タイトル: | 公開特許公報(A)_アルカリ性ホスファターゼアイソザイムの検体検査方法 |
出願番号: | 2009134468 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | C12Q 1/42,G01N 27/447 |
松田 武英 小柳 裕昭 金沢 敏行 久保田 亮 JP 2010263874 公開特許公報(A) 20101125 2009134468 20090514 アルカリ性ホスファターゼアイソザイムの検体検査方法 株式会社明日香特殊検査研究所 308001776 松田 武英 小柳 裕昭 金沢 敏行 久保田 亮 C12Q 1/42 20060101AFI20101029BHJP G01N 27/447 20060101ALI20101029BHJP JPC12Q1/42G01N27/26 301AG01N27/26 325A 4 2 書面 14 4B063 4B063QA17 4B063QQ33 4B063QR66 4B063QS16 4B063QS36 4B063QX01 ヒトや動物の血液中の酵素の1つであるアルカリ性ホスファターゼ(以後ALP)を測定し判定する技術分野に関するものである。 血液中のALPは、その産生する臓器によりアイソザイムが存在することは良く知られている。このアイソザイムの分析法は既に40年以上前より行われており、健常成人では主に肝臓型ALPと骨型ALP及び小腸型ALP(主に血液型がB型とO型のヒト)が出現する。小児期では骨型ALPが比較的多く出現し、成人の骨型ALPより電気泳動の移動度が若干速いと言われている。妊婦には耐熱性の胎盤型ALPが出現し肝型ALPと骨型ALPの中間または骨型ALPとほぼ同位置に出現する。ある種の疾病に罹患した患者の血液中には、健常人のALPアイソザイムに比べ非特定のアイソザイムが増加または減少し、移動度の異なる特異なアイソザイムが産生されることがあり、それぞれ疾患臓器の特定に活用されている。 ALPアイソザイムの分析には、特定のアイソザイム抗体を用いる免疫化学的分析法もあるが、通常は電気泳動法により行われることが多い。電気泳動法でALPアイソザイム分析を行う場合、その支持体としてアガロースゲルやセルロースアセテート膜を用いてアイソザイム自体の表面荷電で分析する測定法(参考文献1)とポリアクリルアミドゲルディスク(以後PAGディスク)ゲルのような分子ふるい効果のある支持体でアイソザイムを分子サイズの順に分析する測定法(参考文献4,5,6)が知られている。電気泳動法で分析されたALPアイソザイムは主にインジゴブルーのような染色液で特異的に染められ可視化される。 アガロースゲル電気泳動法では、陽極側からI型ALP(高分子型)、II型ALP(肝臓型)、III型ALP(骨型)、IV型ALP(胎盤型)、V型ALP(小腸型)、VI型ALP(免疫結合型)と呼ばれるアイソザイムが出現し、特にI型ALP(高分子型)、II型ALP(肝臓型)、III型ALP(骨型)、IV型ALP(胎盤型)、V型ALP(小腸型)の分離は僅差でありそのアイソザイムの判定に苦労しており時々誤判定されたり、若しくは判定不良と報告書されることがあった。 PAGディスク電気泳動法では、陽極側から肝臓型ALP、胎盤型ALP、骨型ALP、小腸型ALP、小腸型バリアントALP、ビリアリー型ALP、免疫複合型ALP、血液型依存性高分子小腸型ALP、高分子ALP1、高分子ALP2が検出される。この他、腎臓型ALP、Nagao型ALP、Regan型ALP、Kasahara型ALPや、肝臓型ALPよりも陽極側に特殊なバンドが出現することがある。特にPAGディスク電気泳動法では、小腸型ALPに係るアイソザイムは、小腸型ALP、小腸型バリアントALP、血液型依存性高分子小腸型ALPの3種類検出される。 