タイトル: | 公開特許公報(A)_セシウム定量分析方法 |
出願番号: | 2008256645 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | G01N 1/28,G01N 30/88 |
須田 裕貴 JP 2010085324 公開特許公報(A) 20100415 2008256645 20081001 セシウム定量分析方法 富士電機ホールディングス株式会社 000005234 谷 義一 100077481 阿部 和夫 100088915 須田 裕貴 G01N 1/28 20060101AFI20100319BHJP G01N 30/88 20060101ALI20100319BHJP JPG01N1/28 XG01N30/88 HG01N1/28 N 5 1 OL 8 2G052 2G052AB27 2G052AD12 2G052AD32 2G052AD46 2G052FD10 2G052GA27 2G052JA04 本発明は、有機EL素子などの電子注入層にドープ金属として用いられるセシウムの定量分析方法に関する。さらに詳細には、基板上に成膜された有機材料とセシウム化合物との混合試料中のセシウムを希酸により溶出し、該溶出液中のセシウムイオンをイオンクロマトグラフィーで定量分析して、混合試料中のセシウム量を算出するセシウム定量分析方法に関する。 有機EL素子において、陰極に接触する有機化合物層中に有機化合物の還元剤となりうるドナー性(電子供与性)ドーパント物質をドープすることにより、陰極電極からの電子注入する際のエネルギー障壁を低下させ、高輝度・高効率の素子を得ることが知られている(特許文献1および2等参照)。その際、当該ドーパント物質は仕事関数の小さい金属が用いられ、特に仕事関数の小さいセシウムは良好なドーパント物質として用いられている(特許文献1〜3等参照)。 一方、セシウムのドープ量が経時的な発光効率に影響することも明らかとなってきた(特許文献3参照)。 この点に関連して、従来、有機化合物層中のセシウムのドープ量は、次のような方法で測定されている。 例えば、有機材料とともに蒸着されたセシウムのドープ量の測定方法は、蒸着法で成膜されるセシウムを膜厚として評価する方法で行われている。 一般的には、水晶振動子(ある一定角度で正確に切り出した水晶の結晶片)の両側に電極を取り付け、一方の電極上に蒸着膜を形成させて連続的に製膜質量を測定する水晶振動子法が用いられている。しかし、この方法では、蒸着源の熱が水晶振動子の周波数変化に影響を与えるため、膜厚測定に誤差を引き起こすことが知られている。そのため、他の手法により別途膜厚を測定して測定値を補正する必要がある。 その他の膜厚測定手法として、光源から照射された光が膜で反射された時の光の偏光を測定して膜厚を求める光学的手法があるが、有機材料中の微量混合物の定量には適用できない。 また、セシウムの定量分析方法としてはICP−MS(Inductively Coupled Plasma−Mass Spectrometry)またはセシウム放射性同位体の放射能を測定する方法などが用いられている(特許文献3および特許文献4等参照)。 しかし、ICP−MSは装置が大掛かりで高価であり、また質量分析方法であるから共存成分の影響を受けやすい点で問題がある。セシウム放射性同位体の放射能を測定する方法は、ゲッタ剤に吸着させて放射性セシウムの放射能を測定して濃度を求めるというものであるが、放射性同位体しか測定できないなどの問題点がある(例えば特許文献4参照)。さらに、仕事関数の小さいセシウムは大気中で不安定であるため、これらの方法による定量分析は難しい。特開平10−270171号公報特開平10−270172号公報特開2005−63910号公報特開昭64−84193号公報 以上のように、有機材料と混合状態にあるセシウムのドープ量については、水晶振動子法、光学的測定方法、ICP−MS、放射性同位体測定法などの従来法による定量分析は複雑で困難である。 