タイトル: | 特許公報(B2)_抗膜貫通型タンパク質抗体の抗原結合部位を決定する方法 |
出願番号: | 2008322607 |
年次: | 2013 |
IPC分類: | G01N 33/53,C12N 15/09 |
村田 武士 岩田 想 荒川 孝俊 JP 5230397 特許公報(B2) 20130329 2008322607 20081218 抗膜貫通型タンパク質抗体の抗原結合部位を決定する方法 独立行政法人科学技術振興機構 503360115 特許業務法人三枝国際特許事務所 110000796 村田 武士 岩田 想 荒川 孝俊 20130710 G01N 33/53 20060101AFI20130620BHJP C12N 15/09 20060101ALN20130620BHJP JPG01N33/53 DC12N15/00 A G01N 33/53 C12N 15/09 特開2003−135084(JP,A) 特表2003−500003(JP,A) 特表2004−500088(JP,A) 特表2005−522227(JP,A) 特表2008−537887(JP,A) JEAN-MARIE BUERSTEDDE,IDENTIFICATION OF AN IMMUNODOMINANT REGION ON THE 1-A βCHAIN USING SITE-DIRECTED MUTAGENESIS AND DNA-MEDIATED GENE TRANSFER,Journal of Experimental Medicine,1988年,vol.167, no.2,p.473-487 Eur.J.Immunol.,1994年,vol.24,p.2548-2555 Svante Paabo,Structural and functional dissection of an MHC class I antigen-binding adenovirus glycoprotein,The EMBO Journal,1986年,vol.5, no.8,p.1921-1927 3 2010145238 20100701 16 20100122 宮澤 浩 本発明は、膜貫通型タンパク質に対する抗体の抗原結合部位を決定する方法に主に関する。 抗タンパク質抗体の抗原結合部位の決定には、抗原−抗体複合体の立体構造を決定し、直接判断する方法か、抗原の一次配列に基づく無数の部分ペプチドを準備した上で、それらの抗体との結合情報を集積して推定するペプチドスキャンと称される方法が一般的である(非特許文献1参照)。 前者では、正確な結合パターンを評価できるものの、X線結晶構造解析やNMRを駆使するための試料となる結晶や標識の調製にコストや時間がかかり、産業上の実用レベルにあるとは言い難い。 後者のペプチドスキャンでは、正確な決定を行うにあたり、抗原タンパク質の一次配列に基づく部分ペプチドを、重複を含めて設計してゆく必要がある。このため、部分ペプチド合成には、抗原タンパク質の配列の長さに応じて、多大な費用がかかる。例えば、ラット由来ニューロテンシン受容体に対する抗体のエピトープをペプチドスキャンにより判定した例(非特許文献2参照)では、C-末端近傍領域に限定して9種類のペプチドを合成して調査を行っているが、それ以外の領域を認識する抗体が与えられている場合、より多数の合成ペプチドを用意する必要性が生じるものと思われる。 一方、高等生物由来膜タンパク質の結晶構造解析に適した品質の標品を得ることを目的とした、組換えタンパク質発現およびその評価法が報告された(非特許文献3参照)。この技術は発現用プラスミドを出芽酵母に導入して形質転換を行い蛍光タンパク質の融合した膜タンパク質を発現させ、次いで検体の蛍光を指標にして発現および可溶化の成功率を見積もることを特色としている。また、出芽酵母において、相同組換えを利用することで変異体発現プラスミドベクターが効率よく作成できることが報告されている(非特許文献4参照)。 しかしながら、これらの技術の利用はタンパク質の効率的な発現及び発現量評価に留まっており、上記技術の実施方法に関する総説(非特許文献5参照)においては、当該技術をウエスタン解析に適用することはむしろ推奨しない旨の記載があった。Gershoni, Biodrugs, 2007, 21(3), 145-56Niebauer, J. Recept Signal Transduct Res., 2006, 26, 395-415Newstead, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 2007, 104(35), 13936-41Ito K, Biochem. Biophys. Res. Commun., 2008, 371(4), 841-5Drew D, Nat. Protocol, 2008, 3(5), 784-98 本発明は、膜貫通型タンパク質に対する抗体の結合部位を、迅速に、かつ、効率よく決定できる方法を提供することを主な課題とする。 本発明者は、上記課題を解決することを主な目的として鋭意検討を重ねた結果、膜貫通型タンパク質、およびその膜外領域における配列に置換を施した変異体の一群を作製し、出芽酵母発現系で発現させ、当該発現した変異体の一群について、抗原−抗体反応を行って解析を行うことにより、抗膜貫通型タンパク質抗体の抗原結合部位を簡便に決定し得ることを見出し、更に検討を重ねて本発明を完成するに至った。 即ち、本発明は、下記の事項に関する。 