生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_魚卵タンパク質の高感度検出方法
出願番号:2009108328
年次:2009
IPC分類:G01N 33/53,G01N 33/543,G01N 33/08,G01N 33/12


特許情報キャッシュ

佐伯 宏樹 清水 裕 織田 浩司 清木 興介 JP 2009288238 公開特許公報(A) 20091210 2009108328 20090427 魚卵タンパク質の高感度検出方法 国立大学法人 北海道大学 504173471 株式会社マルハニチロ食品 000233620 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 田中 夏夫 100111741 佐伯 宏樹 清水 裕 織田 浩司 清木 興介 JP 2008118487 20080430 G01N 33/53 20060101AFI20091113BHJP G01N 33/543 20060101ALI20091113BHJP G01N 33/08 20060101ALI20091113BHJP G01N 33/12 20060101ALI20091113BHJP JPG01N33/53 DG01N33/543 545DG01N33/543 545HG01N33/08G01N33/12 11 OL 16 本発明は、食品中のアレルゲンタンパク質等の特定のタンパク質を測定する方法に関する。具体的には、本発明は食品中の魚卵タンパク質を測定する方法に関する。 近年、アレルギー疾患の増加が社会問題となっており、特に食物を原因とするアレルギーについては小児のみでなく、成人においても増加の傾向があることが明らかになってきた。 アレルギー疾患のひとつである食物アレルギーは、食物が原因となって湿疹、蕁麻疹、下痢、口腔内違和感、喘鳴等のアレルギー症状を呈する疾患のことである。圧倒的に小児期に多く認められるが、成人においても患者数は増加している。原因となる食品には様々なものが報告されているが、食品よっては重篤なアナフィラキシーショックを認めるケースもあり注意が必要である。重篤な食物アレルギー患者の場合、アナフィラキシーショックは舐める程度でも引き起こされるので、このような患者は情報提供がない限り従来の市販食品を食べることができないのが実状であった。 つまり、従来の食品表示には、微量しか含まれない原材料や、加工食品を原材料とした場合の加工食品原材料の原材料については表示がなされていなかったため、直接問い合わせる等しなければ、患者が除去しなければならない食品が含まれるのかどうかを判断することができなかった。よって、患者の食品の選択の幅は狭められ、日常の食生活に大きな影響があった。 このような状況を改善し、消費者の健康危害の発生を防止する観点から、平成13年4月に厚生労働省は食品衛生法施行規則の一部改正を行った。これにより「アレルギー物質を含む食品の表示」制度が開始し、1年間の猶予期間を経て、平成14年4月から本格的に施行された。この制度に基づき、アレルギーを起こす可能性のある食品については原材料表示が義務付けられる(特定原材料5品目)、あるいは推奨される(特定原材料に準ずる推奨20品目)こととなった。 特定原材料に準ずる推奨20品目に含まれるイクラは主にシロザケの卵であるが、近年イクラを中心とした魚卵アレルギー患者の数が増加している。即時型食物アレルギー患者を対象とした平成17年度の全国モニタリング調査においては、魚卵は原因食物の第6位(全体の4%)と、ピーナツ(第7位)、魚類(第8位)、そば(第9位)、大豆(第10位)よりも上位にランクされることが明らかとなった(非特許文献1を参照)。また、イクラ以外の魚卵としては、スケトウダラの卵であるタラコ、トビウオの卵であるトビッコ等が食物アレルギーの原因となることが報告されている(非特許文献2を参照)。 魚卵は卵膜と卵黄よりなり、卵白はない。卵黄のタンパク質はビテロジェニン由来である。エストロジェンにより肝臓内で合成されたビテロジェニンは血中に分泌され、それが卵内に取り込まれる。そのビテロジェニンがカテプシンD様酵素によりリポビテリン、ホスビチン、および硬骨魚類特有の卵黄タンパク質であるβ’-componentと呼ばれるタンパク質に解裂され蓄積する。イクラアレルギー患者血清を用いた検討により、少なくともイクラにおいてはβ’-componentがメジャーアレルゲンであると考えられている(非特許文献3を参照)。 アレルギー物質を含む食品の適切な表示のためには、各種加工食品中の魚卵原材料を高感度かつ特異的に検出する方法が必要であると考えられるが、これまでにイクラをはじめとした魚卵の検査法については全く報告されていない状況であった。今井孝成ら、第57回日本アレルギー学会秋季学術大会、アレルギー、56、952、2007渡辺和彦ら、魚卵アレルギーに対するCAP-RASTの有用性の検討、アレルギー、50、309、2001中村晋、飯倉洋治編、最新食物アレルギー、永井書店、大阪、pp.252-256、2002 食品中に含まれるイクラをはじめとした特定の魚種の魚卵タンパク質を、特異的に精度よく高感度に検出できる方法を提供することが、本発明の課題である。 本発明は食品中に含まれる特定の魚種の魚卵タンパク質を、特異的に精度よく高感度に検出するための免疫学的方法であって、複数種類の動物を免疫して抗体を調製し、得られた抗体を組み合わせると共に、検体の抽出に用いる緩衝液に界面活性剤と還元剤を添加することによって、目的とする特定の魚種に特異的で高感度な測定系を構築することを可能とする。具体的には、抗体の作製に用いる免疫動物として例えばウサギとラットを用いてそれぞれ抗体を調製し、ウサギ抗体とラット抗体を組み合わせてサンドイッチELISA系を構築する。また、検体の抽出に用いる緩衝液に例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)と2-メルカプトエタノール(2-ME)などを添加する。こうして得られた検体を前記サンドイッチELISA系で測定することによって、特定の魚種に対する特異性を向上させると共に、魚卵タンパク質を高感度で検出することが可能となった。 すなわち、本発明は以下のとおりである。[1] 食品中に含まれる特定の魚種の魚卵タンパク質をサンドイッチ免疫学的測定法により特異的に検出する方法であって、魚卵タンパク質を抽出し、該魚卵タンパク質に対する2種類の抗体を用い、該2種類の抗体の組合せが下記の(a)または(b)の組合せである、方法:(a) 固相化する一次抗体がウサギ由来抗体であり、一次抗体に結合した魚卵タンパク質に結合する二次抗体がラット由来抗体である;(b) 固相化する一次抗体がラット由来抗体であり、一次抗体に結合した魚卵タンパク質に結合する二次抗体がラット由来抗体である。[2] ELISAである[1]の方法。[3] 特定の魚種がサケ科魚類である[1]または[2]の方法。[4] 特定の魚種がタラ科魚類である[1]または[2]の方法。[5] 魚卵タンパク質がβ’-componentである[1]〜[4]のいずれかの方法。[6] 二次抗体が酵素標識抗体である[1]〜[5]のいずれかの方法。[7] 魚卵タンパク質の抽出に用いる緩衝液および/または抗原抗体反応を行う際の緩衝液に界面活性剤と還元剤を添加することを特徴とする、[1]〜[6]のいずれかの方法。[8] 界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウム、Tween20(Polyoxyethylene(20) sorbitan monolaurate)およびTriton X-100(Polyoxyethylene(10) octylphenyl ether)からなる群から選択され、還元剤が2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、亜硫酸ナトリウムおよびTris (2-carboxymethyl) phosphineからなる群から選択される、[7]の方法。[9] 少なくとも、ウサギ由来またはラット由来の抗シロザケ由来β’-component抗体を固相化した担体、ラット由来の抗シロザケ由来β’-component抗体、ならびに界面活性剤および還元剤を含む魚卵タンパク質抽出用試薬、を含む食品中に含まれるシロザケ魚卵タンパク質を特異的に検出するためのELISA用キット。[10] ラット由来の抗シロザケ由来β’-component抗体が酵素標識抗体である[9]のELISAキット。[11] 界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウム、Tween20(Polyoxyethylene(20) sorbitan monolaurate)およびTriton X-100(Polyoxyethylene(10) octylphenyl ether)からなる群から選択され、還元剤が2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、亜硫酸ナトリウムおよびTris (2-carboxymethyl) phosphineからなる群から選択される、[9]または[10]のELISAキット。 本発明の方法により、食品中に含まれるイクラをはじめとした特定の魚種の魚卵タンパク質を、特異的に精度よく高感度に検出することが可能となる。特に、抗体としてシロザケβ’-componentに対する抗体(以後、抗-(β’-component)抗体を、a-βとする)を 用い、一次抗体に結合した魚卵タンパク質に結合する二次抗体としてラット由来抗体を用いた場合、食品中に含まれるイクラを特異的に検出することができる。シロザケ、スケトウダラ、ニシン、アサバカレイ、ババカレイ、カペリンの各種魚卵より抽出液を調製し、ウサギa-β を用いてウェスタンブロット分析を行った結果を示す図である。シロザケのみならずニシンを除く全ての魚種にβ’-componentと免疫交差性を示す成分を検出した。一次抗体として未標識のウサギa-βを用い、二次抗体としてビオチン標識ウサギa-βを用いてサンドイッチELISA系を構築し、各種魚卵抽出物(YEx)を測定した結果を示す図である。本サンドイッチELISA系においては、シロザケYExとスケトウダラYExが顕著に反応性を示し、特に前者に対する反応性が高かった。一方、アサバカレイ、ババカレイ、カペリンのYExはほとんど反応性を示さなかった。一次抗体として未標識のラットa-βを用い、二次抗体として未標識のウサギa-βを用い、三次抗体としてHRP標識抗-ウサギIgG抗体を用いてサンドイッチELISA系を構築し、各種魚卵抽出物(YEx)を測定した結果を示す図である。本サンドイッチELISA系においては、6種類のYExのうちシロザケYExに強い反応性を示す一方、その他の魚種に対する反応性は殆ど認められなかったが、スケトウダラYExの濃度が50 ng/ml以上になると明瞭な反応シグナルが観察された。一次抗体として未標識のウサギa-βを用い、二次抗体として未標識のラットa-βを用い、三次抗体としてHRP標識抗-ラットIgG抗体を用いてサンドイッチELISA系を構築し、各種魚卵抽出物(YEx)を測定した結果を示す図である。本サンドイッチELISA系においては、シロザケYExのみが濃度依存的に強い反応性を示し、スケトウダラを含むその他の魚種に対する反応性は極めて低いことが明らかとなった。