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タイトル:特許公報(B2)_アクリジニウムエステル化合物
出願番号:2009003977
年次:2014
IPC分類:C07D 401/06,G01N 33/533


特許情報キャッシュ

今井 一洋 一番ケ瀬 智子 高村 則夫 安井 英子 高舘 明 増田 寿伸 武藤 勝 JP 5435963 特許公報(B2) 20131220 2009003977 20090109 アクリジニウムエステル化合物 学校法人武蔵野大学 502054196 日本電子株式会社 000004271 三好 秀和 100083806 岩▲崎▼ 幸邦 100100712 川又 澄雄 100100929 伊藤 正和 100095500 高橋 俊一 100101247 高松 俊雄 100098327 今井 一洋 一番ケ瀬 智子 高村 則夫 安井 英子 高舘 明 増田 寿伸 武藤 勝 20140305 C07D 401/06 20060101AFI20140213BHJP G01N 33/533 20060101ALN20140213BHJP JPC07D401/06G01N33/533 C07D,G01N CAplus/REGISTRY(STN) 特表2005−536748(JP,A) 4 2010159236 20100722 15 20110808 田村 聖子 本発明は、マレイミド構造をスペーサー分子でアクリジン環に結合した新規なアクリジニウムエステル誘導体に関し、このアクリジニウムエステル誘導体を化学発光分析における標識として利用した標識抗体試薬に関する。 臨床検査では微量タンパク質や薬物検査に、免疫反応を使用したイムノアッセイが普及している。測定法は、発光検出器を用いる化学発光免疫測定法(CLIA)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、電気化学発光免疫測定法(ECLIA)、蛍光検出器を用いる蛍光免疫測定法(FIA)、分光光度計を用いる酵素免疫測定法(EIA)、ラテックス免疫測定法(LATA)、免疫比濁測定法(TIA)、放射性同位元素を用いるラジオイムノアッセイ法(RIA)などがある。 イムノアッセイにおける高感度測定は、RIA法に代わるEIA法や化学発光法などのRI(放射性同位体)を使用しない非RIA法の進展により、RI専用施設を持たない病院でも検査が可能となり、検査の病院内実施が増大し、癌マーカーやC型肝炎抗体価検査など多くの検査項目の診断薬が拡大してきた。なかでも化学発光物質を標識物質とする化学発光免疫測定法(CLIA)が検出感度に優れ関連学会等での評価が高い。 化学発光物質として、ルミノール、過シュウ酸エステル、アクリジニウムエステル、アダマンチルエステルなどが知られている。化学発光法は、分光光度法や蛍光法に比べて、光源や励起光を必要とせず検出器がシンプルである。検出のS/N比が大きく、高感度な測定が可能である。化学発光物質の量子収率は、アダマンチルエステルのひとつであるAMPPDが0.0019、ルミノールが0.017、アクリジニウムエステルが0.12といわれており、アクリジニウムエステルを使用すると高感度化が達成される。 高分子の酵素を抗体に標識する酵素免疫測定法にくらべ、アクリジニウムエステルのような低分子の化学発光物質を抗体に直接標識する化学発光免疫測定法の方が、薬物のような低分子からホルモンなどの高分子(タンパク質、核酸、抗体、細胞、ウイルス、ほか)まで測定対象が広がり、有利である。 アクリジン誘導体であるアクリジニウムエステルは、産業界で超微量分析に役立つ高感度な発光物質として多用されている。免疫分析の分野では高い発光性を持つことから化学発光標識物質として有用である。臨床検査では化学発光測定法CLIAとして、腫瘍マーカ、甲状腺等のホルモン、感染症、アレルギー等の診断に利用されている。 このようなアクリジニウムエステルとしては、式(3)であらわされる化合物、や、この化合物のフェニル基に置換基を導入した化合物、あるいは窒素に結合しているメチル基に置換基を導入した化合物など種々のアクリジニウムエステル誘導体が知られているが、いずれも、アクリジニウム環の2位あるいは3位に置換基を有するものではない。