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タイトル:公開特許公報(A)_外来遺伝子を導入しない、非遺伝子組換えの遺伝子欠損株とその作製および選抜方法
出願番号:2008226016
年次:2010
IPC分類:C12N 15/09,C12N 1/20,C12Q 1/68


特許情報キャッシュ

井上 康宏 JP 2010057406 公開特許公報(A) 20100318 2008226016 20080903 外来遺伝子を導入しない、非遺伝子組換えの遺伝子欠損株とその作製および選抜方法 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 501203344 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 田中 夏夫 100111741 井上 康宏 C12N 15/09 20060101AFI20100219BHJP C12N 1/20 20060101ALI20100219BHJP C12Q 1/68 20060101ALI20100219BHJP JPC12N15/00 AC12N1/20 AC12Q1/68 A 10 OL 14 4B024 4B063 4B065 4B024AA07 4B024AA20 4B024CA01 4B024CA09 4B024CA11 4B024CA20 4B024DA01 4B024DA05 4B024GA25 4B024HA11 4B063QA01 4B063QA13 4B063QA18 4B063QQ06 4B063QQ42 4B063QQ52 4B063QR32 4B063QR35 4B063QR55 4B063QR59 4B063QR62 4B063QS25 4B063QS32 4B063QX01 4B065AA01X 4B065AA01Y 4B065AA56X 4B065AA56Y 4B065AB10 4B065AC20 4B065BA16 4B065BA30 本発明は、欠損させたい遺伝子の上流領域および下流領域のDNAからなる環状化DNAを用いた相同組換えにより、外来遺伝子を用いることなく作製される遺伝子欠損株とその作製および選抜方法に関する。 近年、様々な植物病原性細菌の病原性関連遺伝子が同定されている。その病原性関連遺伝子を分子生物学的手法により破壊した遺伝子破壊株が多数作製されている。これまでに病原性を喪失した細菌を施用することによって当該病害を防除できることが報告されており(非特許文献1)、病原性関連遺伝子を破壊して作製した病原性喪失株でもこのような能力を付加できることが期待される。 従来的に病原性関連遺伝子の破壊株は、外来遺伝子(例えば、抗生物質耐性遺伝子や、栄養素の利用性に関する遺伝子など)をマーカー遺伝子として、遺伝子組換え技術により病原性関連遺伝子に挿入または置換することによって作製される(非特許文献2,3,4)。また、従来の遺伝子破壊株はマーカーとして挿入された遺伝子の選択性を利用して選抜される。日本植物病理学会報56:243-246(1990)山田雅巳(2003)バクテリアにおける遺伝子破壊株の作成方法.Environ. Mutagen Res. 25:87-92S. Kamoun, E. Tola, H. Kamdar C. I. Kado (1992) Rapid generation of directed and unmarked deletions in Xanthomonas. Mol. Microbiol. 6: 809-816K. A. Datsenko, B. L. Wanner (2000) One-step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K-12 using PCR products. PNAS 97:6640-6645 しかしながらこのように作製された破壊株は、外来遺伝子を導入されていることから遺伝子組換え体に該当し、そのため圃場での使用に制限があると共に、その使用に関して社会的なアクセプタンスが受けられないといった問題が存在する。 そのため当該分野においては、圃場においても使用可能な、外来遺伝子が導入されていない、すなわち遺伝子組換え体に該当しない遺伝子破壊株が望まれている。 本発明者は鋭意研究した結果、欠損させたい遺伝子の上流領域および下流領域のDNA領域をPCRによって増幅し、得られた上流領域および下流領域のDNA断片を連結して環状化し、当該環状化DNAを宿主細菌に導入し、相同組換えにより目的の遺伝子領域を欠損させた遺伝子破壊株を作製できることを見出し、本発明を完成させるに至った。 さらに当該遺伝子破壊株は、上記欠損させたい遺伝子の上流領域および下流領域のDNA領域よりさらに、上流領域または下流領域に設計されたプライマー(すなわち、宿主細菌のDNA上における相同組換え部位の外側に設計されたプライマー)を用いたNested-PCR法により、正確に選別することが可能であることを見出した。 このように外来遺伝子を一切利用せずに、目的遺伝子の欠損および遺伝子破壊株の選別を行っているために、本発明方法により作製された遺伝子破壊株は、遺伝子組換え体には該当せず圃場においても利用することが可能である。 すなわち、本発明は、下記[1]〜[10]に関する。[1] 外来遺伝子を使用しない遺伝子欠損細菌株の作製方法であって、以下の工程:(a)欠損させたい遺伝子の上流領域および下流領域のDNAをPCRによって増幅するステップ;(b)得られた上流領域および下流領域のDNA断片を連結させ、上流領域および下流領域の連結DNA断片を得て、それを環状化するステップ;および(c)得られた環状化DNAを宿主細菌に導入し、該細菌のDNAと相同組換えを行うステップ、を含む、上記方法。[2] 病原性関連遺伝子の欠損細菌株を作製するための、[1]の方法。[3] 上流領域および下流領域のDNA断片を結合PCRによって連結する、[1]または[2]の方法。[4] 上流領域および下流領域の連結DNA断片をセルフライゲーションにより環状化する、[1]〜[3]のいずれかの方法。[5] 宿主細菌が、Xanthomonas属、Pseudomonas属、Erwinia属、Pantoea属、Ralstonia属、Acidovorax属およびBrukholderia属からなる群から選択される属に属する植物病原細菌から選択される、[1]〜[4]のいずれかの方法。[6] さらに、Nested-PCRによって、遺伝子欠損細菌株のスクリーニングを行うことを含む、[1]〜[5]のいずれかの方法。[7] 宿主細菌のDNA上における相同組換え部位の外側に設計されたプライマーを少なくとも1つ用いて1st PCRを行うことを含む、[6]の方法。[8] 1st PCRにて用いられるプライマーが全て相同組換え部位の外側に設計されたプライマーである、[7]の方法。[9] [1]〜[8]のいずれかの方法によって作製された遺伝子欠損細菌株。[10] 外来遺伝子が導入された遺伝子組換え体ではない、[9]の遺伝子欠損細菌株。 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明は、外来遺伝子を使用しない遺伝子欠損細菌株の作製方法に関する。 本明細書において「外来遺伝子」とは、それが導入される宿主生物種とは異なる生物種に由来する遺伝子を指し、例えば、蛍光タンパク質遺伝子(緑色蛍光タンパク質遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子など)、呈色反応を触媒する酵素遺伝子(β−グルクロニダーゼ遺伝子、lacZ遺伝子など)、および薬剤耐性遺伝子(抗生物質耐性遺伝子、除草剤耐性遺伝子、変異型アセト乳酸合成酵素遺伝子など)といったマーカー遺伝子、転写調節配列(プロモーター、エンハンサー、サイレンサーなど)ならびにベクターなどのDNA構築物およびそれに含まれる塩基配列などが挙げられるが、これらに限定されない。 一方、宿主生物種と同じ生物種由来のその遺伝子の変異体、例えば、その遺伝子において1から数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入を有する塩基配列を含む遺伝子は外来遺伝子に該当しない。「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個、あるいは1個または2個である。さらに、宿主生物種と同じ生物種由来であって、1つまたは複数の遺伝子の全体または一部分が欠失している塩基配列を含む遺伝子も外来遺伝子に該当しない。 本明細書において「遺伝子組換え体」とは、遺伝子組換え技術により得られた核酸及びその複製物を有する生物を指す。