タイトル: | 特許公報(B2)_D−プシコースを有効成分とするグルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進剤 |
出願番号: | 2008544076 |
年次: | 2014 |
IPC分類: | A61K 31/7004,A23K 1/16,A23L 1/30,A23L 2/52,A61K 9/08,A61K 9/14,A61K 9/16,A61K 9/20,A61K 9/48,A61P 3/04,A61P 3/06,A61P 3/10,C07H 3/02 |
徳田 雅明 何森 健 豊田 行康 三輪 一智 JP 5633952 特許公報(B2) 20141024 2008544076 20070327 D−プシコースを有効成分とするグルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進剤 松谷化学工業株式会社 000188227 国立大学法人 香川大学 304028346 須藤 阿佐子 100102314 須藤 晃伸 100123984 徳田 雅明 何森 健 豊田 行康 三輪 一智 JP 2006310982 20061117 20141203 A61K 31/7004 20060101AFI20141113BHJP A23K 1/16 20060101ALI20141113BHJP A23L 1/30 20060101ALI20141113BHJP A23L 2/52 20060101ALI20141113BHJP A61K 9/08 20060101ALI20141113BHJP A61K 9/14 20060101ALI20141113BHJP A61K 9/16 20060101ALI20141113BHJP A61K 9/20 20060101ALI20141113BHJP A61K 9/48 20060101ALI20141113BHJP A61P 3/04 20060101ALI20141113BHJP A61P 3/06 20060101ALI20141113BHJP A61P 3/10 20060101ALI20141113BHJP C07H 3/02 20060101ALI20141113BHJP JPA61K31/7004A23K1/16 303DA23L1/30 ZA23L2/00 FA61K9/08A61K9/14A61K9/16A61K9/20A61K9/48A61P3/04A61P3/06A61P3/10C07H3/02 C07H3/02, A61K31/7004, A23L1/30 CAplus/Registry/Medline/Biosis(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開平6−65080(JP,A) 米国特許第5447917(US,A) 米国特許第5356879(US,A) 国際公開第02/058710(WO,A1) 国際公開第2006/101118(WO,A1) 特開2005−213227(JP,A) 国際公開第03/097820(WO,A1) 特開平2−62887(JP,A) Current Opinion in Investigational Drugs,2006,7(10),p.924−935 Biosci. Biotechnol.Biochem.,2006,70(9),p.2081−2085 日本生物工学会大会講演要旨集,2005,p.25 Diabetes,2004年,Vol.53,No.3,p.535−541 1 JP2007056445 20070327 WO2008059625 20080522 31 20100204 2013011382 20130618 内田 淳子 齊藤 真由美 前田 佳与子 本発明は、希少糖D-プシコースおよび/またはD-タガトースを有効成分とするグルコキナーゼ活性に関連する病状発症の予防ないし治療用組成物に関する。 グルコキナーゼ(EC 2.7.1.1)は哺乳類で発見された4つのヘキソキナーゼのうちの1つである。ヘキソキナーゼはD-グルコースの代謝の第一工程、すなわちグルコースのD-グルコース 6−リン酸への変換を触媒する。グルコキナーゼは限定された細胞分布を有し、主に膵臓β細胞、肝臓実質細胞、脳視床下部、腸管などに見られる。 肝臓は、血糖の恒常性の維持に重要な臓器である。肝糖代謝における解糖系の律速酵素の一つであるグルコキナーゼは、空腹時には細胞核内においてグルコキナーゼ調節タンパク質と結合して不活性型として存在し、細胞外のD-グルコース濃度の上昇、低濃度のD-フルクトースの存在により、グルコキナーゼ活性調節タンパク質から解離して核から細胞質へ移行し、D-グルコース代謝を促進する。グルコキナーゼの核 / 細胞質間の移行はホルモンによって調節されており、インスリンはグルコキナーゼを核から細胞質へ移行させ、グルカゴンは細胞質から核へ移行させる。 健康な個体でも糖尿病の個体でも、低血糖症にならないように肝臓がD-グルコースを産生する。こうしたD-グルコース産生は、貯蔵されたグリコーゲンからのD-グルコースの放出により、あるいは糖新生(糖新生前駆体からのD-グルコースのデノボ細胞内合成であり、D-グルコース-6-ホスファターゼ酵素によって媒介されるプロセス)により誘導される。しかしながら2型糖尿病においては、肝臓における糖利用の低下と糖新生の亢進が認められる。肝臓のD-グルコース産生が適切に制御できないか、および/または増大し、場合によっては空腹時のD-グルコース産生量が2倍以上になることがある。また、耐糖能異常(糖尿病予備群)や2型糖尿病患者の中には、空腹時の血糖値は正常であっても、食後に高血糖を示す場合がある。インスリン分泌不足やインスリン抵抗性などにより食後の肝糖利用あるいは/および糖産生の異常、筋肉や脂肪組織における糖利用の低下により食後の血糖値の上昇をまねく。 また、脳視床下部にもグルコキナーゼが存在し、グルコースセンサーとして機能していると考えられている。脳視床下部においてもグルコキナーゼ活性調節タンパク質が存在していること、グルコキナーゼが結合型と遊離型として存在することなどより、視床下部において希少糖によるグルコキナーゼの核から細胞質への移行によるグルコキナーゼ活性の増大、あるいは結合型グルコキナーゼから遊離型グルコキナーゼの増大によるグルコキナーゼ活性の増加が起こり、その変化が神経系を介して末梢組織に伝わり、末梢組織におけるグルコース利用の亢進や摂食が抑制されることになり、耐糖能異常、糖尿病、肥満症、メタボリックシンドロームの予防と治療に役立つことになる。 膵臓β細胞では、グルコキナーゼは核内ではなく、細胞質と一部インスリン分泌顆粒に存在しているので、膵臓β細胞でも希少糖によるグルコキナーゼ活性の増大によるインスリン分泌の上昇を介して耐糖能異常や糖尿病の予防及び治療に役立つことが期待できる。 最近、グルコキナーゼ活性を増加し、血糖降下作用を有するグルコキナーゼ活性化剤が報告されている。 グルコキナーゼ活性化剤は、インスリン分泌の増加と結び付けられる、β細胞と肝細胞におけるグルコース代謝速度を増加させる。そのような薬剤は2型糖尿病の治療に有用であろう。 グルコキナーゼ活性剤としては、グルコキナーゼをコードする遺伝子、D-グルコース、cAMP、レチノイン酸等(特許文献1)、置換フェニルアセトアミド(特許文献2)、ヘテロアリールカルバモイルベンゼン誘導体(特許文献3)、アミノベンズアミド誘導体((特許文献4)、ピリジン−2−カルボキサミド誘導体(特許文献5)が提示されている。 また希少糖の大量生産方法が開発され、その機能に注目が集まっている。特開2004−018403号公報再表2003−532718号公報再表2004−076420号公報再表2003−080585号公報再表2004−080001号公報 本発明者らは、肝グルコキナーゼの核から細胞質への移行促進による糖尿病治療薬の開発を目的にインスリンとグルカゴンによる肝グルコキナーゼの核 / 細胞質間移行のシグナル伝達系について調べ、次なるステップとして、D-フルクトースに代わる糖を探索する目的で、希少糖ケトースによるグルコキナーゼの核 / 細胞質間移行に及ぼす影響を調べた。 