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タイトル:特許公報(B2)_アシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体、それを含有する光重合触媒および光・化学重合触媒ならびにそれらを含有する硬化性組成物
出願番号:2008504949
年次:2012
IPC分類:C07F 9/53,C08F 2/50,A61K 6/08


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池村 邦夫 一澤 謙介 上月 礼亨 JP 4906845 特許公報(B2) 20120120 2008504949 20060313 アシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体、それを含有する光重合触媒および光・化学重合触媒ならびにそれらを含有する硬化性組成物 株式会社松風 390011143 田中 光雄 100081422 山崎 宏 100084146 佐藤 剛 100156122 池村 邦夫 一澤 謙介 上月 礼亨 20120328 C07F 9/53 20060101AFI20120308BHJP C08F 2/50 20060101ALI20120308BHJP A61K 6/08 20060101ALI20120308BHJP JPC07F9/53C08F2/50A61K6/08 H C07F 9/53 C08F 2/50 A61K 6/08 CA/REGISTRY(STN) 特開平03−243602(JP,A) 特開平06−247992(JP,A) 9 JP2006304911 20060313 WO2007105296 20070920 37 20090120 井上 千弥子 本発明は、分子内にアシルフォスフィンオキサイド基[-(C=O)-(P=O)<]を有するカンファーキノン誘導体および該誘導体を必須として含む光重合開始剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、紫外から可視の幅広い波長領域で光重合開始能力を有し、速い光硬化速度と環境光の下で余裕のある操作ができ、光硬化物の色調特性に優れるアシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体および該誘導体を必須として含む光重合開始剤、および該光重合開始剤を含む硬化性組成物に関する。 歯科臨床では可視光線重合レジンが広く普及している。光重合開始剤としては、英国特許第1,408,265号明細書(特許文献1)以来、最大吸収波長468nmを有するカンファーキノンを主体としている。カンファーキノンは光を吸収して水素供与剤であるアミン化合物との光励起錯体(エキサイプレックス)を形成後、アミン由来のフリーラジカルを発生する水素引抜き型の重合開始機構が知られている。 しかし、カンファーキノンは、その吸収波長および吸光度に由来して、CIE Lab表色系における黄色味を表すb値が極めて大きいため、歯科の審美性修復では問題がある。 さらに、カンファーキノンおよび芳香族第三アミンの組合わせによる重合開始剤系では、吸収波長が可視領域にあるため、歯科医院室内の蛍光灯やデンタルランプなどの環境光によって硬化が開始して、速い硬化速度および短い可使時間を示す。したがって、処置または治療の際に、ボンディング剤の液やコンポジットレジンペーストの粘度が増大し、治療操作が困難になるという問題がある。 特公第2740829号公報(特許文献2)では、極大吸収波長を400〜650nmに有する2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン誘導体(カンファーキノン誘導体)が、エチレン性二重結合を有する化合物を重合させる際、優れた光重合性能を有する光重合開始剤であることが報告されている。 米国特許第4,265,723号明細書(特許文献3)、米国特許第4,298,738号明細書(特許文献4)等に開示されているアシルフォスフィンオキサイド類は、α−開裂型光開始剤であり、分子内のアシルフォスフィンオキサイド結合[-(C=O)-(P=O)<]の光によるC-P開裂によって、[-(O=)C・]ラジカルと[・P(=O)<]ラジカルが発生する。アシルフォスフィンオキサイドには、分子内に2つのアシル基を有する化合物いわゆるビスアシルフォスフィンオキサイド類も実用化され、米国特許第4,792,632号明細書(特許文献5)、米国特許第5,721,292号明細書(特許文献6)、米国特許第5,965,776号明細書(特許文献7)等に開示されている。 これらのアシルフォスフィンオキサイド類およびビスアシルフォスフィンオキサイド類は紫外あるいは近紫外領域では絶大な光重合活性を示すため光重合産業で広く普及している。最近、歯科分野でも使用されつつある。 しかし、アシルフォスフィンオキサイド類は、ハロゲンランプ(Hal)照射器で優れた光硬化性を示すが、430〜500nmの可視領域での歯科用照射器、特に発光ダイオード(LED)照射器やキセノンランプ(Xe)照射器では全く硬化しないという欠点がある。 特許第3442776号明細書(特許文献8)では、カンファーキノン誘導体、アシルフォスフィンオキサイド化合物、少なくとも1種の脂肪族アミンおよびラジカル重合性モノマーからなる可視光重合型接着剤が提案されている。 しかし、これらの物理的な混合による光開始剤では、カンファーキノン由来の色調で黄色味を示す高いb値の問題は全く改善されない。また、該光開始剤で脂肪族アミンを芳香族アミンに置換して使用した硬化性組成物は、硬化物の色調が褐色を呈し可使時間が著しく短いなど、歯科臨床の使用では問題がある。 すなわち、近紫外から可視領域にわたる広い波長領域で光重合活性を示し、ハロゲン、LED、キセノンなどの歯科用照射器で優れた光重合性を発現し、かつ、硬化物の色調特性に優れ、物理学的特性を向上させ、さらに「速い光硬化速度および環境光下での余裕のある操作性」という二律背反の課題を克服し得る光重合開始剤であって、歯科分野および光重合産業で幅広く使用できる光重合開始剤が望まれている。英国特許第1,408,265号明細書特公第2740829号公報米国特許第4,265,723号明細書米国特許第4,298,738号明細書米国特許第4,792,632号明細書米国特許第5,721,292号明細書米国特許第5,965,776号明細書特許第3442776号明細書 本発明の目的は、上記のような従来技術の問題点を解決することにあり、特に、紫外から可視にわたる幅広い波長領域で光硬化が可能であり、歯科用のハロゲンランプ、キセノンランプ、発光ダイオード(LED)照射器で優れた光硬化性を示し、光硬化物の色調特性を改善し,物理的特性を向上させ、さらに「速い光硬化速度および環境光下での余裕のある操作性」という二律背反の課題を克服し得る光重合開始剤および光硬化性組成物を提供することにある。 本発明者らは、上記従来技術の課題を解決し、本発明の目的を達成すべく鋭意検討した。 まず、紫外から可視の幅広い波長領域で硬化可能な光重合開始剤として、従来のカンファーキノン(CQ)/アシルフォスフィンオキサイド(APO)/芳香族第三アミンの三成分系光重合開始剤を検討したところ、紫外および可視などの幅広い波長領域で硬化可能で、光重合速度が速いという特徴が確認できた。 しかし、該三成分系光重合開始剤では、環境光下での可使時間が極めて短く、さらにカンファーキノン由来の黄色味を表す極めて高いb値が全く改善されず、むしろ茶褐色になる傾向が認められ、審美性と操作性を重視する歯科審美修復材料に使用するにあたり操作性と色調で重大な問題があることが判った。 つぎに、本発明者らは、分子内にアシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体を新規に分子設計した。このような1分子内にアシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体は従来存在しなかった。 光重合開始剤としての性能を精密に検討した結果、カンファーキノン(CQ)基とアシルフォスフィンオキサイド(APO)基を1分子内に有する本発明の新規化合物は、紫外から可視の幅広い波長領域において光重合開始能を有し、光重合速度が速く、かつ、環境光下での可視時間が長いことが確認された。さらに、驚くべきことに、カンファーキノン由来の黄色味を表す極めて高いb値が改善され、色調特性に優れる特徴があることを見出した。 かくして、本発明者らは、分子内にアシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体を重合開始剤として用いることによって、従来の問題点を全て解決し、上記三成分系開始剤などの物理的な混合系よりも優れた特徴を有することを見出した。 すなわち、本発明は、分子内にアシルフォスフィンオキサイド基[-(C=O)-(P=O)<]を有するカンファーキノン誘導体を提供する。本発明において、分子内にアシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体は、例えば、下記の一般式(I):[式中、R1は、置換基を有してもよいアルキル、アルコキシ、または芳香族基;R2は、R1と同一または異なって、置換基を有してもよいアルキル、アルコキシ、または芳香族基または−OM基、ここに、Mは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である。]で表され、D体およびL体のいずれでもよい化合物;下記の一般式(II):[式中、R3は、置換基を有してもよいアルキル、アルコキシ、または芳香族基;R4は、R3と同一または異なって、置換基を有してもよいアルキル、アルコキシ、または芳香族基または−OM基、ここに、Mは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属;R5は、官能基として、置換基を有してもよい芳香族基およびC2からC18の直鎖または置換基を有する炭素原子;およびXはアミド結合またはエステル結合である。]で表され、D体およびL体のいずれでもよい化合物;および下記の一般式(III):[式中、R6は、置換基を有してもよいアルキル、アルコキシ、または芳香族基;および、Mは、Na、K等のアルカリ金属またはMg、Ca等のアルカリ土類金属である。]で表される塩化合物が挙げられる。 本発明において、アシルフォスフィンオキサイド(APO)とは、一般式:[式中、Ra、RbおよびRcは任意の置換基である。]で表される化合物をいい、分子内の[-(C=O)-(P=O)<]をアシルフォスフィンオキサイド(APO)基という。 この意味において、一般式(IV)で表される化合物をRa−APOと略記することができる。例えば、一般式(I)で表される化合物は、CQ−APOと略記する場合がある。 本発明は、上記の分子内にアシルフォスフィンオキサイド基[-(C=O)-(P=O)<]を有するカンファーキノン誘導体を必須として含む光重合開始剤を提供する。 本発明は、前記のカンファーキノン誘導体に加えて、さらに、重合促進剤、光酸発生剤、光増感剤および(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類から1以上選択して含有する光重合開始剤も提供する。