一次抗体として未標識のウサギa-βを用い、二次抗体としてHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いてサンドイッチELISA系を構築し、各種魚卵抽出物(YEx)を測定した結果を示す図である。本サンドイッチELISA系においては、シロザケYExのみに強い反応性を示すと共に、ブランク値が低減されることが確認された。一次抗体として未標識のラットa-βを用い、二次抗体としてHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いてサンドイッチELISA系を構築し、各種魚卵抽出物(YEx)を測定した結果を示す図である。本サンドイッチELISA系においてもシロザケYExに高い特異性を示し、かつブランク値が低減されたが、図5に記載の一次抗体にウサギa-βを用いた系と比べると本系の感度は低かった。一次抗体にウサギa-β、二次抗体にHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いたサンドイッチELISA系を構築し、特定原材料抽出用試薬によって抽出した6魚種の魚卵抽出物(AEx)を測定した結果を示す図である。シロザケAExの反応シグナルは濃度依存的に増加して十分に強いシグナルが検出されたが、スケトウダラAExはこの濃度範囲でほとんど検出されなかった。一次抗体にウサギa-β、二次抗体にHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いたサンドイッチELISA系を構築し、特定原材料抽出用試薬で抽出した各種魚卵のAExを、同試薬の使用説明書に従って20倍に希釈しただけの高いタンパク質濃度のまま(すなわち魚卵ホモジネートを400倍希釈した試料)測定した結果を示す図である。この場合、シロザケ以外のAExでは反応シグナルが全く観察されなかった。一次抗体として未標識のラットa-βを用い、二次抗体としてHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いたサンドイッチELISA系を構築し、特定原材料抽出用試薬によって抽出した6魚種の魚卵抽出物(AEx)を測定した結果を示す図である。図7に記載の一次抗体にウサギa-β、二次抗体にHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いた系と同様に、シロザケAExのみに極めて高い特異性を示したが、本系の感度は一次抗体にウサギa-βを用いた系に比べて劣っていることが明らかとなった。一次抗体にウサギa-β、二次抗体にHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いたサンドイッチELISA系を構築し、界面活性剤は含むが還元剤は含まない抽出用試薬で抽出した各種魚卵のAEx(-)を、特定原材料抽出用試薬の使用説明書に従って20倍に希釈しただけの高いタンパク質濃度のまま(すなわち魚卵ホモジネートを400倍希釈した試料)測定した結果を示す図である。この場合、シロザケ以外の全てのAEx(-)でも交差反応性が認められた。 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明においては、被測定対象食品として、動物由来の肉を含む食品や植物を含む加工食品が挙げられる。動物としては、哺乳類、鳥類、魚類、甲殻類、軟体類等に属する動物が挙げられる。また、乳や食用鳥卵を含む食品も対象となる。植物としては米穀類、小麦等の麦類、そば等の雑穀類、大豆等の豆類、穀粉・豆粉等の粉類、でん粉類、果実類、野菜類等が対象となる。 加工食品としては、日本標準商品分類が定めるところの農産加工食品(日本標準商品分類番号72、野菜加工品、めん・パン類、穀類加工品、菓子類等)、畜産加工食品(同73、肉製品、酪農製品、加工卵製品等)、水産加工食品(同74、加工魚介類、加工海藻類)、その他の食料品(同75、調味料およびスープ、調理食品)、飲料、氷および製造たばこ(同76、アルコールを含まない飲料等)が挙げられる。 検査の対象となる魚種としては、サケ科のシロザケ(イクラ)、タラ科のスケトウダラ(タラコ)、ニシン科のニシン(カズノコ)、カレイ科のアサバカレイやババカレイ、キュウリウオ科のカペリンやシシャモ、トビウオ科のトビウオ(トビッコ)等が挙げられ、本発明はこれらの魚種の魚卵を測定する。尚、ここでいう魚種とは必ずしも分類学上の種(Species)を指すとは限らず、属(Genus)あるいは科(Family)であっても良い。すなわち、例えばサケ科の魚の場合、サケ科に属する種全体、サケ科イトウ属に属する種(イトウ等)全体、サケ科イワナ属に属する種(イワナ、オショロコマ、ブルックトラウト等)全体、サケ科サルモ属に属する種(アトランティックサーモン、ブラウントラウト等)全体、サケ科サケ属に属する種(シロザケ(サケ)、ニジマス、サクラマス、カラフトマス、ギンザケ、ベニザケ、キングサーモン等)全体が対象となる。同様に、タラ科にはコマイ属、スケトウダラ属、マダラ属、ミナミダラ属、ラニケプス属、Arctogadus属、Boreogadus属、Gadiculus属、Melanogrammus属、Merlangius属、Microgadus属、Pollachius属、Trisopterus属があり、タラ科に属する種全体、上記それぞれの属に属する種全体が対象となる。この中でも、シロザケ、ニジマス、サクラマス、カラフトマス、ギンザケ、ベニザケ、キングサーモンの魚卵が好ましく、特にシロザケの魚卵が好ましい。 測定対象となる魚卵タンパク質としては特に限定されず、魚卵中に含まれるあらゆるタンパク質が対象となり得る。例えば、ヒトに対してアレルゲンとなり得るタンパク質等が挙げられる。このような、ヒトに対してアレルゲンとなり得る魚卵タンパク質としては、魚卵の卵黄に含まれるビトロジェニン由来のβ’-component、リポビテリン、ホスビチン等が挙げられる。この中でも、β’-componentが好ましい。 測定対象となる食品から、タンパク質を抽出し、測定する。タンパク質の抽出は、ブレンダー、ホモジナイザー、フードカッター等を用いて食品をホモジナイズし、抽出用試薬を添加し、数時間から十数時間静置するか、または振盪することにより行なう。抽出用試薬に用いる緩衝液は限定されないが、例えば、トリス緩衝液、リン酸緩衝液を用いればよく、さらに、NaClやウシ血清アルブミン(以後BSAとする)等の血清アルブミンを含んでいてもよい。本発明では、このような抽出用試薬にドデシル硫酸ナトリウム(SDS; Sodium dodecyl sulfate)やTween20(登録商標)(Polyoxyethylene(20) sorbitan monolaurate)、Triton X-100(登録商標)(Polyoxyethylene(10) octylphenyl ether)等の界面活性剤、ならびに2-メルカプトエタノール(2-ME)、ジチオトレイトール(DTT)、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、Tris (2-carboxymethyl) phosphine等の還元剤を添加することが好ましい。界面活性剤および還元剤を添加することにより、魚種特異的に魚卵タンパク質を測定することが可能になる。アレルゲン抽出用試薬として市販されている特定原材料抽出用試薬(森永生科学研究所、FASPEK/Extraction Reagent For Specified Ingredient、Watanabe Y. et al.、Journal of Immunological Methods、300、115-123、2005。組成:トリス緩衝液に BSA, SDSおよび2-MEを含む)を用いても良い。抽出試薬に含まれる界面活性剤の濃度は0.2〜2 %、好ましくは0.5〜1 %、還元剤の濃度は1〜10 %、好ましくは2〜7 %である。界面活性剤としては、SDSが好ましく、還元剤としては2-MEや亜硫酸ナトリウム等が好ましい。タンパク質の抽出の際には、食品1 gに対して、5〜50 mL、好ましくは10〜30 mL、さらに好ましくは15〜25 mLの抽出用試薬を添加すればよい。抽出後、遠心分離を行い上清を回収し、得られた上清を測定に用いる。この際、上清はろ紙を用いてろ過するのが好ましい。 上清中のタンパク質の測定は、被測定タンパク質に対する抗体を用いた免疫学的測定法により測定すればよい。例えば、被測定タンパク質がβ’-componentの場合、抗-(β’-component)抗体を用いればよい。本発明においては、特定の魚種の魚卵タンパク質に対する特異性と感度を高めるために、抗体作製に用いる免疫動物を選択し、場合によっては複数の免疫動物を組み合わせて用いる。抗体作製に用いる免疫動物としては、ウマ、サル、イヌ、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、ラット、モルモット、ハムスター、マウス等の哺乳動物、あるいはハトやニワトリ等の鳥類が挙げられるが特に限定されない。免疫は、既存の方法であれば何れの方法をも用いることができるが、主として静脈内、皮下、腹腔内に抗原を注入するのが好ましい。また、免疫の間隔も特に限定されず、数日から数週間間隔で、好ましくは1週間〜3週間間隔で、2〜10回免疫する。抗原は、魚卵から公知の方法で精製することができる。例えば、β’-componentをシロザケ魚卵(イクラ)から精製して用いることができる。 抗体価の上昇した免疫動物より採血し、得られた血清を室温あるいは4℃で放置した後、遠心分離を行うことによりポリクローナル抗体を含む血清が得られる。得られたポリクローナル抗体を含む血清はそのまま用いることもできるが、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、プロテインAやプロテインG等を固定化した担体を用いるアフィニティークロマトグラフィー、分子ふるいクロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択して、またはこれらを組み合わせることによって抗体画分を精製することが好ましい。 本発明では、このように調製したポリクローナル抗体を用いてサンドイッチ免疫学的測定系を構築する。サンドイッチ免疫学的測定法としては、サンドイッチ放射免疫測定法(RIA法)、サンドイッチ酵素免疫測定法(EIA法)、サンドイッチ蛍光免疫測定法(FIA法)、サンドイッチ発光免疫測定法(CLIA法)、サンドイッチ発光酵素免疫測定法(CLEIA法)、サンドイッチ法に基づく免疫クロマトグラフ法などの全てのサンドイッチ免疫測定法が挙げられる。この中でも、EIA法であるELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)が好ましい。以下ELISAについて述べるが、他のサンドイッチ免疫学的測定法も測定しようとする抗原を2種類の抗体でサンドイッチするという点では同じであり、当業者ならば適宜系を構築することができる。捕捉用抗体(一次抗体)として未標識のポリクローナル抗体を、96ウェルマイクロタイタープレートやポリスチレンビーズ等の担体に固相化する。また、検出用抗体(二次抗体)には、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)やアルカリフォスファターゼ(ALP)等の酵素、FITC等の蛍光物質、またはビオチン等で標識したポリクローナル抗体を用いる。この場合、抗体分子をペプシンで消化して得られたFab’フラグメントに酵素などを標識することもできる。