タイトル: | 公開特許公報(A)_赤外吸収スペクトルによる天然保湿因子の測定方法 |
出願番号: | 2009021532 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | G01N 21/35 |
高田 真吾 園田 純子 内藤 智 JP 2009210567 公開特許公報(A) 20090917 2009021532 20090202 赤外吸収スペクトルによる天然保湿因子の測定方法 花王株式会社 000000918 飯田 敏三 100076439 星野 宏和 100141771 宮前 尚祐 100131288 佐々木 渉 100118131 高田 真吾 園田 純子 内藤 智 JP 2008025786 20080205 G01N 21/35 20060101AFI20090821BHJP JPG01N21/35 Z 8 OL 15 2G059 2G059AA05 2G059BB12 2G059CC09 2G059CC12 2G059CC14 2G059EE09 2G059EE12 2G059EE13 2G059FF05 2G059HH01 2G059HH06 2G059JJ17 2G059MM02 2G059MM12 本発明は、赤外吸収スペクトルを用いて、皮膚の角層中の天然保湿因子(NMF)量を測定する方法に関する。 化粧品類、皮膚洗浄料等の販売において、顧客に最も適した化粧品を推奨するために、顧客の皮膚の水分・油分・色調・形態等を店頭で測定するサービスが広く行われている。また、こういった化粧品類や皮膚洗浄料の研究開発の過程においても、肌の状態を機器計測により指標化することは、より効果の高い化粧品、皮膚洗浄料等の開発の上で必要不可欠のものとなっている。そのため、皮膚の水分・油分・色調・形態等を評価するための種々の技術開発が行われてきており、これに関係した多数の特許が今までに取得されている。 化粧品及び皮膚洗浄料の販売や化粧品及び皮膚洗浄料開発等において重要な肌性状の評価指標の一つとして、角層中の天然保湿因子(NMF:Natural Moisturizing Factor)量が知られている。NMFは、角層中の水溶性保水成分(アミノ酸類、有機酸類、無機塩類等)の総称である。皮膚は、蛋白質・脂質・NMF等で構成されている。従来、NMF測定法として、角層を剥離後に抽出して液体クロマトグラフで分析することが知られていた。しかし、この方法は侵襲的であり、また、その場で結果を得ることができないため、店頭での応用使用や、研究開発における多数の評価試料の測定には不向きであった。 液体クロマトグラフ以外の方法で角層中のNMF量の増減(相対量)を測定した例がある(例えば、非特許文献1参照)。この方法は、剥離角層の顕微IR−透過測定に基づくものであり、NMFの相対量を求めることができる。非特許文献1には、NMFを構成する化学種(アミノ酸類、ピロリドンカルボン酸、乳酸塩など)の多くがカルボキシレートアニオン(−COO-基)を有するため、この信号強度を見積もることにより、角層中のNMF量の変化を評価できることが記載されている。このことについて、図1を参照しながら説明する。図1は、皮膚の典型的なIR−ATR(赤外減衰全反射)スペクトルである。図1に示すように、カルボキシレートアニオン(−COO-基)に関するピークとしては、1404cm-1付近の波数領域に、カルボキシレートアニオンの対称伸縮振動を示す信号強度が出現する。そのため、非特許文献1に記載された方法では、この1404cm-1付近の波数領域における信号強度を用いて測定を行っている。 しかしながら、1404cm-1付近の波数領域に出現しているピークは、カルボキシレートアニオン(−COO-基)の対称伸縮振動だけではなく、主に皮脂に由来するC−H変角振動が重畳したものである。そのため、皮脂量が増減すると計測値が大きく変動し、正確にNMF量を測定することができないという問題があった。そのため非特許文献1では、IRスペクトル測定前に試料のヘキサン洗浄を行う必要がある。Guojin Zhang et al.,“Vibrational Microspectroscopy and Imaging of Molecular Composition and Structure During Human Corneocyte Maturation”,Journal of Investigative Dermatology(2006)Vol.126,p.1088−1094 本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、角層中のNMF量を皮脂の影響を受けることなく精度良く測定することができる、角層中のNMF測定法を提供することを目的とする。また、角層中のNMF量を非侵襲的に簡便に測定する方法を提供することを目的とする。 