ここで、重合促進剤がアミン化合物、バルビツール酸誘導体および有機錫化合物からなる群から選択され、光酸発生剤がトリハロメチル基置換-1,3,5-トリアジン化合物よりなる群から選択され、光増感剤がα−ジケトン化合物であって、(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類がアシルフォスフィンオキサイド化合物およびビスアシルフォスフィンオキサイド化合物よりなる群から選択される。 また、本発明は、上記の光重合開始剤に加えて、さらに室温重合(化学重合)開始剤を含み、化学重合および光重合を開始させることが可能な光・化学重合開始剤も提供する。 本発明は、上記の光重合開始剤または光・化学重合開始剤、およびラジカル重合性開始剤を含有する硬化性組成物を提供する。これらの硬化性組成物は、さらに、フィラーを含有することができる。 本発明の硬化性組成物は、分子内にアシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体を含有するので、紫外および可視領域などの幅広い波長領域で高い重合活性を発現し、歯科用のハロゲンランプ、キセノンランプ、発光ダイオード(LED)照射器で優れた光硬化性を示し、速い光硬化速度を有し、環境光の下で余裕のある操作ができ、さらに硬化物の優れた色調安定性と優れた物理的特性を発揮しうる。 本発明により新たに創製された「分子内にアシルフォスフィンオキサイド基[-(C=O)-(P=O)<]を有するカンファーキノン誘導体」、および該誘導体を必須成分として含む光重合開始剤は、紫外および可視領域などの幅広い波長領域で高い重合活性を発現するので、本発明の光重合開始剤を含む硬化性組成物は、歯科用のハロゲンランプ、キセノンランプ、発光ダイオード(LED)照射器で優れた光硬化性を示し、速い光硬化速度を有し、環境光の下で余裕のある操作ができ、硬化物の優れた色調特性と優れた物理的特性を発揮する。 このため、本発明の誘導体、それを必須とする光重合開始剤および該光重合開始剤を含む硬化性組成物は、歯科分野や整形外科の分野に限らず、光重合産業分野などの光硬化性組成物に応用が可能である。DOHC-DPPO、CQおよびTMP-APOの紫外-可視吸収スペクトル(光照射前)DOHC-DPPO、CQおよびTMP-APOの紫外-可視吸収スペクトル(光照射後) 本発明は、新規な分子内にアシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体、および(A)分子内にアシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体を必須成分として含み、さらに(B)重合促進剤、光酸発生剤、光増感剤、(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類から1以上選択して含む光重合開始剤に関するものであり、該誘導体、および光重合開始剤およびラジカル重合性単量体を含む光硬化性組成物においてその効果を最良に発現する。 本発明の「分子内にアシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体」は、可視領域に最大吸収波長を有するカンファーキノンや近紫外領域に最大吸収波長を有するアシルフォスフィンオキサイドが結合した化合物が挙げられ、次に例示するように無数に分子設計して合成できる。 本発明の化合物である分子内にアシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体は、広義には「分子内にα−ジケトン基とアシルフォスフィンオキサイド基を有することを特徴とする物質」であり、1分子内に水素引抜き基とα-開裂基を有する化合物である。 これはすなわち、本発明の化合物が水素供与剤と共存する場合、光励起されて、水素供与剤とα-ジケトン基間にエキサイプレックスを形成し、水素供与剤由来のフリーラジカルを生成し、あるいは水素供与剤と共存しない場合でも、分子内の[-C(=O)-P(=O)<]結合のα-開裂(C-P開裂)によって、[-(O=)C・]ラジカルと[・P(=O)<]ラジカル発生が可能な化合物である。すなわち、本発明の化合物は、「水素引抜き型光重合開始機構およびα-開裂光重合開始機構が可能な化合物」と定義できる機能を創製する。 本発明の「分子内にアシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体」の第1の態様として、カンファーキノン(CQ)基とアシルフォスフィンオキサイド(APO)基とが直接結合した化合物(CQ-APO)が挙げられる。 このような化合物として、例えば、一般式(I):[式中、R1は、置換基を有してもよいアルキル、アルコキシ、または芳香族基;R2は、R1と同一または異なって、置換基を有してもよいアルキル、アルコキシ、または芳香族基または−OM基、ここに、Mは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である。]で表され、D体およびL体のいずれでもよい化合物を挙げることができる。 このような一般式(I)で表される化合物は、次のような合成経路で合成可能である。 2,3−位のジケトン以外の1、4〜7位に置換基を有してもよいカンファーキノン誘導体および原料のフォスファイトの種類を換えることにより、一般式(I)におけるR1およびR2を変えた数多くのCQ-APO誘導体が合成できる。 CQ-APO誘導体の具体例として、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル-ジフェニルフォスフィンオキサイド(DOHC-DPPO)の合成を例示する。 まず、D,L-10-カンファースルホニルクロリドと過マンガン酸カリウムと反応させて、D,L-ケトピン酸を合成する。D,L-ケトピン酸と二酸化セレンを反応させてα−ジケトンとして、D,L-カンファーキノンにカルボキシル基を導入した構造の7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボン酸(DOHCA)を合成する。さらにDOHCAに塩化チオニルを反応させて7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボン酸クロリド(DOHCC)を合成する。 合成した該酸クロリド(DOHCC)とメトキシジフェニルフォスフィン[CH3O−P−(Ph)2]とのMichaelis-Arbuzov転位反応により、目的物質である7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル-ジフェニルフォスフィンオキサイド(DOHC-DPPO)を合成できる。この転位反応では三価のリンが五価のリンに変換されてフォスフィンオキサイド基[>P(=O)-]を生成する。 本発明の「分子内にアシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体」の第2の態様として、カンファーキノン(CQ)基とアシルフォスフィンオキサイド(APO)基とが架橋基(L)を介して結合した化合物(CQ-L-APO)が挙げられる。架橋基Lとして、アミド結合、エステル結合、アミド結合またはエステル結合と置換基を有してもよい脂肪族または芳香族の基とが結合したものが挙げられる。 このような化合物として、例えば、次の一般式(II):[式中、R3は、置換基を有してもよいアルキル、アルコキシ、または芳香族基;R4は、R3と同一または異なって、置換基を有してもよいアルキル、アルコキシ、または芳香族基または−OM基、ここに、Mは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属;R5は、官能基として、置換基を有してもよい芳香族基およびC2からC18の直鎖または置換基を有する炭素原子;およびXはアミド結合またはエステル結合である。]で表され、D体およびL体のいずれでもよい化合物を挙げることができる。 このような一般式(II)で表される化合物は、次のような合成経路で合成可能である。ここでは、Xがアミド結合である化合物として、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボン酸クロリド(DOHCC)とアミノ基含有カルボン酸を反応させ、生成するカルボン酸から酸クロリドを合成する経路について説明する。 該酸クロリドとメトキシフォスフィン化合物とのMichaelis-Arbuzov転位反応により、本発明の一般式(II)で表される化合物を合成できる。 この合成法では、ノルボルネン骨格2,3−位のジケトン以外の1、4〜7位に置換基を有してもよいカンファーキノン誘導体および出発原料をアミノ安息香酸やアミノサリチル酸などのアミノ安息香酸誘導体およびα−アミノ酸類やアミノアルキルカルボン酸などの無数のアミノ基含有カルボン酸に任意に置換して上記一般式(II)のR5を換えること、および/またはMichaelis-Arbuzov転位反応の原料のフォスファイトの種類を換えて上記一般式(II)のR3およびR4を換えることにより、本発明の化合物が合成できる。 このような化合物の合成例を挙げる。まず、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボン酸クロリド(DOHCC)と4−アミノ安息香酸の反応により、D,L-カンファーキノンと4-アミノ安息香酸をアミド結合させ、新たに生成するカルボン酸を酸クロリドに変換してp-(7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル)−アミノ安息香酸クロリド(DOHC-ABC)を合成する。 該酸クロリドとメトキシジフェニルフォスフィンとMichaelis-Arbuzov転位反応により、目的物質であるp-(7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル)-アミノベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(DOHC-AB-DPPO)を合成できる。 一般式(II)で表される化合物の合成法では、出発原料の4-アミノ安息香酸を4-アミノ-n-酪酸、4-アミノ-iso-酪酸、4-アミノ-n-カプリル酸、トラネキサム酸、アミノサリチル酸、12-アミノドデカン酸、4-ニトロアントラニル酸、4-アミノフェニル酢酸、L-グリシン、L-アラニン、L-バリン、L-ルイシン、L-イソルイシン、L-セリン、L-ホモセリン、L-スレオニン、L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-シスチン、L-ベンジル-L-シスチン、メチオニン、D,L-アスパラ酸、L-グルタミン酸、L-トリプトファン、L-プロリン、L-ヒドロキシプロリン、ピロール-2-カルボン酸、2-ピロリドン-5-カルボン酸、フェニルグリシン、などのアミノ基含有カルボン酸類に任意に置換することにより数多くの本発明の化合物が合成できる。 一般式(II)で表される化合物の合成において、原料の4-アミノ安息香酸に置き換えて、12-アミノドデカン酸を用いることにより、目的物質であるp-(7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル)-アミノドデカン-ジフェニルフォスフィンオキサイド(DOHC-AD-DPPO)を合成することができる。 一般式(II)で表される化合物の合成法では、2,6-ジアミノピメリン酸などの2個のアミノ基と2個のカルボキシル基を有する化合物を原料にすれば分子内に2個のカンファーキノン残基と2個のアシルフォスフィンオキサイド基を有する化合物を合成することができる。