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タイトル:特許公報(B2)_α−メチルスチレンの製造方法、及び該α−メチルスチレンを用いた耐熱性スチレン系共重合体の製造方法
出願番号:2008511020
年次:2009
IPC分類:C08F 12/12,C08F 2/00,C07C 7/05,C07C 15/46


特許情報キャッシュ

岡田 祐二 江原 賢司 JP 4327239 特許公報(B2) 20090619 2008511020 20070416 α−メチルスチレンの製造方法、及び該α−メチルスチレンを用いた耐熱性スチレン系共重合体の製造方法 旭化成ケミカルズ株式会社 303046314 稲葉 良幸 100079108 大貫 敏史 100109346 岡田 祐二 江原 賢司 JP 2006113271 20060417 JP 2006114013 20060418 JP 2006143707 20060524 20090909 C08F 12/12 20060101AFI20090820BHJP C08F 2/00 20060101ALI20090820BHJP C07C 7/05 20060101ALI20090820BHJP C07C 15/46 20060101ALI20090820BHJP JPC08F12/12C08F2/00 ZC07C7/05C07C15/46 C08F12/00,C08F112/00,C08F212/00, C08F2/00 国際公開第2005/070978(WO,A1) 10 JP2007058262 20070416 WO2007119849 20071025 26 20090206 川上 智昭 【技術分野】【0001】 本発明は、重合用モノマーとしての高純度のα−メチルスチレンを得る方法に関する。詳しくは、本発明は、α−メチルスチレンに微量含まれるアルデヒド、ケトン等の極性物質を、塩基性物質の存在下、反応を行わせて除去することにより、複雑な工程を必要とせずに効率よく除去することを可能とし、α−メチルスチレンを高純度に精製する方法に関する。さらに、本発明は、該モノマーを用いて得ることができる、着色が少なく、耐熱性、耐候性、溶融安定性、成形性、強度、剛性に優れたスチレン系共重合体に関する。【背景技術】【0002】 スチレン系樹脂は、透明性、剛性、寸法安定性等の材料性能に優れるだけでなく、射出成形、延伸シート、フィルム、発泡シート、発泡ボード、ブロー成形等の様々な成形加工が可能であること、さらにスチレン系樹脂の多くは、ラジカル重合法による塊状重合、高い単量体濃度による溶液重合、懸濁重合、乳化重合により大量に安価に製造ができることから非常に多種多様な用途に利用されている。【0003】 スチレン系樹脂の代表的なものとしては、ポリスチレン(GPPS)、スチレン/アクリロニトリル(AS)、スチレン/メタクリル酸メチル(MS)、スチレン/メタクリル酸(SMAA)、スチレン/無水マレイン酸(SMA)等があるが、この中でもスチレンの単独重合体(ポリスチレン、GPPS)が最も多く汎用的に利用されている樹脂である。【0004】 ポリスチレンは、多くの優れた性能を有しており、また安価なため利用価値は高く、さまざまな用途に用いられているが、その主な用途を具体的に述べると次の通りである:(包装用途) 弁当容器(発泡シート:PSP)、カップ麺容器(発泡シート:PSP)、透明コップ、スプーン、フォーク、野菜包装シート(2軸延伸シート)、封筒窓(家電OA用途) テレビ、エアコン、OA機器のハウジング、電気冷蔵庫のトレー、カセット・MD・MOのシェル(日用雑貨品) 玩具、文房具用品(建材用途) 断熱材(発泡ボード)、畳(発泡ボード)。【0005】 しかしながら、この樹脂の性能でも満足できない用途、例えば、耐熱性が不足して利用できない用途があった。具体的には、GPPSの耐熱性は約100℃(ガラス転移温度)であるため、煮沸消毒のため加熱した水蒸気に接する用途、電子レンジ加熱を要する食品包装用途、夏場高温雰囲気下に曝されやすい車搭載用の成形品用途等においては、いずれも成形品の変形を起こす危険が伴うため安心して利用することができなかった。【0006】ポリスチレンの耐熱性を高める手法の一つに、極性官能基を含有する単量体をスチレンと共重合する方法がある。例えば、スチレンとメタアクリル酸の共重合体(SMAA)、スチレンと無水マレイン酸との共重合体(SMA)、スチレンと無水マレイミドとの共重合体等があり、極性官能基含有の単量体の共重合組成量を制御することによって耐熱性を任意に変えることができる。例えば、耐熱スチレン系樹脂として代表的なSMAAはビカット耐熱温度が105〜125℃である。しかしながら、極性官能基を含有する共重合体は、高温下に曝されると極性基の副反応により高分子鎖の架橋反応が起こり、その結果ゲル様物質の生成、高粘度化による成形加工性の低下を伴い、品質及び生産性の観点から充分ユーザーに受け入れられていなかった。【0007】 また、高温溶融滞留下で架橋反応が起こりやすいということは、成形加工時に高分子量体が変性しやすいことであり、このことは樹脂のリサイクル化、リユース化が難しいことを意味する。例えば、射出成形品を得る際には、スプルーやランナー部が発生し、また、二軸延伸シートや発泡シートから成形品を得る際には成形品以外の端材(スケルトン)が発生する。これらは通常、粉砕又は裁断した後にバージンのペレットに部分的に混ぜて再利用するか、ポリスチレン等の汎用樹脂に部分的に混ぜて再利用することが一般的に行われている。【0008】 しかしながら、溶融加工時に高分子量体の架橋等により樹脂の流動特性が変わると再利用化が困難となり、バージンペレットへのリサイクル材としての利用には制限があるという問題があった。更に、極性官能基含有の共重合体は、一般にポリスチレンとは相溶性が悪く、溶融混合したとしても機械物性の低下を招くだけでなく透明性も失われるために、汎用ポリスチレンへのリサイクル材としても利用できていなかった。【0009】 近年、樹脂の有効利用化が重要視され、各種のリサイクル法が成立し施行されてきた。樹脂がリサイクル、リワーク、リユースできるということは、今後の樹脂市場では必要不可欠なニーズとなってくる。今後開発される樹脂材料は、数回の溶融加工を経ても高分子鎖の切断による分子量の低下や単量体の発生がほとんど起こらず、有効に再利用できる樹脂であることが必要である。従って、これまでのスチレン系共重合体よりも溶融安定性の高い樹脂材料の開発が望まれていた。【0010】 これまでの耐熱性スチレン系樹脂のもう一つの問題点として、成形時の加工条件範囲が狭いという点があった。共重合体の耐熱性が向上することは、即ち、高分子鎖の流動開始する温度が向上することと同義である。従って、成形加工時にポリスチレンと同じ流動特性を得ようとするならば、耐熱性が向上した分、加工温度を高める必要がある。しかし、極性官能基含有のスチレン系共重合体はその分解開始温度が耐熱性に見合う分の温度は向上しない。このため成形加工温度範囲が狭くなり、その結果生産性、品質の低下を招くという問題があった。【0011】 極性官能基を含有しない単量体を使ってスチレン系樹脂の耐熱性を向上させる方法もある。例えば、スチレンとα−メチルスチレンとの共重合体は、α−メチルスチレンの含有量に従ってガラス転移温度が上昇することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。【0012】 しかし、α−メチルスチレンは、工業的製法の代表例であるラジカル溶液重合法を使って、スチレンとα−メチルスチレンの共重合を試みた場合、1)α−メチルスチレンの天井温度が約60℃と低く、高分子量化が困難である;2)α−メチルスチレンの共重合体中への含有量に限界があり目的の耐熱性を得ることができない;3)溶融時の熱安定性が悪く成形加工条件によっては共重合体の熱分解が起こり、単量体成分の発生、分子量の低下を引き起こしやすい;等多くの問題点があって未だに工業的に利用された例はなかった。【0013】 一方、α−メチルスチレンは、ブチルリチウム開始剤を使ってリビングアニオン重合をすることが可能なため、スチレンとα−メチルスチレンの共重合体をリビングアニオン重合によって製造することもできる(例えば、特許文献1参照)。 そこで、リビングアニオン重合を完全混合型の重合反応器を使って連続リビング重合法によって行うことにより、ラジカル溶液重合法での課題を解決する方法が提案された(例えば、特許文献2参照)。この方法の特徴は、リビング重合の反応系内に存在するα−メチルスチレンモノマー、スチレンモノマー、リビング共重合体の濃度が常に一定となる様な連続式の完全混合型反応器を使って重合する方法であり、1)リビング重合法を用いているため、高分子量化が可能である;2)反応系内の濃度を一定に保つことができるため、α−メチルスチレンの共重合体中への含有量をコントロールすることができる;3)アニオン重合法のため共重合体の主鎖に頭−頭結合や尾−尾結合等の不安定な結合が存在せず、溶融時の熱安定性が向上する;という効果がある。【0014】 しかし、一般的にリビングアニオン重合は原料に含まれる不純物の影響を受けやすい重合法である。特に、活性アニオンは水,アルデヒド、ケトン、アルコール等の極性物質と反応し易いことが知られている。