タイトル: | 公開特許公報(A)_帯状疱疹後神経痛モデル動物の作製方法 |
出願番号: | 2008131325 |
年次: | 2009 |
IPC分類: | A01K 67/027,G01N 33/50,G01N 33/15,C12N 15/09 |
白木 公康 高崎 一朗 吉田 与志博 大黒 徹 JP 2009278877 公開特許公報(A) 20091203 2008131325 20080519 帯状疱疹後神経痛モデル動物の作製方法 財団法人阪大微生物病研究会 000173692 高島 一 100080791 白木 公康 高崎 一朗 吉田 与志博 大黒 徹 A01K 67/027 20060101AFI20091106BHJP G01N 33/50 20060101ALI20091106BHJP G01N 33/15 20060101ALI20091106BHJP C12N 15/09 20060101ALN20091106BHJP JPA01K67/027G01N33/50 ZG01N33/15 ZC12N15/00 A 6 OL 19 2G045 4B024 2G045AA29 2G045CB01 2G045CB17 2G045DA36 2G045FB03 4B024AA11 4B024BA51 4B024CA04 4B024CA07 4B024DA06 4B024EA04 4B024GA11 4B024HA12 4B024HA15 本発明は、帯状疱疹後神経痛モデル動物の作製方法に関する。詳しくは、帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛モデル動物の作製方法ならびに得られたモデル動物を用いた帯状疱疹痛および/または帯状疱疹後神経痛の治療薬のスクリーニング方法等に関する。 水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)感染は、急性小脳失調症(ACA)、ヘルペス後神経痛(PHN)等の神経学的合併症を生じさせる。ACAは、水痘感染に伴う最もよく起こる神経学的合併症である。15歳未満の小児の4000症例当たり1例で起こると推定されている。ACAは、発疹の開始の数日前から3週間後に出現し、完全回復まで2〜4週間続く。帯状疱疹は、感覚の異常を伴うデルマトームに沿った領域分布中に水疱性発疹が現れ、一般的集団における年間発生率は、英国において1000人当たり3.4である(非特許文献1)。PHNは、帯状疱疹の最も頻度の高い合併症であり、患者の7〜35%(60歳以上では50%を越える)で発症する。PHNは、急性神経炎に伴う痛みとは異なり、休みなく続く痛み、電撃痛およびアロディニアを合併する(非特許文献2)。 脳由来神経栄養因子(BDNF)は、発達段階および成人において、生存、分化、シナプス可塑性ならびに末梢および中枢ニューロンの選択伸長に重要な役割を果たしていると認識されている、神経栄養因子ファミリーのメンバーである(非特許文献3、4)。BDNFのcDNAは、247アミノ酸残基からなる前駆体タンパク質をコードしている。前駆体タンパク質は、シグナルペプチドおよびプロプロテインを有し、これらは切断されて119アミノ酸残基の成熟BDNFが生成する。生物活性なBDNF(27kDa)は、強力な疎水性相互作用により2つの同じサブユニットから形成される二量体である。BDNFがシナプスの長期増強、学習および記憶等の頻度依存性可塑性メカニズムに関与していることはよく知られている。BDNFは、臨床上の痛覚過敏症の原因となる可塑性に関与している(非特許文献5)。 帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛は、モルヒネなどの強力な鎮痛薬に抵抗性を示すことが知られている。したがって、帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛に対する有用な鎮痛薬の開発が望まれているが、いまだ実現には至っていない。かかる医薬品の開発にとって、帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛と同様の臨床症状を示すモデル動物が不可欠である。しかしながら、VZVは種特異性が高く、ヒト以外の動物に実験的に感染し、ヒトと同様の臨床症状を示したという報告はない。 一方、VZVと同様、ヘルペスウイルス科に属する単純ヘルペスウイルス1型(Herpes simplex virus type 1、以下、HSV−1と称することがある)はVZVと同様に、一次知覚神経に感染し、感覚神経節に感染する特徴を有する。HSV−1は種特異性が低く、ウサギ、モルモット、ラット、マウスなどに感染させることが可能であり、マウスを用いた動物実験においてHSV−1を感染させて帯状疱疹様皮膚病変を誘発するマウス帯状疱疹モデルが報告されている(非特許文献6)。マウス帯状疱疹モデルを用いた、皮膚病変の進展を指標にした抗ウイルス薬の開発やHSV−1感染のメカニズム解明に関する報告は多くある。また、HSV−1感染による痛み反応を発現させた帯状疱疹または類似の病態に伴う痛みのモデル動物が知られている(特許文献1)。前記モデル動物はウイルス感染の急性期における疼痛モデルであり、慢性期に移行した帯状疱疹後の疼痛を発現させたモデルではない。帯状疱疹の慢性期モデルを作出させるため、HSV−1感染による帯状疱疹後神経痛モデル動物の作製方法が知られている(特許文献2)。前記方法は、HSV−1感染後に感染動物を治療する工程を要するので、モデル動物の作出は治療の有効無効に左右され、急性期の疼痛モデルとはなり得ない。