L-リシンを原料にすれば分子内に2個のカンファーキノン残基と1個のアシルフォスフィンオキサイド基を有する化合物を合成することも可能であり、本発明の化合物に関連する。 さらに、上記一般式(II)で表される化合物のXが、エステル結合である化合物は次のように合成することができる。例えば、D,L-カンファーキノンの酸クロリド(DOHCC)とヒドロキシ基含有カルボン酸を反応させ、生成するカルボン酸から酸クロリドを合成し、上記のように酸クロリドとメトキシジフェニルフォスフィンとのMichaelis-Arbuzov転位反応により、本発明の目的物質を合成できる。このように合成された本発明の化合物は、カンファーキノンとアシルフォスフィンオキサイド結合を含む基がエステル基で結合される。 これらの合成法では、ノルボルネン骨格2,3−位のジケトン以外の1、4〜7位に置換基を有してもよいカンファーキノン誘導体および出発原料をヒドロキシ基含有カルボン酸類に任意に置換すること、および/またはフォスファイト類の種類を換えることにより上記一般式(II)で表される化合物のR3、R4およびR5を変えて数多くの本発明の化合物が合成できる。 本発明の上記一般式(I)および(II)で表される化合物の合成におけるメトキシジフェニルフォスフィンをジメトキシフェニルフォスファイトに置換して一般式(I)および(II)で表される化合物のメトキシフェニルフォスフィンオキサイドを合成することもできる。 本発明の化合物の一般式(I)および(II)で表される化合物のR2またはR4をアルカリ金属イオンやアルカリ土類金属イオン等の塩に置換した水溶性化合物の合成例として、ヨーロッパ特許第0009348号公報または特開昭57−197286号公報に開示された方法を応用することにより合成することができる。 一般式(I)および(II)で表される化合物において、R2またはR4が、金属をイオン結合した塩の形態の置換基(例えば、−OM基)である場合、例えば、一般式(III):[式中、R6は、置換基を有してもよいアルキル、アルコキシ、または芳香族基;および、Mは、Na、K等のアルカリ金属またはMg、Ca等のアルカリ土類金属である。]で表される塩化合物が挙げられる。 一般式(III)で表される化合物の合成例として、例えば、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボン酸クロリド(DOHCC)とジメトキシフェニルフォスフィン[(CH3O)2-P-Ph]とのMichaelis-Arbuzov転位反応により、一般式(I)で表される化合物に相当する7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル-メトキシフェニルフォスフィンオキサイド(DOHC-MPPO)を合成する。さらに該DOHC-MPPOにヨウ化ナトリウムを反応させて、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル-フェニルフォスフィンオキサイド・ナトリウム塩(DOHC-PPO-Na)を合成することができる。 なお、あえて無数の例示は避けるが、本発明は、上記の一般式(I)〜(III)に限らず、「分子内にアシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体」の定義に合致する化合物は全て含まれることは言うに及ばない。 さらに、本発明の化合物に関連すれば、D,L−カンファーキノンに置換してベンジル基とアシルフォスフィンオキサイド基と結合した化合物も合成できる。4,4’−ジクロロベンジルとアミノ基含有カルボン酸またはヒドロキシ基含有カルボン酸と反応させたカルボン酸から酸クロリドを合成し、上記同様にMichaelis-Arbuzov転位反応により、「分子内にα−ジケトン基とアシルフォスフィンオキサイド基を有する物質」を合成できる。さらに、一般式(I)〜(III)で表される本発明の化合物の合成にあたり、特表2006−500410号公報に記載のアシルフォスフィンオキサイドの新しい製造方法の応用により合成してもよい。 以上説明したように、本発明の分子内にアシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体は、一般式(I)〜(III)で表される化合物の合成方法により無数に合成できる。 一般式(I)で表される化合物の具体例として、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル-メトキシフェニルホスフィンオキサイド、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル-エトキシフェニルホスフィンオキサイド、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル-ビス(o-トルイル)フォスフィンオキサイド、などが挙げられる。 一般式(II)で表される化合物の具体例として、p-(7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル)-アミノベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、p-(7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル)-アミノベンゾイル-エトキシフェニルホスフィンオキサイド、p-(7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル)-アミノベンゾイル-ビス(o-トルイル)フォスフィンオキサイド、p-(7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル)-アミノ-n-ブチル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、p-(7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル)-アミノドデカン-ジフェニルフォスフィンオキサイド、p-(7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル)-アミノ-n-ブチル-エトキシフェニルホスフィンオキサイド、p-(7,7−ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル)-アミノドデカン-エトキシフェニルホスフィンオキサイド、p-(7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル) アミノドデカン-ビス(o-トルイル)フォスフィンオキサイド、などが挙げられる。 一般式(III)で表される化合物の具体例として、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル-フェニルフォスフィンオキサイド・ナトリウム塩、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル-フェニルフォスフィンオキサイド・カリウム塩、p-(7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル)-アミノベンゾイル-フェニルフォスフィンオキサイド・ナトリウム塩、p-(7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル)-アミノベンゾイル-フェニルフォスフィンオキサイド・カリウム塩、などが挙げられる。 本発明の分子内にアシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体は、上記に例示された中でも、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル-メトキシフェニルホスフィンオキサイド、p-(7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル)-アミノベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、p-(7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル)-アミノドデカン-ジフェニルフォスフィンオキサイド、7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル-フェニルフォスフィンオキサイド・ナトリウム塩が特に好ましい。 本発明の分子内にアシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体の配合量は、本発明のラジカル重合性単量体の総量に対して、0.001重量%〜20重量%であり、好適には0.1重量%〜10重量%であり、特に好適には0.2重量%〜5重量%である。0.001重量%未満では硬化が不十分となり、20重量%を超えると硬化物の色調が悪くなる。 本発明の光重合開始剤は、(A)分子内にアシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体を必須成分として含み、さらに(B)重合促進剤、光酸発生剤、光増感剤、(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類から1以上選択して含む。 本発明に用いることができる重合促進剤として、従来から光重合促進剤または室温重合促進剤として使用されている化合物が使用できるが、特に芳香族アミン類および脂肪族アミン類などのアミン類、バルビツール酸類、有機錫化合物、が好適である。 本発明に用いることができる重合促進剤のアミン類としては、例えば、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸メチル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸n-ブトキシエチル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸(2-メタクリロイルオキシ)エチル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸ジメチルアミル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4-N,N-ジメチルアミノベンゾフェノン、4--N,N-ジメチルアミノ安息香酸ブチル、N-メチルジエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート等が挙げられるが、特に4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸イソアミルが好ましい。 本発明に用いることができる重合促進剤のバビツール酸類としては、5-ブチルバルビツール酸、1,3,5-トリメチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツール酸、および1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸などが挙げられるが、5-ブチルバルビツール酸、1,3,5-トリメチルバルビツール酸、1-シクロヘキシル-5-エチルバルビツール酸、1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸などのバルビツール酸類およびこれらの塩類が特に好適である。 