タイトル: | 特許公報(B2)_消化管運動改善剤スクリーニング法 |
出願番号: | 2008538719 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | C12Q 1/02,C12N 15/09,G01N 33/15,A61K 45/00,A61P 43/00,A61P 1/00,A61P 1/04,A61P 1/10,A61P 1/12,A61P 1/08 |
野沢 桂 正田 絵里 土居原 仁 小島 良介 JP 4591599 特許公報(B2) 20100924 2008538719 20071005 消化管運動改善剤スクリーニング法 アステラス製薬株式会社 000006677 高島 一 100080791 野沢 桂 正田 絵里 土居原 仁 小島 良介 JP 2006275837 20061006 20101201 C12Q 1/02 20060101AFI20101111BHJP C12N 15/09 20060101ALI20101111BHJP G01N 33/15 20060101ALI20101111BHJP A61K 45/00 20060101ALN20101111BHJP A61P 43/00 20060101ALN20101111BHJP A61P 1/00 20060101ALN20101111BHJP A61P 1/04 20060101ALN20101111BHJP A61P 1/10 20060101ALN20101111BHJP A61P 1/12 20060101ALN20101111BHJP A61P 1/08 20060101ALN20101111BHJP JPC12Q1/02C12N15/00 AG01N33/15 ZA61K45/00A61P43/00 111A61P1/00A61P1/04A61P1/10A61P1/12A61P1/08 C12Q 1/02 CA/BIOSIS/MEDLINE(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) Cellular Signalling,2006年,Vol.18,p.1584-1594 分子消化器病,2005年,Vol.2 ,p.186-192 10 JP2007069622 20071005 WO2008044660 20080417 31 20081112 松原 寛子 本発明は、消化器疾患を含む5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防及び/又は治療薬、並びにそれらのスクリーニング方法及びツールなどに関する。 セロトニン(serotonin;以下、5−HTと称する)は、バナナなどの果実や野菜、有害植物などに多く含まれている。動物では生体内の5−HTの90%が胃腸管に存在している。胃腸管の5−HTは胃腸管粘膜のクロム親和細胞(enterochromaffin cell;以下、EC細胞と称する)で生合成され、血中に入り全身へ運搬される。腸管に対する化学刺激、機械刺激によって遊離された5−HTは、標的細胞の5−HT受容体と結合して生理反応を引き起こす。消化管運動機能に関与する5−HT受容体としては、5−HT受容体1、5−HT受容体2、5−HT受容体3、5−HT受容体4、5−HT受容体7などが認められている。これらの受容体は胃腸管の神経細胞や平滑筋に発現していることが明らかになっている。EC細胞から遊離された5−HTはこれらの5−HT受容体を発現する神経細胞や平滑筋を介し、消化管運動機能をコントロールしている。すなわち、5−HTは胃腸管機能を調節するホルモンの一種であると考えられている(非特許文献1)。 EC細胞へ化学刺激や機械刺激を与えると、5−HT遊離が促進し腸管運動が亢進することは以前から知られているが、どのような分子メカニズムで、上記のEC細胞からの5−HT遊離促進が引き起こされるかはほとんど明らかにされていない。 現在、消化器疾患領域の臨床現場では5−HT受容体の活性をコントロールする薬剤が使用されている。例えば、5−HT受容体3阻害薬は下痢型IBSの治療や制吐剤などに用いられ、5−HT受容体4活性化剤は便秘型IBSや消化器機能不全症の治療などに用いられている。またIBS患者の多くに食後の血中5−HT量に異常がみられることから、5−HTが病態に関連していることが明らかになっている。しかしながら、便秘型IBSをはじめとする消化器疾患において患者の満足度の高い治療薬はまだ多くない(非特許文献1)。 TRP(Transient Receptor Potential)チャネルファミリーに含まれるTRPA1は近年、温度感受性チャネルであることが報告され,TRPA1は、17℃以下の温度で活性化し、侵害性冷刺激によって活性化されることが報告された(非特許文献2)。また低温だけでなく、マスタードなどの刺激物質によっても活性化するリガンド作動性イオンチャネルでもあることが明らかになった(非特許文献3、特許文献1)。 さらにTRPA1欠損マウスを用いた実験から、一次求心性侵害受容器を活性化させて炎症性痛覚を引き起こすことが明らかになった(非特許文献4)。これらの実験結果からTRPA1が外因性の刺激物質と内因性の疼痛誘発物質が炎症性疼痛を惹起する時の伝達機構において、重要な要素を担っていると考えられている。 上記のように知覚神経などに関するTRPA1の機能は既に公知となっているが、消化管におけるTRPA1の役割に関して研究報告は全くなく、腸管における機能も不明のままである。国際公開第2005/089206号TEXTBOOK of Gastroenterolorogy,Fourth Edition,ISBN 0−7817−2861−4Cell,Vol.112,819−829(2003)Nature,Vol.427,260−265(2004)Cell,Vol.124,1269−1282(2006) 本発明の課題は、消化器疾患を含む5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防・治療薬として有用な物質を得るためのスクリーニングツール及びスクリーニング方法、並びに上記スクリーニングに使用することのできる手段を提供し、さらには、新規の消化器疾患、及び/又は5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防・治療薬などを提供することにある。 本発明者らは、TRPA1が、5−HTの産生・分泌を担う5−HT遊離細胞で発現し、この細胞からの5−HT遊離を調節していること、より詳細には、TRPA1の活性化によりこのような細胞からの5−HT遊離が特異的に促進されること、及びTRPA1の阻害によりこのような細胞からの5−HT遊離が特異的に抑制されることなどを見出した。このような知見に基づき、本発明者らは、TRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得る物質が5−HT産生・分泌異常が関わる疾患(例、消化器疾患)の予防及び/又は治療薬として有用であり得ること、並びに5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防及び/又は治療薬を得るためには、TRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得る物質をスクリーニングすればよいことなどを着想し、本発明を完成した。 すなわち、本発明は、以下の発明などを提供する。〔1〕試験物質がTRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得るか否かを評価することを含む、5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防及び/又は治療薬のスクリーニング方法。〔2〕試験物質がTRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得るか否かを評価することを含む、消化器疾患の予防及び/又は治療薬のスクリーニング方法。〔3〕以下の工程(a)〜(c)を含む、上記〔1〕又は〔2〕のスクリーニング方法:(a)TRPA1を発現している哺乳動物細胞に試験物質を接触させる工程;(b)TRPA1の発現又はチャネル活性を分析する工程;及び(c)TRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得る物質を選択する工程。〔4〕TRPA1を発現している哺乳動物細胞が、クロム親和細胞、膵β細胞又はTRPA1発現ベクターで形質転換された細胞である、上記〔3〕のスクリーニング方法。〔5〕TRPA1活性化剤又はTRPA1阻害剤を用いてスクリーニング方法が行われる、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかのスクリーニング方法。〔6〕TRPA1の発現又はチャネル活性の調節が、TRPA1の発現又はチャネル活性の促進である、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかのスクリーニング方法。〔7〕TRPA1の発現又はチャネル活性の調節が、TRPA1の発現又はチャネル活性の抑制である、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかのスクリーニング方法。〔8〕TRPA1の発現又はチャネル活性を促進し得る物質を選択することによる、便秘型過敏性腸症候群、機能性胃腸症又は便秘症の予防又は治療薬のスクリーニング方法である、上記〔3〕のスクリーニング方法。〔9〕TRPA1の発現又はチャネル活性を抑制し得る物質を選択することによる、下痢型過敏性腸症候群、下痢症又は嘔吐の予防又は治療薬のスクリーニング方法である、上記〔3〕のスクリーニング方法。〔10〕TRPA1発現ベクターで形質転換された細胞を含む、5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防及び/又は治療薬のスクリーニングツール。〔11〕TRPA1発現ベクターで形質転換された細胞を含む、消化器疾患の予防及び/又は治療薬のスクリーニングツール。〔12〕消化器疾患が、過敏性腸症候群、機能性胃腸症、便秘症、下痢症又は嘔吐である、上記〔11〕のスクリーニングツール。〔13〕TRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得る物質を含む、5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防及び/又は治療薬。〔14〕TRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得る物質を含む、消化器疾患の予防及び/又は治療薬。〔15〕TRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得る物質をスクリーニングし、スクリーニングで得られた物質を製剤化することを含む、5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防及び/又は治療薬の製造方法。〔16〕以下の工程(a)〜(d)を含む、上記〔15〕の製造方法:(a)TRPA1を発現している哺乳動物細胞に試験物質を接触させる工程;(b)TRPA1の発現又はチャネル活性を分析する工程;及び(c)TRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得る物質を選択する工程;(d)工程(c)で得られた物質を製剤化する工程。〔17〕上記〔1〕又は〔2〕のスクリーニング方法で得ることができる物質を含む、5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防及び/又は治療薬。〔18〕上記〔1〕又は〔2〕のスクリーニング方法で得ることができる物質を予防及び/又は治療の必要な患者に投与することを含む、5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防及び/又は治療方法。〔19〕5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防及び/又は治療薬の製造における、上記〔1〕又は〔2〕のスクリーニング方法で得ることができる物質の使用。