このように、ヒトのVZV感染の予後を明確に反映し、かつ感受性の高い帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛を発現するモデル動物は、いまだ知られていない。特開2001−37372号公報特開2002−330666号公報Johnson, R. W. et al., BMJ 326: 748-750, 2003Donald H. Gilden et al., Neurology 64: 21-25, 2005Nagappan G. Lu B., Trends in Neurosciences, 28: 464-471, 2005Bramham CR et al., Progress in Neurology, 76: 99-125, 2005Coull, J. A. M. et al., Nature 438: 1017-1021, 2005Kurokawa M. and Shiraki K., J.Traditional Medicines, 11: 71-85, 1994 本発明の目的は、帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛の機序の解明に寄与し、当該疾患の治療に役立つ手段の提供である。 水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の前初期タンパク質IE62は、最も主要な転写調節因子である。本発明者らは、BDNFが臨床上の痛覚過敏症の原因となる可塑性に関与していることからPHNの病態のメカニズムを解析できるのではないかという仮説を立て、VZVとBDNFとの免疫学的関連を調べた。VZVは、潜伏感染した神経節で遺伝子4、21、29、62、63を発現し、前初期タンパク質IE62が感染中にウイルス遺伝子の転写活性化に中心的役割を果たす。PHN患者を含む水痘回復期患者由来の血清は、ウェスタンブロット解析でIE62およびBDNFを認識した。本発明者らは、IE62とBDNFとの免疫学的関係をさらに調べ、これらの間で免疫学的交差反応性を見出した。BDNFと交差するIE62抗体のなかには、BDNFの生物活性を阻害する抗体と、他にもBDNFの生物活性を促進する抗体があることを見出し(PCT/JP2007/72284)、後者の促進抗体を用いることで帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛のモデルを作出することに成功し、本発明を完成するに至った。すなわち、本願発明は、以下に示す通りである。〔1〕 ヒトを除く動物の皮膚にヘルペスウイルスを接種する工程、および、水痘帯状疱疹ウイルス前初期タンパク質を認識し、かつ、脳由来神経栄養因子と交差反応する抗体を前記動物に投与する工程を含む、帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛モデル動物の作製方法。〔2〕 前記タンパク質がIE62であり、前記抗体が配列番号2の414−429位のアミノ酸配列を有するペプチドを認識するものである前記〔1〕に記載の方法。〔3〕 前記脳由来神経栄養因子が二量体である前記〔1〕または〔2〕に記載の方法。〔4〕 動物がげっ歯類である前記〔1〕〜〔3〕いずれか1項に記載の方法。〔5〕 前記〔1〕〜〔4〕いずれか1項に記載の方法により得られる帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛モデル動物。〔6〕 前記〔5〕に記載の帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛モデル動物に被験物質を投与する工程を含む、帯状疱疹痛および/または帯状疱疹後神経痛の治療薬のスクリーニング方法。 本発明の帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛モデル動物の作製方法によれば、ヒトの帯状疱疹痛と帯状疱疹後神経痛の病因に関与する抗水痘IE62抗体を用いることによって、ヒトの帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛を良好に反映した、神経損傷を伴う痛覚閾値の低下をきたしたモデル動物を作出することができる。本発明のモデル動物および当該モデル動物を用いたスクリーニング方法によれば、これまで達成できなかった新規抗疼痛性治療薬の開発が可能となる。 本発明において「帯状疱疹痛」とは、ヘルペスウイルス感染による帯状疱疹様皮膚病変の発症に先行あるいはそれと同時に起こるアロディニアを含む疼痛をいう。 本発明において「帯状疱疹後神経痛」とは、ヘルペスウイルス感染による帯状疱疹様の皮膚症状が治癒した後にアロディニアを主訴として起こる疼痛をいう。 本発明において「ヘルペスウイルス」とは、ヘルペスウイルス科に属するウイルスをいい、特に単純ヘルペスウイルス1型(HSV−1)、単純ヘルペスウイルス2型(Herpes simplex virus type 2、HSV−2)、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)が好ましい。 水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)は、水痘(varicella)および帯状疱疹(zoster)の病原媒体である。VZVゲノムは、直鎖状二本鎖DNA分子であり、例えば、J. Gen Virol. (1986), 67, 1759-1816にその全塩基配列およびコードされるタンパク質のアミノ酸配列が開示されている。あるいは、VZV(ヒトヘルペスウイルス3)として、Genbank Accession No: NC_001348においても、全ゲノムの塩基配列および当該ゲノムからコードされるタンパク質のアミノ酸配列が開示されている。