タイトル: | 公開特許公報(A)_金属表面の酸化性解析方法および装置 |
出願番号: | 2008213871 |
年次: | 2010 |
IPC分類: | G01N 27/416 |
大久保 利一 高田 健央 原 裕一朗 西原 裕貴 JP 2010048697 公開特許公報(A) 20100304 2008213871 20080822 金属表面の酸化性解析方法および装置 凸版印刷株式会社 000003193 大久保 利一 高田 健央 原 裕一朗 西原 裕貴 G01N 27/416 20060101AFI20100205BHJP JPG01N27/46 301M 4 5 OL 10 本発明はリードフレームなどの金属材料の表面の酸化を解析することに関わり、さらに詳しくはそのような金属材料の表面が熱履歴等によって酸化される状態を電気化学的に解析するための方法およびそれに用いる装置に関する。 エレクトロニクス業界では、リードフレーム、銅箔など、多種の金属材料が、電気回路を形成するための材料として用いられている。このような電気回路を形成する金属材料としては、電気伝導度が極めて高く、価格が安いため銅が主として用いられる。また、易加工性や機械的強度などの特性を付与するために、銅合金として使用する場合もある。これらは、板状材や箔の形態に加工し、さらに、他の金属材料や有機材料と組み合わせて、半導体パッケージやプリント基板などの電子部品として形成される。その組み合わせの形態は、例えば、はんだ付け、樹脂ラミネート、樹脂モールドなどである。 このような金属材料を他の金属材料や有機材料と組み合わせて用いる時には、材料間の密着性が重要であり、それは、金属材料の表面に生成する酸化物層により損なわれることが多い。例えば、酸化物層が厚く生成している場合にはんだ付けを行なうと、フラックス等を作用させても表面にはんだが濡れ広がらず、はんだ付け不良となりやすい。 表面酸化物層が密着性に関与するリードフレームの事例について説明する。リードフレームは、銅や銅合金などからなる板状素材をエッチングまたは、スタンピングによって回路となるリードパターンを形成したものであり、リードパターンは、ワイヤボンディングによって半導体端子と接合するインナーリードと、プリント基板等への接合端子となるアウターリードがある。インナーリードに半導体をワイヤボンディングするにあたり、半導体チップをダイペーストで固定するダイボンディング、半導体の端子とインナーリードのワイヤボンディングの工程で、最高温度180〜400℃の熱履歴を経る。条件は使用する材料や当事者の条件設定により変化する。この工程は、大気中で行なわれるため、リードフレームの銅や銅合金が露出している部分は空気酸化を受け、表面に酸化物層が生成する。半導体チップをワイヤボンディングした後、インナーリードの部分は全体的に樹脂でモールドされる。ところが、前記の熱履歴において酸化物層が厚くなると、このモールドの工程後にリードとモールド樹脂の密着性が損なわれ、剥離が生じる。このような剥離部では、環境中の水分などの侵入が起こったり、動作環境における温度差等により、その部分を起点としたパッケージクラックが生じたりして電子部品の欠陥となる。 前述のような熱履歴で生じる銅表面の酸化物層は、熱履歴の条件(温度、時間)のみならず、銅素材の成分や表面の表面状態によって、その成長の状態が変化する。非特許文献1では、素材の銅合金組成や表面状態に着目して、酸化膜の生成と剥離の機構を調べ、表面に生成する酸化物が酸化第1銅(Cu2O)ではなく、酸化第2銅(CuO)であることが密着性の低下に影響していることを示している。このような酸化物の組成が、銅素材の組成によって異なることが示されている。 リードフレームの製造では、必要に応じて組成の異なる銅合金素材を使うが、リードパターンを形成した後に、薄い銅めっき(銅ストライクめっき)を行なって、全体的にその表面の組成を純銅とする場合がある。