項1:2以上の膜外領域を有する膜貫通型タンパク質に対する抗体の抗原結合部位を決定する方法であって、異なる膜外領域に1又は数個のアミノ酸変異が加えられた変異体の一群を出芽酵母発現系で発現させる工程、前記出芽酵母発現系で発現させた変異体の一群を抗原として、前記膜貫通型タンパク質に対する抗体を作用させて抗原−抗体反応を行う工程、抗原−抗体反応が検出されない変異体を特定し、当該変異体において変異が加えられている膜外領域を、前記抗体の抗原結合部位又は抗原結合部位を含む領域と判定する工程、を含むことを特徴とする、膜貫通型タンパク質に対する抗体の抗原結合部位を決定する方法。 項2:前記変異体の一群を発現させる工程が、変異体に蛍光タンパク質を融合させた融合タンパク質として発現させる工程であることを特徴とする項1に記載の方法。 項3:膜貫通型タンパク質が7回膜貫通型受容体であることを特徴とする項1又は2に記載の方法。 項4:更に、同じ膜外領域に1又は数個の異なるアミノ酸変異が加えられた変異体の一群を出芽酵母発現系で発現し、当該発現させた変異体の一群を抗原として、前記膜貫通型タンパク質に対する抗体を作用させて抗原−抗体反応を行い、抗原−抗体反応が検出されない変異体を特定し、当該変異体において変異が加えられている箇所を、前記抗体の抗原結合部位又は抗原結合部位を含む領域と判定する工程を含むことを特徴とする項1〜3のいずれかに記載の方法。 以下、本発明について、より詳細を説明する。 1.変異体の一群を出芽酵母発現系で発現させる工程 本発明における変異体とは、2以上の膜外領域を有する膜貫通型タンパク質における膜外領域の1つに1または数個のアミノ酸残基に変異が施されている膜貫通型タンパク質変異体である。 アミノ酸変異としては、置換、欠失、挿入等が挙げられる。 アミノ酸変異は、対象タンパク質と抗体との結合を損なわせる又は減じるようなものであれば、特に限定されることはない。通常は、対象タンパク質と同種のタンパク質から相当する部位の構造を考慮した上、同種のタンパク質の構造と類似性を持たないような構造に設定される。 変異箇所の設定にあたっては、対象タンパク質のアミノ酸配列又は遺伝子配列中から膜外領域に相当する部分を推定する。推定の方法は特に限定されないが、通常、対象タンパク質のアミノ酸配列を同一のファミリーと認められるタンパク質のアミノ酸配列を参照として、ClustalやT-coffeeといった、公開された配列アラインメントアルゴリズムを用いて整列させ、比較することで行う。 参照タンパク質は膜外予測アルゴリズムにより高精度に予測可能なタンパク質を採用するが、特に立体構造解析他の実証的手段により膜貫通部と膜外領域が判明しているものを採用することが推奨される。7回膜貫通型タンパク質の場合は、立体構造の解明されたアドレナリン受容体、アデノシン受容体、あるいはロドプシンを参照タンパク質として比較することにより、膜外領域の位置を正確に決定することが可能である。 本発明において、異なる膜外領域に1又は数個のアミノ酸変異が加えられた変異体の一群とは、タンパク質の膜外領域のそれぞれに1又は数個のアミノ酸変異が加えられた変異体の一群であって、換言すると、互いに異なる膜外領域において1又は数個のアミノ酸変異が加えられた変異体の一群である。 例えば、変異体の一群の例には、7回膜貫通型タンパク質の変異体の一群であって、第1の膜外領域のみに1又は数個のアミノ酸変異が加えられている第1の変異体、第2の膜外領域のみに1又は数個のアミノ酸変異が加えられている第2の変異体、第3の膜外領域のみに1又は数個のアミノ酸変異が加えられている第3の変異体、第4の膜外領域のみに1又は数個のアミノ酸変異が加えられている第4の変異体、第5の膜外領域のみに1又は数個のアミノ酸変異が加えられている第5の変異体、第6の膜外領域のみに1又は数個のアミノ酸変異が加えられている第6の変異体、第7の膜外領域のみに1又は数個のアミノ酸変異が加えられている第7変異体、及び、第8の膜外領域のみに1又は数個のアミノ酸変異が加えられている第8変異体からなる一群が挙げられる。 更に、より詳細に結合部位を追求していくため、同じ膜外領域に変異を有するが、変異箇所が異なる1又は複数の変異体を更に当該一群に加えることもできる。 アミノ酸配列の変異方法は、公知の方法に従うことができ、特に限定されないが、例えば、対象タンパク質の遺伝子配列のうち、変異を施すアミノ酸残基に翻訳されるDNA配列が別のアミノ酸残基に翻訳されるDNA配列へ置換された変異体遺伝子配列を設計し、遺伝子操作により変異遺伝子断片を調製し、宿主細胞用プラスミドの所定の位置に変異遺伝子断片の挿入された発現用プラスミドベクターを作製することにより行うことができる。 変異は、1回の操作により、1つのアミノ酸残基のみを変異させてもよく、2以上のアミノ酸残基を同時に変異させるものであってもよい。 好ましくは、変異体は、発現用プラスミドベクターが導入された出芽酵母の形質転換株によって発現される。 例えば、当該変異体を構成するペプチド鎖へと翻訳されるDNA配列を酵母用プラスミドに挿入し、発現用プラスミドベクターを作製する操作は、相同組換えが高頻度に発生するという出芽酵母の生物機構的特徴を利用して行うことができる。変異を施したい膜外領域部分とそれを挟んだ転写方向においてその上流部分、下流部分の3箇所のDNA配列に対して、上流部分の3’末側と膜外領域部分の5’末側、膜外領域部分の3’側と下流部分の5’末側にそれぞれ約30塩基対の重複を持たせた断片をPCR等により準備する。このとき、上流断片の5’末側、下流断片の3’側はそれぞれ、酵母用プラスミドのクローニングサイトの上流、下流の配列と同一の配列を持つようにする。膜外領域部分が短い場合や遺伝子末端領域を変異させる場合には、準備するDNA断片は、変異を施すDNA配列を重複配列として含む2以下の断片にすることもできる。