タイトル: | 特許公報(B2)_精液希釈保存用組成物 |
出願番号: | 2008524719 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | A01N 1/02,C12N 1/04,C12N 5/02 |
山城 尚登 佐瀬 孝一 JP 5238501 特許公報(B2) 20130405 2008524719 20070710 精液希釈保存用組成物 日本全薬工業株式会社 591281220 特許業務法人 もえぎ特許事務所 110000774 山城 尚登 佐瀬 孝一 JP 2006191992 20060712 20130717 A01N 1/02 20060101AFI20130627BHJP C12N 1/04 20060101ALI20130627BHJP C12N 5/02 20060101ALN20130627BHJP JPA01N1/02C12N1/04C12N5/02 A01N 1/02 C12N 1/04 C12N 5/02 JSTPlus(JDreamII) 特開平10−279401(JP,A) 特開2000−119101(JP,A) 国際公開第2005/013690(WO,A1) 特開昭63−216476(JP,A) 特表2001−514866(JP,A) 特開2005−002058(JP,A) 特表2000−500327(JP,A) 特開2000−247801(JP,A) 日本組織培養学会 編,組織培養辞典,1993年,p. 313 13 JP2007000745 20070710 WO2008007463 20080117 12 20100622 吉住 和之 本発明は精液希釈保存用組成物に関する。さらに詳しくは血清等の天然の動物由来成分を含まず、かつ従来の保存用希釈液等と同程度又はそれ以上の精液活力を維持し得る精液希釈保存用組成物に関する。 近年、畜産分野において優れた畜肉を産するため、遺伝的に産肉能力、繁殖能力の高い雄の精液を多数の雌に人工的に授精させる方法が行われている。これらの人工授精によって、高能力雄精液の安価利用、精液を介した疾病の予防、繁殖成績の高レベル化、交配にかかる時間短縮・コスト低減等が可能となる。そのため、人工授精の普及が望まれている。 しかし、豚の産肉においては、豚精液は原精液のままでは2日程度しか精液活力(受胎性)が保たれず、3日目以降は急激に受胎率が低下する。また、精子濃度が牛に比べて低く、注入精液量が多く必要で、低温感作に極めて弱いという特徴を持つため、保存が容易ではない。そのため豚の産肉においては、人工授精を利用する農場が極めて少ない状況にある。 従来、精液の保存法には射出精液を希釈液で数倍に希釈した後に液状で保存する方法と、−196℃の液体窒素中で凍結保存する方法が知られている。 液状保存の場合、15℃前後の中温保存法と5℃の低温保存法がある。中温保存法はより一般的な保存法であり受胎率は良いが実用的保存期間が3〜5日と短い。低温保存法は1週間程度使用できるが、受胎率が低下する傾向がある。 凍結保存の場合、凍結法として錠剤法(ペレット法)とストロー法がある。凍結精液を用いる場合、融解後の精液活力が35++以上の精液を発情良好の雌に適期授精を行えば受胎成績は自然交配に劣らないといわれる。しかし、豚精液の凍結保存は牛に比べて難しく、実用化が遅れている。 そこで、精液活力を保ったまま豚精液を保存するために、様々な保護剤や保存用希釈液が開発されている。例えば、デカン等の炭化水素類を用いることで、精子を2〜3℃に急速冷却するコールドショック処理後にも精子の生理的機能を損なわない保護剤(特許文献1)や、ラウリルアルコール等の炭素数10〜14の長鎖アルコールと脂質、さらにウシ血清アルブミン(以下、BSAとする)を含有することにより、精子と細胞の生理的機能を実質的に保持することができる細胞低温傷害防止液(特許文献2)等である。また、クエン酸ナトリウム、BSA、βグリセロリン酸ナトリウム等を含むA液と、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)を含むB液と添加混合することにより、5℃及び15℃の両保存温度で利用できる豚精液保存用希釈液等である(特許文献3)。