生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_四重極型質量分析装置
出願番号:2008538523
年次:2011
IPC分類:H01J 49/42,G01N 27/62


特許情報キャッシュ

向畑 和男 奥村 大輔 JP 4730439 特許公報(B2) 20110428 2008538523 20061011 四重極型質量分析装置 株式会社島津製作所 000001993 小林 良平 100095670 向畑 和男 奥村 大輔 20110720 H01J 49/42 20060101AFI20110630BHJP G01N 27/62 20060101ALI20110630BHJP JPH01J49/42G01N27/62 L H01J 49/00-49/48 G01N 27/62-27/70 特開昭48−011089(JP,A) 特開昭59−060856(JP,A) 特開平08−293282(JP,A) 2 JP2006320267 20061011 WO2008044285 20080417 10 20081017 長井 真一 本発明は、イオンを質量電荷比に応じて分離する質量分析器として四重極質量フィルタを用いた四重極型質量分析装置に関する。 質量分析装置の1つとして、イオンを質量電荷比に応じて分離する質量分析器に四重極質量フィルタを用いた四重極型質量分析装置が知られている。典型的な四重極質量フィルタは、4本の円筒状のロッド電極をイオン光軸Cを取り囲むように互いに略平行に配置した構成を有しており、その4本のロッド電極には、イオン選択のためにそれぞれ直流電圧Uと高周波電圧V・cosωtとを重畳した電圧±(U+V・cosωt)が印加される。この電圧によって4本のロッド電極で囲まれる空間には高周波電場と直流電場とが形成され、特定の質量電荷比を有するイオンのみを選択的に通過させ、それ以外の不要なイオンを途中で発散させるようにしている。 こうした四重極型質量分析装置において、四重極質量フィルタを構成する4本の主ロッド電極の前段に、通常、主ロッド電極よりも短いロッド電極から成るプレフィルタ(プリロッドなどと呼ばれる場合もあるが、本明細書では全体としてはプレフィルタ、各電極はプリロッド電極と呼ぶこととする)を設けた構成が知られている(特許文献1、2など参照)。図7はプレフィルタ13及び四重極質量フィルタ14の概略図であり、(a)はイオン光軸Cを含む平面上の配置図、(b)はイオン光軸に直交する面上での配置図である。このプレフィルタ13の主たる目的はイオンの透過率の向上と質量分解能の向上であり、一般的に、四重極質量フィルタ14を構成する主ロッド電極には、上記電圧にさらに直流バイアス電圧Vbiasを加算した電圧Vbias1±(U+V・cosωt)を印加し、一方プレフィルタ13を構成するプリロッド電極には、主ロッド電極に印加される高周波電圧成分に直流バイアス電圧Vbias2を加算した電圧Vbias2±V・cosωtを印加するような制御が行われる。 このように、従来一般的には、プレフィルタ13に印加される直流バイアス電圧は通過させようとする目的イオンの質量電荷比に依らず一定となっている。しかしながら、このような場合には次のような問題がある。即ち、プレフィルタ13を通過するイオンは、図7(a)中に模式的に描いてあるように、プリロッド電極に印加される高周波電圧の周波数fに対し周期T=1/f[sec]で周期的に振動しながら飛行する。イオンの質量電荷比に依らず周波数fを一定とする場合、イオンが持つエネルギーの相違により飛行速度つまりはプレフィルタ13を通過する所要時間が相違すると、プレフィルタ13出口でのイオン振動の位相が相違することになる。通常、四重極質量フィルタ14の入口ではイオン振動の位相が所定の条件に適合している場合に無駄なくイオンが四重極質量フィルタ14に入射するようになっているため、イオンの質量電荷比によっては四重極質量フィルタ14入口での振動の位相が上記入射条件を満たさず、比較的大きな損失を生じる場合がある。