タイトル: | 公開特許公報(A)_ハプトグロビンβサブユニットの製造方法 |
出願番号: | 2008214318 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | C07K 14/47,C12N 15/09 |
田中 修平 早出 広司 津川 若子 JP 2010047537 公開特許公報(A) 20100304 2008214318 20080822 ハプトグロビンβサブユニットの製造方法 パナソニック株式会社 000005821 国立大学法人東京農工大学 504132881 鷲田 公一 100105050 田中 修平 早出 広司 津川 若子 C07K 14/47 20060101AFI20100205BHJP C12N 15/09 20060101ALI20100205BHJP JPC07K14/47C12N15/00 A 14 1 OL 16 特許法第30条第1項適用申請有り 第60回 日本生物工学会大会 平成20年8月27日〜29日開催(社団法人日本生物工学会) 4B024 4H045 4B024AA01 4B024BA80 4B024CA04 4B024DA06 4B024EA04 4B024GA11 4B024HA01 4H045AA10 4H045AA20 4H045AA30 4H045CA40 4H045EA20 4H045FA67 4H045FA74 本発明は、活性を有するハプトグロビンβサブユニットの製造方法および変異型ハプトグロビンβサブユニットに関する。 ハプトグロビン(haptoglobin;以下「Hpt」と略記する)は、主に肝臓で合成される血漿タンパク質であり、ヘモグロビンの代謝に関与している。溶血によりヘモグロビンが血中に遊離すると、Hptは遊離ヘモグロビンに結合して強固な複合体を形成し、肝臓の細網内皮系細胞に取り込まれてヘモグロビンとともに分解される。Hptは、αサブユニット(α鎖)およびβサブユニット(β鎖)から構成される4量体または多量体の構造をとる。このαサブユニットおよびβサブユニットは、1つのオープンリーディングフレームにコードされている。αサブユニットはHptの分子種の多様性を決定しており、βサブユニットはヘモグロビンとの結合に関与している。 Hptは、高比重リポタンパク質(以下「HDL」と略記する)の主要構成要素であるアポリポタンパク質A−I(以下「ApoA−I」と略記することもある)に対する結合能を有することが報告されている。HptはApoA−Iをヒドロキシラジカルによる酸化ダメージから保護していると推測されているが、HptのApoA−I結合部位は明らかになっていない。今後、Hptの生体内における機能を明らかにするとともに、Hptを産業上利用するためには、活性を有するHptαサブユニットおよびHptβサブユニットの調製方法を開発することが必要である。 一方、凝集しやすいタンパク質を精製する技術として、タンパク質凝集体から変性タンパク質を解離させ、この変性タンパク質をリフォールディングさせる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の方法では、還元剤およびカオトロピック剤の存在下で高圧処理を行うことにより、タンパク質凝集体から変性タンパク質を解離させ、高圧下で透析して還元剤を除去することにより、変性タンパク質をリフォールディングさせている。 また、無細胞タンパク質合成系を用いて難溶性タンパク質を凝集させることなく合成する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の技術では、タンパク質を変性させない緩和な界面活性剤を、その臨界ミセル濃度の1〜50倍程度の濃度になるように合成系に加えることで、難溶性タンパク質を凝集させることなく合成することを実現している。特表2004−530651号公報特開2003−018999号公報 本発明者は、組み換えDNA技術を用いて大腸菌で発現させることにより、HptαサブユニットおよびHptβサブユニットを調製することを試みた。その結果、Hptαサブユニットは可溶性タンパク質の状態で回収することができたが、Hptβサブユニットは封入体(不溶性のタンパク質凝集体)の状態でしか回収することができなかった。 Hptβサブユニットのように目的タンパク質が封入体を形成してしまう場合、(1)変性剤を用いて変性(可溶化)させた目的タンパク質を封入体から解離させた後、(2)希釈または透析により変性剤の濃度を低下させて目的タンパク質をリフォールディングさせ、活性を有する可溶性タンパク質を回収する方法が一般的である。しかしながら、本発明者がこの方法を用いてHptβサブユニットを回収することを試みたところ、リフォールディングさせる際にタンパク質が再度凝集してしまい、活性を有する可溶性タンパク質としてほとんど回収することができなかった。 