この工程により、表面の組成は比較的均一となるが、銅めっき条件の変動による若干の表面状態の変化は残る。この工程の後、インナーリード部に、必要部にのみ銀めっき液が接触するようマスキングして「部分銀めっき」を施し、次に、マスキングの不十分な部分に余分に析出した銀めっきを「銀剥離」工程において除去する。このように、リードフレームの製造工程では、素材表面は多様な薬品に接触し、また、処理条件や洗浄条件によって表面の汚染度などの状態が変化するため、その影響を受けて半導体実装における熱履歴による表面に生成される酸化物層の状態が変わる。この現象は、熱履歴後のリードフレーム表面の変色の様子で確認できる。例えば、厚い酸化物層が生成した場合には、表面は黒褐色となり、このような酸化物層は素材との密着性が悪いため、その上に粘着テープを貼ってそれを剥離すると、テープに酸化物層が転写される。酸化物層が薄い場合は、表面は褐色であり、同様にテープによる試験を行っても、テープに酸化膜層が転写されない。 また、リードフレームの製造では、上記の工程の後、必要に応じて、変色防止処理が行われる。これは、リードフレームの製造後に出荷し、半導体実装が行なわれるまでには、長い期間に渡り保管されるため、その期間内に環境中の湿度の影響で、表面が変色することを防止するものである。しかし、これは、リードフレーム表面に変色防止剤の成分を吸着せしめるものであり、その成分によっては、半導体実装における熱履歴により、表面酸化を促進して樹脂モールドにおける密着性を悪化させるものもあるため、適用においては注意が必要である。 以上のように、熱履歴により生成される表面酸化膜の状態は、銅素材の表面の状態により影響を受けるが、その表面の状態を変化させる因子は多岐に渡るため、表面状態の管理が必要である。一般的には表面状態の解析手法として、XPS、Augerなどの分光光度法による機器分析、電子顕微鏡による表面観察などの方法があるが、大規模な設備であるので、日常的に生産現場で迅速に実施するには不向きである。 簡便な金属表面酸化物の解析方法として、特許文献1では、連続電気化学還元分析法(SERA法)を用いて、金属部品表面の酸化物を分析する手法が開示されている。この手法では、電解液中に水素過電圧の高い陰極と接触状態にした板状金属材料を置き、不溶性電極のアノードの間に電流を流すことで、板状金属材料の表面の金属酸化物を連続的に還元させ、その間に時間の関数として電圧と還元電流を測定する。その測定値を分析して、板状金属材料のはんだ付け性、すなわち、表面に生成される酸化物の状態を解析する。ここでは、クロノポテンシオメトリー法と呼ばれる従来から存在する電気化学手法を応用しており、系に一定の電流を印加して、電位の応答を計測している。主として、測定結果としては、時間−電極電位曲線が得られる。電極電位は、表面に存在する酸化物層の還元反応に相当する電位値を示すため、反応の同定ができる。例えば、表面に酸化第2銅、酸化第1銅の2種の酸化物層が存在する場合、時間−電極電位曲線は階段状の形態となり、その相当する電極電位の経過時間によって、酸化物種の存在量を知ることができる。 以下に公知文献を記す。回路実装学会誌 11(6) 423-428(1996)特開平6−331598号公報 リードフレームなどの金属材料では、その表面に生成する酸化物層の解析、管理が重要であるが、製造現場でも実施できる簡便な手法は限定されていた。特許文献1では、SERA法で電気化学的手法を用いて比較的簡便に分析することができる。しかし、この方法は、クロノポテンシオメトリー法を応用したものであり、主として測定結果として時間−電極電位の曲線が得られるが、実際の系においては、明確な階段状の形態を得ることは困難である。平坦部から次の平坦部への変化が緩慢な場合があり、酸化物層の定量が困難であった。