タイトル: | 公開特許公報(A)_平均応力評価パラメータの算出方法 |
出願番号: | 2008284065 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | G01N 3/32 |
中村 寛 山下 洋一 JP 2010112783 公開特許公報(A) 20100520 2008284065 20081105 平均応力評価パラメータの算出方法 株式会社IHI 000000099 絹谷 信雄 100068021 中村 寛 山下 洋一 G01N 3/32 20060101AFI20100423BHJP JPG01N3/32 3 1 OL 12 2G061 2G061AB05 2G061AC03 2G061BA15 2G061CA01 2G061DA11 本発明は、航空機エンジンのシャフト、ディスク、ブレードなどの疲労強度を評価するに際して、平均応力を求めるために用いる平均応力評価パラメータの算出方法に係り、特に、平均応力としてウォーカー応力σwを用い、そのパラメータであるウォーカー指数mを算出する方法に関するものである。 航空機エンジンでは、吸い込み空気がファンにおいて加圧され、その空気の一部がコアエンジンに導かれ、圧縮機で加圧された後、燃焼器内で燃料と混合され、点火されて、高圧タービン、低圧タービンに順次排出される。高圧タービンは圧縮機を駆動し、低圧タービンはファンを駆動する。 航空機エンジンのファンやタービンに用いられるシャフト、ディスク、ブレードなどの部材には、圧縮空気や燃焼空気による応力が常にかかるため、金属疲労によりき裂が発生する場合がある。そのため、これらの部材の疲労寿命などの疲労強度を予め求めておき、き裂が発生する前に取り替える必要がある。 航空機エンジンのシャフト、ディスク、ブレードなどの疲労強度を評価するに際して、平均応力が疲労特性(疲労寿命など)に影響を及ぼすことが知られている。 図3に示すように、応力比R>0である場合、応力比Rが増えるにつれ平均応力も増加し、疲労寿命が短くなり、疲労強度が低下する傾向がある。応力比Rは、最大応力をσmax、最小応力をσminとすると、R=σmin/σmaxで表される。 一方、応力比R<0である場合は、σminが負となり材料に圧縮の荷重が付加されることになる。この場合、疲労寿命が延び、疲労強度が増加する傾向がある。 応力比Rおよび平均応力が疲労特性に及ぼす影響を評価する方法として、ウォーカー(Walker)応力(あるいはひずみ)がある。ウォーカー応力σwは、下式(1) σw=2σa(1−R)m-1 =σmax(1−R)m …(1) 但し、σa:応力振幅 σmax:最大応力 R:応力比 m:ウォーカー指数で表される。式(1)において、応力振幅σaは片振幅であり、σa=(σmax−σmin)/2である。 なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。Walker,K.、「The Effect of Stress Ratio During Crack Propagation and Fatigue for 2024−T3 and 7075−T6 Aluminum」、ASTM STP 462、American Society for Testing and Materials、1970年、pp.1−14 疲労強度を評価する際の平均応力としてウォーカー応力σwを用いる場合、そのパラメータとなるウォーカー指数mを求める必要がある。 しかしながら、ウォーカー指数mは材料、試験片形状、あるいは温度などの疲労試験条件の影響を受けるため、ウォーカー指数mを精度よく求めるためには、試験条件を変えて数多くの疲労試験を実施する必要がある。そのため、疲労試験数が非常に多くなり、莫大な時間とコストがかかってしまうという問題があった。 そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、効率よく短時間でウォーカー指数を取得可能な平均応力評価パラメータの算出方法を提供することにある。 