タイトル: | 特許公報(B2)_炎症および過剰増殖を伴う皮膚疾患モデル |
出願番号: | 2008557176 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | C12N 5/07,C12N 15/09,C07K 14/47 |
江浜 律子 日比野 利彦 阪口 政清 許 南浩 JP 5366077 特許公報(B2) 20130920 2008557176 20080208 炎症および過剰増殖を伴う皮膚疾患モデル 株式会社 資生堂 000001959 国立大学法人 岡山大学 504147243 青木 篤 100099759 石田 敬 100077517 古賀 哲次 100087413 渡辺 陽一 100117019 江浜 律子 日比野 利彦 阪口 政清 許 南浩 JP 2007030383 20070209 20131211 C12N 5/07 20100101AFI20131121BHJP C12N 15/09 20060101ALI20131121BHJP C07K 14/47 20060101ALI20131121BHJP JPC12N5/00 202ZC12N15/00 AC07K14/47 C12N 1/00−15/90 C07K 14/47−14/825 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/WPIX(STN) 国際公開第2004/106519(WO,A1) Br.J.Dermatol.,2006年 7月,Vol.155, No.1,p.61-66 Human Genetics,2002年,Vol.111, No.4-5,p.310-313 J.Biol.Chem.,2001年,Vol.276, No.38,p.35818-35825 7 JP2008052185 20080208 WO2008096868 20080814 14 20110131 水落 登希子 本発明は炎症および過剰増殖を伴う皮膚疾患、例えば乾癬の病因・発症メカニズム、その治療に有効な方法の究明、並びに有効な薬剤のスクリーニングに利用できる皮膚疾患モデルを提供する。 乾癬は、最も一般的な皮膚疾患の1つである。西欧諸国での罹病率は約2%で、日本においても頻度は低いがその罹病率は増加しつつある(非特許文献1:Menter A et al., Lancet (1991) 338:231-234)。この疾患は表皮ケラチノサイトの過剰増殖および分化不全の結果として生じる赤色の肥厚した鱗状の表皮、さらにはT細胞、マクロファージ、好中球などの免疫細胞の顕著な浸潤を特徴とする。乾癬が致命的となることはまれで、病変は治療し易いものである。しかしながら、その症状は往々にして生涯にわたって再発することがあるので、患者のクオリティ・オブ・ライフにとっては今もなお深刻な課題であり続けている。 近年、その病因に関して多大な研究がなされてきたにもかかわらず、乾癬をはじめとする炎症および過剰増殖を伴う皮膚性病変を発生させる分子学的および細胞学的機序の解明が依然として必要である(非特許文献2: Chamian F et al., Curr Opin Rheumatol (2004) 16:331-337)。乾癬等の炎症および過剰増殖を伴う皮膚疾患の病因の解明のため、適切な動物モデルの開発に多大な努力が費やされてきた。SCIDマウスに移植した正常もしくは非病変性乾癬性皮膚組織に乾癬を有する患者から単離した活性化T細胞を注射するとその組織内において乾癬性病変が誘導されることで、乾癬の発症においてT細胞が果たす決定的な役割が実証されている(非特許文献3:Wrone-Smith T et al., J Clin Invest (1996) 98:1878-1887)。 ケラチノサイトが乾癬の発症において重要な役割を担うというこの疾患の古典的な知見は、マウス表皮中での構成的に活性なSTAT3の発現が乾癬様皮膚病変を誘導するとともに、乾癬の病原に結び付く数種の分子の発現を同時に亢進することが示されたことで再認識されることになった(非特許文献4:Sano S et al., Nat Med (2005) 11:43-49)。