これらをクローニングサイトで直鎖化した酵母用プラスミドとともに出芽酵母の形質転換を行うと、酵母菌体内で所与の配列により相同組換えが起こり、変異体配列の挿入された発現プラスミドとして保持される。形質転換体は引き続き変異体の発現に供することができる。 より好ましくは、実施例に記載の方法に従って実施できる。 ただし、酵母による変異体の発現が上記方法に限られることはなく、酵母以外の宿主系で一般的に行われている手法を用いることができる。例えばカセット変異法やQuikchange法などを用いて一旦発現用プラスミドベクターを獲得し、改めて出芽酵母に導入する手段を採用しても差し支えない。 変異体は、対象タンパク質に変異を加えた変異タンパク質と蛍光タンパク質との融合タンパク質として発現させてもよい。 例えば、宿主細胞として酵母を用いる場合には、発現用プラスミドにおけるクローニングサイトの下流側に酵母での発現に最適化された変異体緑色蛍光タンパク質(yEGFP)の遺伝子を配置し、変異体が膜貫通型タンパク質とyEGFPの融合タンパク質として発現するように設計されているものを用いて発現させることができる。 蛍光タンパク質との融合タンパク質として発現させることにより、結合部位の決定が簡便かつ精度の高いものとなる。特に、対象タンパク質の由来と宿主の異なる異種発現系の場合、通例として、変異体のアミノ酸配列によっては発現量が極度に減少したり、発現の抑制を来したりする場合がある。この場合、発現のない変異体標品を以降の工程に持ち込むことは誤判定の一因になる。しかし、融合タンパク質として発現させた変異体の蛍光強度を測定し、蛍光強度の観測された標品を用いて抗原−抗体反応の検出を行えば、上記のような誤判定を避け、発現した変異体のみを対象として抗原結合部位を的確に検出することが可能になる。 形質転換体の培養物を回収し、変異体の発現している細胞膜画分を抽出する。 具体的には、培養物を遠心分離することにより、培養物中の細胞を集め、細胞を破砕して、低速遠心分離により細胞の死骸を廃棄し、上清を回収することにより、細胞膜画分を得ることができる。得られた膜画分は、そのまま膜検体として、下記抗原−抗体反応に用いることができる。但し、必要によっては、遠心分離等を行うことにより膜画分を簡易精製してもよい。精製することにより、膜画分を用いた検体の保存性は向上する。 2.抗原−抗体反応の検出工程 前記出芽酵母発現系で発現した膜貫通型タンパク質および変異体の一群に抗体を反応させて、抗原−抗体反応を検出する。 抗体は、対象タンパク質に対する抗膜貫通型タンパク質抗体であれば、特に限定されないが、特異的な結合部位を決定する観点から、本発明では、モノクローナル抗体が好適に用いられる。 抗原−抗体反応の検出方法は、公知の方法に従って行うことができ、特に限定されない。 例えば、抗体を直接又は間接的に標識して検出する方法、具体的には、西洋ワサビペルオキシダーゼやアルカリフォスファターゼなどの酵素標識により検出するELISA法やCLIA法、ルミノールやGFP(Green Fluorescence Protein)などの蛍光標識を検出するFIA法、125Iなどの放射性同位体標識を検出するRIA法などを用いることができる。 また、ウエスタンブロット法やドットブロット法などの検出方法も用いることができる。例えば、ウエスタンブロットでは、膜検体をポリアクリルアミドゲルに展開したのち、PVDFあるいはニトロセルロース製の平膜にゲル内容物を転写する。ドットブロットでは、膜検体を直接平膜へスポットし、吸着させる。膜検体の固定された平膜にモノクローナル抗体を作用させ、直接又は間接的に当該抗体と平膜へ固定されたタンパク質との結合を検出する。 3.抗体の抗原結合部位を判定する工程 上記工程により、膜貫通型タンパク質および変異体の一群におけるあるモノクローナル抗体に対する抗原−抗体反応の有無を確認する。このとき抗原−抗体反応が検出される変異体は変異によって抗原配列が損なわれておらず、一方で検出されなかった変異体には抗原配列が完全に削除されているか部分的に欠損していると考えることができる。そのために検出されなかった変異体に施した変異の箇所がモノクローナル抗体の抗原結合部位に関与すると決定される。 例えば、第1の膜外領域に変異が加えられている第1の変異体、第2の膜外領域に変異が加えられている第2の変異体、第3の膜外領域に変異が加えられている第3の変異体、第4の膜外領域に変異が加えられている第4の変異体、第5の膜外領域に変異が加えられている第5の変異体、第6の膜外領域に変異が加えられている第6の変異体、第7の膜外領域に変異が加えられている第7変異体、及び、第8の膜外領域に酸変異が加えられている第8変異体からなる一群に対し、モノクローナル抗体を用いて、抗原−抗体反応を行い、第Xの変異体(Xは1〜8のいずれかの整数を示す)について抗原−抗体反応が検出されなかった場合には、第Xの膜外領域に当該モノクローナル抗体の抗原結合部位が存在すると決定できる。 抗体の抗原結合部位の決定を行う場合には、変異体の種類と調査する抗体の種類が直交するように検体又は解析結果を2次元上に並べてもよい。 例えば、Y種(Yは2以上の整数を示す)の変異体の一群を用いてELISAやドットブロットを用いて、Z種(Zは2以上の整数を示す)の抗体について抗原結合部位を解析する場合、Z列×Y行ウェルのプレートまたはスロットの各行毎にそれぞれ異なる変異体を固定し、抗体を種類毎に各列に並べて抗原−抗体反応を行うことにより、Z種の抗体のエピトープの解析結果を一目で把握することができる。 また、ウエスタンブロットの場合も、各レーンへの変異体の重層に規則性を持たせ、Y種の変異体についてZ種の抗体を用いて抗原−抗体反応を検出した結果を、Z列×Y行の形式で並べて相互に比較することにより、Z種の抗体のエピトープの解析結果を一目で把握することができる。 