タイトル: | 公開特許公報(A)_ゼインの安定エタノール水溶液、及びその製造方法 |
出願番号: | 2008121977 |
年次: | 2008 |
IPC分類: | A23J 3/14,A23L 1/00,A61K 47/42,A61K 9/38 |
山田 利幸 田中 勉 椎原 望光 JP 2008253272 公開特許公報(A) 20081023 2008121977 20080508 ゼインの安定エタノール水溶液、及びその製造方法 信和アルコール産業株式会社 597126309 昭産商事株式会社 397037465 大家 邦久 100081086 山田 利幸 田中 勉 椎原 望光 A23J 3/14 20060101AFI20080926BHJP A23L 1/00 20060101ALI20080926BHJP A61K 47/42 20060101ALI20080926BHJP A61K 9/38 20060101ALI20080926BHJP JPA23J3/14A23L1/00 FA61K47/42A61K9/38 4 2004370484 20041222 OL 10 4B035 4C076 4B035LC05 4B035LC16 4B035LG05 4B035LG15 4B035LG31 4B035LK14 4B035LP59 4C076AA44 4C076BB01 4C076EE41H 4C076FF05 4C076FF21 本発明は、トウモロコシから得られる高機能植物性タンパク質であるゼインの長期間安定なエタノール水溶液に関する。さらに詳しく言えば、健康食品、チョコレート等の菓子類、医薬品製剤などの表面を保護し、光沢を与えるコーティング剤あるいはバインダー等として用いられる、長期間に亘って増粘及びゲル化することなく均一で透明な状態に保たれるゼインのエタノール水溶液及びその製造方法に関する。 ゼインは種子蛋白の1種であり、溶解性の違いによる分類では70質量%エタノ−ルに可溶なプロラミン系に属する。α、β、及びγ−タイプの3種存在するゼインの中で、分子量21000〜25000のポリペプチドであるα−ゼインを主要成分とするものが現在商業的に利用されている。 ゼインは、耐水性等に優れたフィルムや繊維の形成能あるいは接着力を有するタンパク質であり、一般的に、アルコールに溶解し、噴霧、塗布、浸漬等の手段で被処理物の表面に付着させ、それを乾燥させて被膜を形成させることができる。トウモロコシ由来のゼインは、現在、食品(チョコレート等)や錠剤等のコーティング剤として使用されているセラックと同様に、コーティング剤として有用な素材であり、国内においては、現在粉末状の製品が「昭和ツェインDP(商品名,昭和産業(株)製)」として製造販売されている。 食品用のコーティング剤にゼインを使用する場合、溶剤としては安全性が高いこと、沸点が比較的低く短時間で溶媒を乾燥できることから、エタノールが用いられることが多い。例えば、特開平10-108630公報(特許文献1)には、エタノール及び/またはイソプロパノール溶媒にコーティング成分としてゼインあるいはセラックと脂質等を溶解してコーティング中の粒子同士の結着を抑制する作業性の良い食品用艶出しコーティング剤が開示されている。 一方、ゼインの溶液、特に含水有機溶媒の溶液は増粘性の特性があり、ゼインのエタノール溶液の場合も最終的にゲルを形成する。増粘性は、ゼイン濃度が高いほど、また溶媒の水分含量が高いほど顕著である。例えば、市販のゼイン粉末(「昭和ツェインDP」,昭和産業(株)製)の場合、70質量%エタノール水溶液には当初よく溶解し均一透明な溶液が得られるが、例えばゼインを9質量%含む70質量%エタノール水溶液の場合は、室温に放置すると約1ヵ月後にはゲル化してしまう(参考例1参照)。また、現在、食品のコーティング剤に用いられているゼインを約9質量%含むエタノール含量約82質量%のエタノール水溶液の場合は、一部に澱状物(以下「オリ」という。)を含み濁った状態ではあるが溶解直後はコーティング剤として問題なく使用できる溶液が得られる。しかし時間の経過と共にオリが増え粘度も上昇し、2〜3ヵ月後には凝固してしまう。 ゼインのエタノール水溶液をコーティング剤等として使用する場合、一般に噴霧装置を用いるが、ゼインのエタノール水溶液の粘度が限度を超えるとノズルの目詰まりを生じ、その交換、装置全体の洗浄作業などメインテナンスに多大の労力を要するだけでく、高価なゼインが産業廃棄物として無駄になるという問題がある。