極性物質が微量でもアニオン重合の反応系内に存在すると、活性アニオンは極性物質と反応して安定な結合を形成してしまうため、重合が停止するという問題が起こる。そのため、リビングアニオン重合を行うに際しては、原料中の極性物質を減らし、反応系内への極性物質の混入をできる限り抑制しなくてはならない。【0015】 また、上記極性物質や活性アニオンと極性物質の反応物は、重合プロセスの中で変性し着色物質を生ずる可能性がある。この場合、ポリマーの着色や、ポリマー物性の低下などを生ずることになり好ましくない。この点からも、原料系中の極性物質はできる限り除くことが好ましい。【0016】 ところで、α−メチルスチレンの工業的な製造方法はキュメン法フェノール製造プロセスが一般的である。キュメン法フェノールの製造プロセスは、原料キュメンの酸化で得られたキュメンハイドロパーオキサドを80〜85%まで濃縮し、次いで、フェノールとアセトンに酸分解した後、中和洗浄する工程を包含する。そして、得られた粗製フェノールは、アセトン、水、キュメン、α−メチルスチレン、フェノール等を含み、斯かる粗製フェノールから、蒸留により、精製フェノールが製造され、同時に、アセトン及びα−メチルスチレンがそれぞれ分離して回収される(例えば、特許文献3、4参照)。【0017】 しかしながら、上記の方法により、精製フェノールの製造と同時にアセトン及びα−メチルスチレンをそれぞれ分離して回収しようとした場合は、次の様な問題がある。すなわち、フェノール製造時に副生したアルデヒドやケトン等の極性物質の中には、α−メチルスチレンと沸点が近く通常の蒸留による分離が困難なものがある。蒸留精製のみでは極性物質が製品α−メチルスチレンに不純物として混入してしまう。【0018】 また、極性物質を含む不純物を除く目的で、粗製α−メチルスチレンを蒸留前にアルカリ洗浄槽に供給して洗浄した後で、蒸留塔に供給して製品α−メチルスチレンを回収する方法が行われている(例えば、特許文献5、6参照)。しかしながら、上記の方法による、アルカリ洗浄槽での洗浄では、極性物質のアルカリ水溶液への溶解性が十分ではないため、α−メチルスチレン中に極性物質が残存してしまうため微量の極性物質までは除くことができない。また、極性物質をアルカリ洗浄槽で反応させ低揮発性物質とし、α−メチルスチレンとの相対揮発度の差を大きくし、その後蒸留するという方法も考えられるが、この場合、反応を100%近くまで進行させなければ、極性物質を除くことができない。【0019】 一方、実験室では、重合用モノマーであるスチレン類の精製方法として、チオ硫酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液をはじめとするアルカリ性物質、水で洗浄した後、乾燥、蒸留する方法が一般的である(例えば、非特許文献2参照)。しかしながら、上記の方法は、重合禁止剤、過酸化物、重合体を除くことは可能であるが、前述のアルカリ洗浄槽による洗浄と同様の理由で、極性物質をα−メチルスチレンから完全に除去することはできない。【0020】 また、重合前にモノマー中にアルキルリチウム等を加え、極性物質を不活性化し、その後蒸留によって除去する方法も示されているが、この場合、反応に伴い相当量のポリマーやオリゴマー等が生成するため、工業的には適切な方法ではない。また,蒸留の条件によってはモノマー中にオリゴマーが混入し重合に悪影響を与える可能性がある。【0021】 その他、α−メチルスチレンの精製方法として、シリカゲル、アルミナ、イオン交換樹脂等を充填したカラムを用いた精製が行われている(例えば、特許文献2、非特許文献3参照)。しかしながら、通常、これらの充填剤には、酸性成分、もしくは塩基性成分を含んでいる。すなわち、上記の方法は、充填剤に存在する酸性成分はα−メチルスチレンの低分子量オリゴマーを生成させる、または、充填剤に存在する塩基性成分は極性物質を高分子量の縮合物質に変質させる可能性がある。生成したオリゴマーや高分子量の縮合物はカラム内でモノマーに混入し、それらが混入したモノマーを用いて重合を行うと、重合が停止するなど反応に支障をきたす恐れがある。さらにオリゴマーや高分子量の縮合物は揮発度が低いため、重合したポリマー溶液から除去できずに最終製品のポリマー中に混入してしまう。その結果、製品ポリマーの耐熱性の低下や黄色化といった性能劣化を招く問題がある。【0022】 以上のように、α−メチルスチレンの精製方法において、従来の方法は工業的に有効実施しうるものがないのが現状である。【特許文献1】特公平6−10219号公報【特許文献2】特開2006−052346号公報【特許文献3】特開昭55−94326号公報【特許文献4】特公昭64−7058号公報【特許文献5】特開2000−86559号公報【特許文献6】特開平3−258733号公報【非特許文献1】Journal of Applied Polymer Science, Vol.41, p383 (1990)【非特許文献2】R.H.Boundry, R.F.Boyer,“Styrene, its Polymers, Copolymers and Derivatives,”Reinhold (1952)【非特許文献3】Journal of Applied Polymer Science, Vol.40, p41(1990)【発明の開示】【発明が解決しようとする課題】【0023】 本発明の目的は、α−メチルスチレンを精製するにおいて、α−メチルスチレンに微量含まれる極性物質を、効率よく除去することにより、極性物質をほとんど含有しない、高純度のα−メチルスチレンを得ることができるα−メチルスチレンの製造方法を提供することである。さらに、本発明は、該α−メチルスチレンを用いることにより、ポリマーの着色を防止し、SMAA、SMAの弱点である耐熱性、耐候性が優れたスチレン系共重合体の製造方法を提供することを目的とする。【0024】 本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、α−メチルスチレンに微量含まれる特定の極性物質が、ポリマーの着色や重合コントロール阻害の原因であり、また、従来の精製法で生成するオリゴマーもポリマーの着色や物性低下の原因になりうることを見出した。これらを防止するには、極性物質やオリゴマーの含有量を一定範囲内に制御すべく、これら極性物質を除去する方法として、塩基性物質の存在下にα−メチルスチレン中に含まれる極性物質を反応させ、反応により生じる低沸点の副生物を極性物質の反応物と分離することにより、α−メチルスチレンを精製する方法が、オリゴマーの生成もなく効率的に極性物質を除去できることを見出し、本発明の完成に至った。【0025】 すなわち、本発明は以下に記載するとおり、α−メチルスチレンの精製方法、リビングアニオン重合用α−メチルスチレン及びスチレン系共重合体を提供する。【0026】 本発明の第1の態様では、〔1〕以下の工程を含むα−メチルスチレンの製造方法:1)塩基性物質の存在下にα−メチルスチレン中に含まれるカルボニル基含有化合物を含む極性物質を反応させる工程; ここで、該塩基性物質は塩基性度が該塩基性物質の共役酸の酸解離定数pKaとして10以上のものである;2)反応によって生じた低沸成分をカルボニル基含有化合物を含む極性物質の反応物とα−メチルスチレンの混合物から分離する工程;3)カルボニル基含有化合物を含む極性物質の反応物とα−メチルスチレンの混合物からα−メチルスチレンを分離する工程、〔2〕以下の工程を含むα−メチルスチレンの製造方法:1)塩基性物質の存在下にα−メチルスチレン中に含まれるカルボニル基含有化合物を含む極性物質を反応させる工程; ここで、該塩基性物質は塩基性度が該塩基性物質の共役酸の酸解離定数pKaとして10以上のものである;2)反応によって生じた低沸成分とα−メチルスチレンの混合物をカルボニル基含有化合物を含む極性物質の反応物から分離する工程;3)反応によって生じた低沸成分とα−メチルスチレンの混合物からα−メチルスチレンを分離する工程、〔3〕該塩基性物質が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む塩基性化合物である前項〔1〕または〔2〕に記載のα−メチルスチレンの製造方法、〔4〕カルボニル基含有化合物を含む極性物質が、カルボニル基含有化合物と、フェノールおよびカテコール類の混合物とを含む前項[1]〜[3]のいずれか一項に記載のα−メチルスチレンの製造方法、〔5〕カルボニル基含有化合物が、下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される化合物である前項〔4〕に記載のα−メチルスチレンの製造方法、を提供する。【0027】【化1】【0028】【化2】【0029】(R1、R3、R4は、各々独立に、水素原子またはC1−6アルキル基を表し、R2は、C1−6アルキル基を表す。)、〔6〕カルボニル基含有化合物が、アセトニルアセトン、3−メチル−2−シクロペンテノン、ベンズアルデヒド、アセトフェノンから選ばれる少なくとも一つの化合物を含む前項〔5〕に記載のα−メチルスチレンの製造方法、を提供する。