本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、平均応力として、下式(1) σw=2σa(1−R)m-1 =σmax(1−R)m …(1) 但し、σa:応力振幅 σmax:最大応力 R:応力比 m:ウォーカー指数で表されるウォーカー応力σwを用い、前記ウォーカー応力σwのパラメータとなるウォーカー指数mを算出する平均応力評価パラメータの算出方法において、応力比R、疲労寿命、および最大応力σmaxを制御因子とし、かつ温度を信号因子として、実験計画法により最適疲労試験条件を選定し、その最適疲労試験条件で疲労試験を行い、その疲労試験の結果から前記ウォーカー指数mを算出する平均応力評価パラメータの算出方法である。 請求項2の発明は、前記制御因子および前記信号因子の水準をそれぞれ設定すると共に、疲労強度を評価する材料の疲労強度線図を予め取得しておき、その疲労強度線図を用いて、前記制御因子の各水準と前記信号因子の各水準の組み合わせごとに前記ウォーカー指数mを算出し、前記制御因子の各水準、前記信号因子の各水準、および算出した前記ウォーカー指数mを直交表に割付けて分散分析を行って、前記制御因子の各水準のSN比を算出し、前記制御因子の前記SN比が最大となる水準を組み合わせたものを前記最適疲労試験条件として選定する請求項1記載の平均応力評価パラメータの算出方法である。 請求項3の発明は、前記最適疲労試験条件で疲労試験を行って疲労強度線図を求め、その疲労強度線図および式(1)を用いて前記ウォーカー指数mを算出する請求項1または2記載の平均応力評価パラメータの算出方法である。 本発明によれば、最適な疲労試験条件を選定することができるので、疲労強度評価に用いるウォーカー指数を取得するための疲労試験を効率よく、かつ短時間で行うことが可能となり、コストを抑制できる。 以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。 本発明の平均応力評価パラメータの算出方法は、例えば、航空機エンジンのシャフト、ディスク、ブレードなどの部材の疲労強度を評価するに際して、平均応力を求めるために用いるウォーカー指数を算出する方法である。すなわち、本発明における平均応力評価パラメータは、ウォーカー指数である。 本発明では、疲労強度を評価する際の平均応力として、下式(1) σw=2σa(1−R)m-1 =σmax(1−R)m …(1) 但し、σa:応力振幅 σmax:最大応力 R:応力比 m:ウォーカー指数で表されるウォーカー応力σwを用いる。 ウォーカー応力σwのパラメータとなるウォーカー指数mは、材料、試験片形状、あるいは温度などの疲労試験条件の影響を受けるため、ウォーカー指数mを精度よく求めるためには、数多くの疲労試験を実施する必要があった。 そこで、本発明者らは、ウォーカー指数mを効率よく、かつ精度よく算出できる方法について鋭意検討を行い、その結果、実験計画法を用いて予め最適疲労試験条件を選定しておき、その最適疲労試験条件で疲労試験を行ってウォーカー指数mを求めれば、ウォーカー指数mを効率よく短時間で、かつ精度よく算出できることを見出した。 図1は、本実施形態においてウォーカー指数mを算出する際のフローチャートである。 図1に示すように、ウォーカー指数mを算出する際には、まず、制御因子および信号因子を設定する(ステップS1)。 本発明では、最適な疲労試験条件を選定するため、制御因子および信号因子として疲労試験条件を採用する。具体的には、制御因子Aとしてノッチの有無、制御因子Bとして応力比R、制御因子Cとして疲労寿命、制御因子Dとして最大応力σmaxを採用し、信号因子として温度を採用する。 また、各制御因子および信号因子の水準を設定する。本実施形態で設定した各制御因子の水準を表1に、信号因子の水準を表2に示す。 表1において、σyは降伏応力である。また、表2において、信号因子の水準αはRT(Room Temperature;室温)であり、68F(37.8℃)とした。 さらに、疲労強度を評価する材料の疲労強度線図を予め取得しておく。本実施形態では、疲労強度を評価する材料として、ニッケル基超合金であるインコネル(登録商標)718を用いた場合を説明する。材料としてインコネル718を用いた場合の疲労強度線図を図2に示す。 その後、ステップS1で設定した制御因子の水準と信号因子の水準の組み合わせごとにウォーカー指数mを算出し、これらを直交表に割付ける(ステップS2,S3)。 本実施形態で用いる直交表を表3に示す。 表3において、制御因子の列にある数字(1,2,3)は、各制御因子の水準を表し、(α,β,γ)は信号因子の水準を表す。 表1、2で設定した制御因子および信号因子の各水準を表3の直交表に割り当てた一覧を表4に示す。 