また、平坦な領域の示す電位が、必ずしも理想的な電極電位の値と一致せず、同定が困難な場合があった。 上記課題を解決するための本発明の1つの形態は、表面に銅が露出した状態の板状金属材料が、180℃以上の熱履歴により表面が酸化される状態を解析する方法であり、板状金属材料を前記の熱履歴と同じか、あるいはその最高温度以上の温度で空気中において加熱したものをカソードとし、不溶性電極をアノードとし、0.5モル/L以上のリチウムイオンを含むアルカリ性水溶液である電解液中に浸漬し、共に当該電解液に浸漬した参照電極とカソード間の電位を規制した電位走査法により電位と還元電流の関係を求め、その電位と還元電流の関係から得られた還元電流ピークの電位、形状、および面積で板状金属材料の表面に生成した酸化物を区別することを特徴とする金属表面の酸化性解析方法である。 本方法では、電位走査法を用い、電位と還元電流の関係を求め、計測の結果が反応に相当する電位における還元電流ピークという形態で現れるため、結果の解析が明確化できる。また、還元電流ピークの分離は、0.5モル/L以上のリチウムイオンを含むアルカリ性水溶液を電解液として使用することで一層向上することができる。 また、本発明は、前記板状金属材料が、エッチングまたはスタンピングによって回路となるリードパターンを形成し、少なくとも表面全体に銅ストライクめっき処理と、部分銀めっき、銀剥離処理を行い、さらに、必要に応じて変色防止処理を施したリードフレームであることを特徴とする上記の金属表面の酸化性解析方法である。 また、本発明は、金属材料の表面に生成する酸化物を解析するため、当該酸化物が生成された金属材料をカソードとし、アノードに不溶性電極を用い、0.5モル/L以上のリチウムイオンを含むアルカリ性水溶液である電解液中に浸漬し、共に当該電解液に浸漬した参照電極とカソード間の電位を規制した電位走査法により電位と還元電流の関係を求める機能と、その電位と還元電流の関係から還元電流ピークの電位と大きさと面積により酸化物の組成と厚さを求める機能を有することを特徴とする金属表面の酸化物解析装置である。 本発明では、得られた電位−還元電流曲線において、反応に相当する電位における還元電流ピークという形態で結果が現れるため、その電位、形状、還元電流ピーク面積を用いて結果の解析が明確化できる。 また、本発明は、前記電位走査法により電位と還元電流の関係を求める機能が、少なくとも、ポテンシオスタット、ファンクションジェネレータ、計測データ記録装置、解析用コンピュータ、および、電位と還元電流の関係から還元電流ピークの位置、形状、面積を解析して、酸化物の組成と厚さを求める機能を有するソフトウェアからなることを特徴とする上記の金属表面の酸化物解析装置である。 本発明の金属表面の酸化性解析方法は、得られた電位−還元電流曲線において、反応に相当する電位における還元電流ピークという形態で結果が現れるため、その電位、形状、還元電流ピーク面積を用いて金属材料の表面に生成した酸化物の特性を明確に区別できる効果がある。これにより、本発明は、製造現場でも金属材料の表面に生成する酸化物層の解析、管理を実施できる簡便な手法であり、さらに、計測した結果の解析が従来よりも明確化できる効果がある。また、特に、リードフレームでは、多くの工程を経ることで表面状態が変化し、それが熱履歴を受けた時の酸化膜層の生成に大きな影響を持つため、本発明の適用の効果が最も明確に得られる。 以下に本発明による金属表面の酸化性解析方法および酸化物解析装置を、その一実施の形態に基いて説明する。図1は、本実施形態の金属表面の酸化性を解析するための電気化学測定装置の概略図である。酸化膜層を有する板状金属材料1は、容器中に加えられた電解液2中に、カソードとして、不溶性電極3、参照電極4と共に浸漬されている。