タイトル: | 公開特許公報(A)_プロテアーゼ阻害剤 |
出願番号: | 2009108511 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | A61K 38/44,A61P 43/00,A61P 3/14,A61P 1/02,A61P 35/00,A61P 31/04,A61P 31/12,A23L 1/305,C12N 9/99,A23K 1/165 |
勝沼 信彦 高倉 南津子 新 光一郎 山内 恒治 JP 2009215301 公開特許公報(A) 20090924 2009108511 20090427 プロテアーゼ阻害剤 森永乳業株式会社 000006127 川口 嘉之 100100549 松倉 秀実 100090516 遠山 勉 100089244 佐貫 伸一 100126505 丹羽 武司 100131392 辻田 朋子 100137338 勝沼 信彦 高倉 南津子 新 光一郎 山内 恒治 A61K 38/44 20060101AFI20090828BHJP A61P 43/00 20060101ALI20090828BHJP A61P 3/14 20060101ALI20090828BHJP A61P 1/02 20060101ALI20090828BHJP A61P 35/00 20060101ALI20090828BHJP A61P 31/04 20060101ALI20090828BHJP A61P 31/12 20060101ALI20090828BHJP A23L 1/305 20060101ALI20090828BHJP C12N 9/99 20060101ALI20090828BHJP A23K 1/165 20060101ALI20090828BHJP JPA61K37/50A61P43/00 111A61P3/14A61P1/02A61P35/00A61P31/04A61P31/12A23L1/305C12N9/99A23K1/165 C 4 1 2003340058 20030930 OL 13 2B150 4B018 4C084 2B150AB10 2B150DF09 2B150DF18 4B018MD20 4B018ME05 4B018ME08 4B018ME14 4C084AA01 4C084AA02 4C084BA02 4C084BA08 4C084BA22 4C084BA44 4C084CA38 4C084DC23 4C084MA35 4C084MA52 4C084NA14 4C084ZA672 4C084ZA972 4C084ZB262 4C084ZB332 4C084ZB352 4C084ZC202 4C084ZC212 本発明は、ラクトパーオキシダーゼを有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤に関するものであり、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、歯周病、乳癌、前立腺癌、及び細菌・ウイルス感染症等の予防・治療剤、並びに飲食品及び飼料等に利用することが可能なシステインプロテアーゼ阻害剤である。 活性中心にチオール基を有する蛋白分解酵素はシステインプロテアーゼ(チオールプロテアーゼ)と総称されている。カテプシンL、カテプシンB、カテプシンKは、カルシウム依存性中性プロテアーゼ(CAMP)、パパイン、フィシン、ブロメライン等とともに代表的なシステインプロテアーゼの一つである。そしてこれらシステインプロテアーゼに対して阻害作用を有する物質は、システインプロテアーゼが関与するとされる疾患、例えば筋ジストロフィー、筋萎縮症、心筋梗塞、脳卒中、アルツハイマー病、頭部外傷時の意識障害や運動障害、多発性硬化症、末梢神経のニューロパシー、白内障、炎症、アレルギー、劇症肝炎、骨粗鬆症、高カルシウム血症、乳癌、前立腺癌、前立腺肥大症等の治療薬として、あるいは癌の増殖抑制、転移予防薬、血小板の凝集阻害薬等として期待される。 また、近年に至り、勝沼等の研究によってカテプシンL、カテプシンB、カテプシンKと骨粗鬆症乃至悪性腫瘍性高カルシウム血症との関係が解明され、それによって、とりわけカテプシンL阻害剤の骨粗鬆症治療剤又は悪性腫瘍性高カルシウム血症治療剤としての医薬への適用が注目されつつある(例えば、非特許文献1を参照)。骨組織においては、骨芽細胞(osteoblast)による骨形成と、破骨細胞(osteoclast)による骨吸収が生涯を通じて行われており、成長期には骨形成が骨吸収を上回ることにより骨重量が増加し、一方老年期には逆に骨吸収が骨形成を上回るために骨重量が減少し、骨粗鬆症の発症となる。