本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、Hptβサブユニットの凝集を抑制しつつリフォールディングさせることができる、活性を有するHptβサブユニットの製造方法を提供することを目的とする。 また、本発明は、凝集を抑制しつつ容易にリフォールディングさせることができる変異型Hptβサブユニットを提供することを目的とする。 本発明者は、低濃度の陰イオン性界面活性剤を含む溶液を用いて透析または希釈を行うことにより変性剤の濃度を低下させることで上記第一の課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。すなわち、本発明の第一は、以下の活性を有するHptβサブユニットの製造方法に関する。 [1]ハプトグロビンβサブユニットおよび変性剤を含むタンパク質溶液を準備するステップと、第1の溶液を用いて透析または希釈を行うことにより前記タンパク質溶液中の前記変性剤の濃度を低下させて、変性状態の前記ハプトグロビンβサブユニットをリフォールディングさせるステップと、を含み、前記第1の溶液は、ドデシル硫酸ナトリウムをその臨界ミセル濃度未満の濃度で含む、活性を有するハプトグロビンβサブユニットの製造方法。 [2]第2の溶液を用いて透析または希釈を行うことにより、前記変性剤の濃度を低下させたタンパク質溶液中の前記ドデシル硫酸ナトリウムの濃度を低下させるステップをさらに含む、[1]に記載の製造方法。 [3]前記第1の溶液は、ドデシル硫酸ナトリウムを0.02〜0.25%の濃度で含む、[1]または[2]に記載の製造方法。 [4]前記Hptβサブユニットは、野生型Hptβサブユニットの105位のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換されている変異型Hptβサブユニットである、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。 [5]前記他のアミノ酸残基はセリン残基である、[4]に記載の製造方法。 [6]前記変異型Hptβサブユニットは、配列番号2のアミノ酸配列を有する、[5]に記載の製造方法。 また、本発明者は、分子内でジスルフィド結合を形成しないシステイン残基を他のアミノ酸残基に置換することで上記第二の課題を解決できることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成させた。すなわち、本発明の第二は、以下の変異型Hptβサブユニットに関する。 [7]野生型Hptβサブユニットの105位のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換されている、変異型Hptβサブユニット。 [8]前記他のアミノ酸残基はセリン残基である、[7]に記載の変異型Hptβサブユニット。 [9]配列番号2のアミノ酸配列を有する、[8]に記載の変異型Hptβサブユニット。 本発明によれば、Hptβサブユニットを凝集を抑制しつつリフォールディングさせることができるため、活性を有するHptβサブユニットを高い収率で製造することができる。例えば、本発明によれば、Hptβサブユニットの機能解析やHptβサブユニットを用いたバイオセンサの開発などを促進させることができる。 以下、本明細書において「ハプトグロビン(Hpt)βサブユニット」には、既知のHptβサブユニット(例えば、配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトHptβサブユニット)だけでなく、既知のHptβサブユニットのアミノ酸配列において1または2以上のアミノ酸が欠失、置換または付加されたアミノ酸配列を有し、かつHptβサブユニットの活性(例えば、ヘモグロビンに対する結合能)を有するタンパク質(例えば、本発明の変異型Hptβサブユニット)も含まれる。 また、本明細書において「活性を有するHptβサブユニット」とは、非変性状態のHptβサブユニット、すなわち(リ)フォールディング後のHptβサブユニットを意味する。 1.本発明のHptβサブユニットの製造方法 本発明のHptβサブユニットの製造方法は、(1)Hptβサブユニットおよび変性剤を含むタンパク質溶液を準備する第1のステップと、(2)透析または希釈により第1のステップで準備したタンパク質溶液中の変性剤の濃度を低下させて、変性状態のHptβサブユニットをリフォールディングさせる第2のステップとを含む。本発明のHptβサブユニットの製造方法は、第2のステップで透析または希釈する際に使用する溶液(緩衝液)が陰イオン性界面活性剤をその臨界ミセル濃度未満の濃度で含むことを主たる特徴とする。 