これらの電極には、ポテンシオスタット5の端子が接続されている。ポテンシオスタット5には、ファンクションジェネレータ6から電位走査法を行なうために必要な電圧が供給される。この電圧がポテンシオスタット5を経て電極に印加され、それに対応する電極での還元電流値がポテンシオスタット5において計測される。ポテンシオスタット5には、計測データ記録装置7が付設され、得られた還元電流値を電圧値に対応させたものが記録される。このようにして、カソードである板状金属材料1に印加される電圧と信号として得られた還元電流の関係を求める。この計測データ記録装置7に記録された電圧と還元電流の関係は、解析用コンピュータ8において解析する。計測データ記録装置7が解析用コンピュータ8に内蔵する場合もあるが、別々に設置しておいてもよい。 そして、解析用コンピュータ8には、酸化物の組成や厚さを求める機能を有するソフトウェアをインストールしておき、測定で求められた結果を解析するために使用する。 (電気化学測定条件) 図1の構成の装置を用い、本実施形態の方法で得た電位−還元電流曲線の例を図2に示す。これは、無酸素銅板を温度 300℃で60分間、大気中で加熱した板状金属材料1についての測定結果である。本実施形態の電気化学測定条件は、電解液2は1モル/L水酸化リチウムと6モル/L水酸化カリウムを含むアルカリ性水溶液を用い、アノードの不溶性電極3は白金めっきチタン電極、参照電極4は銀/塩化銀電極を用いた。測定においては、−0.7(V vs.Ag/AgCl)から−1.6(V vs.Ag/AgCl)まで10mV/sの等速度で電位走査する操作を連続して2回繰り返す。1回目の電位走査を行うと、板状金属材料1の表面の酸化物が金属銅に還元される。そのため、1回目の電位走査で測定される電流は、酸化物の還元電流と、それ以外の反応の電流(水の還元電流や不純物の還元電流など)の和が測定される。1回目の電位走査が終わったそのままの状態で、2回目の電位走査を行うと、板状金属材料1の表面の酸化物は既に無くなっているので、酸化物の還元電流は流れず、それ以外の反応の電流のみが測定される。そのため、同じ電位値における1回目の電位走査の電流値から2回目の電位走査の電流値を差し引くことによって電位と酸化物の還元電流の関係を得る。 (電位−還元電流曲線のCuOの還元電流ピークとCu2Oの還元電流ピーク) この測定により得た図2のグラフには、いくつかの(還元電流のマイナスの値の)還元電流ピークを見出すことができる。これらは、前記の加熱処理で板状金属材料1の表面に生成していた酸化物の還元をあらわす電流ピークである。文献(S.Nakayama et.al J. Electrochem.Soc, 148(11) B467 (2001) )においては、電解液2である1モル/L水酸化リチウムと6モル/L水酸化カリウムを含むアルカリ性水溶液での、還元電流ピークの帰属が示されており、−0.95〜−1.1(V vs.Ag/AgCl)においてCuO、および、−1.3〜−1.5(V vs.Ag/AgCl)においてCu2Oの還元電流ピークが現れる。図2で現れている還元電流ピークは、その還元電流ピークがあらわれる電位がこの領域から少しシフトし、また、ショルダーとなっているものや小さい還元電流ピークも入れると還元電流ピークの数は2つではないが、これは、酸化膜を構成する酸化銅(CuO)または、亜酸化銅(Cu2O)の酸素欠陥の程度が異なり、結晶型が変わったものが金属銅に還元される場合に、還元電位が若干変化するものと考えられる。結局、−0.7〜−1.1(V vs.Ag/AgCl)の低電位側においてCuO、−1.1〜−1.5(V vs.Ag/AgCl)の高電位側でCu2Oの還元電流ピークが現れているものと考えられる。 これらの還元電流ピークの電気量(還元電流の積算量)から、酸化膜の厚さを組成(CuOおよびCu2O)毎に分離して求めることができる。