タイトル: | 公開特許公報(A)_乳房炎治療剤 |
出願番号: | 2009121318 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | A61K 38/00,A61K 47/44,A61K 47/36,A61K 47/34,A61K 47/14,A61K 9/107,A61P 31/04 |
河田 恵美 北崎 宏平 高巣 祐介 福田 浩章 竹花 稔彦 鎌倉 民次 山本 五郎 古賀 康弘 馬場 武志 永利 浩平 古賀 祥子 島田 信也 農 新介 林 いずみ 前田 幸子 林 龍鶴 大熊 浩 川崎 貞道 清水 隆 桑野 剛一 米山 史紀 善藤 威史 中山 二郎 園元 謙二 JP 2010270016 公開特許公報(A) 20101202 2009121318 20090519 乳房炎治療剤 ADEKAクリーンエイド株式会社 593085808 福岡県 591065549 オーム乳業株式会社 593131611 熊本製粉株式会社 000164689 学校法人 久留米大学 599045903 国立大学法人九州大学 504145342 小野 新次郎 100140109 社本 一夫 100089705 小林 泰 100075270 千葉 昭男 100080137 富田 博行 100096013 野▲崎▼ 久子 100113309 河田 恵美 北崎 宏平 高巣 祐介 福田 浩章 竹花 稔彦 鎌倉 民次 山本 五郎 古賀 康弘 馬場 武志 永利 浩平 古賀 祥子 島田 信也 農 新介 林 いずみ 前田 幸子 林 龍鶴 大熊 浩 川崎 貞道 清水 隆 桑野 剛一 米山 史紀 善藤 威史 中山 二郎 園元 謙二 A61K 38/00 20060101AFI20101105BHJP A61K 47/44 20060101ALI20101105BHJP A61K 47/36 20060101ALI20101105BHJP A61K 47/34 20060101ALI20101105BHJP A61K 47/14 20060101ALI20101105BHJP A61K 9/107 20060101ALI20101105BHJP A61P 31/04 20060101ALI20101105BHJP JPA61K37/02A61K47/44A61K47/36A61K47/34A61K47/14A61K9/107A61P31/04 171 7 OL 20 特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 日本農芸化学会発行、日本農芸化学会2009年度(平成21年度)大会講演要旨集、平成21年3月5日発行 平成21年3月29日開催、社団法人 日本農芸化学会主催、平成21年度日本農芸化学会大会[福岡]において発表 (出願人による申告)「平成20年度、農林水産省、新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願」 4C076 4C084 4C076AA17 4C076BB31 4C076BB37 4C076CC32 4C076DD08F 4C076DD08Q 4C076DD09F 4C076DD09Q 4C076DD46F 4C076DD46Q 4C076EE23F 4C076EE23Q 4C076EE52A 4C076EE52E 4C076FF12 4C076FF16 4C076FF43 4C076FF63 4C076FF67 4C076GG06 4C076GG09 4C076GG12 4C076GG45 4C084AA02 4C084BA01 4C084BA19 4C084BA23 4C084CA04 4C084DA42 4C084MA05 4C084MA23 4C084MA63 4C084NA03 4C084NA05 4C084NA06 4C084NA11 4C084ZC622 本発明は、ウシの乳房炎の治療用剤に関するものである。本発明の治療剤は、ナイシンを有効成分とする。 ウシの乳房炎は酪農経営の収益性を左右する重大な疾病である。乳房炎のための処置は、健常な状態にあるウシに対して、原因菌を除去したり、また感染や流行のリスクを低減するために行う予防的処置と、発症したウシに対して行う治療的処置とに大別され、異なる手段による対処が検討されている。 治療に関しては、原因菌に対して有効な成分を含む剤を用い、主な投与経路は、乳房への注入である。例えば、特許文献1には、キチン質を有効成分とする乳房炎治療剤が記載されている。また、特許文献2には、ヒノキ科植物を含有することを特徴とする動物の乳房炎治療剤が記載されている。特許文献3には、家畜の乳房炎の治療剤として化学療法剤とキチン質を併用し、キチン質を乳房内に投与することを特徴とする乳房炎の治療方法が記載されている。特許文献4には、特定の方法により生産されたガセリシンAを有効成分とする抗菌剤であって、黄色ブドウ球菌を起因菌とする乳房炎の治療に適用可能な剤が記載されている。また、特許文献5には、セファゾリン等の主剤と、中鎖脂肪酸モノグリセライドと、油性基剤とを含有することからなる基剤から主剤の溶出性を高めた乳房炎用注入剤が記載されている。