タイトル: | 公開特許公報(A)_新規スフィンゴ脂質及びその製造方法 |
出願番号: | 2009050763 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | C12P 13/00,C11B 11/00 |
伊東 信 森本 恵 安部 英理子 JP 2010200690 公開特許公報(A) 20100916 2009050763 20090304 新規スフィンゴ脂質及びその製造方法 国立大学法人九州大学 504145342 日本水産株式会社 000004189 須藤 阿佐子 100102314 須藤 晃伸 100123984 伊東 信 森本 恵 安部 英理子 C12P 13/00 20060101AFI20100820BHJP C11B 11/00 20060101ALI20100820BHJP JPC12P13/00C11B11/00 5 10 OL 16 4B064 4H059 4B064AE01 4B064AE63 4B064CA05 4B064CB27 4B064CD04 4B064CD12 4B064CD15 4B064DA01 4B064DA10 4H059BA83 4H059BC48 本発明は、新規なスフィンゴ脂質、及びその製造方法に関する。具体的には、本発明スフィンゴ脂質はホスホリルエタノールアミンの結合したセラミドであり、また海洋性真核微生物であるラビリンチュラ類より当該スフィンゴ脂質を製造する方法に関する。 スフィンゴ脂質はスフィンゴシン骨格を持つ脂質を指し、哺乳類の形質膜に広く分布していることが知られている。スフィンゴ脂質の多くは形質膜外葉に存在して形質膜微小領域(ラフト)を形成し、細胞間の情報伝達に関与していると考えられている 。セラミドにコリンリン酸の結合したスフィンゴミエリン(SM) は、哺乳類に広く分布し、ラフトの形成のみならず、セラミドやスフィンゴシン 1-リン酸 (S1P) に代謝され、細胞の生死や細胞増殖に関っていると考えられている(非特許文献1)。また、コリンリン酸の代わりにホスホリルエタノールアミンの結合したエタノールアミンホスホセラミド(EPC) は、淡水産の巻貝(非特許文献2)、ショウジョウバエを初めとする昆虫類(非特許文献3)、一部のバクテリア(非特許文献4)、真核微生物であるtrypanosome(非特許文献5)やゾウリムシ(非特許文献6)などに広く分布していることが報告されている。この EPC は、SM の前駆体としての役割(非特許文献7)や、SM のアイソタイプとしてラフトに存在し、シグナル伝達に関る可能性が示唆されている(非特許文献3)。さらに、ショウジョウバエで行われたEPC欠損実験の結果、EPC が70% 減少した個体で、早期老化に伴う寿命の減少、膜組織の変化、膜脂質、膜タンパク質の酸化促進が確認された(非特許文献8)。この結果は、EPC が老化の抑制に重要な役割を果たしている可能性を示唆しており、EPCの機能性脂質としての利用にも期待が集まる。 一方、ラビリンチュラ類は DHA を豊富に生産、蓄積することが報告されており(特許文献1、非特許文献9)、独自の脂質代謝経路や膜機能を有する可能性がある。ラビリンチュラ類をDHAの供給源として用いる技術は、例えば、ラビリンチュラ属の微生物であるS3−2株(受託番号FERM BP-5034)を利用する技術)(特許文献2、3参照)、シゾキトリウム属の微生物であるSR21株(FERM BP−5034)及びその利用技術(特許文献4〜6参照)等が挙げられる。 しかしながら、ラビリンチュラにおいて、上記のように膜機能に重要な役割を果たすスフィンゴ脂質についてはほとんど解析が行われていない。また、ヒトの神経細胞において、グリセロ型リン脂質とSMの代謝は密接に相互作用しあっているという報告があることから(非特許文献1)、スフィンゴ脂質の動態がDHAの代謝や機能に影響を与える可能性も考えられる。従って、ラビリンチュラのスフィンゴ脂質の分子種、機能を解明することは、ラビリンチュラにおける膜脂質の機能を調べる上で不可欠である。