生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_静菌効果を有するカテーテルロック液と該カテーテルロック液の調製方法
出願番号:2009022580
年次:2010
IPC分類:A61L 33/10,A61K 31/194,A61P 31/04,A61K 33/00


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山口 拓 山本 敬史 JP 2010178786 公開特許公報(A) 20100819 2009022580 20090203 静菌効果を有するカテーテルロック液と該カテーテルロック液の調製方法 株式会社ジェイ・エム・エス 000153030 川島 利和 100100664 山口 拓 山本 敬史 A61L 33/10 20060101AFI20100723BHJP A61K 31/194 20060101ALI20100723BHJP A61P 31/04 20060101ALI20100723BHJP A61K 33/00 20060101ALI20100723BHJP JPA61L33/00 AA61K31/194A61P31/04A61K33/00 13 OL 12 4C081 4C086 4C206 4C081AC08 4C081BA05 4C081BA14 4C081CD061 4C081CE01 4C081DA15 4C081DC12 4C081DC14 4C086AA01 4C086AA02 4C086EA27 4C086HA24 4C086MA03 4C086MA05 4C086MA17 4C086NA14 4C086ZB35 4C206AA01 4C206AA02 4C206DA34 4C206MA03 4C206MA05 4C206MA37 4C206NA14 4C206ZB35 本発明は、カテーテル内に充填され、かつ該充填状態で静菌効果を有する酸性化カテーテルロック液と該カテーテルロック液の調製方法に関するものである。 院内感染は、患者の生命を脅かし、また病院にとっては入院期間の延長に加えて過剰な医療費を費やすこととなるため近代医療において重要な課題となっている。院内感染の経路は、主に(1)薬剤汚染、(2)投与経路の汚染であり、感染対策として(1)の薬剤調製時の汚染の機会を減らす為に予め注射容器に充填されている製剤の使用が提案されている。また、(2)の投与経路の汚染を減らす為に、流路がクローズド化された医療器具が開発されている。 血管内留置カテーテルは、輸液製剤や薬剤を血液中へ投与する為に血管に挿入される管である。医療現場では、血管へのアクセスとして抹消静脈カテーテルや中心静脈カテーテルが頻繁に利用されており、これらは血管留置カテーテルの代表例である。この血管内留置カテーテルは院内感染の源として問題視されており、カテーテルの局所的な感染、血管内カテーテル関連血流感染や敗血症などの感染症を引き起こしている。この対策としてガイドライン(下記非特許文献1)が策定されるなど、様々な取り組みがなされている。ところで、この血管内留置カテーテルを介して長期間に渡って輸液を受けている患者の場合、入浴や就寝などの理由により、静脈留置カテーテルを留置したまま、輸液ラインを外すことが日常的に行われるが、この際にカテーテルの閉塞を防止するためにカテーテルロックが実施される。 カテーテルロックとは、生理食塩液や生理食塩液で希釈したヘパリン(ヘパリン生食)をカテーテル内に充填し、一般的には約24時間封入するものである。カテーテルロックの多くは、抗凝血作用を持つヘパリン生食液が使用されるが、抹消静脈カテーテルの短時間のロックには生理食塩液が使用されるケースもある。カテーテルロックによる血管内へのカテーテルの留置は、患者さんへの針刺し頻度を減らし、医療従事者のカテーテル挿入の手間を軽減するなどの利点があり、広く行われている。しかし、カテーテルロックの際にカテーテル内に細菌が混入すると、体温で温められたカテーテル内で細菌が増殖してしまい、時にはバイオフィルムを形成し、感染症を引き起こす危険性がある。2002年には作り置きしていたヘパリン生食液がセラチア菌に汚染され、これをカテーテルロック溶液として投与された患者が次々と敗血症を発症し、数名が亡くなっている。この事故を契機に、カテーテルロック溶液による感染の危険性が認知され(下記非特許文献2)、ヘパリンのカテーテルロック溶液の院内での作り置きは原則禁止となっている。 1〜100単位/mLのヘパリンを含み、生理的に等張でpHが6以上、防腐剤を含まないことを特徴とする溶液を充填した注射容器が開示されている(特許文献1)。このカテーテルロック溶液を予め注射容器に充填して販売されている無菌製剤によって、院内調剤時の汚染の機会が減り、院内感染は減少したと考えられるが、カテーテルロック溶液、すなわちヘパリン生食液は抗菌・静菌作用を持っておらず、細菌が混入すると増殖してしまうので院内感染を根絶したとは言い難い。つまり、前記のような予め個別の容器に充填されている無菌のカテーテルロック溶液であっても、輸液セットなどの投与ラインに接続して患者さんへ投与する場合、輸液セットが汚染されていたり、施術者による不適切な処置、操作によってカテーテル内に細菌が混入するリスクがある。そうするとカテーテルロック中に細菌が増殖し、大量の細菌が血流に入り、重篤な感染症を引き起こしてしまう。特に血管留置カテーテルの場合、カテーテルロック溶液はカテーテル内で血液と接触するため、血液に由来する栄養源により、更に細菌の増殖に適した環境となってしまう。このように、予め注射容器に充填された無菌製剤においてもカテーテルロック中の細菌増殖によって院内感染が発生する危険性は高い。 このような問題を解決するために、抗菌作用を持つヘパリン製剤として、防腐剤としてパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール、クレゾール、フェノールあるいはベンジルアルコールを添加したものが販売されている。しかしベンジルアルコールを大量に投与すると呼吸困難やアレルギー反応を起こすとの報告があり(下記非特許文献3)、上記の有毒性の防腐剤は安全性の観点から使われなくなっている。また、血管内カテーテル関連血流感染を防止するため、抗生物質であるバンコマイシンの溶液でカテーテルの内腔のフラッシュと充填を行う抗生物質ロック法が試みられ、効果が立証されている(下記非特許文献4、5、6)。しかし、前述の非特許文献1のガイドラインでは耐性菌を出現させる危険性から、この方法を推奨していない。また、抗生物質のミノサイクリンとエチレンジアミン四酢酸を含む抗凝固剤/抗菌剤の組み合わせもカテーテルロック溶液として提案され、検討されている(下記非特許文献7)。更に感染症を低減させる為のカテーテルロック溶液として、クエン酸塩の濃厚溶液が開示されているが(下記特許文献2)、実施例に示されているように、非常に高張な47%クエン酸塩の溶液(約6000mOsと推測される)の抗菌作用によって菌血症を改善したものである。