また最近、成体マウスにおけるJunBおよびcJunの表皮特異的欠失が乾癬様皮膚表現型をもたらすことが見出されている(非特許文献5:Zenz R et al., Nature (2005) 437:369-375)。このマウスでは、ヒト乾癬症例では往々にして観察されるが、動物モデルではめったに発症しない関節炎も観察された。そこでJunB/cJun欠失マウスモデルは、ヒト乾癬を最も高度に模倣すると考えられる。このようなマウスモデルは実験動物の飼育の他、被験物質の実験動物への投与や、皮膚観察、血液検査といった煩雑な作業を必要とし、また、そのための期間を要し、また動物愛護等の見地から見直しがせまられている。Lancet (1991) 338:231-234Curr Opin Rheumatol (2004) 16:331-337J Clin Invest (1996) 98:1878-1887Nat Med (2005) 11:43-49Nature (2005) 437:369-375Biochem Biophys Res Commun (2004) 322:1111-1122Trends Immunol (2003) 24:155-158Nature (1987) 330:80-82Arthritis Rheum (2004) 50:3792-3803Neurosci Lett (1998) 247:195-197Digestion (1995) 56:406-414J Biochem (Tokyo) (1990) 108:650-653Am J Clin Pathol (1987) 87:681-699J Biol Chem (2001) 276:35818-35825J Invest Dermatol (1992). 99:299-305Hum Genet (2002) 111:310-313J Biol Chem (1992). 267:7499-7504J Immunol (1993) 150:2981-2991Biotechniques (1998) 24:954-958, 960, 962Hum Mol Genet (2001) 10:1793-1805Br J Dermatol (2003) 149:484-491 本発明は、動物モデルを代替可能な、乾癬をはじめとする炎症および過剰増殖を伴う皮膚疾患モデルの提供にある。 JunB/cJunタンパク質を欠失させた後に最も早く発生する事象の1つとして、S100A8およびS100A9の誘導がある。S100A8およびS100A9は、20を超えるメンバーから構成されるEF−ハンドカルシウム結合S100タンパク質ファミリーに属する(非特許文献6:Marenholz I et al., Biochem Biophys Res Commun (2004) 322:1111-1122)。どちらのタンパク質も好中球、活性化単球、およびマクロファージによって分泌され、それらの細胞の化学走性分子として機能し、炎症性細胞の漸増に関する正のフィードバックループに関与する(非特許文献7:Roth J et al., Trends Immunol (2003) 24:155-158)。S100A8およびS100A9陽性骨髄細胞は、炎症領域内に浸潤する最初の細胞である(非特許文献8:Odink K et al., Nature (1987) 330:80-82)。慢性関節リウマチ(非特許文献9:Liao H et al., Arthritis Rheum (2004) 50:3792-3803)、多発性硬化症(非特許文献10:Bogumil T et al., Neurosci Lett (1998) 247:195-197)、クローン病(非特許文献11:Lugering N, et al., Digestion (1995) 56:406-414)、および結合組織疾患(非特許文献12:Kuruto R, et al., J Biochem (Tokyo) (1990) 108:650-653)を含む多数のヒト炎症性疾患で高いS100A8およびS100A9血清レベルが観察されている。従って、S100A8およびS100A9は、炎症の誘導および伝播に重要な役割を担うと考えられている。 