タイトル: | 公開特許公報(A)_乳酸菌由来多糖類の製造方法 |
出願番号: | 2009103526 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | C12P 19/04,C12P 19/26,C12R 1/46,C12R 1/225 |
北原 大輔 龍野 孝一郎 JP 2010252641 公開特許公報(A) 20101111 2009103526 20090422 乳酸菌由来多糖類の製造方法 三菱レイヨン株式会社 000006035 北原 大輔 龍野 孝一郎 C12P 19/04 20060101AFI20101015BHJP C12P 19/26 20060101ALI20101015BHJP C12R 1/46 20060101ALN20101015BHJP C12R 1/225 20060101ALN20101015BHJP JPC12P19/04 CC12P19/26C12P19/04 CC12P19/04 CC12P19/26C12R1:46C12R1:225C12R1:46 6 OL 8 4B064 4B064AF11 4B064AF12 4B064AF21 4B064CA02 4B064CC06 4B064CC07 4B064CD09 4B064DA01 4B064DA20 本発明は、多糖類の製造方法に関する。 乳酸菌は菌の体外に多糖類を生産することが知られており、菌の種類によって多種多様な多糖類を生産する。このような多糖類は、その物理化学的性質や生理機能から食品や化粧品、医療用途など幅広い用途で用いられることから、生産性を上げるための醗酵生産方法について研究が盛んになされている。 なかでも、ヒアルロン酸は、一定の品質の製品が容易に得られることから、醗酵法によって製造されている。その醗酵法において、効率よくヒアルロン酸を製造する方法がいくつか検討されている。例えば、界面活性剤を添加して培養する方法(特許文献1参照)、グルタミンやグルタミン酸を添加して培養する方法(非特許文献1参照)、ウリジンを添加して培養する方法(特許文献2参照)である。いずれの方法を用いたとしても、微生物を培養するための培地は、コンタミネーションを防ぐためにも加熱殺菌しなければならない。その際に、培地組成に含まれる糖類の濃度が濃い場合は加熱により糖とアミノ酸が反応する褐変反応が生じ、ヒアルロン酸の生産が妨げられる。そこで、糖類の濃度が濃い場合は培地中の糖とその他の成分を別々に加熱殺菌して培養前に混合する必要がある。しかしながら、糖のみの水溶液の加熱殺菌においても、糖濃度が濃い場合には加熱により糖が変性するため、微生物の生育阻害、ヒアルロン酸合成阻害が引き起こされ、培養中のヒアルロン酸を高濃度に蓄積することができない点が問題である。特開平5−276972号公報特開平6−319580号公報J.Soc.Cosmet.Chem.Japan Vol.22,No.1,1988そこで、本発明は、培養液中に多糖類を高濃度に蓄積させ、効率よく多糖類を得ることを目的とする。 すなわち、本発明は、pHを4以下に調整した後に加熱処理した糖溶液を含む培地中で乳酸菌を培養することにより多糖類を生産する方法に関する。 本発明によれば、培養液中に高濃度の多糖類を蓄積することができ、より効率良く多糖類を生産することができる。(1)乳酸菌及び乳酸菌由来の多糖類 本発明における乳酸菌とは、通常の培養により菌体外に多糖類を生産することができる乳酸菌のことである。当該乳酸菌は多糖生産能を有していれば種類は限定されない。例えば、Lactobacillus属に属する微生物、Lactococcus属に属する微生物、Leuconostoc属に属する微生物、Pediococcus属に属する微生物及びStreptococcus属に属する微生物等を挙げることができる。 乳酸菌の生産する乳酸菌由来の多糖類には、単一の糖からなるホモ多糖と、複数の単糖や単糖誘導体からなるヘテロ多糖がある。ホモ多糖には、グルコースからなるデキストラン、βグルカン、ムタン、アルテルナン;フルクトースからなるレバン、イヌリン;ガラクトースからなるガラクタン等が知られている。 デキストランを生産する乳酸菌としてLactobacillus hilgardii、Lactobacillus confusus、Lactobacillus viridescens、Leuconostoc mesenteriodes等、βグルカン生産乳酸菌としてPediococcus damnosus等、ムタン生産乳酸菌としてStreptococcus mutan、Streptococcus sobrius等、アルテルナン生産菌としてLeuconostoc mesenteriodes等、レバン生産乳酸菌としてStreptococcus mutan、Streptococcus salivarius等、イヌリン生産乳酸菌としてStreptococcus mutan等、ガラクタン生産乳酸菌としてLactococcus lactis等が挙げられる。 ヘテロ多糖は、単糖のグルコース、ガラクトース、ラムノース、フコース、糖誘導体であるN−アセチルグルコサミン、N−アセチルガラクトサミン、グルクロン酸などが少なくとも2種類以上で構成されるユニットが連なったものである。 代表的なヘテロ多糖はN−アセチルグルコサミンとグルクロン酸からなるヒアルロン酸、グルコースとガラクトースからなるケフィランが挙げられる。