タイトル: | 再公表特許(A1)_グルコース製造用の酵母及びこれを用いたグルコース製造方法 |
出願番号: | 2009054567 |
年次: | 2011 |
IPC分類: | C12N 1/19,C12P 19/02,C12N 15/09,C12R 1/865 |
高橋 克幸 和田 光史 木村 桜子 藤井 亮太 JP WO2009128305 20091022 JP2009054567 20090310 グルコース製造用の酵母及びこれを用いたグルコース製造方法 三井化学株式会社 000005887 中島 淳 100079049 加藤 和詳 100084995 福田 浩志 100099025 高橋 克幸 和田 光史 木村 桜子 藤井 亮太 JP 2008105050 20080414 C12N 1/19 20060101AFI20110708BHJP C12P 19/02 20060101ALI20110708BHJP C12N 15/09 20060101ALN20110708BHJP C12R 1/865 20060101ALN20110708BHJP JPC12N1/19C12P19/02C12N15/00 AC12P19/02C12R1:865 AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RS,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,ZA,ZM,ZW 再公表特許(A1) 20110804 2010508149 28 4B024 4B064 4B065 4B024AA03 4B024AA05 4B024BA80 4B024CA01 4B024DA12 4B024GA11 4B024GA25 4B024HA08 4B064AF02 4B064CA06 4B064CA19 4B064CC24 4B064CD19 4B064CD22 4B064DA10 4B064DA16 4B064DA20 4B065AA72X 4B065AA80X 4B065AB01 4B065AC14 4B065BA02 4B065BA24 4B065BB18 4B065BC01 4B065CA20 4B065CA41 本発明は、グルコース製造用の酵母及びこれを用いたグルコース製造方法に関する。 近年、資源の有効利用及び環境保護の両面から、化石資源の代わりとしてバイオマス資源の利用が注目されている。中でも、食糧用と工業用の生産バランスを考慮して、木材などのセルロースを主成分とする非可食(工業用)バイオマスを利用する方法が現在までに精力的に開発されている。この工業用バイオマスを利用する技術では、工業用バイオマスからセルロースの単離又は精製工程と、得られたセルロースを分解し単糖に変換する糖化の工程に多くの技術開発がなされている。 糖化は酸糖化法と酵素糖化法に大別される。中でも酵素糖化法は、常温・常圧反応であることや、危険な薬品の使用や副反応が無いことから、酸糖化法と比較してエネルギー消費及び環境負荷低減の点においてより好ましい。 酵素糖化法はセルロースを分解する酵素(セルラーゼ)を使用して糖化を行う。精製したセルラーゼを利用したセルロース原料からのグルコースの製造には、トリコデルマ(Trichoderma)属糸状菌(非特許文献1)や、アスペルギルス(Aspergillus)属糸状菌(非特許文献2)などの微生物が分泌する酵素を利用する方法が知られている。しかし、精製酵素を使用するプロセスは、生成したグルコース液と酵素の分離が困難なため結果的に酵素を使い捨てにせざるを得ず工業的にはコスト面で不利であり、グルコースを原料とした汎用化学品の生産を視野に入れた場合、革新的なプロセス開発が不可欠である。 一方、遺伝子組換え技術を用いて、大量のセルラーゼを微生物に生産させることができる。しかしながら、セルラーゼが微生物の菌体内で生産された場合、基質であるセルロース原料とセルラーゼが接触できず、糖化ができないという欠点がある。 これらの欠点を克服した技術として、近年アーミング酵母と呼ばれる、酵素を細胞表面に提示した酵母が開発されている(非特許文献3)。これは、いわば酵母を酵素の担体として利用しているものであり、酵素の生産は通常に行われる酵母の培養方法によって行うことができる。さらに細胞表面に酵素が提示されているため、反応液中に存在している基質が酵素と接触することを可能としている。さらに、このようなアーミング酵母は凝集性と沈降性を持っており、反応液から容易に回収することができる。このため、酵母を回収することによって、酵素と生成したグルコース液とを簡便に分離して、酵素をリサイクルして使用することが可能である。 これまで、表面にリパーゼを提示させて光学活性体を製造する技術(特許文献1)や、デンプンを分解するグルコアミラーゼを提示して直接デンプンからエタノールを生産する酵母(非特許文献4)が開発されている。さらにはセルラーゼを細胞表面に提示させてセルロース原料から直接エタノールを発酵生産するアーミング酵母が報告されている(非特許文献5及び特許文献2)。しかしながら、非特許文献5ではグルコースが検出されず、生成したグルコースはすぐにエタノール生産に使われていることが報告されている。 このように、セルロース原料からグルコースを生成する微生物は存在するものの、生成されたグルコースは微生物の生命活動において重要な炭素源であるため該微生物に速やかに代謝されてしまい、グルコースを反応液中に蓄積させることは困難であった。Montenecourt, Trends in Biotechnology, Vol.1, No.5, pp.156-161 (1983)Takada et.al., Bioscience,Biotechnology and Biochemistry, 62 (8), pp.1615-1618 (1998)Ueda et.al., Journal of Bioscience and Bioengineering, Vol.90, No.2, pp.125-136 (2000)Teik Seong Khaw et.al., Journal of Bioscience and Bioengineering, Vol.103, No.1, pp.95-97 (2007)Fujita et.al., Applied and Environmental Microbiology, Vol.70, No.2, pp.1207-1212 (2004)特開平11−290078号公報国際公開第01/79483号パンフレット 上述したように、精製酵素を使う方法の工業化は一般的にコスト面で不利である。またセルラーゼを細胞表層に提示したアーミング酵母は、生成したグルコースを酵母の糖代謝機能のために即座に資化してしまい、グルコースを蓄積することができない。そこで、セルロース分解活性を示し、且つ生成したグルコースを資化しない生体触媒の開発が強く望まれていた。加えて、繰り返し使用できる酵素の開発も強く望まれていた。 本発明は、セルロースからグルコースを高い収量で効率よく製造することができ且つ繰り返し使用できるグルコース製造用の酵母、及びこれを用いたグルコース製造方法を提供することを目的とする。 本発明は、上記状況を鑑みなされたものであり、グルコース製造用の酵母及びこれを用いたグルコース製造方法を提供する。 本発明の第一の態様は、細胞外でセルロースを分解するセルロース分解能と、反応液中でセルロースと接触したときに、前記セルロース分解能によってセルロースから生成されたグルコースを反応液中に蓄積させるグルコース蓄積能とを備えた酵母を提供する。 本発明の第二の態様は、セルロースからグルコースを製造するグルコース製造方法であって、上記酵母を、反応液中でセルロースと接触させる工程、前記酵母とセルロースとの接触によって反応液中に生成及び蓄積したグルコースを、反応液から分離・回収する工程を含む方法を提供する。 本発明によれば、セルロースからグルコースを高い収量で効率よく製造することができ且つ繰り返し使用できるグルコース製造用の酵母及びこれを用いたグルコース製造方法を提供することができる。本発明の実施例にかかる各温度下でのアーミング酵母によるグルコース消費量の変化を示すグラフである。本発明の実施例にかかる各温度下でのアーミング酵母によるグルコース蓄積量の変化を示すグラフである。