特許文献6は、微生物病原体の毒性を減弱させるため、およびバイオフィルム形成を阻害するための環状ジヌクレオチドにより、乳腺のスタフィロコッカス・アウレウス感染症である乳房炎が処置できることが記載されており、処置する際に有効な抗生物質を投与することが記載されている。 乳房炎治療のための注入剤として、抗生物質を有効成分とするものが実用化されているが、抗生物質による治療に際しては1週間程度の休薬期間(出荷停止期間)が必要とされる。 一方、ナイシンは、乳酸菌が産生するバクテリオシンであり、不飽和アミノ酸、ランチオニン等の異常アミノ酸を含む、34個アミノ酸残基からなる抗菌性ペプチドである。ナイシンは食品に配合されるほか、医療・衛生分野において、効果的な形態での利用が検討されてきた。 このナイシンを乳房炎の処置に用いることに関しては、幾つかの報告がある。例えば、特許文献7には、ランチオニン含有抗菌ペプチド又は医薬として許容されるその酸付加塩を含む、哺乳類における乳房炎の治療又は防止のための医薬組成物が記載されている。また、乳房炎の原因となる5種類の菌に対するインビトロでのナイシンの抗菌効果に関する報告(非特許文献1)、及び単回投与量2,5000,000IUのナイシンZを生理食塩水に溶解し、乳房内注入することにより、ゲンタマイシンを用いた場合に近い治療率が得られたとの報告(非特許文献2)がある。特開平6−9409号公報特開平7−109227号公報特開2001−39877号公報特開2005−80636号公報WO2006/077856号公報特表2007−500697号公報特表平9−512711号公報J. Dairy Sci. 72, 3342-3345(1989)J. Dairy Sci. 90, 3980-3985(2007) ウシの乳房炎の抗生物質を用いた治療には、抗生物質の牛乳中への混入という食品安全上の問題、耐性菌の出現による環境汚染の問題、及び耐性菌による慢性乳房炎への移行の問題がある。抗生物質による処置は、乳房炎羅患率に対して実際の治療率が低いともいわれる。 また、従来の乳房炎注入剤の多くは、主剤を単に油性基材に混濁させたものが一般的であり、主剤の拡散・分散性が低く治療効果が不十分である一因と考えられる。上述のナイシンを有効成分とする治療の試みにおいても、製剤としての安定性や乳房内での薬剤送達の観点からの検討は一切なされていない。 本発明者らは、耐性菌出現等の環境負荷が少なく、より安全であり、かつ治療効果の高い乳房炎の治療方法として、食品添加物としても許容可能なナイシンを有効成分とする乳房炎治療剤について、鋭意検討を重ねてきた。本発明者らは、乳房炎治療剤を開発するに際し、治療剤としてのナイシンの有効濃度を解明した上で、製剤化に際しては溶出促進成分(水溶性バインダー成分)を配合し、かつ適切な界面活性剤を選択することにより、油性基材からの主剤の拡散・分散性を向上させることも検討した。その結果、本発明を完成した。 本発明は、以下を提供する。1)ナイシン、油性基剤、及び食品として許容可能な界面活性剤を含む、乳房炎治療用注入剤。2)粉体ナイシンを油性基剤中に分散させた形態である、1)に記載の剤。3)界面活性剤のHLBが10〜17(好ましくは12〜16、より好ましくは14〜16である、2)に記載の剤。4)ナイシンが水溶性バインダー(好ましくはデキストリン)を用いて粉体化されており; 水溶性バインダー/ナイシンの重量比が、0.10/100〜50/100(好ましくは0.50/100〜25/100、より好ましくは1.0/100〜6.0/100)であり; 界面活性剤の含量が、0.10〜10.0%(好ましくは0.25〜4.0%、より好ましくは0.50〜2.0%)であり; ナイシン粉体の含量が、1.0〜40%(好ましくは2.5〜30%、より好ましくは5〜25%)である、3)に記載の剤。5)1日分として、ナイシンを50万IU以上(好ましくは100万〜2000 万IU、より好ましくは200万〜1000万 kIU)投与するための、1)〜4)のいずれか一に記載の剤。6)1)〜5)のいずれか一に記載の剤を、対象(ヒトを除く)に投与する工程を含む、乳房炎の治療方法。7)対象が、乳房炎の牛であり、1日1〜数回の投与を連続又は非連続した2〜7日間に反復投与する、6)に記載の治療方法。図1−1は、ナイシン造粒品及びコントロール(無造粒)の、粒度分布を示したグラフ及び写真である。図1−2は、ナイシン造粒品の吸湿性を示したグラフ及び写真である。図1−3は、ナイシン造粒品の油性基剤への分散性を示した写真である。図1−4は、ナイシン造粒品の保存試験結果を示したグラフである。図2は、本発明品の製剤特性(牛乳親和性試験結果)を示した写真である。Aは、KPラック−5G(フォート ダッジ株式会社製)、B:S.P.乳軟シリンジL「ミタカ」(三鷹製薬株式会社製)、試作品:実施例で調製した粉末品(フリーズドライ品)図3−1は、本発明品の治療効果(潜在性乳房炎 250IU注入)を、乳汁中の細菌数で示したグラフである。図3−2は、本発明品の治療効果(潜在性・250万IU注入)を、乳汁中の体細胞数で示したグラフである。