このような生理的浸透圧からかけ離れた高濃度のクエン酸ロック液は、血中カルシウムを取り込んで錯体を形成するため、低カルシウム血症の発症など安全性に関する懸念があると考えられる。特開2003−183154号公報特表2002−523336号公報Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter−Related infections(CDC)(米国公衆衛生週報2002年8月9日)セラチアによる院内感染防止対策の徹底について」厚生労働省医薬局安全対策課長通知(医薬安発第0719001号 平成14年7月19日)Drug Intell Clin PHarm, 9, p154, 1975Henrickson KJ,Axtell RA,Hoover SM,et al.Prevention of central venous catheter−related infections and thrombotic events in immunocompromised children by the use of vancomycin/ciprofloxacin/heparin flush solution:a randomized,multicenter,double−blind trial.(J Clin Oncol 2000;18:1269−78)Carratala J,Niubo J,Fernandez−Sevilla A,et al.Randomized,doubleblind trial of an antibiotic−lock technique for prevention of grampositive central venous catheter−related infection in neutropenic patients with cancer (Antimicrob Agents Chemother 1999;43:2200−4).Schwartz C,Henrickson KJ,Roghmann K,Powell K.Prevention of bacteremia attributed to luminal colonization of tunneled central venous catheters with vancomycin−susceptible organisms(J Clin Oncol 1990;8:1591−7).Raad II,Buzaid A,Rhyne J, et al.Minocycline and ethylenediaminetetraacetate for the prevention of recurrent vascular catheterinfections.(Clin Infect Dis 1997;25:149−51) 本出願人は、先に防腐剤、抗菌剤や抗生物質などの静菌成分を実質的に含まず、生理的な浸透圧において静菌性を有する安全性の高い酸性化したカテーテルロック製剤を提案している(特願2007−52007)。このカテーテルロック製剤は、pH5.5以下の酸性が維持された環境下では、防腐剤、抗菌剤や抗生物質などの静菌成分を含有しなくても病原体の増殖が抑制される静菌性が維持されるものではあるが、酸性化による静菌性を講じた場合、血液との接触により、血液タンパク質の変性や溶血を引き起こす等の血液適合性が低下してしまうことがある。本発明の解決しようとする課題は、前記問題点を解決し、静菌性と血液適合性を両立させた酸性化したカテーテルロック液と該カテーテルロック液の調製方法を提供することにある。なお、本発明で言う静菌作用(効果)とは、細菌の対数的な増殖を抑止するもので、菌を播種した後、24時間以内の細菌数の増殖を通常100倍以内に、または100倍程度の菌数に抑えられるものを言い、細菌の増殖の抑制効果と殺菌効果の両方を含むものを指す。 本発明は、前記課題を解決した導管、例えば血管内留置カテーテル内にpHの偏在化(導管軸方向にpHの異なる箇所が生じることを言う。)を形成して充填された静菌効果と血液適合性の効果を有する酸性化したカテーテルロック液(以下、単に酸性化カテーテルロック液ともいう)を提供することを最も主要な特徴とする。 本発明のpHの偏在化を形成した酸性化カテーテルロック液は、少なくとも導管の一端側内部の領域のカテーテルロック液のpH値と該導管の他端側内部に充填された領域のカテーテルロック液のpH値が異なり、かつpH値の大きい方の領域のカテーテルロック液のpH値が、血液適合性であることを特徴とする。 すなわち、本発明者らは、細菌が増殖する汚染環境に置かれる側のカテーテル内部の領域のpH値の溶血現象を考慮することなく静菌効果を十分に発揮できる酸性pH値にすること、及び他方のカテーテルの血液と接触する側のカテーテル内部の領域の酸性化カテーテルロック液のpH値を前記の細菌が増殖する汚染環境に置かれる領域の酸性化カテーテルロック液ほど低いpHでなく、血液適合性を有する酸性pH値とすることにより、前記課題を解決し、血液適合性と静菌効果を両立させたカテーテルロック液を得ることができるということを見出し、本発明に到することができた。 なお、前記血液適合性とは、前記領域においてカテーテルロック液と接触した血液に、溶血や変性(変色、凝集、その他)を生じ難い程度を指すが、例えば下記試験方法及び下式(A)によって定義される溶血率で示すものが挙げられる。<試験方法> 医療機器の生物学的安全性試験に採用される血液適合性試験(溶血性)を採用した。すなわち、該血液適合性試験(溶血性)は、試験液にウサギ脱繊維血2v/v%を加えて1時間インキュベーションする。その後、750gで5分間遠心処理し、上澄みの540nmの吸光度を測定する。この測定結果に基づいて、下式(A)により溶血率を算出した。溶血率(%)=(A-B)/(C-B)×100・・・・・・・・・・・・・・(A)A:試験液吸光度B:陰性対照(生食)の吸光度C:陽性対象(蒸留水)の吸光度<溶血性の判定(ASTM F756-93の定義による)>軽度 2〜10%中度 10〜20強度 20〜40非常に強い 40〜本発明の前記血液と接触する側の酸性化カテーテルロック液は、前記溶血性の判定結果が20%程度未満のものが好ましく、さらに好ましくは10%程度未満のものである。 前記カテーテルが血管内留置カテーテルである場合、病原体の増殖を引起す汚染環境に置かれる側のカテーテル内部の領域のカテーテルロック液のpH値は、静菌効果を十分に発揮できるようにその酸性pH値は充分に低いものであるが、該領域のカテーテルロック液は血液とは直接に接触しないので、溶血や血液変性を引き起こすことはない。