<グルコース製造用酵母> 本発明の酵母は、細胞外でセルロースを分解するセルロース分解能と、反応液中でセルロースと接触したときに、前記セルロース分解能によってセルロースから生成されたグルコースを反応液中に蓄積させるグルコース蓄積能とを備えた酵母である。 本発明の酵母(以下、グルコース製造用酵母という)は、細胞外でのセルロース分解能と、反応液中でセルロースと接触したときにグルコースを反応液中に蓄積させるグルコース蓄積能を有するので、反応液中において細胞外でグルコースを生成し、これを反応液中に蓄積させることができる。 また、グルコース製造用酵母自身が細胞外でのセルロース分解能を有しているため、化合物としての酵素とは異なり、酵母を回収し再利用することによって酵素の再利用が容易となる。 これらのことから、コスト面で有利なグルコースを高い収量で製造することができる。 本発明における「工程」は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても本工程の所期の作用が達成されれば、本工程に含まれる。 本明細書において数値範囲を表記する場合、特に断らない限り、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を表す。 本発明においてセルロースとは、D−グルコースがβ−1,4グルコシド結合した鎖状高分子物質を指し、還元性と非還元性の両端を有する。セルロース分子は、セルロース繊維の中で高度に配列して、結晶領域を形成しているが、その配列はところどころで乱れて、非結晶またはそれに近い領域をつくる。天然セルロースは、X線法により、約70% 、再生セルロースは約40%の結晶化度を有することが知られている。 セルロースの結晶構造は、天然セルロースではいずれもセルロースIと呼ばれる構造を示し、鎖状に連なるのみならず、横にも結びつき束状になって、ミクロフィブリルを形成している。現在、セルロースには4つの結晶形態があるとされており、一般にI、II、III、IVと大別される。セルロースIを高濃度の塩溶液や酸、アルカリで強く膨潤させ、溶解させた後に、再びセルロースとしたものが再生セルロースであり、これはセルロースIIの結晶形をとる。セルロースIまたはIIを液体アンモニアに浸漬し、徐々に再生するか、アミン類との付加化合物を分解して得られるものはセルロースIIIの形態をとる。また、セルロースIVは、セルロースIIをグリセリン中で250℃以上の高温に加熱するなどして得られる結晶構造である。本発明におけるセルロースは、これらいずれのセルロースパターンを示すもの全てを含む。 また、本発明におけるセルロースはセルロース誘導体を含む。例えば、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース、酢酪酸セルロース、硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロース等のセルロースエステル;メチルセルロース、エチルセルロース、ベンジルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等のセルロースエーテル;及び、ビスコース等を選択することができる。 本発明におけるセルロース分解とは、セルロースのグルコシド結合を切断する反応を指し、切断されるグルコシド結合は結晶領域、非結晶領域のどちらに存在するものであってもよく、セルロース繊維の非還元末端、還元末端及びそれらの中間であってよい。セルラーゼ又はその他の触媒がセルロース表面に吸着し、分子鎖切断機能を発揮しうるのであればセルロース結晶の大きさは限定されない。 本発明における細胞外でセルロースを分解するセルロース分解能を備えた酵母としては、細胞外でセルロース分解酵素活性を有するものであればよく、このような酵母としては、表層にセルロース分解酵素を提示したアーミング酵母を挙げることができる。アーミング酵母を用いることによって、酵母の表面に効果的にセルロース分解能を付与することができると共に、酵素の取扱いが容易となり得る。(アーミング酵母) 本発明においてアーミング酵母とは、種々の機能性タンパク質やペプチドを細胞表層に局在するタンパク質と融合させて細胞表層に提示させることにより、その提示されたタンパク質やペプチドに起因する機能性が付加された酵母細胞のことを指す。 このようなアーミング酵母の作製方法に関しては、酵母の細胞表層に局在するタンパク質の種類により、現在までにいくつかの方法が知られている。 例えば細胞表層に局在するタンパク質としてα−アグルチニンを使用する方法である。これはC末端領域にGPI(Glycosyl Phosphatidyl Inositol)アンカー付着シグナルが付加されたα−アグルチニンをコードする遺伝子と、目的とする機能性タンパク質をコードする遺伝子を融合させて発現させることにより、機能性タンパク質を細胞表層に提示させる技術である。また、細胞表層に局在するタンパク質としてFLOタンパク質を使用する方法もある。FLOタンパク質は酵母の凝集性タンパク質であり、疎水結合により細胞壁に結合している。このFLOタンパク質をコードする遺伝子(Flo1)と機能性タンパク質をコードする遺伝子を融合、発現させることにより機能性タンパク質を表層に提示する。その他には、細胞表層に局在するタンパク質としてPir(Protein Internal Repeat)を使用する方法がある。Pirは酵母の細胞壁に共有結合しているタンパク質であり、上記の方法と同様に機能性タンパク質と融合させて発現させることにより、機能性タンパク質を細胞表層に提示することができる。 本発明におけるアーミング酵母は上記のいずれの方法で作製されたものであってよい。 本発明におけるアーミング酵母としては、分子量の大きいタンパク質を安定的に表層提示できることからα−アグルチニンを使用して製造されたものが好ましく、例えばAppl. Environ. Microbiol., Vol.70(2), pp.1207-1212 (2004)に記載されたMT8−1/pBG211/pEG23u31H6/pFCBH2w3株のアーミング酵母を用いることが好ましい。 また酵素の担体となる酵母は、アーミングを施すことができるものであれば、特に制限はなく、例えばサッカロミセス属(Saccharomyces)やピキア属(Pichia)等を挙げることができる。酵母の中でも、実績のあるサッカロミセス属であれば安定した酵素活性が期待できる。 本発明におけるアーミング酵母は、細胞表層に提示する機能性タンパク質として、セルロースを分解するセルラーゼを備えているものであることが好ましい。 セルラーゼとは、一般的にβ1,4−グルカナーゼのことを指すが本発明においては、β1,4−グルコシド結合を切断し、セルロースからグルコースを生産する一群の酵素という。例えば、エンドβ1,4−グルカナーゼ(カルボキシメチルセルラーゼと呼ぶこともある)、エキソβ1,4−グルカナーゼ(セロビオヒドロラーゼと呼ぶこともある)、β−グルコシダーゼなどが挙げられる。 これらの酵素の起源については特に限定されず、例えば、トリコデルマ属菌、アスペルギルス属菌、サーモトーガ属菌、カンジダ属菌、サッカロミセス属菌、ヒューミコラ属菌、イルペックス属菌、タラロマイセス属菌、ファネロケート属菌、パイロマイセス属菌、オルピノマイセス属菌、ネオカリマスティクス属菌、ストレプトマイセス属菌、ペニシリウム属菌、クリプトコッカス属菌、セルロモナス属菌、クロストリジウム属菌、サーモビフィダ属菌、バシルス属菌、サーモアスクス属菌、フシコッカム属菌、ルミノコッカス属菌、ビブリオ属菌、昆虫、等を挙げることができる。各酵素を組み合わせ用いる場合には、酵素の起源が同一であっても異なっていてもよい。 本発明においては、これらのセルラーゼは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、特に、エンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ及びβグルコシダーゼを組み合わせたものであることが、セルロースまたはセルロースの分解中間化合物を効率的に分解してグルコースを生成できる観点から好ましい。 複数のセルラーゼを用いる場合には、少なくとも1種のセルラーゼが酵母の細胞表層に提示させていればよく、遊離のセルラーゼと併用してもよい。酵素の回収効率及び再利用効率の観点から、使用するセルラーゼを細胞表層に提示している酵母を用いることが好ましい。