S100A8およびS100A9の産生は炎症細胞に制限されず、一部の上皮細胞、例えば活性化状態あるいは形質転換した状態で観察される(非特許文献13:Brandtzaeg P et al., Am J Clin Pathol (1987) 87:681-699)。表皮中では、S100A8およびS100A9は、創傷治癒(非特許文献14:Thorey IS et al., J Biol Chem (2001) 276:35818-35825)および乾癬性病変(非特許文献15:Madsen P et al., J Invest Dermatol (1992) 99:299-305)のような過剰増殖性ケラチノサイトにおいて発現亢進する。その遺伝子は乾癬感受性領域PSORS4内でコードされる(非特許文献16:Semprini S et al., Hum Genet (2002) 111:310-313)。 これらの知見にもかかわらず、上皮細胞中でS100A8およびS100A9が果たす生物学的機能は、炎症細胞への化学走性作用の可能性以外はほとんど知られていない(非特許文献17:Lackmann M et al., J Biol Chem (1992) 267:7499-7504;非特許文献18:Lackmann M et al J Immunol (1993) 150:2981-2991)。このため、本発明者は、S100A8/A9が表皮ケラチノサイトに直接作用するかどうかの解明を目指した。その結果、外因性S100A8/A9は正常ヒト表皮角化細胞(NHEK)を刺激して乾癬性病変において発現亢進される炎症性サイトカインを産生させ、さらにS100A8/A9誘導性サイトカインがNHK中でのS100A8およびS100A9の産生および分泌を刺激することが解明された。さらに、S100A8/A9自体がNHEKの増殖を増強することも見出された。これらの結果は、主要メディエーターとしてS100A8/A9が関与するNHEKの増殖と炎症の正のフィードバック機構の存在、及びS100A8/A9が乾癬の発生に重要な役割を担う可能性を示唆した。 従って、本願は以下の発明を包含する:(1)培養ケラチノサイトにS100A8およびS100A9の少なくとも一方を作用させることにより炎症性サイトカインが誘導され、増殖が亢進されたことを特徴とする、炎症誘導と過剰増殖を伴う皮膚疾患のin vitroモデル系。(2)S100A8およびS100A9の両方を作用させる、(1)の皮膚疾患のin vitroモデル系。(3)前記過剰増殖皮膚疾患が乾癬である、(1)又は(2)の皮膚疾患のin vitroモデル系。(4)前記S100A8およびS100A9が組換タンパク質である、(1)〜(3)のいずれかの皮膚疾患のin vitroモデル系。(5)炎症および過剰増殖を伴う皮膚疾患のin vitroモデル系の作成方法であって、培養ケラチノサイトにS100A8およびS100A9の少なくとも一方を作用させることにより、炎症性サイトカインの発現と増殖を亢進させることを特徴とする、方法。(6)S100A8およびS100A9の両方を作用させる、(5)の方法。(7)前記過剰増殖皮膚疾患が乾癬である、(5)又は(6)の方法。(8)前記S100A8およびS100A9が組換タンパク質である、(5)〜(7)のいずれかの方法。 本発明の目的は、動物モデルを代替可能な炎症および過剰増殖を伴う皮膚疾患モデルの提供にある。この皮膚疾患モデルは、炎症及び/又は過剰増殖を伴う皮膚疾患、例えば乾癬の病因・発症メカニズム、その治療に有効な方法の究明、並びに有効な薬剤のスクリーニングに利用可能である。NHEKによるS100A8及びS100A9の産生および分泌を示す。組換S100A8及びS100A9タンパク質の調製およびNHEKにそれらを添加したときの形態変化を示す。(A)組換S100A8及びS100A9の純度を示す。(B)S100A8/A9(各5μg/mL)によるNHEKの形態学的変化を示す。GSTをコントロールとして使用した。RT−PCRによってアッセイしたNHEKにおいてS100A8/S9により発現の亢進された遺伝子を示す。転写産物の量は、未処理コントロールの数値に対する倍率として表示する。サイトカインによるNHEK中でのS100A8及びS100A9の産生および分泌の刺激を示す。