国際公開2004/018418号 しかしながら、従来のアクリジニウムエステルは、発光量が十分とはいえず、より高い発光量を有するものが要望されている。さらに、従来のアクリジニウムエステルでは標識と抗体などとの結合反応で抗体の生物活性に必要な部位のアミノ基まで標識し失活させることから、一定の結合モル比で結合させにくく、結合反応に再現性が保てないという問題を有していた。 本発明は発光量をアップさせ、且つ、結合反応で結合モル比が一定した標識抗体試薬を提供することを目的とする。 すなわち、免疫発光分析等に用いる化学発光標識法において、タンパク質、抗体等に高い特異性を保持しながら十分な結合力を持った化学発光標識化合物を作製し、その化学発光を用いて安定に精度よく目的物質を検出する手段を提供するものである。 本発明のアクリジニウムエステル誘導体は化学発光と蛍光発光機能をあわせ持つアクリジニウム骨格と、タンパク質中のチオール基と特異的に反応することを期したマレイミド構造とをトリメチレンスペーサーなどで結合した構造である。すなわち、本発明は、アクリジニウム核に、スペーサーを介してマレイミド構造が結合している構造であり、一般式(1)で表されるアクリジニウムエステル誘導体である。式中の、R1は、炭素数1〜6のアルキル基、R2は、置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基、R3は、炭素数2〜6のアルキレン基、Xは、対イオンであり、nは1〜5の整数である。 また、上記のスペーサーを介してマレイミド構造の結合は、すなわち、置換基、は、アクリジン環の2位または3位に結合していることが、そして、この繰り返し数nは、1であることが、好ましいものである。 また、本発明は、上記のアクリジニウムエステル誘導体を抗体などに結合することにより、標識された標識抗体試薬をも包含するものである。 本発明のアクリジニウムエステル誘導体は、発光量(信号量:S)が数倍アップするとともに、抗体フラグメントのFab’のみに標識することが可能となり、一般的に、抗体のブランク値(ノイズ:N)を低下させることができる。したがって、本発明のアクリジニウムエステル誘導体により標識された標識抗体試薬は、S/N比の向上、測定感度の向上という優れた効果を奏し、また、標識抗体試薬を作製する際に、本発明のアクリジニウムエステル誘導体は標識抗体の反応結合率が均一であり、製造が容易となるという効果も有するものである。図1は、本発明の化合物1の13C NMRスペクトルを示す図である。図2は、本発明の化合物1の1H NMRスペクトルを示す図である。図3は、本発明の化合物1のIRスペクトルを示す図である。図4は、本発明の化合物1のMassスペクトルを示す図である。図5は、本発明の標識抗体試薬を用いて測定した結果を示すグラフである。 先に、発明者らは、従来アクリジニウムエステルのアクリジニウム骨格上のC2位およびC3位の少なくともいずれかに電子供与性官能基の−OCH3を付けることにより、アクリジニウムエステルの擬似塩基の生成を抑制して発光強度がアップすることを確認している(約1.9倍)。今回、この知見に基づいて、マレイミド構造をトリメチレンなどのスペーサーで結合したアクリジニウムエステルを合成し、このアクリジニウムエステルを標識物質として、抗体などに結合した新規な標識試薬を開発した。 本発明のアクリジニウムエステル誘導体は、一般式(1)で示されるものである。 式中のR1としては、炭素数1〜6の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基であり、好ましくは、炭素数1〜3のアルキル基であり、特に、メチル基、エチル基が原料入手の容易さという点で好ましい。 R2としては、置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基であり、置換基としては、メチル基のようなアルキル基、メトキシ基のようなアルコキシ基が好ましく、具体的には、フェニル基、トリル基、キシリル基、メトキシフェニル基、ナフチル基、などが挙げられ、フェニル基が合成の容易さという点で好ましい。 