本発明に用いることができる重合促進剤の有機錫化合物としては、ジ-n-ブチル錫ジマレート、ジ-n-オクチル錫ジマレート、ジ-n-オクチル錫ジラウレート、ジ-n-ブチル錫ジラウレートなどが挙げられるが、ジ-n-オクチル錫ジラウレートおよびジ-n-ブチル錫ジラウレートが特に好適である。 これらの重合促進剤類は単独で使用してもよく、2以上を組み合わせてもよい。これらの重合促進剤類の配合量は、本発明のラジカル重合性単量体の総量に対して、0.001重量%〜20重量%であり、好適には0.01重量%〜10重量%であり、特に好適には0.1重量%〜3重量%である。0.001重量%未満では硬化が不十分となり、20重量%を超えると硬化物の色調が悪くなる。 本発明に用いることができる光酸発生剤として、従来から公知の光酸発生剤が使用でき、特に、トリハロメチル基置換-1,3,5-トリアジン化合物およびジフェニルヨードニウム塩化合物が好適である。 本発明の光重合開始剤に含まれるトリハロメチル基置換-1,3,5-トリアジン化合物としては、例えば、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2,4,6-トリス(トリブロモ)-1,3,5-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリブロモメチル)-1,3,5-トリアジン、2-フェニル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリブロモメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(p-メトキシフェニル)-4-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(p-メトキシチオフェニル)-4-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(p-クロロフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(p-クロロフェニル)-4,6-ビス(トリブロモメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(2,4-ジクロロフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(p-ブロモフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-[2-(p-ブトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-[2-{N-ヒドロキシエチル-N-エチルアミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、および2-[2-{N-ヒドロキシエチル-N-メチルアミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。また、2-[2-{N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジンおよび[2-{N-ヒドロキシエチル-N-メチルアミノ}エトキシ]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジンなどのトリハロメチル基置換-1,3,5-トリアジン化合物とアミン化合物との反応生成物等が挙げられる。 これらトリハロメチル基置換-1,3,5-トリアジン化合物のなかで、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-(p-メトキシフェニル)-4-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジンが特に好ましい。 本発明の光重合開始剤に含まれるジフェニルヨードニウム塩化合物としては、ジフェニルヨードニウム、ビス(p-クロロフェニル)ヨードニウム、ジトリルヨードニウム、p-tert-ブチルフェニルヨードニウム、ビス(p-tert-ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス(m-ニトロフェニル)ヨードニウム、メトキシフェニルヨードニウム、p-オクチルオキシフェニルヨードニウム等のクロリド、ブロミド、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロボレート、ヘキサフルオロアルセネート、ヘキサフルオロアンチモネート、トリフルオロスルホネート等のジフェニルヨードニウム塩化合物が挙げられるが、中でもヘキサフルオロボレートおよびヘキサフルオロアンチモネートのジフェニルヨードニウム塩化合物が好適である。 これらトリハロメチル基置換-1,3,5-トリアジン化合物やジフェニルヨードニウム塩化合物などの光酸発生剤は、本発明の化合物と併用されてラジカル重合だけでなく、エポキシ化合物やオキセタン化合物からなる光硬化性組成物のカチオン重合開始剤として応用可能である。 本発明の光酸発生剤の配合量は、ラジカル重合性単量体またはカチオン重合性単量体100重量部に対して0.005〜15重量部、好ましくは0.01〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜3重量部である。 本発明に用いることができる光増感剤として、α-ジケトン化合物が挙げられ、例えば、ジアセチル、ベンジル、4,4’-ジメトキシベンジル、4,4’-ジメトキシベンジル、4,4’-オキシベンジル、4,4’-クロルベンジル、カンファーキノン、カンファーキノンカルボン酸、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等が挙げられ、特にカンファーキノンが好適である。 本発明に用いることができる(ビス)アシルフォスフィンオキサイドの略号は、アシルフォスフィンオキサイドおよびビスアシルフォスフィンオキサイドを意味する。 本発明に用いることができるアシルフォスフィンオキサイド類としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルジ-(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。 本発明に用いることができるビスアシルフォスフィンオキサイド類として、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、(2,5,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドが挙げられる。 これら(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類の中でも、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルフォスフィンオキサイド、およびビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)アシルフォスフィンオキサイドが特に好ましい。 (ビス)アシルフォスフィンオキサイド類の配合量は、ラジカル重合性単量体100重量部に対して0.001〜10重量部、さらに好ましくは0.1〜5重量部である。 本発明に用いることができる水溶性アシルフォスフィンオキサイド類としては、アシルフォスフィンオキサイド分子内にアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ピリジニウムイオンまたはアンモニウムイオンを有すものであり、例えば、ヨーロッパ特許第0009348号明細書または特開昭57−197286号公報に開示されている水溶性アシルフォスフィンオキサイド類が挙げられる。具体的には、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィンオキサイドナトリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィンオキサイドカリウム塩、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルフォスフィンオキサイドのアンモニウム塩などである。さらに、特開2000−159621号公報に記載されている水溶性アシルフォスフィンオキサイド類も挙げられる。 本発明の光重合開始剤には、クマリン化合物、ベンゾインアルキルエーテル類、α-アミノケトン類をさらに加えてもよい。 本発明に用いることができるクマリン化合物としては、例えば、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)および3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)が挙げられる。 本発明の光・化学重合(デュアルキュアー)開始剤は、本発明の光重合開始剤を含み、さらに室温重合(化学重合)開始剤を含み、化学重合および光重合の双方を開始することが可能である。 本発明に用いることができる化学重合開始剤として、アミン類と有機過酸化物の組合わせ、アミン類、有機過酸化物およびスルフィン酸またはその塩の組合わせ、ならびにアミン類、有機過酸化物およびバルビツール酸誘導体の組合わせなどからなる化学重合開始剤が挙げられる。 本発明に用いることができる有機過酸化物の例としては、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類等があげられる。具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、ビス-tert-ブチルパーオキシイソフタレート、tert-ブチルパーオキシマレイックアシッド、ジクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、p-ジイソプロピルベンゼンパーオキサイド、ビス(1-ヒドロキシシクロへキシルパーオキシド)、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシべンゾエート、tert-ブチルパーオキシビバレート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ラウロイルパーオキサイド等が挙げられる。 特に好適な有機過酸化物は、ペンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシマレイックアシッドである。 本発明に用いることができるスルフィン酸またはその塩としては、例えば、p-位のトルエンスルフィン酸、トルエンスルフィン酸ナトリウム、トルエンスルフィン酸カリウム、トルエンスルフィン酸リチウム、トルエンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-イソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-イソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-イソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-イソプロピルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-イソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウム等が挙げられるが、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸ナトリウムが特に好ましい。 