生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_高度不飽和脂肪酸の製造方法
出願番号:2008270191
年次:2010
IPC分類:C12P 7/64


特許情報キャッシュ

田岡 洋介 長野 直樹 林 雅弘 沖田 裕司 泉田 仁 杉本 愼一 JP 2010094111 公開特許公報(A) 20100430 2008270191 20081020 高度不飽和脂肪酸の製造方法 国立大学法人 宮崎大学 504224153 日本水産株式会社 000004189 須藤 阿佐子 100102314 須藤 晃伸 100123984 田岡 洋介 長野 直樹 林 雅弘 沖田 裕司 泉田 仁 杉本 愼一 C12P 7/64 20060101AFI20100402BHJP JPC12P7/64 3 1 OL 8 4B064 4B064AD88 4B064CA01 4B064CD02 4B064DA01 4B064DA10 本発明は、幅広い温度域で安定な増殖能および脂質生産能を有するシゾキトリウム属(Schizochytorium)に属する微生物を用いることを特徴とする、高度不飽和脂肪酸の製造方法に関する。 エイコサペンタエン酸(以下、EPAという)、ドコサヘキサエン酸(以下、DHAという)等の高度不飽和脂肪酸は、その生理活性が高く評価され、医薬品や健康食品に幅広く利用されている。これら高度不飽和脂肪酸を含有する油脂は、主にイワシやマグロ等の水産動物、亜麻やボラージ等の植物から抽出され、精製や高度不飽和脂肪酸の濃度を高める処理等を施されて利用されている。 近年、これら動植物の他に、微生物を用いた高度不飽和脂肪酸の製造方法に関する研究開発が進み、実用化された例も複数知られている。モルティエレラ属(Mortierella)に属する糸状菌を用いたアラキドン酸(以下、ARAという)生産(特許文献1、2)や、クリプテコディニウム属(Crypthecodinium)に属する渦鞭毛藻を用いたDHA生産(非特許文献1)が代表的な例として挙げられる。また、海洋真核微生物であるラビリンチュラ類もDHAを高濃度に含有する脂肪酸組成により注目されてきた微生物であり(非特許文献2)、シゾキトリウム属(Schizochytrium)やウルケニア属(Ulkenia)に属するラビリンチュラ類を用いたDHA生産が行われている(非特許文献3、4)。 しかしながら、ラビリンチュラ類の生育は温度の影響を受けやすく、至適温度から外れた温度で培養した場合、増殖性や脂質生産性が著しく低下することが知られている。例えば、スラウストキトリウム・ロゼウム(Thraustochytrium roseum)ATCC28210株では25℃で最高のバイオマス量およびDHA生産性を示すが、それ以外の培養温度ではバイオマス量もDHA生産性も至適温度での培養と比較して急激に低下するという報告がなされている(非特許文献5)。また、シゾキトリウム・リマシナム(Schizochytrium limacinum)SR21株でも25℃以外で培養するとバイオマス量が急激に減少するという報告がなされている(非特許文献6)。さらに最近、前述のS. limacinum SR21株の変異株であるS. limacinum OUC88株の培養温度とバイオマス量および脂質生産性の関係について報告された。この中で、元株のSR21株では16℃という低温においてバイオマス量が大幅に減少してしまうが、変異株OUC88株は16℃でも23℃や30℃におけると同等のバイオマス量および脂質生産性を示したことが、高温の37℃で培養すると、30℃と比較してバイオマス量は2.6分の1、乾燥菌体中の脂質含量は1.6分の1に減少してしまい、結果として、37℃における脂質生産性は30℃の脂質生産性の4.2分の1以下と著しく減少してしまったという報告がなされている(非特許文献7)。特開昭63−44891号公報特開昭63−12290号公報ツヴィ・コーエン(Zvi Cohen)ら編,「シングル セル オイルズ(Single Cell Oils)」,(米国),エイオーシーエス・プレス(AOCS Press),2005年,p. 86-98Nakahara T, Yokochi T, Higashihara T, Tanaka S, Yaguchi T, Honda D (1996) Production of docosahexaenoic acid and docosapentaenoic acids by Schizochytrium sp. isolated from Yap Islands. J. Am. Chem. Soc. 73, 1421-1426.ツヴィ・コーエン(Zvi Cohen)ら編,「シングル セル オイルズ(Single Cell Oils)」,(米国),エイオーシーエス・プレス(AOCS Press),2005年,p. 36-52ツヴィ・コーエン(Zvi Cohen)ら編,「シングル セル オイルズ(Single Cell Oils)」,(米国),エイオーシーエス・プレス(AOCS Press),2005年,p. 99-106Li ZY, Ward OP (1994) Production of docosahexaenoic acid by Thraustochytrium roseum. J. Ind. Microbiol. 