また、前記静菌効果を奏するには、カテーテルロック液上述のように充分にpH値の低いものが好ましいが、ただし、そのpH値が余りに低過ぎると、カテーテルロック液にヘパリンが含有されている場合、ヘパリンの抗凝血活性も失活させてしまううとを考慮すると、該領域のカテーテルロック液のpH値は3.0以上、5.0以下程度のものが好ましい。 一方、血液と接触状態にある側のカテーテル内部の領域のカテーテルロック液は、該領域内に侵入して来た血液(白血球)の静菌作用、及び他方側のカテーテル内部近傍に充填されたカテーテルロック液が上述のように十分な静菌効果を奏することができるので、そのpH値としては前記の細菌が増殖する汚染環境に置かれる領域の酸性化カテーテルロック液ほど低いpH値を採用する必要はなく、前記のような血液適合性を奏するためには、例えば5.5程度以上のpH値が、溶血や血液凝固を生じることが無く好ましい。ただし、前記血液適合性に必要なpH値は必要とする血液適合性の程度、あるいはカテーテルロック時間等を考慮して適宜決定することができる。 前記カテーテルの病原体の増殖を引起す汚染環境に置かれる側の内部に充填された前記pH値を満足する領域は、少なくともカテーテル内に充填されたカテーテルロック液がカテーテルロック中に所定の静菌効果を維持できる大きさ、あるいは容量であることが必要である。そして、該領域内のpH値は特定pH値、あるいはpH勾配を形成したものであっても良い。一方、カテーテルの血液と接触状態にある側の内部の領域は、該領域が存在すれば、その大きさに応じて溶血の防止を向上させることがでできるが、必要以上に大きすぎると、カテーテル内に充填させたカテーテルロック液の静菌効果を低下させるので好ましくない。 上述のようにしてpHの偏在化を形成した本発明のカテーテル内に充填されたカテーテルロック液は、必要とする血液適合性と静菌効果を両立させることができるカテーテルロック液として、カテーテルの閉塞防止に使用することができる。 前記のような本発明の導管内に充填されたカテーテルロック液の二つの異なるpH領域の形成は、例えば導管内に充填されたカテーテルロック液の一端側から酸性液を注入することにより行うことができ、具体的にはpKaの異なる酸性液の使用および/またはカテーテル内のカテーテルロック液の容量と酸性液の注入容量の容量比を変更することにより製造ことができる。さらには、酸性液として酸性緩衝液を使用する場合には、酸性緩衝剤濃度をコントロールすることによっても製造することができる。 前記酸性液の注入容量は、カテーテル内容量未満である必要があり、例えば前記酸性液の注入容量は、カテーテル内容量に対して1/4〜3/4量程度のものが挙げられる。 前記静菌効果を有する酸性液としては、例えば弱酸性域の3.0〜6.5の酸解離定数(pKa)を有する無機酸又は有機酸が挙げられ、これら弱酸は1種又は複数を組み合わせて使用することもできる。これら無機酸や有機酸としては、ヘパリンの薬効を阻害しないものが好ましい。さらに好ましくは前記無機酸又は有機酸は前記範囲の酸解離定数(pKa)を有する緩衝能力を有する無機酸又は有機酸である。このような緩衝能力を有する無機酸又は有機酸の具体例としては、例えばリン酸塩緩衝剤、クエン酸塩緩衝剤、酢酸塩緩衝剤、コハク酸塩緩衝剤、および3,3―ジメチルグルタル酸塩緩衝剤が挙げられる。 前記有機酸および/または無機酸によって酸性化されたカテーテルロック液としては、例えばヘパリン、またはその塩を1〜1000単位/mlの濃度で含有させるものが挙げられるが、血液透析、人工心肺その他の体外循環装置使用時における血液凝固の防止、血管カテーテル挿入時の血液凝固の防止、輸血および血液検査の際における血液凝固の防止等の用途に通常に用いられているヘパリンも種類を限定することなく使用することができる。さらに本発明の酸性化カテーテルロック液は、浸透圧変更物質、例えば電解質および/または糖類等を含有させることにより、生理食塩水に対する浸透圧比を0.5〜3.0の範囲としたものが、該カテーテルロック溶液による血球の損傷を防ぎ、刺激を低くくすることができるという観点から好ましい。 さらに、本発明の酸性化カテーテルロック液には、該酸性化カテーテルロック液が血液と接触した場合に、血液が該酸性化カテーテルロック液へ拡散する速度をコントロールするための増粘剤を配合してもよい。このようなカテーテルロック溶液の粘度調整剤としては、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ラウリルジメチルアミンオキシド、脂肪酸アルカノールアミド、メチルセルロース、ヒプロメロース、デキストリン、ヒドロキシメチル(エチル)セルロース、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。 なお、上述のような静菌剤として防腐剤および/または抗生物質等の使用に伴う問題を生じさせないために、本発明の酸性化カテーテルロック液は、実質的に防腐剤および/または抗生物質等は配合しないものが好ましい。また、前記防腐剤、抗菌剤、抗生物質等の抗菌物質を実質的に含まないとは前記抗菌物質を故意に添加しないことを指し、例えば、抗菌性を有する物質が使われたプラスティック容器材料から抗菌性を有する物質がロック液に溶出するような場合が想定されるが、このような場合は本願発明の前記「実質的に含まない」という構成要件を充足する。 本発明により、静菌性と血液適合性を両立させた酸性化したカテーテルロック液と該カテーテルロック液の調製方法を提供することができた。 カテーテルロック溶液のヘパリン生食について、そのpHと細菌の増殖性の関連について試験を行った。 防腐剤を含まない生理的浸透圧(浸透圧比1.0)のpH6.5の市販のヘパリン製剤を準備した(比較例1)。前記市販のヘパリン製剤のpHを塩酸により6.0、5.0、4.0、3.5、3.0、2.0に調整した。(実施例1)。これらヘパリン製剤に増殖性の強い細菌3種(セラチア菌、緑膿菌、エンテロバクター菌)を播種して37℃で24時間培養し、生菌数を計測して微生物の増殖性を確認した。前記の試験の結果を下表1〜3に示す。なお、前記浸透圧比は、生理的食塩水に対するものである。セラチア菌の増殖に対するヘパリン生食のpHの影響。緑膿菌の増殖に対するヘパリン生食のpHの影響。エンテロバクター菌の増殖に対するヘパリン生食の影響。前記表1〜3に示す試験結果より、pH6.5では24時間後に、セラチア菌は90倍、緑膿菌は1000倍、エンテロバクター菌では100倍に増殖した。これに対してpH5.0ではセラチア菌は10倍、緑膿菌は0倍、エンテロバクター菌は1倍まででいずれも静菌的であった。更にpH4.0以下ではいずれも生菌数は減少した。以上の結果より、生理的浸透圧のヘパリン生食において、pHが5.0未満では、細菌の増殖を抑制できることが分かった。 カテーテルロック溶液のpHと血液適合性について試験を行った。 pH7.0〜2.0の100mMリン酸ナトリウム緩衝液を調製し、これに浸透圧が生体と等張となるよう塩化ナトリウムを添加した。