本発明に用いることができるアミン類やバルビツール酸類の配合量は前述の量の範囲で示されるが、有機過酸化物およびスルフィン酸またはその塩の配合量は、本発明の化合物を含む硬化性組成物のラジカル重合性単量体の総量に対して、0.01重量%〜10重量%であり、好適には0.1重量%〜5重量%であり、特に好適には0.3重量%〜3重量%である。 本発明の硬化性組成物は、本発明の光重合開始剤または光・化学重合開始剤およびラジカル重合性単量体を含む。これらの硬化性組成物は、さらに、フィラーを含有することができる。 本発明の硬化性組成物は、歯科用硬化性組成物として使用することができる。 本発明に用いることができるラジカル重合性単量体として、従来から光重合産業および歯科分野で使用されている不飽和基を有するラジカル重合性単量体を挙げることができる。 本発明に用いることができるラジカル重合性単量体として、脂肪族および芳香族の単官能または多官能のラジカル重合性単量体であり、歯科分野および一般工業界で使用されているラジカル重合性不飽和二重結合を有する、モノマー、オリゴマー、およびプレポリマー、から選択して使用できる。また、イオウ原子を分子内に有する重合性単量体、フルオロアルキル基を分子内に有する重合性単量体、フッ素イオン放出能を有する官能基を含むラジカル重合性単量体も使用できる。 本発明のラジカル重合性単量体として、具体的には例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、スチレン、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、グリセロールジメタクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、3-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメトキシシラン、2,2-ビス{4-(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル}プロパン;ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート;Bis-GMA、[2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)]ジ(メタ)アクリレート;UDMA、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラアクリロイルオキシメチル-4-オキシヘプタンN,N’-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレート、およびウレタンテトラメタクリレート類として、1,3-ジメタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロパンと2,2,4-トリメチルジイソシアネートの2:1付加反応生成物、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル6,8-ジチオクタネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル6,8-ジチオクタネート等が挙げられる。 ここに、(メタ)アクリレートの略号はアクリレートおよび(メタ)アクリレートを意味する。(メタ)アクリロイルおよび(メタ)アクリロキシの略号も同様である。 本発明に用いることができる、少なくとも一つのフルオロカーボンで構成されるフルオロアルキル基を有するラジカル重合性単量体としては、メタクリロイル基、アクリロイル基、ビニル基またはビニルベンジル基等の重合性基を1つ以上有する(メタ)アクリレート化合物を使用でき、例えば特開2003−095838号公報に記載されている化合物および特開2003−105272号公報に記載されている化合物などが挙げられる。 本発明に用いることができるフッ素イオン放出能を有するラジカル重合性単量体としては、例えば特開2003−342112号公報に記載されている環式ホスファゼン化合物などが挙げられる。 これらのラジカル重合性単量体は、単独または、適宜組み合わせて使用されるが、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、2,2-ビス{4-(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル}プロパン=ビスフェノールA-ジグリシジル(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリロキシエチル-2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジウレタン、などが特に好ましい。 これらのラジカル重合性単量体は単独で使用してもよく、2以上の化合物を組み合わせてもよい。これらラジカル重合性単量体の配合量は、本発明の光重合開始剤を含有する硬化性組成物の総量に対して、10重量%〜99.9重量%であり、好適には20重量%〜80重量%であり、特に好適には25重量%〜78重量%である。5重量%未満および99.9重量%を越えると硬化特性が低下する。 本発明の歯科用硬化性組成物に接着性を付与したい要件などに応じて、保存安定性が可能な範囲で、分子内に酸性基を有するラジカル重合性単量体を適宜配合してもよい。 これらの酸性基を有するラジカル重合性単量体として、例えば、4-(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸、4-(メタ)アクリロキシエチルトリメリット酸無水物、6-(メタ)アクリロキシヘキシルホスホノアセテート、6-(メタ)アクリロキシヘキシルホスホノプロピオネート、10-(メタ)アクリロキシデシルハイドロジェンフォスフェートなどが好適である。 これらの分子内に酸性基を有するラジカル重合性単量体は単独で使用してもよく、2以上の化合物を組み合わせてもよい。 これら分子内に酸性基を有するラジカル重合性単量体の配合量は、本発明の光重合開始剤を含有する硬化性組成物のラジカル重合性単量体の総量に対して、0.1重量%〜30重量%であり、好適には3重量%〜15重量%であり、特に好適には5重量%〜10重量%である。0.1重量%未満および30重量%を越えると硬化特性が低下する。 本発明の光重合開始剤を含有することを特徴とする硬化性組成物には、機械的強度、操作性、塗布性、流動性の調整のため、ラジカル重合性単量体に加えて適宜フィラーを配合してもよい。 本発明に用いることができるフィラーとして、従来から光重合産業および歯科分野で使用されている有機、無機フィラーを挙げることができる。 本発明の硬化性組成物に用いることができる好適なフィラーは、超微粒子フィラー、シリカフィラー、ポリマー、および本出願者による特許第3497508号公報(2003年)および米国特許第08/892766号公報(2000年)に記載されている、予め反応されたグラスアイオノマーフィラー(=PRGフィラー:プレフォームドグラスアイオノマーフィラー=フルオロアルミノシリケートガラスとポリアルケン酸と水中で酸―塩基反応させ生成したグラスアイオノマー反応ゲルを乾燥して製造したフィラー)である。 またこれらフィラーを必要に応じてシランカップリング剤等の公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。かかる表面処理剤としては、例えば、ビニルトリクロロシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。 これらのフィラーのうち、超微粒子フィラー、シリカフィラー、およびフッ素徐放性フィラーが特に好適である。 本発明の硬化性組成物には、アセトンおよびエチルアルコールなどの有機溶剤を適宜加えてもよく、さらに水を加えてもよい。水は本発明の化合物を接着剤に応用する場合に必要に応じて配合できる。水は、精製水およびイオン交換水が好ましい。 本発明の光重合開始剤を含有する硬化性組成物の棚寿命の安定化のために含まれる重合防止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ブチル化ヒドロキシトルエン等が挙げられ、ハイドロキノンモノメチルエーテルおよびブチル化ヒドロキシトルエンが適している。 本発明の光重合開始剤を含有する硬化性組成物の使用目的に応じて、変性剤、増粘剤、染料、顔料、重合調整剤、などを適宜配合してよい。 本発明の光重合開始剤を含有する硬化性組成物は、実施する態様として、光重合ボンディング剤、光重合コンポジットレジン、歯冠部クラウンおよびブリッジ用光重合コンポジットレジン、光・化学重合レジンセメント、フィッシャーシーラント、歯列矯正用接着剤、ティースコーテイング剤、オペーク剤、光重合ネイル用材料、光重合ネイル用接着剤などに使用することができる。 次に実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。 本発明の実施例3以降に使用した本発明の化合物以外の化合物または材料TCT:2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジンMCT:2-(p-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジンDMBE:4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチルDEPT:(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジンTMBA:1,3,5-トリメチルバルビツール酸BPBA:1-ベンジル-5-フェニルバルビツール酸CQ:カンファーキノンTMP-APO: 2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドBis-TMP-APO:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドBPO:ベンゾイルパーオキサイドBis-GMA:2,2-ビス(4-メタクリロキシプロポキシフェニル)プロパン=ビスフェノールAジグリシジルメタクリレートUDMA:[2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート=ジメタクリロイルオキシエチル-2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジウレタンEGDMA:エチレングリコールジメタクリレートTEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレートTMPT:トリメチロールプロパントリメタクリレート4-AET:4-アクリロキシエチルトリメリット酸6-MHP:(6-メタクリロイルオキシ)ヘキシル-3-フォスフォノプロピオネートBHT:ブチル化ヒドロキシトルエンシリカフィラー:(平均粒度:2μm、シランカップリング処理済み)超微粒子フィラー:アエロジルR-972 (平均粒度:0.18μm、日本アエロジル社製) 本発明の実施例に使用した材料評価方法を下記に示す。