【0030】 また、本発明の第2の態様では、〔7〕下記一般式(1)で表される脂肪族カルボニル化合物とその分子内脱水縮合物の合計の含有量が100重量ppm以下であり、かつ、下記一般式(2)で表される芳香族カルボニル化合物の含有量が30重量ppm以下であるα−メチルスチレン、を用いたアニオン重合法によるスチレン系共重合体の製造方法、【0031】【化3】【0032】【化4】【0033】(R1、R3、R4は、各々独立に、水素原子またはC1−6アルキル基を表わし、R2は、C1−6アルキル基を表す。)、〔8〕さらに、前記α−メチルスチレン中のアルコール、フェノール、カテコール類の含有量が10重量ppm以下である、前項〔7〕に記載のスチレン系共重合体の製造方法、〔9〕さらに、前記α−メチルスチレン中のα−メチルスチレンダイマーの含有量が5重量ppm未満である、前項〔7〕または〔8〕に記載のスチレン系共重合体の製造方法、〔10〕前記アニオン重合法は、前記α−メチルスチレンと、下記一般式(3)で表されるビニル芳香族単量体とを用いる、前項〔7〕〜〔9〕のいずれか一項に記載のスチレン系共重合体の製造方法、を提供する。【0035】【化5】(式中、R5は、水素原子、炭素数2以上のアルキル基またはフェニル基を表し、R6は、水素原子、ハロゲン類、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基、またはハロアルキル基を表す。)、を提供する。【0036】 本発明は、通常の蒸留では除くことができない微量の極性物質を、塩基性物質存在下α−メチルスチレン中の極性物質を反応させ、低沸点の反応副生物と分離することにより、効率よく高分子量の縮合物へ変質することで蒸留による除去を可能とし、複雑な工程を必要とせず高純度のアニオン重合用α−メチルスチレンを得る方法として有用である。また、本発明において精製したα−メチルスチレンを用いることにより、ポリマーの着色を防止し、SMAA、SMAの弱点である耐熱性、耐候性が優れたスチレン系共重合体を得ることができる。【0037】 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明の精製の対象とするα−メチルスチレンに存在する極性物質としては、カルボニル基含有化合物と、フェノール、重合禁止剤であるt−ブチルカテコールを含むカテコール類の混合物を挙げられる。具体的な極性物質のうち、カルボニル基含有化合物としては、脂肪族カルボニル化合物である下記一般式(1)、又は芳香族カルボニル化合物である下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。[0038][化6][0039][化7]【0040】(R1、R3、R4は、各々独立に、水素原子またはC1−6アルキル基を表わし、R2は、C1−6アルキル基を表す。)。【0041】 本明細書で用いる用語「C1−C6アルキル基」とは、炭素数が1ないし6個の直鎖状または分枝状のアルキル基を意味し、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、n−ヘキシル基、1−エチル−2−メチルプロピル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1−エチルブチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基等が挙げられ、好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。【0042】 本発明において、カルボニル基含有化合物のより具体的な例としては、アセトニルアセトン、3−メチル−2−シクロペンテノン、ベンズアルデヒド、アセトフェノン等が挙げられる。これら極性物質は、アニオン重合等によりポリα−メチルスチレン及びその共重合体を製造する際に、重合を阻害したり、ポリマー着色の原因物質となるため、できるだけ除くことが好ましい。水以外のt−ブチルカテコール、アセトニルアセトン、3−メチル−2−シクロペンテノン、ベンズアルデヒド、アセトフェノン等の極性物質は、α−メチルスチレンと沸点が近いため、通常の蒸留では一定レベル以下に減らすことができない。【0043】 本発明者らは、これら通常の蒸留では除くことができない微量の上記極性物質を、特定の塩基性物質存在下で反応させ、塩基性物質存在下で反応した上記極性物質を効率よく高沸点の化合物にし、α−メチルスチレンとの相対揮発度の差を大きくすることによって蒸留による除去を可能とした。さらに、極性物質の反応物とα−メチルスチレン及び反応副生物を含む低沸点成分を分離し、さらに低沸点成分とα−メチルスチレンを分離することにより高純度のα−メチルスチレンを得る方法を見出した。【0044】 本発明において、塩基性物質存在下に極性物質が反応して高沸点化合物になる反応は、2つあると考えられる。ひとつは、活性水素を有するフェノール、カテコール類が、塩基と反応し塩を形成し高沸点化合物になる反応であり、もうひとつは、α位に水素原子を1個以上有するアルデヒド又はケトン類が塩基物質存在下、分子内もしくは分子間縮合反応を起こし高分子量化する反応である。特に、後者の反応は以下に述べるように縮合により、水,もしくはアルコールが生成し,かつ反応が平衡反応であると考えられる点、反応物濃度が微量であることから、反応を進行させ高分子量化させることは、極めて難しい。【0045】 また、化合物によっては、分子内反応を起こす化合物もあるが、この場合、沸点が元の極性物質とほとんど変わらないため、蒸留分離ができない。本発明者らは、これらの分子内縮合化合物も特定の条件で処理することにより、分子間化合物に変換し、高沸点化できることを見出した。【0046】 α位に水素原子を持つアルデヒドおよびケトンとしては、例えばアセトニルアセトン、3−メチル−2−シクロペンテノン、アセトフェノンが挙げられる。第一段階として、塩基性物質がそのα位の水素原子を引き抜き、エノラートと低分子量の副生物が生成する。この反応は平衡反応であり、通常、その平衡は出発原料側に偏っているためエノラートは生成し難い。その後、第二段階として、生成したエノラートが極性物質に分子間で付加反応をする。その結果、2つ以上の極性物質が高分子量化して、α−メチルスチレンとの相対揮発度の差が大きくなるため、蒸留による分離が可能となる。エノラートが付加する極性物質は、α位に水素原子を有していても、有していなくてもよく、α位に水素原子を持たないベンズアルデヒドも高分子量化することができる。【0047】 特に、本発明は、通常では進行し難い微量濃度での縮合反応を行うために、第一段階であるエノラートの生成を効率よく行うことが重要である。そのため、塩基性物質存在下での縮合反応において、縮合反応により生成する水やアルコール等の低沸点の副生物を、該反応系より排出する。低沸点の副生物を反応系から排出することにより、第一段階の平衡反応をエノラートの生成側に偏らせることで縮合反応を効率よく進行させることができ、高純度のα−メチルスチレンを回収することが可能となる。このときの、低沸点の副生物は、沸点としては、α−メチルスチレンよりも低いものをさす。反応系からの低沸点副生物の排出方法は、反応系内の連続でも逐次でもかまわない。【0048】 分離方法としては、低沸点副生物が反応系から分離できればよく、通常は蒸留のように、反応系を低沸点副生物の沸点以上に加熱し気化させることで分離する方法が一般的である。低沸点の副生物を反応系から排出する方法としては、反応系から低沸点副生物を分離し、残ったα−メチルスチレンと極性物質の反応物を蒸留等による方法で分離する方法;α−メチルスチレンと低沸点副生物の混合物を、反応系から排出し、同時に蒸留によりα−メチルスチレンを低沸点成分から分離する方法;α−メチルスチレンと低沸点副生物の混合物を反応系から分離してから、改めて蒸留もしくはカラム等を用いた吸着によりα−メチルスチレンと低沸点副生物を分離する方法がある。本発明においては上記いずれの方法をとってもかまわない。ここで重要ことは、低沸点副生物を反応系から効率的に除去することと,それによって縮合反応を効率よく進行させることである。【0049】 本発明で用いられる塩基性物質としては、極性物質のα位の水素原子を引き抜くことができる程度の塩基性度があれば特に制限はない。塩基性度の指標として、その共役酸のpKaが10以上のものが好ましい。例えば、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド(共役酸:エタノール、pKa:17)、ナトリウムメトキシド(共役酸:メタノール、pKa:16)などの金属アルコキシド、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物(共役酸:水、pKa:16);酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化マグネシウムなどの金属酸化物(共役酸:水、pKa:16);ソーダアミド(共役酸:アンモニア、pKa:35)、リチウムジイソプロピルアミド(共役酸:ジイソプロピルアミン、pKa:36)などの金属アミド;ブチルリチウム(共役酸:ブタン、pKa:45)、メチルリチウム(共役酸:メタン、pKa:40)などのアルキル金属といったアルカリ金属又はアルカリ土類金属を含有する塩基性化合物を使用することができる。【0050】 これらの塩基性物質はα−メチルスチレンへの溶解性、分散性が高いほうが好ましい。