タイトル: | 公開特許公報(A)_曳糸性の評価方法 |
出願番号: | 2009147634 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | G01N 11/00 |
笠原 啓二 JP 2011002418 公開特許公報(A) 20110106 2009147634 20090622 曳糸性の評価方法 株式会社マンダム 390011442 桂田 正徳 100137419 笠原 啓二 G01N 11/00 20060101AFI20101203BHJP JPG01N11/00 A 4 5 OL 11 本発明は、曳糸性の評価方法に関する。詳しくは、化粧料、医薬品、食品、塗料などの種々の分野における生産品や商品などを被験物質とし、該被験物質の糸曳きの程度を、力学的パラメーターにより客観的に評価することのできる、被験物質の曳糸性の評価方法に関する。 製品の品質評価、使用性評価、機能性評価、作業性評価などの観点から、化粧料、医薬品、食品、塗料分野などで曳糸性についての研究がなされている。例えば、食品分野では、ヤマノイモ(非特許文献1を参照)や馬鈴薯澱粉(非特許文献2を参照)の品質の評価に利用されている。 また、化粧料分野では、睫毛用化粧料に曳糸性を持たせることで、睫毛にボリューム感やロングラッシュ効果を付与したり(例えば、特許文献1を参照)、整髪用化粧料に曳糸性を持たせることで、滑らかな感触にし、塗布時の伸びを良好にしたりしている(例えば、特許文献2を参照)。このように、製品に曳糸性を持たせると、製品に特有の使用性、機能性を付与することができる。 加えて、化粧料などの製品に曳糸性を付与すると、使用時に組成物を手に採った際に糸が曳き、使用者に楽しさを提供することができる。しかし、この糸が曳く程度の評価は、糸曳きが切れるまでの距離で評価する方法(例えば、特許文献3を参照)が報告されているものの、糸を曳く速度を一定にして評価しなければならず、粘度の異なった種々の被験物質を簡便に客観的に評価できる方法がなく、従来から官能評価による評価が主流であった。 一方、曳糸性を有する物質を製品化する際には、曳糸性物質を容器に充填すると、充填後にも充填ノズルから曳糸性物質が糸を曳いて垂れ落ち、容器を汚したり、チューブのシール不良などが生じるという問題がある。 このような問題点を解決するために、糸をレーザーで切断する方法(特許文献4を参照)や、回転する棒状体に巻き取る方法(特許文献5を参照)などが提案されている。しかし、このような方法を採用するには、特殊な装置が必要であり、通常の充填機を用いることができないという問題がある。 そこで、曳糸性を力学的パラメーターにより簡便に評価できれば、曳糸性物質を容器に充填する際に曳糸性が生じ難い充填条件を設定でき、通常の充填機で曳糸性物質の充填が可能となる利点もある。特開2007−314655号公報特開2002−241234号公報特開2007−327785号公報特開2004−58159号公報特開2008−24346号公報新井貞子、他3名、「生および凍結乾燥ヤマノイモの糸曳特性」、日本家政学会誌、1998年、第49巻、第10号、p1079−1087平尾和子、他3名、「馬鈴薯澱粉糊液の流動特性」、日本家政学会誌、1985年、第36巻、第1号、p10−17 本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであって、被験物質の糸引きの程度を力学的パラメーターにより客観的に評価できる、被験物質の曳糸性の評価方法を提供することを課題とする。 すなわち、本発明は、〔1〕曳糸性を評価する方法であって、被験物質の第一法線応力差と、被験物質の剪断応力又は粘度とから、被験物質の曳糸性を評価することを特徴とする曳糸性の評価方法、〔2〕第一法線応力差を剪断応力又は粘度で除した値から、被験物質の曳糸性を評価することを特徴とする前記〔1〕に記載の曳糸性の評価方法、〔3〕前記被験物質が、非固形の形状であることを特徴とする前記〔1〕又は〔2〕に記載の曳糸性の評価方法、並びに〔4〕前記被験物質が、曳糸性高分子を含有した組成物であることを特徴とする前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の曳糸性の評価方法に関する。 