そして、豚精液保存液の保存性を高めるために、調整された希釈基液と、豚精液を混合する直前に希釈基液に加えるpH調整を行うための添加液とからなる豚精液保存液等も開発されている(特許文献4)。 しかし、これらの従来知られる保存用希釈液等においても、豚精液の精液活力が維持できる期間が短かいという問題があった。また、成分として含まれる血清等に各種サイトカインや増殖因子、ホルモン等の由来が不明なタンパク質等が含まれているため、保存精液の性質を変え、悪影響を及ぼす恐れがあるという問題があった。そして、血清等はロットによって含まれる成分が異なるため、均一な精液希釈保存用組成物が得られないという問題もあった。そこで、精液活力が維持され、かつ完全に天然の動物由来成分を含まない、均一な精液保存液の提供が望まれている。特開平8−26901号公報特開平10−279401号公報特許3364680号公報特許3636609号公報 本発明は、血清由来成分等の天然の動物由来成分を含まず、かつ従来の保存用希釈液等と同程度又はそれ以上の精液活力を維持し得る精液希釈保存用組成物の提供を課題とする。さらにこの精液希釈保存用組成物を用いる精液の保存方法の提供を課題とする。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、血清等の天然の動物由来成分を除き、その他の成分及び濃度を調整することによって、動物由来成分を含まず、従来の保存用希釈液等と同程度又はそれ以上の精液活力を維持し得る精液希釈保存用組成物を見出し、本発明を完成するに至った。さらに、本発明の精液希釈保存用組成物を用いて精液を調整することにより、精液の保存方法を完成するに至った。 本発明の精液希釈保存用組成物は、溶解時、原精液との混合時に泡立ちにくく、精液との混ざりがよいという特徴がある。また、本発明の精液希釈保存用組成物を用いた精液希釈保存液では、精液濃厚部が沈殿しにくく、分散性が良好であるという特徴がある。そのため、従来の保存液で必要とされていた1日1回ないし2回の保存精液の混合の手間を、3日に1回程度の軽減することができる。これらの特徴も、本発明の精液希釈保存用組成物が従来の保存用希釈液等と同程度又はそれ以上の精液活力を維持し得ることに役立っていると考えられる。 すなわち、本発明は次の(1)〜(15)の精液希釈保存用組成物を用いる精液の保存方法に関する。(1) 保護剤、糖類、pH調整剤を含む精液希釈保存用組成物であって、天然の動物由来成分を含まない精液希釈保存用組成物。(2) さらに抗酸化剤を含む上記(1)に記載の精液希釈保存用組成物。(3) さらにアミノ酸を含む上記(1)に記載の精液希釈保存用組成物。(4) 天然の動物由来成分が血清由来成分である上記(1)〜(3)のいずれかに記載の精液希釈保存用組成物。(5) 保護剤が高分子有機ポリマーの水溶性高分子化合物である上記(1)〜(4)のいずれかに記載の精液希釈保存用組成物。(6) 保護剤を0.2〜10.0重量%含む上記(5)に記載の精液希釈保存用組成物。(7) 糖類がグルコース、トレハロース、シュクロース、ラクトースである上記(1)〜(6)のいずれかに記載の精液希釈保存用組成物。(8) pH調整剤がクエン酸三Na二水和物、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、無水クエン酸、EDTA(ethylene diamine tetraacetic acid)及び炭酸水素Naを含む上記(1)〜(7)のいずれかに記載の精液希釈保存用組成物。(9) 抗酸化剤がアスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ビタミンEである上記(2)〜(8)のいずれかに記載の精液希釈保存用組成物。(10) アミノ酸がL−システイン、グルタチオン(還元型)、シスチン、L(+)−グルタミン酸Na一水和物及びグリシンからなる群より選択される少なくとも1つ以上である上記(3)〜(9)のいずれかに記載の精液希釈保存用組成物。