このような骨粗鬆症の原因としては様々なものがあるが、特に骨崩壊(骨吸収)を主原因の一つとして挙げることができる。これを更に2つの原因に分けると次のようになる。即ち、一つはカルシウムの吸収と沈着不全に起因するものであり、更に詳しくはカルシウムの供給量、転送、吸収、及び沈着が関係するものであり、ビタミンD誘導体、女性ホルモン(エストロゲン)等が関与していると考えられる。 もう一つは、骨支持組織であるコラーゲンの分解促進を内容とするものであり、破骨細胞内リソゾームから分泌されるシステインプロテアーゼ群、中でも特にカテプシンL、カテプシンB、カテプシンKによる骨コラーゲン分解が主たる原因である。破骨細胞内のリソゾームから分泌されたこれらカテプシンL、カテプシンB及びカテプシンKは骨組織中のコラーゲンの分解を促進し、それによって古い骨は溶解され、ヒドロキシプロリンとともにカルシウムが血中に遊離放出させられる。従って、カテプシンL、カテプシンB及びカテプシンKのコラーゲン分解能を阻害することによって過剰な骨崩壊を防止することが可能であり、ひいては骨粗鬆症の治療が可能となる。これら骨粗鬆症の治療剤としては、エストロゲン、タンパク同化ホルモン、カルシウム剤、ビタミンD、カルシトニン、あるいはビスホスホネート等が知られている。またカテプシンL阻害、カテプシンB阻害、又はカテプシンK阻害のいわゆるシステインプロテアーゼ阻害を作用機序とする骨粗鬆症治療剤についてもいくつかのシステインプロテアーゼ阻害剤をもちいた骨粗鬆症治療剤の開発が進められている(例えば、特許文献1、及び特許文献2参照)が、さらなる骨粗鬆症治療剤の開発が望まれている。 一方、高カルシウム血症は、血清中のカルシウム濃度が正常値以上となる代謝異常であり、腫瘍患者に多く見受けられる。これを放置した場合、患者の寿命は10日程度であると言われている。原因の多くは腫瘍の骨転移である。腫瘍が骨に転移すると、骨破壊が起こり、カルシウムが血中に放出される。このカルシウムは腎臓で処理されるが、骨破壊のスピードが腎臓の処理能力を上回ったとき、高カルシウム血症の発現となる。治療方法としては、フロセミドを併用した生理的食塩水の輸液を用いることにより腎臓からのカルシウム排泄を促進する方法や、骨粗鬆症治療薬であるカルシトニンを使用する方法等が知られている。即ち、骨吸収を抑制するような骨粗鬆症治療薬は悪性腫瘍性高カルシウム血症の治療剤としても有効であるといえる。 本発明者らにより、このような目的に使用し得るシステインプロテアーゼ阻害剤としてすでに以下のものが開示されている。(1)カテプシンL特異的阻害ポリペプチド(特許文献1)(2)チオールプロテアーゼ阻害剤(特許文献3)(3)バリン誘導体およびその用途(特許文献4)(4)チオールプロテアーゼ阻害剤(特許文献5)(5)FA-70C1物質(特許文献6)(6)FA-70D物質、その製造法及びその用途(特許文献7) しかしながら、さらに、抗原性のない、安全な素材として使えるシステインプロテアーゼ阻害剤の開発が望まれていた。 他方、これまでに、母乳中にプロテアーゼ阻害物質が存在することが知られている。母乳に含まれるプロテアーゼ阻害物質として知られているものとしては、α1−アンチキモトリプシン、α1−アンチトリプシンが挙げられ、インターα2−トリプシン阻害物質、α2−アンチプラスミン、α2−マクログロブリン、アンチトロンビンIII、アンチロイコプロテアーゼなどの阻害剤等も母乳に微量含まれている(例えば、非特許文献2を参照)。 乳中において、システインプロテアーゼ阻害活性(シスタチンを含む)を有するタンパク質については、すでに以下のものが開示されている。(1)牛初乳由来の糖鎖を有する分子量約57kDaの新規システインプロテアーゼインヒビター(特許文献8)(2)牛初乳由来の分子量16±2kDa又は13±2kDaの新規システインプロテアーゼインヒビター(特許文献9)(3)人乳由来の分子量16±2kDa又は13±2kDaの新規タンパク質およびその製造方法(特許文献10)(4)牛乳から調製された牛乳由来塩基性シスタチン及び/又は牛乳由来塩基性シスタチン分解物を有効成分とする骨吸収阻害剤(特許文献19)(5)乳塩基性蛋白質(MBP)中に含まれるシスタチンC、及びインビトロにおける該シスタチンCによる骨吸収阻害効果(非特許文献10) ほ乳類の乳に多量に含有されるタンパク質として、ラクトパーオキシダーゼ、ラクトフェリン及びカゼインなどが挙げられる。