〔20〕所定の薬効を示す試験物質がTRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得るか否かを評価することを含む、所定の薬効を示し、かつ5−HT遊離調節能を有さない物質のスクリーニング方法。〔21〕以下の工程(a)〜(c)を含む、上記〔20〕のスクリーニング方法:(a)TRPA1を発現している哺乳動物細胞に、所定の薬効を示す試験物質を接触させる工程;(b)TRPA1の発現又はチャネル活性を分析する工程;及び(c)TRPA1の発現又はチャネル活性を調節しない、所定の薬効を示す物質を選択する工程。〔22〕所定の薬効を示し、かつTRPA1の発現又はチャネル活性を調節しない物質をスクリーニングし、スクリーニングで得られた物質を製剤化することを含む、医薬の製造方法。〔23〕5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防及び/又は治療薬のためのスクリーニングツールとしてのTRPA1の使用。〔24〕消化器疾患の予防及び/又は治療薬のためのスクリーニングツールとしてのTRPA1の使用。 本発明のスクリーニングツール及びスクリーニング方法は、例えば、消化器疾患を含む5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防及び/又は治療薬、並びに所定の薬効を示し、かつ5−HT遊離調節能に起因する作用(例、消化器における副作用)が所望されない医薬の開発に有用であり得る。 本発明の医薬は、例えば、消化器疾患を含む5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防及び/又は治療薬として、並びに所定の薬効を示し、かつ5−HT遊離調節能に起因する作用が所望されない医薬として有用であり得る。本発明はまた、このような医薬の製造方法を提供する。90μMのアリルイソチオシアネート(A)、シンナムアルデヒド(B)、アクロレイン(C)をそれぞれ添加したときの細胞内Ca2+濃度の変化を調べた結果を示す。縦軸は細胞内Ca2+濃度を示す蛍光強度、横軸はサンプル添加後の時間経過を示す。□はTRPA1発現CHO−K1細胞、○はコントロールのCHO−K1細胞を示す。ヒト各種組織でのTRPA1mRNAの発現分布を示す。値はヒトG3PDH遺伝子の発現量を100%としたときの相対値を示す。ヒト十二指腸を用いてTRPA1遺伝子のin situハイブリダイゼーション染色を行った結果を示す。アンチセンスプローブを用いた検討では、ヒト十二指腸の上皮にある一部の細胞に強い発色が見出された(左図;矢印)。一方、センスプローブを用いた検討では、染色は見られなかった(右図)。ヒト十二指腸を用いてTRPA1遺伝子のin situハイブリダイゼーション染色を行ったのち、同一の切片をさらにセロトニンに対する抗体で免疫染色した結果を示す。TRPA1とセロトニンを同時に発現している細胞は矢印で指し示す。RIN14B細胞にアリルイソチオシアネート、シンナムアルデヒド、アクロレインをそれぞれ添加したときのセロトニンの遊離量を測定した結果を示す。これらはそれぞれは濃度依存的にRIN14B細胞からのセロトニンの遊離を促進した。RIN14B細胞にTRPA1のsiRNAを導入したときのセロトニンの遊離量を測定した結果を示す。TRPA1の#971siRNAはRIN14B細胞からのシンナムアルデヒド誘導性のセロトニン遊離を抑制した(平均±SD)。アリルイソチオシアネートおよびシンナムアルデヒドでラット小腸から精製したEC細胞を処理したときのセロトニンの遊離量を測定した結果を示す。アリルイソチオシアネート、シンナムアルデヒドともにEC細胞からのセロトニンの遊離を促進した。ストレインゲージフォーストランスデューサー法によるイヌ消化管運動の測定結果を示す。アリルイソチオシアネートは投与直後に胃の運動を亢進し(黒矢印)、GMCを誘発した(白抜き矢印)。投与タイミングは破線で示す。ストレインゲージフォーストランスデューサー法によるイヌ消化管運動の測定結果を示す。Vehicleは投与直後に胃の運動を抑制し(黒矢印)、GMCも誘発しなかった(白抜き矢印)。投与タイミングは破線で示す。消化管水分分泌測定実験におけるアリルイソチオシアネートの作用の測定結果を示す。Vehicle群に対してアリルイソチオシアネートは濃度依存的に水分分泌亢進作用を示した。(N=6、平均±SE)*:p<0.01 vsSaline group (Dunnett's test)ロペラミド誘発便秘モデルにおけるアリルイソチオシアネートの作用の測定結果を示す。Vehicle群に対してアリルイソチオシアネートは濃度依存的にビーズの排出時間を短縮した。(N=6、平均±SE)#:p<0.05 vsコントロール(Student’s t-test) 、*:P<0.05 vs Vehicle (Dunnett’s test)1.スクリーニングツール 本発明は、消化器疾患を含む5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防及び/又は治療薬のスクリーニングツールを提供する。本発明のスクリーニングツールとしては、例えば、ポリペプチド型スクリーニングツール、細胞型スクリーニングツールが挙げられる。(1)ポリペプチド型スクリーニングツール 本発明のスクリーニングツールとして用いることのできるポリペプチドとしては、例えば、以下の(i)〜(iii)が挙げられる:(i)哺乳動物TRPA1と同一のアミノ酸配列からなるポリペプチド;(ii)(a)哺乳動物TRPA1のアミノ酸配列を含み、しかも、TRPA1活性化剤により活性化され、陽イオン透過型のイオンチャネル活性を示すポリペプチド、あるいは、(b)哺乳動物TRPA1のアミノ酸配列における1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも、TRPA1活性化剤により活性化され、陽イオン透過型のイオンチャネル活性を示すポリペプチド[以下、ポリペプチド(a)からなるツール用ポリペプチド及びポリペプチド(b)からなるツール用ポリペプチドを併せて、機能的等価改変ツール用ポリペプチドと称する];又は(iii)哺乳動物TRPA1のアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列からなり、しかも、TRPA1活性化剤により活性化され、陽イオン透過型のイオンチャネル活性を示すポリペプチド(以下、同一ツール用ポリペプチドと称する)。 以下、本発明のポリペプチド型スクリーニングツールとして用いることのできるこれらの各種ポリペプチドを、総称して、スクリーニングツール用ポリペプチド又はTRPA1(ポリペプチド)と称する。 本明細書中で用いられる場合、「TRPA1活性化剤により活性化され、陽イオン透過型のイオンチャネル活性を示す」とは、対象となるポリペプチドを発現させた細胞、または天然に発現する細胞を、TRPA1活性化剤による刺激又は無刺激で、それぞれの細胞の電流応答値又はカルシウム流入量又はその他の陽イオン流入量を比較した場合に、刺激した細胞の電流応答値又はカルシウム流入量又はその他の陽イオン流入量が、無刺激の細胞の電流応答値又はカルシウム流入量又はその他の陽イオン流入量よりも高いことを意味する。例えば、カルシウム流入量の比較は、実施例4、5又は13に記載の方法に従って確認することができる。カルシウム流入量の上昇の程度としては、それぞれを無刺激の細胞でのカルシウム流入量と有意差検定を行なった際に、P値が0.05以下であることが好ましく、P値が0.01以下であることがより好ましい。 本発明のスクリーニングツール用ポリペプチドは、セシウム、ナトリウム、及びマグネシウムイオン透過型のイオンチャネル活性も示すものがより好ましい。 本発明のポリペプチド型スクリーニングツールとして用いることのできる、哺乳動物TRPA1のアミノ酸配列からなる各ポリペプチドとしては、例えば、ヒト、マウス、及びラット由来のTRPA1(例、それぞれ配列番号2、4、6)が挙げられる。TRPA1は、ヒトとマウスとの間では、79.7%のアミノ酸配列同一性、80.7%のヌクレオチド配列同一性を有し、ヒトとラットとの間では、79.6%のアミノ酸配列同一性、79.9%のヌクレオチド配列同一性を有し、マウスとラットとの間では、96.6%のアミノ酸配列同一性、94.3%のヌクレオチド配列同一性を有する。本発明では、特に、ヒト由来のTRPA1(例、配列番号2)が好ましい。 また、TRPA1のアミノ酸配列およびTRPA1を活性化するリガンドに関する情報は、各種文献から得ることが出来るが、いずれも、EC細胞からの5−HT放出や消化管運動に関与することは、開示も示唆もない。 本発明のポリペプチド型スクリーニングツールとして用いることのできる機能的等価改変ツール用ポリペプチドとして、(a)哺乳動物TRPA1のアミノ酸配列の1又は複数の箇所において、全体として1〜10個(より好ましくは1〜7個、更に好ましくは1〜5個、特に好ましくは1又は2個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、しかも、TRPA1活性化剤により活性化され、陽イオン透過型のイオンチャネル活性を示すポリペプチド、あるいは、(b)哺乳動物TRPA1のアミノ酸配列を含み、しかも、TRPA1活性化剤により活性化され、陽イオン透過型のイオンチャネル活性を示すポリペプチドが好ましい。 また、哺乳動物TRPA1のアミノ酸配列を含み、しかも、TRPA1活性化剤により活性化され、陽イオン透過型のイオンチャネル活性を示すポリペプチドとして、例えば、哺乳動物TRPA1のアミノ酸配列からなるポリペプチドのN末端及び/又はC末端に、適当なマーカー配列等を付加したポリペプチド(すなわち、融合ポリペプチド)も、TRPA1活性化剤により活性化され、カルシウムイオン透過型のイオンチャネル活性を示す限り、含まれる。 前記マーカー配列としては、例えば、ポリペプチドの発現の確認、細胞内局在の確認、あるいは、精製等を容易に行なうための配列を用いることができ、例えば、FLAGエピトープ、ヘキサ−ヒスチジン・タグ、ヘマグルチニン・タグ、又はmycエピトープなどを挙げることができる。 本発明のポリペプチド型スクリーニングツールとして用いることのできる同一ツール用ポリペプチドは、哺乳動物TRPA1のアミノ酸配列との同一性が、80%以上であり、90%以上であるものが好ましく、95%以上であるものがより好ましく、98%以上であるものが更に好ましく、99%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるものが特に好ましい。本明細書における前記「同一性」の程度は、MegAlign(DNASTAR社)を用いたClustalV法により決定される。(2)細胞型スクリーニングツール 本発明の細胞型スクリーニングツールとして用いることのできる細胞(以下、スクリーニングツール用細胞と称する)は、細胞型スクリーニングツールとして用いる際に前記スクリーニングツール用ポリペプチドを発現している限り、特に限定されるものではなく、外来遺伝子で形質転換することにより、人為的に前記ポリペプチドを発現させた形質転換細胞であることもできるし、又は、スクリーニングツール用ポリペプチドを発現している天然の細胞又はその細胞株(例、RIN14B細胞)であることもできる。スクリーニングツール用細胞は、当該細胞を含む組織の形態でも提供され得る。 本発明の細胞型スクリーニングツールとして用いることのできるスクリーニングツール用細胞としては、TRPA1遺伝子が導入された形質転換細胞が好ましい。このような細胞としては、例えば、以下の(i)〜(iii)が挙げられる:(i)哺乳動物TRPA1のアミノ酸配列からなるポリペプチドを発現している形質転換細胞;(ii)機能的等価改変ツール用ポリペプチドを発現している形質転換細胞;又は(iii)同一ツール用ポリペプチドを発現している形質転換細胞。 好ましくは、TRPA1を発現している哺乳動物細胞は、5−HT遊離細胞であり得る。本明細書中で用いられる場合、「5−HT遊離細胞」とは、TRPA1を介した制御機構を通じて5−HTを遊離し得る細胞をいい、例えば、EC細胞(例、胃腸管粘膜、肺、皮膚、膵臓等の組織由来のEC細胞)、膵β細胞等の内分泌細胞が挙げられる。細胞としては、正常細胞、癌細胞が挙げられる。 本発明における上記(1)及び(2)のスクリーニングツールは、消化器疾患を含む5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防及び/又は治療薬のスクリーニングに有用であり得る。このような疾患としては、消化器疾患及び非消化器疾患が挙げられる。