通常、カルボキシレートアニオン(−COO-基)に関する信号強度としては、カルボキシ基対称伸縮振動を示す1404cm-1付近の他にも、1610〜1570cm-1の波数領域にカルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動を示す信号強度が存在する。しかしながら、図1に示すように、皮膚の角層中のNMF測定する場合には、皮膚の蛋白質に由来する1700〜1620cm-1の波数領域であるアミドI吸収帯および1560〜1520cm-1の波数領域であるアミドII吸収帯に強い吸収ピークが存在するため、カルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動を示す1610〜1570cm-1の波数領域における信号強度がアミド吸収ピークの谷間に埋もれてしまい、ピークとしては観測されず、従来の方法では定量的に取り扱うことができない。 本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、皮膚の角層のIRスペクトル中における、強い二本のアミド吸収ピークの谷間に埋もれてピークとしては観測されないカルボキシレートアニオン(−COO-基)逆対称伸縮振動(1610〜1570cm-1の波数領域)の信号強度を数値処理によって抽出することにより、皮脂の影響を受けずに角層中のNMF量を定量的に精度良く測定できることを見出した。本発明は、このような知見に基づきなされるに至ったものである。 本発明は、皮膚の角層の赤外吸収スペクトルを測定して角層中の天然保湿因子(NMF)量を測定する方法であって、角層の赤外吸収スペクトルから1610〜1570cm-1の波数領域における信号強度A、および前記赤外吸収スペクトルから蛋白質由来の信号強度Bを観測する工程と、前記信号強度Aからカルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動の信号強度A’を抽出する工程とを含み、該信号強度A’と前記信号強度Bとの比から角層中の天然保湿因子NMF量を測定する方法を提供するものである。 本発明によれば、角層中のNMF量を正確に、迅速・簡便に測定することができる。特に、非侵襲的な測定方法において有用である。皮膚の典型的なIR−ATRスペクトルである。皮膚からの水抽出物のIR−ATRスペクトルとモデルNMF水溶液のIR−ATRスペクトルである。1800〜800cm-1の波数領域における皮膚のIR−ATRスペクトルを28個のガウス関数の重ね合わせでフィッティングした結果を示す図である。IR−ATRスペクトルにおける1605cm-1の信号強度とアミドIの信号強度との信号強度比と、単位蛋白質質量あたりのNMF量との関係を示す図である。IR−ATRスペクトルにおける1605cm-1での信号強度と1574cm-1での信号強度との和と、アミドIの信号強度との信号強度比と、単位蛋白質質量あたりのNMF量との関係を示す図である。NMFとBSAの混合物のIR−ATRスペクトルにおけるNMFとアミドIの信号強度比と、BSA換算蛋白質あたりのNMF量との関係を示す図である。前腕皮膚を市販食器用洗剤で洗浄・乾燥した前後の、皮膚IR−ATRスペクトルである。NMFを含む皮膚AのIR−ATRスペクトルとNMFを含まない皮膚BのIR−ATRスペクトルである。 以下、本発明について詳細に説明する。 本発明の方法では、皮膚の角層の赤外吸収スペクトルを測定する。測定は、皮膚から角層を採取して赤外吸収スペクトルを測定する方法(侵襲法)や、皮膚から直接赤外吸収スペクトルを測定する方法(非侵襲法)等が挙げられるが、直接肌の状態を測定できる非侵襲法が好ましい。非侵襲法としては、光ファイバ型IR−ATR測定法乃至IR−ATR測定法などが挙げられるが、本発明はこれに限定されない。IR−ATR測定は、例えば、PIR光ファイバ型IR−ATRプローブ(システムズエンジニアリング社製)を用いて行うことができる。 本発明では、角層の赤外吸収スペクトルから1610〜1570cm-1の波数領域における信号強度A、および前記赤外吸収スペクトルから蛋白質由来の信号強度Bを観測する工程と、前記信号強度Aからカルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動の信号強度A’を抽出する工程とを含む。 1610〜1570cm-1の波数領域における赤外吸収は、カルボキシレートアニオン(−COO-基を表す。)の逆対称伸縮振動の情報を含むものである。より詳細には、1610〜1580cm-1に出現するのは主にアミノ酸類のカルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動で、1590〜1570cm-1に出現するのは主に有機酸類のカルボキシレートアニオンの逆対称伸縮振動である。