第1のステップでは、変性(可溶化)状態のHptβサブユニットおよび変性剤を含むタンパク質溶液を準備する。 タンパク質溶液に加えられるHptβサブユニットは、例えば通常の組み換えDNA技術を用いて調製すればよい(実施例参照)。このとき、Hptβサブユニットは、不溶性の封入体であってもよい。 変性剤は、Hptβサブユニットを変性(可溶化)させることができれば特に限定されず、当業者に公知のものから適宜選択すればよい。変性剤の例には、尿素やグアニジウム塩(例えば、塩酸グアニジン)などのカオトロピック試薬が含まれる。タンパク質溶液中の変性剤の濃度は、Hptβサブユニットを変性(可溶化)させることができれば特に限定されず、通常はその変性剤について一般的に用いられている濃度範囲から適宜選択すればよい。例えば、尿素の濃度は4〜8Mの範囲内が好ましく、塩酸グアニジンの濃度は2〜8Mの範囲内が好ましい。 例えば、不溶性のHptβサブユニット(封入体)を懸濁させた緩衝液(懸濁液)に所定の量の変性剤を添加することで、変性状態のHptβサブユニットおよび変性剤を含むタンパク質溶液を調製することができる(実施例参照)。調製されたタンパク質溶液中のHptβサブユニットの多くは変性剤により可溶化状態となり、封入体から解離するが、Hptβサブユニットと変性剤の量比によっては不溶性の封入体が残ることもある。この場合は、変性剤を添加した後に、遠心分離などにより不溶性の封入体を除去することが好ましい。タンパク質溶液中の変性状態のHptβサブユニットの濃度は、特に限定されないが、1000μg/mL以下が好ましく、500〜1000μg/mLの範囲内が特に好ましい。変性状態のHptβサブユニットの濃度が高すぎる場合、製造過程において沈殿が生じてしまう可能性がある。 変性状態のHptβサブユニットを溶解させる緩衝液(不溶性Hptβサブユニットを懸濁させる緩衝液)は、当業者に公知の緩衝液から適宜選択すればよい。緩衝液の例には、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)やリン酸カリウム緩衝液(PPB)、トリス塩酸緩衝液(Tris−HCl)が含まれる。また、タンパク質溶液は、上記陰イオン性界面活性剤に加えて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分の例には、βメルカプトエタノールなどの還元剤が含まれる。 第2のステップでは、第1のステップで準備したタンパク質溶液中の変性剤の濃度を透析または希釈により低下させる。 前述の通り、本発明の製造方法は、第2のステップで透析または希釈に使用する溶液(緩衝液)が陰イオン性界面活性剤をその臨界ミセル濃度未満の濃度で含むことを主たる特徴とする。溶液に含まれる陰イオン性界面活性剤は、好ましくはドデシル硫酸ナトリウム(以下「SDS」と略記する)であるが特に限定されない。溶液がSDSを含む場合、溶液中のSDSの濃度は0.02〜0.25%の範囲内が好ましく、0.02〜0.1%の範囲内がより好ましい。 透析または希釈に使用する溶液は、上記陰イオン性界面活性剤を含む溶液であれば特に限定されない。通常、透析または希釈に使用する溶液は、陰イオン性界面活性剤を含む緩衝液である。陰イオン性界面活性剤を溶解させる緩衝液は、当業者に公知の緩衝液から適宜選択すればよい。緩衝液の例には、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)やリン酸カリウム緩衝液(PPB)、トリス塩酸緩衝液(Tris−HCl)が含まれる。また、透析または希釈に使用する溶液(緩衝液)は、上記陰イオン性界面活性剤に加えて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分の例には、ジチオスレイトール(DTT)などの還元剤が含まれる。 透析により変性剤の濃度を低下させる方法は、分画分子量がHptβサブユニットの分子量よりも小さい透析膜を使うこと以外は特に限定されず、当業者に公知の方法から適宜選択すればよい。例えば、第1のステップで準備したタンパク質溶液を透析膜を介して緩衝液(陰イオン性界面活性剤を含む)と接触させて、タンパク質溶液から変性剤を除去すればよい。 希釈により変性剤の濃度を低下させる方法は特に限定されず、当業者に公知の方法から適宜選択すればよい。例えば、第1のステップで準備したタンパク質溶液に100倍量の緩衝液(陰イオン性界面活性剤を含む)を加えればよい。必要に応じて、分画分子量がHptβサブユニットの分子量よりも小さい限外ろ過膜を用いて限外ろ過を行い、得られた希釈液を濃縮してもよい。限外ろ過を行うことで、透析と同様にタンパク質溶液から変性剤を除去することもできる。透析や限外ろ過などにより変性剤を除去することで、各種用途にそのまま使用可能な溶液を得ることができる。 