すなわち、本発明は、希少糖の中にグルコキナーゼの活性化物質を探索し、該活性化物質を有効成分とするグルコキナーゼ活性に関連する(=グルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進に関連する)病状の処置(予防ないし治療)用組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、食品添加物、食品素材、飲食品、健康飲食品、医薬品、飼料の形態で飲食、あるいは経口投与するだけで、グルコキナーゼ活性に関連する病状の処置(予防ないし治療)することができる希少糖D-プシコースおよび/またはD-タガトースの使用技術を提供しようとするものである。 本発明は、下記の(1)に記載のグルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進剤を要旨とする。(1)D-プシコースを有効成分とするグルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進剤。 すなわち、本発明は、希少糖の中にD-プシコースおよび/またはD-タガトースというグルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進物質を見つけ出すことができた。すなわち本発明は、希少糖D-プシコースおよび/またはD-タガトースを有効成分とするグルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進剤、およびかかる化合物を用いるグルコキナーゼ活性に関連する(=グルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進に関連する)病状発症の予防ないし治療用組成物を提供することができる。より具体的には本発明は、食品添加物、食品素材、飲食品、健康飲食品、医薬品、飼料の形態で飲食、あるいは経口投与するだけで、グルコキナーゼ活性に関連する病状の処置(予防ないし治療)することができる希少糖D-プシコースおよび/またはD-タガトースの使用技術を提供することができる。グルコキナーゼを説明する図面である。培養肝細胞中のグルコースリン酸化の速度におけるD-フルクトース濃度の影響を説明する図面である。肝細胞内におけるグルコキナーゼ活性調節タンパク質によるグルコキナーゼ活性の調節機序を説明する図面である。グルコキナーゼの肝細胞内分布を抗グルコキナーゼ抗体を用いた蛍光抗体法により調べた結果を示す図面である。グルコキナーゼの核 / 細胞質間の移行による肝糖代謝機構と、2型糖尿病での障害を説明する図面である。D-グルコースあるいはD-フルクトース経口投与し、負荷30分後の肝細胞内のグルコキナーゼ分布の変化を示す図面である。低濃度D-フルクトースにより移行が促進されたグルコキナーゼの細胞質での存在比率を説明する図面である。2型糖尿病モデルラットと健常ラットにおいて、D-グルコースの経口投与後の門脈血中および末梢血中の血糖値の変化を示す図面である。少量のD-フルクトースをラットや2型糖尿病患者に投与すると血糖値の上昇が抑えられることを説明する図面である。グルコキナーゼの核から細胞質への移行におけるD-ケトースの効果を示す図面である。グルコキナーゼの核から細胞質への移行におけるL-ケトースの効果を示す図面である。乳酸産生におけるD-ケトースの効果を示す図面である。グルコキナーゼの核から細胞質への移行におけるD-プシコースの効果を説明する図面である。動物実験におけるグルコキナーゼの核から細胞質への移行を確認する実験のプロトコールを示す図面である。図14の系において、グルコキナーゼの肝細胞内分布を抗グルコキナーゼ抗体を用いた蛍光抗体法により調べた結果を比較して示す図面である。動物実験におけるグルコキナーゼの核から細胞質への移行を、D-グルコースとD-プシコースやD-フルクトースとの併用による系で確認する実験のプロトコールを示す図面である。図16の系において、グルコキナーゼの肝細胞内分布を抗グルコキナーゼ抗体を用いた蛍光抗体法により調べた結果を比較して示す図面である。2型糖尿病モデル動物のGoto-Kakizakiラットにおけるグルコキナーゼの核から細胞質への移行、尾静脈内と門脈内の血糖値とインスリン濃度の変化を調べる実験のプロトコールを示す図面である。図18の系において、グルコキナーゼの肝細胞内分布を抗グルコキナーゼ抗体を用いた蛍光抗体法によりグルコキナーゼの核と細胞質の分布を調べた結果を比較して示す図面である。図19の蛍光画像を解析して求めた細胞質のグルコキナーゼ量の結果を比較して示す図面である。図18の系において、尾静脈と門脈内の血糖値の結果を比較して示す図面である。図18の系において、尾静脈内と門脈内のインスリン濃度の結果を比較して示す図面である。本発明においては、グルコキナーゼのアロステリック部位に結合してグルコキナーゼを活性化する化合物、を「グルコキナーゼ活性化剤」、肝グルコキナーゼの核と細胞質間の移行を促進する化合物を、「グルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進剤」という。なお、上記の「グルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進剤」は、グルコキナーゼの核から細胞質への移行に限定することではなく、不活性型グルコキナーゼの活性型グルコキナーゼの増加を引き起こす化合物、すなわち、活性型グルコキナーゼ増加剤も含む。 視床下部と膵B細胞では、結合型グルコキナーゼから活性型グルコキナーゼの増加によって、両組織における変化が生じる可能性があり、それらは本発明の実施例で裏付けている。 細胞質のグルコキナーゼが、あるいは核から細胞質へ移行したグルコキナーゼが細胞質のタンパク質や細胞内小器官と相互作用する。たとえば、グルコキナーゼが解糖系の酵素の調節にかかわるフルクトース2,6−ビスリン酸合成分解酵素に結合すること、すなわち解糖系の調節に関与する可能性がある。またグルコキナーゼが他のタンパク質と結合してグルコキナーゼ活性が増加する可能性もある。それらからはグルコキナーゼがミトコンドリアに結合する可能性が示唆される。上記の中で、グルコキナーゼがミトコンドリアに存在するプロピオニルCoA カルボキシラーゼと結合するとグルコキナーゼ活性が増加することは特開2001−333778号公報に開示されているが、該公報ではD-プシコースや他の希少糖でこの効果がでるというような実験はされていない。本発明では実施例でこの可能性について裏付けている。 そこで、背景技術の中で述べた視床下部と膵B細胞を中心に考えて上記の事について説明する。 細胞内小器官あるいは細胞内タンパク質とグルコキナーゼが相互作用してグルコキナーゼ活性が変化することや、細胞内小器官やグルコキナーゼと相互作用するタンパク質の機能が変化することで、細胞内の代謝や細胞の機能が調節される意味を含めて、上記の「グルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進剤」は、グルコキナーゼの核から細胞質への移行に限定することではなく、不活性型グルコキナーゼの活性型グルコキナーゼの増加を引き起こす化合物、すなわち、活性型グルコキナーゼ増加剤も含むと、定義した。 図1はグルコキナーゼについて説明する図面である。 図1に示すように、ヘキソキナーゼは,D-グルコースをD-グルコース6-リン酸に変換する酵素である。ヘキソキナーゼには4種類のアイソザイム(typeI、typeII、typeIII、typeIV)が存在し、ヘキソキナーゼtypeIVがグルコキナーゼである。グルコキナーゼは他のアイソザイム (ヘキソキナーゼ types I〜III) と異なりグルコースとの親和性が低く (Km;5〜10mM)、D-グルコース 6-リン酸によるフィードバック阻害を受けない。本酵素は、膵ランゲルハンス氏島、肝臓、脳、腸管に分布している。これらのことより、グルコキナーゼは生体内の血糖の恒常性に重要な役割を担っていると考えられている。 膵ランゲルハンス氏島β細胞のグルコキナーゼは、D-グルコース刺激によるインスリン分泌を調節しているグルコースセンサーであることが実証されている。 肝臓では、糖利用を促進して食後の血糖値の上昇を抑える働きをしている。 