しかし、カルボキシレートアニオンの逆対称伸縮振動の情報は、蛋白質由来の強い二本の吸収ピーク(アミドIおよびアミドII)の谷間に存在するために、角層のIRスペクトル中ではピークとしては観測されない。このため、通常の方法では定量的に取り扱うことができず、これまでこの1610〜1570cm-1の波数領域における吸収をNMF量の測定に使用することは容易に想到し得なかった。これに対して、本発明では、1610〜1570cm-1の波数領域における信号強度Aからカルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動の信号強度A’を抽出することで、油脂成分の影響をほとんど受けないNMF情報を得ることができる。 ここで、本発明における「有機酸類」とは各層中にNMFとして存在するものであれば特に制限はなく、例えば、乳酸塩、クエン酸塩、ピロリドンカルボン酸等が挙げられる。 本発明を更に詳細に説明する。 第一の実施態様として、上記波数領域のうち、1610〜1580cm-1の波数領域における信号強度A1を観測し、これを用いてカルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動の信号強度A’を抽出することにより角層中の天然保湿因子NMF量を精度よく測定することが出来ることができる。そして、上記波数領域のうち、1610〜1590cm-1の波数領域の信号強度A11を用いると、より精度よく測定することができる。 また第二の実施態様として、1610〜1590cm-1の波数領域における信号強度A11と1590〜1570cm-1の波数領域における信号強度A12を観測する。信号強度A11及び信号強度A12各々から抽出したカルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動の信号強度A11’及びA12’の和を信号強度A’とする。当該信号強度A’を用いることによって、アミノ酸類のカルボキシレートアニオン由来の逆対称伸縮運動の信号と共に有機酸類のカルボキシレートアニオン由来の逆対称伸縮振動の信号強度を観測することができる。そのため、更に高い精度でNMF量を測定することが可能となる。 本発明において観測される信号強度Bは、蛋白質由来の吸収帯における赤外吸収スペクトルであればいかなるものを使用してもよいが、アミドI吸収帯(1700〜1620cm-1の波数領域)および/またはアミドII吸収帯(1560〜1520cm-1の波数領域)由来の吸収信号を使用することが好ましい。 本発明では、皮膚のIRスペクトル中のカルボキシレートアニオン(−COO-基)逆対称伸縮振動の信号強度を数値処理によって算出する。逆対称伸縮振動の信号強度(A’、A11’、A12’)を抽出する手段としては特に限定されないが、カーブフィッティング法、差スペクトル法、スペクトル合成法を好ましく適用することができる。(1)カーブフィッティング法 カーブフィッティング法は、皮膚の角層のIRスペクトルを、適切な関数の重ね合わせで表現し、各信号成分の寄与を定量的に見積もる方法である。カーブフィッティング法を用いることにより、各成分の吸収バンドを分離し、各々の吸収バンドの正確な位置や面積を計算することができる。カーブフィッティング法に用いられる関数形としては、ガウス関数、ローレンツ関数、フォークト関数等が挙げられる。皮膚は蛋白質・脂質・NMF等で構成されており、そのIRスペクトルはきわめて複雑であるが、適切な関数(例えばガウス関数)の重ね合わせで、そのスペクトル形状を良く表現することが可能である。 実際にカーブフィッティングを行うには、市販の数値解析ソフトを使用してもよいし、専用ソフトを作成してもよい。 市販ソフトとしては、例えばIGOR Pro 6.0(株式会社ヒューリンクス)やOrigin8.0(株式会社ライトストーン)が利用できる。例えば分光学の分野で現在広く普及しているIGOR Pro 6.0では、回帰分析 (カーブフィッティングと同じ)用の組み込み回帰関数として、線形、多項式、サイン、指数、二重指数、ガウス、ローレンツ、ヒルの微分方程式、シグモイド、ログノーマル、ガウス 2D (2次元ガウスピーク)、多項式 2D (2次元多項式)が用意されている。解析したいIRスペクトルをIGOR Pro 6.0に読み込み、スペクトル形状を最も良く表現できる波数位置に任意の関数(例えばガウス関数)を必要な個数だけ配置し、固定するパラメーター(例えばピーク位置やピーク幅等)と、可変とするパラメーター(例えばピーク高さ)を指定する。その後に回帰分析機能を実行すれば、関数の重ね合わせにより合成したスペクトルと、実測のIRスペクトルの各データ点における、二乗誤差の総和が最小になる可変パラメーター値群を本ソフトは出力してくれる。 専用ソフトを作成する場合は、例えば代表的なプログラミング言語であるVisual Basic6.0やVisual C++上で作成することができる。