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タイトル:公開特許公報(A)_ハタケシメジの菌床栽培方法
出願番号:2008258111
年次:2009
IPC分類:A01G 1/04,C12N 1/14


特許情報キャッシュ

日下部 克彦 大島 健一 八木 和嘉子 橋元 勇二 加藤 郁之進 JP 2009100741 公開特許公報(A) 20090514 2008258111 20081003 ハタケシメジの菌床栽培方法 タカラバイオ株式会社 302019245 日下部 克彦 大島 健一 八木 和嘉子 橋元 勇二 加藤 郁之進 JP 2007262548 20071005 A01G 1/04 20060101AFI20090417BHJP C12N 1/14 20060101ALI20090417BHJP JPA01G1/04 102A01G1/04 104ZC12N1/14 FC12N1/14 H 6 OL 12 2B011 4B065 2B011AA07 2B011BA06 2B011BA10 2B011BA13 2B011BA17 2B011EA06 2B011GA04 2B011GA06 2B011GA12 2B011JA07 2B011LA08 2B011MA11 4B065AA71X 4B065BC50 4B065CA60 本発明は、ハタケシメジ(学名:Lyophyllum decastes)の菌床栽培方法に関する。 ハタケシメジは、夏から秋にかけて人家の近くや、畑、林地等に広く発生するきのこで、形はホンジメジに良く似ている。味は非常に良く、肉質はホンシメジより固くて歯切れの良いきのこであり、好んで食用とされている。 近年、エノキタケ、ヒラタケ、ブナシメジ、ナメコ等において、主に鋸屑と米糠を混合した培養基を用いて人工的に栽培を行う菌床栽培法が確立され、一年を通して四季に関係なく、安定してきのこが収穫できるようになっている。ハタケシメジについても食用きのことして有用なことから、栽培方法が種々検討されている。例えば、特許文献1には半球形やまんじゅう形を主体としたボリューム感のあるハタケシメジの子実体を得る方法が開示されている。近年、ハタケシメジの商業的菌床栽培が各地で実施されている。 しかしながら、ハタケシメジの菌床栽培においては、他のきのこと比べ、菌糸の伸張や菌廻り、収量等にムラが有り、安定した商業栽培を実施するには未だ不十分であった。特開平10−178890号 本発明の目的は、菌糸の伸張や菌廻り、収量等にムラの発生しない安定したハタケシメジの菌床栽培方法を提供することにある。 本発明者らは、ハタケシメジの菌床栽培の能率向上に有効な栽培条件を種々検討した結果、ハタケシメジの菌糸は他のきのことは異なり、接種された種菌と培養基の接触面からのみ菌糸が直接培養基内への侵入を開始することから、種菌の接種の際に接種孔部内への種菌の投入量が不十分であると、培養ビン内、特にビンの下部での菌糸の蔓延が極めて遅くなり、栽培日数の長期化の原因となることを初めて見出した。すなわち、本発明者らは、ハタケシメジの菌床栽培において、その他のきのこの栽培で開発使用されている種菌接種機では、ハタケシメジの商業栽培には不適であることを見出した。更に、種菌を接種孔部内へ十分量投入することのできる商業規模でのハタケシメジの菌床栽培方法について鋭意検討した結果、細断された固体種菌を種菌接種機上で貯留すること無く、接種孔部に連続投入することによって、安定的に種菌を接種孔部内へ十分量投入することが初めて可能となり、かつ驚くべきことに種菌の活着や菌糸の伸長が早められ、その結果として菌廻り遅延の解消、栽培日数の短縮、更にはハタケシメジ菌糸が先に蔓延することにより雑菌汚染リスクが低減することを見出し、本発明を完成させた。 すなわち、本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は固体種菌を使用するハタケシメジの菌床栽培方法であって、下記工程を包含することを特徴とするハタケシメジの菌床栽培方法に関する。