タイトル: | 公開特許公報(A)_無機多孔体の観察試料および当該観察試料の作製方法 |
出願番号: | 2008137822 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | G01N 1/28 |
竹林 聖記 木村 正雄 JP 2009287941 公開特許公報(A) 20091210 2008137822 20080527 無機多孔体の観察試料および当該観察試料の作製方法 新日本製鐵株式会社 000006655 成瀬 勝夫 100082739 中村 智廣 100087343 鳥野 正司 100110733 佐々木 一也 100132230 竹林 聖記 木村 正雄 G01N 1/28 20060101AFI20091113BHJP JPG01N1/28 FG01N1/28 G 9 1b OL 11 2G052 2G052AA14 2G052AD32 2G052AD52 2G052EC02 2G052FA01 2G052GA35 2G052JA04 本発明は、無機多孔体内の細孔を電子顕微鏡でコントラスト良く観察するための試料、及び、当該試料の作製方法に関する。 シリカ、アルミナ、ゼオライト(アルミノ珪酸塩)、活性炭等の無機物の内部に無数の微細な細孔が空いている無機多孔体は、触媒担体、フィルター、吸着剤等の様々な用途に使用されており、その細孔径や細孔形状といった性状の違いによって性能が左右される。例えば、ゼオライトは分子サイズと同等なナノサイズの細孔径を有するため、分子篩作用によって特定の大きさの分子のみが細孔に拡散することが可能、あるいは特定の大きさの分子のみが細孔内で生成可能、といった形状選択性を有しており、このような特性は触媒、吸着剤、気体分離膜の各種用途において有用である。また、固液分離用フィルターとしての用途においては、流体の流速や捕捉可能な固体粒子径は、無機多孔体の細孔径に依存する。従って、無機多孔体の細孔径や細孔形状等の情報を把握することは、材料品質管理や各種用途に向けた材料設計において極めて重要である。 無機多孔体粒子の細孔径を評価する方法としては、液体窒素温度における窒素の表面吸着を解析する窒素吸着法や、水銀の毛細管降下を利用する水銀圧入法が従来から用いられてきた。しかしながら、これらの方法においては、粒子内での細孔径のばらつきや粒子毎の細孔径のばらつきを区別せずに測定するために、求められた細孔径分布は平均化されたものであり、また、細孔径が1nm〜数μmもの広範囲にわたるような細孔径分布を把握することは測定原理上容易ではない。このような測定上の弱点を補うためには、多くの粒子の断面を露出させて細孔の連結様式をも含めて組織観察する手法を併用することが必要となってくる。ここで、粒子表面を観察する手法では粒子内部構造を把握できないので、粒子断面を観察する手法のほうがより詳細な情報を得ることができる。 観察に用いる顕微鏡としては、光学式顕微鏡、電子顕微鏡、または電子分析装置を用いることができる。ここでいう光学式顕微鏡とは、CCDカメラと光学レンズとを搭載したマイクロスコープ、あるいは光学顕微鏡やレーザー顕微鏡のことであり、大気中で試料を観察できる利点がある。電子顕微鏡には、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等があり、より微細な観察が可能である。電子分析装置には、電子プローブマイクロアナリシス装置、オージェ電子分光装置、及び分析機能付きのSEMもしくはTEM等があり、元素の種類を分析することができる。これらのうち電子顕微鏡が分解能の点で優れており、特にTEMは、薄片試料を透過した電子線を拡大して像に表示するので最も高分解能な観察が可能である。しかし、TEM観察用の薄片試料作製には長時間を要するので、高頻度の観察にはSEMの方が適している。SEMは、試料に電子線を照射し試料表面から放出される二次電子の像を表示するもので、試料表面の凹凸や構成元素種に依存してコントラストがつくので形状や元素種を分析することができる。