また、自律神経の中枢である視床下部の神経核や脳室壁の上衣細胞などにもグルコキナーゼが存在しているので、本酵素が脳実質内および脳脊髄液中のD-グルコース濃度を感知するグルコースセンサーとして機能していると考えられている。 図2は、培養肝細胞中のグルコースリン酸化の速度におけるD-フルクトース濃度の影響を説明する図面である。 低濃度のフルクトースは、肝臓におけるグルコースリン酸化を促進することが知られている。結果を図2に示した。 ラット初代培養肝細胞を0.5mM D-フルクトースの存在下と非存在下でグルコース濃度を変えてインキュベートした。フルクトースの存在により肝細胞のグルコースリン酸化は増加した(図2の左図)。次に、25mM D-グルコースの存在下でD-フルクトース濃度を変えてインキュベートした。D-フルクトース濃度が0.5mMまでは、D-フルクトース濃度の上昇とともにグルコースリン酸化は増加し、それ以上の濃度になると、逆にグルコースリン酸化は低下した(図2の右図)。これまでに報告されている結果と一致した。 図3は、肝細胞内におけるグルコキナーゼ活性調節タンパク質によるグルコキナーゼ活性の調節機序を説明する図面である。 低濃度のD-フルクトース(0.5mMまで)が存在すると肝臓におけるグルコース代謝の増加が認められる事実より、肝細胞内にはグルコキナーゼと結合してその活性を調節するグルコキナーゼ活性調節タンパク質の存在が明らかにされた。 図3は、グルコキナーゼ活性調節タンパク質によるグルコキナーゼ活性の調節機序をまとめたものである。グルコキナーゼ活性調節タンパク質はグルコキナーゼと結合してその活性を阻害する。グルコキナーゼとグルコキナーゼ活性調節タンパク質との親和性はD-フルクトース 6-リン酸によって増加し、D-フルクトース 1-リン酸や高濃度のグルコースによって低下する。このことから、グルコキナーゼはグルコキナーゼ活性調節タンパク質と結合しているときは不活性型となり、グルコキナーゼ活性調節タンパク質と解離すると活性型となる。 食後、肝細胞外のD-グルコース濃度が上昇すると、細胞内のグルコース濃度が上昇してグルコキナーゼとグルコキナーゼ活性調節タンパク質は解離してグルコキナーゼは不活性型から活性型となり、グルコースリン酸化が増加し、D-グルコース利用が増加する。また、細胞外に低濃度のD-フルクトースが存在すると、D-フルクトースはケトヘキソキナーゼによってD-フルクトース 1-リン酸へ変換される。生じたD-フルクトース 1-リン酸によってグルコキナーゼとグルコキナーゼ活性調節タンパク質が解離し、D-グルコースの場合と同様に、グルコキナーゼは不活性型から活性型になり、グルコースリン酸化が増加し、D-グルコース利用が増加する。 図4は、グルコキナーゼの肝細胞内分布を抗グルコキナーゼ抗体を用いた蛍光抗体法により調べた結果を示す図面である。 イギリスのAgiusらは、グルコキナーゼが肝細胞内の細胞骨格タンパク質と結合していることを見出した。細胞外のグルコース濃度の増加や低濃度D-フルクトースの存在で、細胞骨格タンパク質から解離することを見出した。 本発明者らは、グルコキナーゼの肝細胞内分布を抗グルコキナーゼ抗体を用いた蛍光抗体法で調べ、グルコキナーゼは主に細胞核内に存在していることを見出した。また、ラットにD-グルコースを経口投与するとグルコキナーゼは核から細胞質へ移行することを見出した。 図4は、初代培養肝細胞を5mM D-グルコース、25mM D-グルコース、5mM D-グルコース+0.5mM D-フルクトース、あるいは25mM D-グルコース+0.5mM D-フルクトース存在下で37℃、30分間インキュベートし、肝細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、蛍光抗体法でグルコキナーゼの分布を調べた結果である。緑色蛍光はグルコキナーゼの分布を示している。5mM D-グルコースでは、グルコキナーゼは主に細胞核内に存在した。25mM D-グルコースとのインキュベーションにより、核のグルコキナーゼは低下し、細胞質のグルコキナーゼは増加した。0.5mM D-フルクトースが存在すると、D-フルクトースが存在しない場合と比べて、グルコキナーゼの核から細胞質への移行は増加した。 グルコキナーゼ活性調節タンパク質についても抗グルコキナーゼ活性調節タンパク質を用いて蛍光抗体法で肝細胞内分布を調べたところ、グルコキナーゼ活性調節タンパク質も核内に存在していることを見出した。 図5は、グルコキナーゼの核 / 細胞質間の移行による肝糖代謝機構について説明する図面である。 本発明者らは、これらの結果から、“グルコキナーゼの核 / 細胞質間の移行による肝糖代謝機構”の存在”を提唱した。その後の研究により、それを確実なものにした。“グルコキナーゼの核 / 細胞質間の移行による肝糖代謝機構”について、グルコキナーゼは、通常の血糖値においては核内でグルコキナーゼ活性調節タンパク質と結合して、不活性型として存在している。グルコキナーゼは食後の血糖上昇あるいはD-フルクトースの存在によりグルコキナーゼ活性調節タンパク質から解離して活性型となり、核から細胞質へ移行してD-グルコース代謝を促進し、その後血糖値が低下してくると核に戻り、グルコキナーゼ活性調節タンパク質と結合して不活性型となる調節機序である(図5)。 図6は、D-グルコースあるいはD-フルクトースを経口投与し、負荷30分後の肝細胞内のグルコキナーゼ分布の変化を示す図面である。 2型糖尿病患者では、肝糖利用の低下と肝糖新生の亢進が認められていることから、2型糖尿病患者ではグルコキナーゼの核から細胞質への移行が低下していることが考えられた。そこで、2型糖尿病モデル動物のGoto-KakizakiラットにD-グルコースあるいはD-フルクトース経口投与時の肝グルコキナーゼの核から細胞質への移行を調べた。Goto-Kakizakiラットに、体重1kgあたり2gグルコース、あるいは2gD-グルコース+0.2gD-フルクトースとなるように経口投与し、負荷30分後の肝細胞内のグルコキナーゼの分布を調べた。(図6)Goto-Kakizakiラットでは、グルコキナーゼの核から細胞質への移行は不全であった。この結果より、グルコキナーゼの核から細胞質への移行の不全が2型糖尿病患者の肝糖利用の低下と肝糖産生の亢進にかかわっている可能性が示唆された。 図7は、低濃度D-フルクトースによるグルコキナーゼの肝細胞内分布変化による血糖上昇抑制作用を説明する図面である。 低濃度D-フルクトースによる血糖上昇抑制作用について調べた。2型糖尿病モデル動物のGoto-Kakizakiラットに、体重1kgあたり2g D-グルコース、あるいは2gD-グルコース+0.2gD-フルクトースとなるように経口投与し、肝細胞内グルコキナーゼの核から細胞質への移行の変化と、門脈と尾静脈の血糖値の変化を調べた。D-グルコースの経口投与によりグルコキナーゼは核から細胞質へ移行した。D-フルクトース添加により、グルコキナーゼの核から細胞質への移行はD-グルコース単独投与時と比較して有意な増加を示した(図7)。 図8は、糖負荷後の血糖値の変化を示す図面である。 門脈血糖値は糖負荷によって上昇した(図8)。D-フルクトース負荷による差異は認められなかったが、尾静脈血糖値ではD-グルコース単独投与時と比較してD-フルクトース添加による有意な血糖上昇抑制が認められた。D-フルクトースによる尾静脈血糖値の上昇抑制は、グルコキナーゼの核から細胞質への移行がD-グルコース単独投与時よりも増加したことによるものと考えられた。 図9は、少量のD-フルクトースの投与により血糖値の上昇が抑えられることを説明する図面である。 少量のD-フルクトースをラットや2型糖尿病患者に投与すると血糖値の上昇が抑えられる(図9)。それは、肝グルコキナーゼの核から細胞質への移行が起こり、肝糖利用が促進したことによるものと考えられている。このことから、糖尿病患者の甘味料としてD-フルクトースを用いることが考えられるが、D-フルクトースの大量摂取は血中脂質や尿酸の上昇、肝脂質の蓄積を招く可能性がある。そこで、希少糖がD-フルクトースと同様な作用を有するかどうかは興味あるところである。 図10は、グルコキナーゼの核から細胞質への移行におけるD-ケトースの効果を示す図面である。 