100mMリン酸ナトリウム緩衝液に2%(v/v)ヒト血液(CPD液含有)を添加した。血液添加前および添加1時間後のpHを測定し、1日後の血液の状態を撮影した。その結果を表4に示す。100mMリン酸ナトリウム緩衝液に2%(v/v)のヒト血液を添加すると、pH4付近で若干pHの変動が見られたものの、ほぼ設定pHを維持することができた。1日後の血液の状態は、pH5.25以上では溶血は見られず正常な状態だったのに対して、pH5.03から4.76まででやや溶血が見られ、pH4.15以下では完全に溶血していた。カテーテルロック溶液において、血液の溶血を防ぐにはpH5.25以上が必要であることがわかった。2%(v/v)ヒト血液の添加によるリン酸ナトリウム緩衝液のpH変化。 カテーテルロック溶液の管内におけるpH勾配の形成について試験を行った。 pKaが5以下の緩衝剤の例としてクエン酸(pKa2.90、4.35、5.69)を選び、1、10、100mMの濃度でpH4.0のクエン酸バッファー、緩衝剤を含まない酸性液の例として希塩酸を加えpHを4.0に調整した市販の生理食塩水、また中性のカテーテルロック液として市販のヘパリンロック液(pH6.2)を準備した。カテーテルロック液を充填するカテーテルとしては、チューブ長20cmで両端に22Gの留置針とクレーブコネクタを接続したものを使用し、また本試験のpH測定にはtwin pHメータ(HORIBA)を用いた。前記留置カテーテル(チューブ長20cm)に前記市販のヘパリンロック液を注入し、続けて同カテーテルに前記1、10、100mMのクエン酸バッファー(pH4.0)を管内容量の同量を注入したもの(表5の比較例2)、前記市販のヘパリンロック液のみを注入したもの(表5の比較例3)、前記1、10、100mMのクエン酸バッファー(pH4.0)を管内容量の1/4量を注入したもの(表6のクエン酸バッファー)、およびカテーテル内に及び希塩酸でpH調整した生理食塩水を管内容量の1/2量注入したもの(表6の希塩酸)をそれぞれ作成した。実際の血液の接触による緩衝作用を模倣するため、カテーテルの血液と接触する側の先端は25mM炭酸水素ナトリウム溶液に浸漬し、5%CO2,37℃の条件で一晩静置した。このときの炭酸水素ナトリウム溶液はpH7.4を示した。静置後、カテーテル内のロック溶液を先端から静かに滴下し、一定量毎のpHを測定した。 下表5の結果から明らかなように、100mMクエン酸バッファーを管内容量の等量注入したカテーテル(比較例2)では、管内のほぼすべての部分でロック溶液のpHは4.0を示しpH勾配を形成できず、酸性化カテーテルロック液は静菌性は有するものの、血液適合性を満足するものではなかった。またヘパリンロック液のみを注入したカテーテルでは、すべての部分でpH6.0以上を示し、血液適合性は有するものの、静菌性を有するものではなかった(比較例3)。これに対して、下表6に示すようにクエン酸バッファー(1、10、100mM)を1/4量注入したカテーテルでは、クエン酸バッファーの注入側でいずれもpH4.3以下で十分な静菌能力を有し、かつ血液と接触する留置カテーテル側では、そのpHはいずれも6.2以上で十分な血液適合性を有するpH勾配を形成することができた。すなわち、前記表5及び6に示す結果から、カテーテルロック液の容量と該カテーテルロック液の酸性化に使用する酸性物質の容量の容量比を適当に選択することにより、血液適合性と静菌性の両立させた酸性化カテーテルロック液を得ることができることが判明した。さらに下表6の結果から、使用するクエン酸バッファーをバッファー濃度が低くなるにつれて、中間部のpH勾配が緩やかになる傾向が見られた。この試験結果から、カテーテルロック液の容量と該カテーテルロック液の酸性化に使用する酸性物質の容量の容量比を適当に選択することに加えて、pH変動を緩衝するために添加する酸性緩衝剤の濃度を選択することにより、酸性カテーテルロック液の端部におけるpH変位を、より維持し易くなることが判明した。さらに下表6の試験結果より、緩衝能力を有しない希塩酸も前記クエン酸バッファーの場合と同様に、酸性化カテーテルロック液にpH勾配を形成することができ、静菌性と血液適合性を両立できることが判明した。ただ、表6の試験結果から、pHの調節に10mM以上のクエン酸バッファーを用いると、希塩酸を使用する場合に比してpH5未満の領域が希塩酸と比較してより広く維持できることができ、血液適合性を維持しながら、より静菌効果の大きいカテーテルロック液が得られることも判明した。導管内に充填されたカテーテルロック液であって、該導管の一端側内部と他端側内部にpH値が異なる二つカテーテルロック液の領域を少なくとも有し、かつpH値の大きい領域のカテーテルロック液のpH値が血液適合性であることを特徴とする静菌効果を有する酸性化カテーテルロック液。pH値の小さいカテーテルロック液の領域のpH値が、5.0未満である請求項1記載の静菌効果を有する酸性化カテーテルロック液。前記異なる二つのpH値を有するカテーテルロック液の領域が、カテーテルロック液の充填されたカテーテルの一端側から酸性液を注入することにより形成されたものである請求項1または2記載の静菌効果を有する酸性化カテーテルロック液。前記酸性液が酸性緩衝液である請求項3記載の静菌効果を有する酸性化カテーテルロック液。前記酸性緩衝液のpKaが、5以下のものである請求項4に記載の静菌効果を有する酸性化カテーテルロック液。酸性化カテーテルロック液の浸透圧が血液の浸透圧に対して、浸透圧比(生食に対する浸透圧比)0.5〜3.0であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の静菌効果を有する酸性化カテーテルロック液。酸性化カテーテルロック液に電解質および/または糖類を含有させ、その含有量のコントロールにより前記浸透圧比を満足させたものである請求項6記載の静菌効果を有する酸性化カテーテルロック液。静菌剤として防腐剤および/または抗生物質等を実質的に含有しないものである請求項7記載の静菌効果を有する酸性化カテーテルロック液。カテーテルロック液としてヘパリン、またはその塩を1〜1000単位/mlの濃度となるように含有するものである請求項1〜8のいずれかに記載の静菌効果を有する酸性化カテーテルロック液。血液の酸性化カテーテルロック液への拡散速度をコントロールするための増粘剤が配合されたものである請求項1〜9のいずれかに記載の静菌効果を有する酸性化カテーテルロック液。カテーテルロック液の充填されたカテーテルの一端側からカテーテル内に酸性液を注入し、カテーテル両端部内の領域の酸性化カテーテルロック液のpH値を異なるものとすることを特徴とする静菌効果を有する酸性化カテーテルロック液のpH調整方法。酸性液として酸性緩衝液を使用し、該酸性緩衝液の添加によって、カテーテル両端部内の領域の酸性化カテーテルロック液のpH値を異なるものとする静菌効果を有する酸性化カテーテルロック液のpH調整方法。酸性化カテーテルロック液が血液と接触した場合に、血液の該酸性化カテーテルロック液への拡散速度をコントロールするための増粘剤を添加する請求項11〜12のいずれかに記載の静菌効果を有する酸性化カテーテルロック液のpH調整方法。 【課題】血液透析、人工心肺その他の体外循環装置使用時における血液凝固の防止、血管カテーテル挿入時の血液凝固の防止、輸血および血液検査の際における血液凝固の防止等の用途に用いられる静菌効果と血液適合性を両立させたカテーテルロック液の提供。【解決手段】導管内に充填されたカテーテルロック液であって、該導管の一端側内部と他端側内部にpH値が異なる二つカテーテルロック液の領域を少なくとも有し、かつpH値の大きい領域のカテーテルロック液のpH値が血液適合性である、静菌効果を有する酸性化カテーテルロック液。【選択図】なし