図3−3は、本発明品の乳房内注入後(潜在性・250万IU注入)の抗菌活性残留を示したグラフである。図3−4は、本発明品の治療効果(潜在性・750万IU注入)を、細菌数で示したグラフである。図3−5は、本発明品の治療効果(潜在性・750万IU注入)を、体細胞数で示したグラフである図3−3は、本発明品の乳房内注入後(潜在性・750万IU注入)の抗菌活性残留を示したグラフである。図3−7は、本発明品の治療効果(臨床型・750万IU注入)を、細菌数で示したグラフである。図3−8は、本発明品の治療効果(臨床型・750万U注入)を、体細胞数で示したグラフである。 本発明の乳房炎治療用注入剤は、ナイシンを含む。 本発明で「ナイシン」というときは、特に示した場合を除き、ナイシンA、ナイシンZ、ナイシンQを含む。本発明の組成物には、好ましくはナイシンA又はZ、より好ましくはナイシンAを用いる。 ナイシンAは乳酸菌Lactococcus lactisにより産生され、欧米など50カ国以上ですでに食品添加物として認可使用されている。ナイシンZは、ナイシンAに類似のバクテリオシンで、ナイシンAを構成する34個のアミノ酸残基のうち、N 末端から27番目が、ナイシンAがヒスチジン残基であるのに対し、ナイシンZがアスパラギン残基である点でのみ異なる。 なお、本明細書ではナイシンのうち、特にナイシンAを例に説明することがあるが、特に示した場合を除き、その説明は他のナイシンにも当てはまる。 本明細書において治療剤に添加する種々の添加剤に関して「食品として許容可能」というときは、特に示した場合を除き、その添加剤を経口的に摂取した場合の安全性が明らかになっており、一定量を経口的に摂取することには問題がないと考えられる場合を指す。食品として許容可能な添加剤には、経口医薬において許容可能な成分、口唇又は口腔内への使用が認められている成分及び、食品衛生法施行規則別表第1に収載の添加物(指定添加物)、既存添加物名簿に収載の添加物(既存添加物)、一般に食品として飲食に供されている物であって添加物として使用される物(一般食品添加物)が含まれる。 本発明の剤は、好ましくは、液状〜半固形状の基剤中に微細な固体の有効成分を分散させた、軟膏剤やサスペンジョン剤(懸濁剤)の形態である。このような剤形を構成するためには、ナイシンは、粉体化(固体化、乾燥化)することが必要である。本発明の剤に用いることができる粉体ナイシンは、粉末状でもよく、造粒されていてもよい。造粒されたナイシンは、製剤調製時の作業性に優れ、また基剤中での分散性も優れていると考えられる点で、好ましい。 ナイシンを粉末に、又は造粒するためには、同様の目的で使用される医薬又は食品分野における、既存の種々の手段を用いることができる。例えば、スプレードライ(噴霧乾燥)法、フリーズドライ(凍結乾燥)法がある。粉体化のための工程は、特に限定されないが、スプレードライ法によると、油性基剤中への分散性が良好な造粒品を得ることができる。造粒は、噴霧乾燥工程を繰り返すことにより実施することができるが、繰り返しの加熱処理がナイシンの抗菌活性を低める場合がある。ナイシンの抗菌活性を一定以上とするためには、噴霧乾燥に供するナイシン精製液の予めの濃縮が効果的である。フリーズドライ法によると、粒径が不均一になったり、ダマ(吸湿して塊状になったもの)になることがあり、基剤に均一に分散させることが困難な場合があるが、無菌的に行うことが容易であるという利点がある。均一に分散させるためには、ホモジナイズ等の均質化処理が効果的な場合もある。 ナイシン粉体のサイズとしては、基剤中で分散している状態では粒径が小さいほうが、油性基剤中での分散安定性が向上すると考えられ、そのため保存時に分離し、沈殿を形成することが少なく、良好であると考えられる。また、投与時の対象中での有効成分の即時放出性も向上すると推測される。 基剤に分散する前の粉体ナイシンのサイズは、主として作業性の観点から、粒径がある程度大きいことが好ましい場合がある。製造する粉体ナイシンの粒径は、油性基剤中での分散安定性及び臨床での放出性が良好で有れば、特に制限はないが、例えば、個数で70%、好ましくは80%、より好ましくは90%以上の粉体が、粒径20〜100μmの範囲に分布しているのであれば、本発明の剤に用いることに特に問題はない。 ナイシン粉体化の際には、バインダー(結合剤)を用いることが好ましい。ナイシンは、バインダーを使用しなくても粉体化は可能であるが、吸湿性が高く、空気中の水分により飴状になって扱いが困難となるからである。なお、ナイシンの市販品(食品添加物)の成分規格は,無脂肪乳培地又は糖培地由来の成分を含む、抗菌性ポリペプチドと塩化ナトリウムの混合物である。塩化ナトリウムを50%以上含む。この製法は、発酵液を濃縮し、塩化ナトリウムを添加し、得られた塩析沈殿を噴霧乾燥することによる。 剤からのナイシンの放出を容易にするとの観点からは、水溶性のバインダーを用いて造粒することが好ましい。 