(a)培養された固体種菌を細断する工程、そして(b)栽培容器内の培地上部から培地底部に向けて突孔された接種孔部の底部にまで、(a)で細断された固体種菌を連続投入する工程。 本発明の第1の発明の態様においては、細断された固体種菌を貯留させること無く継続的に連続投入する。また他の態様においては、本発明は栽培容器内の培地上部及び接種孔部を細断された固体種菌で実質的に被覆せしめたハタケシメジの菌床栽培方法である。更に他の態様においては、接種孔部への細断された固体種菌投入時及び/又は投入後に培地に振動処理、打撃処理を付加する工程を包含せしめることができる。また、本発明の第1の発明において、細断された固体種菌としては、その粒度が4.7〜12メッシュの範囲のものを主要部とすることが好ましい。なお「実質的に被覆せしめた」とは接種孔部に連続投入された細断固体種菌が培地上部の少なくとも5割以上を被覆することを意味し、好ましい態様としては当該培地上部の8〜10割が被覆される。 また、本発明により、細断された固体種菌であって、固体種菌の粒度が4.7〜12メッシュの範囲のものを主要部とする固体種菌であることを特徴とするハタケシメジの固体種菌も提供される。 更に、本発明により、栽培容器内の培地上部から接種孔部の底部にまで、固体種菌の粒度が4.7〜12メッシュの範囲のものを主要部とする構成である細断された固体種菌が連続投入され、かつ栽培容器内の培地上部及び接種孔部を実質的に細断された当該固体種菌で被覆せしめたハタケシメジ菌床栽培用培地も提供される。 本発明により、前記培地を使用したハタケシメジの菌床栽培方法が提供され、前記培地を用いて本発明の第1の発明が好適に実施される。 本発明により、菌廻りの遅延や、生育、収量のムラが発生せず、かつ栽培日数の長期化に起因する雑菌汚染リスクが大きく低減されたハタケシメジの菌床栽培方法を提供することが可能となる。本発明は商業的大規模菌床栽培において、特に有用である。 以下、本発明を具体的に説明する。 本発明に使用される固体種菌はハタケシメジ培養物を細断した固体種菌であり、特に限定はないが、ビンや袋、箱を用いて製造することができる。 本発明に使用される好適なハタケシメジの菌株の例としては、ハタケシメジK−3303株(FERM BP−4347)、ハタケシメジK−3304株(FERM BP−4348)、ハタケシメジK−3305株(FERM BP−4349)、ハタケシメジF−623株(FERM P−13165)、ハタケシメジF−1154株(FERM P−13166)、ハタケシメジF−1488株(FERM P−13167)及びこれらの変異株等があるが、本発明で使用できる菌株はこれらの菌株に限られるものではない。 以下、一例としてビンを用いた固体種菌の製造方法について述べる。通常、ハタケシメジの固体種菌は、培地調製、ビン詰め、殺菌、接種、培養、種菌の細断の工程を経て製造される。 培地調製とは、培地支持体に栄養材などを加えて攪拌し、水分調整して培地を製造する工程である。固体種菌の製造においては、通常、培地支持体としては、培地間隙を保持し保水力のある基材、例えばオガクズやコーンコブ、綿実殻などが使用され、オガクズとしては針葉樹でも広葉樹でもよく、好適にはスギオガクズが使用される。また、栄養材としてはハタケシメジの菌糸生長に良好なもの、例えばコメヌカ、小麦フスマ、コーンブラン、オカラ、マメカワなどが使用される。これらの基材は1種類の単独使用でもよく、2種類以上を混合して使用してもよい。培地支持体と栄養材の比率は、使用する培地支持体及び栄養材の粒度、嵩比重、又は使用する容器によっても異なるが、乾燥重量比で0.5:1〜10:1、好ましくは0.7:1〜5:1がよい。培地には特開平5−192035号公報記載の材料、すなわち下記(1)〜(4)からなる群から選択される1以上の材料(1)アルミニウム、(2)アルミニウム化合物、(3)アルカリ土類金属化合物、(4)オカラを適宜培地に混合して含有することができる。