解析したいIRスペクトル形状を、上記市販ソフトの場合と同様に、ガウス関数のような非線形関数の重ね合わせで最小二乗近似するソフトを記述することになる。最小二乗近似法としては、例えば最小二乗Taylor微分補正法を用いることで、関数の重ね合わせにより合成したスペクトルと、実測のIRスペクトルの各データ点における二乗誤差の総和が最小になる可変パラメーター値群を算出することができる。最小二乗Taylor微分補正法のプログラミング方法については、以下の書籍を参考にすれば実行することができる。 「科学計測のための波形データ処理」,南 著,CQ出版社 「最小二乗法による実験データ解析」,中川,小柳 著,東京大学出版会 “Numerical Recipes in C” by H.w.Press,S.A.Teukolsky,W.T.Vetterling,and B.P.Flannery,Cambrige University Press(1988) 邦訳:「C言語による数値計算のレシピ」、技術評論社 上述のように市販ソフト、あるいは作成した専用ソフトを用いることにより、測定対象の角層のIRスペクトルにおける各々の吸収バンドの、正確な面積を計算することができる。このようにして得られた各吸収バンド面積のうち、蛋白質由来の吸収バンドの面積を蛋白質由来の信号強度Bとし、カルボキシレートアニオン(−COO-基)逆対称伸縮振動由来の吸収バンドの面積をカルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動の信号強度(A’、A11’、A12’)とすることができる。(2)差スペクトル法 差スペクトル法は、測定対象の角層のIRスペクトル(NMFを含む皮膚のIR−ATRスペクトル)から、NMFを除去した角層のIRスペクトル(NMFを含まない皮膚のIR−ATRスペクトル)を差し引くことにより、測定対象の角層のIRスペクトルにおける、NMFの信号強度を見積もる方法である。角層中のNMFを除去する方法としては、例えば、皮膚表面に有機溶媒(アセトンとジエチルエーテルの混合溶媒等)を接触させた後に水に接触させることにより行うことが挙げられる。 スペクトルの差し引きを行う前に、差し引きに用いる2つのIRスペクトル(測定対象の角層と、NMFを除去した角層)の吸光度表示での信号強度を、NMFの影響を受けない吸収ピークの強度を基準に規格化しておくことが必要である。NMFの影響を受けない吸収ピークとしては蛋白質に特徴的な吸収が好ましく、その中でも特に特徴的な吸収であるアミドIまたはアミドIIの吸収ピーク強度を基準とするのが最も好ましい。 例えばアミドIを基準とする場合であれば、例えば1800cm-1〜1600cm-1における最大値と最小値が、それぞれ1.5および0になるように、差し引きに用いる2つのIRスペクトル(測定対象の角層と、NMFを除去した角層)の吸光度を規格化し、その後に差分スペクトル(測定対象の角層の規格化後のスペクトル―NMFを除去した角層の規格化後のスペクトル)の算出を行うことになる。差分の算出は一般的なIRスペクトルの解析ソフト(例えば、サーモフィッシャーサイエンティフィック社のOMNICソフトウェア)の機能により求めることができる。 このようにして得られた差分スペクトルにおける、1610〜1570cm-1の波数領域に出現する各信号の強度を、カルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動の信号強度(A’、A11’、A12’)とし、規格化後の2つのIRスペクトル(測定対象の角層と、NMFを除去した角層)のいずれかにおける蛋白質由来の吸収バンドの面積を蛋白質由来の信号強度Bすることができる。(3)スペクトル合成法 スペクトル合成法は、測定対象の角層のIRスペクトル(NMFを含む皮膚のIR−ATRスペクトル)を、NMFを除去した角層のIRスペクトル(NMFを含まない皮膚のIR−ATRスペクトル)と、NMFのIRスペクトルの重ね合わせで近似することにより、測定対象の角層のIRスペクトルにおける、NMFの信号強度を見積もる方法である。角層中のNMFを除去する方法としては、例えば、皮膚表面に有機溶媒(アセトンとジエチルエーテルの混合溶媒等)を接触させた後に水に接触させることにより行うことが挙げられる。このとき抽出された水溶液の乾固物のIR−ATRスペクトル、あるいは水溶液のIR−ATRスペクトルより水の信号を差し引いた差スペクトルを、NMFのIRスペクトルとみなすことができる。あるいは角層のNMF組成を模した組成を有す混合物(アミノ酸、有機酸等で構成)のIR−ATRスペクトル、あるいは本モデルNMFの水溶液のIR−ATRスペクトルより水の信号を差し引いた差スペクトルを、NMFのIRスペクトルとみなすことができる。 このようにして得られた、測定対象の角層のIRスペクトルを、NMFを除去した角層のIRスペクトルとNMFのIRスペクトルで合成・近似することになる。