VZVゲノムは、約70種のタンパク質をコードしている。VZVの全遺伝子は、前初期(IE)、初期(E)および後期(L)という3つの広い動態クラス中で、感染細胞中に発現すると考えられている。VZV IE62タンパク質は、VZVタンパク質の3つの動態クラスのすべての発現の活性化に関与している。 本発明において「水痘帯状疱疹ウイルス前初期タンパク質を認識し、かつ、脳由来神経栄養因子と交差反応する抗体(以下、促進抗体とも称する)」は、VZVがコードするタンパク質の中で、前初期タンパク質、好ましくはIE62を抗原として製造されたものである。抗原としてのIE62タンパク質も、前記文献およびGenbank等でそのアミノ酸配列が開示されている。例えば、ヒトヘルペスウイルス3 VZV−Oka株の場合、Genbank Accession No:AY016449にIE62の塩基配列(配列番号1)およびアミノ酸配列(配列番号2)が開示されている。また、ヒトヘルペスウイルス3 VZV−野生株(河口株)は、Journal of Virology 2002 p11447-11459を参照のこと。 前記促進抗体は、配列番号2のIE62のアミノ酸配列において、414−429位のアミノ酸配列(PGYRSISGPDPRIRKT:配列番号3)を有するペプチドを認識するものであることが好ましい。かかるペプチドを認識する促進抗体は、後述するBDNFとの交差反応性をより顕著に有するため、好ましい。前記ペプチドは、本発明における促進抗体のエピトープとして機能するものであり、その抗原決定基としての機能を失わない限りにおいて、配列番号3のアミノ酸配列のN末端および/またはC末端から1〜3アミノ酸程度欠失していてもよい。あるいは、前記ペプチドは、その抗原決定基としての機能を失わない限りにおいて、追加のアミノ酸配列を1〜数個(通常1〜5、好ましくは1〜3)、そのN末端またはC末端に有していてもよい。追加のアミノ酸残基としては、後述する高分子化合物(タンパク質)との結合のために導入されるシステイン残基などがあげられる。 前記促進抗体は、前初期タンパク質、好ましくはIE62を高感度かつ高い特異性で認識することができるとともに、脳由来神経栄養因子(BDNF)と交差反応することを特徴とする。 脳由来神経栄養因子(BDNF)は、ヒトBDNFとして、GenBank Accession No.NM_170731-170735、NM_001709にその塩基配列およびアミノ酸配列が開示されている。前記促進抗体が交差反応するBDNFは、成熟体であり、好ましくは成熟体の二量体である。 本明細書でいう「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体等の天然型抗体、遺伝子組換え技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、ヒト抗体産生トランスジェニック動物等を用いて製造され得るヒト抗体、ファージディスプレイによって作製された抗体およびこれらの結合性断片が含まれる。 結合性断片とは、前述した抗体の一部分の領域を意味し、具体的には例えばF(ab')2、Fab'、Fab、Fv(variable fragment of antibody)、sFv、dsFv(disulphide stabilised Fv)、dAb(single domain antibody)等があげられる(Exp. Opin. Ther. Patents,Vol.6, No.5, p.441-456, 1996)。 抗体のクラスは、特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgDまたはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくは、IgGまたはIgMであり、精製の容易性等を考慮するとより好ましくはIgGである。 ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体は、既知の一般的な製造方法によって製造することができる。即ち、例えば、免疫原を、必要に応じてフロイントアジュバント(Freund's Adjuvant)とともに、哺乳動物、例えばポリクローナル抗体の場合、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウマまたはウシ等、好ましくはマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ヤギ、ウマまたはウサギに、モノクローナル抗体の場合、マウス、ラット、ハムスターに免疫する。 一実施態様において、免疫原としてのIE62ペプチドは、公知の方法により製造することができる。例えば、配列番号3のアミノ酸配列を含むペプチドを常法に従って合成し、牛血清アルブミン(BSA)、ウサギ血清アルブミン(RSA)、オボアルブミン(OVA)、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)、チログロブリン(TG)、免疫グロブリン等の高分子化合物(タンパク質)との複合体を形成させた後、免疫原として用いることができる。 前記IE62ペプチドと高分子化合物との複合体を形成させる等の目的で、1個または数個のアミノ酸を付加してもよい。付加されるアミノ酸の数は、特に限られないものの、製造される抗体の特異性を考慮すると、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜2個、最も好ましくは1個である。