D-ケトースを添加した5 mMあるいは15mMグルコース含有MEM培地中で肝細胞をインキュベートし、グルコキナーゼの核から細胞質への移行を調べた。結果を図10に示した。 5mMあるいは15mMのD-グルコース存在下において、D-フルクトース添加によりグルコキナーゼは核から細胞質へ移行した。しかしD-フルクトースを1mM以上添加するとグルコキナーゼの核から細胞質への移行は徐々に減弱した。D-プシコースを添加すると、いずれのD-グルコース濃度においても、グルコキナーゼは核から細胞質へ移行した。また、D-タガトースを1mMまで添加した場合、いずれのD-グルコース濃度においてもグルコキナーゼは核から細胞質へ移行した。D-タガトース濃度が10mM以上になるとグルコキナーゼの核から細胞質への移行は認められなくなった。D-ソルボースは、いずれの濃度においてもグルコキナーゼの移行にほとんど影響を与えなかった。 図11は、グルコキナーゼの核から細胞質への移行におけるL-ケトースの効果を示す図面である。 L-ケトースを添加した5mMあるいは15mM D-グルコース含有MEM培地中で肝細胞をインキュベートし、グルコキナーゼの核から細胞質への移行を調べた。結果を図11に示した。 L-フルクトースを添加すると、5mMあるいは15mMのD-グルコース存在下において、グルコキナーゼは核から細胞質へ移行した。しかし、L-フルクトースを20mM以上添加するとグルコキナーゼの核から細胞質への移行は減少した。L-プシコースを添加すると、5mMあるいは15mMのD-グルコース存在下において、グルコキナーゼは核から細胞質に移行した。L-タガトースは、グルコキナーゼの移行に影響を与えないことが分かった。L-ソルボースを添加した場合、L-ソルボース濃度の上昇により、グルコキナーゼは核から細胞質へ移行した。 図12は、乳酸産生におけるD-ケトースの効果を示す図面である。 5mMあるいは20mMのD-ケトースを添加した15mMグルコース含有MEM培地中で肝細胞をインキュベートし、MEM培地中の乳酸量の時間経過を調べた。対照としてDMSOを添加した。結果を図12に示した。 D-ケトースをそれぞれ0.5mM添加したところ、乳酸生成は、D-フルクトース、D-プシコースの添加によって増加した。 図13は、グルコキナーゼの核から細胞質への移行におけるD-プシコースの効果を説明する図面である。 図10に示すとおり、D-プシコースは、グルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進作用を持つ。それによる血糖上昇抑制が期待できる。また、低濃度のD-タガトースによっても同様のことが考えられる。 プシコースは、単糖類の中で、ケトン基を持つ六炭糖の一つである。このプシコースには光学異性体としてD体とL体とが有ることが知られている。ここで、D-プシコースは既知物質であるが自然界に希にしか存在しないので、国際希少糖学会の定義によれば「希少糖」と定義されている。本発明で使用するD-プシコースは、ケトースに分類されるプシコースのD体であり六炭糖(C6H12O6)である。このようなD-プシコースは、自然界から抽出されたもの、化学的またはバイオ的な合成法により合成されたもの等を含めて、どのような手段により入手してもよい。D-プシコースは、D-フルクトースからエピメラーゼによって酵素的に生産されたもので、完全に精製されたものでも良いし、酵素的に生産される際に少量含まれる不純物を含んだものでもよい。すなわち、比較的容易には、例えば、エピメラーゼを用いた手法(例えば、特開平6-125776号公報参照)により調製される。得られたD−プシコース液は、必要により、例えば、除蛋白、脱色、脱塩などの方法で精製され、濃縮してシロップ状のD−プシコース製品を採取することができ、さらに、カラムクロマトグラフィーで分画、精製することにより99%以上の高純度の標品も容易に得ることができる。このようなD−プシコースは単糖としてそのまま利用できる。 一方、L-プシコースは、たとえば特開平9−56390号公報に記載されているように、グルコノバクター属に属する微生物を用いて、アリトールという糖アルコールを原料として生産できる。原料となるアリトールはD-プシコースの還元反応によって容易に得られるので大量のL−プシコースの生産に有利に利用できる。 アリトールからL-プシコースを製造するのに使用される細菌はグルコノバクター属に属し、アリトールからL-プシコース産生能を有する細菌である。その一例としては、グルコノバクター・フラテウリ IFO3254又は、これの変異株などが有利に利用できる。通常、これら細菌をグリセロ−ル、D-マンニトール、D-フルクトース、L-ソルボースあるいはキシリトール等の炭素源を含有する栄養培地で培養し、望ましくは、振盪、通気撹拌などの好気的条件下で培養し、培養中に、又は得られた細菌(生菌体)を用いて、水溶液中のアリトールをL-プシコースに変換させて、生成するL-プシコースを採取すればよい。 得られたL-プシコース水溶液は、必要により、例えば、硫安塩析、水酸化亜鉛吸着などによる除蛋白、活性炭吸着による脱色、H型、OH型イオン交換樹脂による脱塩などの方法で精製し、濃縮してシロップ状のL-プシコース製品を採取することができる。更にイオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーで分画、精製、濃縮することにより、99%以上の高純度の標品も容易に得ることができる。 米国特許第5002612号及び第5078796号によれば、D-タガトースは、ラクターゼを使用して、ラクトースまたはラクトース含有物質をD-ガラクトースとD-グルコースの混合物に加水分解し、任意にD-グルコースを除去し、その後D-ガラクトースのD-タガトース への化学的異性化によって製造されている。米国特許第6057135号は、ガラクトースとグルコースの混合物を調製するために加水分解する、チーズホエーまたはミルクからのD−タガトースの製造を記載している。D-グルコースは、D-グルコースの発酵によってD-ガラクトースから分離され、L-アラビノースイソメラーゼを使用して異性化にかけられる。D-プシコースの誘導体について説明する。ある出発化合物から分子の構造を化学反応により変換した化合物を出発化合物の誘導体と呼称する。D-プシコースを含む六炭糖の誘導体には、糖アルコール(単糖類を還元すると、アルデヒド基およびケトン基はアルコール基となり、炭素原子と同数の多価アルコールとなる)や、ウロン酸(単糖類のアルコール基が酸化したもので、天然ではD-グルクロン酸、ガラクチュロン酸、マンヌロン酸が知られている)、アミノ糖(糖分子のOH基がNH2基で置換されたもの、グルコサミン、コンドロサミン、配糖体などがある)などが一般的であるが、それらに限定されるものではない。L-プシコース、D-タガトースの誘導体についても上記と同様である。 本発明は、グルコキナーゼ活性に関連する疾患で、グルコキナーゼの核から細胞質への移行を促進することにより症状が改善される、あるいは発病が予防される、例えば耐糖能異常、2型糖尿病、高脂血症、代謝性症候群、メタボリックシンドローム、肥満症などの予防および治療に用いることができる食品添加物、食品素材、飲食品、健康飲食品、医薬品および飼料に関するものである。本発明が対象とする組成物は、食品添加物、食品、保健用食品、患者用食品、食品素材、保健用食品素材、患者用食品素材、食品添加物、保健用食品添加物、患者用食品添加物、飲料、保健用飲料、患者用飲料、飲料水、保健用飲料水、患者用飲料水、薬剤、製剤原料、飼料、患畜および患獣用飼料であり、D-プシコースおよび/またはD-タガトースを配合した組成物が有効成分として含有されていることを特徴とする。 本発明は、D-プシコースおよび/またはD-タガトースを有効成分とするグルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進剤(製剤)に関するものである。また、D-プシコースおよび/またはD-タガトースを有効成分として配合した、グルコキナーゼ活性に関連する病状(耐糖能異常、2型糖尿病、高脂血症、メタボリックシンドロームおよび肥満症から選択される病状)発症の予防ないし治療に用いられるものである旨の表示を付した飲食品に関するものである。