SEMでは、試料表面から弾性散乱される反射電子を検出して像にすることもでき、試料の構成元素の平均原子番号に依存してコントラストがつくので二次電子像よりもはっきりと元素種を区別して観察することもできる。どちらの電子顕微鏡にしても、観察試料の作製に高度な技術を要し、とりわけ、外径が1〜1000μmという中間的寸法の粒子の固定方法、及び粒子内の細孔をコントラストよく観察するための前処理方法が重要ポイントとなる。 観察試料作製方法として、粉体または多孔体を固定する方法が以下のように開示されている。特許文献1には、粉体と樹脂とを混合し、高圧圧縮し、加熱硬化させ、研磨により薄片化する方法が開示されている。また、特許文献2には、粉体と樹脂とを混合し、加圧薄片化することで薄片化に要する時間を短縮する方法が開示されている。しかしながら、特許文献1及び2の方法では、SEMによる二次電子像上に細孔の凹凸によるコントラスト差は少なく、細孔と骨格部とを区別してコントラスト良く観察することができなかった。また、特許文献3には、多数の空隙を有する観察対象物と樹脂とを混合し、密閉容器内で真空引きすることにより樹脂を含浸させ、その後樹脂を加熱硬化させてから研磨する方法が開示されている。この方法を用いれば、1〜100μm程度の比較的大きな孔を光学式顕微鏡で観察することは可能なものの、1〜100nm径の微細な細孔をSEMでコントラストよく観察することは困難であった。その原因は、大きな高分子で構成されている樹脂は高粘性も相まって微細な1〜100nm径の細孔内に充分には含浸されなかったため、細孔の凹凸による小さなコントラスト差だけを検出するしかなく、観察しにくかったためである。特開平7−209155特開2003−294594特開2005−331251Materials thermochemistry 6th. Edi., Pergamon Press, (1993),pp.257−323 本発明は、無機多孔体の細孔の電子顕微鏡観察における上記従来技術の現状に鑑みて、細孔部を容易に識別することを目的とするものであり、特に、1〜100nm径の微細な細孔でも識別が容易になるような無機多孔体の骨格構成部と細孔部とのコントラストを高めることができる観察試料、及び、その観察試料の作製方法を提供することを目的とする。 本発明は、無機多孔体の細孔の電子顕微鏡観察における上記課題を解決するものであって、その発明の要旨とするところは、以下に記す通りである。(1)無機多孔体の断面を電子顕微鏡で観察するための観察試料であって、前記無機多孔体よりも二次電子放出率の高い金属が前記無機多孔体の細孔に充填され、かつ、電子顕微鏡で観察するための観察面を備えたことを特徴とする無機多孔体の観察試料。(2)前記金属が充填された無機多孔体が樹脂中に固定されており、樹脂ごと研磨又は切断して前記観察面が形成されたことを特徴とする(1)に記載の無機多孔体の観察試料。(3)前記無機多孔体が粉体であることを特徴とする(2)に記載の無機多孔体の観察試料。(4)前記金属が、チタン、ジルコニウム、及びハフニウムからなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の無機多孔体の観察試料。(5)前記無機多孔体が、シリカ又はアルミナの少なくともいずれかであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の無機多孔体の観察試料。(6)前記無機多孔体がシリカであり、かつ前記金属がジルコニウムであることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の無機多孔体の観察試料。(7)(1)、(4)〜(6)のいずれかに記載の無機多孔体の観察試料の作製方法であって、前記無機多孔体に前記金属を含む充填剤を含浸法によって導入した後、加熱することで前記金属を前記無機多孔体内に充填し、当該金属を充填した無機多孔体を研磨又は切削して前記観察面を形成することを特徴とする無機多孔体の観察試料の作製方法。