付加されるアミノ酸の位置はポリペプチドのN末端またはC末端いずれでもよいが、C末端が好ましい。 複合体の形成方法は、公知の方法により行なうことができ、特に限定されるものではない。例えば、混合酸無水物法または活性エステル法等により前記IE62ペプチドのカルボキシ基と前記高分子化合物の官能基とを反応させて、複合体を形成することができる。あるいは、前記IE62ペプチドのC末端にシステイン残基を導入し、当該システインの側鎖であるSH基を介して前記高分子化合物と結合させることもできる。 別の態様において、例えば、配列番号3のアミノ酸配列を含むペプチドをコードするヌクレオチドを他のタンパク質(例、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST))をコードするヌクレオチドと連結した発現ベクターを用いて、常法により他のタンパク質との融合タンパク質として宿主で発現させ、精製したものを免疫原として用いることができる。促進抗体の作製方法の具体例は、後述する実施例で詳細に説明している。 本発明の帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛モデル動物(以下、単にモデル動物と省略する場合がある)の作製方法は、下記工程:ヒトを除く動物の皮膚にヘルペスウイルスを接種する工程、および、水痘帯状疱疹ウイルス前初期タンパク質を認識し、かつ、脳由来神経栄養因子と交差反応する抗体を前記動物に投与する工程を含むことを特徴とする。(1)ヒトを除く動物の皮膚にヘルペスウイルスを接種する工程本工程により、動物に対する神経損傷が誘導される。 本発明の方法に用いられる動物としては、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類、ウサギ、ブタ、ネコ、イヌ、サル等の実験動物があげられるが、好ましくはげっ歯類、より好ましくはマウスである。マウスを用いる場合には5〜8週齢のものが好ましい。 ヘルペスウイルスを前記動物の皮膚に接種する方法として、動物におけるウイルス感染に用いられている種々の方法が利用できる。特に、脱毛、創傷した表皮にウイルスを滴下して感染させる方法が好ましい。滴下するウイルス量としては、1×104〜1×108PFUを用いることが好ましく、さらに、好ましくは、1×105〜1×107PFUである。(2)水痘帯状疱疹ウイルス前初期タンパク質を認識し、かつ、脳由来神経栄養因子と交差反応する抗体を前記動物に投与する工程本工程は、神経損傷した動物に対して痛覚過敏が誘導される。 促進抗体の投与量は、動物当たり通常5〜1000μgであり、好ましくは50〜100μgである。促進抗体の投与経路は特に限定されるものではなく、腹腔内、髄腔内、静脈内、皮下があげられる。痛覚に関係するので、神経系に直接作用させるという観点から、好ましくは髄腔内である。 IE62の交差する414−429位のアミノ酸配列含むGST−C蛋白(10μg)の複数回(好ましくは3回程度)の投与により、BDNFと免疫交差する抗体を誘導する方法も挙げられる。 工程(2)は、抗体投与による動物に痛覚過敏が誘導される限りにおいて、工程(1)より前、工程(1)と同時、工程(1)より後のいずれでもよい。工程(1)より前に投与する場合、2時間前が好ましい。工程(1)より後に投与する場合、0〜24時間後が好ましい。 このようにして得られた本発明の帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛モデル動物は、以下の特徴を有することが好ましい。1.HSVによる病変であっても帯状疱疹様病変を形成し、そこに、BDNF活性を増強する促進抗体を存在させることで、帯状疱疹中の痛覚過敏のみならずPHNを発現するモデルである。2.痛覚の閾値を指標とした場合には、ヘルペスウイルスの病変による痛覚に加え、促進抗体によって増強された痛覚に対する治療効果が判定できるので、薬剤のスクリーニングに優れる。3.促進抗体によって形成された痛覚過敏は、当該抗体のエピトープ等のIE62関連物質による予防または治療効果が判定できる。 したがって、本発明は、本発明のモデル動物を用いた帯状疱疹痛および/または帯状疱疹後神経痛の治療薬のスクリーニング方法を提供する。本発明のスクリーニング方法は、本発明のモデル動物に被験物質を投与する工程を含む。より具体的には、下記工程(a)〜(c)を含む。(a)本発明のモデル動物に被験物質を投与する工程、(b)前記被験物質を投与したモデル動物における痛覚過敏の程度を調べ、被験物質を投与しないモデル動物における程度と比較する工程、および、(c)前記(b)の比較結果に基づいて、痛覚過敏の閾値を上昇させる被験物質を選択する工程を含む。 前記工程(a)において、被験物質とは、いかなる公知物質および新規物質であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分などがあげられる。また、これらの化合物の2種以上の混合物を試料として供することもできる。 前記被験物質を本発明のモデル動物に投与する方法は特に限定されるものではないが、経口的または非経口的に投与され得る。非経口的投与としては、例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、皮下等の全身投与、あるいは標的組織付近への局所投与等があげられる。 前記被験物質の投与量は、有効成分の種類、分子の大きさ、投与経路、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって適宜設定することができる。 前記工程(b)において、被験物質を投与したモデル動物における痛覚過敏の程度を調べる方法としては、例えば、von Frey hairを用いた測定法があげられる。 