ラクトパーオキシダーゼは、哺乳類の乳汁だけでなく、唾液、涙液、気道粘液等の分泌液に含有される酸化還元酵素であり(例えば、非特許文献3)、工業的には牛乳から大量スケールで精製される(例えば、特許文献11)。ラクトパーオキシダーゼには、抗菌性、抗ウイルス活性、抗酸化活性、抗癌作用、免疫調節作用等の多様な生物機能が報告されている(例えば、非特許文献4〜9)。また、ヘリコバクター・ピロリ感染の治療用医薬を製造するためのラクトペルオキシダーゼ、ペルオキシドドナーおよびチオシアネートの使用(例えば、特許文献12)、養殖水生動物の配合飼料に添加される病原菌感染予防及び治療剤(例えば、特許文献13)、老化防止剤(例えば、特許文献14)、肝機能改善剤(例えば、特許文献15)、ペルオキシダーゼの予防および治療への応用(例えば、特許文献16)、角膜障害治療剤等(例えば、特許文献17)に関する技術が開示されている。更に、本出願人により、すでにラクトパーオキシダーゼ、チオシアン酸、及び過酸化水素を有効成分とするウレアーゼ不活性化組成物(特許文献18)が開示されている。特開平7−179496号公報特表2002−501502号公報特開平9−221425号公報特開2001−139534号公報特開平7−242600号公報特開2000−72797号公報国際公開第97/31122号パンフレット特開平7−2896号公報特開平7−126294号公報特開平10−80281号公報特開平5−41981号公報特表2000−509367号公報特許第3103615号公報特許第3103167号公報特開2001−226289号公報特表平6−501453号公報特許第2840795号公報特開2002−238554号公報特開2000−281587号公報勝沼信彦著、「BIO media」、第7巻、第6号、1992年、p.73−77清澤功著、「母乳の栄養学」、金原出版、p.80−81アメリカン・ジャーナル・オブ・レスピラトリー・アンド・クリティカル・ケアー・メディスン(American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine.)、アメリカ、第166巻、2002年、p.S57−S61ジャーナル・オブ・ニュートリショナル・バイオケミストリー(Journal of Nutritional Biochemistry)、アメリカ、第11巻、2000年、p.94−102ライフ・サイエンシーズ(Life Sciences)、アメリカ、第43巻、1988年、p.739−745ライフ・サイエンシーズ(Life Sciences)、アメリカ、第47巻、1990年、p.703−709ジャーナル・オブ・デイリー・リサーチ(Journal of Dairy Research)、イギリス、第63巻、1996年、p.257−267ジャーナル・オブ・デイリー・リサーチ(Journal of Dairy Research)、イギリス、第64巻、1997年、p.281−288ベテリナリー・イミュノロジー・アンド・イミュノパソロジー(Veterinary Immunology and Immunopathology)、オランダ、第56巻、1997年、p.85−96バイオサイエンス・バイオテクノロジー・アンド・バイオケミストリー(Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry)、日本、第66巻、第12号、2002年、p.2531−2536 本発明者らは、乳中に含まれるシステインプロテアーゼ阻害効果を有する蛋白質の同定を試みていたところ、ラクトパーオキシダーゼにシステインプロテアーゼの酵素活性を効果的に阻害する作用が存在することを見出した。また、ラクトパーオキシダーゼは、酸化還元酵素の一種であって、本来酵素の機能を有しながら、蛋白質分解酵素であるプロテアーゼのなかでも特にシステインプロテアーゼの酵素活性を阻害することは、従来より一切報告されていなかった。 また、前記特許文献8、9、10には、乳中に含まれるシステインプロテアーゼ阻害効果を有する蛋白質は、それぞれ分子量が16±2kDa、13±2kDa及び57kDaであって、ラクトパーオキシダーゼ(分子量80kDa)であることは一切記載されていない。 さらに、前記特許文献19及び非特許文献10に記載されている乳中に含まれるシステインプロテアーゼ阻害効果を有する蛋白質はシスタチンCであって、ラクトパーオキシダーゼとは本質的に異なる蛋白質であり、ラクトパーオキシダーゼによるシステインプロテアーゼ阻害作用の存在の有無についても一切記載されていない。 