また、特開平7−303419号公報記載の菌廻り改善剤、すなわちクエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、アルギン酸、イタコン酸、ケイ酸、コハク酸、マレイン酸、酒石酸、及び乳酸からなる群から選択される酸などを適宜培地に混合して使用することができる。例えば培地の一例として、1100mLビンを使用した場合は、スギオガクズとコメヌカを乾燥重量比で約1:1(約130gずつ)の割合で混合し、更に1〜5gのメタケイ酸アルミン酸マグネシウムもしくはアルミノケイ酸カルシウム、1〜10gの炭酸カルシウム、1〜5gのクエン酸一水塩を配合した培地が挙げられる。更に培地には種々のpH調整剤、菌糸生長促進剤、増収剤として使用される各種成分を添加することもできる。培地の水分含有率は使用する培地の性状に応じて適宜設定されるが、例えば、50〜75%、好ましくは60〜70%がよい。また、培地仕込み時のpHは、ハタケシメジ菌糸の培養日数を短縮させる観点から、6.6〜8.0に調整することが好ましい。 ビン詰めとは、培地をビン容器に詰める工程である。固体種菌の製造においては、容量が200〜1300mL、好ましくは500〜1200mL、より好ましくは850〜1100mLの耐熱性広口ビンに培地を適量詰め込んで、培地上部の中央に培地底部に向けて穴あけ棒を挿入し10〜50mm程度の穴(接種孔部)を開け、打栓する。ビンへの培地の詰め込み量としては、ビン容量や形状に応じて適宜設定できるが、例えばポリプロピレン製の850mLビン〔信越農材(株)製〕を使用する場合は500〜700g、より好適には600gを詰め込むことが好ましく、また1100mLビン〔ヤマダ産業(株)製〕を使用する場合は700〜900g、より好適には800gを詰め込むこと好ましい。接種孔部の形成に使用される穴あけ棒は、基部が太く先端が細いテーパー状を有する穴あけ棒を使用することにより、接種孔部をテーパー状に形成することが好ましい。このようにして培地上部から培地底部に向けて突孔された接種孔部を有するビン詰めされた培地を製造することができる。 殺菌とは、実質的に培地中のすべての微生物を死滅させる工程であり、固体種菌の製造においては、通常、常圧殺菌では95〜110℃、4〜12時間、高圧殺菌では101〜125℃、好ましくは120℃で30〜120分間行われる。 接種とは、殺菌後、放冷された培地に予め増殖させたきのこの菌糸を無菌的に植え付ける工程である。固体種菌の製造においては、液体培地で増殖させた培養物5〜50mLを植え付ける。また固体培地で増殖させた培養物5〜50gを用いることもできる。 培養とは、ハタケシメジの菌糸を生育させる工程である。本発明における固体種菌の製造においては、通常、接種済みの培養基を18〜28℃、湿度40〜80%で菌糸を生育させる。この工程は、通常20〜120日間行われる。 種菌の細断とは、上記培養工程により菌糸が蔓延した培地から種菌を細断して掻き出す工程である。細断された固体種菌(本願明細書において、細断固体種菌ともいう)の粒度を小さくすることにより、後述の種菌の接種工程で効率的に接種孔部へ種菌を連続投入することができる。しかしながら、固体種菌の粒度が過度に小さいと、細断された固体種菌が極めて密に接種孔部内に投入され、接種孔部内に適当な空隙が形成されず、菌糸成長のための酸素が充分に確保できないことがある。更に固体種菌を過度に細断すると、菌糸への物理的刺激の影響から菌廻りの遅延や、菌糸の変異を誘発する。したがって、本発明のより好ましい態様としては、効率的に接種孔部への固体種菌の連続投入が実現し、かつ投入された固体種菌から菌糸が培地に効率的に活着し、かつ蔓延する観点から、細断された固体種菌の粒度が4.7〜12メッシュの範囲のものを主要部とする構成であることが好ましく、好適には細断された固体種菌の40重量%以上が粒度4.7〜12メッシュの範囲であり、更に好適には、細断された固体種菌の50重量%以上が粒度4.7〜12メッシュの範囲であり、最も好適には細断された固体種菌の50〜70重量%以上が粒度4.7〜12メッシュの範囲である。