前記工程(b)において、被験物質を投与しないモデル動物における痛覚過敏の程度も同時にまたは別途調べ、投与モデル動物の結果と非投与モデル動物の結果とを比較する。 前記工程(c)において、工程(b)で得られた比較結果に基づき、痛覚過敏の閾値を上昇させる被験物質を選択する。選択する基準は、非投与モデル動物に比べて、痛覚過敏の閾値を有意に上昇させることを指標にすればよい。 本発明のスクリーニング方法によって選別された物質(医薬候補物質)が適用される疾患としては、神経突起の伸長を阻害することにより病態の改善が期待される疾患である。例えば、帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛を始めとして、慢性疼痛、経験依存性社会嫌悪、ストレスなどがあげられる。慢性疼痛は、(1)侵害受容器が持続的に刺激されて生じると考えられる侵害受容性疼痛、(2)疼痛伝達または抑制機構にかかわる神経線維の働きに異常をきたした結果である神経因性疼痛、および(3)感情または情動面に重きがおかれる心因性疼痛、に分類される。本明細書でいう慢性疼痛は、神経因性疼痛(神経の損傷や圧迫などからくる痛み)、侵害受容性疼痛(ガンやリウマチなどの痛み)の二種類をいう。経験依存性社会的嫌悪(社会的挫折ストレス)とは、中辺縁ドーパミン経路のBDNFが必須の役割を果たしている状態である。 本発明のモデル動物を用いて、後根神経節、脊髄後根の病理組織学的検討や遺伝子発現より、痛覚モデルの機構の解析を行うことができる。さらに、本発明のモデル動物を用いることにより、帯状疱疹後神経痛などの疾患に対する新規医薬品の他、バイオマーカーの創出にもつながるものである。 以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。ウイルスおよび細胞培養 VZVの岡株(弱毒水痘ウイルス岡株(日本国特公昭53−41202号又は米国特許第3,985,615号)に由来のウイルスをシードに用いて製造され、世界の諸国で広く実用に供されている(Requirements for Varicella Vaccine(Live)Adopted 1984;Revised 1993:WHO Technical Report Series,No.848,pp.22−38,1994)。該弱毒岡株は、寄託番号VR−795として1975年3月14日にATCCに寄託されている。)およびVZVの河口株(Journal of Virology, Nov. 2002, P.11447-11459)は、ヒト胎性肺細胞またはヒト肺癌細胞株A549細胞で増殖させた。前記細胞はそれぞれ、10%および2%ウシ胎仔血清を補足したEagle's最小必須培地中で生育し、維持した。 HSV1の培養方法は、下記のように行なった。 単層培養Vero細胞に、HSV−1(7401H株)を感染し、十分にウイルス感染が広がり、細胞変性現象を認めた培養フラスコを3回凍結融解し、遠心後その上清を分注後、凍結し、使用まで保存した。一部、ウイルス力価測定に用いた。 ラット皮質ニューロンの初代培養細胞は、既報(Tabuchi, A., et al., J. Biol. Chem.277, 35920-35931 (2002))に従って、17〜18日齢胎仔ラット(Sprague-Dawley)の大脳皮質から調製した。要約すると、大脳皮質の小片を酵素(DNアーゼI(Sigma)の後にトリプシン(Sigma))処理および機械的分離により断片化し、当該細胞を、60mmの培養皿(Iwaki)に5×106個の密度で播種した。前記細胞を10%ウシ胎仔血清を含むDulbecco’s 変法Eagle’s 培地(Nissui) 中で48時間生育させ、次いで、グルコース(4.5mg/ml)、トランスフェリン(5μg/ml)、インスリン(5μg/ml)、亜セレン酸ナトリウム(5μg/ml)、ウシ血清アルブミン(1mg/ml)および硫酸カナマイシン(100μg/ml)を含む、無血清Dulbecco’s 変法Eagle’s 培地(TIS培地)に交換した。シトシンアラビノシド(Sigma)を2μM加え、グリア細胞の増殖を抑制した。DNAのトランスフェクションの2時間前に、培地を新鮮なTIS培地(シトシンアラビノシドは不含)と置換した。製造例1GST−IE62融合タンパク質の発現およびポリクローナル抗体の産生 VZVのIEタンパク質の一部を断片に分割し、GST融合タンパク質として合成した。前記GST融合タンパク質は、図1Aに示すように、相互に重複して分子全体をカバーしている。グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)−IE62融合タンパク質を発現する組換えプラスミドは、VZV遺伝子のIE62遺伝子を増幅し、増幅DNA断片をベクターpGEX−4T−1(ファルマシア)に挿入することにより構築した。1)RNAの単離および逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR) 全RNAを、ISOGEN(日本ジーン)を用いて培養細胞から抽出した。RT−PCRは、既報(Kawasaki, E. S., et al., Amplification of RNA. In PCR Protocol, A Guide to methods and applications, Academic Press, Inc., SanDiego,21−27(1991))に従って行った。要約すると、全RNA(1μg)を、20μlの1×第一鎖緩衝液中でcDNAに逆転写した。