ここで 測定対象の角層のIRスペクトル=α×(NMFを除去した角層のIRスペクトル)+β×(NMFのIRスペクトル)とし、カルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動を含む波数領域において、測定対象の角層のIRスペクトルを最も良く表現するαとβの組み合わせを求めることになる。計算に適した波数領域としてはアミドI、アミドII、カルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動の信号を含む1800〜1450cm-1を有していることが好ましい。 最適なα、βの算出法としては、上述のような市販の数値解析ソフトを使用してもよいが、一般的な表計算ソフト(例えばマイクロソフト社のエクセル)のソルバー機能を用いても簡単に算出することができる。この場合、α、βの関数として得られる合成スペクトルと測定対象の角層のIRスペクトルとの間で、各波数データ点ごとに差分値を算出する。そして、この差分値の二乗値を全データ点で積分した値が最小値を示すように、ソルバー機能を用いてα、βを最適化すればよい。このようにして得られたパラメーターβをカルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動の信号強度(A’、A11’、A12’)とし、パラメーターαを蛋白質由来の信号強度Bすることができる。 本発明において、カルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動の信号強度(A’、A11’、A12’)を抽出した後、信号強度A’と前記の観測された蛋白質由来の信号強度Bとの比から、角層中の天然保湿因子NMF量を測定する。このとき、角層中におけるNMFの絶対量を精度良く測定するために、NMFと蛋白質とを含む試料における蛋白質質量当たりのNMF量と、当該試料の1610〜1570cm-1の波数領域におけるカルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動の信号強度とから作成した検量線を用いて、前記信号強度A’と前記信号強度Bとの比から角層単位蛋白質質量当たりの天然保湿因子NMF量を求めることが好ましい。 検量線の作成法としては、例えば、以下の(1)又は(2)に示す方法が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。(1)採取した皮膚角層を用いた検量線の作成法 ヒト皮膚のIR−ATR測定を行った後に、該皮膚より角層を採取し、該角層中のNMF量(アミノ酸類、及び乳酸塩、ピロリドンカルボン酸等の有機酸類)および蛋白質量を液体クロマトグラフ等により測定して、両者の比から蛋白質質量あたりのNMF量を求める。次いで、上記ヒト皮膚のIR−ATRスペクトルにおけるカルボキシレートアニオンの信号強度(1610〜1570cm-1の波数領域)と蛋白質の信号強度との比と、蛋白質質量あたりのNMF量との関係の検量線を得る。(2)モデル蛋白質およびモデルNMFを用いた検量線の作成法 アルブミンのようなモデル蛋白質とモデルNMF(アミノ酸類、及び乳酸塩、ピロリドンカルボン酸等の有機酸類単品又はこれら2種以上の組合せの混合物)との混合物を調製し、該混合物のモデル蛋白質とモデルNMFとの混合比と、該混合物のIR−ATRスペクトルにおけるカルボキシレートアニオンの信号強度(1610〜1570cm-1の波数領域)と蛋白質の信号強度との比の関係の検量線を得る。 本発明によれば、角層中のNMF量を正確に、迅速・簡便に測定することができる。特に、非侵襲的な測定方法において有用である。本発明の方法は、化粧品、皮膚洗浄料等の販売における店頭でのNMF測定や、化粧品、皮膚洗浄料等の研究開発における多数の評価試料のNMF測定などに好ましく応用することができる。 以下、本発明を実施例に基づき更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 本実施例においては、IR測定を以下の装置構成にて行った。 (1)FTIR(Nicolet380、商品名、サーモサイエンティフィック社製) (2)光ファイバカップリングユニット(FiberMate、商品名、システムズエンジニアリング社製) (3)PIR光ファイバ型IR−ATRプローブ(システムズエンジニアリング社製) (4)装置制御・データ処理用コンピュータ参考例 皮膚のIRスペクトルにおける1610〜1570cm-1の波数領域における吸収がNMFに由来するものであることを確認するために、以下の測定を行った。 1)皮膚表面に有機溶媒(アセトンとジエチルエーテルとの1:1混合溶媒、体積比)を30分接触させる。 2)有機溶媒を除去後、皮膚を乾燥させる。 3)該有機溶媒処理部に、水を30分間接触させる。 