第1のステップで準備したタンパク質溶液中の変性剤の濃度を低下させることにより、タンパク質溶液に含まれる変性状態のHptβサブユニットをリフォールディングさせることができる。このとき、陰イオン性界面活性剤を含まない溶液(緩衝液)を用いて透析または希釈を行うと(従来の方法)、Hptβサブユニットがリフォールディングする前に再び凝集してしまうため、活性を有するHptβサブユニットをほとんど回収することができない。一方、陰イオン性界面活性剤をその臨界ミセル濃度未満の濃度で含む溶液(緩衝液)を用いて透析または希釈を行うと(本発明の方法)、Hptβサブユニットを凝集させることなくリフォールディングさせることができる。陰イオン性界面活性剤の濃度がその臨界ミセル濃度未満であることから、陰イオン性界面活性剤がHptβサブユニットを大きく変性させることなく(したがって、リフォールディングを阻害することなく)、Hptβサブユニット間の相互作用を弱めることで凝集を抑制していると考えられるが、凝集抑制のメカニズムはこれに限定されない。 このように、変性状態のHptβサブユニットを含むタンパク質溶液を準備し(第1のステップ)、陰イオン性界面活性剤をその臨界ミセル濃度未満の濃度で含む溶液(緩衝液)を用いて透析または希釈を行い、タンパク質溶液中の変性剤の濃度を低下させる(第2のステップ)ことにより、活性を有するHptβサブユニットを含む溶液を得ることができる。 また、本発明のHptβサブユニットの製造方法は、上記第2のステップの後に、(3)透析または希釈により、第2のステップで変性剤の濃度を低下させたタンパク質溶液中の陰イオン性界面活性剤の濃度を低下させる第3のステップをさらに含むことが好ましい。 第3のステップで使用する溶液は、陰イオン性界面活性剤を含まなければ特に限定されないが、通常は緩衝液である。第3のステップで使用する緩衝液は、当業者に公知の緩衝液から適宜選択すればよい。緩衝液の例には、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)やリン酸カリウム緩衝液(PPB)、トリス塩酸緩衝液(Tris−HCl)が含まれる。 透析により陰イオン性界面活性剤の濃度を低下させる方法は、分画分子量がHptβサブユニットの分子量よりも小さい透析膜を使うこと以外は特に限定されず、当業者に公知の方法から適宜選択すればよい。例えば、第2のステップで変性剤の濃度を低下させたタンパク質溶液を透析膜を介して緩衝液(陰イオン性界面活性剤を含まない)と接触させて、タンパク質溶液から陰イオン性界面活性剤を除去すればよい。 希釈により陰イオン性界面活性剤の濃度を低下させる方法は特に限定されず、当業者に公知の方法から適宜選択すればよい。例えば、第2のステップで変性剤の濃度を低下させたタンパク質溶液に100倍量の緩衝液(陰イオン性界面活性剤を含まない)を加えればよい。必要に応じて、分画分子量がHptβサブユニットの分子量よりも小さい限外ろ過膜を用いて限外ろ過を行い、得られた希釈液を濃縮してもよい。限外ろ過を行うことで、透析と同様にタンパク質溶液から陰イオン性界面活性剤を除去することもできる。 第3のステップを行うことにより、第2のステップで得られた活性を有するHptβサブユニットを含む溶液から陰イオン性界面活性剤を除去することができ、各種用途にそのまま使用可能な溶液を得ることができる。 以上のように、本発明の製造方法によれば、陰イオン性界面活性剤をその臨界ミセル濃度未満の濃度で含む溶液を用いた透析または希釈を行うことにより、変性状態のHptβサブユニットを凝集させることなくリフォールディングさせることができるため、活性を有するHptβサブユニットを高い収率で製造することができる。 2.本発明の変異型Hptβサブユニット 本発明の変異型Hptβサブユニットは、ヒトHptβサブユニット(例えば、配列番号1のアミノ酸配列を有するHptβサブユニット)の105位(シグナルペプチドを含むハプトグロビン2ポリペプチド鎖では266位に相当)のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換されていることを特徴とする。 ヒトHptβサブユニットには、5つのシステイン残基(105位、148位、179位、190位、220位)が含まれている。これら5つのシステイン残基のうち、148位のシステイン残基と179位のシステイン残基との間でジスルフィド結合が形成され、また190位のシステイン残基と220位のシステイン残基との間でジスルフィド結合が形成される。一方、105位のシステイン残基については、分子内でジスルフィド結合を形成せず、他の分子(Hptαサブユニット)とジスルフィド結合を形成すると考えられている。 本発明者は、分子内でジスルフィド結合を形成しない105位のシステイン残基が凝集の一要因となりうることに着目し、このシステイン残基を他の残基に置換することでHptβサブユニットの凝集が抑制されることを見出した。 