本発明の有効成分であるラクトパーオキシダーゼは、それ自身単独でシステインプロテアーゼの酵素活性を効果的に阻害し、従来の乳中のシステインプロテアーゼ阻害活性を有する蛋白質に比して、簡便に、しかも大量に製造することができ、システインプロテアーゼ阻害剤として容易に調製することが可能である。 本発明の目的は、乳蛋白質であって食品として幅広く利用することが可能な素材である、ラクトパーオキシダーゼを有効成分とするシステインプロテアーゼ阻害剤を提供することである。 本発明の他の目的は、システインプロテアーゼに起因する疾患の予防・治療に効果を有するシステインプロテアーゼ阻害剤を提供することである。 本発明者は、抗原性のない、安全な素材として利用する事が可能なシステインプロテアーゼ阻害物質を鋭意探索した結果、乳由来のタンパク質であるラクトパーオキシダーゼがシステインプロテアーゼ阻害活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。 本発明の要旨は以下の(1)〜(4)のとおりである。 (1)ラクトパーオキシダーゼを有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤。 (2)システインプロテアーゼに起因する疾患の予防及び/又は治療に効果を有する前記(1)に記載のシステインプロテアーゼ阻害剤。 (3)システインプロテアーゼに起因する疾患が、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、歯周病、乳癌、前立腺癌、及び細菌・ウイルス感染症である前記(2)に記載のシステインプロテアーゼ阻害剤。 (4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載のシステインプロテアーゼ阻害剤を添加してなる飲食品組成物又は飼料組成物。 本発明はラクトパーオキシダーゼを有効成分とするシステインプロテアーゼ阻害剤に関するものであり、本発明によって奏される効果は次のとおりである。(1)乳中に含まれる蛋白質であるので、安価で簡便に、しかも大量に製造することができ、システインプロテアーゼ阻害剤として容易に調製することが可能である。(2)システインプロテアーゼに起因する疾患の予防剤及び/又は治療剤として使用することが可能である。(3)飲食品や飼料に添加することによって、経口的に摂取することが可能である。パパインに対するウシラクトパーオキシダーゼのシステインプロテアーゼ阻害効果(パパイン残存活性)を示した図である。 次に、本発明の好ましい実施態様について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施態様に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。尚、本明細書において百分率は特に断りのない限り質量による表示である。 本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤は、ラクトパーオキシダーゼを有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤である。本発明に使用するラクトパーオキシダーゼは特に限定されないが、哺乳動物由来のものが好ましく、ウシ、ヒト、ウマ、ヒツジ、ヤギ等のものがより好ましい。ウシのラクトパーオキシダーゼとしては、ヨーロピアン・モレキュラー・バイオロジー・ラボラトリー(EMBL)のヌクレオチド・アミノ酸配列に登録されたアクセッションナンバー(以下、EMBL-Accession No.と略記する。):M58150を例示することが可能であり、例えば、配列番号1に示すものを挙げることができる。また、ヒト、ヒツジのラクトパーオキシダーゼとしては、それぞれ、EMBL-Accession No.:AY324876(ヒト)、EMBL-Accession No.:AF027970(ヒツジ)を例示することができる。 本発明に使用するラクトパーオキシダーゼは、ヒト、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等の乳等から得ることができる。例えば、特開平5−41981号公報(発明の名称:生菌含有液状組成物)に開示された方法のように、未加熱のホエーまたは脱脂乳から、常法(例えば、イオンクロマトグラフィー等)に従って工業的に製造することができる。また、遺伝子工学的手法により、微生物、動物細胞、トランスジェニック動物等で生産したラクトパーオキシダーゼも、本発明において好適に用いることができる。