(11) 抗酸化剤又はアミノ酸を0.1〜4.2重量%含む上記(9)又は(10)に記載の精液希釈保存用組成物。(12) 以下の(a)〜(d)の成分を含む精液希釈保存用組成物。(a)保護剤として、高分子有機ポリマーの水溶性高分子化合物を含み、(b)糖類として、グルコースを含み、(c)pH調整剤として、クエン酸三Na二水和物、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、無水クエン酸、EDTA及び炭酸水素Naを含み、(d)抗酸化剤又はアミノ酸として、L−システイン、グルタチオン(還元型)、シスチン、L(+)−グルタミン酸Na一水和物、アスコルビン酸、グリシン及びアルギニンからなる群より選択される少なくとも1つ以上を含む。(13)抗酸化剤として、アスコルビン酸を含む上記(12)に記載の精液希釈保存用組成物。(14) 上記(1)〜(13)のいずれかに記載の精液希釈保存用組成物。(15) 上記(1)〜(13)のいずれかに記載の精液希釈保存用組成物を用いて、精液を保存する方法。 本発明により確立された精液希釈保存用組成物は血清由来成分等の天然の動物由来成分を含まないため、保存された精液に対する悪影響の恐れがなく、かつ安価に得ることができる。また、本発明の精液希釈保存用組成物は、従来の保存用希釈液等と同程度又はそれ以上の精液活力を維持し得るため、有用である。精液希釈保存用組成物の分散性を示した図である(実施例1)。 本発明の「精液希釈保存用組成物」とは、精液を保存するための組成物であって、保護剤、糖類、pH調整剤を含み、一方で天然の動物由来成分を含まない組成物のことをいう。さらに本発明の「精液希釈保存用組成物」とは、抗酸化剤又はアミノ酸を含み、一方で天然の動物由来成分を含まない組成物のことをいう。 本発明の精液希釈保存用組成物は室温(23℃前後に保たれた安定性試験室で保管時の温度)又は4℃で保存した場合、少なくとも6ヶ月間、外観が変わらないものであることが好ましい。さらに本発明の精液希釈保存用組成物は、粉末を精製水1Lに溶解した時のpH、浸透圧がほとんど変わることがなく、かつ保存による精液活力も変化しないものであることが好ましい。 本発明の「精液希釈保存用組成物」を用いて精液を保存する対象は特に問わないが、牛、豚、鳥、ヤギ等が好ましく、これらの種類は特に問わない。豚に用いる場合には、豚の種類はいずれでもよいが、種雄豚であることが好ましく、種雄豚の種類は特に問わない。 本発明の「天然の動物由来成分を含まない」とは、血清由来成分等の成分を含まないことをいう。これは天然の動物由来成分が保存される精子に与える影響が不明であり、悪影響の恐れがあるためである。本発明の精液希釈保存用組成物はその組成が保存される精液に影響を与えない、由来が明確な成分のみからなることが望ましい。そのため本発明の精液希釈保存用組成物は、天然の動物由来成分は全く含まないことが望ましい。 本発明の「保護剤」とは、精子頭部の頭帽にあるアクロソーム中に含まれる受精に必要な各種分解酵素が欠失しないように、その頭部及び頭帽を保護し、頭部が損傷しないようにするためのもののことをいう。 市販品の希釈液ではウシ血清アルブミン及び各研究機関では鶏卵黄等が保護剤として用いられている。しかし、本発明の「保護剤」は、これらの天然の動物由来成分を全く用いない場合においても、精液を十分に保護できる成分であればよい。例えば、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)、ポリビニルピロリドン(PVP)、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。また、高分子有機ポリマーの水溶性化合物等が挙げられる。 これらは精液希釈保存用組成物に0.2〜10.0重量%含まれることが好ましく、0.2〜8.1重量%含まれることが望ましい。この範囲内で添加しないと、性能が維持されない場合があるためである。また10.0重量%を超える添加では、溶解性の問題が生じるためである。 