特開2007−143479号公報特開2001−275656号公報特開2003−000292号公報特開平9−000284号公報特開平10−072590号公報特開平10−310556号公報特開2005−287380号公報Akhlaq A. Farooqui, Lloyd A.Horrochs, Tahira Farooqui. J. Neurosci. Res 85, 1834-1850 (2007)杉田陸海:オレオサイエンス 653, 13-21 (2003)Anton Rietveld, et.al. J. Bio. Chem.274, 12049-12054 (1999)Takashi Naka, et al. Biochimi. Biophys. Acta1635, 83-92 (2003)Shaheen S. Sutterwala, et. al. MolecularMicrobiology 70, 281-296 (2008)Enda S. Kaneshiro,et. al. Jounalof Lipid Research 38 2399-2410 (1997)Monique Malgat, et. al. jounal ofLipid Research 27 251-260 (1986)Raghavendra Pralhada Rao, et. al.PNAS 104 11364-11369 (2007)Barbara B.Ellenbogen, S. Aaronson,Comp. Biochem.Physiol. 29, 805 (1969) 本発明は、新規なスフィンゴ脂質及びその製造方法を提供することを課題とする。具体的には、化1で示されるスフィンゴ脂質、及びラビリンチュラ類より当該スフィンゴ脂質を製造する方法を提供することを課題とする。 本発明者らは、上述の状況に鑑みラビリンチュラ類のスフィンゴ脂質について鋭意研究の結果、新規なスフィンゴ脂質を見出し、本発明を完成させるに至った。 従って本発明は、以下の(1))記載のスフィンゴ脂質を要旨とする。 (1) 以下の一般式(1)で表されるスフィンゴ脂質。(ここで、n=1〜14の時、m=15−n又はn=1〜15の時、m=16−n) また、本発明は、以下の(2)〜(4)記載のスフィンゴ脂質の製造方法を要旨とする。 (2) 前記(1)記載のスフィンゴ脂質の製造において、海洋性真核微生物を培養し精製することを特徴とする、スフィンゴ脂質の製造方法。 (3) 海洋性真核微生物がラビリンチュラ類である、前記(2)記載の新規スフィンゴ脂質の製造方法。 (4) ラビリンチュラ類がスラウストキトリウム アウレウム(Thraustochytrium aureum、以下、「T. aureum」と略称することがある。)である、前記(3)記載の新規スフィンゴ脂質の製造方法。 (4) ラビリンチュラ類がスラウストキトリウム アウレウム ATCC34304(Thraustochytrium aureum ATCC34304)である、前記(3)又は(4)記載の新規スフィンゴ脂質の製造方法。 本発明により、新規なスフィンゴ脂質が提供され、医薬品、化粧品、食品等に有用な物質が提供される。実施例1における、T. aureumから抽出した脂質の弱アルカリ分解テストの結果を表す(図中、PC:ホスファチジルコリン、GalCer:ガラクトシルセラミド(スフィンゴ糖脂質)、FA:脂肪酸)。実施例2における、T. aureum のリン脂質画分をSCDase処理した結果を示す(図中、SM:スフィンゴミエリン、C12 NBD-FA:(I)ニンヒドリン試薬で発色させたTLC、(II)トランスイルミネーターでのTLC)。実施例2における、T. aureum の糖脂質画分をSCDase処理した結果を示す(図中、(1):糖脂質画分 SCDace処理、(2):糖脂質画分 煮沸処理、(3):スフィンゴミエリン SCDace処理、(4):スフィンゴミエリン 煮沸処理、SM:スフィンゴミエリン、(I):加水分解したもののTLC、(II):縮合反応したもののTLC)。実施例3における、アルカリ耐性リン脂質の分離結果を示す(図中、(I)50%硫酸で発色、(II)dittmer 試薬で発色)。実施例3における、アルカリ耐性リン脂質の順相HPLCによる分離結果を示す(図中、A:ピークA)。実施例4における、ピークAの弱アルカリ分解テストの結果を示す(図中、 A:ピークA、PC:ホスファチジルコリン、SM:スフィンゴミエリン、FA:脂肪酸、+:アルカリ分解を行ったもの、−:アルカリ分解を行っていないもの;50%硫酸で発色)。実施例4における、ピークAのSCDase処理の結果を示す(図中、SM:スフィンゴミエリン、1:ピークA SCDace処理、2:ピークA 煮沸酵素処理、3:スフィンゴミエリン SCDace処理、4:スフィンゴミエリン 煮沸酵素処理、(I):加水分解反応、(II):縮合反応)。