遊離のセルラーゼを使用する場合には、使用するセルラーゼにおいて通常用いられる濃度をそのまま適用してよい。 本発明における酵母は、上述したセルロース分解能を有することに加えて、グルコースを反応液中に蓄積させるグルコース蓄積能を有するものである。ここで「グルコースを反応液中に蓄積させる」とは、細胞外で効率よく得られたセルロース由来グルコースに対する効果的な資化が行われないことを意味する。即ち、グルコースは、酵母の細胞外にあって酵母と接触可能な状態で存在していても、酵母に資化されずに残るため、グルコース量を反応液中で確認することが可能である。このときのグルコース量としては、例えば、5g/Lのグルコースが存在する反応液中で3%(w/v)の濃度でアーミング酵母を接触させて60時間以上経過した後で反応液中に存在するグルコースが0.3g/L以上であるとしうる。 グルコースに対する効果的な資化が行われない酵母としては、グルコース代謝活性が低減された酵母であることが好ましい。これにより、生成されたグルコースの酵母による消費量を低減させることができ、効果的にグルコースを反応液中に蓄積することができる。 ここで、グルコース代謝活性が低減されたとは、対象となる酵母のグルコース取り込み速度が当該酵母の最大グルコース取り込み速度よりも小さいことを意味する。このような酵母のグルコース取り込み速度の低減は、一時的に低下したものであっても、半永続的に低下したものであってもよい。ここにおいて、グルコース取り込み速度が最大となるときとは、充分な栄養源を有する培地中、最適な温度条件下で、充分な通気を行いつつ当該酵母を培養した場合の速度であり、その様な場合とは、例えばYPD培地中、30℃〜35℃の培養温度で、充分な通気を行いつつ当該酵母を培養し、充分増殖した当該酵母を回収してグルコースを含む水に懸濁し、30℃〜35℃の温度で培養した場合を指している。 また本発明におけるグルコース代謝活性の「低下」には、酵母固有のグルコース代謝活性が、通常状態よりも低下するだけでなく、代謝活性が失われてグルコースを全く取り込まなくなった場合も含まれる。 このようにグルコース代謝活性が低減された酵母としては、熱処理によってグルコース代謝活性の低減が誘導された酵母、界面活性剤処理によってグルコース代謝活性の低減が誘導された酵母、抗生物質やUVに暴露させてグルコース代謝活性の低減を誘導させた酵母などを挙げることができる。 グルコース代謝活性が低減された酵母を誘導するための上記熱処理は、当該酵母の至適生育温度を超える温度での処理をいう。至適生育温度を超える温度であれば、確実にグルコース代謝活性を低減することができるため、好ましい。ここで、「酵母の至適生育温度」とは、対象となる酵母の増殖速度が最大となる温度を意味する。酵母の至適生育温度を超える温度条件とは、用いられる酵母の種類によって異なるが、一般に30℃を超える温度であり、グルコースの消費低減の観点から35℃を超える温度が好ましく、確実なグルコース消費抑制の観点から40℃以上が更に好ましい。 一方でセルラーゼの活性を維持する観点からは、酵母の至適生育温度を超える温度であることに加えてセルラーゼの変性温度未満であることがより好ましい。これにより、グルコース代謝低減を確実に誘導すると共に、高い酵素活性を維持することができる。ここでセルラーゼの変性温度とは、セルラーゼが熱変性によりその活性を示さなくなる温度のことである。セルラーゼの種類によって至適温度が異なるため、用いられるセルラーゼに応じて適宜選択すればよく、例えば、サーモトーガ(Thermotoga sp.)のセルラーゼの場合、105℃以下の温度であることが好ましい。また、多くのセルラーゼの活性低下を確実に抑制する観点から、90℃以下であることが好ましく、更に好ましくは80℃以下であり、最も好ましくは70℃以下である。 また、グルコース代謝活性低減を誘導した酵母においてセルラーゼの酵素機能を充分に発揮させるためには、担体である酵母の形態が正常に維持されていることが好ましい。よって、酵母の至適生育温度を超える温度であることに加えて酵母の熱変性温度未満であることが更に好ましい。ここで酵母の熱変性温度とは、酵母が熱変性により正常な形態を維持できなくなる温度のことである。酵母の種類によって異なるが、酵母の形態を確実に維持する観点から、70℃以下であることが好ましく、更に好ましくは60℃以下であり、最も好ましくは50℃以下である。例えば、Tricoderma reesei由来のエンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、そしてAspergillus aculeatus由来のβグルコシダーゼを酵母サッカロミセス・セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae)の表層に提示させたアーミング酵母の場合、50℃以下の温度であることが好ましい。 これらのことから、酵母の形態維持とセルラーゼの活性維持可能な温度範囲により40℃〜70℃がよく、好ましくは40℃〜60℃、更に好ましくは40℃〜50℃の熱処理でグルコース蓄積能が誘導された酵母とすることができる。このように、40℃から50℃の範囲の熱処理により誘導されたグルコース蓄積能であることが、グルコース代謝低減を確実に誘導すると共に、グルコースを高い収量で反応液中に蓄積する観点から、最も好ましい。 またこの熱処理による誘導は、温度及び酵母の種類等によって異なるが、一般に1〜120時間とすることができ、確実な誘導の観点から3〜48時間とすることができる。 グルコース代謝活性が低減された酵母を誘導するための上記界面活性剤による処理に用いられる界面活性剤は、イオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤のいずれであってもよいが、生体分子への悪影響の可能性が低い非イオン性の界面活性剤であることがより好ましい。 このような非イオン性界面活性剤としては、エステル型、エステル・エーテル型の非イオン性界面活性剤であることがグルコース代謝低減誘導効果の観点から好ましく、例えば、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、ソルビタンセスキオレエート、4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル−ポリエチレングリコール、ソルビタンモノオレエートを挙げることができる。このような界面活性剤は、例えば、ノニデットP−40、Tween85、アラセルC、TritonX−100、Span80等の商品名で市販されている。 界面活性剤にグルコース代謝活性の低減を誘導するための界面活性剤の濃度としては、0.015(w/v)以上10%(w/v)以下がよく、好ましくは0.02〜5%(w/v)、更に好ましくは0.05〜1%(w/v)がよい。なお、界面活性剤の濃度における%表記は、界面活性剤処理を行う処理液全体の容量に対する質量%である。界面活性剤の濃度がこの範囲であれば、セルラーゼの活性を大きく損なうことなく、確実に代謝活性の低減を誘導することができる。この濃度での界面活性剤を1時間〜120時間、確実な誘導の観点から3時間〜48時間接触させることによって、上記グルコース製造用酵母を得ることができる。 グルコース代謝活性が低減された酵母を誘導するための上記抗生物質の種類や濃度、又はUV照射の条件としては、通常、酵母を死滅させずに生体活性を低下させるために用いられるものをそのまま適用することができる。 グルコース代謝活性を低減させた酵母としては、コストや処理効率の点で熱処理、界面活性剤処理、又はこれらの組み合わせにより誘導された酵母であることがより望ましい。熱処理と界面活性剤処理は、各々単独で行ってもよく、両方を前後させて行ってもよく、両方同時に行ってもよい。これにより、上述したようなセルロース分解能を有し、且つグルコース代謝活性が低下した酵母を容易に得ることができる。<グルコース製造方法> 本発明のグルコース製造方法は、上記のグルコース製造用酵母を、反応液中でセルロースと接触させる工程(接触工程)、前記酵母とセルロースとの接触によって反応液中に生成及び蓄積したグルコースを、反応液から分離・回収する工程(分離・回収工程)を含むものである。 本方法によれば、細胞外で効果的にセルロースからグルコースを生成すると共に、生成されたグルコースが反応液中に蓄積するので、グルコース蓄積能を有さない酵母を用いた場合よりも効率よくグルコースを製造することができる。 