あるいは未標識の二次抗体を反応させた後、該二次抗体に特異的に結合する抗体を酵素や蛍光物質等で標識したものを検出用の三次抗体として用いて反応させることもできる。このように各種免疫動物より調製したポリクローナル抗体を一次抗体や二次抗体として用いて、通常の方法に従ってサンドイッチELISAを実施し、被測定タンパク質に高い特異性を示すポリクローナル抗体を選択する。この際、一次抗体と二次抗体の免疫動物は同一でもよいし、異なっていてもよい。なお、ビオチンで標識したポリクローナル抗体を用いた場合、魚卵中に存在するビオチンの影響を受けることがある。この場合は、二次抗体にビオチンで標識した抗体を用いずに、二次抗体に標識しない抗体を用い、三次抗体として二次抗体に対して結合する標識抗体(例えば、二次抗体がウサギ抗体の場合は、酵素標識抗-ウサギIgG抗体)を用いるか、あるいは二次抗体として魚卵タンパク質に対する抗体、あるいはそのFab'等の機能性断片を酵素で標識したものを用いればよい。 また、抗原抗体反応を行う際の緩衝液に、抽出試薬由来の界面活性剤および還元剤が含まれていてもよい。この場合の界面活性剤の濃度は0.01〜0.1 %、好ましくは0.025〜0.05 %、還元剤の濃度は0.05〜0.5 %、好ましくは0.1〜0.35 %である。界面活性剤としては、SDSが好ましく、還元剤としては2-MEや亜硫酸ナトリウム等が好ましい。すなわち、本発明の測定法においては、魚卵タンパク質の抽出に用いる緩衝液および/または抗原抗体反応を行う際の緩衝液に界面活性剤および還元剤を添加する。 このようにして、複数種類の動物を免疫して抗体を調製し、得られた抗体を組み合わせると共に、検体の抽出に用いる緩衝液および/または抗原抗体反応を行う際の緩衝液に界面活性剤と還元剤を添加することによって、加工食品中に含まれるサケ科やタラ科等の特定の魚種の魚卵タンパク質を、特異的に精度よく高感度に検出することが可能となる。 本発明の一態様において、食品中のシロザケの魚卵タンパク質を特異的に測定する。該測定において、ELISA用タイタープレートに固相化する一次抗体と二次抗体の組合せとして、ウサギ抗シロザケβ’-component抗体とラット抗シロザケβ’-component抗体の組合せまたはラット抗シロザケβ’-component抗体とラット抗シロザケβ’-component抗体の組合せが挙げられる。前者の組合せでは、二次抗体として、標識しない抗体を用い、三次抗体として標識抗ラットIgG抗体を用いてもよいし、二次抗体として標識したラット抗シロザケβ’-component抗体を用いれば何れの組み合わせにも適用できる。この場合、例えば、シロザケ魚卵を特異的に検出することができ、スケトウダラ、ニシン、アサバカレイ、ババカレイおよびカペリン魚卵を検出することはない。 本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例1 各種抗体の調製(1)ウサギおよびラット抗-(β’-component)抗体の調製 シロザケよりβ’-componentを精製し、常法によりウサギに免疫した。得られた抗血清を精製リポビテリンにより吸収し、β’-componentに対する特異性を高めた。本抗血清をHiTrap Protein A HPカラム(GE Healthcare社製)に供してIgG画分を精製し、ウサギ抗-(β’-component)抗体(以後、抗-(β’-component)抗体を、a-βとする)を得た。 また、シロザケより精製したβ’-componentを常法によりラットに免疫し、得られた抗血清をHiTrap Protein G HPカラムに供してIgG画分を精製し、ラットa-βを得た。(2)標識抗体の調製 ウサギa-βをSulfo-NHS-LC-Biotin(PIERCE社製)でビオチン化した。未反応のビオチンは脱塩用PD-10カラム(GE Healthcare社製)を用いて除去し、ビオチン標識ウサギa-βを得た。 また、ラットa-βをペプシン処理してF(ab’)2フラグメントを調製し、マレイミド法によって西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)で標識し、HRP-Fab’フラグメントを得た。実施例2 ウェスタンブロット分析による特異性の検討 シロザケ、スケトウダラ、ニシン、アサバカレイ、ババカレイ、カペリンの各種魚卵より抽出液を調製し、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。ゲル中のタンパク質をPVDF膜に転写し、各種抗体を用いてウェスタンブロット分析を行った。 ウサギa-βを用いた場合、シロザケのみならずニシンを除く全ての魚種にβ’-component(図1中、分子量約20kD以下のバンド。魚種により分子量は異なる)と免疫交差性を示す成分を検出した。すなわち本抗体は広範な魚種の魚卵タンパク質に反応性を示す可能性が示唆された(図1)。実施例3 各種魚卵抽出物の調製(1)YExの調製 シロザケ、スケトウダラ、ニシン、アサバカレイ、ババカレイ、カペリンの各種魚卵に0.5 M NaCl, 20 mM Tris-HCl(pH 8.0)を加えてホモジナイズした後、遠心分離(20,000×g、15分間)によって不溶物を除去して得られた抽出物をYExとした。得られたYExのタンパク質濃度はProtein assay rapid kit(和光純薬工業株式会社製)によって測定した。(2)AExの調製 シロザケ、スケトウダラ、ニシン、アサバカレイ、ババカレイ、カペリンの各種魚卵をホモジナイズして1 gを秤量し、高濃度の界面活性剤と還元剤を含む特定原材料抽出用試薬(森永生科学研究所製)19 mLを加えて良く分散させた後、室温にて12時間振盪抽出した。得られた抽出液を3,000×gで20分間遠心分離し、その上清をろ過して得られたろ液をAExとした。得られたAExのタンパク質濃度は、2-D Quant Kit(GE Healthcare社製)によって測定した。実施例4 ウサギa-βによるサンドイッチELISA 一次抗体として未標識のウサギa-βを96ウェルマイクロタイタープレートに固相化し、BSAを含む緩衝液でブロッキングした後、各種魚卵抽出物(YEx)を添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、二次抗体としてビオチン標識ウサギa-βを添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、Streptavidin-HRP conjugate(Tagoimmunologicals社製)を添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、発色用基質(3, 3’, 5, 5’-テトラメチルベンジジン、以後TMBとする)を添加して20分間インキュベートした。1 mol/L硫酸を加えて酵素反応を停止させ、プレートリーダーで450 nmの吸光度を測定した。 本サンドイッチELISA系においては、シロザケYExとスケトウダラYExが顕著に反応性を示し、特に前者に対する反応性が高かった(図2)。一方、アサバカレイ、ババカレイ、カペリンのYExはほとんど反応性を示さなかった。実施例2のウェスタンブロット分析では、ニシンを除くすべてのYEx中にウサギa-βと反応するタンパク質バンドの存在を見いだしていたので、ウサギa-βを用いたサンドイッチELISA系による魚卵タンパク質の検出では、同じ抗体を用いたウェスタンブロット分析に比べて、魚種間の反応性の差が大きくなるものと考えられた。 また、魚卵中にはビオチンが存在していることが報告されており、またビオチンは、しばしばタンパク質に結合した状態で存在することが知られている。そこで、本サンドイッチELISA系における魚卵含有ビオチンの影響について検討するため、シロザケとスケトウダラのYExに脱ビオチン処理を施してから、測定に供した。その結果、シロザケYEx、スケトウダラYExともに、大幅に反応性が減少することが確認された(結果は省略)。さらに両YExを脱ビオチン処理すると、タンパク質回収率が85%程度まで低下することも明らかとなった。これらの結果は、YEx中にβ’-componentに結合したビオチンが存在することを示唆している。すなわち本サンドイッチELISA系で得たシロザケYExとスケトウダラYExの反応シグナルは、共存するビオチンの影響を受けているものと思われた。実施例5 ラットa-βとウサギa-βによるサンドイッチELISA 魚種選択性の向上と魚卵含有ビオチンの影響の除去を目指し、一次抗体と二次抗体にウサギとラットのa-βを組み合わせ、さらに三次抗体としてHRP標識抗-ウサギ(またはラット)IgG抗体を用いたサンドイッチ系の構築を行った。(1)ラットa-βを一次抗体とした場合 一次抗体として未標識のラットa-βを96ウェルマイクロタイタープレートに固相化し、BSAを含む緩衝液でブロッキングした後、各種魚卵抽出物(YEx)を添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、二次抗体として未標識のウサギa-βを添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、三次抗体としてHRP標識抗-ウサギIgG抗体(Bio-Rad社製)を添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、発色用基質(TMB)を添加して20分間インキュベートした。1 mol/L硫酸を加えて酵素反応を停止させ、プレートリーダーで450 nmの吸光度を測定した。 本サンドイッチELISA系においては、6種類のYExのうちシロザケYExに強い反応性を示し、その反応シグナル(吸光度)も濃度依存的であった(図3)。一方、その他の魚種に対する反応性は殆ど認められなかったが、スケトウダラYExの濃度が50 ng/ml以上になると明瞭な反応シグナルが観察され、1,000 ng/mlではシロザケYExの1/2の強度に達した。(2)ウサギa-βを一次抗体とした場合 一次抗体として未標識のウサギa-βを96ウェルマイクロタイタープレートに固相化し、BSAを含む緩衝液でブロッキングした後、各種魚卵抽出物(YEx)を添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、二次抗体として未標識のラットa-βを添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、三次抗体としてHRP標識抗-ラットIgG抗体(カルビオケム社製)を添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、発色用基質(TMB)を添加して20分間インキュベートした。1 mol/L硫酸を加えて酵素反応を停止させ、プレートリーダーで450 nmの吸光度を測定した。 本サンドイッチELISA系においては、シロザケYExのみが濃度依存的に強い反応性を示し、スケトウダラを含むその他の魚種に対する反応性は極めて低いことが明らかとなった(図4)。 以上の結果は、異なる生物から得た2種類のa-βを組み合わせてサンドイッチELISAを構築することで、魚種特異的な魚卵検知法が確立できることを示している。