消化器疾患としては、例えば、過敏性腸症候群(例、便秘型過敏性腸症候群、下痢型過敏性腸症候群)、機能性胃腸症、便秘症、下痢症、嘔吐)が挙げられる。非消化器疾患としては、例えば、摂食障害(例、過食症、拒食症)、疼痛、偏頭痛、睡眠障害(例、不眠症)、精神障害(例、鬱病、不安障害、統合失調症)、血液凝固障害(例、血小板凝集機能不全、血栓、肺血栓塞栓症)、カルシノイド腫瘍が挙げられる。 本発明のスクリーニングツールの製造は、公知の方法(例えば、Molecular Cloning−A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,NY,1989、WO02/052000、又はWO02/053730)に従って行うことができる。 本発明のスクリーニングツール用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(以下、スクリーニングツール用ポリヌクレオチドと称する)の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、(a)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いた方法、(b)常法の遺伝子工学的手法(すなわち、cDNAライブラリーで形質転換した形質転換株から、所望のcDNAを含む形質転換株を選択する方法)を用いる方法、又は(c)化学合成法などを挙げることができる。以下、各製造方法について、順次、説明する。 PCRを用いた方法[前記製造方法(a)]では、例えば、以下の手順により、本発明のスクリーニングツール用ポリヌクレオチドを製造することができる。 すなわち、本発明のスクリーニングツール用ポリペプチドを産生する能力を有する細胞(例えば、ヒト、マウス、又はラット細胞)又は組織からmRNAを抽出する。次いで、前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて、前記ポリペプチドに相当するmRNAの全長を挟むことのできる2個1組のプライマーセット、あるいは、その一部のmRNA領域を挟むことのできる2個1組のプライマーセットを作成する。反応条件(例えば、変性温度又は変性剤添加条件など)を適切に調整して、逆転写酵素−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)を行なうことにより、本発明のスクリーニングツール用ポリペプチドをコードする全長cDNA又はその一部を得ることができる。 また、前記ポリペプチドを産生する能力を有する細胞(例えば、ヒト、マウス、又はラット細胞)又は組織から調製したmRNAから、逆転写酵素を用いて作製したcDNA、あるいは、市販のヒト、マウス、若しくはラット細胞又は組織由来のcDNAを鋳型として、PCRを実施することによっても、前記ポリペプチドをコードする全長cDNA又はその一部を得ることができる。 なお、得られたこれらの全長cDNA又はその一部は、適当な発現ベクターに組み込むことにより、宿主細胞で発現させ、前記ポリペプチドを製造することができる。 常法の遺伝子工学的手法を用いる方法[前記製造方法(b)]では、例えば、以下の手順により、本発明のスクリーニングツール用ポリヌクレオチドを製造することができる。 まず、前記のPCRを用いた方法で調製したmRNAを鋳型として、逆転写酵素を用いて1本鎖cDNAを合成した後、この1本鎖cDNAから2本鎖cDNAを合成する。 次に、前記2本鎖cDNAを含む組換えプラスミドを作製した後、大腸菌(例えば、DH5α株、HB101株、又はJM109株)に導入して形質転換させ、例えば、テトラサイクリン、アンピシリン、又はカナマイシンに対する薬剤耐性を指標として、組換体を選択する。宿主細胞の形質転換は、例えば、宿主細胞が大腸菌の場合には、Hanahanの方法(Hanahan,D.J.,Mol.Biol.,166,557−580,1983)により実施することができる。また、市販のコンピテント細胞を使用することもできる。なお、ベクターとしては、プラスミド以外にもラムダ系などのファージベクターを用いることもできる。 このようにして得られる形質転換株から、目的のcDNAを有する形質転換株を選択する方法としては、例えば、(1)合成オリゴヌクレオチドプローブを用いるハイブリダイゼーションによるスクリーニング法、又は(2)PCRにより作製したプローブを用いるハイブリダイゼーションによるスクリーニング法を採用することができる。 得られた目的の形質転換株より本発明のスクリーニングツール用ポリヌクレオチドを採取する方法は、公知の方法に従って実施することができる。例えば、細胞よりプラスミドDNAに相当する画分を分離し、得られたプラスミドDNAからcDNA領域を切り出すことにより行なうことができる。 化学合成法を用いた方法[前記製造方法(c)]では、例えば、化学合成法によって製造したDNA断片を結合することによって、本発明のスクリーニングツール用ポリヌクレオチドを製造することができる。各DNAは、DNA合成機[例えば、Oligo 1000M DNA Synthesizer(Beckman社製)、又は394 DNA/RNA Synthesizer(Applied Biosystems社製)など]を用いて合成することができる。 これまで述べた種々の方法により得られるDNAの配列決定は、例えば、マキサム−ギルバートの化学修飾法(Maxam,A.M.及びGilbert,W.,Methods in Enzymology,65,499−559,1980)やジデオキシヌクレオチド鎖終結法(Messing,J.及びVieira,J.,Gene,19,269−276,1982)等により行なうことができる。 単離された本発明のスクリーニングツール用ポリヌクレオチドを、適当なベクターに再び組込むことにより、宿主細胞(真核生物及び原核生物の各宿主細胞を含む)を形質転換させ、本発明の細胞又はスクリーニングツール用細胞を得ることができる。また、これらのベクターに適当なプロモーター及び形質発現にかかわる配列を導入することにより、それぞれの宿主細胞においてポリヌクレオチドを発現させることが可能である。 例えば、真核生物の宿主細胞には、脊椎動物、昆虫、及び酵母等の細胞が含まれ、脊椎動物細胞としては、例えば、サルの細胞であるCOS細胞(Gluzman,Y.,Cell,23,175−182,1981)、チャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO)のジヒドロ葉酸レダクターゼ欠損株(Urlaub,G.及びChasin,L.A.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77,4216−4220,1980)、ヒト胎児腎臓由来HEK293細胞、又は前記HEK293細胞にエプスタイン・バーウイルスのEBNA−1遺伝子を導入した293−EBNA細胞(Invitrogen社)等を挙げることができる。 脊椎動物細胞の発現ベクターとしては、通常発現しようとするポリヌクレオチドの上流に位置するプロモーター、RNAのスプライス部位、ポリアデニル化部位、及び転写終結配列等を有するものを使用することができ、更に必要により、複製起点を有していることができる。前記発現ベクターの例としては、例えば、SV40の初期プロモーターを有するpSV2dhfr(Subramani,S.ら,Mol.Cell.Biol.,1,854−864,1981)、ヒトの延長因子プロモーターを有するpEF−BOS(Mizushima,S.及びNagata,S.,Nucleic Acids Res.,18,5322,1990)、又はサイトメガロウイルスプロモーターを有するpCEP4(Invitrogen社)等を挙げることができる。 宿主細胞としてCOS細胞を用いる場合には、発現ベクターとして、SV40複製起点を有し、COS細胞において自律増殖が可能であり、更に、転写プロモーター、転写終結シグナル、及びRNAスプライス部位を備えたものを用いることができ、例えば、pME18S(Maruyama,K.及びTakebe,Y.,Med.Immunol.,20,27−32,1990)、pEF−BOS(Mizushima,S.及びNagata,S.,Nucleic Acids Res.,18,5322,1990)、又はpCDM8(Seed,B.,Nature,329,840−842,1987)等を挙げることができる。 前記発現ベクターは、例えば、DEAE−デキストラン法(Luthman,H.及びMagnusson,G.,Nucleic Acids Res.,11,1295−1308,1983)、リン酸カルシウム−DNA共沈殿法(Graham,F.L.及びvan der Ed,A.J.,Virology,52,456−457,1973)、市販のトランスフェクション試薬(例えば、FuGENETM 6 Transfection Reagent;Roche Diagnostics社製)を用いた方法、あるいは、電気パルス穿孔法(Neumann,E.ら,EMBO J.,1,841−845,1982)等により、COS細胞に取り込ませることができる。 また、宿主細胞としてCHO細胞を用いる場合には、本発明のスクリーニングツール用ポリヌクレオチドを含む発現ベクターと共に、G418耐性マーカーとして機能するneo遺伝子を発現することのできるベクター、例えば、pRSVneo(Sambrook,J.ら,Molecular Cloning−A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,NY,1989)又はpSV2−neo(Southern,P.J.及びBerg,P.,J.Mol.Appl.Genet.,1,327−341,1982)等を共トランスフェクトし、G418耐性のコロニーを選択することにより、本発明のスクリーニングツール用ポリペプチドを安定に産生する形質転換細胞を得ることができる。 また、宿主細胞として293−EBNA細胞を用いる場合には、発現ベクターとして、エプスタイン・バーウイルスの複製起点を有し、293−EBNA細胞で自己増殖が可能なpCEP4(Invitrogen社)などを用いることができる。 形質転換体は、常法に従って培養することができ、前記培養により、細胞膜に貫通した状態で、本発明のスクリーニングツール用ポリペプチドが生産される。前記培養に用いることのできる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種の培地を適宜選択することができる。例えば、COS細胞の場合には、例えば、RPMI−1640培地又はダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)等の培地に、必要に応じて牛胎仔血清(FBS)等の血清成分を添加した培地を使用することができる。また、293−EBNA細胞の場合には、牛胎仔血清(FBS)等の血清成分を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)等の培地にG418を加えた培地を使用することができる。 形質転換体を培養することにより生産される本発明のスクリーニングツール用ポリペプチドは、前記ポリペプチドの物理的性質や生化学的性質等を利用した各種の公知の分離操作法により、分離精製することができる。具体的には、前記ポリペプチドを含む細胞又は細胞膜画分を、例えば、通常のタンパク質沈殿剤による処理、限外濾過、各種液体クロマトグラフィー[例えば、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換体クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、又は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)等]、若しくは透析法、又はこれらの組合せ等により、前記ポリペプチドを精製することができる。 本発明のスクリーニングツール用ポリペプチドは、マーカー配列とインフレームで融合して発現させることにより、前記ポリペプチドの発現の確認、又は精製等が容易になる。前記マーカー配列としては、例えば、FLAGエピトープ、ヘキサ−ヒスチジン・タグ、ヘマグルチニン・タグ、又はmycエピトープなどを挙げることができる。