(1)紫外-可視吸収スペクトルの測定 分光測定器(HITACHI社製,HITACHI U-3310)により石英セルを用いてセル長1.0cm、トルエン溶媒中、サンプル濃度0.1mmol/Lまたは10mmol/Lの濃度で測定した。(2)光硬化性評価 調製した光硬化性組成物の溶液を練板紙に1滴採取し、各種照射器(Hal,LED,Xe)で光照射し、光硬化性を確認した。3種の歯科用光照射器は、ハロゲンランプ(Hal)照射器の松風グリップライトII [(株)松風社製](30秒照射、照度:650mW/cm2、波長領域:375〜525nm、λmax=500nm)、発光ダイオード(LED)照射器としてエリパーフリーライト2(3M・エスペ社製)(10秒照射、照度:635mW/cm2、波長領域:420〜510nm、λmax=455nm) およびキセノンランプ(Xe)照射器のアポロ・エリート95E(DMD社製)(3秒照射、照度:1330mW/cm2、波長領域:435〜520nm、λmax=465, 500nm) を使用した。なお、各照射器の照度測定波長領域は400〜515nmとした。◎:表面の未反応モノマー量が極めて少なく、極めて高い光硬化性を示す。○:表面の未反応モノマー量が少なく、高い光硬化性を示す。△:表面の未反応モノマー量が認められ、低い光硬化性を示す。×:光硬化性しない。(3)光DSC測定 示差走査熱量計(Thermal Analysis System TAS200 DSC8230D、理学電機(株))をガラスファイバーで連結したハロゲンランプ使用の松風グリップライトII(Hal)[(株)松風社製] を照度:80mW/cm2、波長領域:400〜800nmで使用した。試料8mgをミニアルミニウムパンにいれDSC内でガラスファイバー先端から光照射した。この光DSC測定では,光照射直後から最高発熱にいたる時間を光重合時間(秒)として測定した。 試料数3回の測定で平均値を求めた。(4)可使時間(秒) 照度10,000Lx(±2,000Lx)のデンタルハロゲンランプ(Luna-Vue S、モリタ製作所製)下、1mに光硬化性試料30mgを置き、ゲル化するまでの時間(秒)を測定した。最長で150秒まで観測した。なお、余裕のある操作時間の判定としては、液状硬化性組成物およびフィラー含有ペースト状硬化性組成物で30秒以上と定義した。(5)硬化物の色差の測定 調製した各種光硬化性組成物をステンレス製リング内に入れ,2枚のカバーガラスで上下方向から圧接し、光重合器(ツインキュアー、(株)松風社製)で両面3分ずつ光照射して直径15mm、厚さ2mmの丸板を作製した。作製した丸板を色差計(カラーガイド、BYK-Gardner社)でL*a*b*表色系による色差を測定した。このとき、丸板作製直後の色、L値、a値、b値と70℃1日後の色差を測定し,ΔEとΔbを計測した。なお、ΔEとΔbは以下のように算出される。さらに、光硬化前後の色差ΔEとΔbも計測した。 なお、上式中、Li、aiおよびbiは丸板作成直後のそれぞれの値であって、Lf、afおよびbfは作成した丸板を70℃1日後に測定したそれぞれの値である。(6)硬化深度(mm) 内径4mm×高さ8mmに試料を充填し、上下にカバーグラスで圧接して、上面にガラスケーブル先端を接してハロゲンランプ((株)松風社製松風グリップライトII)で30秒間光照射する。光硬化後、モールドを除去して光硬化物を取り出し、光照射の裏面をアルコール含浸させたサラシで拭いて未硬化部分を除去して、残存硬化物の長さを計測して光硬化深度(mm)とした。(7)硬さ 試作光重合コンポジットレジンを直径4mm、高さ2mmのステンレス製モールドに填入し、モールド上下面を薄いスライドガラスで圧接して白色紙練板上に置き、片側のガラス面に照射器のケーブル先端を直接接触させて上記「硬化深度」と同様に30秒間光照射した。光硬化後、モールドを除去して光硬化物を取り出し、硬さ試験体を作製した。硬化物の照射面(表面)と裏面のビッカース硬さ(MICRO HARDNESS TESTER:松沢精機製)を測定した。ビッカース圧子を用いて、荷重100gf、荷重保持時間30秒で試験片にできたくぼみの対角線の長さの比からのビッカース硬さを測定した。(8)曲げ強さ、曲げ弾性率 ISO規格に基づき、曲げ試験体(2×2×25,mm)を作製し、37℃水中24時間後、支点間距離20mmで3点曲げ試験により曲げ強さおよび曲げ弾性率を測定する。光照射は松風グリップライトII(Hal)[(株)松風社製]で行った。実施例17,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル-ジフェニルフォスフィンオキサイド(DOHC-DPPO)の合成 ステップ1:7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボン酸(DOHCA)の合成 2-オキソ-1-アポカンファンカルボン酸(D,L-ケトピン酸) 9.1g(50mmol)と二酸化セレン7.77g(70mmol)を酢酸50mL中で18時間還流し、冷却後、反応混合物を蒸発乾固した。残渣を酢酸エチルに溶解し水洗した。酢酸エチル層は硫酸ナトリウムで乾燥・濾過後、濃縮した。残渣を酢酸エチルとヘキサンから再結晶し、表記化合物(DOHCA)8.2g(収率83%)を得た。融点239℃IRスペクトル(neat: cm-1):1776.52、1749.51(α-ジケトンのνC=O)、1693.57(-COOHのνC=O)ステップ2:7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボン酸クロリド(DOHCC)の合成 2,3-ジケトカルボン酸(DOHCA)16g(0.075mmol)に塩化チオニル80mL(1.10mol)を加えて、加熱還流下で1時間反応させた後、過剰の反応液をエバポレーターで蒸発乾固した。さらに微量の塩化チオニルを除去するために、四塩化炭素を加えて再び濃縮した。得られたワックス状の残渣にn-ヘキサンを加えて結晶化させて表記化合物16.1g(収率92.2%)を得た。 生成物は黄色結晶のCQより黄味が少ない淡黄色結晶を示した。融点:121〜124℃IRスペクトル(neat: cm-1):1776.44(COClのνC=O)元素分析:C10H11ClO3、計算値:C,55.96%;H,5.17%。実測値:C,56.18%;H,5.33%ステップ3:7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル-ジフェニルフォスフィンオキサイド(DOHC-DPPO)の合成 表記化合物は、ステップ2で合成された酸クロリド(DOHCC)5.0g(23.30mmol)とメトキシジフェニルフォスフィン5.1g(23.75mmol)をトルエン(30mL)中65℃で5時間、暗室にて反応させた。反応時間は、IRスペクトル上、1776.44 cm-1(COClのνC=O)が完全に消失した時間で決定した。反応完結後、アシルフォスフィンオキサイド基のνC=O (1697.36 cm-1)およびνP=O (1188.15 cm-1)が生成した。反応混合物を濃縮後、多量のヘキサン(200mL)中に投入し、沈降物を濾過・洗浄して表記化合物(DOHC-DPPO)7.7g(収率86.0%)を得た。 生成物は黄色結晶のCQより黄味が少ない淡黄色結晶を示した。融点:92.1℃IRスペクトル(neat: cm-1):1749.44(α−ジケトンのνC=O)、 1697.36 [-C(=O)-P(=O)< のνC=O]、1188.15 [-C(=O)-P(=O)< のνP=O]元素分析:C22H21O4P、計算値:C,69.47%;H,5.56%。実測値:C,69.16%;H,5.71%紫外-可視スペクトル(溶媒:トルエン):350〜500nmに連続した幅広い吸収を示し、最大吸収波長λmax=370nm(アシルフォスフィンオキサイド基由来)およびλmax=462nm(カンファーキノン基由来)が認められた。 以上の分析結果より、合成したDOHC-DPPOは次式のように構造決定した。実施例1−2(紫外-可視吸収スペクトルの測定) CQ-APOの具体例として合成されたDOHC-DPPO、CQおよびTMP-APOの紫外-可視吸収スペクトルをセル長1.0cmの石英セルを用いて、トルエン溶媒中、TMP-APOは0.1mmol/L、CQおよびDOHC-DPPOは10mmol/Lの濃度で分光測定器(HITACHI社製、HITACHI U-3310)により測定した。ハロゲンランプによる光照射前(図1)と照射後(図2)の紫外-可視吸収スペクトルを図1および2に示す。また、CQおよびTMP-APOの正式名称と化学式を下記に示す。CQ:D,L-カンファーキノンTMP-APO:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド 波長が約400nmから800nmの領域は可視光領域であり、この領域で光を吸収するものは呈色する。図1に示すように、CQはλmax=472nmに吸光係数εmax=37.2M-1cm-1の吸収を有している。このCQの吸収は前述のように可視光領域であるため、黄色を呈する。TMP-APOはλmax=382nmに吸光係数εmax=6170M-1cm-1と非常に大きな吸収を有するが、この吸収は近紫外領域に属するために呈色しない。結果としてTMP-APOは無色である。 これに対し、CQ-APOの具体例として合成されたDOHC-DPPOはλmax=370nmと462nmにそれぞれ吸光係数εmax=74.6 M-1cm-1と7.0 M-1cm-1を有している。DOHC-DPPOのλmax=370nmの吸収においては前述のTMP-APOと同様に近紫外領域であるため呈色には関与しない。しかし、可視光領域のλmax=462 nmの吸収は呈色に関与する。このときのDOHC-DPPOの吸光係数をCQのものと比較すると、DOHC-DPPOの吸光係数はCQの吸光係数の約1/5である。この吸光係数の違いによって、DOHC-DPPOはCQが呈する黄色と比較して非常に薄い黄色を呈し、これにより硬化前後におけるΔb値が非常に小さな値となることが想定される。なお、吸光係数については、光照射後の結果も含めて後述する。 図2よりTMP-APOは光照射後、λ=382nmの吸光係数ε=19.0M-1cm-1を示し、光照射前より1/325に減少した。CQも光照射後で472nmの吸収における吸光係数εmax=21.0M-1cm-1を示し、1/1.8に減少した。TMP-APOは光照射することによって、アシルフォスフィンオキサイドの-(C=O)-(P=O)-のC-P結合が開裂しラジカルが発生する。また、TMP-APOは開裂によりTMP-APOと異なる構造の化合物が生成するため、光照射後はアシルフォスフィンオキサイド結合のλmax=382nmの吸収が小さくなる。しかし、α−開裂型のTMP-APOと異なり、CQの場合は溶媒のトルエンからゆるやかな水素引抜きのため大幅な吸光係数の減少にはならない。 本発明の化合物であるDOHC-DPPOは、λ=370 nmと462 nmのそれぞれの吸収が光照射後に吸光係数ε=26.0 M-1cm-1と2.9 M-1cm-1を示し、照射前より1/2.8〜1/2.4に減少していることが確認された。