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特許公報(B2)_静菌効果を有するカテーテルロック液と該カテーテルロック液の調製方法

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タイトル:特許公報(B2)_静菌効果を有するカテーテルロック液と該カテーテルロック液の調製方法
出願番号:2009022580
年次:2014
IPC分類:A61L 33/10,A61K 31/194,A61P 31/04,A61K 33/00,A61M 25/00


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山口 拓 山本 敬史 JP 5412857 特許公報(B2) 20131122 2009022580 20090203 静菌効果を有するカテーテルロック液と該カテーテルロック液の調製方法 株式会社ジェイ・エム・エス 000153030 川島 利和 100100664 山口 拓 山本 敬史 20140212 A61L 33/10 20060101AFI20140123BHJP A61K 31/194 20060101ALI20140123BHJP A61P 31/04 20060101ALI20140123BHJP A61K 33/00 20060101ALI20140123BHJP A61M 25/00 20060101ALN20140123BHJP JPA61L33/00 AA61K31/194A61P31/04A61K33/00A61M25/00 A61L 15/00−33/00 特開2006−232829(JP,A) 特表2002−523336(JP,A) 国際公開第2010/064324(WO,A1) 特開2009−249345(JP,A) 特開2009−242347(JP,A) 特開2009−022533(JP,A) 6 2010178786 20100819 11 20111201 ▲高▼岡 裕美 本発明は、カテーテル内に充填され、かつ該充填状態で静菌効果を有する酸性化カテーテルロック液と該カテーテルロック液の調製方法に関するものである。 院内感染は、患者の生命を脅かし、また病院にとっては入院期間の延長に加えて過剰な医療費を費やすこととなるため近代医療において重要な課題となっている。院内感染の経路は、主に(1)薬剤汚染、(2)投与経路の汚染であり、感染対策として(1)の薬剤調製時の汚染の機会を減らす為に予め注射容器に充填されている製剤の使用が提案されている。また、(2)の投与経路の汚染を減らす為に、流路がクローズド化された医療器具が開発されている。 血管内留置カテーテルは、輸液製剤や薬剤を血液中へ投与する為に血管に挿入される管である。医療現場では、血管へのアクセスとして抹消静脈カテーテルや中心静脈カテーテルが頻繁に利用されており、これらは血管留置カテーテルの代表例である。この血管内留置カテーテルは院内感染の源として問題視されており、カテーテルの局所的な感染、血管内カテーテル関連血流感染や敗血症などの感染症を引き起こしている。この対策としてガイドライン(下記非特許文献1)が策定されるなど、様々な取り組みがなされている。ところで、この血管内留置カテーテルを介して長期間に渡って輸液を受けている患者の場合、入浴や就寝などの理由により、静脈留置カテーテルを留置したまま、輸液ラインを外すことが日常的に行われるが、この際にカテーテルの閉塞を防止するためにカテーテルロックが実施される。 カテーテルロックとは、生理食塩液や生理食塩液で希釈したヘパリン(ヘパリン生食)をカテーテル内に充填し、一般的には約24時間封入するものである。カテーテルロックの多くは、抗凝血作用を持つヘパリン生食液が使用されるが、抹消静脈カテーテルの短時間のロックには生理食塩液が使用されるケースもある。カテーテルロックによる血管内へのカテーテルの留置は、患者さんへの針刺し頻度を減らし、医療従事者のカテーテル挿入の手間を軽減するなどの利点があり、広く行われている。しかし、カテーテルロックの際にカテーテル内に細菌が混入すると、体温で温められたカテーテル内で細菌が増殖してしまい、時にはバイオフィルムを形成し、感染症を引き起こす危険性がある。2002年には作り置きしていたヘパリン生食液がセラチア菌に汚染され、これをカテーテルロック溶液として投与された患者が次々と敗血症を発症し、数名が亡くなっている。この事故を契機に、カテーテルロック溶液による感染の危険性が認知され(下記非特許文献2)、ヘパリンのカテーテルロック溶液の院内での作り置きは原則禁止となっている。 1〜100単位/mLのヘパリンを含み、生理的に等張でpHが6以上、防腐剤を含まないことを特徴とする溶液を充填した注射容器が開示されている(特許文献1)。このカテーテルロック溶液を予め注射容器に充填して販売されている無菌製剤によって、院内調剤時の汚染の機会が減り、院内感染は減少したと考えられるが、カテーテルロック溶液、すなわちヘパリン生食液は抗菌・静菌作用を持っておらず、細菌が混入すると増殖してしまうので院内感染を根絶したとは言い難い。つまり、前記のような予め個別の容器に充填されている無菌のカテーテルロック溶液であっても、輸液セットなどの投与ラインに接続して患者さんへ投与する場合、輸液セットが汚染されていたり、施術者による不適切な処置、操作によってカテーテル内に細菌が混入するリスクがある。そうするとカテーテルロック中に細菌が増殖し、大量の細菌が血流に入り、重篤な感染症を引き起こしてしまう。特に血管留置カテーテルの場合、カテーテルロック溶液はカテーテル内で血液と接触するため、血液に由来する栄養源により、更に細菌の増殖に適した環境となってしまう。このように、予め注射容器に充填された無菌製剤においてもカテーテルロック中の細菌増殖によって院内感染が発生する危険性は高い。 このような問題を解決するために、抗菌作用を持つヘパリン製剤として、防腐剤としてパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール、クレゾール、フェノールあるいはベンジルアルコールを添加したものが販売されている。