(8)(2)〜(6)のいずれかに記載の無機多孔体の観察試料の作製方法であって、前記無機多孔体に前記金属を含む充填剤を含浸法によって導入した後、加熱することで前記金属を前記無機多孔体内に充填し、当該充填された無機多孔体と樹脂とを混合し、硬化させた後、樹脂ごと切削又は研磨して前記観察面を形成することを特徴とする無機多孔体の観察試料の作製方法。(9)前記含浸法による無機多孔体への金属を含む充填剤の導入と加熱とを繰り返して、前記金属を前記無機多孔体内に充填することを特徴とする(7)又は(8)に記載の無機多孔体の観察試料の作製方法。 本発明のように無機多孔体の細孔に、当該無機多孔体よりも二次電子放出率の高い金属を充填することにより、断面の電子顕微鏡観察において、無機多孔体の骨格部と細孔部とを容易に識別することができる。更に、本発明の好適な実施形態を用いれば、1〜100nm径の微細な細孔でも識別が容易になる。 また、本発明の観察試料を用いれば、多数の無機多孔体の平均ではなく、個々の無機多孔体の細孔径や細孔形状等の情報を把握でき、各種用途に向けた無機多孔体材料の設計あるいは開発へ応用することも可能である。 以下、本発明を更に詳述する。 本発明者らは、無機多孔体の断面を顕微鏡で観察する際に、無機多孔体の細孔に予め二次電子放出率の高い金属を充填しておくと、無機多孔体の骨格部と細孔部とのコントラスト差が強調され、細孔部を識別し易いことを見出し、本発明に至った。 本発明において対象とする無機多孔体は、細孔を有する無機化合物であり、結晶質でも非晶質でも良い。例として、シリカ、アルミナ、ゼオライト、シリカアルミナ、チタニア、マグネシア、ジルコニア、またはこれらの混合物を挙げることができる。これらの無機多孔体は、例えば、シリカの場合は、水ガラスからシリカゾルを生成させてヒドロゲル化し乾燥させると得られる無機多孔体である。またアルミナは水酸化アルミニウムゾルを焼成して得られるような無機多孔体である。これらの無機多孔体は、様々な仕様の製品として市販されており、このような無機多孔体を観察することができる。 本発明における無機多孔体は、球状、多面体状、棒状、板状、筒状、シート状、撚糸状、不定形などのいかなる外形形状であっても、本発明の観察試料を作製することができる。また、本発明における無機多孔体は、粉体状、粒子状、繊維状、塊状などのいかなる形態でもよく、特に、微細な粉体に対して本発明は有効に作用する。 観察可能な例としては、例えば、外径が1〜1000μm、平均細孔径が1〜数百nmなどである。特に、光学顕微鏡では観察しにくい100nm以下の径の細孔を含んでいる無機多孔体に対しては、本発明の効果が高い。他の観察可能な例としては、1個の大きな塊状形態でもよく、例えば、直径15mm×厚さ1mmのような円板形状、又は直径2mm×長さ10mmのような棒状、あるいは1m×1m×1mmのようなシート状のものを観察しやすいように10mm×10mm×1mmのように小さく切り出したようなものでもよい。 無機多孔体の細孔内に充填する金属としては、無機多孔体の骨格部とのコントラスト差が大きくなるような物質が望ましい。研磨断面のような平坦な対象物面をSEMで観察する場合には、二次電子像の輝度は観察点から放出される二次電子の量に比例すると考えて良い。二次電子放出量は、照射電子電流と観察試料電流との差で求められ、これらの電流値はSEM装置で計測される。二次電子放出率は、二次電子放出量を照射電子電流値で割ったもので定義される。 二次電子放出率の値は厳密に理論説明されている訳ではないが、観察点の構成元素の平均原子番号とともに大きくなる傾向にある。また、観察点の構成物質の比重が大きいほうが、単位体積あたりの原子数すなわち電子数が多いために、二次電子放出率が大きくなる傾向にある。