また、マーカー配列と前記ポリペプチドとの間に、プロテアーゼ(例えば、エンテロキナーゼ、ファクターXa、又はトロンビンなど)が認識する特異的なアミノ酸配列を挿入することにより、マーカー配列部分をこれらのプロテアーゼにより切断除去することが可能である。2.スクリーニング方法 本発明は、試験物質がTRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得るか否かを評価することを含むスクリーニング方法を提供する。 本発明のスクリーニング方法は、TRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得る物質を選択することを特徴とする、消化器疾患を含む5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防及び/又は治療薬のスクリーニング方法(スクリーニング方法I)、並びにTRPA1の発現又はチャネル活性を調節しない物質を選択することを特徴とする、5−HT遊離調節能を有さない物質のスクリーニング方法(スクリーニング方法II)に大別できる。 以下、それぞれのスクリーニング方法を詳述する。2.1.TRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得る物質を選択することを特徴とするスクリーニング方法 本発明は、試験物質がTRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得るか否かを評価し、TRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得る物質を選択することを含むスクリーニング方法(スクリーニング方法I)を提供する。 スクリーニング方法Iに供される試験物質は、特に限定されるものではないが、例えば、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術(Terrett,N.K.ら,Tetrahedron,51,8135−8137,1995)によって得られた化合物群、あるいは、ファージ・ディスプレイ法(Felici,F.ら,J.Mol.Biol.,222,301−310,1991)などを応用して作成されたランダム・ペプチド群を用いることができる。また、微生物、植物、海洋生物、又は動物由来の天然成分(例えば、培養上清又は組織抽出物)などもスクリーニングの試験物質として用いることができる。更には、本発明のスクリーニング方法により選択された化合物(ペプチドを含む)、例えば、アリルイソチオシアネート、シンナムアルデヒド、アクロレインを化学的又は生物学的に修飾した化合物(ペプチドを含む)を用いることができる。 詳細には、本発明のスクリーニング方法Iは、以下の工程(a)〜(c)を含む:(a)本発明のスクリーニングツール(例、スクリーニングツール用細胞)に試験物質を接触させる工程;(b)TRPA1の発現又はチャネル活性を分析(測定、検出)する工程;及び(c)TRPA1の発現又はチャネル活性を促進又は抑制し得る物質を選択する工程。 TRPA1の発現は、例えば、TRPA1を発現している哺乳動物細胞(即ち、スクリーニングツール用細胞)において、後述の方法を用いることにより分析できる。 TRPA1の発現はまた、TRPA1転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞を用いて分析できる。TRPA1転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、TRPA1転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む発現ベクターで形質転換された細胞であり得る。TRPA1転写調節領域は、TRPA1の発現を制御し得る領域である限り特に限定されないが、例えば、転写開始点から上流約2kbpまでの領域、あるいは該領域の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つ標的遺伝子の転写を制御する能力を有する領域などを挙げることができる。レポーター遺伝子としては、例えばGFP(緑色蛍光タンパク質)遺伝子、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、LUC(ルシフェラーゼ)遺伝子、CAT(クロラムフェニコルアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子等が挙げられる。 本明細書中で用いられる場合、「チャネルの活性を促進する物質」とは、「チャネルを活性化する物質」と同義であり、試験物質を接触させることにより、イオンチャネルを活性化する物質をいい、TRPA1活性化剤のように直接チャネルを活性化する物質、及び、直接チャネルを活性化する物質の活性化を促進する物質の両方を含む。TRPA1活性化剤共存下で上記工程を行うことにより、TRPA1活性化剤によるTRPA1の活性化を促進する物質のスクリーニングができ、TRPA1活性化剤による前記ポリペプチドの活性化を促進する物質のスクリーニング方法も上記スクリーニング方法に含まれる。TRPA1活性化剤としては、例えば、アリルイソチオシアネート、シンナムアルデヒド、アクロレインが挙げられる。 本明細書中で用いられる場合、「チャネルの活性を抑制する物質」とは、「チャネルを阻害する物質」と同義であり、試験物質を接触させることにより、イオンチャネルの活性化を抑制する物質をいい、TRPA1阻害剤のようにチャネル活性を阻害する物質、及び、直接チャネルを阻害する物質の活性を増加させる物質の両方を含む。TRPA1阻害剤共存下で上記工程を行うことにより、TRPA1阻害剤によるTRPA1の不活性化を促進する物質のスクリーニングができ、TRPA1阻害剤による前記ポリペプチドの不活性化を増加させる物質のスクリーニング方法も上記スクリーニング方法に含まれる。TRPA1阻害剤としては、例えば、ルテニウムレッドが挙げられる。 本発明のスクリーニング方法におけるチャネル活性の分析は、種々の様式で行われ得る。このような様式としては、例えば、(a)パッチクランプ(patch−clamp)法の利用、(b)放射性同位元素イオンの流入の利用、(c)細胞内Ca2+検出色素の利用が挙げられる。各スクリーニング方法について以下に説明する。 (a)のパッチクランプ法を利用してスクリーニングする場合には、例えば、ホールセルパッチクランプ(whole cell patch−clamp)法(Hille,B.,Ionic Channels of Excitable Membranes,2nd Ed.,1992,Sinauer AssociatesInc.,MA)を用いて、細胞における全細胞電流を分析(好ましくは測定)することにより、チャネルを活性化させるか否かを分析することができる。 より具体的には、本発明のスクリーニングツール用細胞をホールセルパッチクランプ法により膜電位固定し、前記細胞の全細胞電流を測定する。この場合、細胞外液としては、149mmol/L−NaCl、5mmol/L−KCl、2mmol/L−CaCl2、0.8mmol/L−MgCl2、及び10mmol/L−HEPES−Na(pH7.4)を含む溶液を使用し、細胞内液としては、147mmol/L−CsCl、4.5mmol/L−EGTA、及び9mmol/L−HEPES−K(pH7.2)を含む溶液などを用いることができる。続いて、細胞外液又は細胞内液に試験物質を添加した場合の電流変化を測定することで、本発明ポリペプチド又はスクリーニングツール用ポリペプチドのチャネルを活性化する物質をスクリーニングすることができる。例えば、試験物質を添加した場合に、前記チャネルの活性化刺激の際に生じる全細胞電流の変化が強くなれば、前記試験物質は、前記チャネルを活性化する物質であると判定することができる。チャネルを活性化する物質としては、例えば、実施例に記載されるようなTRPA1活性化剤と同程度の細胞電流変化を生じさせるものを選択することが好ましい。 (b)の放射性同位元素イオンの流入を利用してスクリーニングする場合には、Ca2+イオンの各放射性同位元素を指標としてチャネル活性を分析(好ましくは測定)することができる[Sidney P.Colowick及びNathan O.Kaplan,Methods in ENZYMOLOGY,88(1),1982,Academic Press社,346−347]。この分析方法は、本発明のスクリーニングツール用ポリペプチドがCa2+イオンを透過させるとの知見に基づくものである。 本発明のスクリーニングツール用細胞において、試験物質により前記細胞の細胞内へ流入する放射活性、あるいは、細胞外に残存する放射活性の量を分析することにより、本発明のスクリーニングツール用ポリペプチドのチャネルを活性化させるか否かを分析することができる。 具体的には、例えば、Ca2+イオンの放射性同位元素である45Ca2+を用いて測定することができる。45Ca2+を反応液中に入れておいた状態で、試験物質が前記チャネルを活性化させると、放射性同位体元素が細胞内へ流入することから、細胞外液中の放射活性(すなわち、細胞外液に残存した放射活性)、あるいは、細胞内に流入した放射性同位元素の放射活性をチャネル活性化の指標とすることができる(黒木登志夫、許南浩、及び千田和広編、実験医学別冊「分子生物学研究のための培養細胞実験法」、1995年、羊土社)。チャネルを活性化する物質としては、例えば、実施例に記載されるようなTRPA1活性化剤と同程度に細胞内へCa2+を流入させるもの、具体的にはEC50が100μmol/L以下のものを選択するのが好ましい。 (c)の細胞内Ca2+検出色素を利用してスクリーニングする場合には、細胞内Ca2+検出色素として、例えば、Fluo3−AMなどを用いることができる。細胞内Ca2+検出色素は、本発明のスクリーニングツール用ポリペプチドのイオンチャネルの開口に伴う細胞内Ca2+濃度の変化を光学的に分析(好ましくは測定)することが可能である(工藤佳久編、実験医学別冊「細胞内カルシウム実験プロトコール」、1996年、羊土社)。これらの色素を用いることによって前記チャネルの活性を測定することができる。前記チャネル発現細胞において、試験物質不在下と比較して、試験物質存在下で細胞内Ca2+検出色素が変化することにより、前記チャネルを活性化する物質であると判定することができる。本方法は、特に限定されるものではないが、例えば、本発明のスクリーニングツール用細胞に細胞内Ca2+検出色素を取り込ませた後、試験物質による前記細胞における細胞内Ca2+検出色素の量変化を光学的に測定することにより前記チャネルを活性化させるか否かを分析することができる。 より具体的には、試験物質を添加した場合に、試験物質不在下の場合と比較して、細胞内に流入するCa2+量が増加すれば、前記試験物質は、チャネルを活性化する物質であると判定することができる。本方法は,実施例3、4、5、13に記載の条件で実施することが好ましく、チャネルを活性化する物質としては、例えば、実施例に記載されるようなTRPA1活性化剤と同程度に細胞内Ca2+検出色素の量変化を促すもの、具体的には実施例4の条件でEC50が100μmol/L以下のものを選択するのが好ましい。またチャネルを不活性化する物質としては、例えば、実施例に記載されるようなTRPA1阻害剤と同程度に細胞内Ca2+検出色素の量変化を促すもの、具体的には実施例5の条件でEC50が100μmol/L以下のものを選択するのが好ましい。 また、前記(a)、(b)、又は(c)のスクリーニング方法において、前記チャネルを直接活性化しないものについても、前記試験物質を投与後に更に前記チャネルを100%活性化しない濃度のTRPA1活性化剤を、例えば1μmol/LのTRPA1活性化剤を投与した時、前記試験物質を投与していないときよりも強い活性を示すものについては、前記チャネルの活性を促進するものと判定することができる。上記のように、TRPA1活性化剤共存下で上記スクリーニングを行うことにより、TRPA1活性化剤による本発明のスクリーニングツール用ポリペプチドの活性化を促進させる化合物をスクリーニングすることができる。活性化を促進する物質としては、TRPA1活性化剤による活性を有意に促進させるもの、具体的にはEC50が100μmol/L以下のものを選択することが好ましい。 また阻害剤のスクリーニング方法も同様に、前記(a)、(b)、又は(c)のスクリーニング方法において、前記チャネルを直接不活性化しないものについても、前記試験物質を投与後に更に前記チャネルを完全に不活性化しない濃度のTRPA1阻害剤を、例えば100nmol/LのTRPA1阻害剤を投与した時、前記試験物質を投与していないときよりも強い阻害活性を示すものについては、前記チャネルの活性を不活性化するものと判定することができる。