「遺伝子組換え技術」とは、加工した核酸を細胞やウイルスなどの中で複製させること、または他の細胞へ移転させることを目的として、細胞外において核酸を加工する技術から、(1)いわゆるセルフクローニング(同種の核酸のみを用いて加工する技術)に該当する場合、および(2)いわゆるナチュラルオカレンス(異種の核酸を用いた場合であっても、自然条件で核酸を交換することが知られている種の核酸のみを用いて加工する技術)に該当する場合を除いたものなどを指す(「遺伝子組換え実験を始める前に‐これだけは知っておきたい基本情報‐」文部科学省ライフサイエンス課生命倫理・安全対策室、平成19年7月3日[http://www.lifescience.mext.go.jp/bioethics/cartagena.html#ca_03]参照)。従って、上記外来遺伝子を使用しない本願発明に係る遺伝子欠損株は「遺伝子組換え体」に該当しない。 本明細書において「外来遺伝子を使用しない」とは、外来遺伝子、例えば、マーカー遺伝子などを導入しないことを指す。 本明細書において「遺伝子欠損細菌株」とは、宿主細菌株が天然に有する1つまたは複数の遺伝子が欠失または正常の機能を有さない状態にある細菌株を指す。「正常の機能を有さない状態」とは、当該遺伝子中にヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入などを含むために、当該遺伝子によってコードされるタンパク質の活性が、正常なタンパク質の活性と比較して70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満または全く活性を有しない状態を指す。 欠損させ得る遺伝子としては、病原性関連遺伝子、例えばhrp遺伝子、avr遺伝子、植物毒素遺伝子、植物ホルモン合成遺伝子、ペクチン分解酵素遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。 宿主細菌としては、グラム陰性細菌に含まれる植物病原細菌、好ましくはプロテオバクテリア門に含まれる植物病原細菌、さらに好ましくはβおよびγプロテオバクテリア綱に含まれる植物病原細菌が挙げられる。例えば、Xanthomonas属、Pseudomonas属、Erwinia属、Pantoea属、Ralstonia属、Acidovorax属、Brukholderia属からなる群から選択される属に属する植物病原細菌が好ましく、特に好ましくはXanthomonas campestrisである。 本発明方法は第一に、欠損させたい遺伝子の上流(5’側)領域(以下、上流領域と記載)および欠損させたい遺伝子の下流(3’側)領域(以下、下流領域と記載)のDNAを、それぞれポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRと記載)によって増幅するステップを含む。 PCRにより増幅される上流領域および下流領域のDNA断片の長さは、500〜3000bp、好ましくは500〜2000bp、さらに好ましくは1000〜1500bpである。PCRにより増幅される上流領域および下流領域のDNA断片には、欠損させたい遺伝子の一部が含まれていても良いが、全く含まれていないことが好ましい。PCRの増幅条件は、上流領域および下流領域の塩基配列、増幅する領域のサイズ、使用するプライマーのサイズなどによって変化し得るが、当業者であれば周知の手法を用いて適宜設定することが可能である(中山広樹著、バイオ実験イラストレイテッド(3)本当にふえるPCR、株式会社秀潤社発行、1996年6月10日)。 上流領域および下流領域のDNA断片を増幅するために、それぞれ、上流領域の5’末端に設計されたフォワードプライマー(以下、第1プライマーと記載)および上流領域の3’末端に設計されたリバースプライマー(以下、第2プライマーと記載)ならびに下流領域の5’末端に設計されたフォワードプライマー(以下、第3プライマーと記載)および下流領域の3’末端に設計されたリバースプライマー(以下、第4プライマーと記載)を準備する。各DNA断片の増幅に用いられるこれらのプライマーは、所望される上流領域および下流領域のDNA断片を増幅することが可能であれば特に限定されることはないが、以下に記載するように結合PCRによって上流領域および下流領域のDNA断片が連結できるように設計されることが好ましい。すなわち、第2プライマーおよび第3プライマーは、その配列中に互いに相補的な配列を一部有するのが好ましい。 本発明方法は第二に、上記PCRにより得られた上流領域および下流領域のDNA断片を連結させ、上流領域および下流領域の連結DNA断片を得て、それを環状化するステップを含む。 上流領域および下流領域のDNA断片の連結は、当業者に公知である任意の方法によって行うことができる。一実施形態として、上流領域および下流領域のDNA断片が連結して配置されるようにクローニングベクターへ両DNA断片を組み込む方法が挙げられる。この場合、クローニングベクターに組み込まれた両DNA断片を鋳型として、第1プライマーおよび第4プライマーを用いてPCRを行うことによって、上流領域および下流領域の連結DNA断片を得ることが可能である。 また別の実施形態として、上流領域および下流領域のDNA断片を結合PCRによって連結することができる。結合PCRとは、異なる2種のDNA断片同士をPCR法により直鎖状に結合させる方法である。上記したように相補的な配列を有する第2プライマーおよび第3プライマーを用いて増幅された上流領域および下流領域のDNA断片はそれぞれ、その3’末端および5’末端に共通の配列を有する。このような2種のDNA断片と、第1プライマーおよび第4プライマーとを用いてPCRを行うと、反応過程のアニーリングにおいて、共通の配列を用いて上流領域のDNA断片と下流領域のDNA断片との間でアニーリングが生じる。このアニーリングしたDNA断片を鋳型としてPCRが行われることによって、上流領域および下流領域の連結DNA断片が得られる。 本明細書において、上流領域のDNA断片と下流領域のDNA断片との「連結」とは、5’側に上流領域のDNA断片を、3’側に下流領域のDNA断片を直列に隣接して配置し結合することを指す。 上流領域および下流領域の連結DNA断片は、当業者に公知である任意の方法によって環状化することが可能であるが、当該連結DNA断片のセルフライゲーションにより行うことが好ましい。一実施形態において、当該連結DNA断片のセルフライゲーションは、T4ポリメラーゼ処理によって当該DNA断片を平滑化し、T4ポリヌクレオチドキナーゼ処理によってリン酸を付加し、そしてT4 DNAリガーゼによって両末端を結合することによって行うことができる。 本発明方法は第三に、得られた環状化DNAを宿主細菌に導入し、当該細菌のDNAと相同組換えを行うステップを含む。 環状化DNAを宿主細菌に導入する方法としては、当業者に公知である一般的な方法を用いることができ、例えば、リン酸カルシウム法または塩化カルシウム/塩化ルビジウム法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。 導入された環状化DNAは、その上流領域および下流領域の連結DNA断片を、宿主細菌DNA中の対応する上流領域および下流領域との相同組換えにより宿主細菌DNA中に導入し、導入された宿主細菌において当該上流領域および下流領域に挟まれた遺伝子またはその一部を欠失させることが可能である。 本発明方法はさらに、Nested-PCRを用いたsib selection法によって、遺伝子欠損細菌株のスクリーニングを行うことを含む。 Nested-PCRでは、一組のプライマー対を用いて行う1st PCRにて増幅された標的配列の内側にさらなるプライマーを設計し、最初のPCRで得られた増幅産物を希釈して新たな鋳型として2nd PCRを行う。Nested-PCRは標的配列の検出感度が高く、プライマー対を適宜設計することによって、異所的な遺伝子導入の識別や遺伝子導入に用いたDNA自体によるバックグラウンドを回避できるために、容易かつ正確に遺伝子欠損細菌株のスクリーニングを行うことを可能とする。 一実施形態において、Nested-PCRは、第1プライマーおよび第4プライマーよりも、それぞれさらに5’側および3’側に設定されたプライマーを少なくとも1つ用いて1st PCRを行う。好ましくは、1st PCRに用いるプライマーは両端共に、第1プライマーおよび第4プライマーよりも、それぞれさらに5’側および3’側に設定されたプライマーである。当該1st PCRにより、導入した環状化DNAを鋳型とする増幅および予期される変異部位とは異なる領域に導入されたDNAを鋳型とする増幅がおこらず、また目的の部位に重複してDNAが挿入された細菌株も容易に検出できる。