タイトル: | 公開特許公報(A)_うつ病予防・治療剤 |
出願番号: | 2008259531 |
年次: | 2012 |
IPC分類: | A61K 31/192,A61P 25/24,A61P 25/20,A61P 25/22,A61P 25/18,A61P 43/00 |
佐野 秀典 村瀬 仁章 JP 2012001436 公開特許公報(A) 20120105 2008259531 20081006 うつ病予防・治療剤 関根 裕子 508300563 佐野 秀典 508300574 株式会社 グロービア 505234616 特許業務法人アルガ特許事務所 110000084 有賀 三幸 100068700 高野 登志雄 100077562 中嶋 俊夫 100096736 村田 正樹 100117156 山本 博人 100111028 佐野 秀典 村瀬 仁章 A61K 31/192 20060101AFI20111202BHJP A61P 25/24 20060101ALI20111202BHJP A61P 25/20 20060101ALI20111202BHJP A61P 25/22 20060101ALI20111202BHJP A61P 25/18 20060101ALI20111202BHJP A61P 43/00 20060101ALI20111202BHJP JPA61K31/192A61P25/24A61P25/20A61P25/22A61P25/18A61P43/00 111 2 OL 7 4C206 4C206AA01 4C206AA02 4C206DA21 4C206MA01 4C206MA04 4C206MA72 4C206NA14 4C206ZA05 4C206ZA12 4C206ZA18 4C206ZC02 本発明は、うつ病予防・治療剤に関する。より詳しくは、うつ病に伴う諸症状、例えば、抑うつ気分、意欲低下、睡眠障害、罪責感、思考力や決断力の低下、不安、焦燥、緊張、全身倦怠感、不定愁訴、体重減少などを改善するための製剤に関する。 うつ病(大うつ病性障害ともいわれる)は、国や文化をこえてほぼ普遍的にみられる精神疾患であり、平均発症年齢がおおよそ40歳で、その生涯有病率は約15%にのぼる。うつ病患者の症状は多彩で、抑うつ気分、意欲低下、睡眠障害、罪責感、思考力や決断力の低下、不安、焦燥、緊張、全身倦怠感、不定愁訴、体重減少などが見られる。また、しばしば、死についての反復思考や希死念慮なども呈する(非特許文献1)。 うつ病の治療法の1つとして、抗うつ薬を用いる薬物療法がある。抗うつ薬には、従来使用されてきた三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬に加え、近年開発された選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、現在はほとんど使用されていないモノアミン酸化酵素阻害薬などがある。これら抗うつ薬の作用機序の詳細は不明であるが、その多くは、シナプス間隙におけるモノアミン濃度の上昇を介することで、うつ状態改善作用を発揮すると考えられている。 しかしながら、これらの抗うつ薬は、種々の副作用を併発することから、その使用は制限的である。すなわち、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬では、口渇、便秘、視力調節障害、羞明、血圧下降、めまい感、頻脈、排尿困難などがみられる。選択的セロトニン再取り込み阻害薬、選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬には、吐気、食欲低下、軟便、下痢、頭痛、不眠などがみられる。モノアミン酸化酵素阻害薬では重篤な肝障害がみられることがある。また、これら抗うつ薬がうつ病に対して十分な効果を示さない場合もある(非特許文献2)。 近年、うつ病患者の脳内では活性化されたミクログリア(microglia;小膠細胞)が増加しており、これらがうつ病の病態発生に関与している、という仮説が提唱された(非特許文献3、4及び5)。一方、種々の食物に含まれ、抗酸化作用及び抗炎症作用を有するフェルラ酸(非特許文献6及び7)が、ミクログリアの活性化を抑制するとの研究成果が最近報告された(非特許文献8、9及び10)。 しかし、うつ病患者又はその既往のある患者にフェルラ酸を実際に投与し、その効能を確認した例はない。Akiskal HS, section ed. 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Brain Res 1209:136-150, 2008. 本発明は、従来使用されてきた抗うつ薬とは異なる、副作用の少ない化合物を有効成分とし、また従来の抗うつ薬によっても改善しにくいうつ病に対しても有効なうつ病予防・治療剤を提供することを目的とするものである。 本発明者らは、フェルラ酸の投与によりミクログリアの活性化を抑制することで、うつ病に認められる多彩な症状を改善させることができるのではないか、との仮説を立てた。 