α−メチルスチレンへの溶解性、分散性の高い塩基性物質はそのままでも用いることができるが、場合によっては適当な溶媒を用いた溶液として使用するのが好適である。この場合、塩基性物質を構成する溶媒としては、塩基性物質を溶解する能力を有するものであれば特に限定はないが、例えば水、アルコールあるいはこれらの混合溶液を用いることができる。【0051】 この場合、水、アルコールは上記縮合反応を阻害するが、塩基性物質分散後、低沸点反応副生物とともに、反応系外に排出できれば問題はない。従って、アルコール類は、少なくともα−メチルスチレンよりも低沸点であることが望ましい。【0052】 塩基性物質の濃度は、α−メチルスチレンに対して0.01重量%以上10重量%以下が好ましく、0.02重量%以上5重量%以下がより好ましい。反応時間は、塩基性物質の濃度にも依存するが、縮合反応が進む程度の時間であれば特に制限はないが、高沸点の分子間縮合物に変えるために、ある程度の時間を取るほうが好ましい。反応時間は、連続反応系の場合、平均滞留時間で、回分反応系の場合、反応時間+蒸留速度で表されるが、上記の塩基性物質の濃度であれば、好ましい時間として少なくとも15分以上であり、より好ましくは15〜4時間であり、さらに好ましくは30分〜3時間である。【0053】 本発明で用いられる反応系としては、系内で実質的に気液平衡が保たれるものであれば、どのような形態でもかまわない。操作圧力は、大気圧〜5kg/cm2の範囲内から任意に選択することができる。また、減圧下において操作しても特に問題はない。反応系内の温度は圧力により任意に設定できるが、40℃以上200℃以下が好ましく、60℃以上150℃以下がより好ましい。α−メチルスチレンの重合を抑制する点から、天井温度の60℃以上であり、熱源の省エネルギー化の点から150℃以下である。【0054】 α−メチルスチレン及び塩基性物質の供給態様は、縮合により生成する水やアルコール等の低分子量副生物が逐次的に除けるものであれば特に限定されず、回分操作でも連続操作でもよい。【0055】 本発明の精製方法によって得られたα−メチルスチレンは、不純物であるフェノール、t−ブチルカテコールやアセトニルアセトンや3−メチル−2−シクロペンテノン、及びベンズアルデヒド等の極性物質量を除去し一定の範囲内に制御することが可能である。これら極性物質を一定の範囲に制御した場合、重合コントロールおよびポリマーの黄色化防止に非常に有効である。【0056】 極性物質の量としては、少なければ少ないほどよいが、アセトニルアセトン及びその分子内脱水縮合物である3−メチル−2−シクロペンテノンの合計が100重量ppm以下、より好ましくは50重量ppm以下であり、ベンズアルデヒドが30重量ppm以下、より好ましくは20重量ppm以下である。アセトニルアセトン及びその分子内脱水縮合物である3−メチル−2−シクロペンテノンの合計が100重量ppmを超えるか、ベンズアルデヒドが30重量ppmを超えると、得られたポリマーの黄色化が顕著になり、場合によってはリビング重合を阻害する。【0057】 次に、本発明の耐熱性スチレン系共重合体を構成する成分のスチレン系共重合体について述べる。本発明における耐熱性スチレン系共重合体は、本発明の精製方法により精製して得られるα−メチルスチレン単位とビニル芳香族単位とを含有する。本発明でいうビニル芳香族単位とを含有する共重合体とは、下記式(3)で表されるビニル芳香族単量体とを原料として重合して得られる共重合体である。【0058】【化8】【0059】 (R5は、水素原子、炭素数2以上のアルキル基、又はフェニル基を表し、R6は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、C1−C6アルキル基、C1−C6アルコキシ基、カルボキシル基、またはハロC1−C6アルキル基を表す。)【0060】 本明細書で用いる用語「C1−C6アルコキシ基」とは、前記定義の「C1−C6アルキル基」が結合したオキシ基を意味し、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基、n−ブトキシ基、iso−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、iso−ペンチルオキシ基、sec−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、iso−ヘキシルオキシ基、1,1−ジメチルプロポキシ基、1,2−ジメチルプロポキシ基、2,2−ジメチルプロポキシ基、2−メチルブトキシ基、1−エチル−2−メチルプロポキシ基、1,1,2−トリメチルプロポキシ基、1,1−ジメチルブトキシ基、1,2−ジメチルブトキシ基、2,2−ジメチルブトキシ基、2,3−ジメチルブトキシ基、1,3−ジメチルブトキシ基、2−エチルブトキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、3−メチルペンチルオキシ基等が挙げられ、好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、iso−プロポキシ基であり、より好ましくは、メトキシ基、エトキシ基である。【0061】 本明細書で用いる用語「炭素数2以上のアルキル基」とは、炭素数が2ないし6個の直鎖状または分枝状のアルキル基を意味し、具体的には、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、2,2−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、n−ヘキシル基、1−エチル−2−メチルプロピル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1−エチルブチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基等が挙げられ、好ましくはエチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基等が挙げられる。【0062】 本明細書で用いる用語「ハロゲン原子」とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等を意味する。【0063】 本明細書で用いる用語「ハロC1−C6アルキル基」とは、前記定義の「C1−C6アルキル基」に、前記定義の「ハロゲン原子」が結合した基を意味する。【0064】 本発明で用いるビニル芳香族単量体とは、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、o−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、p−エチルスチレン、m−エチルスチレン、o−エチルスチレン等のアルキル置換スチレン類、p−ヒドロキシスチレン、p−メトキシスチレン、p−クロロスチレン、1,1−ジフェニルエチレン等のその他のスチレン誘導体が挙げられる。好ましいビニル芳香族単量体は、スチレンである。これらのα−メチルスチレンとビニル芳香族単量体は、各1種類ずつ用いてもよいし2種類以上を混合して用いてもよい。本発明において、最も好ましい組み合わせは、本発明により精製して得られるα−メチルスチレンとスチレンの組み合わせである。【0065】 スチレン系共重合体中に含まれるα−メチルスチレン単位の含有量は、5〜70wt%である。好ましくは、7〜68wt%、より好ましくは10〜65wt%である。α−メチルスチレン単位が5wt%より少ないと実使用上耐熱性向上の効果がほとんど見られない。逆に、70wt%より多いと溶融成形加工時に熱分解を起こしやすくなり、成形時にガスが多く発生やすくなったりする。また、樹脂中には分解に伴う単量体成分量が多くなり、成形品表面上へのブリードアウトなどを引き起こしやすくなる。【0066】 上記の単量体以外に本発明の目的を損なわない範囲において他の重合可能な単量体を一緒に用いることができる。共重合可能な単量体類としては、ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン系単量体;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル類;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステル類などが挙げられる。これらの単量体は、樹脂の衝撃強度、伸び、耐薬品性などを改良あるいは調整する場合に有用である。【0067】 本発明におけるスチレン系共重合体は、リビングアニオン重合法で合成される。リビングアニオン重合法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、開始剤として有機リチウム化合物が用いられ、具体的には、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、エチルリチウム、ベンジルリチウム、1,6−ジリチオヘキサン、スチリルリチウム、ブタジエニリルリチウム等が用いられる。この中で好ましくはn−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウムが挙げられる。