本発明により、膜貫通型タンパク質に対する抗体の抗原結合部位に関与する領域を、迅速に効率よく決定する方法が提供される。 従来の立体構造解析を伴う決定方法においては、タンパク質の構造解析が必要となり、特に高等生物の場合は試料の調製や構造解析に困難を要していたが、本発明では、タンパク質の構造解析を経ることなく、抗原結合部位の決定を行うことができる。 また、従来のペプチドを用いた決定方法においては、多数のペプチド合成が必要であり、またペプチド配列の選択による人為的なエラーが生ずる可能性があったが、本発明は、タンパク質の発現体を対象として解析を行うため、前記のような問題が生じる可能性が除かれる。 上記のような特徴から、本発明は、膜タンパク質の抗原結合部位決定までに要する時間かつ費用を大きく低減することができ、膜貫通型タンパク質の構造決定部位を迅速に効率よく実施できる方法を提供するものである。 以下、本発明を実施例により、更に詳しく説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。 なお、特に断わらない限り、「%」は「質量%」を示す。マウス由来抗ヒトムスカリン性アセチルコリン受容体M2サブタイプ(以下、M2受容体とも称する)に対するモノクローナル抗体のM2受容体における結合領域を、ウエスタンブロットを用いて解析した。 1−1.出芽酵母発現用プラスミドの作製 M2受容体の一次配列における膜外領域を決定するために、ヒトβ2アドレナリン受容体(β2受容体)の一次配列を参照として配列プログラムT-coffeeによりペアワイズアライメントを行った。次いでβ2受容体の膜外領域を、同受容体の結晶構造(Rasmussen S.G.F. et al. (2007) Nature 450 383-387)から読み取り、対応するM2受容体の一次配列について、N-末端からC-末端に向かって、N末ループ領域(Nter)、細胞内側第一ループ領域(il)、細胞外側第一ループ領域(o1)、細胞内側第二ループ領域(i2)、細胞外側第二ループ領域(o2)、細胞内側第三ループ領域(i3)、細胞外側第三ループ領域(o3)、C末ループ領域(Cter)の8カ所を膜外領域と断定した。 これら膜外領域に対応した個々の変異体について、他のムスカリン性アセチルコリン受容体サブタイプの一次配列において各膜外領域に相当する配列のうち、極力類似性を持たない受容体のアミノ酸配列へ置換するように考慮して、各変異体の配列を以下のように設定した。 当実施例で用いたM2受容体の一次構造は一文字表記で、MDDSTDSSDNSLALTSPYKTFEVVFIVLVAGSLSLVTIIGNILVMVSIKVNRHLQTVNNYFLFSLACADLIIGVFSMNLYTLYTVIGYWPLGPVVCDLWLALDYVVSNASVMNLLIISFDRYFCVTKPLTYPVKRTTKMAGMMIAAAWVLSFILWAPAILFWQFIVGVRTVEDGECYIQFFSNAAVTFGTAIAAFYLPVIIMTVLYWHISRASKSRIKKDKKEPVANQDPVSPSLVPSREKKVTRTILAILLAFIITWAPYNVMVLINTFCAPCIPNTVWTIGYWLCYINSTINPACYALCNATFKKTFKHLLMCHYKNIGATR(配列番号1)で示される。 変異体の一群として、2-DDSTDSSDNSLALTSPYKTFE -22(配列番号2)をTDDPLGGHTVWQ(配列番号3)に置換したNter変異体、51-NRHLQTVNN-59(配列番号4)をDKQLKTVDD(配列番号5)に置換したi1変異体、86-IGYWPLGPVV-95(配列番号6)をMNRWALGNLA(配列番号7)に置換したものをo1変異体、123-CVTKPLTYPVKRTTKM-139(配列番号8)をSITRPLTYRAKRSTKR(配列番号9)に置換したi2変異体、164-FIVGVRTVEDGECYIQFFSN-183(配列番号10)をYFVGKRTVPPGECFIQFLSE(配列番号11)に置換したo2変異体、218-KKDKKEPVANQDPVSPSLVPSREK-241(配列番号12)をDKSEGRFHVQNLSQVEQDGRTGHGLRRSSKFCLKEH(配列番号13)に置換したi3変異体、272-APCIPN-277(配列番号14)をDSCVPK(配列番号15)に置換したo3変異体、303-ATFKKTFKHLLMCHYKNIGATR-324(配列番号16)をKT(配列番号17)に置換したCter変異体を作製した。 以下、明示のあるものを除き、各変異体に対して並行して同一の操作を行った。 酵母用プラスミドpRS426GAL1-GFP(Newstead S. et al. (2007) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104(35) 13936-13941)は、pRS426GAL1プラスミドのクローニングサイト下流側にtobacco etch virus プロテアーゼ(TEV)認識配列、yEGFP遺伝子、His×8残基タグの順に並ぶ塩基配列を挿入して作製した。これを制限酵素SmaIで消化し、直鎖化した。次いでM2受容体の遺伝子配列を鋳型として、変異体発現用プラスミド作製に必要な遺伝子断片をPCR法で増幅した。反応容量は50μL、ポリメラーゼは、Phusion High-Fidelity DNA Polymerase (Finnzymes社)を0.1U用いた。 プライマーはNter変異体及びCter変異体については2本、残りの変異体についてはそれぞれ4本を準備した。