しかしベンジルアルコールを大量に投与すると呼吸困難やアレルギー反応を起こすとの報告があり(下記非特許文献3)、上記の有毒性の防腐剤は安全性の観点から使われなくなっている。また、血管内カテーテル関連血流感染を防止するため、抗生物質であるバンコマイシンの溶液でカテーテルの内腔のフラッシュと充填を行う抗生物質ロック法が試みられ、効果が立証されている(下記非特許文献4、5、6)。しかし、前述の非特許文献1のガイドラインでは耐性菌を出現させる危険性から、この方法を推奨していない。また、抗生物質のミノサイクリンとエチレンジアミン四酢酸を含む抗凝固剤/抗菌剤の組み合わせもカテーテルロック溶液として提案され、検討されている(下記非特許文献7)。更に感染症を低減させる為のカテーテルロック溶液として、クエン酸塩の濃厚溶液が開示されているが(下記特許文献2)、実施例に示されているように、非常に高張な47%クエン酸塩の溶液(約6000mOsと推測される)の抗菌作用によって菌血症を改善したものである。このような生理的浸透圧からかけ離れた高濃度のクエン酸ロック液は、血中カルシウムを取り込んで錯体を形成するため、低カルシウム血症の発症など安全性に関する懸念があると考えられる。特開2003−183154号公報特表2002−523336号公報Guidelines for the Prevention of Intravascular Catheter−Related infections(CDC)(米国公衆衛生週報2002年8月9日)セラチアによる院内感染防止対策の徹底について」厚生労働省医薬局安全対策課長通知(医薬安発第0719001号 平成14年7月19日)Drug Intell Clin PHarm, 9, p154, 1975Henrickson KJ,Axtell RA,Hoover SM,et al.Prevention of central venous catheter−related infections and thrombotic events in immunocompromised children by the use of vancomycin/ciprofloxacin/heparin flush solution:a randomized,multicenter,double−blind trial.(J Clin Oncol 2000;18:1269−78)Carratala J,Niubo J,Fernandez−Sevilla A,et al.Randomized,doubleblind trial of an antibiotic−lock technique for prevention of grampositive central venous catheter−related infection in neutropenic patients with cancer (Antimicrob Agents Chemother 1999;43:2200−4).Schwartz C,Henrickson KJ,Roghmann K,Powell K.Prevention of bacteremia attributed to luminal colonization of tunneled central venous catheters with vancomycin−susceptible organisms(J Clin Oncol 1990;8:1591−7).Raad II,Buzaid A,Rhyne J, et al.Minocycline and ethylenediaminetetraacetate for the prevention of recurrent vascular catheterinfections.(Clin Infect Dis 1997;25:149−51) 本出願人は、先に防腐剤、抗菌剤や抗生物質などの静菌成分を実質的に含まず、生理的な浸透圧において静菌性を有する安全性の高い酸性化したカテーテルロック製剤を提案している(特願2007−52007)。このカテーテルロック製剤は、pH5.5以下の酸性が維持された環境下では、防腐剤、抗菌剤や抗生物質などの静菌成分を含有しなくても病原体の増殖が抑制される静菌性が維持されるものではあるが、酸性化による静菌性を講じた場合、血液との接触により、血液タンパク質の変性や溶血を引き起こす等の血液適合性が低下してしまうことがある。本発明の解決しようとする課題は、前記問題点を解決し、静菌性と血液適合性を両立させた酸性化したカテーテルロック液と該カテーテルロック液の調製方法を提供することにある。なお、本発明で言う静菌作用(効果)とは、細菌の対数的な増殖を抑止するもので、菌を播種した後、24時間以内の細菌数の増殖を通常100倍以内に、または100倍程度の菌数に抑えられるものを言い、細菌の増殖の抑制効果と殺菌効果の両方を含むものを指す。 本発明は、前記課題を解決した導管、例えば血管内留置カテーテル内にpHの偏在化(導管軸方向にpHの異なる箇所が生じることを言う。)を形成して充填された静菌効果と血液適合性の効果を有する酸性化したカテーテルロック液(以下、単に酸性化カテーテルロック液ともいう)を提供することを最も主要な特徴とする。 本発明のpHの偏在化を形成した酸性化カテーテルロック液は、少なくとも導管の一端側内部の領域のカテーテルロック液のpH値と該導管の他端側内部に充填された領域のカテーテルロック液のpH値が異なり、かつpH値の大きい方の領域のカテーテルロック液のpH値が、血液適合性であることを特徴とする。 すなわち、本発明者らは、細菌が増殖する汚染環境に置かれる側のカテーテル内部の領域のpH値の溶血現象を考慮することなく静菌効果を十分に発揮できる酸性pH値にすること、及び他方のカテーテルの血液と接触する側のカテーテル内部の領域の酸性化カテーテルロック液のpH値を前記の細菌が増殖する汚染環境に置かれる領域の酸性化カテーテルロック液ほど低いpHでなく、血液適合性を有する酸性pH値とすることにより、前記課題を解決し、血液適合性と静菌効果を両立させたカテーテルロック液を得ることができるということを見出し、本発明に到することができた。 なお、前記血液適合性とは、前記領域においてカテーテルロック液と接触した血液に、溶血や変性(変色、凝集、その他)を生じ難い程度を指すが、例えば下記試験方法及び下式(A)によって定義される溶血率で示すものが挙げられる。<試験方法> 医療機器の生物学的安全性試験に採用される血液適合性試験(溶血性)を採用した。すなわち、該血液適合性試験(溶血性)は、試験液にウサギ脱繊維血2v/v%を加えて1時間インキュベーションする。その後、750gで5分間遠心処理し、上澄みの540nmの吸光度を測定する。