ヒアルロン酸生産乳酸菌としてStreptococcus equi、Streptococcus zooepidemicus、Streptococcus pyogenes、Streptococcus uberis、Streptococcus thermophilus等、ケフィラン生産乳酸菌としてLactobacillus kefiranofaciens等が挙げられる。 ヘテロ多糖生産菌としてはLactobacillus paracasei、Lactobacillus rhamnosus、Lactobacillus delbrue subsp.bulgaricus、Lactobacillus sakei、Lactobacillus acidophilus、Lactobacillus helveticus、Lactobacillus kefiranofaciens、Lactococcus lactis subsp.cremoris、Streptococcus thermophilus、Streptococcus macedonicus、Streptococcu equi、Streptococcus zooepidemicus、Streptococcus pyogenes、Streptococcus uberis等が挙げられる。 本明細書では、これらの多糖類のうち、代表してヒアルロン酸について述べる。(2)ヒアルロン酸生産能を有する微生物 本発明では、ヒアルロン酸生産能を有する微生物としては、Streptococcus属に属する微生物が好ましい。ヒアルロン酸生産能を有するStreptococcus属に属する微生物は、一般に牛鼻腔粘膜、牛眼球に存在していることが知られている。本発明ではそこから単離された微生物を利用することもできる。また、Streptococcus属に属しない微生物でも、通常の遺伝子工学的手法を用いてヒアルロン酸生産能を得た微生物も使用することができる。 Streptococcus属に属する微生物としては、例えば、Streptococcus zooepidemicus、Streptococcus equi、Streptococcus pyogens等が挙げられる。その中でも、Streptococcus zooepidemicusがより好ましい。 さらに、Streptococcus属の属する微生物等のヒアルロン酸生産能を有する微生物を、紫外線、NTG(N‐メチル−N´−ニトロ−N−ニトロソグアニジン)、メチルメタンスルホン酸等で処理することにより、ヒアルロニダーゼ非生産菌や非溶血性菌に改良することがより好ましい。人体または動物に悪影響を及ぼす可能性が低くなるからである。 前記ヒアルロニダーゼ活性及び溶血性を欠損させた菌株としては、Streptococcus zooepidemicusNH−131(FERM P−7580)、Streptococcus zooepidemicusHA−116(ATCC39920)、Streptococcus zooepidemicusMK5(FERM P−21487)、Streptococcus zooepidemicusYTT2030(FERM BP−1305)が好ましく、その中でもStreptococcus zooepidemicusMK5(FERM P−21487)、Streptococcus zooepidemicusYTT2030(FERM BP−1305)が特に好ましい。 これらのうち、FERM株については、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターより入手可能である。また、ATCC株については、American Type Culture Collectionから入手可能である。 (3)培地 培地は、上記微生物がヒアルロン酸を生産できる培地であれば限定されず、微生物の種類に応じた通常の培地を用いることができる。例えば、炭素源としてグルコース、フルクトース等の単糖類、乳糖、スクロース、マルトース等の二糖類、オリゴ糖類等;窒素源としてポリペプトン、酵母エキス等の有機窒素源;アルギニン、グルタミン酸、グルタミン等の遊離アミノ酸;ビタミン;無機塩類等;タンニン等のフェノール性水酸基を有するヒアルロニダーゼ阻害剤を含む(水に溶解した)培地を使用することができる。 当該培地は、加熱処理(加熱殺菌)を行った後に、微生物の培養に用いることができる。微生物がじゅうぶんに殺菌されれば、加熱条件は限定されない。例えば、100〜130℃で5〜30分間、より好ましくは121℃で15〜30分間という条件を挙げることができる。<糖溶液> 本発明では、培地の炭素源として用いる糖類を、他の培地成分とは別に糖溶液として調製する。糖類としては、グルコース、ガラクトース、フルクトース等の単糖類、スクロース、マルトース、ラクトース等の二糖類、オリゴ糖類などを使用することができる。これらの中でも、特にグルコース、フルクトースの使用が好ましい。 糖溶液の濃度は特に限定されるものではないが、10〜50質量%の糖溶液を作製して加熱殺菌を行った後、糖以外の培地成分を溶解した培地に添加することにより、最終的に糖の濃度が1〜10質量%になるように調製すればよい(終濃度)。より好ましくは30質量%濃度の糖溶液を加熱殺菌し、終濃度4〜6質量%となるよう調製して培養培地とする。 本発明における糖溶液は、5N水酸化ナトリウム、5N硫酸を用いて、pHを4.3以下、好ましくは0.1〜4.3、より好ましくは1〜4に調整した後に加熱殺菌する。糖溶液を当該pHに調整してから加熱殺菌することにより、糖溶液の加熱による変性を抑制することができ、微生物によるヒアルロン酸の生産が促進される。 糖溶液の加熱条件は、微生物がじゅうぶんに殺菌されれば限定されない。