本発明の「糖類」は、天然の動物由来成分を全く用いない場合においても、精液を十分に保護できる成分であればいずれも用いることができる。例えば、トレハロース、シュクロース、ラクトース、グルコース等が挙げられる。これらは精液希釈保存用組成物に50.4〜59.9重量%含まれることが好ましく、52.5〜59.5重量%、特に53.0〜59.5重量%含まれることが望ましい。 本発明の「pH調整剤」は、天然の動物由来成分を全く用いない場合においても、精液を十分に保護できる成分であればいずれも用いることができる。例えば、クエン酸三Na二水和物、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、無水クエン酸、EDTA及び炭酸水素Naを含むことが好ましい。また、ヒドロキシエチルピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)を含んでも良い。これらは精液希釈保存用組成物に、クエン酸三Na二水和物13.3〜15.4重量%、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン11.2〜12.8重量%、無水クエン酸5.1〜6.6重量%、EDTA4.1〜6.5重量%、炭酸水素Na1.0〜2.2重量%含まれることが好ましい。特に、クエン酸三Na二水和物14.0〜15.2重量%、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン11.5〜12.5重量%、無水クエン酸5.9〜6.4重量%、EDTA4.8〜5.2重量%、炭酸水素Na1.5〜1.7重量%含むことが好ましい。 本発明の「抗酸化剤」は、天然の動物由来成分を全く用いない場合においても、精液を十分に保護できる成分であればいずれも用いることができる。例えば、アスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ビタミンE等であることが好ましい。 また、本発明の「アミノ酸」も同様に、天然の動物由来成分を全く用いない場合においても、精液を十分に保護できる成分であればいずれも用いることができる。例えば、L−システイン、グルタチオン(還元型)、シスチン、L(+)−グルタミン酸Na一水和物、グリシン、L−システイン塩酸塩一水和物、レシチン、エルゴチオネイン及びアルギニンからなる群より選択される少なくとも1つ以上であることが好ましい。 これらは本発明の精液希釈保存用組成物にL−システイン0.1〜4.2重量%、グルタチオン(還元型)0.1〜4.2重量%、シスチン0.1〜4.2重量%、L(+)グルタミン酸Na一水和物0.1〜4.2重量%、アスコルビン酸0.1〜4.2重量%、グリシン0.1〜4.2重量%、Lシステイン塩酸塩一水和物0.1〜4.2重量%レシチン0.1〜4.2重量%、エルゴチオネイン0.1〜4.2重量%、及びアルギニン0.1〜4.2重量%からなる群より選択される少なくとも1つ以上含むことが好ましい。特に抗酸化剤として、アスコルビン酸を0.2〜0.22重量%含むことが好ましく、またアミノ酸として、L(+)グルタミン酸Na一水和物0.2〜0.22重量%含むことが好ましい。 抗酸化剤またはアミノ酸は、この範囲内で添加しないと、性能が維持されない場合があり、また、0.22重量%を超える添加では、溶解時のpH及び浸透圧に影響を及ぼす場合がある。 本発明の「精液を保存する方法」とは、必要時において本発明の精液希釈保存用組成物を精製水に溶解して調整した水溶液と、精液を混合し、一定温度で保存することをいう。本発明において、精液希釈保存用組成物の水溶液と精液を混合したものを「精液希釈保存液」という。 精液と精液希釈保存用組成物の水溶液との混合比率は、精液に含まれる精子数によって異なるが、「精液希釈保存液」に含まれる精子が0.4〜1億個/mLとなるように混合することが好ましい。人工授精に用いる場合には、このように調製した「精液希釈保存液」を60〜100ml用いることが好ましい。「精液希釈保存液」の保存温度は、精液活力を保てる温度であればいずれの温度でもよいが、4℃〜中温(15〜18℃)、特に中温(15℃)が好ましく、恒温器等で恒常的に中温(15℃)に保たれた状態であることが最も好ましい。