実施例6 2次抗体にHRP-Fab’フラグメントを用いたサンドイッチELISA 実施例5において、一次抗体にウサギa-β、二次抗体にラットa-β、三次抗体にHRP標識抗-ラットIgG抗体を用いることにより、魚種特異的なサンドイッチELISA系が確立できることを示したが、この系を実用化するには、3種類の抗体使用による操作の煩雑さとブランク値の上昇(検出精度の向上に関わる)を抑制する必要があった。そこでこれらの問題点を改善するため、二次抗体にHRP-Fab’フラグメント型a-βを用いたアッセイ系を構築することとした。(1)YExとの反応性 一次抗体として未標識のウサギa-βを96ウェルマイクロタイタープレートに固相化し、BSAを含む緩衝液でブロッキングした後、各種魚卵抽出物(YEx)を添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、二次抗体としてHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、発色用基質(TMB)を添加して20分間インキュベートした。1 mol/L硫酸を加えて酵素反応を停止させ、プレートリーダーで450 nmの吸光度を測定した。 本サンドイッチELISA系においては、シロザケYExのみに強い反応性を示すという実施例5(2)の系の特徴を保持しつつ、ブランク値がおよそ1/3にまで低減されることが確認された(図5)。なおスケトウダラYExにおいて、100 ng/ml程度より反応シグナルが現れ、1000 ng/mlでは明確な反応シグナルを得たが、これは2 ng/mlのシロザケYExで観察される程度の弱いものであった。すなわち本系は、実施例5(2)の系の欠点である操作性の改善と、ブランク値の上昇(検知精度の向上に関わる)を抑制した系であると判断した。すなわち、より簡便で安定した測定値が得られるシロザケ魚卵(イクラ)検知系の構築には、HRP-Fab’フラグメント型ラットa-βの導入が極めて有効であることが確認できた。 次いで、一次抗体として未標識のラットa-βを固相化し、二次抗体としてHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いた系で各種魚卵抽出物(YEx)の測定を行った。本サンドイッチELISA系においてもシロザケYExに高い特異性を示し、かつブランク値が低減されることが判明した(図6)。しかし、上記の一次抗体にウサギa-βを用いた系と比べると本系の感度はかなり低く、実用的な測定系の構築には一次抗体にウサギa-βを用いた系の方が適しているものと考えられた。(2)AExとの反応性 特定原材料抽出用試薬によって抽出した6魚種の魚卵抽出物(AEx)を1.6〜1,000 ng/mlの範囲で、上記(1)の一次抗体にウサギa-β、二次抗体にHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いた系に供し、その影響と魚種選択性を評価した。その結果、シロザケAExの反応シグナルは濃度依存的に増加し、十分に強いシグナルが検出された(図7)。さらに、スケトウダラAExは上記の濃度範囲でほとんど検出されなくなった。この結果を踏まえ、特定原材料抽出用試薬で抽出した各AExを、同試薬の使用説明書に従って20倍に希釈しただけの高いタンパク質濃度のまま(すなわち魚卵ホモジネートを400倍希釈した試料)本ELISA系に供したところ(図8)、シロザケ以外のAExでは反応シグナルが全く観察されなかった。 以上の結果は、界面活性剤と還元剤を含む特定原材料抽出用試薬が本サンドイッチELISA系に利用可能であり、さらにこのような抽出用試薬の使用が本系のイクラ等に対する魚種選択性(特異性)向上に寄与することを示している。 更に、一次抗体として未標識のラットa-βを固相化し、二次抗体としてHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いた系で、特定原材料抽出用試薬によって抽出した6魚種の魚卵抽出物(AEx)を測定した。その結果、一次抗体にウサギa-β、二次抗体にHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いた系と同様に、シロザケAExのみに極めて高い特異性を示した。しかし上記(1)のYEx測定時と同様に、本系の感度は一次抗体にウサギa-βを用いた系に比べて大幅に劣っていることが明らかとなった(図9)。 食物アレルギー患者はごく微量のアレルゲン摂取でも症状を呈することがあることから、アレルギーの原因食品の測定系では数mg/kg以下を検出できるような高感度が求められている(Poms RE et al.、Food Addit Contam、21、1-31、2004)。特定原材料抽出用試薬の使用説明書に従って食品中のタンパク質を抽出する場合、食品1 gに対して19 mLの抽出用試薬を添加して抽出を行い(即ち20倍希釈)、得られた抽出液をさらに20倍希釈してELISA測定に供することから、測定時の検体は400倍希釈されていることになる。この場合、検査対象となる食品中に数mg/kg含まれているタンパク質を検出するためには、測定時に数十 ng/mL程度に希釈されたタンパク質を十分測定できる感度が必要となる。このような観点から考えると、二次抗体にHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いた系においては、一次抗体にウサギa-βを用いることによってはじめて実用的な高感度を示すようになると考えられる。比較例1 界面活性剤のみを含む抽出用試薬を用いた検討 実施例6(2)のAExを用いた検討によって、界面活性剤と還元剤を含む抽出用試薬の使用が魚種選択性(特異性)向上に有用であることを示したが、免疫学的測定法において界面活性剤の使用が非特異的反応を抑制することは広く知られている。そこで、界面活性剤のみを含み還元剤を含まない抽出用試薬を用いた場合の魚種選択性について検討を行った。 本検討では、特定原材料抽出用試薬(森永生科学研究所製)から還元剤成分を除いた抽出用試薬(界面活性剤は含む)を用いた。シロザケ、スケトウダラ、ニシン、アサバカレイ、ババカレイ、カペリンの各種魚卵をホモジナイズして1 gを秤量し、界面活性剤を含む抽出用試薬(還元剤は含まない)19 mLを加えて良く分散させた後、室温にて12時間振盪抽出した。得られた抽出液を3,000×gで20分間遠心分離し、その上清をろ過して得られたろ液をAEx(-)とした。6種類のAEx(-)を、特定原材料抽出用試薬の使用説明書に準じて20倍に希釈しただけの高いタンパク質濃度のまま(すなわち魚卵ホモジネートを400倍希釈した試料)本ELISA系(一次抗体にウサギa-β、二次抗体にHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いた系)に供したところ(図10)、シロザケAEx(-)で強い反応性が認められたものの、更に他の魚種においても程度に差はあれ交差反応性が認められることが明らかとなった。 以上の結果より、本系のイクラに対する魚種選択性(特異性)の向上は、従来から知られていたような単なる界面活性剤の非特異的反応抑制効果によるものではなく、界面活性剤と還元剤を組合せることにより交差反応性が抑制されるという新規なメカニズムに基づくものと考えられた。 食品中に含まれる特定の魚種の魚卵タンパク質をサンドイッチ免疫学的測定法により特異的に検出する方法であって、魚卵タンパク質を抽出し、該魚卵タンパク質に対する2種類の抗体を用い、該2種類の抗体の組合せが下記の(a)または(b)の組合せである、方法:(a) 固相化する一次抗体がウサギ由来抗体であり、一次抗体に結合した魚卵タンパク質に結合する二次抗体がラット由来抗体である;(b) 固相化する一次抗体がラット由来抗体であり、一次抗体に結合した魚卵タンパク質に結合する二次抗体がラット由来抗体である。 ELISAである請求項1記載の方法。 特定の魚種がサケ科魚類である請求項1または2に記載の方法。 特定の魚種がタラ科魚類である請求項1または2に記載の方法。 魚卵タンパク質がβ’-componentである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。 二次抗体が酵素標識抗体である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。 魚卵タンパク質の抽出に用いる緩衝液および/または抗原抗体反応を行う際の緩衝液に界面活性剤と還元剤を添加することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。 界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウム、Tween20(Polyoxyethylene(20) sorbitan monolaurate)およびTriton X-100(Polyoxyethylene(10) octylphenyl ether)からなる群から選択され、還元剤が2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、亜硫酸ナトリウムおよびTris (2-carboxymethyl) phosphineからなる群から選択される、請求項7に記載の方法。 少なくとも、ウサギ由来またはラット由来の抗シロザケ由来β’-component抗体を固相化した担体、ラット由来の抗シロザケ由来β’-component抗体、ならびに界面活性剤および還元剤を含む魚卵タンパク質抽出用試薬、を含む食品中に含まれるシロザケ魚卵タンパク質を特異的に検出するためのELISA用キット。 ラット由来の抗シロザケ由来β’-component抗体が酵素標識抗体である請求項9記載のELISAキット。 界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウム、Tween20(Polyoxyethylene(20) sorbitan monolaurate)およびTriton X-100(Polyoxyethylene(10) octylphenyl ether)からなる群から選択され、還元剤が2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、亜硫酸ナトリウムおよびTris (2-carboxymethyl) phosphineからなる群から選択される、請求項9または10に記載のELISAキット。 【課題】食品中に含まれるイクラ等の特定の魚種の魚卵タンパク質を、特異的に精度よく高感度に検出できる方法を提供。【解決手段】食品中に含まれる特定の魚種の魚卵タンパク質をサンドイッチ免疫学的測定法により特異的に検出する方法であって、魚卵タンパク質を抽出し、該魚卵タンパク質に対する2種類の抗体を用い、該2種類の抗体の組合せが下記の(a)または(b)の組合せである、方法:(a) 固相化する一次抗体がウサギ由来抗体であり、一次抗体に結合した魚卵タンパク質に結合する二次抗体がラット由来抗体である;(b) 固相化する一次抗体がラット由来抗体であり、一次抗体に結合した魚卵タンパク質に結合する二次抗体がラット由来抗体である。【選択図】なし20090630A1633000063 特定原材料に準ずる推奨20品目に含まれるイクラは主にシロザケの卵であるが、近年イクラを中心とした魚卵アレルギー患者の数が増加している。即時型食物アレルギー患者を対象とした平成17年度の全国モニタリング調査においては、魚卵は原因食物として、ピーナツ、魚類、そば、大豆よりも上位にランクされることが明らかとなった(非特許文献1を参照)。また、イクラ以外の魚卵としては、スケトウダラの卵であるタラコ、トビウオの卵であるトビッコ等が食物アレルギーの原因となることが報告されている(非特許文献2および3を参照)。