前記緩衝液は、以下のものを含む:プライマーとして、0.5μM オリゴ(dT)15 (5’-AAGCTTTTTTTTTTV-3’)(配列番号6)、200 unitsのSuperScript II reverse transcriptase (Invitrogen)、400μM dNTPs、および10 unitsのRNアーゼ阻害剤(Invitrogen)。 逆転写反応の後、反応混合物を1.1ユニットのRNアーゼH(Invitrogen)で37℃で20分処理し、cDNA溶液としてPCRに用いた。PCRは、1μlのcDNA溶液、1.25 unitsのAmpliTaq Gold DNA ポリメラーゼ (PerkinElmer Life Sciences)、1.5 mM MgCl2、200μM dNTPsおよび0.5μM プライマー対を含む50μlの1×PCR緩衝液中で行った。ラットBDNF遺伝子の4つのエキソン(エキソンI、エキソンII、エキソンIIIおよびエキソンIV)を区別するため、E-I(5’-ACTCAAAGGGAAACGTGTCTCT-3’)(配列番号7)、E-II(5’-CGGTGTAGGCTGGAATAGACT-3’)(配列番号8)、E-III(5’-CTCCGCCATGCAATTTCCACT-3’)(配列番号9)、E-IV(5’-GTGACAACAATGTGACTCCACT-3’)(配列番号10)およびE-Vas(5’-GCCTTCATGCAACCGAAGTA-3’)(配列番号11)を用いた。 内部標準として、グリセルアルデヒド-3-ホスフェートデヒドロゲナーゼ(GAPDH) cDNA を、GAPDH センス(5’-TCCATGACAACTTTGGCATTGTGG-3’)(配列番号12)およびアンチセンス(5’-GTTGCTGTTGAAGTCGCAGGAGAC-3’)(配列番号13)プライマー対を用いて増幅した。BDNF cDNAの増幅では、PCR条件は、95℃で10分間前加熱した後、以下の通りであった:変性94℃、1分、アニーリング55℃、1分および伸長72℃、1.5分を32サイクル(エキソンI)、31サイクル(エキソンII)、26サイクル(エキソンIII)および29サイクル(エキソンIV)、ならびに最終伸長を72℃で10分。GAPDHの増幅は、前記と同じ条件下で31サイクル行った。PCR産物を、2%アガロースゲルでの電気泳動により分離し、臭化エチジウムで染色したDNAのバンドの密度を、Bit-Map loader (ATTO) およびソフトウエア(NIH Image 1.52)を用いて分析した。2)GST−IE62融合タンパク質の発現 構築した組換えプラスミドで大腸菌BL21を形質転換し、形質転換体を得た。形質転換体を培養し、1mM IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を添加して、37℃で4時間または室温で一晩インキュベートすることにより融合タンパク質の発現を誘導した。誘導した融合タンパク質を、SDS−PAGEにより確認した(図1B)。誘導した融合タンパク質を、グルタチオンセファロース4B(ファルマシア)を用いて、製造者の指示書およびSDS−PAGEで同定した分子量に基づいて精製した。組換えプラスミドの構築は、シークエンスにより確認した。IE62融合タンパク質の抗原性は、イムノブロッティングで機能した。製造例2IE62に対するモノクローナル抗体の産生 IE62に対するモノクローナル抗体は、GST−IE62融合タンパク質を用いて、本質的に既報(Okuno et al, Virology 129, 357-368 (1983))に記載の方法に従って製造した。ハイブリドーマの培養上清をGSTタンパク質に対するELISAおよびVZV感染細胞に対する免疫蛍光抗体によりスクリーニングし、IE−62モノクローナル抗体産生ハイブリドーマをクローニングした。試験例1免疫蛍光抗体(IFA)アッセイ VZV感染細胞を−20℃でアセトン固定し、BDNFまたはIE62に対するモノクローナル抗体およびフルオレセイン結合抗マウスIgG血清をそれぞれ一次および二次抗体として用いて染色した。GST−IE62融合タンパク質に対するウサギ抗血清は、フルオレセイン結合抗ウサギIgG血清(Jackson)を二次抗体として用いて、VZV感染細胞に対する免疫蛍光抗体により確認した。試験例2ウェスタンブロッティング GST−IE62融合タンパク質またはVZV感染細胞の溶解液をSDSゲルに負荷し、電気泳動により分離し、ニトロセルロース膜(Millipore)に転写した。前記膜を、GST−IE62融合タンパク質に対するウサギ抗血清、IE62モノクローナル抗体(1:10,000希釈、大阪大学微生物病研究所製)またはヒトBDNFモノクローナル抗体(0.5μg/mlに希釈、R&Dシステムズ製)でプローブした。ペルオキシダーゼ結合抗ウサギIgG血清またはヤギ抗マウスIgG血清とともにさらに1時間インキュベーションした後、免疫ブロットをECL法(ナカライテスク)により展開した。試験例3IE62モノクローナル抗体により認識されるIE62のエピトープの決定 IE62モノクローナル抗体により認識されるIE62のエピトープは、合成ペプチドを用いたIE62のウェスタンブロットのブロッキングにより解析した。エピトープは、図1Aに示す融合タンパク質CとFの間の重複領域であり、IE62の414−447位のアミノ酸に相当する領域であった。前記領域を3つの区分に分け、下記アミノ酸配列からなるペプチド:ペプチドI:PGYRSISGPDPRIRKT(配列番号:3)ペプチドII:KRLAGEPGRQRQKSF(配列番号:4)ペプチドIII:SLPRSRTPIIPPVSG(配列番号:5)の3種を180μg用いて、ウェスタンブロットでIE62モノクローナル抗体とIE62との相互作用をブロッキングした。