表4において、制御因子D(最大応力)については、第三水準が存在しないため、第三水準を第一水準に置換している。 表4に示すように、例えば、実験番号1では、以下の疲労試験条件が割り当てられる。 制御因子A(ノッチの有無):Unnotched;試験片の切り欠きがない 制御因子B(応力比):All data;図2のデータを用いる場合、応力比R=−1.00,−0.50,0.10,0.20,0.50 制御因子C(疲労寿命):All data:図2中の全疲労寿命域(104〜108) 制御因子D(最大応力):All data:図2中の全ての応力条件 これらの条件に合致する疲労試験結果を図2から抽出し、ウォーカー指数mを計算する。実験番号1の場合、RT(室温)でのウォーカー指数mは、m=0.54となる。疲労強度線図からウォーカー指数mを算出する方法については、公知であるため説明を省略するが、例えば、最小二乗法などを用いて算出するとよい。 同様にして、制御因子の水準と信号因子の水準の組み合わせごとにウォーカー指数mを算出して、直交表に割り付ける。ウォーカー指数mの計算結果を表4に併せて示す。 その後、ステップS3で作成した直交表を用いて分散分析を行い、制御因子の各水準のSN比を算出する(ステップS4)。 以下、具体例として、制御因子A(ノッチの有無)の第一水準(Unnotched)のSN比ηを算出する手順を説明する。 表4から抜粋した制御因子Aの第一水準におけるウォーカー指数mの計算結果を表5に示す。 また、説明を簡略化するため、表5の数値を記号化したものを表6に示す。 以下の計算式では、表6の記号を用いて説明する。 まず、表5のデータから、修正項Smを[数1]に示す式(2)より求める。式(2)において、実験数nは制御因子Aを第一水準として設定した実験の数であり、ここでは、n=9である。また、信号数kは信号因子の水準の数であり、ここでは、k=2である。 表5の値を式(2)に代入すると、修正項Smは、 Sm=(0.54+0.61+…+0.59+0.55)/(9×2) =5.41となる。 また、データの二乗和Stを下式(3) St=(y11)2+(y12)2+…+(y91)2+(y92)2 …(3)より求める。表5の値を式(3)に代入すると、データの二乗和Stは、 St=0.542+0.612+…+0.592+0.552 =5.48となる。 さらに、信号因子の平均Mを、下式(4) M=(M1+M2)/k …(4)より求める。表5の値を式(4)に代入すると、信号因子の平均Mは、 M=(68+1000)/2 =534となる。 その後、有効除数rを、下式(5) r=n[(M1−M)2+(M2−M)2] …(5)より求める。表5の値および式(4)で求めた信号因子の平均Mの値を式(5)に代入すると、有効除数rは、 r=9[(68−534)2+(1000−534)2] =3908808となる。 また、信号因子の一次回帰の効果Sβを、[数2]に示す式(6)より求める。表5の値と、式(4)で求めた信号因子の平均Mの値と、式(5)で求めた有効除数rの値とを式(6)に代入すると、信号因子の一次回帰の効果Sβは、 Sβ=[(68−534)×4.55+(1000−534)×5.32]/3908808 =0.033となる。 さらに、誤差平均の二乗和SNを、[数3]に示す式(7)より求める。表5の値および式(2)で求めた修正項Smの値を式(7)に代入すると、誤差平均の二乗和SNは、 SN=(1.482+1.452+…+1.122)/2−5.41 =0.021となる。 また、誤差変動Seを下式(8) Se=St−Sm−Sβ−SN …(8)より算出する。式(2)で求めた修正項Smの値と、式(3)で求めたデータの二乗和Stの値と、式(6)で求めた信号因子の一次回帰の効果Sβの値と、式(7)で求めた誤差平均の二乗和SNの値とを式(8)に代入すると、誤差変動Seは、 Se=5.48−5.41−0.033−0.021 =0.023となる。 その後、誤差分散Veを、[数4]に示す式(9)より求める。式(8)で求めた誤差変動Seの値と、表5の値とを式(9)に代入すると、誤差分散Veは、 Ve=0.023/(9×2−1−9) =0.0029となる。 最後に、SN比ηを[数5]に示す式(10)より求める。式(5)で求めた有効除数rの値と、式(6)で求めた信号因子の一次回帰の効果Sβの値と、式(9)で求めた誤差分散Veの値とを式(10)に代入すると、SN比ηは、 η=10log10[0.033/(3908808×0.0029)] =−55.27となる。