バインダーの例として、食品として許容可能な、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、脱脂粉乳、ホエーパウダー、アラビアゴム、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドンが挙げられる。易水溶性であるが吸湿性が低いものを用いることが好ましい。このような観点からは、特に好ましいバインダーの例は、デキストリンである。 バインダーの添加量は、当業者であれば適宜決定することができるが、ナイシン溶液に対して、0.1〜10%(重量/重量)、好ましくは0.5〜7%(重量/重量)、より好ましくは1〜5%(重量/重量)とすることができる。 バインダーの添加量はまた、水溶性バインダー/ナイシンの重量比として、0.10/100〜50/100、好ましくは0.50/100〜25/100、より好ましくは1.0/100〜6.0/100とすることができる。いずれの場合においても、製造時の作業性や歩留まりを確保する観点からは、バインダーの使用量を3.0/100以上とすることが好ましく、また、製剤中でのナイシン活性値を高く設計しようとする場合には、3.0/100未満に、例えば1.6/100に減じることができる。 本発明の剤の全重量に対するナイシン粉体の含量は、1.0〜40%、好ましくは2.5〜30%、より好ましくは5〜25%とすることができる。なお、本発明で剤に含まれる成分に関し、含量や比をいうときは、特に示した場合を除き、重量に基づく値である。 本発明の剤は、1日分として、ナイシンを50万IU以上、好ましくは100万〜2000 万IU、より好ましくは200万〜1000万 IU投与するためものとすることができる。これ以下では一日当たり1〜数回の投与での臨床上の効果が認められがたい。本発明者らの検討によると、ナイシン含量を高めた方が治療効果が高い傾向であった。なお、本発明で1日分というときは、特別な場合を除き、1分房に投与する1日分を指す。1頭の牛の複数の分房それぞれに必要な1日分の投与が施されることもある。 1日分は、1回〜数回(例えば3回)に分けて投与することができる。1回分は、1剤(例えば、シリンジ1本)とすることもでき、複数の剤とすることもできる。1回は、1剤であることが望ましい。 ナイシンの量又は活性は、標準品を基準として、HPLCの面積比により、活性値(IU)又は重量で表すことができる。例えば、食品中の食品添加物分析法(厚生労働省)に記載されているように、日本公定書協会から頒布されるナイシン標準品を用い、HPLCのピーク面積の比較か、最小阻止円濃度検定法によって測定することができる。ナイシンの力価1単位は、ナシインAを含む抗菌性ポリペプチド0.025μgに対応する。本明細書の実施例では、オーム乳業株式会社製のナイシンAを用いているが、このナイシン精製品(水溶液)の活性は50〜100 kIU/mLである。 本発明の剤は、油性基剤をベースとする。本発明に用いることのできる油性基剤は、常温で液状の油であっても常温で固体の脂であってもよく、食品として許容可能なものであることが好ましい。本発明の剤において油性基剤として用いることのできる例としては、植物性の油脂食品、例えば、オリーブ油、大豆油、菜種油、ひまわり油、パーム油、やし油、コーン油、落花生油、ごま油、ヒマシ油、椿油;動物性の油脂食品、例えば、豚脂(ラード)、牛脂(ヘット)、ラノリン;植物加工油脂;食用硬化油;ミツロウ;ワセリン、流動パラフィン;及びこれらの混合物がある。特に好ましい例として、ワセリン又は流動パラフィン、ミツロウ、及び植物油(例えば、オリーブ油、落花生油、椿油)の混合物を挙げることができる。 本発明の剤において、ベースである油性基剤の量は、当業者であれば、剤中に含まれるべき他のすべての成分濃度を勘案して決定することができるが、通常、剤全重量に対して99〜50%、好ましくは97〜60%、より好ましくは95〜75%を占めることとなる。 本発明の剤は、食品として許容可能な界面活性剤を含む。界面活性剤は、基剤中でのナイシンの分散性を安定化させる作用があり、また、油性基剤からのナイシンの溶出性を高めることができる。界面活性剤は、その作用から、分散剤、乳化剤、懸濁化剤と称されることもある。 本発明に用いることのできる界面活性剤は、ナイシンの殺菌効力を低下させないものがよい。また、医療又は食品衛生上許容されるものが好ましく、この例として、食品添加物として許可されている界面活性剤を挙げることができる。食品添加物として許容される界面活性剤の例は、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリンエステル(ジグリセリンモノカプレート、ジグリセリンモノラウレート、ジグリセリンモノステアレート、ジグリセリンモノオレート、トリグリセリンモノラウレート、デカグリセリンモノラウレート、デカグリセリンモノステアレート、ヘキサグリセリン縮合リシノレート)、有機酸モノグリセライド(酢酸モノグリセライド、クエン酸モノグリセライド、クエン酸モノグリセライド、ジアセチル酒石酸モノグリセライド、コハク酸モノグリセライド)、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン(レシチン、酵素分解レシチン)、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ベヘニン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステルショ糖混合脂肪酸(オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸)エステルである。 