上記のように、TRPA1阻害剤共存下で上記スクリーニングを行うことにより、TRPA1阻害剤による本発明のスクリーニングツール用ポリペプチドの不活性化を増加させる化合物をスクリーニングすることができる。不活性化を促進する物質としては、TRPA1阻害剤による阻害活性を有意に促進させるもの、具体的にはEC50が100μmol/L以下のものを選択することが好ましい。 また、セシウム、ナトリウム、又はマグネシウムイオン透過型のイオンチャネル活性を示すスクリーニング用ポリペプチドを用いる場合は、(b)と同様にCa2+の替わりに、セシウム、ナトリウム、又はマグネシウムの放射性同位元素を指標として用いることも可能である。具体的には、Sidney P.Colowick及びNathan O.Kaplan,Methods in ENZYMOLOGY,88(1),1982,Academic Press社,346−347に記載の方法を参考に行なうことができる。この分析方法は、本発明のスクリーニング用ポリプペチドがセシウムイオン、ナトリウムイオン、及びマグネシウムイオンを透過させるとの知見に基づくものである。 本発明のスクリーニング方法Iは、上述したような、消化器疾患を含む5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防及び/又は治療薬の開発に有用であり得る。例えば、TRPA1の発現又はチャネル活性を促進し得る物質は、消化器疾患のうち便秘型過敏性腸症候群、機能性胃腸症又は便秘症の予防又は治療薬として、並びに非消化器疾患のうち過食症、不眠症、鬱病、不安障害、偏頭痛、血小板凝集機能不全の予防・治療薬として有用であり得る。一方、TRPA1の発現又はチャネル活性を抑制し得る物質は、例えば、消化器疾患のうち下痢型過敏性腸症候群、下痢症又は嘔吐の予防又は治療薬として、並びに非消化器疾患のうち拒食症、疼痛、統合失調症、カルシノイド腫瘍、血栓、肺血栓塞栓症の予防・治療薬として有用であり得る。 本発明のスクリーニング方法Iとしてはまた、以下の工程(a)〜(c)を含む、TRPA1に結合する物質を選択することを含むスクリーニング方法が挙げられる:(a)本発明のポリペプチド型スクリーニングツールに試験物質を接触させる工程;(b)前記試験物質の前記スクリーニングツールへの結合を分析する工程;及び(c)前記スクリーニングツールへ結合する物質を選択する工程。 本発明のスクリーニング方法Iは、前記工程(a)〜(c)に加え、さらに工程(d)として、選択された物質が5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防及び/又は治療薬として有効であるか否かを確認する工程、あるいは、選択された物質が消化管疾患の予防及び/又は治療薬として有効であるか否かを確認する工程を含んでもよい。この確認工程は、当業者に公知の方法、あるいは、それを改良した方法を用いることにより実施することができる。例えば、後述の実施例19〜22に記載されるような、動物を用いた腸管運動測定試験、排便量の測定、便性状の測定、摘出腸管を用いた収縮の測定、腸管水分分泌量の測定などが挙げられる。2.2.TRPA1の発現又はチャネル活性を調節しない物質を選択することを特徴とするスクリーニング方法 本発明は、試験物質がTRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得るか否かを評価し、TRPA1の発現又はチャネル活性を調節しない物質を選択することを含むスクリーニング方法(スクリーニング方法II)を提供する。 スクリーニング方法IIに供される試験物質は、所定の薬効を示すもの(例、薬物、生理活性物質)である限り特に限定されるものではなく、例えば、上述した試験物質を用いることができる。本発明のスクリーニング方法IIにおけるTRPA1の発現又はチャネル活性の分析は、スクリーニング方法Iと同様にして行うことができる。本発明のスクリーニング方法IIは、所定の薬効を示し、かつ5−HT遊離調節能に起因する作用(例、消化器における副作用)が所望されない医薬(例、副作用が低減した医薬)の開発に有用であり得る。3.医薬 本発明は、本発明のスクリーニングツール用ポリペプチドの発現又はチャネル活性を調節し得る物質を含む、医薬組成物、例えば、消化器疾患を含む5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防及び/又は治療薬を提供する。 本発明はまた、スクリーニングツール用ポリペプチドの発現又はチャネル活性を調節し得る物質を投与することを含む、消化器疾患を含む5−HT産生・分泌異常が関わる疾患用の予防及び/又は治療方法、並びに医薬組成物の製造のための本発明のスクリーニングツール用ポリペプチドの発現又はチャネル活性を調節し得る物質の使用を提供する。 本発明はさらに、試験物質がTRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得るか否かを評価し、評価された物質を製剤化することを含む、医薬組成物の製造方法、並びに当該製造方法により得られる医薬組成物を提供する。 一実施形態では、本発明の製造方法は、TRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得る物質をスクリーニングし、スクリーニングで得られた物質を製剤化することを含む、消化器疾患を含む5−HT産生・分泌異常が関わる疾患の予防及び/又は治療薬の製造方法(製造方法I)であり得る。 より詳細には、本発明の製造方法Iは、以下の工程(a)〜(d)を含み得る:(a)本発明のスクリーニングツールに試験物質を接触させる工程;(b)TRPA1の発現又はチャネル活性を分析する工程;及び(c)TRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得る物質を選択する工程;(d)工程(c)で得られた物質を製剤化する工程。 別の実施形態では、本発明の製造方法は、所定の薬効を示し、かつTRPA1の発現又はチャネル活性を調節しない物質をスクリーニングし、スクリーニングで得られた物質を製剤化することを含む、医薬組成物の製造方法(製造方法II)であり得る。 より詳細には、本発明の製造方法IIは、以下の工程(a)〜(d)を含み得る:(a)本発明のスクリーニングツールに、所定の薬効を示す試験物質を接触させる工程;(b)TRPA1の発現又はチャネル活性を分析する工程;及び(c)TRPA1の発現又はチャネル活性を調節しない、所定の薬効を示す物質を選択する工程;(d)工程(c)で得られた物質を製剤化する工程。 本発明の製造方法I及び製造方法IIにおける工程(a)〜(c)は、本発明のスクリーニング方法と同様にして行うことができる。 本発明の製造方法における上記工程(a)〜(c)で選択される物質[例えば、DNA、タンパク質(抗体又は抗体断片を含む)、ペプチド、又はそれ以外の化合物]は、その種類に応じて、当該技術分野において通常用いられる薬理学上許容される担体、賦形剤、及び/又はその他の添加剤を用いて、医薬組成物として製剤化することができる。 投与としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、又は経口用液剤などによる経口投与、あるいは、静注若しくは筋注などの注射剤、坐剤、経皮投与剤、又は経粘膜投与剤などによる非経口投与を挙げることができる。特に胃で消化されるペプチドにあっては、静注等の非経口投与が好ましい。 経口投与のための固体組成物においては、1又はそれ以上の活性物質と、少なくとも一つの不活性な希釈剤、例えば、乳糖、マンニトール、ブドウ糖、微結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどと混合することができる。前記組成物は、常法に従って、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えば、滑沢剤、崩壊剤、安定化剤、又は溶解若しくは溶解補助剤などを含有することができる。錠剤又は丸剤は、必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質などのフィルムで被覆することができる。 経口のための液体組成物は、例えば、乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、又はエリキシル剤を含むことができ、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば、精製水又はエタノールを含むことができる。前記組成物は、不活性な希釈剤以外の添加剤、例えば、湿潤剤、懸濁剤、甘味剤、芳香剤、又は防腐剤を含有することができる。 非経口のための注射剤としては、無菌の水性若しくは非水性の溶液剤、懸濁剤、又は乳濁剤を含むことができる。水溶性の溶液剤又は懸濁剤には、希釈剤として、例えば、注射用蒸留水又は生理用食塩水などを含むことができる。非水溶性の溶液剤又は懸濁剤の希釈剤としては、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油(例えば、オリーブ油)、アルコール類(例えば、エタノール)、又はポリソルベート80等を含むことができる。前記組成物は、更に湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解若しくは溶解補助剤、又は防腐剤などを含むことができる。前記組成物は、例えば、バクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合、又は照射によって無菌化することができる。また、無菌の固体組成物を製造し、使用の際に、無菌水又はその他の無菌用注射用媒体に溶解し、使用することもできる。 投与量は、有効成分の活性の強さ、症状、投与対象の年齢、又は性別等を考慮して、適宜決定することができる。 例えば、経口投与の場合、その投与量は、通常、成人(体重60kgとして)において、1日につき約0.1〜100mg、好ましくは0.1〜50mgである。非経口投与の場合、注射剤の形では、1日につき0.01〜50mg、好ましくは0.01〜10mgである。 以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。実施例1:ヒト由来TRPA1の単離及び発現ベクターの構築 ヒト脳mRNA(Clontech社)10ngをDNアーゼ処理を行なった後、逆転写−ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)用キット(SUPERSCRIPT First−Strand Synthesis System for RT−PCR;Invitrogen社)を用いて逆転写させ、第一鎖(first strand)cDNAを合成した。この第一鎖cDNAを鋳型とし、Taq DNAポリメラーゼ(LA Taq DNA polymerase;宝酒造)を用いて、ホットスタート(Hot Start)法によるPCRを行なった。前記PCRは、センスプライマーとして配列番号7、アンチセンスプライマーとして配列番号8で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いて実施し、最初に98℃(1分間)で熱変性を行なった後、98℃(15秒間)/56℃(30秒間)/72℃(5分間)からなるサイクルを35回繰り返した。その結果、約3.3kbpのDNA断片が増幅された。 このDNA断片を、クローニングキット(TOPO XL PCR Cloning Kit;Invitrogen社)を用いて、pCR−TOPOベクターにクローニングした。得られたプラスミドDNAを制限酵素KpnI及びHindIIIで消化した後、プラスミドpcDNA3.1(+)(Invitrogen社)を用いてクローニングした。なお、前記プラスミドpcDNA3.1(+)は、サイトメガロウイルス由来のプロモーター配列を持っており、動物細胞にタンパク質を発現させるために使用することができる。 得られたクローンの塩基配列を、ジデオキシターミネーター法により、DNAシークエンサー(ABI3700 DNA Sequencer;Applied Biosystems社)を用いて解析したところ、配列番号1で表される塩基配列が得られた。