タイトル: | 特許公報(B2)_サプレッサーtRNAの合成方法、DNA構築物及びそれを用いた非天然型アミノ酸組み込みタンパク質の製造 |
出願番号: | 2008502740 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | C12N 15/09,C12P 21/02,C12P 19/34,C12N 5/10,C12N 1/19,C12N 1/15 |
横山 茂之 坂本 健作 樋野 展正 向井 崇人 小林 隆嗣 JP 5196378 特許公報(B2) 20130215 2008502740 20070222 サプレッサーtRNAの合成方法、DNA構築物及びそれを用いた非天然型アミノ酸組み込みタンパク質の製造 独立行政法人理化学研究所 503359821 特許業務法人原謙三国際特許事務所 110000338 加藤 朝道 100080816 横山 茂之 坂本 健作 樋野 展正 向井 崇人 小林 隆嗣 JP 2006045788 20060222 20130515 C12N 15/09 20060101AFI20130418BHJP C12P 21/02 20060101ALI20130418BHJP C12P 19/34 20060101ALI20130418BHJP C12N 5/10 20060101ALI20130418BHJP C12N 1/19 20060101ALI20130418BHJP C12N 1/15 20060101ALI20130418BHJP JPC12N15/00 AC12P21/02 CC12P19/34 AC12N5/00 102C12N1/19C12N1/15 C12N 15/00-15/90 C12P 21/00 C12N 1/15 C12N 1/19 C12N 5/10 GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq PubMed JSTPlus/JMEDPlus(JDreamII) 国際公開第2004/039989(WO,A1) RNA ミーティング,2005年,Vol.7th,p.101 Nature,2004年,Vol.431,p.333-335 Nucleic Acids Res.,2003年,Vol.31, No.9,p.2344-2352 J. Biol. Chem.,1987年,Vol.262, No.4,p.1795-1803 Protein Eng. Des. Sel.,2004年,Vol.17, No.12,p.821-827 訳者代表:野田春彦、丸山工作,分子細胞生物学(上),東京化学同人,1997年 4月15日,第3版,p.409 14 JP2007053304 20070222 WO2007099854 20070907 21 20100219 (出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度、文部科学省、タンパク3000委託研究「タンパク質基本構造の網羅的解析プログラム」、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの) 吉田 知美 本発明は、tRNAの合成方法とそのためのDNA構築物に関し、特に非天然型アミノ酸に対応するサプレッサーtRNAの合成方法及びそのためのDNA構築物並びにそれらを用いた非天然型アミノ酸組み込みタンパク質の製造方法に関する。 タンパク質中の所望の位置のアミノ酸残基を、通常のタンパク質合成に関わる20種類のアミノ酸以外のアミノ酸(非天然型アミノ酸)で置換した、非天然型アミノ酸組み込みタンパク質(以下、「アロタンパク質」ともいう)は、タンパク質の機能・構造解析のための有効な手段となり得る。一方、リジン誘導体の中には、アセチルリジン、メチルリジン等のように、翻訳後修飾により合成されるアミノ酸がある。それらは、特にヒストンによる遺伝子発現調節に関わることで有名であるが、その他多くのタンパク質の転写活性化調節、タンパク質−タンパク質相互作用調節、ユビキチン化の抑制/促進に関わることが知られている。このようなリジン誘導体が、真核生物に部位特異的に導入できれば、リジンのアセチル化、メチル化等について多くの知見が得られると期待される。 ピロリジルtRNA合成酵素(PylRS)は、メタン生成古細菌(Methanosarcina属)から発見された新しいアミノアシルtRNA合成酵素(aaRS)である。その対応するtRNA(ピロリジン(pyrrolysine)tRNA)は、サプレッサーtRNAであり、異常に小さいDループ等の特異な二次構造を有する。最近、大腸菌内でPylRSとピロリジンtRNAが、内在性のaaRS及びtRNAとは相互作用をせず(直交性)、ピロリジンをアンバーコドン特異的にタンパク質に導入し得ることが見出された(非特許文献1)。また、野生型PylRSが、大腸菌内でNε−Boc−L−リジン等の非天然型アミノ酸をピロリジンtRNAに結合させ得ることが報告されている(非特許文献1)。 一方、哺乳動物の細胞内において、タンパク質中のチロシン残基をリン酸化する酵素(チロシンキナーゼ)は、細胞外からの増殖刺激因子などのシグナルを核内に伝達する重要な役割を果たしている。このチロシンキナーゼは、チロシン誘導体をリン酸化できるものと、リン酸化できないものの両方が存在する。例えば、Srcキナーゼはヨードチロシン残基をリン酸化するが、EGF受容体はできないことが分かっている。したがって、所望のタンパク質にチロシン誘導体を導入したアロタンパク質を哺乳動物細胞内で合成することができれば、細胞内の種々のチロシンキナーゼとの相互作用を調べるために有用である。例えば、前記所望のタンパク質がどのチロシンキナーゼによってリン酸化されるのかを調べることはシグナル伝達機構を解析する上で重要である。さらに、これらの非天然型アミノ酸組み込みタンパク質は、それ自体でタンパク質機能・構造解析の材料として有用であり、新たな生理活性を有する物質にもなり得る。 このような動物細胞内でのアロタンパク質の発現方法としては、(A)大腸菌由来のチロシルtRNA合成酵素の変異体であって、チロシンに対する特異性に比べて非天然型のチロシン誘導体に対する特異性が高められた変異チロシルtRNA合成酵素(以下、変異TyrRSという)と、(B)前記変異チロシルtRNA合成酵素の存在下で前記チロシン誘導体と結合可能な、バチルス属、マイコプラズマ属、又はスタフィロコッカス属真性細菌由来のサプレッサーtRNAと、(C)所望の位置にナンセンス変異又はフレームシフト変異を受けた所望のタンパク質遺伝子とを動物細胞中で発現させて、上記タンパク質のナンセンス変異又はフレームシフト変異の位置に上記チロシン誘導体を取り込ませる方法が開発されている(特許文献1、非特許文献2)。 ここで、上記非真核生物由来のサプレッサーtRNAは、真核細胞内のRNAポリメラーゼにより転写されなければならない。原核細胞における1種類のRNAポリメラーゼとは異なり、真核細胞では3種類のRNAポリメラーゼI、II、III(polI、polII、及びpolIII)が夫々機能分担して働くことが知られている。PolIはリボソームRNA、PolIIはmRNA、そしてPolIIIは5SrRNA、tRNA、U6低分子核内RNA(snRNA)等を合成する。従って、真核細胞内のtRNAは、RNAポリメラーゼIIIで転写されることによって合成される。このRNAポリメラーゼIIIにより転写される遺伝子は、そのプロモータ構造の特徴により大きく3つのグループに分類され、夫々代表的な遺伝子として5SrRNA遺伝子(タイプIプロモータ)、tRNA遺伝子(タイプIIプロモータ)、及びU6低分子核内RNA(snRNA)遺伝子(タイプIIIプロモータ)を含む。tRNAを転写するタイプIIプロモータは、tRNAコーディング配列内の2つの領域から成り立つ内部プロモータであり、そのコンセンサス配列は、ボックスA、ボックスBとして知られている。