その結果、例えば所定の質量範囲に亘る質量走査を行う場合に、質量によって検出感度が相違することになる。特開平7−240171号公報特開平11−25904号公報 本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、分析対象のイオンの質量電荷比に依らずに高い通過効率で以てプレフィルタを通過させて四重極質量フィルタに送り込むことにより、常に高い感度及び精度で質量分析を行うことができる四重極型質量分析装置を提供することにある。 上記課題を解決するために成された本発明は、特定の質量電荷比を有するイオンを選択的に通過させるための主ロッド電極から成る四重極質量フィルタの前段に、複数のプリロッド電極から成る多重極のプレフィルタを配設した四重極型質量分析装置において、 a)前記プレフィルタの各プリロッド電極に直流バイアス電圧と高周波電圧とを加算した電圧を印加する電圧発生手段と、 b)プレフィルタを通過させるイオンの質量電荷比に応じて前記直流バイアス電圧を変化させるように前記電圧発生手段を制御する制御手段と、 を備え、前記制御手段は、所定の質量電荷比以下の範囲では質量電荷比が大きくなるに従って直流バイアス電圧を単調増加させ、その所定の質量電荷比を越える範囲では質量電荷比に依らず直流バイアス電圧を一定に維持するように前記電圧発生手段を制御することを特徴としている。 質量電荷比が大きくなるほどイオンの挙動は周囲の電場の影響を受けにくくなるため、本発明に係る質量分析装置では、プレフィルタを通過する目的イオンの質量電荷比が大きくなるほどプリロッド電極に印加する直流バイアス電圧を大きくする。これにより、目的イオンの質量電荷比が大きい場合には小さい場合に比べて直流電場が相対的に大きくなる。それによって質量電荷比が相対的に大きなイオンがプレフィルタを通過する際の飛行速度を上昇させ、プレフィルタを通過するに要する時間を質量電荷比に依らず揃えることにより、プレフィルタ出口でのイオン振動の位相も揃えることができる。その結果、イオンの質量電荷比に依存することなく、適切な入射条件の下で後段の四重極質量フィルタにイオンを送り込むことができ、常にイオンの通過効率を高めて検出感度の向上を図ることができる。 原理的には目的イオンの質量電荷比が大きくなるほど上記直流バイアス電圧を大きくすればよいが、その電圧の絶対値を大きくし過ぎると、後段の四重極質量フィルタへ印加される直流バイアス電圧との電圧差によるポテンシャルの障壁が高くなる。すると、イオンがそのポテンシャル障壁を越えることが困難になり、その結果、却ってイオンの通過効率が悪化して検出感度の低下を招くおそれがある。ポテンシャル障壁が高くなるのを回避するためにプレフィルタに印加する直流バイアス電圧を上げるに伴って四重極質量フィルタに印加する直流バイアス電圧も大きくすればよいが、そうすると四重極質量フィルタでの質量分解能が低下するという問題が生じる。 そこで本発明に係る質量分析装置では、前記制御手段は、所定の質量電荷比以下の範囲では質量電荷比が大きくなるに従って直流バイアス電圧を単調増加させ、その所定の質量電荷比を越える範囲では質量電荷比に依らず直流バイアス電圧を一定に維持するように前記電圧発生手段を制御する構成としている。 もともと質量電荷比が大きなイオンは、質量電荷比が小さなイオンに比べて高周波電場中で振動しにくいため振動振幅が小さい。そのため、質量電荷比が小さく振動振幅が大きなイオンほどには、プレフィルタ出口での振動位相の相違による位置の相違が大きくない。換言すれば、質量電荷比が大きなイオンでは四重極質量フィルタへの入射条件が緩く、四重極質量フィルタ入口でのイオンの振動の位相が揃っていなくても損失が小さて済む。