例えば、シンらの方法[バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニュケーションズ(Biochemical and Biophysical Research Communications)、第271巻、2000年、p.831−836]によって発現・精製された組換え型ラクトパーオキシダーゼを使用することも可能である。本発明においては、また、市販のラクトパーオキシダーゼを用いることもでき、市販のラクトパーオキシダーゼは、天然物由来のラクトパーオキシダーゼ(例えばバイオポール社製等)であってもよいし、遺伝子組換えにより製造されたラクトパーオキシダーゼであってもよい。 本発明に使用することのできるラクトパーオキシダーゼは、上述したようなラクトパーオキシダーゼの改変体も含む。改変体として具体的には、EMBL-Accession No.:M58150又は配列番号1や、EMBL-Accession No.:AY324876、EMBL-Accession No.:AF027970等のアミノ酸配列において、一又は数個のアミノ酸が置換、欠失若しくは付加された配列からなる蛋白質であって、システインプロテアーゼ阻害活性を有する蛋白質を例示することができる。ここで、数個とは、2〜50個、好ましくは2〜20個、特に好ましくは2〜10個である。また、改変体としては、EMBL-Accession No.:M58150又は配列番号1や、EMBL-Accession No.:AY324876、EMBL-Accession No.:AF027970等のアミノ酸配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上相同な配列を有し、システインプロテアーゼ阻害活性を有する蛋白質も例示することができる。これらのラクトパーオキシダーゼ改変体については、システインプロテアーゼ阻害活性が保持され、且つヒトに対する抗原性ができるだけ低くなるように改変されていることが好ましい。上記のようなラクトパーオキシダーゼ改変体は、野生型ラクトパーオキシダーゼをコードする遺伝子をPCR法等により変異させた遺伝子を公知の発現系で発現させ、得られたタンパク質のシステインプロテアーゼ阻害活性を測定することによって得ることができる。また、野生型ラクトパーオキシダーゼをコードする遺伝子が導入された微生物等を、紫外線照射等によって変異処理し、得られた微生物から、ラクトパーオキシダーゼ改変体を精製し、そのシステインプロテアーゼ阻害活性を測定することによっても得ることができる。ただし、本発明において「改変体」とは、必ずしも野生型を改変することによって作製されたものである必要はなく、天然に存在するような変異体であってもよい。尚、本発明において、ラクトパーオキシダーゼを飲食品や飼料に添加して使用する場合は、可能な限り、アミノ酸が置換、欠失若しくは付加等されていない野生型のラクトパーオキシダーゼを使用することが好ましい。 ラクトパーオキシダーゼは、それ自身が単独でシステインプロテアーゼの活性を阻害する作用を有しているので、本発明においては、システインプロテアーゼ阻害剤(以下、「本発明の阻害剤」という場合がある。)の有効成分として使用することができる。ラクトパーオキシダーゼが阻害するシステインプロテアーゼは特に限定されないが、好ましくはカテプシンB、カテプシンL、カテプシンK及びパパイン、より好ましくはパパインである。システインプロテアーゼ阻害活性は、バレット等の方法[メソッド・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology)、第80巻、第535〜561ページ、1981年]に従って測定することができる。また、後記する本発明の試験例において、該測定方法について記載する。 本発明において、「有効成分」とは、システインプロテアーゼの活性を阻害する作用を有する成分を意味し、ラクトパーオキシダーゼが本発明の阻害剤の主成分である必要はない。例えば、本発明の阻害剤にはラクトパーオキシダーゼ以外にシステインプロテアーゼの活性を阻害する作用を有する成分や、乳中の他の有用な蛋白質であるカゼインやラクトフェリン等が含まれていてもよい。 本発明の有効成分としては、システインプロテアーゼ阻害活性を有する限り、ラクトパーオキシダーゼの他に、ラクトパーオキシダーゼの部分ペプチド、又はラクトパーオキシダーゼの加水分解混合物(ペプチド混合物)を混合して使用してもよく、有効成分がラクトパーオキシダーゼの部分ペプチド、又はラクトパーオキシダーゼの加水分解混合物(ペプチド混合物)であってもよい。 