4)水抽出液を乾燥・濃縮し、IR−ATRスペクトルを測定する。 さらに、下記表1に示す組成を持つモデルNMF水溶液を調製し、IR−ATRスペクトルを測定した。 皮膚からの水抽出物のIR−ATRスペクトル及びモデルNMF水溶液のIR−ATRスペクトルを図2に示す。水抽出物のスペクトルの特徴として以下のことが言える。1)脂質に特徴的な鋭いアルキル鎖のCH伸縮振動(2900cm-1付近に出現)のピークが存在しない。2)蛋白質に特徴的なアミドI(1650cm-1付近)とアミドII(1540cm-1付近)の二本の組み合わせのピークが存在しない。3)アミノ酸や有機酸に特徴的なカルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動(1600cm-1付近)とカルボキシレートアニオン対称伸縮振動(1405cm-1付近)が出現している。4)CH伸縮振動(2900cm−1付近に出現)の強度に比較して、CH変角振動(1400cm-1付近に出現)の強度が強いことが、鎖状アルキル骨格由来でないCH基の存在を示唆している。 皮膚角層の主要構成成分が、蛋白質、NMF、脂質であることを考慮すると、本水抽出物は主としてNMFで構成されていることが強く支持される。実際に上記特徴は、モデルNMF水溶液のスペクトルの特徴とも一致しており、皮膚のIRスペクトルにおける1610〜1570cm-1の波数領域における吸収がNMFに由来するものであることが確認できた。実施例1(1)皮膚の角層の赤外吸収スペクトルの測定 前記の構成の装置を用いて、ヒトの前腕皮膚のIR測定を行った。通常IR−ATR測定の分析深さは1μm程度であり、これは一般的なヒト皮膚の角層(約15μm)よりも十分に浅い。そのため本装置構成で得られる皮膚のIR−ATRスペクトルは、角層のIR−ATRスペクトルとみなすことができる。(2)カルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動の信号強度の抽出 得られたIRスペクトルにおいて、1610〜1580cm-1の波数領域における信号強度及び1610〜1570cm-1の波数領域における信号強度Aから、カルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動の信号強度をカーブフィッティング法によって抽出した。28個のガウス関数のピーク位置を下記表2に示した位置にそれぞれ固定した後に、ピーク幅を皮膚スペクトル形状に合わせて適宜調整し、その後ピーク高さのみを可変パラメータとして、皮膚のIR−ATRスペクトルに対して、最小二乗法によりフィッティングした。図3に、1800〜800cm-1の波数領域における皮膚のIR−ATRスペクトルを28個のガウス関数の重ね合わせでフィッティングした結果を示す。(3)蛋白質の信号強度あたりのNMFの信号強度の算出 前記表2中のピーク番号3、4、5の面積和(アミドI吸収帯の信号に相当)を蛋白質の信号強度とした。また、前記表2中のピーク番号6の面積(アミノ酸類のカルボキシレートアニオンの逆対称伸縮振動および有機酸類のカルボキシレートアニオンの逆対称伸縮振動の一部に相当)、または前記表2中のピーク番号6とピーク番号7の面積の合計(アミノ酸類および有機酸類のカルボキシレートアニオンの逆対称伸縮振動に相当)をNMFの信号強度とした。図3における両者の比から、蛋白質の信号強度あたりのNMFの信号強度を算出した。(4)皮膚角層を用いた検量線の作成(4−1)1605cm-1の信号強度とアミドIの信号強度との信号強度比、及び1605cm-1と1574cm-1の信号強度の和と、アミドIの信号強度との信号強度比の算出 別途、検量線を作成するために、以下の測定試料についてIR−ATRスペクトルを測定した。 <測定試料>ヒト(0歳〜40代の合計53名)の腹部、大腿部、臀部、腰部の皮膚 <測定条件>光ファイバ型IRプローブを皮膚に約10秒間押し当てて2000〜500cm-1の波数領域のIR−ATRスペクトルを測定した。 各測定試料について、得られたIRスペクトルについて前記カーブフィッティング法を適用し、1605cm-1(前記表2中のピーク番号6)の信号強度とアミドI吸収帯(前記表2中のピーク番号3、4、5)の信号強度との信号強度比、及び1605cm-1と1574cm-1の信号強度の和とアミドI吸収帯の信号強度との信号強度比とをそれぞれ求めた。(4−2)単位蛋白質質量あたりのNMF量の算出 各測定試料について、上記IR−ATRスペクトルの測定後に、同測定部位の角層をPPS(ポリフェニレンサルファイド)テープを用いて採取した。 角層を剥離したテープの一部を溶媒(メタノールと水との混合溶媒、体積比1:1)に浸漬させ、抽出液を液体クロマトグラフで測定し、アミノ酸、乳酸塩、ピロリドンカルボン酸とこれらの総量(NMF量)を求めた。