本発明に用いられるグルコース製造用酵母は、本グルコース製造方法に供される前に、酵母を所定の数まで増殖させる前培養工程を含めてもよい。 この前培養の条件は、アーミング酵母などのグルコース製造用酵母が増殖して目的の菌体重量になるようなものであればよい。培養培地は、酵母の培養に一般的に用いられる基本培地を主体とするものであればよく、アーミング酵母の種類に応じて通常用いられる培地であればいずれでも使用することができる。 このような基本培地は、炭素源、窒素源、無機イオン及び必要に応じてその他の微量成分を含有する培地であれば特に制限は無い。炭素源としては、グルコース、フルクトース、糖蜜などの糖類、フマル酸、クエン酸、コハク酸などの有機酸、メタノール、エタノール、グリセロールなどのアルコール類、その他が適宜使用される。ここで炭素源としてはグルコースよりも安価な炭素源であることが好ましく、例えば廃糖蜜等やセルロース原料等の植物由来原料を用いることができる。 一般的なものとしてデンプン、フルクトース、シュークロース、キシロース、アラビノース等の糖類、またはこれら成分を多く含む草木質分解産物やセルロース加水分解物などが例示できる。更には植物油由来のグリセリンや脂肪酸も、本発明における炭素源に該当する。 本発明における植物由来原料としては、穀物等の農作物、トウモロコシ、米、小麦、大豆、サトウキビ、ビート、綿等を好ましく用いることができ、その原料としての使用形態は、未加工品、絞り汁、粉砕物等、特に限定されない。また、上記の炭素源のみの形態であってもよい。 窒素源としては、有機アンモニウム塩、無機アンモニウム塩、硝酸体窒素、アンモニアガス、アンモニア水、蛋白質加水分解物等の無機及び有機の窒素源、その他が適宜使用される。無機イオンとしては、マグネシウムイオン、リン酸イオン、カリウムイオン、鉄イオン、マンガンイオン、その他が必要に応じて適宜使用される。有機微量成分としては、ビタミン、アミノ酸等及びこれらを含有する酵母エキス、ペプトン、ポリペプトン、コーンスティープリカー、カゼイン分解物、その他が適宜使用される。前培養工程を他の工程から独立した工程とする場合には、グルコースを使用してもよく、これにより、より効率よく酵母を増殖させることができる。グルコースを前培養の培養液に含有させた場合には、前培養工程の培養液から酵母を集菌、回収してから、他の工程に用いる。 また、培養培地には通常微生物の培地に添加される他の添加成分、例えば抗生物質等を、通常用いられる量で含むものであってもよい。培養時の発泡を抑制するために消泡剤を適量添加してもよい。 本発明に使用される培地としては、水性媒体を基本とする液体培地や、寒天等の固相を基本とする固体培地を挙げることができるが、工業的生産に供する点を考慮すれば液体培地が好ましい。液体培地を構成する水性媒体としては、蒸留水、緩衝液等、通常用いられるものを使用することができる。 グルコース製造用酵母を培養するための培養条件としては特別の制限はなく、例えば好気又は嫌気条件下でpH4〜9、好ましくはpH6〜8、温度20℃〜40℃、好ましくは25℃〜35℃の範囲内とすることができる。なおグルコース製造用酵母をアーミング酵母とした場合、アーミング酵母は、通常の酵母と同様の培養条件で維持し、増殖することができる。 本発明の製造方法では、接触工程の前に、上述したグルコース製造用酵母を作製するための前処理工程を含むものであってもよい。これにより、グルコース製造用酵母の作製と、この酵母によりグルコース製造とを連続的に行うことができる。 前処理工程としては、前述したような熱処理、界面活性剤処理及びこれらの組み合わせであることが好ましく、これらの処理については、上記の各グルコース製造用酵母を製造するために用いられた条件をそのまま適用すればよい。 前処理工程で用いる前処理液としては、セルロース分解能が失われなければよく、水(滅菌水)や、リン酸緩衝液(PBS)、トリス−塩酸緩衝液(Tris−HCl)、クエン酸緩衝液、クエン酸リン酸緩衝液、等の各種緩衝液を挙げることができる。 これらの前処理液の温度、pHは、用いられるセルラーゼの活性に応じて、適宜選択することができる。このような観点から、例えばトリコデルマ属セルラーゼの活性維持の観点から50〜200mMのリン酸緩衝液(pH4〜7)がより好ましい。なお前処理液は、酵母のグルコース代謝活性低下を損なわない限り、通常の培養に用いられる培養液であってもよい。 このような前処理工程を適用してグルコース代謝活性を低下させることができる。 前処理時間は、アーミング酵母が表層提示しているセルラーゼの種類によって異なるため一概に時間を指定することはできないが、一般的に前処理時間が長いほどアーミング酵母のグルコース資化能力は低減でき、一方、セルラーゼの酵素活性の維持の観点から制限を設けることが好ましい。例えば、このような観点から、トリコデルマ(Trichoderma)属由来のセルラーゼの場合、3〜24時間の前処理が好ましい。 なお、前培養工程後の上記アーミング酵母を前処理工程に供する場合には、細胞表面に提示されているセルラーゼの分解を抑制するために、培養液から集菌して、上述したような反応液、例えば水又は適当な緩衝液に懸濁してから、前処理工程に用いることが好ましい。これにより、酵母が分泌するプロテアーゼなどのタンパク質分解酵素によるセルラーゼの分解を確実に抑制することができる。(接触工程) 本発明における接触工程では、上述した本発明における酵母を、反応液中でセルロースと接触させる。ここでの接触は、セルロースを含む反応液に酵母を添加するものであってもよく、酵母を含む反応液にセルロースを添加するものであってもよい。 本発明においてグルコース製造の原料として用いられるセルロースには、純粋なセルロースの他にセルロースを構成成分として含む木材、バガス、コーン等広くバイオマスが挙げられ、木材等から得られたパルプもこれに含まれる。 パルプは、木材等から繊維状物として取り出された、セルロースを主成分とする素材の総称であり、薬品を使用してリグニンを除去した化学パルプと、リグニンを残したままグラインダーやリファイナーなどの機械力によりパルプ化した機械パルプと、両方の工法を用いたケミメカニカルパルプと、古紙パルプとに大別される。本発明において原料として使用可能なセルロースは、これらのいずれかの種類のパルプであってもよく、これらの2種以上の組み合わせであってもよい。 パルプの原料としては、木材原料と非木材原料のいずもが挙げられる。木材原料には針葉樹、広葉樹等があり、非木材原料としては、稲わら、麦わら、バガス、竹、各種の麻、コットンリンター、ケナフ、コウゾ、ミツマタ等が挙げられ、これらの組み合わせであってもよい。また、パルプは漂白された晒しパルプでもよく、未晒しパルプであってもよい。 従って、本発明においてグルコース製造の原料となるセルロースは、セルロースの他にヘミセルロース、リグニン等を含んでいてもよく、最終的に加水分解によってグルコースやキシロースなどの発酵に利用可能な糖が得られるものであれば、特に制限なく、本願発明におけるセルロースに包含される。 セルロース分解の反応液は、本発明における酵母がセルロース分解能を示すことができるものであれば、特に限定されず、水又は緩衝液であってもよく、例えば前処理工程について前述したものをそのまま挙げることができる。(反応工程) 本発明における反応工程では、本発明における細胞外でセルロースを分解するセルロース分解能と、反応液中でセルロースと接触したときに前記セルロース分解能によってセルロースから生成されたグルコースを反応液中に蓄積させるグルコース蓄積能とを備えた酵母によって、セルロースからグルコースが生成する。このための反応時間は、細胞表層に提示されているセルラーゼの種類や前処理を施したアーミング酵母の添加量によって異なるため一概に時間を指定することはできないが、一般的に24時間〜250時間でグルコースの蓄積量が最大になることが多い。 また、反応の形態としては、反応成分を添加して反応させるバッチ反応形式、随時生成したグルコースをUF膜等で取り除きながら連続的に反応を行う連続反応形式などが挙げられる。 反応工程における反応温度やpHについては、前処理によって低下させたグルコース代謝能力を短時間で回復させないため、本発明における酵母の増殖に適さない反応温度やpHを用いることが好ましい。 特に好ましくは前処理工程で採用されたものと同様の温度やpHを用いることが望まれる。 (分離・回収工程) 反応工程終了時には、反応液中にグルコースが高濃度に蓄積する。この反応液からのグルコースの分離・回収は、通常用いられる方法により行えばよく、例えば、フィルタ濾過や、遠心分離、クロマトグラフィー等を挙げることができる。 本発明の酵母は上記の反応工程終了後も、繰り返しセルロースからグルコースを製造する反応工程に使用することができる。即ち、本発明の製造方法は、分離・回収工程後の反応液中の酵母を、新たなセルロースと接触させる工程(再利用工程)を更に含んでもよい。これにより、本発明に係るグルコース製造用酵母を繰り返し使用して、更にグルコースの収量を高めることができる。 本発明において繰り返し使用するとは、バッチ反応形式において反応工程終了後の反応液中の酵母を回収してから新たなセルロースを含む反応液と接触させて使用する場合と、連続反応形式において反応工程を通じて流加した新しいセルロースと接触する場合とを含む。 繰り返しの回数の数え方は、バッチ反応形式の場合は新たなセルロースを含む反応液と前バッチで使用した当該酵母が接触した時を1回とし、連続反応形式の場合は、流加した新しいセルロースと反応工程開始時に存在していた当該酵母が接触した時を1回とする。繰り返しの回数は、バッチ反応形式の場合でも連続反応形式の場合でも1回以上であればよく、上限はない。 本発明の製造方法では、分離・回収工程後の反応液中の酵母を回収することを含むものであってもよい。酵母の回収方法としては、グルコースとの分離・回収工程で記載したものをそのまま適用すればよい。これにより、再利用時まで、本発明に係るグルコース製造用酵母を保存しておくことができる。酵母の回収工程は、反応工程の後であればいつでもよく、グルコースとの分離・回収工程と同時に行ってもよい。グルコース製造用酵母の保存方法は、酵母を保存するために通常用いられる条件をそのまま適用すればよい。 以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。また、特に断らない限り、実施例中の「%」は重量(質量)基準である。[実施例1](セルラーゼを表層提示したサッカロミセス属(Saccharomyces)アーミング酵母のグルコース代謝能の低減) Appl. Environ. Microbiol., Vol.70(2), pp.1207-1212 (2004)に記載の方法に従って、Tricoderma reesei由来のエンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、そしてAspergillus aculeatus由来のβグルコシダーゼを酵母サッカロミセス・セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae)の表層に提示させたアーミング酵母を得た(上記文献に記載されたMT8−1/pBG211/pEG23u31H6/pFCBH2w3株)。 このアーミング酵母のグルコース代謝活性の低下を以下のようにして行った。 (培養工程) SD(Trp、ura、Hisを含まない)寒天培地上に生育したコロニーを種菌とし、予備培養を5mLのSD培地(Trp、ura、Hisを含まない)で培養温度30℃、回転速度150rpmで1日間振とう培養し、その3mLを2L容量のバッフルフラスコに入れた500mLのSD培地(Trp、ura、Hisを含まない)に接種して培養温度30℃、回転速度150rpmで3日間振とう培養した。(洗浄工程) このように培養されたアーミング酵母を回転数5000rpm(HITACHI himac CR22Gを使用)、4℃で10分間遠心分離することによって培養液から分離し、回収した酵母を200mLの純水で懸濁して上記遠心分離条件で遠心し酵母を洗浄した。洗浄はもう一回行い、全部で2回行った。その後、回収したアーミング酵母を300mLの純水に再懸濁した。 (前処理工程) このように調製されたアーミング酵母懸濁液を50mL容量のフラスコに30mLずつ分注し、30℃、35℃、40℃、45℃の各温度で5時間、回転速度120rpmでインキュベーションした。 (反応工程) その後、濃度が2重量%となるようにグルコース(和光純薬工業株式会社製)を添加し、引き続き前処理工程と同じ30、35、40、45℃の温度で24時間インキュベーションした。(グルコース量の測定) 経時的に反応液中のグルコースの存在量を調べた。グルコース量濃度は和光純薬工(株)より販売されているグルコースCII−テストワコーキットによって行い、505nmの吸光度を測定することにより行った。結果を表1及び図1に示す。表1中の数値は、OD505nmでの吸光度を示す。 表1に示されるように、培養温度と同じである30℃では経時的にグルコース濃度の減少が観察され、24時間で2重量%のグルコースはほとんど消費された。35℃によるインキュベーションでは、30℃に比較するとその減少速度は低下していたが、経時的なグルコース濃度の減少が観察され、30℃と同様に24時間でグルコースはほとんど消費された。一方で40℃と45℃でインキュベーションしたアーミング酵母は、24時間でほとんどグルコースを消費していないことが観察された。[実施例2](グルコース代謝能が低減されたサッカロミセス属アーミング酵母によるセルロース原料からのグルコースの生成) 上記実施例1と同様な方法で、細胞表層にセルラーゼを提示させたアーミング酵母(MT8−1/pBG211/pEG23u31H6/pFCBH2w3株)の培養、洗浄、前処理工程を行った。但し、前処理温度は30℃、40℃、45℃の温度で処理時間3時間で行った。反応工程は以下のように行った。(反応工程) 濃度が0.6重量%になるようにリン酸膨潤セルロースを添加した。引き続き30℃、40℃、45℃の各温度で24時間インキュベーションした。なお、菌体を含まない50mLの水にリン酸膨潤セルロースを添加して、45℃で同様に処理したものを対照群とした。 リン酸膨潤セルロースは以下のように調製した。4gのセルロース(Avicel PH−101 Fluka製)を100mLの氷冷H3PO4(ナカライテスク社製、純度85%)に添加して一晩攪拌しながら完全に溶かした。その後溶解したセルロース液を1900mLの氷冷水に攪拌しながらゆっくりと流し込み、1時間攪拌した。ブフナーロートでセルロース液を吸引ろ過(濾紙:ADVANTEC社製、定量濾紙No.6を使用)し、以下の要領で、セルロースの洗浄と中和を行った。まず、50mLの純水を4回通して洗浄処理を行い、次に50mLの1%NaHCO3を2回通して中和処理を行った。最後に50mLの純水を3回通した。ペレットを50mLの純水に懸濁し、ホモジナイザー(BRANSON社製Sonifier cell disruptor 200)で処理時間2分間で3回処理し、リン酸膨潤セルロースを得た。リン酸膨潤セルロースを一部取り、乾燥庫で乾燥させて乾燥重量を測り、セルロース濃度を算出した。 (グルコース量の測定) 経時的に反応液中のグルコースの存在量を調べた。グルコース量は和光純薬工業(株)より販売されているグルコースCII−テストワコーキットによって行い、505nmの吸光度を測定することにより行った。結果を表2および図2に示す。表2および図2に示されるように、30℃の前処理および反応ではグルコースは蓄積しなかったが、40℃と45℃の前処理および反応ではグルコースが蓄積し、72時間後のグルコース濃度は各々0.093重量%、0.187重量%であった。[実施例3](グルコース代謝能が低減されたサッカロミセス属アーミング酵母によるセルロース原料からのグルコースの生成) 上記実施例1と同様な方法で、細胞表層にセルラーゼを提示させたアーミング酵母(MT8−1/pBG211/pEG23u31H6/pFCBH2w3株)の培養、洗浄、前処理工程を行った。但し、前処理温度は45℃、処理時間は5時間で行った。 反応工程は実施例2と同様に行った。但し、リン酸膨潤セルロースは濃度が1重量%になるように添加した。また、反応温度は45℃、反応時間は72時間とした。グルコース量の測定は和光純薬工業(株)より販売されているグルコースCII−テストワコーキットによって行い、505nmの吸光度を測定することにより計算した。結果を表3に示す。 表3に示されるように、24時間では0.45重量%のグルコースが生成した。