本発明の評価方法は、被験物質の糸曳きの程度(曳糸性の程度)を客観的に評価することができる。これにより、曳糸性製品の開発においては、曳糸性の程度を客観的に評価が可能となる。また、曳糸性組成物を容器に充填する場合、糸曳きの起こり難い充填条件を設定することが可能となる。各被験物質の曳糸性の評価結果を、官能評価による7段階の評価スコアにより表した図である。各被験物質の曳糸性の官能評価結果と、剪断速度1000s−1における第一法線応力差との関係を表した図である。各被験物質の曳糸性の官能評価結果と、剪断速度1000s−1における粘度との関係を表した図である。各被験物質の曳糸性の官能評価結果と、剪断速度1000s−1における第一法線応力差を粘度で除した値との関係を表した図である。各被験物質の曳糸性の官能評価結果と、剪断速度500s−1における第一法線応力差を粘度で除した値との関係を表した図である。 本発明の評価方法は、化粧料、医薬品、食品、塗料などの種々の分野における生産品や商品などを被験物質とし、その曳糸性の程度を、該被験物質の力学的パラメーターにより客観的に評価できる点に特徴がある。 評価に供させる被験物質は、曳糸性の評価をする観点から、その形状は固形でなければ特に限定されない。例えば、液状、乳液状、ジェル状、ペースト状、クリーム状、ワックス状などの非固形の形状が挙げられる。従来は評価が困難であったクリーム状、ワックス状の形状であっても客観的評価が可能であることから、被験物質は、クリーム状、ワックス状などの形状を用いるのが好ましい。 尚、本発明におけるワックス状の被験物質とは、室温(1〜30℃)下でペースト状様乃至はクリーム状様の外観を示し、広口容器に充填して容器を90°に1分間傾けた際に、充填した内容物が流動性を示さないものを言う。このような組成物は、例えば、整髪用化粧料などに見られる広口容器に充填されているワックス整髪剤などを例示することができる。 本発明の評価方法は、殆ど曳糸性を示さない物質から、高い曳糸性を示す物質まで評価することができる。化粧料分野、医薬品分野などでは、製品に高い曳糸性を付与するために、通常、曳糸性高分子が配合される。このことから、曳糸性高分子が配合された組成物を、被験物質として好ましく用いることができる。 このような高分子としては、例えば、水溶性の合成高分子化合物、半合成高分子化合物、天然高分子化合物などを挙げることができる。具体的には、ポリエチレングリコール、高重合ポリエチレングリコール、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、エチレンオキシド・プロピレンオキシドブロック共重合体などの合成高分子;メチルセルロース,エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルデンプン、メチルデンプン、アルギン酸プロピレングリコールエステルなどの半合成高分子;ゼラチン、カラギーナン、グアーガム、クインスシード、キサンタンガム、プルラン、コラーゲン、アラビアガム、マンナン、デンプン、デキストラン、カゼイン、アルブミン、ヒアルロン酸などの天然高分子等を例示することができる。 従来、生産品や商品などの曳糸性を評価する方法としては、特に化粧料や医薬品の分野においては、専ら人による官能評価によりその程度が評価されていた。そこで、本発明者らが簡便に客観的に評価できる方法を鋭意検討した結果、被験物質の第一法線応力差と、被験物質の剪断応力又は粘度とを利用すると、人が感じる曳糸性の程度を非常に高い相関性で評価できることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、被験物質の剪断面に対して垂直方向に働く応力である第一法線応力差と、剪断面に対して平行方向に働く応力である剪断応力とから、被験物質の曳糸性を評価することができる。 