細胞抽出物量のコントロールとしてチューブリンの発現量を示した。S100A8及びS100A9によるNHEKの増殖刺激を示す。培養ケラチノサイト 培養ケラチノサイトは動物の表皮由来のケラチノサイトを適当な培地、例えばEpiLife (Cascade Biologies社、米国、オレゴン州ポートランド)中において培養されたものを用いることができる。細胞は、ヒトに限らず、マウス、ラット、ブタ等の表皮由来の細胞でも良いが、好ましくはヒト由来細胞を利用する。S100A8およびA9 S100A8およびA9のアミノ酸配列およびそれをコードするDNA配列は例えば非特許文献16に公開されている。本発明において使用できるS100A8およびA9は、通常ヒト由来の天然型、あるいは組み換えタンパク質であるが、活性を有すれば改変型、異種由来、もしくは非精製品を用いることができる。S100A8およびA9の組換タンパク質は、当業界周知の方法に従い、例えば単離したまたはPCRにより合成したS100A8又はA9遺伝子(cDNA)を例えばプラスミド、ウィルス等に挿入して発現ベクターを調製し、これを宿主細胞、例えば微生物、動物細胞又は植物細胞等の培養細胞に導入し、発現させることにより、大量調製することが可能である。 S100A8およびA9はケラチノサイトと同種であることが好ましいが、異種であっても炎症性サイトカインを誘導し、ケラチノサイトを増殖可能であれば、使用することができる。S100A8および/またはA9は、水や培地、例えばケラチノサイトの培養に適当な培地、例えば上記EpiLife培地に溶解し、培養系に添加する。添加量は、一概には規定できないが1ng/mlから1mg/ml程度、好ましくは10ng/mlから100μg/ml程度、より好ましくは100ng/mlから10μg/ml程度の濃度とする。S100A8および/またはA9の添加は、好ましくは塩化カルシウムの存在下で行う。S100A8および/またはA9の存在下での培養時間、培養温度といった培養条件は特に制限されることはなく、ケラチノサイトの過剰増殖に十分な時間とする。好ましくは30〜37℃で1〜14時間、より好ましくは34〜37℃で2〜7時間、好ましくはCO25%の下で培養する。 炎症性サイトカインとしては、限定することなく、TNF,CXCL1,CXCL2,CXCL3,IL8,IL6,IL1F9,IL1RNなどが挙げられる。 本発明に係る皮膚疾患モデルは炎症および過剰増殖を伴う皮膚疾患の発症、進行、治癒などのメカニズムの解明や、有効な疾患治療方法の探索、有効な治療薬のスクリーニングに利用できる。炎症および過剰増殖を伴う皮膚疾患とは、皮膚の炎症に加えて表皮上のケラチノサイトが異常に過剰増殖し、皮膚の肥厚化などが認められる状態をいう。乾癬、アトピー性皮膚疾患、脂漏性皮膚炎など、紅斑、落屑、苔癬化といった各種湿疹の症状に伴い表皮肥厚を呈するすべての疾患を含み、その典型的な症状は乾癬である。 以下、具体例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。材料および方法細胞および材料 新生児ヒト表皮ケラチノサイト(NHEK;KURABO社、日本国大阪府)は、0.03mMの低濃度のカルシウム及びHKGS増殖添加剤(Cascade Biologics社)を含有するEpiLife(商標)培地又はEpiLife(商標)-KG2培地(Cascade Biologies社、米国、オレゴン州ポートランド)中で培養した。HKGSは、0.2 ng/mlのEGF、5μg/mlのインスリン、0.18 μg/mlのヒドロコルチゾン、5μg/mlのトランスフェリン、及び0.2%(v/v)のウシ下垂体抽出物を含有している。ケラチノサイトは継代し、実験には第2〜4継代目のものを使用した。DNA合成を測定するため、トリチウムチミジン(1 μCi/mL;ARC社、米国、ミズーリ州、セントルイス)を細胞回収の1時間前に培養物に加えた。組換ヒトEGF、TNF−α及びIL−6はPEPROTECH EC社(英国、ロンドン)から購入した。組換ヒトIL1F9、IL−8/CXCL8及びCXCL1はR&D Systems社(米国、ミネソタ州、ミネアポリス)から購入した。