本発明者らは、かかる仮説に基づき、抑うつ気分、意欲低下、睡眠障害、罪責感、思考力や決断力の低下、不安、焦燥、緊張、全身倦怠感、不定愁訴、体重減少などを主症状とするうつ病患者にフェルラ酸を投与し、副作用の出現を伴うことなく、良好な治療効果が得られることを確認し、本発明を完成した。 従って、本発明はフェルラ酸又はその薬学的に許容される塩を有効成分とするうつ病予防・治療剤を提供するものである。 本発明のうつ病予防・治療剤は、従来用いられている抗うつ薬に認められるような副作用を生じることなく、うつ病に起因する諸症状を改善することができ、また従来の抗うつ薬によっても改善しにくいうつ病患者や、抗うつ薬の投与を減量ないし中止した患者の再発予防に対しても有効である。 本発明で用いるフェルラ酸は、これを含有する植物から抽出することもでき、化学合成により工業的に製造することもできる。 フェルラ酸を含有する植物としては、例えば、コーヒー、タマネギ、ダイコン、レモン、センキュウ、トウキ、マツ、オウレン、アギ、カンショ、トウモロコシ、大麦、小麦、コメ等が好ましく、特にコメが好ましい。例えば、米糠から米油を製造する際の廃棄物や副産物である廃油、アルカリ油滓、粗脂肪酸を原料として、これらをアルカリ加水分解して安価に得ることができる。 またフェルラ酸は、例えば4-ヒドロキシ-3-メトキシベンズアルデヒド(バニリン)とマロン酸の縮合脱炭酸などによって製造することもできる。 フェルラ酸は、薬学的に許容される塩の形で用いることにより水溶性を向上させ、有効性を増大させることもできる。このような塩形成用の塩基物質としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;水酸化アンモニウム等の無機塩基;アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等の塩基性アミノ酸;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機塩基を用いることができるが、特にアルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物が好ましい。 本発明のうつ病予防・治療剤は、うつ病(大うつ病性障害)患者に有効量投与することにより、うつ病に伴う諸症状、例えば抑うつ気分、意欲低下、睡眠障害、罪責感、思考力や決断力の低下、不安、焦燥、緊張、全身倦怠感、不定愁訴、体重減少などを改善することができる。また、従来の抗うつ薬によっても改善しにくいうつ病患者や、抗うつ薬の投与を減量ないし中止した患者の再発予防に対しても有効である。 本発明のうつ病予防・治療剤は、医薬品分野において慣用されている手法により適宜調製することができる。すなわち、本発明のうつ病予防・治療剤は、活性成分であるフェルラ酸又はその塩と共に、必要に応じて薬学的に許容される担体を用いて製造することができる。本発明のうつ病予防・治療剤を製造するにあたり、フェルラ酸又はその塩は、通常、賦形剤を用いて混合されるか、賦形剤により希釈されるか、或いはカプセル、サシェ、ペーパー又は他のコンテナの形態にできる担体に封入される。賦形剤を希釈剤として用いる場合、賦形剤はフェルラ酸又はその塩に対して媒体、担体又は媒質として作用する固形、半固形又は液体の組成物であることができる。 本発明のうつ病予防・治療剤は、経口投与製剤又は非経口投与製剤として提供されるが、経口製剤として提供されるのが好ましい。剤形は特に限定されないが、例えば、錠剤、丸剤、粉末剤、トローチ剤、サシェ剤、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、溶液剤、シロップ剤、軟又は硬ゼラチンカプセル剤、坐剤、滅菌注射溶液、滅菌包装粉剤等とすることができる。 本発明のうつ病予防・治療剤の具体的投与量は、個々の患者の症状、年齢、体重等や、投与形態、投与回数、他剤の併用等を考慮し、適宜決定することができるが、経口投与の場合、成人1日あたりの投与量は、フェルラ酸又はその薬学的に許容される塩として、30〜3000mg、更には100〜1200mg、特に200〜600mgが好ましい。うつ病に伴う諸症状の改善効果をより有効に発現させるためには、毎日継続して投与されることが好ましい。 以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、これはいかなる意味においても本発明の範囲を限定するものではない。実施例1 薬物やアルコールの濫用歴はなく、脳MRIを含め、理学検査で異常が認められなかった、41歳の男性患者(会社員)は、全身倦怠感や不安緊張に伴う動悸や発汗を伴う、うつ病を発症していた。これまでにセロトニン選択的再取り込み阻害薬、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬に加え、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、抗不安薬が使用された。しかし、眠気、吐き気、頭痛、めまい、ふらつき、などの副作用が出現し、いずれの薬物も内服継続が困難であり、症状は改善しなかった。 