【0068】 重合溶媒としては、ヘテロ原子を含有しない炭化水素系化合物がよい。具体的には、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素化合物、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素化合物が挙げられる。これらの炭化水素化合物は、1種類又は2種類以上用いてもよい。特に、好ましい化合物はシクロヘキサンである。【0069】 また、本発明では、重合をコントロールする意味でベンゾフランを添加することも可能である。本発明者らは、α−メチルスチレンを含有するモノマーのリビングアニオン重合系においてベンゾフランを含有することによって、格段にα−メチルスチレンの重合効率が向上することを見出した。【0070】 一般に、スチレンや共役ジエンのリビングアニオン重合系では、重合速度の向上や共重合時のランダム化の促進を狙ってテトラヒドロフラン等のエーテル化合物を添加することが知られている。しかし、例えば、テトラヒドロフランは、重合温度によってはリビングアニオン重合法の開始剤としてよく利用されるリチウム化合物と反応しやすく停止剤として働くため開始剤効率が低下するという問題があった。【0071】 一方、本発明で用いるベンゾフランは、かかる問題を起すことなく重合速度とモノマー反応率の上昇に寄与し、更に高分子量体の耐熱スチレン系重合体の製造に有効に働く。本発明において、ベンゾフランは、α−メチルスチレンに対して5〜5000ppmの量を添加し、好ましくは、10〜4800ppm、より好ましくは、20〜4500ppmである。5ppmより少ないと重合成長種に与える効果が小さくなる。即ち、重合速度、重合転化率への効果が小さくなり本発明の目的が達成できない。5000ppmより多く存在しても重合速度や転化率に対して顕著な変化が見られない。また、ベンゾフランは黄色であるため未反応モノマーや溶媒を除去して後にペレット化した際にベンゾフラン特有の黄色化が目立ち用途によっては好ましくない。【0072】 ベンゾフランは、重合前にα−メチルスチレンに添加混合する必要はなく、他のモノマーや溶媒と混合しても構わない。【0073】 重合温度は、40℃〜110℃の範囲が好ましく、より好ましくは、50℃〜100℃の範囲、さらに好ましくは55℃〜95℃の範囲である。重合温度が40℃より低いと反応速度が低下し工業的生産の実用性がない。また、重合温度が110℃より高いと、共重合体の黄色化が激しくなり、耐候性の低下、更には溶融時の共重合体の熱安定性も低下する。【0074】 本発明におけるスチレン系共重合体は、例えば、完全混合型の重合反応器を使って連続リビング重合法によって製造することができる。または、完全混合型の重合反応器と非完全混合型の重合反応器との組み合わせでもよい。特に、ランダム共重合体を得るためには、完全混合型の重合反応器が好ましい。完全混合型の重合とは、リビング重合の反応系内に存在するα−メチルスチレン、ビニル芳香族単量体、リビング共重合体の濃度が常に一定となる様な連続式の完全混合型反応器を使って重合する方法等をいう。【0075】 原料溶液中の単量体濃度を上げて生産性を高めたい場合は、重合反応の除熱を効率的に行うために重合反応器にコンデンサーを付けて、溶媒の蒸発潜熱で重合熱を除熱することが望ましい。特に、重合溶媒に主としてシクロヘキサン(n−ヘキサンが混入していても構わない)を用いると、沸点が82℃なので重合温度を80℃から90℃付近で制御しやすい。【0076】 非完全混合型のチューブ型重合反応器を用いる場合は、例えば、反応器の長さ(L)と内径(D)の比L/Dが1以上の場合、又は攪拌効率が悪い場合等、重合反応器内で完全混合状態をとりにくい場合は、反応器の途中からビニル芳香族単量体の溶液を添加することによって本発明のスチレン系共重合体を製造することができる。【0077】 また、非完全混合型重合器を2基以上直列に連結し、1基目の重合後2基目の重合反応器にビニル芳香族単量体の溶液を添加することによって本発明の共重合体を得ることもできる。さらに、1基目の重合反応器でビニル芳香族単量体のみを重合し、続いて2基目の重合反応器内でα−メチルスチレンとビニル芳香族単量体の共重合を行って、ビニル芳香族単位の単独重合体と共重合体とのブロック共重合体を得ることも可能である。【0078】 本発明におけるスチレン系共重合体の黄色度(Yellow Index)の値は3以下が好ましく、より好ましくは2以下、最も好ましくは1.5以下である。黄色度を低下させるためには、前述したとおり、本発明の精製方法により精製されたα−メチルスチレン中の極性物質の含有量を低減させることが有効である。特に、食品包装分野において利用される2軸延伸シート(OPS)や発泡シート(PSP)の製造時は、シートを巻き取り回収するため樹脂の黄色化は顕著に目立ち品質上の問題を起こす場合がある。従って、この様な用途のユーザーは樹脂の黄色化に対しては特に敏感であり重要な要求性能の一つとしている。【0079】 本発明により精製されたα−メチルスチレンを含有するスチレン系共重合体のZ平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)は、1.4〜3.0の範囲にあり、好ましくは、1.42〜2.9、より好ましくは1.45〜2.8の範囲である。Mz/Mw値が1.4より小さいと樹脂の流動性と機械強度のバランスが悪く、2軸延伸時の延伸倍率のアップが困難となる等の問題が起こる。また、3.0より大きくなると流動性と熱分解性のバランスが悪くなり、大型成形品、薄肉成形品などを成形することが困難となる。【0080】 Mz/Mw値の制御方法としては、例えば、重合時間分布を有する反応器内で重合し、分子量分布を広げる方法、または、分子量の異なる2種以上の共重合体を溶融又は溶液ブレンドして多分散化する方法などがある。Z平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算によって求めることができる。【0081】 本発明におけるガラス転移温度は、DSCによって求めることができ、JIS−K7121に示されている方法で求めた温度をガラス転移温度とする。【0082】 本発明におけるスチレン系共重合体のα−メチルスチレン単位とビニル芳香族単位の結合様式は、特に制限はされないが、最も好ましい結合様式はランダム結合からなる共重合体である。一般にα−メチルスチレン単位の連鎖が多く存在すると熱分解しやすくなる傾向にある。従って、用途によってはα−メチルスチレン単位の連鎖は2乃至4連鎖以下に制御することが好ましい。【0083】 ビニル芳香族単位は、連鎖になっていても特に熱安定性を損なうおそれがないので、長鎖の連鎖構造をとっても構わない。本発明者らは、ビニル芳香族単位の長鎖の連鎖が、共重合体の分子鎖の末端に存在するAB型、又はABA型のブロック共重合体(Aは、主としてビニル芳香族単位成分よりなる単独重合体成分;Bは、α−メチルスチレン単位とビニル芳香族単位を含有するランダム共重合体成分)が、耐熱性、熱安定性、機械物性、流動性を含むその他の性能がランダム共重合体と同等であり、なお且つ、ブロックの一成分であるビニル芳香族単位と同じ構造からなる単独重合体と相溶性が極めて良好であるという特性を見出した。この特性を活かして、本発明のスチレン系共重合体をリサイクル材として再利用したい場合、例えばポリスチレンと溶融混練して再利用したい場合は、共重合体の高分子鎖末端にポリスチレン鎖をブロックした共重合体を利用することができる。【0084】 ビニル芳香族単位のブロック連鎖長は、特に制限はなく、好ましくは、ブロック連鎖部分の数平均分子量が1000から30万の範囲にあればよい。また、ビニル芳香族単位より成るブロック成分のMw/Mnは、1.0から3.5の範囲にあることが好ましい。【0085】 ビニル芳香族単位をブロック成分にもつ共重合体のZ平均分子量(Mz)と重量平均分子量(Mw)の比(Mz/Mw)は、1.4〜3.0の範囲にあることが必要である。好ましくは、1.42〜2.9、更に好ましくは1.45〜2.8の範囲である。Mz/Mw値が1.4より小さいと樹脂の流動性と機械物性のバランスが悪くなり、樹脂成形体として充分な性能を出すことが難しくなる。また、3.0より大きくなると流動性が悪くなり大型成形品、薄肉成形品などを成形することが困難となる。【0086】 ビニル芳香族単位をブロック成分とする共重合体の製造方法は、例えば、バッチ型反応器、連続のチューブ型反応器、連続のスタティックミキサー型反応器、連続の攪拌羽根付きの槽型反応器、連続のコイル型反応器等でビニル芳香族単位からなる単独重合体を製造し、引き続き連続の完全混合型反応器内にα−メチルスチレンとビニル芳香族単量体及びリビングのビニル芳香族単位からなる単独重合体をフィードして共重合することにより、AB型のブロック共重合体を得ることができる。ABA型のブロック共重合体を得る場合には、AB型のブロック共重合体を製造した後に、別の反応器内でビニル芳香族単位をリビング重合することにより製造することができる。または、AB型のリビング共重合体を製造した後に、別の反応器内でリビング成長種と反応する2官能性化合物を添加する等してABA型ブロック共重合体を得ることができる。