システイン残基に代わって105位に挿入されるアミノ酸残基の種類は、システイン以外のアミノ酸(SH基を持たない)であれば特に限定されないが、タンパク質の立体構造を維持する観点から分子サイズが近いセリンやアラニンなどが好ましい。配列番号2のアミノ酸配列は、本発明の変異型Hptβサブユニットのアミノ酸配列の一例であり、野生型ヒトHptβサブユニット(配列番号1)の105位のシステイン残基をセリン残基に置換した変異型Hptβサブユニットのアミノ酸配列である。 本発明の変異型Hptβサブユニットは、すべてのシステイン残基が分子内でジスルフィド結合を形成しており、他の分子とジスルフィド結合を形成しないため、凝集しにくい。したがって、本発明の変異型Hptβサブユニットは、上記本発明の製造方法によりHptβサブユニットを製造する際に、野生型Hptβサブユニットに比べてより高い収率で活性を有するHptβサブユニットを製造することができる。 また、本発明の変異型Hptβサブユニットは、野生型Hptβサブユニットに比べて凝集しにくいため、保存安定性が顕著に高い。したがって、本発明の変異型Hptβサブユニットは、界面活性剤や還元剤などを添加しなくても長期に亘り活性を維持することが可能であり、長期保存や凍結保存をした後も使用することができる。 以下、本発明を実施例を参照してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。 [実施例1] 本実施例では、野生型ヒトHptβサブユニット(以下「野生型Hptβ」という)と、野生型Hptβの105位のシステイン残基をセリン残基に置換した変異型Hptβサブユニット(以下「変異型Hptβ」という)を本発明の方法により調製した例を示す。また、本実施例では、変異型Hptβのリフォールディング条件を比較検討した結果、ならびに野生型Hptβおよび変異型Hptβの収率を測定した結果も示す。 1.野生型Hptβ発現ベクターの構築 QUICK-Clone cDNAHuman Liver(クロンテック)をテンプレートとし、フォワードプライマーとして配列番号3に示される塩基配列を有するプライマー(Hpt_forward_TA)を、リバースプライマーとして配列番号4に示される塩基配列を有するプライマー(Hpt_reverse_TA)を用いてPCR増幅を行った。95℃で1分間インキュベートした後、95℃で1分間(変性)、60℃で1分間(アニーリング)、72℃で1分24秒間(伸長)を1サイクルとして30サイクル繰り返した。ハプトグロビン2(Hpt2:1397塩基)をコードするDNA断片と思われるバンドを切り出し、PCR産物をpGEM−Tベクター(プロメガ)にTAクローニングして、pGEMHpt2を構築した。 次に、pGEMHpt2をテンプレートとし、フォワードプライマーとして配列番号5に示される塩基配列を有するプライマー(hptb_pCold_Fw)を、リバースプライマーとして配列番号6に示される塩基配列を有するプライマー(hptb_pCold_Rv)を用いて、AmpliTaq Gold(アプライドバイオシステムズ)を用いてPCR増幅を行い、野生型HptβをコードするDNA断片の5’末端に開始コドンおよびNdeI部位を付加し、3’末端に終始コドンおよびXhoI部位を付加した。PCR産物をpGEM−TベクターにTAクローニングしてベクターを構築し、このベクターを用いて大腸菌DH5αを形質転換した。任意に選択した白色コロニーからプラスミドを抽出し、シークエンス解析を行った。得られた野生型Hptβのアミノ酸配列を配列表に示す(配列番号1)。 次いで、選択した白色コロニーから得られたベクター(pGEMhptβ(pCold))をNdeIおよびXhoIを用いて切断し、断片を精製した。NdeIおよびXhoIで切断したpColdIIベクター(タカラバイオ)に精製した断片をライゲーションしてベクターを構築し、このベクターを用いて大腸菌DH5αを形質転換した。任意に選択したコロニーからプラスミドを抽出してシークエンス解析を行い、発現ベクターpColdhptβが構築されていることを確認した。 2.変異型Hptβ発現ベクターの構築 前述のpColdhptβをテンプレートとし、野生型Hptβの105位(シグナルペプチドを含むHpt2ポリペプチド鎖では266位に相当)のシステイン残基をセリンに置換しうるように設計したプライマー(Hptb_Ser_Fw(配列番号7)およびHptb_Ser_Rv(配列番号8))を用いて、QuickChange法により部位特異的変異導入を行った。電気泳動で目的の断片が増幅されたことを確認した後、この断片を組み込んだベクターで大腸菌DH5αを形質転換した。任意に選択したコロニーからプラスミドを抽出してシークエンス解析を行い、Hptβの105位のシステイン残基がセリンに置換されていることを確認した。