本発明における無機多孔体は平均原子番号と比重がともに比較的小さい(例えばシリカの比重は約2である)ことを考えれば、コントラスト差を大きくするために後述するような充填剤に含まれる金属の平均原子番号と比重は大きいほうが有利である。つまり原子番号が大きくてかつ比重が少なくとも3を超えるような重い金属が好ましく、例えば、ウラン、ビスマス、鉛、タリウム、金、白金、イリジウム、オスミウム、レニウム、タングステン、タンタルなどを挙げることができる。ただし、ウランには放射性があり、またビスマス、鉛、タリウム、オスミウムなどには有害性があるので取り扱いには特別な注意を払う必要がある。 上記条件を満足し、無機多孔体に充填されうる金属であれば、本発明に使用可能であるが、好ましくは、充填される金属としては、濡れ性の高いものが好適である。濡れ性は、固体表面上での液滴の密着性を表し、濡れ性が低いと充填される金属は、細孔に充填し難いことや、細孔の一部にしか導入されないこともあり、得られる顕微鏡像のコントラストが細孔形態を上手く反映しないことがあるからである。 充填される金属が、無機多孔体に対して濡れ性が良いかどうかは、実際に金属の充填処理を行い、その結果から判断すれば良いが、事前に把握したい場合は、市販の濡れ性測定装置などを用いて固体表面と液滴との接触角を測定することにより評価することができる。真空雰囲気電気炉を備えた装置であれば、金属を加熱溶融して溶融金属の濡れ性を評価することも可能である。一般に濡れ性の高い金属としては、金、錫、白金、銀、パラジウム、ロジウム、ルテニウムなどが知られており、逆に濡れ性の低い金属としては、タングステン、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデンなどが知られている。濡れ性は相手方の無機多孔体の種類にも依存するので、金属を含んだ充填剤は無機多孔体に応じて選択するのがよい。 しなしながら、融点の高い金属の接触角を測定することは容易ではない場合もあるので、濡れ性の高さを酸化物生成自由エネルギー変化の大きさで評価することもできる。その根拠を以下に述べる。金属が無機多孔体に濡れる現象は、一般に無機多孔体の最表面に存在する酸素原子に金属が密着すると考えることができる。密着界面上にある酸素原子に金属原子が強く化学結合するほど、密着性が強い。つまり、酸化しやすい金属ほど密着しやすい。酸化しやすさの指標は、金属が酸化されるときに発生する酸化物生成自由エネルギー変化で表現できる。 本発明における酸化物生成自由エネルギー変化(−ΔG)は、酸素1分子当たりの値とし、単位をKJ/酸素分子モルとし、室温での値とし、公知の熱化学データ集から参照することができる。例えば、非特許文献1(Materials thermochemistry 6th. Edi., Pergamon Press, (1993),pp.257-323)に、25℃における生成酸化物1モル当たりの酸化物生成エンタルピー(−ΔH298)が記載されており、この数値を−ΔGに換算することができる。例えば、シリコンが酸化してシリカが生成するときの−ΔH298は910.9と記載されており、シリカ(SiO2)は酸素1分子を含むので、シリカの−ΔGは910.9となる。また、アルミナの−ΔH298は1675.7と記載されており、アルミナ(Al2O3)は酸素1.5分子を含むので、1675.7を1.5で割った値の1117.1がアルミナの−ΔGとなる。本発明の無機多孔体のなかで最も小さな−ΔGを有するのはシリカであるので、本発明においてはシリカの−ΔG(910.9)よりも大きな値を有する生成酸化物の構成金属を濡れ性が高いと考える。例えば、ジルコニウム、ハフニウム、チタン、アルミ、2A族、3A族等がこれに該当する。ここで、2A族とは、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムであり、3A族とはスカンジウム、イットリウム、ランタノイド系、アクチノイド系である。