したがって、本発明が対象とする製剤、または特定保健用食品は、配合したD-プシコースおよび/またはD-タガトースが有効成分として含有されていることを特徴とする。 D-プシコースおよび/またはD-タガトースを製剤として使用する場合には、公知の方法によって実施することができる。具体的には、例えば、以下に記載するとおりに実施することができる。 本発明の製剤は、必要に応じて糖衣やコーティングを施した錠剤、丸剤、カプセル剤(ハードカプセル、ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、散剤、顆粒剤、細粒剤、トローチ剤、液剤(シロップ剤、乳剤、懸濁剤を含む)などとして経口的に使用するのが好ましい。 本発明の製剤には、本発明の効果を阻害しない限り、生理学的に許容される担体などを配合することができる。生理学的に許容される担体などとしては、製剤材料として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、緩衝剤、増粘剤、乳化剤などがあげられる。また、必要に応じて、着色剤、甘味剤、抗酸化剤などの製剤添加剤も用いることができる。さらに本発明の製剤をコーティングしてもよい。 賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、D-マンニトール、D-ソルビトール、デンプン、α化デンプン、デキストリン、結晶セルロース(例えば、微結晶セルロースなど)、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム、デキストリン、プルラン、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどがあげられる。結合剤としては、例えば、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、マクロゴール、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、トレハロース、デキストリン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリビニルピロリドン(PVP)などがあげられる。崩壊剤としては、例えば、乳糖、白糖、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、架橋ポリビニルピロリドン、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、軽質無水ケイ酸、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、陽イオン交換樹脂、部分α化でんぷん、トウモロコシデンプンなどがあげられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ワックス類、コロイドシリカ、DL-ロイシン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、マクロゴール、エアロジルなどがあげられる。 溶剤としては、例えば、注射用水、生理的食塩水、リンゲル液、アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)、植物油(例えば、サフラワー油、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油、大豆レシチンなど)などがあげられる。溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどがあげられる。懸濁化剤としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤;例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子;ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などがあげられる。緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などがあげられる。増粘剤としては、例えば、天然ガム類、セルロース誘導体などがあげられる。乳化剤としては、例えば、脂肪酸エステル類(例えば、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルなど)、ワックス(例えば、ミツロウ、菜種水素添加油、サフラワー水素添加油、パーム水素添加油、シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、ブラシカステロール、カカオ脂粉末、カルナウバロウ、ライスワックス、モクロウ、パラフィンなど)、レシチン(例えば、卵黄レシチン、大豆レシチンなど)などがあげられる。 着色剤としては、例えば、水溶性食用タール色素(例、食用赤色2号および3号、食用黄色4号および5号、食用青色1号および2号などの食用色素、水不溶性レーキ色素(例、前記水溶性食用タール色素のアルミニウム塩など)、天然色素(例、β−カロチン、クロロフィル、ベンガラなど)などがあげられる。甘味剤としては、例えば、ショ糖、乳糖、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、アスパルテーム、ステビアなどがあげられる。抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸及びそれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩などがあげられる。 錠剤、顆粒剤、細粒剤などに関しては、味のマスキング、光安定性の向上、外観の向上あるいは腸溶性などの目的のため、コーティング基材を用いて通常の方法でコーティングしてもよい。このコーティング基剤としては、糖衣基剤、水溶性フィルムコーティング基材、腸溶性フィルムコーティング基材などがあげられる。 糖衣基剤としては、例えば、白糖があげられ、さらにタルク、沈降炭酸カルシウム、ゼラチン、アラビアゴム、プルラン、カルナバロウなどから選ばれる1種または2種以上を併用してもよい。 水溶性フィルムコーティング基剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース系高分子;ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE(オイドラギットE(商品名)、ロームファルマ社)ポリビニルピロリドンなどの合成高分子;プルランなどの多糖類などがあげられる。腸溶性フィルムコーティング基剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロースなどのセルロース系高分子;メタアクリル酸コポリマーL(オイドラギットL(商品名)ロームファルマ社)、メタアクリル酸コポリマーLD(オイドラギットL−30D55(商品名)ロームファルマ社)メタアクリル酸コポリマーS(オイドラギットS(商品名)ロームファルマ社)などのアクリル酸系高分子;セラックなどの天然物などがあげられる。これらのコーティング基剤は、単独で、または2種以上を適宜の割合で混合してコーティングしてもよく、また2種以上を順次コーティングしてもよい。 飲食品の形態の組成物、あるいは機能・効能などの表示を付した飲食品である場合、本発明の食品組成物あるいは飲食品は、機能性食品、健康食品、特定保健用食品 、病者用食品、サプリメントなどとして調製されてもよく、機能性食品として調製されるのが好ましい。このような本発明の食品組成物あるいは飲食品の形状としては、例えば、タブレット状、丸状、カプセル(ハードカプセル、ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状、液状(シロップ状、乳状、懸濁状をふくむ)などがあげられ、タブレット状、カプセル状であるのが好ましい。 本発明の食品組成物としては、特にタブレット状、カプセル状であるのが好ましく、とりわけタブレット状の機能性食品、カプセル状の機能性食品であるのが好ましい。 