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特許公報(B2)_魚卵タンパク質の高感度検出方法

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_魚卵タンパク質の高感度検出方法
出願番号:2009108328
年次:2010
IPC分類:G01N 33/53,G01N 33/543,G01N 33/08,G01N 33/12


特許情報キャッシュ

佐伯 宏樹 清水 裕 織田 浩司 清木 興介 JP 4568368 特許公報(B2) 20100813 2009108328 20090427 魚卵タンパク質の高感度検出方法 国立大学法人北海道大学 504173471 株式会社マルハニチロ食品 000233620 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 田中 夏夫 100111741 佐伯 宏樹 清水 裕 織田 浩司 清木 興介 JP 2008118487 20080430 20101027 G01N 33/53 20060101AFI20101007BHJP G01N 33/543 20060101ALI20101007BHJP G01N 33/08 20060101ALI20101007BHJP G01N 33/12 20060101ALI20101007BHJP JPG01N33/53 DG01N33/543 545DG01N33/543 545HG01N33/08G01N33/12 G01N 33/53 G01N 33/08 G01N 33/12 G01N 33/543 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開2006−023289(JP,A) 特開2006−194746(JP,A) 特開2007−378773(JP,A) 特開2005−106629(JP,A) 食品中に含まれるアレルギー物質の検査法開発に関する研究 平成18年度 総括・分担研究報告書,2007年,Page.1-12 J Immunol Methods,2005年,Vol.300, No.1-2,Page.115-123 食品中に含まれるアレルギー物質の検査法開発に関する研究 平成18年度 総括・分担研究報告書,2007年,Page.71-83 薬学雑誌,1987年,Vol.107, No.10,Page.739-750 慶応医学,1987年,Vol.64, No.5,Page.571-576 金沢大学十全医学会雑誌,1983年,Vol.92, No.6,Page.789-799 ホルモンと臨床,1982年,Vol.30, No.11,Page.1185-1192 食品中に含まれるアレルギー物質の検査法開発に関する研究 平成19年度 総括・分担研究報告書,2008年,Page.30-40 9 2009288238 20091210 15 20090630 三木 隆 本発明は、食品中のアレルゲンタンパク質等の特定のタンパク質を測定する方法に関する。具体的には、本発明は食品中の魚卵タンパク質を測定する方法に関する。 近年、アレルギー疾患の増加が社会問題となっており、特に食物を原因とするアレルギーについては小児のみでなく、成人においても増加の傾向があることが明らかになってきた。 アレルギー疾患のひとつである食物アレルギーは、食物が原因となって湿疹、蕁麻疹、下痢、口腔内違和感、喘鳴等のアレルギー症状を呈する疾患のことである。圧倒的に小児期に多く認められるが、成人においても患者数は増加している。原因となる食品には様々なものが報告されているが、食品よっては重篤なアナフィラキシーショックを認めるケースもあり注意が必要である。重篤な食物アレルギー患者の場合、アナフィラキシーショックは舐める程度でも引き起こされるので、このような患者は情報提供がない限り従来の市販食品を食べることができないのが実状であった。 つまり、従来の食品表示には、微量しか含まれない原材料や、加工食品を原材料とした場合の加工食品原材料の原材料については表示がなされていなかったため、直接問い合わせる等しなければ、患者が除去しなければならない食品が含まれるのかどうかを判断することができなかった。よって、患者の食品の選択の幅は狭められ、日常の食生活に大きな影響があった。 このような状況を改善し、消費者の健康危害の発生を防止する観点から、平成13年4月に厚生労働省は食品衛生法施行規則の一部改正を行った。これにより「アレルギー物質を含む食品の表示」制度が開始し、1年間の猶予期間を経て、平成14年4月から本格的に施行された。この制度に基づき、アレルギーを起こす可能性のある食品については原材料表示が義務付けられる(特定原材料5品目)、あるいは推奨される(特定原材料に準ずる推奨20品目)こととなった。 特定原材料に準ずる推奨20品目に含まれるイクラは主にシロザケの卵であるが、近年イクラを中心とした魚卵アレルギー患者の数が増加している。即時型食物アレルギー患者を対象とした平成17年度の全国モニタリング調査においては、魚卵は原因食物として、ピーナツ、魚類、そば、大豆よりも上位にランクされることが明らかとなった(非特許文献1を参照)。また、イクラ以外の魚卵としては、スケトウダラの卵であるタラコ、トビウオの卵であるトビッコ等が食物アレルギーの原因となることが報告されている(非特許文献2および3を参照)。 魚卵は卵膜と卵黄よりなり、卵白はない。卵黄のタンパク質はビテロジェニン由来である。エストロジェンにより肝臓内で合成されたビテロジェニンは血中に分泌され、それが卵内に取り込まれる。そのビテロジェニンがカテプシンD様酵素によりリポビテリン、ホスビチン、および硬骨魚類特有の卵黄タンパク質であるβ’-componentと呼ばれるタンパク質に解裂され蓄積する。イクラアレルギー患者血清を用いた検討により、少なくともイクラにおいてはβ’-componentがメジャーアレルゲンであると考えられている(非特許文献3を参照)。 アレルギー物質を含む食品の適切な表示のためには、各種加工食品中の魚卵原材料を高感度かつ特異的に検出する方法が必要であると考えられるが、これまでにイクラをはじめとした魚卵の検査法については全く報告されていない状況であった。今井孝成ら、第57回日本アレルギー学会秋季学術大会、アレルギー、56、952、2007渡辺和彦ら、魚卵アレルギーに対するCAP-RASTの有用性の検討、アレルギー、50、309、2001中村晋、飯倉洋治編、最新食物アレルギー、永井書店、大阪、pp.252-256、2002 食品中に含まれるイクラをはじめとした特定の魚種の魚卵タンパク質を、特異的に精度よく高感度に検出できる方法を提供することが、本発明の課題である。 本発明は食品中に含まれる特定の魚種の魚卵タンパク質を、特異的に精度よく高感度に検出するための免疫学的方法であって、複数種類の動物を免疫して抗体を調製し、得られた抗体を組み合わせると共に、検体の抽出に用いる緩衝液に界面活性剤と還元剤を添加することによって、目的とする特定の魚種に特異的で高感度な測定系を構築することを可能とする。具体的には、抗体の作製に用いる免疫動物として例えばウサギとラットを用いてそれぞれ抗体を調製し、ウサギ抗体とラット抗体を組み合わせてサンドイッチELISA系を構築する。また、検体の抽出に用いる緩衝液に例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)と2-メルカプトエタノール(2-ME)などを添加する。こうして得られた検体を前記サンドイッチELISA系で測定することによって、特定の魚種に対する特異性を向上させると共に、魚卵タンパク質を高感度で検出することが可能となった。 すなわち、本発明は以下のとおりである。[1] 食品中に含まれる特定の魚種の魚卵タンパク質をサンドイッチ免疫学的測定法により特異的に検出する方法であって、魚卵タンパク質を抽出し、該魚卵タンパク質に対する2種類の抗体を用い、該2種類の抗体の組合せが下記の(a)または(b)の組合せである、方法:(a) 固相化する一次抗体がウサギ由来抗体であり、一次抗体に結合した魚卵タンパク質に結合する二次抗体がラット由来抗体である;(b) 固相化する一次抗体がラット由来抗体であり、一次抗体に結合した魚卵タンパク質に結合する二次抗体がラット由来抗体である。[2] ELISAである[1]の方法。[3] 特定の魚種がサケ科魚類である[1]または[2]の方法。[4] 特定の魚種がタラ科魚類である[1]または[2]の方法。[5] 魚卵タンパク質がβ’-componentである[1]〜[4]のいずれかの方法。[6] 二次抗体が酵素標識抗体である[1]〜[5]のいずれかの方法。[7] 魚卵タンパク質の抽出に用いる緩衝液および/または抗原抗体反応を行う際の緩衝液に界面活性剤と還元剤を添加することを特徴とする、[1]〜[6]のいずれかの方法。[8] 界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウム、Tween20(Polyoxyethylene(20) sorbitan monolaurate)およびTriton X-100(Polyoxyethylene(10) octylphenyl ether)からなる群から選択され、還元剤が2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、亜硫酸ナトリウムおよびTris (2-carboxymethyl) phosphineからなる群から選択される、[7]の方法。[9] 少なくとも、ウサギ由来またはラット由来の抗シロザケ由来β’-component抗体を固相化した担体、ラット由来の抗シロザケ由来β’-component抗体、ならびに界面活性剤および還元剤を含む魚卵タンパク質抽出用試薬、を含む食品中に含まれるシロザケ魚卵タンパク質を特異的に検出するためのELISA用キット。[10] ラット由来の抗シロザケ由来β’-component抗体が酵素標識抗体である[9]のELISAキット。[11] 界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウム、Tween20(Polyoxyethylene(20) sorbitan monolaurate)およびTriton X-100(Polyoxyethylene(10) octylphenyl ether)からなる群から選択され、還元剤が2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、亜硫酸ナトリウムおよびTris (2-carboxymethyl) phosphineからなる群から選択される、[9]または[10]のELISAキット。 本発明の方法により、食品中に含まれるイクラをはじめとした特定の魚種の魚卵タンパク質を、特異的に精度よく高感度に検出することが可能となる。特に、抗体としてシロザケβ’-componentに対する抗体(以後、抗-(β’-component)抗体を、a-βとする)を 用い、一次抗体に結合した魚卵タンパク質に結合する二次抗体としてラット由来抗体を用いた場合、食品中に含まれるイクラを特異的に検出することができる。シロザケ、スケトウダラ、ニシン、アサバカレイ、ババカレイ、カペリンの各種魚卵より抽出液を調製し、ウサギa-β を用いてウェスタンブロット分析を行った結果を示す図である。