ボックスAのコンセンサス配列は、8位〜19位のTRGCNNAGYNGG(配列番号1)であり、ボックスBのコンセンサス配列は、52位〜62位のGGTTCGANTCC(配列番号2)である。このため、例えば、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)のサプレッサーチロシンtRNAは、原核生物由来であるものの、そのサプレッサーチロシンtRNAコーディング配列内には、ボックスAとボックスBが存在しているため(例えば、非特許文献3参照)、なんら改変を加えなくても動物細胞内で発現させることができる。 また、上記タンパク質のナンセンス変異の位置にアミノ酸を取り込ませることをサプレッションというが、終止コドンは3種類しかないため、1種類のタンパク質に導入できる非天然型アミノ酸の種類は最大3種類である。試験管内の実験では自然に存在する塩基対の他に、人工的な塩基対が開発されており(非特許文献4及び5参照)、このような人工的な塩基を含むRNAは試験管内においてT7ファージのRNAポリメラーゼを用いて転写することが可能である。アミノ酸をコードするコドンに人工塩基対を導入することで、現在、43個であるコドン数を増やし、天然のアミノ酸をコードしないコドンに非天然型アミノ酸をコードさせることで、1種類のタンパク質に複数の非天然型アミノ酸を導入できると期待されている。国際公開第2004/039989号パンフレットBlight, S.K. et al., Nature, 431, 333-335(2004)Sakamoto, K. et al., Nucleic Acids Research 30, 4692-4699(2002)M.Sprinzl et al., Nucleic Acids Research 17, 1-172(1989)Hirao, I. et al.,Nature Biotechnology 20, 177-182(2002)Hirao, I. et al.,Nature Methods 3, 729-735(2006) しかしながら、上述した非真核生物由来のサプレッサーtRNAを真核細胞内で発現しようとした場合、ボックスAとボックスBに対応する配列が真核生物のコンセンサス配列と大きく異なる場合には内部プロモータとして機能せず、真核細胞内での転写合成量が極めて少ないか、或いはほとんど転写されないことが問題となる。例えば、メタン生成古細菌由来のピロリジンtRNAのDループは、数塩基が欠損した異常に小さいものであり真核細胞内では内部プロモータとして機能しない。また、大腸菌のサプレッサーチロシンtRNAは配列内にボックスBコンセンサス配列は有しているがボックスAコンセンサス配列を含まない。これらのtRNAにボックスAとボックスBを導入すると、tRNAとしての機能が失われてしまうため、ボックスAとボックスBを導入したピロリジンtRNAや大腸菌のサプレッサーチロシンtRNAを用いても、リジン誘導体やチロシン誘導体を組み込んだアロタンパク質を合成することができない。 一方、これらの内部プロモータを持たないサプレッサーtRNAを、外部プロモータを用いて真核細胞内で発現させた場合に、tRNAとして機能するかどうかは明らかではない。すなわち、tRNAの機能を発揮するためには転写後の塩基修飾及び立体構造形成などが正常に行われることが必要であるが、タイプIIプロモータ以外の外部プロモータにより転写されたtRNAがどのような細胞内局在性を示し、また転写後修飾を受けるか、さらには生物学的機能を示すか否かについては未だ明らかではない。 そこで、本発明者らは、種々の検討を行った結果、メタン生成古細菌由来のピロリジンtRNA遺伝子や大腸菌のサプレッサーチロシンtRNA遺伝子の5’末端に、真核生物のtRNA核酸配列やU1及びU6snRNA遺伝子のプロモータ配列を結合させることによって動物細胞内で効果的に発現させうることを見出した。また、前記tRNA遺伝子の5’末端にバクテリオファージ由来のプロモータ配列を結合させ、当該プロモータを転写可能なRNAポリメラーゼと共に動物細胞内に導入することによって、前記tRNAを効率的に発現させうることも分かった。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。 すなわち、本発明は第一の視点において、真核細胞内で機能する内部プロモータ配列を含まない非真核生物由来のサプレッサーtRNA遺伝子と、当該tRNA遺伝子の5’末端に連結された真核生物由来のプロモータとを含むことを特徴とするDNA構築物を提供する。前記tRNA遺伝子は、古細菌由来のピロリジンtRNA遺伝子及び/又は大腸菌由来のサプレッサーチロシンtRNA遺伝子であること、並びに前記tRNA遺伝子の3’末端に転写終結配列をさらに結合させることが好ましい。さらに好ましい実施形態において、前記真核生物由来のプロモータは、RNAポリメラーゼII又はIIIによる転写を誘導する塩基配列である。前記RNAポリメラーゼIIによる転写を誘導する塩基配列は、例えば、U1snRNA遺伝子プロモータであることが好ましい。また、前記RNAポリメラーゼIIIによる転写を誘導する塩基配列は、例えば、ヒトバリンtRNA核酸配列のような真核生物のtRNA遺伝子プロモータ、又はU6snRNA遺伝子プロモータであることが特に好ましい。 第二の視点において、本発明は、上記DNA構築物を真核細胞内で転写させることを特徴とするサプレッサーtRNAの合成方法、及び上記DNA構築物により形質転換又はトランスフェクションされたことを特徴とする組換え真核細胞を提供する。 第三の視点において、本発明は非天然型アミノ酸組み込みタンパク質の製造方法であって、(a)非天然型アミノ酸に対するアミノアシルtRNA合成酵素と、(b)前記アミノアシルtRNA合成酵素の存在下で前記非天然型アミノ酸と結合可能であり、上記何れかのDNA構築物から転写されるtRNAと、(c)所望の位置にナンセンス変異又はフレームシフト変異を受けた所望のタンパク質と、を前記非天然型アミノ酸の存在下に真核細胞内で発現させることを特徴とする。 第四の視点において、本発明は、真核細胞内で機能する内部プロモータ配列を含まない非真核生物由来のサプレッサーtRNA遺伝子と、当該tRNA遺伝子の5’末端に連結されたバクテリオファージ由来のプロモータとを含むことを特徴とするDNA構築物を提供する。前記tRNA遺伝子は、古細菌由来のピロリジンtRNA遺伝子及び/又は大腸菌由来のサプレッサーチロシンtRNA遺伝子であること、並びに前記tRNA遺伝子の3’末端に転写終結配列をさらに結合させることが好ましい。また、バクテリオファージ由来のプロモータは、T7プロモータ、T3プロモータ及びSP6プロモータを使用することが好ましいが、これらに限定されない。 第五の視点において、本発明は、真核細胞内で機能する内部プロモータ配列を含まない非真核生物由来のサプレッサーtRNA遺伝子と、当該tRNA遺伝子の5’末端に連結されたバクテリオファージ由来のプロモータとを含むことを特徴とするDNA構築物を真核細胞内で転写させることを特徴とするサプレッサーtRNAの合成方法、及び前記DNA構築物並びに前記バクテリオファージ由来のプロモータに対応するRNAポリメラーゼを発現する遺伝子により形質転換又はトランスフェクションされたことを特徴とする組換え真核細胞を提供する。 第六の視点において、本発明は、非天然型アミノ酸組み込みタンパク質の製造方法であって、真核細胞内で機能する内部プロモータ配列を含まない非真核生物由来のサプレッサーtRNA遺伝子と、当該tRNA遺伝子の5’末端領域に機能的に連結されたバクテリオファージ由来のプロモータとを含むDNA構築物を用意し、ここで、前記サプレッサーtRNAは、非天然型アミノ酸に対するアミノアシルtRNA合成酵素の存在下において当該非天然型アミノ酸と結合可能であり、(a)前記DNA構築物から転写されるtRNAと、(b)前記非天然型アミノ酸に対するアミノアシルtRNA合成酵素と、(c)所望の位置にナンセンス変異又はフレームシフト変異を受けた所望のタンパク質と、を前記非天然型アミノ酸の存在下に真核細胞内で発現させることを特徴とする。 