このような粒度の細断された固体種菌は、後述の実施例1及び2に記載のとおり、通常のハタケシメジの固体種菌よりも小粒度であり、培地の接種孔部の底部にまで十分量連続投入され、かつ菌糸の活着、成長に適している。上記のような粒度の固体種菌の製造は、特に限定はないが、例えばビンからの種菌の掻き取りに使用される掻き取り刃の形状を2枚刃から3枚刃にする、掻き取り刃の回転を通常よりも高速化する、ビンから掻き取られた固体種菌に、更に物理的刺激を加えることにより微小化する、もしくはこれらの手法を組み合わせて製造することができる。 本願明細書において「粒度が4.7〜12メッシュの範囲」とは、4.7メッシュのふるいを通過し、12メッシュのふるいを通過しない範囲の粒度であることを意味する。例えば「細断された固体種菌の40重量%以上が粒度4.7〜12メッシュの範囲である」とは、細断された固体種菌のうち、4.7メッシュのふるいを通過し、12メッシュのふるいを通過しない粒度の固体種菌が全体の40重量%以上含まれることを意味する。ここで「ふるいを通過する」とは、細断された固体種菌の細断直後に測定予定のメッシュを有するJIS規格のふるいの上に細断した固体種菌を載せ、揺動式フルイ振トウ機 SS−S−230〔(株)東京篠原製〕を用いて3分間、目盛り60の落差振動を与えることによりふるいを通過することを意味する。また、「ふるいを通過しない」とは同様の試験によりふるいを通過しないことを意味する。また、複数の異なったふるい大きさのふるいを用いた粒度測定試験を実施する場合、後述の実施例1及び2に記載のように、複数のふるいをSS−S−230に設置使用して粒度測定を実施することができる。 本願明細書において「主要部」とは、細断された固体種菌において、その占める割合が一番多いことを示す。例えば「細断された固体種菌の粒度が4.7〜12メッシュの範囲のものを主要部とする」とは、粒度が4.7〜12メッシュの範囲の細断された固体種菌の占める割合(重量%)が、4.7メッシュのふるいを通過しない粒度の細断された固体種菌の占める割合よりも多く、また12メッシュを通過する粒度の細断された固体種菌の占める割合よりも多いことを意味する。 以上、きのこの種菌の製造方法における、ビンを用いる方法について詳細に述べたが、本発明は上記方法にのみ制約を受けるものではなく、袋、箱などで培養されたものを使用することもできる。 次に、前述した本発明に使用される細断された固体種菌を用いたハタケシメジの菌床栽培方法について詳しく説明する。ハタケシメジの菌床栽培方法としては、エノキタケ、ヒラタケ、ブナシメジなどのきのこ栽培に用いられている方法と同様に、ビン栽培、袋栽培、箱栽培等があるが、ここでは一例としてビン栽培について述べると、その方法とは培地調製、ビン詰め、殺菌、接種、培養、菌かき、芽出し、生育、収穫の各工程からなる。更にビン栽培について具体的に説明する。 培地調製、ビン詰め、殺菌工程は前述の固体種菌の製造における培地調製、ビン詰め、殺菌工程と同様に実施することができる。ただし、ビン詰め工程における接種孔部の形成については、後述の接種工程で接種孔部への十分量の種菌投入を実現させる観点から、使用される穴あけ棒は、その培地上部に接触する部位(基部)の直径が20〜50mm、好適には25〜40mmであり、また先端部の直径が10〜40mm、好適には15〜35mmであり、基部が太く先端部が細くなったテーパー状であることが好ましい。また、形成される接種孔部の形状についても、培地上部側の接種孔部の口径が20〜50mm、好適には25〜40mmであり、培地底部側の接種孔部の最細部の直径が10〜40mm、好適には15〜35mmであり、上部が太く底部が細く設定されていることが好ましく、接種孔部は培地最下部まで貫通していることが好ましい。 本発明の栽培方法における接種工程では、放冷された培地に前記固体種菌を無菌的に植えつけられる。本発明の栽培方法においては、(a)培養された固体種菌を細断する工程、そして(b)栽培容器内の培地上部から培地底部に向けて突孔された接種孔部の底部にまで、(a)で細断された固体種菌を連続投入する工程、を実施することにより、種菌接種が行われる。