こうしたことから、所定の質量電荷比を越える範囲では質量電荷比に依らず直流バイアス電圧を一定に維持したとしても四重極質量フィルタへの入射条件を満たさないことによる感度低下は小さく、逆にプレフィルタへ印加される直流バイアス電圧と四重極質量フィルタへ印加される直流バイアス電圧との電圧差によるポテンシャル障壁が高くならずに済むため検出感度の低下を抑制できる効果のほうが大きい。 なお、本発明に係る質量分析装置の一実施態様として、プレフィルタを通過するイオンの振動回数が同一となるような条件の下で、前記所定の質量電荷比以下の範囲での各質量電荷比に対する適正な直流バイアス電圧の値を求め、これに基づいて電圧制御のための情報を作成しておき、前記制御手段は該情報を利用して前記電圧発生手段を制御するようにすることができる。 プレフィルタを構成するプリロッド電極の長さは構造上決まり、プレフィルタに印加される高周波電圧の周波数が質量電荷比に依らず一定である場合、同一の振動回数は同一の飛行速度を意味する。いま、プレフィルタへ印加する直流バイアス電圧をE、イオンの質量をm、素電荷をe(=1.602×10−19)とすると、イオンの飛行速度vは、 v=(2eE/m)1/2 …(1)となり、プリロッド電極の長さをL1とすれば、イオンがプリロッド電極を通過する所要時間tは、 t=L1/v=L1/(2eE/m)1/2=L1・(m/2eE)1/2 …(2)である。プレフィルタに印加される高周波電圧の周波数をf[Hz]とすると、プリロッド電極をイオンが通過する間の周期的な振動回数Pは、 P=f・t=f・L1・(m/2eE)1/2 …(3)となる。ここで、プリロッド電極長さL1と周波数fとは既知であるから、特定の振動回数Pを持つような条件の下で質量mと直流バイアス電圧Eとの関係を予め計算により求めることができる。この関係を電圧制御のための情報として該情報に基づいて各質量(質量電荷比)に対する直流バイアス電圧の値を決めてもよいが、さらに実測により得た情報に基づいて例えば上記関係を補正し、その補正後の情報に基づいて各質量に対する直流バイアス電圧の値を決めるようにしてもよい。いずれにしても、こうした方法により簡便に、イオンの通過効率が最大又はそれに近くなるようにプレフィルタに印加する直流バイアス電圧を適切に制御することができる。本発明の一実施例による四重極型質量分析装置の全体構成図。本実施例の四重極型質量分析装置におけるプレフィルタ及び四重極質量フィルタの電圧源の概略ブロック構成図。本実施例の四重極型質量分析装置におけるプレフィルタの直流バイアス電圧の制御パターンを示す図。プレフィルタの直流バイアス電圧を変化させた場合のイオン強度の変動の測定結果を示す図。プレフィルタに印加する高周波電圧の周波数から計算した各振動周期回数、質量電荷比、及び直流バイアス電圧の関係を示す図。イオン強度と直流バイアス電圧との関係の一例を示す図。プレフィルタ及び四重極質量フィルタの概略図であり、(a)はイオン光軸Cを含む平面上の配置図、(b)はイオン光軸に直交する面上での配置図。符号の説明1…イオン化室3…脱溶媒パイプ5…第1中間真空室6…第1レンズ電極7…スキマー8…オリフィス9…第2中間真空室10…第2レンズ電極11…隔壁12…分析室13…プレフィルタ14…四重極質量フィルタ15…検出器20…四重極電圧源21…RF電圧発生部22…DC電圧発生部23…RF/DC合成部24…主バイアス電圧発生部25…主加算部26…プレバイアス電圧発生部27…プレ加算部30…制御部31…電圧制御データ記憶部 本発明の一実施例である四重極型質量分析装置について図面を参照して説明する。図1は本実施例による四重極型質量分析装置の全体構成図、図2はプレフィルタ及び四重極質量フィルタの電圧源の概略ブロック構成図、図3はプレフィルタの直流バイアス電圧の制御パターンを示す図である。本実施例の四重極型質量分析装置は液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)の一部であり、イオン化部として大気圧イオン化法の1つであるエレクトロスプレイイオン化法を利用したものである。