シロザケのみならずニシンを除く全ての魚種にβ’-componentと免疫交差性を示す成分を検出した。一次抗体として未標識のウサギa-βを用い、二次抗体としてビオチン標識ウサギa-βを用いてサンドイッチELISA系を構築し、各種魚卵抽出物(YEx)を測定した結果を示す図である。本サンドイッチELISA系においては、シロザケYExとスケトウダラYExが顕著に反応性を示し、特に前者に対する反応性が高かった。一方、アサバカレイ、ババカレイ、カペリンのYExはほとんど反応性を示さなかった。一次抗体として未標識のラットa-βを用い、二次抗体として未標識のウサギa-βを用い、三次抗体としてHRP標識抗-ウサギIgG抗体を用いてサンドイッチELISA系を構築し、各種魚卵抽出物(YEx)を測定した結果を示す図である。本サンドイッチELISA系においては、6種類のYExのうちシロザケYExに強い反応性を示す一方、その他の魚種に対する反応性は殆ど認められなかったが、スケトウダラYExの濃度が50 ng/ml以上になると明瞭な反応シグナルが観察された。一次抗体として未標識のウサギa-βを用い、二次抗体として未標識のラットa-βを用い、三次抗体としてHRP標識抗-ラットIgG抗体を用いてサンドイッチELISA系を構築し、各種魚卵抽出物(YEx)を測定した結果を示す図である。本サンドイッチELISA系においては、シロザケYExのみが濃度依存的に強い反応性を示し、スケトウダラを含むその他の魚種に対する反応性は極めて低いことが明らかとなった。一次抗体として未標識のウサギa-βを用い、二次抗体としてHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いてサンドイッチELISA系を構築し、各種魚卵抽出物(YEx)を測定した結果を示す図である。本サンドイッチELISA系においては、シロザケYExのみに強い反応性を示すと共に、ブランク値が低減されることが確認された。一次抗体として未標識のラットa-βを用い、二次抗体としてHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いてサンドイッチELISA系を構築し、各種魚卵抽出物(YEx)を測定した結果を示す図である。本サンドイッチELISA系においてもシロザケYExに高い特異性を示し、かつブランク値が低減されたが、図5に記載の一次抗体にウサギa-βを用いた系と比べると本系の感度は低かった。一次抗体にウサギa-β、二次抗体にHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いたサンドイッチELISA系を構築し、特定原材料抽出用試薬によって抽出した6魚種の魚卵抽出物(AEx)を測定した結果を示す図である。シロザケAExの反応シグナルは濃度依存的に増加して十分に強いシグナルが検出されたが、スケトウダラAExはこの濃度範囲でほとんど検出されなかった。一次抗体にウサギa-β、二次抗体にHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いたサンドイッチELISA系を構築し、特定原材料抽出用試薬で抽出した各種魚卵のAExを、同試薬の使用説明書に従って20倍に希釈しただけの高いタンパク質濃度のまま(すなわち魚卵ホモジネートを400倍希釈した試料)測定した結果を示す図である。この場合、シロザケ以外のAExでは反応シグナルが全く観察されなかった。一次抗体として未標識のラットa-βを用い、二次抗体としてHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いたサンドイッチELISA系を構築し、特定原材料抽出用試薬によって抽出した6魚種の魚卵抽出物(AEx)を測定した結果を示す図である。図7に記載の一次抗体にウサギa-β、二次抗体にHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いた系と同様に、シロザケAExのみに極めて高い特異性を示したが、本系の感度は一次抗体にウサギa-βを用いた系に比べて劣っていることが明らかとなった。一次抗体にウサギa-β、二次抗体にHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いたサンドイッチELISA系を構築し、界面活性剤は含むが還元剤は含まない抽出用試薬で抽出した各種魚卵のAEx(-)を、特定原材料抽出用試薬の使用説明書に従って20倍に希釈しただけの高いタンパク質濃度のまま(すなわち魚卵ホモジネートを400倍希釈した試料)測定した結果を示す図である。この場合、シロザケ以外の全てのAEx(-)でも交差反応性が認められた。 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明においては、被測定対象食品として、動物由来の肉を含む食品や植物を含む加工食品が挙げられる。動物としては、哺乳類、鳥類、魚類、甲殻類、軟体類等に属する動物が挙げられる。また、乳や食用鳥卵を含む食品も対象となる。植物としては米穀類、小麦等の麦類、そば等の雑穀類、大豆等の豆類、穀粉・豆粉等の粉類、でん粉類、果実類、野菜類等が対象となる。 加工食品としては、日本標準商品分類が定めるところの農産加工食品(日本標準商品分類番号72、野菜加工品、めん・パン類、穀類加工品、菓子類等)、畜産加工食品(同73、肉製品、酪農製品、加工卵製品等)、水産加工食品(同74、加工魚介類、加工海藻類)、その他の食料品(同75、調味料およびスープ、調理食品)、飲料、氷および製造たばこ(同76、アルコールを含まない飲料等)が挙げられる。 検査の対象となる魚種としては、サケ科のシロザケ(イクラ)、タラ科のスケトウダラ(タラコ)、ニシン科のニシン(カズノコ)、カレイ科のアサバカレイやババカレイ、キュウリウオ科のカペリンやシシャモ、トビウオ科のトビウオ(トビッコ)等が挙げられ、本発明はこれらの魚種の魚卵を測定する。尚、ここでいう魚種とは必ずしも分類学上の種(Species)を指すとは限らず、属(Genus)あるいは科(Family)であっても良い。すなわち、例えばサケ科の魚の場合、サケ科に属する種全体、サケ科イトウ属に属する種(イトウ等)全体、サケ科イワナ属に属する種(イワナ、オショロコマ、ブルックトラウト等)全体、サケ科サルモ属に属する種(アトランティックサーモン、ブラウントラウト等)全体、サケ科サケ属に属する種(シロザケ(サケ)、ニジマス、サクラマス、カラフトマス、ギンザケ、ベニザケ、キングサーモン等)全体が対象となる。同様に、タラ科にはコマイ属、スケトウダラ属、マダラ属、ミナミダラ属、ラニケプス属、Arctogadus属、Boreogadus属、Gadiculus属、Melanogrammus属、Merlangius属、Microgadus属、Pollachius属、Trisopterus属があり、タラ科に属する種全体、上記それぞれの属に属する種全体が対象となる。この中でも、シロザケ、ニジマス、サクラマス、カラフトマス、ギンザケ、ベニザケ、キングサーモンの魚卵が好ましく、特にシロザケの魚卵が好ましい。 測定対象となる魚卵タンパク質としては特に限定されず、魚卵中に含まれるあらゆるタンパク質が対象となり得る。例えば、ヒトに対してアレルゲンとなり得るタンパク質等が挙げられる。このような、ヒトに対してアレルゲンとなり得る魚卵タンパク質としては、魚卵の卵黄に含まれるビトロジェニン由来のβ’-component、リポビテリン、ホスビチン等が挙げられる。この中でも、β’-componentが好ましい。 測定対象となる食品から、タンパク質を抽出し、測定する。タンパク質の抽出は、ブレンダー、ホモジナイザー、フードカッター等を用いて食品をホモジナイズし、抽出用試薬を添加し、数時間から十数時間静置するか、または振盪することにより行なう。抽出用試薬に用いる緩衝液は限定されないが、例えば、トリス緩衝液、リン酸緩衝液を用いればよく、さらに、NaClやウシ血清アルブミン(以後BSAとする)等の血清アルブミンを含んでいてもよい。本発明では、このような抽出用試薬にドデシル硫酸ナトリウム(SDS; Sodium dodecyl sulfate)やTween20(登録商標)(Polyoxyethylene(20) sorbitan monolaurate)、Triton X-100(登録商標)(Polyoxyethylene(10) octylphenyl ether)等の界面活性剤、ならびに2-メルカプトエタノール(2-ME)、ジチオトレイトール(DTT)、亜硫酸ナトリウム(Na2SO3)、Tris (2-carboxymethyl) phosphine等の還元剤を添加することが好ましい。界面活性剤および還元剤を添加することにより、魚種特異的に魚卵タンパク質を測定することが可能になる。アレルゲン抽出用試薬として市販されている特定原材料抽出用試薬(森永生科学研究所、FASPEK/Extraction Reagent For Specified Ingredient、Watanabe Y. et al.、Journal of Immunological Methods、300、115-123、2005。組成:トリス緩衝液に BSA, SDSおよび2-MEを含む)を用いても良い。抽出試薬に含まれる界面活性剤の濃度は0.2〜2 %、好ましくは0.5〜1 %、還元剤の濃度は1〜10 %、好ましくは2〜7 %である。界面活性剤としては、SDSが好ましく、還元剤としては2-MEや亜硫酸ナトリウム等が好ましい。タンパク質の抽出の際には、食品1 gに対して、5〜50 mL、好ましくは10〜30 mL、さらに好ましくは15〜25 mLの抽出用試薬を添加すればよい。抽出後、遠心分離を行い上清を回収し、得られた上清を測定に用いる。この際、上清はろ紙を用いてろ過するのが好ましい。 上清中のタンパク質の測定は、被測定タンパク質に対する抗体を用いた免疫学的測定法により測定すればよい。例えば、被測定タンパク質がβ’-componentの場合、抗-(β’-component)抗体を用いればよい。本発明においては、特定の魚種の魚卵タンパク質に対する特異性と感度を高めるために、抗体作製に用いる免疫動物を選択し、場合によっては複数の免疫動物を組み合わせて用いる。抗体作製に用いる免疫動物としては、ウマ、サル、イヌ、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、ラット、モルモット、ハムスター、マウス等の哺乳動物、あるいはハトやニワトリ等の鳥類が挙げられるが特に限定されない。免疫は、既存の方法であれば何れの方法をも用いることができるが、主として静脈内、皮下、腹腔内に抗原を注入するのが好ましい。また、免疫の間隔も特に限定されず、数日から数週間間隔で、好ましくは1週間〜3週間間隔で、2〜10回免疫する。抗原は、魚卵から公知の方法で精製することができる。例えば、β’-componentをシロザケ魚卵(イクラ)から精製して用いることができる。 抗体価の上昇した免疫動物より採血し、得られた血清を室温あるいは4℃で放置した後、遠心分離を行うことによりポリクローナル抗体を含む血清が得られる。得られたポリクローナル抗体を含む血清はそのまま用いることもできるが、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、プロテインAやプロテインG等を固定化した担体を用いるアフィニティークロマトグラフィー、分子ふるいクロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択して、またはこれらを組み合わせることによって抗体画分を精製することが好ましい。 