本願明細書において「連続投入する」とは、細断された固体種菌が貯留することなく継続的に栽培容器内の培地上部から接種孔部、特に接種孔部の底部にまで接種されることを意味する。ブナシメジやエノキタケ等の人工的な商業的大規模菌床栽培における種菌接種は種菌接種機を用いて実施される。通常、種菌接種機は、種菌ビンから固体種菌を掻き取り刃により掻き出して細断し、種菌接種量を均一にするため所定量を一時的に受け皿などに貯留した後、培地上部に向け固体種菌を落とし込んで接種される。本発明者らも同様の種菌接種機をハタケシメジの菌床栽培に使用していたが、ハタケシメジの商業的栽培においては、最終的にこのような接種機の使用が商業栽培に不適であることを見出した。すなわち、通常行われている受け皿などに貯留された種菌をそのまま接種孔部へ投入する場合、当該種菌の固着が生じ、その結果大きな塊として投入されることになる。このため、培地の上部に大部分の種菌が乗せられた状態となり、種菌が接種孔部に十分量投入され得ないことが、ハタケシメジの商業栽培における菌廻りの遅延や生育のムラの原因となっていたことを本発明者らが初めて見出した。本発明においては、細断された固体種菌を貯留すること無く連続投入することにより、接種孔部、特に接種孔部の底部にまで適切な種菌投入が実現される。本発明において種菌接種機を用いる場合は、ビンから掻き出された固体種菌が貯留すること無く連続的に接種孔部及び培地上部に投入されるように構成された種菌接種機を使用すればよく、更に好適には細断された固体種菌は、接種孔部の底部への適切な投入を誘導するためのホッパを介して、栽培容器へ投入されることが好ましい。また、本発明の細断された固体種菌が連続投入された培養ビンに振動或いは打撃を与えることにより、培地上部に乗った細断された固体種菌を十分量接種孔部の底部へ落とし込む操作を実施しても良い。 細断された固体種菌の接種量は、栽培容器内の培地上部から接種孔部の底部にまで、細断された固体種菌が連続投入され、かつ栽培容器内の培地上部及び接種孔部を細断された当該固体種菌で実質的に被覆せしめるための十分量が接種されればよい。本願明細書において「十分量」とは、栽培容器内の培地上部から接種孔部の底部にまで、細断された固体種菌が連続投入され、かつ栽培容器内の培地上部及び接種孔部を細断された当該固体種菌で実質的に被覆することができる量のことをいう。細断された固体種菌の使用量は用いる栽培容器や培地量等により適宜設定すればよい。例えば1100mLビンを使用し、培地上部側の接種孔部の口径が20〜50mmであり、培地底部側の接種孔部の最細部の直径が10〜40mmである場合、1ビン当り20〜50g、好適には30〜40g程度の接種が好ましい。なお、前記固体種菌の製造における種菌の細断工程と、当該種菌のハタケシメジの培地への接種工程は、特に限定はないが、種菌接種機により一連の作業として実施することができる。 本発明の栽培方法における培養工程では、通常接種済みの培養基を温度18〜28℃、湿度40〜80%において菌糸を蔓延させ、更に熟成をさせる。この工程に要する日数はビンの容量などにより異なるが、通常50〜120日間、好ましくは80日間前後行われる。後述の実施例1及び2に記載のとおり、前述の主要部の粒度が4.7〜12メッシュの範囲の細断された固体種菌を使用することにより、培養期間を短縮することが可能となる。例えば1100mLビンを用いた培養を実施した場合、培養日数は40〜70日で完了することが可能となる。菌掻きとは、種菌部分と培養基表面をかき取り、原基形成を促す工程で、通常菌掻き後は、直ちにビン口まで水を入れ直後〜5時間後排水するが、この加水操作は省略することもできる。 芽出しとは、子実体原基を形成させる工程で、通常10〜20℃、好ましくは15〜17℃で、相対湿度80%以上、好ましくは100%以上で、照度1000ルクス以下、好ましくは10〜100ルクスで8〜20日間実施される。また、加湿で結露水が発生しやすいため、濡れを防ぐ目的で、菌床面を有孔ポリシートや波板等で覆っても良く、また栽培ビンを倒立させて芽出しを実施しても良い。