本発明の剤には、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ソルビタン脂肪酸エステル(例えば、ソルビタントリオレイン酸エステル(スパン)等、)、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリソルベート類(ソルビタン脂肪酸エステルにエチレンオキシドが約20分子縮合したもの、ポリソルベート20、ポリソルベート60、ポリソルベート65、ポリソルベート80)を特に好適に用いることができる。ナイシンの活性及び安定性を低減させず、またナイシンが安定である酸性域において安定であるとの観点からは、特に好ましい界面活性剤の例は、ポリソルベート類である。 本発明者らの検討によると、ナイシンを含む、乳房炎治療のための剤をW/O型エマルジョンとして構成すると、エマルジョンを安定化させるという観点からは界面活性剤として、HLB(Hydrophlic Lipophilic Balance)値が比較的低いもの、好ましくは3〜6の範囲にあるものがよく、特に好ましい界面活性剤の例は、ソルビタンモノオレエートであった。しかしながら、粉体を分散した形態とする場合には、HLBの低い界面活性剤を用いるとナイシン粉体の分散性が低下することが分かった。したがって、粉体を分散した形態である本発明の剤に用いるのに特に適した界面活性剤のHLBは、10〜17、好ましくは12〜16、より好ましくは14〜16である。好適なHLB値を有し、かつ食品添加物に指定されている安全性の高い界面活性剤の例としては、親水性が強く、O/W型の乳化剤であるポリソルベート類を挙げることができる。なお、ポリソルベート20のHLB値は16.7、ポリソルベート60のHLB値は14.9、ポリソルベート65のHLB値は10.5、ポリソルベート80のHLB値は15.0である。 界面活性剤の含量は、剤全重量に対し、0.10〜10.0%、好ましくは0.25〜4.0%、より好ましくは0.50〜2.0%である。 本発明の剤は、乳頭口から乳房に注入するのに適した剤形である。注入が容易となるように、注入用シリンジに充填した形態とすることができる。またそのような注入剤を調製するためのキットの形態とすることもできる。1回の投与に適した量は、当業者であれば適宜設計できるが、牛の場合、0.10〜500 g、好ましくは1.0 g〜50 g、より好ましくは2.0 g〜8.0 gとすることができる。 本発明の剤は、投与回数について、特に制限はなく、1日だけ投与することができ、また連続又は非連続した2〜7日間に、反復して投与してもよい。 本発明の剤には、食品として許容可能な、又は医薬又は動物医薬として許容可能な、他の成分を含んでもよい。例えば、酸化防止剤、着色料、保存料等である。ナイシン安定化のためには、メチオニン及び/又はチオクト酸を含むことが好ましい。 本発明の剤は、乳房炎の治療のために用いることができる。本発明で「乳房炎」というときは、特に示した場合を除き、哺乳動物(特に、牛)における細菌感染が原因の乳腺組織の炎症をいう。乳房炎は、乳房や乳汁の外見に異常が認められないが、乳腺に炎症が発生している潜在性乳房炎と、外見上の異常が肉眼的に確認できる臨床型乳房炎とに大別される。臨床型乳房炎は乳牛の全疾患の20%以上を占め、潜在性乳房炎はさらに多くの乳牛が罹患しているといわれている。 乳房炎の原因となる細菌の例としては、以下のものがある:(1) Staphylococcus属細菌(ブドウ球菌):Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)、CNS(Coagulase Negative Staphylococus、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌);(2) Streptococcus属細菌(レンサ球菌):Streptococcus agalactiae(無乳性レンサ球菌)、Streptococcus dysgalactie(減乳性レンサ球菌)、Streptococcus uberis、Streptococcus bovis;(3) Escherichia coli(大腸菌);(4) Klebsiella(クレブシエラ)属細菌;(5) Pseudomonas(シュードモナス)属細菌:Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌);(6) Micrococcus(ミクロコッカス)属細菌;(7) Corynebacterium(コリネバクテリウム)属細菌:Corynebacterium bovis、Corynebacterium pyogenes なお、ブドウ球菌、Streptococcus属細菌(レンサ球菌、streptococci)、Micrococcus(ミクロコッカス)属細菌、Corynebacterium(コリネバクテリウム)属細菌はグラム陽性であり、Escherichia coli(大腸菌)、Klebsiella(クレブシエラ)属細菌、Pseudomonas(シュードモナス)属細菌はグラム陰性である。 