また、角層を剥離したテープの残りの部分を溶媒(硫酸ドデシルナトリウムを含んだ塩酸水溶液)に浸漬させ、水酸化ナトリウム水溶液で中和した後にビシンコニン酸(BCA)法により抽出液を呈色させて吸光度を測定し、角層内の蛋白質の質量を求めた。 測定したNMF量を、測定した蛋白質の質量で除すことにより、単位蛋白質質量あたりのNMF量を算出した。(4−3)検量線の作成 各測定試料について、上記(4−1)項で求めた1605cm-1の信号強度とアミドIの信号強度との信号強度比と、上記(4−2)項で求めた単位蛋白質質量あたりのNMF量とをプロットして、検量線を作成した。結果を図4に示す。 図4から明らかなように、1605cm-1の信号強度とアミドIの信号強度との信号強度比と、NMF量との間に良好な線形性があることがわかった。したがって、図4の検量線を用いることで、皮膚のIR−ATRスペクトルから、角層中の単位蛋白質質量あたりのNMF量を算出することができる。 また、各測定試料について、上記(4−1)項で求めた1605cm-1と1574cm-1の信号強度の和とアミドIの信号強度との信号強度比と、上記(4−2)項で求めた単位蛋白質質量あたりのNMF量とをプロットして、検量線を作成した。結果を図5に示す。 図5から明らかなように、1605cm-1と1574cm-1の信号強度の和とアミドIの信号強度との信号強度比と、NMF量との間に良好な線形性があることがわかった。したがって、図5検量線を用いることで、皮膚のIR−ATRスペクトルから、角層中の単位蛋白質質量あたりのNMF量を算出することができる。(5)モデル蛋白質およびモデルNMFを用いた検量線の作成 さらに別途、モデル蛋白質およびモデルNMFを用いて検量線を作成した。角層を構成する主要な蛋白質はケラチン、フィラグリン、インボルクリン等であるので、モデル蛋白質としてはこれらの混合物を用いることが最も好ましい。しかしこれらの蛋白質の標品はきわめて高価であり、標品の混合物を検量線作成に用いることは現実的ではない。そこで代替の角層モデル蛋白質として、安価に入手可能な牛血清アルブミン(BSA)を用いた。BSAも角層蛋白質と同様に、アミドIおよびアミドIIの強い吸収帯を示すため、BSAとモデルNMF混合物を用いれば、BSA換算での検量線を得ることができる。 前記表1に示す組成を持つモデルNMFを調製し、次いで、BSAとモデルNMFとの混合水溶液を、混合比(質量%)を様々に変更して調製した。これらの混合水溶液について、IR−ATRスペクトルの測定後、水のIR−ATRスペクトルを差し引いた後に、前述のカーブフィッティング解析を行い、1605cm-1(前記表2中のピーク番号6)の信号強度とアミドI吸収帯(前記表2中のピーク番号3、4、5)の信号強度との信号強度比を算出した。 各測定試料について、上記で求めた1605cm-1の信号強度とアミドIの信号強度との信号強度比と、モデルNMFとBSAとの混合質量比(単位蛋白質質量あたりのNMF量)とをプロットして、検量線を作成した。結果を図6に示す。 図6から明らかなように、1605cm-1の信号強度とモデルNMF量との間に良好な直線関係があることがわかった。したがって、図6の検量線を用いることで、皮膚のIR−ATRスペクトルから、蛋白質質量あたりのNMF量を算出することができる。(6)角層中のNMF量の測定 上述のようにして、ヒトの前腕皮膚のIR−ATRスペクトルを測定した後、カーブフィッティング法を適用して1605cm-1の信号強度とアミドIの信号強度との信号強度比、及び1605cm-1と1574cm-1の信号強度の和とアミドIの信号強度との信号強度比を、それぞれ算出した。その後、前述の1605cm-1の信号強度または1605cm-1と1574cm-1の信号強度の和に基づく検量線((4)で得られた角層単位蛋白質質量当たりのNMF量の算出用検量線、並びに(5)で得られたBSA換算蛋白質質量当たりのNMF量の算出用検量線)を用いて、角層中のNMF量を測定した。 また、同様にして、前記前腕皮膚を市販食器用洗剤で洗浄・乾燥した後のIR−ATRスペクトルを測定し、角層中のNMF量を測定した。 1605cm-1の信号強度とアミドIの信号強度との信号強度比を用いて算出したNMF量の結果を表3に、1605cm-1と1574cm-1の信号強度の和とアミドIの信号強度との信号強度比を用いて算出したNMF量の結果を表4に示す。また洗浄処理前後の皮膚のIR−ATRスペクトルを図7に示す。 表3及び表4の結果から明らかなように、食器用洗剤を皮膚に接触させることで、角層表層のNMF量が低下することが定量的に測定できた。また表3及び表4の角層内蛋白質質量あたりのNMF質量はほぼ同様の結果を示しており、1605cm-1の信号強度を用いても、1605cm-1と1574cm-1の信号強度の和を用いても、それぞれの検量線に従って同様のNMF量を測定することができることがわかった。