これは、本測定における酸化膜の還元反応が、CuOは、−0.7〜−1.1(V vs.Ag/AgCl)の低電位側において、 CuO + H2O + 2e → Cu + 2OH- (1)Cu2Oは、−1.1〜−1.5(V vs.Ag/AgCl)の高電位側において、 Cu2O + H2O + 2e → 2Cu + 2OH- (2)であることから、電位−還元電流曲線から求められる電気量により、ファラデーの式を用いた理論計算から、酸化膜層の比重(CuO:6.4、Cu2O:6.0)を勘案して求められる。すなわち、−0.7〜−1.1(V vs.Ag/AgCl)の低電位側における電気量をA(C)、−1.1〜−1.5(V vs.Ag/AgCl)の高電位側における電気量をB(C)、および、板状金属材料1の表面積をS(cm2)とすると、 CuOの膜厚(nm) = 260*A/S (3) Cu2Oの膜厚(nm) = 500*B/S (4)となる。 本実施形態においては、銅が露出した金属材料を加熱して表面に酸化膜層を形成するが、この条件は、大気中で180℃以上の熱履歴を経ることである。時間は、当該材料の使用目的により、適宜設定される。180℃以下では、銅表面に測定によって検出しうる量の酸化膜層が形成され難いので、それ以上の温度が適当である。上限は、特に設定する必要はないが、本実施形態ではエレクトロニクス等の用途に用いる銅素材の特性解析を意図したものであるため、不必要な高い温度設定は無意味である。また、時間は、測定において明確な還元電流ピークが得られる量の酸化膜となるよう温度と勘案して設定すべきである。 電気化学測定の条件は、先に、(電気化学測定条件)で説明したものが適当であり、詳細を補足する。測定は常温でよいが、15〜30℃が望ましい。通常、測定用セルは電解液2を50〜500mL程度貯えられる容器を使用する。不溶性電極3は、白金、白金めっきチタン、酸化イリジウム電極などが適当である。このほか、ニッケル、ステンレスなどアルカリ溶液中で溶解しない金属材料でも使用できる。参照電極4は、銀/塩化銀電極が最も使いやすいが、飽和カロメル電極(SCE)、標準酸化水銀電極なども使用できる。板状金属材料1であるカソードおよび不溶性電極3の大きさは、容器の大きさにもよるが、表面積で5〜50cm2程度が適当である。板状金属材料1、不溶性電極3、参照電極4は互いに相対位置が固定できるように治具に取り付けておくとよい。また、板状金属材料1は、測定中に電解液2に接触する部分の表面積が変わらないようにして固定する。電位の走査速度は、0.1〜1000mV/sまで変化できるが、特に1〜100mV/sが適当である。 解析用コンピュータ8にインストールされている酸化物の組成や厚さを求める機能を有するソフトウェアは、一連の測定で取り込んだ電位−還元電流曲線のデータから、−0.7〜−1.1(V)と−1.1〜−1.5(V)の電位範囲を設定してその−0.7〜−1.1(V)の低電位側における電気量と−1.1〜−1.5(V)の高電位側における電気量を計算し、(3)、(4)式よりそれぞれの酸化膜の厚さに換算する。また、電位−還元電流曲線の形状の解析のため、還元電流ピーク認識、還元電流ピーク分離などの機能を有することが望ましい。 以下に本発明の詳細、効果等について、実施例を挙げて説明する。<実施例1> 同じ無酸素銅板の板状金属材料1を以下の異なる条件で、空気中で熱履歴を与えたものを測定サンプルとし、電位−還元電流曲線を得た。サンプル番号 温度 時間(1) 300℃、 60分(2) 300℃、 40分(3) 300℃、 10分 測定は、1モル/L水酸化リチウムと6モル/L水酸化カリウムを含むアルカリ性水溶液を電解液2とし、白金めっきチタン板をアノードの不溶性電極3とする。不溶性電極3と共に当該電解液2に浸漬した参照電極4とカソードである板状金属材料1間の電位を規制して電位走査法を行なった。