ただし、アクチノイド系は不安定な放射性元素なので熱化学データが不十分で正確な−ΔGを特定できない元素もあり、ランタノイド系は希土類元素と呼ばれるように高価である。 このように、本発明における無機多孔体の細孔に充填される金属としては、重く、濡れ性が高く、有害性や放射性の無い金属が好適である。具体的には、スカンジウム、チタン、イットリウム、ジルコニウム、バリウム、ランタノイド系、及びハフニウムが好ましく、なかでも、チタン、ジルコニウム、及びハフニウムのような比重が大きくかつ安価な金属が好適である。この三種の金属のなかでは、チタンは原子番号が小さいため二次電子放出率がわずかに低く、ハフニウムは稀少のため比較的高価であるので、ジルコニウムが最も好適に用いることができる。 この金属を微細で三次元網目構造の細孔に充填するには、触媒を担体に分散させる担持法を適用することができる。担持法には、含浸法、沈殿法、イオン交換法、蒸着法、練込法等があるが、含浸法が最も制御性が良く簡易である。含浸法を更に細かく分類すると、吸着法、平衡吸着法、ポアフィリング法、蒸発乾固法、噴霧法などがあるが、ここではインシピエントウェットネス(Incipient Wetness方法)法を用いるのが簡易である。 インシピエントウェットネス法では、充填したい金属を含む充填剤が溶媒中に溶解している溶液を無機多孔体に少しずつ滴下し、無機多孔体表面が均一に濡れた状態かつ過剰な溶液が存在しない状態になったら滴下を終了させる。次に乾燥工程(例えば、空気中120℃、10時間)で溶媒を蒸発させる。なお、充填剤を溶解させるための溶媒は、水、有機溶媒のいずれでも良く、充填剤が溶解する溶媒であればよい。 なお、焼成工程(例えば、空気中500℃、10時間)まで実施すると、含浸工程において細孔内に均一に分散した充填剤が細孔内で凝集してしまったり、あるいは外表面で凝集してしまう可能性もあり、一部の細孔表面は充填剤に被覆されないという問題が発生することもあるので、本発明においては、このような焼成工程は実施しないことが好ましい。 インシピエントウェットネス法で充填剤を導入する場合には、使用できる媒体の体積は無機多孔体の全細孔容積と同一であるため、充填剤の媒体に対する溶解度が小さい場合には、導入量が不十分となる可能性がある。このような場合には、含浸工程、乾燥工程を複数回繰り返すことで、導入量を所望の量まで増加させることができる。 金属を含んだ充填剤の全導入量としては、充填剤が無機多孔体の全細孔表面に付着できる量が必要であり、全細孔表面積と付着厚さ(t)との積から求められる体積分とすればよい。ここでは、充填剤の付着厚さ(t)は、局所的な不均一はなく、細孔表面のどの位置でも同等であると仮定する。つまり、充填剤が凝集したりすることはなく、全ての細孔表面に均等に付着していくものと仮定する。充填剤の溶媒に対する溶解度をs、溶媒の比重をρ、無機多孔体の単位質量当たりの細孔体積(空間部の体積)をVfとすれば、無機多孔体の細孔体積と同体積の溶媒に溶解する充填剤の飽和溶解質量は、無機多孔体の単位質量当たりsρVf/(s+100)で与えられる。この値(m)が1回の含浸工程で導入できる充填剤量である。充填剤の比重をρM、無機多孔体の単位質量当たりの細孔の表面積をSとすれば、充填剤の導入質量は、無機多孔体の単位質量当たりρMStで与えられる。この値(M)が所望の充填剤量である。従って、溶解度sが小さい場合には、含浸工程と乾燥工程を(M/m)以上の回数繰り返す必要がある。ここで、M/m=ρMSt(s+100)/sρVfである。付着厚さ(t)は密着性を確保できるように1原子層厚さに相当する0.3nm以上が望ましい。無機多孔体の比体積Vfと細孔の比表面積Sは、前述の窒素吸着法又は水銀圧入法などの細孔評価方法で測定でき、市販の無機多孔体では製品検査値として明らかにされている。比重と溶解度は市販薬品の製品データシート等に記載されているデータを利用することができる。 