アガロースゲル電気泳動法(参考文献1)やセルロースアセテート膜電気泳動法によるALPアイソザイムの分離分析法は、健常者の分析で判断を間違うことは少ないが、PAGディスク電気泳動法で確実に検出できる高分子ALP1、高分子ALP2の区別および血液型依存性高分子小腸型ALPやビリアリー型ALP、小腸型バリアントALP等の出現する検体においてはそれらの区別できない。さらに胎盤型ALPの出現や、ALP活性値が高い異常患者検体や免疫グロブリンを結合した免疫複合型ALPの出現があった場合、これらがアガロースゲルの網目に引っ掛かり分離がブロード状になり、その濃度波形を見てもそれぞれのアイソザイムを判定することは相当熟練した技術者でも難しいと言われている。高分子ALP1や高分子ALP2は細胞膜断片をもったALP分子と言われ、臨床的には細胞が壊れその一部がALPと一緒に血中に流れ出したものと考えられており、高分子ALPが増加することは臓器特異的な細胞の破壊が進んでいることを示している。またビリアリー型ALPの出現は胆汁鬱帯があることを意味しており、胆管閉塞の兆候でもある。これらの情報が的確に医師に伝わらないということは、診断や治療に役立たないことになり、当然分析法の信頼性が失われることになる。 PAGディスク電気泳動法に出現する肝臓型ALPよりも陽極側に出現する特殊なバンドはアガロースゲル電気泳動法やセルロースアセテート膜電気泳動法では検出できない。アガロースゲル電気泳動法等では、当然このバンドは他のアイソザイムと区別できない。分離の不確実性を解消するため添加剤を入れて電気泳動する方法が参考文献2に示されている。さらにアガロースゲル電気泳動法において、アイソザイムの判定を明確にするため参考文献3に示すようにI型ALP(高分子型)の出現とII型ALP(肝臓型)・III型ALP(骨型)の活性値の比、さらに波形の形で見分けようとしているものもある。 一方、PAGディスクゲル電気泳動法によるALPアイソザイムの分離分析(参考文献4,5,6)は、アガロースゲル電気泳動法やセルロースアセテート膜電気泳動法より遅れて発表されたことと分析技術の操作が複雑なことやパターンの判読に熟練が要することなどによりその普及が進んでいない。このPAGディスク電気泳動法によるALPアイソザイムの分析は、PAGゲルに分子ふるい効果があることから分子サイズの順にアイソザイムが分離分析できることが知られている。前述のようにアイソザイムそのものの荷電で分析するアガロースゲル電気泳動法やセルロースアセテート膜電気泳動法とは分析原理が異なるため、PAGディスク電気泳動法特有の色々なバンドが出現する。PAGディスク電気泳動法でさえ肝臓型ALP、胎盤型ALP、骨型ALP、小腸型ALPはアガロースゲル電気泳動法等と同様相当僅差の分離分析法であり、ALP活性が高い患者では、アイソザイムバンドが互いに重なり合うことがあり判定を迷わせている。 参考文献 1.医学検査、Vol.56、No.6、749−751、2006 2.特許公表2003−527600 3.特開2002−181825 4.医学のあゆみ、Vol.155、No11−12、p741−742、1990、12/22 5.生物物理化学、Vol.35、No2、31.1991 6.生物物理化学、Vol.38、31−36.1994 7.特許第4211463号 8.特許第4120011号 本願は、元々分離能の悪いアガロースゲル電気泳動法やセルロースアセテート膜電気泳動法ではなく、分子ふるい効果のあるPAGディスク電気泳動法によるALPアイソザイムの分析法の電気泳動後の泳動像の分析、判定法に関するものである。分子ふるい効果が期待できるPAGディスク電気泳動法によるALPアイソザイムの分析法であっても同じ部位に異なる複数のバンドが出現したら当然それらの相互判断はより難しいものとなる。 妊婦やある種の癌では耐熱性の胎盤型ALPが出現することがあり、その出現位置は肝臓型ALPと骨型ALPの中間または骨型ALPに重なることが知られている。従って胎盤型ALPの出現を見逃し骨型ALPと誤判定されることがある。