以上により、制御因子Aの第一水準のSN比ηが求められる。 同様にして、制御因子Aの第二水準、および制御因子B〜Dの各水準のSN比ηを算出する。算出した各制御因子A〜DのSN比ηの一覧を表7に示す。 ステップS4で各制御因子A〜DのSN比ηを算出した後、制御因子A〜Dの各水準のSN比ηを比較し、制御因子のSN比ηが最大となる水準を組み合わせたものを最適疲労試験条件として選定する(ステップS5)。 表7より、制御因子A(ノッチの有無)では第一水準(Unnotched)、制御因子B(応力比)では第二水準(R=−0.5,0.1,0.5)、制御因子C(疲労寿命)では第二水準(N<107)、制御因子D(最大応力)では第一水準(All data)のSN比ηが最大となり、これらを組み合わせたものが最適疲労試験条件として選定される。 その後、選定した最適疲労試験条件で実際に疲労試験を行って疲労強度線図を求め、その疲労強度線図を用いて、ウォーカー指数mを算出する(ステップS6)。 以上により、ウォーカー応力σwのパラメータであるウォーカー指数mが得られる。 算出したウォーカー指数mを用いてウォーカー応力σwを求めることで、ウォーカー応力σwを用いて強度評価を行うことが可能となる。 以上説明したように、本実施形態では、応力比R、疲労寿命、および最大応力σmaxを制御因子とし、かつ温度を信号因子として、実験計画法により最適疲労試験条件を選定し、その最適疲労試験条件で疲労試験を行い、その疲労試験の結果からウォーカー指数mを算出している。 これにより、最適疲労試験条件を選定できるため、無駄な疲労試験を行う必要がなくなり、効率よく、かつ短時間で精度よくウォーカー指数mを算出することが可能となり、コストを抑制することができる。 上記実施形態では、制御因子としてノッチの有無、応力比R、疲労寿命および最大応力σmaxを用い、信号因子として温度を用いたが、制御因子および信号因子はこれらに限定されない。本発明においてウォーカー指数を算出する際のフローチャートである。本発明においてウォーカー指数を算出する際に用いた、疲労強度を評価する材料の疲労強度線図である。疲労強度が応力比および平均応力の影響を受けることを説明する図である。 平均応力として、下式(1) σw=2σa(1−R)m-1 =σmax(1−R)m …(1) 但し、σa:応力振幅 σmax:最大応力 R:応力比 m:ウォーカー指数で表されるウォーカー応力σwを用い、前記ウォーカー応力σwのパラメータとなるウォーカー指数mを算出する平均応力評価パラメータの算出方法において、 応力比R、疲労寿命、および最大応力σmaxを制御因子とし、かつ温度を信号因子として、実験計画法により最適疲労試験条件を選定し、その最適疲労試験条件で疲労試験を行い、その疲労試験の結果から前記ウォーカー指数mを算出することを特徴とする平均応力評価パラメータの算出方法。 前記制御因子および前記信号因子の水準をそれぞれ設定すると共に、疲労強度を評価する材料の疲労強度線図を予め取得しておき、その疲労強度線図を用いて、前記制御因子の各水準と前記信号因子の各水準の組み合わせごとに前記ウォーカー指数mを算出し、前記制御因子の各水準、前記信号因子の各水準、および算出した前記ウォーカー指数mを直交表に割付けて分散分析を行って、前記制御因子の各水準のSN比を算出し、前記制御因子の前記SN比が最大となる水準を組み合わせたものを前記最適疲労試験条件として選定する請求項1記載の平均応力評価パラメータの算出方法。 前記最適疲労試験条件で疲労試験を行って疲労強度線図を求め、その疲労強度線図および式(1)を用いて前記ウォーカー指数mを算出する請求項1または2記載の平均応力評価パラメータの算出方法。 【課題】効率よく短時間でウォーカー指数を取得可能な平均応力評価パラメータの算出方法を提供する。【解決手段】平均応力としてウォーカー応力σwを用い、そのウォーカー応力σwから疲労寿命などの疲労強度を評価するに際して、前記ウォーカー応力σwのパラメータとなるウォーカー指数mを算出する方法において、応力比R、疲労寿命、および最大応力σmaxを制御因子とし、かつ温度を信号因子として、実験計画法により最適疲労試験条件を選定し、その最適疲労試験条件で疲労試験を行い、その疲労試験の結果から前記ウォーカー指数mを算出する。【選択図】図1