R3としては、炭素数2〜6の直鎖状あるいは分岐状のアルキレン基であり、好ましくは、炭素数2〜4のアルキレン基であり、特に、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−が水溶性を高めるという点から好ましく、また、繰り返し数nは、1〜5の整数であり、好ましくは1〜3が、特に1が、良好な結晶を与えるという点で好ましい。 なお、この置換基、は、アクリジン環の2位または3位に結合していることが好ましく、特に2位であることが、発光強度の向上という点で好ましい。 また、X−は、対イオンを示し、例えば、I−、FSO3−、CH3SO3−などがあり、FSO3−が良好な結晶を与え、その結晶が水溶性である点で好ましい。 本発明のアクリジニウムエステル誘導体は、マレイミド基を有するアクリジン系のエステル類を合成した後、アクリジンの窒素をアルキル化(4級化)することにより得られる。このようなアクリジニウムエステル誘導体として、例えば、式(2)で示される化合物(2−(3−(2,5−ジオキソ−2H−ピロール−1(5H)−イル)プロポキシ)−10−メチル−9−(フェノキシカルボニル)アクリジニウム スルホフルオリデート)を例として、具体的な合成法の一例を示すと、以下の合成スキームが例示される。 また、この合成スキームからもわかるように、例えば、化合物2を合成する際のスペーサーとなる化合物を、化合物6を合成する際のエステル化される化合物を、そして、窒素をアルキル化して化合物1を合成する際のアルキル化剤を、変更することにより、本発明の一般式(1)で示されるアクリジニウムエステル誘導体を得ることができる。 また、アクリジニウム環の3位に置換基を有する誘導体は、例えば、下記の化合物2’を原料として、同様に合成することができる。 このようにして合成された、アクリジニウムエステル誘導体は、従来のものに比べ、発光量が大きく化学発光分析の有効な標識物質となる。次に、このアクリジニウムエステル誘導体を抗体などに結合して作製される、アクリジニウムエステル誘導体により標識された標識抗体試薬について説明する。 本発明のアクリジニウムエステル誘導体は、マレイミド基を介して、タンパク質中のチオール基(メルカプト基)と反応することによりタンパク質に結合することができる。そのため、従来のアクリジニウムエステル誘導体のようにアミノ基を介して結合するものの欠点であった、標識と抗体との結合反応に際して、抗体の生物活性に必要な部位(抗原認識部)にあるアミノ基まで反応してしまい、特異性の低下や失活させること、また、一般に抗体中にはアミノ基が多数存在するために、一定の結合モル比で特異的にアミノ基と結合させることができず、再現性が保てないという問題を回避できる。 本発明の標識抗体試薬に用いる抗体としては、メルカプト基を有するものであり、このような抗体としては、抗体を還元して得られる、H鎖とL鎖の二量体であり補体結合部位等が残っているいわゆる還元型抗体、あるいは、抗体をペプシンで消化し、次いで、温和な条件下で還元剤で処理して得られる、いわゆるFab’フラグメントを用いることが好ましい。 本発明のアクリジニウムエステル誘導体による抗体の標識、すなわちアクリジニウムエステル誘導体と抗体との結合は、通常のアミノ基を介する結合方法とほぼ同様に行うことができるが、本発明がメルカプト基と反応させることを考慮すると、特に、以下のような条件下で、反応させることが好ましい。 反応は、アクリジニウムエステル誘導体が不安定となるアルカリ性溶液を避け、pH5〜7、好ましくはpH6〜6.5の水溶液中で、温度1〜37℃、好ましくは4〜10℃で、30分から48時間、好ましくは30分から20時間程度で行い、次いで、得られたアクリジニウムエステル誘導体で標識された抗体を、ゲルろ過クロマトグラフィーなどで未反応物質を除去して標識抗体試薬を得る。 このようにして調製された標識抗体試薬は、アクリジニウムエステル誘導体と抗体を一定の結合モル比で結合させることができ、反応に関与するメルカプト基も制限されることから、再現性のある標識抗体試薬が得られる。 本発明の標識抗体試薬は、抗体の抗原に対する特異性を考慮して、抗体を選択することにより、化学発光を利用して、腫瘍マーカーやC型肝炎抗体価検査など種々の臨床検査に使用することができる。 次に実施例により、本発明のアクリジニウムエステル誘導体および標識抗体試薬を詳細に説明する。 