本発明で用いる充填剤は、例えば細孔に充填する金属を含んだ塩からなるようにして、これらを溶媒に溶解させたものを例示することができる。そして、含浸法等の方法により無機多孔体に含浸させ、細孔内に所定の金属を充填するようにすればよい。このうち金属を含んだ塩については、硝酸塩、硫酸塩、塩化物、アセチルアセトナート塩、アルコキシド塩などの溶媒に溶解しやすい化合物を用いることができる。例えば、充填剤に含まれる金属がジルコニウムの場合には、オキシ硝酸ジルコニウム二水和物、硝酸ジルコニウム四水和物、硫酸ジルコニウム、塩化酸化ジルコニウム八水和物、ジルコニウムアセチルアセトナート、ジルコニウムイソプロポキシドなどを挙げることができる。また、充填剤に含まれる金属がチタンの場合には、硫酸チタン、塩化チタン、酸化硫酸チタン、チタニウムアルコキシドなどを挙げることができる。更に、充填剤に含まれる金属がハフニウムの場合には、塩化酸化ハフニウム八水和物、塩化ハフニウム、ハフニウムアルコキシドなどを挙げることができる。これらは一例であり、本発明の目的を達成することができる他の化合物もこの発明の範囲に含まれる。一方、溶媒としては、対象の塩が溶解しやすければ、水でも有機溶媒でもよい。適切な溶媒を選択するには、対象の塩を販売している試薬製造メーカーが製品安全データシート等の製品情報を公開しているので、これらを参考にすることもできる。例えば、オキシ硝酸ジルコニウム二水和物、硝酸ジルコニウム四水和物、硫酸ジルコニウム、及び塩化酸化ジルコニウム八水和物は水に可溶であり、ジルコニウムアセチルアセトナートはアセトン又はベンゼンに可溶であり、ジルコニウムイソプロポキシドは水又は2−プロパノールに可溶である。 本発明においては、上記のようにして細孔に金属を充填した無機多孔体を、機械研磨もしくはイオン研磨等を用いて研磨したり、又は集束イオンビーム装置等を用いて切削したりして、無機多孔体の断面を形成し、これを観察面として電子顕微鏡で観察するようにする。この際、無機多孔体が例えば比較的大きな10mm程度の寸法を有する場合には、それ単独で断面を形成してもよいが、無機多孔体が粒径10mmを下回るような比較的小さな粉体や粒子である場合には、例えば以下で述べるような方法によって無機多孔体を固定した上で断面を形成するようにしてもよい。 顕微鏡観察のために粒子状の無機多孔体の試料を固定するには、試料を樹脂で包埋することが一般的である。無機多孔体に充填剤を導入した後、図1aのようにガラスプレート13上で無機多孔体11と樹脂12とをよく混合する。この混合物を、図1bのように平板15の上に置かれた円筒状の型14に投入する。混合物内部に発生した気泡を除去する場合には必要に応じて密閉容器内で減圧することにより脱気してもよい。次に樹脂の特性に応じて大気中に放置または加熱することにより、樹脂を硬化させる。硬化後、必要に応じて型を外してもよい。樹脂としては、電子顕微鏡観察用として市販されている熱硬化性樹脂または光硬化性樹脂を用いればよい。特に熱硬化性のエポキシ樹脂を好適に用いることができる。樹脂の硬化温度、硬化時間、減圧脱気の必要性に関しては、樹脂メーカー推奨条件を採用すればよい。円筒状の型としては、金属パイプ、樹脂チューブ、あるいは電子顕微鏡観察用として市販されている埋込用モールドやカプセルを用いることができる。平板の材質は、硬化した樹脂が容易に剥離できるように、型の材質と同じ材質、フッ素樹脂、あるいはガラスなどにするのが便利である。 樹脂包埋された試料の断面を研磨する方法としては、機械研磨、イオン研磨、あるいはこれらを併用することができる。機械研磨では粗目から細目へと段階的に仕上げるために、研磨砥粒が付着した研磨紙またはラッピングシートを用いて粗い番手から順に予備研磨し、この時必要に応じて水やアルコールなどの溶媒を染み込ませて潤滑材として用いることもできる。次に、アルミナ懸濁液あるいはダイヤモンドペーストを研磨布に染み込ませたもので試料断面をバフ研磨することにより鏡面状に仕上げることができる。