黄色ブドウ球菌は、乳房炎の原因菌のなかでも特に難治性の乳房炎を引き起こしやすく、最も重視すべき原因細菌の一つである。また、CNSは黄色ブドウ球菌ほど強い伝染性はないが、牛体表などの常在菌のため日和見感染等により乳房炎を発症させることが多く、重視すべき菌である。CNSには、Staphylococcus intermedius、Staphylococcus hyicus、Staphylococcus xylosus、Staphylococcus epidermidis(表皮ブドウ球菌)等が含まれる。 乳腺に炎症が起こると、乳汁の水素イオン濃度(pH)や塩素量などが変化するほか、牛乳中のライソゾーム酵素であるN-acetyl β-D-glucosaminidase (NAGase)が上昇し、乳中の体細胞数が増加する。そのため、NAGase濃度や、乳中体細胞数が乳房炎であるか否かの判定基準とされることもある。通常、健康な牛であれば体細胞数は10万/ml以下であるが、20万/ml以上になれば何らかの炎症があると考えられている。 本明細書で乳房炎に関し、「治療(する)」というときは、特に示した場合を除き、乳房炎を発生している対象において、少なくとも一種の原因細菌について、増殖の程度を抑える処置、増殖させないようにする処置(静菌)、問題ないレベルにまで細菌数を減じる処置を含むが、好ましくは原因細菌を問題ないレベルにまで減じる処置、より好ましくは検出限界以下にまで減じる(殺菌)処置を指す。検出限界下の状態が最終投与日から1週間後も維持されていれば、乳房炎が完治したと判断することができる。 原因細菌の検出、又は存在の程度は、当業者であれば、定法により確認することができる。例えば、乳腺から採取した乳汁を、減菌生理的食塩水により段階的に希釈し、これを寒天培地に平板塗抹法により塗布して37℃で48時間培養後、寒天培地上に形成されたコロニー数をカウントして、採取乳汁中の細菌数(cfu/ml)を算出する。 細菌数による判断に替えて、又は併用して、乳中体細胞数を基準とする場合は、治療効果が得られたといえるレベルは、50万/ml以下であり、好ましくは40万/m1以下であり、より好ましくは30/万m1以下であり、さらに好ましくは20万/ml以下であり、さらに好ましくは18万/ml以下、最も好ましくは10万/ml以下を指す。 体細胞数は、当業者であれば定法により計測可能である。たとえば、乳腺から採取した乳汁を、必要により希釈し、及び/又はヨウ化プロピディウム等で染色し、フローサイトメーター等の専用の細胞数測定装置により測定することができる。 細菌数、体細胞数による判断に替えて、又は併用してNAGaseを基準とすることもできる。 本発明の剤は、注入剤であり、乳頭口から注入することにより投与されるが、投与の時期は、当業者であれば、適宜設定することができる。食品として安全な成分を用いているので、泌乳期に投与することもできる。泌乳期に投与するほか、搾乳がない乾乳期は乳房内に高濃度の薬剤を長時間作用させることができるためこの時期に投与することもできる。 本発明の剤の調製は、当業者であれば適宜成しうるが、例えば、ナイシン安定化剤であるチオクト酸を油性基剤に加え、加熱溶解し、冷却後、界面活性剤を加え、必要に応じ滅菌された無菌の粉体ナイシンを加え、ホモジナイザーで攪拌することにより、調製できる。油性基材、界面活性剤は、必要に応じ120℃、2hで乾熱滅菌する。 メチオニン及びチオクト酸を含む本発明の剤は、25℃において、少なくとも4ヶ月間安定であることが確認されている。また牛乳に分散し、親和性を評価したところ、既存品に比較し、良好に分散するので、乳房内での送達にも優れていると考えられる。 本発明の剤は、上で挙げたの乳房炎の原因細菌のいずれに対しても効果を発揮しうるが、ブドウ球菌(黄色ブドウ球菌、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)レンサ球菌、大腸菌など代表的な乳房炎原因細菌に対して特に有効である。本発明の剤により、これらの細菌に基因する潜在性乳房炎、及び比較的軽度の臨床型乳房炎が完治しうる。 本発明の剤は、有効成分が食品としての安全性が明確であるナイシンであるので、投与した対象から得られた乳汁中(例えば、牛乳)にナイシンが含まれていたとしても、飲食品として適切なレベル以下で有れば、他の抗生物質を有効成分とする注入剤の場合と比較して、問題が少ないということができる。乳汁中のナイシンの残留は、当業者であれば定法により測定することができるが、例えば、溶液を段階的に希釈し、アガーウエル法、ディスク法、又はカップ法で作成された規定の阻止円を形成した、最小濃度の希釈液を1 unitとし、希釈率の逆数を抗菌活性(AU; Arbitrary Unit)ととして、算出することができる。 