1st PCRにより得られたPCR産物を、101〜108倍に希釈してその一部を鋳型として、2nd PCRを行う。2nd PCRにて用いるプライマーは、1st PCRにより得られたPCR産物の塩基配列に基いて適宜設計することが可能であるが、効率性の観点から増幅されるDNA断片の大きさが小さくなるように設計することが好ましい。例えば、上流領域および下流領域の、それぞれ3’側および5’側に設計するのが好ましい。 本発明はまた、上記本発明の外来遺伝子を使用しない遺伝子欠損細菌株の作製方法を用いて作製された遺伝子欠損細菌株に関する。 従来技術による遺伝子欠損細菌株は、目的遺伝子をマーカー遺伝子等の導入により欠損させ、当該遺伝子を組み込んだベクターを用いて遺伝子導入および相同組換えを行い作製されている。一方、本発明における遺伝子欠損細菌株は、PCRにより増幅された宿主細菌に由来するDNA断片のみを導入して作製されており、マーカー遺伝子およびベクターなどの外来遺伝子を一切含まない。そのために従来技術による遺伝子欠損細菌株とは異なり、遺伝子組換え体に該当せず、幅広い分野にて利用することが可能である。 本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。1.hrp遺伝子群の上流領域および下流領域の増幅 本研究では、十字架野菜黒腐病菌(Xanthomonas campestris pv. campestris:以下、Xccと記載)MAFF301176株(独立行政法人農業生物資源研究所ジーンバンク)のhrp遺伝子群の上流領域および下流領域のDNA配列に基づいて下記表1に示すプライマーを設計した(図1)。 PCR用のプライマーはすべて3.2 pmolの濃度に調整した。まず、第1および第2プライマー対ならびに第3および第4プライマー対をそれぞれ用いてXcc MAFF301176株より、hrp遺伝子群の上流領域および下流領域のDNA断片を増幅した。得られた上流領域および下流領域のDNA断片をベクタープラスミドpGEM3 (Promega)にクローニングしてpDhrpを作製した(図2)。さらに、このpDhrp中の上流領域と下流領域との間にカナマイシン耐性遺伝子を挿入してpDhrpKANを作製した(図2)。2.DNAの形状による相同組換え効率の分析 DNAの形状による相同組換えの効率を調べるために、Xcc MAFF301176株のhrp遺伝子をpDhrpKANのカナマイシン耐性遺伝子に置き換える実験を行った。菌体へのDNAの導入はエレクトロポレーションで行い、機器はBioLadのGenePalser2を用いた。0.2mmのキュベットを用い、印加電圧は2.5kvとした。電圧を加えた後、1mlのNBY培地を加えて3時間29℃で振とう培養し、平板希釈法を用いて菌数を計測した。計測後、菌体をカナマイシンを添加したYP平板培地に塗布して29℃で2日間培養し、生じるコロニーの数を計測した。菌体の形質転換効率は、生じたコロニー数を上記平板希釈法で求めた菌数で除することにより算出した。 上記pDhrpKANを導入して菌体を形質転換した場合、7×10-8の効率でカナマイシン耐性菌が得られた。 一方、pDhrpKANのインサート領域を第1プライマーおよび第4プライマー対を用いたPCRにより増幅して得た直鎖状のDNAを導入して、菌体を形質転換した場合、カナマイシン耐性菌は全く得られなかった。 次に、pDhrpKANのインサート領域を上記と同じくPCRで増幅して得たPCR産物の両末端をT4ポリメラーゼ処理によって平滑化し、T4ポリヌクレオチドキナーゼ処理によってリン酸を付加し、T4 DNAリガーゼによって両末端を結合させて環状化処理を行った。このようにして環状化したDNAを導入して、菌体を形質転換したところ1×10-8の効率でカナマイシン耐性菌が得られた。 以上の結果より、相同組換えさせる配列のみからなるPCR産物であっても環状化させることによって、相同組換えを生じることが明らかとなった。一方、PCR産物を直鎖状DNAの状態で用いても、相同組換えが全く生じないことが明らかとなった。従来的に、グラム陰性細菌の遺伝子組換えにおいて、環状DNAの方が、直鎖状のDNAを用いた場合よりも、形質転換効率が良いことが知られている(山田雅巳(2003)バクテリアにおける遺伝子破壊株の作成方法.Environ. Mutagen Res. 25:87-92)。しかし、PCR産物のみからなるDNAを使用する本実験結果は、組換えが全く生じない点において、従来の実験結果とは異なるものであった。3.エピトピック株の形質転換効率と選別法 相同組換えにより遺伝子導入を行った場合、本来組換えを起こすべき部位とは異なった部位に遺伝子が組込まれた形質転換体が生じる場合がある。このような組換えを生じた菌体をエピトピック株と称する。 上記方法により、pDhrpKANのインサート領域の環状化PCR産物を導入して得られたカナマイシン耐性菌38菌株に対して、第7プライマーおよび第8プライマー対を用いてPCRを行った結果、38菌株すべてにおいて導入した遺伝子の増幅が認められた。 これら菌株に対して第5プライマーおよび第6プライマー対を用いたPCRを行うと、4菌株でのみDNAの増幅が認められた。増幅したDNAの塩基配列を解析した結果、第5プライマーおよび第6プライマー対で増幅が認められた菌株は相同組換えによってhrp遺伝子がカナマイシン耐性遺伝子に置換されたことが確認された。 また、hrp遺伝子領域内に存在するhrcV遺伝子を増幅するための下記表2に示すプライマー対を作製した。 当該プライマー対を用いてPCRを行った結果、上記4菌株ではDNAの増幅が見られないのに対し、他の34菌株ではDNAの増幅が認められた。この結果は34菌株がエピトピック株であることを示す。 この結果より、エピトピック株ではない、所望される部位に遺伝子が組込まれている組換え体は生じたコロニーの10.5%であり、形質転換効率はおよそ7×10-9であった。 以上の結果は、第1プライマーおよび第4プライマーよりも、それぞれさらに5’側および3’側に設定されたプライマーである第5プライマーおよび第6プライマー対を用いることによってエピトピック株を効率的に選別および排除できることを示している。図3に7株のエピトピック株と3株の組換え体に対するPCRの結果を示す。4.PCRによる組換え体の検出効率の分析 Xcc MAFF301176株のhrp遺伝子を上記試験でカナマイシン耐性遺伝子に置き換えた組換え体XccΔhrpを用いてPCRによる組換え体の検出効率を調査した。 液体培養により109にした組換え体XccΔhrpを、親株であるXcc MAFF301176株と1:10〜1:108の比率で混ぜたものを用意した。 PCRは以下のように行った。1μlの培養液に9μlの水を加えて加熱し、プライマーをそれぞれ1μlずつ、反応液を2μl、dNTP溶液(2.5mM)を1.6μl、EX-Taq(Takara Inc)を0.1μl、水を4.3μl加えて20μlとした。アニーリングは55℃15秒とし、伸長反応は72℃で増幅断片の長さに応じて時間を調整した。 第1および第4プライマー対または第5および第6プライマー対を用いてPCRを行ったところ、親株:組換え体XccΔhrpの比率が103:1までしか組換え体XccΔhrpを検出できなかった(図4)。 次に、Nested-PCRを用いて組換え体XccΔhrpの検出を行った。Nested-PCRは、1st PCRを上記のように行った後、反応後の液1μlを9μlの水と加えて加熱し、上記PCRと同様な方法で2nd PCRを行った。第1および第4プライマー対または第5および第6プライマー対を1st PCR、第7および第8プライマー対を2nd PCRに用いるNested-PCRを行うと、親株:組換え体XccΔhrpの比率が106:1まで検出が可能となった。1×109cfu/mlの溶液1μl中には1×106個の細菌が含まれることから、Nested-PCRを行うことにより1μl中に1個の組換え体でも検出できることが明らかとなった。 次に形質転換に用いたDNA自体がPCRによる検出に与える影響を調査した。液体培養により109にした親株に1μgのpDhrpを加えた後に遠心して1mM HEPES Buffer(pH7.5)に上清を置換したものを1000倍に希釈し、第1および第4プライマー対プライマーを1st PCR、第7および第8プライマー対を2nd PCRに用いるNested-PCRを行った。その結果、DNAの増幅が確認された(図5)。本試験においてPCRによるDNAの増幅産物は加えたpDhrpを鋳型とするものに限られる。親株のDNA上のプライマーに挟まれた領域は20kb以上と大きく、本試験におけるPCR条件下では増幅されない。 