組換タンパク質の調製 S100A8およびS100A9のcDNAをPCRにより増幅させ、pGEX6P1(GE Healthcare Bio-Sciences社、米国、ニュージャージー州、ピスカタウェイ: BamH1-Xho1部位)にクローニングした。ベクターのヌクレオチド配列をDNAシーケンシングによって確認した。大腸菌(Escherichia coli)(BL21-Codon Plus - (DE3)-RIL; STRATAGENE社、米国、カリフォルニア州、ラ・ホーヤ)をこのベクター(pGEX6P1、pGEX6P1−S100A8及びpGEX6P1−S100A9)により形質転換させた。組換GST融合タンパク質は、Sephadex 4Bカラム(GE Healthcare Bio-Sciences社)を使用し、グルタチオン-アガロース親和性クロマトグラフィーによって精製した。GSTは、PreScissionプロテアーゼ(GE Healthcare Bio-Sciences社)で切断することで遊離させ、Sephadex 4Bカラムを使用して最終調製物から取り出した。ウェスタンブロット分析 ウェスタンブロット分析は一般的な条件下で実施した。使用した抗体は以下の通りとした:抗ヒトチューブリン抗体(Sigma社、米国、ミズーリ州、セントルイス)、ウサギ抗ヒトS100A8(Calgranulin A)抗体(FL-83;Santa Cruz Biotechnology社、米国、カリフォルニア州、サンタクルーズ)およびウサギ抗ヒトS100A9(Calgranulin B)抗体(H-90;Santa Cruz Biotechnology社)。シグナルは、HRP(ホースラディシュペルオキシダーゼ)標識合抗マウス抗体および抗ウサギIgG抗体(Cell Signaling Technology社、米国、マサチューセッツ州、ビバリー)、次に化学発光系(ECL plus、GE Healthcare Bio-Sciences社)によって可視化させた。培養培地中に分泌されたS100A8およびS100A9を確認するため、培地中のタンパク質をメタノールを用いて沈降させ、細胞抽出物と同量のバッファーに溶解した。相対量を直接比較できるよう、細胞抽出物および培養培地由来の調製物は等量ウェスタンブロット分析にかけた。DNAマイクロアレイ EpiLife(商標)-KG2(Cascade Biologies社)中で培養した増殖期のNHEKを、2 mMの塩化カルシウム、S100A8およびS100A9(各10μg/ml)を含有又は非含有の同培地に置換し、3時間にわたり曝露させた。全RNAをISOGEN(Nippon Gene社、日本国東京都)を用いて抽出し、RNeasyスピンカラム(Qiagen社、米国、カリフォルニア州、バレンシア)を用いて精製した。抽出したRNAサンプルの260nm/280nm光度比はいずれも2.0以上であった。これらのRNAサンプルよりCy3及びCy5ラベル化したRNAを調製し、ヒト全ゲノムオリゴマイクロアレイ(Agilent Technologies社)に対し製造業者の推奨プロトコールにしたがってハイブリダイズさせた。このアレイ上の各スポットの蛍光画像をMicroarray Scanner Bundle G2565BA(Agilent Technologies社)により取り込み、得られたTIFF画像はFeature Extractionソフトウエア(Agilent Technologies社)によって数値化した。gIsFeatNonUnifOL、rIsFeatNonUnifOL、gIsBGNonUnifOL、およびrIsBGNonUnifOLのフラグが認められたスポットはその後の分析から除外した。リアルタイム定量PCR NHEKをDNAマイクロアレイについて記載した条件と同様の条件下でS100A8/A9に曝露させ、MagNA(商標) Pure mRNA抽出キットおよびMagNA Pure(商標)機器(Roche Diagnostics社、日本国、東京都)を用いてmRNAを抽出した。得られたmRNAは、SuperScript(商標) II(Invitrogen Corporation社、米国、カリフォルニア州、カールズバッド)を用いて逆転写させた。