ここでは、浸漬した参照電極4とカソード間の電位を−0.7から−1.6(V vs.Ag/AgCl)まで10mV/sの等速度で電位走査する操作を続けて2回繰り返し、同じ電位値における1回目の電位走査の電流値から2回目の電位走査の電流値を差し引くことによって電位と酸化物の還元電流の関係を得た。図2、3、4は、それぞれ、(1)、(2)、(3)の測定サンプルの板状金属材料1に対して得られた電位−還元電流曲線である。 図2、3、4では、それぞれ、次の電位において還元電流ピークまたはショルダーが現れている。図番 形状 電位 強度図2 還元電流ピーク −0.96 (Vvs.Ag/AgCl) 弱 ショルダー −1.25 (Vvs.Ag/AgCl) 弱 還元電流ピーク −1.38 (Vvs.Ag/AgCl) 強図3 還元電流ピーク −0.96 (Vvs.Ag/AgCl) 中 還元電流ピーク −1.25 (Vvs.Ag/AgCl) 中図4 還元電流ピーク −1.25 (Vvs.Ag/AgCl) 中 これらの還元電流ピーク、ショルダーはその電位より、(1)−0.96 (Vvs.Ag/AgCl)、(2)−1.25 (Vvs.Ag/AgCl)、(3)−1.38 (Vvs.Ag/AgCl) の3種に分類され得る。(電位−還元電流曲線のCuOの還元電流ピークとCu2Oの還元電流ピーク)の説明で述べたように、これらの還元電流ピーク等は、−0.7〜−1.1(V vs.Ag/AgCl)の低電位側においてCuO、−1.1〜−1.5(V vs.Ag/AgCl)の高電位側でCu2Oの還元電流ピークが現れているものと考えられる。測定サンプル(1)〜(3)は、(3)→(2)→(1)の順に加熱時間による経時変化を示すものであり、時間が短い時点では−1.25 (Vvs.Ag/AgCl)のCu2Oの還元電流ピークが現れているが、加熱時間が延びると図3のように、それに加わって−0.96(Vvs.Ag/AgCl)のCuOの還元電流ピークが現れ、60分では図2のように、−0.96(Vvs.Ag/AgCl)のCuO、−1.25 (Vvs.Ag/AgCl)のCu2Oの還元電流ピークは小さくなり、−1.38 (Vvs.Ag/AgCl)のCu2Oの還元電流ピークが支配的になることがわかる。このように、図2〜4より、本実施例の方法により、板状金属材料1の熱履歴により酸化膜の状態が著しく変化することを知ることができる。ただし、この熱履歴による変化は、ここで使用した無酸素銅板における結果なのであって、素材の銅結晶状態や表面の汚染の状態によってその傾向は異なるものとなる。 表1に、図2〜4の結果から求めたCuOとCu2O、およびその合計の酸化膜厚を示す。これは、(3)、(4)式から求めたものであり、本実施例により容易に酸化膜の厚さを定量的に求めることができた。 <実施例2> 銅合金からなるリードフレームである板状金属材料1に対し、本発明を適用した実施例を示す。銅合金材料であるEFTEC64T(古河電工)をエッチングまたはスタンピングによって回路となるリードパターンを形成した板状金属材料1に、異なる3日時において、表面全体に電解脱脂、銅ストライクめっき、部分銀めっき、銀剥離処理、変色防止処理を順次施した板状金属材料1を作製した。それらを、大気中で320℃、10分の熱履歴を付与した後に、実施例1と同様の電位走査法で電気化学測定を行なった。その結果を、図5に、板状金属材料1の面積当たりの還元電流密度で示す。いずれも−1.38 (Vvs.Ag/AgCl)のCu2Oの還元電流ピークが支配的に現れているが、その還元電流ピークの面積(横軸が電位で縦軸が還元電流密度で表されるグラフの還元電流ピークの形の面積)が異なり、さらに他の電位における還元電流ピークの有無や形状が異なっていることから、それぞれの特徴が区別でき、酸化膜の差異を把握することができる。