本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤はラクトパーオキシダーゼ、若しくはこれらを製剤学的に許容される製剤担体と組合わせて、経口的、又は非経口的にヒトを含む哺乳動物に投与することができる。本発明の製剤の投与単位形態は特に限定されず、治療目的に応じて適宜選択でき、具体的には、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、貼付剤、点眼剤、点鼻剤等を例示できる。製剤化にあたっては製剤担体として通常の薬剤に汎用される賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、界面活性剤、注射剤用溶剤等の添加剤を使用できる。本発明の製剤中に含まれるラクトパーオキシダーゼの量は特に限定されず適宜選択すればよいが、例えば、製剤中に0.0005〜60質量%、好ましくは0.005〜40質量%とするのがよい。 本発明の製剤の投与方法は特に限定されず、各種製剤形態、患者の年齢、性別、その他の条件、患者の症状の程度等に応じて決定される。本発明の製剤の有効成分の投与量は、用法、患者の年齢、性別、疾患の程度、その他の条件等により適宜選択される。通常有効成分としてのラクトパーオキシダーゼの量は、0.1〜1200mg/kg/日、好ましくは10〜500mg/kg/日の範囲となる量を目安とするのが良く、1日1回又は複数回に分けて投与することができる。 本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤は、システインプロテアーゼが関与する疾患、例えばアレルギー、筋ジストロフィー、筋萎縮症、心筋梗塞、脳卒中、アルツハイマー病、多発性硬化症、白内障、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、前立腺肥大症、乳癌、前立腺癌等の予防・治療剤、若しくは癌細胞の増殖や転移の抑制剤、又は細菌(スタフィロコッカス・アウレウスV8等)やウイルス(ポリオウイルス、ヘルペスウイルス等)の増殖抑制剤として有用である。本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤は、単独で使用しても良いが、公知の前記疾患の予防・治療剤、又は前記細菌・ウイルス増殖抑制剤と併用して使用することも可能である。併用することによって、前記疾患の予防・治療効果、又は前記細菌・ウイルス増殖抑制効果を高めることができる。併用する公知の前記疾患の予防・治療剤、又は前記細菌・ウイルス増殖抑制剤は、本発明の阻害剤中に有効成分として含有させても良いし、本発明の阻害剤中には含有させずに別個の薬剤として組合わせて商品化して使用時に組み合わせても良い。 本発明の飲食品組成物は、食品又は飲料の原料に、本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤又はラクトパーオキシダーゼを添加することにより製造することができ、経口的に摂取することが可能である。前記原料は、通常の飲料や食品に用いられているものを使用することができる。本発明の飲食品組成物は、システインプロテアーゼ阻害剤を添加する以外は、通常の飲食品組成物と同様にして調製することができる。飲食品組成物の形態としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果汁飲料、乳酸菌飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調整用粉末を含む);アイスクリーム、シャーベット、かき氷等の氷菓;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子等の菓子類:加工乳、乳飲料、発酵乳、バター等の乳製品;パン;経腸栄養食、流動食、育児用ミルク、スポーツ飲料;その他機能性食品等が例示される。 本発明の飲食品組成物において、ラクトパーオキシダーゼを添加する量は、飲食品組成物の形態によって適宜設定されるが、通常の食品又は飲料中0.0005〜60質量%、好ましくは0.005〜40質量%となるように添加すればよい。 飲食品組成物に配合して摂取する形態としては、例えば、ラクトパーオキシダーゼ粉末やラクトパーオキシダーゼ水溶液(シロップ等)等を本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤として配合した清涼飲料、乳飲料等、又はこれらの飲料の濃縮原液及び調製用粉末;加工乳、発酵乳等の乳製品;経腸栄養食;機能性食品等が挙げられる。 