【0087】 本発明者らは、更に鋭意研究を重ねた結果、連続のリビング重合法によって得られるα−メチルスチレン単位とビニル芳香族単位とを含有する共重合体であり、原料中のα−メチルスチレンと前記式(3)で表されるビニル芳香族単量体の組成比率を連続的又は断続的に変化させて重合反応器内に供給して得られる共重合体中の構成組成比が少なくとも2種以上の異なる共重合体からなるスチレン系共重合体が、耐熱性、熱安定性、機械物性、流動性を含むその他の性能がランダム共重合体と同等であり、かつ、ビニル芳香族単位を主成分とする重合体と相溶性が極めて良好であるという特性を見出した。【0088】 これは、該共重合体の成形品をリサイクルで使用する場合、ビニル芳香族単位を主成分とする重合体、例えばポリスチレンへもリサイクル材としてブレンドして再利用が可能であることを示唆している。異なる共重合体とは、ガラス転移温度が少なくとも3℃以上異なる共重合体を指す。【0089】 単量体中のα−メチルスチレンとビニル芳香族単量体の組成比率を連続的又は断続的に変化させて重合反応器内に供給するということは、即ち重合反応系へ導入される各単量体の濃度が連続的に又は断続的に変化することであり、その結果、得られる共重合体の各芳香族単位の組成比が連続的に変化し、少なくとも2種以上の異なる構成組成比からなる共重合体が順次得られる。【0090】 2種以上の異なる構成組成比を有する共重合体は、バッチ型の槽内で、溶液状態で混合し、その後真空下に加熱したタンク内にフラッシングさせて溶媒を除去してもよいし、または、押出機やニーダーを使って溶媒を除去してペレット状態で回収することができる。または、バッチ型の槽内に溜めずにそのままペレット状態で回収し、バッチ型または連続型の混合容器でペレットを混合し、均一化することも可能である。または、混合容器でペレットを均一状態にした後、さらに押出機を使って溶融混合することも可能である。【0091】 具体的な製造例を挙げると、α−メチルスチレン(M1)とビニル芳香族単量体(M2)の成分組成比がM1/M2=50/50(wt%)の原料を反応器内にフィードし重合させた後、異なる組成比、例えばM1/M2=40/60(wt%)の原料に切り替えて引き続き反応器に導入し重合を行う。この場合、断続的に原料組成を変化させたという。このようにして重合するとM1/M2=50/50(wt%)で重合して得られる共重合体の組成からM1/M2=40/60(wt%)で得られる共重合体の組成まで連続的に変化した組成を有する共重合体が順次得られてくる。得られた共重合体をバッチ型の槽内で溶液混合又はペレット状態で攪拌混合しその後溶融混練してある一定の組成の共重合体を得る。【0092】 このような方法によって得られた共重合体は、α−メチルスチレン単位成分とビニル芳香族単位成分の組成比が異なる共重合体の組成物であると考えることができる。これによって得られた共重合体は、ビニル芳香族単量体の単独重合体と極めて相溶性がよく、機械物性の低下を招くことなく且つ透明性を保持できるためリサイクル材として極めて利用価値の高い共重合体であることが分かった。【0093】 本発明の共重合体の製造方法であるリビングアニオン重合法では、重合反応の完結はビニル芳香族単量体の反応率が99%以上に達した場合に行うことが好ましく、α−メチルスチレンが反応系に残っていてもよい。重合反応の停止は、停止剤として水、アルコール、フェノール、カルボン酸等の酸素−水素結合を有する化合物の添加、エポキシ化合物、エステル化合物、ケトン化合物、カルボン酸無水物、炭素−ハロゲン結合を有する化合物等も同様な効果を期待できる。これらの添加物の使用量は成長種の当量から10倍当量程度が好ましい。余りに多いとコスト的に不利なだけでなく、残存する添加物の混入が障害になる場合も多い。【0094】 リビング成長種を利用して多官能化合物でカップリング反応させ、ポリマー分子量を増大、さらにはポリマー鎖を分岐構造化させることもできる。この様なカップリング反応に用いる多官能化合物は公知のものから選ぶことができる。多官能化合物とはポリハロゲン化合物、ポリエポキシ化合物、モノまたはポリカルボン酸エステル、ポリケトン化合物、モノまたはポリカルボン酸無水物等を挙げることができる。具体例としてはシリコンテトラクロライド、ジ(トリクロルシリル)エタン、1,3,5−トリブロモベンゼン、エポキシ化大豆油、テトラグリシジル1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、シュウ酸ジメチル、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、ピロメリット酸二無水物、ジエチルカーボネート等が挙げられる。【0095】 重合終了後、未反応モノマーや溶媒は回収し再生使用するためにポリマーから揮発除去される。揮発除去には公知の方法が利用できる。揮発除去装置としては、例えば真空タンクにフラッシュさせる方法及び/又は押出機やニーダーを用いて真空下加熱蒸発させる方法等が好ましく利用できる。溶媒の揮発性にもよるが、一般には温度を180〜300℃、真空度100Pa〜50KPaにて溶媒や残存モノマー等の揮発性成分を揮発除去させる。【0096】 揮発除去装置を直列に接続し、2段以上に並べる方法も効果的である。また、1段目と2段目の間に水を添加して2段目のモノマーの揮発能力を高める方法も利用できる。フラッシングタンクで揮発成分の除去後、残余の揮発成分を除去するため、さらにベント付き押出機を用いることもできる。溶媒を除去されたスチレン系共重合体は公知の方法でペレット状に仕上げることができる。【0097】 本発明のスチレン系共重合体には、必要により熱的、機械的安定性、流動性、着色性を改良する目的で、スチレン系樹脂で用いられている公知の化合物を添加することができる。その例として、一次酸化防止剤として、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、トリエチレングリコール−ビス−[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスト−ルテトラキス[−(3,5−ジt−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n−オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドキシフェニル)プロピオネート、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2[1−(2−ヒドロキシ3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート、テトラキス[メチレン3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3,9ビス[2−{3−(t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキザ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリス(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンジル)−s−トリアジン−2,4,6(1H,2H,3H)−トリオン、1,1,4−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等の2,4,6−3置換フェノール類が挙げられる。【0098】 また、二次酸化防止剤としてリン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、耐候剤としてヒンダードアミンの安定剤、UV吸収剤を添加することも可能である。その他、ミネラルオイル等の可塑剤、長鎖脂肪族カルボン酸及び/又はその金属塩等の滑剤、着色性改良として有機染料、有機顔料を添加することも可能である。【0099】 着色性改良用のアンスラキノン系の有機染料は、共重合体の熱安定性を損なうことが少ないため特に好ましい。 シリコーン系、フッ素系の離型剤、帯電防止剤などもスチレン系樹脂で利用されている公知の技術をそのまま応用することができる。 これらの安定剤は、重合が完結した後のポリマー溶液の中に添加して混合するか又はポリマー回収後押出機を使って溶融混合することができる。【0100】 本発明のスチレン系共重合体は、射出成形体に好適である。特に、透明、耐熱、高剛性が要求される構造材や容器、耐候性が要求される成形体、電気照明カバー類に用いることができる。【実施例】【0101】 以下に、本発明の蒸留精製条件を実施例により具体的に説明する。尚、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。【0102】 まず、以下に、実施例及び比較例において用いた評価方法について述べる。 <評価方法>(1)塩基性物質のα−メチルスチレンへの溶解性 塩基性物質のα−メチルスチレンへの溶解性は目視で判断し、以下の基準で評価した。塩基性物質が溶液の場合は、初留分として塩基性物質の溶媒を回収した後、反応釜中のα−メチルスチレンの様子を観察した。 ○:均一に溶解する。透明性がある。 △:微分散する、又は乳濁する。 ×:完全に分離する。【0103】(2)α−メチルスチレンの精製効果 回収した主留分に含まれる極性物質をガスクロマトグラフィー(島津製作所(株)製、GC−14A)にて定量した。極性物質の量はアセトニルアセトン、3−メチル−2−シクロペンテノン、ベンズアルデヒド、アセトフェノンの合計量とした。極性物質の除去率は、下記の式1に基づいて求めた。【0104】【数1】【0105】 ◎:除去率が99%を超える。 ○:除去率が90%を超え、99%以下。 △:除去率が80%を超え、90%以下。 ×:除去率が80%以下。【0106】<製造方法>[製造例1](1)原料 スチレン(St:住友化学(株)製)とシクロヘキサン(CH:出光石油化学(株)製)は貯蔵タンクに溜め窒素バブリングした後に、溶液を活性アルミナ(住化アルケム(株)製KHD−24)を充填した5L容積の精製塔内を通過させて重合禁止剤であるt−ブチルカテコールを除去した。 α−メチルスチレン(αMeSt:三井化学(株)製)は後述する実施例及び比較例で示した条件で精製した。(2)開始剤 n−ブチルリチウム(15wt%のn−ヘキサン溶液、和光純薬(株)製)を1/61倍にシクロヘキサンで希釈した。(3)停止剤 メタノール(特級、和光純薬(株)製)を3wt%の濃度になる様にシクロヘキサンで希釈した。(4)重合方法 重合反応器は、攪拌翼(住友重機(株)製マックスブレンド翼)とコンデンサーが取り付けられ、更に原料導入ノズル、開始剤導入ノズルと重合溶液排出ノズルが付いたジャケット付5Lの反応器(R1)を用いた。コンデンサーの出口は、窒素ガスでシールし、外部から空気が混入しないようにした。重合反応器内の重合溶液の容量は、常に3Lとなる様に制御した。重合溶液からは常に溶液の一部が沸騰している状態にし、内温を82℃〜84℃の間に制御した。攪拌翼の回転数は320rpmとした。重合反応器の原料入口と出口にはそれぞれギアポンプが取り付けられており、重合溶液はSt/αMeSt/CH=10/21/69(wt%)の比率で混合した溶液を1.5L/Hrの一定流量で流せるように制御した。また、開始剤溶液は、0.07L/Hrで重合反応器内へ導入した。 重合反応器から排出されたリビングポリマーの溶液は、更にギアポンプで10mm径の配管を通じて重合停止剤溶液の導入口まで導いた。反応器から停止剤混合点までの配管の長さは約2m、配管は65〜70℃で保温した。停止剤溶液は、0.1L/Hrでの流速で重合反応液内に導入し、その後は、1.2L容量の静的ミキサー(Sulzer(株)製、SMX型)を経て完全に重合反応を停止させた。更に、ポリマー溶液は予熱器で260℃まで加熱し、その後60torrの減圧下、設定260℃に加温された約50Lの容器内へフラッシングし、溶媒と未反応モノマーをポリマーから分離、回収した。フラッシング容器内のポリマー温度は、約240〜250℃、ポリマーのタンク内の滞留時間は、約20〜30分であった。充分に揮発成分が除去されたポリマーは、その後、ロープ状に排出され水中下で冷却後、カッターでペレタイズ化しスチレン系共重合体を回収した。【0107】[製造例2] 開始剤溶液の重合反応器内への流量を0.16L/Hrとした以外は、製造例1と同じ条件・方法で重合してスチレン系共重合体を得た。【0108】 <分析方法>(1)分子量測定(Mn、Mw、Mz、Mz/Mw) 東ソー(株)製のHLC−8220にカラム(TSKgel SuperHZM−H、40℃)を2本接続し、RI検出器が取り付けてあるGPC装置で測定した。移動相はTHFを用いた。分子量の計算は、ポリスチレンスタンダード(東ソー(株)製)を使って検量線を作成し、ポリスチレン換算にて行った。(2)重合率測定 重合を停止した後のポリマー溶液をサンプリングし、溶液中に残存するスチレン単量体とα−メチルスチレンをガスクロマトグラフィー(島津製作所(株)製、GC−14B)にて定量した。各重合率は下記の式(a)に基づき求めた。 式(a) 重合率(%)=(1−(重合後のポリマー溶液中に残存する単量体濃度/重合前の原料液中の単量体濃度))×100【0109】 <成形方法> FUNAC(株)製の射出成形機(AUTO SHOT 15A)を使って次の条件で成形した。シリンダー温度は、ホッパー側から215℃、225℃、230℃、230℃に設定した。金型温度は、60℃、射出時間を10秒、冷却時間を20秒に設定した。溶融樹脂は、樹脂が金型に充填する射出圧力に、更に5MPa高い圧力を加えて充填した。 ASTM4号の3mmtのダンベルを成形し、黄色度測定用サンプルとして用いた。【0110】 <評価方法>(1)α−メチルスチレン中の極性物質含有量の評価 サンプリングしたα−メチルスチレンに含まれる極性物質をガスクロマトグラフィー(島津製作所(株)製、GC−1700)にて定量した。カラム(信和化工(株)製HR−20)温度は110℃で10分保持し、その後160℃まで5℃/minで昇温、230℃まで20℃/minで昇温して測定を行った。【0111】(2)α−メチルスチレン中のダイマー含有量の評価 サンプリングしたα−メチルスチレンに含まれる極性物質をガスクロマトグラフィー(島津製作所(株)製、GC−1700)にて定量した。カラムHR−1(0.32mm*30m*0.25μm)無極性、キャリアガス;He(1ml/min,スプリット比1:10)カラム温度; 200℃→(3℃/min)→290℃(40℃/min)→300℃(20minH0LD)試料注入口温度;250℃、検出器温度;280℃で測定を行った。【0112】(3)リビング性の評価 リビング性とは、理想的なリビング重合への近さを表す指標とする。理想的なリビング重合の場合、活性種の濃度は重合の前後で変わらないので、得られるポリマーの計算による数平均分子量Mnは下記の式(db)で表される。 式(b) 理論Mn=反応した全単量体の重量[g]/全開始剤量[mol] リビング性は、上記理論Mnと実際に得られたポリマーのMnとの相違とし、下記の式(c)に基づき求め、以下のように定義した。 式(c) リビング性=理論Mn/得られたポリマーのMn ○:リビング性が0.8を超え1.2以下。 △:リビング性が0.7を超え0.8以下、もしくは1.2を超え1.3以下。 ×:リビング性が0.7以下、もしくは1.3を超える。【0113】(4)ガラス転移温度(Tg) パーキンエルマー(株)製のDSC−7を使って、JIS−K−7121に準拠して求めた。具体的には、窒素下、10℃/minで室温から250℃まで昇温し、その後10℃/minで室温まで戻し、再び10℃/minで250℃まで昇温した。2度目の昇温過程で測定されるガラス転移温度をTgとした。【0114】(5)黄色度(YellowIndex) スガ試験機(株)製のSM−5−CH−H2を使って、JIS−K7103に従い黄色度を測定した。 ◎:黄色度が1.5以下。 ○:黄色度が1.5を超え2.0以下。 △:黄色度が2.0を超え3.0以下。 ×:黄色度が3.0以上。【0115】[実施例1] 蒸留は単蒸留にて行った。具体的には、回転子入り300ml反応釜フラスコに液温測定用の温度計を付け、そこへ蒸気温度測定用の温度計を付けたクライゼンヘッド、リービッヒ冷却器、二又アダプター、受けフラスコをつないだ。さらに、アダプター部にバキュームコントローラー((株)岡野製作所製、VC−30S)を介して真空ポンプを接続し、減圧度を調節できるようにした。熱源はオイルバスを用いた。 α−メチルスチレン(三井化学(株)製)200mlを反応釜フラスコに入れ、液温を80℃に昇温した。その後、塩基性物質としてナトリウムエトキシド(20重量%エタノール溶液、和光純薬(株)製)0.08重量%を反応釜フラスコ内に回転子で攪拌しながら添加した。減圧度を230mmHgに調節し、液温が120℃〜125℃になるまでゆっくり昇温した。 昇温中に沸点に達し、冷却された低沸点留分は初留分として回収した。 液温が120℃〜125℃に達し、蒸気温度も120℃〜125℃に達した時点を主留分として回収した。精製α−メチルスチレン中のフェノール、t−ブチルカテコールは検出限界以下(2wtppm)であった。【0116】 [実施例2] ナトリウムエトキシド(20重量%エタノール溶液、和光純薬(株)製)の添加量を0.4重量%とした以外は実施例1と同様に行った。精製α−メチルスチレン中のフェノール、t−ブチルカテコールは検出限界以下(2wtppm)であった。【0117】[実施例3] 回転子入り160ml5つ口の反応釜フラスコに液温測定用の温度計を付け、そこへ蒸気温度測定用の温度計を付けたクライゼンヘッド、リービッヒ冷却器、二又アダプター、受けフラスコをつないだ。更に、アダプター部にバキュームコントローラー((株)岡野製作所製、VC−30S)を介して真空ポンプを接続し、減圧度を調節できるようにした。さらに、ポンプAを通して、α−メチルスチレンを1.99ml/minの速度でフラスコ内にフィードした。また、マイクロフィーダー(ポンプB)を通して、ナトリウムエトキシド(20重量%エタノール溶液、和光純薬(株)製)を0.008ml/minの速度でフラスコ内にフィードした。フラスコ内の液を、ポンプCを用いて、0.1ml/minの速度で排出した。系内を230mmHgに保ち、蒸留を1.9ml/minの速度で行った。熱源はオイルバスを用いた。条件が安定したところで、蒸留したモノマー液を分析した。