このようにして機械研磨された試料を更にイオン研磨することもできる。例えば、Arイオンを断面に照射して研磨する方法では0.1〜1mm程度の幅を研磨できる。 また、無機多孔体を固定する方法としては、樹脂で固定する代わりに、インジウムのような柔らかい金属に強く押しつけて固定することもできる。一方、無機多孔体を研磨しないで観察面を形成する方法としては、無機多孔体を炭素製または銅製等の導電性両面粘着テープなどの上に接着固定し、集束イオンビーム装置(FIB)を用いて無機多孔体にGaイオンを照射しながら直線状に走査して切削することによって断面を作製する手法もある。この手法は、近年のFIB装置の進歩により可能となったものであり、マイクロサンプリング法として広く普及しつつある。 無機多孔体の観察方法としては、前述の光学式顕微鏡、電子顕微鏡、電子分析装置のうち、電子顕微鏡を好適に用いることができる。特にSEMは操作が比較的簡易で汎用性があり、数十倍から数十万倍までの広い観察倍率において十分な分解能で観察可能であることから、マクロな孔からミクロな孔まで無機多孔体が持つ幅広い細孔径において適用可能である。 以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。(実施例1) 無機多孔体である多孔質シリカの細孔を観察する手順を以下に説明する。用いた多孔質シリカは、シリカヒドロゲルを噴霧乾燥させた市販品であり、平均粒径が200μmの球状であり、窒素吸着法で測定した平均細孔径は50nmであり、特殊仕様として細孔径分布が広めである。 充填剤としては、水100gに対してオキシ硝酸ジルコニウム二水和物を110g溶解させた水溶液を用い、前記多孔質シリカ10gに対し、この充填剤をインシピエントウェットネス法で含浸させた。含浸工程の繰返回数は、M/m=ρMSt(s+100)/sρVfに以下の特性値を代入したところ3.9であったので4回とした。特性値は、ρM=6.5g/cm3、S=200m2/g、t=1nm、s=38、ρ=1g/cm3、Vf=1.2cm3/gを用いた。その後、大気下のホットプレート上で120℃に加熱し、10時間乾燥させ、水を蒸発させた。 次に、ジルコニウム含浸済みの多孔質シリカと熱硬化性のエポキシ樹脂とを約1cm3ずつガラスプレート上にのせてよく混合した。この混合物を、フッ素樹脂製の平板の上に置かれた円筒状の型に注入した。これらをホットプレート上に置いて100℃で5分間保持して、熱硬化性のエポキシ樹脂を硬化させた。室温に自然冷却した後に、エポキシ樹脂の入った円筒状の型を平板から取り外した。なお、円筒状の型はフッ素樹脂製で、内径が3mm、深さが3mmのものを用いた。 このジルコニウム含浸済みの多孔質シリカが包埋されたエポキシ樹脂の底面を、エタノールを潤滑材として#400番と#800番の研磨紙で順に機械研磨した。最後にアルミナ懸濁液を研磨布に染み込ませてバフ研磨することにより鏡面状に仕上げた。SEM観察において観察試料への電子の帯電による顕微鏡像の乱れを予防するために、市販のカーボンコーターを用いて、観察試料研磨面に炭素の導電性薄膜を約10nm厚さで均一に蒸着させた。 多孔質シリカの断面のSEM二次電子像を図2に示す。SEM観察条件としては、照射電子の加速電圧を5KV、観察倍率を5万倍とした。明部が細孔に含浸されたジルコニウムであり、暗部が多孔質シリカの骨格を示しており、両者を区別して観察することができた。これら細孔の直径は数十nmであり、平均細孔径の50nmと同程度であることがわかる。(実施例2) 充填剤として水100gに対して硫酸チタンを24g溶解させた水溶液を用い、この充填剤を多孔質シリカに含浸させた以外は実施例1と同じにして、実施例1と同じ製造ロットの多孔質シリカの観察試料を作製した。ここで、含浸工程の繰返回数については、M/m=16.4であったことから17回とした。