この培養液に1μgのpDhrpを加えた後、10mg/mlのDNaseIを1μlを加えて1時間振とう培養した後に同様の試験を行っても、pDhrpを鋳型とするPCR産物の増幅を完全に抑えることはできなかった。 一方、DNaseを処理しさらに第1および第4プライマー対に代えて、第1および第6プライマー対を1stPCRに用いた場合にはDNAは増幅されなかった(図5)。 Nested-PCRのような高感度の検出法を使う場合、検出に影響を与え得るDNAが微量でも混入した場合、その正確性が損なわれるため、これを回避する必要がある。本方法では菌体の洗浄、DNaseの処理およびインサート領域の外側に設計したプライマーを用いることで、形質転換に用いたDNAによる影響を排除することに成功した。5.組換えベクターを作製しないhrp遺伝子群欠損株の作製 相同組換えに必要な領域を上記pGEM3 (Promega)などにクローン化して組換えベクターを作製および使用することなく、PCR、DNA断片の精製およびDNA断片の連結・環状化の操作のみを行い、遺伝子欠損株を作製した。 まず、第1および第2プライマー対および第3および第4プライマー対をそれぞれ用いてXcc MAFF301176株よりhrp遺伝子群の上流領域および下流領域のDNAを増幅し、そして余剰のプライマーとdNTPを除去した後、上流領域および下流領域のDNA断片を等量にて混合し、第1および第4プライマー対を加えて結合PCRを行うことにより両DNA断片を連結させた。両DNA断片が連結されたPCR産物を、アガロースゲルを用いて電気泳動した後、切り出し精製を行った。その後、前述の手法と同様の処理で環状化した。この環状化DNAを用いて上記手法により、Xcc MAFF301176株を形質転換し、1mlのNBY培地にて2時間29℃で振とう培養後、10mg/mlのDNaseIを1μlを加えてさらに1時間振とうした。その後、当該培養物を20000gで15秒間遠心して1mlの1mM HEPES Buffer(pH7.5)に上清を置換し、このうちの300μlを60mlのNBY培地に加えて、200μlずつ300本に分けた。これを12時間29℃で振とう培養した後、200本に対して第5および第6プライマー対を1stPCR、第7および第8プライマー対を2ndPCRに用いるNested-PCRを行った。その結果1本で特異的なDNAの増幅が検出された。以下の表3に示す手順でselectionを行った。図6には表3の第3番目の検出結果の写真を示す。 最終的に平板培養で単集落を分離し、それぞれに対して第5および第6プライマー対によるPCRを行うことでhrp欠損株を単離した。単離したhrp欠損株はhrcV増幅プライマー対によるPCRおよびhrcV遺伝子をプローブとしたゲノミックサザンハイブリダイゼーションによってhrp遺伝子群の欠損を確認した。 前述のとおり、本来組換えを起こすべき部位とは異なった場所に形質転換した遺伝子が組込まれるいわゆるエピトピック株が出現する場合がある。しかし本手法においては目的の部位とは異なる部位に遺伝子が挿入されたものはそもそも検出ができないため、このような株を選抜することはない。また、欠損が起こらず、遺伝子が重複して挿入されるようなものも、検出されない。また、PCRによる増幅断片の大きさを確認することで、異常な組換えが起こったと思われる株は排除することができる(図7)。2ndPCRのプライマーも組換えに用いる領域より外側に設計すれば、さらに正確性は増すと考えられるが、検出効率とPCRに要する時間の関係から本実験では2ndPCRのプライマーを組換えに用いる領域内に設計した。2ndPCRのプライマーの部位をどの位置に設計するかは正確性と迅速性を加味して決めればよい。 これより、本手法を用いることで、既存の遺伝子組換えベクターなどを一切用いることなく、遺伝子欠損株を作製できることが明らかとなった。 本発明により、外来遺伝子を挿入することなしに遺伝子欠損株を作製することが可能となった。したがって、本方法を用いて作製した株は遺伝子組換え体ではないために、野外で使用することができ、微生物農薬など病害防除への応用に利用することが可能である。図1は、Xcc染色体上に設計した第1〜7プライマーの各配置を示す。図2は、hrp遺伝子群の上流領域および下流領域のDNA断片をベクタープラスミドpGEM3 (Promega)にクローニングして作製したpDhrpプラスミド(左)および、さらにカナマイシン耐性遺伝子を連結して作製したpDhrpKANプラスミド(右)を示す。図3は、エピトピック株と所望される組換え体とを用いた、各プライマー対を用いたPCRの結果を示す。上段:第7および第8プライマー対、中段:第5および第6プライマー対、下段:hrcV増幅用プライマー対を用いたPCRの結果、レーン1−0は供試菌株を示し、レーン1−7がエピトピック株、レーン8−0が組換え体を示す。レーンMは1kbラダープラスマーカー、レーンPは親株であるMAFF301176の結果を示す図4は、PCRによる組換え体の検出効率の分析結果を示す図である。図中、レーン0は組換え体のみ、レーンPは親株のみ、レーン1−8は、親株:組換え体の比率が101:1−108:1からなる試料を用いたPCR産物を示す。レーンMはマーカーを示し、上段は、第5および第6プライマーを用いたPCRによる分析結果を示し、下段は第5および第6プライマーを用いた1st-PCRならびに第7および第8プライマーを用いた2nd-PCRからなるNested-PCRよる分析結果を示す。図中矢印にて示す位置に、組換え体の検出を示すバンドが確認された。図5は、形質転換に使用したDNAの残存がNested-PCRによる遺伝子欠失株の検出に与える影響について調べた結果を示す。レーン1-3はバッファー交換のみ行ったとき、レーン4-6はDNase処理とバッファー交換を行ったとき、レーン7-9はバッファー交換と1stPCRに第1および第6プライマーを用いたとき、レーンA-CはDNase処理、バッファー交換と1stPCRに第1および第6プライマーを用いたときの結果を示す。図中矢印にて示す位置に、DNAの残存によって増幅されたバンドが確認された。図6は、Nested-PCRによる遺伝子欠損株の検出結果を示す。星印のレーンにはDNAの増幅が認められ、遺伝子欠損株を含む培養液であることを示している。図7は、異常な変異を起こした株の検出例を示す。丸印のレーンでは正常な大きさのDNA増幅が見られ、正常な遺伝子組換えが起こった株を含む培養液であることを示しているが、星印のレーンでは異なる大きさのDNA増幅(矢印の位置)があり、異常な変異株が含まれることを示している。 外来遺伝子を使用しない遺伝子欠損細菌株の作製方法であって、以下の工程:(a)欠損させたい遺伝子の上流領域および下流領域のDNAをPCRによって増幅するステップ;(b)得られた上流領域および下流領域のDNA断片を連結させ、上流領域および下流領域の連結DNA断片を得て、それを環状化するステップ;および(c)得られた環状化DNAを宿主細菌に導入し、該細菌のDNAと相同組換えを行うステップ、を含む、上記方法。 病原性関連遺伝子の欠損細菌株を作製するための、請求項1に記載の方法。 上流領域および下流領域のDNA断片を結合PCRによって連結する、請求項1または2に記載の方法。 上流領域および下流領域の連結DNA断片をセルフライゲーションにより環状化する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。 宿主細菌が、Xanthomonas属、Pseudomonas属、Erwinia属、Pantoea属、Ralstonia属、Acidovorax属およびBrukholderia属からなる群から選択される属に属する植物病原細菌から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。 さらに、Nested-PCRによって、遺伝子欠損細菌株のスクリーニングを行うことを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。 宿主細菌のDNA上における相同組換え部位の外側に設計されたプライマーを少なくとも1つ用いて1st PCRを行うことを含む、請求項6に記載の方法。 1st PCRにて用いられるプライマーが全て相同組換え部位の外側に設計されたプライマーである、請求項7に記載の方法。 請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法によって作製された遺伝子欠損細菌株。 外来遺伝子が導入された遺伝子組換え体ではない、請求項9に記載の遺伝子欠損細菌株。 【課題】外来遺伝子を利用しない遺伝子欠損細菌株の作出方法の提供。【解決手段】欠損させたい遺伝子の上流領域および下流領域のDNAからなる環状化DNAを用いた相同組換えにより、外来遺伝子を用いることなく作製される遺伝子欠損細菌株およびその作製方法とその選抜方法。【選択図】なし配列表