この測定結果に基づいて、下式(A)により溶血率を算出した。溶血率(%)=(A-B)/(C-B)×100・・・・・・・・・・・・・・(A)A:試験液吸光度B:陰性対照(生食)の吸光度C:陽性対象(蒸留水)の吸光度<溶血性の判定(ASTM F756-93の定義による)>軽度 2〜10%中度 10〜20強度 20〜40非常に強い 40〜本発明の前記血液と接触する側の酸性化カテーテルロック液は、前記溶血性の判定結果が20%程度未満のものが好ましく、さらに好ましくは10%程度未満のものである。 前記カテーテルが血管内留置カテーテルである場合、病原体の増殖を引起す汚染環境に置かれる側のカテーテル内部の領域のカテーテルロック液のpH値は、静菌効果を十分に発揮できるようにその酸性pH値は充分に低いものであるが、該領域のカテーテルロック液は血液とは直接に接触しないので、溶血や血液変性を引き起こすことはない。また、前記静菌効果を奏するには、カテーテルロック液上述のように充分にpH値の低いものが好ましいが、ただし、そのpH値が余りに低過ぎると、カテーテルロック液にヘパリンが含有されている場合、ヘパリンの抗凝血活性も失活させてしまううとを考慮すると、該領域のカテーテルロック液のpH値は3.0以上、5.0以下程度のものが好ましい。 一方、血液と接触状態にある側のカテーテル内部の領域のカテーテルロック液は、該領域内に侵入して来た血液(白血球)の静菌作用、及び他方側のカテーテル内部近傍に充填されたカテーテルロック液が上述のように十分な静菌効果を奏することができるので、そのpH値としては前記の細菌が増殖する汚染環境に置かれる領域の酸性化カテーテルロック液ほど低いpH値を採用する必要はなく、前記のような血液適合性を奏するためには、例えば5.5程度以上のpH値が、溶血や血液凝固を生じることが無く好ましい。ただし、前記血液適合性に必要なpH値は必要とする血液適合性の程度、あるいはカテーテルロック時間等を考慮して適宜決定することができる。 前記カテーテルの病原体の増殖を引起す汚染環境に置かれる側の内部に充填された前記pH値を満足する領域は、少なくともカテーテル内に充填されたカテーテルロック液がカテーテルロック中に所定の静菌効果を維持できる大きさ、あるいは容量であることが必要である。そして、該領域内のpH値は特定pH値、あるいはpH勾配を形成したものであっても良い。一方、カテーテルの血液と接触状態にある側の内部の領域は、該領域が存在すれば、その大きさに応じて溶血の防止を向上させることがでできるが、必要以上に大きすぎると、カテーテル内に充填させたカテーテルロック液の静菌効果を低下させるので好ましくない。 上述のようにしてpHの偏在化を形成した本発明のカテーテル内に充填されたカテーテルロック液は、必要とする血液適合性と静菌効果を両立させることができるカテーテルロック液として、カテーテルの閉塞防止に使用することができる。 前記のような本発明の導管内に充填されたカテーテルロック液の二つの異なるpH領域の形成は、例えば導管内に充填されたカテーテルロック液の一端側から酸性液を注入することにより行うことができ、具体的にはpKaの異なる酸性液の使用および/またはカテーテル内のカテーテルロック液の容量と酸性液の注入容量の容量比を変更することにより製造ことができる。さらには、酸性液として酸性緩衝液を使用する場合には、酸性緩衝剤濃度をコントロールすることによっても製造することができる。 前記酸性液の注入容量は、カテーテル内容量未満である必要があり、例えば前記酸性液の注入容量は、カテーテル内容量に対して1/4〜3/4量程度のものが挙げられる。 前記静菌効果を有する酸性液としては、例えば弱酸性域の3.0〜6.5の酸解離定数(pKa)を有する無機酸又は有機酸が挙げられ、これら弱酸は1種又は複数を組み合わせて使用することもできる。これら無機酸や有機酸としては、ヘパリンの薬効を阻害しないものが好ましい。さらに好ましくは前記無機酸又は有機酸は前記範囲の酸解離定数(pKa)を有する緩衝能力を有する無機酸又は有機酸である。このような緩衝能力を有する無機酸又は有機酸の具体例としては、例えばリン酸塩緩衝剤、クエン酸塩緩衝剤、酢酸塩緩衝剤、コハク酸塩緩衝剤、および3,3―ジメチルグルタル酸塩緩衝剤が挙げられる。 前記有機酸および/または無機酸によって酸性化されたカテーテルロック液としては、例えばヘパリン、またはその塩を1〜1000単位/mlの濃度で含有させるものが挙げられるが、血液透析、人工心肺その他の体外循環装置使用時における血液凝固の防止、血管カテーテル挿入時の血液凝固の防止、輸血および血液検査の際における血液凝固の防止等の用途に通常に用いられているヘパリンも種類を限定することなく使用することができる。さらに本発明の酸性化カテーテルロック液は、浸透圧変更物質、例えば電解質および/または糖類等を含有させることにより、生理食塩水に対する浸透圧比を0.5〜3.0の範囲としたものが、該カテーテルロック溶液による血球の損傷を防ぎ、刺激を低くくすることができるという観点から好ましい。 さらに、本発明の酸性化カテーテルロック液には、該酸性化カテーテルロック液が血液と接触した場合に、血液が該酸性化カテーテルロック液へ拡散する速度をコントロールするための増粘剤を配合してもよい。このようなカテーテルロック溶液の粘度調整剤としては、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ラウリルジメチルアミンオキシド、脂肪酸アルカノールアミド、メチルセルロース、ヒプロメロース、デキストリン、ヒドロキシメチル(エチル)セルロース、ポリエチレングリコール、グリセリン、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。 なお、上述のような静菌剤として防腐剤および/または抗生物質等の使用に伴う問題を生じさせないために、本発明の酸性化カテーテルロック液は、実質的に防腐剤および/または抗生物質等は配合しないものが好ましい。また、前記防腐剤、抗菌剤、抗生物質等の抗菌物質を実質的に含まないとは前記抗菌物質を故意に添加しないことを指し、例えば、抗菌性を有する物質が使われたプラスティック容器材料から抗菌性を有する物質がロック液に溶出するような場合が想定されるが、このような場合は本願発明の前記「実質的に含まない」という構成要件を充足する。 本発明により、静菌性と血液適合性を両立させた酸性化したカテーテルロック液と該カテーテルロック液の調製方法を提供することができた。 カテーテルロック溶液のヘパリン生食について、そのpHと細菌の増殖性の関連について試験を行った。 防腐剤を含まない生理的浸透圧(浸透圧比1.0)のpH6.5の市販のヘパリン製剤を準備した(比較例1)。前記市販のヘパリン製剤のpHを塩酸により6.0、5.0、4.0、3.5、3.0、2.0に調整した。(実施例1)。これらヘパリン製剤に増殖性の強い細菌3種(セラチア菌、緑膿菌、エンテロバクター菌)を播種して37℃で24時間培養し、生菌数を計測して微生物の増殖性を確認した。