この多孔質シリカをSEM観察すると、図2と同様な明瞭な明暗が観察され、微細な細孔を観察することが可能であった。[比較例] ジルコニウムなどの充填剤を一切含浸せず、その他の条件は実施例1と同じにして、実施例1と同じ製造ロットの多孔質シリカの観察試料を作製した。 このようにして作製した観察試料のSEM二次電子像を図3に示す。図2に見られるような微細な明部ははっきりとは観察されず、充填剤無くしては細孔構造を観察しにくいことがわかる。細かく見ると細孔構造の骨格の凹凸を反映してかすかなコントラストがついているので、細孔構造の存在をかろうじて認識できるが、細孔径を判断するデータとしては十分とは言い難い。図2と図3を比較すると、実施例で示した充填剤添加の観察試料が非常に有効であることがわかる。多孔質シリカと樹脂とを混合した図である。多孔質シリカと樹脂とを円筒状の型に注入した図である。ジルコニウム含浸済みの多孔質シリカの断面のSEM二次電子像である。充填剤を含浸していない多孔質シリカの断面のSEM二次電子像である。このSEM二次電子像の中央に存在する淡色の微粒子は観察焦点合わせに利用した表面付着ゴミであり、多孔質シリカ固有の細孔構造の現れではない。符号の説明11 無機多孔体12 樹脂13 ガラスプレート14 型15 平板 無機多孔体の断面を電子顕微鏡で観察するための観察試料であって、前記無機多孔体よりも二次電子放出率の高い金属が前記無機多孔体の細孔に充填され、かつ、電子顕微鏡で観察するための観察面を備えたことを特徴とする無機多孔体の観察試料。 前記金属が充填された無機多孔体が樹脂中に固定されており、樹脂ごと研磨又は切断して前記観察面が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の無機多孔体の観察試料。 前記無機多孔体が粉体であることを特徴とする請求項2に記載の無機多孔体の観察試料。 前記金属が、チタン、ジルコニウム、及びハフニウムからなる群より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の無機多孔体の観察試料。 前記無機多孔体が、シリカ又はアルミナの少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の無機多孔体の観察試料。 前記無機多孔体がシリカであり、かつ前記金属がジルコニウムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の無機多孔体の観察試料。 請求項1、4〜6のいずれか1項に記載の無機多孔体の観察試料の作製方法であって、前記無機多孔体に前記金属を含む充填剤を含浸法によって導入した後、加熱することで前記金属を前記無機多孔体内に充填し、当該金属が充填された無機多孔体を研磨又は切削して前記観察面を形成することを特徴とする無機多孔体の観察試料の作製方法。 請求項2〜6のいずれか1項に記載の無機多孔体の観察試料の作製方法であって、前記無機多孔体に前記金属を含む充填剤を含浸法によって導入した後、加熱することで前記金属を前記無機多孔体内に充填し、当該充填された無機多孔体と樹脂とを混合し、硬化させた後、樹脂ごと研磨又は切削して前記観察面を形成することを特徴とする無機多孔体の観察試料の作製方法。 前記含浸法による無機多孔体への金属を含む充填剤の導入と加熱とを繰り返して、前記金属を前記無機多孔体内に充填することを特徴とする請求項7又は8に記載の無機多孔体の観察試料の作製方法。 【課題】無機多孔体の細孔と骨格部とを電子顕微鏡を用いてコントラストよく観察するための試料を提供することを目的とする。【解決手段】無機多孔体の断面を電子顕微鏡で観察するための観察試料であって、前記無機多孔体よりも二次電子放出率の高い金属が前記無機多孔体の細孔に充填されていることを特徴とする。前記無機多孔体は樹脂中に固定されるようにしてもよい。充填する金属としては、ジルコニウムを特に好適に用いることができる。【選択図】図1b