本発明は上述の点に鑑みてなされ、その目的は、有機材料との混合試料中にドープされたセシウム量を迅速かつ簡便に定量する方法を提供することにある。詳細には、有機材料とセシウム化合物との混合試料中のセシウムを希酸により溶出し、セシウムイオンとしてイオンクロマトグラフィーで定量分析を行い、有機材料との混合試料中の正確なセシウム量を算出できるセシウム定量分析方法を提案する。 上述の目的を達成するため、本発明の方法は、有機材料とセシウム化合物とを含む混合試料中のセシウムの定量分析方法であって、(i)希酸によって前記混合試料からセシウムを溶出させる工程と、(ii)工程(i)で得られた溶出液中のセシウムを定量分析する工程と、(iii)工程(ii)で得られた定量分析値から、前記混合試料中のセシウム量を算出する工程とを有する定量分析方法を提供する。 さらに本発明は、前記混合試料が、蒸着法によって基板上に形成された膜であることを含む。また、本発明は、前記基板が、セシウムを含まないガラス、セシウムを含まないシリコンウェハ、およびセシウムを含まないプラスチックからなる群から選択されることを含む。 さらに、本発明は、前記希酸が、0.6M〜3Mの濃度の塩酸、および1M〜6Mの濃度の硝酸からなる群から選択されることを含む。 さらに、本発明は、工程(ii)を、イオンクロマトグラフィーによって実施することを含む。 本発明により、従来方法での測定が困難である有機材料とセシウム化合物の混合試料中のセシウム量を、迅速かつ簡便に、イオンクロマトグラフィーを用いて定量することができる。詳細には、本発明により、蒸着法により基板に成膜された混合試料膜(たとえば、有機EL素子の電子注入層など)中のセシウム量の定量分析が達成される。 以下、本発明の好適な実施形態を、詳細に説明する。図1は、本発明の混合試料中のセシウム定量分析を示す流れ図である。なお、以下に示す実施形態は、本発明の単なる一例であって、当業者であれば、適宜設計変更可能である。 本発明の分析対象である有機材料とセシウム化合物との混合試料は、好ましくは基板上に形成された混合試料の膜である。基板は、後述する混合試料膜の製膜条件および酸溶出工程に耐え、かつ分析対象であるセシウム化合物を含まない材料から形成される。また、基板は、セシウムの分析を妨害する物質(キレート剤など)を含まないことが望ましい。本発明において好適に用いられる基板材料は、セシウムを含まないガラス、セシウムを含まないシリコンウェハ、およびセシウムを含まないプラスチックを含む。 セシウム化合物は、単体のセシウム金属であってもよく、また炭酸セシウム、臭化セシウム、ヨウ化セシウムなどの塩であってもよい。好ましくは単体のセシウム金属である。 本発明において、有機材料は適宜選択することができる。有機材料の一例は、セシウムのドープによって電子移動が促進される化合物群であり、たとえば有機EL素子の電子注入層に用いられる化合物群である。このような化合物群の例としては、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム(Alq3)のようなアルミニウム錯体、PBDもしくはTPOBのようなオキサジアゾール誘導体、TAZのようなトリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、フェニルキノキサリン類、BMB−2Tのようなチオフェン誘導体などを挙げることができる。 混合試料膜の形成は、蒸着法、スパッタ法、スピンコーティング法、ディップコーティング法などの当該技術において知られている任意の方法で形成することができる。好ましくは、混合試料膜は蒸着法で形成される。混合試料膜の膜厚は、0.01μm〜1μmの範囲内であることが好ましい。(第1工程:セシウム溶出工程) まず、希酸により上記混合試料膜からセシウムを溶出させて、セシウムイオンを含む試料溶液を作成する。 本発明に用いることのできる希酸は、硝酸、塩酸、硫酸、フッ化水素酸、過塩素酸、リン酸等、当業者により金属の溶出に用いられる酸を希釈したものである。詳細には、硝酸および塩酸を希釈したものが好ましく、0.6M〜3Mの硝酸または1M〜6Mの塩酸が好ましい。 