消化断片および増幅断片は1%アガロース電気泳動を行い確認し、ゲルから相当するバンドを切り出して、精製した。 次いで、直鎖状プラスミドと膜タンパク質遺伝子および変異体配列を含むDNA断片を用いて宿主株を形質転換した。宿主株は出芽酵母FGY217株(Kota J. et al. (2007) J. Cell Biol. 176 617-628)をYPD培地10mLで震盪培養し、OD600≒0.6 となった時点で2000×gで回収し、滅菌水で数回洗浄したものを用いた。形質転換は酢酸リチウム法(Gietz R. D. et al. (1995) Yeast 11 355-360)により行った。 形質転換処理された宿主株溶液を2%寒天プレートとして準備した2%グルコース含有ウラシル欠損最少培地に塗布し、30℃で3日静置しコロニーを形成させた。シングルコロニーを0.1%グルコース含有ウラシル欠損最少培地10mLの入った遠沈管2本に分注し、そのうち1本を菌体濃度が飽和するまで30℃で震盪培養したのち回収した。回収した菌体はグラスビーズ(Glass beads, acid-washed、Sigma社)を用いて剪断し、得られた細胞抽出液からプラスミドミニプレップキット(Qiagen社)を用いてプラスミド溶液を獲得した。プラスミドをDNA配列解析することにより変異が適切に施されていることを確認した。 1−2.出芽酵母発現系における膜貫通型タンパク質の発現 上記0.1%グルコース含有ウラシル欠損最少培地10mLのうち1本を30℃で震盪培養し、OD600≒0.6 となった時点で終濃度2%のガラクトースを添加した。30℃で20時間震盪培養を続けた後、培地を回収し、2000×gで沈殿させた菌体を、50mM Tris-HCl(pH7.6)、5mM EDTA、10%グリセロール、1×プロテアーゼ阻害剤カクテル(Complete EDTA-free 、Roche社)からなる緩衝液(YSB) 700μLに懸濁させた。 グラスビーズ200μL(Glass beads, acid-washed、Sigma社)を加えて4℃で30分間高速震盪し、菌体を剪断して得られた抽出液を14,000×g、1分間遠心して菌体死骸を除去した。上清を100,000×g、30分間小型超遠心分離器に通し、その沈殿(発現膜画分)を回収し、YSB 1mLで懸濁した。懸濁液2μLを50mM Tris-HCl(pH7.6)、 5%グリセロール、5mM EDTA、0.02% ブロモフェノールブルーからなる溶液2μL と混ぜて30分静置し、トリスグリシン12%ポリアクリルアミドゲル(Invitrogen社)を用いて100V、120分電気泳動し、組成物を展開した。展開したゲルを蛍光イメージアナライザ(商品名:LAS-1000、富士フィルム社)で撮影し、GFP融合変異体タンパク質に由来する単一バンドを確認した。 また、M2受容体の未変異体の発現膜画分について、上記と同様に電気泳動し、CBB染色、蛍光検出、及び、ウエスタンブロットの各検出方法により発現を確認した。CBB染色はゲルを適量の染色液(商品名:Imperial Protein Stain (サーモサイエンティフィク社))に2時間浸したのち、純水で良く濯いで、イメージアナライザ(商品名:LAS-1000、富士フィルム社)のデジタイズモード(露光時間0.25秒)で撮影した。 蛍光検出では、泳動したゲルを直接イメージアナライザ(商品名:LAS-1000、富士フィルム社)の蛍光検出モード(露光時間30秒)で撮影した。 ウエスタンブロットでは、化学発光試薬(商品名:Immobilon Western Detection Reagents、Millipore社)2mLを2次抗体反応後のPVDF膜上に接触させ、5分間放置後、イメージアナライザ(商品名:LAS-1000、富士フィルム社)の化学発光検出モード(露光時間30秒)で撮影した。一次抗体反応にはTBS-Tで200ng/mLに希釈したmAb5を5mL、二次抗体反応にはTBS-Tで20ng/mL に希釈したHRP結合抗IgG抗体(商品名:goat anti-mouse IgG HRP conjugate:santa cruz社製)を5mL用いた。 図1に、出芽酵母による未変異体及び変異体とyEGFPとの融合体の発現の模式図を示す。 また、図2に、各変異体及び未変異体について発現確認を行った結果を示す。図2(a)はM2受容体未変異体の発現確認の結果を示す。1はCBB染色、2は蛍光検出、3はウエスタンブロットにより検出した結果を示す。 図2(a)に示されるように、CBB染色では夾雑する無数のタンパク質が検出されるが、蛍光検出ではM2受容体の未変異体が選択的に検出された。また、モノクローナル抗体を作用させて抗体検出を行うと、蛍光が確認された位置にシグナルが観測された。 図2(b)は未変異体及び変異体の一群の発現を蛍光検出により確認した結果を示す。左から未変異体、Nter変異体、i1変異体、o1変異体、i2変異体、o2変異体、i3変異体、o3変異体、及びCter変異体の結果を示す。図2(b)は、蛍光強度が最も大きいバンド位置を抽出して表示したものである。 参照のために10ng のyEGFPおよび蛍光マーカー(商品名:Benchmark fluorescent、Invitrogen社)も同時に泳動させ、バンドの蛍光強度から発現した変異体の濃度を、また移動度からは相対的分子量を見積もった。 蛍光強度換算で20 ng/μL となるように変異体懸濁液をYSBで希釈したのち、-80℃で冷凍保存した。 1−3.