即ち、図1の構成の前段には液体クロマトグラフのカラム出口が接続される。 図1において、図示しない液体クロマトグラフのカラム出口端に接続されたノズル2が配設されたイオン化室1と、プレフィルタ13、四重極質量フィルタ14、及び検出器15が配設された分析室12との間に、それぞれ隔壁で隔てられた第1中間真空室5と第2中間真空室9とが設けられている。イオン化室1と第1中間真空室5との間は細径の脱溶媒パイプ3を介して連通しており、第1中間真空室5と第2中間真空室9との間はスキマー7の頂部に設けられた極小径の通過孔(オリフィス)8を介して連通しており、第2中間真空室9と分析室12との間は隔壁11に設けられた小開口を介して連通している。 イオン源としてのイオン化室1の内部は、ノズル2から連続的に供給される液体試料の気化分子によりほぼ大気圧雰囲気(約105[Pa])になっており、次段の第1中間真空室5の内部はロータリポンプ16により約102[Pa]の低真空状態まで真空排気される。また、その次段の第2中間真空室9の内部はターボ分子ポンプ17により約10-1〜10-2[Pa]の中真空状態まで真空排気され、最終段の分析室12内は別のターボ分子ポンプ18により約10-3〜10-4[Pa]の高真空状態まで真空排気される。即ち、イオン化室1から分析室12に向かって各室毎に真空度を段階的に高くした多段差動排気系の構成とすることによって、最終段の分析室12内を高真空状態に維持している。 第1中間真空室5及び第2中間真空室9の内部にはそれぞれ構造は相違するものの、いずれもイオンを後段に効率良く輸送するためのイオン光学系が配設されている。即ち、第1中間真空室5内には複数(4枚)の板状電極を傾斜状に3列に配置した第1レンズ電極6が設けられており、この電極6により形成する電場によって脱溶媒パイプ3を介してのイオンの引き込みを助けるとともに、イオンをスキマー7のオリフィス8近傍に収束させる。また第2中間真空室9内には、イオン光軸Cを取り囲むように8本のロッド電極を配置したオクタポール型の第2レンズ電極10が設けられており、これによりイオンは収束されて分析室12へと送られる。 分析室12内にあって、四重極質量フィルタ14は、長さがL2である4本の主ロッド電極がイオン光軸Cを中心とする所定半径の円筒に内接するように配置されており、図示しないものの、イオン光軸Cを挟んで対向する2本を1組とする主ロッド電極が接続され、周方向に隣接する主ロッド電極には異なる電圧が印加されるようになっている。また、四重極質量フィルタ14の前段に設けられたプレフィルタ13は主ロッド電極よりも短い長さL1の4本のプリロッド電極から成り、主ロッド電極と同様に、イオン光軸Cを挟んで対向する2本が1組として接続されている。 プレフィルタ13及び四重極質量フィルタ14に電圧を印加するために設けられた四重極電圧源20は、制御部30による制御の下に高周波電圧V・cosωtを発生するRF電圧発生部21、制御部30による制御の下に直流電圧Uを発生するDC電圧発生部22、制御部30による制御の下に四重極質量フィルタ14のための直流バイアス電圧Vbias1を発生する主バイアス電圧発生部24、制御部30による制御の下にプレフィルタ13のための直流バイアス電圧Vbias2を発生するプレバイアス電圧発生部26、高周波電圧V・cosωtと直流電圧Uとを合成(重畳又は加算)するRF/DC合成部23、合成された電圧±(U+V・cosωt)と直流バイアス電圧Vbias1を加算する主加算部25、高周波電圧±V・cosωtと直流バイアス電圧Vbias2を加算するプレ加算部27、を含み、四重極質量フィルタ14にはVbias1±(U+V・cosωt)なる電圧を印加し、プレフィルタ13にはVbias2±V・cosωtなる電圧を印加する。