また、必要に応じて抗生物質を添加して保存することもできる。 本発明の「精液活力」とは、原精液に含まれる精子の生存率及び運動性を次の活力判断基準に従って判断したもののことをいう。一般に、精液活力が60++以上の精液を発情良好の雌に適期授精を行えば受胎成績は自然交配に劣らないといわれるが、従来の保存用希釈液と同程度又はそれ以上に高い生存率及び運動性を有していることが好ましい。ウシ等の精液判定において、専用の機械があるものはそれを用いて行い、豚等の専用の機械がないものは精液性検査板に精液を乗せ顕微鏡で目視により判定することができる。活力判定基準1.生存率は%で表示した(概ね5%きざみ)。2.運動性は+++、++、+、±、−の5段階で表示した。 +++:極めて活発な前進運動を行うもの ++:活発な前進運動を行うもの +:緩慢前進運動を行うもの ±:旋回又は振子運動を行うもの −:運動しないもの 以下、本発明において、精液活力は全てこの基準に従って判断した。 以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はなんらこれらに限定されるものではない。<精液希釈保存用組成物の調整> 精液希釈保存用組成物として表1に記載の「開発組成物1」、「開発組成物2」を用いた。比較として豚精液希釈液として処方が開示されている「希釈用組成物1」、「希釈用組成物2」を用いた。各組成物の調整には、次の成分を用いた。1.成分 1)保護剤として、BSA(和光純薬)、MC(和光純薬)又はCMC−Na(和光純薬)を用いた。 2)糖類として、グルコースを用いた。 3)pH調整剤として、クエン酸三Na二水和物、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、無水クエン酸、EDTA、炭酸水素Na及びHEPESを用いた。 4)抗酸化剤、アミノ酸として、アスコルビン酸を用いた。2.調整 上記1の成分を、表1に記載の組成となるように各重量用いて混合することで各組成物を調整した。得られた開発組成物を精液希釈保存用組成物としてアルミ製の袋(1包)に充填し、高温、多湿を避け室温(23℃)で保管した。 使用時に精製水1Lに1包を加え、完全に溶解し調整して用いた。溶解後の精液希釈保存用組成物の水溶液は速やかに使用した。<精液希釈保存用組成物の保存性能試験(精液活力測定)> 表1の各組成物の水溶液に飼育豚(ランドレース)の精液を含まれる精子が0.5億個/mLになるように加え精液希釈保存液を調整した。それぞれの精液希釈保存液にアミカシンを100mg/Lになるように添加して、中温(15℃)において保存した。精液活力を開始時〜7日後までを経時的に調べ、得られた結果を表2に示した。精液活力の判定は精液性状検査板を用い、上記の基準に従って行った。 結果 「開発組成物1」、「開発組成物2」において、保護剤としてBSAの代わりにMCを用いた場合でもpH、浸透圧の測定値に変化は無く、15℃保存下で1週間保存しても安定であると考えられた。精液活力においても15℃条件下で7日間の保存に対して従来の保存用組成物と比較して最も良い活力を維持することが確認された。従って本発明の精液希釈保存用組成物はBSA等の動物由来成分を含まなくても、従来の保存用希釈液等と同程度の精液活力を維持し得ることが示された。<精液希釈保存用組成物の経時的濁度変化の測定> 上記において調製した「開発組成物1」を用いた精液希釈保存液の精液の保存状態を確認した。比較として「希釈組成物1」を用いた。図1に示したように、「開発組成物1」を用いた精液希釈保存液は「希釈組成物1」を用いた精液希釈保存液よりも分散性が良いことが示された。 また、これらの分散性の維持度合いについて希釈時〜10日後までの経時的な濁度の変化を吸光度(550nm)によって調べ、得られた結果を表3に示した。その結果、表3に示すように、希釈後3日経過程度であれば、「開発組成物1」を用いた精液希釈保存液の分散性が維持されていることが示された。