第七の視点において、本発明は、非天然型アミノ酸組み込みタンパク質の製造方法であって、真核細胞内で機能する内部プロモータ配列を含まない非真核生物由来のサプレッサーtRNA遺伝子と、当該tRNA遺伝子の5’末端領域に機能的に連結されたバクテリオファージ由来のプロモータとを含むDNA構築物を用意し、ここで、前記サプレッサーtRNAは、非天然型アミノ酸に対するアミノアシルtRNA合成酵素の存在下において当該非天然型アミノ酸と結合可能であり、(a)前記バクテリオファージ由来のプロモータに対応するRNAポリメラーゼと、(b)前記非天然型アミノ酸に対するアミノアシルtRNA合成酵素と、(c)所望の位置にナンセンス変異又はフレームシフト変異を受けた所望のタンパク質と、を前記DNA構築物及び前記非天然型アミノ酸の存在下に真核細胞内で発現させることを特徴とする。 本発明の製造方法を用いれば、非真核生物由来のtRNA、アミノアシルtRNAを、真核細胞中で効果的に発現させることができ、真核細胞内で機能する内部プロモータ配列(ボックスA、ボックスB)を有さない非真核生物由来のサプレッサーtRNAを、真核細胞中で発現させることが可能である。また、本発明の製造方法を用いれば、人工の非天然型塩基を含むtRNAを真核細胞内で発現させることが可能になると期待され、4種類以上の非天然型アミノ酸を含むアロタンパク質の合成が期待される。 また、本発明の製造方法を用いれば、古細菌由来の野生型のアミノアシルtRNA合成酵素を用いて、特に真核生物に存在するNε−アセチルリジン、Nε−トリメチルリジン、Nε−t−ブトキシカルボニルリジン、蛍光基を有するNε−2−メチルアミノ−ベンゾイルリジン等のリジン誘導体が導入されたアロタンパク質を合成することができる。ピロリジンtRNAのクローバー型構造を示す。実施例1において、ウェスタンブロットによるGrb2(111amb)のサプレッションの検出結果を示す。実施例2において、ウェスタンブロットによるGrb2(111amb)のサプレッションの検出結果を示す。3種類のプロモータ又はエンハンサーを用いてtRNAPylを発現させたときのlacZアンバーサプレッションの結果を示す。U6プロモータに連結したtRNATyrによるlacZアンバーサプレッションについて3種類の非天然型アミノ酸を添加した場合の結果を示す。大腸菌内で、PylRS、ピロリジンtRNAの存在下でNε−Boc−リジンがペプチドに取り込まれたことを示すマススペクトルデータである。実施例5において、T7プロモータを用いてtRNAPylを発現させたときの、lacZ(91amber)のサプレッションの検出結果を示す。T7RNAポリメラーゼを発現させない場合(T7RNAP−)に比べ、T7RNAポリメラーゼを発現させた場合(T7RNAP+)は有意に高いβ−ガラクトシダーゼ活性が検出され、lacZ遺伝子のアンバーコドンがサプレッションされていることが分かる。実施例5において、T7プロモータを用いてtRNATyrを発現させたときの、lacZ(91amber)のサプレッションの検出結果を示す。T7RNAポリメラーゼを発現させない場合(T7RNAP−)に比べ、T7RNAポリメラーゼを発現させた場合(T7RNAP+)は有意に高いβ−ガラクトシダーゼ活性が検出され、lacZ遺伝子のアンバーコドンがサプレッションされていることが分かる。実施例6において、U1snRNA型転写プロモータを用いてtRNATylを発現させたときの、細胞染色によるlacZ(91amber)のサプレッションの検出結果を示す。(非天然型アミノ酸) 本発明に用いられる非天然型アミノ酸としては、例えばリジン誘導体、又はチロシン誘導体を用いることができる。リジン誘導体は、非天然型のアミノ酸であり、ε位の窒素原子に結合した水素原子が他の原子又は原子団に置換されたものが好ましい。例えば、ピロリジン(pyrrolysine)、Nε−t−ブトキシカルボニルリジン(Nε−Boc−リジン)、Nε−アセチルリジン、Nε−トリメチルリジン、Nε−2−メチルアミノ−ベンゾイルリジン(Nma−リジン)が挙げられる。また、真核生物に存在する修飾リジンであるメチルリジン、アセチルリジンを部位特異的にタンパク質に導入することにより、リジンのアセチル化、メチル化について多くの知見が得られる可能性がある。また、これらのリジン誘導体が導入されたアロタンパク質は、タンパク質機能・構造解析の材料として有用であり、創薬のターゲットともなる可能性がある。チロシン誘導体としては、チロシンのフェニル基の3位又は4位に置換基を有する3位置換チロシン、4位置換チロシンが挙げられる。3位置換チロシンとしては、3−ヨードチロシン、3−ブロモチロシン等の、3−ハロゲン化チロシンが挙げられる。また、4位置換チロシンとしては、4−アセチル−L−フェニルアラニン、4−ベンゾイル−L−フェニルアラニン、4−アジド−L−フェニルアラニン、O−メチル−L−チロシン、4−ヨード−L−フェニルアラニンなどが挙げられる。これらのアミノ酸は公知の方法で作製することができ、あるいは市販のものを利用することができる。(アミノアシルtRNA合成酵素) 本発明で用いられるアミノアシルtRNA合成酵素は、非天然型アミノ酸を認識し、かつサプレッサーtRNAを特異的に認識して、該非天然型アミノ酸が結合したサプレッサーtRNAを生成させることができるtRNA合成酵素である。 好ましい実施形態において、アミノ酸としてリジン誘導体を認識し、かつtRNAとして併用するピロリジンtRNA(配列番号4)を特異的に認識して、該リジン誘導体が結合したサプレッサーtRNAを生成させることができるメタン生成古細菌由来のPylRSがある。メタン生成古細菌としては、メタノサルシーナ・マゼイ(M.mazei)が好ましい。PylRSは、真核細胞、好ましくは動物細胞、特に好ましくは哺乳動物細胞中で発現させる。PylRSを哺乳動物細胞中で発現させるためには、例えばメタノサルシーナ・マゼイ由来の野生型遺伝子に、N末端領域にFLAGタグ等が付加するようにしたDNA配列をPCR法を用いて増幅し、これを市販のpcDNA3.1(インビトロジェン社製)、pAGE107(Cytotechnology,3,133(1990))、pAGE103[J.Biochem.101,1307(1987)]などのNheI−BamHIサイトに組み込んで構築したプラスミドを、哺乳動物細胞に導入すればよい。 他の実施形態において、チロシン誘導体を特異的に認識し、チロシン誘導体が結合したサプレッサーtRNA(配列番号5)を生成させることができる種々の大腸菌由来TyrRSの変異体を用いることができる。例えば、大腸菌由来TyrRSの変異体(V37C195)は3−ヨードチロシンを特異的に認識する。一方、大腸菌由来TyrRSの37位、126位、182位、185位及び186位の5つのアミノ酸に変異を導入して、4−アジド−L−フェニルアラニン及び4−ベンゾイル−L−フェニルアラニン等の非天然アミノ酸を認識するTyrRSの変異体も報告されている(Chin, J.W. Et al., Science, 301, 964-967, 2003)。大腸菌由来のTyrRS(野生型)は真核生物のtRNATyrと反応せず、原核生物由来のtRNATyrは真核生物のTyrRSとは反応しない。(tRNA) 上記アミノアシルtRNA合成酵素と組み合わせて使用されるtRNAは、通常20種類のアミノ酸に割り当てられたコドンではないナンセンスコドンに割り当てられ、かつ、上記非天然型アミノ酸特異的なアミノアシルtRNA合成酵素にのみ認識され、宿主の通常のアミノアシルtRNA合成酵素には認識されない(orthogonal tRNA)という要件を備え、かつ真核細胞内で発現しなければならない。