得られた変異型Hptβのアミノ酸配列を配列表に示す(配列番号2)。 得られたベクターをNdeIおよびXhoIを用いて切断し、断片を精製した。NdeIおよびXhoIで切断したpColdIIベクターに精製した断片をライゲーションして発現ベクターpColdhptβ(Cys266Ser)を構築した。 3.可溶化サンプルの調製 (野生型Hptβの可溶化サンプル) pColdhptβを用いて形質転換した大腸菌BL21(DE3)(ノバジェン)をLB寒天培地(ミラー;50μg/mLアンピシリンナトリウム(和光純薬工業)含有)(メルク)で一晩培養した。得られたコロニーをLB培地(50μg/mLアンピシリンナトリウム含有)3.0mLに植菌し、37℃で振とう培養した。OD600の値が0.4〜0.5付近になったところで培地の温度を15℃に下げ、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)(和光純薬工業)を終濃度が0.1mMとなるように添加し、15℃でさらに24時間培養した。培養後、集菌および洗浄を行い、湿菌体を得た。 得られた湿菌体を20mM Tris−HCl(pH8.0)に懸濁し、超音波破砕した。遠心分離(20000×g、4℃、20分間)により得られたペレットを20mM Tris−HCl(pH8.0)(500mM NaClおよび2% TritonX−100含有)に懸濁し、再び超音波破砕した。遠心分離(20000×g、4℃、20分間)により得られたペレットを20mM Tris−HCl(pH8.0)で洗浄し、結合バッファー(20mM Tris−HCl、500mM NaCl、6M尿素、1mM βメルカプトエタノール、pH8.0)に懸濁した。得られた懸濁液を4℃で一晩攪拌した。遠心分離(20000×g、4℃、20分間)により不溶物を除去した後、上清をシリンジフィルター(0.45μm孔)でろ過し、変性状態の野生型Hptβおよび尿素(変性剤)を含む可溶化サンプルを得た。 (変異型Hptβの可溶化サンプル) pColdhptβの代わりにpColdhptβ(Cys266Ser)を用いて同様の処理を行い、変性状態の変異型Hptβおよび尿素(変性剤)を含む可溶化サンプルを得た。 4.Hisタグ精製 (野生型Hptβの精製) 結合バッファー(20mM Tris−HCl、500mM NaCl、6M尿素、1mM βメルカプトエタノール、pH8.0)で平衡化したカラム(Ni-NTA Superflow)に野生型Hptβの可溶化サンプルを添加した。洗浄バッファー(20mM Tris−HCl、500mM NaCl、6M尿素、1mM βメルカプトエタノール、30mMイミダゾール、pH8.0)で洗浄した後、溶出バッファー(20mM Tris−HCl、500mM NaCl、6M尿素、1mM βメルカプトエタノール、250mMイミダゾール、pH8.0)で野生型Hptβを溶出させて、変性状態の野生型Hptβおよび尿素(変性剤)を含む溶出画分(タンパク質溶液)を得た。 (変異型Hptβの精製) 野生型Hptβの可溶化サンプルの代わりに変異型Hptβの可溶化サンプルを用いて同様の処理を行い、変異型Hptβおよび尿素(変性剤)を含む溶出画分(タンパク質溶液)を得た。 5.リフォールディング条件の検討 変異型Hptβおよび尿素(変性剤)を含む溶出画分(タンパク質溶液)を表1に示す透析液を用いて一晩透析し、溶出画分から尿素を除去して変異型Hptβをリフォールディングさせた。 透析後のサンプルを遠心分離(15000×g、4℃、20分間)して変異型Hptβの凝集状態を確認した。表2は、各透析液についての変異型Hptβの凝集状態を示す表である。 表2の結果から、0.02%以上臨界ミセル濃度(約0.25%)未満のSDSを透析液に添加することで、変性状態の変異型Hptβを凝集を抑制しつつリフォールディングさせうることがわかる。 6.野生型Hptβと変異型Hptβのリフォールディング効率の比較 野生型Hptβおよび尿素(変性剤)を含む溶出画分(タンパク質溶液)を0.1%SDSを含む10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で透析して、野生型Hptβをリフォールディングさせた(尿素の除去)。次いで、活性を有する野生型Hptβを含むサンプルを10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)(SDS非含有)で透析して、このサンプルからSDSを除去した。透析後のサンプルを遠心分離(15000×g、4℃、20分間)して凝集物を除去し、上清中のタンパク質(野生型Hptβ)の濃度をブラッドフォード法(プロテインアッセイキット;バイオ・ラッド)により測定した。 