また、赤玉土や鹿沼土などの適当な覆土材を菌床面に添加してもよい。 本願明細書において、相対湿度が100%を超える高加湿条件は、飽和水蒸気量以上に加湿を行い、水が霧として漂う状態を指す。本願明細書では、このような高加湿状態を数値化するために、測定に(株)鷺宮製作所製の装置(商品名:ヒューミアイ100)を用いた。該装置は、空気中の水分を加熱によって下げ、湿度センサーで検出後、加熱による低下分を補正する方法を用いている。このため、本装置が示す数値は、100%以下では、相対湿度と同じであるが、100%を超えると、空気中に含まれる水分量を水蒸気に換算して飽和水蒸気量との比で現した数値となる。なお、加湿を行う方法は、超音波加湿器、蒸気式加湿器、噴霧式加湿器などの加湿器を用いるのが簡便である。 生育とは、子実体原基から成熟子実体を形成させる工程で、通常芽出し工程とほぼ同じ条件で5〜16日間行う。生育工程では、結露水による濡れの影響を受けにくいので、被覆は施さないほうが好ましい。また、生育工程を前期生育工程(3〜10日間)と後期生育工程(3〜10日間)に分けて、後期生育工程の加湿条件を前期生育工程より低減させて生育を実施してもよい。 以上の工程により、ハタケシメジの子実体が得られ、収穫を行って栽培の全工程は終了する。なお、本発明をビン栽培方法により説明したが、本発明は上記ビン栽培に限定されるものではない。 以下に、本発明によるハタケシメジの菌床栽培方法を、実施例をもって更に具体的に示すが、本発明は以下の実施例の範囲のみに限定されるものではない。実施例1 PGY液体培地(組成:グルコース2.0%、ペプトン0.2%、酵母エキス0.2%、KH2PO4の0.05%、及びMgSO4・7H2Oの0.05%、pH6.0)100mLにハタケシメジK−3304(FERM BP−4348)を接種して、25℃で14日間培養し液体種菌とした。一方、ポリプロピレン製の広口培養ビン〔850mL、信越農材(株)製〕に、鋸屑(スギ材)100g、米糠86g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム〔富士化学工業(株)製、商品名ノイシリンFH1〕2g、炭酸カルシウム〔ナカライテスク(株)製、試薬一級〕5g、クエン酸一水塩〔ナカライテスク(株)製、試薬一級〕3g、水分含量63%に設定し、良く混合し湿潤状態にしたものを圧詰して、中央に直径1cm程度の接種孔部を開け、打栓後、118℃、90分間高圧蒸気殺菌を行い、放冷して固形培養基としたものを準備した。これに上記の液体種菌約20mLを接種し、温度25℃、湿度55%の条件の下、63日間培養し、後述の固体種菌に使用した。 次に、ポリプロピレン製の広口培養ビン〔1100mL、ヤマダ産業(株)製〕に、鋸屑(スギ材)134g、米糠130g、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム〔富士化学工業(株)製、商品名ノイシリンFH1〕2.6g、炭酸カルシウム〔ナカライテスク(株)製、試薬一級〕6.5g、クエン酸一水塩〔ナカライテスク(株)製、試薬一級〕3.9g、水分含量65%に設定し、良く混合し湿潤状態にしたものを圧詰して、穴あけ棒により中央に培地上部の口径約3cm、培地底部の直径約2cmの培地底部まで貫通した接種孔部を開け、打栓後、118℃で90分間高圧蒸気殺菌を行い、放冷して固形培養基としたものを16個準備した。これに上記培養後の固体種菌約35gを自動接種機GSII型の改造型〔掻き出し刃を通常の2本刃から3本刃に改造、掻き出し刃の回転数を通常型の2倍に高速化:オギワラ精機(株)製〕を使用し、かつ、掻き出して細断された固体種菌を貯留させること無く培地上部と接種孔部、特に接種孔部の底部にまで連続的に投下・接種し、実施例1とした。 一方、実施例1と同様にして、固形培養基を16個準備し、同じ培養後の固体種菌約35gを自動接種機GSII型の普及型〔掻き出し刃2本刃、掻き出し刃の回転数も通常のまま:オギワラ精機(株)製〕を使用し、通常設定のまま、掻き出して細断された固体種菌を一旦受け皿に一定量貯留した後、固形培養基に落とし込んで接種し、比較例1とした。 