特開平10−108630号公報 従って、本発明の課題は、コーティング剤の原料液として、長期間に亘ってゲル化せずに均一透明な状態に保たれる、安定したゼインのエタノール水溶液を提供することにある。 本発明者らは、前記問題点を解決すべく、市販の高純度ゼイン粉末(「昭和ツェインDP」)について、長期間に亘ってゲル化しない安定したエタノール水溶液を得るべく鋭意研究を重ねた結果、一定濃度のエタノール水溶液にゼイン粉末を溶解させた直後に不溶物として浮遊するオリを分離除去して得られる均一透明な溶液が、驚くべき程安定であり、商業上期待されている少なくとも3ヵ月以上の期間は、増粘及びゲル化することなく安定に保存可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下の均一透明溶液のまま長時間保管できるゼインエタノール水溶液及びその製造方法に関する。1.エタノール濃度が75質量%以上90質量%未満のエタノール水溶液にゼインを5〜20質量%含む、室温で3ヵ月以上の期間ゲル化しないゼインのエタノール水溶液。2.エタノール濃度が80質量%以上86質量%未満であり、ゼインを7〜15質量%含む、室温で3ヵ月以上の期間透明状態に保持されゲル化しないゼインのエタノール水溶液。3.エタノール濃度が81質量%以上83質量%未満であり、ゼインを8〜12質量%含む、室温で6ヵ月以上の期間均一透明状態が保持されゲル化しないゼインのエタノール水溶液。4.食品、健康食品または医薬品のコーティング剤用またはバインダー剤用である前記1乃至3のいずれかに記載のゼインのエタノール水溶液。5.エタノール濃度75質量%以上90質量%未満のエタノール水溶液に、ゼイン微粉末を5〜20質量%の含有量となるように添加し室温で撹拌混合して得られるオリを含むゼインのエタノール水溶液を−4℃〜9℃の温度で静置し、オリが沈降した上澄み液を分離することを特徴とする室温で3ヵ月以上の期間ゲル化しないゼインのエタノール水溶液の製造方法。6.エタノール濃度80質量%以上86質量%未満のエタノール水溶液に、ゼイン微粉末を7〜15質量%の含有量となるように添加し室温で撹拌混合して得られるオリを含むゼインのエタノール水溶液を−4℃〜9℃の温度で静置し、オリが沈降した上澄み液を分離することを特徴とする室温で3ヵ月以上の期間透明状態に保持されゲル化しないゼインのエタノール水溶液の製造方法。7.エタノール濃度81質量%以上83質量%未満のエタノール水溶液に、ゼイン微粉末を8〜12質量%の含有量となるように添加し室温で撹拌混合して得られるオリを含むゼインのエタノール水溶液を0℃〜7℃の温度で静置し、オリが沈降した上澄み液を分離することを特徴とする室温で6ヵ月以上の期間均一透明状態に保持されゲル化しないゼインのエタノール水溶液の製造方法。8.上澄み液を50〜400のメッシュを通して抜き出す前記5乃至7のいずれかに記載のゼインのエタノール水溶液の製造方法。 本発明のゼインエタノール水溶液は、均一透明で増粘しない状態で長期間保存できるため、コーティング剤用あるいはバインダー剤用等の安定な原料液として供給することができる。食品(チョコレート等)、健康食品、医薬品製剤等のコーティング剤、生分解性フィルム等多様な用途に利用可能であり、またマニキュア用コーティング剤、化粧品等のある一定期間の品質保持が必要である商品にも使用できる。 ゼインは、トウモロコシを原料とする植物性タンパク質であり、例えばコンスターチ製造工程から分離されるタンパク画分であるコーングルテンミールから抽出精製して製造され(特開平6−189687号公報,特開平5−92998号公報)、通常粉末として供給される。ゼイン粉末は通常、黄色味を帯び、独特の臭いを有しているが、現在入手可能な製品(「昭和ツェインDP」,昭和産業(株)製)は充分に精製されたものであり、黄色味は薄く、殆ど無臭である。 本発明者らは、ゼインをエタノール含量75質量%以上のエタノール水溶液に溶解させた初期段階に生じるオリを沈降させて除去した上澄み液が、商業的ベースで要望されている室温で約3ヵ月以上安定に保存できるという基準を遥かに超える長期間に亘って粘度上昇せず安定に保管できることを見出した。 本発明において使用するエタノール水溶液のエタノールの濃度は、75質量%以上90質量%未満であり、80質量%以上86質量%未満が好ましく、81質量%以上83質量%未満がさらに好ましい。