本発明の食品組成物は、例えば、公知の方法によって食品中に D-プシコースおよび/またはD-タガトースを含有させることによって製造することができる。具体的には、例えば、タブレット状の食品組成物は、例えば、 D-プシコースおよび/またはD-タガトース、および、賦形剤(例えば、乳糖、白糖、マンニトールなど)、甘味剤、着香剤などの原料を添加、混合し、打錠機などで圧力をかけてタブレット状に成形することにより製造することができる。必要に応じて、その他の材料(例えば、ビタミンCなどのビタミン類、鉄などミネラル類、食物繊維など)を添加することもできる。カプセル状の食品組成物は、例えば、 D-プシコースおよび/またはD-タガトースを含有する液状、懸濁状、のり状、粉末状または顆粒状の食品組成物をカプセルに充填するか、またはカプセル基剤で被包成形して製造することができる。 本発明の食品組成物には、本発明の効果を阻害しない限り、通常用いられる食品素材、食品添加物、各種の栄養素、ビタミン類、風味物質(例えば、チーズやチョコレートなど)などに加え、生理学的に許容される担体などを配合することができる。生理学的に許容される担体などとしては、慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、甘味剤、防腐剤、抗酸化剤、増粘剤、乳化剤などがあげられる。また食品添加物としては、着色剤、甘味剤、防腐剤、抗酸化剤、着香剤などがあげられる。さらに、その他の材料、例えば、鉄などのミネラル類、ペクチン、カラギーナン、マンナンなどの食物繊維などを含有していてもよい。 賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、緩衝剤、増粘剤、着色剤、甘味剤、防腐剤、抗酸化剤としては、それぞれ前記した本発明の製剤に用いられるものと同様のものがあげられる。 ビタミン類としては、水溶性であっても脂溶性であってもよく、例えばパルミチン酸レチノール、トコフェロール、ビスベンチアミン、リボフラビン、塩酸ピリドキシン、シアノコバラミン、アスコルビン酸ナトリウム、コレカルシフェロール、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、葉酸、ビオチン、重酒石酸コリンなどがあげられる。 タブレット状、顆粒状、細粒状の食品組成物などに関しては、味のマスキング、光安定性の向上、外観の向上あるいは腸溶性などの目的のため、コーティング基材を用いて自体公知の方法でコーティングしてもよい。そのコーティング基材としては、前記した本発明の製剤に用いられるものと同様のものがあげられ、同様にして実施することができる。 本発明の組成物は、医薬品の形態のものであって、1またはそれ以上の医薬上許容される担体とともに、D-プシコースおよび/またはD-タガトースを含むグルコキナーゼ活性に関連する病状発症の予防ないし治療用組成物である。本発明の医薬組成物は、グルコキナーゼの核から細胞質への移行を促進し活性化するための、ヒトを含む哺乳類への、経腸、たとえば経口もしくは経直腸、経皮および非経腸投与に適し、そしてグルコキナーゼ活性に関連する病状の処置に適したものである。かかる病状としては、上記の通り耐糖能異常、2型糖尿病、高脂血症、代謝性症候群、メタボリックシンドローム、肥満症などが挙げられる。当該医薬組成物は、単独で、または1もしくはそれ以上の医薬上許容される担体と組み合わせて、本発明の薬理学的活性化合物の治療上有効量を含んでなる。 本発明の薬理学的活性化合物は、経腸または非経腸投与に適した賦形剤または担体と連係的または混合して治療上有効量を含んでなる医薬組成物の製造において有用である。希釈剤、たとえば、ラクトース、デキストロース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、セルロースおよび/またはグリシン;滑沢剤、たとえば、シリカ、タルカム、ステアリン酸、そのマグネシウム塩もしくはカルシウム塩および/またはポリエチレングリコール;また、錠剤のために、結合剤、たとえば、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、スターチペースト、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロースおよび/またはポリビニルピロリドン;所望により、崩壊剤、たとえばスターチ、寒天、アルギン酸もしくはそのナトリウム塩;または発泡性混合物;および/または吸収剤;着色剤;着香剤および甘味料とともに活性成分を含む錠剤およびゼラチンカプセルが好適である。 注射用組成物は、好ましくは水性等張性溶液または懸濁液であり、そして坐剤は有利には脂肪エマルジョンまたは懸濁液から製造される。かかる組成物は、滅菌され、そして/またはアジュバント、たとえば保存剤、安定剤、湿潤剤または乳化剤、溶解推進剤(solution promoter)、浸透圧調節用塩および/または緩衝化剤を含有してもよい。さらに、それらは、また、他の治療上価値のある物質を含有し得る。当該組成物は、それぞれ、慣用的混合、造粒またはコーティング法にしたがって製造され、そして約0.1〜75%、好ましくは約1〜50%の活性成分を含有する。 経皮適用に適した製剤は、担体とともに本発明の化合物の治療上有効量を含む。有利な担体としては、宿主の皮膚の通過を助ける吸収可能な薬理学的に許容できる溶媒が挙げられる。特徴的には、経皮デバイス(transdermal device)は、裏当て部分(backing member)、所望により担体と共に化合物を含有するリザーバー、所望により予め定められた制御速度で長期間にわたって化合物を宿主の皮膚へ送達する速度制御バリアーおよび当該デバイスを皮膚に固定する手段を含むバンデージ(bandage)の形態である。 医薬製剤は、単独で、または別の治療剤と組み合わせて、たとえば当分野において報告されているそれぞれの治療上有効量で、上で定義した本発明の化合物の治療上有効量を含有する。かかる治療剤としては、インスリン、インスリン誘導体またはミメティクス;インスリン分泌促進剤;インスリン分泌増強スルホニルウレアレセプターリガンド;PPARリガンド;インスリンセンシタイザー;ビグアニド、アルファ−グルコシダーゼインヒビター;GLP−1、GLP−1アナログまたはミメティクス;DPPIVインヒビター;HMG−CoAレダクターゼインヒビター;スクアレンシンターゼインヒビター;FXRまたはLXRリガンド;コレスチラミン;フィブラート;ニコチン酸またはアスピリンが挙げられる。 したがって、追加的態様において、本発明は、1またはそれ以上の医薬上許容される担体と組み合わせて本発明の化合物の治療上有効量を含んでなる医薬組成物に関する。 さらなる態様において、本発明は、好ましくは抗糖尿病剤、脂質低下剤、抗肥満剤、抗高血圧剤または強心剤から選択される、最も好ましくは上記の抗糖尿病剤または脂質低下剤から選択される、別の治療剤の治療上有効量と組み合わせて本発明の化合物の治療上有効量を含んでなる医薬組成物に関する。 グルコキナーゼ活性に関連する病状、より具体的には耐糖能異常、1型または2型糖尿病、高脂血症、代謝性症候群、メタボリックシンドロームおよび肥満症、好ましくは2型糖尿病、耐糖能異常および肥満の処置用医薬の製造のための上記の医薬組成物または組合せ剤の使用に関する。 グルコキナーゼ活性に関連する病状、好ましくは耐糖能異常、1型または2型糖尿病、高脂血症、代謝性症候群、メタボリックシンドロームおよび肥満症の処置のための、上記の医薬組成物に関する。 約50〜70kgの哺乳類のための単位用量は、約1mg〜20000mg、有利には約5〜5000mgの活性成分を含有し得る。当該化合物の治療上有効量は、温血動物(哺乳類)の種、体重、年齢、および個々の状態、投与の形態および関係する化合物に依存する。 本発明の化合物D-プシコースおよび/またはD-タガトースは、グルコキナーゼの核から細胞質への移行促進剤であり、したがって、本明細書において記載したようなグルコキナーゼ活性に関連する病状、たとえば、耐糖能異常、2型糖尿病 、高脂血症、代謝性症候群、メタボリックシンドロームおよび肥満症の処置に使用され得る。 前記にしたがって、本発明は、さらなる局面において、以下のものを提供する。