PAGディスク電気泳動法によるALPアイソザイムの分析法ではこれら誤判定を防止するため、胎盤型ALPが熱に強いことを利用して、65℃、30分の加熱で、その他のALPアイソザイムが完全に失活し染色後のALP染色帯(バンド)が消え、胎盤型ALPのみが残ることにより確実に判断できることは良く知られている。胎盤型ALPがない場合でも、骨型ALPの活性値が高い患者の場合には、染色帯が肝臓型もしくは小腸型ALPと重なりそれぞれの鑑別が難しい。その上小児期の骨型ALPは成人の骨型ALPよりも活性値が高い上、移動度が少し速く肝臓型ALPに接近すると言われている。また時々骨型ALPと小腸型ALPの中間位に腎臓型ALPが現れることがあり、これらの判定はもっと難しい。そのため分離が良いと言われるPAGディスク電気泳動法によるALPアイソザイムの分析法でさえ、患者検体を2本に分けその一方を56℃、10分間の加熱処理し、未処理の検体と同時に電気泳動を行い、その差を専門の技師が目視により、それぞれのバンドを判定する方法が採られており、これにより胎盤型の存在を予め予測して、胎盤型ALPが疑われる場合さらに65℃、30分の加熱後に染色帯があるかどうかを調べ誤判定を回避している。 ALPアイソザイムは、アイソザイムの種類により熱失活性が異なることが知られており、56℃、10分間の加熱処理後の活性値は、未処理に較らべると下記のようになる。 胎盤型ALP … 92% 肝臓型ALP … 30% 小腸型ALP … 24% 骨型ALP … 8%この56℃、10分間の加熱処理を併用しその熱失活性から濃度図を目視により比較しALPアイソザイムの型を分析する手法は、以前より行われている。この分析法を併用してもやはり専門の検査技師の経験と熟練によらないと判定は難しい。さらに、技師の個人差も大きく結果の判定は混迷を極めていた。 本願は、56℃、10分間の加熱処理したものと未処理の泳動像またはその濃度図(デンシトグラム)を比較する際、単なる目視または濃度図上の比較ではなく、−定の数字による判定基準を設け、結果の判定が専門の熟練した検査技師でなくとも判断・判定できるようにした新しいALPアイソザイム判断方法を提供することを課題にした。 課題を解決する方法として、本願は、PAGディスク電気泳動法でALPアイソザイムの測定を行う際、同一被試験試料(検体)を異なる小試験管等の容器に2分割しその一方を56℃、10分間加熱し、加熱前後の検体をそれぞれ電気泳動しALP染色した電気泳動像を比較する分析法(参考文献4,5,6)を用い、その双方の泳動像をCCDカメラで撮影しそれぞれの濃淡を2次元の濃度波形にする参考文献7の「画像からの濃度定量法」において、参考文献8の相対移動度の技術をALPアイソザイムの分析に応用して相対移動度RMの数値でもってそれぞれのALPアイソザイムを判定しようとするものである。「画像からの濃度定量法」を使わなくても、普通の比色定量法による濃度計においても、相対移動度RM値を算出することができる測定機器であれば、本願が規定する相対移動度をRMの数値で表わし、それぞれのALPアイソザイムを数値で判定できることはいうまでもない。 参考文献8はリポ蛋白質の分析法であり、被試験試料(検体)の濃度図と健常者の濃度図を重ね合わせてその差異を検出するものである。本願発明は、PAGディスク電気泳動法でALPアイソザイムの測定を行う際、同一被試験試料(検体)について56℃、10分間加熱したものと加熱しないものの濃度波形を肝臓型ALPのピーク位置またはピークと判定した位置と濃縮ゲルの陰極側塗布点のピーク位置(高分子ALP2の位置)が一致するように重ね合わせした上、加熱前後でALPアイソザイムの熱失活性の差異を目視でも分かるようにした。この点、脂質健常者の濃度図(波形)を重ね合わせする引用文献8とは重ね合わせる目的も結果の解釈も完全に異なるものであることを付け加える。これにより同一検体の、56℃、10分間加熱処理した前後の濃度図を一枚の濃度図の中で見ることができその差もはっきり見分けることが可能になった。