これによりDOHC-DPPOは光照射によってアシルフォスフィンオキサイド基のC-P開裂とα-ジケトンの水素引抜きによるラジカル生成の両方が可能であるということが示唆される。 ここで、TMP-APOも本発明の化合物のDOHC-DPPOも両方とも[-C(=O)-P(=O)<]結合を有する。[-C(=O)-P(=O)<]結合は370nm付近に吸収を有するが、両化合物とも光照射によるC-P開裂によって、370nm付近の吸収が減少したと理解できる。 図2において、本発明のDOHC-DPPOの吸光係数と比較して、TMP-APOの吸光係数が光照射前後に大きく減少したことについて誤解のないように言及しておく。光照射前においてTMP-APOは分子内にベンゼン環とカルボニル基の共鳴構造をもつベンゾイル基を有するため、このベンゾイル基の吸収波長が[-C(=O)-P(=O)<]結合の吸収波長と重なることで大きな吸光係数を持つ。 光照射後において、TMP-APOはその分子中のベンゾイル基は立体的にフリーとなり、ベンゼン環とカルボニル基との間でフリーローテーションが可能となる。結果としてTMP-APOは光照射後においてベンゾイル基特有の吸収が消え、ベンゼン環特有の吸収とカルボニル基特有の吸収となり、吸収波長が短波長側に移動したと推察される。これにより、TMP-APOは光照射により382 nmで吸光係数が6170 M-1cm-1から19.0 M-1cm-1と大きく減少したと考えられる。 次に本発明のDOHC-DPPOについて、DOHC-DPPOはもともと分子中にベンゾイル基を持たない。よって光照射前ではDOHC-DPPOの370 nm付近の吸光係数は本来の[-C(=O)-P(=O)<]結合のみによる値と考えられるため、その吸光係数は370nmで74.6M-1cm-1となる。この波長においてこのDOHC-DPPOは光照射後において26.0M-1cm-1と減少している。 このDOHC-DPPOの値は、前述したTMP-APOの光照射後の値(19.0 M-1cm-1)とほぼ同じ値であるため、光照射後においてDOHC-DPPOもTMP-APOも[-C(=O)-P(=O)<]結合のC-P開裂が生じたということが理解できる。 以上のことから、370nm付近の吸光係数の値がそのままアシルフォスフィンオキサイド基のC-P開裂による光開始剤としての効果を表しているのではない。実施例2p-(7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル)-アミノベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド (DOHC-AB-DPPO)の合成ステップ1:p-(7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル)-アミノ安息香酸(DOHC-AB)の合成 p-アミノ安息香酸 4.13g(0.03mol)、28.5%水酸化ナトリウム水溶液8.6g(0.06mol)を混合し、ペースト状になったところで7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボン酸クロリド(DOHCC)6.45g(0.03mol)をトルエン20mLに溶解した溶液を滴下した。滴下後、内温を35〜40℃に上げ2時間攪拌反応させた。冷却後、濃塩酸3.06g(36%として0.03mol)および水20mLを加えた。そのまま30分間攪拌を続けた後、結晶を濾別、水洗して十分に水をきった後、五酸化リンを入れて真空デシケータで乾燥し、表記化合物を得た。収量6.6g(収率70%)。融点 281〜283℃。ステップ2:p-(7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル)-アミノ安息香酸クロリド (DOHC-ABC)の合成 表記化合物は、ステップ1で合成した化合物(DOHC-AB)5.5g(0.0174mol)および塩化チオニル27mLを入れ1時間還流下で反応させた。反応終了後、過剰の塩化チオニルを留去して残渣をn-ヘキサンで処理して結晶を濾別した。真空デシケータで乾燥して表記化合物(DOHC-ABC) 5.36gを得た。 融点124〜127℃ IRスペクトル(neat: cm-1):1540.02(-CONH-のδNH)、1680.03(-CONH-のνC=O)、1748.55(COClのνC=O)、3400.02(-CONH-のνNH)ステップ3:p-(7,7-ジメチル-2,3-ジオキソビシクロ[2.2.1]ヘプタン-1-カルボニル)-アミノベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド(DOHC-AB-DPPO)の合成 表記化合物は、ステップ2で合成した酸クロリド(DOHC-ABC)3.0g(9.0 mmol)とメトキシジフェニルフォスファイト2.0g(9.3 mmol)をトルエン(30 mL)中65℃で10時間、暗室にて反応させて合成した。反応時間は、IRスペクトル上1748.55cm-1(COClのνC=O)が完全に消失した時間で決定した。反応完結後、アシルフォスフィンオキサイドのνC=O (1700.32cm-1)、νP=O (1176.13cm-1)が生成した。反応混合物を濃縮後、多量のヘキサン(200mL)中に投入し、沈降物を濾過・洗浄して淡黄色結晶の表記化合物(DOHC-AB-DPPO)3.14g(収率69%) を得た。 生成物は黄色結晶のCQより黄みが少ない淡黄色結晶を示した。融点:96〜98℃IRスペクトル(neat: cm-1): 1700.32 [-(C=O)-P(=O)<のνC=O]、1176.13 [-(C=O)-P(=O)< のνP=O]元素分析:C29H26NO5P, 計算値: C, 69.73 %; H, 5.25 %; N, 2.80 %. 実測値:C, 69.38 %; H, 5.51 %; N, 2.84 %紫外-可視スペクトル(溶媒:トルエン):350〜500nmに幅広い吸収を示し、アシルフォスフィンオキサイド基由来の350〜420nmおよびカンファーキノン基由来の400〜500nmが認められた。 以上の分析結果より、表記化合物DOHC-AB-DPPOは次式のように構造決定した。 実施例3〜4、比較例1〜3 実施例1〜2で合成した本発明のアシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体(DOHC-DPPO, DOHC-AB-DPPO)、D,L-カンファーキノン(CQ)、およびアシルフォスフィンオキサイド(TMP-APO)を選択して含む光重合開始剤およびラジカル重合性単量体(Bis-GMA、TEGDMA)を表1に示す組成で均一溶液に調製した光硬化性組成物のハロゲンとLED歯科用光照射器による光硬化性の評価、および色調と色調変化を測定した。結果を表1に示す。 表1より、従来のCQ単独(比較例1)では、HalとLEDでの光硬化性が不十分であり、色調の黄色味を示すb値が極めて高い84.0を示した。TMP-APO単独(比較例2)では、LEDでは全く光硬化性を示さなかった。また、CQとTMP-APOの混合系(比較例3)では光硬化性に改善が見られるものの色調の黄色味を示すb値は極めて高い87.8を示した。 これに対し、本発明のDOHC-DPPO単独およびDOHC-AB-DPPO単独(実施例3、4)では、CQ単独およびTMP-APO単独よりHalとLEDの光硬化性に優れることが判明した。さらに、驚くべきことに、DOHC-DPPOは、色調の黄色味を示すb値が極めて低く4.0を示し、CQ単独のb値の約1/20、CQとTMP-APO混合系の約1/22という優れた色調特性を示した。CQとTMP-APOが物理的に混合された比較例3でも大きなb値は全く改善されなかったのに対し、本発明の化合物DOHC-DPPOでは分子内にカンファーキノン基とアシルフォスフィンオキサイド基が化学的に結合され、分子内にα−ジケトン基とアシルフォスフィンオキサイド基を有する構造特性により優れた光硬化性と優れた色調安定性が創製された。またDOHC-AB-DPPOのb値はDOHC-DPPO より大きい値を示したが、CQ単独やCQとTMP-APO混合系の1/4.6を示し、ΔE値、Δb値で最も小さい値を示した。L値、a値は、4試料で顕著な差は認められなかった。実施例5〜6、比較例4〜5 (A)アシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体(DOHC-DPPO、DOHC-AB-DPPO)を必須として含み、さらに(B)芳香族第三アミン(DMBE)を含む光重合開始剤およびラジカル重合性単量体(Bis-GMA、TEGDMA)から成る光硬化性組成物を表2に示す組成で均一溶液に調製し、光硬化性の評価、光重合速度を表す光DSC、環境光での操作性の評価である可使時間、および色調と色調変化を測定した。比較として,従来のCQ、TMP-APO、DMBE等からなる光重合開始剤を用いた。結果を表2に示す。 表2より、従来の開始剤のCQ/DMBE(比較例4)およびCQ/DMBE/TMP-APO(比較例5)は、光DSCで速い光硬化速度8.5〜10.9秒を示したが、反面、非常に短い可使時間5秒を示し、さらに、L値で大きな差異は認められなかったものの、色調の黄色味を示すb値では極めて大きな83.1〜88.8を示し、歯科用レジンとして環境光での操作性と色調に決定的な欠陥があることが確認された。 これに対し,本発明のDOHC-DPPOおよびDMBEから成る光開始剤(実施例5)は、速い光重合速度(9.6秒)を示し、かつ、余裕のある可使時間(50秒)を示した。さらに色調の黄色味を示すb値は極めて小さい6.4を示し、比較例4〜5の約1/13の値となり、色調が大きく改善された。本発明の化合物DOHC-AB-DPPOにおいてもDOHC-DPPOと同様な傾向を示し、さらにΔE値とΔb値が最も小さい値を示した。実施例7〜16および比較例6〜8 (A)アシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体(DOHC-DPPO、DOHC-AB-DPPO)を必須として含み、さらに(B)芳香族第三アミン(DMBE)、バルビツール酸誘導体(TMBA)、トリハロメチル基置換-1,3,5-トリアジン化合物(TCT,MCT)、および(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類(TMP-APO,Bis-TMP-APO)から1以上を選択して含む光重合開始剤、およびラジカル重合性単量体(樹脂)としてBis-GMAおよびTEGDMAから成る光硬化性組成物を表2に示す組成で均一溶液に調製し、3種の歯科用光照射器による光硬化性の評価、光DSC測定、および可使時間を測定した。比較として、従来のTMP-APOのみ、CQ/TMP-TMBAおよびCQ/TMBA/TMP-APOなどの混合系光重合開始剤を用いた。測定結果を表3に示す。 表3より、本発明のDOHC-DPPOおよびDOHCAB-DPPOを必須として含み、芳香族第三アミン化合物(DMBE)、バルビツール酸誘導体(TMBA)、トリハロメチル基置換-1,3,5-トリアジン化合物(TCT, MCT)や(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類(TMP-APO, Bis-TMP-APO)を1以上併用した種々の光重合開始剤(実施例7〜16)は、全て3種の歯科用照射器(ハロゲン、キセノン、LED照射器)で優れた光重合性を示し、さらに、極めて速い硬化速度(光DSC:7.3〜10.6秒)、余裕のある可使時間(35〜150秒)を示した。 