アミノアシルtRNA合成酵素がPylRSである場合、対応するピロリジンtRNAは、サプレッサーtRNAとして機能するためのナンセンスコドンに相補的なアンチコドン及び立体構造を保持しており、かつ真核細胞中で発現する非真核細胞由来のtRNAである。すなわち、通常の20種類のアミノ酸に割り当てられたコドンではないナンセンスコドンに割り当てられ、かつ、上記リジン誘導体に特異的なPylRSにのみ認識され、宿主の通常のaaRSには認識されない(直交性)、という要件を備え、かつ動物細胞中で発現するサプレッサーtRNAである。 ここで、ナンセンスコドンとしては、UAG(アンバー)、UAA(オーカー)、UGA(オパール)が挙げられるが、UAG(アンバー)コドンを用いることが好ましい。また、ナンセンスコドンに代えて、4塩基以上(好ましくは4若しくは5塩基)の塩基からなるコドン(以下「フレームシフトコドン」という。)を用いることもできる。 上記したように、真核細胞でのtRNAの発現は、tRNAコーディング配列内の2つの内部プロモータを必要とし、そのコンセンサス配列は、ボックスA、ボックスBとして知られている。ピロリジンtRNAのクローバー型構造を図1に示す。図1において、左側のループ(Dループ)中、○は塩基の欠損を示す。このように、ピロリジンtRNAは、Dループ中3塩基が欠損しており、他のtRNAのDループに比べて異常に小さい。動物細胞中でピロリジンtRNAを発現させるために、ピロリジンtRNAにボックスA、ボックスB配列を導入しても、ピロリジンtRNAのDループが異常に小さいため、構造が大きく変化してしまい、このためサプレッサー活性を保持することができなかった。(tRNA、アミノアシルtRNAの合成) 本発明のアミノアシルtRNAの合成方法は、真核細胞内で機能的な内部プロモータ配列を含まない非真核生物由来のtRNAの5’末端に真核生物由来のプロモータを結合させ、アミノアシルtRNA合成酵素の存在する真核細胞内、好ましくは動物細胞内、特に好ましくは哺乳動物細胞内で転写させる。このときtRNAの3’末端に転写終結配列を結合させることが好ましい。より具体的には、まず、メタノサルシーナ・マゼイ由来の野生型ピロリジンtRNAの5’末端に真核生物由来のプロモータを結合させ、また3’末端に転写終結配列をそれぞれ結合させた配列をDNAプライマーから合成し、例えば、pcDNA3.1、及びpCR4Blunt−TOPO(共にインビトロジェン社製)等に組み込んで構築したプラスミドを、動物細胞に導入して発現させた後、動物細胞内で転写してプロセッシングすることにより得られる。 上記真核生物由来のプロモータとしては、RNAポリメラーゼII又はIIIによる転写を誘導する塩基配列を利用することができる。RNAポリメラーゼIIによる転写を誘導する塩基配列はU1snRNA遺伝子プロモータが好ましいが、U6snRNA遺伝子プロモータのTATAボックス領域を変異させることでもU1snRNA遺伝子プロモータ型のプロモータになることが報告されているので、このようなプロモータを用いても良い。RNAポリメラーゼIIIプロモータによる転写を誘導する塩基配列は、真核生物由来のtRNA遺伝子又はU6snRNA遺伝子プロモータが好ましい。このとき、野生型ピロリジンtRNA遺伝子の5’末端と真核生物由来のtRNA遺伝子とは、リンカーを介して結合させることが好ましい。リンカーとしては、特に制限はなく、例えば、BglII、XbaI、XhoI等によって切断されるものが挙げられる。5’末端に結合するtRNA遺伝子は、真核生物由来であるが、真核生物としては、特に制限はなく、例えば動物、植物、昆虫等が挙げられる。このうち、ヒト由来のtRNA遺伝子が好ましい。tRNAが結合するアミノ酸も、通常の20種類の天然型アミノ酸であれば特に制限はない。このうち、バリンが好ましい。 ヒトU6低分子核内RNA(snRNA)は、プレmRNAがスプライシングする際に形成するスプライソソームに豊富に存在するRNA種であって、細胞あたり4〜5×105コピーに達する。このU6プロモータは低分子異種RNA(small heterologous RNA)の転写を駆動し、その活性はtRNAプロモータからの転写よりも高いといわれている。U6プロモータもtRNAプロモータも何れもPolIIIによって転写されるが、U6プロモータが構造遺伝子の5’上流に位置するのに対し、tRNAプロモータは自分自身の構造遺伝子内部に位置する点で相違する。ヒトU6snRNAプロモータはエンハンサー領域(又は遠位プロモータ領域)及びコア領域(又は近位プロモータ領域)として知られる特徴的なプロモータエレメントを有する。好ましくは、配列番号3に記載の塩基配列、又は該塩基配列と少なくとも30%、50%、70%、80%、90%若しくは95%の相同性を有する塩基配列からなり、かつ哺乳動物細胞内においてRNAポリメラーゼIIIによる転写活性を有する塩基配列である。塩基配列の相同性(ホモロジー)の程度は、2つの塩基配列同士を適切に整列(アライメント)したときの同一性のパーセント値で表わすことができ、当該配列間の正確な一致の出現率を意味する。同一性比較のための配列間での適切な整列は種々のアルゴリズム、例えば、BLASTアルゴリズムを用いて決定することができる(Altschul SF J Mol Biol 1990 Oct 5; 215(3):403-10)。 さらに本発明において、バクテリオファージ由来のプロモータを用いても上記tRNAを真核細胞内で効率的に転写することができる。具体的には、大腸菌のファージ由来のT7プロモータ、T3プロモータ及びSP6プロモータを使用することができるがこれらに限定されない。これらのプロモータの挿入位置は、上記tRNA遺伝子の5’末端領域であれば特に限定されないが、好ましくは、転写開始位置の10〜50bp上流である。また、バクテリオファージ由来のプロモータを用いる場合は、当該プロモータに対応するバクテリオファージ由来のRNAポリメラーゼを発現している真核細胞を用いる必要がある。具体的には、T7RNAポリメラーゼ、T3RNAポリメラーゼ及びSP6RNAポリメラーゼを使用することができるがこれらに限定されない。T7RNAポリメラーゼは、哺乳類動物細胞内で発現させた場合、T7プロモータ配列を含むDNAからRNAを転写し、転写されたRNAは最大で細胞内の全RNAの20%にも達することが報告されている。T7RNAポリメラーゼと同様に大量のRNAを調製する目的でT3RNAポリメラーゼとSP6RNAポリメラーゼが使用され、これらのプロモータはT7プロモータ同様20塩基以下と短く、更に哺乳動物細胞内でいずれのRNAポリメラーゼも同等のRNA転写能力があると報告されている。バクテリオファージ由来のRNAポリメラーゼのプロモータとしては、配列番号13に示した塩基配列のT7プロモータ、又は当該塩基配列と少なくとも70%、80%、90%若しくは95%の相同性を有する塩基配列からなり、かつ哺乳動物細胞内においてT7RNAポリメラーゼによる転写を誘導しうる配列が好ましい。(非天然型アミノ酸を組み込ませるためのタンパク質) 本発明で非天然型アミノ酸を組み込ませるタンパク質の種類は、限定されるものではなく、発現可能な如何なるタンパク質でもよく、異種の組換えタンパク質でもよい。例えば、タンパク質の種類として、いわゆるシグナル伝達関連タンパク質、受容体、増殖因子、細胞周期関連因子、転写因子、翻訳因子、輸送関連タンパク質、分泌タンパク質、細胞骨格関連タンパク質、酵素、シャペロン又は癌、糖尿病若しくは遺伝病等を含む疾患関連タンパク質などが挙げられる。 本発明において、非天然型アミノ酸、特にリジン誘導体やチロシン誘導体を組み込ませる位置にナンセンスコドン(サプレッサーtRNAがアンバーサプレッサーのときはアンバーコドン)又はフレームシフトコドンを導入することが必要であり、これによりこのナンセンスコドン(アンバーコドン)部位又はフレームシフトコドン部位に、特異的に非天然型アミノ酸、特にリジン誘導体を組み込むことができる。