飲食品組成物の形状としては、タブレット状のサプリメントを例示することができる。これによって、一日当りの食事量及び摂取カロリーを他の食品の摂取量を加味した上でコントロールする必要が無く、また、有効成分の摂取量を正確に把握できる。 本発明の飼料組成物は、飼料にラクトパーオキシダーゼを添加して製造することができ、一般的な哺乳動物や家畜類、養魚類、愛玩動物に経口的に投与することが可能である。飼料組成物の形態としては、ペットフード、家畜飼料、養魚飼料等が例示され、穀類、粕類、糠類、魚粉、骨粉、油脂類、脱脂粉乳、ホエー、鉱物質飼料、酵母類等とともに混合して本発明の飼料組成物を製造することができる。 本発明の飼料組成物において、ラクトパーオキシダーゼを添加する量は、飼料組成物の形態によって適宜設定されるが、通常の飼料中0.0005〜60質量%、好ましくは0.005〜40質量%となるように添加すればよい。 次に、ウシラクトパーオキシダーゼの製造について、参考例として示す。[参考例]ラクトパーオキシダーゼの製造 未加熱のホエー1000kgを、10リットルのCM−セファデックスC−50樹脂(アマシャムバイオテック社製)を充填したカラムに通液した。次いで、水100kgで洗浄した後、0.3M食塩を含む20mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)20リットルを通液して樹脂に吸着したラクトパーオキシダーゼを溶出した。溶出液を分画分子量10,000の限外濾過膜(旭化成社製)で濃縮して脱塩した。得られた濃縮液約1リットルをメンブランカートリッジ(ナルゲン社製)で無菌濾過し、凍結乾燥して粉末状の無菌ラクトパーオキシダーゼ40gを得た。 このラクトパーオキシダーゼ標品を、アクリルアミド濃度が10〜20%のSDS−ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動を行い、クマシーブリリアントブルーR250(シグマ社製)で染色して、画像処理装置(アトー社製)で分析したところ、ウシラクトパーオキシダーゼの純度は約50%であった。 次に試験例を示して本発明を詳細に説明する。[試験例1] 本試験は、ラクトパーオキシダーゼのシステインプロテアーゼに対する阻害効果を測定するために行った。(1)試験方法 試験試料として市販のウシラクトパーオキシダーゼ(シグマ社製)を使用し、システインプロテアーゼであるパパイン(和光純薬工業社製)に対してシステインプロテアーゼ阻害活性を測定した。阻害活性の測定方法はBarrett等の方法[メソッド・イン・エンザイモロジー(Methods in Enzymology)、第80巻、第535〜561ページ、1981年]を参考にして、次のとおり行った。即ち、0.1M酢酸緩衝液(pH5.5)に種々の濃度に溶解したウシラクトパーオキシダーゼに、基質としてZ-Phe-Arg-MCA(Benzyloxycarbonyl-L-Phenylalanyl-L-Arginine 4-Methyl-Coumaryl-7-Amide:最終濃度20mM:ペプチド研究所社製)を添加し、各サンプルにつきパパイン溶液(最終濃度:15units/ml)を添加して混合し、37℃で10分間反応させた後、消化を受けた基質から遊離したAMC(7-Amino-4-Methyl-Coumarin)の蛍光強度(励起波長:370nm、発光波長:460nm)を蛍光分光度計(日立製作所製)を用いて測定した。(2)試験結果 試験の結果は、図1に示すとおりである。図1は、パパインに対するウシラクトパーオキシダーゼの阻害効果(パパイン残存活性)を示す図であるが、パパインに基づくシステインプロテアーゼ活性は、ウシラクトパーオキシダーゼの濃度が10-6Mで94%、10-5Mでほぼ完全に阻害された。従って、ウシラクトパーオキシダーゼは、パパインに対してシステインプロテアーゼ阻害活性を有することが判明した。 次に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。 乳糖(メグレ社製)600g、トウモロコシデンプン(日清製粉社製)400g、結晶セルロース(和光純薬工業社製)400g及びラクトパーオキシダーゼ600gを50メッシュのふるい(ヤマト科学社製)により篩い分けし、厚さ0.5mmのポリエチレン製の袋にとり、転倒混合し、全自動カプセル充填機(セセレ・ペディーニ社製。プレス式)を用い、前記粉末をカプセル(日本エランコ社製。1号ゼラチンカプセル、Op. Yellow No.6 Body、空重量75mg)に内容量275mgで充填し、システインプロテアーゼ阻害活性を有するカプセル剤7000個を得た。 