実施例1及び比較例1の接種された固体種菌を確認したところ、見た目上、いずれの試験区も培地上部は固体種菌により覆われていた。しかしながら、接種孔部内については実施例1では培地上部から接種孔部の底部にまで十分に固体種菌が投入されていたのに対し、比較例1では接種孔部内の固体種菌投入量は明らかに少なかった。なお、細断された固体種菌は、4.7メッシュ、5.5メッシュ、6.5メッシュ、7.5メッシュ、8.6メッシュ、12メッシュのJIS規格ふるいを設置した揺動式フルイ振トウ機 SS−S−230〔(株)東京篠原製〕を用いて、3分間、目盛り60の落差振動を与えることにより、それぞれの固体種菌の粒度分布を測定した。 上記固体種菌が接種された培地は、いずれの区とも、接種後、温度23℃、湿度60%で、暗黒下で培養し、見かけ上、ビン表面をすべてハタケシメジの菌糸が覆う状態(菌廻り終了という)までの日数を測定した。その後、更に30日間培養を続けたのち、菌掻きをして培養基の上部から約1cmほどの菌糸層を除いてから、水道水をビン口まで加え、その後ただちに排水し、芽出し工程に供した。芽出し工程は、照度50ルクス、温度16℃、加湿はヒューミアイ100〔(株)鷺宮製作所製〕の表示値として115〜120%の範囲に制御し、炭酸ガス濃度は1000ppm〜1500ppmの範囲に制御した。また、結露水を避けるため、ビンは倒置し、11日間培養を続け、子実体原基を形成させた。 原基が形成された培養基は、反転・正置し、前期生育工程へ移行させた。前期生育工程では、照度500ルクス、温度16℃、加湿はヒューミアイ100の表示値として115〜120%の範囲に制御し、炭酸ガス濃度は1000ppm〜2000ppmの範囲に制御し、6日間培養を続けた。 次に培養基を後期生育工程へ移行させた。後期生育工程では、照度500ルクス、温度16℃、加湿はヒューミアイ100の表示値として95〜105%の範囲に制御し、炭酸ガス濃度は1000ppm〜2000ppmの範囲に制御し、7日間培養を続け、成熟子実体を得た。 収穫されたハタケシメジについて、一ビン当りの子実体収量を測定し、ハタケシメジの菌床栽培における、固体種菌の粒度および接種方法の影響について調べた。その結果を表1及び表2に示す。表1は実施例1及び比較例1で得た細断された固体種菌の粒度分布を示す。表1中、「オン」とは記載のメッシュのふるいを通過しないことを意味し、「パス」とは記載のメッシュのふるいを通過することを意味する。表2中、菌廻り日数は見かけ上ビン表面を菌糸が覆うまでの日数、総栽培日数は固体種菌接種後、子実体収穫までの日数を栽培した16個の栽培結果の平均値で示す。 上記結果より、固体種菌粒度が細かく、接種孔部の底部にまで固体種菌が十分量投入された実施例1の方が、比較例1と比べて、菌廻り日数及び栽培日数が短く、子実体収量も多いことが示された。また、収量については、実施例1は全体的に安定して高い収量が得られたのに対し、比較例1では収量ムラが発生した。実施例2 培養日数を77日、ビン容量を1100mL、液体種菌接種量を30mLとし、培地組成を1100mLビン容量に合わせて同様の配合比で適量圧詰めした以外は、実施例1と同様にして実施例2用の固体種菌用に培養したビンを4本作成した。また、培養日数を77日とした以外は、実施例1と同様にして、比較例2用の固体種菌用に培養したビンを1本作成した。 次に、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムの代わりに、Al2O3:CaO:SiO2=1:2:1の重量比を有する、アルミノケイ酸カルシウム化合物〔協和化学工業(株)製〕を使用した以外、実施例1と同様にして、穴あけ棒により培地上部中央に口径約3cm、培地底部の直径約2cmの培地底部まで貫通した接種孔部を形成した固形培養基32個を準備した。