なお、本明細書においてコーディング配列内の1、2又は4塩基の欠失若しくは挿入により、翻訳されるアミノ酸配列にフレームシフトが起こることをフレームシフト変異といい、このような変異導入部位に生ずる異常なコドンをフレームシフトコドンという。フレームシフトコドンとしては、4塩基又は5塩基からなるコドンが好ましい。種々の宿主細胞内において4塩基コドンを用いて遺伝暗号の拡張が試みられており、例えば、大腸菌ではAGGAの4塩基は細胞機能をあまり乱すことなく利用できる代替コドンとして利用されている(Anderson, J.C. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA 101, 7566-7571)。 タンパク質に部位特異的に変異を導入する方法としては、周知の方法を用いることができ、特に限定されないが、Gene 152,271-275(1995)、Methods Enzymol.100,468-500(1983)、Nucleic Acids Res.12,9441-9456(1984)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82, 488-492(1985)、「細胞工学別冊「新細胞工学実験プロトコール」、秀潤社、241−248頁(1993)」に記載の方法、または「QuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit」(ストラタジーン社製)を利用する方法などに準じて、適宜実施することができる。 本発明は動物細胞内で発現させることができるので、これまで、大腸菌や無細胞タンパク質系では、発現しない、あるいは発現量が低い、または活性型となるための翻訳後の修飾を受けることができないようなタンパク質へ、非天然型アミノ酸を取りこませることができる。このようなタンパク質としては、当業者には種々のものが知られているが、例えば、ヒトEGFR等のチロシンキナーゼ型レセプター(Cell,110,775-787(2002))、ヒトGroucho/TLE1タンパク質(Structure 10,751-761(2002))、ラット筋肉特異的キナーゼ(Structure 10.1187-1196(2002))などについて、アロタンパク質を合成することができるが、これらに限定されるものではない。 また、本発明の方法においては、動物細胞内でアロタンパク質を発現させるので、糖鎖と結合した糖タンパク質に非天然型アミノ酸、特にリジン誘導体を組みこませることもできる。特に、無細胞タンパク質系における糖鎖付加のパターンが、本来のパターンと異なるようなタイプの糖タンパク質の場合には、本発明の動物細胞内での系は、目的の(本来の)パターンの糖鎖が付加されたアロタンパク質を得るための有効な手段と考えられる。 非天然型アミノ酸、特にリジン誘導体を組み込ませるためのタンパク質は、例えば所望の蛋白質の所望のアミノ酸の位置に対応するコドンを、ナンセンスコドン又はフレームシフトコドンに置換し、さらにC末端に所望のタグを付加するように構築した配列を有する遺伝子を、例えばpcDNA4/TO等のBamHI−XhoIサイトに組み込んでプラスミドを構築し、これを動物細胞に導入して発現させることができる。(宿主) 本発明に用いられる、宿主の動物細胞としては、遺伝子組換え系が確立されている、哺乳類細胞が好ましい。有用な哺乳動物宿主細胞系の実例は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞とCOS細胞を含む。より特有な例は、SV40によって形質転換したサル腎臓CV1系(COS-7,ATCC CRL 1651);ヒト胚腎臓系(293又は懸濁培養での増殖用にサブクローンした293細胞、J.Gen Virol.,36:59(1977));チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:4216(1980));マウスセルトーリ細胞(TM4,Biol.Reprod.,23:243-251(1980));ヒト肺細胞(W138,ATCC CCL 75);ヒト肝臓細胞(Hep G2, HB 8065);及びマウス乳癌(MMT 060562, ATCC CCL51)を含む。これらの宿主は、各々発現系が確立されており、適切な宿主細胞の選択は、当業者の技術範囲内である。 上記宿主細胞へのベクターの導入方法としては、例えば、電気穿孔法(Nucleic,Acids Res.15,1311-1326(1987))、リン酸カルシウム法(Mol.Cell Biol. 7,2745-2752(1987))、リポフェクション法(Cell 7,1025-1037(1994);Lamb,Nature Genetics 5,22-30(1993))などが挙げられる。これらは、例えば、Molecular Cloning 第3版、 Cold Spring Harbor Laboratory Press(2001)などに記載された方法に準じて行なうことができる。従って、本発明の1つの実施形態として、上記非真核生物由来のサプレッサーtRNAの発現ベクターにより形質導入又はトランスフェクションされた組換え真核細胞、好ましくは哺乳動物細胞が提供される。(非天然型アミノ酸組み込みタンパク質の製造方法) すなわち、リジン誘導体が組み込まれたアロタンパク質の発現を例として説明すると、(A)アミノアシルtRNA合成酵素、特にPylRSを動物細胞内で発現させる発現ベクターと、(B)上記アミノアシルtRNA合成酵素、特にPylRSの存在下で、非天然型アミノ酸、特にリジン誘導体と結合可能なメタノサルシーナ・マゼイ由来のピロリジンtRNAを、上記動物細胞内で発現させる発現ベクターと、(C)所望の位置にナンセンス変異又はフレームシフト変異を受けた所望のタンパク質を発現させる発現ベクターと、非天然型アミノ酸、特にリジン誘導体と、を有する動物細胞を、その動物細胞の増殖に適した培地(例えば、CHO細胞の場合、Opti-MEM I (Gibco BRL社)など)で、適当な条件でインキュベートする。例えば、CHO細胞の場合は、37℃程度の温度で、24時間程度、インキュベートする。 一方、バクテリオファージ由来のプロモータを用いて上記ピロリジンtRNAを発現させる場合は、上記(A)〜(C)に加えて、(D)上記バクテリオファージ由来のプロモータを転写可能なRNAポリメラーゼ遺伝子を動物細胞内で発現するベクターを導入することが好ましい。例えば、前記T7プロモータ、T3プロモータ及びSP6プロモータを効率的に転写するためのRNAポリメラーゼとして、夫々T7RNAポリメラーゼ、T3RNAポリメラーゼ及びSP6RNAポリメラーゼが知られている。 ここに、本発明の好ましい実施の形態を示す。(形態1)本発明におけるDNA構築物は、真核細胞内で機能する内部プロモータ配列を含まない非真核生物由来のサプレッサーtRNA遺伝子と、当該tRNA遺伝子の5’末端に連結された真核生物由来のプロモータ(但し、tRNA遺伝子プロモータを除く)とを含むこと、 前記真核生物由来のプロモータが、RNAポリメラーゼIIによる転写を誘導する塩基配列であるか、又は、RNAポリメラーゼIIIタイプI又はタイプIIIプロモータであることが好ましい。(形態2)上記形態1のDNA構築物において、前記tRNA遺伝子が、古細菌由来のピロリジンtRNA遺伝子及び/又は大腸菌由来のサプレッサーチロシンtRNA遺伝子であることが好ましい。(形態3)上記形態1又は2のDNA構築物において、前記tRNA遺伝子の3’末端に転写終結配列をさらに結合させたことが好ましい。(形態4)上記形態1〜3の何れかのDNA構築物において、前記RNAポリメラーゼIIIタイプIIIプロモータが、U6snRNA遺伝子プロモータであることが好ましい。