13, 238-241.Yokochi T, Honda D, Higashihara T, Nakahara T (1998) Optimization of docosahexaenoic acid production by Schizochytrium limacinum SR21. Appl. Microbiol. Biotechnol. 49, 72-76.Zhu L, Zhang X, Ji L, Song X, Kuang C (2007) Changes of lipid content and fatty acid composition of Schizochytrium limacinum in response to different temperatures and salinities. Proc. Biochem. 42, 210-214. 前述の通り、ラビリンチュラ類の温度に対する感受性の高さにより、これら微生物による高度不飽和脂肪酸の生産においては培養温度を制御する必要があり、安定した発酵生産やコストダウンの障害となっていた。従って本発明は、幅広い温度域で安定な増殖能および脂質生産能を有する海洋真核微生物を用い、高度不飽和脂肪酸を安定的かつ安価に製造する方法を提供することを課題とする。 本発明者らは、前述の状況に鑑み幅広い温度域で安定な増殖能、脂質生産能を有する微生物を広く自然界に求め鋭意探索した結果、15〜35℃の温度域で安定な増殖能および脂質生産能を有する微生物を見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち本発明は、下記(1)〜(3)に記載の製造方法を要旨とする。(1)15〜35℃の範囲で安定した増殖および脂質生産性を示すシゾキトリウム属(Schizochytorium)に属する微生物を用いることを特徴とする、高度不飽和脂肪酸の製造方法。(2)微生物がSchizochytrium sp. M-8(FERM P-19755)である、前記(1)記載の高度不飽和脂肪酸の製造方法。(3)高度不飽和脂肪酸が炭素数18以上の高度不飽和脂肪酸である、前記(1)又は(2)記載の高度不飽和脂肪酸の製造方法。 本発明により、幅広い温度域で安定な増殖および脂質生産性を示すシゾキトリウム属(Schizochytorium)に属する微生物を用いることを特徴とする、高度不飽和脂肪酸の製造方法が提供され、高度不飽和脂肪酸をより安定的かつ効率的に製造することが可能となる。 本発明は、15〜35℃の範囲で安定した増殖および脂質生産性を示すシゾキトリウム属(Schizochytorium)に属する微生物を用いることを特徴とする、高度不飽和脂肪酸の製造方法に関する。本発明で用いる微生物は、シゾキトリウム属(Schizochytorium)に属する微生物であり、特に好ましくはSchizochytrium sp. M-8が用いられる。Schizochytrium sp. M-8株は、特開2005-287380号公報に既に報告されており、当該公報に記載の方法(ヤブレツボカビ科M−8株は以下のようにして取得した。まず、石垣島のマングローブ林で採取した海水・落葉を300ml三角フラスコに入れ、松花粉(ここでは宮崎市周辺海岸にて採取したものを用いた)を約0.05g添加した。室温にて1週間放置し、水面の松花粉を含むように海水を採取し、シャーレ中に調製したポテトデキストロース寒天培地上に0.1mlを塗布した。28℃で5日間培養し、クリーム色でつやのないコロニーをピックアップして新しい寒天培地上に塗布した。3日後、増殖した微生物を顕微鏡下で観察し、ラビリンチュラ類であることを細胞のサイズ、形態から判断してスラント培地に保存した。)にて入手可能であり、また独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1-1-1 つくばセンター 中央第6)に受託番号FERM P-19755として平成16年3月29日に国内寄託されている。 また当該微生物は、その後の文献においてSchizochytorium sp. mh0186、Aurantiochytirum sp. mh0186、あるいはAurantiochytrium limacinum mh0186と呼ばれている。この微生物を、通常用いられる固体培地あるいは液体培地等で、常法により培養する。この時、用いられる培地としては、例えば炭素源としてグルコース、フルクトース、サッカロース、デンプン、グリセリン等、また窒素源として酵母エキス、コーンスティープリカー、ポリペプトン、グルタミン酸ナトリウム、尿素、酢酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸ナトリウム等、また無機塩としてリン酸カリウム等、その他必要な成分を適宜組み合わせた培地であり、ラビリンチュラ類を培養するために通常用いられるものであれば特に限定されない。 