以下、希酸を用いた混合試料膜からのセシウム溶出工程の好ましい実施形態を、さらに具体的に述べる。 (1)有機材料とセシウム化合物との混合試料膜が形成されたガラス基板を、当該混合試料膜が形成された面がビーカーの開口部を向くようにポリテトラフルオロエチレン製ビーカー底部に静置する。 (2)その後、希酸(1M硝酸)を当該膜上に2mL滴下してセシウムを溶出する。溶出を促進するため、攪拌・震とうさせてもよい。セシウムは非常に活性な物質であるため常温でも溶解することができる。 (3)溶出後、ポリテトラフルオロエチレン製ビーカー中の上記溶出液を駒込ピペットで10mLのメスフラスコに回収する。ついで、2mLの純水を基板上に滴下して洗浄する。洗浄に用いた純水は、前記溶液と同様に駒込ピペットで前記メスフラスコに回収する。 (4)前記メスフラスコに純水を標線まで加えて10mLにする。このセシウム溶出液を後述するイオンクロマトグラフィーで分析する試料溶液とする。(第2工程:セシウム定量分析工程) ついで、上記第2工程により得られたセシウム溶出液中のセシウムイオン量を、イオンクロマトグラフィーを用いて定量する。 この装置の原理は、弱電解質の溶離液と試料液を注入してイオン交換樹脂からなる分離カラムを通し、カラム内では水和半径の大小、Van der Waals 力の相互作用によってイオン種の相互分離が行われる。除去システムのサプレッサを通すことにより溶離液由来イオンによるバックグラウンドの電導度を下げ、電導率計検出器(セル)で目的とするイオン種を高感度で検出しクロマトグラムとして得るものである。1回の測定には数十〜数百μL必要であり、測定用サンプル容器の共洗いを考慮すると、取扱う試料液量は数mL必要である。例えば1回の測定で数種のイオン成分を同時に測定することができ、分離定量分析を行なうことができる方法である。測定装置等の分析条件設定と検量線の検討は常法により行い、各イオン成分の電導度に基づくイオンクロマトグラムのピーク面積または高さなどの測定値から目的とする分析試料溶液中のイオン成分濃度を求める。 具体的には、まず、既知濃度のセシウム溶液を用いて、セシウムイオンのピーク面積(μS×分)とセシウム濃度(ppm)との関係から検量線を作成する。例えば、検量線は0.1ppm〜10ppmまで段階的に作成する。 ついで、上記セシウム溶出液のイオンクロマトグラフィーを測定し、上記検量線を用いて試料溶液中のセシウム濃度(ppm)を求める。測定値(セシウムイオンのピーク面積など)が検量線作成領域から外れる場合には、分析に用いるセシウム溶液の容量を変更するか、又は第1工程で調製するセシウム溶出液の体積を変更してもよい。(第3工程:混合試料中のセシウム量の算出工程) 最後に、得られた試料溶液中のセシウムイオン濃度(ppm)および上記第1工程において調製した試料溶液の体積から、ドープされたセシウム量(g)を求めることができる。 なお、当該セシウム量をもとに、セシウムの製膜面積A(cm2)と金属セシウムの密度ρ(g/cm3)から、セシウムのドープ量を基板上に製膜された膜厚として算出することができる。セシウム膜厚t(nm)は次式(1)から算出される。 ここで、Wはイオンクロマトグラフィーの測定結果から求めたセシウム量(g)である。実施例1:イオンクロマトグラフィーによるセシウムイオンの定量 はじめに、濃度0.1ppmのセシウム溶液について、イオンクロマトグラフィーを用いた定量分析を5回行い、ppmレベルにおける測定精度を検討した。結果を表1に示す。表1の結果から測定精度は面積の変動係数で約3%であり、良好であることが分かった。なお、測定条件は以下のとおりである。また、本実施例で用いたイオンクロマトグラフィーでのセシウムの検量線を図2に示す。 [測定条件] ・測定装置:DIONEX DX−320(ダイオネックス株式会社製) ・分離カラム:IonPac CS14 (ダイオネックス株式会社製) ・送液流量:1.00mL/分、溶離液生成濃度:10.00mM ・検出器:温度補償2.0%/℃、サプレッサ CSRS 4mm、電流値 50mA実施例2:混合試料膜中のセシウムの定量分析 以下の手順により、ガラス基板に形成された有機材料との混合試料膜中のセシウム(Cs)の定量分析を行った。