(形態5)上記形態4のDNA構築物において、前記U6snRNA遺伝子プロモータが、配列番号3に記載の塩基配列、又は該塩基配列と機能的に同等な塩基配列からなり、かつ哺乳動物細胞内においてRNAポリメラーゼIIIによる転写を誘導することが好ましい。(形態6)上記形態5のDNA構築物において、前記機能的に同等な塩基配列はコンセンサス配列であることが好ましい。(形態7)上記形態1〜3の何れかのDNA構築物において、前記RNAポリメラーゼIIによる転写を誘導する塩基配列が、U1snRNA遺伝子プロモータであることが好ましい。(形態8)本発明におけるサプレッサーtRNAの合成方法は、上記形態1〜7何れかのDNA構築物を真核細胞(但しヒト生体内のヒト細胞を除く)内で転写させることが好ましい。(形態9)本発明における組換え真核細胞(但しヒト生体内のヒト細胞を除く)は、上記形態1〜7何れかのDNA構築物により形質転換又はトランスフェクションされたことが好ましい。(形態10)本発明におけるアミノアシルtRNAの合成方法は、上記形態1〜7何れかのDNA構築物により転写されるtRNAと、当該tRNAに対応するアミノアシルtRNA合成酵素とを真核細胞(但しヒト生体内のヒト細胞を除く)内で発現させることが好ましい。(形態11)本発明における非天然型アミノ酸組み込みタンパク質の製造方法は、(a)非天然型アミノ酸に対するアミノアシルtRNA合成酵素と、(b)前記アミノアシルtRNA合成酵素の存在下で前記非天然型アミノ酸と結合可能であり、上記形態1〜7の何れかのDNA構築物から転写されるtRNAと、(c)所望の位置にナンセンス変異又はフレームシフト変異を受けた所望のタンパク質と、 を前記非天然型アミノ酸の存在下に真核細胞(但しヒト生体内のヒト細胞を除く)内で発現させることが好ましい。(形態12)上記形態11の非天然型アミノ酸組み込みタンパク質の製造方法において、前記非天然型アミノ酸がリジン誘導体及び/又はチロシン誘導体であることが好ましい。(形態13)上記形態12の非天然型アミノ酸組み込みタンパク質の製造方法において、前記リジン誘導体が、ピロリジン、Nε−t−ブトキシカルボニルリジン、Nε−アセチルリジン、Nε−トリメチルリジン、及びNε−2−メチルアミノ−ベンゾイルリジンからなる群より選択される1種であることが好ましい。(形態14)上記形態12の非天然型アミノ酸組み込みタンパク質の製造方法において、前記チロシン誘導体が、3−ヨードチロシン、4−アジド−L−フェニルアラニン又は4−ベンゾイル−L−フェニルアラニンであることが好ましい。 以下に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 本実施例では、ヒトGrb2の111位及びβ−ガラクトシダーゼの91位にリジン誘導体又はチロシン誘導体を組み込む実験を行った。なお、Grb2は細胞内で上皮成長因子受容体と相互作用して細胞の癌化に関わるタンパク質である。(PylRS及びTyrRS発現プラスミドの構築) PylRS発現プラスミドとしては、メタノサルシナ・マゼイ由来の野生型PylRS遺伝子に、N末端領域にFLAGタグが付加するようにしたDNA配列(配列番号8)をPCR法を用いて増幅した。これを、pcDNA3.1のNheI−BamHI部位に組み込んでプラスミドを構築した。 一方、大腸菌チロシルtRNA合成酵素の3−ヨード−L−チロシン特異的な変異体(TyrRS(V37C195))の発現プラスミドpEYSM1はすでに報告されている(上掲、非特許文献2参照)。このプラスミドをサプレッサーtRNAの発現プラスミドと共に哺乳動物培養細胞にトランスフェクトし、3−ヨード−L−チロシンを細胞培養液に添加することで、アンバー変異を持つタンパク質遺伝子のアンバーコドン部位に3−ヨード−L−チロシンを導入することができる。上記発現プラスミドの作成方法は、上掲特許文献1及び非特許文献2に記載されており、その内容は参照により本願明細書に組み込まれる。また、4−アジド−L−フェニルアラニン及び4−ベンゾイル−L−フェニルアラニン特異的な変異体についても報告されている(Chinら、上掲)。これらの変異体TyrRSはpcDNA4/TOのマルチクローニング部位にクローン化した。(サプレッサーtRNA発現プラスミドの構築) メタノサルシナ・マゼイ由来の野生型ピロリジンtRNA遺伝子の5’末端に、リンカー(配列番号10)を介してヒトバリンtRNA遺伝子を結合させ、また、5’末端にリーダー配列を、3’末端に、転写終結配列をそれぞれ結合させた配列(配列番号11)をDNAプライマーから合成した。これをpCR4Blunt−TOPOに組み込んで、tRNAVAL−tRNAPylタンデム発現プラスミドを構築した。大腸菌由来のサプレッサーtRNATyrについても同様の方法でtRNAVAL−tRNATyrタンデム発現プラスミドを構築した。 U6プロモータによるtRNA発現プラスミドの構築は以下の方法による。pcDNA3.1ベクターを鋳型にしてCMVエンハンサー領域の5’側にEcoRI部位、3’側にU6プロモータの5’側配列の一部を付加したプライマーを用いてPCRを行った。一方、siSTRIKEを鋳型にしてU6プロモータ領域の5’側にCMVエンハンサーの3’側配列の一部を含み、3’側にXbaI部位を付加したプライマーを用いてPCRを行った。これら2つのPCR増幅断片をオーバーラップPCRでつなぎ合わせると、EcoRI部位/CMVエンハンサー/U6プロモータ/XbaI部位からなるDNA断片ができるので、これをEcoRI及びXbaIで処理しpUC119にクローン化した。 上記プラスミドを調製し、XbaI及びHindIIIで処理したのち、先に調製したtRNAVAL−tRNAPylタンデム発現プラスミドからXbaI及びHindIII消化によりtRNAPyl−ターミネータを含む断片を単離し、これらを連結した。これにより、配列番号6に示した塩基配列のDNA断片を有する発現プラスミドが得られる。コントロールとして、pcDNA3.1+Zeoのマルチクローニング部位にtRNAPylを3つ直列に連結したプラスミドを構築した。 同様に、メタノサルシナ・マゼイ由来の野生型ピロリジンtRNAPylの代わりに大腸菌のサプレッサーチロシンtRNAを用いてCMVエンハンサー及びヒトU6snRNAのプロモータを連結したDNA断片(配列番号7)を構築し、上記と同様に発現プラスミドを作製した。なお、CMVエンハンサーはU6プロモータからのRNA転写を活性化するという報告がある。(リポーター遺伝子発現プラスミドの構築) ヒトgrb2の111位のロイシンコドンを、Quick Change site-directed mutagenesis kit(ストラタジーン社)を用いて、アンバーコドンに変換した(grb2(111amber))。次いで、C末端にFLAGタグ(DYKDDDDK)が付加するように構築した遺伝子(配列番号12)を、pcDNA4/TOのBamHI−XhoIサイトに組み込み、サプレッション検出用のプラスミドとした。 同様に、大腸菌のβ−ガラクトシダーゼ(lacZ)の91位のチロシンコドンをアンバーコドンに変換し、pcDNA3.1+(Zeo耐性)のマルチクローニング部位にクローン化した(lacZ(91amber))。(遺伝子の細胞への導入とサプレッション反応)[実施例1]ヒトバリンtRNA遺伝子プロモータに連結したtRNAPylによるGrb2アンバーサプレッション PylRS、ヒトバリンtRNA遺伝子プロモータに連結したtRNAPyl及びgrb2(111amber)の3種類の発現プラスミドを2.0ml培養スケール6ウェルプレートで培養されたチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞、継代時の培養液はDMEM/F−12(ギブコ)、10%FBS(ICN)、1/100ペニシリン−ストレプトマイシン(ギブコ)を使用))の1ウェルあたりに0.5μgずつ、様々な組み合わせで(結果参照)、90%コンフルエント時に形質導入を行った。