またこれらの配列をアミノ酸配列に翻訳すると配列番号2で表されるアミノ酸配列が得られた。実施例2:タンパク質の動物細胞での発現 配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのTRPA1チャネル活性を検出するために、前記実施例1で得られた発現ベクターを、動物細胞にトランスフェクションすることにより、前記タンパク質を発現させた。実施例1で得られた発現ベクターと、形質転換用試薬(LIPOFECTAMINE又はLIPOFECTAMINE2000;Invitrogen社)を用いて、ヒト胎児腎臓由来のHEK293細胞およびCHO−K1細胞の形質転換を行ない、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現を誘導した。 前記操作は、前記形質転換用試薬に添付のプロトコール、及び公知の方法(黒木登志夫、許南浩、及び千田和広編、実験医学別冊「分子生物学研究のための培養細胞実験法」、1995年、羊土社)に従って、実施した。実施例3:FLIPRによる細胞内カルシウム濃度の測定 上記実施例2のトランスフェクション操作にて一過性にTRPA1を発現したCHO−K1細胞に各種試験サンプルを添加し、この際の細胞内カルシウム濃度の変動をFLIPR(Molecular Device)を用いて測定した。 FLIPRにて細胞内カルシウム濃度の変動を測定するために、以下の前処置を施した。まず、細胞に蛍光色素Fluo3−AM(DOJIN)を添加するため、あるいはFLIPRアッセイを行う直前に細胞を洗浄するためのアッセイバッファーを作成した。HBSS(Invitrogen)1000mlに1M HEPES(pH7.4)(Invitrogen)20mlを加えた溶液(以下、HBSS/HEPES溶液)に、プロべネシド(Sigma)710mgを1N NaOH 5mlに溶解後さらにHBSS/HEPES溶液5mlを加え混合した溶液10mlを添加した溶液をアッセイバッファーとした。次にFluo3−AM 50μgを22μl DMSO(DOJIN)に溶解し、さらに等量の20%プルロン酸(Molecular Probes)を加え混合後、105μlの牛胎児血清を添加した10.6mlのアッセイバッファーに加え、蛍光色素溶液を調製した。トランスフェクション処理を施したCHO−K1細胞の培地を除き、直ちに蛍光色素溶液を1穴あたり100μlずつ分注後、CO2培養器にて1時間培養し、細胞に蛍光色素を取り込ませた。培養後の細胞は上記のアッセイバッファーを用いて洗浄した後、FLIPRにセットした。また、TRPA1を発現するCHO−K1細胞に添加する試験サンプルはアッセイバッファーを用いて調製し、同時にFLIPRにセットした。以上の前処置を施した後、FLIPRにて各種試験サンプル添加後の細胞内カルシウム濃度の変動を測定した。 その結果、アリルイソチオシアネート(和光純薬)、シンナムアルデヒド(和光純薬)、アクロレイン(Sigma)等を加えたときに、ヒトTRPA1を発現するCHO−K1細胞が特異的に応答(細胞内カルシウム濃度の上昇)することが分かった。一方、これらの化合物は、配列番号2で示されるポリペプチドを発現していないCHO−K1細胞(ネガティブ・コントロール細胞)を用いた検討では、いずれも蛍光強度の上昇は検出されなかった。すなわち、アリルイソチオシアネート、シンナムアルデヒド、アクロレインが、ヒトTRPA1活性化剤であることが確認できた(図1)。実施例4:TRPA1活性化剤のスクリーニング 配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを活性化する化合物(活性化剤)のスクリーニングを行なった。活性化の指標として、カルシウム感受性蛍光試薬を用いた細胞内へのカルシウム流入の検出を行ない、具体的には実施例3に記載の方法を用いた。スクリーニングの基準として、EC50が100μmol/L以下のものをヒットとした。 さまざまな化合物を検討した結果、蛍光強度の上昇が検出されるものとして、アリルイソチオシアネート、シンナムアルデヒド、アクロレインが見出された。各化合物の配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドに対する活性化は、それぞれEC50が17.1μmol/L、22.5μmol/L、及び7.0μmol/Lであった。 これらの結果から、アリルイソチオシアネート、シンナムアルデヒド、アクロレインは、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを活性化し、細胞内へカルシウムを流入させる作用を持つことがわかった。実施例5:TRPA1阻害剤のスクリーニング 配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを阻害する化合物(阻害剤)のスクリーニングを行なった。阻害活性の測定には、カルシウム感受性蛍光試薬を用いた細胞内へのカルシウム流入の検出を行ない、具体的には実施例3に記載の方法を改変して用いた。スクリーニングの基準として、IC50が100μmol/L以下のものをヒットとした。阻害剤測定用に30μMのさまざまな化合物(反応時の終濃度で10μM)をプレートに分注し、同時にFLIPRにセットした。以上の前処置を施した後、FLIPRにてシンナムアルデヒド添加後の細胞内カルシウム濃度の変動を測定し阻害作用の検討を行った。蛍光強度の上昇を阻害する化合物として、ルテニウムレッドが見出された。ルテニウムレッドの配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドに対する阻害活性は、IC50が2.2μmol/Lであった。実施例6:ヒト組織での発現解析 ヒト組織におけるTRPA1遺伝子の発現を、シークエンスディテクター(PRISM7900;Applied Biosystems社)を用いたリアルタイムPCRで解析した。リアルタイムPCRを行うことで、mRNA中に含まれる目的遺伝子を定量化して測定することができる。 ヒト各種組織由来のpolyA+RNA(クロンテック社)1μgからランダムプライマーを用いて逆転写反応した。逆転写酵素SuperScriptII(GIBCO BRL社)を使用し、添付のプロトコールにしたがって反応させ得られたcDNAを実験に用いた。この第一鎖cDNAを鋳型として、蛍光試薬(SYBR Green PCR Core Reagents Kit;Applied Biosystems社)を用いて、PCRを行なった。前記PCRは、センスプライマーとして配列番号9で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを、そして、アンチセンスプライマーとして配列番号10で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いて実施し、最初に95℃(10分間)で熱変性を行なった後、95℃(15秒間)/59℃(1分間)からなるサイクルを45回繰り返した。それぞれのプライマーは、配列番号1で表される塩基配列からなる遺伝子に特異的な配列である。 ヒトの各種組織でのmRNAの発現分布を図2に示す。胃、小腸、大腸、膀胱などにて高い発現が検出された。このことから、配列番号1で表される塩基配列からなるmRNAは、胃、小腸、大腸などの消化器組織で発現していることが明らかになり、胃、小腸、大腸などの消化器組織で配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドが機能していることが明らかになった。実施例7:マウス組織での発現解析 マウス組織からのRNAの調製は以下のようにして行った。C57BL6マウス(雄性、8週齢)を断頭、脱血した後、ハサミで切除し、脳、胃、小腸、大腸を摘出した。これらの組織を氷冷した生理食塩水にて洗浄したのち、Isogen(ニッポンジーン社)を加えてホモジナイズし、マニュアルにしたがってtotalRNAを調製した。抽出したRNA 1μgはSuperScript II(Invitrogen社)のマニュアルに従ってランダムプライマーを用いてfirst strand cDNAを合成後、TE 200μlに溶解した。実施例8:マウス組織での発現解析(リアルタイムPCR) マウス組織におけるTRPA1遺伝子の発現を、シークエンスディテクター(PRISM7900;Applied Biosystems社)を用いたリアルタイムPCRで解析した。前記実施例7より得られたマウス組織のfirst strand cDNAを鋳型として、蛍光試薬(SYBR Green PCR Core Reagents Kit;Applied Biosystems社)を用いて、PCRを行なった。前記PCRは、センスプライマーとして配列番号11で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを、そして、アンチセンスプライマーとして配列番号12で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いて実施し、最初に95℃(10分間)で熱変性を行なった後、95℃(15秒間)/59℃(1分間)からなるサイクルを45回繰り返した。それぞれのプライマーは、配列番号3で表される塩基配列からなる遺伝子に特異的な配列である。またこれらの塩基配列を翻訳すると配列番号4で表されるアミノ酸配列となる。 その結果、標準のマウスβアクチン遺伝子の発現量を100%として、マウスの胃、空腸、大腸においては、それぞれ、0.037%、0.084%、0.094%のTRPA1 mRNAの発現が見られ、一方、全脳における発現量は、0.014%であった。このことから、配列番号3で表される塩基配列からなるTRPA1 mRNAは、消化器組織で発現していることが明らかになり、また配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドが機能していることが明らかになった。実施例9:ラット組織での発現解析(1)ラット組織 ラット組織からのRNAの調製は以下のようにして行った。ウィスターラット(雄性、8週齢)を断頭、脱血した後、ハサミで切除し、脳、小腸、大腸を摘出した。これらの組織を氷冷した生理食塩水にて洗浄し、小腸と大腸はスライドガラスを用いて粘膜層と平滑筋層に分離した。これらの組織サンプルにIsogen(ニッポンジーン社)を加えてホモジナイズし、マニュアルにしたがってtotalRNAを調製した。抽出したRNA 1μgはSuperScript II(Invitrogen社)のマニュアルに従ってランダムプライマーを用いてfirst strand cDNAを合成後、TE 200μlに溶解した。(2)培養細胞および培地 RIN14B細胞(ラット膵臓由来内分泌細胞株)はATCCから購入した。RIN14B細胞は、特に記載が無い限り10% 牛胎児血清(Invitrogen)を含むRPMI1640培地(Invitrogen)を用いて培養した。RIN14B細胞は10%FCSを含むRPMI1640培地(Invitrogen社)でプレコンフルエントになるまで培養し、遺伝子発現解析など実験に使用した。(3)ラット小腸EC細胞の単離 ウィスターラット(雄性、8週齢)を断頭、脱血した後、ハサミで切除し開腹させ、小腸を摘出した。摘出した小腸の管腔内を生理食塩水にて洗浄し、約20mLのBuffer A(70mM NaCl、5mM KCl、20mM NaHCO3、0.5mM NaH2PO4、50mM HEPES(pH7.2)、11mM グルコース、3mM EDTA、0.5% BSA、0.05mM ジチオスレイトール、1mg/mL N−acetyl−L−cysteine)を注入したのち、両端をとじて、37℃で保温したHBSS内にて10分間静置した。その後、小腸管腔内のBuffer Aを捨て、再び約20mLのBuffer Aを注入し、37℃で保温したHBSS内にて10分間静置した。再び小腸管腔内のBuffer Aを捨て、新しいBuffer Aを注入し、37℃で保温したHBSS内にて20分間静置した後、管腔内容物を回収した。この操作を合計3回繰り返し、すべての管腔内容物をひとつにまとめ、小腸粘膜上皮細胞サンプルとした。 次にカウンターフロー遠心エルトリエーション法(CCE)を用いて、EC細胞画分の調製を行った。CCEの装置(BECKMAN、JE−5.0)はローター速度を2000rpmに固定し、CCE用のバッファーには1%胎仔牛血清、1%グルコース、1mMジチオスレイトール、1mM EDTAをふくむPBSを用いた。