発現した蛋白質に対する抗原−抗体反応と結合部位の決定 上記1−2で作製した変異体懸濁液各1μLについて12%ポリアクリルアミドゲル(Tris-Glycine Gel、Invitrogen社)を用いて100V、120分電気泳動したのち、ゲル表面に親水化処理を施したPVDF膜に接触させ、0.3% Tris、1.5%グリシン、0.1%SDSからなる転写溶液を満たしたタンク式転写装置(Xcell; Invitrogen)内で30V、90分間で転写を行った。次いで2%スキムミルクを含むTBS-T(10mM Tris-HCl (pH7.6)、150mM NaCl、0.1%(v/v)Tween-20)に1時間膜を浸してブロッキングし、一次抗体として5種類の被判定用抗M2抗体mAb1〜5、二次抗体としてHRP結合抗IgG抗体(商品名:goat anti-mouse IgG HRP conjugate:santa cruz社製)を作用させて、抗原−抗体反応を行った。化学発光試薬(商品名:Immobilon Western Detection Reagents、Millipore社製)を用いて二次抗体を検出し、検出されなかったバンドに相当する変異体において変異を施した箇所がエピトープ領域であると判断した。 図3に、M2受容体未変異体及び変異体の一群と5種の抗M2モノクローナル抗体(mAb1〜5)について抗原−抗体反応を試験した結果を示す。横軸に未変異体及び各変異体、及び縦軸に各抗体の結果が並ぶように配置した。 図3の結果に示されるように、mAb1、mAb2、mAb3、mAb4は、Nter変異体に対するバンドが検出されていないことから、N末ループ領域に特異的な抗体であると判定される。一方、mAb5は、i3変異体に対するバンドが検出されていないことから、細胞内側第三ループ領域に特異的な抗体であると判定される。抗M2受容体抗体産生ハイブリドーマ培養上清中のモノクローナル抗体について、M2受容体におけるエピトープ領域をELISA検出により決定した。 2−1.変異体の固定化およびブロッキング 実施例1で作製したM2受容体変異体の一群の膜検体のうち、Nter変異体、i1変異体、o1変異体、i2変異体、o2変異体、i3変異体、o3変異体、及び未変異体について、各変異体懸濁液2μLをYSBで100μLに希釈し、高吸着性96穴プレート(商品名:Maxisorp、Nunc社製)に注入し、2時間4℃に放置することにより、各構成物をプレート器壁に固定した。その後、懸濁液を捨て、20mM Hepes-NaOH (pH7.5), 150mM NaCl, 0.2% デシルマルトシドからなる洗浄溶液150μLに交換することで未吸着成分を取り除いた。次いで1% ウシ血清アルブミンを添加した洗浄溶液150μLに置換し、プレートを2時間4℃に放置することで、以下の操作における非特異的な抗体の吸着の低減を図った。 2−2.抗原-抗体反応と結合部位の決定 抗M2受容体抗体産生ハイブリドーマ培養上清を洗浄溶液で5倍程度に希釈し、上記未変異体及び変異体を固定化したELISAプレートの各ウェルに100μLずつ注入し、2時間4℃に放置し、ハイブリドーマ培養上清に溶解している12種の被判定用抗M2抗体mAb6〜17と一次抗体反応を行った。 その後、培養上清希釈液を捨て、洗浄溶液150μLでの洗浄を2回繰り返した。次いで、二次抗体として洗浄溶液で20ng/mL に希釈したHRP結合抗IgG抗体(商品名:goat anti-mouse IgG HRP conjugate:santa cruz社製)を100μLずつ注入し、2時間4℃で放置し反応させた後、二次抗体溶液を捨て、洗浄溶液200μLでの洗浄を3回繰り返した。残存溶液を取り除き、化学発色試薬(商品名:ABTS solution、Roche社製)を100μLずつ添加して発色を確認した。また、15分間室温に放置後、プレートリーダー(商品名:Spectramax M2e、Molecular Devices社製)で415nmおよび562nmにおける吸光度を測定し、その差を記録した。同一ハイブリドーマ培養上清について、変異体間における吸光度差を比較して、エピトープの解析を行った。 図4(a)に、反応30分後のプレートの発色反応の結果を示す。また、図4(b)に反応15分後の415nmと562nmにおける吸光度の差を示す。行方向に変異体の種類、列方向にハイブリドーマ培養上清の種類が並ぶように配置してある。NCは変異体を発現していない膜検体であり、基底レベルの発色を観察するために用いた。 図4に示される結果に基づき、プレートの発色を列毎に観察してゆき、同一列内の各ウェルにおいて、発色強度が顕著に見られないものについて、それに対応する変異体に施した変異箇所が抗体の結合配列を有する領域と判定した。発色は(a)に示すように目視でも確認できるが、判然としない場合は、(b)に示すように、415nmと562nmにおける吸光度の差を測定し、数値化することにより強度の比較を行った。 その結果、mAb7、mAb9、mAb11〜mAb17を一次抗体として用いた列では、i3変異体を固定したウェルの発色が顕著に低下していたことから、mAb7、mAb9、mAb11〜mAb17は、i3細胞内第三ループ領域に特異的な抗体と判定された。また、mAb10を用いた列では、N-末変異体を固定したウェルの発色が見られなかったため、mAb10はN-末ループ領域に特異的な抗体と判定された。 上記で示したように、モノクローナル抗体の状態は精製を経たものである必要はなく、ハイブリドーマクローン樹立過程における培養上清であっても適用され、抗原結合領域の決定を行うことが可能であることがわかった。マウス由来抗ヒトアデノシン受容体A2aサブタイプ(以下、AA2a受容体とも称する)に対するモノクローナル抗体(mAb18)のAA2a受容体におけるエピトープ領域を、以下のように、ウエスタンブロットにより解析した。 