前記の試験の結果を下表1〜3に示す。なお、前記浸透圧比は、生理的食塩水に対するものである。セラチア菌の増殖に対するヘパリン生食のpHの影響。緑膿菌の増殖に対するヘパリン生食のpHの影響。エンテロバクター菌の増殖に対するヘパリン生食の影響。前記表1〜3に示す試験結果より、pH6.5では24時間後に、セラチア菌は90倍、緑膿菌は1000倍、エンテロバクター菌では100倍に増殖した。これに対してpH5.0ではセラチア菌は10倍、緑膿菌は0倍、エンテロバクター菌は1倍まででいずれも静菌的であった。更にpH4.0以下ではいずれも生菌数は減少した。以上の結果より、生理的浸透圧のヘパリン生食において、pHが5.0未満では、細菌の増殖を抑制できることが分かった。 カテーテルロック溶液のpHと血液適合性について試験を行った。 pH7.0〜2.0の100mMリン酸ナトリウム緩衝液を調製し、これに浸透圧が生体と等張となるよう塩化ナトリウムを添加した。100mMリン酸ナトリウム緩衝液に2%(v/v)ヒト血液(CPD液含有)を添加した。血液添加前および添加1時間後のpHを測定し、1日後の血液の状態を撮影した。その結果を表4に示す。100mMリン酸ナトリウム緩衝液に2%(v/v)のヒト血液を添加すると、pH4付近で若干pHの変動が見られたものの、ほぼ設定pHを維持することができた。1日後の血液の状態は、pH5.25以上では溶血は見られず正常な状態だったのに対して、pH5.03から4.76まででやや溶血が見られ、pH4.15以下では完全に溶血していた。カテーテルロック溶液において、血液の溶血を防ぐにはpH5.25以上が必要であることがわかった。2%(v/v)ヒト血液の添加によるリン酸ナトリウム緩衝液のpH変化。 カテーテルロック溶液の管内におけるpH勾配の形成について試験を行った。 pKaが5以下の緩衝剤の例としてクエン酸(pKa2.90、4.35、5.69)を選び、1、10、100mMの濃度でpH4.0のクエン酸バッファー、緩衝剤を含まない酸性液の例として希塩酸を加えpHを4.0に調整した市販の生理食塩水、また中性のカテーテルロック液として市販のヘパリンロック液(pH6.2)を準備した。カテーテルロック液を充填するカテーテルとしては、チューブ長20cmで両端に22Gの留置針とクレーブコネクタを接続したものを使用し、また本試験のpH測定にはtwin pHメータ(HORIBA)を用いた。前記留置カテーテル(チューブ長20cm)に前記市販のヘパリンロック液を注入し、続けて同カテーテルに前記1、10、100mMのクエン酸バッファー(pH4.0)を管内容量の同量を注入したもの(表5の比較例2)、前記市販のヘパリンロック液のみを注入したもの(表5の比較例3)、前記1、10、100mMのクエン酸バッファー(pH4.0)を管内容量の1/4量を注入したもの(表6のクエン酸バッファー)、およびカテーテル内に及び希塩酸でpH調整した生理食塩水を管内容量の1/2量注入したもの(表6の希塩酸)をそれぞれ作成した。実際の血液の接触による緩衝作用を模倣するため、カテーテルの血液と接触する側の先端は25mM炭酸水素ナトリウム溶液に浸漬し、5%CO2,37℃の条件で一晩静置した。このときの炭酸水素ナトリウム溶液はpH7.4を示した。静置後、カテーテル内のロック溶液を先端から静かに滴下し、一定量毎のpHを測定した。 下表5の結果から明らかなように、100mMクエン酸バッファーを管内容量の等量注入したカテーテル(比較例2)では、管内のほぼすべての部分でロック溶液のpHは4.0を示しpH勾配を形成できず、酸性化カテーテルロック液は静菌性は有するものの、血液適合性を満足するものではなかった。またヘパリンロック液のみを注入したカテーテルでは、すべての部分でpH6.0以上を示し、血液適合性は有するものの、静菌性を有するものではなかった(比較例3)。これに対して、下表6に示すようにクエン酸バッファー(1、10、100mM)を1/4量注入したカテーテルでは、クエン酸バッファーの注入側でいずれもpH4.3以下で十分な静菌能力を有し、かつ血液と接触する留置カテーテル側では、そのpHはいずれも6.2以上で十分な血液適合性を有するpH勾配を形成することができた。すなわち、前記表5及び6に示す結果から、カテーテルロック液の容量と該カテーテルロック液の酸性化に使用する酸性物質の容量の容量比を適当に選択することにより、血液適合性と静菌性の両立させた酸性化カテーテルロック液を得ることができることが判明した。さらに下表6の結果から、使用するクエン酸バッファーをバッファー濃度が低くなるにつれて、中間部のpH勾配が緩やかになる傾向が見られた。この試験結果から、カテーテルロック液の容量と該カテーテルロック液の酸性化に使用する酸性物質の容量の容量比を適当に選択することに加えて、pH変動を緩衝するために添加する酸性緩衝剤の濃度を選択することにより、酸性カテーテルロック液の端部におけるpH変位を、より維持し易くなることが判明した。さらに下表6の試験結果より、緩衝能力を有しない希塩酸も前記クエン酸バッファーの場合と同様に、酸性化カテーテルロック液にpH勾配を形成することができ、静菌性と血液適合性を両立できることが判明した。ただ、表6の試験結果から、pHの調節に10mM以上のクエン酸バッファーを用いると、希塩酸を使用する場合に比してpH5未満の領域が希塩酸と比較してより広く維持できることができ、血液適合性を維持しながら、より静菌効果の大きいカテーテルロック液が得られることも判明した。カテーテルロック溶液の充填されたカテーテル内に、該カテーテルの一端側から酸性液として酸解離定数(pKa)が3.0〜6.5の無機酸又は有機酸を有するリン酸塩緩衝剤、クエン酸塩緩衝剤、酢酸塩緩衝剤、コハク酸塩緩衝剤、および3,3―ジメチルグルタル酸塩緩衝剤が注入されて形成された酸性化カテーテルロック溶液であって、前記一端側内部領域の溶液のpH値が静菌効果を有するもの及び前記一端側の他端側内部領域の溶液のpH値が血液適合性を有するものであり、かつ防腐剤、抗生物質あるいは抗菌剤を有しないことを特徴とする静菌効果を有するカテーテルロック液。 前記カテーテルの一端側内部領域の溶液のpH値が5.0未満である請求項1に記載の静菌効果を有するカテーテルロック液。 前記カテーテルの他端側内部領域の溶液のpH値が6.2以上である請求項1または2のいずれかに記載のカテーテルロック液。 前記酸性液の注入量が、カテーテル内容量未満である請求項1〜3のいずれかに記載のカテーテルロック液。 前記酸性液の注入量が、カテーテル内容量の1/4〜3/4である請求項4に記載のカテーテルロック液。 前記カテーテルの他端側内部の溶液が、血液と接触するものである請求項1〜5のいずれかに記載の酸性化カテーテルロック液。


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