このうち16個には、上記固体種菌約35gを自動接種機タフシーズH N−7000型の改造型〔掻き出し刃の回転数を通常型の1.7倍に高速化し、更に固体種菌を直接連続投入に改造:日本精機(株)製〕を使用し、掻き出して細断された固体種菌を貯留させること無く培地上部と接種孔部、特に接種孔部の底部にまで連続的に投下・接種し、実施例2とした。一方、残りの16個については、比較例1と同様に自動接種機GSII型〔オギワラ精機(株)製〕を使用して接種し、比較例2とした。 実施例2及び比較例2の接種された固体種菌を確認したところ、見た目上、いずれの試験区も培地上部は固体種菌により覆われていたが、接種孔部内については実施例2では培地上部から接種孔部の底部にまで十分に固体種菌が接種されていたのに対し、比較例2では接種孔部内の固体種菌接種量は明らかに少なかった。なお、細断された固体種菌は実施例1の記載と同様に、それぞれの固体種菌の粒度分布を測定した。 上記固体種菌が接種された培地は、いずれの区とも、実施例1と同様に、培養、菌掻き、芽出し、生育を施し、成熟子実体を得た。 収穫されたハタケシメジについて、一ビン当りの子実体収量を測定し、ハタケシメジの菌床栽培における、固体種菌の粒度および接種方法の影響について調べた。その結果を表3及び表4に示す。表3は実施例2及び比較例2で得た細断された固体種菌の粒度分布を示す。表4中、菌廻り日数は見かけ上ビン表面を菌糸が覆うまでの日数、総栽培日数は固体種菌接種後、子実体収穫までの日数を栽培した16個の栽培結果の平均値で示す。 上記結果より、種菌粒度が細かく、接種孔部に固体種菌が十分量投入された実施例2の方が、比較例2と比べて、菌廻り日数及び栽培日数が短く、子実体収量も多いことが示された。また、収量については、実施例2は全体的に安定して高い収量が得られたのに対し、比較例2では収量ムラが発生した。 本発明により、菌廻りの遅延や、生育、収量ムラが発生せず、雑菌汚染リスクの低減されたハタケシメジの菌床栽培方法が提供される。本発明は商業的大規模栽培において、特に有用である。 固体種菌を使用するハタケシメジの菌床栽培方法であって、下記工程を包含することを特徴とするハタケシメジの菌床栽培方法。(a)培養された固体種菌を細断する工程、そして(b)栽培容器内の培地上部から培地底部に向けて突孔された接種孔部の底部にまで、(a)で細断された固体種菌を連続投入する工程。 栽培容器内の培地上部及び接種孔部を細断された固体種菌で実質的に被覆せしめた請求項1記載のハタケシメジの菌床栽培方法。 接種孔部への細断された固体種菌投入時及び/又は投入後に培地に振動処理及び/又は打撃処理を付加する工程を包含する請求項1記載のハタケシメジの菌床栽培方法。 細断された固体種菌が、粒度が4.7〜12メッシュの範囲のものを主要部とする固体種菌である請求項1記載のハタケシメジの菌床栽培方法。 細断された固体種菌であって、固体種菌の粒度が4.7〜12メッシュの範囲のものを主要部とする構成であることを特徴とするハタケシメジの固体種菌。 ハタケシメジ子実体を得るための菌床栽培用培地であって、栽培容器内の培地上部から接種孔部の底部にまで、固体種菌の粒度が4.7〜12メッシュの範囲のものを主要部とする構成である細断された固体種菌が連続投入され、かつ栽培容器内の培地上部及び接種孔部を細断された当該固体種菌で実質的に被覆せしめたハタケシメジ菌床栽培用培地。 【課題】本発明の目的は、菌糸の伸張や菌廻り、収量等にムラの発生しない安定したハタケシメジの菌床栽培方法を提供することにある。【解決手段】固体種菌を使用するハタケシメジの菌床栽培方法であって、下記工程を包含することを特徴とするハタケシメジの菌床栽培方法を提供する。(a)培養された固体種菌を細断する工程、そして(b)栽培容器内の培地上部から培地底部に向けて突孔された接種孔部の底部にまで、(a)で細断された固体種菌を連続投入する工程。 本発明により、菌廻りの遅延や、生育、収量ムラが発生せず、かつ雑菌汚染リスクの低減されたハタケシメジの菌床栽培方法を提供することが可能となる。【選択図】なし


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