3−1.出芽酵母発現用プラスミドの作製 AA2a受容体の一次配列における膜外領域を決定するために、ヒトβ2アドレナリン受容体(β2受容体)の一次配列を参照として配列プログラムT-coffeeによりペアワイズアライメントを行った。次いでβ2受容体の膜外領域を、同受容体の結晶構造(Rasmussen S.G.F. et al. (2007) Nature 450 383-387)から読み取り、対応するM2受容体のアミノ酸一次配列についてN-末端からC-末端に向かってNter、i1、o1、i2、o2、i3、o3、Cterの8カ所を膜外領域と断定した。 これら膜外領域に対応する個々の変異体に施す置換は、他のアデノシン受容体サブタイプ(A1, A2b, A3)の一次配列において各膜外領域に相当する配列のうち、極力類似性を持たない受容体のアミノ酸配列へ置換するように考慮して、各変異体の配列を以下のように設定した。 当実施例で用いたAA2a受容体の一次構造は一文字表記で、MPIMGSSVYITVELAIAVLAILGNVLVCWAVWLNSNLQNVTNYFVVSLAAADIAVGVLAIPFAITISTGFCAACHGCLFIACFVLVLTQSSIFSLLAIAIDRYIAIRIPLRYNGLVTGTRAKGIIAICWVLSFAIGLTPMLGWNNCGQPKEGKQHSQGCGEGQVACLFEDVVPMNYMVYFNFFACVLVPLLLMLGVYLRIFLAARRQLKQMESQPLPGERARSTLQKEVHAAKSLAIIVGLFALCWLPLHIINCFTFFCPDCSHAPLWLMYLAIVLSHTNSVVNPFIYAYRIREFRQTFRKIIRSHVLRQQEPFKA(配列番号18)で示される。 変異体の一群として、3-IMGSSV-8(配列番号19)をMPPSISAFQAA(配列番号20)に置換したNter変異体、32-WLNSNLQNVTNY-43(配列番号21)をKVNQALRDSTFC(配列番号22)に置換したi1変異体、70-FCAACHG-76(配列番号23)をITIHFYS(配列番号24)に置換したo1変異体、104-IAIRIPLRYNGLVTGT-119(配列番号25)をLRVKLTVRYKRVTTHR(配列番号26)に置換したi2変異体、146-CGQPKEGKQHSQGCGEGQVACLFEDVVP-173(配列番号27)をLSAVERAWAANGSMGEPVIKCEFEKVIS(配列番号28)に置換したo2変異体、205- RRQLKQMESQPLPGERARSTLQKEVH-230(配列番号29)をKRQLQKIDKSEGRFHVQNLSQVEQDGRTGHGLRRSSKFCLKEHK(配列番号30)に置換したi3変異体、261-DCSHA-265(配列番号31)をSCHK(配列番号32)に置換したo3変異体、297-QTFRKIIRSHVLRQQEPFKA-316(配列番号33)をVT(配列番号34)に置換したCter変異体を作製した。 制限酵素SmaIにより直鎖化処理された酵母用プラスミドpRS426GAL1-GFPと、PCR法により増幅されたAA2a受容体またはその変異体の遺伝子配列を用いて、酢酸リチウム法により、出芽酵母株FGY217を形質転換した。形質転換処理された宿主株溶液を2%寒天プレートとして準備した2%グルコース含有ウラシル欠損最少培地に塗布し、30℃で3日静置しコロニーを形成させた。シングルコロニーを0.1%グルコース含有ウラシル欠損最少培地10mLの入った遠沈管2本に分注し、そのうち1本を菌体濃度が飽和するまで30℃で震盪培養したのち回収した。回収した菌体はグラスビーズ(商品名:Glass beads, acid-washed、Sigma社製)を用いて剪断し、得られた細胞抽出液からプラスミドミニプレップキット(Qiagen社)を用いてプラスミド溶液を獲得した。プラスミドをDNA配列解析することにより変異が適切に施されているのを確認した。 3−2.出芽酵母発現系における膜貫通型タンパク質の発現 上記1−2において「M2受容体」に代えて「AA2a受容体」を用い、M2受容体の変異体の一群に代えてAA2a受容体の変異体の一群を用いる以外は、同様の操作を行って、タンパク質の発現を行った。 3−3.発現した蛋白質に対する抗原−抗体反応と結合部位の決定 上記1−3において「M2受容体」に代えて「AA2a受容体」を用い、M2受容体の変異体の一群に代えてAA2a受容体の変異体の一群を用いる以外は、同様の操作を行って、抗原−抗体反応と結合部位の決定を行った。 図5上部に AA2a受容体未変異体とその変異体の一群の発現結果を蛍光検出にて確認した結果を示す。 また、図5下部にAA2受容体未変異体とその変異体の一群に対する抗原−抗体反応をウエスタンブロットにより検出した結果を示す。 図5に示されるように、i3変異体が展開されたレーンでは発現は確認されているが、抗原−抗体反応に基づく発光は観測されなかった。そのため、mAb18は細胞内側第三ループに位置する205-RRQLKQMESQPLPGERARSTLQKEVH-230(配列番号35)なる配列を認識するものと判断された。 3−4.細胞内側第三ループ変異体の一群を用いた、エピトープ領域の絞り込み上記3−3で細胞内第三ループを認識すると判定された抗AA2a抗体mAb18のより詳細な結合部位を解析するため、同じ細胞内側第三ループにおいて異なる変異を行った5種類の変異体の一群を作製し、発現確認及び抗原−抗体反応検出を行った。 