熱失活性の活用は、特に骨型ALPが他のALPより熱失活性が大きいので、熱処理前と熱処理後の濃度図を肝臓型ALPと高分子ALP2の位置を正確に合わせることにより、特に骨型ALPの位置を見つけやすくなりかつ骨型ALPのすく後方に出現する小腸型ALPも区別し易くなる。 次に、相対移動度RMについて述べる。相対移動度とは検体塗布点(原点)を0として最も早く移動する目的蛋白質の移動距離を1として、その中間に位置する色々な染色帯(バンド)を一定の数字で表す手法で昔から時々使われている。電気泳動法は支持体や緩衝液および使用する泳動槽や周囲の温度等により、移動する蛋白質の移動度が微妙に変わる。そのため泳動像やその濃度波形をそのまま比較しても各染色帯の差異を正確に捉えることは非常に難しい。その移動度を一定の基準で求め、それぞれの染色帯を数字で判定しようというものが相対移動度RMである。表現の違いや基準の取り方の違いでRmやRpもしくはRfなどと記載されることもある。その1例が引用文献8に示されリポ蛋白質の検体検査方法に使用されている。本願はそのRMの概念をALPアイソザイムの測定に応用した。本願発明は、肝臓型ALPのピーク位置またはピークと判定した位置を1としかつ陰極側の濃縮ゲルの試料塗布点部分(高分子ALP2)のピーク位置またはピークと判定した位置を0とし、その中間位置に出現する各ALPアイソザイムのバンドのピーク位置またはピークと判定した位置をそれぞれ相対移動度RMで表したとき、各ALPアイソザイムバンドの型すなわち由来臓器がほぼ確実に特定のRM値で判定できることを発見したことにより成された。 本願におけるRMの算出方法を図1に示す。図1はALPアイソザイム分析用PAGディスクゲルの模式図であり、相対移動度RMの算出法を次のように規定する。ALPアイソザイム分析用PAGディスクゲルは、図1の(1)に示す分離ゲルと(2)に示す濃縮ゲルの2層になっている。電気泳動後インジゴブルーでALP染色すると分離ゲル中や分離ゲルと濃縮ゲルの境界面等に、いろいろなALPアイソザイムバンドが出現する。陽極側(+)から肝臓型ALP A点(3)、骨型ALP B点(4)、小腸型ALP C点(5)、小腸型バリアントALP D点(6)、ビリアリー型ALP E点(7)、血液型依存性高分子小腸型ALP F点(8)、分離ゲルと濃縮ゲルの境界部分に出現するバンド高分子ALP1 G点(9)、濃縮ゲルの陰極側塗布点に出現するバンド高分子ALP2 H点(10)と命名する。そして肝臓型ALP(L)の出現位置(3)のA点を1とし、高分子ALP2の位置(10)のH点を0とした時、骨型ALP(B)B点(4)、小腸型ALP(I)C点(5)、小腸型バリアントALP(V)D点(6)、ビリアリー型ALP(BI)E点(7)はそれぞれ次のように相対移動度RMで表わすことができる。(AHとはAとH間の距離を表す。AH間の距離を1とするとHH間は0である。) 肝臓型ALP(L) RM(L)=AH/AH=1 骨型ALP (B) RM(B)=BH/AH 小腸型ALP (I) RM(I)=CH/AH 小腸型バリアントALP(V) RM(V)=DH/AH ビリアリー型ALP(BI) RM(BI)=EH/AH 高分子ALP2 RM(ALP2)=HH/AH=0なお、PAGディスク電気泳動法によるALPアイソザイムの分析では、血液型依存性高分子小腸型ALP、高分子ALP1、高分子ALP2についてもRMの表記は可能ではあるが、相対移動度RMを使用しなくても泳動像または濃度図を見ればゲルの界面や位置により簡単に識別できるので敢えてRMの表記をしなくてもよい。 本発明は、ヒトのALPアイソザイムの各バンドの判定を経験や熟練に頼らず数字で行うことが出来るかどうかを研究を続けた結果、56℃、10分間の加熱処理後の熱失活性の有無による骨型ALPの位置と相対移動度RM値の双方を組み合わせれば特定のRM値で各アイソザイムの判定ができることを発見したことにより成された。