培地は調製後、pHを3.0〜8.0の範囲内に調整した後、オートクレーブ等により殺菌して用いる。 培養は、10〜40℃、好ましくは15〜35℃にて、1〜14日間、通気撹拌培養、振とう培養、あるいは静置培養で行えば良い。なお、本発明においては培養温度の影響を受けにくく、特に15〜35℃では増殖能および脂質生産能はほとんど影響を受けない。従って、他の海洋真核微生物のような厳密な温度コントロールを必要とせず、工程管理の労力や発酵タンクの冷却・加温のコストを大幅に削減することが可能となる。 このようにして培養した海洋真核微生物を遠心分離等により回収し、必要に応じてスプレードライ等の方法で細胞を乾燥する。得られた細胞(乾燥物)を破砕し、定法に従い適当な有機溶媒あるいは超臨界流体等を用いて細胞内の脂質を抽出することにより、高度不飽和脂肪酸を含有する油脂を得ることができる。なお、本発明における高度不飽和脂肪酸とは、炭素数が18以上の高度不飽和脂肪酸を指し、より具体的にはアラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等が例示される。 以下に本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。 培養温度の変化における本発明微生物の増殖能および脂質生産能の検討 本発明微生物であるSchizochytrium sp. M-8株(FERM P-19755)をGY培地(グルコース30g、酵母エキス10gを50%濃度の人工海水1Lに溶解し、pH7.0に調整したもの)にて培養した。培養は50mL三角フラスコに40mLのGY培地を入れ、100rpmで振とうしながら5、10、15、20、25、30、35、40℃の各温度で4日間培養した。培養開始から24時間毎に、分光光度計(V-530、JASCO社製)にて660nmにおける濁度を測定し、増殖状態を確認した。結果を図1に示す。 また培養終了後、遠心分離により菌体を回収し、蒸留水で菌体を洗浄した後、凍結乾燥してバイオマス量および脂質量(総脂質)を測定した。総脂質はFolchらの方法(Folch J. et al., J. Biol. Chem., 195, pp.833-841 (1951))に従い、クロロホルム:メタノール(2:1)で凍結乾燥菌体から抽出し、定量した。結果を図2(バイオマス量)および図3(総脂質量)にそれぞれ示す。 この結果、本発明微生物であるSchizochytrium sp. M-8株は、15〜35℃の範囲で温度に関わらず非常に安定した増殖を示すことが明らかになった。 また、10〜35℃の各温度における各温度における培養液1Lあたりのバイオマス量を図2に示す。この結果、15〜35℃において極めて安定したバイオマス量が得られることが確認された。 また、10〜35℃の各温度における乾燥菌体1gあたりの総脂質量を図3に示す。この結果、15〜35℃の範囲で極めて安定した総脂質量が得られることが確認された。 以上の結果より、Schizochytrium sp. M-8株は15〜35℃にて安定した増殖能および脂質生産能を有することが明らかとなった。 本発明により、Schizochytrium sp. M-8株を用いることで、他の海洋真核微生物のような厳密な温度コントロールを必要とせず、工程管理の労力や発酵タンクの冷却・加温のコストを大幅に削減する等、工業的に安定的且つ効率的な高度不飽和脂肪酸の製造が可能である。実施例1における、Schizochytrium sp.M-8株の5〜45℃の各温度における増殖曲線を表す。実施例1における、Schizochytrium sp.M-8株の10〜35℃の各温度における培養液1Lあたりのバイオマス量(乾燥重量)を表す。実施例1における、Schizochytrium sp.M-8株の10〜35℃の各温度における乾燥菌体1gあたりの総脂質量を表す。15〜35℃の範囲で安定した増殖および脂質生産性を示すシゾキトリウム属(Schizochytorium)に属する微生物を用いることを特徴とする、高度不飽和脂肪酸の製造方法。微生物がSchizochytrium sp. M-8(FERM P-19755)である、請求項1記載の高度不飽和脂肪酸の製造方法。高度不飽和脂肪酸が炭素数18以上の高度不飽和脂肪酸である、請求項1又は2記載の高度不飽和脂肪酸の製造方法。 【課題】 安定的且つ効率的な高度不飽和脂肪酸の製造方法の提供。【解決手段】 幅広い温度域で安定な増殖能および脂質生産能を有するシゾキトリウム属(Schizochytorium)に属する微生物を用いることを特徴とする、高度不飽和脂肪酸の製造方法。特に、Schizochytrium sp. M-8株(FERM P-19755)を用いることを特徴とする、前記製造方法。当該微生物は15〜35℃の温度域において安定した増殖能および脂質生産能を有し、従って他の海洋真核微生物のような厳密な温度コントロールを必要とせず、工業的に安定的且つ効率的な高度不飽和脂肪酸の製造が可能である。【選択図】 図1


ページのトップへ戻る

生命科学データベース横断検索へ戻る