制御部30は電圧制御データ記憶部31に格納されている制御データを利用して、上記RF電圧発生部21、DC電圧発生部22、主バイアス電圧発生部24、プレバイアス電圧発生部26で発生する電圧をそれぞれ制御する。 四重極質量フィルタ14を通過して検出器15に到達するイオンの質量電荷比がMminからMmax(Mmin<Mmax)まで変化するように質量走査を行う場合、一般的には、U/Vを一定に保ちつつUとVとを質量に応じて変化させるように四重極質量フィルタ14への印加電圧を走査する。これに伴いプレフィルタ13に印加される高周波電圧V・cosωtも変化するが、従来、プレ加算部27で高周波電圧に加算される直流バイアス電圧Vbias2は一定であった。これに対し、本実施例の質量分析装置では特徴的な制御として、プレフィルタ13を通過させようとする目的イオンの質量電荷比に応じて直流バイアス電圧Vbias2も変化させるようにしている。この点について詳細に説明する。 図4は、プレフィルタ13に印加する直流バイアス電圧を変化させた場合のイオン強度を、異なる質量電荷比を持つ複数のイオンについてそれぞれ実測した結果を示す図である。この結果から、直流バイアス電圧を増加させてゆくとイオン強度が周期的に変動することが分かる。即ち、前述のように、プレフィルタ13に印加される高周波電圧V・cosωtにより形成される高周波電場によってプレフィルタ13を通過するイオンは振動するが(図7(a)参照)、直流バイアス電圧を変化させることによってプレフィルタ13の出口(四重極質量フィルタ14の入口)での振動の位相が変化し、それに伴い四重極質量フィルタ14への入射の効率が変化して上記のようにイオン強度の変動が生じる。 また、質量電荷比によって最大のイオン強度を与える直流バイアス電圧の値が異なるのが分かる。即ち、上述したようなイオンの周期的な挙動はそのイオンの質量電荷比と直流バイアス電圧との影響を受ける。さらにまた、直流バイアス電圧を或る程度上げていくと、いずれの質量電荷比においてもイオン強度は全体的に減少していくことも分かる。これは上述したように、プレフィルタ13に印加される直流バイアス電圧Vbias2と後段の四重極質量フィルタ14に印加される直流バイアス電圧Vbias1との電圧差によるポテンシャル障壁をイオンが越えることが困難になるためである。 図5は、質量電荷比と直流バイアス電圧との関係を、高周波電圧V・cosωtの周波数f及びプリロッド電極の長さL1から求めたプレフィルタ13を通過する際のイオンの振動回数(振動周期)毎に計算した結果を示す図である。また、この図中には各質量電荷比において最大のイオン強度を与える直流バイアス電圧の実測値もプロットしてある。この結果によれば、振動回数12回(12回周期)の計算結果と測定結果とがよく一致しており、質量電荷比と直流バイアス電圧とが直線的な増加(つまり比例)の関係となっていることが分かる。したがって、イオンがプレフィルタ13を通過する際の振動回数が質量電荷比に依らず12回となるように直流バイアス電圧Vbias2の値を定めることにより、イオン強度を最大又はそれに近い状態とすることができることになる。 但し、前述のように直流バイアス電圧を或る程度(図4の結果では電圧V1)以上上げても、ポテンシャル障壁の影響によってイオン強度は低下してしまう。一方、上述したような直線的な増加の関係において直流バイアス電圧としてV1以上を必要とするような大きな質量電荷比(ここではおおよそm/z1000以上)のイオンはもともと振動しにくいため(図6参照)、直流バイアス電圧の変化に伴うイオン強度の変動も比較的小さい。換言すれば、こうした質量電荷比がかなり大きい範囲のイオンでは直流バイアス電圧をV1以上としたときにイオン強度を改善できる場合はあるものの、その改善の度合いはそれほど大きくなく、直流バイアス電圧をV1に維持したとしても実質的に問題はない。そこでここでは、質量電荷比に応じた適切な直流バイアス電圧の値として、図5中に一点鎖線で示した折れ線の関係を用いることとする。 