結果融合タンパク質 組換えプラスミドの構築は、シークエンスにより確認した。GST−IE62融合タンパク質1〜5の免疫原性は、VZVの抗血清を用いるウェスタンブロットにより確認した。当該抗血清は、IFA試験によりVZV感染細胞の核染色が陽性であり、ウェスタンブロットでIE62タンパク質を検出した。次いで、IE62−GST融合タンパク質を定量し、IE62タンパク質としてさらなるキャラクタリゼーションに使用した。図1Aは、IE62全分子とそれらの産物を含むGST−IE62融合タンパク質1〜5とA〜Gの概略図を示す。帯状疱疹回復期血清によるIE62とBDNFの認識 図1Cおよび1Dは、帯状疱疹患者由来血清の、BDNF、GST−IE62融合タンパク質2との反応のまとめ、ならびにウェスタンブロットの代表的パターンの一例を示す。帯状疱疹患者血清(No.23)は、ウェスタンブロットで、IE62の断片2およびFならびにBDNFを認識した。一方、患者血清(No.28)は、IE62の断片2を認識したが、IE62の断片FまたはBDNFを認識しなかった。6名の血清はBDNFと反応し、それらのうちの5つがIE62融合タンパク質を認識した。2名の血清は、IE62を認識したが、BDNFを認識しなかった。IE62とBDNFの認識は、すべての患者において関連付けられなかったが、6名の患者由来の血清は、IE62とBDNFへの抗体応答の関連を示した。図1Eは、帯状疱疹およびPHN患者由来の血清がBDNFの転写活性に及ぼす影響を調べたグラフである。各モノクローナル抗体によるBDNFおよびIE62の交差認識 本発明者らは、IE62−GST融合タンパク質に対するモノクローナル抗体を製造した。IE62分子全体を網羅するIE62−GST融合タンパク質に対する当該モノクローナル抗体の反応性を図2Aに示す。図2Aに示すように、抗BDNFモノクローナル抗体および抗VZV IE62モノクローナル抗体は両方とも、VZV IE62の同じ領域を同様に認識した。図2Bは、抗BDNFモノクローナル抗体および抗VZV IE62モノクローナル抗体により染色されたIFAパターンを示し、両抗体は感染細胞の核を主に染色した。抗BDNFモノクローナル抗体は、ウェスタンブロットおよびIFAによりIE62タンパク質を認識することが確認された。 図2Cに示すように、BDNFタンパク質は、抗VZV IE62モノクローナル抗体および抗BDNFモノクローナル抗体の両方でブロットされ、プローブされ、両抗体は同様にBDNFを認識した。BDNFを抗IE62モノクローナル抗体でプローブした場合、BDNFの単量体よりは二量体と反応した。このことは、抗IE62モノクローナル抗体はBDNF二量体により形成された立体構造的なエピトープを認識することを示唆する。IE62を認識する抗BDNFモノクローナル抗体は、抗IE62モノクローナル抗体と同様に、BDNFの単量体よりはむしろBDNF二量体と反応した。VZV IE62とBDNFのこのような免疫学的交差反応性は、それぞれのモノクローナル抗体により確認された。BDNFとIE62との交差反応エピトープの同定 抗IE62モノクローナル抗体は、GST融合タンパク質2に加え、さらに領域CおよびFを認識した(図2A)。領域CおよびFの重複領域は、IE62タンパク質のアミノ酸414−447位を示し、当該領域を含む3つの構成ペプチドを用いて、ウェスタンブロットで反応をブロッキングすることによりVZV IE62のエピトープを決定した。414番目から429番目のアミノ酸を含有するペプチドは、抗VZV IE62抗体と抗BDNF抗体の両抗体の相互作用をブロックした。このことは、IE62のアミノ酸414−447位のペプチドのエピトープは、抗VZV IE62抗体と抗BDNF抗体により認識されることを示す(図3)。しかしながら、このペプチドは、ウェスタンブロットでBDNFに対する抗IE62および抗BDNFモノクローナル抗体の反応をブロックできなかった。したがって、両モノクローナル抗体のエピトープは、IE62のアミノ酸414−447位の線状のエピトープである。いずれのモノクローナル抗体も、同じ条件下で二量体により形成される立体構造的エピトープをブロックしなかった。 以上の結果から、交差反応エピトープはVZV IE62のアミノ酸414〜429位であることが示唆される。実施例1および比較例1帯状疱疹痛モデルマウスの作製 雄C57BL/6Jマウスの片側の脊髄神経を露出後、L5神経を絹糸にて結紮後開放し、その支配領域の痛覚閾値の変化をvon Frey hair法を用いて測定した。神経損傷モデル動物の抗IE62抗体による痛覚閾値低下の比較対照として、PBS(control)、抗麻疹モノクローナル抗体、抗IE62抗体を髄腔内投与して、痛覚閾値の変化を計測した。 HSVの皮膚感染前2時間に、抗体を髄腔内投与し、皮膚感染を実施した。皮膚感染は、マウスの片側の側腹・大腿から後肢をバリカンにて剃毛し、ヘアリムーバー(資生堂)により除毛した。そして、マウス側面の除毛部に、27ゲージ針の束にて、マウスの皮膚を擦過し、そこに、5〜10μLの感染用HSV液を滴下して、すり込むように感染させた。対照として、抗体を投与しないマウスに対しても同様にHSVの皮膚感染を行なった。結果 結果を図4Aに示す。図4Aのように、抗IE62抗体投与群では、control群や抗麻疹抗体投与群に比べ、3日後から約2週間、結紮側の有意に痛覚閾値の低下(痛覚過敏)を認めた。 図4Bは、免疫誘導した動物における痛覚過敏の誘導を示す。非免疫群のcontrol、IE62の交差する414−429位のアミノ酸配列含むGST−C蛋白(10μg)とIE62を含まないGST蛋白(10μg)のみを、アジュバントとともに、3回皮下投与して、BDNFと免疫交差する抗体を誘導した後に、神経結紮モデルにて痛覚閾値について検討した。