実施例5における、ピークAのTLCによる官能基の確認結果を示す(図中、A:ピークA、PC:ホスファチジルコリン、PE:ホスファチジルエタノールアミン、 SM:スフィンゴミエリン、(I):Dittmer試薬による発色、(II):ニンヒドリン試薬による発色)。実施例6における、逆相HPLCによる本発明脂質の分離結果を示す。実施例6における、ピーク1のFAB-MS分析結果を示す。実施例6における、ピーク2のFAB-MS分析結果を示す。 本発明は、以下の一般式(1)で表される新規なスフィンゴ脂質に関する。(ここで、n=1〜14の時、m=15−n又はn=1〜15の時、m=16−n) 本発明の新規スフィンゴ脂質は、海洋性真核微生物を培養し抽出、精製することにより得ることができる。海洋性真核微生物とは、具体的にはラビリンチュラ類である。ラビリンチュラ類としては、ラビリンチュラ属(Labyrinthula)、アルトルニア属(Althornia)、アプラノキトリウム属(Aplanochytrium)、イァポノキトリウム属(Japonochytrium)、ラビリンチュロイデス属(Labyrinthuloides)、シゾキトリウム属(Schizochytrium)、ヤブレツボカビ属(Thraustochytrium)、又はウルケニア属(Ulkenia)、アウランティオキトリウム属(Aurantiochytrium)が挙げられ、好ましくはヤブレツボカビ属に属する微生物であり、特に好ましくはスラウトキトリウム アウレウム(Thraustochytrium aurem)が挙げられる。これらは保存機関から分譲された菌株、あるいはその継代培養菌株であってもよい。トラウストキトリウムアウレウムATCC28211、スラウストキトリウム アウレウムATCC34304、シゾキトリウム(Schizochytorium) sp. M-8(FERM P-19755、特許文献7参照)株が例示される。 この海洋性真核微生物を培養し、抽出、精製操作を行うことにより、本発明の新規スフィンゴ脂質を得ることができる。 本発明の新規スフィンゴ脂質を得るために、海洋性真核微生物を培養する。培養は、通常用いられる固体培地あるいは液体培地等で、常法により培養する。この時、用いられる培地としては、例えば炭素源としてグルコース、フルクトース、サッカロース、デンプン、グリセリン等、また窒素源として酵母エキス、コーンスティープリカー、ポリペプトン、グルタミン酸ナトリウム、尿素、酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム等、また無機塩としてリン酸カリウム等、その他必要な成分を適宜組み合わせた培地であり、ラビリンチュラ類を培養するために通常用いられるものであれば特に限定されないが、特に好ましくは酵母エキス・グルコース培地(GY培地)が用いられる。培地は調製後、pHを3.0〜8.0の範囲内に調整した後、オートクレーブ等により殺菌して用いる。培養は、10〜40℃、好ましくは15〜35℃にて、1〜14日間、通気撹拌培養、振とう培養、あるいは静置培養で行えば良い。 次に、培養した微生物を適当な乾燥方法により乾燥し、そこから脂質を抽出する。この時、乾燥方法としては特に好ましくは凍結乾燥が用いられる。凍結乾燥した菌体から適当な方法を用いて脂質を抽出する。 脂質の抽出方法としては、一般に用いられる方法であれば特に限定されないが、溶媒抽出、pH調整あるいは酵素処理等によるタンパク質成分の分離除去、超臨界抽出等、あるいはこれらを組み合わせた方法が用いられ、好ましくは有機溶媒による抽出、酵素処理した後有機溶媒により抽出、又は超臨界二酸化炭素抽出が用いられる。溶媒抽出において用いる溶媒としては、適当な有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等のアルコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、クロロホルム、トルエン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等を単独あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、好ましくはクロロホルム/メタノール混液を用いて脂質を抽出する。この時、溶媒混合比あるいは菌体量:溶媒比は任意に設定すれば良いが、特に好ましくはFolch分配、即ちクロロホルム/メタノール=2:1の溶媒を用い抽出する。 このようにして抽出された脂質に弱アルカリ分解処理を行い、さらにFolch 分配を行い、下層を回収する。