即ち、図3に示すように質量電荷比M1以下の質量範囲では質量電荷比と直流バイアス電圧とは直線的な単調増加の関係にあり、質量電荷比M1を越える質量範囲では質量電荷比に依らず直流バイアス電圧をV1に保つようにする。このような関係は予め実験と計算とにより求めておくことができるから、この関係を表すような制御データ、例えば数式やテーブルを電圧制御データ記憶部31に格納しておき、質量電荷比を与えると直流バイアス電圧Vbias2を求められるようにしておく。 実際に質量走査による分析を行う際には、制御部30は電圧制御データ記憶部31に格納されている上述したような制御データを用いて、各質量電荷比に応じた電圧値を求め、RF電圧発生部21、DC電圧発生部22、主バイアス電圧発生部24、プレバイアス電圧発生部26を制御する。これにより、イオンがプレフィルタ13を通過して四重極質量フィルタ14に導入される際に、分析対象の目的イオンについては高い効率で以て四重極質量フィルタ14に入射し、四重極質量フィルタ14を通過する際にその目的イオンのみが選別されて検出器15に到達する。したがって、質量電荷比に依らずに高い感度で以てイオンを検出することが可能となる。 なお、基本的には、電圧制御データ記憶部31に格納しておいた制御データをそのまま用いてプレフィルタ13に印加する直流バイアス電圧の値を決めることができるが、例えばプレフィルタ13の表面の汚れの進行、或いは、修理などによるプレフィルタ13の取付寸法(例えば四重極質量フィルタ14との間の距離など)の変化、などにより、質量電荷比と最適な直流バイアス電圧との関係が若干変化する可能性がある。そうした場合には、例えば標準試料を実測した結果に基づいて電圧制御データ記憶部31に格納しておいた制御データに基づく関係を補正し、その補正した結果を利用して電圧制御を行うようにするとよい。こうした機能を予め設けておくことにより、より一層、高感度の分析が可能となる。 また上記実施例では、四重極質量フィルタ14の前段に近接して4本のプリロッド電極から成るプレフィルタ13を設けていたが、4本のプリロッド電極ではなく例えば6本、8本など、より多数のプリロッド電極を用いた多重極の構成としてもよい。つまり、多重極の高周波イオンガイドを四重極質量フィルタ14の直前に設けた構成とした場合でも、本発明を適用することができる。さらに、上記実施例は本発明の一例であるから、上記記載の以外の点について本発明の趣旨の範囲で適宜に変形、追加、修正を行っても本願請求の範囲に包含されることは明らかである。 特定の質量電荷比を有するイオンを選択的に通過させるための主ロッド電極から成る四重極質量フィルタの前段に、複数のプリロッド電極から成る多重極のプレフィルタを配設した四重極型質量分析装置において、 a)前記プレフィルタの各プリロッド電極に直流バイアス電圧と高周波電圧とを加算した電圧を印加する電圧発生手段と、 b)プレフィルタを通過させるイオンの質量電荷比に応じて前記直流バイアス電圧を変化させるように前記電圧発生手段を制御する制御手段と、 を備え、前記制御手段は、所定の質量電荷比以下の範囲では質量電荷比が大きくなるに従って直流バイアス電圧を単調増加させ、その所定の質量電荷比を越える範囲では質量電荷比に依らず直流バイアス電圧を一定に維持するように前記電圧発生手段を制御することを特徴とする四重極型質量分析装置。 プレフィルタを通過するイオンの振動回数が同一となるような条件の下で、前記所定の質量電荷比以下の範囲での各質量電荷比に対する適正な直流バイアス電圧の値を求め、これに基づいて電圧制御のための情報を作成しておき、前記制御手段は該情報を利用して前記電圧発生手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の四重極型質量分析装置。


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