また、剪断応力は粘度に剪断速度を乗じたもの、すなわち剪断応力を剪断速度で除したものが粘度として求められることから、被験物質の第一法線応力差と、被験物質の粘度とから、被験物質の曳糸性を評価することもできる。 本発明者らの検討の結果、人が感じる被験物質の曳糸性の程度は、第一法線応力差又は剪断応力或いは粘度の各測定値とは相関を示さなかったが、第一法線応力差を剪断応力或いは粘度で除した値、すなわち、下記数式1或いは2 〔人が感じる被験物質の曳糸性の程度〕=〔第一法線応力差〕/〔剪断応力〕 (1)或いは 〔人が感じる被験物質の曳糸性の程度〕=〔第一法線応力差〕/〔粘度〕 (2)により求められる値と、高い相関性を示すことが判明した。尚、人が感じる被験物質の曳糸性の程度は、上記式により求められる数値が大きいほど、曳糸性の程度が大きいことを表す。 本発明の評価方法における、第一法線応力差、剪断応力、粘度の各値は、市販のレオメーターを用いることにより測定することができる。用いるレオメーターは、前記各値が測定できれば特に限定されず、応力制御型、ひずみ制御型のいずれであっても良い。 レオメーターの測定条件は、通常の測定条件であれば特に限定されないが、恒湿恒温の測定室で20〜30℃の測定温度条件下で測定温度を一定にして測定するのが好ましい。 測定に際しての剪断速度は、第一法線応力差、剪断応力、粘度の各値が得られれば特に限定されないが、上記数式1又は2により求められる〔人が感じる被験物質の曳糸性の程度〕の値と、人の官能評価により実際に感じられる曳糸性の程度との相関性の観点から、100〜1000s−1の範囲で測定するのが好ましく、300〜1000s−1がより好ましく、400〜700s−1が更に好ましく、500〜600s−1の範囲で測定するのが特に好ましい。 かくして、数式1又は2により得られた値は、該被験物質の人が実際に感じる曳糸性の程度と高い相関を示すことから、曳糸性を有する商品の開発の際に、曳糸性の程度を客観的に評価することができる。また、曳糸性は、物質に係る応力や粘度と相関することから、曳糸性を有する商品の製造に際して、充填温度や充填ノズル径などを変更することにより、曳糸性が生じ難い充填条件を予測することができる。(被験物質) 表1に示す組成に従い、種々の濃度で曳糸性物質である高重合ポリエチレングリコール(商品名「POLYOX WSR−301」,ダウ・ケミカル社製)を配合し、ワックス整髪剤の態様で整髪剤1〜5を調製した。尚、表1中の配合量は、「質量%」を表す。 また、以下の市販のワックス整髪剤(いずれも、マンダム社製)を、整髪剤6〜10とした。整髪剤6 :商品名「ギャツビー ムービングラバー スパイキーエッジ」整髪剤7 :商品名「ルシードエル デザイニングポット #ニュアンスモア」整髪剤8 :商品名「ギャツビー ムービングラバー ニュアンスモーション」整髪剤9 :商品名「ルシードエル デザイニングポット #エッジィムーブ」整髪剤10:商品名「ギャツビー ムービングラバー ルーズシャッフル」(試験例1:曳糸性の官能評価試験) 被験物質1〜10について、専門パネル20名により、曳糸性の程度を官能評価した。すなわち、広口容器に充填されている被験物質(整髪剤1〜10)について、それぞれ、指先で表面を軽く押さえ、その後、一定のスピードで上方に曳いた際の糸引きの程度を7段階の評点法にて官能評価した。 評価は、専門パネル10名による予備的官能評価で被験物質を評価した際、被験物質中、略中間の曳糸性の程度を示すと評価された整髪剤3を標準品に設定し、評点4とした。また、最も曳糸性が高いと評価された整髪剤10を評点7とし、曳糸性がない状態(精製水のみ)を評点1とした。 この7段階の評価基準に従い、整髪剤1〜10の曳糸性を官能評価し、各パネルの評価点の平均値を評価スコアとして採用した。結果を表2及び図1に示す。