例えば、100〜130℃で10〜30分間、より好ましくは121℃で15〜30分間という条件を挙げることができる。加熱殺菌された糖溶液は、糖以外の成分の殺菌された培地中に添加すればよい。(4)培養 培養条件は、上記微生物がヒアルロン酸を生産できる条件であれば限定されず、微生物の種類に応じた通常の培養条件を用いることができる。通常、pHを4〜8、好ましくは7〜7.5、温度を30℃〜37℃、好ましくは、33℃〜37℃に制御して行うことが好ましい。 本発明における培養方法としては、特に限定されるものではないが、回分培養とする方法と、連続培養とする方法、流加培養とする方法の何れも可能である。 また、前記培養は、通常、前培養を行った後に本培養を行う。前培養の条件としては、グルコース、フルクトース等の炭素源、ポリペプトン、酵母エキス、麦芽エキス等の窒素源、ビタミン、無機塩類を含む培地中で、pHを4〜8、温度を30〜37℃に制御して好気的に培養することが好ましい。 以下、実施例、比較例により本発明をさらに詳細に説明する。実施例1〜4 ポリペプトン(和光純薬工業株式会社製)1.5質量%、酵母エキス(オリエンタル酵母工業製)0.5質量%、リン酸第二カリウム0.2質量%、硫酸マグネシウム7水塩0.1質量%、塩化カルシウム0.005質量%、グルタミン酸ナトリウム0.1質量%、アデカノールL61(消泡剤 旭電化工業製)の組成からなる培地(pH7.0)を3Lのジャーファメンターに1.6L添加した後、当該培地を殺菌した。 一方、グルコースは120gを水0.4Lに溶解させた後、5N硫酸を用いてpHをそれぞれ1.0(実施例1)、2.0(実施例2)、3.0(実施例3)、4.0(実施例4)に調整した。得られた糖溶液を121℃で20分加熱殺菌し、上記殺菌済みの培地に添加した。糖溶液添加済みの上記培地2Lに、前培養したStreptococcus zooepidemicusMK5(FERM P−21487)を1%接種し、12%水酸化ナトリウム水溶液にて培養液のpHを7.4に制御しながら37℃で23時間通気攪拌培養を行った(本培養)。 なお、前培養は、グルコース0.2質量%、ポリペプトン2.0質量%、酵母エキス0.5質量%、硫酸マグネシウム7水塩0.05質量%の組成からなる培地(pH7.0)を綿栓付き500ml容三角フラスコに100ml添加し、加熱殺菌後、同一組成の寒天プレート上に形成したコロニーを一白菌耳植菌し、30℃で18時間培養した。 培養終了後における培養液中のヒアルロン酸含量は、カルバゾール硫酸法にて測定した。分析結果は表1に示す。pHを4.3以下にして滅菌した糖溶液を使用した場合には、大量のヒアルロン酸が蓄積された。<カルバゾール硫酸法> 培養液を0.2M NaCl水溶液で20倍に希釈し、その2mlにエタノールを10ml加えて攪拌することによりヒアルロン酸を析出させる。遠心分離し、上清を取り除いた後の沈殿に再び0.2M NaCl水溶液を10ml加えてヒアルロン酸含有液を作成する。 A液(Na2B4O7・10H2O 0.95gをH2SO4 100mlで溶解したもの)5mlを試験管に取り、上記のヒアルロン酸含有液1mlを加えて100℃で10分湯浴する。室温まで水冷した後に、B液(カルバゾール0.125gをエタノール100mlに溶解したもの)0.2mlを加えて100℃で15分湯浴する。室温まで冷却した後に、530nmの波長における吸光度を測定してヒアルロン酸含有液中のグルクロン酸量を測定することでヒアルロン酸量を算出する。 比較例1〜3 グルコース120gを水0.4Lに溶解した後に、pHを4.5(比較例1)、5.0(比較例2)、7.0(比較例3)に調整し(糖溶液)、121℃20分加熱殺菌して培養開始前にその他の培地に添加した以外は、実施例1と同様の操作を行った。ヒアルロン酸含量の分析結果は、併せて表1に示す。 pHを4.5以上にして滅菌した糖溶液を使用した場合は、ヒアルロン酸の蓄積が非常に少なかった。 pHを4.3以下に調整した後に加熱処理した糖溶液を含む培地中で乳酸菌を培養することにより多糖類を生産する方法。糖がグルコース、ガラクトース、フルクトース、スクロース、ラクトース、マルトースからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1記載の方法。 乳酸菌が、Lactobacillus属に属する微生物、Lactococcus属に属する微生物、Leuconostoc属に属する微生物、Pediococcus属に属する微生物及びStreptococcus属に属する微生物からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1又は2に記載の方法。乳酸菌が、ヒアルロン酸生産能を有する微生物である請求項3記載の方法。 ヒアルロン酸生産能を有する微生物が、Streptococcus zooepidemicusである請求項4記載の方法。 Streptococcus zooepidemicusの微生物が、Streptococcus zooepidemicus MK5(FERM P−21487)である請求項5記載の方法。 【課題】本発明は、培養液中にヒアルロン酸を高濃度に蓄積させ、効率よくヒアルロン酸を得ることを目的とする。【解決手段】乳酸菌を培養することにより多糖類を生産する方法において、pHを4.3以下に調整した後に加熱処理した糖溶液を含む培地中で当該乳酸菌を培養する工程を含む方法。本発明によれば、培養液中に高濃度の多糖類を蓄積することができることから、より効率良く多糖類を生産することができる。【選択図】なし