形質導入は,リポフェクタミン2000(インビトロジェン社)を用いる方法をとり,そのマニュアルに沿って行った。形質導入時は培養液としてOpti−MEM(ギブコ)を使用した。形質導入を行った細胞培養液を、1mMのNε−Boc−リジン(Bachem)が存在するか、又は存在しないDMEM/F−12(ギブコ)で置換し,1μg/mLテトラサイクリンの添加により発現誘導し、20時間ほどCO2インキュベーターにおいて37℃で培養を続けた。 上記培養細胞から細胞培養液を除き、緩衝液で洗浄後、細胞を溶解させ、タンパク質を回収した。SDS−ポリアクリルアミド電気泳動を行い、分子量でタンパク質を分離した後、メンブレンにエレクトロブロット(100V、1時間)を行った。抗体は抗−FLAG M2(Sigma)を一次抗体、ヒツジ由来のマウスIgGワサビパーオキシダーゼ結合全抗体(Amersham)を二次抗体として用いた。検出試薬は、ECLウェスタンブロット検出試薬(Amersham)を用いた.測定は冷却CCDカメラLAS1000plus(富士フィルム)を用いて行った。 図2に、Grb2(111amb)のサプレッションのウェスタンブロットによる検出結果を示す。左端の1レーンは、Grb2全長のバンドの位置を示すための対照である。野生型Grb2のC末端にはFLAGタグが付加されており、C末端まで合成された場合にGrb2の矢印の部分にバンドが検出される。2〜4レーンは、PylRS、ピロリジンtRNA、Nε−Boc−リジンのいずれかがない場合である。これらの場合、Grb2の全長が合成されていない。一方、レーン5は、PylRS、ピロリジンtRNA及びNε−Boc−リジンのすべてが細胞内に導入された場合であり、Grb2の全長が合成されている。このことから、Grb2の111位に導入したアンバーコドンに、PylRS及びピロリジンtRNAによって、Nε−Boc−リジンが導入されたことがわかる。[実施例2]U6プロモータに連結したtRNATyr及びtRNAPylによるGrb2アンバーサプレッション 続いて、同様の方法を用いて上記で作製したヒトGrb2遺伝子、野生型TyrRS及びPylRSを発現させ、U6プロモータを有するメタノサルシナ・マゼイ由来の野生型ピロリジンtRNAPyl、又は大腸菌サプレッサーtRNATyrでサプレッションした。図3は、ウェスタンブロットによるGrb2(111amb)のサプレッションの検出結果を示す。右端のレーンは野生型Grb2のバンドの位置を示すための対照である。左の2つのレーンは、U6プロモータを有する大腸菌のサプレッサーtRNATyrを発現させたときの結果である。TryRSの発現に依存してGrb2のバンドが検出されることからGrb2のアンバーコドンにチロシンが導入されたことが分かる。真中の2つのレーンは、U6プロモータを有するピロリジンtRNAPylを発現させたときの結果である。培地中にNε−Boc−リジンを添加することによってGrb2のバンドが検出されることからGrb2のアンバーコドンにNε−Boc−リジンが導入されたことが分かる。これらの結果より、5’末端にU6プロモータを連結したtRNA遺伝子が哺乳動物細胞内で転写されることが示された。なお、チロシンtRNAを発現させた場合に、培地中にチロシンを添加しない対照実験を行わなかったのは、チロシン非存在下では細胞が成育しないからである。[実施例3]tRNAPylによるlacZアンバーサプレッション チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO−TRex細胞)を、1ウェルあたり1.2×105個ずつ24ウェルプレートに播種し、10%牛胎児血清(ICN)、1/100ペニシリン−ストレプトマイシン(ギブコ)を含むDMEM/F−12培地(ギブコ)で培養した。翌日、95%コンフルエント時に、lacZ(91amber)を0.4μg、PylRS発現プラスミドを0.2μg、及び上記で作成した3種類のサプレッサーtRNAPyl発現プラスミド(夫々、ヒトバリンtRNA、U6プロモータ、及びCMVエンハンサーを含む)を用いて形質導入を行った。形質導入は、2μlのリポフェクタミン2000(インビトロジェン社)を用い、そのマニュアルに沿って行った。形質導入時は培養液としてOpti−MEM(ギブコ)を使用した。 形質導入を行った細胞培養液を、1mMのBoc−リジン(Bachem)が存在するか、又は存在しないDMEM/F−12(ギブコ)で置換し、1μg/mLテトラサイクリンの添加により発現誘導し、20時間ほどCO2インキュベーターにおいて37℃で培養を続けた。翌日、細胞からタンパク質を回収し、レポーターアッセイキットβ−Gal(TOYOBO)を用いてlacZ酵素活性を調べた。その結果を図4に示す。ヒトバリンtRNAプロモータ及びU6プロモータを用いたいずれの場合も、培地中にBoc−リジンを添加することによってβ−ガラクトシダーゼ活性が検出され、lacZ遺伝子のアンバーコドンがサプレッションされていることが分かる。一方、これらのプロモータを含まないCMVプロモータを用いたtRNA発現ベクターではBoc−リジンの添加の有無に関わらずβ−ガラクトシダーゼ活性が検出されないことからサプレッションされていない。なお、ヒトバリンtRNAプロモータと比較してU6プロモータによるサプレッサーtRNAの発現は有意に高いことが推測される。[実施例4]U6プロモータに連結したtRNATyrによるlacZアンバーサプレッション 実施例3と同様の方法により、U6プロモータに連結した大腸菌サプレッサーtRNATyr遺伝子及び3種類の変異体TyrRS発現プラスミドを発現させ、ヨードチロシン(IY)、アジドフェニルアラニン(AzPhe)及びパラベンゾイルフェニルアラニン(pBpa)の3種類のチロシン誘導体を添加してlacZアンバーサプレッションを行った。その結果を図5に示す。いずれのアミノ酸を添加した場合も無添加の場合と比べて有意に高いβ−ガラクトシダーゼ活性が検出され、lacZ遺伝子のアンバーコドンがサプレッションされていることが分かる。なお、ヨードチロシン無添加の場合でもβ−ガラクトシダーゼ活性が検出されているのは、IY特異的な変異体TyrRSはヨードチロシンのみならず、チロシンをも取り込むのでIY非添加でもサプレッションが起こっているためと考えられる。(参考例1) 図6は、大腸菌内で、PylRS、ピロリジンtRNAの存在下でNε−Boc−リジンがペプチドに取り込まれたことを示すマススペクトルデータである。図中、分子量(MW)が1327.67のピークは、配列がNSYSPILGYWKであるペプチドを示している。分子量が1392.76のピークは、左から11番目のチロシンがNε−Boc−リジンに置換された(*で示す)ペプチドを示している。[実施例5]T7プロモータによるサプレッサーtRNAの発現系の構築とlacZアンバーサプレッション T7RNAポリメラーゼ遺伝子をPCRで増幅し、pcDNA4/TOのEcoRIとXhoIとの間にクローン化することで、T7RNAポリメラーゼ発現プラスミドを作成した。T7−tRNATyr遺伝子の作成については、まず、U6−tRNATyr(配列番号7)を鋳型にしてPCRを行ってT7プロモーターをtRNATyr配列に付加した後、pCR4blunt−TOPOにクローニングした。その後、EcoRIで処理してT7−tRNATyr遺伝子を切り出し、pBR322のEcoRIサイトにクローニングした。このようして作成したT7−tRNATyr遺伝子とプラスミド配列の一部(配列番号15)をPCRによって増幅し、得られたDNAを精製して細胞の形質転換に用いた。tRNAPyl発現プラスミドの構築については、上記のようにT7−tRNATyr遺伝子をクローニングしたpBR322をXbaI及びHindIIIで処理したのち、U6プロモータによるtRNA発現プラスミドからXbaI及びHindIII消化によりtRNAPyl−ターミネータを含む断片を単離し、これらを連結した。