(試験例2:力学的パラメーターの測定) 応力制御型レオメーター(Physica MCR300型,Anton Paar社製)に治具としてコーンプレート(直径25mm、コーン角度1°)を用い、一定方向へ応力を与える定常流測定における剪断速度を100〜1000s−1の範囲で変化させ、25℃の測定条件下で各被験物質の第一法線応力差および粘度を測定した。各剪断速度における第一法線応力差(単位:Pa)の測定結果を表3〜4に示し、粘度(単位:Pa・s)の測定結果を表5〜6に示す。(比較例1) 試験例1の被験物質の曳糸性の官能評価結果を、試験例2の剪断速度1000s−1における第一法線応力差との関係をグラフ化し、両者の相関性を検討した。結果を図2に示す。 図2から、最小二乗法により、曳糸性の官能評価スコアと第一法線応力差との相関係数を求めた結果、相関係数(r)は、0.33であった。よって、物質の曳糸性は、物質の剪断面に対して垂直方向に働く応力である第一法線応力差とは相関しないことが分かる。(比較例2) 試験例1の被験物質の曳糸性の官能評価結果を、試験例2の剪断速度1000s−1における粘度との関係をグラフ化し、両者の相関性を検討した。結果を図3に示す。 図3から、最小二乗法により、曳糸性の官能評価スコアと粘度との相関係数を求めた結果、相関係数(r)は、0.44であった。よって、物質の曳糸性は、物質の剪断面に対して平行方向に働く応力に関連する粘度とは相関しないことが分かる。(実施例1) 試験例2で得られた第一法線応力差の値を粘度の値で除した[〔第一法線応力差〕/〔粘度〕]。各剪断速度における算出された値(単位:s−1)を表7〜8に記す。 上記で算出された剪断速度1000s−1における[〔第一法線応力差〕/〔粘度〕]の値を、試験例1の被験物質の曳糸性の官能評価結果との関係をグラフ化し、両者の相関性を検討した。結果を図4に示す。 図4から、最小二乗法により、曳糸性の官能評価スコアと、第一法線応力差を粘度で除した値との相関係数を求めた。その結果、相関係数(r)は、0.94と高い相関性が示された。(実施例2) 上記で算出された剪断速度500s−1における[〔第一法線応力差〕/〔粘度〕]の値を、実施例1と同様に試験例1の被験物質の曳糸性の官能評価結果との関係をグラフ化し、両者の相関性を検討した。結果を図5に示す。 図5から、最小二乗法により、曳糸性の官能評価スコアと、第一法線応力差を粘度で除した値との相関係数を求めた。その結果、相関係数(r)は、0.95と高い相関性が示された。 実施例1〜2及び比較例1〜2の結果から、物質の曳糸性の強度は、第一法線応力差や粘度そのものと相関しないが、第一法線応力差を粘度で除した値と高い相関性を示すことが分かる。また、剪断応力は粘度に剪断速度を乗ずることにより求められることから、第一法線応力差を剪断応力で除した値でも同様に高い相関性が得られることが分かる。 曳糸性を評価する方法であって、被験物質の第一法線応力差と、被験物質の剪断応力又は粘度とから、被験物質の曳糸性を評価することを特徴とする曳糸性の評価方法。 第一法線応力差を剪断応力又は粘度で除した値から、被験物質の曳糸性を評価することを特徴とする請求項1に記載の曳糸性の評価方法。 前記被験物質が、非固形の形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の曳糸性の評価方法。 前記被験物質が、曳糸性高分子を含有した組成物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の曳糸性の評価方法。 【課題】被験物質の糸引きの程度を力学的パラメーターにより客観的に評価できる、被験物質の曳糸性の評価方法を提供すること。【解決手段】曳糸性を評価する方法であって、被験物質の第一法線応力差と、被験物質の剪断応力又は粘度とから、好ましくは第一法線応力差を剪断応力又は粘度で除した値から、被験物質の曳糸性を評価することを特徴とする曳糸性の評価方法とする。被験物質の形状は、非固形の形状が好ましく、また、被験物質は、曳糸性高分子を含有した組成物であることが好ましい。【選択図】図5