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特許公報(B2)_外来遺伝子を導入しない、非遺伝子組換えの遺伝子欠損株とその作製および選抜方法

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_外来遺伝子を導入しない、非遺伝子組換えの遺伝子欠損株とその作製および選抜方法
出願番号:2008226016
年次:2015
IPC分類:C12N 15/09,C12N 1/20,C12Q 1/68


特許情報キャッシュ

井上 康宏 JP 5783503 特許公報(B2) 20150731 2008226016 20080903 外来遺伝子を導入しない、非遺伝子組換えの遺伝子欠損株とその作製および選抜方法 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 501203344 平木 祐輔 100091096 藤田 節 100118773 田中 夏夫 100111741 井上 康宏 20150924 C12N 15/09 20060101AFI20150907BHJP C12N 1/20 20060101ALI20150907BHJP C12Q 1/68 20060101ALI20150907BHJP JPC12N15/00 AC12N1/20 AC12Q1/68 A C12N 15/00−15/90 C12N 1/20−1/21 C12Q 1/68 CA/MEDLINE/BIOSIS(STN) Thomson Inovation JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) 特開2008−054542(JP,A) 特開2005−000160(JP,A) 特開2006−238774(JP,A) Molecular Plant−Microbe Interactions(2005),Vol.18,No.12,p.1306−1317 バクテリアにおける遺伝子破壊株の作製方法,The Environmental Mutagen Society of Japan(2003),Vol.25,p.87−92 Appl.Environ.Microbiol.(2008),Vol.74,No.10,p.2985−2989 J.Microbiol.Methods(2002),Vol.49,p.193−205 Mol.Plant Pathol.(2007),Vol.8,No.4,p.529−538 Immunity(1999),Vol.11,p.699−708 Transgenic Res.(2006),Vol.15,p.21−30 5 2010057406 20100318 13 20110601 2014010959 20140610 中島 庸子 ▲高▼ 美葉子 高堀 栄二 本発明は、欠損させたい遺伝子の上流領域および下流領域のDNAからなる環状化DNAを用いた相同組換えにより、外来遺伝子を用いることなく作製される遺伝子欠損株とその作製および選抜方法に関する。 近年、様々な植物病原性細菌の病原性関連遺伝子が同定されている。その病原性関連遺伝子を分子生物学的手法により破壊した遺伝子破壊株が多数作製されている。これまでに病原性を喪失した細菌を施用することによって当該病害を防除できることが報告されており(非特許文献1)、病原性関連遺伝子を破壊して作製した病原性喪失株でもこのような能力を付加できることが期待される。 従来的に病原性関連遺伝子の破壊株は、外来遺伝子(例えば、抗生物質耐性遺伝子や、栄養素の利用性に関する遺伝子など)をマーカー遺伝子として、遺伝子組換え技術により病原性関連遺伝子に挿入または置換することによって作製される(非特許文献2,3,4)。また、従来の遺伝子破壊株はマーカーとして挿入された遺伝子の選択性を利用して選抜される。日本植物病理学会報56:243-246(1990)山田雅巳(2003)バクテリアにおける遺伝子破壊株の作成方法.Environ. Mutagen Res. 25:87-92S. Kamoun, E. Tola, H. Kamdar C. I. Kado (1992) Rapid generation of directed and unmarked deletions in Xanthomonas. Mol. Microbiol. 6: 809-816K. A. Datsenko, B. L. Wanner (2000) One-step inactivation of chromosomal genes in Escherichia coli K-12 using PCR products. PNAS 97:6640-6645 しかしながらこのように作製された破壊株は、外来遺伝子を導入されていることから遺伝子組換え体に該当し、そのため圃場での使用に制限があると共に、その使用に関して社会的なアクセプタンスが受けられないといった問題が存在する。 そのため当該分野においては、圃場においても使用可能な、外来遺伝子が導入されていない、すなわち遺伝子組換え体に該当しない遺伝子破壊株が望まれている。 本発明者は鋭意研究した結果、欠損させたい遺伝子の上流領域および下流領域のDNA領域をPCRによって増幅し、得られた上流領域および下流領域のDNA断片を連結して環状化し、当該環状化DNAを宿主細菌に導入し、相同組換えにより目的の遺伝子領域を欠損させた遺伝子破壊株を作製できることを見出し、本発明を完成させるに至った。 さらに当該遺伝子破壊株は、上記欠損させたい遺伝子の上流領域および下流領域のDNA領域よりさらに、上流領域または下流領域に設計されたプライマー(すなわち、宿主細菌のDNA上における相同組換え部位の外側に設計されたプライマー)を用いたNested-PCR法により、正確に選別することが可能であることを見出した。 このように外来遺伝子を一切利用せずに、目的遺伝子の欠損および遺伝子破壊株の選別を行っているために、本発明方法により作製された遺伝子破壊株は、遺伝子組換え体には該当せず圃場においても利用することが可能である。 すなわち、本発明は、下記[1]〜[10]に関する。[1] 外来遺伝子を使用しない遺伝子欠損細菌株の作製方法であって、以下の工程:(a)欠損させたい遺伝子の上流領域および下流領域のDNAをPCRによって増幅するステップ;(b)得られた上流領域および下流領域のDNA断片を連結させ、上流領域および下流領域の連結DNA断片を得て、それを環状化するステップ;および(c)得られた環状化DNAを宿主細菌に導入し、該細菌のDNAと相同組換えを行うステップ、を含む、上記方法。[2] 病原性関連遺伝子の欠損細菌株を作製するための、[1]の方法。[3] 上流領域および下流領域のDNA断片を結合PCRによって連結する、[1]または[2]の方法。[4] 上流領域および下流領域の連結DNA断片をセルフライゲーションにより環状化する、[1]〜[3]のいずれかの方法。[5] 宿主細菌が、Xanthomonas属、Pseudomonas属、Erwinia属、Pantoea属、Ralstonia属、Acidovorax属およびBrukholderia属からなる群から選択される属に属する植物病原細菌から選択される、[1]〜[4]のいずれかの方法。[6] さらに、Nested-PCRによって、遺伝子欠損細菌株のスクリーニングを行うことを含む、[1]〜[5]のいずれかの方法。[7] 宿主細菌のDNA上における相同組換え部位の外側に設計されたプライマーを少なくとも1つ用いて1st PCRを行うことを含む、[6]の方法。[8] 1st PCRにて用いられるプライマーが全て相同組換え部位の外側に設計されたプライマーである、[7]の方法。[9] [1]〜[8]のいずれかの方法によって作製された遺伝子欠損細菌株。[10] 外来遺伝子が導入された遺伝子組換え体ではない、[9]の遺伝子欠損細菌株。 以下、本発明を詳細に説明する。 本発明は、外来遺伝子を使用しない遺伝子欠損細菌株の作製方法に関する。 本明細書において「外来遺伝子」とは、それが導入される宿主生物種とは異なる生物種に由来する遺伝子を指し、例えば、蛍光タンパク質遺伝子(緑色蛍光タンパク質遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子など)、呈色反応を触媒する酵素遺伝子(β−グルクロニダーゼ遺伝子、lacZ遺伝子など)、および薬剤耐性遺伝子(抗生物質耐性遺伝子、除草剤耐性遺伝子、変異型アセト乳酸合成酵素遺伝子など)といったマーカー遺伝子、転写調節配列(プロモーター、エンハンサー、サイレンサーなど)ならびにベクターなどのDNA構築物およびそれに含まれる塩基配列などが挙げられるが、これらに限定されない。 