乳糖(ミライ社製)7.5kg、脱脂粉乳(森永乳業社製)2.5kg、脱塩ホエー(ドモ社製)1kg、カゼインナトリウム(ニュージーランド・デイリー・ボード社製)0.5kg、および少量の水溶性ビタミンとミネラルを水50kgに溶解し、水相をタンク内に調製した。これとは別に、植物油1.96kg(太陽油脂社製)、レシチン(味の素社製)0.04kg、及び少量の脂溶性ビタミンを混合溶解し、油相を調製した。タンク内の水相に油相を添加して混合し、70℃に加温した後、ホモゲナイザーにより14.7MPaの圧力で均質化した。次いで、90℃で10分間殺菌した後、濃縮し、噴霧乾燥して、中間製品粉末約12kgを調製した。この中間製品粉末2kgに参考例の方法で製造したウシラクトパーオキシダーゼ40gを添加し、ミキサーで均一に混合し、システインプロテアーゼ阻害活性を有する調製粉乳約2kgを製造した。 ホエー蛋白酵素分解物(森永乳業社製)10.8kg、デキストリン(昭和産業社製)36kg、および少量の水溶性ビタミンとミネラルを水200kgに溶解し、水相をタンク内に調製した。これとは別に、大豆サラダ油(太陽油脂社製)3kg、パーム油(太陽油脂社製)8.5kg、サフラワー油(太陽油脂社製)2.5kg、レシチン(味の素社製)0.2kg、脂肪酸モノグリセリド(花王社製)0.2kg、及び少量の脂溶性ビタミンを混合溶解し、油相を調製した。タンク内の水相に油相を添加し、攪拌して混合した後、70℃に加温し、更に、ホモゲナイザーにより14.7MPaの圧力で均質化した。次いで、90℃で10分間殺菌した後、濃縮し、噴霧乾燥して、中間製品粉末約59kgを調製した。この中間製品粉末50kgに、蔗糖(ホクレン社製)6.8kg、アミノ酸混合粉末(味の素社製)167g、およびラクトパーオキシダーゼ(バイオポール社製)60gを添加し、均一に混合して、システインプロテアーゼ阻害活性を有する経腸栄養食粉末約56kgを製造した。 ラクトパーオキシダーゼ(バイオポール社製)150g、ラクチュロース粉末(森永乳業社製)100g、マルツデキストリン(松谷化学工業社製)635g、脱脂粉乳(森永乳業社製)85g、ステビア甘味料(三栄源エフ・エフ・アイ社製)1g、ヨーグルト・フレーバー(三栄源エフ・エフ・アイ社製)5g、グリセリン脂肪酸エステル製剤(理研ビタミン社製)24gの各粉末を添加して均一に混合し、打錠機(畑鉄鋼所社製)を使用して、錠剤1錠当り0.5gとし、12錠/分の打錠速度、9.8kPaの圧力で前記混合粉末を連続的に打錠し、システインプロテアーゼ阻害活性を有するタブレット1800錠(約900g)を製造した。 本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤は、その有効成分が乳タンパク質等の食品素材に含まれ、ヒトに対する安全性が高く、飲食品組成物として経口的に摂取することが可能であるので、システインプロテアーゼ活性に起因する疾患の予防及び/又は治療に効果を有する新規な機能性食品、栄養補助食品、又は特定保健用食品等の製造等の用途に利用することが可能である。また、本発明のシステインプロテアーゼ阻害剤は、食品中に含まれるプロテアーゼの活性を制御することが可能であることから、食品加工の分野において、食品の物性の調節剤として利用できる。ラクトパーオキシダーゼを有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤。システインプロテアーゼに起因する疾患の予防及び/又は治療に効果を有する請求項1に記載のシステインプロテアーゼ阻害剤。システインプロテアーゼに起因する疾患が、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、歯周病、乳癌、前立腺癌、及び細菌・ウイルス感染症である請求項2に記載のシステインプロテアーゼ阻害剤。請求項1〜3のいずれか一項に記載のシステインプロテアーゼ阻害剤を添加してなる飲食品組成物又は飼料組成物。 【課題】安全性に優れ、安価で大量に生産することが可能であり、システインプロテアーゼの活性を効果的に阻害する作用を有するシステインプロテアーゼ阻害剤を提供する。【解決手段】乳中に含まれるラクトパーオキシダーゼを有効成分として含有するシステインプロテアーゼ阻害剤を製造し、さらに該システインプロテアーゼ阻害剤を添加してなる飲食品組成物又は飼料組成物を製造する。システインプロテアーゼに起因する疾患が、骨粗鬆症、悪性腫瘍性高カルシウム血症、歯周病、乳癌、前立腺癌、及び細菌・ウイルス感染症に有効である。【選択図】図1配列表