さらに反応時間を延長すると、48時間では0.55重量%のグルコースが蓄積し、72時間では添加したセルロース量の60%に相当する0.6重量%のグルコースが蓄積していた。[実施例4](界面活性剤処理によるセルラーゼを表層提示したアーミング酵母のグルコース代謝能の低減) ゲノムに導入したセルラーゼ遺伝子由来のセルラーゼを表層に提示したアーミング酵母を作製し、以下のようにして界面活性剤処理によるグルコース代謝能低減誘導効果を調べた。<1> Tricoderma reesei由来のエンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、及びAspergillus aculeatus由来のβグルコシダーゼの各々の遺伝子を酵母サッカロミセス・セレビジアエ(Saccharomyces cerevisiae)のゲノムに導入し、Tricoderma reesei由来のエンドグルカナーゼ、セロビオヒドロラーゼ、及びAspergillus aculeatus由来のβグルコシダーゼを表層に提示させたアーミング酵母(MT8−1/EG,CBH,BGL株)の構築 Appl. Environ. Microbiol., Vol.70(2), pp.1207-1212 (2004)に記載のプラスミドpBG211(分泌シグナルとβグルコシダーゼ遺伝子とαアグルチニンの3’−Half遺伝子のフュージョン遺伝子カセットを含む)、pEG23u31H6(分泌シグナルとHisタグとエンドグルカナーゼII遺伝子とαアグルチニンの3’−Half遺伝子のフュージョン遺伝子カセットを含む)、pFCBH2w3(FLAGペプチドタグとCBHII遺伝子とαアグルチニンの3’−Half遺伝子のフュージョン遺伝子カセットを含む)のそれぞれにおいて、Suihkoらの文献Suihko et al., Applied and Environmental Microbiology, Vol.35, pp.781-787 (1991)と同様な手法を用い、制限酵素サイトを利用して、各遺伝子カセットのプロモーターおよびターミネーター領域をPGKプロモーターおよびPGKターミネーターへと交換した。得られたプラスミドは、それぞれ、pBG211−2、pEG23u31H6−2、pFCBH2w3−2と名づけた。 pEG23u31H6−2の、プロモーター、エンドグルカナーゼII遺伝子を含む遺伝子カセット及びターミネーターの一連の領域を、通常の条件でのPCRで増幅した。このDNA断片の両末端、およびpBG211−2のターミネーター領域の下流を制限酵素で切断し、DNAリガーゼにより連結した。このDNAを用いて大腸菌DH5αコンピテントセルを形質転換し、アンピシリンを含むLBプレートに塗布してコロニーを得た。この大腸菌から、定法に従いプラスミドを回収し、エンドグルカナーゼを含む遺伝子カセットとβグルコシダーゼを含む遺伝子カセットを有するプラスミドを取得した。 このプラスミドをHis3マーカー上の制限酵素サイトで切断し、Fast Yeast Transformation Kit (タカラバイオ社製)により調製したSaccharomyces cerevisiae MT8−1株を形質転換して、ヒスチジンを含まないSDプレート培地上に塗布し、30℃で3日間培養することで、エンドグルカナーゼおよびβグルコシダーゼの遺伝子をゲノムに組み込んだ酵母を作製した。 この酵母を用いてFast Yeast Transformation Kitによりコンピテントセルを作製し、pFCBH2w3−2をTrp1マーカー上の制限酵素サイトで切断したDNA断片により形質転換して、トリプトファンおよびヒスチジンを含まないSDプレート培地上に塗布し、30℃で3日間培養することで、エンドグルカナーゼおよびβグルコシダーゼおよびセロビオヒドロラーゼの三種類の酵素を組み込んだ酵母を取得した。この酵母を(MT8−1/EG,CBH,BGL株)と名づけた。<2> 界面活性剤処理によるアーミング酵母のグルコース代謝機能活性低減誘導 上記実施例1と同様な方法で、ゲノム上の遺伝子由来のセルラーゼを細胞表層に提示させたアーミング酵母(MT8−1/EG,CBH,BGL株)の培養、洗浄を行った。但し、培養培地はYPD培地を使用した。また、前処理工程は(1)前処理液に0.1%(w/v)の濃度で界面活性剤(TritonX−100:和光純薬工業株式会社製)を加え、同時に45℃で熱処理を行ったもの、(2)45℃で熱処理のみを行ったもの、(3)前処理液に0.1%(w/v)の濃度でTritonX−100を加え、同時に30℃で熱処理を行ったもの、(4)30℃で熱処理のみを行ったもの、の4種類の要領で行った。処理時間は全て3時間とし、その他の条件は実施例1と同様にした。 反応工程は実施例1と同様に行った。但し、グルコースは濃度が0.25重量%になるように添加した。また、反応温度は前処理工程の温度と同じにし、反応時間は20時間とした。グルコースの定量は実施例2と同様に行った。結果を表4に示す。 表4に示されるように、アーミング酵母のグルコース代謝能は、アーミング酵母を界面活性剤(TritonX−100)に暴露させることでも45℃の熱処理と同様の効果が得られることが分かった。また、界面活性剤暴露と45℃の熱処理を同時に行うことによって、アーミング酵母のグルコース代謝を完全に抑制できることが分かった。[実施例5](界面活性剤と熱処理によるアーミング酵母のグルコース蓄積誘導) 実施例4と同様な方法で、細胞表層にセルラーゼを提示させたアーミング酵母(MT8−1/EG,CBH,BGL株)の培養、洗浄、前処理、反応工程を行った。但し、前処理液には界面活性剤として1%(w/v)の濃度のTritonX−100を添加し、前処理温度は45℃、処理時間は24時間とした。反応工程ではリン酸膨潤セルロースを2重量%となるように添加し、温度は45℃、反応時間は139時間とした。グルコースの定量は実施例4と同様に行った。なお、界面活性剤を含まないサンプルを対照群とした。結果を表5に示す。 表5に示されるように、グルコースの蓄積濃度は、熱処理のみが6g/Lであり、熱処理とTritonX−100暴露を同時に行うと約2培の11.7g/Lに向上した。このことから、前処理工程において、界面活性剤(TritonX−100)暴露と45℃の熱処理とを同時に行うことで、飛躍的にアーミング酵母のグルコース蓄積能を向上させることができることが分かった。[実施例6](界面活性剤の種類によるアーミング酵母のグルコース代謝能低減誘導の違い) 実施例5と同様な方法で、細胞表層にセルラーゼを提示させたアーミング酵母(MT8−1/EG,CBH,BGL株)の培養、洗浄、前処理、反応工程を行った。但し、前処理液には以下に記す界面活性剤を1%(W/v)の濃度で各々1種類ずつ添加した。界面活性剤は、(1)ノニデットP−40(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、半井化学薬品株式会社社製)、(2)Tween85(ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート、東京化成工業株式会社社製)、(3)アラセルC(ソルビタンセスキオレエート、東京化成工業株式会社社製)、(4)Tween20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート、純正化学株式会社社製)、(5)Tween80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、キシダ化学株式会社社製)、(6)TritonX−100(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェニル−ポリエチレングリコール、和光純薬工業株式会社社製)、(7)Span85(ソルビタントリオレエート、東京化成工業株式会社社製)、(8)Span80(ソルビタンモノオレエート、キシダ化学株式会社社製)を使用した。前処理は全て45℃、3時間とした。前処理後30℃で30分間インキュベーションした後、反応工程に進んだ。反応工程ではグルコース濃度が0.5重量%となるように添加し、温度は30℃、反応時間は44時間とした。グルコースの定量は実施例4と同様に行った。なお、界面活性剤を含まないサンプルを対照群とした。結果を表6に示す。 表6に示されるように、アーミング酵母のグルコース代謝能低減誘導を示す界面活性剤は、様々にあることが分かった。