小腸粘膜上皮細胞サンプルをCCE装置に注入し、21mL/minで流出してくる細胞を回収したのち、Percoll液(d=1.132g/mL、Pharmacia)を用いた密度勾配遠心法にてさらに精製した。なお、10倍濃度のHBSSに対して、9倍量のPercoll液を加えそれを100%Percoll液とした。100%Percollを1倍濃度HBSSで希釈して、60%Percoll液、30%Percoll液、20%Percoll液をそれぞれ調製し、遠心管に重層した。さらにその上にCCE精製したサンプルを重層し、1100rpmで10分間遠心した。60%Percoll液と30%Percoll液の界面に集まった細胞を回収し、PBSで洗浄したものをEC細胞画分とした。このEC細胞画分はマーカー遺伝子であるTPH1、クロモグラニンA、シナプトフィジン、VMAT1の遺伝子発現量をリアルタイムPCR法にて測定し、小腸粘膜上皮細胞サンプルに対し、マーカー遺伝子の発現が20倍以上高いことが確認できたサンプルをその後の実験に使用した(表1)。 前記操作は、エルトリエーターシステム添付のプロトコール、及び公知の方法(右田俊介編、「免疫実験操作法2」、1995年、南江堂)に従って、実施した。(4)RNAの抽出およびcDNA合成 RIN14B細胞および、ラットのEC細胞画分は、細胞を単離し細胞数を測定した後、RNeasy mini KIT(QIAGEN社)のマニュアルに従ってtotal RNAを抽出精製した。抽出したRNA 1μgはSuperScript II (Invitrogen社)のマニュアルに従ってランダムを用いてfirst strand cDNAを合成後、TE 200μlに溶解した。実施例10:ラット組織での発現解析(リアルタイムPCR) ラット組織とラットEC細胞画分およびRIN14B細胞におけるTRPA1遺伝子の発現を、シークエンスディテクター(PRISM7900;Applied Biosystems社)を用いたリアルタイムPCRで解析した。前記実施例より得られたラット組織とラットEC細胞およびRIN14B細胞由来のfirst strand cDNAを鋳型として、蛍光試薬(SYBR Green PCR Core Reagents Kit;Applied Biosystems社)を用いて、PCRを行なった。前記PCRは、センスプライマーとして配列番号13で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを、そして、アンチセンスプライマーとして配列番号14で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドを用いて実施し、最初に95℃(10分間)で熱変性を行なった後、95℃(15秒間)/59℃(1分間)からなるサイクルを45回繰り返した。それぞれのプライマーは、配列番号5で表される塩基配列からなる遺伝子に特異的な配列である。またこれらの配列をアミノ酸配列に翻訳すると配列番号6で表されるアミノ酸配列となる。 その結果、標準のラットG3PDH遺伝子の発現量を100%として、ラットの大腸粘膜、小腸粘膜においては、それぞれ、0.79%、0.85%のTRPA1 mRNAの発現が見られ、一方、脳における発現量は、0.11%であった。このことから、TRPA1は、ラットの腸管において高発現し、機能していることが明らかになった。また、小腸EC細胞では他のEC細胞のマーカー遺伝子と同様に、TRPA1mRNAの高い発現量が検出され、TRPA1がEC細胞に発現していることが明らかとなった(表1)。さらにRIN14B細胞はEC細胞のマーカー遺伝子、およびTRPA1遺伝子の発現がEC細胞と同等かそれ以上であり、RIN14B細胞がEC細胞と非常に良く似た性質を持つことが明らかになった(表2)。実施例11:ヒト組織での発現解析(in situ ハイブリダイゼーション/免疫組織化学染色) ヒトEC細胞におけるTRPA1の発現を確認するために、ヒト十二指腸を用いてin situハイブリダイゼーション染色を行なった。 パラフィン包埋を行ったヒト十二指腸組織(CYTOMYX社)を6μmの厚さで薄切し、in situハイブリダイゼーション染色用のサンプルとした。 実施例1で得られたプラスミドpcDNA−humanTRPA1を鋳型として、イン・ビトロ(in vitro)転写法によるジゴキシゲニン標識RNAアンチセンスプローブを作成した。なお、ジゴキシゲニン標識には市販試薬(DIG RNA Labeling Mix;ロシュ社)を用いて、添付のプロトコールに従って実施した。また、ネガティブコントロールとして、同様の方法を用いて、ジゴキシゲニン標識RNAセンスプローブも作成した。プローブの配列は配列番号1で表されるヒトTRPA1遺伝子配列の第2870番目〜第3360番目の塩基配列と同じ領域のものを用いた。 上記で得られたサンプル及びプローブを用いて、in situハイブリダイゼーション染色を実施した。抗体には、アルカリフォスファターゼ標識した抗ジコキシゲニン抗体(ロシュ社)、発色基質にはNBT/BCI(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドイルリン酸とニトロブルーテトラゾリウム塩との混合液)を使用し、発色後、ケルネヒトロートにより核染色を行なった。 その結果、アンチセンスプローブを用いた検討では、ヒト十二指腸の上皮にある一部の細胞に特異的に強い発色が見出された。なお、センスプローブを用いた検討では、染色は見られなかった。これらの結果から、配列番号1で表される塩基配列からなるヒトTRPA1遺伝子は、ヒトにおいても腸管腺窩にある細胞において発現していることが明らかになった(図3)。実施例12:ヒト組織での発現解析(in situハイブリダイゼーション/免疫組織化学染色) 実施例11で見られたTRPA1の発現部位がEC細胞かどうか確認するために、ヒト十二指腸を用いてin situハイブリダイゼーション染色を行なったのち、セロトニンに対する抗体で免疫染色を行った。 実施例11と同様の方法でヒト十二指腸のin situハイブリダイゼーションを行ってTRPA1の染色を行ったのち、一次抗体として、抗セロトニン抗体(Sigma)を用いて反応を行った。さらに二次抗体としてビオチン化した抗ウサギIgG抗体を用いて反応させたのち、発色基質にDABを用いて発色反応を行った。その結果、TRPA1の発現がみられたヒト十二指腸の上皮細胞はセロトニン抗体による発色も見出された。これらの結果から、配列番号1で表される塩基配列からなるTRPA1遺伝子は、ヒト十二指腸のセロトニンを発現する上皮細胞、すなわちEC細胞で発現していることが明らかになった(図4)。実施例13:カルシウム感受性蛍光試薬を用いたRIN14B細胞におけるチャネル活性の検出 実施例10でTRPA1の発現を確認したRIN14B細胞(5×104細胞)をカルシウム感受性蛍光試薬(Fluo3−AM;DOJINDO社)存在下、37℃で1時間インキュベートすることにより、カルシウム感受性蛍光試薬を細胞内に取り込ませた後、生理食塩水で洗浄して、細胞に取り込まれなかったカルシウム感受性蛍光試薬を取り除いた。得られた細胞に、アリルイソチオシアネート、シンナムアルデヒド、アクロレインを添加した生理食塩水を加え、経時的に細胞が発する蛍光を測定した。上記の測定は、自動蛍光検出装置(FLIPR;Molecular Device社)を用いた。アリルイソチオシアネート、シンナムアルデヒド、アクロレインを添加しない生理食塩水を用いて、同様の操作を実施した。またルテニウムレッドを同時に添加しカルシウムの細胞内への流入が阻害されるかどうか測定した。 その結果、アリルイソチオシアネート、シンナムアルデヒド、アクロレインを添加したRIN14B細胞では、添加直後から蛍光強度の上昇が検出された。一方、アリルイソチオシアネート、シンナムアルデヒド、アクロレインを添加しない生理食塩水を用いた検討では、いずれも蛍光は検出されなかった。これは、アリルイソチオシアネート、シンナムアルデヒド、アクロレインにより、TRPA1が活性化し、細胞内へカルシウムを流入させたことを示している。さらに、RIN14B細胞に様々な濃度のアリルイソチオシアネート、シンナムアルデヒド、アクロレインを添加したときの細胞内Ca2+濃度の変化を調べたところ、これらは、濃度依存的に細胞内へカルシウムを流入させることが明らかになった。 またルテニウムレッドを添加することで、アリルイソチオシアネート、シンナムアルデヒド、アクロレインにより蛍光強度の上昇が阻害された(30μMのルテニウムレッドは、アリルイソチオシアネートによる活性化を90.9%阻害)。実施例14;RIN14Bからのセロトニン分泌の測定 TRPA1がセロトニン放出に関与しているかどうか調べるため、TRPA1活性化剤によるRIN14Bからのセロトニン分泌促進の測定を行った。 シャーレ内で培養したRIN14B細胞を、1mMのEDTAを含むPBSを用いてはがした後、96ウェルプレートに撒いて2日間培養した。培地はRPMI1640(インビトロゲン社)に10%ウシ胎児血清(ICN社)、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンを添加したものを用いた。細胞を0.1%BSAと10μMフルオキセチン(TOCRIS社)を添加したHanks’Balanced Salt Solutions(HBSS、Invitrogen)で1回洗浄した後、上記のHBSSで希釈・調製したTRPA1活性化剤を、RIN14B細胞に添加し、37℃5%CO2条件下で20分間培養した。培養後、細胞の上清を回収し、凍結保存した。上清中のセロトニン含量の測定は市販のセロトニンイムノアッセイキット(ベックマン社)で測定した。 その結果、図5に示す通り、RIN14B細胞を用いた細胞内カルシウムイオン流入アッセイにおいて顕著な活性を示したアリルイソチオシアネート、シンナムアルデヒド、アクロレインによりセロトニン分泌の促進が認められた。一方、アクロレイン(30μM)と同時にルテニウムレッドで処理した場合には、ルテニウムレッドは、アクロレイン誘導性のセロトニン分泌を濃度依存的に抑制し(30μM ルテニウムレッドで、73.0%阻害)、また、シンナムアルデヒド(30μM)と同時にルテニウムレッド(30μM)で処理した場合には、ルテニウムレッドは、シンナムアルデヒド誘導性のセロトニン分泌を完全に抑制した。以上の結果から、TRPA1がRIN14B細胞からのセロトニン分泌促進作用に関与していることが明らかになった。実施例15;ラットTRPA1の配列に特異的なsiRNA導入によるラットTRPA1遺伝子の発現抑制 RIN14B細胞を60mmシャーレに6x105個まいて1日培養した。siRNA設計システムsiDirect(RNAi社)によりデザインしたラットTRPA1に対する種々の配列のsiRNA(10nM)を形質転換用試薬(LIPOFECTAMINE2000;インビトロゲン社)を用いてRIN14B細胞に導入後さらに2日培養し、ラットTRPA1遺伝子の発現量を測定した。ラットTRPA1遺伝子の発現量の検出は実施例10の方法にて行った。その結果、RIN14B細胞に対し、ラットTRPA1特異的なsiRNAである#971(センス鎖は配列番号:15、アンチセンス鎖は配列番号:16)を添加することによりラットTRPA1発現量の低下が認められた。このことから#971がラットTRPA1の遺伝子発現を特異的に抑制させることが分かった。実施例16;siRNA導入RIN14Bにおける、アリルイソチオシアネートによる細胞内カルシウム流入活性の抑制効果 実施例15においてTRPA1特異的siRNAである#971がラットTRPA1の発現を顕著に抑制させることを確認済である。実施例15の方法に基づき#971を導入させたRIN14B細胞における細胞内カルシウム流入活性について検討した。実施例13の方法に従いアリルイソチオシアネートの細胞内カルシウム流入活性について調べた結果、#971導入RIN14Bではアリルイソチオシアネート(300μM)による細胞内カルシウム流入活性が67.3%抑制された。一方、ランダム配列siRNAであるネガティブコントロール siRNAを導入したRIN14Bでは上記活性化剤による細胞内カルシウム流入活性が保持されていることが示された。この結果からも、TRPA1が、アリルイソチオシアネートによる細胞内カルシウム流入活性に関与していることが確認された。実施例17;siRNA導入RIN14Bにおける、シンナムアルデヒドによるセロトニン分泌促進活性の抑制効果 実施例16においてTRPA1特異的siRNAである#971がラットTRPA1の発現を顕著に抑制させ、細胞内カルシウム流入も抑制することを確認済である。