一方、宿主生物種と同じ生物種由来のその遺伝子の変異体、例えば、その遺伝子において1から数個のヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入を有する塩基配列を含む遺伝子は外来遺伝子に該当しない。「1から数個」の範囲は特には限定されないが、例えば、1から20個、好ましくは1から10個、より好ましくは1から7個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個、あるいは1個または2個である。さらに、宿主生物種と同じ生物種由来であって、1つまたは複数の遺伝子の全体または一部分が欠失している塩基配列を含む遺伝子も外来遺伝子に該当しない。 本明細書において「遺伝子組換え体」とは、遺伝子組換え技術により得られた核酸及びその複製物を有する生物を指す。「遺伝子組換え技術」とは、加工した核酸を細胞やウイルスなどの中で複製させること、または他の細胞へ移転させることを目的として、細胞外において核酸を加工する技術から、(1)いわゆるセルフクローニング(同種の核酸のみを用いて加工する技術)に該当する場合、および(2)いわゆるナチュラルオカレンス(異種の核酸を用いた場合であっても、自然条件で核酸を交換することが知られている種の核酸のみを用いて加工する技術)に該当する場合を除いたものなどを指す(「遺伝子組換え実験を始める前に‐これだけは知っておきたい基本情報‐」文部科学省ライフサイエンス課生命倫理・安全対策室、平成19年7月3日[http://www.lifescience.mext.go.jp/bioethics/cartagena.html#ca_03]参照)。従って、上記外来遺伝子を使用しない本願発明に係る遺伝子欠損株は「遺伝子組換え体」に該当しない。 本明細書において「外来遺伝子を使用しない」とは、外来遺伝子、例えば、マーカー遺伝子などを導入しないことを指す。 本明細書において「遺伝子欠損細菌株」とは、宿主細菌株が天然に有する1つまたは複数の遺伝子が欠失または正常の機能を有さない状態にある細菌株を指す。「正常の機能を有さない状態」とは、当該遺伝子中にヌクレオチドの欠失、置換、付加または挿入などを含むために、当該遺伝子によってコードされるタンパク質の活性が、正常なタンパク質の活性と比較して70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満または全く活性を有しない状態を指す。 欠損させ得る遺伝子としては、病原性関連遺伝子、例えばhrp遺伝子、avr遺伝子、植物毒素遺伝子、植物ホルモン合成遺伝子、ペクチン分解酵素遺伝子などが挙げられるが、これらに限定されない。 宿主細菌としては、グラム陰性細菌に含まれる植物病原細菌、好ましくはプロテオバクテリア門に含まれる植物病原細菌、さらに好ましくはβおよびγプロテオバクテリア綱に含まれる植物病原細菌が挙げられる。例えば、Xanthomonas属、Pseudomonas属、Erwinia属、Pantoea属、Ralstonia属、Acidovorax属、Brukholderia属からなる群から選択される属に属する植物病原細菌が好ましく、特に好ましくはXanthomonas campestrisである。 本発明方法は第一に、欠損させたい遺伝子の上流(5’側)領域(以下、上流領域と記載)および欠損させたい遺伝子の下流(3’側)領域(以下、下流領域と記載)のDNAを、それぞれポリメラーゼ連鎖反応(以下、PCRと記載)によって増幅するステップを含む。 PCRにより増幅される上流領域および下流領域のDNA断片の長さは、500〜3000bp、好ましくは500〜2000bp、さらに好ましくは1000〜1500bpである。PCRにより増幅される上流領域および下流領域のDNA断片には、欠損させたい遺伝子の一部が含まれていても良いが、全く含まれていないことが好ましい。PCRの増幅条件は、上流領域および下流領域の塩基配列、増幅する領域のサイズ、使用するプライマーのサイズなどによって変化し得るが、当業者であれば周知の手法を用いて適宜設定することが可能である(中山広樹著、バイオ実験イラストレイテッド(3)本当にふえるPCR、株式会社秀潤社発行、1996年6月10日)。 上流領域および下流領域のDNA断片を増幅するために、それぞれ、上流領域の5’末端に設計されたフォワードプライマー(以下、第1プライマーと記載)および上流領域の3’末端に設計されたリバースプライマー(以下、第2プライマーと記載)ならびに下流領域の5’末端に設計されたフォワードプライマー(以下、第3プライマーと記載)および下流領域の3’末端に設計されたリバースプライマー(以下、第4プライマーと記載)を準備する。各DNA断片の増幅に用いられるこれらのプライマーは、所望される上流領域および下流領域のDNA断片を増幅することが可能であれば特に限定されることはないが、以下に記載するように結合PCRによって上流領域および下流領域のDNA断片が連結できるように設計されることが好ましい。すなわち、第2プライマーおよび第3プライマーは、その配列中に互いに相補的な配列を一部有するのが好ましい。 本発明方法は第二に、上記PCRにより得られた上流領域および下流領域のDNA断片を連結させ、上流領域および下流領域の連結DNA断片を得て、それを環状化するステップを含む。 上流領域および下流領域のDNA断片の連結は、当業者に公知である任意の方法によって行うことができる。一実施形態として、上流領域および下流領域のDNA断片が連結して配置されるようにクローニングベクターへ両DNA断片を組み込む方法が挙げられる。この場合、クローニングベクターに組み込まれた両DNA断片を鋳型として、第1プライマーおよび第4プライマーを用いてPCRを行うことによって、上流領域および下流領域の連結DNA断片を得ることが可能である。 また別の実施形態として、上流領域および下流領域のDNA断片を結合PCRによって連結することができる。結合PCRとは、異なる2種のDNA断片同士をPCR法により直鎖状に結合させる方法である。上記したように相補的な配列を有する第2プライマーおよび第3プライマーを用いて増幅された上流領域および下流領域のDNA断片はそれぞれ、その3’末端および5’末端に共通の配列を有する。このような2種のDNA断片と、第1プライマーおよび第4プライマーとを用いてPCRを行うと、反応過程のアニーリングにおいて、共通の配列を用いて上流領域のDNA断片と下流領域のDNA断片との間でアニーリングが生じる。このアニーリングしたDNA断片を鋳型としてPCRが行われることによって、上流領域および下流領域の連結DNA断片が得られる。 本明細書において、上流領域のDNA断片と下流領域のDNA断片との「連結」とは、5’側に上流領域のDNA断片を、3’側に下流領域のDNA断片を直列に隣接して配置し結合することを指す。 上流領域および下流領域の連結DNA断片は、当業者に公知である任意の方法によって環状化することが可能であるが、当該連結DNA断片のセルフライゲーションにより行うことが好ましい。一実施形態において、当該連結DNA断片のセルフライゲーションは、T4ポリメラーゼ処理によって当該DNA断片を平滑化し、T4ポリヌクレオチドキナーゼ処理によってリン酸を付加し、そしてT4 DNAリガーゼによって両末端を結合することによって行うことができる。 本発明方法は第三に、得られた環状化DNAを宿主細菌に導入し、当該細菌のDNAと相同組換えを行うステップを含む。 環状化DNAを宿主細菌に導入する方法としては、当業者に公知である一般的な方法を用いることができ、例えば、リン酸カルシウム法または塩化カルシウム/塩化ルビジウム法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。 導入された環状化DNAは、その上流領域および下流領域の連結DNA断片を、宿主細菌DNA中の対応する上流領域および下流領域との相同組換えにより宿主細菌DNA中に導入し、導入された宿主細菌において当該上流領域および下流領域に挟まれた遺伝子またはその一部を欠失させることが可能である。 本発明方法はさらに、Nested-PCRを用いたsib selection法によって、遺伝子欠損細菌株のスクリーニングを行うことを含む。 Nested-PCRでは、一組のプライマー対を用いて行う1st PCRにて増幅された標的配列の内側にさらなるプライマーを設計し、最初のPCRで得られた増幅産物を希釈して新たな鋳型として2nd PCRを行う。Nested-PCRは標的配列の検出感度が高く、プライマー対を適宜設計することによって、異所的な遺伝子導入の識別や遺伝子導入に用いたDNA自体によるバックグラウンドを回避できるために、容易かつ正確に遺伝子欠損細菌株のスクリーニングを行うことを可能とする。 