本発明の剤形により、潜在性乳房炎の牛に、ナイシンA 250万IUを、1日3回、2日連続投与した場合、完治しうるほか、最終投与日(0日)から、3〜4日目には得られる牛乳中の残留活性が検出限界下となりうる。また、本発明の剤形により、軽度な臨床型乳房炎の牛に、ナイシンA 250万IUを、1日3回、2日投与した場合、完治しうるほか、最終投与日(0日)から、4〜5日目には得られる牛乳中の残留活性が検出限界下となりうる。[ナイシン粉体の製造] 1.バインダーのスクリーニング スプレードライヤー(yamato pulvis GB22)を用い、入り口温度150〜160℃、出口温度80〜90℃、風量0.3〜0.5m3/分の条件で、バインダーとして下表のものを使用して(対ナイシン溶液3%)、作業性、チャンバーへの付着性(サンプルが通過するチャンバーへの付着、歩留まりに影響する。)、粉末品の吸湿性を評価した。 チャンバーへの付着が少なく重量歩留まり、粉末品の吸湿性及び水への溶解性が最適だったデキストリンを、以下で用いるバインダーとして選定した。ネガティブデーターとして、脱脂粉乳は精製ナイシンA液に溶解せず、沈殿するため作業性が悪かった。ホエーパウダーはチャンバーへの付着は少なかったが粉末品の吸湿性が高かった。サイクロデキストリンは粉末化工程中に飛散し、重量歩留まりが非常に悪かった。 2.スプレードライ品(造粒品)の製造 スプレードライヤー(yamato pulvis GB22)を用い、入り口温度150〜160℃、出口温度80〜90℃、風量0.3〜0.5m3/分の条件で、バインダーとしてデキストリン(対ナイシン溶液3%、デキストリン/ナイシンとして重量比3/100)を使用して、ナイシンAスプレードライ品(無造粒品、及び造粒品)を製造した。無造粒品は一度だけ噴射乾燥を実施することにより製造した。造粒品は、一定の大きさになるまで繰り返し噴霧乾燥工程を繰り返すこと、すなわち一度乾燥された粉末に再度液体を噴霧し、乾燥する工程を繰り返すことにより、製造した。なお、バインダー使用量は、チャンバーへの付着と歩留まりの2点を重視し、対液3%に決定した。3%以下ではチャンバーへの付着が多く重量歩留まりが低下した。 粒度分布及び外観を、図1に示した。 得られたスプレードライ品(造粒品)の吸湿性、油性基剤への分散性、抗菌活性の安定性を、定法により試験した。結果を図1−2〜4に示した。造粒品とすることにより、吸湿性が低下し、作業性及び保存性が向上した。また造粒品は、比重が重く、量が低減され、飛散が低下した。また粒子が大きく、油性基剤に添加した場合にダマになりにくいという利点があった。さらに造粒品は、抗菌活性の安定性が無処理のものに比較して向上した。 3.フリーズドライ品(粉末品)の製造 ナイシンA精製液にバインダーとしてデキストリン(対精製液1.6%、デキストリン/ナイシンとして重量比1.6/100)を溶解したものを予備凍結した後、凍結乾燥機(共和真空乾燥機 RLE-103、Yamato フリーズドライヤーDC41A)を用い、乾燥時間5〜8日間、最終温度20℃の条件で(処理量2L)、フリーズドライ品(粉末品)を製造した。なお、バインダー使用量は、ここではナイシン活性値を重視し、1.6%に決定した。この量では容器への付着が無視できないが、必要量を確保できる範囲でバインダー量を設定し、最大の活性値を確保した。 300万IU/gの粉末無菌ナイシンAを得ることができた。[ナイシン配合乳房炎治療剤の製造] 1.エマルジョンタイプ <配合> 下表の配合率でエマルジョンタイプのナイシン配合剤を製造した。 <製造手順>(1) 界面活性剤及びチオクト酸を油性基剤に混合し、加温する。(2) 青色1号及びメチオニンをナイシン溶液に混合し、加温する。(3) ナイシン溶液を油性基剤へ、攪拌しながら徐々に添加する。(4) 乳化後、攪拌しつつ急冷し、5min後に攪拌を終了する。 2.軟膏タイプ(造粒品使用) <配合> 下表の配合率で軟膏タイプのナイシン配合剤を製造した。 <製造手順>(1) チオクト酸を油性基剤に混合し、加温する。(2) 青色1号、メチオニンを均一に分散させ、次いで乳化剤を添加し、混合する。(3) 粉体ナイシンAを加え、ダマができないように混合する。(4) ホモジナイザーにて攪拌する。(10,000rpm,1min) 3.軟膏タイプ(粉末品) <配合> 下表の配合率で軟膏タイプのナイシン配合剤を製造した。<工程>(1) チオクト酸を油性基剤に加え、120℃、2hで乾熱滅菌する。(2) 青色1号、乳化剤それぞれを、120℃、2hで乾熱滅菌する。(3) 油性基剤を混合しながら冷却し、青色1号を添加して均一に分散させる。(4) さらに乳化剤を混合する。(5) さらに粉末無菌ナイシンAを加えて混合する。(6) ホモジナイザーで攪拌する。(3,500rpm,2min) 4.活性及び安定性の評価 上で製造した各剤の、1回投与量あたりのナイシン活性をまとめた。 配合量20%の軟膏タイプの活性が上がったのは、高濃度の精製ナイシンを用いたためである。 