この時、弱アルカリ分解は0.01〜0.5Nの水酸化カリウムあるいは水酸化ナトリウムを脂質約 5mg につき 0.1〜10 ml 加え、30〜50℃で1〜24時間インキュベートすれば良い。次にFolch下層を順相のクロマトグラフィーにより分離する。このとき、カラムにはシリカカラムを用い、クロロホルム、アセトン、メタノールの順に溶媒を流す。この操作により、メタノール画分に目的のリン脂質が溶出する。次に得られたリン脂質画分を順相の高速液体クロマトグラフィー(HPLC) に供試することにより、保持時間23分付近のピークから目的物質を得ることができる。さらに、逆相HPLC を用いることにより、各分子種に分離することができる。この時、特に好ましくはODSカラムを用い、保持時間22分及び27分付近のピークを回収することにより、本発明新規スフィンゴ脂質を得ることができる。 このようにして得られた本発明新規スフィンゴ脂質は、医薬品、化粧料、食品等の原料として有用である。 以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。〔T. aureum の中性脂質、糖脂質、リン脂質の各脂質画分の弱アルカリ分解テスト〕 まず、菌体を培養し回収した。即ち、Thraustochytrium aureum ATCC 34304菌体を 200 mlのGY培地(表1の組成で調製)を用い、25℃、4日間振とう培養した後、8,000 rpmで5分間遠心し上清を除去した。ここに0.9% NaClを適量加えよく懸濁した後、8,000 rpmで5分間遠心し上清を除去し、さらに超純水を適量加えよく懸濁した後、8,000 rpmで5分間遠心し上清を除去し、菌体を回収して凍結乾燥した。 次に、回収した菌体からFolch分配により総脂質の抽出を行った。即ち、菌体に20 mlのクロロホルム/メタノール= 2/1を添加し超音波で菌体を破砕した後、1,800 rpmで5 分間遠心し、上清を回収した。これを3回繰り返した後、15mlの0.9% NaClを添加し、よく混和して4℃で一晩静置して下層を回収し、ロータリーエバポレーターで濃縮した。 次に、得られた脂質の各脂質画分への分離を行った。即ち、Sep-Pak-Silica(Waters社製)を30 mlのクロロホルムで平衡化した後、濃縮乾固した総脂質を2 mlのクロロホルムに溶解しカラムに負荷した。この時、クロロホルム30 ml、アセトン50 ml、メタノール20 mlの順に溶出し、10 mlずつのフラクションを回収した。回収したフラクションに含まれる脂質を薄層クロマトグラフィーにより確認した。この時、展開溶媒として中性脂質にはn-ヘキサン/エーテル/酢酸=80/20/1 (v/v/v)を 、糖脂質及びリン脂質にはクロロホルム/メタノール/水=65/25/4 (v/v/v)を用いた。また、発色試薬には50%硫酸、オルシノール硫酸、及びDittmer試薬(Sigma社製)を用いた。さらに陽性対照としてガラクトシルセラミド(GalCer)、陰性対照としてホスファチジルコリン(PC)、対照として脂肪酸(FA、具体的にはリノール酸(sigma社製))を同時に負荷した。 次に、前記の回収した各脂質画分をエバポレーターで濃縮し、弱アルカリ分解テストを行い、スフィンゴ脂質の存在を確認した。即ち、前記回収した各脂質画分から約 0.5mg を取りN2 ガスで濃縮し、100μlの 0.1 N KOHを添加して超音波で溶解した後、37℃で 一晩インキュベートした。これに1μlの10 N 酢酸を添加し中和した後、240μlのクロロホルム及び240μlの0.9% NaClを添加してボルテックスミキサーにてよく混和し、15,000 rpmで 3分間遠心し、下層を回収した。これを薄層クロマトグラフィー(TLC)により確認した。この時、展開溶媒としてクロロホルム/メタノール/水=65/25/4、発色試薬は50%硫酸を用いた。結果を図1に示す。 sep pak silicaカラムによる分離の結果、クロロホルム画分に中性脂質、アセトン画分に糖脂質、メタノール画分にリン脂質が含まれることが分かった。そこで、それぞれの画分を中性脂質画分、糖脂質画分、リン脂質画分とし、それぞれの画分について弱アルカリ分解の処理を行ったところ、糖脂質画分、リン脂質画分から、弱アルカリで分解されないバンドの存在を確認した(図1)。この結果より、糖脂質画分、リン脂質画分にスフィンゴ脂質が存在する可能性が示唆された。 [T. aureum の糖脂質、リン脂質画分のSCDase 処理] 実施例1で示唆された糖脂質、リン脂質画分に存在するアルカリ耐性の脂質がスフィンゴ脂質であるかを確認するために、SCDase による加水分解反応及び脂肪酸の縮合反応を行った。 即ち、実施例1で得られたリン脂質画分を約 50μg取り、5μlの2% triton X-100(Sigma社製)を添加し、遠心エバポレーターで濃縮した。次に5μlの4×reaction buffer 1(100 mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、20 mM CaCl2)及び10μlの超純水を添加しソニケーションした。そこに5μl のスフィンゴ脂質セラミドデアシラーゼ(SCDase) (Shewanella alga G8由来、7mU、Furusato, M. et. al. (2002) J. Biol. Chem. 277, 17300-17307 の方法を用い作成、精製)を添加し、ボルテックスミキサーにてよく混和した。これを37℃で一晩インキュベートした後遠心エバポレーターで濃縮乾固し、5μlのクロロホルム/メタノール=2/1に溶解してTLCにて反応産物を確認した。この時、展開溶媒としてクロロホルム/メタノール/0.02% CaCl2=5/4/1(v/v/v)、発色試薬はニンヒドリン試薬を用いた。結果を図2に示す。 次に、SCDase によるC12 NBD-脂肪酸の縮合反応を行った。即ち、実施例1で得られた糖脂質画分を約50μg取り、 5μlの0.4% triton X-100、1 nmol 12−((7−ニトロベンズ−2−オキサ−1,3−ジアゾール−4−イル)アミノ)ドデカン酸(C12 NBD-FA Molecular Probes社製)を添加し遠心エバポレーターで濃縮した。濃縮物に5μlの4×reaction buffer 2(100 mM Tris-HCl緩衝液(pH 7.5)、20 mM MgCl2)及び10μlの超純水を添加しソニケーションした。そこに5μl のSCDase (7 mU) を添加し、ボルテックスミキサーにてよく混和した。これを37℃で一晩インキュベートした後遠心エバポレーターで濃縮乾固し、5μlのクロロホルム/メタノール=2/1に溶解しTLCに負荷し、トランスイルミネーターで反応産物を確認した。この時、展開溶媒としてクロロホルム/メタノール/0.02% CaCl2=5/4/1(v/v/v)を用いた。結果を図3に示す。 以上の結果、リン脂質画分においては、加水分解反応、縮合反応の両方が起こることが確認できた(図2)。一方、糖脂質画分については、加水分解、縮合のどちらの反応も確認できなかった(図3)。これらの結果より、リン脂質画分に含まれるアルカリ耐性脂質がスフィンゴ脂質である可能性は非常に高いと考えられた。[アルカリ耐性リン脂質画分の精製] 7.4 L のGY培地から、3.797gの乾燥菌体を回収し、361.6mg の総脂質が得られた。この総脂質に弱アルカリ処理を施し、Folch 分配を行った。Folch下層をsep pak silica により中性脂質、糖脂質、リン脂質に分離した。結果を図4及び図5に示す。 この結果、図4に示す通り、メタノール画分からアルカリ耐性リン脂質と考えられる2本のバンドを得た。[順相HPLCによるスフィンゴ脂質の分離] 実施例3で回収したリン脂質を、n-ヘキサン/イソプロパノール=3/1に溶解 (20μg/μl)し、これを高速液体クロマトグラフィーに20μlずつ負荷し、スフィンゴ脂質の分離を行った。この時、カラムはInertsil HPLC column(NH2 6μm、250 x 4.6 mm;ジーエルサイエンス社製)を用い、移動層にアセトニトリル/メタノール/0.2%トリエチレンアミン(pH 4.0)=67/22/11(v/v/v)を用い流速1ml/minで、検出波長は210 nmとした。このクロマトグラムの最も顕著なピーク(ピークA;図5)を回収した。回収したピークのフラクションについて、実施例1及び2と同様に弱アルカリ分解テスト及びSCDace処理による脂質画分の確認を行った。結果を図6(弱アルカリ分解テスト)及び図7(SCDace処理)に示す。 この結果、ピークAは弱アルカリ処理を行ってもバンドが消失しなかった(図6)。従って、ピークAは確かにアルカリに耐性の脂質であることが確認された。また、ピークAにSCDase による加水分解反応、蛍光脂肪酸の縮合反応の処理をそれぞれ行った所、加水分解反応、縮合反応両方とも反応が起こることが確認された(図7)。 [回収した脂質画分のTLC による官能基の確認] 実施例4で得られたピークAをTLC で展開し、各発色試薬での呈色により官能基の存在を確認した。即ち、実施例3にて回収した脂質画分のうち約50μg を取り、TLC に負荷した。この時、展開溶媒としてクロロホルム/メタノール/水=65/25/4 (v/v/v)、及び発色試薬としてDittmer試薬、及びニンヒドリン試薬を用いた。結果を図8に示す。 この結果、ピークAは、Dittmer 試薬による青色の呈色、ニンヒドリン試薬による赤色の呈色が確認された。このことから、ピークAは、リン酸基と遊離のアミノ基を分子内に持つことが明らかになった。[回収した脂質画分の各分子種への分離及び構造解析] 実施例5にて回収した脂質画分を、逆相HPLC により各分子種へ分離した。即ち、サンプルをメタノールに溶かし(20μg/μl)、このサンプルを 20μlずつHPLCに負荷した。この時、カラムにYMC-Pack ODS-AQ column (150x6.0 mm、S-120mm;ワイエムシー社製)を用い、移動層にメタノール / 1 mM リン酸カリウム buffer (pH7.4) = 9/1 (v/v)を用い流速1ml/minで、検出波長を210 nmとした。各ピークを回収し、TLC により回収物を確認した。結果を図9に示す。 この結果、リテンションタイム22分、27分付近に顕著なピークが観察された(図9)。この二つのピークを、ピーク1及びピーク2として回収し、一部をTLC に負荷し官能基、及びRf 値の確認を行った。その結果ピーク1、ピーク2は両方ともニンヒドリン陽性であり、Rf 値もピークAのものと一致することが確認された。 さらに、ピーク1及びピーク2について、NMR及びFAB-MSにより構造解析を行った。NMRは1H-NMR (600 MHz, CD3OD)、13C-NMR (125 MHz, CD3OD) の二つを測定した。またFAB-MSはIon mode : FAB−、Matrix:トリエタノールアミンの条件で行った。FAB-MSの結果を図10(ピーク1)及び図11(ピーク2)にそれぞれ示す。 NMR 解析の結果、ピーク1及びピーク2はともにセラミドにホスホリルエタノールアミン基が結合したエタノールアミンホスホセラミド(EPC)であることが確認された。また、セラミドを構成するスフィンゴシンの部分は、4、8、10位に不飽和結合、9位にメチル基があることが確認された。加えて、脂肪酸は、2位にヒドロキシル基が付加し、3位に不飽和結合のあるa-ヒドロキシ酸であることが明らかになった(表2)。 また質量分析の結果、ピーク1は分子量684、ピーク2は分子量698 であることが明らかになった(図10及び図11)。このことから、セラミド部分の炭素数は、ピーク1が34個、ピーク2が35個であると考えられ、この2つの脂質は、スフィンゴシン又は脂肪酸のいずれかの炭素鎖が1つ異なるものである。 以上の結果から化学構造は一般式(1)で表されると決定したした。これは新規化合物であった。 本発明により、新規なスフィンゴ脂質及びその製造方法が提供される。本発明の新規スフィンゴ脂質は、医薬品、化粧品、食品等の研究分野や製造の現場において広く活用することが期待される。下記一般式(1)で表されるスフィンゴ脂質。(ここで、n=1〜14の時、m=15−n又はn=1〜15の時、m=16−n)請求項1記載のスフィンゴ脂質の製造において、海洋性真核微生物を培養し精製することを特徴とする、スフィンゴ脂質の製造方法。海洋性真核微生物がラビリンチュラ類である、請求項2記載のスフィンゴ脂質の製造方法。ラビリンチュラ類がスラウストキトリウム アウレウム(Thraustochytrium aureum)である、請求項3の新規スフィンゴ脂質の製造方法。ラビリンチュラ類がスラウストキトリウム アウレウムATCC 34304株(Thraustochytrium aureum ATCC34304)である、請求項3又は4の新規スフィンゴ脂質の製造方法。 【課題】新規スフィンゴ脂質及びその製造方法の提供。【解決手段】海洋性真核微生物、具体的にはラビリンチュラ類、より具体的にはスラウストキトリウム・アウレウム(Thraustochytrium aureum)を培養し、培養した菌体から抽出、精製することにより得られる以下の一般式(1)で表される新規スフィンゴ脂質、および該脂質の製造方法。(ここで、n=1〜14の時、m=15−n又はn=1〜15の時、m=16−n)【選択図】図10