AA2a受容体細胞内第3ループの変異体の一群としては、198-LRIFLAARRQ-207(配列番号36)をLEVFYLIRKQ(配列番号37)へ置換したi3-1変異体、203- AARRQLKQME-212(配列番号38)をIIRNKLSLNL(配列番号39)へ置換したi3-2変異体、208-LKQMESQPLP-217(配列番号40)をLNKKVSAS(配列番号41)へ置換したi3-3変異体、213-SQPLPGERAR-222(配列番号42)をSNSKETG(配列番号43)へ置換したi3-4変異体、218-GERARSTLQK-227(配列番号44)をSGDPQKYYGK(配列番号45)へ置換したi3-5変異体を作製した。 発現用プラスミドの作製、形質転換、膜貫通型タンパク質の発現、抗原-抗体反応と結合部位の決定は、「M2受容体」に代えて「AA2a受容体」を用い、M2受容体変異体の一群に代えて、AA2a受容体細胞内第3ループ領域変異体の一群を用いる以外は、上記1−1〜1−3と同様に行った。 図6上部に AA2a受容体細胞内第3ループ領域変異体の一群の発現結果を蛍光検出にて確認した結果を示す。 また、図6下部に化学発光試薬(商品名:Immobilon Western Detection Reagents、Millipore社製) を用いて、AA2a受容体細胞内第3ループ領域変異体に対する抗原−抗体反応を検出した結果を示す。 図6に示されるように、i3-1変異体及びi3-2変異体については、抗体検出において、発光が観測されたため、上記3−3で判定された205-RRQLKQMESQPLPGERARSTLQKEVH-230(配列番号35)からなる領域のうち、205-RRQLKQME-212(配列番号46)の領域は、エピトープでないと判定される。 一方、i3-4変異体及びi3-5変異体においては、抗体検出において発光が観測されなかったため、当該変異体において変異を設定した箇所、即ち、213-SQPLPGERARSTLQK-227(配列番号47)からなる領域は、エピトープに含まれると判断される。 また、i3-3変異体では、抗体検出が陰性であるが、蛍光検出も陰性となっているため、発現産物が得られなかったものと判断される。 当該結果から、mAb18のAA2a受容体におけるエピトープ配列は 213-SQPLPGERARSTLQKEVH-230(配列番号48)に限定された。出芽酵母による未変異体及び変異体とyEGFPとの融合体の発現の模式図を示す。Nativeは未変異体、NterはNter変異体、i1はil変異体、o1はo1変異体、i2はi2変異体、o2はo2変異体、i3はi3変異体、o3はo3変異体、CterはCter変異体の発現模式図を示す。★印は変異箇所が存在するループを示す。(a)はM2受容体未変異体の発現確認の結果を示す。1はCBB染色、2は蛍光検出、3はウエスタンブロットにより検出した結果を示す。(b)はM2受容体未変異体及び変異体の一群の発現を蛍光検出により確認した結果を示す。左から未変異体、Nter変異体、i1変異体、o1変異体、i2変異体、o2変異体、i3変異体、o3変異体、及びCter変異体の結果を示す。バンドは蛍光強度が最も大きいバンド位置を抽出して表示した。M2受容体未変異体及び変異体の一群と5種の抗M2モノクローナル抗体(mAb1〜5)についてウエスタンブロットにより抗原−抗体反応を試験した結果を示すM2受容体未変異体及び変異体の一群と12種の抗M2受容体抗体産生ハイブリドーマ培養上清中のモノクローナル抗体(mAb6〜17)についてELISAにより抗原−抗体反応を検出した結果を示す。(a)は、反応30分後のプレートの発色反応の結果を示す。また(b)は反応15分後の415nmと562nmにおける吸光度の差を示す。上部の蛍光検出は、AA2a受容体未変異体とその変異体の一群の発現結果を蛍光検出にて確認した結果を示す。下部の抗体検出は、AA2受容体未変異体とその変異体の一群に対する抗原−抗体反応をウエスタンブロットにより検出した結果を示す。上部の蛍光検出は、AA2a受容体細胞内第3ループ領域変異体の一群の発現結果を蛍光検出にて確認した結果を示す。下部の抗体検出は、AA2a受容体細胞内第3ループ領域変異体の一群に対する抗原−抗体反応をウエスタンブロットにより検出した結果を示す。配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるヒト7回膜貫通型タンパク質に対する抗体の抗原結合部位を決定する方法であって異なる膜外領域に1又は数個のアミノ酸の置換および欠失から選択される変異が加えられた変異体の一群を出芽酵母発現系で発現させる工程、前記出芽酵母発現系で発現させた変異体の一群を抗原として、前記膜貫通型タンパク質に対する抗体を作用させて抗原−抗体反応を行う工程、抗原−抗体反応が検出されない変異体を特定し、当該変異体において変異が加えられている膜外領域を、前記抗体の抗原結合部位又は抗原結合部位を含む領域と判定する工程、を含むことを特徴とする、方法。更に、同じ膜外領域に1又は数個の異なるアミノ酸変異が加えられた変異体の一群を出芽酵母発現系で発現し、当該発現させた変異体の一群を抗原として、前記ヒト7回膜貫通型タンパク質に対する抗体を作用させて抗原−抗体反応を行い、抗原−抗体反応が検出されない変異体を特定し、当該変異体において変異が加えられている箇所を、前記抗体の抗原結合部位又は抗原結合部位を含む領域と判定する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。前記変異体の一群を発現させる工程が、変異体に蛍光タンパク質を融合させた融合タンパク質として発現させる工程であることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。配列表