一実施形態において、Nested-PCRは、第1プライマーおよび第4プライマーよりも、それぞれさらに5’側および3’側に設定されたプライマーを少なくとも1つ用いて1st PCRを行う。好ましくは、1st PCRに用いるプライマーは両端共に、第1プライマーおよび第4プライマーよりも、それぞれさらに5’側および3’側に設定されたプライマーである。当該1st PCRにより、導入した環状化DNAを鋳型とする増幅および予期される変異部位とは異なる領域に導入されたDNAを鋳型とする増幅がおこらず、また目的の部位に重複してDNAが挿入された細菌株も容易に検出できる。1st PCRにより得られたPCR産物を、101〜108倍に希釈してその一部を鋳型として、2nd PCRを行う。2nd PCRにて用いるプライマーは、1st PCRにより得られたPCR産物の塩基配列に基いて適宜設計することが可能であるが、効率性の観点から増幅されるDNA断片の大きさが小さくなるように設計することが好ましい。例えば、上流領域および下流領域の、それぞれ3’側および5’側に設計するのが好ましい。 本発明はまた、上記本発明の外来遺伝子を使用しない遺伝子欠損細菌株の作製方法を用いて作製された遺伝子欠損細菌株に関する。 従来技術による遺伝子欠損細菌株は、目的遺伝子をマーカー遺伝子等の導入により欠損させ、当該遺伝子を組み込んだベクターを用いて遺伝子導入および相同組換えを行い作製されている。一方、本発明における遺伝子欠損細菌株は、PCRにより増幅された宿主細菌に由来するDNA断片のみを導入して作製されており、マーカー遺伝子およびベクターなどの外来遺伝子を一切含まない。そのために従来技術による遺伝子欠損細菌株とは異なり、遺伝子組換え体に該当せず、幅広い分野にて利用することが可能である。 本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。1.hrp遺伝子群の上流領域および下流領域の増幅 本研究では、十字架野菜黒腐病菌(Xanthomonas campestris pv. campestris:以下、Xccと記載)MAFF301176株(独立行政法人農業生物資源研究所ジーンバンク)のhrp遺伝子群の上流領域および下流領域のDNA配列に基づいて下記表1に示すプライマーを設計した(図1)。 PCR用のプライマーはすべて3.2 pmolの濃度に調整した。まず、第1および第2プライマー対ならびに第3および第4プライマー対をそれぞれ用いてXcc MAFF301176株より、hrp遺伝子群の上流領域および下流領域のDNA断片を増幅した。得られた上流領域および下流領域のDNA断片をベクタープラスミドpGEM3 (Promega)にクローニングしてpDhrpを作製した(図2)。さらに、このpDhrp中の上流領域と下流領域との間にカナマイシン耐性遺伝子を挿入してpDhrpKANを作製した(図2)。2.DNAの形状による相同組換え効率の分析 DNAの形状による相同組換えの効率を調べるために、Xcc MAFF301176株のhrp遺伝子をpDhrpKANのカナマイシン耐性遺伝子に置き換える実験を行った。菌体へのDNAの導入はエレクトロポレーションで行い、機器はBioLadのGenePalser2を用いた。0.2mmのキュベットを用い、印加電圧は2.5kvとした。電圧を加えた後、1mlのNBY培地を加えて3時間29℃で振とう培養し、平板希釈法を用いて菌数を計測した。計測後、菌体をカナマイシンを添加したYP平板培地に塗布して29℃で2日間培養し、生じるコロニーの数を計測した。菌体の形質転換効率は、生じたコロニー数を上記平板希釈法で求めた菌数で除することにより算出した。 上記pDhrpKANを導入して菌体を形質転換した場合、7×10-8の効率でカナマイシン耐性菌が得られた。 一方、pDhrpKANのインサート領域を第1プライマーおよび第4プライマー対を用いたPCRにより増幅して得た直鎖状のDNAを導入して、菌体を形質転換した場合、カナマイシン耐性菌は全く得られなかった。 次に、pDhrpKANのインサート領域を上記と同じくPCRで増幅して得たPCR産物の両末端をT4ポリメラーゼ処理によって平滑化し、T4ポリヌクレオチドキナーゼ処理によってリン酸を付加し、T4 DNAリガーゼによって両末端を結合させて環状化処理を行った。このようにして環状化したDNAを導入して、菌体を形質転換したところ1×10-8の効率でカナマイシン耐性菌が得られた。 以上の結果より、相同組換えさせる配列のみからなるPCR産物であっても環状化させることによって、相同組換えを生じることが明らかとなった。一方、PCR産物を直鎖状DNAの状態で用いても、相同組換えが全く生じないことが明らかとなった。従来的に、グラム陰性細菌の遺伝子組換えにおいて、環状DNAの方が、直鎖状のDNAを用いた場合よりも、形質転換効率が良いことが知られている(山田雅巳(2003)バクテリアにおける遺伝子破壊株の作成方法.Environ. Mutagen Res. 25:87-92)。しかし、PCR産物のみからなるDNAを使用する本実験結果は、組換えが全く生じない点において、従来の実験結果とは異なるものであった。3.エピトピック株の形質転換効率と選別法 相同組換えにより遺伝子導入を行った場合、本来組換えを起こすべき部位とは異なった部位に遺伝子が組込まれた形質転換体が生じる場合がある。このような組換えを生じた菌体をエピトピック株と称する。 上記方法により、pDhrpKANのインサート領域の環状化PCR産物を導入して得られたカナマイシン耐性菌38菌株に対して、第7プライマーおよび第8プライマー対を用いてPCRを行った結果、38菌株すべてにおいて導入した遺伝子の増幅が認められた。 これら菌株に対して第5プライマーおよび第6プライマー対を用いたPCRを行うと、4菌株でのみDNAの増幅が認められた。増幅したDNAの塩基配列を解析した結果、第5プライマーおよび第6プライマー対で増幅が認められた菌株は相同組換えによってhrp遺伝子がカナマイシン耐性遺伝子に置換されたことが確認された。 また、hrp遺伝子領域内に存在するhrcV遺伝子を増幅するための下記表2に示すプライマー対を作製した。 当該プライマー対を用いてPCRを行った結果、上記4菌株ではDNAの増幅が見られないのに対し、他の34菌株ではDNAの増幅が認められた。この結果は34菌株がエピトピック株であることを示す。 この結果より、エピトピック株ではない、所望される部位に遺伝子が組込まれている組換え体は生じたコロニーの10.5%であり、形質転換効率はおよそ7×10-9であった。 以上の結果は、第1プライマーおよび第4プライマーよりも、それぞれさらに5’側および3’側に設定されたプライマーである第5プライマーおよび第6プライマー対を用いることによってエピトピック株を効率的に選別および排除できることを示している。図3に7株のエピトピック株と3株の組換え体に対するPCRの結果を示す。4.PCRによる組換え体の検出効率の分析 Xcc MAFF301176株のhrp遺伝子を上記試験でカナマイシン耐性遺伝子に置き換えた組換え体XccΔhrpを用いてPCRによる組換え体の検出効率を調査した。 液体培養により109にした組換え体XccΔhrpを、親株であるXcc MAFF301176株と1:10〜1:108の比率で混ぜたものを用意した。 PCRは以下のように行った。1μlの培養液に9μlの水を加えて加熱し、プライマーをそれぞれ1μlずつ、反応液を2μl、dNTP溶液(2.5mM)を1.6μl、EX-Taq(Takara Inc)を0.1μl、水を4.3μl加えて20μlとした。アニーリングは55℃15秒とし、伸長反応は72℃で増幅断片の長さに応じて時間を調整した。 第1および第4プライマー対または第5および第6プライマー対を用いてPCRを行ったところ、親株:組換え体XccΔhrpの比率が103:1までしか組換え体XccΔhrpを検出できなかった(図4)。 次に、Nested-PCRを用いて組換え体XccΔhrpの検出を行った。Nested-PCRは、1st PCRを上記のように行った後、反応後の液1μlを9μlの水と加えて加熱し、上記PCRと同様な方法で2nd PCRを行った。第1および第4プライマー対または第5および第6プライマー対を1st PCR、第7および第8プライマー対を2nd PCRに用いるNested-PCRを行うと、親株:組換え体XccΔhrpの比率が106:1まで検出が可能となった。1×109cfu/mlの溶液1μl中には1×106個の細菌が含まれることから、Nested-PCRを行うことにより1μl中に1個の組換え体でも検出できることが明らかとなった。 