それは、RM=1を肝臓型ALPのピークとした場合、従来の技術である参考文献4,5,6において熟練した技術者が肝臓型、骨型、小腸型、小腸型バリアント、ビリアリー型ALP等と判定した多数の患者群をそれぞれRMにより分類整理した結果、RM=0.90±0.02の範囲に出現するピークまたはピークと判定した位置が骨型ALPであること、RM=0.80±0.02の範囲に出現するピークまたはピークと判定した位置が小腸型ALP、RM=0.66±0.08の範囲に出現するピークまたはピークと判定した位置が小腸型バリアントALP、RM=0.47±0.1の範囲に出現するピークまたはピークと判定した位置がビリアリー型ALPであることをそれぞれ確認した。RM値の表現は、各ALPアイソザイムの判定の時に使用するので、RM値を結果報告書や印刷時に表記してもしなくてもよい。 加熱前後の濃度図の重ね合わせは、骨型ALPの存在を認識する以外に肝臓型ALP、小腸型ALPのピーク位置またはピークと判定した位置の確認に非常に有効な手法であり、骨型ALP、小腸型ALPの位置の推定に役立つ。この濃度図を重ね合わせする方法をRMの判定に併用することでより正確な分析が出来ることを確認した。ALP活性が高い検体で泳動像の染色帯が重なった場合、当然濃度図の波形も重なる。このとき濃度図で染色帯のバンドのピーク位置特に骨型ALP位置のピークがどこにあるか分からないことがある。この場合、2つに分けた被試験試料の一方を56℃、10分間加熱し同時にPAGディスク電気泳動法を行った後、ALPアイソザイムを染色し得られた2種類の濃度分布波形いわゆる濃度図について、肝臓型ALPのピーク位置またはピークと判定した位置と塗布点位置高分子ALP2の位置とを一致するよう重ね合わせた上、肝臓型ALPに近接した陰極側の染色帯バンドについて、加熱前と後を同じ濃度図上で比較し、その差が波形の高さまたは分画%が80%以上減少しているRM=0.90±0.02の部分を骨型ALPと判定できることが分かった。但し56℃、10分間の加熱条件(加熱温度や過熱時間の差、使用する検体量の差、試験管の材質など)により減少する波形の高さまたは分画%の減少率は変わるので実施するときは一定条件下が望ましい。 また骨型ALP位置近辺に妊婦やある種の癌患者に胎盤型ALPが出現することがある。検査する前の被試験試料に胎盤型ALPの存在が、あらかじめ分かっていることは少ないため、何らかの方法で胎盤型ALPの存在を予測する必要がある。胎盤型ALPの確定診断には65℃、30分加熱後の試料にまだALP活性帯が残っているかどうかで行われている。全ての被試験試料に胎盤型ALPの存在を確認するのは時間と費用がかかるため実用的でない。本願ではこの胎盤型ALPの存在を56℃、10分間の加熱前後の電気泳動像と濃度図からその存在を推定予測することができる方法を見つけた。その方法は、56℃、10分間の加熱前後の濃度図を前述のように肝臓型ALPと高分子ALP2のピークが一致するよう重ね合わせ、骨型ALP位置において加熱前後の濃度図の差いわゆる波形の高さまたはALP分画の%が1%〜20%前後しか減少しないRM=0.95±0.02の部分を胎盤型ALPと推定することを見つけた。但し56℃10分間の加熱の条件によっては、波形の高さまたはALP分画の%の減少率は若干変わることがある。胎盤型ALPと推定した場合に限り更に65℃、30分間の加熱試験を実施しゲルに染色帯が認められれば胎盤型ALPの存在が確定する。この推定試験を併用することで、全ての被試験検体について胎盤型ALPの確認試験をする必要がなくなったのである。 胎盤型ALPの確認に使用する65℃、30分間の加熱については必ずしも65℃、30分間にこだわる必要はない。被検体試料にコラーゲンなどが存在する場合、65℃、30分間加熱すると血清が固まり泳動用検体とすることが出来ないので65℃、10〜15分間の加熱にとどめて試験する場合もある。 同一検体を56℃、10分間加熱したものとしないもののPAGディスク電気泳動法で得られた電気泳動像をCCDカメラで同時に撮影することは既に述べた(段落0014)。