同様に、変異型Hptβおよび尿素(変性剤)を含む溶出画分(タンパク質溶液)を0.1%SDSを含む10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)で透析して、変異型Hptβをリフォールディングさせた(尿素の除去)。次いで、活性を有する変異型Hptβを含むサンプルを10mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)(SDS非含有)で透析して、このサンプルからSDSを除去した。透析後のサンプルを遠心分離して凝集物を除去し、上清中のタンパク質(変異型Hptβ)の濃度を測定した。 図1は、透析後のサンプル中の野生型Hptβおよび変異型Hptβの濃度を示すグラフである。野生型Hptβおよび変異型Hptβのいずれについても、縦軸は透析前の溶出画分中のタンパク質(Hptβ)の濃度を100としたときの相対濃度を示している。 図1のグラフに示されるように、0.1%SDSを含む緩衝液を用いて透析を行うことで、変性剤を除去してリフォールディングさせても、68%という高い収率でリフォールディング後の野生型Hptβ(活性を有する野生型Hptβ)を回収することができた。また、変異型Hptβの場合には、84%とさらに高い収率でリフォールディング後の変異型Hptβを回収することができた(38.7mg/L培地)。 以上のことから、本発明の製造方法は、活性を有する野生型Hptβサブユニットを高い収率で製造しうることがわかる。また、本発明の変異型Hptβサブユニットを用いることで、さらに高い収率でHptβサブユニットを製造しうることがわかる。 [実施例2] 本実施例では、野生型Hptβおよび変異型Hptβの保存安定性を調べた結果を示す。 1.長期保存に対する安定性試験 実施例1と同様の手順で調製したリフォールディング後の野生型Hptβを含むサンプル(SDSを除去したもの)を4℃で7日間または13日間静置した。静置後のサンプルを遠心分離(15000×g、4℃、20分間)して凝集物を除去し、上清中のタンパク質(野生型Hptβ)の濃度をブラッドフォード法により測定した。 同様に、実施例1と同様の手順で調製したリフォールディング後の変異型Hptβを含むサンプルを4℃で7日間または13日間静置した。静置後のサンプルを遠心分離して凝集物を除去し、上清中のタンパク質(変異型Hptβ)の濃度をブラッドフォード法により測定した。 図2は、静置後のサンプル中の野生型Hptβおよび変異型Hptβの濃度を示すグラフである。野生型Hptβおよび変異型Hptβのいずれについても、縦軸は静置前(0日)のサンプル中のタンパク質(Hptβ)の濃度を100としたときの相対濃度を示している。 図2のグラフに示されるように、野生型Hptβおよび変異型Hptβのいずれについても、7日間静置してもほとんど変性することはなかったが、13日間静置すると、野生型Hptβは29%が変性してしまったのに対し、変異型Hptβはわずか13%しか変性しなかった。以上のことから、本発明の変異型Hptβサブユニットは、野生型Hptβサブユニットに比べて長期保存に対する安定性が顕著に高いことがわかる。 2.凍結融解に対する安定性試験 実施例1と同様の手順で調製したリフォールディング後の野生型Hptβを含むサンプルを−35℃で凍結させた。凍結したサンプルを室温で融解させた後、融解させたサンプルを遠心分離(15000×g、4℃、20分間)して凝集物を除去し、上清中のタンパク質(野生型Hptβ)の濃度をブラッドフォード法により測定した。 同様に、実施例1と同様の手順で調製したリフォールディング後の変異型Hptβを含むサンプルを−35℃で凍結させた。凍結したサンプルを室温で融解させた後、融解させたサンプルを遠心分離して凝集物を除去し、上清中のタンパク質(変異型Hptβ)の濃度をブラッドフォード法により測定した。 図3は、凍結前および融解後のサンプル中の野生型Hptβおよび変異型Hptβの濃度を示すグラフ(N=3)である。 図3のグラフに示されるように、野生型Hptβは凍結融解により96%が変性してしまったが、変異型Hptβは凍結融解をしてもわずか42%しか変性しなかった。以上のことから、本発明の変異型Hptβサブユニットは、野生型Hptβサブユニットに比べて凍結融解に対する安定性が顕著に高いことがわかる。 本発明は、活性を有するHptβサブユニットを高い収率で製造することができるため、例えば、Hptβサブユニットを用いたバイオセンサの製造および開発などに有用である。