したがって、本発明の方法によれば、日常のNMF量の変動を敏感に把握できることがわかった。このような評価は、食器用洗剤や皮膚洗浄料の皮膚へのマイルド性の評価等に、非常に有用である。実施例2 実施例1におけるカルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動の信号強度の抽出について、カーブフィッティング法を下記の差スペクトル法に代えたこと以外は実施例1と同様にして角層中のNMF量の測定を行ったところ、実施例1と同様に、皮膚の角層中のNMF量を相対的に定量測定できることがわかった。(差スペクトル法) NMFを含む皮膚AのIR−ATRスペクトルから、NMFを含まない皮膚BのIR−ATRスペクトルを差し引くことにより、皮膚AのIR−ATRスペクトルにおけるNMFの信号強度を算出した。 NMFを含まない皮膚の調製は以下のように行った。1)皮膚表面に有機溶媒(アセトンとジエチルエーテルの1:1混合溶媒)を30分接触させる。2)有機溶媒を除去後、皮膚を乾燥させる。3)該有機溶媒処理部に、水を30分間接触させる。4)水を除去後、皮膚を乾燥させる。 以上の処理により、角層表層部のNMFを完全に取り除くことができる。 処理前の皮膚である皮膚AおよびNMFを含まないよう調製した(処理1)〜4)を施した)皮膚である皮膚Bのスペクトルを図8に示す。皮膚Aおよび皮膚Bのスペクトル中の、アミドIのピーク強度が一致するように皮膚Bのスペクトル強度に対して定数を乗じ、その後、皮膚Aのスペクトルより皮膚Bの強度補正後のスペクトルを差し引くことにより、1610〜1570cm-1の波数領域にピークを持つNMFの信号を得た。この差スペクトル中の1610〜1570cm-1の波数領域にピークを持つNMFの信号強度と、皮膚Bの強度補正後のスペクトルの蛋白質の信号強度(例えばアミドI)の強度比を算出することで、皮膚AのIR−ATRスペクトルにおける、蛋白質の信号強度あたりのNMFの信号強度を算出した。 皮膚の角層の赤外吸収スペクトルを測定して角層中の天然保湿因子(NMF)量を測定する方法であって、角層の赤外吸収スペクトルから1610〜1570cm-1の波数領域における信号強度A、および前記赤外吸収スペクトルから蛋白質由来の信号強度Bを観測する工程と、前記信号強度Aからカルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動の信号強度A’を抽出する工程とを含み、該信号強度A’と前記信号強度Bとの比から角層中の天然保湿因子NMF量を測定する方法。 前記信号強度Aとして、1610〜1580cm-1の波数領域の信号強度A1を用いる、請求項1記載の方法。 前記信号強度Aとして、1610〜1590cm-1の波数領域の信号強度A11を用いる、請求項2記載の方法。 更に、前記角層の赤外吸収スペクトルから1590〜1570cm-1の波数領域における信号強度A12を観測し、前記信号強度A11及び信号強度A12各々から抽出したカルボシキレートアニオン逆対称伸縮振動の信号強度A11’及びA12’の和を前記信号強度A’として用いる、請求項3記載の方法。 天然保湿因子NMFと蛋白質とを含む試料における蛋白質質量当たりの天然保湿因子NMF量と、当該試料の1610〜1570cm-1の波数領域におけるカルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動の信号強度とから予め検量線を作成しておき、該検量線を用いて、前記信号強度A’と前記信号強度Bとの比から角層単位蛋白質質量当たりの天然保湿因子NMF量を求める、請求項1〜4いずれか記載の方法。 前記信号強度A’、A11’及び/又はA12’を抽出する工程が、カーブフィッティング法によって行われる、請求項1〜5いずれかに記載の方法。 前記信号強度A’を抽出する工程が、天然保湿因子NMFを除去した角層のIRスペクトルと測定対象の角層のIRスペクトルとの差スペクトルを求めることによって行われる、請求項1〜5いずれか記載の方法。 前記信号強度Bが、1700〜1620cm-1の波数領域であるアミドI吸収帯および/または1560〜1520cm-1の波数領域であるアミドII吸収帯における赤外吸収スペクトルである、請求項1〜7のいずれか記載の方法。 【課題】皮膚の角層中のNMF量を、皮脂の影響を受けることなく簡便に精度良く測定する。【解決手段】皮膚の角層の赤外吸収スペクトルを測定して角層中の天然保湿因子(NMF)量を測定する方法であって、角層の赤外吸収スペクトルから1610〜1570cm-1の波数領域における信号強度A、および前記赤外吸収スペクトルから蛋白質由来の信号強度Bを観測する工程と、前記信号強度Aからカルボキシレートアニオン逆対称伸縮振動の信号強度A’を抽出する工程とを含み、該信号強度A’と前記信号強度Bとの比から角層中の天然保湿因子NMF量を測定する方法。【選択図】なし