これに対し、従来のTMP-APO単独(比較例7)では、Halで優れた光重合性と速い光硬化速度を示したが、LEDとXeでは全く光硬化性を示さなかった。CQ/TMBAおよびCQ/TMBA/TMP-APO (比較例8、9)などの混合系では、3種の歯科用照射器で優れた光重合性および速い硬化速度(光DSC:9.0〜10.8秒)を示したが、非常に短い可使時間(10秒)を示し、環境光下での操作性が困難であることが示唆された。実施例17〜27 (A)アシルフォスフィンオキサイド基を有するカンファーキノン誘導体(DOHC-DPPO)を必須として含み、(B)有機錫化合物(Tin-Lau)および(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類(TMP-APO、Bis-TMP-APO) から1以上を選択して含む光重合開始剤、およびラジカル重合性単量体(樹脂)としてBis-GMA、TEGDMA、および4-AETからなる光硬化性組成物を表3に示す組成で均一溶液に調製、3種の歯科用光照射器による光硬化性の評価、光DSC測定、可使時間、および硬化物の色調と70℃1日後の色差を測定した。結果を表4に示す。 表4より、本発明の光重合開始剤であるDOHC-DPPO/Tin-Lau、DOHC-DPPO/Tin-Lau/TMP-APOおよびDOHC-DPPO/Tin-Lau/Bis-TMP-APOは、3種の歯科用照射器で優れた光硬化性を示し、速い光重合速度(光DSC:7.3〜10.9秒)および余裕のある可使時間(35〜150秒)を示した。TMP-APOまたはBis-TMP-APO添加量が増えると可使時間が短くなる傾向を示し、また、Bis-TMP-APO添加量が増えるに従いb値が高くなる傾向を示した。しかし、硬化物の70℃1日後の色差は、ΔEで4.0〜10.9、Δb値で3.2〜5.0を示し、いずれも小さい値を示した。これらの結果より、DOHC-DPPOを必須として、Tin-Lau、TMP-APOおよびBis-TMP-APOから1以上組み合わせた光開始剤は、本発明目的の光重合速度や可使時間および色調安定性を十分満足させた。実施例28〜32 本発明の光重合開始剤を含む光硬化性組成物を歯冠部クラウンおよびブリッジ用光重合性コンポジットレジンとしての態様で検討した。(A)DOHC-DPPOを必須成分とし、(B)Tin-Lau、TMP-APO、およびBis-TMP-APOから1以上を選択して含む光重合開始剤、およびラジカル重合性単量体として、UDMA、TMPT、および4-AET、を表3の組成で混合してマトリックスレジン組成物を調製した。なお、全ての組成液にブチル化ヒドロキシトルエン(300ppm)を添加した。 次いで、該マトリックスレジン組成物、シリカフィラー(平均粒度:3μm) および超微粒子フィラー(日本アエロジル社製)を表5の組成で混合してニーダーで均一に混練・脱泡し、光重合組成物として歯冠部クラウンおよびブリッジ用光重合コンポジットレジンを製造した。なお、ペースト製造では,インサイザルのシェードとして微量の顔料を添加した。該光重合コンポジットレジンの3種の歯科用光照射器による光硬化性の評価、光DSC測定、可使時間、曲げ強さ、曲げ弾性および硬化物の色調と70℃1日後の色差を測定した。結果を表5に示す。 表5より、本発明の光重合開始剤を含む光硬化性組成物では、3種の照射器での光硬化性に優れ、光硬化時間が速く、かつ、余裕のある可使時間150秒を示し曲げ強さと曲げ弾性率が高い値を示し、さらに色調では低いb値を示すと共に色調変化を示すΔE値とΔb値が非常に少ない結果を示し、審美性を重視する歯冠部クラウンおよびブリッジ用光重合コンポジットレジンとして優れた効果が認められた。 以上の結果より、本発明の光重合開始剤は、歯冠部クラウンおよびブリッジ用コンポジットレジンに、速い光硬化速度と優れた光重合性、余裕のある操作性、および高い物理的特性など安定した性能を付与することが確認された。実施例33〜43 (A)DOHC-DPPOを必須として含み、(B)Tin-Lau、TMP-APO、Bis-TMP-APO、およびCQから1以上選択して含む光重合開始剤、およびラジカル重合性単量体(樹脂)としてBis-GMA、TEGDMA、および4-AETから成る光重合組成物を表6に示す組成で均一溶液に調製、3種の歯科用光照射器による光硬化性の評価、光DSC測定、可使時間、および硬化物の70℃1日後の色差を測定した。結果を表6に示す。 本発明のDOHC-DPPOを必須として表6の組み合わせからなる本発明の光重合開始剤は、3種の歯科用照射器全てで優れた光重合性を示し、光DSC:7.9〜10.5秒、可使時間:40〜140秒、b値:5.2〜20.3、70℃1日後のΔE:2.7〜5.8、Δb:1.8〜5.3を示し、DOHC-DPPOおよび表中の開始剤成分濃度を増減させることにより、光硬化速度、可使時間および色調や色調変化などにバランスの良い硬化性組成物を設計することが可能である。実施例44〜45および比較例9〜11 UDMA(60重量部)、TMPT(40重量部)、4-AET(0.4重量部)から成るマトリックスレジン(26重量部)、シリカフィラー(72.9重量部)、微粒子フィラー(1.1重量部)、および光重合開始剤を含む混合物をニーダーで混練して光重合コンポジットレジンを製造した。なお、ペースト製造において、インサイザルシェードとして微量の顔料を添加した。該光重合開始剤として、マトリックスレジン100重量部に対し、DOHC-DPPO、DOHC-AB-DPPO、CQ、TMP-APO、DMBEを表7に示す組成で調製した。調製した光重合コンポジットレジンの硬化深度、可使時間、曲げ強さ、曲げ弾性率などを測定し、色調変化を評価した。結果を表7に示す。 表7の結果より、従来のCQ/DMBEを使用した場合(比較例9)は、硬化深度や曲げ強さが比較的低く、高いΔE値8.0およびΔb値7.5を示したが、可使時間が10秒を示し操作時間が短いことが示唆された。TMP-APOのみの場合(比較例10)は、硬化深度はハロゲンランプで4.6mmを示したもののLEDでは0mmであった。ハロゲンランプによる物性もCQレベルであった。三元混合系のDOHC-DPPO/DMBEを使用した場合(比較例11)は、硬化深度および曲げ強さで高い値を示したものの、可使時間が大幅に短く3秒を示し実用性がないと判断された。また、光硬化前後の色差ΔE値は14.5およびΔb値は13.5を示し、歯科用コンポジットレジンの色調に決定的な欠陥があることが示唆された。 これに対し、本発明の光開始剤の場合(実施例44〜45)は、硬化深度や曲げ強さが優れ、ΔE値は3.2〜3.7およびΔb値は1.4〜1.6を示し、可使時間も35〜40秒を示すなど、安定した性能を示した。元来、CQは黄色味が強いためその添加量を少なくすることで光硬化性を適正にすることがなされているが、本発明のDOHC-DPPO, DOHC-AB-DPPOは、従来のCQに比べて、高い濃度においても色調安定性に優れることが明らかとなった。 すなわち、本発明のDOHC-DPPOおよびDOHC-AB-DPPOは、分子内にカンファーキノン由来のα−ジケトン基およびアシルフォスフィン基を有し、その構造特性から近紫外〜可視領域に幅広い吸収を有する新規化合物であり、これら化合物を必須とする光重合開始剤は、3種の歯科用照射器(ハロゲン、キセノン、LED)で優れた光重合性を示し、従来のCQに比べて、格段に優れた硬化物色調を有することが明らかとなった。さらに、速い光硬化性と環境光に安定な操作性を有し、硬化深度や曲げ強さ等の物理的性質も安定し、歯科分野での使用が大いに期待できる。実施例46 Bis-GMA (30重量部)、EDMA (35重量部)、TEGDMA (20重量部)、EGDMA (7.0重量部)、6-MHPA (5重量部)、DOHC-DPPO (2.0重量部)、CQ (0.5重量部)、BPO (0.5重量部)、およびBHT (500ppm)から成るレジンセメント液剤、およびシリカフィラー(98.9重量部)、BPBA (1重量部)、およびDEPT (0.1重量部) から成るレジンセメント粉剤を調製した。調製した光・化学重合レジンセメントは、23±1℃の暗室内、粉液比3.5/1.0で混和した時6.5分で硬化した。また、混和直後のセメント泥にハロゲンランプ(Hal)照射器の松風グリップライトII[(株)松風社製]を照射したところ10秒で硬化した。試作レジンセメントを混和し、化学重合後光照射をして光・化学重合(デュアルキュアー)させた。曲げ強さは37℃水中24時間後で118 MPa、曲げ弾性率は86 GPaを示した。 本発明は、歯科分野や整形外科の分野に限らず、接着剤、塗料、印刷、プリント基板、フォトレジスト、などの光重合産業分野などに応用が可能である。 分子内にアシルフォスフィンオキサイド基[-(C=O)-(P=O)<]を有するカンファーキノン誘導体であって、 下記の一般式(I):[式中、R1は、置換基を有してもよいアルキル、アルコキシ、または芳香族基;R2は、R1と同一または異なって、置換基を有してもよいアルキル、アルコキシ、または芳香族基または−OM基、ここに、Mは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である。]で表され、D体およびL体のいずれでもよい、;または、 下記の一般式(II):[式中、R3は、置換基を有してもよいアルキル、アルコキシ、または芳香族基;R4は、R3と同一または異なって、置換基を有してもよいアルキル、アルコキシ、または芳香族基または−OM基、ここに、Mは、アルカリ金属またはアルカリ土類金属;R5は、官能基として、置換基を有してもよい芳香族基;およびXはアミド結合またはエステル結合である。]で表され、D体およびL体のいずれでもよい、カンファーキノン誘導体。 請求項1に記載の分子内にアシルフォスフィンオキサイド基[-(C=O)-(P=O)<]を有するカンファーキノン誘導体を必須成分として含む光重合開始剤。 請求項1または2に記載の(A)分子内にアシルフォスフィンオキサイド基[-(C=O)-(P=O)<]を有するカンファーキノン誘導体を必須成分として含み、さらに、(B)重合促進剤、光酸発生剤、光増感剤、(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類から1以上選択して含む請求項4に記載の光重合開始剤。 重合促進剤がアミン化合物、バルビツール酸誘導体および有機錫化合物からなる群から選択され、光酸発生剤がトリハロメチル基置換-1,3,5-トリアジン化合物よりなる群から選択され、光増感剤がα−ジケトン化合物であって、(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類がアシルフォスフィンオキサイド化合物およびビスアシルフォスフィンオキサイド化合物よりなる群から選択される請求項2または3に記載の光重合開始剤。 請求項4に記載の光重合開始剤を含み、さらに室温重合(化学重合)開始剤を含み、化学重合および光重合を開始させることが可能な光・化学重合開始剤。 請求項4に記載の光重合開始剤およびラジカル重合性単量体を含有する硬化性組成物。 請求項5に記載の光・化学重合開始剤およびラジカル重合性単量体を含有する硬化性組成物。 さらに、フィラーを含有する請求項6または7に記載の硬化性組成物。 歯科用硬化性組成物である請求項6〜8いずれかに記載の硬化性組成物。


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