電気泳動の報告書ではしばしば電気泳動像の写真とその濃度図を並べて貼り付けて報告書とすることがある。一般的に、PAGによるALPアイソザイムの測定用ゲルは試験管内に酢酸等の固定液と一緒に浮かべて保存されている。電気泳動像の写真を撮る前に試験管内に浮かんでいる加熱前後の染色済の2本のゲルの肝臓型ALP位置を正確に一致させて撮影することは非常に難しい。 本願では、アイソザイムの型を相対移動度RMで判定を行うため、56℃、10分間加熱したものとしないものの電気泳動像2種類の泳動画像を一緒に写真に撮るが、肝臓型ALP位置がずれていると判定がし難いので、撮影後の画像を2つの画像に切り離し保存した上、どちらか一方の泳動像の画像を上下移動させて、肝臓型ALPの染色帯が一致するよう並べて同一画面あるいは印刷物としてカラーで表示することができた。同時に濃度図(波形)についても加熱前後の肝臓型ALPのピーク位置またはピークと判定した位置および高分子ALP2のピーク位置の双方とも一致させることで判定を分かりやすくした。濃度図はどこからどこまでを波形とするのかの選択、それぞれの波形を別個に拡大または縮小出来るなどの選択も出来るようにした。 現在、腎臓型ALPが存在するかしないかなどは定かではないが、骨型ALPの僅か陰極側、小腸型ALPとの中間に出現すると言われている。腎臓型ALPは骨型ALPより56℃、10分間の加熱に強く、加熱前後の濃度図を重ねてみれば、骨型ALP位置に少し活性帯が残っている。 その他、胎盤型ALPアイソザイムの有無の推定には、56℃、10分間の加熱前後のALP総活性値(定量値、生化学分析装置による測定)の比較においても、その失活率が40%を下回る(失活率が低い)場合にも胎盤型の存在を予測することもできる。 血液型依存性高分子小腸型ALPは、血液型がB型とO型の人の血液中に度々検出され、分離ゲルと濃縮ゲルの境界面(高分子ALP1)より若干陽極側に出現する。普通小腸型ALPの出現と連動して出現することが多いのでこれを見間違うことは殆どない。従ってRM値で判定しなければならないことはない。小腸型ALPが出現しているから、血液型依存性高分子小腸型ALPも必ず出現すると言うことはない。逆に血液型依存性高分子小腸型ALPが出現している場合は、小腸型ALPが必ず出現する。同様に高分子ALP1と高分子ALP2も、ゲルの境界面である関係上RM値で判定しなければならないことはない。 ALPアイソザイムの分析法において、電気泳動後の各アイソザイムの判定は熟練と経験を要した。今までの分析法では、分離不能や誤判定が数多く見られたり分離不能の表記がなされ問題となっていた。ヒトALPアイソザイムをPAGディスク電気泳動法を用いて分離分析するとき、56℃、10分間の加熱前後の泳動像を比較する分析法を用いて、その濃度図を作成する段階で、肝臓型ALPの染色帯のピーク位置またはピークと判定した位置と検体塗布点のピーク位置(高分子ALP2の位置)が一致するよう重ね合わせた上、各アイソザイムを相対移動度RMを使用し判定を数字で行うことができるようになった。特に加熱前後の濃度図を重ね合わせることで、骨型ALPは易熱性が他のアイソザイムより多いことが典型的で、骨型ALPの位置を明確に認識することができた。以上によりこれまでは専門の医師や技師でも難しいと言われてきた結果の判定が、誰でも間違いなく簡単に相対移動度RMという一定の基準で行えるようになった。これにより分離不能の表現も誤判定もなくなり、診断に有意義な情報を提供できるようになった。結果的に検査の信頼性が高まり、さらに一定の判断基準の適用により検査技師個人の主観・熟練度などに頼らないため、大幅なコストダウンが達成できるようになった。 図2は、本願による分析実施例である。上半分が加熱前後の電気泳動像を肝臓型ALPが一致するよう並べて印刷した図である。未処理と書かれた(11)の部分が加熱前の泳動像である。56℃、10分間加熱処理した泳動像(12)は、その右側に示した。