75質量%より低いとゼインのエタノール水溶液の安定性を阻害する要因の一つと考えられるオリが生成しない場合があり、したがって安定性阻害物質を除去できない結果、早期にゲル化してしまう。一方、エタノール含有量が90質量%より高いと初期に生成するオリの量が増大するため、オリを除去した後の有効成分ゼインの濃度が減少してしまう。 エタノール水溶液に添加するゼイン粉末の量は、5〜20質量%であり、7〜15質量%が好ましく、8〜12質量%がさらに好ましい。5質量%より低いと有効成分の濃度の薄いコーティング剤液となり、コーティングの作業効率が悪くなる。一方、添加量が20質量%より高いと、初期のオリ量が増し、また溶液粘度が増大するためコーティングの作業効率が悪くなる。 エタノール濃度及び添加するゼイン粉末の量は、ゼインエタノール水溶液の均一透明状態保持期間に影響を与え、エタノール濃度が75質量%以上90質量%未満で、ゼイン粉末含量が5〜20質量%である場合は、室温で3ヵ月以上、エタノール濃度が80質量%以上86質量%未満で、ゼイン粉末含量が7〜15質量%である場合は、室温で3ヵ月以上、エタノール濃度が81質量%以上83質量%未満で、ゼイン粉末含量が8〜12質量%である場合は、室温で6ヵ月以上の期間透明状態が保持される。 所定エタノール濃度のエタノール水溶液に、所定量のゼイン粉末を添加すると、微粉末状のゼインがママ粉の状態で液面に浮かぶので溶解を促進させるために室温で撹拌混合する。撹拌の強さは、ゼイン蛋白が変性しない程度で、最小限の強さとする。撹拌混合時間は、添加濃度にもよるが30分間〜2時間程度で、オリを含む均一な溶液が得られる。 ついで、オリを含むゼインエタノール水溶液を冷蔵静置して生成したオリを沈降させる。冷蔵静置の温度は−4〜9℃であり、0〜7℃が好ましい。−4℃より低いとタンパク質であるゼインが変性して凝固してしまい、また、9℃より高いとオリの沈降が不充分で次の工程で行なう上澄み液の分離が困難になる。冷蔵静置時間は、温度にもよるが、通常は3〜5時間である。 ついで、下層としてオリが沈降した上澄み液を、分液採取する。分液は上澄み液を抜き出すのみでもよいが、50〜400メッシュ、好ましくは100〜200メッシュのフィルターを通してろ過を行なうのが好ましい。50メッシュより粗いと分離採取の際に混入したオリを除去することができず、400メッシュより細かいと目詰まりを起こし易く、ろ過効率が悪い。フィルターの材質は、ゼインのエタノール水溶液に影響を与えないものであれば特に制限はないが、繰り返しの使用に耐えるステンレス製が好ましい。ろ過は、重力ろ過が好ましいが、必要により加圧あるいは減圧ろ過を行なうこともできる。 上記方法で得られる本発明のゼインエタノール水溶液は、使用するエタノール水溶液のエタノール濃度および溶解させるゼインの量にもよるが、室温で3ヵ月以上の期間ゲル化しない状態に保たれる。本発明の好ましい態様では室温で1年以上の期間均一透明状態に保管可能である。 本発明のゼインエタノール水溶液は、そのままコーティング剤あるいはバインダーとして使用可能であるが、必要に応じてコーティング作業前あるいは製剤化作業前に種々の添加剤を配合することができる。添加剤としては、可塑剤、着色料、甘味料等が挙げられる。可塑剤としては、オレイン酸、植物脂肪酸、セラック、プロピレングリコール、蒸留酢酸モノグリセライド、グリセリン、ソルビタンモノラウレート、食用油(MCT)等が挙げられる。 以下に、参考例、実施例及び比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。参考例1: ビーカーに70質量%エタノール水溶液100mlを入れ、室温でマグネチックスターラーを用いて撹拌しながらゼイン粉末(「昭和ツェインDP」,昭和産業(株)製)9質量%を少しずつ加え、全量投入後さらに30分間撹拌した。10〜15分間経過した時点では濁った溶液状態であるが30分間撹拌を続けると透明な溶液になった(図1(A)の写真参照)。この溶液を室温に保持したところ、18日目頃から粘度上昇が顕著となり、約1ヵ月で完全にゲル化した。参考例2〜4: 70質量%エタノール水溶液の代わりに80質量%、82質量%及び86質量%エタノール水溶液100mlを用いて、参考例1と同様に各々にゼイン粉末(「昭和ツェインDP」,昭和産業(株)製)9質量%を溶解させ、オリを含む溶液を得た(参考例2、3及び4)。