB−MACの組成(培地1Lあたり) ペプトン 20g ソルボース 10g 胆汁酸塩No2 1.5g 塩化ナトリウム 5g ニュートラルレッド 0.03g クリスタルバイオレット 0.001g 寒天 15g pH 7.2±0.2 結果を表4に示すが、本願発明の培地では、血清型O157、O26、およびO111の大腸菌は全て発育し、そのコロニーは、各々無色、緑色、およびエンジ色を呈したが、その他の大腸菌およびその他の細菌では発育した例も少なく、発育したコロニーは紫色または桃色を呈していた。 デソキシコレート寒天培地では、全例で発育が認められ、一部のその他の細菌のコロニーが無色であった以外は、赤色を呈した。 ソルビトール加マッコンキー寒天培地では、全例で発育が認められ、血清型O157の大腸菌のコロニーは無色を呈した反面、それ以外では、一部のその他の細菌のコロニーが無色であった以外は、赤色を呈した。 ラムノース加マッコンキー寒天培地では、全例で発育が認められ、血清型O26の大腸菌のコロニーは無色を呈した反面、それ以外では、一部のその他の細菌のコロニーが無色であった以外は、赤色を呈した。 ソルボース加マッコンキー寒天培地では、全例で発育が認められ、血清型O111の大腸菌のコロニーは無色を呈した反面、それ以外では、一部のその他の細菌のコロニーが無色であった以外は、赤色を呈した。 この結果から、従来の培地を単独で用いた場合には、一種類の血清型の腸管出血性大腸菌のみしか識別検出できない上、一部のその他の細菌との識別が困難となっているが、本願発明の培地を単独で用いることで、血清型O157、O26、およびO111の三種類の腸管出血性大腸菌を識別して検出することが可能である。 従来、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111の検出には、O157はソルビトール加マッコンキー寒天培地、O26はラムノース加マッコンキー寒天培地、およびO111はソルボース加マッコンキー寒天培地と各々の血清型用の分離培地の3枚の平板培地が必要であった。 しかし、本願発明の培地では、1回の選択分離培養により腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を別々の色で発色させることができ、被験試料中の腸管出血性大腸菌O157、O26、またはO111の存在を容易に判断できる。 それゆえ、食品工業分野においては、原材料や製品中の腸管出血性大腸菌の有無を検証するための工程を短縮化でき、汚染品の排除や製品の出荷を速やかに行うことが可能となり、食品流通の経済性に大きく貢献できる。 また、医療分野においては、糞便や嘔吐物を被検試料として用いることにより、腸管出血性大腸菌O157、O26、またはO111による食中毒患者の早期診断が可能となり、早い段階より有効な治療法の選択に寄与できる。ラムノース、pH指示薬、酵素発色基質、亜テルル酸塩およびセフィキシムを含有する培地であって、前記培地が含有する酵素発色基質がグルクロニド誘導体であることを特徴とする、腸管出血性大腸菌O157、O26、O111の選択分離培地であり、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を、発育するコロニーの呈色する色彩で識別する選択分離培地。さらに、胆汁酸塩および/またはラウリル硫酸ナトリウムを含有することを特徴とする、請求項1記載の選択分離培地。前記pH指示薬が、フェノールレッド、ニュートラルレッド、ブロモクレゾールパープル、ブロモチモールブルー、ブロモフェノールレッド、クロロフェノールレッドより選ばれるpH指示薬である、請求項1または2記載の選択分離培地。前記pH指示薬が、ニュートラルレッドである、請求項1または2記載の選択分離培地。前記グルクロニド誘導体が、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド、3−インドリル−β−D−グルクロニド、4−メチル−ウムベリフェリル−β−D−グルクロニド、p−ニトロフェニル−β−D−グルクロニド、6−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド、5−ブロモ−6−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドより選ばれる酵素発色基質である、請求項1〜4のいずれかに記載の選択分離培地。前記グルクロニド誘導体が、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニドである、請求項1〜4のいずれかに記載の選択分離培地。培地1,000mLあたり、ペプトン5−15g、酵母エキス2−5g、塩化ナトリウム0.1−10g、胆汁酸塩0.1−2g、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−グルクロニド0.05−0.5g、ラムノース0.1−8g、亜テルル酸カリウム1−5mg、セフィキシム0.005−0.1mg、ニュートラルレッド0.001−0.01g、寒天10−20gを含有する、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を、発育するコロニーの呈色する色彩で識別する選択分離培地。腸内細菌から腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を識別する方法において、請求項1〜7のいずれかに記載の選択分離培地を用いて試料を培養する工程を少なくとも含む、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を、発育するコロニーを異なった色彩で呈色させる識別方法。腸内細菌から腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を単離・同定する方法において、請求項1〜7のいずれかに記載の選択分離培地を用いて試料を培養する工程を少なくとも含む、腸管出血性大腸菌O157、O26、およびO111を、発育するコロニーを異なった色彩で呈色させる単離・同定方法。


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る