リアルタイム定量PCRは、製造業者の取扱説明書にしたがってLightCycler FastStart DNA master SYBR green Iキット(Roche Diagnostics社)を用いてLightCycler高速サーマルサイクラーシステム上で実施した。典型的な反応条件は、10分間の活性化ステップ、それに続く95℃で15秒の変性、60℃で10秒のアニーリング、72℃で10秒の伸長からなるサイクル40回であった。使用したプライマーは、下記の表1に示す。各プライマーの最終濃度は20μlの総反応容量中で0.2〜0.25μMとした。グリセルアルデヒド−3−リン酸脱水素酵素(GAPDH)遺伝子を対照遺伝子として使用した。増幅させたフラグメントの特異性は融解曲線分析によって確認した。各遺伝子の発現レベルは、LightCycler分析用ソフトウエアを用いて定量分析した(非特許文献19:Morrison TB et al., Biotechniques (1998)24:954-958, 960, 962)。目的のmRNA量はGAPDH量で標準化し、最終的には未処理コントロールのmRNAの量に対する比率として表した。結果NHEKからの内因性S100A8およびS100A9の分泌 本発明者は、最初に、S100A8およびS100A9が正常ヒトケラチノサイト(NHEK)によって産生および分泌されるかどうかについて試験した。NHEKは、一般に1%のHKGS(増殖添加剤;Cascade Biologics社製)を添加した基礎培地EpiLife中で培養させる。この条件下で、NHEKは多量のS100A8およびS100A9を産生し、それらを培地中に容易に分泌した(図1)。24時間のインキュベーション後に分析すると、産生したS100A8およびS100A9の大部分が培地から回収された(10mlの培地中で約20ngのS100A9)。HKGSは、これらのタンパク質の産生を用量依存式に誘導し、分泌させた。HKGSは、0.2ng/mlのEGF、5μg/mlのインスリン、0.18μg/mlのヒドロコルチゾン、5μg/mlのトランスフェリン、及び0.2%(v/v)のウシ下垂体抽出物を含有している。EGF単独でもS100A8およびS100A9の産生・分泌を増強することができた(図1)。チューブリンはコントロールとして試験した。NHEKの遺伝子発現に外因性S100A8/A9が及ぼす作用 S100A8およびS100A9は一般に、好中球および単球/マクロファージのための活性化因子および化学走性誘引物質として作用すると考えられている(非特許文献17及び18)。しかしながら、ヒト表皮ケラチノサイトがS100A8およびS100A9を分泌すると、ケラチノサイト自体が必然的にこれらのタンパク質へ曝露させられる。そこでS100A8およびS100A9が表皮ケラチノサイトに及ぼす可能性がある直接作用を調べるために、本発明者は、精製組み換えS100A8およびS100A9タンパク質の混合物(S100A8/A9)をNHEK上に添加した。タンパク質調製物は、図2Aに示すように十分に精製されていた。なお、これらのタンパク質は材料および方法の項に記載したとおりGST融合タンパク質として産生させ、精製したものである。ゲルは、Coomassie Brilliant Blueを用いて染色した。矢印はGSTの位置を示している。 本発明者はまた、S100A8/A9が細胞の形態学的変化をもたらすことを見出した。つまり、細胞は辺縁がより平滑になり、細胞間接着を消失した(図2B)。この作用は、同一条件下で調製したGSTではこのような作用が全く示されなかったので、調製物中の夾雑物ではなくS100A8/A9によって誘導されたと考えられる。この所見により、本発明者は41,765個の遺伝子を網羅するDNAマイクロアレイによってNHKの遺伝子発現プロファイルにおける可能性のある変化について分析し、その結果、3時間にわたるS100A8およびS100A9への細胞の曝露によって19個の遺伝子発現が亢進された(>2.0倍)ことを見出した(表2)。発現亢進された遺伝子群には、IL−8/CXCL8、CXCL1、CXCL2、CXCL3、CCL20、IL−6、SPRR及びTNFα並びにその関連タンパク質が含まれる。