結果の例を表2に示す。(混合試料膜の形成) 蒸着法により、有機材料Alq3とセシウムとをガラス基板(5cm×5cm)上に堆積し、異なるA〜Eの5種の混合試料膜(2.4cm×2.4cm)を形成した。(セシウム溶出工程) 以下に用いる全ての器具は純水で洗浄した。300mLのポリテトラフルオロエチレン製ビーカー内に混合試料膜を生成させた面を上にして、基板を静置した。混合試料膜表面が酸で浸されるように、1M硝酸2mLを基板上に滴下した。 溶出後、ポリテトラフルオロエチレン製ビーカー中のセシウム溶出液を駒込ピペットで10mLのメスフラスコに回収した。ついで、2mLの純水を基板上に滴下して洗浄した。洗浄に用いた純水も、前記溶液と同様に駒込ピペットで前記メスフラスコに回収した。 前記溶出液(洗浄に用いた純水も含む)が入れられたメスフラスコに純水を標線まで加えて10mLにした。(セシウムイオンの定量分析) 上記純水を添加した溶出液を試料溶液として、セシウムイオンの量をイオンクロマトグラフィーにより測定した。測定条件は実施例1と同じである。 比較例:水晶振動子法およびICP−MS法を用いた混合試料膜中のセシウムの定量分析 同時に、比較例として、水晶振動子法およびICP−MS法を用いた混合試料膜中のセシウム量の測定を行った。それらの結果も表2に示す。なお、水晶振動子法による膜厚測定値は蒸着源の影響で誤差が生じるため、推定量として記載した。 その結果、種々のドープ量において、ICP−MSにより測定されたセシウム量とイオンクロマトグラフィーにより測定されたセシウム量に顕著な差がないことを確認した。これにより、本発明によるセシウムドープ量の定量結果をもとに、従来の水晶振動子による膜厚測定値の補正に用いることができることも示された。 以上のように、基板上に製膜された有機材料とセシウム化合物との混合試料中のセシウムを希酸により溶出し、その溶出液中のセシウムイオンをイオンクロマトグラフィーで測定し、その測定値から上記混合試料中のセシウム量を算出することができた。本発明により、水晶振動子や光学的測定方法,放射能を測定するなどの従来方法での測定が困難である有機材料とセシウム化合物との混合試料中のセシウム量が迅速かつ簡便に定量できる。本発明の混合試料中のセシウムの定量分析を示す流れ図である。実施例に用いたイオンクロマトグラフィーによるセシウム(Cs)検量線を示すグラフである。 有機材料とセシウム化合物とを含む混合試料中のセシウムの定量分析方法であって、(i) 希酸によって前記混合試料からセシウムを溶出させる工程と、(ii) 工程(i)で得られた溶出液中のセシウムを定量分析する工程と、(iii) 工程(ii)で得られた定量分析値から、前記混合試料中のセシウム量を算出する工程とを有することを特徴とするセシウムの定量分析方法。 前記混合試料が、蒸着法によって基板上に形成された膜であることを特徴とする請求項1に記載のセシウムの定量分析方法。 前記基板が、セシウムを含まないガラス、セシウムを含まないシリコンウェハ、およびセシウムを含まないプラスチックからなる群から選択されることを特徴とする請求項2に記載のセシウムの定量分析方法。 前記希酸が、0.6M〜3Mの濃度の塩酸、および1M〜6Mの濃度の硝酸からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載のセシウムの定量分析方法。 工程(ii)を、イオンクロマトグラフィーによって実施することを特徴とする請求項1に記載のセシウムの定量分析方法。 【課題】有機材料とセシウム化合物との混合試料中のセシウム量を迅速かつ簡便に定量する方法を提供する。【解決手段】基板上に製膜された有機材料とセシウム化合物との混合試料中のセシウムを希酸により溶出し、その溶出液中のセシウムイオンをイオンクロマトグラフィーで測定し、その測定値から上記混合試料中のセシウム量を算出する。【選択図】図1