本発明では、このように調製したポリクローナル抗体を用いてサンドイッチ免疫学的測定系を構築する。サンドイッチ免疫学的測定法としては、サンドイッチ放射免疫測定法(RIA法)、サンドイッチ酵素免疫測定法(EIA法)、サンドイッチ蛍光免疫測定法(FIA法)、サンドイッチ発光免疫測定法(CLIA法)、サンドイッチ発光酵素免疫測定法(CLEIA法)、サンドイッチ法に基づく免疫クロマトグラフ法などの全てのサンドイッチ免疫測定法が挙げられる。この中でも、EIA法であるELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)が好ましい。以下ELISAについて述べるが、他のサンドイッチ免疫学的測定法も測定しようとする抗原を2種類の抗体でサンドイッチするという点では同じであり、当業者ならば適宜系を構築することができる。捕捉用抗体(一次抗体)として未標識のポリクローナル抗体を、96ウェルマイクロタイタープレートやポリスチレンビーズ等の担体に固相化する。また、検出用抗体(二次抗体)には、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)やアルカリフォスファターゼ(ALP)等の酵素、FITC等の蛍光物質、またはビオチン等で標識したポリクローナル抗体を用いる。この場合、抗体分子をペプシンで消化して得られたFab’フラグメントに酵素などを標識することもできる。あるいは未標識の二次抗体を反応させた後、該二次抗体に特異的に結合する抗体を酵素や蛍光物質等で標識したものを検出用の三次抗体として用いて反応させることもできる。このように各種免疫動物より調製したポリクローナル抗体を一次抗体や二次抗体として用いて、通常の方法に従ってサンドイッチELISAを実施し、被測定タンパク質に高い特異性を示すポリクローナル抗体を選択する。この際、一次抗体と二次抗体の免疫動物は同一でもよいし、異なっていてもよい。なお、ビオチンで標識したポリクローナル抗体を用いた場合、魚卵中に存在するビオチンの影響を受けることがある。この場合は、二次抗体にビオチンで標識した抗体を用いずに、二次抗体に標識しない抗体を用い、三次抗体として二次抗体に対して結合する標識抗体(例えば、二次抗体がウサギ抗体の場合は、酵素標識抗-ウサギIgG抗体)を用いるか、あるいは二次抗体として魚卵タンパク質に対する抗体、あるいはそのFab'等の機能性断片を酵素で標識したものを用いればよい。 また、抗原抗体反応を行う際の緩衝液に、抽出試薬由来の界面活性剤および還元剤が含まれていてもよい。この場合の界面活性剤の濃度は0.01〜0.1 %、好ましくは0.025〜0.05 %、還元剤の濃度は0.05〜0.5 %、好ましくは0.1〜0.35 %である。界面活性剤としては、SDSが好ましく、還元剤としては2-MEや亜硫酸ナトリウム等が好ましい。すなわち、本発明の測定法においては、魚卵タンパク質の抽出に用いる緩衝液および/または抗原抗体反応を行う際の緩衝液に界面活性剤および還元剤を添加する。 このようにして、複数種類の動物を免疫して抗体を調製し、得られた抗体を組み合わせると共に、検体の抽出に用いる緩衝液および/または抗原抗体反応を行う際の緩衝液に界面活性剤と還元剤を添加することによって、加工食品中に含まれるサケ科やタラ科等の特定の魚種の魚卵タンパク質を、特異的に精度よく高感度に検出することが可能となる。 本発明の一態様において、食品中のシロザケの魚卵タンパク質を特異的に測定する。該測定において、ELISA用タイタープレートに固相化する一次抗体と二次抗体の組合せとして、ウサギ抗シロザケβ’-component抗体とラット抗シロザケβ’-component抗体の組合せまたはラット抗シロザケβ’-component抗体とラット抗シロザケβ’-component抗体の組合せが挙げられる。前者の組合せでは、二次抗体として、標識しない抗体を用い、三次抗体として標識抗ラットIgG抗体を用いてもよいし、二次抗体として標識したラット抗シロザケβ’-component抗体を用いれば何れの組み合わせにも適用できる。この場合、例えば、シロザケ魚卵を特異的に検出することができ、スケトウダラ、ニシン、アサバカレイ、ババカレイおよびカペリン魚卵を検出することはない。 本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。実施例1 各種抗体の調製(1)ウサギおよびラット抗-(β’-component)抗体の調製 シロザケよりβ’-componentを精製し、常法によりウサギに免疫した。得られた抗血清を精製リポビテリンにより吸収し、β’-componentに対する特異性を高めた。本抗血清をHiTrap Protein A HPカラム(GE Healthcare社製)に供してIgG画分を精製し、ウサギ抗-(β’-component)抗体(以後、抗-(β’-component)抗体を、a-βとする)を得た。 また、シロザケより精製したβ’-componentを常法によりラットに免疫し、得られた抗血清をHiTrap Protein G HPカラムに供してIgG画分を精製し、ラットa-βを得た。(2)標識抗体の調製 ウサギa-βをSulfo-NHS-LC-Biotin(PIERCE社製)でビオチン化した。未反応のビオチンは脱塩用PD-10カラム(GE Healthcare社製)を用いて除去し、ビオチン標識ウサギa-βを得た。 また、ラットa-βをペプシン処理してF(ab’)2フラグメントを調製し、マレイミド法によって西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)で標識し、HRP-Fab’フラグメントを得た。実施例2 ウェスタンブロット分析による特異性の検討 シロザケ、スケトウダラ、ニシン、アサバカレイ、ババカレイ、カペリンの各種魚卵より抽出液を調製し、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。ゲル中のタンパク質をPVDF膜に転写し、各種抗体を用いてウェスタンブロット分析を行った。 ウサギa-βを用いた場合、シロザケのみならずニシンを除く全ての魚種にβ’-component(図1中、分子量約20kD以下のバンド。魚種により分子量は異なる)と免疫交差性を示す成分を検出した。すなわち本抗体は広範な魚種の魚卵タンパク質に反応性を示す可能性が示唆された(図1)。実施例3 各種魚卵抽出物の調製(1)YExの調製 シロザケ、スケトウダラ、ニシン、アサバカレイ、ババカレイ、カペリンの各種魚卵に0.5 M NaCl, 20 mM Tris-HCl(pH 8.0)を加えてホモジナイズした後、遠心分離(20,000×g、15分間)によって不溶物を除去して得られた抽出物をYExとした。得られたYExのタンパク質濃度はProtein assay rapid kit(和光純薬工業株式会社製)によって測定した。(2)AExの調製 シロザケ、スケトウダラ、ニシン、アサバカレイ、ババカレイ、カペリンの各種魚卵をホモジナイズして1 gを秤量し、高濃度の界面活性剤と還元剤を含む特定原材料抽出用試薬(森永生科学研究所製)19 mLを加えて良く分散させた後、室温にて12時間振盪抽出した。得られた抽出液を3,000×gで20分間遠心分離し、その上清をろ過して得られたろ液をAExとした。得られたAExのタンパク質濃度は、2-D Quant Kit(GE Healthcare社製)によって測定した。実施例4 ウサギa-βによるサンドイッチELISA 一次抗体として未標識のウサギa-βを96ウェルマイクロタイタープレートに固相化し、BSAを含む緩衝液でブロッキングした後、各種魚卵抽出物(YEx)を添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、二次抗体としてビオチン標識ウサギa-βを添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、Streptavidin-HRP conjugate(Tagoimmunologicals社製)を添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、発色用基質(3, 3’, 5, 5’-テトラメチルベンジジン、以後TMBとする)を添加して20分間インキュベートした。1 mol/L硫酸を加えて酵素反応を停止させ、プレートリーダーで450 nmの吸光度を測定した。 本サンドイッチELISA系においては、シロザケYExとスケトウダラYExが顕著に反応性を示し、特に前者に対する反応性が高かった(図2)。一方、アサバカレイ、ババカレイ、カペリンのYExはほとんど反応性を示さなかった。実施例2のウェスタンブロット分析では、ニシンを除くすべてのYEx中にウサギa-βと反応するタンパク質バンドの存在を見いだしていたので、ウサギa-βを用いたサンドイッチELISA系による魚卵タンパク質の検出では、同じ抗体を用いたウェスタンブロット分析に比べて、魚種間の反応性の差が大きくなるものと考えられた。 また、魚卵中にはビオチンが存在していることが報告されており、またビオチンは、しばしばタンパク質に結合した状態で存在することが知られている。そこで、本サンドイッチELISA系における魚卵含有ビオチンの影響について検討するため、シロザケとスケトウダラのYExに脱ビオチン処理を施してから、測定に供した。その結果、シロザケYEx、スケトウダラYExともに、大幅に反応性が減少することが確認された(結果は省略)。さらに両YExを脱ビオチン処理すると、タンパク質回収率が85%程度まで低下することも明らかとなった。これらの結果は、YEx中にβ’-componentに結合したビオチンが存在することを示唆している。すなわち本サンドイッチELISA系で得たシロザケYExとスケトウダラYExの反応シグナルは、共存するビオチンの影響を受けているものと思われた。実施例5 ラットa-βとウサギa-βによるサンドイッチELISA 魚種選択性の向上と魚卵含有ビオチンの影響の除去を目指し、一次抗体と二次抗体にウサギとラットのa-βを組み合わせ、さらに三次抗体としてHRP標識抗-ウサギ(またはラット)IgG抗体を用いたサンドイッチ系の構築を行った。(1)ラットa-βを一次抗体とした場合 一次抗体として未標識のラットa-βを96ウェルマイクロタイタープレートに固相化し、BSAを含む緩衝液でブロッキングした後、各種魚卵抽出物(YEx)を添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、二次抗体として未標識のウサギa-βを添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、三次抗体としてHRP標識抗-ウサギIgG抗体(Bio-Rad社製)を添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、発色用基質(TMB)を添加して20分間インキュベートした。1 mol/L硫酸を加えて酵素反応を停止させ、プレートリーダーで450 nmの吸光度を測定した。 本サンドイッチELISA系においては、6種類のYExのうちシロザケYExに強い反応性を示し、その反応シグナル(吸光度)も濃度依存的であった(図3)。一方、その他の魚種に対する反応性は殆ど認められなかったが、スケトウダラYExの濃度が50 ng/ml以上になると明瞭な反応シグナルが観察され、1,000 ng/mlではシロザケYExの1/2の強度に達した。