従って、「開発組成物1」を用いた精液希釈保存液においては、本発明の従来の保存液で必要とされていた1日1回ないし2回の保存精液の混合の手間を、3日に1回程度に軽減することができることが示唆された。<精液希釈保存用組成物の調整>1.成分 精液希釈保存用組成物の調整において、実施例1において使用する成分に代えて、次の成分を用いた。 1)保護剤:PVP、キサンタンガム、アルギン酸等、高分子ポリマーからなる群より選択される少なくとも1つ以上を選択した。 2)pH調整剤:クエン酸三Na二水和物、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、無水クエン酸、EDTA及び炭酸水素Naからなる群より選択される少なくとも1つ以上を用いた。 3)抗酸化剤、アミノ酸等:L−システイン、グルタチオン(還元型)、シスチン、L(+)−グルタミン酸Na一水和物、アスコルビン酸及びグリシンからなる群より選択される少なくとも1つ以上を用いた。2.調整 上記1の成分を組み合わせ、次に記載の処方1〜6の精液希釈保存用組成物となるようにそれぞれ混合することで調整した。得られた精液希釈保存用組成物をアルミ製の袋(1包)に充填し、高温、多湿を避け室温(23℃)で保管した。使用時に精製水1Lに1包を加え、完全に溶解して精液希釈保存用組成物の水溶液に調整して用いた。 次の保護剤、糖類、pH調整剤と、各処方における種々の抗酸化剤、アミノ酸等を添加することで、処方1〜6の精液希釈時保存用組成物を調整した。 保護剤:CMC−Na 0.1〜4.0g 糖類:グルコース 23.0〜28.0g pH調整剤:クエン酸三Na二水和物 6.9g、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン 5.65g、無水クエン酸 2.9g、EDTA 2.35g、炭酸水素Na 0.75g 各処方における抗酸化剤、アミノ酸等: 処方1;グルタチオン(還元型) 0.1g 処方2;L(+)−グルタミン酸Na一水和物 0.1g 処方3;アスコルビン酸 0.1g 処方4;シスチン 0.1g 処方5;L−システイン0.1g 処方6;グリシン 0.1g<精液希釈保存用組成物の経時安定性試験>1.性状及び規格試験 実施例2で作成した精液希釈保存用組成物のうち、処方6の精液希釈保存用組成物をアルミ製の袋に充填し、高温、多湿を避け室温(23℃)又は4℃で6ヶ月間保存した。この保存期間における精液希釈保存用組成物の経時安定性を、精液希釈保存用組成物の外観における性状と、用時調整した水溶液におけるpH及び浸透圧の性状の規格試験によって調べた。2.15℃保存性能試験(精液活力測定) 処方2の精液希釈保存用組成物を用いて、実施例1、2と同様に精製水に溶解した精液希釈保存用組成物の水溶液に飼育豚(ランドレース)の精液を0.5億個/mLになるように加え、精液希釈保存液を得た。精液希釈保存液の調製にあたり、精子が10億個/mlの原精液5mlに精液希釈保存用組成物の水溶液5mlをゆっくり加え、さらに10分後精液希釈保存用組成物の水溶液を90ml加えることで調製した。この精液希釈水溶液を中温(15℃)において7日間保存した後、精液活力を判定した。性状及び規格試験と保存性能試験の結果を表4に示した。 表4に示すように、この結果より精液希釈保存用組成物は、6ヶ月間の保存でも性状及び規格に変化がほとんど見られず、精液活力も衰えないことが確認できた。これによって、本発明の精液希釈保存用組成物は少なくとも6ヶ月間は保存が可能であり、必要に応じて調整して用いることができることが示された。<精液希釈保存用組成物の保存性能試験> 実施例2で調整した処方1〜6の精液希釈保存用組成物の精液活力の保存性能を調べた。比較として保護剤としてBSAを用いた組成物を調製して用いた。比較として用いた組成物の組成を次に示した。 比較組成物 保護剤:BSA 2.0g 糖類:グルコース 26.5g pH調整剤:クエン酸三Na二水和物 6.9g、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン 5.65g、無水クエン酸 2.9g、EDTA 2.35g、炭酸水素Na 0.75g 抗酸化剤、アミノ酸等:アスコルビン酸 0.1g 各精液希釈保存用組成物の精液活力の保存性能は、実施例1に記載の保存性能試験(精液活力測定)と同様に行った。