下段右側の波形の大きいほう(13)が加熱前の被験試料のALPアイソザイムの濃度図で、実線で示した濃度図が加熱後のALPアイソザイムの濃度図(14)である。 図中1、2、3、4、5、6、7、8の記号は各ALPアイソザイムの判定分画名に対応し、下段左側分画名(15)に対応する。アイソザイムの分析・判定結果は表で示され、分画名(15)の右側にその分画%(16)と分画活性値(17)、相対移動度RM(18)がそれぞれ表記されている。電気泳動ではALP活性値は測れないが、別途生化学の自動分析装置等で測定した活性値を記入し、分画%値(16)に掛け合わせることで各々のアイソザイムの分画活性値(17)を求めることができる。図2は小腸型ALPが存在しない場合の例である。なお相対移動度RMの表記(18)は、アイソザイムの判定のために使用するので、印刷してもしなくても良い。加熱前後の泳動像(11)(12)の写真から、加熱後の泳動像(12)の試験管底が若干上がっており、これは肝臓型ALP位置が一致するよう56℃、10分加熱処理した試験管(12)の画像を印刷の直前に移動し位置を合わせた結果である。図2の加熱前の波形(13)、加熱後の波形(14)のRM=0.90の位置に出現したバンドを骨型ALPと判定したが、その減少率は88.7%であり易熱性の骨型ALPの特徴を良く捉えている。その他いくつかの症例を検討した結果、骨型ALPのRM=0.90±0.02の位置に出現したバンドの減少率は概ね80%を超えていた。RM値に±を付けたのは電気泳動の泳動条件やPAGディスクゲルのロット差や品質の差によりそれぞれのアイソザイムの移動度が変化した場合のことを考慮したものである。参考文献7の濃度計においては、各波形の任意の位置の高さ(吸光度)は知りたい部分にカーソルを合わせるとその数値が表示できるよう構成されていることから、2つのピークの減少率は簡単に計算することができる。 図3に胎盤型ALPが出現した濃度図の例を示す。泳動像の写真は省略した。図3右の濃度図内の1、2、3、4、5、6、7、8、9、10の記号は各ALPアイソザイムを示しそれは分画名(15)にそれぞれ対応する。明らかに図3の加熱前の波形(13)、加熱後の波形(14)のRMについて0.95±0.02の範囲に入っていることがわかる。また加熱前の波形のピークまたはピークと判定した位置と加熱後の波形のピークまたはピークと判定した位置について高さ(吸光度)を比較するとその減少率は11.8%であった。明らかに妊婦と分かっている症例ではRM0.95±0.02でのピークまたはピーク様バンドの減少率は1.85%と殆ど失活しない例もあることから、胎盤型ALPの減少率は1〜20%と規定した。この減少率はこの位置に重なっている骨型ALPの量により多少変動する。 図4は小腸型バリアントALP、ビリアリー型ALPが出現した例である。図4の波形中の1、2、3、4、5、6、7、8の記号は分画名(15)のアイソザイムの分画名にそれぞれ対応する。骨型ALPのRM値は0.9を示し、小腸型ALPのRM値は0.8を示し、小腸型バリアントALPのRMは0.61を示した。ビリアリー型ALPのRMは0.52であった。 実施例1、実施例2及び実施例3で示したようにRMの範囲は泳動条件で変わることを考慮しかつ多くの症例から骨型ALPをRM=0.90±0.02の範囲に出現するピークまたはピークと判定した位置とし、小腸型ALPをRM=0.80±0.02の範囲に出現するピークまたはピークと判定した位置、小腸型バリアントALPをRM=0.66±0.08の範囲に出現するピークまたはピークと判定した位置、ビリアリー型ALPをRM=0.47±0.1の範囲に出現するピークまたはピークと判定した位置とそれぞれ断定した。小腸型バリアントALPとビリアリー型ALPのRM値は他のアイソザイムよりやや広い範囲になった。 