このように、本発明によって、金属材料の表面に生成された酸化膜の特性を明確に区別して把握することが可能である。本発明の金属表面の酸化性解析方法を行なうための電気化学測定装置の概略図である。図1の構成の装置を用い、本発明の方法で得た電位−還元電流曲線であり、無酸素銅板を温度300℃で60分間、大気中で加熱した板状金属材料についての測定結果である。図1の構成の装置を用い、本発明の方法で得た電位−還元電流曲線であり、無酸素銅板を温度300℃で40分間、大気中で加熱した板状金属材料についての測定結果である。図1の構成の装置を用い、本発明の方法で得た電位−還元電流曲線であり、無酸素銅板を温度300℃で10分間、大気中で加熱した板状金属材料についての測定結果である。リードフレームに、異なる3日時において、電解脱脂、銅ストライクめっき、部分銀めっき、銀剥離処理、変色防止処理を順次施した板状金属材料を大気中で320℃、10分の熱履歴を付与した後、図1の構成の装置を用いて得た電位−還元電流密度曲線である。符号の説明1・・・板状金属材料2・・・電解液3・・・不溶性電極4・・・参照電極5・・・ポテンシオスタット6・・・ファンクションジェネレータ7・・・計測データ記録装置8・・・解析用コンピュータ 表面に銅が露出した状態の板状金属材料が、180℃以上の熱履歴により表面が酸化される状態を解析する方法であり、板状金属材料を前記の熱履歴と同じか、あるいはその最高温度以上の温度で空気中において加熱したものをカソードとし、不溶性電極をアノードとし、0.5モル/L以上のリチウムイオンを含むアルカリ性水溶液である電解液中に浸漬し、共に当該電解液に浸漬した参照電極とカソード間の電位を規制した電位走査法により電位と還元電流の関係を求め、その電位と還元電流の関係から得られた還元電流ピークの電位、形状、および面積で板状金属材料の表面に生成した酸化物を区別することを特徴とする金属表面の酸化性解析方法。 前記板状金属材料が、エッチングまたはスタンピングによって回路となるリードパターンを形成し、少なくとも表面全体に銅ストライクめっき処理と、部分銀めっき、銀剥離処理を行い、さらに、必要に応じて変色防止処理を施したリードフレームであることを特徴とする請求項1に記載の金属表面の酸化性解析方法。 金属材料の表面に生成する酸化物を解析するため、当該酸化物が生成された金属材料をカソードとし、アノードに不溶性電極を用い、0.5モル/L以上のリチウムイオンを含むアルカリ性水溶液である電解液中に浸漬し、共に当該電解液に浸漬した参照電極とカソード間の電位を規制した電位走査法により電位と還元電流の関係を求める機能と、その電位と還元電流の関係から還元電流ピークの電位と大きさと面積により酸化物の組成と厚さを求める機能を有することを特徴とする金属表面の酸化物解析装置。 前記電位走査法により電位と還元電流の関係を求める機能が、少なくとも、ポテンシオスタット、ファンクションジェネレータ、計測データ記録装置、解析用コンピュータ、および、電位と還元電流の関係から還元電流ピークの位置、形状、面積を解析して、酸化物の組成と厚さを求める機能を有するソフトウェアからなることを特徴とする請求項3に記載の金属表面の酸化物解析装置。 【課題】リードフレームなどの金属材料の表面に生成する酸化物層の定量、同定が製造現場でも実施できる簡便な手法を得る。【解決手段】板状金属材料を空気中において加熱したものをカソードとし、アノードを不溶性電極とし、0.5モル/L以上のリチウムイオンを含むアルカリ性水溶液である電解液中に浸漬し、共に当該電解液に浸漬した参照電極とカソード間の電位を規制した電位走査法により電位と還元電流の関係を求め、その電位と還元電流の関係から得られた還元電流ピークの電位、形状、および面積で板状金属材料の表面に生成した酸化物を解析する。【選択図】図5