精液の希釈時の活力及び中温(15℃)において7日間保存後の活力を調べた。 結果 処方1〜6及び比較組成物を用いた精液希釈保存液に含まれる、精液の希釈時活力はいずれも80+++〜90+++であった。これらの7日間保存後の精液の活力は、処方1〜6の精液希釈保存用組成物を用いたものはほぼ60++以上で、活力が高いもので70++であった。一方、比較組成物を用いたものは45++〜55++であった。従って、本発明の精液希釈保存用組成物は、動物由来成分を含まなくても、従来の保存用希釈液等と同程度又はそれ以上の精液活力を維持し得ることが確認できた。 本発明の精液希釈保存用組成物は安全かつ安価であって、従来の保存用希釈液等と同程度又はそれ以上の精液活力を維持し得ることから、広く畜産動物の人工授精業者や養豚家において利用することができる。保護剤、糖類、pH調整剤を含む精液希釈保存用組成物であって、血清由来成分を含まない精液希釈保存用組成物であって、保護剤がメチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)、ポリビニルピロリドン(PVP)、キサンタンガム、及びアルギン酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1つ以上である精液希釈保存用組成物。さらに抗酸化剤を含む請求項1に記載の精液希釈保存用組成物。さらにアミノ酸を含む請求項1に記載の精液希釈保存用組成物。保護剤を0.2〜10.0重量%含む請求項1〜3のいずれかに記載の精液希釈保存用組成物。糖類がグルコース、トレハロース、シュクロース、ラクトースである請求項1〜4のいずれかに記載の精液希釈保存用組成物。pH調整剤がクエン酸三Na二水和物、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、無水クエン酸、EDTA(ethylene diamine tetraacetic acid)及び炭酸水素Naを含む請求項1〜5のいずれかに記載の精液希釈保存用組成物。抗酸化剤がアスコルビン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ビタミンEである請求項2〜6のいずれかに記載の精液希釈保存用組成物。アミノ酸がL−システイン、グルタチオン(還元型)、シスチン、L(+)−グルタミン酸Na一水和物及びグリシンからなる群より選択される少なくとも1つ以上である請求項3〜7のいずれかに記載の精液希釈保存用組成物。抗酸化剤又はアミノ酸を0.1〜4.2重量%含む請求項7又は8に記載の精液希釈保存用組成物。以下の(a)〜(d)の成分を含む精液希釈保存用組成物。(a)保護剤として、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)、ポリビニルピロリドン(PVP)、キサンタンガム、及びアルギン酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1つ以上を含み、(b)糖類として、グルコースを含み、(c)pH調整剤として、クエン酸三Na二水和物、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、無水クエン酸、EDTA及び炭酸水素Naを含み、(d)抗酸化剤又はアミノ酸として、L−システイン、グルタチオン(還元型)、シスチン、L(+)−グルタミン酸Na一水和物、アスコルビン酸、グリシン、L−システイン塩酸塩一水和物、レシチン、エルゴチオネイン及びアルギニンからなる群より選択される少なくとも1つ以上を含む。抗酸化剤としてアスコルビン酸を含む請求項10に記載の精液希釈保存用組成物。さらに抗生物質を含む請求項1〜11のいずれかに記載の精液希釈保存用組成物。請求項1〜12のいずれかに記載の精液希釈保存用組成物を用いて、精液を希釈又は保存する方法。