この時点での17項目ハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton M:抑うつ症状を主とした疾患のための評価尺度の開発:Br J Soc Clin Psychol 1967;6:278-296.)は24点であった。 そこで、フェルラ酸を200mg/日(朝100mg、夕方100mg)から開始した。その後、一週間ごとに200mg/日ずつ増量、2週間後には600mg/日(朝200mg、昼200mg、夕方200mg)とし、この用量で維持した。その4週後に、該患者の抑うつ症状は顕著に改善した。17項目ハミルトンうつ病評価尺度は0点まで減少した。全ての下位項目で改善がみられ、特に、抑うつ気分に加え、易疲労感、全身倦怠感の改善は著しく、意欲の向上も認められた。 フェルラ酸による治療を2か月続けた時点で、該患者の症状は消失した。副作用は認められなかった。その後はフェルラ酸を200mg/日(朝100mg、夕方100mg)まで減量し維持しているが、症状の増悪は認められず、予後も良好な状態が続いている。実施例2 薬物やアルコールの濫用歴はなく、脳MRIを含め、理学検査で異常が認められなかった、55歳の女性患者(主婦)は、数か月前より抑うつ気分、意欲低下、倦怠感、微熱を認め、家事をすることができなくなった。このため、内科を受診し、諸検査が施行されたが、異常は認められなかった。精神科の受診を勧められ、精神科診療所を受診。うつ病の診断でSSRIの内服を開始したが、強度の嘔気、頭痛等の副作用が出現した。 SSRI内服時の副作用を恐れ、抗うつ薬を用いない治療を本人及び家族とも強く求めた。このため、フェルラ酸による治療が開始された。 フェルラ酸を200mg/日(朝100mg、夕方100mg)から開始した。その後、一週間ごとに200mg/日ずつ増量、2週間後に600mg/日(朝200mg、昼200mg、夕方200mg)とし、この用量で維持した。その3週後頃から、該患者の抑うつ症状は顕著に改善した。抑うつ気分、易疲労感、全身倦怠感は改善し、意欲は向上した。 フェルラ酸による治療を2か月続けた時点で、該患者の症状は消失した。副作用は認められなかった。その後はフェルラ酸を200mg/日(朝100mg、夕方100mg)で維持しているが、症状の増悪は認められていない。家事もできるようになり、日常生活における障害はなく、予後が良好な状態が続いている。実施例3 薬物やアルコールの濫用歴はなく、脳MRIを含め、理学検査で異常が認められなかった、32歳の女性患者(会社員)は、24歳時にうつ病を発症し、以後、増悪と寛解を繰り返していた。寛解すると、抗うつ薬の内服を自己中断する傾向が認められた。今回も抗うつ薬の内服を自己中断し、6か月前より再度抑うつ状態を呈するようになった。 そこで、以前より効果の認められていたSSRIの内服を開始した。これにより3か月後には抑うつ状態は改善したが、この時点で抗うつ薬の内服を拒否した。このため抗うつ薬を中止し、フェルラ酸を使用する方針とした。フェルラ酸を200mg/日(朝100mg、夕方100mg)使用することとし、それに伴いSSRIの使用は中止とした。 その後、フェルラ酸単剤による治療を3か月続けているが、病状の増悪は認められず、社会適応が良好な状態が継続している。実施例4 薬物やアルコールの濫用歴はなく、脳MRIを含め、理学検査で異常が認められなかった、58歳の男性患者(会社員)は、56歳時にうつ病を発症し、これまでに数々の診療所でセロトニン選択的再取り込み阻害薬、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬に加え、三環系抗うつ薬、四環系抗うつ薬、抗不安薬が使用された。しかし、効果は認められなかった。 十分な量、十分な期間、抗うつ薬が使用されても効果は不十分であった。このため、少量の抗精神病薬や炭酸リチウム、カルバマゼピン、甲状腺ホルモン剤等の併用による増強療法を試みた。しかしながら、いずれも効果は不十分であった。 そこで、抗うつ薬に併用し、フェルラ酸を200mg/日(朝100mg、夕方100mg)から開始した。その後、一週間ごとに200mg/日ずつ増量、2週間後には600mg/日(朝200mg、昼200mg、夕方200mg)とし、この用量で維持した。その4週後に、該患者の抑うつ症状は顕著に改善した。特に、易疲労感、全身倦怠感の改善は著しく、意欲の向上も認められた。 フェルラ酸による治療を2か月続けた時点で、該患者の症状は消失し、副作用は認められなかった。その後はフェルラ酸を200mg/日(朝100mg、夕方100mg)まで減量し維持しているが、症状の増悪は認められず、予後も良好な状態が続いている。 フェルラ酸又はその薬学的に許容される塩を有効成分とするうつ病予防・治療剤。 経口製剤である請求項1記載のうつ病予防・治療剤。 【課題】副作用が少なく、また従来の抗うつ薬によっても改善しにくいうつ病患者や、抗うつ薬の投与を減量ないし中止した患者の再発予防に対しても有効な、うつ病予防・治療剤の提供。【解決手段】フェルラ酸又はその薬学的に許容される塩を有効成分とするうつ病予防・治療剤。【選択図】なし