精製α−メチルスチレン中のフェノール、t−ブチルカテコールは検出限界以下(2wtppm)であった。【0118】[実施例4] 塩基性物質として水酸化ナトリウム(50重量%水溶液、和光純薬(株)製)を用いた以外は実施例2と同様に行った。【0119】[実施例5] α−メチルスチレンの精製は塩基性物質としてナトリウムエトキシド(20重量%エタノール溶液、和光純薬(株)製)0.8重量%を添加し、減圧度230mmHg、液温120℃〜125℃で蒸留し、蒸気温度が120℃〜125℃に達した時点を主留分として回収した。精製α−メチルスチレン中のフェノール、t−ブチルカテコールは検出限界以下(2wtppm)であった。スチレン系樹脂の共重合体の製造は製造例1記載の方法にて行った。 得られたスチレン系共重合体の数平均分子量Mnは9.8万であった。また、重合率はSt:99.7%、α−MeSt:48.9%であった。【0120】[実施例6] α−メチルスチレンの精製は実施例1と同様に行った。精製α−メチルスチレン中のフェノール、t−ブチルカテコールは検出限界以下(2wtppm)であった。スチレン系共重合体の製造は製造例2記載の方法にて行った。 得られたスチレン系共重合体の数平均分子量Mnは6.2万であった。また、重合率はSt:99.8%、α−MeSt:47.5%であった。【0121】 [実施例7] α−メチルスチレンの精製は実施例2と同様の方法にて行った。精製α−メチルスチレン中のフェノール、t−ブチルカテコールは検出限界以下(2wtppm)であった。スチレン系共重合体の製造は、製造例2記載の方法にて行った。 得られたスチレン系共重合体の数平均分子量Mnは6.1万であった。また、重合率はSt:99.7%、α−MeSt:46.5%であった。【0122】 [実施例8] α−メチルスチレンの精製は実施例3と同様の方法にて行った。精製α−メチルスチレン中のフェノール、t−ブチルカテコールは検出限界以下(2wtppm)であった。スチレン系共重合体の製造は、製造例2記載の方法にて行った。 得られたスチレン系共重合体の数平均分子量Mnは6.0万であった。また、重合率はSt:99.6%、α−MeSt:46.3%であった。【0123】 [実施例9]α−メチルスチレンの精製は実施例3と同様の方法にて行った。精製α−メチルスチレン中のフェノール、t−ブチルカテコールは検出限界以下(2wtppm)であった。スチレン系共重合体の製造は製造例2記載の方法にて行った。 得られたスチレン系共重合体の数平均分子量Mnは6.1万であった。また、重合率はSt:99.7%、α−MeSt:46.4%であった。[0124] [参考例1] ベンゾフランをα−メチルスチレンに対して65ppmになる様に重合原料溶液(スチレン、α−メチルスチレン、シクロヘキサンの混合溶液)に添加し、製造方法2に従って重合した。[0125] [参考例2〜7] 表3に示した量のベンゾフランを重合原料溶液に添加した。その他の条件は、実施例10と同様にして製造した。[0126] [比較例1] 塩基性物質としてジエタノールアミン(特級、和光純薬(株)製)を用いた以外は実施例2と同様に行った。[0127] [比較例2] 塩基性物質としてピリジン(特級、和光純薬(株)製)を用いた以外は実施例2と同様に行った。[0128] [比較例3] α−メチルスチレン(三井化学(株)製)200mlを300mlの分液ロートに入れ、水酸化ナトリウム(10重量%水溶液、和光純薬(株)製)を50ml添加して100回振とうした。静置後、水層のみを除去する作業を5回繰り返した。その後、水酸化ナトリウム水溶液の代わりに蒸留水を50ml添加して、同様の操作を水層が中性になるまで繰り返した。油層を取り出し、塩基性物質を添加せずに実施例2と同様に蒸留操作を行った。[0129] [比較例4] 塩基性物質を添加せずに実施例2と同様の蒸留操作を行った。[0130] [比較例5] α−メチルスチレンの精製は貯蔵タンクに溜めて窒素バブリングした後に、活性アルミナ(住化アルケム(株)製KHD−24)を充填した内径76.3mmφ、高さ600mm、容積2.5Lの精製塔内を通過させた。 α−メチルスチレン中の極性物質含有量は、α−メチルスチレンを精製塔へ通液開始してから200時間経過後の精製塔から出てきたα−メチルスチレンをサンプリングして測定した。 スチレン系共重合体の製造は、α−メチルスチレンを精製塔へ通液開始してから200時間経過後のα−メチルスチレンを用いた以外は製造例2記載の方法にて行った。 得られたスチレン系共重合体の数平均分子量Mnは6.1万であった。また、重合率はSt:99.5%、α−MeSt:46.2%であった。[0131] [比較例6] α−メチルスチレンの精製は比較例5と同様の方法にて行った。 α−メチルスチレン中の極性物質含有量は、α−メチルスチレンを精製塔へ通液開始してから300時間経過後の精製塔から出てきたα−メチルスチレンをサンプリングして測定した。 スチレン系共重合体の製造は、α−メチルスチレンを精製塔へ通液開始してから300時間経過後のα−メチルスチレンを用いた以外は製造例2記載の方法にて行った。 得られたスチレン系共重合体の数平均分子量Mnは6.0万であった。また、重合率はSt:80.8%、α−MeSt:5.7%であった。[0132] [参考例6〜7] 表3に示した量のベンゾフランを重合原料溶液に添加した。その他の条件は、実施例10と同様にして製造した。[0133]<評価結果> 実施例及び比較例の評価結果を表1に示す。[0134][表1][0135][表2][0136][表3]産業上の利用可能性[0137] 本発明によれば、α−メチルスチレンに含まれる、従来の技術では除去できなかった微量の極性物質を、複雑な工程を必要とせずに効率よく除去し、高純度のα−メチルスチレンを提供することができる。得られたα−メチルスチレンは工業的な重合体製造用のモノマーとして有用であり、着色がなく、高分子量のポリマーを得ることができる。 以下の工程を含むα−メチルスチレンの製造方法:1)塩基性物質の存在下にα−メチルスチレン中に含まれるカルボニル基含有化合物を含む極性物質を反応させる工程; ここで、該塩基性物質は塩基性度が該塩基性物質の共役酸の酸解離定数pKaとして10以上のものである;2)反応によって生じた低沸成分をカルボニル基含有化合物を含む極性物質の反応物とα−メチルスチレンの混合物から分離する工程;3)カルボニル基含有化合物を含む極性物質の反応物とα−メチルスチレンの混合物からα−メチルスチレンを分離する工程。 以下の工程を含むα−メチルスチレンの製造方法:1)塩基性物質の存在下にα−メチルスチレン中に含まれるカルボニル基含有化合物を含む極性物質を反応させる工程; ここで、該塩基性物質は塩基性度が該塩基性物質の共役酸の酸解離定数pKaとして10以上のものである;2)反応によって生じた低沸成分とα−メチルスチレンの混合物をカルボニル基含有化合物を含む極性物質の反応物から分離する工程;3)反応によって生じた低沸成分とα−メチルスチレンの混合物からα−メチルスチレンを分離する工程。 該塩基性物質が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含む塩基性化合物である請求項1または2に記載のα−メチルスチレンの製造方法。 カルボニル基含有化合物を含む極性物質が、カルボニル基含有化合物と、フェノールおよびカテコール類の混合物とを含む請求項1〜3のいずれか一項に記載のα−メチルスチレンの製造方法。 カルボニル基含有化合物が、下記一般式(1)又は下記一般式(2)で表される化合物である請求項4に記載のα−メチルスチレンの製造方法。(R1、R3、R4は、各々独立に、水素原子またはC1−6アルキル基を表し、R2は、C1−6アルキル基を表す。) カルボニル基含有化合物が、アセトニルアセトン、3−メチル−2−シクロペンテノン、ベンズアルデヒド、アセトフェノンから選ばれる少なくとも一つの化合物を含む請求項5に記載のα−メチルスチレンの製造方法。 下記一般式(1)で表される脂肪族カルボニル化合物とその分子内脱水縮合物の合計の含有量が100重量ppm以下であり、かつ、下記一般式(2)で表される芳香族カルボニル化合物の含有量が30重量ppm以下であるα−メチルスチレン、を用いるアニオン重合法によるスチレン系共重合体の製造方法。(R1、R3、R4は、各々独立に、水素原子またはC1−6アルキル基を表わし、R2は、C1−6アルキル基を表す。) さらに、前記α−メチルスチレン中のアルコール、フェノール、カテコール類の含有量が10重量ppm以下である、請求項7に記載のスチレン系共重合体の製造方法。 さらに、前記α−メチルスチレン中のα−メチルスチレンダイマーの含有量が5重量ppm未満である、請求項7または8に記載のスチレン系共重合体の製造方法。 前記アニオン重合法は、前記α−メチルスチレンと、下記一般式(3)で表されるビニル芳香族単量体とを用いる、請求項7〜9のいずれか一項に記載のスチレン系共重合体の製造方法:(式中、R5は、水素原子、炭素数2以上のアルキル基またはフェニル基を表し、R6は、水素原子、ハロゲン類、ヒドロキシル基、アルキル基、アルコキシ基、カルボキシル基、またはハロアルキル基を表す。)。


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