次に形質転換に用いたDNA自体がPCRによる検出に与える影響を調査した。液体培養により109にした親株に1μgのpDhrpを加えた後に遠心して1mM HEPES Buffer(pH7.5)に上清を置換したものを1000倍に希釈し、第1および第4プライマー対プライマーを1st PCR、第7および第8プライマー対を2nd PCRに用いるNested-PCRを行った。その結果、DNAの増幅が確認された(図5)。本試験においてPCRによるDNAの増幅産物は加えたpDhrpを鋳型とするものに限られる。親株のDNA上のプライマーに挟まれた領域は20kb以上と大きく、本試験におけるPCR条件下では増幅されない。 この培養液に1μgのpDhrpを加えた後、10mg/mlのDNaseIを1μlを加えて1時間振とう培養した後に同様の試験を行っても、pDhrpを鋳型とするPCR産物の増幅を完全に抑えることはできなかった。 一方、DNaseを処理しさらに第1および第4プライマー対に代えて、第1および第6プライマー対を1stPCRに用いた場合にはDNAは増幅されなかった(図5)。 Nested-PCRのような高感度の検出法を使う場合、検出に影響を与え得るDNAが微量でも混入した場合、その正確性が損なわれるため、これを回避する必要がある。本方法では菌体の洗浄、DNaseの処理およびインサート領域の外側に設計したプライマーを用いることで、形質転換に用いたDNAによる影響を排除することに成功した。5.組換えベクターを作製しないhrp遺伝子群欠損株の作製 相同組換えに必要な領域を上記pGEM3 (Promega)などにクローン化して組換えベクターを作製および使用することなく、PCR、DNA断片の精製およびDNA断片の連結・環状化の操作のみを行い、遺伝子欠損株を作製した。 まず、第1および第2プライマー対および第3および第4プライマー対をそれぞれ用いてXcc MAFF301176株よりhrp遺伝子群の上流領域および下流領域のDNAを増幅し、そして余剰のプライマーとdNTPを除去した後、上流領域および下流領域のDNA断片を等量にて混合し、第1および第4プライマー対を加えて結合PCRを行うことにより両DNA断片を連結させた。両DNA断片が連結されたPCR産物を、アガロースゲルを用いて電気泳動した後、切り出し精製を行った。その後、前述の手法と同様の処理で環状化した。この環状化DNAを用いて上記手法により、Xcc MAFF301176株を形質転換し、1mlのNBY培地にて2時間29℃で振とう培養後、10mg/mlのDNaseIを1μlを加えてさらに1時間振とうした。その後、当該培養物を20000gで15秒間遠心して1mlの1mM HEPES Buffer(pH7.5)に上清を置換し、このうちの300μlを60mlのNBY培地に加えて、200μlずつ300本に分けた。これを12時間29℃で振とう培養した後、200本に対して第5および第6プライマー対を1stPCR、第7および第8プライマー対を2ndPCRに用いるNested-PCRを行った。その結果1本で特異的なDNAの増幅が検出された。以下の表3に示す手順でselectionを行った。図6には表3の第3番目の検出結果の写真を示す。 最終的に平板培養で単集落を分離し、それぞれに対して第5および第6プライマー対によるPCRを行うことでhrp欠損株を単離した。単離したhrp欠損株はhrcV増幅プライマー対によるPCRおよびhrcV遺伝子をプローブとしたゲノミックサザンハイブリダイゼーションによってhrp遺伝子群の欠損を確認した。 前述のとおり、本来組換えを起こすべき部位とは異なった場所に形質転換した遺伝子が組込まれるいわゆるエピトピック株が出現する場合がある。しかし本手法においては目的の部位とは異なる部位に遺伝子が挿入されたものはそもそも検出ができないため、このような株を選抜することはない。また、欠損が起こらず、遺伝子が重複して挿入されるようなものも、検出されない。また、PCRによる増幅断片の大きさを確認することで、異常な組換えが起こったと思われる株は排除することができる(図7)。2ndPCRのプライマーも組換えに用いる領域より外側に設計すれば、さらに正確性は増すと考えられるが、検出効率とPCRに要する時間の関係から本実験では2ndPCRのプライマーを組換えに用いる領域内に設計した。2ndPCRのプライマーの部位をどの位置に設計するかは正確性と迅速性を加味して決めればよい。 これより、本手法を用いることで、既存の遺伝子組換えベクターなどを一切用いることなく、遺伝子欠損株を作製できることが明らかとなった。 本発明により、外来遺伝子を挿入することなしに遺伝子欠損株を作製することが可能となった。したがって、本方法を用いて作製した株は遺伝子組換え体ではないために、野外で使用することができ、微生物農薬など病害防除への応用に利用することが可能である。図1は、Xcc染色体上に設計した第1〜7プライマーの各配置を示す。図2は、hrp遺伝子群の上流領域および下流領域のDNA断片をベクタープラスミドpGEM3 (Promega)にクローニングして作製したpDhrpプラスミド(左)および、さらにカナマイシン耐性遺伝子を連結して作製したpDhrpKANプラスミド(右)を示す。図3は、エピトピック株と所望される組換え体とを用いた、各プライマー対を用いたPCRの結果を示す。上段:第7および第8プライマー対、中段:第5および第6プライマー対、下段:hrcV増幅用プライマー対を用いたPCRの結果、レーン1−0は供試菌株を示し、レーン1−7がエピトピック株、レーン8−0が組換え体を示す。レーンMは1kbラダープラスマーカー、レーンPは親株であるMAFF301176の結果を示す図4は、PCRによる組換え体の検出効率の分析結果を示す図である。図中、レーン0は組換え体のみ、レーンPは親株のみ、レーン1−8は、親株:組換え体の比率が101:1−108:1からなる試料を用いたPCR産物を示す。レーンMはマーカーを示し、上段は、第5および第6プライマーを用いたPCRによる分析結果を示し、下段は第5および第6プライマーを用いた1st-PCRならびに第7および第8プライマーを用いた2nd-PCRからなるNested-PCRよる分析結果を示す。図中矢印にて示す位置に、組換え体の検出を示すバンドが確認された。図5は、形質転換に使用したDNAの残存がNested-PCRによる遺伝子欠失株の検出に与える影響について調べた結果を示す。レーン1-3はバッファー交換のみ行ったとき、レーン4-6はDNase処理とバッファー交換を行ったとき、レーン7-9はバッファー交換と1stPCRに第1および第6プライマーを用いたとき、レーンA-CはDNase処理、バッファー交換と1stPCRに第1および第6プライマーを用いたときの結果を示す。図中矢印にて示す位置に、DNAの残存によって増幅されたバンドが確認された。図6は、Nested-PCRによる遺伝子欠損株の検出結果を示す。星印のレーンにはDNAの増幅が認められ、遺伝子欠損株を含む培養液であることを示している。図7は、異常な変異を起こした株の検出例を示す。丸印のレーンでは正常な大きさのDNA増幅が見られ、正常な遺伝子組換えが起こった株を含む培養液であることを示しているが、星印のレーンでは異なる大きさのDNA増幅(矢印の位置)があり、異常な変異株が含まれることを示している。 外来遺伝子を使用しない遺伝子欠損細菌株の作製方法であって、以下の工程:(a)欠損させたい遺伝子の上流領域および下流領域のDNAをPCRによって増幅するステップ;(b)得られた上流領域および下流領域のDNA断片を連結させ、上流領域および下流領域の連結DNA断片を得て、それを環状化するステップ;(c)得られた環状化DNAをXanthomonas属に属する植物病原細菌に導入し、該細菌のDNAと相同組換えを行うステップ;および(d)宿主細菌のDNA上における相同組換え部位の外側に設計されたプライマーを少なくとも1つ用いて1st PCRを行うことを含む、Nested-PCRによって遺伝子欠損細菌株のスクリーニングを行うステップ、を含む、上記方法。 病原性関連遺伝子の欠損細菌株を作製するための、請求項1に記載の方法。 上流領域および下流領域のDNA断片を結合PCRによって連結する、請求項1または2に記載の方法。 上流領域および下流領域の連結DNA断片をセルフライゲーションにより環状化する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。 1st PCRにて用いられるプライマーが全て相同組換え部位の外側に設計されたプライマーである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。 配列表


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