野生型Hptβおよび変異型Hptβの収率を示すグラフ野生型Hptβおよび変異型Hptβの長期保存に対する安定性を示すグラフ野生型Hptβおよび変異型Hptβの凍結融解に対する安定性を示すグラフ ハプトグロビンβサブユニットおよび変性剤を含むタンパク質溶液を準備するステップと、 第1の溶液を用いて透析または希釈を行うことにより前記タンパク質溶液中の前記変性剤の濃度を低下させて、変性状態の前記ハプトグロビンβサブユニットをリフォールディングさせるステップと、を含み、 前記第1の溶液は、ドデシル硫酸ナトリウムをその臨界ミセル濃度未満の濃度で含む、 活性を有するハプトグロビンβサブユニットの製造方法。 第2の溶液を用いて透析または希釈を行うことにより、前記変性剤の濃度を低下させたタンパク質溶液中の前記ドデシル硫酸ナトリウムの濃度を低下させるステップをさらに含む、請求項1に記載の製造方法。 前記第1の溶液は、ドデシル硫酸ナトリウムを0.02〜0.25%の濃度で含む、請求項1に記載の製造方法。 前記ハプトグロビンβサブユニットは、野生型ハプトグロビンβサブユニットの105位のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換されている変異型ハプトグロビンβサブユニットである、請求項1に記載の製造方法。 前記他のアミノ酸残基はセリン残基である、請求項4に記載の製造方法。 前記変異型ハプトグロビンβサブユニットは、配列番号2のアミノ酸配列を有する、請求項5に記載の製造方法。 野生型ハプトグロビンβサブユニットの105位のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換されている、変異型ハプトグロビンβサブユニット。 前記他のアミノ酸残基はセリン残基である、請求項7に記載の変異型ハプトグロビンβサブユニット。 配列番号2のアミノ酸配列を有する、請求項8に記載の変異型ハプトグロビンβサブユニット。 【課題】ハプトグロビンβサブユニットの凝集を抑制しつつリフォールディングさせることができる、活性を有するハプトグロビンβサブユニットの製造方法を提供すること。【解決手段】(1)ハプトグロビンβサブユニットおよび変性剤を含むタンパク質溶液を準備し、(2)準備したタンパク質溶液から透析により変性剤を除去して、変性状態のハプトグロビンβサブユニットをリフォールディングさせる。このとき、陰イオン性界面活性剤をその臨界ミセル濃度未満の濃度で含む透析液を用いて透析を行い、タンパク質溶液から変性剤を除去する。【選択図】図1配列表20090825A16333全文3 ハプトグロビンβサブユニットおよび変性剤を含むタンパク質溶液を準備するステップと、 第1の溶液を用いて透析または希釈を行うことにより前記タンパク質溶液中の前記変性剤の濃度を低下させて、変性状態の前記ハプトグロビンβサブユニットをリフォールディングさせるステップと、を含み、 前記第1の溶液は、ドデシル硫酸ナトリウムをその臨界ミセル濃度未満の濃度で含む、 活性を有するハプトグロビンβサブユニットの製造方法。 第2の溶液を用いて透析または希釈を行うことにより、前記変性剤の濃度を低下させたタンパク質溶液中の前記ドデシル硫酸ナトリウムの濃度を低下させるステップをさらに含む、請求項1に記載の製造方法。 前記第1の溶液は、ドデシル硫酸ナトリウムを0.02〜0.25%の濃度で含む、請求項1に記載の製造方法。 前記ハプトグロビンβサブユニットは、野生型ハプトグロビンβサブユニットの105位のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換されている変異型ハプトグロビンβサブユニットである、請求項1に記載の製造方法。 前記他のアミノ酸残基はセリン残基である、請求項4に記載の製造方法。 前記変異型ハプトグロビンβサブユニットは、配列番号2のアミノ酸配列を有する、請求項5に記載の製造方法。 野生型ハプトグロビンβサブユニットの105位のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換されている、変異型ハプトグロビンβサブユニット。 前記他のアミノ酸残基はセリン残基である、請求項7に記載の変異型ハプトグロビンβサブユニット。 配列番号2のアミノ酸配列を有する、請求項8に記載の変異型ハプトグロビンβサブユニット。 活性を有するハプトグロビンβサブユニットと、臨界ミセル濃度未満の濃度のドデシル硫酸ナトリウムとを含む、高比重リポタンパク質測定用溶剤。 前記ドデシル硫酸ナトリウムの濃度は、0.02〜0.25%である、請求項10に記載の高比重リポタンパク質測定用溶剤。 前記ハプトグロビンβサブユニットは、野生型ハプトグロビンβサブユニットの105位のシステイン残基が他のアミノ酸残基に置換されている変異型ハプトグロビンβサブユニットである、請求項10に記載の高比重リポタンパク質測定用溶剤。 前記他のアミノ酸残基はセリン残基である、請求項12に記載の高比重リポタンパク質測定用溶剤。 前記変異型ハプトグロビンβサブユニットは、配列番号2のアミノ酸配列を有する、請求項13に記載の高比重リポタンパク質測定用溶剤。