たとえば、少なくとも1つの他の治療剤(好ましくは抗糖尿病剤、脂質低下剤、抗肥満剤、抗高血圧剤または強心剤から選択される)を含んでなる少なくとも1つの医薬組成物と同時的または逐次的に使用するための、遊離の形態または医薬上許容される塩の形態の式Iの化合物を含んでなる、上記のいずれかの方法において使用するための治療用組合せ剤、たとえばキット、パーツのキットなどである。当該キットは、その投与のための指示書を含んでいてもよい。 構成要素(i)と(ii)の2つの個別のユニットの形態の、(i)本発明の医薬組成物、(ii)抗糖尿病剤、抗肥満剤、抗高血圧剤、強心剤もしくは脂質低下剤、または医薬上許容されるそれらの塩から選択される化合物を含んでなる医薬組成物を含んでなるパーツのキットである。 好ましくは、本発明の化合物は、それを必要としている哺乳類に投与される。 好ましくは、本発明の化合物は、グルコキナーゼ活性の活性化に応答する疾患の処置に使用される。 好ましくは、グルコキナーゼ活性に関連する病状は、耐糖能異常、2型糖尿病、高脂血症、メタボリックシンドロームおよび肥満症、最も好ましくは2型糖尿病、耐糖能異常および肥満症から選択される。 抗糖尿病剤、抗肥満剤、抗高血圧剤、強心剤または脂質低下剤の治療上有効量と組み合わせた前記化合物の投与を含んでなる本発明の方法または使用。 本明細書において記載した医薬組成物の形態で前記化合物を投与することを含んでなる本発明の方法または使用。 本明細書を通して、および特許請求の範囲において使用されているように、「処置」なる用語は、当業者既知のすべての種々の形態または様式の処置を包含し、そして特に予防的、治癒的、進行遅延および緩和的処置を含む。 上記の特性は、有利には哺乳類、たとえば、マウス、ラット、イヌ、サルまたは摘出臓器、組織およびそれらの調製物を用いるインビトロおよびインビボ試験において示される。当該化合物は、溶液、たとえば、好ましくは水溶液の形態にてインビトロで、および経腸的、非経腸的に、有利には経静脈的に、たとえば、懸濁液または水溶液としてインビボで適用され得る。インビトロの用量は、約10−2モル濃度から10−6モル濃度の範囲であり得る。インビボの治療上有効量は、投与経路に依存して、約0.1〜20000mg/kg、好ましくは約1〜5000mg/kgの範囲であり得る。 本発明の詳細を実施例で説明する。本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。 肝臓は、血糖の恒常性の維持に重要な臓器である。肝糖代謝における解糖系の律速酵素の一つであるグルコキナーゼ (EC 2.7.1.1)は、空腹時には細胞核内においてグルコキナーゼ活性調節タンパク質と結合して不活性型として存在し、細胞外のD-グルコース濃度の上昇、低濃度のD-フルクトースの存在により、グルコキナーゼ調節タンパク質から解離して核から細胞質へ移行し、D-グルコース代謝を促進する。グルコキナーゼの核 / 細胞質間の移行はホルモンによって調節されており、インスリンはグルコキナーゼを核から細胞質へ移行させ、グルカゴンは細胞質から核へ移行させる。 最近、グルコキナーゼ活性を増加し、血糖降下作用を有するグルコキナーゼ活性化剤が報告されている。また希少糖の大量生産方法が開発され、その機能に注目が集まっている。 本研究では、肝グルコキナーゼの核から細胞質への移行促進による糖尿病治療薬の開発を目的にインスリンとグルカゴンによる肝グルコキナーゼの核 / 細胞質間移行のシグナル伝達系について調べた。また、D-フルクトースに代わる糖を探索する目的で、ケトースによるグルコキナーゼの核 / 細胞質間移行に及ぼす影響を調べた。[実験方法]1.ホルモンによる肝グルコキナーゼの細胞内移行 Wistar系ラット(雄性、5−8週令)を用いた。ラット初代培養肝細胞をホルモン及び各種化合物を添加した25mM D-グルコース含有MEM培地中で一定時間インキュベートした。肝細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定し、抗グルコキナーゼ抗体を用いた蛍光抗体法で染色した。共焦点レーザー顕微鏡で取得した蛍光画像をNIH Imageで解析して核と細胞質の蛍光強度を算出し、核と細胞質のグルコキナーゼ量とした。2.ケトースによる肝グルコキナーゼの細胞内移行 ラット初代培養肝細胞をケトース添加5mMあるいは15mM D-グルコース含有MEM培地中で一定時間インキュベートした。前述と同様の方法で、細胞内の核と細胞質のグルコキナーゼ量を求めた。[結果及び考察]1.ホルモンによるラット肝グルコキナーゼの細胞内移行の調節 インスリン存在下でLY-294002を作用させたところ、インスリンによる細胞質のグルコキナーゼの増加は低下した。インスリン存在下でPD-98059あるいはラパマイシンを作用させたところ、いずれの場合もそのような変化はみられなかった。フォルスコリン、Bt2cAMP、IBMXを作用させたところ、いずれの場合もグルカゴン添加時と同様に細胞質のグルコキナーゼは低下した。グルカゴン存在下でKT-5720を作用させると、グルカゴンによる細胞質のグルコキナーゼの低下はほとんどみられなくなった。インスリンによるグルコキナーゼの核から細胞質への移行は、PI3キナーゼを介し、グルカゴンによるグルコキナーゼの細胞質から核への移行は、cAMP依存性キナーゼを介しているものと考えられる。2.グルコースによるグルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進 培養肝細胞をグルコキナーゼの核から細胞質への移行促進作用のある5mMあるいは25mM D-グルコース含有MEM培地でインキュベートすると、グルコキナーゼの核から細胞質への移行、グリコーゲン合成、および乳酸生成は増加した。グルコースにより、グルコキナーゼの核から細胞質への移行が起こり、細胞質のグルコキナーゼ活性が上昇して肝糖代謝を促進するものと考えられる。(図2,図4,図6のグルコース投与の図)少量のD-フルクトースは、グルコキナーゼの核から細胞質への移行を促進することが判明した。(図4,図6,図7,図8)3.ケトースによるグルコキナーゼの核から細胞質への移行促進 D-フルクトース、D-プシコース、あるいはD-タガトースをそれぞれ添加すると、5mMあるいは15mMのD-グルコース存在下において、グルコキナーゼは核から細胞質へ移行した。D-タガトースを10mM以上添加した場合はグルコキナーゼの移行に変化はみられなかった。D-ソルボースは、いずれの濃度においてもグルコキナーゼの移行に影響を与えなかった。D-プシコースは、高濃度においてもグルコキナーゼの核から細胞質への移行促進作用を示した。(図11)[結論] 1.インスリンによるグルコキナーゼの核から細胞質の移行は、PI3キナーゼを介して起こり、グルカゴンによるグルコキナーゼの細胞質から核への移行は、cAMP-Aキナーゼを介して起こる。 2.グルコキナーゼと初代培養肝細胞をインキュベートすると、グルコキナーゼの核から細胞質への移行が起こり、グリコーゲン量と乳酸生成が増加する。 3.プシコースと低濃度のタガトースにより、グルコキナーゼの核から細胞質への移行が起こる。 培養細胞で見られた、グルコキナーゼの核から細胞質への移行が、動物実験においても起こるかどうかを確認するために実験を行った。[実験方法] 図14はそのプロトコールを示している。一晩絶食したWistar系雄性ラットに、2g/kgのD-グルコース、D-プシコース、D-フルクトース、D-プシコースとD-フルクトースの1:3の混合物を経口投与した。30分後に麻酔下に、4%パラフォルムアルデヒドによりかん流固定後、すぐ肝臓を摘出し、凍結切片を作製した。抗グルコキナーゼ抗体を用いて蛍光抗体法でグルコキナーゼの核と細胞質の分布を解析した。同時に尾静脈と門脈から血液を採血し血糖値の測定を行った。[結果及び考察] 図15にその結果を示す。 対象(一晩絶食)ではほとんどのグルコキナーゼが肝細胞の核内に存在している。D-プシコースを投与すると図の右側の肝臓細胞においてはグルコキナーゼの核から細胞質への移行が見られている。D-フルクトースにおいては、D-プシコースより強い移行が認められた。D-フルクトースとD-プシコースの混合物でも十分なグルコキナーゼの核から細胞質への移行が観察された。