(2)ウサギa-βを一次抗体とした場合 一次抗体として未標識のウサギa-βを96ウェルマイクロタイタープレートに固相化し、BSAを含む緩衝液でブロッキングした後、各種魚卵抽出物(YEx)を添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、二次抗体として未標識のラットa-βを添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、三次抗体としてHRP標識抗-ラットIgG抗体(カルビオケム社製)を添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、発色用基質(TMB)を添加して20分間インキュベートした。1 mol/L硫酸を加えて酵素反応を停止させ、プレートリーダーで450 nmの吸光度を測定した。 本サンドイッチELISA系においては、シロザケYExのみが濃度依存的に強い反応性を示し、スケトウダラを含むその他の魚種に対する反応性は極めて低いことが明らかとなった(図4)。 以上の結果は、異なる生物から得た2種類のa-βを組み合わせてサンドイッチELISAを構築することで、魚種特異的な魚卵検知法が確立できることを示している。実施例6 2次抗体にHRP-Fab’フラグメントを用いたサンドイッチELISA 実施例5において、一次抗体にウサギa-β、二次抗体にラットa-β、三次抗体にHRP標識抗-ラットIgG抗体を用いることにより、魚種特異的なサンドイッチELISA系が確立できることを示したが、この系を実用化するには、3種類の抗体使用による操作の煩雑さとブランク値の上昇(検出精度の向上に関わる)を抑制する必要があった。そこでこれらの問題点を改善するため、二次抗体にHRP-Fab’フラグメント型a-βを用いたアッセイ系を構築することとした。(1)YExとの反応性 一次抗体として未標識のウサギa-βを96ウェルマイクロタイタープレートに固相化し、BSAを含む緩衝液でブロッキングした後、各種魚卵抽出物(YEx)を添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、二次抗体としてHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを添加した。25℃にて60分間インキュベートした後ウェル内を洗浄し、発色用基質(TMB)を添加して20分間インキュベートした。1 mol/L硫酸を加えて酵素反応を停止させ、プレートリーダーで450 nmの吸光度を測定した。 本サンドイッチELISA系においては、シロザケYExのみに強い反応性を示すという実施例5(2)の系の特徴を保持しつつ、ブランク値がおよそ1/3にまで低減されることが確認された(図5)。なおスケトウダラYExにおいて、100 ng/ml程度より反応シグナルが現れ、1000 ng/mlでは明確な反応シグナルを得たが、これは2 ng/mlのシロザケYExで観察される程度の弱いものであった。すなわち本系は、実施例5(2)の系の欠点である操作性の改善と、ブランク値の上昇(検知精度の向上に関わる)を抑制した系であると判断した。すなわち、より簡便で安定した測定値が得られるシロザケ魚卵(イクラ)検知系の構築には、HRP-Fab’フラグメント型ラットa-βの導入が極めて有効であることが確認できた。 次いで、一次抗体として未標識のラットa-βを固相化し、二次抗体としてHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いた系で各種魚卵抽出物(YEx)の測定を行った。本サンドイッチELISA系においてもシロザケYExに高い特異性を示し、かつブランク値が低減されることが判明した(図6)。しかし、上記の一次抗体にウサギa-βを用いた系と比べると本系の感度はかなり低く、実用的な測定系の構築には一次抗体にウサギa-βを用いた系の方が適しているものと考えられた。(2)AExとの反応性 特定原材料抽出用試薬によって抽出した6魚種の魚卵抽出物(AEx)を1.6〜1,000 ng/mlの範囲で、上記(1)の一次抗体にウサギa-β、二次抗体にHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いた系に供し、その影響と魚種選択性を評価した。その結果、シロザケAExの反応シグナルは濃度依存的に増加し、十分に強いシグナルが検出された(図7)。さらに、スケトウダラAExは上記の濃度範囲でほとんど検出されなくなった。この結果を踏まえ、特定原材料抽出用試薬で抽出した各AExを、同試薬の使用説明書に従って20倍に希釈しただけの高いタンパク質濃度のまま(すなわち魚卵ホモジネートを400倍希釈した試料)本ELISA系に供したところ(図8)、シロザケ以外のAExでは反応シグナルが全く観察されなかった。 以上の結果は、界面活性剤と還元剤を含む特定原材料抽出用試薬が本サンドイッチELISA系に利用可能であり、さらにこのような抽出用試薬の使用が本系のイクラ等に対する魚種選択性(特異性)向上に寄与することを示している。 更に、一次抗体として未標識のラットa-βを固相化し、二次抗体としてHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いた系で、特定原材料抽出用試薬によって抽出した6魚種の魚卵抽出物(AEx)を測定した。その結果、一次抗体にウサギa-β、二次抗体にHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いた系と同様に、シロザケAExのみに極めて高い特異性を示した。しかし上記(1)のYEx測定時と同様に、本系の感度は一次抗体にウサギa-βを用いた系に比べて大幅に劣っていることが明らかとなった(図9)。 食物アレルギー患者はごく微量のアレルゲン摂取でも症状を呈することがあることから、アレルギーの原因食品の測定系では数mg/kg以下を検出できるような高感度が求められている(Poms RE et al.、Food Addit Contam、21、1-31、2004)。特定原材料抽出用試薬の使用説明書に従って食品中のタンパク質を抽出する場合、食品1 gに対して19 mLの抽出用試薬を添加して抽出を行い(即ち20倍希釈)、得られた抽出液をさらに20倍希釈してELISA測定に供することから、測定時の検体は400倍希釈されていることになる。この場合、検査対象となる食品中に数mg/kg含まれているタンパク質を検出するためには、測定時に数十 ng/mL程度に希釈されたタンパク質を十分測定できる感度が必要となる。このような観点から考えると、二次抗体にHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いた系においては、一次抗体にウサギa-βを用いることによってはじめて実用的な高感度を示すようになると考えられる。比較例1 界面活性剤のみを含む抽出用試薬を用いた検討 実施例6(2)のAExを用いた検討によって、界面活性剤と還元剤を含む抽出用試薬の使用が魚種選択性(特異性)向上に有用であることを示したが、免疫学的測定法において界面活性剤の使用が非特異的反応を抑制することは広く知られている。そこで、界面活性剤のみを含み還元剤を含まない抽出用試薬を用いた場合の魚種選択性について検討を行った。 本検討では、特定原材料抽出用試薬(森永生科学研究所製)から還元剤成分を除いた抽出用試薬(界面活性剤は含む)を用いた。シロザケ、スケトウダラ、ニシン、アサバカレイ、ババカレイ、カペリンの各種魚卵をホモジナイズして1 gを秤量し、界面活性剤を含む抽出用試薬(還元剤は含まない)19 mLを加えて良く分散させた後、室温にて12時間振盪抽出した。得られた抽出液を3,000×gで20分間遠心分離し、その上清をろ過して得られたろ液をAEx(-)とした。6種類のAEx(-)を、特定原材料抽出用試薬の使用説明書に準じて20倍に希釈しただけの高いタンパク質濃度のまま(すなわち魚卵ホモジネートを400倍希釈した試料)本ELISA系(一次抗体にウサギa-β、二次抗体にHRP-Fab’フラグメント型ラットa-βを用いた系)に供したところ(図10)、シロザケAEx(-)で強い反応性が認められたものの、更に他の魚種においても程度に差はあれ交差反応性が認められることが明らかとなった。 以上の結果より、本系のイクラに対する魚種選択性(特異性)の向上は、従来から知られていたような単なる界面活性剤の非特異的反応抑制効果によるものではなく、界面活性剤と還元剤を組合せることにより交差反応性が抑制されるという新規なメカニズムに基づくものと考えられた。 食品中に含まれるシロザケの魚卵タンパク質であるβ'-componentを固相化抗体を用いるサンドイッチ免疫学的測定法により特異的に検出する方法であって、シロザケ魚卵β'-componentを抽出し、該シロザケ魚卵β'-componentに対する2種類の抗体を以下の組合わせで用いる方法:固相化する一次抗体がウサギ由来抗体であり、一次抗体に結合した魚卵タンパク質に結合する二次抗体がラット由来抗体である。 ELISAである請求項1記載の方法。 二次抗体が酵素標識抗体である請求項1または2に記載の方法。 さらに、二次抗体に結合する酵素標識したラット由来抗体に対する抗体を用いる、請求項1または2に記載の方法。 サケ科魚類魚卵タンパク質の抽出に用いる緩衝液および/または抗原抗体反応を行う際の緩衝液に界面活性剤と還元剤を添加することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。 界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウム、Tween20(Polyoxyethylene(20) sorbitan monolaurate)およびTriton X-100(Polyoxyethylene(10) octylphenyl ether)からなる群から選択され、還元剤が2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、亜硫酸ナトリウムおよびTris (2-carboxymethyl) phosphineからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。 少なくとも、ウサギ由来の抗シロザケ由来β'-component抗体を固相化した担体、ラット由来の抗シロザケ由来β'-component抗体、ならびに界面活性剤および還元剤を含む魚卵タンパク質抽出用試薬、を含む食品中に含まれるシロザケ魚卵タンパク質を特異的に検出するためのELISAキット。 ラット由来の抗シロザケ由来β'-component抗体が酵素標識抗体である請求項7記載のELISAキット。 界面活性剤がドデシル硫酸ナトリウム、Tween20(Polyoxyethylene(20) sorbitan monolaurate)およびTriton X-100(Polyoxyethylene(10) octylphenyl ether)からなる群から選択され、還元剤が2-メルカプトエタノール、ジチオトレイトール、亜硫酸ナトリウムおよびTris (2-carboxymethyl) phosphineからなる群から選択される、請求項7または8に記載のELISAキット。


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