1.アクリジニウムエステル誘導体の合成 まず、前記した合成スキームに従い、式(2)で示される化合物1を合成した、合成スキームに示される各化合物の合成について、以下に、順を追って説明する。 (1)化合物3の合成 化合物2(3.68g、13.2mmol)を塩化メチレン(100ml)に溶解し、氷冷撹拌下にジイソプロピルエチルアミン(4.60ml、26.4mmol)とクロロメチルメチルエーテル(4.60ml、15.8mmol)を加えた。5分後、冷却バスをはずして室温下に30分間撹拌し、さらに1時間加熱還流した。反応溶液を室温まで冷却してから減圧濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル100g、ヘキサン/酢酸エチル=3/1)で精製して化合物3を得た(3.30g、10.2mmol、77%)。 1H NMR(CDCl3,400MHz)δ 7.54(d,J=8.8Hz,2H)、6.80(d,J=8.8Hz,2H)、4.62(s,2H)、4.04(t,J= 6.0 Hz,2H)、3.70(t,J=6.0Hz,2H)、3.34(s,3H)、2.06(quin,J=6.0Hz,2H); EI−MS calcd for C11H15IO3 322.0、found 322.0。 (2)化合物4の合成 イサチン(1.00g、6.8mmol)を窒素気流下ジメチルホルムアミド(35ml)に溶解し、水素化ナトリウム(〜70%、0.28g、8.20mmol)を加えて室温下に30分間撹拌した。ジメチルホルムアミド(10ml)に溶解した化合物3(3.30g、10.2mmol)を加えてさらに160℃で14時間撹拌した。反応溶液を室温まで冷却してからクロロホルム(80ml)で希釈し、セライトろ過した。ろ液を減圧下に濃縮し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル130g、ヘキサン/酢酸エチル=2/1)で精製して化合物4を得た(2.1g、6.1mmol、90%)。 1H NMR(CDCl3,400MHz)δ 7.68(dd,J=7.2,0.8Hz,1H)、7.52(dt,J=8.0,1.6Hz,1H)、7.31(d,J=9.2Hz,2H)、7.15(dt,J=7.2,0.8Hz,1H)、7.06(d,J=9.2Hz,2H)、6.83(d,J=8.0Hz,1H)、4.65(s,2H)、4.13(t,J=6.4Hz,2H)、3.74(t,J=6.4Hz,2H)、3.37(s,3H)、2.11(quin,J=6.4Hz,2H); EI−MS calcd for C19H19NO5 341.4、found 341.1。 (3)化合物5の合成 封管中に入れた化合物4(0.74g、2.17mmol)を10%水酸化カリウム水溶液(7.5ml)とともに160℃で4時間加熱撹拌した。反応溶液を室温まで冷やした後に氷冷し、濃塩酸を用いてpH2まで酸性化した。生じた黄色析出物を吸引ろ過により集めて水洗、乾燥し、化合物5を得た(0.69g、2.02mmol、93%)。 EI−MS calcd for C19H19NO5 341.1、found 341.2。 (4)化合物6の合成 化合物5(0.69g、2.02mmol)をピリジン(15ml)に溶解し、氷冷撹拌下トシルクロリド(0.77g、4.04mmol)を加えた。15分後、フェノールのピリジン溶液(1.0M、4.0ml)を加え、室温にて24時間撹拌した。反応溶液を減圧下に濃縮し、トルエン共沸した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性シリカゲル25g、ヘキサン/酢酸エチル=3/1)で精製して化合物6を得た(黄色結晶、mp114−115℃:0.73g、1.75mmol、87%)。 