模式図 分析実施例 胎盤型ALP出現例 小腸型バリアントALP、ビリアリー型ALPが出現した例 (1) 分離ゲル(2) 濃縮ゲル(3) 肝臓型ALP A点(4) 骨型ALP B点(5) 小腸型ALP C点(6) 小腸型バリアントALP D点(7) ビリアリー型ALP E点(8) 血液型依存性高分子小腸型ALP F点(9) 高分子ALP1 G点(10) 高分子ALP2 H点(11) 加熱前の泳動像(12) 56℃、10分間加熱処理後の泳動像(13) 加熱前試料のALPアイソザイムの濃度図(14) 加熱後試料のALPアイソザイムの濃度図(15) 分画名(16) 分画%(17) 分画活性値(18) 相対移動度RM 分離ゲルと濃縮ゲルの2層を有するポリアクリルアミドゲルディスク電気泳動法でヒトのアルカリ性ホスファターゼ(ALP)のアイソザイムを分析するとき、同一検体を容器に2分割しその一方を56℃、10分間加熱し、加熱前後の検体をそれぞれ電気泳動しALP染色した電気泳動像を比色計またはCCDカメラで撮影しそれぞれ波形化した濃度図を分析する方法において、肝臓型ALPの染色帯のピーク位置またはピークと判定した位置を1としかつ検体塗布点位置である濃縮ゲルの陰極側すなわち高分子ALP2の位置を0とし、それらの中間位置に出現する各ALPアイソザイムの染色帯をそれぞれ相対移動度RMで表し、RM=1を肝臓型ALP、RM=0.90±0.02を骨型ALP、RM=0.80±0.02を小腸型ALP、RM=0.66±0.08を小腸型バリアントALP、RM=0.47±0.1をビリアリー型ALPとそれぞれのALPアイソザイムの染色帯位置をRM値で表しアイソザイムを特定し判定することを特徴とするアルカリ性ホスファターゼアイソザイムの検体検査方法。 ポリアクリルアミドゲルディスク電気泳動法でヒトのALPのアイソザイムの56℃、10分間の加熱前後の濃度図を分析する方法において、得られた2種類の濃度図波形について、肝臓型ALPのピーク位置またはピークと判定した位置と塗布点である高分子ALP2の位置とをそれぞれ一致するよう重ね合わせて表示し、加熱前後における各ALPアイソザイムの減少の程度が濃度図波形上に明瞭に分かるよう配置した上で、1つの画面または印刷画像にすることを特徴とする請求項1のアルカリ性ホスファターゼアイソザイムの検体検査方法。 ポリアクリルアミドゲルディスク電気泳動法でヒトのALPのアイソザイムの56℃、10分間の加熱前後の濃度図を比較分析する方法において、肝臓型ALPに近接する陰極側の染色帯について、加熱前と後を比較しその差をとるときピークの高さまたは分画%が80%以上消失したRM=0.90±0.02の部分を骨型ALPと判定することを特徴とする請求項1、請求項2のアルカリ性ホスファターゼアイソザイムの検体検査方法。 ポリアクリルアミドゲルディスク電気泳動法でヒトのALPのアイソザイムの56℃、10分間の加熱前後の濃度図を比較分析する方法において、肝臓型ALPに近接する陰極側の染色帯について、加熱前と後を比較しその差をとるときピークの高さまたはピークと判定した位置における分画%の差が1%〜20%しか減少しないRM=0.95±0.02の部分を胎盤型ALPと判定することを特徴とする請求項1、請求項2、請求項3のアルカリ性ホスファターゼアイソザイムの検体検査方法。 【課題】ポリアクリルアミドゲルディスク電気泳動法によりアルカリ性ホスファターゼアイソザイムを測定する測定法に出現する各アイソザイムのバンドの判定を行う。【解決手段】56℃、10分間の加熱処理前後の濃度図について、肝臓型ALPと塗布点(原点、高分子ALP2)の各ピーク位置またはピークと判定した位置が一致するよう重ね合わせて表示または表記し、肝臓型ALPの染色帯のピーク位置またはピークと判定した位置と塗布点(高分子ALP2)のピーク位置をそれぞれ1と0としその中間位に出現するALPアイソザイムの染色帯を相対移動度RM値で表すとき、RM=0.90±0.02を骨型ALP、RM=0.80±0.02を小腸型ALP、RM=0.66±0.08を小腸型バリアントALP、RM=0.47±0.1をビリアリー型ALPとそれぞれの染色帯をRM値で特定し判定するアルカリ性ホスファターゼアイソザイムの検体検査方法。【選択図】図2