結果 GSTに対する抗体はELISA法によって測定し、 control群、GST群、GST−C群の抗体価は、それぞれ0.020 ± 0.001 (SEM)、0.788 ± 0.115または0.628 ± 0.055(n=5〜6)であり、GST−C群では、水痘感染細胞の核に対する抗体を認めた。そのGST−C免疫群では、他群に比べ、結紮側の痛覚閾値の低下を認めた。 比較例1で得られたモデルマウスは、図5に示すように、単純ヘルペスウイルス(HSV1)をマウス(BALB/c)に皮膚感染させたことにより、帯状疱疹様の皮膚病変を生じた。HSV1に対して抵抗性であるC57BL/6Jでは、図5上段に示すようなスコア4までで病変の進行は止まる。そして、感染部位の痛覚閾値の低下(痛覚過敏)を生じている。比較例1のモデルでは、見かけ上は帯状疱疹と同様な病変を生じる。そのため、末梢神経の損傷を伴っていることから、IE62抗体の存在下では、HSV病変によって生じる痛覚過敏より、さらに、強い痛覚過敏のモデルを誘導できることが考えられ、IE62抗体の髄腔内投与によって、そのモデルを確立した(図6)。 HSV1ではBDNFと免疫交差を誘導する抗体を産生しないが、VZVではBDNFと免疫交差する抗体を誘導するため、神経過敏・痛覚過敏を誘導すると考えられる。すなわち、末梢神経の損傷を伴う帯状の皮膚病変とIE62抗体によって、帯状疱疹経過中の痛覚過敏とPHNモデルが作製されたことが確認された。 表1より、HSV1接種25日目において、疼痛反応の残存するマウス(帯状疱疹後神経痛マウスと定義)の数を調べた。IE62抗体投与群ではすべてのマウスが帯状疱疹後神経痛に移行した。図1Aは、水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)の前初期(IE)62タンパク質の断片の位置関係を示す概略図である。図1Bは、IE62断片とGSTとの融合タンパク質の電気泳動の写真である。図1Cは、帯状疱疹およびPHN患者由来の血清のIE62およびBDNFへの反応性を調べたウェスタンブロットのまとめを示す。図1Dは、帯状疱疹およびPHN患者由来の血清のIE62およびBDNFへの反応性を調べたウェスタンブロットの一例を示す。図1Eは、帯状疱疹およびPHN患者由来の血清がBDNFの転写活性に及ぼす影響を調べたグラフである。図2Aは、IE62モノクローナル抗体およびBDNFモノクローナル抗体のIE62断片に対する反応性を示す電気泳動の写真である。図2Bは、IE62モノクローナル抗体およびBDNFモノクローナル抗体を用いたVZV感染細胞での免疫組織染色を示す。図2Cは、BDNFタンパク質のSDS−PAGEの写真ならびにIE62モノクローナル抗体およびBDNFモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロットの写真である。図3は、IE62モノクローナル抗体およびBDNFモノクローナル抗体のエピトープを決定した電気泳動の写真である。図4Aは、von Frey hairを用いた痛覚過敏の程度を調べたグラフである。抗IE62抗体を髄腔内投与した場合の神経結紮モデルでの痛覚過敏を示す。図4Bは、von Frey hairを用いた痛覚過敏の程度を調べたグラフである。BDNFと免疫交差するIE62の414−429位のアミノ酸配列含むGST−C群の免疫によって、神経結紮モデルでの痛覚過敏を示す。図5は、HSV1を感染させたマウスの皮膚における病変をスコア表示で示した写真である。図6は、マウス帯状疱疹痛モデルの皮膚症状と疼痛反応に対する抗IE62抗体の効果を示す図である。 ヒトを除く動物の皮膚にヘルペスウイルスを接種する工程、および、水痘帯状疱疹ウイルス前初期タンパク質を認識し、かつ、脳由来神経栄養因子と交差反応する抗体を前記動物に投与する工程を含む、帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛モデル動物の作製方法。 前記タンパク質がIE62であり、前記抗体が配列番号2の414−429位のアミノ酸配列を有するペプチドを認識するものである請求項1に記載の方法。 前記脳由来神経栄養因子が二量体である請求項1または2に記載の方法。 動物がげっ歯類である請求項1〜3いずれか1項に記載の方法。 請求項1〜4いずれか1項に記載の方法により得られる帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛モデル動物。 請求項5に記載の帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛モデル動物に被験物質を投与する工程を含む、帯状疱疹痛および/または帯状疱疹後神経痛の治療薬のスクリーニング方法。 【課題】帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛の機序の解明に寄与し、当該疾患の治療に役立つ手段の提供。【解決手段】ヒトを除く動物の皮膚にヘルペスウイルスを接種する工程、および、水痘帯状疱疹ウイルス前初期タンパク質を認識し、かつ、脳由来神経栄養因子と交差反応する抗体を前記動物に投与する工程を含む、帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛モデル動物の作製方法、前記方法により得られる帯状疱疹痛および帯状疱疹後神経痛モデル動物、ならびに前記モデル動物に被験物質を投与する工程を含む、帯状疱疹痛および/または帯状疱疹後神経痛の治療薬のスクリーニング方法。【選択図】なし配列表