1H NMR(CDCl3,400MHz)δ 8.26(m,1H)、8.19(m,2H)、7.76(m,1H)、7.63(m,1H)、7.53(m,3H)、7.44(m,2H)、7.37(m,2H)、4.64(s,2H)、4.25(t,J=6.8Hz,2H)、3.77(t,J=6.0Hz,2H)、3.34(s,3H)、2.17(quin,J=6.0Hz,2H); 13C NMR(CDCl3,100MHz)δ 166.24、157.72、150.45、146.80、146.02、132.74、131.61、130.06、129.85、129.09、127.55、126.58、125.97、124.32、123.72、122.78、121.39、100.60、96.43、65.02、63.88、55.15、29.35; IR(KBr、cm−1)2888、1751、1623、1457、1218、1168; Elemental Analalysis calcd: C 71.93、H 5.55、N 3.36、found: C 71.96、H 5.58、N 3.39。 (5)化合物7の合成 窒素気流下に化合物6(1.25g、3.0mmol)を塩化メチレン(10ml)に溶解し、エタンチオール(0.89ml、12.0mmol)を加えて−12℃で撹拌した。三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(4.13ml、15.0mmol)を10分間かけて滴下し、冷却浴をはずして室温にて30分間撹拌した。反応溶液を酢酸エチル(200ml)で希釈し、炭酸水素ナトリウム水溶液(150ml)で中和、洗浄した。水層はさらに酢酸エチル(100ml)で2回抽出した。全ての有機層をあわせて飽和食塩水(100ml)で2回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥してから減圧下に濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性シリカゲル100g、クロロホルム/酢酸エチル=4/1)で精製して化合物7を得た(黄色結晶、mp167−168℃:1.11g、2.98mmol、99%)。 1H NMR(CDCl3,400MHz)δ 8.27(d,J=8.8Hz,1H)、8.19(m,2H)、7.78(m,1H)、7.64(m,1H)、7.50−7.36(m,7H)、4.29(t,J=6.0Hz,2H)、3.93(t,J=6.0Hz,2H)、2.15(quin,J=6.0Hz,2H); IR(KBr、cm−1)3305、2950、1743、1461、1176; EI−MS calcd for C23H19NO4 373.1、found 373.3; Elemental Analalysis calcd: C 71.67、H 4.46、N 6.19、found: C 71.39、H 4.36、N 6.12。 (6)化合物8の合成 化合物7(93.3mg、0.25mmol)をテトラヒドロフラン(7ml)に溶解し、トリフェニルホスフィン(131.1mg、0.50mmol)とマレイミド(145.6mg、1.50mmol)を加えて窒素気流下に−23℃で冷却撹拌した。アゾジカルボン酸ジエチル(40%トルエン溶液、0.227ml、0.50mmol)を5分間で滴下し、20分間同温度で撹拌した。反応溶液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(1ml)を加えてから室温に昇温させ、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(7ml)をさらに加えて酢酸エチル(15ml)で3回抽出した。全ての有機層をあわせて飽和食塩水(10ml)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥してから減圧下に濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(中性シリカゲル30g、ヘキサン/酢酸エチル=2/1)で精製して化合物8を得た(黄色結晶、mp165−166℃:82.0mg、0.18mmol、72%)。 1H NMR(CDCl3,400MHz)δ 8.27(d,J=8.8Hz,1H)、8.20(m,2H)、7.79(m,1H)、7.66(m,1H)、7.60−7.32(m,7H)、6.71(s,2H)、4.16(t,J=6.0Hz,2H)、3.82(t,J=6.8Hz,2H)、2.21(quin,J=6.8Hz,2H); IR(KBr、cm−1) 1751、1708、1450、1407、1218、1172; EI−MS calcd for C27H20N2O5 452.1, found 452.2; Elemental Analalysis calcd: C 73.98、H 5.13、N 3.75、found: C 73.71、H 5.02、N 3.68。 (7)化合物1の合成 化合物8(1.65g、3.65mmol)を塩化メチレン(36ml)に溶解し、窒素気流中室温撹拌下にフルオロスルホン酸メチル(1.76ml、21.9mmol)を加えて、さらに室温にて24時間撹拌した。無水エーテル(100ml)を加えて80分間撹拌し、析出した結晶を吸引ろ過して無水エーテルで洗浄後、乾燥した。得られた結晶を水−アセトン−ジエチルエーテルから再結晶し、化合物1(黄色結晶、mp150℃〜dec.:1.50g、2.52mmol、69%)を得た。 1H NMR(DMSO−d6,400MHz)δ 8.89(dd,J=10.0、3.6Hz、2H)、8.55(d,J=8.4Hz,1H)、8.45(m,H)、8.13(m,2H)、7.67(m、4H)、7.47(m,2H)、7.02(s,2H)、4.93(brs,3H),4.35(t,J=6.0Hz,2H)、3.68(t,J=6.0Hz,2H)、2.11(t,J=6.0 Hz,2H);13C NMR(DMSO−d6,100 MHz)δ 171.25、163.70、157.90、149.54、143.39、140.04、139.05、137.5,134.65、133.28、130.32、129.98、127.54、126.82、124.09、122.82、122.13、121.86、119.96、102.58、66.98、34.47、30.74、27.53; IR(KBr、cm−1)1752、1706、1627、1284、1203; ESI−MS calcd for C28H23N2O5 467.1、found 467.2; Elemental Analalysis calcd: C 59.49、H 4.40、N 4.70、F 3.19、S 5.38、found: C 59.42、H 4.45、N 4.48、 F 3.02、 S 5.22。 また、得られた化合物1のNMR(1H、13C)、IRおよびMassのスペクトルを図1〜4に示した。 2.発光カウント値(発光量)の評価 次に、得られた化合物1(式(2))と、従来骨格のアクリジニウムエステル(式(3))との発光強度を比較測定した。 それぞれの化合物をN,N−ジメチルホルムアミドで溶解後、RO・イオン交換水で希釈し、10−10〜10−12mol/lの溶液を調製した。次いでこの溶液を用いて発光カウントを測定し、それぞれの濃度の測定結果から一次式を設定し、1.0×10−10mol/lにおける発光カウントを計算により算出した。測定には日本電子社製フォトンカウンティング法発光検出装置を用い、測定容器にサンプルを20μl分注し、発光補助試薬ポンプで、下記組成の発光補助試薬A液200μlと発光補助試薬B液250μlとを注入し発光を開始させ、2秒間の積算発光カウント値(以下、発光量)を発光検出器で計測した。なお、使用した発光補助試薬の組成は次のとおりである。結果を、表1に示した。 発光補助試薬A液:0.20mol/l過酸化水素、0.1mol/l 硝酸 発光補助試薬B液:0.63mol/l水酸化ナトリウム 表1によれば、本発明のアクリジニウムエステル誘導体は、従来の化合物に対して、約2.2倍の発光量を示し、発光量が向上されていることがわかる。 次に、上記の化合物1を用いて抗体を標識して得た標識抗体試薬を調製し、その性能を評価した。具体的には、化合物1を用いて、アクリジニウム標識抗CEA抗体(標識抗体試薬)を作製し、日本電子社製の免疫測定装置で、既に測定し評価済みの臨床診断項目の1つである市販の腫瘍マーカCEA測定キットを用い、作製した標識抗体試薬の反応性を確認した。なお、市販の腫瘍マーカCEA測定キットを用いた測定装置の評価では良好な再現性と直線性が確認されており、今回の評価はその測定系を用いて市販のキット内の標識試薬を本発明の新たな標識抗体試薬に置きかえてCEAの希釈系列を測定して、診断領域で必要な100ng/ml付近までの直線性を確認したものである。 3.