配合量10%の軟膏タイプについて、保存安定性試験(25℃)により有効成分の安定性を評価したところ、少なくとも4ヶ月間安定であることが確認された。 また牛乳に分散したところ、既存品A(KP−ラック−5G、フォート ダッジ株式会社製)、既存品B(S.P.乳軟シリンジL「ミタカ」、三鷹製薬株式会社製)及び本実施例で調製したエマルジョンタイプのものは油滴を作り、分散しなかったが、軟膏タイプのものは、双方とも、良好に分散した(図2)。[ナイシン配合乳房炎治療剤の臨床効果] 1.潜在性乳房炎に対する効果(ナイシンA 250万IU/day) 乳牛の潜在性乳房炎11症例、詳細にはS.intermediusに罹患した症例4症例、S.hyicus1症例、S.epidermidis1症例、S.xylosus 1症例、その他のCNS 1症例、micrococcus属細菌 1症例、corynebacterium属細菌 1症例、streptococci 1症例に、実施例2の軟膏タイプ(スプレードライ品)の治療剤を、1日1本(ナイシンA250万IU)、2日連続で乳房内注入した。 その結果、すべての症例において、細菌数の減少と体細胞数の減少が見られ、5症例(S. intermedius 3症例、S.hyicus 1症例、micrococcus属細菌1症例)が完治した(下表、図3−1、図3−2)。 また、牛乳中の抗菌活性の残留期間は3〜4日であった(下表、図3−3)。 2.潜在性乳房炎に対する効果(ナイシンA 750万IU/day) 乳牛の潜在性乳房炎7症例、詳細にはS.intermedius に罹患した症例2症例、S.epidermidis1症例、S.hyicus 1症例、S.simulans 1症例、S.xylosus 1症例、corynebacterium属細菌 1症例に、上記と同様の軟膏タイプの注入剤を1日3本(ナイシンA750万U)、2日連続で乳房内注入した。 その結果、すべての症例において、細菌数の顕著な減少と体細胞数が10万/ml程度までの減少が見られ、S.intermedius 2症例、S.epidermidis 1症例、S.hyicus 1症例が完治した(下表、図3−4、図3−5)。 また、このときの抗菌活性の残留期間は4〜5日であった(下表、図3−6)。 3.臨床型乳房炎に対する効果(ナイシンA 750万 U/day) 乳牛の、CNS、レンサ球菌、大腸菌などに罹患した比較的軽度の臨床型乳房炎6症例、詳細にはS. intermediusに罹患した症例1症例、Stp.bovis 1症例、不明 1症例、E.coli 2症例、Klebsiella属細菌 1症例に、上記と同様の軟膏タイプの注入剤を1日3本(ナイシンA750万U)、2日連続で乳房内注入した。 その結果、すべての症例において、細菌数の顕著な減少と体細胞数の減少が見られ、Klebsiella属細菌感染症例を除く5症例が完治した(下表、図3−7、図3−8)。4.臨床試験の総括 本発明の剤は、乳牛の潜在性乳房炎の主たる原因菌であるコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)に基因する潜在性乳房炎に有効であり、ナイシンA含量を高めた方が治療効果が高い傾向であった。本発明品はCNS、レンサ球菌、大腸菌に基因する比較的軽度な臨床型乳房炎に有効であった。ナイシンを有効成分とする本発明の剤は、乳房炎の治療、特に潜在性乳房炎及び軽度な臨床型乳房炎の治療に、有効に用いうることが分かった。 ナイシン、油性基剤、及び食品として許容可能な界面活性剤を含む、乳房炎治療用注入剤。 ナイシン粉体が分散した形態である、請求項1に記載の剤。 界面活性剤のHLBが10〜17(好ましくは12〜16、より好ましくは14〜16)である、請求項2に記載の剤。 ナイシンが水溶性バインダー(好ましくはデキストリン)を用いて粉体化されており; 水溶性バインダー/ナイシンの重量比が、0.10/100〜50/100(好ましくは0.50/100〜25/100、より好ましくは1.0/100〜6.0/100)であり; 界面活性剤の含量が、0.10〜10.0%(好ましくは0.25〜4.0%、より好ましくは0.50〜2.0%)であり; ナイシン粉体の含量が、1.0〜40%(好ましくは2.5〜30%、より好ましくは5〜25%)である、請求項3に記載の剤。 1日分として、ナイシンを50万IU以上(好ましくは100万〜2000 万IU、より好ましくは200万〜1000万IU)投与するための、請求項1〜4のいずれか1項に記載の剤。 請求項1〜5のいずれか1項に記載の剤を、対象(ヒトを除く)に投与する工程を含む、乳房炎の治療方法。 対象が、乳房炎の牛であり、1日1〜数回の投与を連続又は非連続した2〜7日間に反復投与する、請求項6に記載の治療方法。 【課題】ナイシンを有効成分とする、哺乳動物(特に牛)の乳房炎の治療のための注入剤を提供する。【解決手段】好ましくは水溶性のバインダーを用いて粉体化されたナイシンが油性基剤中に分散している形態の注入剤。ナイシン安定化剤としてチオクト酸を含んで、乳房内での送達にも優れている。【選択図】なし