これらの溶液を密閉容器に移し、6℃にて5時間静置したところ、オリが沈降し上澄み液とに分かれ、沈降したオリはアルコール濃度が高い程多かった(図1(B)、(C)及び(D)の写真参照)。実施例1: 70質量%エタノール水溶液の代わりに82質量%エタノール水溶液100mlを用いて、参考例1と同様にゼイン粉末(「昭和ツェインDP」,昭和産業(株)製)9質量%を溶解させ、オリを含む溶液を得た。この溶液を密閉容器に移し、6℃にて5時間静置したところ、オリが沈降し上澄み液とに分かれた(図1(C)の写真参照)。上澄み液を静かに100メッシュのステンレス製フィルターを通して抜き取り、透明均一なゼインエタノール水溶液95mlを得た。このゼインエタノール水溶液を室温にて静置したところ1年以上増粘ゲル化せず、透明均一な状態に保たれた(図2の写真参照)。比較例1: 実施例1において、オリを含む状態の溶液(図3(A)の写真参照)を室温で静置し続けたところ、3ヵ月目で粘度が高くなり(図3(B)の写真参照)、7ヵ月目で完全にゲル状化し凝固した(図3(C)の写真参照)。(A)参考例1で70質量%エタノール水溶液にゼイン粉末を溶解したゼインエタノール水溶液の写真であり、(B)参考例2で80質量%エタノール水溶液にゼイン粉末を溶解したゼインエタノール水溶液を冷蔵静置した状態の写真であり、(C)参考例3及び実施例1で82質量%エタノール水溶液にゼイン粉末を溶解したゼインエタノール水溶液を冷蔵静置した状態の写真であり、(D)参考例4で86質量%エタノール水溶液にゼイン粉末を溶解したゼインエタノール水溶液を冷蔵静置した状態の写真である。実施例1で沈降したオリから分液した上澄み液を室温にて1年保管した状態の写真である。(A)比較例1で82質量%エタノール水溶液にゼイン粉末を溶解したゼインエタノール水溶液の写真であり、(B)比較例1で82質量%エタノール水溶液にゼイン粉末を溶解したゼインエタノール水溶液を室温にて3ヵ月静置した状態の写真であり、(C)比較例1で82質量%エタノール水溶液にゼイン粉末を溶解したゼインエタノール水溶液を室温にて7ヵ月静置した状態の写真である。 エタノール濃度75質量%以上90質量%未満のエタノール水溶液に、ゼイン微粉末を5〜20質量%の含有量となるように添加し室温で撹拌混合して得られるオリを含むゼインのエタノール水溶液を−4℃〜9℃の温度で静置し、オリが沈降した上澄み液を分離して得られる、エタノール濃度が75質量%以上90質量%未満のエタノール水溶液にゼインを5〜20質量%含む、室温で3ヵ月以上の期間ゲル化しないゼインのエタノール水溶液。 エタノール濃度80質量%以上86質量%未満のエタノール水溶液に、ゼイン微粉末を7〜15質量%の含有量となるように添加し室温で撹拌混合して得られるオリを含むゼインのエタノール水溶液を−4℃〜9℃の温度で静置し、オリが沈降した上澄み液を分離して得られる、エタノール濃度が80質量%以上86質量%未満であり、ゼインを7〜15質量%含む、室温で3ヵ月以上の期間透明状態に保持されゲル化しないゼインのエタノール水溶液。 エタノール濃度81質量%以上83質量%未満のエタノール水溶液に、ゼイン微粉末を8〜12質量%の含有量となるように添加し室温で撹拌混合して得られるオリを含むゼインのエタノール水溶液を0℃〜7℃の温度で静置し、オリが沈降した上澄み液を分離して得られる、エタノール濃度が81質量%以上83質量%未満であり、ゼインを8〜12質量%含む、室温で6ヵ月以上の期間均一透明状態に保持されゲル化しないゼインのエタノール水溶液。 食品、健康食品または医薬品のコーティング剤用またはバインダー剤用である請求項1乃至3のいずれかに記載のゼインのエタノール水溶液。 【解決課題】長期間に亘ってゲル化せずに均一透明な状態が保たれる、コーティング剤、バインダー剤等の原料液として安定なゼインのエタノール水溶液を提供する。【解決手段】エタノール濃度が75質量%以上90質量%未満のエタノール水溶液にゼインを5〜20質量%含む、室温で3ヵ月以上の期間ゲル化しないゼインのエタノール水溶液、及びエタノール濃度75質量%以上90質量%未満のエタノール水溶液に、ゼイン微粉末を含有量5〜20質量%となるように添加し、室温で撹拌混合して得られる、オリを含むゼインのエタノール水溶液を−4℃〜9℃の温度で静置し、オリが沈降した上澄み液を分離することを特徴とする室温で3ヵ月以上の期間ゲル化しないゼインのエタノール水溶液の製造方法。【選択図】なし