そこで実施例15の方法に基づき#971を導入させたRIN14B細胞におけるセロトニン分泌上昇活性について検討した。実施例14の方法によりシンナムアルデヒドによるセロトニン分泌上昇活性について調べた結果、図6に示す通り、#971導入RIN14Bではシンナムアルデヒドによるセロトニン分泌上昇活性が抑制された。一方、ランダム配列siRNAであるネガティブコントロール siRNAを導入したRIN14Bでは上記活性化剤によるセロトニン分泌促進活性が保持されていることが示された。この結果から、TRPA1が、セロトニン分泌促進に関与していることが証明された。実施例18;ラットEC細胞からのセロトニン分泌の測定 実施例9−(3)で示した方法で調製したEC細胞を上記の実施例14を改変した方法にて、セロトニンの分泌活性を測定した。調製したラットEC細胞画分を0.1%BSAを添加したHanks’Balanced Salt Solutions(HBSS、Invitrogen)で1回洗浄した後、上記のHBSSで希釈・調製したTRPA1活性化剤を添加し、37℃5%CO2条件下で45分間培養した。培養後、細胞の上清を回収し、凍結保存した。 上清中のセロトニン含量は市販のセロトニンイムノアッセイキット(ベックマン社)で測定した。その結果、図7に示す通り、ラットEC細胞においてもRIN14Bと同様に、アリルイソチオシアネート、シンナムアルデヒドにより有意なセロトニン分泌促進活性が認められた。以上の結果から、TRPA1がRIN14B細胞だけでなく、EC細胞からのセロトニン分泌促進作用を担っていることが証明された。実施例19;モルモット摘出腸管の収縮活性の測定 モルモット(Hartley系、雄、体重300−400g)をエーテル麻酔下にて、頚動脈切断により放血致死させた。回腸を摘出し、末端の約15cmを除いた残りの部分より、長さ1.5cmに切断した腸管の長軸方向に平行に切り込みを入れ、平面状の標本を作製した。この標本の両端をセルフィンで挟み、95% O2−5% CO2混合ガスを通気した37℃のクレブス液(118mM NaCl、4.7mM KCl、2.5mM CaCl2、1.2mM MgSO4、1.2mM KH2PO4、11mM D−glucose、20mM NaHCO3)10mlを含むマグヌス槽に糸を介して懸垂した。標本に1gの負荷をかけ、15分間隔でバッファーを交換し、約60分間放置して張力を安定させた。アゴニスト刺激に対する張力の変化を等尺的に測定して、レコーダー上に記録した。アセチルコリンの10−5Mを投与して回腸標本の収縮を惹起させ収縮が最高に達した後、バスを3回洗浄することによってアセチルコリンを洗い流した。この操作を10分間隔で繰り返し、惹起される収縮が2回連続して一定になってから試験物質を投与した。アセチルコリンと試験物質による収縮力を比較することによって試験物質の効果を評価した。一標本において、試験物質一濃度のみの検討を行った。(1)アリルイソチオシアネート、シンナムアルデヒド、アクロレインにおいて、それぞれ10μM、30μM、100μM、300μMの4濃度を単回投与にて検討した。その結果、アリルイソチオシアネート、シンナムアルデヒドについては100μM以上において、またアクロレインについては10μM以上において、収縮作用が確認された(表3)。以上の結果から、TRPA1活性化剤によって、腸管の収縮が惹起されることが示された。(2)TRPA1阻害剤(ルテニウムレッド)による拮抗実験 アリルイソチオシアネート(300μM)刺激収縮に対するTRPA1受容体阻害剤ルテニウムレッド(30μM)の阻害作用を検討した。同一個体から得た異なる2本の標本においてそれぞれ、vehicleまたはルテニウムレッド(30μM)を15分間適用し、その後アリルイソチオシアネート(300μM)刺激による収縮を測定した。その結果、ルテニウムレッド適用標本においてはvehicle適用標本と比較してアリルイソチオシアネート刺激収縮が約84%抑制された。以上の結果から、アリルイソチオシアネートはTRPA1受容体を介して腸管収縮を惹起する可能性が示唆された。(3)セロトニン受容体拮抗薬による阻害実験 アリルイソチオシアネート(300μM)刺激収縮に対する各種セロトニン受容体拮抗薬の阻害作用を検討した。セロトニン受容体拮抗薬には、5−HT1、2受容体拮抗薬としてマレイン酸ピゾチフェン(10μM)、5−HT2受容体拮抗薬として酒石酸ケタンセリン(0.1μM)、5−HT3受容体拮抗薬として塩酸ラモセトロン(0.3μM)、5−HT4受容体拮抗薬としてGR113808(0.3μM)をそれぞれ使用した。同一個体から得た異なる標本において、vehicleまたは各種セロトニン拮抗薬を15分間適用し、その後アリルイソチオシアネート(300μM)刺激による収縮を測定した。その結果、マレイン酸ピゾチフェンおよび塩酸ラモセトロン適用標本においてはvehicle適用標本と比較してアリルイソチオシアネート刺激収縮がそれぞれ約44%および約74%抑制された。以上の結果から、アリルイソチオシアネート刺激によってセロトニンが遊離され、5−HT1受容体や5−HT3受容体のようなセロトニン受容体を介した収縮を惹起することが示された。 また、アクロレイン(300μM)刺激収縮に対する各種セロトニン受容体拮抗薬の阻害作用についても同様に検討した。その結果、マレイン酸ピゾチフェンおよび塩酸ラモセトロン適用標本においてはvehicle適用標本と比較してアリルイソチオシアネート刺激収縮がそれぞれ約74%および約84%抑制された。以上の結果から、アクロレイン刺激によってセロトニンが遊離され、5−HT1受容体や5−HT3受容体のようなセロトニン受容体を介した収縮を惹起することが示された。 以上の実施例から得られた結果から、TRPA1は消化管で高い発現を示し、中でも特に腸管のEC細胞において高い発現をしていることが明らかになった。さらに化合物スクリーニングの実施より得られたTRPA1活性化剤と阻害剤を用いて鋭意研究を行った結果、TRPA1の活性化が腸管のEC細胞からのセロトニン遊離を引き起こしていること、そして遊離したセロトニンを介して腸管の収縮を引き起こしていることが明らかになった。次に、以下の実施例では、in vivoでもTRPA1活性化剤が消化管運動の亢進作用を有するかを検証した。実施例20;イヌ消化管運動亢進作用の測定 消化管運動の測定はストレインゲージフォーストランスデューサー法により行った。24時間絶食したイヌ(ビーグル犬、雄、11−13kg)にペントバルビタールナトリウム麻酔下で,ストレインゲージフォーストランスデューサー(F−12IS,スターメディカル社,東京)を幽門から口側へ5cmの部位(胃前提部)とTreiz靭帯から肛門側へ20cmの部分(空腸),回盲口より肛門側へ10cmの部位(近位結腸)と肛門から口側へ10cmの部位(遠位結腸)の計4箇所に輪状筋方向の収縮が観察できるように縫着した。術後1週間以上回復させた後,実験を行った。消化管運動の測定はテレメータシステム(DAT−80RA,スターメディカル社)を用いて行った。アリルイソチオシアネートは、17時間以上絶食した動物の消化管運動を測定し規則的なIMC(Inter digestive migrating motor complex)の発現を確認した後,胃でphase−III様の消化管運動が測定された約20分後に経口投与した。その結果、図8−1に示されるように、アリルイソチオシアネート(1,10mg/kg)は投与後10分以内に結腸のGMC(Giant migrating contraction)を誘発したことから、TRPA1活性化剤であるアリルイソチオシアネートは消化管運動を亢進し、排便を誘発することが示唆された。一方で、図8−2に示されるように、vehicle群ではGMCの誘発は観察されなかった。 5−HTは消化管からの水分分泌を亢進することが知られているので、TRPA1の活性化剤が腸管のEC細胞を介して5−HTを分泌するのであれば消化管の水分分泌を亢進することが推測される。そこでTRPA1活性化剤が消化管の水分分泌亢進作用をもつかどうか実際に検証した。実施例21;マウス腸管水分分泌亢進作用の測定 一晩絶食したマウス(ddy、雄、35―42g、SLC社)をペントバルビタール(50 mg/kg i.p.)で麻酔後,開腹し,盲腸近部の回腸組織約2cmの両端を糸で縛り、回腸ループを作成した。salineあるいはTRPA1活性化剤であるアリルイソチオシアネート(10,100,1,000μg)をそのループ内に100μL投与した。投与後,腸管を元の位置に戻し、腹筋および皮膚を縫合した。処置6時間後,頚椎脱臼によりマウスを屠殺後、回腸ループを摘出し、内容物重量を測定した。その結果、アリルイソチオシアネートは用量依存的に腸管からの水分分泌を亢進し,1,000μg投与群では有意な水分分泌亢進作用が認められた(図9)。実施例22;マウス便秘モデルによるアリルイソチオシアネートの評価 μ オピオイド受容体アゴニストであるロペラミドは腸管において痙攣性の収縮を惹起し腸管輸送能の遅延を引き起こすことから、この実験系は便秘型過敏性腸症候群の実験モデルと考えられている。そこでTRPA1の活性化剤であるアリルイソチソシアネートがこの便秘モデルにおいて有効かどうか検討を行った。 マウス(ddY、雄、5週齢、SLC社)を実験前日夕方より絶食し、実験当日、測定用ケージに1時間以上馴化させたのち、ロペラミド0.3mg/kgを皮下投与した。その30分後にTRPA1アゴニストであるアリルイソチオシアネート0.01〜1mg/kgを経口投与し、その直後マウスにエーテル麻酔をかけ、直径3mmのガラスビーズを肛門から2cmまで挿入した。マウスを測定用ケージに戻し、覚醒からガラスビーズが排出されるまでの時間を測定した。その結果、図10に示すように、ロペラミド投与群(Vehicle群)では、ロペラミド非投与群(コントロール群)と比較してビーズ排出時間の遅延がみとめられた。そして、TRPA1アゴニストであるアリルイソチオシアネートは用量依存的にロペラミドによるビーズ排出時間の遅延を改善した。以上の結果より、TRPA1活性化剤は便秘型過敏性腸症候群に対して有効性を示すことが示唆された。 以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。 本出願は、日本で出願された特願2006-275837(出願日:平成18年10月6日)を基礎としており、そこに開示される内容は本明細書にすべて包含されるものである。また、ここで述べられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。 試験物質がTRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得るか否かを評価することを含む、5−HT産生・分泌異常が関わる消化器疾患の治療薬のスクリーニング方法。 以下の工程(a)〜(c)を含む、請求項1記載のスクリーニング方法:(a)TRPA1を発現している哺乳動物細胞に試験物質を接触させる工程;(b)TRPA1の発現又はチャネル活性を分析する工程;及び(c)TRPA1の発現又はチャネル活性を調節し得る物質を選択する工程。 TRPA1を発現している哺乳動物細胞が、クロム親和細胞、膵β細胞又はTRPA1発現ベクターで形質転換された細胞である、請求項2記載のスクリーニング方法。 TRPA1の発現又はチャネル活性の調節が、TRPA1の発現又はチャネル活性の促進である、請求項1〜3のいずれか1項記載のスクリーニング方法。 TRPA1の発現又はチャネル活性の調節が、TRPA1の発現又はチャネル活性の抑制である、請求項1〜3のいずれか1項記載のスクリーニング方法。 TRPA1の発現又はチャネル活性を促進し得る物質を選択することによる、便秘型過敏性腸症候群、機能性胃腸症又は便秘症の治療薬のスクリーニング方法である、請求項2記載のスクリーニング方法。 TRPA1の発現又はチャネル活性を抑制し得る物質を選択することによる、下痢型過敏性腸症候群、下痢症又は嘔吐の治療薬のスクリーニング方法である、請求項2記載のスクリーニング方法。 TRPA1発現ベクターで形質転換された細胞を含む、5−HT産生・分泌異常が関わる消化器疾患の治療薬のスクリーニングツール。 消化器疾患が、過敏性腸症候群、機能性胃腸症、便秘症、下痢症又は嘔吐である、請求項8記載のスクリーニングツール。 5−HT産生・分泌異常が関わる消化器疾患の治療薬のためのスクリーニングツールとしてのTRPA1の使用。配列表