特に、(1)ノニデットP−40、(2)Tween85、(3)アラセルC、(6)TritonX−100、(8)Span80はグルコース取り込み抑制効果が高いことが分かった。[実施例7](抗生物質暴露によるアーミング酵母のグルコース代謝能低減誘導) 実施例5と同様な方法で、細胞表層にセルラーゼを提示させたアーミング酵母(MT8−1/EG,CBH,BGL株)の培養、洗浄、前処理、反応工程を行った。但し、前処理液には界面活性剤の替わりに真核生物に効果のある抗生物質としてゼオシン(Invitrogen社製;5〜300μg/mL使用推奨濃度)を200μg/mLの濃度で添加し、前処理温度は30℃、処理時間は24時間とした。この濃度では一般に酵母は生育できない。反応工程ではグルコースを0.5重量%となるように添加し、温度は45℃、反応時間は6時間とした。グルコースの定量は実施例4と同様に行った。なお、前処理工程を行わないサンプルを対照群とした。結果を表7に示す。 表7に示されるように、前処理工程におけるゼオシンの添加は、全くアーミング酵母のグルコース代謝能低減を誘導できないことが分かった。従って、酵母に対して致死的な量の抗生物質暴露では、グルコース代謝低減を誘導できないことがわかった。[実施例8](アーミング酵母の耐熱性試験) 本発明のアーミング酵母触媒は表面に提示したセルラーゼを適切に機能させ、且つ触媒を繰り返し使用するために、セルラーゼを提示させる担体である酵母の形状維持が重要である。そこで、アーミング酵母が正常な形状を維持しうる熱処理温度を以下のようにして調べた。 実施例3と同様な方法で、細胞表層にセルラーゼを提示させたアーミング酵母(MT8−1/EG,CBH,BGL株)の培養、洗浄を行った。但し、培養培地はYPD培地を使用した。1.5mLエッペンドルフチューブに300g/Lの酵母液を0.1mLと純水を0.9mL加え、攪拌後0.1mLずつ0.3mL容量のプラスチックチューブに分注した。各々を30、45、50、60、70、80、90℃で熱処理し、4℃まで冷却した後ヘマサイトメーター(Neubauer社製、1/400mm2;1/10mm深度)で正常な形態を保った細胞数を測定した。細胞数の測定は、1/400mm2エリアを160エリアカウントして、その平均値を算出した。なお、熱処理なしのサンプルを対照群とした。熱処理なしの細胞数を100とした場合の各温度処理サンプル中の正常細胞数の結果を表8に示す。 表8に示されるように、アーミング酵母は、熱処理温度が60℃以上で徐々に正常な形態を保てなくなり、70℃以上では正常形態細胞の割合が22%以下になることがわかった。[実施例9](熱処理によってグルコース代謝能を低減させたアーミング酵母のグルコース代謝能復帰効果) 本発明のアーミング酵母触媒は反応液中にグルコースを蓄積させることが目的であるため、熱による前処理工程で低減させたグルコース代謝能が反応工程中に回復してしまうと、グルコース生産性の観点において不都合である。そこで、前処理したアーミング酵母のグルコース代謝能が回復しない温度範囲を以下のようにして調べた。 実施例3と同様な方法で、細胞表層にセルラーゼを提示させたアーミング酵母(MT8−1/EG,CBH,BGL株)の培養、洗浄、前処理、反応工程を行った。但し、培養培地はYPD培地を使用した。また、前処理温度は45℃、処理時間は24時間とした。その後、各々25℃、35℃、45℃、55℃で、0、22、47、76時間インキュベーションを行い、それぞれ反応工程へ移行した。反応工程ではリン酸膨潤セルロースを1重量%となるように添加し、温度は25℃、35℃、45℃、55℃、反応時間は48時間とした。グルコースの定量は実施例4と同様に行った。蓄積したグルコースの濃度を表9に示す。 表9に示されるように、アーミング酵母は、熱による前処理後に温度を25℃又は35℃に下げるとグルコース代謝能力が回復し、グルコースを消費するようになることが分かった。これに対し、前処理後の温度を45℃以上に維持するとグルコース代謝能力低減効果が維持されることが分かった。[実施例10](アーミング酵母のリサイクル試験) 本発明のアーミング酵母触媒をセルロースの糖化に使用した後、回収してリサイクルすることが可能か、以下のようにして調べた。 実施例3と同様な方法で、細胞表層にセルラーゼを提示させたアーミング酵母(MT8−1/EG,CBH,BGL株)の培養、洗浄、前処理、反応工程を行った。但し、培養培地はYPD培地を使用した。また、前処理温度は45℃、処理時間は24時間とした。反応工程はリン酸膨潤セルロースを2重量%となるように添加し、温度は45℃、反応時間は24時間で行った。初回の反応工程の終了後、アーミング酵母を遠心分離処理により回収し、回収した酵母を初回の反応工程で生成したグルコースの量と等量のグルコースが含まれるリン酸膨潤セルロースを含む反応液に懸濁し、再び反応工程を行った。同様な手法でアーミング酵母の回収と反応工程を繰り返し、合計5回のリサイクルを行った。グルコースの定量は実施例4と同様に行った。 各リサイクル反応工程における残存活性を以下のように算出した。各反応工程の0時間目と24時間目のグルコース濃度を測定し、各々のリサイクル反応工程におけるグルコース生成量を算出した。グルコース生成量を各反応時間で除し、1時間あたりのグルコース生成速度を算出して、これを各工程における触媒活性とした。初回の触媒活性を100とした時の各リサイクル工程での触媒活性を相対値で表し、これを残存活性とした。また、対照として、アーミング酵母の替わりに精製セルラーゼ(アクセルラーゼ:ジェネンコア社製)を0.1%(w/v)の濃度で使用し、同様の試験を行った。結果を表10に示す。 表10に示されるように、アーミング酵母は、5回のリサイクルを行っても48%以上の触媒活性を維持していた。これに対し、アクセルラーゼはリサイクル回数を経るごとに触媒活性が急激に減少し、3回目以降は殆ど活性が残っていなかった。このことから、精製酵素がリサイクル使用できないのに比して、アーミング酵母触媒は回収して何度でもセルロースからグルコースへの糖化反応に使用できることが確認された。[実施例11](60℃でのアーミング酵母のリサイクル試験) 本発明のアーミング酵母触媒を60℃でリサイクルした場合、酵母の形態維持が可能か、以下のようにして調べた。 実施例8と同様な方法で、細胞表層にセルラーゼを提示させたアーミング酵母(MT8−1/EG,CBH,BGL株)の培養、洗浄を行った。2.0mLエッペンドルフチューブに300g/Lの酵母液を0.1mLと純水を0.9mL加え、回転数1000rpm/min(TAITEK社製、Bioshaker、M−BR−022UP)で攪拌しながら60℃でインキュベーションを行った。24時間ごとに0.01mLを採取し、遠心処理を行って上清を取り除いた後純水で1mLに再懸濁して4℃まで冷却し、ヘマサイトメーター(Neubauer社製、1/400mm2;1/10mm深度)で正常な形態を保った細胞数を測定した。細胞数の測定は、1/400mm2エリアを160エリアカウントして、その平均値を算出した。対照群として熱処理なしのサンプルを用意した。熱処理なしの細胞数を100としたときのリサイクル後のサンプル中の正常細胞数の結果を表11に示す。 表11に示されるように、アーミング酵母を60℃でリサイクルした場合、5回目のリサイクル終了後で正常な形態を維持していた酵母の割合は26%だった。[実施例12](50℃でのアーミング酵母のリサイクル試験) 本発明のアーミング酵母触媒を50℃でリサイクルした場合、酵母の形態維持が可能か、以下のようにして調べた。 実施例11と同様な方法で、細胞表層にセルラーゼを提示させたアーミング酵母(MT8−1/EG,CBH,BGL株)の培養、洗浄を行った。その後、実施例11と同様にアーミング酵母のリサイクル実験を行った。但し、インキュベーション温度は50℃とし、リサイクル回数は7回とした。対照群として熱処理なしのサンプルを用意した。熱処理なしの細胞数を100としたときのリサイクル後のサンプル中の正常細胞数の結果を表12に示す。 表12に示されるように、アーミング酵母を50℃でリサイクルした場合、7回目のリサイクル終了後でも56%の酵母が正常な形態を維持していた。[実施例13](アーミング酵母によるパルプ原料からのグルコースの製造) 本発明のアーミング酵母及び本発明のアーミング酵母に更にCellulomonas fimi由来のセロビオヒドロラーゼ(Cex)を発現させた酵母を用いた、クラフトパルプからのグルコース製造を以下のように行った。