特に注目すべきなのは、発現亢進された遺伝子の大多数が乾癬性表皮中で発現していることが知られる遺伝子と共通することであり、その大部分が炎症性サイトカインであることである(非特許文献20:Bowcock AM et al., Hum Mol Genet (2001) 10:1793-1805)。これら遺伝子の発現亢進を確認するために、本発明者は、3時間にわたりS100A8/A9に曝露したNHEKのRT−PCRを実施した(図3)。各遺伝子のmRNAレベルは、S100A8/A9の用量および遺伝子の種類に依存して上昇した。試験した遺伝子のアップレギュレーションの程度は、2倍(TNFα)から9倍(CXCL8/IL−8)程度で、DNAマイクロアレイの結果にほぼ一致した。NHEKにおけるS100A8/A9誘導性サイトカインにより増強されたS100A8およびS100A9の産生・分泌 本発明者は次に、S100A8/A9誘導性サイトカインがNHK中のS100A8および/またはS100A9の産生に影響を及ぼすかどうかについて試験した。NHKを、HKGSを含有しないが、サイトカインを添加したEpiLife基礎培地中で24時間インキュベートした。分泌された全タンパク質の分画を大まかに算定できるよう、細胞抽出物および培養培地由来の同量の全タンパク質調製物をウェスタンブロット分析にかけた。図4に示すように、試験した全S100A8/A9誘導性サイトカイン、即ちCXCL1、CXCL8/IL−8、IL−1 F9、IL−6、及びTNFαは、用量依存式にS100A8およびS100A9の産生および素早い分泌を促した。インターフェロンγもまた似たような作用を示した。なお、コントロールとして、S100A8やS100A9の代わりにチューブリンを作用させたものも試験した。これらの試験結果は、S100A8およびS100A9ならびにS100A8/A9によって誘導されたサイトカインが、NHK中での産生および分泌に関して正のフィードバックループの構成員であることを示唆している。TNFα及びインターフェロンγの組み合わせはNHK中のS100A8およびS100A9のmRNAレベルを効率的に増強することが報告されている(非特許文献21:Mork G et al., Br J Dermatol (2003) 149:484-491)。S100A8およびS100A8/A9によるNHEKの増殖刺激 S100A8およびS100A9がNHKの増殖に及ぼす作用を試験するため、NHK細胞を、HKGSを含有していないがS100A8、S100A9または両タンパク質の混合物の添加されたEpiLife基礎培地中で24時間インキュベートした。細胞回収の1時間前に培地へ3H−チミジン(1μCi/mL)を添加し、不溶性分画中の放射能を測定した。GSTをコントロールとして使用した。図5に示すように、S100A8はNHKの増殖を顕著に増強したが、S100A9は増強しなかった。両タンパク質の混合物は、S100A8単独の作用と比べ、NHEKの増殖を一層強く増強した。S100A8/A9の最適濃度は約100 ng/mlであり、これより濃度を高くすると増殖増強は低下した。機能が明確に解明されていないS100A8/A9誘導性サイトカインの1つであるIL−1 F9もNHKの増殖を刺激した。 ケラチノサイトからなる細胞の培養において、当該ケラチノサイトにS100A8およびS100A9を作用させることにより当該ケラチノサイトにおいて炎症性サイトカインが誘導され、増殖が亢進されたことを特徴とする、炎症誘導と過剰増殖を伴う皮膚疾患のin vitroモデル系。 前記過剰増殖皮膚疾患が乾癬である、請求項1記載の皮膚疾患のin vitroモデル系。 前記S100A8およびS100A9が組換タンパク質である、請求項1又は2記載の皮膚疾患モデル。 炎症および過剰増殖を伴う皮膚疾患のin vitroモデル系の作成方法であって、ケラチノサイトからなる細胞の培養物にS100A8およびS100A9を作用させることにより、当該ケラチノサイトにおいて炎症性サイトカインの発現と増殖を亢進させることを特徴とする、方法。 S100A8およびS100A9の両方を作用させる、請求項4記載の方法。 前記炎症性過剰増殖皮膚疾患が乾癬である、請求項4又は5記載の方法。 前記S100A8およびS100A9が組換タンパク質である、請求項5又は6記載の方法。配列表