このようして作成したT7−tRNAPyl遺伝子とプラスミド配列の一部(配列番号14)をPCRによって増幅し、得られたDNAを精製して細胞の形質転換に用いた。 実施例3と同様の方法でT7−tRNAPyl発現プラスミドを0.2μg、PylRS発現プラスミドを0.1μg、lacZ(91amber)発現プラスミドを0.4μg、T7RNAポリメラーゼ発現プラスミド0.3μgを用いて形質導入を行ってlacZアンバーサプレッションを行った。ただし1/100ペニシリン−ストレプトマイシン(ギブコ)を含まないDMEM/F−12培地(ギブコ)で培養した。その結果を図7に示す。T7RNAポリメラーゼを発現させない場合に比べ、T7RNAポリメラーゼを発現させた場合は有意に高いβ−ガラクトシダーゼ活性が検出され、lacZ遺伝子のアンバーコドンがサプレッションされていることが分かる。 実施例3と同様に、T7−tRNATyr遺伝子DNAを0.18μg、TyrRS発現プラスミドを0.1μg、lacZ(91amber)発現プラスミドを0.4μg、T7RNAポリメラーゼ発現プラスミド0.3μgを用いて形質導入を行ってlacZアンバーサプレッションを行った。ただし1/100ペニシリン−ストレプトマイシン(ギブコ)を含まないDMEM/F−12培地(ギブコ)で培養した。その結果を図8に示す。T7RNAポリメラーゼを発現させない場合に比べ、T7RNAポリメラーゼを発現させた場合は有意に高いβ−ガラクトシダーゼ活性が検出され、lacZ遺伝子のアンバーコドンがサプレッションされていることが分かる。[実施例6]U1snRNA型転写プロモータによるサプレッサーtRNAの発現系の構築とlacZアンバーサプレッション U1snRNA型プロモーターによるtRNA発現プラスミドの構築は以下の方法による。先に調製したU6−tRNATry(配列番号7)を鋳型として、U6プロモーター転写開始位置の198塩基上流からTATAボックス上流までを下記プライマーを用いてPCRにより増幅した。5'-ATGATATCAGAGGGCCTATTTCCCAT-3'(配列番号16)5'-TGCTCGAGAAGCCAAGAATCGAAATAC-3'(配列番号17) この領域は転写エレメントPSEを含んでおり、増幅されたDNA断片の5’側にEcoRVサイト、3’側にXhoIサイトが付加されている。このPCR産物を一度プラスミドpcDNA3.1+のEcoRV−XhoI部位に組み込んだ。XhoIサイトの下流にはベクター由来のEcoO109I及びNotIサイトが存在する。このXhoIとEcoO109I間にU6プロモーターのTATAボックスの下流の配列とポリメラーゼIIIによる転写を止めるためのターミネーターを挿入した。EcoO109IサイトにtRNATyr配列を挿入した後、さらに、NotIサイトにポリメラーゼIIのターミネーターである3’ボックスを挿入した。EcoRVから3’ボックスまでの全領域がPSE−tRNATyr遺伝子(配列番号18)となる。この遺伝子をPCRで増幅し、pCR4blunt−TOPOにクローニングしたプラスミドが、PSE−tRNATyr発現プラスミドである。このようにして作成したPSE−tRNATyr遺伝子においては,U6プロモーターからTATA配列が除かれており、RNAポリメラーゼIIによる転写が起きるようになる(Das et al., Nature 1995, Vol.374, pp.657-660)。また、U6プロモーターと同様のCMVエンハンサーを2つのプライマー:5'-ATCGAATTCTAGTTATTAATAGTAATCAATTACG-3'(配列番号19)及び5'-AGCCTTGTATCGTATATGC-3'(配列番号20)を用いてPCR増幅し、更に5’リン酸化してPSE−tRNATyr遺伝子のEcoRVサイトに挿入し、CMV−DSE−PSE−tRNATyrを作製した。 実施例3と同様の方法でPSE−tRNATyr発現プラスミド、又はCMV−PSE−tRNATyr発現プラスミドを0.2μg、TyrRS発現プラスミドを0.2μg、lacZ(91amber)発現プラスミドを0.4μg用いて形質導入を行った。形質導入の翌日に細胞をβ−Galactosidase Staining Kit(Mirus社)を用いて染色し、lacZのアンバーサプレッションが起きるか調べた。サプレッションが起きている細胞は青く染まると期待される。細胞を染色した写真を図9に示す(図中、染色細胞は矢印で示されている)。エンハンサーの有無で特に大きな差は見られないが、いずれも、低いながらもサプレッション活性が確認された。 本発明は、リジン誘導体やチロシン誘導体等の非天然アミノ酸を導入したアロタンパク質を有効に製造することができる。 真核細胞内で機能する内部プロモータ配列を含まない非真核生物由来のサプレッサーtRNA遺伝子と、当該tRNA遺伝子の5’末端に連結された真核生物由来のプロモータ(但し、tRNA遺伝子プロモータを除く)とを含むこと、 前記真核生物由来のプロモータが、RNAポリメラーゼIIによる転写を誘導する塩基配列であるか、又は、RNAポリメラーゼIIIタイプI又はタイプIIIプロモータであること を特徴とするDNA構築物。 前記tRNA遺伝子が、古細菌由来のピロリジンtRNA遺伝子及び/又は大腸菌由来のサプレッサーチロシンtRNA遺伝子である請求項1に記載のDNA構築物。 前記tRNA遺伝子の3’末端に転写終結配列をさらに結合させた請求項1又は2に記載のDNA構築物。 前記RNAポリメラーゼIIIタイプIIIプロモータが、U6snRNA遺伝子プロモータである請求項1〜3何れか記載のDNA構築物。 前記U6snRNA遺伝子プロモータが、配列番号3に記載の塩基配列、又は該塩基配列と機能的に同等な塩基配列からなり、かつ哺乳動物細胞内においてRNAポリメラーゼIIIによる転写を誘導する請求項4に記載のDNA構築物。 前記機能的に同等な塩基配列はコンセンサス配列である請求項5に記載のDNA構築物。 前記RNAポリメラーゼIIによる転写を誘導する塩基配列が、U1snRNA遺伝子プロモータである請求項1〜3何れか記載のDNA構築物。 請求項1〜7何れか記載のDNA構築物を真核細胞(但しヒト生体内のヒト細胞を除く)内で転写させることを特徴とするサプレッサーtRNAの合成方法。 請求項1〜7何れか記載のDNA構築物により形質転換又はトランスフェクションされたことを特徴とする組換え真核細胞(但しヒト生体内のヒト細胞を除く)。 請求項1〜7何れか記載のDNA構築物により転写されるtRNAと、当該tRNAに対応するアミノアシルtRNA合成酵素とを真核細胞(但しヒト生体内のヒト細胞を除く)内で発現させることを特徴とするアミノアシルtRNAの合成方法。 (a)非天然型アミノ酸に対するアミノアシルtRNA合成酵素と、(b)前記アミノアシルtRNA合成酵素の存在下で前記非天然型アミノ酸と結合可能であり、請求項1〜7の何れかに記載のDNA構築物から転写されるtRNAと、(c)所望の位置にナンセンス変異又はフレームシフト変異を受けた所望のタンパク質と、 を前記非天然型アミノ酸の存在下に真核細胞(但しヒト生体内のヒト細胞を除く)内で発現させることを特徴とする非天然型アミノ酸組み込みタンパク質の製造方法。 前記非天然型アミノ酸がリジン誘導体及び/又はチロシン誘導体である請求項11に記載の非天然型アミノ酸組み込みタンパク質の製造方法。 前記リジン誘導体が、ピロリジン、Nε−t−ブトキシカルボニルリジン、Nε−アセチルリジン、Nε−トリメチルリジン、及びNε−2−メチルアミノ−ベンゾイルリジンからなる群より選択される1種である請求項12に記載の非天然型アミノ酸組み込みタンパク質の製造方法。 前記チロシン誘導体が、3−ヨードチロシン、4−アジド−L−フェニルアラニン又は4−ベンゾイル−L−フェニルアラニンである請求項12に記載の非天然型アミノ酸組み込みタンパク質の製造方法。配列表