標識抗体試薬の作製 抗ヒトCEAマウスモノクローナル抗体(Anti−Human CEA Muse IgG MoAb、IBL社製)4mgをpH3.5の0.1M クエン酸緩衝液で一晩透析した後、ブタ胃液由来精製ペプシンを0.16mg加え、37℃で2時間インキュベートしてマウスIgGのFc部分を消化させた。この消化溶液を0.1Mリン酸緩衝液pH6.0とAcA−44カラム(Sigma−Aldrich社製)を用いるゲルろ過により分画し、F(ab’)2が含まれる分画を回収して、限外ろ過で濃縮した。濃縮の際、5mM EDTAを含む0.1M リン酸緩衝液pH6.0(以下、pH6.0緩衝液)でバッファー置換して0.5ml中にF(ab’)2 0.85mgを得た。 次いで、Fab’化をするために、この溶液に2−メルカプトエチルアミン0.63mgを添加し、37℃で90分間インキュベートした。その後、PD MiniTrap G−25(GE Healthcare社製)と、溶離液としてpH6.0緩衝液を用いてゲルろ過クロマトグラフィーを行い、pH6.0緩衝液0.65ml中に0.54mgのFab’を得た。 SH基定量するために、得られたFab’溶液の一部を分取し、5mM 4,4’−ジチオジピリジンを加えて10分間反応させた後、4−メルカプトピリジンの吸収波長324nmで吸光度を測ることで、Fab’内に存在するメルカプト基を測定した。その結果Fab’1分子にメルカプト基が1つ存在することを確認した。 次に化合物1の1.73mgをN,N−ジメチルホルムアミド0.28mlに溶解し、これをpH6.0緩衝液で100倍に希釈して化合物1希釈液を得た。 続いてFab’0.31mgを含むpH6.0緩衝液0.31ml中に上記化合物1希釈液を0.21ml添加し、化合物1をFab’に標識した。すなわち、Fab’と化合物1のモル比が1:3となるように加え、4℃で20時間、温和にインキュベートした。 インキュベート後、反応液をゲルろ過クロマトグラフィーにより過剰の化合物1を除去し、pH6.0緩衝液1.6ml中に標識抗体(化合物1標識抗CEA−Fab’)0.19mgを含む標識抗体液を得た。 この標識抗体液10μlを0.15M NaClを含むpH7の0.01M 燐酸緩衝液(以下、PBS)の2.99mlで希釈して標識抗体試薬を得た。 なお、標識抗体試薬の作製において、Fab’フラグメントのメルカプト基と化合物1のマレイミド基との特異的反応により、抗体に対する標識物質の結合率を均一とすることができ、再現性が良く、結合特異性に優れた標識抗体試薬の製造が容易に行えるようになった。 4.標識抗体試薬のCEAに対する希釈直線性の測定 上記の標識抗体試薬を用いて、腫瘍マーカのCEAに対する標識抗体試薬の反応性を評価した。測定は、日本電子社製の免疫測定装置で行い、サンプルにCEA濃度90ng/mlの1/6、2/6、4/6、6/6希釈系列を用いて、CEA希釈系列に対する発光量を求めた。サンプル20μl、固相化抗体試薬(市販の腫瘍マーカCEA測定キット)100μl、作製した標識抗体試薬20μlをテストチューブに分注し、37℃で15分間インキュベートする。その後、結合しなかった遊離物質を洗浄・除去して、発光補助試薬A液200μlと発光補助試薬B液250μlを注入し発光を開始させ、2秒間の発光量を発光検出器で計測した。 各CEA濃度と発光量の結果を表2に示した。また、CEAに対する希釈直線性を図5に示した。 表2および図5によると、本発明の標識抗体試薬は、一般的に診断領域で必要とされるCEA濃度90ng/ml付近までの直線性を示し、診断に有用であることがわかった。 一般式(1)で表されるアクリジニウムエステル化合物。[式中、R1は、炭素数1〜6のアルキル基、R2は、置換基を有していてもよい炭素数6〜12のアリール基、R3は、炭素数2〜6のアルキレン基、Xは、対イオンであり、nは1〜5の整数である] 置換基、が、アクリジン環の2位または3位に結合している、請求項1に記載のアクリジニウムエステル化合物。 nが1である請求項1または請求項2に記載のアクリジニウムエステル化合物。 請求項1〜3のいずれかに記載のアクリジニウムエステル化合物により標識された標識抗体試薬。


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