[結論] 1.培養細胞で認められた、グルコキナーゼの核から細胞質への移行現象が、動物への投与実験にても確認された。 2.ラットを用いた実験で、D-フルクトースによりグルコキナーゼの核から細胞質への移行が起こることが判った。 3.D-プシコースにおいても、またD-フルクトースとD-プシコースの混合物でも移行が認められた。 次に、一般の食事をする状態を反映する目的で、一定量のD-グルコースを経口投与したラットに、同時に1/10量のD-プシコースあるいはD-フルクトースあるいはD-プシコースとD-フルクトースの混合物を与え、グルコキナーゼの核から細胞質への移行が起こるかどうかを確認するために実験を行った。[実験方法] 図16はそのプロトコールを示している。一晩絶食したWistar系雄性ラットに、2g/kgのD-グルコースを経口投与する。同時に0.2g/kgのD-プシコース、D-フルクトース、D-プシコースとD-フルクトースの1:3の混合物を経口投与した。30分後に麻酔下に、4%パラフォルムアルデヒドによりかん流固定後、すぐ肝臓を摘出し、凍結切片を作製した。抗グルコキナーゼ抗体を用いて蛍光抗体法でグルコキナーゼの核と細胞質の分布を解析した。同時に尾静脈と門脈から血液を採血し血糖値の測定を行った。[結果及び考察] 図17にその結果を示す。 対象(最下段Fasted)ではほとんどのグルコキナーゼが肝細胞の核内に存在していた。2g/kgのD-グルコースの経口投与(最上段)ではグルコキナーゼの核から細胞質への移行が少し起こっていた(特に右側の細胞群に多く認められる)。 これに0.2g/kgのD-フルクトースを同時経口投与したものでは(上から2段目)、ほとんどのグルコキナーゼが細胞質へ移行していた。0.2g/kgのD-プシコースを同時経口投与したものでは(上から3段目)、D-フルクトースよりは弱いが、明瞭にグルコキナーゼが細胞質へ移行していた(特に右側の細胞群に多く認められる)。D-フルクトースとD-プシコースの混合物では(上から4段目)、D-フルクトース単独のものよりも強く、グルコキナーゼの核から細胞質への移行が起こっていた。今後は細胞実験で認められた、D-タガトースによる細胞質への移行が起こるかどうかを解析する。[結論] 1.ラットを用いた実験で、D-グルコースとともにD-フルクトースやD-プシコースを同時に投与することによりグルコキナーゼの核から細胞質への移行が促進されることが判った。 2.D-フルクトースとD-プシコースの混合物が最も強く、次いでD-フルクトース、D-プシコースの順に強かった。D-プシコースのみでも明瞭な移行が認められた。 3.D-フルクトースとD-プシコースの混合物、あるいはD-プシコースのみを食事と一緒に摂取することにより、グルコキナーゼの核から細胞質への移行を促進し、図1,図5に述べた機構により、グリコーゲンの合成を促進することにより、血中のD-グルコースが細胞内に移行し、血糖値が下がることが期待できる結果となった。D-プシコースが2型糖尿病患者、IGT(Impaired Glucose Tolerance、耐糖能異常者、糖尿病予備群)患者、およびメタボリックシンドローム患者の病態改善作用を有するかどうかを調べるために、D-プシコースを2型糖尿病モデル動物のGoto-Kakizakiラットに経口投与し、肝グルコキナーゼの核から細胞質への移行、尾静脈と門脈内の血糖値とインスリン濃度の測定を行った。[実験方法] 図18は、そのプロトコールを示している。一晩絶食したGoto-Kakizaki雄性ラットに、2g/kgのD-グルコースを経口投与する。同時に0.2g/kgのD-プシコースを経口投与した。30分と60分後に麻酔下に、4%パラフォルムアルデヒドにより肝臓をかん流固定し、肝臓を摘出して凍結切片を作製した。抗グルコキナーゼ抗体を用いて蛍光抗体法で肝グルコキナーゼの核と細胞質の分布を解析した。同時に尾静脈と門脈から血液を採血し、血糖値とインスリン濃度の測定を行った。尚、肝臓は門脈領域と中心静脈領域とに分かれ、グルコキナーゼは中心静脈領域の方が門脈領域より1.3倍から1.5倍活性が高いことが知られているので、中心静脈領域と門脈領域のグルコキナーゼの核と細胞質の分布を解析した。[結果及び考察] 1. 図19に、D-グルコース単独あるいはD-グルコースとD-プシコースを同時に経口投与し、投与30分と60分後の肝臓を、蛍光抗体法でグルコキナーゼの分布を調べた結果を示す。 24時間絶食したGoto-Kakizakiラットでは、グルコキナーゼに特異的な蛍光は主に核内に見られた。D-グルコースの経口投与により、いずれ時間においても核内の蛍光は低下し、逆に細胞質の蛍光は増加した。D-プシコースの同時投与により、D-グルコース単独投与時と比べて、有意に核内の蛍光は低下し、細胞質の蛍光は増加した。この変化は門脈領域と中心静脈領域の両領域で認められた。 2. 図20に、図19の画像の核と細胞質の蛍光強度を解析した結果を示す。 中心静脈領域と門脈領域において、D-グルコースの経口投与により、細胞質のグルコキナーゼ量は24時間絶食時より有意に増加した。D-プシコースの同時投与によって細胞質のグルコキナーゼ量はさらに増加した。本実験条件下において、核と細胞質を合わせたグルコキナーゼ量に変化は認められなかった。これらの結果は、in vivoにおいてD-プシコースによってグルコキナーゼの核から細胞質への移行が起こり、活性型のグルコキナーゼが増加し、肝糖利用の促進が起こっていることを示している。 3. 図21に、尾静脈と門脈内の血糖値の変化の結果を示す。 D-プシコースとD-グルコースの同時投与30分後と60分後における尾静脈と門脈内のグルコース濃度は、D-グルコース単独投与群の場合より有意な低値を示した。 この結果は、D-プシコースによるグルコキナーゼの核から細胞質への移行により活性型のグルコキナーゼが増加し、肝糖利用が促進され、血糖値の上昇の抑制が起こったことを示している。 4. 図22に、糖負荷による尾静脈と門脈内のインスリン濃度の変化の結果を示す。 D-プシコースとD-グルコースの同時投与30分後と60分後における尾静脈と門脈内のインスリン濃度は、D-グルコース単独投与群の場合より有意な低値を示した。 この結果は、D-プシコースによるグルコキナーゼの核から細胞質への移行により、肝糖利用が促進して血糖値の上昇が抑制され、膵臓B細胞からのインスリン分泌の抑制が起こったことを示している。インスリン分泌の抑制は、膵B細胞の温存をもたらすものと考えられる。 以上の結果より、D-プシコースは、血糖値の上昇抑制とインスリン濃度の上昇の抑制により2型糖尿病患者、IGT(Impaired Glucose Tolerance耐糖能異常者、糖尿病予備群)患者、あるいはメタボリックシンドローム患者の病態の改善作用を有するものと考えられる。D-タガトースもD-プシコースと同様な作用を有するものと考えられる。 [結論] 2型糖尿病モデル動物のGoto-KakizakiラットにD-グルコース投与時にD-プシコースを同時に経口投与すると、D-グルコース単独の場合より肝グルコキナーゼの核から細胞質へ移行し、肝糖利用を促進して血糖値の上昇とインスリン濃度の上昇が低下する。 グルコキナーゼはインスリン分泌のみならず、高脂肪食下でのインスリン抵抗性に対する代償性膵β細胞過形成にも重要であることより、インスリン分泌低下の遺伝素因がもともとあるところに高脂肪食による肥満・インスリン抵抗性が加わった病態では、グルコキナーゼ又はグルコキナーゼ活性剤は、膵β細胞からのインスリン分泌を促進させるとともに、膵β細胞量をも増加させることによって、インスリン分泌能を改善させるので、2型糖尿病の有効な治療方法である。特にD-プシコースやD-タガトースは自然界に存在する単糖であり、副作用も少ないと想定される。またD-フルクトースには核から細胞質への移行促進作用があるとされているが、D-フルクトースにはエネルギーがあり、D-フルクトースの取り過ぎは却って問題となる。これに比べてD-プシコースやD-タガトースはD-フルクトースと同様のグルコキナーゼの核から細胞質への移行促進作用がある上に、エネルギーとしてはゼロであり、糖尿病や高脂血症などを悪化させる可能性が低いので、有用性が高いと考えられる。D-プシコースを有効成分とするグルコキナーゼの核から細胞質への移行の促進剤。