<1> MT8−1/EG,CBH,BGL株にCellulomonas fimi由来のセロビオヒドロラーゼ(Cex)を発現させたアーミング酵母の構築 Cellulomonas fimi由来セロビオヒドロラーゼ(Cex)の塩基配列は既に報告されている(Genbank accession number M15199)。アンカータンパク発現用プラスミドであるpEG23u31H6(Fujita et.al., Applied and Environmental Microbiology, Vol.68 (10), pp.5136-5141 (2002) 記載)のベクター領域を増幅する2種のプライマーCGCGGCAGAAACGAGCAAAGAAAAGTAAG(配列番号1)、AGATCTCCATGGCTCGAGCGCCAAAAGCTC(配列番号2)を構築した。さらに、5’末端に上記プライマーと相補する配列を有し、3’末端にCexの成熟タンパク質部分と相同の配列を有する2種のプライマーTACTTTTCTTTGCTCGTTTCTGCCGCGGGAGCGACCACGCTCAAGGAGGC(配列番号3)、GCTTTTGGCGCTCGAGCCATGGAGATCTAGGCCGACCGTGCAGGGCGTG(配列番号4)を構築した。 pEG23u31H6を鋳型に、配列番号1と配列番号2のプライマーを用いて、通常の条件でPCRを行うことにより、約10kbpのDNA断片(以下pEG23u31H6断片と呼ぶ)を得た。また、Cellulomonas fimi ATCC484株のゲノム遺伝子を鋳型とし、配列番号3と配列番号4のプライマーを用いて、通常の条件でPCRを行うことにより、約1.3kbpのDNA断片(以下Cex断片と呼ぶ)を増幅した。得られたpEG23u31H6断片とCex断片の混合液を用いて、Fast Yeast Transformation Kit (タカラバイオ社製)により調製したMT8−1/EG,CBH,BGL株を形質転換して、ウラシルを含まないSDプレート培地上に塗布し、30℃で5日間培養した。得られた形質転換体をMT8−1/EG,CBH,BGL/pCex株と名づけた。 なお、Cellulomonas fimi ATCC484株は細胞・微生物・遺伝子バンクであるアメリカンタイプカルチャーコレクションより入手することができる。<2> MT8−1/EG,CBH,BGL株とMT8−1/EG,CBH,BGL/pCex株によるクラフトパルプからのグルコース製造試験 まず、クラフトパルプを以下のようにして調製した。 含有率50%(dry w/w)のシート状のクラフトパルプ(日本大昭和板紙株式会社製:広葉樹由来、晒し)を細かくちぎり、ブレンダーに入れて滅菌水で7%(dry w/w)になるように懸濁した。これをオートクレーブにかけて滅菌処理し、一部を採取して乾燥重量を測定した。オートクレーブ後のパルプを3%(dry w/w)の濃度になるように滅菌水で更に稀釈して懸濁し、100mMクエン酸緩衝液(pH4.8)でpHを4.8に調製してこれをパルプストックとした。 実施例5と同様な方法でアーミング酵母の培養、洗浄、前処理、反応工程を行った。但し、アーミング酵母は、MT8−1/EG,CBH,BGL株とMT8−1/EG,CBH,BGL/pCex株の2種類を用意した。更に対照として、セルラーゼを全く表層提示させていない宿主酵母(MT8−1)を用意した。前処理液には界面活性剤として0.1%(w/v)の濃度のTritonX−100を添加し、前処理温度は45℃、処理時間は24時間とした。反応工程ではクラフトパルプを0.5重量%となるように添加し、温度は45℃、反応時間は216時間とした。グルコースの定量は実施例4と同様に行った。結果を表13に示す。 表13に示されるように、本発明のアーミング酵母触媒によって、クラフトパルプからグルコースが製造できることが実証された。また、本発明のアーミング酵母の表層に更に別の種類のセルラーゼ(例えばCellulomonas fimi由来のセロビオヒドロラーゼ(Cex))を提示させると、グルコースの生産性が向上することがわかった。 このように本発明によれば、アーミング酵母を所定の温度条件又は界面活性剤暴露で前処理することにより、簡便にグルコース代謝活性を低下させることができ、この前処理後のアーミング酵母を用いることによって、グルコースが反応液中に高濃度に蓄積することができる。更に本発明のアーミング酵母はグルコースが蓄積した反応液から容易に回収することができ、リサイクルして使用することができる。 従って、このようなグルコース代謝活性を低下させたアーミング酵母を繰り返し用いることによって、セルロースからグルコースを高い収量で効率よく得ることができる。 日本出願番号第2008−105050号の開示はその全体を本明細書に援用する。 本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格を、個々の文献、特許出願、および技術規格を援用することが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に援用する。 細胞外でセルロースを分解するセルロース分解能と、 反応液中でセルロースと接触したときに、前記セルロース分解能によってセルロースから生成されたグルコースを反応液中に蓄積させるグルコース蓄積能と を備えた酵母。 前記グルコース蓄積能が、グルコース代謝活性の低減によるものである請求項1に記載の酵母。 前記グルコース蓄積能が、前記酵母の至適生育温度を超え、前記セルロース分解能を付与するセルロース分解酵素の変性温度未満の熱処理により誘導されたものである請求項1又は請求項2記載の酵母。 前記グルコース蓄積能が、40℃から70℃の範囲の熱処理により誘導されたものである請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の酵母。 前記グルコース蓄積能が、界面活性剤を用いた処理により誘導されたものである請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の酵母。 前記グルコース蓄積能が、0.015%(w/v)以上10%(w/v)以下の濃度の界面活性剤溶液に接触させる処理により誘導されたものである請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の酵母。 前記酵母がサッカロミセス属(Saccharomyces)酵母である請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の酵母。 前記酵母が、表層にセルロース分解酵素を備えた酵母である請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の酵母。 セルロースからグルコースを製造するグルコース製造方法であって、 請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の酵母を、反応液中でセルロースと接触させる工程、 前記酵母とセルロースとの接触によって反応液中に生成及び蓄積したグルコースを、反応液から分離・回収する工程 を含む方法。 前記分離・回収工程後の反応液中の前記酵母を、新たなセルロースと接触させることを更に含み、前記分離・回収後の反応液中の酵母を1回以上繰り返して使用する請求項9に記載の方法。 前記分離・回収工程後の反応液中の前記酵母を回収することを更に含む請求項9又は請求項10に記載の方法。 前記セルロースとの接触工程の前に、前記グルコース蓄積能を誘導するための前処理を行うことを更に含む請求項9〜請求項11のいずれか1項に記載の方法。 前記前処理が、40℃から70℃の範囲の熱処理又は界面活性剤による処理である請求項12に記載の方法。 本発明は、細胞外でセルロースを分解するセルロース分解能と、反応液中でセルロースと接触したときに、前記セルロース分解能によってセルロースから生成されたグルコースを反応液中に蓄積させるグルコース蓄積能とを備えた酵母と;この酵母を、反応液中でセルロースと接触させる工程、前記セルロースとの接触によって反応液中に蓄積したグルコースを、反応液から分離・回収する工程を含むセルロースからグルコースを製造するグルコース製造方法を提供する。配列表